(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】ナノ構造化層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20220531BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220531BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220531BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220531BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20220531BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220531BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20220531BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220531BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220531BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220531BHJP
H01M 4/139 20100101ALN20220531BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
B82Y30/00
B82Y40/00
C23C14/06 K
H01G11/86
H01M4/48
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2017564079
(86)(22)【出願日】2016-04-27
(86)【国際出願番号】 DE2016000176
(87)【国際公開番号】W WO2016198033
(87)【国際公開日】2016-12-15
【審査請求日】2019-04-23
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】102015007291.9
(32)【優先日】2015-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ビュンティング・アイコ
(72)【発明者】
【氏名】ウーレンブルック・スヴェン
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103579623(CN,A)
【文献】C.L.LIAO et al.,”Preparation of RF-sputtered lithium cobalt oxide nanorods by using porous anodic alumina(PAA) template”,Journal of Alloys and Compounds,NL,Elsevier B.V.,2004.4.1,Vol.414 No.1-2,page.302-309,ISSN:0925-8388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/04
H01M4/139
H01M4/48-4/525
H01M4/58-4/587
C23C14/06-14/08
H01G11/84-11/86
B82Y30/00-40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-
電極材料と0.1~25重量%の間の追加的な割合の炭素とを含むセラミックターゲットを用いたマグネトロンスパッタリングにより、活性材料が導電性基板上に施され、かつ
- 上記活性材料が1つのプロセスステップ
である上記マグネトロンスパッタリングによって上記導電性基板上に堆積される、電気化学セル用ナノ構造化電極の製造方法において、
- 堆積中の基板が400℃~1200℃の間の温度に保たれること、および堆積中に繊維状で多孔質の網状組織が形成されること、
を特徴とする、方法。
【請求項2】
活性材料として、LiFePO
4、Li
4Ti
5O
12、LiM
xO
2型(式中、M=Co、Ni、Mn、Al)のリチウム金属酸化物、スピネル型LiMn
2O
4および部分置換されたもの、LiMPO
4型(式中、
M=Fe、Mn、Co、V)のリチウム金属リン酸塩および部分置換されたもの、V
2O
5、また
はFeF
3が用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ターゲット中の炭素の追加的な割合が2~7重量%の間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
動作ガスとして、アルゴン、アルゴン/酸素、アルゴン/窒素、アルゴン/水素、またはアルゴン/炭化水素が用いられる、請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
プロセスチャンバー内で、0.5~2W/cm
2の電力密度、とりわけ1.0~1.5W/cm
2の電力密度が調整される、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
プロセスチャンバー内で、5~50sccmのガス流量、とりわけ10~25sccmのガス流量が調整される、請求項1~5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
プロセスチャンバー内で、0.1~1mg・h/cm
2の堆積率、とりわけ0.2~0.5mg・h/cm
