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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】微粒子測定システム、計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/12 20060101AFI20220531BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20220531BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G01N15/12 F
G01N27/02 D
G01N27/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018165314
(22)【出願日】2018-09-04
(65)【公開番号】P2020038121
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-102747(JP,A)
【文献】特開2001-305041(JP,A)
【文献】特開平05-249024(JP,A)
【文献】特開昭61-088125(JP,A)
【文献】米国特許第06122599(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00 - 15/14
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔および電極対を有するナノポアデバイスを用いた微粒子測定システムであって、
前記ナノポアデバイスに流れる電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプと、
前記電極対の間に直流のバイアス電圧を印加する電圧源と、
前記電圧信号を受けるハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタの出力を第1デジタルデータに変換する第1A/Dコンバータと、
前記ハイパスフィルタを通過しない信号を第2デジタルデータに変換する第2A/Dコンバータと、
を備え、
前記電圧信号からDC成分を除去した前記第1デジタルデータと、前記電圧信号からDC成分を除去しない前記第2デジタルデータと、にもとづいて、微粒子を測定するとともに、前記ナノポアデバイスの状態を監視可能であることを特徴とする微粒子測定システム。
【請求項2】
前記第1A/Dコンバータの分解能は、前記第2A/Dコンバータの分解能より高いことを特徴とする請求項に記載の微粒子測定システム。
【請求項3】
前記第1A/Dコンバータのサンプリングレートは、前記第2A/Dコンバータのサンプリングレートより高いことを特徴とする請求項またはに記載の微粒子測定システム。
【請求項4】
前記第1デジタルデータにもとづいて、微粒子を検出する処理と、前記第2デジタルデータに応じて、前記ナノポアデバイスの状態を監視する処理と、を実行するプロセッサを含むことを特徴とする情報処理装置をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の微粒子測定システム。
【請求項5】
前記情報処理装置は、前記ナノポアデバイスの目詰まりを検出可能であることを特徴とする請求項に記載の微粒子測定システム。
【請求項6】
前記情報処理装置は、前記第2デジタルデータが示す電流量が所定時間にわたり、所定値より小さいときに、前記ナノポアデバイスが目詰まり状態であると判定することを特徴とする請求項5に記載の微粒子測定システム。
【請求項7】
細孔および電極対を有するナノポアデバイスを測定する計測装置であって、
前記ナノポアデバイスに流れる電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプと、
前記電極対の間に直流のバイアス電圧を印加する電圧源と、
前記電圧信号からDC成分を除去するハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタの出力を第1データに変換する第1A/Dコンバータと、
前記ハイパスフィルタを通過する前の前記電圧信号を、第2データに変換する第2A/Dコンバータと、
前記第1データを格納するための第1キャッシュ群と、
前記第2データを格納するための第2キャッシュ群と、
前記第1データおよび前記第2データを、前記第1キャッシュ群および前記第2キャッシュ群に書き込むとともに、前記第1データおよび前記第2データを読み出すキャッシュコントローラと、
