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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】原子力プラントの換気空調システム
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/02 20060101AFI20220531BHJP
   G21C 13/00 20060101ALI20220531BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20220531BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220531BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G21F9/02 511N
G21C13/00 500
G21F9/02 511C
G21F9/02 551A
G21F9/02 Z
G21F9/02 B
B01D53/22
B01D71/02 500
B01D71/64
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018171062
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041956
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松崎 隆久
(72)【発明者】
【氏名】富永 和生
(72)【発明者】
【氏名】福井 宗平
(72)【発明者】
【氏名】北薗 孝太
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502303(JP,A)
【文献】特開平09-133788(JP,A)
【文献】特開2018-119821(JP,A)
【文献】特開2005-083946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 11/00-13/10
G21F 1/00- 7/06
9/00- 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントにおける作業員の滞在可能な部屋又は機器を収容可能な部屋に接続された換気空調システムであって、
外部環境及び前記部屋に連通し、外部環境から空気を取込み可能な第1ラインと、
前記第1ラインに設置され、前記部屋へ空気を供給する第1送風機と、
前記第1ラインに設置され、分子レベルの網目構造を有することで気体の分子径の差を利用して特定の気体を選択的に透過させる分子ふるい膜を備える第1フィルタ装置と、
一方側が前記第1ラインにおける前記第1フィルタ装置の上流側に接続され、他方側が外部環境に連通する第2ラインと、
前記第2ラインに設置され、前記第1フィルタ装置を透過できない気体を外部環境側へ排出する第2送風機とを備え
前記第1フィルタ装置の分子ふるい膜は、キセノンガスを捕集可能な特性を有する
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項2】
請求項1に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1フィルタ装置の分子ふるい膜は、キセノンガスを捕集可能かつ酸素ガスが透過可能な特性を有する
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項3】
請求項1に記載の換気空調システムにおいて、
前記部屋は、前記機器を収容する機器室であり、
前記第1フィルタ装置の分子ふるい膜は、クリプトンガスを捕集可能な特性を有する
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項4】
請求項1に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1フィルタ装置の分子ふるい膜は、セラミック膜、高分子膜、及び酸化グラフェン膜のいずれか1つの膜である
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項5】
請求項4に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1フィルタ装置の分子ふるい膜は、窒化ケイ素を主成分としたセラミック膜である
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項6】
請求項4に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1フィルタ装置の分子ふるい膜は、ポリイミドを主成分とした高分子膜である
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項7】
請求項4に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1フィルタ装置の分子ふるい膜は、炭素を主成分とした酸化グラフェン膜である
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項8】
請求項1に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1ラインにおける前記第2ラインとの接続部よりも上流側に設置された第2フィルタ装置を更に備え、
前記第2フィルタ装置は、粒子状の放射性物質及び放射性ヨウ素を捕集するように構成されている
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項9】