2の堆積率が調整される、請求項1~6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
10分~10時間の間、とりわけ1~5時間の間の堆積時間が調整される、請求項1~7のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池およびそのほかの電気化学セル内で使用可能なナノ構造化層、とりわけナノ構造化電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ構造化材料は、一般的にナノ粒子から構成されている。これらのナノ粒子は、典型的には数百の原子または分子を含み、これらの原子または分子は離散単位を形成している。ナノ粒子は、少なくとも1つの次元に沿った大きさがナノメートル範囲または100nm未満である。ナノ構造化材料は、例えばマイクロメートル範囲の明らかにより大きな寸法での同じ化合物の特性と比べて、しばしば変化した特性を示す。とりわけ、ナノ構造化材料は表面積対体積比が大きい。ナノ構造化材料のさらなる特徴的な特性は、高い機械的安定性および体積変化に対する許容範囲である。
【0003】
なかでも前述の理由からナノ構造化材料は、特に電池内の電極としての使用に適している。表面積対体積比が大きいことにより、電解質と電極との間の接触面積が増大し、かつ材料中にイオンを輸送するための道程が短くなっていることが有利である。これによりナノ構造化電極材料は必然的に、より高い性能を達成することができ、分極損失を低減させることができる。さらにナノ構造化電極は、イオンの吸蔵およびそれに伴う不利な体積変化に対して高い安定性を有しており、したがって電池の寿命を延ばすことができる
【0004】
ナノ構造化層またはコーティングのためのこれまで最もよく使われている製造法は、湿式化学的方法に基づいている。これに属するのは、とりわけハイドロ/ソルボサーマル合成、ゾル-ゲルプロセス、マイクロエマルジョン合成、またはさらに電気化学的堆積である。
【0005】
これらの方法では決まって、ナノ材料として製造した活性材料と、導電性添加物と、バインダーとを含有するコーティング組成物またはコーティング分散液を、集電体としての導電性フィルム上にコーティングする。相応の分散液を製造する際には、水も有機溶剤も用いられ得る。
【0006】
しかしながらコーティング懸濁液の粘性が、例えば完全には適していない懸濁液組成により、数時間の間に変化し得ることが欠点である。例えば懸濁液の成分間で化学反応する可能性がある。これに加え、電極の製造に適したこれまで公知の有機溶剤の一部は有毒と分類されるという欠点がある。
【0007】
ハイドロ/ソルボサーマル合成、ゾル-ゲルプロセス、またはさらに電気化学的堆積により、直接的に、「自立性」構造、詳しくはバインダーを含まない構造を製造することもできる。
【0008】
しかし本発明の枠内で湿式化学的方法とは、さらなる意味では前述の方法によって最初に粉末が製造される方法でもある。これらの粉末はその後、例えば流し込み法または印刷法のような粉末技術的な方法により、とりわけ補助剤、例えば液体、特に溶剤、バインダー、分散剤、界面活性剤(Oberflaechenentspannern)、または消泡剤も利用して、層へと加工される。粉末と、その後の加工のためのこのような補助物質とから成る混合物はスラリーとも言う。
【0009】
上で挙げた方法によってもナノ構造化材料を生成することはできる。欠点は、これらの生成されたナノ構造化材料が独立しており、つまり既に導電性基板上に配置されてはいないことである。したがって必然的に第2のプロセスステップにおいて、事前に製造したナノ構造化活性材料と、導電性添加物と、バインダーとから成る電極スラリーを製造し、かつ導電性フィルムまたは導電性基板上に施さなければならない。
【0010】
この場合、ナノ粒子が凝集する可能性があり、これによりナノ粒子の特徴的な特性がしばしば失われることが欠点である。さらに、電極スラリーはバインダーを、および一般的には追加的な導電性炭素も含有しており、それにより、このように製造した電極を用いた電池の比エネルギーが一般的に低下するという欠点がある。
【0011】
つまり、さらなる意味での湿式化学的手法によるコーティングとしてのナノ構造化材料の製造は、一般的に複数のプロセスステップを経て行われる。この場合、および気相からの化学的堆積の場合、一部では、有毒な出発物質、分散剤、バインダー、または溶剤を使用する。さらにこれらの方法の一部では、マスクまたは型板、いわゆる「テンプレート」、および触媒を必要とする。
【0012】
電気エネルギー貯蔵器用ナノ構造化電極を製造するための、特殊な溶剤および/または分散剤を使用するこのようなコーティング法は、例えばDE102009034799A1(特許文献1)から公知である。
【0013】
最新の動向が示すのは、自立性技術により、詳しくはつまり添加物およびバインダーなしで製造されたナノ構造化電極が、湿式化学的に製造された電極に比べて、とりわけその表面性質および改善された電子輸送特性に関し何倍もの利点を有するということである。B.L.Ellis、P.Knauth、T.Djenizian、Three-dimensional self-supported metal oxides for advanced energy storage、Advanced Materials 2014、26(21)、3368~3397(非特許文献1)では、エネルギー貯蔵用の電極および電解質材料としての、3D自立性ナノ構造化酸化物の役割についての概要が示されている。これに関し自立性電極とは、電気活性材料が直接的に導電性基板上で成長することであり、これにより、比較的大きな電極では電極スラリー中にしばしば見られるような添加剤およびバインダーを回避できる。
【0014】
