(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造
(51)【国際特許分類】
E21F 17/12 20060101AFI20220531BHJP
E21D 9/12 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
E21F17/12
E21D9/12 B
(21)【出願番号】P 2018070547
(22)【出願日】2018-04-02
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594145297
【氏名又は名称】タグチ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【氏名又は名称】久保 司
(72)【発明者】
【氏名】高村 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】田中 義晴
(72)【発明者】
【氏名】黒木 章
(72)【発明者】
【氏名】三澤 孝史
(72)【発明者】
【氏名】稲留 康一
(72)【発明者】
【氏名】塚本 耕治
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-134030(JP,A)
【文献】特開平08-028135(JP,A)
【文献】特開2001-322594(JP,A)
【文献】特開2000-289689(JP,A)
【文献】特開2000-225993(JP,A)
【文献】特開2000-326892(JP,A)
【文献】実開昭58-127014(JP,U)
【文献】特開2008-057296(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105507789(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21F 1/00-17/18
E21D 1/00-9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
B65G 43/00-43/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端体のベルトによるものであり、往路ベルトはキャリヤローラの上を滑走し、また、復路ベルトはリターンローラにより誘導されるベルトコンベアの防音扉における貫通位置では、
往路ベルトと復路ベルトを支承する枠や台はこの部分では連続していないものとし、また、キャリヤローラやリターンローラを設けないで、往路ベルトと復路ベルトが離間する空間部を確保して他の位置よりも往復二枚のベルトが上下接近できる構造とし、また、防音扉のコンベア用開口にはスライド式子扉を設け、防音扉閉鎖時にはスライド式子扉によって前記二枚のベルトを上下方向に挟み込むことを特徴とした防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネル工事で掘削ずりの輸送方式としてベルトコンベアを用いる場合の、防音扉の密閉性を簡易に向上させることができる防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防音扉は、重く硬い材料で坑口を可能な限り塞ぐことで遮音性能を向上させるものである。
【0003】
そのため、下記特許文献に示すように、ベルトコンベア輸送ラインの貫通が必要なときは、ベルトコンベアを防音扉位置で不連続とし、ベルトコンベアに干渉なく防音扉が密閉できる構造が好まれていた。
【文献】特開2008-57296号公報
【文献】特開2014-134030号公報
【0004】
前記特許文献1は、
図6、
図7に示すように、コンベア用開口6に挿通されるベルトコンベア5の部分をコンベア用開口6から防音壁1の片側の壁面の外方に引き抜き自在な可動式ベルトコンベア51で構成し、可動式ベルトコンベア51を引き抜いた状態でコンベア用開口6を蓋部材7で閉塞自在とした。
【0005】
発破掘削を行う前に、可動式ベルトコンベア51をコンベア用開口6から引き抜いて、コンベア用開口6を蓋部材7で閉塞することができる。そのため、発破音がコンベア用開口6を介して伝播することを防止でき、防音壁による遮音性が確保される。
【0006】
前記特許文献2は、
図8、
図9に示すように、トンネルの防音構造10は、トンネル12の坑内又は坑口に設置される防音壁18と、防音壁18を通過するようにトンネル12の延長方向に沿って設置されるベルトコンベア16とを備え、ベルトコンベア16は、防音壁18の表側及び裏側にそれぞれ設けられる乗継部22a,22bと、各乗継部22a,22bの間に設けられ、防音壁18を通過して各乗継部22a,22bの間を連結する通過姿勢、及び防音壁18から退避して各乗継部22a,22bの間を切離す退避姿勢に変更可能な可動部24とを有する。
【0007】
特許文献2によれば、ベルトコンベア等の搬送機構による土砂等の搬出を行う場合には、可動部24を通過姿勢とすることで円滑な搬出作業が可能となる。
【0008】
一方、切羽で発破等の大きな騒音を発生させる作業を行う場合には、可動部24を退避姿勢とすることで防音壁18を確実に閉塞させ、トンネル12の外部への音漏れを防止することができる。
【0009】
また、前記可動部24の一端側は、一方の乗継部に対して回転可能に設けられると、可動部24の通過姿勢と退避姿勢の切換作業が容易となり、作業効率が一層向上する。
【0010】
前記防音壁18には、前記搬送機構の可動部を挿通可能な開口部と、該開口部を開閉する開閉扉とが設けられると、開閉扉のみを開閉して可動部の姿勢変更に対応することができる。また、防音壁の大部分を閉塞した状態のまま、可動部を通過させている開口部のみを開口させた状態で搬送機構を駆動して作業を行うことができるため、この作業時の騒音の音漏れも最小限に抑えることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記特許文献1および特許文献2のいずれもコスト高である。
【0012】
ところで防音扉には通行部をはじめその他も多くの隙間がある。これを踏まえると、ベルト貫通部だけのコストをかけた徹底閉塞の対策には疑問がある。
【0013】
また、既往の知見として、遮音性能は防音扉全体の抗口閉塞の程度(開口部の面積比率)と明瞭に関係しており、対策は一点集中よりも全体のバランスが要点といえて、それであればベルト貫通部の隙間をある程度狭い面積にすることができれば、それ以上の投資は通行部のがたつき改善など、他にまわすほうが費用対効果に優れるのではないかとの考察が得られている。
