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特許7081906半導体発光素子及び半導体発光素子の位相変調層設計方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】半導体発光素子及び半導体発光素子の位相変調層設計方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/18 20210101AFI20220531BHJP
【FI】
H01S5/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017110203
(22)【出願日】2017-06-02
(65)【公開番号】P2018206921
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 優
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和義
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】野本 佳朗
(72)【発明者】
【氏名】上野山 聡
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/148075(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/136962(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/136955(WO,A1)
【文献】特開2006-156901(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163149(WO,A1)
【文献】特開2008-70186(JP,A)
【文献】特開2005-37453(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0103969(US,A1)
【文献】国際公開第2016/031966(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の主面に垂直な方向に対して傾斜した方向に光像を出力する半導体発光素子であって、
前記半導体基板の前記主面上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられたクラッド層と、
前記クラッド層上に設けられたコンタクト層と、
前記半導体基板と前記活性層との間、若しくは前記活性層と前記クラッド層との間に設けられた位相変調層と、
前記コンタクト層上に設けられた電極と、
を備え、
前記クラッド層側の表面から前記光像を出力し、
前記位相変調層は、該位相変調層の厚さ方向から見て前記電極と重なるとともにその平面形状及び位置が前記電極の平面形状及び位置と略一致する第1領域と、前記第1領域を除く第2領域とを含み(但し、前記位相変調層の厚さ方向から見て、外側領域である前記第1領域が、内側領域である単一の前記第2領域を囲む形態を除く)、基本層と、前記基本層とは屈折率が異なる複数の異屈折率領域とを有し、
前記位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、前記第2領域に含まれる前記複数の異屈折率領域の重心が、前記仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、該格子点周りに前記光像に応じた回転角度を有することにより、所望の光像に基づいて算出された位相分布の全てが前記第2領域に含まれ
前記所望の光像からの情報の欠落のない光像、前記位相変調層の前記第2領域のみによって完成される、ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
半導体基板の主面に垂直な方向に対して傾斜した方向に光像を出力する半導体発光素子であって、
前記半導体基板の前記主面上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられたクラッド層と、
前記半導体基板と前記活性層との間、若しくは前記活性層と前記クラッド層との間に設けられた位相変調層と、
前記半導体基板の裏面上に設けられた電極と、
を備え、
前記半導体基板側の裏面から前記光像を出力し、
前記位相変調層は、該位相変調層の厚さ方向から見て前記電極と重なるとともにその平面形状及び位置が前記電極の平面形状及び位置と略一致する第1領域と、前記第1領域を除く第2領域とを含み(但し、前記位相変調層の厚さ方向から見て、外側領域である前記第1領域が、内側領域である単一の前記第2領域を囲む形態を除く)、基本層と、前記基本層とは屈折率が異なる複数の異屈折率領域とを有し、
前記位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、前記第2領域に含まれる前記複数の異屈折率領域の重心が、前記仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、該格子点周りに前記光像に応じた回転角度を有することにより、所望の光像に基づいて算出された位相分布の全てが前記第2領域に含まれ
前記所望の光像からの情報の欠落のない光像、前記位相変調層の前記第2領域のみによって完成される、ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項3】
前記第1領域に含まれる前記複数の異屈折率領域の重心が、前記仮想的な正方格子の格子点上に配置されるか、若しくは、前記仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに該格子点周りに前記光像とは無関係な回転角度を有する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記電極の平面形状が格子状、ストライプ状、同心円状、放射状、又は櫛歯状である、ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1領域の幅が前記電極の幅よりも大きい、請求項1~のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
半導体基板の主面に垂直な方向に対して傾斜した方向に光像を出力する半導体発光素子の位相変調層を設計する方法であって、
前記半導体発光素子は、
前記半導体基板の前記主面上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられたクラッド層と、
前記クラッド層上に設けられたコンタクト層と、
前記半導体基板と前記活性層との間、若しくは前記活性層と前記クラッド層との間に設けられた位相変調層と、
前記コンタクト層上に設けられた電極と、
を備え、
前記クラッド層側の表面から前記光像を出力し、
前記位相変調層は、該位相変調層の厚さ方向から見て前記電極と重なるとともにその平面形状及び位置が前記電極の平面形状及び位置と略一致する第1領域と、前記第1領域を除く第2領域とを含み(但し、前記位相変調層の厚さ方向から見て、外側領域である前記第1領域が、内側領域である単一の前記第2領域を囲む形態を除く)、基本層と、前記基本層とは屈折率が異なる複数の異屈折率領域とを有し、
前記位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、前記第2領域に含まれる前記複数の異屈折率領域の重心が、前記仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、該格子点周りに前記光像に応じた回転角度を有し、
前記光像は、前記位相変調層の前記第2領域のみによって完成され、
当該方法は、
前記第1領域における前記複数の異屈折率領域の重心の位置を、前記仮想的な正方格子の格子点上か、若しくは、前記仮想的な正方格子の格子点から離れており該格子点周りに一定の回転角度を有するものとして拘束しながら、前記第2領域における前記複数の異屈折率領域の重心の位置を、所望の前記光像に基づく繰り返し演算により算出する、ことを特徴とする半導体発光素子の位相変調層設計方法。
【請求項7】
半導体基板の主面に垂直な方向に対して傾斜した方向に光像を出力する半導体発光素子の位相変調層を設計する方法であって、
前記半導体発光素子は、
前記半導体基板の前記主面上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられたクラッド層と、
前記半導体基板と前記活性層との間、若しくは前記活性層と前記クラッド層との間に設けられた位相変調層と、
前記半導体基板の裏面上に設けられた電極と、
を備え、
前記半導体基板側の裏面から前記光像を出力し、
