(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2018091968
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁
(72)【発明者】
【氏名】岡村 暉久夫
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-075154(JP,A)
【文献】実開昭58-042452(JP,U)
【文献】特開平10-159917(JP,A)
【文献】国際公開第2013/175533(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/091522(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に内歯を有し、中心軸を中心として円環状に拡がる剛性内歯歯車と、
前記剛性内歯歯車の径方向内側において、前記中心軸を中心として回転し、周方向の位置によって異なる外径を有する波動発生器と、
前記剛性内歯歯車の内歯に対して部分的に噛み合う外歯を外周面に有し、内周面が前記波動発生器の回転に伴って押されることにより、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置を周方向に移動させながら、前記内歯と前記外歯との歯数の違いによって前記剛性内歯歯車に対して相対回転する、可撓性外歯歯車と、
を有する波動歯車装置であって、
前記波動発生器は、前記中心軸を中心として回転する入力部に固定され、
前記可撓性外歯歯車は、
一端部に前記外歯を有し、前記中心軸を中心として軸方向に筒状に延びる可撓性筒状胴部と、
前記可撓性筒状胴部の他端部から径方向に拡がる平板部と、
を有し、
前記可撓性筒状胴部は、周方向における前記内歯と前記外歯とが噛み合う位置において、前記可撓性筒状胴部の他端部へ向かうにつれて縮径する方向に傾斜し、
前記剛性内歯歯車は、前記入力部に対する軸方向位置を調整可能に配置され
、
前記入力部の径方向外側に、第1軸受を介して配置されるハウジングと、
前記剛性内歯歯車に直接的または間接的に固定されたフランジ部と、
をさらに有し、
前記ハウジングと前記フランジ部とが、1または複数のシムを介して、軸方向に固定される、波動歯車装置。
【請求項2】
内周面に内歯を有し、中心軸を中心として円環状に拡がる剛性内歯歯車と、
前記剛性内歯歯車の径方向内側において、前記中心軸を中心として回転し、周方向の位置によって異なる外径を有する波動発生器と、
前記剛性内歯歯車の内歯に対して部分的に噛み合う外歯を外周面に有し、内周面が前記波動発生器の回転に伴って押されることにより、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置を周方向に移動させながら、前記内歯と前記外歯との歯数の違いによって前記剛性内歯歯車に対して相対回転する、可撓性外歯歯車と、
を有する波動歯車装置であって、
前記波動発生器は、前記中心軸を中心として回転する入力部に固定され、
前記可撓性外歯歯車は、
一端部に前記外歯を有し、前記中心軸を中心として軸方向に筒状に延びる可撓性筒状胴部と、
前記可撓性筒状胴部の他端部から径方向に拡がる平板部と、
を有し、
前記可撓性筒状胴部は、周方向における前記内歯と前記外歯とが噛み合う位置において、前記可撓性筒状胴部の他端部へ向かうにつれて縮径する方向に傾斜し、
前記剛性内歯歯車は、前記入力部に対する軸方向位置を調整可能に配置され、
前記入力部の径方向外側に、第1軸受を介して配置されるハウジングと、
前記剛性内歯歯車に直接的または間接的に固定されたフランジ部と、
前記フランジ部と同一の内径を有するナットと、
をさらに有し、
前記ハウジングの外周面に形成された雄ネジは、前記フランジ部の内周面に形成された雌ネジおよび前記ナットの内周面に形成された雌ネジにそれぞれ螺合し、
前記ナットと前記フランジ部とが軸方向に接触する、波動歯車装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の波動歯車装置であって、
前記入力部の径方向外側に、第1軸受を介して配置されるフランジ部
をさらに有し、
前記フランジ部と前記剛性内歯歯車とが、1または複数のシムを介して、軸方向に固定される、波動歯車装置。
【請求項4】
請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
周方向における前記内歯と前記外歯とが噛み合う位置において、前記内歯の歯筋を延長した直線と、前記外歯の歯筋を延長した直線とは、前記中心軸上の1点において交差する、波動歯車装置。
【請求項5】
請求項1から請求項
4までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記可撓性筒状胴部は、周方向における前記内歯と前記外歯とが噛み合わない位置において、前記可撓性筒状胴部の他端部へ向かうにつれて拡径する方向に傾斜する、波動歯車装置。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記内歯および前記外歯は互いに噛み合う位置においてそれぞれ傘歯車を形成する、波動歯車装置。
【請求項7】
請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記波動発生器は、
前記中心軸を中心として回転し、周方向の位置によって異なる外径を有する非真円カムと、
内輪に前記非真円カムが固定され、外輪が前記可撓性外歯歯車と接触する可撓性の第2軸受と、
を有し、
前記非真円カムの回転に伴って、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置が周方向に移動する、波動歯車装置。
【請求項8】
請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記波動発生器は、
前記中心軸を中心として互いに周方向に間隔を空けて配置された複数の第3軸受と、 前記入力部に固定され、前記複数の第3軸受をそれぞれ保持するキャリアと、
を有し、