さらに、多種多様なコーティングを堆積するための製造法として、一般的には比較的密なコーティングを支持体上に施し得るマグネトロンスパッタリングが公知である。スパッタリング(陰極スパッタリングとも言う)では、高エネルギーのイオン(主として希ガスイオン)による衝撃により、固体(いわゆるターゲット)から原子、イオン、またはクラスターが弾き出されて気相に移行し、これらが続いてコーティングすべき基板の表面に堆積する。このような製造方法は、「Magnetron sputtering:a review of recent developments and applications」、P.J.Kelly、R.D.Arnell、Vacuum、Volume 56、Issue 3、2000年3月、159~172頁(非特許文献2)から公知であるように、密な、硬質の、摩耗しにくい、摩擦の少ない、腐食しにくい、もしくは装飾的なコーティングまたは特殊な光学的もしくは電気的な特性をもつコーティングのためにしばしば適用される。
【0015】
マグネトロンスパッタリングによって堆積される層の構造は、とりわけプロセスパラメータの温度および圧力に依存している。金属の例に関しては、スパッタリングの際、一般的には温度が高くなるにつれてより密な層が形成されることが示され得た。
【0016】
この方法を説明するために、
図1に示し、「Influence of substrate temperature and deposition rate on structure of thick sputterd Cu coatings」Thornton,J.A.、Journal of Vacuum Science & Technology、1975、12(4):830~835頁(非特許文献3)から読み取れる、いわゆる構造ゾーンモデルが開発された。
【0017】
さらに、「Thin film microstructure control using glancing angle deposition by sputtering」、J.C.Sit、D.Vick、K.Robbie、M.J.Brett、Journal of Materials Research 14(04)、1197~1199(非特許文献4)からは、規定通りにナノ構造化されたコーティングを、スパッタリング法によっても生成し得ることが公知である。この場合、材料源の出発材料が、スパッタプロセス、熱による蒸発、またはレーザ照射によって気相に移行する。ただし、規定通りにナノ構造化されたコーティングを生成するには、特別な実験構成が必要であり、この実験構成では、基板が出発材料源の向かい側で、スパッタリングされる基板の入射角度について角度αで(傾斜して)配置されており、このαは典型的には80°を超えさえする。同時に堆積中の基板自体を、ステッピングモータにより、基板表面に対して垂直な軸の周りで回転させることができる。したがって柱の形態での材料の堆積は、斜めの/かすめるような入射で行われる。
【0018】
この方法は「視射角堆積」(GLAD)の概念でも公知である。その場合、入射角度αが、柱形の堆積物の隙間、したがって堆積されたフィルムの多孔度に決定的に影響を及ぼす。したがって多孔質で、制御通りにマイクロ構造化されたフィルムを得るには、スパッタされる材料に対し、非常に狭い角度分布を調整できる必要がある。これまで得られた構造は、例えばジグザグ形の、螺旋形(ヘリックス形)にねじれた、または柱形のマイクロ構造を有している。
【0019】
斜めに入射する物理気相堆積を用いたナノ構造化材料のこれまでの製造での欠点は、一般的には堆積率の損失を伴う非常に複雑な実験構成である。これに加え、コーティングは面積の小さな領域に制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【非特許文献】
【0021】
【文献】B.L.Ellis、P.Knauth、T.Djenizian、Three-dimensional self-supported metal oxides for advanced energy storage、Advanced Materials 2014、26(21)、3368~3397
【文献】「Magnetron sputtering:a review of recent developments and applications」、P.J.Kelly、R.D.Arnell、Vacuum、Volume 56、Issue 3、2000年3月、159~172頁
【文献】「Influence of substrate temperature and deposition rate on structure of thick sputterd Cu coatings」Thornton,J.A.、Journal of Vacuum Science & Technology、1975、12(4):830~835頁
【文献】「Thin film microstructure control using glancing angle deposition by sputtering」、J.C.Sit、D.Vick、K.Robbie、M.J.Brett、Journal of Materials Research 14(04)、1197~1199頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の課題は、電気エネルギー貯蔵器用の、とりわけリチウムイオンセル用のナノ構造化電極の、従来技術から公知の欠点を克服する製造方法を提供することである。本発明の課題はとりわけ、そのようなナノ構造化電極を好ましくは唯一のプロセスステップにおいて生成および提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のこの課題は意外にも、請求項1の特徴に基づき、セラミックターゲットを用い、マグネトロンスパッタリング設備による物理気相堆積を用いてナノ構造化電極の製造を行うことによって解決される。特徴的な特徴を有するナノ構造化電極は、そのほかの独立請求項から明らかである。