前記位相変調層は、該位相変調層の厚さ方向から見て前記電極と重なるとともにその平面形状及び位置が前記電極の平面形状及び位置と略一致する第1領域と、前記第1領域を除く第2領域とを含み(但し、前記位相変調層の厚さ方向から見て、外側領域である前記第1領域が、内側領域である単一の前記第2領域を囲む形態を除く)、基本層と、前記基本層とは屈折率が異なる複数の異屈折率領域とを有し、
前記位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、前記第2領域に含まれる前記複数の異屈折率領域の重心が、前記仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、該格子点周りに前記光像に応じた回転角度を有し、
前記光像は、前記位相変調層の前記第2領域のみによって完成され、
当該方法は、
前記第1領域における前記複数の異屈折率領域の重心の位置を、前記仮想的な正方格子の格子点上か、若しくは、前記仮想的な正方格子の格子点から離れており該格子点周りに一定の回転角度を有するものとして拘束しながら、前記第2領域における前記複数の異屈折率領域の重心の位置を、所望の前記光像に基づく繰り返し演算により算出する、ことを特徴とする半導体発光素子の位相変調層設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子及び半導体発光素子の位相変調層設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の半導体発光素子は、活性層と、活性層を挟む一対のクラッド層と、活性層に光学的に結合した位相変調層とを備えている。位相変調層は、基本層と、基本層とは屈折率の異なる複数の異屈折率領域とを含んでいる。位相変調層に正方格子を設定した場合、異屈折率領域は、正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、該格子点周りに所定のビームパターンに応じた回転角度を有する。
【0003】
特許文献2に記載の半導体発光素子は、活性層と、活性層を挟む一対のクラッド層と、活性層に光学的に結合した位相変調層とを備えている。位相変調層は、基本層と、基本層とは屈折率の異なる複数の異屈折率領域とを含んでいる。位相変調層に正方格子を設定した場合、異屈折率領域(主孔)は、正方格子の格子点に一致するように配置されている。この異屈折率領域の周囲には、補助的な異屈折率領域(副孔)が設けられており、所定のビームパターンの光を出射することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/148075号公報
【文献】国際公開第2014/136962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次元状に配列された複数の発光点から出射される光の位相スペクトル及び強度スペクトルを制御することにより任意の光像を出力する半導体発光素子が研究されている。このような半導体発光素子の構造の1つとして、半導体基板上に下部クラッド層、活性層、及び上部クラッド層を有し、更に、下部クラッド層と活性層との間もしくは活性層と上部クラッド層との間に位相変調層を有する構造がある。位相変調層は、基本層と、基本層とは屈折率が異なる複数の異屈折率領域とを有し、位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、各異屈折率領域の重心位置が、光像に応じて仮想的な正方格子の格子点位置からずれている。このような半導体発光素子はS-iPM(Static-integrablePhase Modulating)レーザと呼ばれ、半導体基板の主面に垂直な方向に対して傾斜した方向に任意形状の光像を出力する。
【0006】
このような半導体発光素子において、各異屈折率領域の重心位置は、所望の光像に基づいて繰り返し演算等を用いて算出される。しかしながら、位相変調層の一部の領域は、光出射方向に存在する電極(裏面出射型の場合は半導体基板の裏面上に設けられた電極であり、表面出射型の場合は上部クラッド層上に設けられた電極)と重なる。このような領域から出射される光は、当該電極によって遮蔽されてしまい半導体発光素子の外部へ出射することができないので、光像の形成に寄与することができない。従って、得られる光像では当該領域の情報が欠落し、光像の質が低下してしまう。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、位相変調層から出射される光の一部が電極に遮られることに起因する光像の質の低下を抑制することができる半導体発光素子及び半導体発光素子の位相変調層設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明による第1の半導体発光素子は、半導体基板の主面に垂直な方向に対して傾斜した方向に光像を出力する半導体発光素子であって、半導体基板の主面上に設けられた活性層と、活性層上に設けられたクラッド層と、クラッド層上に設けられたコンタクト層と、半導体基板と活性層との間、若しくは活性層とクラッド層との間に設けられた位相変調層と、コンタクト層上に設けられた電極と、を備え、クラッド層側の表面から光像を出力する。位相変調層は、該位相変調層の厚さ方向から見て電極と重なるとともにその平面形状及び位置が電極の平面形状及び位置と略一致する第1領域と、第1領域を除く第2領域とを含み(但し、位相変調層の厚さ方向から見て、外側領域である第1領域が、内側領域である単一の第2領域を囲む形態を除く)、基本層と、基本層とは屈折率が異なる複数の異屈折率領域とを有する。位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、第2領域に含まれる複数の異屈折率領域の重心は、仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、該格子点周りに光像に応じた回転角度を有することにより、所望の光像に基づいて算出された位相分布の全てが第2領域に含まれる所望の光像からの情報の欠落のない光像、位相変調層の第2領域のみによって完成される。
【0009】
また、本発明による第2の半導体発光素子は、半導体基板の主面に垂直な方向に対して傾斜した方向に光像を出力する半導体発光素子であって、半導体基板の主面上に設けられた活性層と、活性層上に設けられたクラッド層と、半導体基板と活性層との間、若しくは活性層とクラッド層との間に設けられた位相変調層と、半導体基板の裏面上に設けられた電極と、を備え、半導体基板側の裏面から光像を出力する。位相変調層は、該位相変調層の厚さ方向から見て電極と重なるとともにその平面形状及び位置が電極の平面形状及び位置と略一致する第1領域と、第1領域を除く第2領域とを含み(但し、位相変調層の厚さ方向から見て、外側領域である第1領域が、内側領域である単一の第2領域を囲む形態を除く)、基本層と、基本層とは屈折率が異なる複数の異屈折率領域とを有する。位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、第2領域に含まれる複数の異屈折率領域の重心が、仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、該格子点周りに光像に応じた回転角度を有することにより、所望の光像に基づいて算出された位相分布の全てが第2領域に含まれる所望の光像からの情報の欠落のない光像、位相変調層の第2領域のみによって完成される。
【0010】
これら第1及び第2の半導体発光素子では、位相変調層の第2領域に含まれる複数の異屈折率領域の重心が、仮想的な正方格子の格子点周りに光像に応じた回転角度を有する。そして、光像は、位相変調層の第2領域のみによって完成される。これにより、電極によって遮蔽される位相変調層の第1領域から出射される光を用いることなく、遮蔽されない第2領域からの光のみを用いて光像を完成させることができる。従って、第1及び第2の半導体発光素子によれば、位相変調層から出射される光の一部が電極に遮られることに起因する光像の質の低下を抑制することができる。また、第1の半導体発光素子のように、クラッド層側の表面から光像を出力することにより、半導体基板における光吸収を低減し、半導体発光素子の光出力効率を高めることができる。このような構成は、特に赤外領域の光像を出力する場合に有効である。
【0011】
なお、光像が位相変調層の第2領域のみによって完成されるとは、第1領域に含まれる異屈折率領域を用いずに第2領域に含まれる異屈折率領域のみによって所望の光像が得られることを意味する。言い換えると、半導体発光素子から得られる所望の光像には、第1領域に含まれる異屈折率領域の配置は反映されない。更に言い換えると、上記電極が設けられている状態で形成される光像と、上記電極が設けられていない状態(上記電極とは別の手段により電流を供給した状態)で形成される光像とは、互いに一致する。
【0012】