前記複数の第3軸受は、前記可撓性外歯歯車に直接的または間接的に接触しつつ、前記入力部から前記キャリアを介して回転することによって前記中心軸を中心として公転とともに自転する、波動歯車装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の波動歯車装置であって、
前記波動発生器は、
前記複数の第3軸受の外輪に固定されたローラ
をさらに有し、
前記複数の第3軸受は、前記ローラを介して前記可撓性外歯歯車に接触することによって自転する、波動歯車装置。
【請求項10】
請求項
9に記載の波動歯車装置であって、
前記ローラの外径は、前記可撓性筒状胴部の内径の3分の1倍以上かつ2分の1倍以下である、波動歯車装置。
【請求項11】
請求項
8から請求項
10までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記波動発生器は、
前記中心軸を中心として互いに周方向に180度の間隔を空けて配置された2つの前記第3軸受と、
前記中心軸を中心として前記2つの第3軸受から周方向に90度の間隔を空けて配置された2つの第4軸受と、
を有し、
前記キャリアは、前記2つの第3軸受と、前記2つの第4軸受とを、それぞれ保持し、
前記2つの第4軸受は、前記可撓性外歯歯車に直接的または間接的に接触しつつ、前記入力部から前記キャリアを介して回転することによって前記中心軸を中心として公転とともに自転する、波動歯車装置。
【請求項12】
請求項1から請求項
11までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記入力部は、電動機の回転軸と摩擦継手を介して接続される、波動歯車装置。
【請求項13】
請求項1から請求項
12までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記平板部は、前記可撓性筒状胴部の他端部から径方向内側に拡がる、波動歯車装置。
【請求項14】
請求項1から請求項
12までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記平板部は、前記可撓性筒状胴部の他端部から径方向外側に拡がる、波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剛性内歯歯車と可撓性外歯歯車とを備える波動歯車装置が知られている。この種の波動歯車装置は、主に減速機として用いられる。従来の波動歯車装置については、例えば、特開2011-7206号公報に開示されている。この特開2011-7206号公報に開示された波動歯車装置は、サーキュラスプライン(剛性内歯歯車)とフレクスプライン(可撓性外歯歯車)に加え、ウェーブジェネレータ(波動発生器)を有する。サーキュラスプラインの内周面には、内歯が形成されている。フレクスプラインの外周面には、外歯が形成されている。ウェーブジェネレータは、フレクスプラインを楕円形に撓めて外歯を内歯に部分的に噛み合せるとともに、噛み合い位置を円周方向に移動させる。
【0003】
また、特開2011-7206号公報に開示された波動歯車装置において、楕円形に撓められたフレクスプラインの長軸位置における半径方向の撓み量は、開口端に向かうにつれて漸増する。このため、サーキュラスプラインの内歯およびフレクスプラインの外歯にはそれぞれ、歯丈が開口端に向かうにつれて漸減するように、歯先面部分にテーパ面が形成されている。これにより、内歯と外歯との間隙を調整し、内歯と外歯とが噛み合った状態において互いに干渉してしまうことが抑制される。
【文献】特開2011-7206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2011-7206号公報には、サーキュラスプラインおよびフレクスプラインの製造段階において、内歯および外歯の歯先面となる部分にそれぞれテーパ加工を施し、さらに歯切り加工(直線加工)を施して、テーパ面を有する内歯および外歯を形成することが開示されている。しかしながら、内歯および外歯をテーパ加工して歯丈を漸減させることによって、内歯および外歯の強度が低下し、さらに外歯から内歯への回転の伝達効率が低下する虞がある。また、サーキュラスプラインおよびフレクスプラインを含む波動歯車装置を組み上げた後の内歯と外歯との間隙において高い精度を確保することは難しく、コストが増大する虞がある。
【0005】
本発明の目的は、内歯および外歯の歯丈を低減することなく、剛性内歯歯車および可撓性外歯歯車を含む波動歯車装置を組み上げた後の内歯と外歯との間隙を調整できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の例示的な第1発明は、内周面に内歯を有し、中心軸を中心として円環状に拡がる剛性内歯歯車と、前記剛性内歯歯車の径方向内側において、前記中心軸を中心として回転し、周方向の位置によって異なる外径を有する波動発生器と、前記剛性内歯歯車の内歯に対して部分的に噛み合う外歯を外周面に有し、内周面が前記波動発生器の回転に伴って押されることにより、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置を周方向に移動させながら、前記内歯と前記外歯との歯数の違いによって前記剛性内歯歯車に対して相対回転する、可撓性外歯歯車と、を有する波動歯車装置であって、前記波動発生器は、前記中心軸を中心として回転する入力部に固定され、前記可撓性外歯歯車は、一端部に前記外歯を有し、前記中心軸を中心として軸方向に筒状に延びる可撓性筒状胴部と、前記可撓性筒状胴部の他端部から径方向に拡がる平板部と、を有し、前記可撓性筒状胴部は、周方向における前記内歯と前記外歯とが噛み合う位置において、前記可撓性筒状胴部の他端部へ向かうにつれて縮径する方向に傾斜し、前記剛性内歯歯車は、前記入力部に対する軸方向位置を調整可能に配置される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の観点によれば、内歯を有する剛性内歯歯車は、外歯を有する可撓性筒状胴部の内周面を押しつつ回転する波動発生器が固定される入力部に対して、軸方向位置を調整可能に配置される。これにより、内歯および外歯の歯丈を低減することなく、剛性内歯歯車および可撓性外歯歯車を含む波動歯車装置を組み上げた後の内歯と外歯との間隙を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る波動歯車装置の横断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る波動歯車装置の部分縦断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る波動歯車装置の部分縦断面図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る波動歯車装置の横断面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る波動歯車装置の部分縦断面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