前記キャッシュコントローラが読み出した前記第1データおよび前記第2データを、外部の情報処理装置に伝送するバスコントローラと、
を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項8】
前記第1A/Dコンバータのサンプリングレートは、前記第2A/Dコンバータのサンプリングレートよりも高く、
前記キャッシュコントローラは、前記第1キャッシュ群に含まれる複数のキャッシュのいずれかにおいてキャッシュフルが生ずると、前記第1データの読み出しを開始し、前記第2キャッシュ群に含まれる複数のキャッシュのいずれかにおいてキャッシュフルが生ずると、前記第2データの読み出しを開始することを特徴とする請求項に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノポアデバイスを用いた計測に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的検知帯法(コールター原理)と呼ばれる粒度分布測定法が知られている。この測定法では、粒子を含む電解液を、ナノポアと称される細孔を通過させる。粒子が細孔を通過するとき、細孔中の電解液は粒子の体積に相当する量だけ減少し、細孔の電気抵抗を増加させる。したがって細孔の電気抵抗を測定することで、粒子より細孔の厚みの方が大きい場合には通過する粒子の体積を測定することができ、粒子より細孔の厚みの方が十分に小さい場合、通過している粒子の断面積(すなわち径)を測定することができる。
【0003】
図1は、電気的検知帯法を用いた微粒子測定システム1Rのブロック図である。微粒子測定システム1Rは、ナノポアデバイス100、計測装置200Rおよびデータ処理装置300を備える。
【0004】
ナノポアデバイス100の内部は、検出対象の粒子4を含む電解液2が満たされる。ナノポアデバイス100の内部は、ナノポアチップ102によって2つの空間に隔てられており、2つの空間には電極106と電極108が設けられる。電極106と電極108の間に電位差を発生させると、電極間にイオン電流が流れ、また電気泳動によって粒子4が細孔104を経由して、一方の空間から他方の空間に移動する。
【0005】
計測装置200Rは、電極対106,108の間に電位差を発生させるとともに、電極対の間の抵抗値Rpと相関を有する情報を取得する。計測装置200Rは、トランスインピーダンスアンプ210、電圧源220、デジタイザ230を含む。電圧源220は電極対106,108の間に電位差Vbを発生させる。この電位差Vbは、電気泳動の駆動源であるとともに、抵抗値Rpを測定するためのバイアス信号となる。
【0006】
電極対106,108の間には、細孔104の抵抗に反比例する微小電流Isが流れる。
Is=Vb/Rp …(1)
【0007】
トランスインピーダンスアンプ210は、微小電流Isを電圧信号Vsに変換する。変換ゲインをrとするとき、以下の式が成り立つ。
Vs=r×Is …(2)
式(1)を式(2)に代入すると、式(3)が得られる。
Vs=Vb×r/Rp …(3)
デジタイザ230は、電圧信号VsをデジタルデータDsに変換する。このように計測装置200Rにより、細孔104の抵抗値Rpに反比例する電圧信号Vsを得ることができる。
【0008】
図2は、計測装置200Rにより測定される例示的な微小電流Isの波形図である。なお本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0009】
粒子が通過する短い期間、細孔104の抵抗値Rpが増大する。したがって、粒子が通過するごとに電流Isはパルス状に減少する。電流Isの変化量は、粒径と相関を有する。データ処理装置300は、デジタルデータDsを処理し、電解液2に含まれる粒子4の個数や粒径分布などを解析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-014702号公報
【文献】特開2014-209081号公報
【文献】特開2017-120257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、粒子の情報だけでなく、ナノポアデバイスの状態も取得可能な微粒子測定システムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある態様は、細孔および電極対を有するナノポアデバイスを用いた微粒子測定システムに関する。微粒子測定システムは、ナノポアデバイスに流れる電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプと、電極対の間に直流のバイアス電圧を印加する電圧源と、を備える。システムは、電圧信号からDC成分を除去した第1データと、電圧信号からDC成分を除去しない第2データと、にもとづいて、微粒子を測定するとともに、ナノポアデバイスの状態を監視可能である。