上記の第1及び第2の半導体発光素子において、第1領域に含まれる複数の異屈折率領域の重心は、仮想的な正方格子の格子点上に配置されるか、若しくは、仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに該格子点周りに光像とは無関係な回転角度を有してもよい。第1領域から出射される光は電極によって遮蔽されるので、第1領域における複数の異屈折率領域の重心はどのように配置されてもよいが、このような配置によれば、位相変調層の形成が容易になる。また、本発明者の知見によれば、複数の異屈折率領域の重心が仮想的な正方格子の格子点に近いほど、レーザ発振に必要な電流(発振閾値電流)を低くすることができる。従って、第1領域の複数の異屈折率領域の重心が仮想的な正方格子の格子点上に配置されることにより、発振閾値電流を効果的に低下させることができる。
【0013】
上記の第1及び第2の半導体発光素子において、電極の平面形状は格子状、ストライプ状、同心円状、放射状、又は櫛歯状であってもよい。これらのうち何れかの平面形状を電極が有する場合、電極の一部を光出射面の中央部付近にも配置することができる。これにより、活性層の中央部付近にも電流を十分に供給できるので、光出射面の面積をより広くすることができる。特に、第1の半導体発光素子においては、クラッド層を厚くしなくても活性層の中央部付近に電流を十分に供給できる。
【0014】
上記の第1及び第2の半導体発光素子において、第1領域の幅は電極の幅よりも大きくてもよい。第1領域の幅が電極の幅よりも大きいことにより、電極の形成位置が設計上の位置から多少ずれた場合であっても、第2領域を電極が遮蔽することを回避し、光像の質の低下を抑制できる。
【0015】
本発明による半導体発光素子の位相変調層設計方法は、上記の半導体発光素子の位相変調層を設計する方法であって、第1領域における複数の異屈折率領域の重心の位置を、仮想的な正方格子の格子点上か、若しくは、仮想的な正方格子の格子点から離れており該格子点周りに一定の回転角度を有するものとして拘束しながら、第2領域における複数の異屈折率領域の重心の位置を、所望の光像に基づく繰り返し演算により算出する。このように、第1領域における複数の異屈折率領域の重心の位置を拘束しながら繰り返し演算を行うことにより、第2領域のみによって光像を完成させ得るような異屈折率領域の重心の配置を容易に算出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明による半導体発光素子及び半導体発光素子の位相変調層設計方法によれば、位相変調層から出射される光の一部が電極に遮られることに起因する光像の質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子として、レーザ素子の構成を示す図である。
図2】レーザ素子を光出射方向から見た平面図である。
図3】位相変調層が下部クラッド層と活性層との間に設けられる場合を示す図である。
図4】位相変調層の平面図である。
図5】位相変調層の第2領域の構成を示す平面図である。
図6】位相変調層における異屈折率領域の位置関係を示す図である。
図7】位相変調層の第1領域の一構成例を示す平面図である。
図8】位相変調層の第1領域の別の構成例を示す平面図である。
図9】レーザ素子の出力ビームパターンが結像して得られる光像と、第2領域における回転角度分布との関係を説明するための図である。
図10】(a),(b)光像のフーリエ変換結果から回転角度分布を求め、異屈折率領域の配置を決める際の留意点を説明する図である。
図11】繰り返しアルゴリズムの概念図である。
図12】(a)位相変調層全体における回転角度分布(すなわち位相分布)を示す図である。(b)(a)の一部分を拡大して示す図である。
図13】(a)位相変調層が、光像に応じた位相分布を第1領域及び第2領域の全体にわたって有する場合の光像の例を示す図である。(b)第1実施形態の位相変調層により得られる光像の例を示す図である。
図14】(a)~(c)異屈折率領域の重心と格子点との距離を変化させながら、ピーク電流と出力光強度との関係を調べた結果を示すグラフである。
図15】(a)~(c)異屈折率領域の重心と格子点との距離を変化させながら、ピーク電流と出力光強度との関係を調べた結果を示すグラフである。
図16】(a)~(c)異屈折率領域の重心と格子点との距離を変化させながら、ピーク電流と出力光強度との関係を調べた結果を示すグラフである。
図17図14図16のグラフを算出する際に用いられた光像を示す。
図18】XY面内における異屈折率領域の形状のうち、鏡像対称な形状の例を示す。
図19】XY面内における異屈折率領域の形状のうち、180°の回転対称性を有さない形状の例を示す。
図20】第1変形例に係る第2領域の平面図である。
図21】第1変形例に係る、位相変調層における異屈折率領域の位置関係を示す図である。
図22】異屈折率領域のXY平面内における形状及び相対関係の例を示す図である。
図23】異屈折率領域のXY面内の形状の例を示す。
図24】第1変形例における第1領域の平面図である。
図25】電極の平面形状の他の例を示す図である。
図26】電極の平面形状の他の例を示す図である。
図27】(a)電極がストライプ形状を有する場合の、位相変調層全体における回転角度分布(すなわち位相分布)を示す図である。(b)(a)の一部分を拡大して示す図である。
図28】(a)電極が同心円形状を有する場合の、位相変調層全体における回転角度分布(すなわち位相分布)を示す図である。(b)(a)の一部分を拡大して示す図である。
図29】本発明の第2実施形態に係る半導体発光素子として、レーザ素子の構成を示す図である。
図30】位相変調層が下部クラッド層と活性層との間に設けられる場合を示す図である。
図31】位相変調層の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体発光素子及び半導体発光素子の位相変調層設計方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子として、レーザ素子1Aの構成を示す図である。また、図2は、レーザ素子1Aを光出射方向から見た平面図である。なお、レーザ素子1Aの厚さ方向をZ軸とするXYZ直交座標系を定義する。このレーザ素子1Aは、XY面内方向において定在波を形成し、位相制御された平面波をZ方向に出力するレーザ光源である。レーザ素子1Aは、半導体基板10の主面10aに垂直な方向及びこれに対して傾斜した方向をも含む2次元的な任意形状の光像を、上部クラッド層13側の表面から出力する。
【0020】
図1に示されるように、レーザ素子1Aは、半導体基板10上に設けられた下部クラッド層11と、下部クラッド層11上に設けられた活性層12と、活性層12上に設けられた上部クラッド層13と、上部クラッド層13上に設けられたコンタクト層14と、を備える。これらの半導体基板10及び各層11~14は、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくは窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成される。下部クラッド層11のエネルギーバンドギャップ、及び上部クラッド層13のエネルギーバンドギャップは、活性層12のエネルギーバンドギャップよりも大きい。
【0021】
レーザ素子1Aは、活性層12と上部クラッド層13との間に設けられた位相変調層15Aを更に備える。なお、必要に応じて、活性層12と上部クラッド層13との間、及び活性層12と下部クラッド層11との間のうち少なくとも一方に、光ガイド層が設けられてもよい。光ガイド層が活性層12と上部クラッド層13との間に設けられる場合、位相変調層15Aは、上部クラッド層13と光ガイド層との間に設けられる。
【0022】
図3に示されるように、位相変調層15Aは、下部クラッド層11と活性層12との間に設けられてもよい。さらに、光ガイド層が活性層12と下部クラッド層11との間に設けられる場合、位相変調層15Aは、下部クラッド層11と光ガイド層との間に設けられる。
【0023】
半導体基板10、及び半導体基板10上に設けられる各半導体層の屈折率の関係は次の通りである。すなわち、下部クラッド層11及び上部クラッド層13の各屈折率は、半導体基板10、活性層12、及びコンタクト層14の各屈折率よりも小さい。更に、本実施形態では、上部クラッド層13の屈折率は、下部クラッド層11の屈折率と等しいか、それよりも小さい。位相変調層15Aの屈折率は、下部クラッド層11(または上部クラッド層13)の屈折率より大きくてもよく、小さくてもよい。
【0024】
位相変調層15Aは、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本層15a内に存在する複数の異屈折率領域15bとを含んで構成されている。複数の異屈折率領域15bは、略周期構造を含んでいる。位相変調層15Aの実効屈折率をnとした場合、位相変調層15Aが選択する波長λ(=a×n、aは格子間隔)は、活性層12の発光波長範囲内に含まれている。位相変調層(回折格子層)15Aは、活性層12の発光波長のうちの波長λを選択して、外部に出力することができる。
【0025】
