(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】地中レーダー装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/88 20060101AFI20220531BHJP
G01V 3/12 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G01S13/88 200
G01V3/12 B
(21)【出願番号】P 2017111398
(22)【出願日】2017-06-06
【審査請求日】2020-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【氏名又は名称】福田 充広
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【氏名又は名称】山川 啓
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰之
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-084020(JP,A)
【文献】特開平03-291591(JP,A)
【文献】特開2007-263882(JP,A)
【文献】特開2005-292069(JP,A)
【文献】特開平01-274092(JP,A)
【文献】特開平10-268059(JP,A)
【文献】特開平4-213088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0115667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
G01V 3/00- 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
探査用の電波を送信する送信アンテナと、
応答波を受信する受信アンテナと、
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナの相対的な位置を変更して電波の伝搬時間を2つ以上測定する伝搬時間測定部と、
前記伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差の有無または差の度合に基づいて、
地中の対象物が均一な広がりを有しないか、または、土壌比誘電率が一定でないかのうち少なくとも一方を含む状態であることについて推定する地中状態推定部と
を備える地中レーダー装置。
【請求項2】
前記地中状態推定部は、前記伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差の有無または差の度合に基づいて、地中の対象物が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定であるか否かを推定する、請求項1に記載の地中レーダー装置。
【請求項3】
前記地中状態推定部は、前記送信アンテナ
の配置位置から等しい距離にある2つの異なる位置に前記受信アンテナを配置した場合において、前記伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差が、予め定めた規定範囲を超えた
ときに、地中の対象物が均一な広がりを有しないか、または、土壌比誘電率が一定でないかのうち少なくとも一方を含む状態である、と推定する、請求項
1及び2のいずれか一項に記載の地中レーダー装置。
【請求項4】
前記地中状態推定部は、前記送信アンテナの配置位置から異なる距離にある2つの位置に前記受信アンテナを配置した場合において、前記伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差の度合が、予め定めた規定範囲を超えた
ときに、地中の対象物が均一な広がりを有しないか、または、土壌比誘電率が一定でないかのうち少なくとも一方を含む状態である、と推定する、請求項
1~3のいずれか一項に記載の地中レーダー装置。
【請求項5】
前記地中状態推定部は、前記送信アンテナ
の配置位置から等しい距離にある2つの異なる位置に前記受信アンテナを配置した場合において、前記伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差が、予め定めた規定範囲内であり、かつ、前記送信アンテナの配置位置から異なる距離にある2つの位置に前記受信アンテナを配置した場合において、前記伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差の度合が、予め定めた規定範囲内であるときに、地中の対象物が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定である、と推定する、請求項
1~4のいずれか一項に記載の地中レーダー装置。
【請求項6】
前記地中状態推定部において、地中の対象物が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定である、と推定された場合に、測定された2つ以上の伝搬時間に基づいて、推定される土壌比誘電率の値を演算する土壌比誘電率演算部をさらに備える、請求項5に記載の地中レーダー装置。
【請求項7】
前記送信アンテナと前記受信アンテナとの相対的配置関係を維持しつつ搬送する搬送部をさらに備え、
前記地中状態推定部において、地中の対象物が均一な広がりを有しないか、または、土壌比誘電率が一定でないかのうち少なくとも一方を含む状態である、と推定された場合に、前記搬送部により前記送信アンテナと前記受信アンテナとを移動させて測定箇所を変更し、
前記地中状態推定部は、変更後の測定箇所における伝搬時間の測定結果と、変更前の測定箇所における伝搬時間の測定結果とにおける伝搬時間の差の生じ方の差異に基づいて、地中の対象物が均一な広がりを有しない状態であるのか、土壌比誘電率が一定でない状態であるのか、あるいは、両方の状態を含む可能性があるかを推定する、請求項