【0013】
本発明の別の態様は、微粒子測定システムに用いられる情報処理装置に関する。微粒子測定システムは、細孔および電極対を有するナノポアデバイスと、電極対に電圧を印加し、電極対に流れる電流を検出し、DC成分を除去した第1データと、DC成分を含む第2データを生成する計測装置と、を備える。情報処理装置は、第1データに応じて、微粒子を検出する処理と、第2データに応じて、ナノポアデバイスの状態を監視する処理と、を実行するプロセッサを含む。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、微粒子の測定方法に関する。測定方法は、微粒子を含む電解液を、細孔および電極対を有するナノポアデバイスに充填するステップと、電極対に電圧を印加し、電極対に流れる電流波形を測定するステップと、電流波形のDC成分を除去した第1データと、DC成分を含む第2データを生成するステップと、第1データに応じて、微粒子を検出するステップと、第2データに応じて、ナノポアデバイスの状態を監視するステップと、を備える。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、細孔および電極対を有するナノポアデバイスを測定する計測装置に関する。計測装置は、ナノポアデバイスに流れる電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプと、電極対の間に直流のバイアス電圧を印加する電圧源と、電圧信号からDC成分を除去するハイパスフィルタと、ハイパスフィルタの出力を第1データに変換する第1A/Dコンバータと、ハイパスフィルタを通過する前の電圧信号を、第2データに変換する第2A/Dコンバータと、第1データを格納するための第1キャッシュ群と、第2データを格納するための第2キャッシュ群と、第1データおよび第2データを、第1キャッシュ群および第2キャッシュ群に書き込むとともに、第1データおよび第2データを読み出すキャッシュコントローラと、キャッシュコントローラが読み出した第1データおよび第2データを、外部の情報処理装置に伝送するバスコントローラと、を備える。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のある態様によれば、粒子の情報だけでなく、ナノポアデバイスの状態も取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】電気的検知帯法を用いた微粒子測定システムのブロック図である。
図2】計測装置により測定される例示的な微小電流Isの波形図である。
図3】実施の形態に係る微粒子測定システムのブロック図である。
図4図4(a)、(b)は、電圧信号、第1信号、第2信号の波形図である。
図5】細孔の目詰まり検出を説明する図である。
図6】微粒子測定システムにおける微粒子計測のフローチャートである。
図7】計測装置のブロック図である。
図8図7の計測装置のキャッシュ制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0021】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0022】
(基本構成)
図3は、実施の形態に係る微粒子測定システム1のブロック図である。微粒子測定システム1は、ナノポアデバイス100、計測装置200、データ処理装置300を備える。
【0023】
ナノポアデバイス100については、図1を参照して説明した通りであり、細孔104が設けられたナノポアチップ102と、電極対106,108を備える。ナノポアチップ102の内部は、KCl(塩化カリウム)やPBS(リン酸緩衝生理食塩水)などの電解液で満たされる。
【0024】
計測装置200は、電極対106,108に電圧を印加し、細孔104に流れる電流Isを測定可能に構成される。計測装置200は、フロントエンド回路として、トランスインピーダンスアンプ210、電圧源220を備える。電圧源220は、電極対106,108の間に直流のバイアス電圧Vbを印加する。トランスインピーダンスアンプ210は、ナノポアデバイス100に流れる電流Isを電圧信号Vsに変換する。
【0025】
微粒子測定システム1は、電圧信号VsからDC成分を除去した第1データD1と、電圧信号VsからDC成分を除去しない第2データD2と、にもとづいて、電解液2に含まれる粒子4を測定するとともに、ナノポアデバイス100の状態(あるいはナノポアチップ102の状態)を監視可能である。