【
図9】
図9は、第4実施形態に係る波動歯車装置および電動機の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、後述する波動歯車装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、波動歯車装置の中心軸に直交する方向を「径方向」、波動歯車装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、本願では、後述する
図1,
図3,
図4,
図5,
図7,
図8,
図9において、軸方向を左右方向とし、右側(右端部)を「軸方向の一方側(一端部)」、左側(左端部)を「軸方向の他方側(他端部)」として、各部の形状や位置関係を説明する。ただし、この左右方向の定義により、本発明に係る波動歯車装置の使用時の向きを限定する意図はない。また、本願において「平行な方向」とは、略平行な方向も含む。また、本願において「直交する方向」とは、略直交する方向も含む。
【0010】
<1.第1実施形態>
<1-1.波動歯車装置の構成>
以下では、本発明の第1実施形態に係る波動歯車装置100の構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係る波動歯車装置100の縦断面図である。
図2は、
図1のA-A位置から見たときの波動歯車装置100の横断面図である。なお、
図1および後述する
図3,
図4,
図8,
図9では、後述する波動軸受32の外輪323の外周面の傾斜を、誇張して表示している。
【0011】
本実施形態の波動歯車装置100は、後述する剛性内歯歯車10と後述する可撓性外歯歯車20との差動を利用して、入力された回転運動を変速する装置である。波動歯車装置100は、例えば、小型ロボットの関節に組み込まれ、電動機から得られる回転運動を減速して出力させる減速機として用いられる。ただし、本発明の波動歯車装置100は、アシストスーツ、ターンテーブル、工作機械の割出盤、車椅子、無人搬送車などの他の機器に組み込まれて、各種の回転運動を実現させるものであってもよい。
【0012】
図1および
図2に示すとおり、波動歯車装置100は、剛性内歯歯車10と、可撓性外歯歯車20と、波動発生器30と、フランジ部40とを有する。また、波動歯車装置100には、外部から動力を得るための入力部101が設けられている。入力部101は、中心軸9を中心として軸方向に円柱状に延びる。また、入力部101は、中心軸9を中心として回転する。詳細を後述するとおり、入力部101は、波動歯車装置100に軸支される。
【0013】
剛性内歯歯車10は、中心軸9を中心として円環状に拡がる部材である。剛性内歯歯車10の剛性は、後述する可撓性筒状胴部25の剛性よりも、はるかに高い。したがって、剛性内歯歯車10は、実質的に剛体とみなすことができる。
図2に示すとおり、剛性内歯歯車10は、内周面に複数の内歯11を有する。複数の内歯11は、周方向に沿って、一定のピッチで配列される。本実施形態の複数の内歯11は、中心軸9に対して傾斜した傘歯車を形成している。剛性内歯歯車10には、後述するネジ13を挿入するための複数(本実施形態では8つ)の貫通孔102が、設けられている。複数の貫通孔102は、中心軸9を中心として、周方向に等間隔に並んでいる。各貫通孔102は、剛性内歯歯車10を軸方向に貫通する。また、剛性内歯歯車10は、後述するフランジ部40に対して、軸方向に間接的に固定される。詳細については、後述する。
【0014】
可撓性外歯歯車20は、可撓性筒状胴部25と平板部26とを有する。可撓性筒状胴部25は、中心軸9を中心として軸方向に筒状に延びる部位である。また、可撓性筒状胴部25は、可撓性を有し、径方向に撓み可能な円筒状の部分である。平板部26は、可撓性筒状胴部25の他端部から径方向内側に拡がる部位である。また、平板部26は、可撓性筒状胴部25よりも撓み難い平板状の部分である。
【0015】
図1に示すとおり、可撓性筒状胴部25の一端部は、剛性内歯歯車10の径方向内側に配置される。可撓性外歯歯車20は、一端部付近の外周面に複数の外歯21を有する。複数の外歯21は、周方向に沿って、一定のピッチで配列される。複数の外歯21と剛性内歯歯車10の内歯11とが噛み合う位置(以下「噛み合い部251」と称する。詳細については、後述する)において、当該複数の外歯21は、中心軸9に対して傾斜した傘歯車を形成している。上述の剛性内歯歯車10が有する内歯11の歯数と、当該可撓性外歯歯車20が有する外歯21の歯数とは、僅かに相違する。平板部26の中央には、減速後の動力を取り出すための出力軸(図示省略)が固定される。
【0016】
波動発生器30は、可撓性外歯歯車20を撓み変形させるための機構である。波動発生器30は、非真円カム31と、波動軸受32(第2軸受)と、を有する。
【0017】
非真円カム31は、中心軸9を中心として環状に拡がる部材である。非真円カム31の内周面は、入力部101の外周面に、例えば、軸方向に延びる固定部材103を用いて、互いに相対回転不能に固定される。これにより、非真円カム31は、入力部101とともに、中心軸9を中心として減速前の回転数で回転する。ただし、非真円カム31は、入力部101に、接着または圧入等の他の方法を用いて固定されてもよい。本実施形態の非真円カム31は、楕円形のカムプロフィールを有する。つまり、非真円カム31は、周方向の位置によって異なる外径を有する。
【0018】
