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特許7082003ギ酸溶液の濃縮方法、及びギ酸溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】ギ酸溶液の濃縮方法、及びギ酸溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/47 20060101AFI20220531BHJP
   C01B 3/22 20060101ALI20220531BHJP
   C07C 53/02 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C07C51/47
C01B3/22 Z
C07C53/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018139406
(22)【出願日】2018-07-25
(65)【公開番号】P2020015684
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 広和
(72)【発明者】
【氏名】後藤 里美
(72)【発明者】
【氏名】藤原 修治
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-183487(JP,A)
【文献】特表2003-513945(JP,A)
【文献】特開2013-193983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸を0.01質量%以上30質量%以下含有するpHが8.0より大きい塩基性溶液を、陽イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを含む酸性溶液を得る第一の工程、
前記酸性溶液を陰イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを前記陰イオン交換樹脂に吸着させる第二の工程、
吸着された前記ギ酸イオンを、酸を含む溶離液によって前記陰イオン交換樹脂から溶出させる第三の工程、
を含むギ酸溶液の濃縮方法。
【請求項2】
前記塩基性溶液が、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ジアザビシクロウンデセン、又はトリエチルアミンを含有する塩基性溶液である、請求項1に記載のギ酸溶液の濃縮方法。
【請求項3】
前記ギ酸イオンを含む塩基性溶液の溶媒が水である請求項1又は2に記載のギ酸溶液の濃縮方法。
【請求項4】
前記第一の工程において、前記酸性溶液のpHが7.0未満である請求項1~3のいずれか1項に記載のギ酸溶液の濃縮方法。
【請求項5】
前記陽イオン交換樹脂が強酸性陽イオン交換樹脂である請求項1~のいずれか1項に記載のギ酸溶液の濃縮方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のギ酸溶液の濃縮方法を含むギ酸溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸溶液の濃縮方法、及びギ酸溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化、化石燃料枯渇の問題などから、次世代エネルギーとして水素エネルギーに高い期待が寄せられている。水素エネルギー社会を実現するためには、水素の製造、貯蔵、利用の各技術が必要であるが、水素貯蔵には貯蔵、輸送、安全性、サイクル、コスト等の様々な課題がある。
【0003】
水素貯蔵技術は、主に、圧縮水素での貯蔵、低温液体水素での貯蔵、水素貯蔵材料での貯蔵に分けられる。圧縮水素での貯蔵には35~70MPaの高圧が、液体水素での貯蔵には-253℃以下と非常に低い温度が必要とされ、コスト面、安全面で優れた水素貯蔵法とは言えない。
こうした背景により水素貯蔵材料として、水素貯蔵合金、有機ハイドライド、無機ハイドライド、有機金属錯体、多孔質炭素材料等の、各種材料の開発が検討されている。中でも有機ハイドライドは、取扱いの簡便さや、水素貯蔵密度が高く軽量であるといった利点を有し注目されている。
【0004】
有機ハイドライドとしては、ベンゼン、トルエン、ビフェニル、ナフタレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素化合物が知られている。これらの炭化水素化合物は、体積貯蔵密度及び質量貯蔵密度が圧縮水素や水素吸蔵合金等と比べて高く、また、常温で液体であるため、輸送面でのメリットがあるが、危険物とされているものもあるため、取扱いに注意が必要である。また、脱水素化反応により水素を取り出す際にはエネルギーが必要となる。