1~6のいずれか一項に記載の地中レーダー装置。
【請求項8】
前記地中状態推定部は、前記伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差のうち、一部が予め定めた規定範囲内であるが、他の一部が予め定めた規定範囲を超えた場合に、
土壌比誘電率が一定である位置と一定でない位置との境目に達したと推定する、請求項7に記載の地中レーダー装置。
【請求項9】
前記地中状態推定部は、前記伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差が短くなる度合に基づいて、地中の対象物が均一な広がりを有しない範囲を推定する、請求項7及び8のいずれか一項に記載の地中レーダー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中の状態について推定するための地中レーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された埋設管等を探査する地中埋設物探査装置として、電波を送信する送信アンテナを固定する一方、受信アンテナを埋設管等の直上において移動させて受信アンテナの移動距離に応じた反射波の伝搬時間の変化を調べることで、土中の比誘電率や埋設管の埋設深度を計算するものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、埋設管のおおよその埋設位置や、土中の状態(例えば土中の比誘電率が一定であること)等が、予め分かっていることを前提とした上で、ワイドアングル測定法を利用して比誘電率や埋設深度を求めるものである。
【0004】
一方、例えば地中に調査の対象物となる空洞や地層あるいは埋設管等があると想定されるものの詳しい状態までは未知である、といった場合において、空洞等が平らなものであるか否か、すなわち空洞等が均一な広がりを有するものであるか否か、といったことを調査したいという要請がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、例えば地中の状態が未知である場合において、地中の対象物の状態を推定するための地中レーダー装置を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するための地中レーダー装置は、探査用の電波を送信する送信アンテナと、応答波を受信する受信アンテナと、送信アンテナ及び受信アンテナの相対的な位置を変更して電波の伝搬時間を2つ以上測定する伝搬時間測定部と、伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差分に基づいて、地中の対象物の状態を推定する地中状態推定部とを備える。
【0008】
上記地中レーダー装置では、送信アンテナ及び受信アンテナとの相対的な位置を変更することで伝搬時間測定部によって取得された2つ以上の伝搬時間について、地中状態推定部において、これらの差分に基づいて地中における対象物の状態を推定する。この場合、伝搬時間の差分に基づいて、例えば未知である地中の対象物が均一な広がりを有するか否かについての推定が可能になる。
【0009】
本発明の具体的な側面では、地中状態推定部は、伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差分に基づいて、土壌の状態を推定する。この場合、伝搬時間の差分に基づいて、例えば未知である地中の土壌の状態についての推定が可能になる。
【0010】
本発明の別の側面では、地中状態推定部は、送信アンテナの配置位置から等しい距離でかつ異なる2つの位置に受信アンテナを配置した場合において、伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差が予め定めた規定範囲内である否かによって地中の状態を推定する。この場合、2つの受信アンテナへの伝搬時間の差に基づいて地中の状態を推定できる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、地中状態推定部は、伝搬時間の差が、予め定めた規定範囲を超えた場合に、地中の対象物が均一な広がりを有しないか、または、土壌比誘電率が一定でないかのうち少なくとも一方を含む状態である、と推定する。この場合、伝搬時間の差に基づいて、地中の状態、より詳しくは、地中の対象物の状態や土壌比誘電率のうち少なくとも一方について不均一であることを推定できる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、地中状態推定部は、送信アンテナの配置位置から異なる距離にある2つの位置に受信アンテナを配置した場合において、伝搬時間測定部で測定された伝搬時間の差の度合に基づいて、地中の状態を推定する。この場合、2つの受信アンテナの配置と、伝搬時間の差の度合との関係から、地中の状態について推定できる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、地中状態推定部は、伝搬時間の差の度合が、予め定めた規定範囲を超えた場合に、地中の対象物が均一な広がりを有しないか、または、土壌比誘電率が一定でないかのうち少なくとも一方を含む状態である、と推定する。この場合、伝搬時間の差の度合に基づいて、地中の状態、より詳しくは、地中の対象物の状態や土壌比誘電率のうち少なくとも一方について不均一であることを推定できる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、送信アンテナ及び/又は受信アンテナとして動作する3つ以上のアンテナ部を所定間隔で配置し、伝搬時間測定部は、3つ以上のアンテナ部を構成する各アンテナ部の組み合わせを切り替えることで2つ以上の伝搬時間を測定し、地中状態推定部は、測定された2つ以上の伝搬時間に基づいて地中の状態を推定する。この場合、アンテナ部の組み合わせを切り替えることで、地中の状態を推定するための情報を取得できる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、地中状態推定部は、3つ以上のアンテナ部についての所定の組み合わせで伝搬時間を測定した結果がいずれも予め定めた規定範囲内である場合に、地中の対象物が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定である、と推定する。この場合、測定した伝搬時間に基づいて、対象物の位置(埋設深度)を算出することが可能になる。