波動軸受32は、剛性内歯歯車10の径方向内側に位置する可撓性の軸受である。波動軸受32は、内輪321と、複数のボール322と、弾性変形可能な外輪323とを有する。内輪321は、非真円カム31の外周面に固定される。複数のボール322は、内輪321と外輪323との間に介在し、周方向に沿って配列される。外輪323は、回転される非真円カム31のカムプロフィールを反映するように、内輪321およびボール322を介して弾性変形(撓み変形)する。また、外輪323は、可撓性筒状胴部25の外歯21を有する部位の内周面に接触する。このように、本実施形態の波動軸受32には、ボールベアリングが用いられる。ただし、ボールベアリングに代えて、ローラベアリング等の他方式の軸受が用いられていてもよい。波動発生器30は、周方向の位置によって異なる外径を有しつつ、剛性内歯歯車10の径方向内側において、中心軸9を中心として減速前の回転数で回転する。
【0019】
フランジ部40は、入力部101の周囲において中心軸9を中心として円環状に拡がる部材である。フランジ部40は、波動歯車装置100が搭載される装置の枠体に固定される。フランジ部40は、入力部101の径方向外側に、支持軸受41(第1軸受)を介して配置される。支持軸受41は、内輪411と、複数のボール412と、外輪413とを有する。内輪411は、入力部101の外周面に固定される。複数のボール412は、内輪411と外輪413との間に介在し、周方向に沿って配列される。外輪413は、フランジ部40の内周面に固定される。これにより、フランジ部40は、入力部101を、支持軸受41を介して中心軸9を中心として回転可能に軸支する。このように、支持軸受41には、ボールベアリングが用いられる。ただし、ボールベアリングに代えて、ローラベアリング等の他方式の軸受が用いられていてもよい。
【0020】
このような構成の波動歯車装置100において、上述の入力部101が減速前の回転数で回転すると、入力部101および非真円カム31が一体的に回転する。また、非真円カム31の回転に伴って、波動軸受32を介して、可撓性外歯歯車20の可撓性筒状胴部25の外歯21を有する部位の内周面が押されることにより、可撓性筒状胴部25が楕円状に撓み変形する。そして、可撓性筒状胴部25は、非真円カム31がなす楕円の長軸の両端の2箇所の径方向外側付近において、一端部へ向かうにつれて拡径する方向(他端部へ向かうにつれて縮径する方向)に傾斜する。これにより、楕円の長軸の両端の2箇所の径方向外側付近において、外歯21と内歯11とが噛み合う。
【0021】
なお、可撓性筒状胴部25は、非真円カム31がなす楕円の短軸の両端の2箇所の径方向外側付近において、一端部へ向かうにつれて縮径する方向(他端部へ向かうにつれて拡径する方向)に傾斜する。これにより、楕円の短軸の両端の2箇所の径方向外側付近においては、外歯21と内歯11とが噛み合わない。つまり、本実施形態では、外歯21と内歯11とが、互いに周方向において部分的に(噛み合い部251において)噛み合う。
【0022】
非真円カム31が回転すると、非真円カム31がなす楕円の長軸の両端の位置が周方向に移動するので、外歯21と内歯11との噛み合い部251も周方向に移動する。ここで、上述のように、剛性内歯歯車10の内歯11の歯数と、可撓性外歯歯車20の外歯21の歯数とは、僅かに相違する。このため、非真円カム31の1回転ごとに、内歯11と外歯21との噛み合い部251が僅かに変化する。その結果、剛性内歯歯車10に対して可撓性外歯歯車20および出力軸が、減速された回転数で回転する。つまり、可撓性外歯歯車20および出力軸は、可撓性外歯歯車20の外歯21と剛性内歯歯車10の内歯11との噛み合い部251を周方向に移動させながら、外歯21と内歯11との歯数の違いによって剛性内歯歯車10に対して相対回転する。
【0023】
<1-2.剛性内歯歯車、可撓性外歯歯車、および波動軸受の詳細な構成>
次に、剛性内歯歯車10、可撓性外歯歯車20、および波動軸受32の詳細な構成について、説明する。
図3および
図4は、第1実施形態に係る波動歯車装置100の部分縦断面図である。なお、
図3は、波動歯車装置100のうち、周方向における可撓性外歯歯車20の外歯21と剛性内歯歯車10の内歯11との噛み合い部251付近の構造を図示している。
図4は、波動歯車装置100のうち、周方向における可撓性外歯歯車20の外歯21と剛性内歯歯車10の内歯11とが噛み合わない位置252付近の構造を図示している。以下では、
図3および
図4に加え、
図1および
図2を適宜に参照する。
【0024】
図3に示すとおり、可撓性筒状胴部25は、周方向における可撓性外歯歯車20の外歯21と剛性内歯歯車10の内歯11との噛み合い部251において、他端部へ向かうにつれて縮径する方向に(径方向内側へ向かって)傾斜する。また、剛性内歯歯車10の内周面は、周方向の全周に亘って、他端部へ向かうにつれて径方向内側へ向かって傾斜する。当該周方向における内歯11と外歯21との噛み合い部251において、剛性内歯歯車10の内歯11の歯筋111を延長した直線と、可撓性外歯歯車20の外歯21の歯筋211を延長した直線とは、中心軸9上の1点において交差する。
【0025】
ここで、剛性内歯歯車10はフランジ部40に、シム14を介して軸方向に固定される。具体的には、まず、剛性内歯歯車10および可撓性外歯歯車20を含む波動歯車装置100を組み上げる途中または組み上げた後の調整段階において、剛性内歯歯車10とフランジ部40との軸方向の間にシム14を挟み込む。シム14は、中心軸9を中心として円環状に拡がる樹脂製または金属製の部材である。本実施形態のシム14の内径は、剛性内歯歯車10の内径よりも僅かに大きい。シム14の外径は、剛性内歯歯車10の外径よりも僅かに小さい。挟み込むシム14の枚数は、1枚であってもよく、複数枚であってもよい。また、挟み込むシム14の枚数は0枚(すなわち、挟み込まない)であってもよい。これにより、フランジ部40に対する剛性内歯歯車10の軸方向の位置を調整することができる。また、各シム14には、貫通孔140が設けられている。貫通孔140は、シム14を軸方向に貫通する。剛性内歯歯車10の軸方向の位置を調整した後、剛性内歯歯車10の貫通孔102およびシム14の貫通孔140を介してネジ13で止めることによって、剛性内歯歯車10およびシム14をフランジ部40に軸方向に固定する。これにより、フランジ部40に対する剛性内歯歯車10の軸方向の位置が固定される。
