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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】MCPアセンブリおよび荷電粒子検出器
(51)【国際特許分類】
   H01J 43/06 20060101AFI20220531BHJP
   H01J 43/24 20060101ALI20220531BHJP
   H01J 43/28 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
H01J43/06
H01J43/24
H01J43/28
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018118992
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019220432
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】林 雅宏
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-037782(JP,A)
【文献】特開2014-078388(JP,A)
【文献】特開昭57-196466(JP,A)
【文献】特開2011-119279(JP,A)
【文献】特表2005-538346(JP,A)
【文献】特開2006-185828(JP,A)
【文献】特開2007-057432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0290267(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0258356(US,A1)
【文献】米国特許第07564043(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 43/06
H01J 43/24
H01J 43/28
H01J 49/00
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定軸に沿って互いに対向するよう配置された入力面と出力面を有するMCPユニットと、
前記MCPユニットに対して前記出力面の位置する側に配置され、前記所定軸に沿って互いに対向するよう配置された上面および下面を有する可撓性シート電極と、
を備えたMCPアセンブリであって、
前記可撓性シート電極は、
前記上面と前記下面を連絡する複数の開口が設けられたメッシュ領域と、
前記メッシュ領域の外縁を取り囲んだ状態で前記メッシュ領域の外縁から前記メッシュ領域の外側に向かって伸びた形状を有する変形抑制部と、
を備え、
前記メッシュ領域と前記変形抑制部は、前記所定軸に一致した方向に対して共に可撓性を有し、かつ、同一の導電性材料からなり、
前記上面に一致した前記メッシュ領域の一方の面と前記上面に一致した前記変形抑制部の一方の面は連続し、かつ、前記下面に一致した前記メッシュ領域の他方の面と前記下面に一致した前記変形抑制部の他方の面も連続している、
MCPアセンブリ。
【請求項2】
前記所定軸に沿った当該可撓性シート電極の幅は、20μm~100μmであり、
前記所定軸に沿った前記メッシュ領域の幅と前記変形抑制部の幅は略一致していることを特徴とする請求項1に記載のMCPアセンブリ。
【請求項3】
前記メッシュ領域の開口率は、55%~95%であることを特徴とする請求項1または2に記載のMCPアセンブリ。
【請求項4】
前記導電性材料は、ステンレス鋼、銅、およびモリブデンの何れかを主材料とする金属材料を含むことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のMCPアセンブリ。
【請求項5】
前記MCPユニットに対して前記可撓性シート電極の反対側に配置された上側支持部材であって、第1開口を有するとともに導電性材料からなる上側支持部材と、
前記上側支持部材とともに前記可撓性シート電極を挟むよう配置された下側支持部材であって、第2開口を有するとともに導電性材料からなる下側支持部材と、
前記MCPユニットと前記可撓性シート電極との間に配置された、第3開口を有する出力電極と、
を、更に備えたことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のMCPアセンブリ。
【請求項6】
前記出力電極と前記下側支持部材との間に配置された、前記MCPユニットからの電子が通過する電子移動空間を取り囲む連続した内壁面により規定される貫通孔を有する絶縁部材を、更に備えたことを特徴とする請求項5に記載のMCPアセンブリ。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載のMCPアセンブリと、
前記MCPアセンブリを収納する筐体と、
前記MCPアセンブリから放出された不要な荷電粒子を捕獲するための荷電粒子捕獲構造と、
を備えた荷電粒子検出器。
【請求項8】
前記荷電粒子捕獲構造は、前記可撓性シート電極に対して前記MCPユニットの反対側に設置された外部電位形成電極を含むことを特徴とする請求項7に記載の荷電粒子検出器。
【請求項9】
請求項1~6の何れか一項に記載のMCPアセンブリと、
前記MCPアセンブリを収納する筐体と、
前記MCPアセンブリで増倍された後に前記MCPアセンブリから放出された二次電子を引き付ける二次電子増倍構造と、
を備えた荷電粒子検出器。
【請求項10】
前記二次電子増倍構造は、前記可撓性シート電極に対して前記MCPユニットの反対側に配置され、前記可撓性シート電極の設定電位と等しいかそれよりも高い電位に設定されるよう構成された外部電極と、前記MCPユニットからの二次電子の入射に応答して前記外部電極から放出される反射電子を、前記可撓性シート電極と前記外部電極との間の空間に閉じ込めるための制限構造と、を含むことを特徴とする請求項9に記載の荷電粒子検出器。
【請求項11】
前記二次電子増倍構造は、前記可撓性シート電極に対して前記MCPユニットの反対側に配置された、前記可撓性シート電極よりも低い電位に設定されるよう構成されたダイノードを含むことを特徴とする請求項9に記載の荷電粒子検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマイクロチャネルプレート(以下、MCPと記す)で構成されたMCPユニットを含むMCPアセンブリ、および荷電粒子検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン、電子等の荷電粒子の高感度検出を可能にする検出器として、例えば、一定のゲインを得るためのMCP等の増倍手段を備えた荷電粒子検出器が知られている。このような荷電粒子検出器は、質量分析装置等の真空チャンバ内に計測器として設置されるのが一般的である。
【0003】
図1(a)には、質量分析装置の一例として、残留ガス分析装置(RGA:Residual Gas Analyzers)の概略構成が示されている。この残留ガス分析装置1は、図1(a)に示されたように、一定の真空度に維持された真空チャンバ内に、イオン源10、集束レンズ20、質量分析部30、計測部100が配置されている。
【0004】
残留ガス分析装置1において、イオン源10に導入された残留ガスは、高温のフィラメントから放出された熱電子と衝突することでイオン化する。このようにイオン源10において生成されたイオンは、複数の電極で構成された集束レンズ20を通過する際に加速、集束されながら質量分析部30に導かれる。質量分析部30は、4本の円柱電極(四重極)に直流電圧および交流電圧を印加することにより質量の異なるイオンを振り分ける。すなわち、質量分析部30は、4本の円柱電極に印加される電圧を変えることにより、その値に応じた質量電荷比のイオンを選択的に通過させることができる。計測部100では、上述のように質量分析部30へ導入されたイオンのうち該質量分析部30を通過したイオンを信号(イオン電流)として検出する。このイオン電流は残留ガスの量(分圧)に比例している。