【0016】
本発明のさらに別の側面では、送信アンテナと受信アンテナとの相対的配置関係を維持しつつ搬送する搬送部をさらに備え、地中状態推定部において、地中の対象物が均一な広がりを有しないか、または、土壌比誘電率が一定でないかのうち少なくとも一方を含む状態である、と推定された場合に、搬送部により送信アンテナと受信アンテナとを移動させて測定箇所を変更し、地中状態推定部は、変更後の測定箇所における伝搬時間の測定結果を、変更前の測定箇所における伝搬時間の測定結果と比較して、地中の対象物が均一な広がりを有しない状態であるのか、土壌比誘電率が一定でない状態であるのか、あるいは、両方の状態を含む可能性があるかを推定する。この場合、搬送部による搬送を行って測定範囲を広げ、広げられた測定範囲における結果に基づいて、地中の状態を推定することができる。
【0017】
本発明のさらに別の側面では、地中状態推定部において、地中の対象物が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定である、と推定された場合に、測定された2つ以上の伝搬時間に基づいて、推定される土壌比誘電率の値を演算する土壌比誘電率演算部をさらに備える。この場合、土壌比誘電率演算部により、土壌比誘電率の値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の地中レーダー装置を説明する図である。
【
図2】地中レーダー装置の本体部分の構成について説明するためのブロック図である。
【
図3】(A)は、対象となる地中の様子について説明するための図であり、(B)は、(A)との比較のため、従来例について示す図である。
【
図4】(A)は、地中レーダー装置による地中に存在する対象物(空洞)の探査の様子を概念的に示す図であり、(B)~(E)は、想定される地中内の様子についての場合分けを示す図である。
【
図5】(A)~(C)は、地中レーダー装置による3つの測定方法について説明するための図である。
【
図6】測定された搬送時間に基づく土壌比誘電率及び埋設深度の算出方法について説明するための図である。
【
図7】地中レーダー装置による地中の状況の推定に関する動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図8】(A)~(C)は、第2実施形態に係る地中レーダー装置による3つの測定方法において、地中の対象物が均一な広がりを有していない場合の様子を概念的に示す図である。
【
図9】(A)、(B)は、地中レーダー装置による測定において、一部の土壌の比誘電率が一定でない場合の様子を概念的に示す図である。
【
図10】地中レーダー装置による地中の状況の推定に関する動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図11】(A)~(C)は、地中レーダー装置についての他の一変形例について説明するための図である。
【
図12】(A)、(B)は、地中レーダー装置についての別の一変形例について説明するための図であり、(C)は、地中レーダー装置についてのさらに別の一変形例について説明するための図である。
【
図13】地中レーダー装置の本体部分の構成についての一変形例を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る一実施形態の地中レーダー装置100について説明する。
【0020】
図1に示すように、地中レーダー装置100は、自動車、列車、台車等の各種移動体200に本体部分100Aを搭載して構成されており、探査位置を変化させるための搬送部である移動体200は、車輪101や駆動機構102等を有する。
【0021】
図2に示すように、地中レーダー装置100のうち、中核的機能を有する本体部分100Aは、アンテナ装置10と、アンテナ制御部20と、主制御部50とを備える。
【0022】
地中レーダー装置100のうち、アンテナ装置10は、複数(図示の例では5つ)のアンテナ部である第1~第5アンテナAN1~AN5(まとめてアンテナ本体10Aとする)と、スイッチ回路SWとで構成され、アンテナ制御部20からの指示に従って、これらのうちいずれかが送信アンテナとして機能するとともに他のものが受信アンテナとして機能するように、スイッチ回路SWによって切り替えの動作がなされる。なお、ここでは、第1~第5アンテナAN1~AN5は、図示のように一列に等間隔で配置されているものとする。
【0023】
アンテナ制御部20は、主制御部50からの指示に従ってアンテナ装置10を構成する各アンテナAN1~AN5を送信アンテナあるいは受信アンテナとして機能させるべく、各種駆動制御を行う。このため、アンテナ制御部20は、アンテナ制御回路21と、送信部22aと、受信部22bとを備える。
【0024】
アンテナ制御回路21は、主制御部50から送信される各種指令信号に従って、アンテナ本体10Aのうち、どのアンテナを送信アンテナ及び受信アンテナとして駆動させるかや、それらの駆動タイミング等の制御を送信部22a及び受信部22bを介して行う。送信部22a及び受信部22bは、かかる駆動動作をアンテナ本体10Aを構成する各アンテナAN1~AN5に行わせるべくスイッチ回路SWによる切り換えを行いつつ各種処理を行う。このため、送信部22aは、パルスやチャープによる送信波(電波)S1を生成する発信器のほか、信号変換を行うD/Aコンバーター、送信波S1を増幅するためのアンプ等で構成されている。また、受信部22bは、地中に存在する探査対象である埋設物や空洞その他の対象物OBで反射されて戻って来た応答波S2を受信すべく、ノイズ処理等のための各種フィルターや、応答波S2を増幅するためのアンプ、サンプリング処理を行う相間処理器、信号変換を行うA/Dコンバーター等で構成されている。