【0026】
また、上述のとおり、入力部101は、フランジ部40の径方向内側に支持軸受41を介して軸支される。つまり、剛性内歯歯車10は、入力部101に対する軸方向位置を調整可能に配置される。さらに、入力部101の外周面には、可撓性筒状胴部25の内周面を押しつつ回転する波動発生器30が固定される。可撓性筒状胴部25の外周面には、外歯21が形成されている。剛性内歯歯車10の内周面には、内歯11が形成されている。上述のとおり、波動歯車装置100のうち、周方向における内歯11と外歯21との噛み合い部251において、内歯11の歯筋111および外歯21の歯筋211は、ともに他端部へ向かうにつれて径方向内側へ向かって傾斜する。このため、シム14を用いて剛性内歯歯車10の軸方向の位置を調整することによって、波動歯車装置100の周方向における内歯11と外歯21との噛み合い部251において、内歯11と外歯21との間の軸方向および径方向の間隙を調整することができる。したがって、内歯11および外歯21の歯丈を低減することなく、内歯11と外歯21との間の軸方向および径方向の間隙を調整することができるため、内歯11および外歯21の強度低下を抑制しつつ、外歯21から内歯11への回転の伝達効率の低下を抑制できる。また、簡易な構造を用いて内歯11と外歯21との間の軸方向および径方向の間隙を調整することができるため、間隙の調整にかかるコストの増大を抑制できる。
【0027】
なお、
図3に示すとおり、波動軸受32の外輪323の外周面は、他端部付近が滑らかな凸状の曲面となるように加工されている。波動歯車装置100の周方向における内歯11と外歯21との噛み合い部251において、可撓性筒状胴部25の内周面は、波動軸受32の外輪323の他端部付近に接触する。この接触箇所付近において、外輪323の外周面が曲面状に形成されることにより、可撓性筒状胴部25および外輪323の摩耗または損傷が抑制される。
【0028】
また、
図4に示すとおり、波動軸受32の外輪323の外周面は、一端部付近が滑らかな凸状の曲面となるように加工されている。可撓性筒状胴部25は、周方向における可撓性外歯歯車20の外歯21と剛性内歯歯車10の内歯11とが噛み合わない位置252において、一端部へ向かうにつれて縮径する方向に(径方向内側へ向かって)傾斜する。そして、波動歯車装置100の周方向における内歯11と外歯21とが噛み合わない位置252において、可撓性筒状胴部25の内周面は、波動軸受32の外輪323の一端部付近に接触する。この接触箇所付近において、外輪323の外周面が曲面状に形成されることにより、可撓性筒状胴部25および外輪323の摩耗または損傷が抑制される。
【0029】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態に係る波動歯車装置100Bの構成について説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0030】
図5は、第2実施形態に係る波動歯車装置100Bの縦断面図である。
図6は、
図5のB-B位置から見たときの波動歯車装置100Bの横断面図である。
図5および
図6に示すように、波動歯車装置100Bは、剛性内歯歯車10Bと、可撓性外歯歯車20Bと、波動発生器30Bと、フランジ部40Bと、ハウジング50Bとを有する。
【0031】
剛性内歯歯車10Bは、中心軸9Bを中心として円環状に拡がる部材である。
図6に示すとおり、剛性内歯歯車10Bは、内周面に複数の内歯11Bを有する。複数の内歯11Bは、周方向に沿って、一定のピッチで配列される。剛性内歯歯車10Bには、ネジ(図示省略)を挿入するための複数(本実施形態では8つ)の貫通孔102Bが、設けられている。複数の貫通孔102Bは、中心軸9Bを中心として、周方向に等間隔に並んでいる。各貫通孔102Bは、剛性内歯歯車10Bを軸方向に貫通する。剛性内歯歯車10Bは、貫通孔102Bを介してネジ止めすることによって、軸方向の一方側に隣接する第1連結部151Bに固定される。剛性内歯歯車10Bの軸方向の他方側には、減速後の動力を取り出すための出力軸(図示省略)が固定される。
【0032】
第1連結部151Bは、中心軸9Bを中心として軸方向に円筒状に延びる部材である。そして、第1連結部151Bの径方向外側には、第2連結部152Bが配置されている。第2連結部152Bは、第1連結部151Bの外径よりも僅かに大きな内径を有し、中心軸9Bを中心として軸方向に円筒状に延びる部材である。また、第1連結部151Bおよび第2連結部152Bは、ともに高い剛性を有する。第2連結部152Bには、ネジ(図示省略)を挿入するための複数の貫通孔153Bが、設けられている。各貫通孔153Bは、第2連結部152Bを軸方向に貫通する。
【0033】
第1連結部151Bは、第2連結部152Bに対して、軸受16Bによって回転可能に接続される。本実施形態の軸受16Bには、クロスローラベアリングが用いられる。
図5に示すように、軸受16Bは、第2連結部152Bの内周面と、第1連結部151Bの外周面との間に、複数の円筒ころ161Bを有する。複数の円筒ころ161Bは、第2連結部152Bの内周面に設けられた環状のV溝と、第1連結部151Bの外周面に設けられた環状のV溝との間に、向きを交互に変えながら配置される。これにより、第2連結部152Bに対する第1連結部151Bの回転を許容しながら、互いに高剛性に接続される。このようなクロスローラベアリングは、ボールベアリングのように一対で用いずとも、軸方向および径方向に、必要な剛性を得ることができる。すなわち、クロスローラベアリングを用いることで、波動歯車装置100Bに設けられるベアリング(軸受)の数を減らすことができる。これにより、軸受16Bの重量を低減できるとともに、軸受16Bの軸方向の寸法を抑えることができる。
【0034】
可撓性外歯歯車20Bは、可撓性筒状胴部25Bと平板部26Bとを有する。可撓性筒状胴部25Bは、中心軸9Bを中心として軸方向に筒状に延びる部位である。平板部26Bは、可撓性筒状胴部25Bの一端部から径方向外側に拡がる部位である。平板部26Bの径方向外側の部位には、平板部26Bを軸方向に貫通する複数の貫通孔260Bが設けられている。各貫通孔260Bは、平板部26Bを軸方向に貫通する。そして、平板部26Bの径方向外側の部位は、第2連結部152Bと後述するフランジ部40Bとの軸方向の間に挟み込まれて、第2連結部152Bの貫通孔153Bおよび平板部26Bの貫通孔260Bを介してネジ止めすることによって、固定される。