そして、炭化水素化合物と同等の体積貯蔵密度及び質量貯蔵密度を有し、脱水素化反応に必要なエネルギーが炭化水素化合物よりも低く、より簡便な取扱いが可能な化合物として、ギ酸が検討されている。ギ酸を水素貯蔵材料として用いるには、輸送コストの削減のためギ酸溶液を濃縮することが必要である。
【0005】
一方、乳酸、コハク酸等の有機酸の濃縮の方法としては、有機酸を陰イオン交換樹脂に吸着して濃縮する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、発酵により生産された有機酸を含む有機酸水性粗溶液を、II型強塩基性イオン交換樹脂と接触させて、有機酸イオンをII型強塩基性イオン交換樹脂に吸着させ、吸着された有機酸イオンを、鉱酸水溶液を含む溶離液によって溶出させる方法が記載されている。また、特許文献2には、有機酸を含有する被処理液を、強塩基性陰イオン交換樹脂を通過させて、有機酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、有機酸を溶出させ回収する有機酸の分離・回収方法が記載されている。
また、特許文献3にはギ酸メチルを加水分解してギ酸を得るギ酸の製造方法と、抽出と蒸留によりギ酸溶液を濃縮する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-39505号公報
【文献】特開2006-212617号公報
【文献】国際公開第2001/034545号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ギ酸を水素貯蔵材料として用いる場合、塩基性溶液中で、二酸化炭素と水素とを接触させる、又は二酸化炭素を電気化学的に還元する反応等によりギ酸を生成させる。しかし、反応が平衡により停止し、低濃度のギ酸溶液しか得られない。輸送コストの削減には、高濃度のギ酸溶液とすることが望ましく、本発明者らは、低濃度でギ酸を含む塩基性溶液を、低エネルギーで濃縮する必要があるという、新たな課題を見出した。
【0008】
しかしながら、二酸化炭素と水素より生成した低濃度のギ酸溶液を、抽出と蒸留のみで濃縮するには多大なエネルギーを要する。
特許文献1及び2で得られる有機酸溶液は酸性であり、従来の技術においては、塩基性のギ酸溶液を、陰イオン交換樹脂に吸着して濃縮する方法については検討がされていない。
また、本発明者らの知見によれば、塩基性のギ酸溶液の濃縮に陰イオン交換樹脂を用いた場合、ギ酸の吸着量が少なく、その濃縮効率は満足できるものではないことがわかった。
【0009】
そこで、本発明は、ギ酸イオンを含む塩基性溶液を、高効率で濃縮し得るギ酸溶液の濃縮方法、及びギ酸溶液の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ギ酸イオンを含む塩基性溶液を、高効率で濃縮することを目的として、鋭意検討を重ねた結果、ギ酸イオンを含む塩基性溶液を陽イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを含む酸性溶液とすることが重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の一態様は、ギ酸イオンを含む塩基性溶液を陽イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを含む酸性溶液を得る第一の工程、
上記酸性溶液を陰イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを上記陰イオン交換樹脂に吸着させる第二の工程、
吸着された上記ギ酸イオンを、酸を含む溶離液によって上記陰イオン交換樹脂から溶出させる第三の工程、
を含むギ酸溶液の濃縮方法に関する。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記ギ酸溶液の濃縮方法を含むギ酸溶液の製造方法に関する。
【0013】
本発明の一態様において、上記ギ酸イオンを含む塩基性溶液の溶媒が水であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様において、上記第一の工程は、上記酸性溶液のpHが7.0未満であることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様において、上記陽イオン交換樹脂は強酸性陽イオン交換樹脂であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ギ酸イオンを含む塩基性溶液を高効率で濃縮し得る、ギ酸溶液の濃縮方法、及びギ酸溶液の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本発明の実施形態に係るギ酸溶液の濃縮方法は、
ギ酸イオンを含む塩基性溶液を陽イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを含む酸性溶液を得る第一の工程、
