(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム膜、圧電デバイス、共振器、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H01L 41/187 20060101AFI20220531BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20220531BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220531BHJP
H01L 41/047 20060101ALI20220531BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20220531BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20220531BHJP
H01L 41/332 20130101ALI20220531BHJP
【FI】
H01L41/187
H03H9/17 F
C23C14/06 A
H01L41/047
H01L41/09
H01L41/113
H01L41/332
(21)【出願番号】P 2018101377
(22)【出願日】2018-05-28
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦明
(72)【発明者】
【氏名】西原 時弘
(72)【発明者】
【氏名】山藤 知徳
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-128267(JP,A)
【文献】特開2002-344279(JP,A)
【文献】特開2013-219743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
H03H 9/17
C23C 14/06
H01L 41/047
H01L 41/09
H01L 41/113
H01L 41/332
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムと異なる金属元素がアルミニウムに置換して含有した窒化アルミニウム結晶粒が複数の結晶粒からなる多結晶膜の主な結晶粒であり、前記多結晶膜の膜厚方向の両端部である第1領域および第2領域の少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、
2原子%以上でありかつ前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒の中央領域での前記金属元素の濃度より高く、かつ前記多結晶膜の前記膜厚方向の前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度より高く、
前記少なくとも一方の領域の各々の厚さは、窒化アルミニウム膜の厚さの20%以下であり、
前記金属元素は、スカンジウムである窒化アルミニウム膜。
【請求項2】
アルミニウムと異なる金属元素がアルミニウムに置換して含有した窒化アルミニウム結晶粒が複数の結晶粒からなる多結晶膜の主な結晶粒であり、前記多結晶膜の膜厚方向の両端部である第1領域および第2領域の少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、2原子%以上でありかつ前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒の中央領域での前記金属元素の濃度より高く、かつ前記多結晶膜の前記膜厚方向の前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度より高く、前記少なくとも一方の領域の各々の厚さは、窒化アルミニウム膜の厚さの20%以下であり、
前記窒化アルミニウム結晶粒は、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つおよびマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つがアルミニウムに置換して含有し、
前記金属元素は、前記チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つと、前記マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つと、の少なくとも一方である
窒化アルミニウム膜。
【請求項3】
前記第3領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度の10%以下である請求項1
または2に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項4】
前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒の中央領域での前記金属元素の濃度の1.1倍以上である請求項1から
3のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項5】
前記第1領域および前記第2領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、前記第1領域および前記第2領域における前記窒化アルミニウム結晶粒の中央領域での前記金属元素の濃度より高く、かつ前記第3領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度より高い請求項1から
4のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項6】
前記窒化アルミニウム結晶粒は、C軸に配向するウルツ型結晶構造を有する請求項1から
5のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項7】
基板と、
前記基板上に設けられた請求項1から
6のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜と、
前記窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を前記膜厚方向に挟み対向し、それぞれ前記第1領域および前記第2領域と接する第1電極および第2電極と、
を備える圧電デバイス。
【請求項8】
基板と、
前記基板上に設けられた請求項1から
6のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜と、
前記窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を前記膜厚方向に挟み対向し、それぞれ前記第1領域および前記第2領域と接する第1電極および第2電極と、を備える共振器。
【請求項9】
請求項
8に記載の共振器を含むフィルタ。
【請求項10】
請求項
9に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム膜、圧電デバイス、共振器、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器等の圧電デバイスおよび弾性波デバイスには圧電膜として窒化アルミニウム膜が用いられている。窒化アルミニウム膜にスカンジウムを添加することで、圧電性が向上することが知られている(例えば特許文献1)。窒化アルミニウム膜に2族元素または12族元素と4族元素または5族元素を添加することで圧電性が向上することが知られている(例えば特許文献2-4)。窒化アルミニウム膜に2族元素および3族元素を多く添加すると結晶粒界に偏析する添加元素が多くなることが知られている(例えば特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-15148号公報
【文献】特開2013-219743号公報
【文献】特開2014-121025号公報
【文献】特開2018-14643号公報
【文献】特開2002-344279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化アルミニウム膜を圧電デバイスまたは弾性波デバイスに用いる場合、窒化アルミニウム膜の表面にクラックが形成されるなど機械的強度が問題となる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、窒化アルミニウム膜の機械的強度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルミニウムと異なる金属元素がアルミニウムに置換して含有した窒化アルミニウム結晶粒が複数の結晶粒からなる多結晶膜の主な結晶粒であり、前記多結晶膜の膜厚方向の両端部である第1領域および第2領域の少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、2原子%以上でありかつ前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒の中央領域での前記金属元素の濃度より高く、かつ前記多結晶膜の前記膜厚方向の前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度より高く、前記少なくとも一方の領域の各々の厚さは、窒化アルミニウム膜の厚さの20%以下であり、前記金属元素は、スカンジウムである窒化アルミニウム膜である。
【0008】
本発明は、アルミニウムと異なる金属元素がアルミニウムに置換して含有した窒化アルミニウム結晶粒が複数の結晶粒からなる多結晶膜の主な結晶粒であり、前記多結晶膜の膜厚方向の両端部である第1領域および第2領域の少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、2原子%以上でありかつ前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒の中央領域での前記金属元素の濃度より高く、かつ前記多結晶膜の前記膜厚方向の前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度より高く、前記少なくとも一方の領域の各々の厚さは、窒化アルミニウム膜の厚さの20%以下であり、前記窒化アルミニウム結晶粒は、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つおよびマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つがアルミニウムに置換して含有し、前記金属元素は、前記チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つと、前記マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つと、の少なくとも一方である窒化アルミニウム膜である。
【0009】
上記構成において、前記第3領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度の10%以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、前記少なくとも一方の領域における前記窒化アルミニウム結晶粒の中央領域での前記金属元素の濃度の1.1倍以上である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1領域および前記第2領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度は、前記第1領域および前記第2領域における前記窒化アルミニウム結晶粒の中央領域での前記金属元素の濃度より高く、かつ前記第3領域における前記窒化アルミニウム結晶粒間の粒界での前記金属元素の濃度より高い構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記窒化アルミニウム結晶粒は、C軸に配向するウルツ型結晶構造を有する構成とすることができる。