【0035】
波動発生器30Bは、可撓性外歯歯車20Bを撓み変形させるための機構である。波動発生器30Bは、キャリア33Bと、複数の押圧軸受34B(第3軸受)と、複数のローラ35Bと、複数の補助軸受36B(第4軸受)とを有する。
【0036】
キャリア33Bは、中心軸9Bを中心として軸方向に円筒状に延びる部材である。キャリア33Bは、後述する複数の押圧軸受34Bおよび後述する複数の補助軸受36Bをそれぞれ保持する。キャリア33Bの内周面は、入力部101Bの外周面に、互いに相対回転不能に固定される。これにより、キャリア33Bは、入力部101Bとともに、中心軸9Bを中心として減速前の回転数で回転する。
【0037】
図5および
図6に示すとおり、キャリア33Bには、4つの軸受支持部331Bが固定されている。4つの軸受支持部331Bは、中心軸9Bを中心として互いに周方向に90度の間隔を空けて設けられている。各軸受支持部331Bは、高い剛性を有する。4つの軸受支持部331Bのうちの互いに対向する2つには、それぞれ押圧軸受34Bが固定され、他端部へ向かうにつれて径方向外側へ向かって傾斜する。また、4つの軸受支持部331Bのうちの残りの2つには、それぞれ補助軸受36Bが固定され、他端部へ向かうにつれて径方向内側へ向かって傾斜する。
【0038】
本実施形態では、2つの押圧軸受34Bが、中心軸9Bを中心として互いに周方向に180度の間隔を空けて配置されている。各押圧軸受34Bは、内輪341Bと、複数のボール342Bと、外輪343Bとを有する。内輪341Bは、軸受支持部331Bに、傾斜に沿って固定される。複数のボール342Bは、内輪341Bと外輪343Bとの間に介在する。外輪343Bには、後述するローラ35Bが固定される。このように、押圧軸受34Bには、ボールベアリングが用いられる。ただし、ボールベアリングに代えて、ローラベアリング等の他方式の軸受が用いられていてもよい。また、押圧軸受34Bの個数は、複数であればよく、2つには限定されない。
【0039】
ローラ35Bは、剛性内歯歯車10Bの径方向内側に位置する。上述のとおり、ローラ35Bは、押圧軸受34Bの外輪343Bに固定される。ローラ35Bは、可撓性筒状胴部25Bの内径の3分の1倍以上かつ2分の1倍以下の大きさの外径を有する環状円板である。また、ローラ35Bは、金属製または樹脂製であり、可撓性筒状胴部25Bのうちの、内歯11Bと外歯21Bとの噛み合い部251Bに位置する部位の内周面と接触して摩擦力を受ける。押圧軸受34Bは、ローラ35Bを介して可撓性外歯歯車20Bに間接的に接触しつつ、上述の摩擦力によって自転する。さらに、押圧軸受34Bは、ローラ35Bとともに、入力部101Bおよびキャリア33Bを介して、中心軸9Bを中心として減速前の回転数で公転(回転)する。すなわち、押圧軸受34Bは、中心軸9Bを中心として公転とともに自転する。ただし、押圧軸受34Bは、ローラ35Bを介さず可撓性外歯歯車20Bに直接的に接触してもよい。
【0040】
また、本実施形態では、2つの補助軸受36Bが、中心軸9Bを中心として、2つの押圧軸受34Bからそれぞれ周方向に90度の間隔を空けて配置されている。各補助軸受36Bは、内輪361Bと、複数のボール362Bと、外輪363Bとを有する。内輪361Bは、軸受支持部331Bに、傾斜に沿って固定される。複数のボール362Bは、内輪361Bと外輪363Bとの間に介在する。このように、補助軸受36Bには、ボールベアリングが用いられる。ただし、ボールベアリングに代えて、ローラベアリング等の他方式の軸受が用いられていてもよい。また、補助軸受36Bの個数は、2つには限定されない。
【0041】
図6に示すとおり、可撓性筒状胴部25Bの内周面は、周方向における、ローラ35Bと接触する2箇所の付近において拡径する。一方、可撓性筒状胴部25Bの内周面は、周方向における、中心軸9Bを中心として2つの押圧軸受34Bから周方向に90度離れた位置252Bにおいて、補助軸受36Bの外輪363Bと接触する。これにより、当該位置における可撓性筒状胴部25Bの過度な縮径が抑制される。そして、2つの補助軸受36Bの外輪363Bはそれぞれ、可撓性筒状胴部25Bの内周面に直接的に接触して摩擦力を受けることによって、自転する。さらに、補助軸受36Bは、入力部101Bおよびキャリア33Bを介して、中心軸9Bを中心として減速前の回転数で公転(回転)する。すなわち、補助軸受36Bは、中心軸9Bを中心として公転とともに自転する。ただし、補助軸受36Bは、ローラ等の別の部材を介して可撓性筒状胴部25Bの内周面に間接的に接触してもよい。
【0042】
フランジ部40Bは、入力部101Bおよび後述するハウジング50Bの周囲において中心軸9Bを中心として円環状に拡がる部材である。上述のとおり、フランジ部40Bの径方向外側の部位には、可撓性外歯歯車20Bの平板部26Bおよび第2連結部152Bが、ネジ止めによって固定される。また、フランジ部40Bの径方向内側の部位には、フランジ部40Bを軸方向に貫通する貫通孔400Bが設けられている。貫通孔400Bは、フランジ部40Bを軸方向に貫通する。フランジ部40Bの径方向内側の部位は、後述するハウジング50Bに軸方向に間接的に固定される。詳細については、後述する。
【0043】
ハウジング50Bは、入力部101Bの径方向外側に、支持軸受41Bを介して配置される。支持軸受41Bは、内輪411Bと、複数のボール412Bと、外輪413Bとを有する。内輪411Bは、入力部101Bの外周面に固定される。複数のボール412Bは、内輪411Bと外輪413Bとの間に介在し、周方向に沿って配列される。外輪413Bは、ハウジング50Bの内周面に固定される。これにより、ハウジング50Bは、入力部101Bを、支持軸受41Bを介して中心軸9Bを中心として回転可能に軸支する。また、ハウジング50Bは、波動歯車装置100Bが搭載される装置の枠体に直接的または間接的に固定される。
【0044】