【0005】
計測部100としては、例えば図1(b)に示されたような一定のゲインを得るためのMCPユニット200を備えた荷電粒子検出器100Aが適用可能である。なお、MCPユニット200は、入力面200aと出力面200bを有し、入力面200aと出力面200bとの間の空間に積層された状態で配置された2枚のMCP210、220を含む。荷電粒子検出器100Aは、このような所望のゲインを得るためのMCPユニット200と、MCPユニット200の出力面200bから放出された電子を取り込むためのアノード電極240を備える。なお、MCPユニット200の入力面200aと出力面200bのそれぞれには、入力面200aの電位よりも出力面200bの電位が高くなるよう、電圧制御回路(ブリーダ回路)から異なる値の電圧(それぞれマイナス電圧)が印加される。一方、アノード電極240はグランド電位(0V)に設定されており、該アノード電極240に取り込まれたMCPユニット200からの電子は、電気信号として増幅器250に入力される。そして、増幅器250により増幅された電気信号(増幅信号)が出力端OUTから検出される。
【0006】
特許文献1~3には、荷電粒子検出器100Aとして、何れも二次電子増倍構造を構成する電極の一部にメッシュ電極が採用された検出器(MCP検出器)が開示されている。特に、特許文献1の検出器は、MCPユニットからの二次電子の入射に応答してアノード電極から放出される反射電子を、メッシュ構造を有する加速電極(メッシュ電極)とアノード電極との間の空間に閉じ込めるための制限構造を備える。また、特許文献2の検出器は、メッシュ構造を有するアノード電極(メッシュ電極)をMCPユニットとともに挟むように配置された反転型ダイノードを備え、該反転型ダイノードの電位は、アノード電極の電位よりも低く設定される。このような二次電子増倍構造では、MCPユニットから放出された二次電子のうちアノード電極を通過した二次電子は反転型ダイノードに到達する。そして、該反転型ダイノードにおいて更に増倍された二次電子がアノード電極に向かう。
【0007】
なお、質量分析装置の中でもイオン飛行距離が長くなることにより性能が向上する飛行時間計測型質量分析装置(TOF-MS)などは、10-4Pa(約10-6Torr)程度の高真空状態での計測が必須である。一方で、真空排気機構の簡略化(製造コストの低減)、イオンの平均自由工程の短縮(装置の小型化)等を目的として、10-1Pa(約10-3Torr)程度の低真空状態での高感度質量分析が可能な荷電粒子検出器の開発要求も高まってきており、特に、10-1Pa(約10-3Torr)程度の低真空環境下においてゲイン10程度の高感度(低ノイズ)のイオン検出が望まれる。
【0008】
しかしながら、真空度が低下するほどチャンバ内の残留ガス分子が増えるため、低真空環境下での質量分析では、この不要な残留ガス分子のイオン化(電子イオン化)に起因したダークノイズの増加が問題となる。具体的には、図1(b)に示されたように、MCPユニット200から放出された電子と電極間に存在する残留ガス分子との衝突により、残留ガスイオンが発生してしまうことに起因していると考えられる。なお、この電子イオン化は、70~100eVの電子の衝突によりイオン化効率が最大とることが知られており(MCPの出力電子エネルギーは80~100eV)、電子イオン化により生成される残留ガスイオンは、そのほとんどが正イオン(正電荷粒子)である((元素M)+(e)->(M)+2(e))。
【0009】
図1(b)の電極配置では、MCPユニット200の出力側電位よりもアノード電極240の電位の方が高く設定されているため、電極間で生成された不要な正イオン(M)は、直接MCPユニット200の出力面200bに向かうか(図1(b)中の矢印Aで示された経路)、荷電粒子検出器100Aの周辺を浮遊したのちMCPユニット200の入射面200aに到達してしまう(図1(b)中の矢印Bで示された経路)。このように、荷電粒子検出器100A内の電極間で生成された不要な正イオンがMCPユニット200に到達する現象、すなわちイオンフィードバックが発生すると、残留ガス由来の電子がダークノイズとして検出されることになるので、低真空度環境下における荷電粒子の高感度検出が困難になる。
【0010】
特許文献3には、上述の低真空環境下における電子イオン化により生成される正電荷粒子の、電子増倍構造(MCP)側へのフィードバック現象(イオンフィードバック)を効果的に抑制するための構造を備えた荷電粒子検出器およびその制御方法が提案されている。具体的に、特許文献3の検出器には、MCPユニットの出力側に、メッシュ電極で構成された負電荷粒子捕獲用電極(図1(a)のアノード電極240に相当する電極)と、不要な正電荷粒子を正電荷粒子捕獲用電極が順に配置されたTriode構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2014-78388号公報
【文献】特開昭57-196466号公報
【文献】特開昭2017-37782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者は、従来の荷電粒子検出器について検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、上記特許文献1、2の何れの検出器においても、加速電極またはアノード電極として機能し得るメッシュ電極は、二次電子の透過率を向上させるため、より高い開口率を有するのが好ましい。同様に、上記特許文献3の検出器においても、メッシュ構造を有する負電荷粒子捕獲用電極は、不要な荷電粒子(正電荷粒子)の透過率を向上させるため、より高い開口率を有するのが好ましい。
【0013】
しかしながら、開口率が高くなるのに伴ってメッシュ電極自体の厚みが減少するため、開口率を高くすると、係るメッシュ電極自体に十分な物理的強度が得られなくなる。この場合、当該荷電粒子検出器の組み立て工程において、メッシュ電極自体が撓んだ状態で組み込まれる可能性が高くなる。
【0014】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、単体での取り扱いを容易にするための構造を備えた可撓性シート電極を含むMCPアセンブリ、および該MCPアセンブリを含む荷電粒子検出器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本実施形態に係るMCPアセンブリは、MCPユニットと、可撓性シート電極と、を少なくとも備える。MCPユニットは、所定軸に沿って互いに対向するよう配置された入力面と出力面を有する。可撓性シート電極は、MCPユニットに対して出力面の位置する側に配置され、所定軸に沿って互いに対向するよう配置された上面および下面を有する。特に、可撓性シート電極は、メッシュ電極本体として機能するメッシュ領域と、該メッシュ領域の撓み等に起因した開口形状の変形を抑制する変形抑制部と、を備える。メッシュ領域は、当該可撓性シート電極の上面と下面を連絡する複数の開口が設けられた領域であり、上記所定軸に一致した方向に対して可撓性を有する。変形抑制部は、メッシュ領域の外縁を取り囲んだ状態で該メッシュ領域の外縁から該メッシュ領域の外側に向かって伸びた形状を有する領域であり、メッシュ領域と同様に、上記所定軸に一致した方向に対して可撓性を有する。また、メッシュ領域と変形抑制部は、同一の導電性材料からなる。更に、当該可撓性シート電極の上面に一致したメッシュ領域の一方の面と該上面に一致した変形抑制部の一方の面は連続している。一方、当該可撓性シート電極の下面に一致したメッシュ領域の他方の面と該下面に一致した変形抑制部の他方の面も連続している。
【0016】