上記酸性溶液を陰イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを樹脂に吸着させる第二の工程、
吸着された上記ギ酸イオンを、酸を含む溶離液によって陰イオン交換樹脂から溶出させる第三の工程を含む。
【0018】
〔第一の工程〕
第一の工程は、ギ酸イオンを含む塩基性溶液を陽イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを含む酸性溶液を得る工程である。この工程により、ギ酸イオンを含む塩基性溶液中に存在する金属イオン等の陽イオンが陽イオン交換樹脂に吸着され、水素イオンが陽イオン交換樹脂より放出されてギ酸イオンを含む酸性溶液(以下、酸性ギ酸溶液と称する場合がある)が得られる。
ここで、塩基性ギ酸溶液の酸性化するために、陽イオン交換樹脂を用いずに酸を用いると、ギ酸溶液が更に低濃度になるという問題がある。また、中和により発生する塩イオンにより、陰イオン交換樹脂へのギ酸イオンの吸着量が低下し、濃縮効率が悪化する。
【0019】
塩基性ギ酸溶液におけるギ酸濃度は、イオン交換樹脂を使用する観点から、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。塩基性ギ酸溶液におけるギ酸濃度の下限値としては、特に限定はないが、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。
【0020】
塩基性ギ酸溶液の溶媒としては、塩基性ギ酸溶液が均一であればよく、特に制限は無いが、水、メタノール、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、及びこれらの混合溶媒等が挙げられ、水を含むことが好ましく、水であることがより好ましい。
塩基性ギ酸溶液中には、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ジアザビシクロウンデセン、又はトリエチルアミン等を含有することが好ましく、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムを含有することがより好ましい。
塩基性ギ酸溶液のpHとしては、8.0より大きいことが好ましく、8.5以上がより好ましい。また、塩基性溶液のpHは、酸性化効率化の観点から、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。
【0021】
塩基性ギ酸溶液を陽イオン交換樹脂に接触させる方式に特に制限は無く、陽イオン交換樹脂をカラムに充填して塩基性ギ酸溶液を通液するカラム式でも、陽イオン交換樹脂を塩基性ギ酸溶液中に分散させて攪拌するバッチ式でもよい。好ましくは、連続して行えるカラム式の方法で行う。
【0022】
カラム式を用いる場合、カラムに塩基性ギ酸溶液を接触させる条件としては、例えば、製造効率の観点から、空塔速度(SV)=0.1hr-1以上、より好ましくは0.2hr-1以上、更に好ましくは、0.5hr-1以上を挙げることができる。また、十分に酸性化を行う観点から、好ましくは空塔速度(SV)=50hr-1以下、より好ましくは10hr-1以下、更に好ましくは、8hr-1以下を挙げることができる。
塩基性ギ酸溶液は、陽イオン交換樹脂の総イオン交換容量に対して、塩基性ギ酸溶液中の陽イオンの量が0.01~1倍量となる量を通液することにより行うことが好ましい。また、カラムからの流出液中のpHをモニタしながら、酸性化を確認することが好ましい。
【0023】
また、バッチ式を用いる場合には、塩基性ギ酸溶液に陽イオン交換樹脂を加えた後、一定時間撹拌後、陽イオン交換樹脂を取り除く方法が例示できる。
塩基性ギ酸溶液に陽イオン交換樹脂を接触させる時間としては、十分に酸性化を行う観点から、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。また、製造効率の観点から、5時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。
陽イオン交換樹脂の総イオン交換容量と、塩基性ギ酸溶液の陽イオン量との比率は、塩基性ギ酸溶液中の陽イオン量に対し、陽イオン交換樹脂の総イオン交換容量を、好ましくは1倍以上、より好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上を例示することができる。
【0024】
陽イオン交換樹脂としては、スルホン酸基等の強酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂や、カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基等の弱酸基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂等が挙げられる。