【0026】
第1データD1および第2データD2の取得に関して、計測装置200は、ハイパスフィルタ250、第1A/Dコンバータ231、第2A/Dコンバータ232を備える。ハイパスフィルタ250は、電圧信号Vsの直流成分(ベースライン成分)を除去する。第1データD1は、ハイパスフィルタ250の出力V1にもとづいて生成される一方、第2データD2は、ハイパスフィルタ250を通過しない電圧信号Vsにもとづいて生成される。
【0027】
第1A/Dコンバータ231は、ハイパスフィルタ250の出力信号である第1信号V1をデジタルの第1データD1に変換する。第1A/Dコンバータ231の前段には、アンチエイリアシングフィルタ251が挿入される。
【0028】
ハイパスフィルタ250の入力信号Vsは、第2信号V2として第2A/Dコンバータ232に入力される。第2A/Dコンバータ232の前段には、アンチエイリアシングフィルタ252が挿入してもよい。アンチエイリアシングフィルタ252を通過した第2信号V2は、電圧信号VsのDC成分を含むが、不要な高周波成分が除去された信号となる。第1A/Dコンバータ231と第2A/Dコンバータ232の分解能やサンプリングレートは異なっていてよい。
【0029】
インタフェース240は、第1データD1および第2データD2をデータ処理装置300に送信するとともに、データ処理装置300からの制御信号を受信する。
【0030】
データ処理装置300は、ユーザとのインタフェースであり、また微粒子測定システム1を統合的に制御し、測定結果を取得、保存、表示する機能を備える。データ処理装置300は、汎用的なコンピュータやワークステーションであってもよいし、微粒子測定システム1専用に設計されたハードウェアであってもよい。
【0031】
データ処理装置300は、計測装置200から受信した第1データD1および第2データD2を処理し、電解液2に含まれる粒子4の個数や粒径を取得するとともに、ナノポアデバイス100の状態を監視する。
【0032】
たとえばデータ処理装置300は、ラップトップコンピュータやデスクトップコンピュータ、タブレット端末などの情報処理装置である。本明細書において説明されるデータ処理装置300の機能は、情報処理装置が有するプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)と、プロセッサが実行するソフトウェアプログラムの組み合わせによって実現される。
【0033】
以上が微粒子測定システム1の構成である。続いてその動作を説明する。図4(a)、(b)は、電圧信号Vs、第1信号V1、第2信号V2の波形図である。本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0034】
図4(a)には、長い時間スケールにおいて電圧信号Vs(電流信号Is)のベースラインをマクロ的にみた波形が示される。長い時間スケールでみると、電圧信号Vsのベースラインは時間とともに減少していき、ナノポアデバイス100のインピーダンスは、長い時間スケールでみると、増大していく。インピーダンスが増大する理由としては、電極の表面に酸化膜が形成されたり、汚れが付着することなどが挙げられる。
【0035】
図4(b)には、図4(a)の短い時間スケールtsが拡大して示される。電圧信号Vsは、ベースライン成分に、粒子の通過に対応するスパイク状の信号成分が重畳された波形として観測される。第1信号V1は、信号成分に対応した波形を有し、第2信号V2は、ベースラインに対応する波形を有する。つまり第1信号V1から得られる第1データD1は信号成分を表し、第2信号V2から得られる第2データD2はベースライン成分を表す。
【0036】
微粒子測定システム1によれば、第1データD1にもとづいて、粒子の径を測定することができる。また第2データD2にもとづいて、ナノポアデバイス100の状態を監視することができる。ナノポアデバイス100の状態の一例としては、細孔104の目詰まりが例示される。
【0037】
図5は、細孔104の目詰まり検出を説明する図である。時刻tより前において目詰まりは生じておらず、電圧信号Vsのベースラインは時間とともに緩やかに変動しており、第2信号V2も緩やかに変換する。細孔104内に粒子あるいはその他のデブリが滞留すると、電極間のインピーダンスが高くなり、電流信号Isが流れにくくなるため、電圧信号Vsのベースラインが低下する。たとえばデータ処理装置300は、第2データD2が所定の条件を満たすときに、目詰まり異常と判定し、ユーザに通知・警報することができる。所定の条件は、第2データD2が所定のしきい値より小さい状態が、所定時間にわたり持続したことであってもよい。図5の例では、時刻tに、第2データD2がしきい値THより小さくなり、それから所定時間τ経過後の時刻tに、目詰まり異常と判定される。