また、上述のような構造を有するMCPアセンブリが採用された荷電粒子検出器は、電子増倍機能を実現するためのMCPユニットを備え、可撓性シート電極を上側支持部材及び下側支持部材でしっかりと保持しつつ、所定の電位を付与することができる。よって、可撓性シート電極のメッシュ領域の厚さを薄くしつつ開口率を高めることができる。
【0017】
なお、本発明に係る各実施形態は、以下の詳細な説明及び添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施例は単に例示のために示されるものであって、本発明を限定するものと考えるべきではない。
【0018】
また、本発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び特定の事例はこの発明の好適な実施形態を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、本発明の範囲における様々な変形および改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0019】
本実施形態に係るMCPアセンブリは、開口率が任意に設計可能なメッシュ領域と、該メッシュ領域の外縁を取り囲む変形抑制部で構成された可撓性シート電極を含み、メッシュ領域よりも変形抑制部の物理的強度は高くなっている。そのため、メッシュ電極単体の取り扱いが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】質量分析装置の一例として残留ガス分析装置の構成および一般的な荷電粒子検出器の構造の一例を示す図である。
図2】本実施形態に係る荷電粒子検出器の概略構成を説明するための図である。
図3】本実施形態に係る荷電粒子検出器に適用可能なMCPユニットの概略構成を説明するための図である。
図4】本実施形態に係る可撓性シート電極の製造工程を説明するための図である。
図5】本実施形態に係る可撓性シート電極の平面構造および断面構造を示す図である。
図6】本実施形態に係る荷電粒子検出器に適用可能なMCPアセンブリの主要な構成要素を説明するための図である。
図7図6に示されたMCPアセンブリの種々の把持構造を説明するための図である。
図8図7(a)に示された第1把持構造のMCPアセンブリが適用される本実施形態に係る荷電粒子検出器の組み立て工程を説明するための図である。
図9図8に示された組み立て工程を経て得られた荷電粒子検出器を示す斜視図および該荷電粒子検出器の内部構造を示す断面図である。
図10図7(b)に示された第2把持構造のMCPアセンブリが適用される本実施形態に係る荷電粒子検出器の組み立て工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0022】
(1)本実施形態に係るMCPアセンブリは、その一態様として、MCPユニットと、可撓性シート電極と、を少なくとも備える。MCPユニットは、所定軸に沿って互いに対向するよう配置された入力面と出力面を有する。可撓性シート電極は、MCPユニットに対して出力面の位置する側に配置され、所定軸に沿って互いに対向するよう配置された上面および下面を有する。特に、可撓性シート電極は、メッシュ電極本体として機能するメッシュ領域と、該メッシュ領域の撓み等に起因した開口形状の変形を抑制する変形抑制部と、を備える。メッシュ領域は、当該可撓性シート電極の上面と下面を連絡する複数の開口が設けられた領域であり、上記所定軸に一致した方向に対して可撓性を有する。変形抑制部は、メッシュ領域の外縁を取り囲んだ状態で該メッシュ領域の外縁から該メッシュ領域の外側に向かって伸びた形状を有するフランジに相当し、メッシュ領域と同様に、上記所定軸に一致した方向に対して可撓性を有する。また、メッシュ領域と変形抑制部は、同一の導電性材料からなる。更に、当該可撓性シート電極の上面に一致したメッシュ領域の一方の面と該上面に一致した変形抑制部の一方の面は連続している。また、当該可撓性シート電極の下面に一致したメッシュ領域の他方の面と該下面に一致した変形抑制部の他方の面も連続している。
【0023】
(2)本実施形態の一態様として、所定軸に沿った当該可撓性シート電極の幅(厚み)は、20μm~100μmであるのが好ましい。必然的に、所定軸に沿ったメッシュ領域の幅(厚み)と変形抑制部の幅(厚み)も略一致している。本実施形態の一態様として、メッシュ領域の開口率は、55%~95%であるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、導電性材料は、ステンレス鋼、銅、およびモリブデンの何れかを主材料とする金属材料を含むのが好ましい。
【0024】
(3)本実施形態の一態様として、当該MCPアセンブリは、更に、上側支持部材と、下側支持部材と、出力電極と、を備え、上記所定軸に沿って順に、上側支持部材、MCPユニット、出力電極、可撓性シート電極、下側支持部材が配置されている。すなわち、上側支持部材は、荷電粒子を通過させるための第1開口を有するとともに導電性材料からなる。下側支持部材は、第2開口を有するとともに導電性材料からなる。また、下側支持部材は、所定軸に沿って第1および第2開口が重なるように配置される。MCPユニットの入力面は、複数の電子増倍チャネルの一方の開口端が配置された入力有効領域を含むとともに、上側支持部材の第1開口から入力有効領域を露出させた状態で該上側支持部材に当接される。MCPユニットの出力面は、複数の電子増倍チャネルの他方の開口端が配置された出力有効領域を含む。出力電極は、MCPユニットと下側支持部材との間に配置される。また、出力電極は、出力面の出力有効領域を露出させるための第3開口を有し、該第3開口から出力有効領域を露出させた状態で出力面に当接される。可撓性シート電極の上面は、出力電極に対面している。可撓性シート電極の下面のうち少なくとも変形抑制部に相当する部分は、上側支持部材と対面している下側支持部材の主面上に当接されている。この構成により、可撓性シート電極の上面は、下側支持部材の主面から物理的に離間した状態で所定位置に保持されることなる。
【0025】
上記上側支持部材は、第1電位に設定されるよう構成され、実質的に、MCPユニットの入力面を該第1電位に設定するためのMCP入力側電極(以下、「MCP-In電極」と記す)として機能し得る。出力電極は、第1電位よりも高い第2電位に設定されるよう構成され、実質的に、MCPユニットで増倍された電子(二次電子)を下側支持部材側へ引き出すためのMCP出力側電極(以下、「MCP-Out電極」と記す)として機能し得る。下側支持部材は、第2電位よりも高い第3電位に設定されるよう構成され、実質的に、可撓性シート電極を所定電位に設定するための給電電極として機能し得る。二次電子増倍構造の一例として、当該MCPアセンブリの外部に第3電位(下側支持部材)と等しいかそれよりも高い第4電位に設定された外部電極が設置されるTriode構造では、第4電位に設定された外部電極が負電荷粒子捕獲用電極(アノード電極)として機能する一方、可撓性シート電極が加速電極として機能することになる。また、二次電子増倍構造の他の例として、当該MCPアセンブリの外部に第2電位(出力電極)よりも低い第5電位に設定された外部電極が設置された電極構造では、可撓性シート電極は、負電荷粒子捕獲用電極として機能する一方、出力電極と下側支持部材との間の空間で発生した不要な荷電粒子(例えば正イオン)の出力端として機能する。このとき、外部電極は正電荷粒子捕獲用電極として機能する。
【0026】
所定軸に直交する面で規定される、可撓性シート電極の面積は、下側支持部材の第2開口の面積よりも広い。所定軸に沿った、可撓性シート電極の幅は、下側支持部材の幅よりも小さいのが好ましい。
【0027】