【0024】
製造方法およびナノ構造化電極の有利な形態は、それに関連する従属請求項において見いだされる。
【0025】
発明の対象
ナノ構造化材料のための本発明による製造方法はその非常に幅広い適用可能性において、マグネトロンスパッタリング法を用い、少なくとも1種のコーティング材料で支持体(基板)をコーティングする。
【0026】
本発明の枠内では、公知のスパッタリング法およびとりわけ「視射角堆積」(GLAD)法とは異なり、表面に対して垂直な優先方向をもつ通常のコラム形構造、つまり柱形構造を有するナノ構造化層ではなく、特別な優先方向のない、ナノ構造化された、繊維状の、細かく枝分かれした網状組織(網状ナノ構造化)を生成可能なナノ構造化層を、特定の前提条件下で、マグネトロンスパッタリングを用いて堆積できることが発見された。これにより、そうでなければしばしば発生する、堆積した材料の凝集を阻止できることが有利である。
【0027】
活性材料の本発明によるナノ構造化は、決まって繊維状でナノスケールの網構造を有している。
【0028】
活性材料自体の多孔度は、20~90%の間であることが好ましい。
【0029】
網状ナノ構造化の本発明による生成には、プロセス電力、プロセスガス、プロセス圧力、およびガス流量のようなスパッタリング法のための通常のプロセスパラメータのほかに、本発明に従い基板温度を的確に調整することが基本的に必要である。これに関しては、堆積中の基板温度を十分に高く、詳しくは400℃超、好ましくはそれどころか500℃超に調整することがとりわけ重要である。
【0030】
本発明による製造方法は、特別な一形態では、マグネトロンスパッタリング法を用い、導電性の支持体(基板)を少なくとも1種の活性材料でコーティングする。この施された層はその後、例えば電気化学セル内の電極機能層の機能を担うことができる。
【0031】
スパッタリング法とは、本発明の枠内ではとりわけ陰極スパッタリングのことであり、陰極スパッタリングでは、物理的工程において、高エネルギーのイオン(主として希ガスイオン)による衝撃により、固体(ターゲット)から原子、イオン、またはクラスターが弾き出されて気相に移行する。
【0032】
スパッタリング堆積とは、本発明の枠内では物理気相堆積法(英語:physical vapour deposition=PVD)の群に属するコーティングまたはコーティング工程のことである。この場合、スパッタリング法により、最初にターゲットから材料がスパッタされて気相に移行し、この気相が続いて基板上に付着して固体層を形成する。コーティング技術の分野では、スパッタリング堆積をしばしば「スパッタリング」とのみ言う。
【0033】
方法の形態に応じ、ターゲット材料のスパッタリングは、原子、イオン、もしくはさらにより大きなクラスターで行われ、またはさらに相応の配分ですべての3つの形態で行われる。スパッタされた材料は、弾道状に、または荷電粒子の場合は電界によって誘導されて、スパッタリングチャンバーを横切って移動し、その際、コーティングすべき部分(基板)に当たり、そこでは基板表面に層が形成される。
【0034】
スパッタリングに必要なイオンは、一般的には電界による衝突イオン化工程によって生成される。一定の電界およびその結果として生じる直流を用いるスパッタリング法(「DCスパッタリング」)により、一般的にはほぼすべての金属、半金属、およびさらに炭素を非常に純粋な形態で堆積することができる。この方法中に酸素、窒素、または炭化水素のような反応性ガスを追加的にさらに供給すれば、対応する酸化物、窒化物、または炭化物を堆積することもできる。
【0035】
さらに、非導電性のセラミック材料を堆積することができる。この場合は基本的に、ターゲットの帯電を回避するため、高周波交流電圧およびその結果として生じる交流電流でプロセスを進める必要がある(「RFスパッタリング」)。その代わりに、(バイポーラ)電圧パルス(つまり、ガスイオン化、電流導電、およびスパッタリング堆積のための電気パルス、場合によってはそれに続いてターゲット表面を放電するためのさらなる電圧パルス)を使用することもできる(「パルススパッタリング」)。
【0036】
前述のスパッタリング法により、主として数ナノメートル~数マイクロメートルまでの、例えば50nm~100μmの範囲内の薄い層を基板上に堆積することができる。密な層の場合、層厚が増すにつれて必然的に層内の残留応力が増していく。これは、施された層をしばしば基板から剥がし(層間剥離)、かつなぜ一般的にスパッタリング法では任意の厚さの層を製造できないのかの理由の一つである。
【0037】
本発明の枠内で活性材料とは、一般的には、電気化学セル内で荷電粒子の可逆性の吸蔵および放出を可能にする材料のことである。
【0038】
リチウムイオンセルの場合、荷電粒子は一般的にリチウムイオンである。吸蔵工程および放出工程は、充電または放電の際にそれぞれカソードおよびアノードで行われる。アノードおよびカソードの製造には一般的にそれぞれ様々な活性材料が使用される。
【0039】
したがって本発明による方法では、好ましくは下記を含む群から選択される活性材料(カソードまたはアノード材料)から成るターゲットが用いられる。
- グラファイト
- 無定形炭素(例えばハードカーボン、ソフトカーボン)
- リチウム貯蔵金属、リチウム貯蔵半金属、およびリチウム貯蔵合金(半導体を含む)(例えば、ナノ結晶ケイ素またはアモルファスケイ素およびケイ素-炭素複合体、Sn、Al、Sb)
- Li4Ti5O12、またはこれらの材料と、さらなる活性材料またはLiイオン伝導体もしくは電子伝導体との混合物