レーザ素子1Aは、コンタクト層14上に設けられた電極16と、半導体基板10の裏面10b上に設けられた電極17とを更に備える。電極16はコンタクト層14とオーミック接触を成しており、電極17は半導体基板10とオーミック接触を成している。図2に示されるように、電極16は格子状(例えば正方格子状)といった平面形状を有しており、XY平面において2次元状に配列された複数の開口16aを有する。なお、図2には4行4列に配列された計16個の開口16aが例示されているが、開口16aの個数及び配列は任意である。各開口16aの平面形状は、例えば正方形等の四角形である。各開口16aの内径(1辺の長さ)は、例えば5μm~100μmである。電極16の一部は、光出射方向から見たレーザ素子1Aの中央部付近に設けられている。
【0026】
再び図1を参照する。本実施形態のコンタクト層14は、電極16と同様の平面形状を有する。すなわち、光出射方向から見たコンタクト層14の平面形状は、電極16と同じ格子状となっている。レーザ素子1Aから出射される光は、コンタクト層14の開口、及び電極16の開口16aを通過する。コンタクト層14の開口を光が通過することにより、コンタクト層14における光吸収を回避し、光出射効率を高めることができる。但し、コンタクト層14における光吸収を許容できる場合には、コンタクト層14は開口を有さずに上部クラッド層13上の全面を覆っていてもよい。また、電極16の開口16aを光が通過することにより、電極16に遮られることなく光をレーザ素子1Aの表面側から好適に出射することができる。
【0027】
コンタクト層14の開口から露出した上部クラッド層13の表面(若しくは、コンタクト層14の開口が設けられない場合にはコンタクト層14の表面)は、反射防止膜18によって覆われている。なお、コンタクト層14の外側にも反射防止膜18が設けられてもよい。また、半導体基板10の裏面10b上における電極17以外の部分は、保護膜19によって覆われている。
【0028】
電極16と電極17との間に駆動電流が供給されると、活性層12内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層12が発光する。この発光に寄与する電子及び正孔、並びに発生した光は、下部クラッド層11及び上部クラッド層13の間に効率的に閉じ込められる。
【0029】
活性層12で発生した光のうち一部は、位相変調層15Aの内部にも入射し、位相変調層15Aの内部の格子構造に応じた所定のモードで発振する。位相変調層15A内から出射したレーザ光は、上部クラッド層13からコンタクト層14の開口及び電極16の開口16aを通って外部へ出射する。このとき、レーザ光の0次光は、主面10aに垂直な方向へ出射する。これに対し、レーザ光の信号光は、主面10aに垂直な方向及びこれに対して傾斜した方向を含む2次元的な任意方向へ出射する。所望の光像を形成するのは信号光であって、0次光は本実施形態では使用されない。
【0030】
或る例では、半導体基板10はGaAs基板であり、下部クラッド層11はAlGaAs層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaAs/井戸層:InGaAs)を有し、位相変調層15Aの基本層15aはGaAsであり、異屈折率領域15bは空孔であり、上部クラッド層13はAlGaAs層であり、コンタクト層14はGaAs層である。また、別の例では、半導体基板10はInP基板であり、下部クラッド層11はInP層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:GaInAsP/井戸層:GaInAsP)を有し、位相変調層15Aの基本層15aはGaInAsPであり、異屈折率領域15bは空孔であり、上部クラッド層13はInP層であり、コンタクト層14はGaInAsP層である。また、更に別の例では、半導体基板10はGaN基板であり、下部クラッド層11はAlGaN層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:InGaN/井戸層:InGaN)を有し、位相変調層15Aの基本層15aはGaNであり、異屈折率領域15bは空孔であり、上部クラッド層13はAlGaN層であり、コンタクト層14はGaN層である。
【0031】
なお、下部クラッド層11には半導体基板10と同じ導電型が付与され、上部クラッド層13及びコンタクト層14には半導体基板10とは逆の導電型が付与される。一例では、半導体基板10及び下部クラッド層11はn型であり、上部クラッド層13及びコンタクト層14はp型である。位相変調層15Aは、活性層12と下部クラッド層11との間に設けられる場合には半導体基板10と同じ導電型を有し、活性層12と上部クラッド層13との間に設けられる場合には半導体基板10とは逆の導電型を有する。不純物濃度は例えば1×1017~1×1021/cmである。
【0032】
また、上述の構造では、異屈折率領域15bが空孔となっているが、異屈折率領域15bは、基本層15aとは屈折率が異なる半導体が空孔内に埋め込まれて形成されてもよい。その場合、例えば基本層15aの空孔をエッチングにより形成し、有機金属気相成長法、スパッタ法又はエピタキシャル法を用いて半導体を空孔内に埋め込んでもよい。また、基本層15aの空孔内に半導体を埋め込んで異屈折率領域15bを形成した後、更に、その上に異屈折率領域15bと同一の半導体を堆積してもよい。なお、異屈折率領域15bが空孔である場合、該空孔にアルゴン、窒素、水素といったガス又は空気が封入されてもよい。
【0033】
反射防止膜18は、例えば、シリコン窒化物(例えばSiN)、シリコン酸化物(例えばSiO)などの誘電体単層膜、或いは誘電体多層膜からなる。誘電体多層膜としては、例えば、酸化チタン(TiO)、二酸化シリコン(SiO)、一酸化シリコン(SiO)、酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化セリウム(CeO)、酸化インジウム(In)、酸化ジルコニウム(ZrO)などの誘電体層群から選択される2種類以上の誘電体層を積層した膜を用いることができる。例えば、波長λの光に対する光学膜厚で、λ/4の厚さの膜を積層する。また、保護膜19は、例えばシリコン窒化物(例えばSiN)、シリコン酸化物(例えばSiO)などの絶縁膜である。
【0034】
図4は、位相変調層15Aの平面図である。位相変調層15Aは、第1領域151と、第2領域152とを含んでいる。第1領域151は、位相変調層15Aの厚さ方向(すなわちZ方向)から見て電極16と重なる領域である。第2領域152は、第1領域151を除く領域である。例えば図2に示されるように電極16が格子状といった平面形状を有する場合、第1領域151もまた、格子状といった平面形状を有する。また、この場合、第2領域152は、電極16の開口16aと重なる。第1領域151の平面形状及びXY面内における位置は、電極16の平面形状及びXY面内における位置と一致してもよいし、完全には一致していなくてもよい。例えば、第1領域151の各部分の長手方向と直交する方向の幅W1は、電極16の各部分の長手方向と直交する方向の幅W2よりも大きくてもよく、或いは小さくてもよい。
【0035】
図5は、位相変調層15Aの第2領域152の構成を示す平面図である。第2領域152は、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる異屈折率領域15bとを含む。ここで、位相変調層15Aに、XY面内における仮想的な正方格子を設定する。正方格子の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行であるものとする。このとき、正方格子の格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rが、X軸に沿った複数列及びY軸に沿った複数行にわたって二次元状に設定され得る。複数の異屈折率領域15bは、各単位構成領域R内に1つずつ設けられる。異屈折率領域15bの平面形状は、例えば円形状である。各単位構成領域R内において、異屈折率領域15bの重心Gは、これに最も近い格子点Oから離れて配置される。
【0036】
図6に示されるように、格子点Oから重心Gに向かう方向とX軸との成す角度をφ(x,y)とする。xはX軸におけるx番目の格子点の位置、yはY軸におけるy番目の格子点の位置を示す。角度φ(x,y)は、各異屈折率領域15bの位相に対応している。回転角度φが0°である場合、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの方向はX軸の正方向と一致する。また、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さをr(x,y)とする。一例では、r(x,y)はx、yによらず(第2領域152全体にわたって)一定である。
【0037】