上述の二次電子増倍構造の例のように、可撓性シート電極が加速電極として機能する構成においても、出力電極の第3開口を介してMCPユニットから放出された二次電子の透過率を向上させるため、該可撓性シート電極には十分な開口率を有するメッシュ構造が必要にある。また、上述の二次電子増倍構造の他の例のように、可撓性シート電極が負電荷粒子捕獲用電極(アノード電極)として機能する一方、不要な荷電粒子の出力端として機能する構成において、不要な荷電粒子の透過率を次向上させるため、該可撓性シート電極には十分な開口率を有するメッシュ領域が必要になる。しかしながら、開口率が高くなるのに伴ってメッシュ電極自体の厚みが減少するため、係るメッシュ電極自体に十分な物理的強度が得られない。この場合、当該荷電粒子検出器の組み立て工程において、メッシュ電極自体が撓んだ状態で組み込まれる可能性が高くなる。そこで、本実施形態は、このような構造を有する可撓性シート電極の少なくとも変形抑制部が他の電極部材(上側支持部材と下側支持部材)により把持される構造を採用している。
【0028】
ここで、可撓性シート電極の構造的特徴に言及すれば、可撓性シート電極は、上側支持部材に向いた第1表面と、下側支持部材に向いた第2表面を有する。第1表面に一致したメッシュ領域の表面と、該第1表面に一致した変形抑制部の表面は連続している。同様に、第2表面に一致したメッシュ領域の表面と、該第2表面に一致した変形抑制部の表面も連続している。すなわち、上側支持部材から下側支持部材に向かう方向(上記所定軸に一致した電子進行方向)に沿ったメッシュ領域の幅(厚み)と変形抑制部の幅(厚み)は、同じになる。ただし、変形抑制部には開口が設けられていないので、必然的に、電子進行方向に沿って規定される変形抑制部の物理的強度(電子進行方向に沿って一定荷重を付加した時に生じる撓みの程度で規定)は、メッシュ領域の物理的強度よりも高くなる。
【0029】
なお、可撓性シート電極における「メッシュ領域」は、可撓性シート電極の一方の表面(上側支持部材に向いた面か、下側支持部材へ向いた面の何れか)上において特定され得る。具体的には、該可撓性シート電極の表面において、その重心を通る直線上に位置する複数の開口のうち両端の開口で挟まれた領域として、「メッシュ領域」が規定される。「両端の開口は、上記直線上において、一端が別の開口に隣接する一方、他端が解放された開口である。したがって、両端の開口から可撓性シート電極のエッジまでの領域が「変形抑制部」である。また、メッシュ領域における「開口率」は、該メッシュ領域内における任意領域において、「任意領域の総面積」に対する「任意領域内の開口の総面積」の占める割合(百分率)で与えられる。
【0030】
(4)本実施形態の一態様として、メッシュ領域と変形抑制部は、同一導電性材料からなる連続領域であり、この連続領域は、上記所定軸に一致した方向に対して可撓性を有する。したがって、可撓性シート電極の上面に一致したメッシュ領域の一方の面は、該可撓性シート電極の上面に一致した変形抑制部の一方の面と連続している。同様に、可撓性シート電極の下面に一致したメッシュ領域の他方の面は、該可撓性シート電極の下面に一致した変形抑制部の他方の面と連続している。また、本実施形態の一態様として、上記所定軸に沿った方向に沿った変形抑制部の幅は、下側支持部材の幅よりも小さいのが好ましい。
【0031】
(5)本実施形態の一態様として、当該MCPアセンブリは、出力電極と下側支持部材との間に配置された第1絶縁部材を備えてもよい。この場合、第1絶縁部材は、少なくともスペーサとしての機能を有するとともに、出力電極に当接された第1端面と、該第1端面に対向する第2端面と、を有する。なお、メッシュ領域における不要な荷電粒子の通過効率の向上への影響は小さいが、第1絶縁部材は、MCPユニットの出力面からの電子が通過する電子移動空間を取り囲む連続した内壁面により規定される第1貫通孔と、有してもよい。貫通孔は、出力有効領域全体を露出させるよう該出力有効領域の最大幅よりも大きい最大幅を有する。このように、出力極(MCP-Out電極)と下側支持部材(給電電極)との間の電子移動空間(不要な荷電粒子が発生する空間)を第1絶縁部材により取り囲むことにより、MCPユニットから放出された二次電子や不要な荷電粒子の進行可能な領域が可撓性シート電極におけるメッシュ領域に制限される。
【0032】
(6)本実施形態の一態様として、当該MCPアセンブリは、上側支持部材と下側支持部材の相対位置を固定するため、第1絶縁部材から所定距離だけ離間した状態で第1把持部から下側支持部材に向かって伸びる形状を有する第2絶縁部材を、更に備えてもよい。この場合、第2絶縁部材は、上側支持部材に固定された第3端面と、下側支持部材に固定された第4端面と、を有する。一例として、第2絶縁部材の一端と上側支持部材、および、第2絶縁部材の他端と下側支持部材は、それぞれ絶縁ネジにより固定される。
【0033】
(7)本実施形態の一態様として、上側支持部材と下側支持部材の相対位置は、第3絶縁部材(絶縁クリップ)によっても固定され得る。具体的に、第3絶縁部材は、第1固定部と、第2固定部と、両端に第1および第2固定部が設けられた支持部と、を有する。第1固定部は、上側支持部材に対してMCPユニットの反対側に位置し、上側支持部材を下側支持部材に向かって押すよう該上側支持部材に当接される。第2固定部は、下側支持部材に対してMCPユニットの反対側に位置し、下側支持部材を上側支持部材に向かって押すよう該下側支持部材に当接される。支持部は、上側支持部材から下側支持部材へ向かって伸びた形状を有し、その両端に第1固定部および第2固定部が設けられている。
【0034】
(8)上述のような構造を備えたMCPアセンブリは、本実施形態に係る荷電粒子検出器に適用可能である。すなわち、当該荷電粒子検出器は、その一態様として、上述のような構造を備えたMCPアセンブリと、MCPアセンブリを収納する筐体と、下側支持部材の第2開口を介してMCPアセンブリから放出された不要な荷電粒子を捕獲するための荷電粒子捕獲構造と、を備える。
【0035】
(9)本実施形態の一態様として、荷電粒子捕獲構造は、可撓性シート電極に対してMCPユニットの反対側に設置された外部電位形成電極を含むでもよい。また、本実施形態の一態様として、外部電位形成電極は、筐体の一部を構成するとともに、該筐体の内部と該筐体の外部とを連絡する第2貫通孔を有するのが好ましい。この場合、当該荷電粒子検出器内部を効率的に真空引きすることが可能になる。更に、本実施形態の一態様として、荷電粒子捕獲構造は、筐体が搭載された、少なくともその表面に電気回路が設けられたガラスエポキシ基板を含んでもよい。この場合、ガラスエポキシ基板上の負電位部分において可撓性シート電極のメッシュ領域を通過した荷電粒子が捕獲される。
【0036】
(10)更に、当該荷電粒子検出器は、その一態様として、上述のような構造を備えたMCPアセンブリと、MCPアセンブリを収納する筐体と、MCPアセンブリで増倍された後にMCPアセンブリから放出された二次電子を引き付ける二次電子増倍構造と、を備えてもよい。一例として、二次電子増倍構造は、外部電極と、制限構造と、を含んでもよい。外部電極は、可撓性シート電極に対してMCPユニットの反対側に配置された、可撓性シート電極の設定電位と等しいかそれよりも高い電位に設定されるよう構成される。また、制限構造は、MCPユニットからの二次電子の入射に応答して外部電極から放出される反射電子を、可撓性シート電極と外部電極との間の空間に閉じ込めるため、例えば、メッシュ電極に当接された一方の端面と、該一方の端面に対向する他方の端面と、を有する絶縁リングを含む。また、他の例として、二次電子増倍構造は、可撓性シート電極に対してMCPユニットの反対側に配置された、該可撓性シート電極よりも低い電位に設定されるよう構成されたダイノード(反転型ダイノード)を含んでもよい。
【0037】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0038】
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明に係るMCPアセンブリおよび荷電粒子検出器の具体例を、以下に添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0039】