【0013】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた上記窒化アルミニウム膜と、前記窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を前記膜厚方向に挟み対向し、それぞれ前記第1領域および前記第2領域と接する第1電極および第2電極と、を備える圧電デバイスである。
【0014】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた上記窒化アルミニウム膜と、前記窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を前記膜厚方向に挟み対向し、それぞれ前記第1領域および前記第2領域と接する第1電極および第2電極と、を備える共振器である。
【0015】
本発明は、上記共振器を含むフィルタである。
【0016】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、窒化アルミニウム膜の機械的強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、挿入膜の平面図、
図1(c)および
図1(d)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る直列共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は、実施例1におけるスパッタリング装置の模式図、
図3(b)は、成膜時間に対するスパッタリングパワーを示す図である。
【
図4】
図4(a)は、実施例1におけるスパッタリング装置の模式図、
図4(b)は、成膜時間に対するスパッタリングパワーを示す図である。
【
図5】
図5(a)は、Scを添加したAlNのHAADF-STEM画像、
図5(b)から
図5(e)は、EDS面分析画像である。
【
図6】
図6(a)は、HAADF-STEM画像、
図6(b)は、
図6(a)のAからA´まで矢印方向にEDS線分析した結果を示す図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、実施例1における結晶粒および粒界の金属元素を示す模式図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、実施例1の変形例1における結晶粒および粒界の金属元素を示す模式図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実施例1の変形例2における結晶粒および粒界の金属元素を示す模式図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(d)は、それぞれ実施例1の変形例3から6に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図11】
図11(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図11(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、挿入膜の平面図、
図1(c)および
図1(d)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、
図1(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。
【0021】
図1(a)から
図1(c)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。基板10は例えばSi(シリコン)基板である。下部電極12は下層12aと上層12bとを含んでいる。下層12aおよび上層12bは例えばそれぞれCr(クロム)膜およびRu(ルテニウム)膜である。
【0022】
下部電極12上に、圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、(0001)方向を主軸とする(すなわちC軸配向性を有する)窒化アルミニウムを主成分とする窒化アルミニウム膜である。圧電膜14は、下部電極12に接する領域14a、上部電極16に接する領域14d、領域14aと領域14dとの間に設けられた領域14bおよび14cを有している。領域14aおよび14dには領域14bおよび14cに比べ窒化アルミニウム膜の圧電性を高める金属元素が多く添加されている。
【0023】
窒化アルミニウム膜の圧電性を高める金属元素としては、特許文献1のようにスカンジウム(Sc)、特許文献2から4のように、2族元素または12族元素と4族元素または5族元素とである。なお、元素の族の名称は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)の表記による。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)またはストロンチウム(Sr)である。12族元素は例えば亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)またはバナジウム(V)である。
【0024】
圧電膜14内の領域14bと14cとの間に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は例えば酸化シリコン膜である。挿入膜28は共振領域50内の外周領域52に設けられ、中央領域54に設けられていない。挿入膜28は、外周領域52から共振領域50外まで連続して設けられている。挿入膜28には、孔部35に対応する孔部34が設けられている。
【0025】
圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。上部電極16は下層16aおよび上層16bを含んでいる。下層16aおよび上層16bは例えばそれぞれRu膜およびCr膜である。