【0025】
主制御部50は、例えば、CPUや各種ストレージ、表示部等で構成され、典型的には、これらを内蔵するPCで構成される。主制御部50は、送信波S1の送信タイミングの制御のほか、演算処理等の各種処理を行い、地中探査の制御動作全体を統括する。このため、本実施形態における主制御部50は、CPU等により各種アプリケーションプログラムに基づく種々の処理が可能となっているとともに、各種データの一時記憶が可能となっている。ここでは、図示のように、主制御部50は、伝搬時間測定部51と、地中状態推定部52と、土壌比誘電率演算部(対象物の埋設深度演算部としての機能を含む)53とを備える、あるいはこれらのものとして機能する。すなわち、主制御部50は、各種プログラムを動作させることで、伝搬時間測定部51として、送信アンテナ及び受信アンテナとなるべき各アンテナAN1~AN5を時系列で決定することで、送信アンテナ及び受信アンテナの相対的な位置を順次変更して電波の伝搬時間をそれぞれ測定する。ここでは、図示のように、3種類の異なるパターンでそれぞれ伝搬時間の測定を行う測定プログラム(第1~第3パターン測定プログラムMP1~MP3)が準備されているものとする。なお、各測定プログラムに基づく測定方法についての詳細は後述する。また、主制御部50は、地中状態推定部52として、伝搬時間測定部51で測定された伝搬時間の差分に基づいて、地中の対象物の状態を推定する。ここでは、上記3種類の測定方法での伝搬時間に関する結果に基づいて、地中の対象物の状態を推定する。これについても、具体的一例を後述する。また、主制御部50は、土壌比誘電率演算部53として、地中の土壌の比誘電率について算出を行う。また、併せて、対象物の埋設深度演算部として、対象物OBの位置を示す値である対象物の深さ方向についての埋設深度についても算出を行う。ここでは、上記地中状態推定部52において、地中の対象物が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定である、と推定された場合に、土壌比誘電率演算部53は、測定された2つ以上の伝搬時間に基づいて、推定される土壌比誘電率の値を演算する。なお、この算出方法についても、詳しい一例を後述する。なお、これらのほかに、主制御部50は、取得した伝搬時間等の各種データを一時記憶する記憶部MEを備える。
【0026】
ここで、本実施形態の地中レーダー装置100では、地中探査の対象物からの応答に伴い生成される画像が円弧状になっていないと考えられるような場合についてレーダー探査結果から土壌比誘電率の推定が可能である点において、従来のように、地中に埋設される円筒状の配管を探査すべく当該配管の延びる方向を横切るような方向について探査した結果から土壌比誘電率を推定するものと異なっている。これについて、例えば
図3に示すように、探査の結果得られる画像上で比べると、本実施形態の場合、例えば
図3(A)に示すように、地上に相当する部分画像SSiと、地中の対象物(図中破線OBiで示す)に相当する部分画像GDiとが表れるものとなり、例えば
図3(B)に示す従来手法の場合のように、部分画像GDiが、円筒状の配管(図中破線OBiで示す)の変化に伴う応答の違いから現れる円弧状の形状となって捉えられるようなものとは異なっている。本実施形態の場合、異なる位置に配置された複数のアンテナAN1~AN5を利用することで、例えば地中内部に埋設された線状に延びる配管について、これを横切るような方向ではなく、当該配管が線状に延びる方向に沿った方向についての探査や、あるいは、地中内の空洞のように面的に広がる対象物についての探査結果から比誘電率の推定が可能になる。特に、ここでは、一例として、対象物としてある程度の広がりを有する空洞(配管を含む)について、探査結果から比誘電率の推定が可能かどうかを判断する。また、比誘電率の推定が可能であると判断された場合には、空洞の埋設深度の値等の算出を行う。
【0027】
以下、
図4を参照して、本実施形態にかかる地中レーダー装置100を用いた探査における地中の状況の探査における問題点等について説明する。
図4(A)に概念的に示すように、地中レーダー装置100によって地中に存在する対象物OBとして面的に広がる空洞CAを測定する場合(ただし、地中の配管を延びる方向沿って測定する場合も含む)、アンテナ装置10の送信アンテナから放射させた送信波S1が対象物OBとしての空洞CAで反射されて戻って来た応答波S2を受信アンテナで受信し、その間の伝搬時間と、送信アンテナと受信アンテナとの位置関係とから地中の状況を測定することになる。ここで、地中の状況について、詳しい状態までは未知である場合、主に、空洞CAの表面BSが平らなものであるか否か、すなわち空洞等が均一な広がりを有し、地中レーダー装置100が設置される地上面SSに対して表面BSが平行になっているか否かが不明であることと、地中の土壌SO(特に地上面SSから空洞CAの表面BSまでの土壌)の比誘電率が一定であるか否かが不明であることの2点が問題となる。つまり、
図4(B)~4(E)に示すように、空洞等が均一である場合と不均一である場合、土壌が均一である場合と不均一である場合を組み合わせた4つの場合が想定される。具体的に説明すると、まず、
図4(B)に示すように、空洞CAの表面BSが地上面SSに対して平行であるあるいは平行であるとみなせる状態(空洞等が均一)であって、かつ、その間の土壌SOaの比誘電率が均一であるあるいは均一であるとみなせる場合(土壌が均一)が考えられる。このほか、
図4(C)に示すように、土壌SOaの比誘電率は、均一であっても表面BSが地上面SSと平行でない場合(空洞等が不均一)や、
図4(D)に示すように、表面BSが地上面SSとは、平行であっても(空洞等が均一)、その間の土壌SObの比誘電率が均一でないない場合(土壌が均一)も考えられる。さらに、