図5に示されるように、第2領域152においては、異屈折率領域15bの重心Gの格子点O周りの回転角度φ(すなわち当該異屈折率領域15bの位相)が、所望の光像に応じて各単位構成領域R毎に独立して設定される。回転角度分布φ(x,y)は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。すなわち、回転角度分布φ(x,y)は、所望の光像をフーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。なお、所望の光像から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性が向上する。
【0038】
図7は、位相変調層15Aの第1領域151の一構成例を示す平面図である。第1領域151は、第2領域152と同様に、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる異屈折率領域15bとを含む。複数の異屈折率領域15bは、各単位構成領域R内に1つずつ設けられる。異屈折率領域15bの平面形状は、例えば円形状である。第1領域151では、第2領域152とは異なり、各単位構成領域R内において、異屈折率領域15bの重心Gは、各単位構成領域R内の格子点O上に配置される。言い換えれば、各異屈折率領域15bの重心Gと、各格子点Oとは互いに一致する。このように、第1領域151は、通常のフォトニック結晶レーザとしての構成を有するので、0次光にのみ寄与し、光像を形成する信号光には寄与しない。本実施形態では、位相変調層15Aのうち第2領域152のみによって、情報の欠落のない所望の光像が完成される。
【0039】
図8は、位相変調層15Aの第1領域151の別の構成例を示す平面図である。図8に示されるように、第1領域151において、異屈折率領域15bの重心Gは、各単位構成領域R内において最も近い格子点Oから離れて配置されてもよい。その場合、図6に示されるr(x,y)及び格子点O周りの回転角度φはx、yによらず(第1領域151全体にわたって)一定か、若しくは光像とは無関係に設定される。このような場合においても、第2領域152のみによって情報の欠落のない所望の光像が完成される。
【0040】
なお、位相変調層15Aの第2領域において、回転角度分布φ(x,y)は0~2π(rad)の位相が全て同程度含まれるように設計される。言い換えると、各異屈折率領域15bについて、正方格子の格子点Oから異屈折率領域15bの重心Gに向かうベクトルOGをとり、位相変調層15A内全てにわたってベクトルOGを足し合わせるとゼロに近づく。つまり、平均的には異屈折率領域15bは正方格子の格子点O上にあると考えることができ、全体としてみれば、格子点O上に異屈折率領域15bを配置したときと同様の二次元分布ブラッグ回折効果が得られるので、定在波の形成が容易となり、発振のための閾値電流低減を期待できる。ここで、位相変調層15Aの第1領域として図7のように各異屈折率領域15bの重心Gが各単位構成領域R内の格子点Oと一致するように構成した場合には、前述の第2領域と組合せることにより位相変調層15Aの全体において格子点O上に異屈折率領域15bを配置したときと同様の二次元ブラッグ回折効果が得られるので、定在波の形成が容易となり、発振のための閾値電流を更に低減出来ることが期待できる。
【0041】
図9は、レーザ素子1Aの出力ビームパターンが結像して得られる光像と、第2領域152における回転角度分布φ(x,y)との関係を説明するための図である。なお、出力ビームパターンの中心Qは半導体基板10の主面10aに対して垂直な軸線上に位置しており、図9には、中心Qを原点とする4つの象限が示されている。図9では例として第1象限および第3象限に光像が得られる場合を示したが、第2象限および第4象限或いは全ての象限に像を得ることも可能である。本実施形態では、図9に示されるように、原点に関して点対称な光像が得られる。図9は、例として、第3象限に文字「A」が、第1象限に文字「A」を180度回転したパターンが、それぞれ得られる場合について示している。なお、回転対称な光像(例えば、十字、丸、二重丸など)である場合には、重なって一つの光像として観察される。
【0042】
レーザ素子1Aの出力ビームパターンが結像して得られる光像は、スポット、直線、十字架、線画、格子パターン、写真、縞状パターン、CG(コンピュータグラフィクス)、及び文字のうち少なくとも1つを含んでいる。ここで、所望の光像を得るためには、以下に述べる設計方法によって第2領域152の異屈折率領域15bの回転角度分布φ(x、y)を決定する。
【0043】
XY平面内におけるビームパターンの特定の領域(例えば第3象限のうちビームパターン近傍の一部)を2次元フーリエ変換(より厳密には2次元逆フーリエ変換であるが、本実施形態では単に2次元フーリエ変換と記す)して得られる複素振幅分布F(X,Y)は、jを虚数単位として、XY平面内の強度分布I(X,Y)と、XY平面内の位相分布P(X,Y)を用いて表される。すなわち、F(X,Y)=I(X,Y)×exp{P(X,Y)j}で与えられる。そして、回転角度分布φ(x,y)は、次の数式
φ(x,y)=C×P(X,Y)
により得ることができる。ここで、Cは定数であり、全ての位置(x,y)に対して同一の値を持つ。
【0044】
すなわち、所望の光像を得たい場合、該光像をフーリエ変換して、その複素振幅の位相に応じた回転角度分布φ(x,y)を、複数の異屈折率領域15bに与えるとよい。なお、レーザビームのフーリエ変換後の遠視野像は、単一若しくは複数のスポット形状、円環形状、直線形状、文字形状、二重円環形状、又は、ラゲールガウスビーム形状などの各種の形状をとることができる。なお、ビームパターンは遠方界における角度情報で表わされるものであるので、目標とするビームパターンが2次元的な位置情報で表わされているビットマップ画像などの場合には、一旦角度情報に変換した後にフーリエ変換を行うと良い。
【0045】
フーリエ変換で得られた複素振幅分布から強度分布と位相分布を得る方法として、例えば強度分布I(x,y)については、MathWorks社の数値解析ソフトウェア「MATLAB」のabs関数を用いることにより計算することができ、位相分布P(x,y)については、MATLABのangle関数を用いることにより計算することができる。
【0046】
ここで、光像のフーリエ変換結果から回転角度分布φ(x,y)を求め、各異屈折率領域15bの配置を決める際に、一般的な離散フーリエ変換(或いは高速フーリエ変換)を用いて計算する場合の留意点を述べる。フーリエ変換前の光像を図10(a)のようにA1,A2,A3,及びA4といった4つの象限に分割すると、得られるビームパターンは図10(b)のようになる。つまり、ビームパターンの第一象限には、図10(a)の第一象限を180度回転したものと図10(a)の第三象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第二象限には図10(a)の第二象限を180度回転したものと図10(a)の第四象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第三象限には図10(a)の第三象限を180度回転したものと図10(a)の第一象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第四象限には図10(a)の第四象限を180度回転したものと図10(a)の第二象限が重畳したパターンが現れる。
【0047】
従って、フーリエ変換前の光像(元の光像)として第一象限のみに値を有するものを用いた場合には、得られるビームパターンの第三象限に元の光像の第一象限が現れ、得られるビームパターンの第一象限に元の光像の第一象限を180度回転したパターンが現れる。
【0048】
図11は、本実施形態において用いられる繰り返しアルゴリズムの概念図である。この繰り返しアルゴリズムは、GS法をベースとしている。まず、無限遠方スクリーン上における目標強度分布(ビームパターン)の平方根より目標振幅分布を求める(処理A1)。このとき、位相分布をランダムとし、目標振幅分布及びランダムな位相分布から構成される複素振幅分布を初期条件とする。次に、この複素振幅分布の逆フーリエ変換を行う(処理A2)。これにより、位相変調層15Aにおける複素振幅分布が得られる(処理A3)。
【0049】
続いて、位相変調層15Aにおける複素振幅分布の振幅分布(すなわちr(x,y))及び位相分布(すなわち回転角度分布φ(x,y))をそれぞれ目標分布に置き換える。例えば、振幅分布を、第1領域151及び第2領域152において一定値とした目標分布に置き換え、位相分布を、第1領域151では一定値とし、第2領域152では元の値を保持した目標分布に置き換える(処理A4)。
【0050】