【0026】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0027】
図1(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0028】
図1(a)および
図1(d)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間に、Ti(チタン)層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの
図1(c)と同じであり説明を省略する。
【0029】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0030】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12のCr膜からなる下層12aの膜厚は100nm、Ru膜からなる上層12bの膜厚は210nmである。AlN膜からなる圧電膜14の膜厚は1100nmである。酸化シリコン膜からなる挿入膜28の膜厚は150nmである。上部電極16のRu膜からなる下層16aの膜厚は230nm、Cr膜からなる上層16bの膜厚は50nmである。酸化シリコン膜からなる周波数調整膜24の膜厚は50nmである。Ti膜からなる質量負荷膜20の膜厚は120nmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0031】
基板10としては、Si基板以外に、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもアルミニウム(Al)、Ti、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16の下層16aをRu、上層16bをMoとしてもよい。
【0032】
挿入膜28は、圧電膜14よりヤング率および/または音響インピーダンスが小さい材料である。挿入膜28は、酸化シリコン以外に、アルミニウム(Al)、金(Au)、Cu、Ti、Pt、TaまたはCr等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0033】
周波数調整膜24としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の単層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間(下層16aと上層16bとの間)以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域50を含むように形成されていれば、共振領域50より大きくてもよい。
【0034】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10~100nmであり、MgO、ZnO、GeまたはSiO
2等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0035】
図2(b)に示すように、下部電極12および基板10上に圧電膜14のうち領域14aおよび14bおよび挿入膜28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。挿入膜28を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0036】
図2(c)に示すように、圧電膜14のうち領域14cおよび14d、上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。領域14aから14dにより圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0037】
なお、
図1(d)に示す並列共振器においては、下層16aを形成した後に、質量負荷膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。質量負荷膜20をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。その後、上層16bを形成する。
【0038】
周波数調整膜24を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い周波数調整膜24を所望の形状にパターニングする。
【0039】
その後、孔部35および導入路33(
図1(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(
図1(c)、
図1(d)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図1(a)および
図1(c)に示した直列共振器S、および
図1(a)および1(d)に示した並列共振器Pが作製される。
【0040】
[窒化アルミニウム膜の成膜方法]
圧電膜14として窒化アルミニウム膜を成膜する方法として、例えば反応性スパッタリング法がある。窒化アルミニウム膜にSc等の1種類の金属元素を添加する場合について説明する。
図3(a)は、実施例1におけるスパッタリング装置の模式図、
図3(b)は、成膜時間に対するスパッタリングパワーを示す図である。
図3(a)に示すように、チャンバ48内に基板44およびターゲット46aおよび46bが配置されている。ターゲット46aは、Alターゲットであり、ターゲット46bは添加する金属元素のターゲット(例えばScターゲット)である。チャンバ48内には、例えば、窒素(N
2)ガスとアルゴン(Ar)との混合ガスを導入する。ターゲット46aおよび46bからスパタッリングされた原子と窒素とが反応し、反応物が基板44上に堆積する。ターゲット46aおよび46bへの電圧の印加方法としては例えば、ターゲット46aおよび46bに交流(AC:Alternating Current)電圧を印加するACマグネトロンスパッタリング方式を用いることができる。ターゲット46aおよび46bには個別にスパッタリングパワーを印加できる。