図4(E)に示すように、表面BSが地上面SSと平行でなく、かつ、その間の土壌SObの比誘電率も均一でない場合も考えられる。地中レーダー装置100を用いた探査においては、まず、地中の状態が、
図4(B)に示すような状態となっているか否かの推定を行うことが重要となる。
図4(B)に示すような状態となっている場合には、推定に基づいて、直ちに土壌の比誘電率や対象物の位置(深度)の算出をすることが可能になるからである。
【0028】
本実施形態の地中レーダー装置100では、既述のように、また、
図5に示すように、複数のアンテナAN1~AN5を利用して複数のパスを形成し、各パスでの伝搬時間の測定結果に基づいて地中の状況について推定をおこなうものとなっている。特に、ここでは、複数の測定の仕方を組み合わせることで、地中の対象物OBとしての空洞CAが均一な広がりを有し、かつ、土壌の比誘電率(土壌比誘電率ε
r)が一定であるか否かの推定を行う。
【0029】
このため、例えば、
図5(A)に示す一例の測定(第1パターン測定)では、伝搬時間測定部51及び地中状態推定部52としての主制御部50(
図2参照)の制御下において、一列に等間隔で並ぶ5つのアンテナAN1~AN5のうち、もっとも端側にある第1アンテナAN1を送信アンテナTx(図中ハッチング)として駆動させるとともに、残りのアンテナAN2~AN5を順次受信アンテナRxとして駆動させ、第1アンテナ(送信アンテナ)AN1と各アンテナ(受信アンテナ)AN2~AN5との間での伝搬時間の差の度合に基づいて地中の状態を推定する。空洞CAが均一な広がりを有し、かつ、土壌SOにおける土壌比誘電率ε
rが一定であれば、伝搬時間の差の度合すなわち伝搬時間の変化の度合が、送信アンテナと受信アンテナとの距離に応じて一定の割合で変化することになる。したがって、伝搬時間を測定するとともにこれらの間での差の度合を算出することで、地中の状態の推定が可能になる。
【0030】
また、別の測定として、
図5(B)に示す一例の測定(第2パターン測定)では、5つのアンテナAN1~AN5のうち、1つのアンテナ(図示の例では真ん中にある第3アンテナAN3)を送信アンテナTxとして駆動させ、送信アンテナTxの両隣にあるアンテナ(図示の例では第2、第4アンテナAN2,AN4)、すなわち送信アンテナTxから等しい距離でかつ異なる2つの位置にあるアンテナを受信アンテナRxとし、これらの間での伝搬時間の差の有無に基づいて地中の状態を推定する。空洞CAが均一な広がりを有し、かつ、土壌SOにおける土壌比誘電率ε
rが一定であれば、伝搬時間の差が生じないことになる。したがって、伝搬時間を測定するとともにこれらの間での差の有無を確認することで、地中の状態の推定が可能になる。なお、同様に、第1、第5アンテナAN1,AN5を受信アンテナRxとしてもよい。
【0031】
さらに、別の測定として、
図5(C)に示す一例の測定(第3パターン測定)では、一列に等間隔に並ぶ5つのアンテナAN1~AN5のうち、隣り合うもの同士でのパスについての測定、すなわち最短時間となる場合の伝搬時間の測定を行い、これらの間での伝搬時間の差の有無に基づいて地中の状態を推定する。空洞CAが均一な広がりを有し、かつ、土壌SOにおける土壌比誘電率ε
rが一定であれば、伝搬時間の差が生じないことになる。したがって、伝搬時間を測定するとともにこれらの間での差の有無を確認することで、地中の状態の推定が可能になる。
【0032】
本実施形態では、地中レーダー装置100の主制御部50は、上記3つのパターンでの測定のいずれにおいても、想定された範囲内での測定がなされた場合、空洞CAが均一な広がりを有し、かつ、土壌SOにおける土壌比誘電率εrが一定であると推定し、推定に基づく空洞CAの埋設深度及び土壌比誘電率εrの算出を行う。
【0033】
以下、
図6を参照しつつ、対象物たる空洞CAが均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率ε
rが一定であると推定された場合において、測定された搬送時間に基づく土壌比誘電率ε
r及び空洞CAの埋設深度の算出方法について説明する。ここでは、第1アンテナAN1を送信アンテナTxとし、第2アンテナAN2及び第3アンテナAN3を受信アンテナRxとし、これらの間での伝搬時間の差の度合に基づいて算出を行う。
【0034】
まず、この場合、土壌の比誘電率の値や土中での電波(送信波、応答波)の伝搬速度の値が一定であるものと仮定できるので、これらの値について、既述のように土壌比誘電率ε
rとし、伝搬速度をVとする。この場合、まず、光速C
0(=3.0×10
8m/s)を用いて、
と表される。
【0035】
また、送信アンテナTxから送信された送信波S1が対象物たる空洞CAの表面BSで反射されて応答波S2として受信するまでの伝搬距離をD
nとし、送信アンテナTxから送信された送信波S1を各受信アンテナRxで応答波S2として受信するまでの搬送時間をt
nとすると、
と表される。また、伝搬距離D
nについては、送信アンテナTxと各受信アンテナRxとの配置関係すなわちこれらの間の距離をX
nとすると、
と表される。ここで、T
0は、送信アンテナTxから送信アンテナTxと同じ位置に受信アンテナがあるものとした場合の搬送時間(電波が到達するまでの時間)を示す。つまり、値(V×T
0)が、空洞CAの埋設深度を示すものとなる。
【0036】
ここで、受信アンテナRxとしての第2アンテナAN2及び第3アンテナAN3での搬送時間を、それぞれ搬送時間tA及び搬送時間tBとすると、これらの値は、測定により取得される既知の値である。また、各アンテナの位置関係すなわちアンテナ間の距離についても既知の値であり、ここでは、図示のように、第1アンテナAN1から第2アンテナAN2までのアンテナ間の距離を距離XAとし、第1アンテナAN1から第3アンテナAN3までのアンテナ間の距離を距離XBとする。一方、上記した搬送時間T0は、直接測定される値ではなく、未知数である。
【0037】
まず、上式(1)~(3)から、土壌比誘電率ε
rについて解くと、
となる。上式(4)に対して、搬送時間t
A,t
B及び距離X
A,X
Bを、それぞれ搬送時間t
n及び距離X
nとして代入すると、