図2は、本実施形態に係る荷電粒子検出器の概略構成を説明するための図である。また、図3は、本実施形態に係る荷電粒子検出器に適用可能なMCPユニットの概略構成を説明するための図である。
【0040】
本実施形態に係る荷電粒子検出器100Bは、図1(a)に示された残留ガス分析装置1の計測部100に適用可能である。具体的に、荷電粒子検出器100Bは、一例として、電子に代表される負電荷粒子を選択的に捕獲するための構造を備える。図2に示されたように、当該荷電粒子検出器100Bは、入力面200aと出力面200bを有するMCPユニット200と、MCPユニット200の出力面200bから放出された電子を電気信号として読み出すためのメッシュ電極(メッシュ領域を有する可撓性シート電極)300と、MCPユニット200の出力面200bから放出された電子の飛行空間において生成された不要な正イオン(M)を捕獲するための荷電粒子捕獲構造(正イオンに代表される正電荷粒子を捕獲するための外部電位形成電極等)400と、を備える。また、MCPユニット200の入力面200aと出力面200bのそれぞれには、入力面200aの電位よりも出力面200bの電位が高くなるよう、ブリーダ回路(電圧制御回路)230から異なる値の電圧(それぞれマイナス電圧)が印加される。メッシュ電極300はグランド電位(0V)に設定されており、該メッシュ電極300に取り込まれたMCPユニット200からの電子は、電気信号として増幅器250に入力される。そして、増幅器250により増幅された電気信号(増幅信号)が出力端OUTから検出される。一方、荷電粒子捕獲構造400は、MCPユニット200の入力面200aと同電位(出力面200bよりも低い電位)に設定されており、MCPユニット200の出力面200bから放出された電子の飛行空間内で電子イオン化により生成された不要な残留ガスイオン(ほとんどが正イオン)は、荷電粒子捕獲構造400により捕獲される。そのため、当該荷電粒子検出器100Bでは、イオンフィードバックに起因したダークノイズの発生が効果的に抑制される。
【0041】
なお、当該荷電粒子検出器100Bに適用されるMCPユニット200の構造の一例が図3に示されている。すなわち、図3(a)は、MCPユニット200の組立工程を示す図であり、図3(b)は、図3(a)中のI-I線に沿った、MCPユニット200の断面図である。
【0042】
図3(a)に示されたように、MCPユニット200は、入力面210aと出力面210bを有するMCP210と、入力面220aと出力面220bを有するMCP220を備える。MCP210に形成された複数の電子増倍チャネル(内壁に二次電子放出面が形成されているチャネル)は、入力面210aに対して所定のバイアス角θだけ傾斜している。同様に、MCP220に形成された複数の電子増倍チャネル(内壁に二次電子放出面が形成されているチャネル)も、入力面220aに対して所定のバイアス角θだけ傾斜している。ここで、バイアス角は、入射荷電粒子が各チャネルの内壁に衝突することなくMCPを通過することを防止するために設けられるチャネルの傾斜角である。
【0043】
上述のような構造を有する2枚のMCP210、220は、互いのバイアス角が一致しないように出力面210bと入力面220aを貼り合わせることにより、積層される。さらに、MCP210の入力面210a上には、電子増倍チャネルの入力開口端が配置された入力有効領域を覆うように電極211が蒸着により形成され、MCP220の出力面220bにも、電子増倍チャネルの出力開口端が配置された出力有効領域を覆うように電極221が蒸着により形成されている。したがって、2枚のMCP210、220が貼り合わされた状態で、電極211の露出面が当該MCPユニット200の入力面200aとなり、電極221の露出面が当該MCPユニット200の出力面200bとなる。ここで、電極211は、MCP210の入力面210aの前面をカバーするのではなく、入力面210aの外周端から0.5mm~1.0mm露出させて形成されている。電極221も同様である。
【0044】
次に、本実施形態に係る可撓性シート電極としてのメッシュ電極300の製造工程を図4および図5を用いて説明する。なお、図4(a)は、メッシュ構造が作り込まれる前の金属シート300Aの平面構造を示す図であり、図4(b)は、図4(a)中のII-II線に沿った金属シート300Aの断面図である。また、図5(a)は、図4(a)および図4(b)に示された金属シート300Aから得られたメッシュ電極(可撓性シート電極)300の平面構造を示す図であり、図5(b)は、図5(a)中のIII-III線に沿ったメッシュ電極300の断面図である。
【0045】
まず、図4(a)および図4(b)に示された金属シート300Aが用意される。用意される金属シート300Aは、ステンレス鋼、銅、およびモリブデンの何れかを主材料とする金属材料からなる。金属シート300Aの表面において、幅WAの外周部分を除いた領域310Aに、上面311Aと下面311Bを連絡する複数の開口が設けられる。当該金属シート300Aの最大径D1から領域310Aの最大径D2を引いた幅WAの領域が変形抑制部となる。金属シート300Aにおける領域310Aの厚みWBは、領域310Aに形成されるメッシュ開口率を55%~95%に設定するため、20μm~100μmである。なお、図4(a)に示された金属シート300Aの平面形状は円形であるが、特に金属シート300Aの平面形状、すなわち得られるメッシュ電極300の平面形状は円形には限定されない。
【0046】
上述のような構造を有する金属シート300Aの上面311A上にレジストが塗布されると、領域310Aに相当する領域内にメッシュ構造が形成されるようパターニングが行われた後、金属シート300Aのエッチングが行われる。これにより、図5(a)および図5(b)に示されたような平面形状及び断面構造を有するメッシュ電極(可撓性シート電極)300が得られる。
【0047】
図5(a)および図5(b)に示されたように、得られたメッシュ電極300は、上面301Aおよび下面301Bを有する可撓性シート電極であって、図4(a)および図4(b)に示された領域310Aに相当する領域に、メッシュ電極本体として機能するメッシュ領域310と、幅WAの変形抑制部320と、を備える。メッシュ領域310は、上面301Aと下面301Bを連絡する複数の開口311が設けられた領域であり、上面301Aから下面301Bに向かう方向に対して可撓性を有する。変形抑制部320は、メッシュ領域310の外縁を取り囲んだ状態で該メッシュ領域310の外縁から該メッシュ領域310の外側に向かって伸びた形状を有する領域であり、メッシュ領域310と同様に、上面301Aから下面301Bに向かう方向に対して可撓性を有する。また、メッシュ領域310と変形抑制部320は、同一の導電性材料からなる。更に、当該メッシュ電極300の上面301Aに一致したメッシュ領域310の一方の面と該上面301Aに一致した変形抑制部320の一方の面は連続している。また、当該メッシュ電極300の下面301Bに一致したメッシュ領域310の他方の面と該下面301Bに一致した変形抑制部320の他方の面も連続している。
【0048】
図6は、本実施形態に係る荷電粒子検出器に適用可能なMCPアセンブリの主要な構成要素を説明するための図である。なお、図6には、第1把持構造を有するMCPアセンブリ150A(図7(a))を実現するための主要な構成要素が示されている。
【0049】
図6に示されたMCPアセンブリ150は、一対の把持部材としてMCP-In電極(上側支持部材)510と給電電極(下側支持部材)350により積層構造体110が把持される構造を有し、MCPアセンブリ150の構成要素を一体的に取り扱うことかできる。一対の把持部材(MCP-In電極510および給電電極350)により挟まれた積層構造体110は、MCP-In電極510から給電電極350に向かって順に配置された、MCPユニット200、MCP-Out電極520、絶縁リング620(第1絶縁部材)、メッシュ電極300により構成されている。