【0041】
図3(b)は、ターゲット46aおよび46bに印加するスパッタリングパワーを示している。
図2(b)において、領域14aおよび14bを成膜する前に、基板10をチャンバ48内に配置する。ガスを導入し、時刻t1においてスパッタリングパワーを印加すると、領域14aが成膜される。領域14aには、金属元素(例えばSc)が添加されたAlNが成膜される。時刻t2においてターゲット46aのスパッタリングパワーは変えずに、ターゲット46bのスパッタリングパワーを小さくする。これにより、金属元素の濃度が領域14aより低い領域14bが成膜される。時刻t3において、成膜を終了する。基板10をチャンバ48から搬出し、挿入膜28を形成する。
【0042】
図2(c)において、基板10をチャンバ48内に搬入する。チャンバ48に混合ガスを導入し、ターゲット46aおよび46bにスパッタリングパワーを印加する。スパッタリングパワーは時刻t2とt3の間と同じである。これにより、金属元素の濃度が領域14bと同程度の領域14cが成膜される。時刻t4においてターゲット46aのスパッタリングパワーは変えずに、ターゲット46bのスパッタリングパワーを大きくする。これにより、金属元素の濃度が領域14cより高い領域14dが成膜される。時刻t5において、成膜を終了する。その後、チャンバ48から基板10を搬出し、上部電極16を形成する。
【0043】
窒化アルミニウム膜にMgとHf等の複数種類の金属元素を添加する場合について説明する。
図4(a)は、実施例1におけるスパッタリング装置の模式図、
図4(b)は、成膜時間に対するスパッタリングパワーを示す図である。
図4(a)に示すように、チャンバ48内に、ターゲット46aはAlターゲットであり、ターゲット46bおよび46cは金属元素のターゲット(例えばそれぞれMgターゲットおよびHfターゲット)である。その他の構成は
図3(a)と同じであり説明を省略する。
【0044】
図4(b)に示すように、時刻t2からt4の間のターゲット46bおよび46cに印加するスパッタリングパワーを時刻t1からt2の間および時刻t4からt5の間のターゲット46bおよび46cに印加するスパッタリングパワーより小さくする。これにより、領域14bおよび14cにおける金属元素(例えばMgおよびHf)の濃度を領域14aおよび14dにおける金属元素の濃度より低くできる。
【0045】
以上のように、ターゲット46aから46cに印加するスパッタリングパワーを制御することで、領域14aから14d内の金属元素の濃度を制御できる。ターゲット46bおよび46cはAlと金属元素の合金でもよい。
【0046】
[窒化アルミニウム膜の評価]
Scを添加した窒化アルミニウム膜をHAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning Transmission Electron Microscope)法およびEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)法を用い評価した。
【0047】
図5(a)は、Scを添加したAlNのHAADF-STEM画像、
図5(b)から
図5(e)は、EDS面分析画像である。
図5(b)から
図5(e)は、
図5(a)の同じ配置で、それぞれ窒素(N)、酸素(O)、ScおよびAlのK線をマッピングしている。薄い領域は該当する元素が多く含まれることを示す。
【0048】
図5(a)に示すように、複数の結晶粒60と粒界62が観察される。複数の結晶粒60からなる多結晶膜の主な結晶粒は窒化アルミニウム結晶粒である。窒化アルミニウム結晶粒はC軸に配向するウルツ型結晶構造を有する。
図5(b)および
図5(c)に示すように、OとNは結晶粒および粒界に関係なく一様に分布している。
図5(d)に示すように、Scは粒界に多く分布している。
図5(e)に示すように、Alは粒界付近にやや少なく分布している。このように、Scは粒界62に多く分布することがわかる。粒界62のScの少なくとも一部はAlに置換していると考えられるが、Sc単体として析出しているかは不明である。
【0049】
図5(b)から
図5(e)により算出したN、O、AlおよびScの原子濃度(N、O、AlおよびScの合計に対する各元素の原子濃度)は、それぞれ23.36原子%、1.13原子%、72.15原子%および3.36原子%である。
【0050】
結晶粒の中央部と粒界におけるScの濃度をEDS法を用い評価した。
図6(a)は、HAADF-STEM画像、
図6(b)は、
図6(a)のAからA´まで矢印方向にEDS線分析した結果を示す図である。EDS線分析のスポット径は1nmであり、測定ピッチは1.5nmである。
【0051】
図6(a)および
図6(b)に示すように、粒界62ではSc濃度は5原子%程度であり、結晶粒60内ではSc濃度は2から3原子%である。このように、AlNにScを3原子%程度添加すると、Scは結晶粒60内より粒界62付近に多く分布する。Scが粒界62付近に偏析する理由は明確ではない。
【0052】
図7(a)から
図7(c)は、実施例1における結晶粒および粒界の金属元素を示す模式図である。
図5(d)のようなEDS面分析における暗視野画像を模式化しており、黒色点が金属元素M(例えばSc)を示す。
図7(b)に示すように、領域14bおよび14cでは、結晶粒60内および粒界62ともに金属元素Mは少ない。
図7(a)および
図7(c)に示すように、領域14aおよび14dでは、結晶粒60内の金属元素Mの濃度は
図7(b)の結晶粒60内の金属元素Mの濃度より高い。領域14aおよび14dの粒界62付近における金属元素Mの濃度は結晶粒60の中央領域の金属元素Mの濃度より高い。
【0053】