【0038】
なお、微粒子測定システム1によって監視するナノポアデバイス100の状態は、細孔104の目詰まりに限定されず、ベースラインと相関を有するさまざまな現象、状態が含まれる。たとえばベースラインは、ナノポアデバイス100に充填される電解液2の濃度に依存するところ、電解液2はユーザによる試薬操作によって生成されるため、濃度にはばらつきが発生する。したがって微粒子測定システム1によれば、電解液2の濃度を監視することができ、あるいは濃度の異常を検出することができる。
【0039】
ベースラインは、電極対106,108の距離に応じて変化する。ナノポアデバイス100は半導体プロセスで製造されるため、電極対106,108間の距離は、プロセスばらつきの影響を受ける。またベースラインは細孔104の径やナノポアチップ102の厚みも、ベースラインに影響を及ぼす。したがって、微粒子測定システム1によれば、ナノポアデバイス100の製造不良や、一時的な異常を検出できる。
【0040】
また微粒子測定システム1は以下の利点を有する。電圧信号VsのフルスケールをFSとするとき、信号成分の振幅の最大値AMAXは、フルスケールFSに対して小さい。電圧信号Vsを、A/Dコンバータによって取り込む場合、A/Dコンバータの入力ダイナミックレンジをフルスケールFSを考慮して決定する必要がある。そうすると、信号成分の分解能は低くなる。たとえばA/Dコンバータの分解能を10ビット、振幅の最大値AMAXがフルスケールFSの1/4であるとき、信号成分は、8ビット相当の分解能でしか取り込むことができない。
【0041】
図3の計測装置200では、ベースラインが除去された第1信号V1を生成し、第1信号V1を第1A/Dコンバータ231によって取り込むこととした。したがって第1A/Dコンバータ231の入力ダイナミックレンジは、電圧信号Vsのフルスケールでなく、振幅の最大値AMAX(第1信号V1のフルスケール)を基準として定めることができる。これにより、信号成分を高い分解能で取り込むことができる。
【0042】
第1A/Dコンバータ231は、速い速度で変化する信号成分を入力とする一方、第2A/Dコンバータ232は、緩やかに変化するベースラインを入力とする。したがって第1A/Dコンバータ231のサンプリングレートは、第2A/Dコンバータ232のサンプリングレートより相対的に高くてよい。
【0043】
また、第1A/Dコンバータ231は微小に変化する信号成分を入力とする一方、第2A/Dコンバータ232は、幅広いレンジで変化するベースラインを入力とする。したがって、第1A/Dコンバータ231の分解能は、第2A/Dコンバータ232の分解能より高くてよい。
【0044】
図6は、微粒子測定システム1における微粒子計測のフローチャートである。はじめに、粒子4を含む電解液2を、細孔104および電極対106,108を有するナノポアデバイス100に充填する(S100)。そして計測装置200によって、電極対106,108にバイアス電圧Vbの印加をスタートする(S102)。そして、電極対106,108に流れる電流波形を測定する(S104)。電流波形のDC成分を除去した第1データD1と、DC成分を含む第2データD2とが、それぞれのサンプリングレートで生成される(S106,S108)。データ処理装置300は、第1データD1に応じて、微粒子を検出し(S110、第2データD2に応じて、ナノポアデバイス100の状態を監視する(S112)。
【0045】
なおフローチャートに示される処理、ステップの順序は、処理に支障のない限り変更することができ、またいくつかの処理は同時並列的に実行することができる。たとえば、第1データD1と第2データD2に関する処理は、同時並列的に行ってもよい。
【0046】
続いてナノポアデバイス100の具体的な構成例を説明する。図7は、計測装置200のブロック図である。
【0047】
インタフェース240は、第1キャッシュ群241、第2キャッシュ群242、キャッシュコントローラ244、バスコントローラ246を備える。第1キャッシュ群241は複数(この例では2個)のキャッシュC1-1,C1-2を含み、第1データD1を格納する。第2キャッシュ群242は複数のキャッシュC2-1,C2-2を含み、第2データD2を格納する。
【0048】
キャッシュコントローラ244は、第1キャッシュ群241への第1データD1の書き込み、第2キャッシュ群242への第2データD2の書き込みを制御するライトコントローラと、第1キャッシュ群241からの第1データD1の読み出し、第2キャッシュ群242からの第2データD2の読み出しを制御するリードコントローラを含む。