続いて、置き換え後の振幅分布及び位相分布からなる複素振幅分布のフーリエ変換を行う(処理A5)。これにより、無限遠方スクリーン上での複素振幅分布が得られる(処理A6)。この複素振幅分布のうち、振幅分布を目標振幅分布(ビームパターン)に置き替え、位相分布はそのままとする(処理A7)。これらの振幅分布及び位相分布からなる複素振幅分布の逆フーリエ変換を行うことにより(処理A2)、位相変調層15Aにおける複素振幅分布が再び得られる(処理A3)。以上の処理A2~A7を十分な回数だけ繰り返す。そして、最終的に得られた位相変調層15Aにおける複素振幅分布のうち、位相分布を位相変調層15Aにおける異屈折率領域15bの配置に用いる。このような方法により、第2領域152のみの異屈折率領域15bの分布から光像を完成させることができる。このとき、第1領域151に対応する位相分布は一定値が得られるが、第1領域151の異屈折率領域15bは光像に寄与しないため、第1領域151における複数の異屈折率領域15bの重心Gの位置は、仮想的な正方格子の格子点O上に配置しても良いし、若しくは、仮想的な正方格子の格子点Oから離れており該格子点O周りに一定の回転角度φを有するものとして配置しても良い。
【0051】
図12(a)は、上述した演算を1000回繰り返して生成された、位相変調層15A全体における回転角度φの分布(すなわち位相分布)を示す図である。また、図12(b)は、図12(a)の一部分Dを拡大して示す図である。図12では、回転角度φの大きさが色の濃淡で示されている。回転角度φは0~2πの範囲で変化している。図12に示されるように、第1領域151では、色の濃淡が一定になっており、回転角度φが一定であることがわかる。また、第2領域152では、色の濃淡が所望のビームパターンのフーリエ変換に対応した位相分布を構成しており、所望の光像に応じて各単位構成領域R毎に独立して設定されていることがわかる。
【0052】
以上に説明した本実施形態によるレーザ素子1A、及び位相変調層15Aの設計方法によって得られる効果について説明する。このレーザ素子1Aでは、位相変調層15Aの第2領域152に含まれる複数の異屈折率領域15bの重心Gが、仮想的な正方格子の格子点O周りに光像に応じた回転角度を有する。そして、光像は、位相変調層15Aの第2領域152のみによって完成される。これにより、電極16によって遮蔽される位相変調層15Aの第1領域151から出射される光を用いることなく、遮蔽されない第2領域152からの光のみを用いて、情報が欠落することなく光像を完成させることができる。従って、レーザ素子1Aによれば、位相変調層15Aから出射される光の一部が電極16に遮られることに起因する光像の質の低下を抑制することができる。
【0053】
特に、本実施形態のレーザ素子1Aのように上部クラッド層側の表面から光像を出力する場合、表面側の電極と活性層との距離を十分にとることができないことがある。そのような場合、電極の開口を1つのみ設ける従来の方式では、電極の直下にあたる活性層の周辺部分に電流が集中し、活性層の中央付近まで電流を拡散させることが困難となる。従って、電極の開口面積を狭くせざるを得ず、該開口内すなわち光出射面内の異屈折率領域の個数が少なくなり、光像の解像度が低下してしまう。このような問題に対し、本実施形態のレーザ素子1Aによれば、光像の質の低下を抑制しつつ電極16の平面形状を格子状にできるので、活性層の中央付近まで電流を拡散させることが容易にできる。故に、光出射面を大きくして光出射面内の異屈折率領域の個数を多くし、光像の解像度を向上することができる。
【0054】
図13(a)は、比較例として、位相変調層15Aが、光像に応じた位相分布を第1領域151及び第2領域152の全体にわたって有する場合の光像の例を示す。この例は、図11の処理A4における位相分布をそのまま保持して算出された複素振幅分布のうち電極16と重なる部分の強度を0とし、他の部分の強度を1としたものをフーリエ変換して得られた、無限遠方スクリーン上における光像である。また、図13(b)は、本実施形態の位相変調層15Aにより得られる光像の例を示す。この例は、図11に示される処理A4において求められた複素振幅分布のうち電極16と重なる部分の強度を0とし、他の部分の強度を1としたものをフーリエ変換して得られた、無限遠方スクリーン上における光像である。図13(a)を参照すると、電極16による遮蔽に起因する情報の欠落により、光像の質が著しく低下していることがわかる。これに対し、図13(b)を参照すると、情報の欠落のない質の高い光像が得られていることがわかる。
【0055】
また、本実施形態のレーザ素子1Aのように、上部クラッド層13側の表面から光像を出力することにより、半導体基板10における光吸収を低減し、レーザ素子1Aの光出力効率を高めることができる。このような構成は、特に赤外領域の光像を出力する場合に有効である。
【0056】
また、本実施形態のように、第1領域151に含まれる複数の異屈折率領域15bの重心Gは、仮想的な正方格子の格子点O上に配置されるか、若しくは、仮想的な正方格子の格子点Oから離れて配置されるとともに該格子点O周りに光像とは無関係な回転角度を有してもよい。第1領域151から出射される光は電極16によって遮蔽されるので、第1領域151における複数の異屈折率領域15bの重心Gはどのように配置されてもよいが、このような配置によれば、位相変調層15Aの形成が容易になる。第1領域151における複数の異屈折率領域15bの重心Gは光像の形成には寄与しないため、例えば仮想的な正方格子の格子点Oとの距離rを一定に保ったままランダムな回転角度φを有しても良いし、rを0にして異屈折率領域15bを仮想的な正方格子の格子点Oと一致させても良い。
【0057】
また、本実施形態のように、電極16の平面形状は格子状であってもよい。このような形状を電極16が有する場合、電極16の一部を光出射面の中央部付近にも配置することができる。これにより、活性層12の中央部付近にも電流を十分に供給できるので、光出射面の面積をより広くすることができる。また、上部クラッド層13を厚くしなくても活性層12の中央部付近に電流を十分に供給できる。
【0058】
また、第1領域151の幅W1は電極16の幅W2よりも大きくてもよい。第1領域151の幅W1が電極16の幅W2よりも大きいことにより、電極16の形成位置が設計上の位置から多少ずれた場合であっても、第2領域152を電極16が遮蔽することを回避することができる。従って、第2領域152を電極16が遮蔽することによる光像の質の低下を抑制できる。
【0059】
また、本実施形態による位相変調層15Aの設計方法によれば、繰り返し演算を行うことにより、第2領域152のみによって光像を完成させ得るような異屈折率領域15bの重心Gの配置を容易に算出することができる。また、本実施形態では、処理A4において、位相変調層15Aにおける複素振幅分布の振幅分布(すなわちr(x,y))及び位相分布(すなわち回転角度分布φ(x,y))をそれぞれ目標分布に置き換えている。例えばこのような処理によって、第1領域151における複数の異屈折率領域15bの重心Gの位置を、仮想的な正方格子の格子点O上か、若しくは、仮想的な正方格子の格子点Oから離れており該格子点O周りに一定の回転角度φを有するものとして拘束することができる。
【0060】
また、本発明者の知見によれば、複数の異屈折率領域15bの重心Gが仮想的な正方格子の格子点Oに近いほど、レーザ発振に必要な電流(発振閾値電流)を低くすることができる。図14図16は、異屈折率領域15bの重心Gと格子点Oとの距離を変化させながら、ピーク電流と出力光強度との関係を調べた結果を示すグラフである。これらの図において、縦軸は光強度(単位:mW)を示し、横軸はピーク電流(単位:mA)を示す。菱形のプロットは0次光の光強度を示し、三角形のプロットは信号光(各々)の光強度を示し、四角形のプロットはトータルの光強度を示す。また、図14(a)~図14(c)は、それぞれ重心Gと格子点Oとの距離rが0の場合(すなわち重心Gと格子点Oとが互いに一致している場合)、距離rが0.01aの場合、及び距離rが0.02aの場合を示している。図15(a)~図14(c)は、それぞれ距離rが0.03aの場合、距離rが0.04aの場合、及び距離rが0.05aの場合をそれぞれ示している。図16(a)~図16(c)は、それぞれ距離rが0.06aの場合、距離rが0.07aの場合、及び距離rが0.08aの場合をそれぞれ示している。なお、aは仮想的な正方格子の格子定数である。図17は、図14図16のグラフを算出する際に用いられた光像を示す。
【0061】
図14図16を参照すると、距離rが大きいほど、0次光の光強度In0と信号光の光強度In1との比率(In1/In0)が増大していることがわかる。すなわち、距離rが大きいほど、0次光に対して信号光の光強度を高めることができる。その一方で、距離rが短いほど、少ない電流で大きな光強度が得られている。すなわち、距離rが短いほど、光出力効率が高まり、レーザ発振に必要な電流(発振閾値電流)を低くすることができる。そして、距離rが0である場合に、発振閾値電流が最も低くなっている。第2領域152においては光像を形成するために或る程度の距離rが必要となるが、第1領域151は光像の形成に寄与しないので距離rを任意に選択出来る。従って、第1領域151の複数の異屈折率領域15bの重心Gが仮想的な正方格子の格子点O上に配置すれば、発振閾値電流を効果的に低下させることができる。
【0062】