【0014】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、従来に比して密閉度を少し下げることで費用対効果を優れたものとしており、対策として採用し易いものとすることができる防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、無端体のベルトによるものであり、往路ベルトはキャリヤローラの上を滑走し、また、復路ベルトはリターンローラにより誘導されるベルトコンベアの防音扉における貫通位置では、往路ベルトと復路ベルトを支承する枠や台はこの部分では連続していないものとし、また、キャリヤローラやリターンローラを設けないで、往路ベルトと復路ベルトが離間する空間部を確保して他の位置よりも往復二枚のベルトが上下接近できる構造とし、また、防音扉のコンベア用開口にはスライド式子扉を設け、防音扉閉鎖時にはスライド式子扉によって前記二枚のベルトを上下方向に挟み込むことを要旨とするものである。
【0016】
請求項1記載の本発明によれば、防音がとくに必要な発破時にベルトコンベアが停止していることに着目し、ベルトコンベアの貫通位置では他の位置よりも往復二枚のベルトが上下接近した構造としたうえで、防音扉閉鎖時に上下から二枚のベルトを挟み込むスライド式扉によって、防音扉ベルトコンベア貫通部分の密閉性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように本発明の防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造は、従来に比して密閉度を少し下げることで費用対効果を優れたものとしており、対策として採用し易いものとすることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造の1実施形態を示す側面図である。
【
図2】本発明の防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造の1実施形態を示す正面図である。
【
図3】本発明の防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造の1実施形態を示す子扉閉状態の要部の側面図である。
【
図4】一層式6mm厚の扉模型の遮音性能(開口1孔)を示すグラフである。
【
図5】一層式12mm厚の扉模型の遮音性能(開口1孔)を示すグラフである。
【
図6】従来例を示すコンベア装置を設置したトンネルの縦断面図である。
【
図7】従来例を示すコンベア装置の可動式ベルトコンベアをコンベア用開口から引き抜いた状態のトンネルの縦断面図である。
【
図8】他の従来例を示す可動部を通過姿勢とした状態を示す説明図である。
【
図9】他の従来例を示す可動部を退避姿勢とした状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の防音扉のベルトコンベア貫通部分の密閉構造の1実施形態を示す側面図、
図2は同上正面図、
図3は子扉閉状態の要部の側面図である。
【0020】
図中3はトンネル2に設けた防音扉で、ベルトコンベア5が挿通されるコンベア用開口6を有する。
【0021】
ベルトコンベア5は周知のごとく、無端体(エンドレス)のベルト4によるものであり、往路ベルト4aはキャリヤローラ8の上を滑走し、また、復路ベルト4bはリターンローラ9により誘導される。
【0022】
ベルトコンベア5は、少なくとも前記防音扉3のコンベア用開口6における貫通部においては、往路ベルト4aと復路ベルト4bとが上下接近し、かつ、弾性変形によりさらに、近接できるような構造とする。
【0023】
すなわち、近接時のベルトの変形量を小さくするため扉が開位置のときの往復ベルト離隔は、通常よりも狭く設定されている。
【0024】
かかる構造は往路ベルト4aと復路ベルト4bを支承する枠や台はこの部分では連続していないものとし、また、キャリヤローラ8やリターンローラ9を設けないで、往路ベルト4aと復路ベルト4bが離間する空間部を確保し、さらに、必要に応じて、テンションプーリ(図示せず)を移動可能として往路ベルト4aと復路ベルト4bのテンションを緩めることができるようにした。
【0025】
一方、前記防音扉5のコンベア用開口6には防音扉5に設けたレール等によりガイドされてスライドするスライド式子扉11を上下に設け、防音扉5の閉鎖時には該スライド式子扉11によって前記二枚のベルト、往路ベルト4aと復路ベルト4bを上下方向に挟み込むようにした。
【0026】
スライド式子扉11の構造として望ましくは、開閉操作の都度ベルトを弾性変形させることから、上下に位置するベルトの中間位置に向かって上下方向に各々スライドする二枚扉であるが、同等のことができるものであれば必ずしもこれに限定されず、一枚扉でもよい。
【0027】
例えば、一枚扉の場合はスライド式子扉11に対する固定部を設け、この固定部とで往路ベルト4aと復路ベルト4bを上下方向に挟み込むものである。
【0028】
このようにしてスライド式子扉11で挟み込まれたベルトは弾性変形の範囲にあって損傷しないことが条件となる。
【0029】
次に、使用法について説明すると、防音扉3の閉鎖時にはベルトコンベア5を停止し、往路ベルト4aと復路ベルト4bを上下に挟み込む。
【0030】
防音扉3の遮音性能は、理想として完全密閉が望ましいが、現実には現場で実物にすり合わせて設置する防音扉の隙間を全て塞ぐことは出来ない。
【0031】
そして遮音性能の低減量は防音扉全体としての開口部の面積比率に従うことが模型実験からわかっており(
図4、
図5参照)、それゆえ先行技術文献のようなベルト貫通部の完全密閉を追求しても他に隙間が残っている可能性が高く、ベルト挟み込みで少々の隙間を残す本発明との、遮音性能の大きな差は発生しないと考察される。ゆえに簡便な構造で済む本発明の有用性が高い。
【符号の説明】
【0032】
1…防音壁
3…防音扉 4…ベルト
4a…往路ベルト 4b…復路ベルト
5…ベルトコンベア 6…コンベア用開口
7…蓋部材 8…キャリヤローラ
9…リターンローラ 10…トンネルの防音構造
11…スライド式子扉 12…トンネル
16…ベルトコンベア 18…防音壁
22a,22b…各乗継部 24…可動部
51…可動式ベルトコンベア