【0049】
具体的には、ライトコントローラは、第1キャッシュ群241の複数のキャッシュC1-1,C1-2の中から、ライト対象となる1個を選択し、それに対して第1データD1を順に書き込んでいく。またリードコントローラは、ライドコントローラによってライト対象とされてないひとつをライト対象として選択し、それから第1データD1を読み出す。第2キャッシュ群242側についても同様である。
【0050】
バスコントローラ246は、キャッシュコントローラ244が読み出した第1データD1および第2データD2を、外部の情報処理装置(図3のデータ処理装置300)に伝送する。
【0051】
上述のように第1A/Dコンバータ231のサンプリングレートは、第2A/Dコンバータ232のサンプリングレートよりも高い。また第1A/Dコンバータ231のビット数は、第2A/Dコンバータ232のビット数よりも高い。
【0052】
キャッシュコントローラ244は、第1キャッシュ群241と第2キャッシュ群242のいずれかにおいてキャッシュフルが発生すると、ライト対象のキャッシュを切り替えるとともに、元のライト対象をリード対象に切り替えて、第1データD1、第2データD2の読み出しを開始する。
【0053】
図8は、図7の計測装置200のキャッシュ制御を説明する図である。図8には、各キャッシュのデータ量が示される。
【0054】
時刻tに、データ処理装置300から計測装置200に対して、計測開始の命令が与えられる。キャッシュコントローラ244は、計測開始の命令に応答して、第1A/Dコンバータ231および第2A/Dコンバータ232の制御および第1キャッシュ群241、第2キャッシュ群242への書き込み制御を開始する。
【0055】
はじめは、キャッシュC1-1、C2-1がライト対象に選択されており、それらに第1データD1、第2データD2が書き込まれる。
【0056】
理解の容易化のため、第1データD1のビット数(たとえば14ビット)は、第1キャッシュ群241に含まれるキャッシュC1の1ワード(たとえば16ビット)より小さいものとする。同様に、第2データD2のビット数(たとえば10ビット)は、第2キャッシュ群242に含まれるキャッシュC2の1ワード(たとえば16ビット)より小さいものとする。
【0057】
キャッシュC1のワード数をX1、キャッシュC2のワード数をX2とする。また第1A/Dコンバータ231のサンプリングレートをr1、第2A/Dコンバータ232のサンプリングレートをr2とする。第1キャッシュ群241、第2キャッシュ群242それぞれのキャッシュC1,C2がフルになる時間T1、T2は以下の式で表される。
T1=X1/r1
T2=X2/r2
ここでは、T1<T2であるとする。r1、r2は、キャッシュのデータ量の増加の傾きに対応する。
【0058】
時刻t(=T1)に、第1キャッシュ群241側のキャッシュC1-1においてキャッシュフルが発生する。キャッシュコントローラ244は、このキャッシュフルをトリガとして、それまでライト対象であったキャッシュC1-1,C2-1をリード対象に切り替える。そしてキャッシュコントローラ244は、リード対象のキャッシュC1-1,C2-1に格納される第1データD1,第2データD2を読み出し、データ処理装置300に送信される。各キャッシュにおいてデータリードが完了すると、データをクリアしてもよい。
【0059】
時刻t以降、キャッシュC1-2,C2-2がライト対象に選択され、それらに第1データD1、第2データD2が書き込まれる。そして時刻tに第1キャッシュ群241側のキャッシュC1-2においてキャッシュフルが発生すると、再び、リード対象、ライト対象が入れ替えられる。以後、同じ処理が繰り返される。
【0060】
キャッシュC1の1ワードのビット数(16ビット)と、キャッシュC2の1ワードのビット数(16ビット)の合計は、バスのデータ幅と同じか、それより小さいとする。この場合、第1データD1と第2データD2を1ワードずつ読み出して、同時にバスに出力することができる。リード数は、ワード数が多いデータに合わせればよく、この例では第1データD1のワード数X1が、リード数となる。キャッシュC2には、(r2×T1)個の第2データD2がストアされているから、(r2×T1+1)個目以降については、無効化すればよい。
【0061】
ここで説明したキャッシュ制御の利点は、比較技術との対比によって明確となる。比較技術では、第1キャッシュ群241においてキャッシュフルが発生すると、第1キャッシュ群241のリード命令が発生し、第2キャッシュ群242においてキャッシュフルが発生すると、第2キャッシュ群242のリード命令が発生する。第1キャッシュ群241におけるキャッシュフルと第2キャッシュ群242におけるキャッシュフルは非同期で発生する。そうすると、第1キャッシュ群241のリード命令と第2キャッシュ群242のリード命令が同時に発行する状況(衝突という)が生ずる。この場合、一方のリード動作が完了した後に、他方のリード動作が開始するため、読み出しに時間がかかる。また状況によっては、一方のリード命令が正しく認識されずに、データ抜けが発生するおそれがある。