また、位相変調層15Aにおいて、仮想的な正方格子の各格子点Oと、対応する異屈折率領域15bの重心Gとの距離rは、位相変調層15A全体にわたって一定値であることが望ましい。これにより、位相変調層15A全体における位相分布が0~2π(rad)まで等しく分布している場合には、異屈折率領域15bの重心Gは平均すると正方格子の格子点Oに一致することとなる。従って、位相変調層15Aにおける二次元分布ブラッグ回折効果は、正方格子の各格子点O上に異屈折率領域が配置された場合の二次元分布ブラッグ回折効果に近づくこととなるので、定在波の形成が容易となり、発振のための閾値電流低減を期待できる。
【0063】
また、図5図7及び図8にはXY平面内における異屈折率領域15bの形状が円形である例が示されているが、異屈折率領域15bは円形以外の形状を有してもよい。例えば、XY平面内における異屈折率領域15bの形状は、鏡像対称性(線対称性)を有してもよい。ここで、鏡像対称性(線対称性)とは、XY平面に沿った任意の直線を挟んで、該直線の一方側に位置する異屈折率領域15bの平面形状と、該直線の他方側に位置する異屈折率領域15bの平面形状とが、互いに鏡像対称(線対称)となり得ることをいう。鏡像対称性(線対称性)を有する形状としては、例えば図18に示すように、(a)真円、(b)正方形、(c)正六角形、(d)正八角形、(e)正16角形、(f)長方形、(g)楕円、などが挙げられる。このように、XY平面内における異屈折率領域15bの形状が鏡像対称性(線対称性)を有することにより、位相変調層15Aにおいて、仮想的な正方格子の各格子点から対応する各異屈折率領域15bの重心へ向かう方向とX軸との成す角度φを高精度に定めることができるので、高い精度でのパターニングが可能となる。
【0064】
また、XY平面内における異屈折率領域15bの形状は、180°の回転対称性を有さない形状であってもよい。このような形状としては、例えば図19に示すように、(a)正三角形、(b)直角二等辺三角形、(c)2つの円又は楕円の一部分が重なる形状、(d)楕円の長軸に沿った一方の端部近傍の短軸方向の寸法が他方の端部近傍の短軸方向の寸法よりも小さくなるように変形した形状(卵形)、(e)楕円の長軸に沿った一方の端部を長軸方向に沿って突き出る尖った端部に変形した形状(涙形)、(f)二等辺三角形、(g)矩形の一辺が三角形状に凹みその対向する一辺が三角形状に尖った形状(矢印形)、(h)台形、(i)5角形、(j)2つの矩形の一部分同士が重なる形状、(k)2つの矩形の一部分同士が重なり且つ鏡像対称性を有さない形状、等が挙げられる。このように、XY平面内における異屈折率領域15bの形状が180°の回転対称性を有さないことにより、より高い光出力を得ることができる。
【0065】
(第1変形例)
図20は、上記実施形態の一変形例に係る第2領域154の平面図である。上記実施形態の第2領域152は、本変形例の第2領域154に置き換えられてもよい。本変形例の第2領域154は、上記実施形態の第2領域152の構成に加えて、複数の異屈折率領域15bとは別の複数の異屈折率領域15cを更に有する。各異屈折率領域15cは、周期構造を含んでおり、基本層15aの第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる。異屈折率領域15cは、異屈折率領域15bと同様に、空孔であってもよく、空孔に化合物半導体が埋め込まれて構成されてもよい。ここで、図21に示すように、本変形例においても、格子点Oから重心Gに向かう方向とX軸との成す角度をφ(x,y)とする。xはX軸におけるx番目の格子点の位置、yはY軸におけるy番目の格子点の位置を示す。回転角度φが0°である場合、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの方向はX軸の正方向と一致する。また、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さをr(x,y)とする。一例では、r(x,y)はx、yによらず(第2領域154全体にわたって)一定である。
【0066】
各異屈折率領域15cは、各異屈折率領域15bにそれぞれ一対一で対応して設けられている。そして、各異屈折率領域15cは仮想的な正方格子の格子点O上に位置しており、一例では、各異屈折率領域15cの重心は、仮想的な正方格子の格子点Oと一致する。異屈折率領域15cの平面形状は例えば円形であるが、異屈折率領域15bと同様に、様々な形状を有しうる。図22に、異屈折率領域15b,15cのXY平面内における形状及び相対関係の例を示す。図22(a)及び図22(b)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有し、互いの重心が離間した形態を示す。図22(c)及び図22(d)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有し、互いの重心が離間し、互いの一部分同士が重なる形態を示す。図22(e)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有し、互いの重心が離間し、各格子点毎に異屈折率領域15b,15cの相対角度が任意に設定された(任意の角度だけ回転した)形態を示す。図22(f)は、異屈折率領域15b,15cが互いに異なる形状の図形を有し、互いの重心が離間した形態を示す。図22(g)は、異屈折率領域15b,15cが互いに異なる形状の図形を有し、互いの重心が離間し、各格子点毎に異屈折率領域15b,15cの相対角度が任意に設定された(任意の角度だけ回転した)形態を示す。これらのうち、図22(e)及び図22(g)では、2つの異屈折率領域15b,15cが互いに重ならないように回転している。
【0067】
また、図22(h)~図22(k)に示すように、異屈折率領域15bは、互いに離間した2つの領域15b1,15b2を含んで構成されても良い。そして、領域15b1,15b2を合わせた重心と、異屈折率領域15cの重心とが離間し、領域15b1,15b2を結ぶ直線のX軸に対する角度が各格子点毎に任意に設定されてもよい。また、この場合、図22(h)に示すように、領域15b1,15b2及び異屈折率領域15cは、互いに同じ形状の図形を有してもよい。或いは、図22(i)に示すように、領域15b1,15b2及び異屈折率領域15cのうち2つの図形が他と異なっていてもよい。また、図22(j)に示すように、領域15b1,15b2を結ぶ直線のX軸に対する角度に加えて、異屈折率領域15cのX軸に対する角度が各格子点毎に任意に設定されてもよい。また、図22(k)に示すように、領域15b1,15b2及び異屈折率領域15cが互いに同じ相対角度を維持したまま、領域15b1,15b2を結ぶ直線のX軸に対する角度が各格子点毎に任意に設定されてもよい。なお、これらのうち、図22(j)及び図22(k)では、領域15b1,15b2が異屈折率領域15cと重ならないように回転してもよい。
【0068】
異屈折率領域のXY平面内の形状は、各格子点間で互いに同一であってもよい。すなわち、異屈折率領域が全ての格子点において同一図形を有しており、並進操作、又は並進操作及び回転操作により、格子点間で互いに重ね合わせることが可能であってもよい。その場合、ビームパターン内におけるノイズ光及びノイズとなる0次光の発生を低減できる。或いは、異屈折率領域のXY平面内の形状は各格子点間で必ずしも同一でなくとも良く、例えば図23に示すように、隣り合う格子点間で形状が互いに異なっていても良い。
【0069】
図24は、本変形例における第1領域153の平面図である。上記実施形態の第1領域151は、本変形例の第1領域153に置き換えられてもよい。本変形例の第1領域153は、上記実施形態の第1領域151の構成(図8を参照)に加えて、複数の異屈折率領域15bとは別の複数の異屈折率領域15cを更に有する。各異屈折率領域15cは仮想的な正方格子の格子点O上に位置しており、一例では、各異屈折率領域15cの重心は、仮想的な正方格子の格子点Oと一致する。なお、異屈折率領域15b及び15cは、それぞれの一部分において互いに重なってもよく、互いに離間してもよい。また、図24は、異屈折率領域15b及び15cの平面形状が円形である場合を示しているが、異屈折率領域15b及び15cの平面形状には、例えば図21に示されたような様々な形状を適用することができる。
【0070】
例えば本変形例のような位相変調層の構成であっても、上記実施形態の効果を好適に奏することができる。
【0071】
(第2変形例)
図25及び図26は、電極16の平面形状の他の例を示す図である。図25(a)は、X方向(又はY方向)に延びる複数の線状の電極部分がY方向(又はX方向)に並んだストライプ形状を示す。これらの電極部分は、両端において、Y方向(又はX方向)に延びる別の一対の電極部分を介して互いに連結されている。図25(b)及び図25(c)は、互いに直径が異なる複数の円環状の電極部分が同心円として(共通の中心を有するように)配置された形状を示す。複数の電極部分同士は、径方向に延びる直線状の電極部分によって互いに連結されている。直線状の電極部分は、図25(b)に示されるように複数設けられてもよく、図25(c)に示されるように1本のみ設けられてもよい。
【0072】