【0050】
上側支持部材として機能するMCP-In電極510は、MCPユニット200の入力面200aを所定電位に設定するための電極であって、開口510aを有する。そのため、MCP-In電極510は、該開口510aからMCPユニット200の入力面200aの入力有効領域を露出させた状態で該入力面200aに当接されている。また、MCP-In電極510の電位設定は、給電ピン514を介して実施される。そのため、MCP-In電極510は、ピン保持片513を有する。更に、MCP-In電極510には、当該MCPアセンブリ150全体を固定するためのアセンブリ支持片511a、511bを備える。
【0051】
MCPユニット200は、一例として図3に示されたような構造を有し、MCP-In電極510に入力面200aが当接された様態で、該MCP-In電極510と給電電極350の間に配置される。
【0052】
MCPユニット200から電子を引き出すための出力電極としてMCP-Out電極520は、給電ピン522を支持するピン保持片521と、MCPユニット200の出力面200bに含まれる出力有効領域を露出されるための開口520aを有する。MCP-Out電極520は、開口520aを介して出力有効領域を露出された状態で該MCPユニットの出力面200bに当接されている。
【0053】
MCP-Out電極520とメッシュ電極(可撓性シート電極)300との間には、絶縁リング620が配置されている。この絶縁リング630は、MCP-Out電極に当接される第1端面と、メッシュ電極300に当接される第2端面と、第1端面と第2端面を連絡する貫通孔620aが設けられている。すなわち、絶縁リング620は、MCPユニット200の出力面200bからの電子が通過する電子移動空間を取り囲む連続した内壁面により規定される貫通孔620aを有する。貫通孔620bは、出力面200bに含まれる出力有効領域全体を露出させるよう該出力有効領域の最大幅よりも大きい最大幅を有する。
【0054】
メッシュ電極300は、MCP-In電極510から給電電極350へ向かう軸方向に対して可撓性を有する可撓性シート電極であり、絶縁リング620と給電電極350との間に配置されている。メッシュ電極300は、絶縁リング620側に位置する面と、給電電極350側に位置する面とを連絡する複数の開口を有するメッシュ領域310と、該メッシュ領域310の外縁から延びた変形抑制部320と、を有する。メッシュ領域310は、メッシュ電極300の一方の表面上において、該表面の重心点を通る直線上に位置する複数の開口(電子増倍チャンネル)のうち両端の開口(上記直線上において一方の端部側が他の開口と隣接していない開口)で挟まれた領域として規定される。また、変形抑制部320は、両端の開口から等が当該メッシュ電極300のエッジまでの領域である。
【0055】
また、メッシュ電極300の構造的特徴として、絶縁リング620側に位置するメッシュ領域310および変形抑制部320の双方の面は連続している。また、給電電極350側に位置するメッシュ領域310および変形抑制部320の双方の面も連続している。すなわち、メッシュ領域310および変形抑制部320は、同一導電性材料からなり、かつ、連続した領域を構成している。加えて、メッシュ領域310および変形抑制部320は、共に所定の厚み(軸方向に沿った幅)WBを有する。上側支持部材として機能する給電電極350は、給電ピン353を支持するピン保持片351と、メッシュ領域310を露出させるための開口350aを有し、メッシュ電極300の一部(変形抑制部320)に当接されている。この構成により、給電電極350を介してメッシュ電極300が所定電位に設定される。
【0056】
上述のメッシュ電極300において、メッシュ領域310の開口率は55%~95%に任意に設定可能であり、これに伴い、厚みWBは、20μm~100μm程度となる。なお、図5(a)、図5(b)および図6に示されたように、メッシュ領域310の周りに該メッシュ領域310よりも高い物理的強度を有する変形抑制部320が設けられた構造では、全体がメッシュ領域で構成されたメッシュ電極と比較して、メッシュ電極300単体での取り扱いが容易になる。特に、図6の例では、変形抑制部320が、何れも変形抑制部の厚みよりも厚い絶縁リング620および給電電極350で、メッシュ電極300単体を挟み込む構造が採用可能になり、メッシュ電極300の正確かつ安定した設置が可能になる。
【0057】
図6に示されたMCPアセンブリ150は、種々の電極部材との組み合わせが可能である。例えば、MCPアセンブリ150には、上述の絶縁リング620と同様の構造を有する絶縁リング810を介して外部電極820が組み合わせ可能である。外部電極820には、例えば、メッシュ電極300の電位と等しいかそれよりも高い電位に設定される外部電極、MCP-Out電極520の電位よりも高く、かつ、メッシュ電極300の電位よりも低い電位に設定される外部電極、MCP-Out電極520の電位よりも低い電位に設定される外部電極などが含まれる。メッシュ電極300の電位よりも高い電位に設定される外部電極とMCPアセンブリ150が組み合わされた第1二次電子増倍構造では、MCP-Out電極520と、アノード電極として機能する外部電極と、加速電極として機能するメッシュ電極300によりTriode構造が構成される。また、MCP-Out電極520の電位よりも高く、かつ、メッシュ電極300の電位よりも低い電位に設定される外部電極820とMCPアセンブリ150が組み合わされた第2二次電子増倍構造では、メッシュ電極300がアノード電極として機能する一方、外部電極820はその表面に二次電子放出面が形成されることにより反転型ダイノードとして機能し得る。更に、MCP-Out電極520の電位よりも低い電位に設定される外部電極820とMCPアセンブリ150が組み合わされた第3二次電子増倍構造では、図2に示された例のように、メッシュ電極がアノード電極(負電荷粒子捕獲用電極)として機能する一方、外部電極が正電荷粒子捕獲用電極として機能し得る。
【0058】
なお、図6には、図7(a)に示された第1把持構造を有するMCPアセンブリ150Aを実現するための構成が示されている。すなわち、MCP-In電極510は、給電電極350との相対位置を固定するための固定片512a、512b、512cが設けられている。一方、給電電極350には、MCP-In電極510との相対位置を固定するための固定片352a、352b、352cが設けられている。ただし、図7(b)に示された把持構造を有するMCPアセンブリ150Bを実現するためには、上述の固定片512a~512c、352a~352cは不要である。
【0059】
図7(a)は、第1把持構造を有するMCPアセンブリ150Aの組み立て工程を説明するための図である。すなわち、図7(a)に示された第1把持構造は、絶縁スペーサ151a~151cを利用して、積層構造体110を把持するMCP-In電極(上側支持部材)510と給電電極(下側支持部材)350の相対位置を固定する。なお、絶縁スペーサ151a~151cは、何れも、長手方向に沿って延びた貫通孔が設けられている。また、積層構造体110は、上述のように、MCPユニット200、MCP-Out電極520、絶縁リング620、メッシュ電極300を含む。
【0060】
絶縁スペーサ151a~151cの一方の端面は、MCP-In電極510に設けられた固定片512a~512cに、それぞれ当接される。また、絶縁スペーサ151a~151cの他方の端面は、給電電極350に設けられた固定片352a~352cに、それぞれ当接される。この状態において、固定片512aのネジ穴、絶縁スペーサ151aの貫通孔、固定片352aのネジ穴を貫くよう、絶縁ネジ161aが取りつけられる。固定片512bのネジ穴、絶縁スペーサ151bの貫通孔、固定片352bのネジ穴を貫くよう、絶縁ネジ161bが取りつけられる。また、固定片512cのネジ穴、絶縁スペーサ151cの貫通孔、固定片352cのネジ穴を貫くよう、絶縁ネジ161cが取りつけられる。