強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、デュオライト(登録商標)C20JH、C255LFH、C26TRH(以上住友ケムテックス社製)、ダイヤイオン(登録商標)SK1B、SK104、SK110、PK208、PK212、PK216(以上、三菱化学社製)等が挙げられる。
弱酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、ダイヤイオン(登録商標)WK10、WK11、WK100、WK40L(以上、三菱化学社製)が挙げられる。
中でも、陽イオン交換樹脂としては、陽イオンの吸着能力が高い点から強酸性陽イオン交換樹脂であることが好ましい。
第一の工程により得られる酸性ギ酸溶液のpHは、最終的に得られるギ酸溶液の濃縮効果をより高くする観点から、7.0未満が好ましく、6.0以下がより好ましく、5.0以下が更に好ましく、4.0以下が特に好ましい。また、酸性ギ酸溶液のpHは、塩基性陰イオン交換樹脂によるギ酸イオン交換効率の観点から、1.0以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、3.0以上が更に好ましい。pHは、陽イオン交換樹脂の種類、使用量、接触条件等により調整が可能である。
【0025】
陽イオン交換樹脂の粒径は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上であり、特に好ましくは0.3mm以上である。また、陽イオン交換樹脂の粒径は、好ましくは2mm以下、より好ましくは1.5mm以下であり、特に好ましくは1.2mm以下である。
【0026】
〔第二の工程〕
第二の工程は、酸性ギ酸溶液を陰イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを樹脂に吸着させる工程である。この工程により、酸性ギ酸溶液中に存在するギ酸イオンが、陰イオン交換樹脂に吸着される。また、陰イオン交換樹脂より水酸化物イオンが放出される。
【0027】
酸性ギ酸溶液を陰イオン交換樹脂に接触させる方式に特に制限は無く、陰イオン交換樹脂をカラムに充填して、酸性ギ酸溶液を通液するカラム式であっても、陰イオン交換樹脂を酸性ギ酸溶液中に分散させて、攪拌するバッチ式のいずれで行ってもよい。好ましくは、連続して行えるカラム式の方法で行う。
【0028】
カラム式を用いる場合、カラムに酸性ギ酸溶液を接触させる条件としては、例えば、製造効率の観点から、空塔速度(SV)=0.1hr-1以上、より好ましくは0.2hr-1以上、更に好ましくは0.5hr-1以上を挙げることができる。また、ギ酸イオンを十分に吸着させる観点から、好ましくは空塔速度(SV)=50hr-1以下、より好ましくは10hr-1以下、更に好ましくは8hr-1以下を挙げることができる。
酸性ギ酸溶液は、陰イオン交換樹脂の総イオン交換容量に対して、酸性ギ酸溶液中のギ酸イオンの量が0.01~1倍となる量を通液することにより行うことが好ましい。また、ギ酸の吸着は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography))等によって、カラムからの流出液中のギ酸濃度を、モニタすることにより、確認することが好ましい。
【0029】
また、バッチ式を用いる場合には、酸性ギ酸溶液に陰イオン交換樹脂を加えた後、一定時間撹拌後、陰イオン交換樹脂を取り除く方法が挙げられる。
酸性ギ酸溶液に陰イオン交換樹脂を接触させる時間としては、十分に酸性化を行う観点から、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。また、接触時間は、製造効率の観点から、5時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。
陰イオン交換樹脂の総イオン交換容量と酸性ギ酸溶液のギ酸イオンとの比率は、酸性ギ酸溶液中のギ酸イオン量に対し、陰イオン交換樹脂の総イオン交換容量を好ましくは1倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上を例示することができる。
【0030】
陰イオン交換樹脂としては、I型強塩基性イオン交換樹脂、II型強塩基性イオン交換樹脂、弱塩基性イオン交換樹脂等を用いることができる。
I型強塩基性イオン交換樹脂は、トリメチルアンモニウム基を有する強塩基性イオン交換樹脂であり、例えば、ダイヤイオンSA10A、ダイヤイオンSA12A、ダイヤイオンSA11A、ダイヤイオンNSA100(いずれも三菱化学社製)、デュオライトUP5000、デュオライトA113LF、デュオライトA109D、デュオライトA161JCL(住化ケムテックス社製)等が挙げられる。
【0031】
II型強塩基性イオン交換樹脂は、メチルエタノールアンモニウム基等を有する強塩基性イオン交換樹脂であり、例えば、架橋共重合体としてスチレン/ジビニルベンゼン樹脂母体に、アルキレン基を介して結合された-N(CHOH基を有するもの等が挙げられる。