このような構成の波動歯車装置100Bにおいて、上述の入力部101Bが減速前の回転数で回転すると、入力部101B、キャリア33B、押圧軸受34B、ローラ35B、および補助軸受36Bが中心軸9Bを中心として一体的に回転する。また、中心軸9Bを中心とする押圧軸受34Bの回転(公転)に伴って、ローラ35Bを介して、可撓性外歯歯車20Bの可撓性筒状胴部25Bの内周面が押されることにより、可撓性筒状胴部25Bが楕円状に撓み変形する。そして、可撓性筒状胴部25Bは、2つの押圧軸受34Bの径方向外側付近において、他端部へ向かうにつれて拡径する方向に傾斜する。これにより、2つの押圧軸受34Bの径方向外側付近において、可撓性外歯歯車20Bの外歯21Bと剛性内歯歯車10Bの内歯11Bとが噛み合う。
【0045】
なお、可撓性筒状胴部25Bは、周方向における、中心軸9Bを中心として2つの押圧軸受34Bから周方向に90度離れた位置252Bの径方向外側において、他端部へ向かうにつれて縮径する方向に傾斜する。これにより、当該2箇所付近においては、可撓性外歯歯車20Bの外歯21Bと剛性内歯歯車10Bの内歯11Bとが噛み合わない。つまり、本実施形態では、可撓性外歯歯車20Bの外歯21Bと剛性内歯歯車10Bの内歯11Bとが、互いに周方向において部分的に(噛み合い部251Bにおいて)噛み合うように構成されている。
【0046】
2つの押圧軸受34Bが公転すると、可撓性外歯歯車20Bの外歯21Bと剛性内歯歯車10Bの内歯11Bとの噛み合い部251Bも周方向に移動する。ここで、剛性内歯歯車10Bの内歯11Bの歯数と、可撓性外歯歯車20Bの外歯21Bの歯数とは、僅かに相違する。このため、2つの押圧軸受34Bの1公転ごとに、内歯11Bと外歯21Bとの噛み合い部251Bが周方向に僅かに変化する。本実施形態では、可撓性外歯歯車20Bは、フランジ部40Bに固定されているため、周方向に回転しない。その結果、可撓性外歯歯車20Bに対して剛性内歯歯車10Bおよび出力軸が、減速された回転数で回転する。つまり、剛性内歯歯車10Bおよび出力軸は、可撓性外歯歯車20Bの外歯21Bと剛性内歯歯車10Bの内歯11Bとの噛み合い部251Bを周方向に移動させながら、外歯21Bと内歯11Bとの歯数の違いによって可撓性外歯歯車20Bに対して相対回転する。
【0047】
図7は、第2実施形態に係る波動歯車装置100Bの部分縦断面図である。なお、
図7は、フランジ部40Bとハウジング50Bとの固定位置付近の構造を図示している。ハウジング50Bは、ハウジング筒状部501Bとハウジング平板部502Bとを有する。ハウジング筒状部501Bは、中心軸9Bを中心として軸方向に円筒状に延びる部位である。ハウジング筒状部501Bの内周面には、支持軸受41Bの外輪413Bが固定される。ハウジング平板部502Bは、ハウジング筒状部501Bの他端部から径方向外側に拡がる部位である。
【0048】
図7に示すとおり、フランジ部40Bはハウジング平板部502Bに、シム14Bを介して軸方向に固定される。具体的には、まず、波動歯車装置100Bを組み上げる途中または組み上げた後の調整段階において、フランジ部40Bとハウジング平板部502Bとの軸方向の間にシム14Bを挟み込む。挟み込むシム14Bの枚数は、1枚であってもよく、複数枚であってもよい。また、挟み込むシム14Bの枚数は0枚(すなわち、挟み込まない)であってもよい。これにより、ハウジング平板部502Bに対するフランジ部40Bの軸方向の位置を調整することができる。また、各シム14Bには、貫通孔140Bが設けられている。貫通孔140Bは、シム14Bを軸方向に貫通する。フランジ部40Bの軸方向の位置を調整した後、フランジ部40Bの貫通孔400Bおよびシム14Bの貫通孔140Bを介してハウジング平板部502Bにネジ13Bで止めることによって、フランジ部40Bおよびシム14Bをハウジング50Bに軸方向に固定する。これにより、ハウジング50Bに対するフランジ部40Bの軸方向の位置が固定される。
【0049】
また、上述のとおり、入力部101Bは、ハウジング50Bの径方向内側に支持軸受41Bを介して軸支される。さらに、入力部101Bの外周面には、可撓性筒状胴部25Bの内周面を押しつつ回転する波動発生器30Bが固定される。可撓性筒状胴部25Bの外周面には、外歯21Bが形成されている。また、フランジ部40Bに回転可能に支持される剛性内歯歯車10Bの内周面には、内歯11Bが形成されている。
図5に示すとおり、波動歯車装置100Bのうち、周方向における内歯11Bと外歯21Bとの噛み合い部251Bにおいて、内歯11Bの歯筋および外歯21Bの歯筋は、ともに他端部へ向かうにつれて径方向外側へ向かって傾斜する。このため、内歯11Bを有する剛性内歯歯車10Bが回転可能に支持されるフランジ部40Bの軸方向の位置を、シム14Bを用いて調整することによって、波動歯車装置100Bの周方向における内歯11Bと外歯21Bとの噛み合い部251B位置において、内歯11Bと外歯21Bとの間の軸方向および径方向の間隙を調整することができる。したがって、内歯11Bおよび外歯21Bの歯丈を低減することなく、内歯11Bと外歯21Bとの間の軸方向および径方向の間隙を調整することができるため、内歯11Bおよび外歯21Bの強度低下を抑制しつつ、外歯21Bから内歯11Bへの回転の伝達効率の低下を抑制できる。また、簡易な構造を用いて内歯11Bと外歯21Bとの間の軸方向および径方向の間隙を調整することができるため、間隙の調整にかかるコストの増大を抑制できる。
【0050】
<3.第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態に係る波動歯車装置100Cの構成について説明する。なお、以下では、第1実施形態および第2実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態および第2実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0051】
図8は、第3実施形態に係る波動歯車装置100Cの縦断面図である。