- LiMxO2型(式中、M=Co、Ni、Mn、Al)のリチウム金属酸化物
(例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiNi1-xCoxO2、LiNi0.85Co0.1Al0.05O2、Li1+x(NiyCo1-2yMny)1-xO2(式中、とりわけ0≦x≦0.17および0≦y≦0.5))
- スピネル型LiMn2O4および別のイオンで部分置換されたもの
- 場合によっては炭素も添加されたLiMPO4型(式中、M=Fe、Mn、Co、V)のリチウム金属リン酸塩(例えば、LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、LiVPO4)および別のイオンで部分置換されたもの、ならびに
- 変換材料、例えばフッ化鉄(III)(FeF3)、または
- V2O5
【0040】
本発明による施し方法に特に適しているのは、とりわけ、電気化学プロセスの吸蔵または放出中の体積変動が大きい材料である。
【0041】
これに加え、本発明の枠内では活性材料として、これら前述の材料の混合物も適している。とりわけ、炭素(ソフト/ハードカーボン)と混合したセラミックターゲットが、ナノ構造化層の製造に適している。これに関しソフトカーボンとは、3200℃までの高温でグラファイトに変換される非グラファイト炭素のことである。ハードカーボンとは、従来技術で実現される温度ではグラファイトに変換されない非グラファイト炭素のことである。リチウム金属リン酸塩のための置換元素としては、例えばマグネシウムもしくはニオブまたはそのイオンが考慮される。
【0042】
その際、導電性基板としては、機械的に安定しており、かつ熱的に少なくとも400℃、好ましくは500℃の温度まで安定しているすべての一般に使われる電極基板が適している。これに関しては、なかでも選択される堆積温度も重要である。
【0043】
これまで公知の湿式化学的方法の場合とは違い、電極用の活性材料を、予め粒子寸法がマイクロメートル、サブマイクロメートル、またはナノメートル範囲の粉末(「マイクロ粉末またはナノ粉末」)として提供する必要はなく、本発明による製造方法の枠内ではスパッタリングプロセスにより、ターゲットから直接的に基板表面にナノ粒子の形態で堆積することができる。マスクの施しのようなそのほかの前処理も必要ない。
【0044】
これにより唯一の作業ステップだけで、所望の多孔質で網状にナノ構造化された層を生成できることが有利であり、この層はその後、電極機能層の機能を担うことができる。例えばマスクの除去、結晶化ステップ、もしくは乾燥、またはプレースホルダーの焼払いのようなさらなる後処理も、本発明による方法では規定されていない。
【0045】
これまで公知のGLAD法の場合とは違い、本発明によれば、基板を出発材料源(ターゲット)の向かい側で、スパッタリングされる基板の入射角度について角度αで(傾斜して)配置しなければならない必要もない。これにより、複雑な製造構成をなくせることが有利である。
【0046】
本発明による方法では、マグネトロンスパッタリングの際のプロセスパラメータがある特定の範囲内に保たれることが望ましい。これに属するのは例えば以下のことである。
プロセス圧力範囲: 1・10-3mbar~5・10-2mbar
プロセス電力: 0.5~4W/cm2、とりわけ1.0~3W/cm2
プロセスガス: とりわけアルゴン、しかしさらにアルゴン/酸素、アルゴン/窒素、アルゴン/水素、またはアルゴン/炭化水素
ガス流量: 5~140sccm、とりわけ10~50sccm
堆積率: 0.05~10mg・h/cm2、とりわけ0.2~0.5mg h/cm2
層厚範囲: 50nm~100μm
【0047】
プロセス圧力を高く調整しすぎると、決まってナノスケールの繊維構造は得られなくなり、平らな薄い層が得られる。圧力が低すぎると逆に挙動する。プラズマが安定でなくなり、崩壊し得る。
【0048】
プロセス電力は堆積率に線形に影響を及ぼし、つまりプロセス電力が高ければ高いほど堆積率が高い。よってできるだけ高い電力が望ましい。ただし電力が高すぎるとターゲットが破壊され得る。
【0049】
アルゴンを使用すると堆積時に反応が起こらず、理想的な場合には出発材料が変化せずに堆積される。反応性ガスを使用すると反応が生じ、よって堆積した材料の組成が変化する。
【0050】
ガス流量は副次的な役割しか果たさない。しかしながらガス流量は、使用するスパッタリングチャンバー内で所望のプロセス圧力が達成され得るよう十分に大きく調整されることが望ましい。
【0051】
この場合に比較的高い堆積率が得られ、この堆積率も、網状ナノ構造の形成にとって決定的であるかもしれない。
【0052】
堆積する層の層厚は、典型的には50nm~100μmの範囲内であった。その際、堆積時間は10分~10時間の間、とりわけ1~5時間の間でばらつきがある。
【0053】
ただし、堆積した材料が網状の多孔質のナノ構造化を形成するために不可欠なのは以下のことである。
基板の温度範囲: 400℃、好ましくは500℃~1200℃
ターゲットの炭素含有率: 0.1~25重量%、とりわけ2~7重量%
【0054】
本発明は、活性材料を導電性基板上に施す、電気化学セル用ナノ構造化電極の製造方法において、活性材料はマグネトロンスパッタリングを用いた1つのプロセスステップにおいて導電性基板上に堆積され、カソード材料と追加的な割合の炭素とを含むセラミックターゲットが用いられ、かつその際、堆積中の基板は400℃~1200℃の間の温度に保たれる、方法に関する。
【0055】
この方法では、活性材料として、とりわけLiFePO4、Li4Ti5O12、LiMxO2型(式中、M=Co、Ni、Mn、Al)のリチウム金属酸化物、スピネル型LiMn2O4および部分置換されたもの、LiMPO4型(式中、M=Fe、Mn、Co、V)のリチウム金属リン酸塩および部分置換されたもの、V2O5、または変換材料、例えばFeF3が用いられる。