となる。これらから、搬送時間T
0について解くと、
となる。したがって、測定された既知の搬送時間t
A,t
B及び距離X
A,X
Bの値から上式(5)に基づいて搬送時間T
0についての算出が可能となり、さらに、求められた搬送時間T
0の値から上式(4)に基づいて演算(距離X
n、搬送時間t
nについては、搬送時間t
A及び距離X
Aまたは搬送時間t
B及び距離X
Bのうち、いずれかを代入)することで、推定上の土壌比誘電率ε
rを算出できる。さらに、例えば上式(1)に基づいて、推定上の伝搬速度Vや、埋設深度の値(V×T
0)を算出することも可能となる。
【0038】
なお、以上の数式に基づく演算については、土壌比誘電率演算部53としての主制御部50(
図2参照)においてなされる。
【0039】
以下、
図7に示すフローチャートを参照して、本実施形態に係る地中レーダー装置100の推定に関する動作の一例について説明する。
【0040】
まず、地中レーダー装置100の主制御部50は、
図5(A)~5(C)にそれぞれ例示した3つのパターンの測定(第1~第3パターン測定)を行い、地中の対象物(空洞)が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定であるか否かの推定を行う、すなわち、対象物(空洞)の広がりが均一、かつ、土壌均一であるか否かを判定する。具体的には、まず、主制御部50は、
図5(A)に例示した第1パターン測定を行い(ステップS101)、伝搬時間の差の度合すなわち伝搬時間の変化の度合が、送信アンテナと受信アンテナとの距離に応じて一定の割合で変化しているか否かを判定する(ステップS102)。すなわち、主制御部50は、一定の割合で変化とみなされるか否かの基準として予め定められている伝搬時間の変化に関する許容範囲(規定範囲)と比較して、測定された伝搬時間が当該許容範囲内であれば一定の割合で変化していると判定する。なお、上記のような許容範囲については、求めようとする土壌比誘電率の精度や地中の対象物(空洞)が均一の程度、あるいは地中レーダー装置100の分解能等に応じて適宜定められる。
【0041】
ステップS102において、一定の割合で変化していると判定される(ステップS102:Yes)と、次に、主制御部50は、
図5(B)に例示した第2パターン測定を行い(ステップS103)、送信アンテナTxから等しい距離でかつ異なる2つの位置にある受信アンテナRxの間での伝搬時間の差の有無について判定する(ステップS104)。すなわち、主制御部50は、伝搬時間の差が無いとみなされるか否かの基準として予め定められている伝搬時間の差に関する許容範囲と比較して、測定された伝搬時間の差が当該許容範囲内であれば伝搬時間に差が無いと判定する。
【0042】
ステップS104において、伝搬時間に差が無いと判定される(ステップS104:Yes)と、次に、主制御部50は、
図5(C)に例示した第3パターン測定を行い(ステップS105)、隣り合うもの同士のアンテナ間での伝搬時間の差の有無について判定する(ステップS106)。すなわち、主制御部50は、伝搬時間の差が無いとみなされるか否かの基準として予め定められている伝搬時間の差に関する許容範囲と比較して、測定された伝搬時間の差が当該許容範囲内であれば伝搬時間に差が無いと判定する。
【0043】
ステップS106において、伝搬時間に差が無いと判定される(ステップS106:Yes)と、主制御部50は、対象物(空洞)の広がりが均一、かつ、土壌均一であると推定される旨の判定をする(ステップS107)。すなわち、主制御部50は、上記3つのパターン(第1~第3パターン測定)での測定結果がいずれも想定された許容範囲内であり、空洞CAが均一な広がりを有し、かつ、土壌SOにおける土壌比誘電率εrが一定である可能性が非常に高いと判定する。すなわち、空洞CAの深度が均一(一定)かつ土壌の比誘電率が均一(一定)であると推定する。
【0044】
ステップS107の判定処理がなされると、主制御部50は、
図6を参照して説明した計算方法に基づいて、土壌比誘電率ε
rや、対象物の深さ方向についての埋設深度を求めるための演算処理を行い(ステップS108)、一連の動作を終了する。
【0045】
一方、主制御部50は、上記3つのパターン(第1~第3パターン測定)での測定結果のうちいずれかにおいて、伝搬時間の度合や伝搬時間の差が、許容範囲を超えた場合に、地中の対象物OB(空洞CA)が均一な広がりを有しないか、または、土壌比誘電率εrが一定でないかのうち少なくとも一方を含む状態である、と推定する。すなわち、例示したフローチャートのうち、第1パターン測定についてのステップS102において、測定された伝搬時間の差の度合すなわち伝搬時間の変化の度合が、予め定められている許容範囲を超えていれば、一定の割合で変化していないと判定する(ステップS102:No)。同様に、第2パターン測定についてのステップS104において、測定された伝搬時間の差が、予め定められている許容範囲を超えていれば、伝搬時間に差があると判定し(ステップS104:No)、また、第3パターン測定についてのステップS106において、測定された伝搬時間の差が、予め定められている許容範囲を超えていれば、伝搬時間に差があると判定する(ステップS106:No)。これらの場合、主制御部50は、対象物OB(空洞CA)の広がりまたは土壌のうち少なくとも一方が不均一と推定し(ステップS109)、一連の動作を終了する。
【0046】
以上のように、本実施形態の地中レーダー装置100によれば、送信アンテナTxと受信アンテナRxとの相対的な位置を変更することで伝搬時間測定部51としての主制御部50によって取得された2つ以上の伝搬時間について、地中状態推定部52としての主制御部50において、これらの差分に基づいて地中における対象物OB(空洞CA)の状態を推定する。この場合、伝搬時間の差分に基づいて、例えば未知である地中の対象物が均一な広がりを有するかについて、あるいは、土壌の比誘電率が均一であるか否かについての推定が可能になる。
【0047】
〔第2実施形態〕
以下、