図8に示すように、波動歯車装置100Cは、剛性内歯歯車10Cと、可撓性外歯歯車20Cと、波動発生器30Cと、フランジ部40Cと、ハウジング50Cと、ナット60Cとを有する。剛性内歯歯車10C、可撓性外歯歯車20C、および波動発生器30Cについては、第1実施形態に係る剛性内歯歯車10、可撓性外歯歯車20、および波動発生器30と同等の構造を有するため、重複説明を省略する。ただし、本実施形態の剛性内歯歯車10Cは、シムを介さず、フランジ部40Cに軸方向に直接的に固定される。
【0052】
フランジ部40Cは、入力部101Cおよび後述するハウジング50Cの周囲において中心軸9Cを中心として円環状に拡がる部材である。上述のとおり、フランジ部40Cには、剛性内歯歯車10Cがネジ13Cによって軸方向に固定されている。また、フランジ部40Cの内周面には、雌ネジ401Cが形成されている。
【0053】
ハウジング50Cは、中心軸9Cを中心として軸方向に円筒状に延びる部材である。ハウジング50Cは、波動歯車装置100Cが搭載される装置の枠体に直接的または間接的に固定される。ハウジング50Cは、入力部101Cの径方向外側に、支持軸受41Cを介して配置される。ハウジング50Cは、入力部101Cを、支持軸受41Cを介して中心軸9Cを中心として回転可能に軸支する。また、ハウジング50Cの外周面には、雄ネジ503Cが形成されている。雄ネジ503Cは、フランジ部40Cの雌ネジ401Cに螺合する。これにより、フランジ部40Cは、ハウジング50Cに対する軸方向の位置を調整可能に配置される。
【0054】
ナット60Cは、入力部101Cおよび後述するハウジング50Cの周囲において、中心軸9Cを中心として円環状に拡がる部材である。ナット60Cは、フランジ部40Cの軸方向の一方側に位置する。また、ナット60Cは、フランジ部40Cと同一の内径を有する。ナット60Cの内周面には、雌ネジ601Cが形成されている。ハウジング50Cの雄ネジ503Cは、雌ネジ601Cに螺合する。これにより、ナット60Cは、ハウジング50Cに対する軸方向の位置を調整可能に配置される。さらに、ナット60Cがフランジ部40Cに軸方向に接触することによって、ハウジング50Cに対するフランジ部40Cの軸方向の位置が固定される。
【0055】
本実施形態は、上述の構成を有することにより、第1実施形態および第2実施形態と同様に、波動歯車装置100Cの周方向における剛性内歯歯車10Cの内歯と可撓性外歯歯車20Cの外歯との噛み合い部251Cにおいて、内歯と外歯との間の軸方向および径方向の間隙を調整することができる。
【0056】
<4.第4実施形態>
続いて、本発明の第4実施形態に係る波動歯車装置100Dの構成について説明する。なお、以下では、第1実施形態~第3実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態~第3実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0057】
図9は、第4実施形態に係る波動歯車装置100Dの縦断面図である。
図9に示すように、入力部101Dは、一端部に電動機200の回転軸201と摩擦結合する摩擦継手部202Dを有する。摩擦継手部202Dは、中心軸9D方向に切断されたすり割り203Dおよび中心軸9Dの直角方向に螺合されたネジ13Dにより構成されている。入力部101Dは、電動機200の回転軸201と摩擦継手202Dを介して軸方向に接続される。具体的には、入力部101Dは、摩擦継手部202Dに回転軸201を挿入してネジ13Dを締め付けることで、電動機200から得られる動力により中心軸9Dを中心として回転する。これにより、波動歯車装置100Dは、別途汎用軸継手を使用することなく、少ない部品点数で、軸方向寸法を縮小させて、電動機200と波動歯車装置100Dとの一体構造を得ることができる。
【0058】
<5.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0059】
上述の第1実施形態では、剛性内歯歯車10とフランジ部40との軸方向の間にシム14が挟まれる構成を有し、第2実施形態では、フランジ部40Bとハウジング平板部502Bとの軸方向の間にシム14Bが挟まれる構成を有していた。しかし、第1実施形態において開示された、非真円カムを有する波動歯車装置において、フランジ部とハウジングとの軸方向の間にシムが挟まれる構成を有してもよい。また、第2実施形態において開示された、押圧軸受を保持するキャリアを有する波動歯車装置において、第1連結部を介して剛性内歯歯車を回転可能に支持する第2連結部または平板部とフランジ部との軸方向の間にシムが挟まれる構成を有してもよい。換言すれば、剛性内歯歯車、または剛性内歯歯車に直接的または間接的に固定されたフランジ部の軸方向の位置を調整できる構造を有していればよい。
【0060】
上述の実施形態では、シムまたはナットを用いて、入力部に対する剛性内歯歯車の軸方向位置を調整していた。しかし、シムまたはナットのほかに、バネ、カム等の部材を用いて、入力部に対する剛性内歯歯車の軸方向位置を調整してもよい。
【0061】
上述の波動歯車装置を構成する各部材の材料には、例えば、高強度の金属が用いられる。しかし、各部材の材料は、使用時の負荷に耐え得るものであればよく、必ずしも金属には限定されない。
【0062】
また、波動歯車装置の細部の形状については、上述の実施形態の各図に示された形状と相違していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本願は、波動歯車装置に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
9,9B,9C :中心軸
10,10B,10C :剛性内歯歯車
11,11B :内歯
14,14B :シム
20,20B,20C :可撓性外歯歯車
21,21B :外歯
25,25B :可撓性筒状胴部
26,26B :平板部
30,30B,30C :波動発生器
31 :非真円カム
32 :波動軸受(第2軸受)
33B :キャリア
34B :押圧軸受(第3軸受)
35B :ローラ
36B :補助軸受(第4軸受)
40,40B,40C :フランジ部
41,41B,41C :支持軸受(第1軸受)
50B,50C :ハウジング
60C :ナット
100,100B,100C :波動歯車装置
101,101B,101C :入力部
251,251B :噛み合い部
401C :雌ネジ
503C :雄ネジ
601C :雌ネジ