【0056】
この方法では、ターゲット中の炭素の追加的な割合が、0.1~25重量%の間、とりわけ2~7重量%の間で選択されることが好ましい。
【0057】
この方法では、動作ガスとして、アルゴン、アルゴン/酸素、アルゴン/窒素、アルゴン/水素、またはアルゴン/炭化水素が用いられることが好ましい。
【0058】
この方法では、プロセスチャンバー内で、0.5~2W/cm2の電力密度、とりわけ1.0~1.5W/cm2の電力密度が調整されることが好ましい。
【0059】
この方法では、プロセスチャンバー内で、5~50sccmのガス流量、とりわけ10~25sccmのガス流量が調整されることが好ましい。
【0060】
この方法では、0.1~1mg・h/cm2の堆積率、とりわけ0.2~0.5mg・h/cm2の堆積率が調整されることが好ましい。
【0061】
この方法では、10分~10時間の間、とりわけ1~5時間の間で堆積が行われる。
【0062】
加えて本発明は、導電性基板上の活性材料から成るコーティングを含む、電気化学セル用ナノ構造化電極において、ナノ構造化活性材料が、基板表面に対して垂直な優先方向をもたない多孔質の構造を有している、ナノ構造化電極に関する。
【0063】
好ましくは、電極のナノ構造化活性材料は、繊維状の構造を有し、繊維の直径は、10~500nmの範囲内、とりわけ10~200nmの間の範囲内である。
【0064】
活性材料として好ましくはLiFePO4、Li4Ti5O12、LiMxO2型(式中、M=Ni、Co、Mn、Al)のリチウム金属酸化物、スピネル型LiMn2O4および部分置換されたもの、LiMPO4型(式中、M=Fe、Mn、Co、V)のリチウム金属リン酸塩および部分置換されたもの、V2O5、または変換材料、例えばFeF3を含むナノ構造化電極。
【0065】
ナノ構造化電極では、活性材料が20~90%の間の多孔度を有することが好ましい。
【0066】
ナノ構造化電極を前述の方法に基づいて製造し得ることが有利である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図2】ケイ素支持体上の密なTiN層およびLiFePO
4層を示す。
【
図3】室温でのLiFePO
4+C層のマグネトロンスパッタリングによる堆積(左)、および600℃の上昇させた温度での堆積(右)を示す。
【
図4】平滑な基板上に堆積された本発明による多孔質層(左)、および少し粗めの基板上での、詳しくは研磨されず表面がマットな基板上での堆積では、網目状の結合がより少ない多孔質の網状組織が形成されること(右)を示す。
【
図5】実施例1に基づく本発明により製造されたナノ構造化リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)電極の、金属リチウムアノードに対する電気化学的活性の測定曲線を示す。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明を実施例および図に基づいてより詳しく説明するが、これによって制限が生じることはない。
【0069】
マグネトロン陰極スパッタリング(マグネトロンスパッタリング)を用い、マスク/型板を使用せず、および触媒を使用せずに、ナノ構造化電極の製造を行う。このナノ構造化電極の製造では、有毒な出発材料も溶剤も必要ない。
【0070】
本発明の枠内では、本発明によるナノ構造化電極は、例えば電子顕微鏡によって解像可能で、寸法がナノメートル範囲で、特別な優先方向をもたない構造を有する電極として定義される。
【0071】
製造のための出発材料(ターゲット)を気相に移行させ、続いて有利には必要なプロセス条件下で所望のナノ構造化形態で凝結させる。ただしターゲット中に炭素が添加されている場合、炭素自体は一緒には堆積されないが、活性材料の堆積に構造に関して決定的に影響を及ぼすことが分かった。
【0072】
出発材料の堆積を集電体上に直接的に行えることが有利であり、これにより、電極スラリーを作製して集電体上に施すための追加的なプロセスステップが省略され、そのうえナノ構造化電極がバインダーを含有しない。
【0073】
一般的に、マグネトロンスパッタリングを用いて製造した層は非常に密であることを特徴とする。
【0074】
図2ではこれについて、例えばJ.A.Thornton「Influence of substrate temperature and deposition rate on structure of thick sputtered Cu coatings」、Journal of Vacuum Science & Technology、1975、12(4):830~835頁(非特許文献3)から公知であるような、マグネトロンスパッタリングを用いて施された、ケイ素支持体上の密なTiN層およびLiFePO
4層を示している。
【0075】
マグネトロンスパッタリングで多孔質の構造が生じる場合、それらの構造は一般的には低い温度で、詳しくは室温でまたは数百度までの温度でしか生じない。なぜならMahieu,S.ら、「Biaxial alignment in sputter deposited thin films」、Thin Solid Films、2006、515(4):1229~1249頁から公知であるように、ここでは表面拡散が弱いからである。温度が上昇すると拡散工程が強められてより密な形態になるので、層の多孔度は必然的に低下する。
【0076】
しかしながら本発明による方法では逆方向の挙動が存在する。室温でのLiFePO
4+C層のマグネトロンスパッタリングによる堆積では、層は細孔を有さない(
図3の左を参照)(Cは、ここではごく一般的に炭素を表す)。例えば600℃の上昇させた温度での堆積の場合に初めて層が多孔質になる(