図8等を参照しつつ、本発明に係る一実施形態の地中レーダー装置について説明する。なお、本実施形態に係る地中レーダー装置は、第1実施形態の地中レーダー装置100の変形例であり、主制御部における制御内容を除いて同様であるので、全体の構成について図示を省略するとともに、共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0048】
本実施形態では、地中の対象物(空洞)の広がりまたは土壌のうち少なくとも一方が不均一と推定された場合について、さらに考察を行う点において、第1実施形態と異なっている。
【0049】
第1実施形態において、
図4を参照して説明したように、空洞等が均一である場合と不均一である場合、土壌が均一である場合と不均一である場合の4つの場合が想定される。すなわち、地中の対象物(空洞)の広がりまたは土壌のうち少なくとも一方が不均一と推定された場合とは、
図4(C)~4(E)についての3つのうちのいずれかの場合が想定される。地中の状態が未知の場合に、上記3つのうちのいずれであるかを推定することも重要となり得る。
【0050】
図8(A)~8(C)は、
図5(A)~5(C)に対応する図であり、本実施形態に係る地中レーダー装置において、第1実施形態の場合と同様の3つの測定方法(第1~第3パターン測定による測定方法)にて測定を行った場合において、地中の対象物が均一な広がりを有していないが、土壌の比誘電率は一定となっていた場合の様子を概念的に示す図である。すなわち、
図4に示した4つの場合のうち、
図4(C)となるような場合について示している。この場合、既述のように、伝搬時間の差の度合や伝搬時間の差が、予め定められている許容範囲を超えてしまうことになる。例えば、
図8(A)に示す場合、伝搬距離が、対象物が均一な広がりを有する場合よりも短くなると考えられる。その結果、予め定められている許容範囲から外れることになる。同様に、
図8(B)や8(C)に示す場合、場所によって一方と他方とで想定以上の伝搬距離の差が生じることになり、これが予め定められている許容範囲から外れた伝搬時間の差として測定されることになる。
【0051】
一方、土壌の比誘電率は一定でないために許容範囲から外れた値が測定される場合も想定される。
図9(A)及び9(B)は、
図5(A)及び5(B)あるいは
図8(A)及び8(B)に対応する図であり、本実施形態に係る地中レーダー装置による3つの測定方法(第1~第3パターン測定による測定方法)において、地中の対象物が均一な広がりを有しているが、土壌の比誘電率は一定でない場合の様子を概念的に示す図である。すなわち、
図4に示した4つの場合のうち、
図4(D)となるような場合について示している。ここでは特に、土壌の一部において比誘電率が一定でなく一部は一定である場合の様子を概念的に示している。より具体的には、
図9(A)及び9(B)の場合、アンテナAN1~AN3の直下の土壌SOaでは、土壌比誘電率が均一であるが、アンテナAN4,AN5の直下の土壌SObでは、土壌比誘電率が均一でない状態となっている。このような場合、例えば、
図9(A)のアンテナAN1~AN3を送信アンテナ及び受信アンテナとして取り扱った場合には、予め定められている許容範囲内での測定値が検出されるが、アンテナAN4,AN5を送信アンテナや受信アンテナに含んだ測定では、許容範囲から外れた値が検出されることになる。
【0052】
以上の
図8と
図9とで例示した場合も含め、地中の対象物が均一な広がりを有していないが、土壌の比誘電率は一定である場合と、地中の対象物が均一な広がりを有しているが、土壌の比誘電率は一定でない場合とでは、差異が生じる、すなわち測定によって異なる検出のされ方になる可能性がある。
【0053】
本実施形態では、このような点に着目して、地中の状態について推定を行っている。
【0054】
ここで、
図8に例示した、地中における対象物の広がりが均一でない(土壌は均一であるとする)場合の典型例としては、例えば地中に埋設した配管が線上に延びる場合において一部が陥没した結果、陥没した箇所の周辺において均一でない状態となっているといった場合が考えられる。このようなことが原因で、対象物の広がりが均一でなくなる場合、ある程度限定された箇所においては広がりが均一でない状態となっているが、その箇所から離れるにしたがって、徐々に広がりが均一になっていくと考えられる。すなわち、一部で許容範囲から外れた測定値が検出されるが、測定範囲を広げると徐々に許容範囲内となっていくような態様となる。また、そもそも空洞や配管といったものが対象物である場合、対象物の範囲がある程度限定されていると考えられる。例えば空洞や配管については、ある一定の範囲の外側には土壌のみが存在している状態となっていることが多いと考えられる。
【0055】
一方、
図9に例示した、土壌の状態が不均一すなわち土壌比誘電率が一定でないという場合については、その要因が例えば地層等元々の地質に依存するといったことが典型例として考えられ、このような場合、広範囲に亘って土壌比誘電率が一定でない状態が続くと考えられる。その一方で、
図9(A)等において示したような土壌の一部において比誘電率が一定でなく一部は一定であるといった場合が生じるのは、例えば地層(地質)の境目に達したといった場合であると考えられる。このような場合、例えば境目に沿って地中レーダー装置を移動させると、測定結果が維持されることになると予想される。
【0056】
ここでは、以上のようなことに着目した一例として、地中レーダー装置を移動させる範囲すなわち測定を行う範囲を予め規定し、規定範囲内での測定結果に基づいて地中の状態を推定する。
【0057】
以下、
図10のフローチャートを参照して、本実施形態に係る地中の状況の推定に関する動作の一例について説明する。
【0058】