【0061】
一方、図7(b)は、第2把持構造を有するMCPアセンブリ150Bの組み立て工程を説明するための図である。すなわち、図7(b)に示された第2把持構造は、絶縁クリップ171a~171dを利用して、積層構造体110を把持するMCP-In電極(上側支持部材)510と給電電極(下側支持部材)350の相対位置を固定する。なお、この第2把持構造を有するMCPアセンブリ150Bにおいて、MCP-In電極(上側支持部材)510には、図6および図7(a)に示された固定片512a~512cは設けられていない。同様に、給電電極(下側支持部材)350にも、図6および図7(a)に示された固定片352a~352cは設けられていない。
【0062】
図7(b)に示されたように、絶縁クリップ171a~171dそれぞれは、第1固定部173aと、第2固定部173bと、両端に第1および第2固定部173a、173bが設けられた支持部172と、を有する。絶縁クリップ171a~171dそれぞれにおいて、第1固定部173aは、MCP-In電極510に対して積層構造体110の反対側に位置し、該MCP-In電極510を給電電極350に向かって押すよう該MCP-In電極510に当接される。一方、第2固定部173bは、給電電極350に対して積層構造体110の反対側に位置し、該給電電極350をMCP-In電極510に向かって押すよう該給電電極350に当接される。
【0063】
このように、図7(b)に示された第2把持構造によっても、積層構造体110を把持するMCP-In電極(上側支持部材)510と給電電極(下側支持部材)350の相対位置を固定し得る。
【0064】
次に、図8図10を用いて本実施形態に係る荷電粒子検出器の構造を説明する。なお、図8図10に示された例は、何れも図2に示された二次電子増倍構造を有する検出器の構造が示されている。また、図8は、図7(a)に示された第1把持構造を有するMCPアセンブリ150Aが適用される荷電粒子検出器100Baの組み立て工程を説明するための図である。図9(a)は、図8に示された組み立て工程を経て得られた荷電粒子検出器100Baを示す斜視図であり、図9(b)は、図9(a)中のIV-IV線に沿った荷電粒子検出器100Baの内部構造を示す断面図である。図10は、図7(b)に示された第2把持構造のMCPアセンブリ150Bが適用される荷電粒子検出器100Bbの組み立て工程を説明するための図である。
【0065】
図8に示された荷電粒子検出器100Baの組み立て工程では、図7(a)に示されたMCPアセンブリ150Aが筐体内に収納された状態で、ブリーダ回路基板700に設置される。MCPアセンブリ150Aを収納する筐体は、該MCPアセンブリ150A全体を覆う筐体本体500と、荷電粒子捕獲構造400として機能する外部電位形成電極410を含む。MCPアセンブリ150Aは、筐体本体500と外部電位形成電極410により構成された空間内設置される。
【0066】
筐体本体500には、測定対象となる荷電粒子を通過させるための開口500aが設けられており、該開口500aおよびMCP-In電極510の開口510aを介してMCPユニット200の入力面200aに含まれる入力有効領域が露出している。一方、外部電位形成電極410は、中心に筐体内の効率的な真空引きを可能にするための貫通孔411が設けられている。また、MCP-In電極510のピン保持片513により支持された給電ピン514を貫通させるための孔413b、MCP-Out電極520のピン保持片521により支持された給電ピン522を貫通させるための孔413a、給電電極350のピン保持片351により支持された給電ピン353を貫通させるための孔413cがそれぞれ設けられている。また、外部電位形成電極410には、MCPアセンブリ150Aを固定するためのネジ穴414a、414bが設けられるとともに、当該外部電位形成電極410を所望の電位に設定するための給電ピン412が取り付けられている。
【0067】
絶縁スペーサ181a、181bには、長手方向に沿って絶縁ネジ182a、182bを貫通させるための貫通孔がそれぞれ設けられている。絶縁スペーサ181a、181bの一方の端面は、MCP-In電極510に設けられたアセンブリ支持片511a、511bにそれぞれ当接され、絶縁スペーサ181a、181bの他方の端面は、ネジ穴414a、414bを含む外部電位形成電極410の部位にそれぞれ当接されている。この状態において、アセンブリ支持片511aのネジ穴、絶縁スペーサ181aの貫通孔、外部電位形成電極410のネジ穴414aを貫くよう、絶縁ネジ182aが取りつけられる。一方、アセンブリ支持片511bのネジ穴、絶縁スペーサ181bの貫通孔、外部電位形成電極410のネジ穴414bを貫くよう、絶縁ネジ182bが取りつけられる。
【0068】
ブリーダ回路基板700は、ディスク形状を有するガラスエポキシ基板であって、上述のように構成された検出器筐体の支持部として機能するとともに、各電極へ所望の電圧を供給するためのブリーダ回路(分圧回路)230が搭載されている。具体的に、ブリーダ回路基板700は、MCP-Out電極520の給電ピン522が差し込まれる金属ソケット710a、MCP-In電極510の給電ピン514が差し込まれる金属ソケット710b、メッシュ電極300と電気的に接続された給電電極350の給電ピン353が差し込まれる金属ソケット710c、外部電位形成電極410(荷電粒子捕獲構造400)の給電ピン412が差し込まれる金属ソケット710dを保持している。また、これら金属ソケット710a~710dは、ブリーダ回路基板700の表面に形成されたプリント配線720によりブリーダ回路230に電気的に接続されている。なお、各電極の給電ピン514、522、353、412とブリーダ回路230とがプリント配線720を介して電気的に接続される構造であれば、ソケット710a~710dは金属以外の材料で構成されてもよい。
【0069】
外部電位形成電極410は、MCPユニット200から放出された二次電子の飛行空間内での電子イオン化により生成される不要な残留ガスイオン(M)を捕獲するための正電荷粒子捕獲用電極である。少なくともMCP-Out電極520、メッシュ電極300、外部電位形成電極410によりtriode構造が構成された電極空間内では、当該外部電位形成電極410が最も低い電位に設定されるため、この電極空間内で生成された不要な正電荷粒子は必然的に外部電位形成電極410へ向かうことになる。したがって、この外部電位形成電極410の存在により、生成された残留ガスイオンがMCPユニット200側へ移動していく現象、すなわちイオンフィードバックの発生が効果的に抑制され得る。具体的に、外部電位形成電極410は、MCP-Out電極520の電位よりも低い電位に設定されるよう所定の電圧が印加される給電ピン412を備える。更に、該外部電位形成電極410には、MCP-Out電極520の給電ピン522、MCP-In電極510の給電ピン514、メッシュ電極300と電気的に接続された給電電極350の給電ピン353を接触することなく貫通させるための孔413a~413cがそれぞれ設けられている。
【0070】
MCP-In電極510は、外部電位形成電極410と同電位に設定される構成が採用されてもよい。例えば、筐体本体500の開口500aを規定するフランジ部に電気的に接続させた構成であれば、給電ピン412を介して外部電位形成電極410に所定電圧が印加されることにより、MCP-In電極510と外部電位形成電極410は同電位に設定される。なお、外部電位形成電極410の設定電位は、MCP-Out電極520の電位よりも低ければ、MCP-In電極510の電位よりも高く設定されてもよく、また、低く設定されてもよい。