請求項2に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1ラインにおける前記第1フィルタ装置の下流側に設置されたホールドアップ装置を更に備え、
前記ホールドアップ装置は、放射性希ガスを吸着剤によって物理吸着するように構成されている
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項10】
請求項2に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1ラインにおける前記第1フィルタ装置の下流側に設置されたイオン化希ガス除去装置を更に備え、
前記イオン化希ガス除去装置は、放射性希ガスをイオン化し、イオン化した放射性希ガスから化学反応によって希ガス化合物を生成し、生成した希ガス化合物を吸着剤によって化学吸着するように構成されている
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項11】
請求項2に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1ラインにおける前記第1フィルタ装置の下流側に設置された酸素イオン透過装置を更に備え、
前記酸素イオン透過装置は、酸素イオンの透過が可能なイオン伝導性の酸素分離膜によって空気中に含まれる酸素ガスを空気から分離するように構成されている
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項12】
請求項2に記載の換気空調システムにおいて、
前記第1ラインにおける前記第1フィルタ装置の下流側に設置された溶解分離装置を更に備え、
前記溶解分離装置は、放射性希ガスを含む空気を溶媒に導入して放射性希ガスを溶媒に溶解させることで放射性希ガスを空気から分離するように構成されている
ことを特徴とする換気空調システム。
【請求項13】
請求項2に記載の換気空調システムにおいて、
前記部屋内の空気を再び前記部屋内へ供給可能な再循環ラインと、
前記再循環ラインに設置され、前記再循環ラインを流れる空気中に含まれる二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置とを更に備える
ことを特徴とする換気空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントの換気空調システムに係り、更に詳しくは、原子力プラントにおける放射性物質の漏洩事故に対応可能な換気空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントは、通常運転時や事故時に原子炉等の運転制御及び監視を行う中央制御室を有している。原子力プラントの中には、事故時の作業対応を行うための緊急対策所(免震重要棟と称されることがある)を有するものもある。中央制御室や緊急対策所等の作業員が滞在して作業を行う居住エリアには、換気空調システムが接続されている。換気空調システムは、外気を取り込んで居住エリアへ空気を供給すると共に居住エリア内の空気を外部環境へ排出することで、居住エリアの環境(温度や湿度)を適切に保つものである。
【0003】
原子力プラントは、また、ポンプや電源盤、制御盤等の各種機器を収容する機器室を有している。機器室にも換気空調システムが接続されている。換気空調システムを用いることで、各種機器の発熱による室内の温度上昇を防止し、それら機器の継続的な動作を確保している。
【0004】
原子力プラントにおいては、万が一事故が発生して外部環境の放射能濃度が増加した場合でも、居住エリア内の作業員の被ばくを防止することが求められている。そのため、換気空調システムは、一般に、事故時に外気中に含まれる可能性のある放射性物質を除去可能な特殊フィルタ(例えば、HEPAフィルタやチャコールフィルタなど)を備えており、外部環境の放射能の増加(放射性物質の漏洩事故)を検知した場合、空調の運転モードを通常換気モードから非常用換気モードに切り換えて取り込んだ外気を特殊フィルタに通すことで、周辺環境から居住エリア内への放射性物質の流入を制限している(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
特許文献1に記載の換気空調設備では、取り込んだ外気を中央制御室へ供給するためのライン上に特殊フィルタが設置されており、事故時に外部環境へ放出される可能性のある放射性ヨウ素や放射性セシウムなどを特殊フィルタによって除去することで、中央制御室へ供給される外気中に含まれる放射性物質の量を極力低減しつつ、中央制御室全体を陽圧化することで外部環境から中央制御室内への放射性物質の侵入を防止している。しかし、事故時に外部環境へ放出される可能性のある放射性希ガスは反応性が乏しいので、特許文献1に記載の特殊フィルタでは放射性希ガスの除去が難しい。作業員が事故時に中央制御室に留まると、作業員の放射性希ガスによる被ばく量が増加する虞がある。そこで、特許文献1に記載の換気空調設備では、中央制御室内の一画に中央制御室退避室を設けると共に、外気よりも高圧の酸素を供給可能な酸素ボンベを中央制御室の外部に備えている。放射性希ガスが中央制御室へ流入する場合には、作業員を中央制御室退避室に退避させると共に、作業員の生存に必要な酸素を酸素ボンベから中央制御室退避室へ高圧の状態で供給して放射性希ガスの中央制御室退避室への侵入を阻止することで、作業員の被ばく量の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-32494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の換気空調設備のように、放射性物質の漏洩事故時に中央制御室退避室等の居住エリア内に外気を取り入れることなく酸素ボンベから酸素(空気)を供給する場合、居住エリア内に留まることが可能な人数や時間が酸素ボンベの容量や数量によって制限されてしまう。したがって、事故収束に向けた作業を多数の作業員により長時間行うためには、予め膨大な数の酸素ボンベを備えておく必要がある。しかし、このような備えは多大なコスト及び広い設置スペースを要する。