II型強塩基性イオン交換樹脂としては、例えばダイヤイオンSA20A、ダイヤイオンPA408、ダイヤイオンPA412、ダイヤイオンPA418(いずれも三菱化学社製)、ダウエックスマラソンA2、アンバーライトIRA410J、アンバーライトIRA411、アンバーライトIRA910CT(いずれもダウエックス社製)、ピュロライトA200,ピュロライトA300,ピュロライトA510(いずれもピュロライト社製),レバチットM610、レバチットMP600(いずれもランクセス社製)、デュオライトA116(住化ケムテックス社製)等を使用することができる。
【0032】
弱塩基性イオン交換樹脂としては、弱塩基性アニオン交換基を有するイオン交換樹脂であり、弱塩基性アニオン交換基としては、1~3級アミノ基等が挙げられる。弱塩基性イオン交換樹脂としては、例えば、デュオライトA375LF(住化ケムテックス社製)、ダイヤイオンWA10、WA11(三菱化学社製)、アンバーライトIRA67(オルガノ社製)等を使用することができる。
【0033】
陰イオン交換樹脂として、I型強塩基性イオン交換樹脂、II型強塩基性イオン交換樹脂、又は弱塩基性イオン交換樹脂を用いた場合、ギ酸イオンの吸着力、及びギ酸の第三の工程における溶出効率にそれぞれ大きな差異は無い。しかし、I型強塩基性イオン交換樹脂、及びII型強塩基性イオン交換樹脂は陰イオンが樹脂に強く吸着するため、第三の工程を経た後の陰イオン交換樹脂の再生に多量の再生液が必要となる点から、弱酸性イオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
陰イオン交換樹脂の粒径は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上であり、特に好ましくは0.3mm以上である。また、陽イオン交換樹脂の粒径は、好ましくは2mm以下、より好ましくは1.5mm以下であり、特に好ましくは1.2mm以下である。
【0035】
〔第三の工程〕
第三の工程は、吸着されたギ酸イオンを、酸性の溶離液によって陰イオン交換樹脂から溶出させる工程である。
酸性の溶離液としては、酸を含む溶離液であることが好ましく、酸を含む水溶液が好ましい。酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。溶離液に用いる水としては、脱イオン水、蒸留水、純水のいずれであってもよい。また、ギ酸の溶出を補助する目的で、アセトニトリル、メタノール、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を一部含んでいてもよい。これら有機溶媒の含有量としては、好ましくは溶離液中に45質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。有機溶媒の含有量の下限値に特に限定はなく、実質的に0質量%以上である。
酸性の溶離液の酸の濃度は、ギ酸の高濃度回収の観点から、好ましくは1N以上、より好ましくは2N以上である。また、ギ酸溶出効率の観点から、好ましくは12N以下、より好ましくは10N以下である。
酸性の溶離液は、蒸留等で除去し易い点で塩酸水溶液が好ましい。酸性の溶離液として塩酸水溶液を用いる場合、ギ酸の高濃度回収の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、ギ酸溶出効率の観点から、40質量%以下が好ましく、36質量%以下がより好ましい。
【0036】
カラム溶出液を分取して、酵素センサー、イオンクロマトグラフィー、分光光度計等の分析手段で、溶出成分をモニタしながら、濃縮されたギ酸溶液を回収することができる。
溶出液中のギ酸濃度(mol/L)は、塩基性ギ酸溶液中のギ酸濃度(mol/L)の1.5倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましく、3倍以上が更に好ましい。
塩基性ギ酸溶液中のギ酸濃度が低ければ、濃縮率は高くなる。最終的に、本発明の実施形態におけるギ酸溶液は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上の濃度で回収できる。
【0037】
本実施形態の方法によれば、塩基性ギ酸溶液を陰イオン交換樹脂と接触させて、ギ酸イオンを樹脂に吸着、及び溶出させるよりも、はるかに効率良くギ酸溶液を濃縮することができる。また、溶出液として得られたギ酸溶液を、定法に従いさらに減圧蒸留等に付することによって、水、鉱酸及び有機溶剤等を除去し、目的とするギ酸の高濃度溶液を高い回収率で得ることができる。
【0038】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0039】
〔実施例1〕
下記のとおり塩基性ギ酸溶液の濃縮を行った。
【0040】
<第一の工程>