【0071】
次に、図7(b)に示された第2把持構造のMCPアセンブリ150Bが適用される荷電粒子検出器100Bbの組み立て工程を、図10を用いて説明する。なお、図10に示された例も、図2の二次電子増倍構造を実現する例である。
【0072】
図10に示された荷電粒子検出器100Bbの組み立て工程では、図7(b)に示されたMCPアセンブリ150Bが筐体内に収納された状態で、ブリーダ回路基板700に設置される。MCPアセンブリ150Bを収納する筐体は、該MCPアセンブリ150B全体を覆う筐体本体500と、MCPアセンブリ150Bを支持するための筐体底部420を含む。MCPアセンブリ150bは、筐体本体500と筐体底部420により構成された空間内設置される。
【0073】
筐体本体500には、測定対象となる荷電粒子を通過させるための開口500aが設けられており、該開口500aおよびMCP-In電極510の開口510aを介してMCPユニット200の入力面200aに含まれる入力有効領域が露出している。一方、筐体底部420は、中心にメッシュ電極300のメッシュ領域310を露出させるとともに、MCP-In電極510の給電ピン514、MCP-Out電極520の給電ピン522、給電電極350の給電ピン353をそれぞれ接触することなく貫通させる開口420aが設けられている。更に。筐体底部420には、MCPアセンブリ150Bを筐体内で保持するためのネジ穴420b、420cが設けられている。
【0074】
絶縁スペーサ181a、181bには、長手方向に沿って絶縁ネジ182a、182bを貫通させるための貫通孔がそれぞれ設けられている。絶縁スペーサ181a、181bの一方の端面は、MCP-In電極510に設けられたアセンブリ支持片511a、511bにそれぞれ当接され、絶縁スペーサ181a、181bの他方の端面は、ネジ穴414a、414bを含む筐体底部420の部位にそれぞれ当接されている。この状態において、アセンブリ支持片511aのネジ穴、絶縁スペーサ181aの貫通孔、筐体底部420のネジ穴420bを貫くよう、絶縁ネジ182aが取りつけられる。一方、アセンブリ支持片511bのネジ穴、絶縁スペーサ181bの貫通孔、筐体底部420のネジ穴420cを貫くよう、絶縁ネジ182bが取りつけられる。
【0075】
ブリーダ回路基板700は、ディスク形状を有するガラスエポキシ基板であって、上述のように構成された検出器筐体の支持部として機能するとともに、各電極へ所望の電圧を供給するためのブリーダ回路(分圧回路)230が搭載されている。具体的に、ブリーダ回路基板700は、MCP-Out電極520の給電ピン522が差し込まれる金属ソケット710a、MCP-In電極510の給電ピン514が差し込まれる金属ソケット710b、メッシュ電極300と電気的に接続された給電電極350の給電ピン353が差し込まれる金属ソケット710cを保持している。また、これら金属ソケット710a~710cは、ブリーダ回路基板700の表面に形成されたプリント配線720によりブリーダ回路230に電気的に接続されている。なお、各電極の給電ピン514、522、353とブリーダ回路230とがプリント配線720を介して電気的に接続される構造であれば、ソケット710a~710cは金属以外の材料で構成されてもよい。
【0076】
なお、図10に示された荷電粒子検出器100Bbの構成において、荷電粒子捕獲構造は、ブリーダ回路基板自体を含む。その表面の電気回路が形成されたガスエポキシ基板であるブリーダ回路基板700では、負電位の部位が複数存在するため、荷電粒子捕獲構造400として、実質的に図8に示された外部電位形成電極410と同等の機能が実現され得る。あるいは、荷電粒子捕獲構造400として、図8の外部電位形成電極410に相当する電極パッドがブリーダ回路基板上に設けられてもよい。
【0077】
以上のように、本実施形態では、少なくともMCP-Out電極520、メッシュ電極300、荷電粒子捕獲構造400としての外部電位形成電極410によりtriode構造が構成された電極間空間において、上述のように、負電荷粒子捕獲用電極であるメッシュ電極300が最も高い電位に設定され、かつ、正電荷粒子捕獲用電極である外部電位形成電極410が最も低い電位に設定される。このような電極空間内では、主にMCPユニット200から放出される電子などの負電荷粒子は、最も高い電位に設定された電極へ向かう一方、電極間における電子イオン化により生成される不要な残留ガスイオンなどの正電荷粒子は最も低い電位に設定された電極へ向かう。したがって、本実施形態によれば、信号として取り出される電子と不要な残留ガスイオン(不要な荷電粒子)との分離が可能になるとともに、イオンフィードバックの原因となる該不要な残留ガスイオン(正イオン)の選択的な捕獲が可能になる。
【0078】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。例えば、本実施形態に係る荷電粒子検出器の具体的な変形例としては、例えば、図6に示されたMCPアセンブリ150と、該MCPアセンブリ150に組み合わされる外部電極820により構成された二次電子増倍構造を備えてもよい。外部電極820の電位は、メッシュ電極300の電位と等しいかそれよりも高く設定される。このような二次電子増倍構造では、メッシュ電極300が加速電極として機能する一方、外部電極820がアノード電極として機能するため、当該二次電子増倍構造では、MCP-Out電極520、メッシュ電極300、および外部電極820によりTriode構造が構成される。また、このようなTriode構造では、MCPアセンブリ150からの二次電子の入射に応答してアノード電極として機能する外部電極820から放出される反射電子を、加速電極として機能するメッシュ電極300と該外部電極820との間の空間に閉じ込めるための制限構造が設けられるのが好ましい。なお、図6の例では、制限構造は、上述の絶縁リング620と同様の構造を有する絶縁リング810(連続する内壁面により二次電子の通過領域を取り囲む貫通孔が規定される)を含む。
【0079】
本実施形態に係る荷電粒子検出器の他の変形例として、図6の外部電極820が、反転型ダイノードとして利用されてもよい。反転型ダイノードをして機能させるため、外部電極820の表面には、MCPユニット200の各チャネルと同様に二次電子放出面が形成され、該外部電極820の電位は、MCP-Out電極520の電位よりも高く、かつ、メッシュ電極300の電位よりも低く設定される。したがって、この他の変形例において、メッシュ電極300はアノード電極として機能し、メッシュ電極300のメッシュ領域310を通過した二次電子は、反転型ダイノード(外部電極820)で増倍された後に該反転型ダイノードから再度メッシュ電極300へ向けて放出される。このような構成においても、メッシュ電極(アノード電極)300と外部電極(反転型ダイノード)820との間の空間に二次電子の移動を制限するための制限構造として、絶縁リング810は、メッシュ電極300と外部電極820の間に設けられてもよい。何れの変形も、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0080】
1…残留ガス分析装置(質量分析装置)、100B、100Ba、100Bb…荷電粒子検出器、150、150A、150B…MCPアセンブリ、200…MCPユニット、230…ブリーダ回路(電圧制御回路)、300…メッシュ電極(可撓性シート電極)、310…メッシュ領域、320…変形抑制部、350…給電電極(下側支持部材)、400…荷電粒子捕獲構造、410…外部電位形成電極(荷電粒子捕獲構造)、510…MCP-In電極(上側支持部材)、520…MCP-Out電極(出力電極)、620…絶縁リング、700…ブリーダ回路基板(ガラスエポキシ基板)。
図1
図2
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図10