図3の右を参照)。
【0077】
%単位の層の多孔度Pを下記のように定義することができる。
P=(1-ρ層/ρ理論密度)×100
【0078】
これにより、この場合には(
図3の右を参照)多孔度Pは約70%になる。したがって原理的には、密度が理論密度より小さくなれば層は多孔質である。
【0079】
これに関し、平滑な基板上に堆積された本発明による多孔質層は、非常に繊細で繊維状の網状組織によって構成される。この網状組織の個々の繊維の直径は、ナノスケール範囲、詳しくは10~200nmである(
図4の左を参照)。平滑な基板は、研磨されており、よって光沢のある(鏡のように滑らかな)表面が達成されていた。
【0080】
少し粗めの基板上での、詳しくは研磨されず表面がマットな基板上での堆積では、網目状の結合がより少ない多孔質の網状組織が形成される。この場合には、個々の繊維がほぼ垂直に上へと成長する。ここでは繊維は少し太くなっており、直径が10~約500nmの範囲内である(
図4の右を参照)。
【0081】
ここに示した繊維構造および繊維網状組織の生成が基板材料に左右されないことが有利である。
【0082】
同等の挙動、つまり上昇した温度で初めて多孔質構造が生じる挙動は、これまで金属(ニッケル、金、銀、アルミニウム、亜鉛)の堆積でしか観察されていなかった。これについては、A.F.JankowskiおよびJ.P.Hayes、Sputter deposition of a spongelike morphology in metal coatings、Journal of Vacuum Science & Technology A、2003、21(2):422~425頁ならびにR. Gaziaら、An easy method for the room-temperature growth of spongelike nanostructured Zn films as initial step for the fabrication of nanostructured ZnO、Thin Solid Films、2012、524(0):107~112頁も参照されたい。ある特定の圧力範囲内で、および金属の融解温度の約半分に相当する製造温度で、多孔質構造を観察することができる。非金属材料に関してはこの現象はこれまで公知ではない。
【0083】
その代わりに、マグネトロンスパッタリングを用い、視射角堆積法または斜角堆積法(OAD、GLAD)によってナノ構造を製造することができる(J.C.Sitら、Thin film microstructure control using glancing angle deposition by sputtering、Journal of Materials Research、1999、14(4):1197~1199頁(非特許文献4))。しかしこのためには特殊な構成が必要とされ、その構成により堆積率がより低くなる。さらにこの方法は、これまで限られた数の材料にしか実施されてこなかった(D.Manova、J.W.Gerlach、およびS.Mandl、Thin Film Deposition Using Energetic Ions、Materials、2010、3(8):4109~4141頁)。この方法の産業的な実施可能性が有意義に有り得るとは思われない。
【0084】
実施例1
本発明の基礎になっている方法により、リチウムイオン電池内のカソード材料として使用可能なナノ構造化リン酸鉄リチウム(LiFePO4)電極を、付加的な炭素を用いて製造することができる。出発材料として、追加的にグラファイト炭素7重量%を含有するLiFePO4ターゲットを使用した。ターゲットの直径は250mmであり、基板に対する間隔は55mmである。ナノ構造化電極を製造するため、600Wのプロセス電力を印加した。これは1.2W/cm2の電力密度に相当する。プロセスガスとしてアルゴンを用いた。ガラス流量は20sccm、プロセス圧力は5×10-3mbarであった。基板温度は600℃に調整した。これらの条件下で、0.3mg/(cm2・h)の堆積率が達成される。
【0085】
4時間の堆積時間後に結果として生じる、追加的な炭素を有さないLiFePO
4を含むナノ構造を、
図3右および
図3左に示している。基板としては、窒化チタンでコーティングし、熱酸化したケイ素ウエハを使用した。
【0086】
ナノ構造化電極材料の製造は、マグネトロン陰極スパッタリングを用いて行い、したがって基礎的な前提条件として、この方法を実施できるプロセスチャンバーが必要である。この方法では、出発材料がイオン衝撃によって最初に気相に移行し、続いて基板上で凝結する。イオンの生成はプロセスガスによって行われ、このガスが、印加される電圧によってイオン化される。基板は、堆積すべき電極材料を含有するターゲットに向かい合っている。ターゲットに対して基板を斜めに立てる必要はない。
【0087】
図5は、実施例1に基づく本発明により製造されたナノ構造化リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)電極の、金属リチウムアノードに対する電気化学的活性の測定曲線を示している。電解質として、炭酸エチレンおよび炭酸ジメチルから成る1:1混合物中に溶解したLiPF
6をベースとする液体電解質を使用した。製造したセルを、50μA/cm
2の電流で、2.8V~4.0Vの間の電圧範囲内で充電および放電した。測定曲線は、ナノ構造化LiFePO
4電極が、LiFePO
4の特徴的な充放電挙動を示すことを裏付けている。これは、充電および放電の際に、約3.4Vで電圧プラトーが形成されていることで認識できる。さらに、充電および放電の際に同等の容量が達成されることが分かり、これは高い可逆性に相当する。
【0088】