炭酸水素ナトリウム(和光純薬製)67.2gに水を加え1Lとし、攪拌し、0.8mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液を得た。純度98%ギ酸(和光純薬製)2.55gに97.45gの0.8mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、攪拌し、2.5質量%のギ酸を含んだ塩基性ギ酸溶液を得た(pH9.1)。上記で得られた塩基性ギ酸溶液10gを、強酸性陽イオン交換樹脂(デュオライトC20JH、住化ケムテックス社製)10gと混合して酸性化した後、濾別して酸性ギ酸溶液を得た。得られた酸性ギ酸溶液のpHを自動滴定装置 COM-1750S(平沼産業製)により測定したところ3.4であった。
【0041】
<第二の工程>
上記で得られた酸性ギ酸溶液5gを、強塩基性I型イオン交換樹脂(デュオライトUP5000、住化ケムテックス社製)1gと混合してギ酸を吸着させ濾別した。強塩基性I型イオン交換樹脂1gあたりのギ酸の吸着量は0.10g/g-Rであった。ギ酸の吸着量はHPLCにより、溶液中のギ酸濃度の変化を測定し、下記の式1により算出した。
(式1):
イオン交換樹脂1g当たりのギ酸吸着量(g)=[(A(質量%)-B(質量%))×C(g)]/D(g)
A:塩基性ギ酸溶液中のギ酸の濃度(質量%)
B:陰イオン交換後の酸性ギ酸溶液中のギ酸の濃度(質量%)
C:酸性ギ酸溶液の質量(g)
D:陰イオン交換樹脂の質量(g)
【0042】
また、HPLCは以下の条件により行った。定量用標準物質にはギ酸(和光純薬製)濃度が0.001~1質量%となるよう調製したギ酸水溶液を用いた。
装置:LC-MS2010EV(島津製作所製)
カラム:YMC-Triart C18(3.0mmΦ×15cm,平均粒径5μm,平均細孔径12nm)
カラム温度:37℃
移動相:A液 0.1%HPO:アセトニトリル=95:5(体積比),
B液 アセトニトリル
グラジエント条件:0~5分,B液0%(ホールド)→5~5.01分,B液0~95%(グラジエント)→5.01~10分,B液95%(ホールド)→10~10.01分,B液95~0%(グラジエント)→10.01~20分,B液0%(ホールド)
流速:0.425mL/min
検出:UV210nm
【0043】
<第三の工程>
濾別した強塩基性I型イオン交換樹脂を、20質量%塩酸水溶液0.5gと混合し、ギ酸イオンを溶出させて溶出液を得た。得られた溶出液中のギ酸濃度(抽出ギ酸濃度)をHPLCにて測定したところ、8質量%であった。
【0044】
〔実施例2〕
第二の工程における陰イオン交換樹脂を強塩基性II型イオン交換樹脂(ダイヤイオンUSA20A、三菱化学社製)に変更したこと以外は実施例1と同様に塩基性ギ酸溶液の濃縮を行った。結果を表1に示す。
【0045】
〔実施例3〕
第二の工程における陰イオン交換樹脂を弱塩基性イオン交換樹脂(デュオライトA375LF、住化ケムテックス社製)に変更したこと以外は実施例1と同様に塩基性ギ酸溶液の濃縮を行った。結果を表1に示す。
【0046】
〔実施例4〕
第一の工程における陽イオン交換樹脂を弱酸性イオン交換樹脂(ダイヤイオンWK40L、三菱化学社製)に変更したこと以外は実施例1と同様に塩基性ギ酸溶液の濃縮を行った。結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例5〕
第一の工程における陽イオン交換樹脂を弱酸性イオン交換樹脂(ダイヤイオンWK11、三菱化学社製)に変更したこと以外は実施例1と同様に塩基性ギ酸溶液の濃縮を行った。結果を表1に示す。
【0048】
<比較例1>
第一の工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様に塩基性ギ酸溶液の濃縮を行った。結果を表1に示す。
【0049】
<比較例2>
第一の工程において、陽イオン交換樹脂を用いず、塩基性ギ酸溶液10gと36%塩酸3gとを混合して酸性化し、酸性ギ酸溶液を得た以外は実施例1と同様に塩基性ギ酸溶液の濃縮を行った。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から分かるように、実施例1~5は、第一の工程で陽イオン交換樹脂を用いて酸性化したことにより、第二の工程における陰イオン交換樹脂へのギ酸の吸着量が多く、ギ酸濃縮効果が高い。
実施例1~3は、第一の工程で強酸性陽イオン交換樹脂を用いたため、実施例4、及び5と比較して酸性ギ酸溶液のpHが低く、第二の工程における陰イオン交換樹脂へのギ酸の吸着量が多く、ギ酸濃縮効果が高い。
比較例1は、陽イオン交換樹脂による第一の工程を実施しなかったため、実施例1~5に比べギ酸吸着量が少なく、ギ酸濃縮効果が低い。
比較例2は第一の工程に塩酸を用いたため、実施例1~5と比較して酸性ギ酸溶液のpHは2.4と低いものの、陰イオン交換樹脂へのギ酸の吸着量が少なく、ギ酸濃縮効果が低い結果となった。