【0062】
これに対して図7の計測装置200によれば、2つのリード命令が衝突しなくなるため、
第1データD1、第2データD2を確実にデータ処理装置300に送信することができる。
【0063】
比較技術では、2つのリード命令が異なるタイミングで発生した場合、バスは、キャッシュC1を読み出す時間と、キャッシュC2を読み出す時間の合計だけ占有される。これに対して、図7の計測装置200によれば、一方のキャッシュC1を読み出す間に、他方のキャッシュC2を読み出すことができるため、バスの占有時間を短縮できる。
【0064】
また、比較技術では、バスのデータ幅(32ビット)のうち、第1データD1の伝送中、第2データの伝送中で、それぞれ、16ビットずつしか使用しておらず、無駄が生じていた。これに対して図7の計測装置200によれば、バスのデータ幅を有効に利用できる。
【0065】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0066】
(第1変形例)
実施の形態では、アナログ領域で、第1信号V1と第2信号V2を生成し、デジタルデータD1,D2を取得したがその限りでない。たとえば電圧信号Vsを高速かつ高分解能なA/Dコンバータによってデジタル信号Dsに変換し、デジタル信号処理により、第1データD1と第2データD2を生成してもよい。具体的には、デジタルのハイパスフィルタを用いてデジタル信号Dsを処理することで、第1データD1を生成してもよく、デジタルのローパスフィルタを用いてデジタル信号Dsを処理することで、第2データD2を生成してもよい。
【0067】
たとば計測装置200は、デジタル信号Dsをデータ処理装置300に送信し、データ処理装置300におけるデータ処理によって、第1データD1と第2データD2を生成してもよい。
【0068】
あるいは計測装置200に、デジタル信号Dsから第1データD1と第2データD2を生成するデジタルフィルタあるいはプロセッサを搭載し、第1データD1と第2データD2をデータ処理装置300に送信してもよい。
【0069】
(第2変形例)
実施の形態では、第2データD2の生成に、ローパスフィルタ(アンチエイリアシングフィルタ)を利用したがその限りでなく、ローパスフィルタは省略することもできる。なぜなら、第2データD2は、ナノポアデバイスの状態の監視に利用できる程度の情報、すなわちおおまかな電流レベルが取得できればよく、したがってサンプリングノイズ等が含まれていたとしても大きな影響はないからである。
【0070】
(第3変形例)
計測装置200からデータ処理装置300への第1データD1、第2データD2の伝送は以下のように行ってもよい。たとえば、第1データD1と第2データD2それぞれのビット数が、バスのデータ幅より大きい場合には、第1キャッシュ群241からすべての第1データD1を先行して読み出してデータ処理装置300に送信し、続いて第2キャッシュ群242からすべての第2データD2を読み出してデータ処理装置300に送信してもよい。
【0071】
(第4変形例)
図7の計測装置200において、同じアドレスに対して書き込みと読み出しが同時に可能なデュアルポートキャッシュを用いてもよい。
【0072】
(第5変形例)
本明細書では微粒子計測装置について説明したが本発明の用途はそれに限定されず、DNAシーケンサをはじめとするナノポアデバイスを用いた微小電流計測を伴う計測器に広く用いることができる。
【0073】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0074】
1 微粒子測定システム
2 電解液
4 粒子
100 ナノポアデバイス
102 ナノポアチップ
104 細孔
106,108 電極
200 計測装置
210 トランスインピーダンスアンプ
220 電圧源
250 ハイパスフィルタ
252 アンチエイリアシングフィルタ
231 第1A/Dコンバータ
232 第2A/Dコンバータ
240 インタフェース
241 第1キャッシュ群
242 第2キャッシュ群
244 キャッシュコントローラ
246 バスコントローラ
300 データ処理装置
V1 第1信号
V2 第2信号
D1 第1データ
D2 第2データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8