まず、地中レーダー装置は、例えば上記した3つのパターンの測定(第1~第3パターン測定)を行い(ステップS201)、地中の対象物(空洞)が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定であるか否かの推定を行う(ステップS202)。ステップS202において、第1~第3パターン測定のいずれかについて、予め定められている許容範囲を超えていれば(ステップS202:No)、対象物(空洞)の広がりまたは土壌のうち少なくとも一方が不均一と推定する(ステップS203)。このように推定された場合、地中レーダー装置は、搬送部である移動体(例えば
図1に示す移動体200)によって所定の距離だけ移動する(ステップS204)。なお、移動の際、地中レーダー装置において、内部構造である送信アンテナと受信アンテナとの相対的配置関係は維持されつつ搬送される。移動した先において、地中レーダー装置は、再度3つのパターンの測定(第1~第3パターン測定)を行い(ステップS205)、規定範囲の移動がなされたかを確認する(ステップS206)。ステップS206において、規定範囲の移動に達成していないと判断されると(ステップS206:No)、地中レーダー装置は、再び移動の動作(ステップS204)と移動した先での再測定の動作(ステップS205)とを行い、規定範囲の移動を達成したと判断されるまで繰り返す。ステップS206において、規定範囲の移動及び再測定がなされたと判断されると(ステップS206:Yes)、地中レーダー装置は、それまでに集められた測定結果を解析し、地中の状況の推定を行う(ステップS207)。すなわち、得られたデータの特性から、上記したような特性の有無を解析し、地中の対象物が均一な広がりを有していないが、土壌の比誘電率は一定である場合であるか、地中の対象物が均一な広がりを有しているが、土壌の比誘電率は一定でない場合であるか、どちらにも合致しないかを推定(判定)し、一連の動作を終了する。以上の動作について見方を変えると、搬送部を利用した移動により、変更後の測定箇所における伝搬時間の測定結果を、変更前の測定箇所における伝搬時間の測定結果と比較して、比較した結果に基づいて、地中の対象物が均一な広がりを有しない状態であるのか、土壌比誘電率が一定でない状態であるのか、あるいは、両方の状態を含む可能性があるかを推定している。
【0059】
なお、ステップS202において、地中の対象物(空洞)が均一な広がりを有し、かつ、土壌比誘電率が一定であると推定された場合(ステップS202:Yes)、第1実施形態の場合と同様に、土壌比誘電率εrや、対象物の深さ方向についての埋設深度を求めるための演算処理を行い(ステップS208)、一連の動作を終了する。
【0060】
本実施形態においても、取得された2つ以上の伝搬時間について、これらの差分に基づいて地中における対象物(空洞)の状態を推定できる。また、本実施形態の場合、地中の対象物(空洞)の広がりまたは土壌のうち少なくとも一方が不均一と推定された場合について、さらに考察(推定)を行うことが可能になる。
【0061】
〔その他〕
以上の各実施形態で説明された構造、形状、大きさ及び配置関係については、本発明を理解及び実施できる程度に概略的に示したものに過ぎない。したがたって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0062】
例えば上記では、アンテナ装置10において、5つのアンテナ部(第1~第5アンテナAN1~AN5)を用いるものとしているが、これに限らず、
図11(A)~11(C)に例示するように、3つのアンテナ部(第1~第3アンテナAN1~AN3)で構成し、これらの組み合わせを切り替えることで2つ以上の伝搬時間を取得可能とし、所望の測定を行うことも考えられる。なお、
図11(A)~11(C)は、
図5(A)~5(C)に対応する図である。また、5つ以上のアンテナ部を用いるものとしてもよい。あるいは、
図12(A)及び12(B)に示すように、複数のアンテナ部を設置する箇所を定める固定部FIを3つ以上(図示の例では5つ)用意し、必要に応じて必要な位置にある固定部FIに、送信アンテナTxあるいは受信アンテナRxをそれぞれ設置し、適宜入れ替えをすることで、測定を行うものとしてもよい。さらに、上記では、複数のアンテナ部を一列に等間隔に配列するとしているが、例えば各アンテナ間の距離が既知であることで、必要な測定が可能な状態が維持できれば、アンテナ間の距離が異なっていてもよい。また、
図12(C)に示すように、複数のアンテナ部を一列ではなく2次元的(マトリクス状)に配置してもよい。図示の例では、3×3の9つのアンテナAN1a~AN3cを設けて、対象物に対して面状に対面するように構成している。この場合、例えば、図示のように、送信アンテナと受信アンテナとを斜めの方向となるような位置関係で配置して測定することができる。
【0063】
また、地中レーダー装置の構成についても、
図2のブロック図に示した例のほか、例えば
図13に示すように、一対の送信アンテナTx及び受信アンテナRxで構成されるアンテナ本体10Aを、アンテナ制御部20とともに有するレーダー装置LPを複数用意し、これらの間について同期をとりつつスイッチ回路SWにより送信アンテナTxを駆動させるものと受信アンテナRxを駆動させることで、上記の場合と同様の機能をもたせるものとしてもよい。
【0064】
また、例えば、上記実施形態では、移動体200が駆動機構102を有するとしたが、移動体200は、ユーザーが手動で移動させるものであってもよい。
【符号の説明】
【0065】
AN1-AN5…アンテナ、BS…表面、CA…空洞、Dn…伝搬距離、FI…固定部、GDi…部分画像、LP…レーダー装置、ME…記憶部、MP1-MP3…パターン測定プログラム、OB…対象物、Rx…受信アンテナ、S1…送信波、S2…応答波、SO,SOa,SOb…土壌、SS…地上面、SSi…部分画像、SW…スイッチ回路、T0…搬送時間、Tx…送信アンテナ、V…伝搬速度、XA,XB,Xn…距離、tA,tB,tn…搬送時間、εr…土壌比誘電率、10…アンテナ装置、10A…アンテナ本体、20…アンテナ制御部、21…アンテナ制御回路、22a…送信部、22b…受信部、50…主制御部、51…伝搬時間測定部、52…地中状態推定部、53…土壌比誘電率演算部、100…地中レーダー装置、100A…本体部分、101…車輪、102…駆動機構、200…移動体