実施例1によれば、窒化アルミニニウム膜では、圧電膜14の多結晶膜の膜厚方向の両端部である領域14a(第1領域)および領域14d(第2領域)における結晶粒60間の粒界62での金属元素Mの濃度は、領域14aおよび14dにおける結晶粒60の中央領域での金属元素Mの濃度より高い。このように、粒界62におけるアルミニウム以外の金属元素Mの濃度が高い。これにより、粒界62における結晶粒60同士が強く結合し、圧電膜14に導入されるクラックを抑制できる。クラックは、圧電膜14と他の膜(例えば下部電極12および上部電極16)との界面、または圧電膜14の表面に生成される。このため、領域14aおよび14dにおける粒界62の金属元素Mの濃度を高くする。
【0054】
また、アルミニウム以外の金属元素Mがアルミニウムに置換すると、圧電膜14の圧縮応力である内部応力が大きくなる。このため、クラックおよび/または圧電膜14の剥がれが生じる。そこで、領域14aおよび14dにおける粒界62での金属元素Mの濃度は、多結晶膜の膜厚方向の領域14aと14dとの間に位置する領域14bおよび/または14c(第3領域)における粒界62での金属元素Mの濃度より高い。これにより、圧電膜14全体の応力が小さくなり、クラックおよび/または膜剥がれを抑制できる。よって、圧電膜14の機械的強度を向上できる。
【0055】
窒化アルミニウム結晶粒は、窒化アルミニウムを主成分とする。例えば窒化アルミニウム結晶粒内のAlおよびNの合計の原子濃度は50原子%以上であり、より好ましくは80原子%以上である。窒化アルミニウム膜の圧電性を高めるため、窒化アルミニウム結晶粒はC軸に配向するウルツ型結晶構造を有することが好ましい。
【0056】
窒化アルミニウムに添加する金属元素Mは、例えばスカンジウムである。また、窒化アルミニウム結晶粒は、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つおよびマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つがアルミニウムに置換して含有してもよい。このとき、粒界62に多く分布する金属元素Mは、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つと、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つと、の少なくとも一方であればよい。例えば、発明者らの実験によれば、MgとHfを添加した窒化アルミニウム膜では、Mgは粒界62に結晶粒60の中央領域より多く分布する。
【0057】
領域14bおよび/または14cにおける粒界62での金属元素Mの濃度は、領域14aおよび14dにおける粒界62での金属元素Mの濃度の50%以下である。これにより、圧電膜14の両端部における結晶粒60の結合を強くしクラック等の導入を抑制でき、かつ圧電膜14の内部応力を小さくできる。領域14bおよび/または14cにおける粒界62での金属元素Mの濃度は、領域14aおよび14dにおける粒界62での金属元素Mの濃度の30%以下が好ましく10%以下がより好ましい。領域14bおよび/または14cには意図的に金属元素Mが含まれていなくてもよい。
【0058】
領域14aおよび14dにおける粒界62での金属元素Mの濃度は、領域14aおよび14dにおける結晶粒60の中央領域での金属元素Mの濃度の1.1倍以上である。これにより、圧電膜14の両端部におけるクラック等の導入を抑制できる。領域14aおよび14dにおける粒界62での金属元素Mの濃度は、領域14aおよび14dにおける結晶粒60の中央領域での金属元素Mの濃度の1.1倍以上である。1.15倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。
【0059】
領域14aおよび14dの厚さは、各々圧電膜14の厚さの20%以下である。このように、領域14aおよび14dは薄くとも両端部に導入されるクラックを抑制できる。一方、領域14bおよび14cを厚くできるため、圧電膜14の内部応力を小さくできる。領域14aおよび14dの厚さは、各々圧電膜14の厚さの10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。領域14aおよび14dの厚さは、各々圧電膜14の厚さの0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。
【0060】
領域14aおよび14dにおける粒界62での金属元素Mの濃度は2原子%以上が好ましく、3原子%以上がより好ましく、5原子%以上がさらに好ましい。領域14aおよび14dにおける粒界62での金属元素Mの濃度は、20原子%以下が好ましく、10原子%以下がより好ましい。領域14bおよび14cにおける粒界62での金属元素Mの濃度は、2原子%以下が好ましく、1原子%以下がより好ましく、0.5原子%以下がさらに好ましい。なお、金属元素Mの濃度は例えばEDS法を用い測定できる。
【0061】
[実施例1の変形例1]
図8(a)から
図8(c)は、実施例1の変形例1における結晶粒および粒界の金属元素を示す模式図である。
図8(a)および
図8(b)に示すように、領域14a、領域14bおよび14dの金属元素Mの分布は実施例1と同じである。
図8(c)に示すように、領域14dの金属元素Mの濃度は領域14bおよび14cと同程度である。
【0062】
[実施例1の変形例2]
図9(a)から
図9(c)は、実施例1の変形例2における結晶粒および粒界の金属元素を示す模式図である。
図9(a)に示すように、領域14aの金属元素Mの濃度は領域14bおよび14cと同程度である。
図9(b)および
図9(c)に示すように、領域14bおよび14c、領域14dの金属元素Mの分布は実施例1と同じである。
【0063】
実施例1の変形例1および2のように、粒界62における金属元素Mの濃度を高くするのは、領域14aおよび14dの少なくとも一方でよい。圧電膜14の両端部の外側の構造によりクラックの導入されやすい方の領域14aおよび14dの粒界62における金属元素Mの濃度を高くしてもよい。2次歪を抑制する観点からは、領域14aと14dとが対称である実施例1が好ましい。
【0064】
[実施例1の変形例3]