この例は、有利にはリチウムイオン電池用の電極材料として利用可能な非金属材料(LiFePO4)の場合に、網状で多孔質のナノ構造を生成できたことを示している。
【0089】
この方法をほかの非金属材料にも転用できれば、適用範囲を明らかに拡大できるであろう。
【0090】
ナノ構造化層として施すためのさらなる適切な材料として、すべてのカソード材料(例えばLiCoO2、LiMn2O4、V2O5、LiMPO4+C(式中、M=Ni、Co、Mn))およびアノード材料(C、Li4Ti5O12)が原理的には考慮される。ただし、とりわけリチウムの吸蔵および放出中の体積変動が大きい材料、例えばケイ素が前途有望である。
【0091】
しかし本発明による方法は、前述の電極製造の適用分野だけでなく、さらなる適用範囲、例えば断熱層、燃料電池、コンデンサー、光学フィルター、センサー、磁気メモリー、またはさらに触媒の製造でも関心を引くようになり得るであろう。
【0092】
まとめると、本発明によるナノ構造化の生成には、プロセスパラメータであるプロセス電力、プロセスガス、プロセス圧力、ガス流量、および基板温度を的確に調整することが基本的に必要と言える。これに関し、プロセス圧力が十分に小さい圧力(5×10-2mbar未満)に調整されることが有利である。不可欠なのは、十分に高く、とりわけ400~1200℃の間で調整される基板温度および炭素割合を有するセラミックターゲットの使用である。
【0093】
本発明の枠内で本発明により製造された電極に関して特別なことは、第一に電気化学的特性ではなく、電極が、単純なマグネトロンスパッタリング法を用いて1つのプロセスステップだけで製造し得る多孔質で網状のナノ構造化を有することである。これまでナノ構造はしばしば、例えばソルボサーマル合成、電着、または陽極酸化のように、溶剤をベースとする手法によって製造されている。これらの方法は一般的に複数のステップを必要とし、一部では有毒な溶剤/出発物質が用いられる。さらにこれらの方法では、乾燥ステップおよび一部では結晶化ステップも必要である。そのうえ一部では、所望の構造を得るためにマスクが用いられる。マスクの施しおよび除去は、費やされる時間をさらに増大させる。
【0094】
マグネトロンスパッタリングは、完成した電極層を1つのステップで製造できるという大きな利点を提供する。前処理(例えば触媒、マスクの施し)および後処理(例えばマスクの除去、結晶化ステップ、乾燥)は必要ない。さらに、電極を直接的に集電体上に堆積することができ、よってバインダーまたはさらなる導電性添加剤を必要としない。有毒な出発物質を必要とせず、かつマグネトロンスパッタリングは大きな基板にも適用可能である。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.活性材料を導電性基板上に施す、電気化学セル用ナノ構造化電極の製造方法において、 - 活性材料がマグネトロンスパッタリングを用いた1つのプロセスステップにおいて導電性基板上に堆積されること、
- 電極材料と0.1~25重量%の間の追加的な割合の炭素とを含むセラミックターゲットが用いられること、
- その際、堆積中の基板が400℃~1200℃の間の温度に保たれ、
- これにより繊維状で多孔質の網状組織が形成されること
を特徴とする、方法。
2.活性材料として、LiFePO
4
、Li
4
Ti
5
O
12
、LiM
x
O
2
型(式中、M=Co、Ni、Mn、Al)のリチウム金属酸化物、スピネル型LiMn
2
O
4
および部分置換されたもの、LiMPO
4
型(式中、Fe、Mn、Co、V)のリチウム金属リン酸塩および部分置換されたもの、V
2
O
5
、または変換材料、例えばFeF
3
が用いられる、上記1に記載の方法。
3.ターゲット中の炭素の追加的な割合が、0.1~25重量%の間、とりわけ2~7重量%の間である、上記1または2に記載の方法。
4.動作ガスとして、アルゴン、アルゴン/酸素、アルゴン/窒素、アルゴン/水素、またはアルゴン/炭化水素が用いられる、上記1~3のいずれか一つに記載の方法。
5.プロセスチャンバー内で、0.5~2W/cm
2
の電力密度、とりわけ1.0~1.5W/cm
2
の電力密度が調整された、上記1~4のいずれか一つに記載の方法。
6.プロセスチャンバー内で、5~50sccmのガス流量、とりわけ10~25sccmのガス流量が調整された、上記1~5のいずれか一つに記載の方法。
7.プロセスチャンバー内で、0.1~1mg・h/cm
2
の堆積率、とりわけ0.2~0.5mg・h/cm
2
の堆積率が調整された、上記1~6のいずれか一つに記載の方法。
8.10分~10時間の間、とりわけ1~5時間の間の堆積時間が行われた、上記1~7のいずれか一つに記載の方法。
9.導電性基板上の活性材料から成るコーティングを含む、電気化学セル用ナノ構造化電極において、
ナノ構造化活性材料が、基板表面に対して垂直な優先方向をもたない多孔質の構造を有することを特徴とする、ナノ構造化電極。
10.ナノ構造化活性材料が、繊維状の構造を有し、繊維の直径が、10~500nmの範囲内、とりわけ10~200nmの間の範囲内である、上記9に記載のナノ構造化電極。
11.活性材料LiFePO
4
、Li
4
Ti
5
O
12
、LiM
x
O
2
型(式中、M=Co、Ni、Mn、Al)のリチウム金属酸化物、スピネル型LiMn
2
O
4
および部分置換されたもの、LiMPO
4
型(式中、Fe、Mn、Co、V)のリチウム金属リン酸塩および部分置換されたもの、V
2
O
5
、または変換材料、例えばFeF
3
を活性材料として含む、上記9または10に記載のナノ構造化電極。
12.活性材料が20~90%の間の多孔度を有する、上記9~11のいずれか一つに記載のナノ構造化電極。
13.上記1~8のいずれか一つに記載の方法に基づいて製造された、上記9~12のいずれか一つに記載のナノ構造化電極。