図25(d)は、複数の線状の電極部分が或る中心点から放射状に拡がる形状を示す。これらの電極部分は、両端において、上記中心点を中心とする一対の円環状の電極部分を介して互いに連結されている。図25(e)は、図25(a)の複数の線状の電極部分をX方向(又はY方向)に対して傾斜させた場合を示す。図25(f)は、図25(a)の複数の線状の電極部分同士の間隔を一定ではなくした(非周期的とした)場合を示す。
【0073】
図26(a)は、X方向(又はY方向)に延びる複数の線状の電極部分がY方向(又はX方向)に並び、それらの一端がY方向(又はX方向)に延びる別の電極部分を介して互いに連結された2つの櫛歯状の電極が対向している形状を示す。一方の櫛歯状電極の複数の線状の電極部分と、他方の櫛歯状電極の複数の線状の電極部分とは、Y方向(又はX方向)に沿って交互に配置されている。図26(b)は、図26(a)に示された一方の櫛歯状電極のみからなる形状を示す。
【0074】
図26(c)は、X方向(又はY方向)に延びる複数の線状の電極部分がY方向(又はX方向)に並び、それらの中央部がY方向(又はX方向)に延びる別の電極部分を介して互いに連結されたフィッシュボーン形状を示す。図26(d)は、X方向(又はY方向)に延びる複数の線状の電極部分が一端及び他端において交互に連結された方形波形状を示す。図26(e)は、六角形状の単位構造が二次元的に複数並んだハニカム形状を示す。図26(f)は、渦巻き形状を示す。図26(g)は、正方格子の枠がX方向及びY方向に対して傾斜した斜めメッシュ形状を示す。
【0075】
図27(a)は、電極16が図26(a)に示すストライプ形状を有する場合の、位相変調層15A全体における回転角度φの分布(すなわち位相分布)を示す図である。図27(b)は、図27(a)の一部分Dを拡大して示す図である。図28(a)は、電極16が図26(b)に示す同心円形状を有する場合の、位相変調層15A全体における回転角度φの分布を示す図である。図28(b)は、図28(a)の一部分Dを拡大して示す図である。図27および図28では、回転角度φの大きさが色の濃淡で示されている。
【0076】
電極16の平面形状は、上述した第1実施形態のような正方格子状に限らず、例えば本変形例に示したような様々な形状であることができる。本変形例に示した形状は、いずれも、活性層12の中央部付近の上に位置する部分を含んでおり、活性層12の中央部に電流を効率良く分散させることができるものである。また、図25(a)、図25(e)、又は図25(f)に示されたストライプ形状の場合、線状の電極部分の長手方向に沿った方向における電極16と位相変調層15Aとの位置ずれが大きくなっても、電極16と第2領域152との重なりを抑制できるので、電極16の位置精度に余裕をもたせることができる。更に、活性層12の中央部への電流供給に関しては、格子状よりも少ない被覆率(言い換えれば、格子状よりも大きい開口率)でもって格子状と同等の効果を奏することができるので、光取り出し効率を増すとともに、光像の解像度を高めることができる。図26(a)又は図26(b)に示された櫛歯状の電極、或いは図26(c)に示されたフィッシュボーン形状についても同様である。また、図25(b)及び図25(c)に示された同心円形状の場合、窓関数ノイズを低減できる。ここで、窓関数ノイズとは、開口部が周期的に配置されることによって生じる回折パターンである。この回折パターンは、周期構造が1次元的或いは2次元的に並んでいる場合にはその周期構造に沿って生じる。これに対し、周期構造が同心円状に並んでいる場合には、回折パターンは円周に垂直な全ての方向に分散するので、窓関数ノイズのピーク値を低減出来る。
【0077】
(第2実施形態)
図29は、本発明の第2実施形態に係る半導体発光素子として、レーザ素子1Bの構成を示す図である。このレーザ素子1Bは、XY面内方向において定在波を形成し、位相制御された平面波をZ方向に出力するレーザ光源であって、第1実施形態と同様に、半導体基板10の主面10aに垂直な方向及びこれに対して傾斜した方向をも含む2次元的な任意形状の光像を出力する。ただし、第1実施形態のレーザ素子1Aは活性層12に対して上部クラッド層13側に位置する表面から光像を出力するが、本実施形態のレーザ素子1Bは、半導体基板10を透過した光像を裏面から出力する。
【0078】
レーザ素子1Bは、下部クラッド層11、活性層12、上部クラッド層13、コンタクト層14、及び位相変調層15Aを備える。下部クラッド層11は、半導体基板10上に設けられている。活性層12は、下部クラッド層11上に設けられている。上部クラッド層13は、活性層12上に設けられている。コンタクト層14は、上部クラッド層13上に設けられている。位相変調層15Aは、活性層12と上部クラッド層13との間に設けられている。各層11~14,15Aの構成(好適な材料、バンドギャップ、屈折率等)は、第1実施形態と同様である。
【0079】
位相変調層15Aの構造は、第1実施形態または各変形例において説明された位相変調層15Aの構造と同様である。必要に応じて、活性層12と上部クラッド層13との間、及び活性層12と下部クラッド層11との間のうち少なくとも一方に、光ガイド層が設けられてもよい。図30に示されるように、位相変調層15Aが、下部クラッド層11と活性層12との間に設けられてもよい。
【0080】
レーザ素子1Bは、第1実施形態の電極16,17に代えて、コンタクト層14上に設けられた電極23と、半導体基板10の裏面10b上に設けられた電極22とを備える。電極23はコンタクト層14とオーミック接触を成しており、電極22は半導体基板10とオーミック接触を成している。電極22は、第1実施形態或いは第2変形例の電極16と同様の平面形状(図2図25、及び図26を参照)と同様の平面形状を有する。コンタクト層14は、上部クラッド層13上の全面に設けられている。電極23は、レーザ素子1Bの中心付近を含むコンタクト層14上の領域に設けられている。
【0081】
電極22の開口から露出した半導体基板10の裏面10bは、反射防止膜24によって覆われている。また、コンタクト層14上における電極23以外の部分は、保護膜25によって覆われている。反射防止膜24の材料は、第1実施形態の反射防止膜18と同様である。保護膜25の材料は、第1実施形態の保護膜19と同様である。
【0082】
以上に説明した本実施形態によるレーザ素子1Bにおいては、位相変調層15Aの構造及び電極22の形状が、第1実施形態または各変形例において説明された構造と同様である。従って、レーザ素子1Bによれば、位相変調層15Aから出射される光の一部が電極22に遮られることに起因する光像の質の低下を抑制することができる。
【0083】
本発明による半導体発光素子は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態及び実施例ではGaAs系、InP系、及び窒化物系(特にGaN系)の化合物半導体からなるレーザ素子を例示したが、本発明は、これら以外の様々な半導体材料からなる半導体発光素子に適用できる。
【0084】
また、本発明の半導体発光素子は、材料系、膜厚、及び層構成に自由度を有する。ここで、仮想的な正方格子からの異屈折率領域の摂動が0である、いわゆる正方格子フォトニック結晶レーザに関しては、スケーリング則が成り立つ。すなわち、波長が定数α倍となった場合には、正方格子構造全体をα倍することによって同様の定在波状態を得ることが出来る。同様に、本発明においても、実施例に開示した以外の波長においてもスケーリング則によって位相変調層の構造を決定することが可能である。従って、青色、緑色、赤色などの光を発光する活性層を用い、波長に応じたスケーリング則を適用することで、可視光を出力する半導体発光素子を実現することも可能である。
【0085】
図31は、位相変調層の変形例を示す図であって、層厚方向から見た形態を示す。この変形例による位相変調層15Bは、図3に示された位相変調層15Aと同様の構成を有する領域15dの外周部に、正方格子の各格子点上に異屈折率領域が設けられた領域15eを有する。領域15eの異屈折率領域の形状および大きさは、位相変調層15Aの異屈折率領域15bと同一である。また、領域15eの正方格子の格子定数は、位相変調層15Aの正方格子の格子定数と等しい。このように、正方格子の各格子点上に異屈折率領域が設けられた領域15eによって領域15dを囲むことにより、面内方向への光漏れを抑制することができ、閾値電流の低減が期待できる。
【符号の説明】
【0086】
1A,1B…レーザ素子、10…半導体基板、10a…主面、10b…裏面、11…下部クラッド層、12…活性層、13…上部クラッド層、14…コンタクト層、15A,15B…位相変調層、15a…基本層、15b,15c…異屈折率領域、16,17,22,23…電極、16a…開口、18,24…反射防止膜、19,25…保護膜、151,153…第1領域、152,154…第2領域、G…重心、O…格子点、Q…中心、R…単位構成領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31