図10(a)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(a)に示すように、圧電膜14内に挿入膜は設けられていない。圧電膜14は、膜厚方向の両端部である領域14aおよび14dと、領域14aと14dとの間の領域14bを有している。領域14aおよび14dの少なくとも一方において、粒界62における金属元素Mの濃度は、結晶粒60の中央領域での金属元素Mの濃度より高い。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0065】
実施例1の変形例3のように、実施例1およびその変形例において、挿入膜28は設けられていなくてもよい。
【0066】
[実施例1の変形例4]
図10(b)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(b)に示すように、下部電極12の引き出し領域において、領域14cおよび14d(上部圧電膜)の端面は共振領域50の輪郭に略一致する。領域14aおよび14b(下部圧電膜)の端面は共振領域50の輪郭より外側に位置する。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0067】
実施例1の変形例4のように、実施例1およびその変形例において、圧電膜14は階段状に設けられていてもよい。
【0068】
[実施例1の変形例5]
図10(c)は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(c)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。
【0069】
[実施例1の変形例6]
図10(d)は、実施例1の変形例6に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(d)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜30aと音響インピーダンスの高い膜30bとが交互に設けられている。膜30aおよび30bの膜厚は例えばそれぞれλ/4(λは弾性波の波長)である。膜30aと膜30bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0070】
実施例1およびその変形例1から4において、実施例1の変形例5と同様に空隙30を形成してもよく、実施例1の変形例6と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0071】
実施例1およびその変形例1から5のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例6のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域50を含む音響反射層は、空隙30または音響反射膜31を含めばよい。
【0072】
実施例1およびその変形例1、2および4から6において、挿入膜28が共振領域50の外周領域52に設けられているが、挿入膜28は共振領域50の外周領域52の少なくとも一部に設けられていればよい。挿入膜28は共振領域50の外側に設けられてなくてもよい。共振領域50の平面形状として楕円形状を例に説明したが、四角形状または五角形状等の多角形状でもよい。
【0073】
実施例1およびその変形例では、窒化アルミニウム膜を用いる弾性波デバイスとして圧電薄膜共振器を例に説明したが、窒化アルミニウム膜を伝搬する弾性波を励振する電極を有する弾性波デバイスでもよい。例えば、窒化アルミニウム膜上に櫛型電極が設けられたラム波を利用する共振器でもよい。このような共振器では、基板10と、基板10上に設けられた圧電膜14(窒化アルミニウム膜)と、圧電膜14の少なくとも一部をC軸方向に挟み対向し、それぞれ領域14aおよび領域14dと接する下部電極12(第1電極)および上部電極16(第2電極)と、を備える。
【0074】
また、圧電膜14は、圧電デバイスに用いてもよい。圧電膜14を用いることのできる圧電デバイスは、弾性波デバイス以外に例えばアクチュエータおよびセンサ等である。アクチュエータとしては、例えばインクジェットを用いたマイクロポンプ、RF(Radio Frequency)-MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、および光ミラーである。センサは、例えば加速度センサ、ジャイロセンサ、およびエナジーハーベストセンサである。
【実施例2】
【0075】
実施例2は、実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサの例である。
図11(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図11(a)に示すように、入力端子T1と出力端子T2との間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子T1と出力端子T2との間に、1または複数の並列共振器P1からP4が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS4および1または複数の並列共振器P1からP4の少なくとも1つの共振器に実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。
【0076】
図11(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
図11(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0077】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0078】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
10 基板
12 下部電極
14 圧電膜
14a-14d 領域
16 上部電極
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
60 結晶粒
62 粒界