【0008】
また、特許文献1に記載のように中央制御室の一画に退避室を設ける場合、プラントの状態を表示する表示機やプラントを制御する操作盤を退避室内に設けることが可能であるとしても、中央制御室の機能と全く同等の機能を退避室内に確保することは難しい。したがって、退避室内に退避した作業員が行う事故収束に向けた作業が制限される可能性がある。
【0009】
そのため、事故収束に向けた作業を中央制御室内で実行できるように、放射性希ガスの中央制御室内への侵入自体を抑制して作業員の放射性希ガスによる被ばく量を抑制したいという要求がある。
【0010】
また、機器室に収容される機器(特に、電子機器類)では、機器室内に侵入した放射性物質からの放射線による機器の誤作動や損傷を防止するために、放射線耐性の高い機器を用いることがある。また、機器を遮蔽することで放射線による機器への影響を緩和させることもある。しかし、これらの放射線対策では、コストの増大が懸念される。そのため、放射性希ガスの機器室への侵入自体を抑制して機器への放射線による影響を抑制したいという要求がある。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、放射性希ガスの中央制御室又は機器室等の部屋内への侵入を抑制することができる原子力プラントの換気空調システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、原子力プラントにおける作業員の滞在可能な部屋又は機器を収容可能な部屋に接続された換気空調システムであって、外部環境及び前記部屋に連通し、外部環境から空気を取込み可能な第1ラインと、前記第1ラインに設置され、前記部屋へ空気を供給する第1送風機と、前記第1ラインに設置され、分子レベルの網目構造を有することで気体の分子径の差を利用して特定の気体を選択的に透過させる分子ふるい膜を備える第1フィルタ装置と、一方側が前記第1ラインにおける前記第1フィルタ装置の上流側に接続され、他方側が外部環境に連通する第2ラインと、前記第2ラインに設置され、前記第1フィルタ装置を透過できない気体を外部環境側へ排出する第2送風機とを備え、前記第1フィルタ装置の分子ふるい膜は、キセノンガスを捕集可能な構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放射性物質の外部環境への漏洩事故時に換気空調システムに取り込む空気中に含まれる可能性のある放射性希ガスのうち少なくともキセノンガスを第1フィルタ装置の分子ふるい膜により捕集して第2ラインを介して第2送風機により外部環境へ排出することが可能なので、放射性希ガスの部屋内への侵入を抑制することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムを示す主要系統図である。
図2図1に示す本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1の実施の形態における非常用運転モード時の機能を示す説明図である。
図3】本発明の原子力プラントの換気空調システムの第2の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムを示す主要系統図である。
図4】本発明の原子力プラントの換気空調システムの第3の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムを示す主要系統図である。
図5】本発明の原子力プラントの換気空調システムの第4の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムを示す主要系統図である。
図6】本発明の原子力プラントの換気空調システムの第4の実施の形態の一部を構成する溶解分離装置を示す概略図である。
図7】本発明の原子力プラントの換気空調システムの第5の実施の形態としての機器室の換気空調システムを示す主要系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の原子力プラントの換気空調システムの実施の形態について図面を用いて説明する。
[第1の実施の形態]
まず、本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムの構成について図1を用いて説明する。図1は本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムを示す主要系統図である。
【0016】
図1において、原子力プラントは、プラントの運転制御及び監視を行う中央制御室101を備えている。中央制御室101は、作業員が常駐し、通常運転時では原子炉等の運転や監視を行う一方、事故時では事故を収束させるべく安全上の対策や運転操作を行う場所である。中央制御室101では、事故時に周辺の外部環境が厳しい状況にあっても作業員が可能な限り種々の監視や操作を行うことができるように、居住性の確保が求められている。
【0017】
中央制御室101には、換気空調システム1が接続されている。換気空調システム1は、外部環境から大気(空気)を取り込んで中央制御室101へ供給すると共に中央制御室101内の空気を外部環境へ排出することで、中央制御室101内の環境(温度や湿度、酸素濃度等)を維持するものである。原子力プラントで万が一事故が発生して放射性物質が周辺の外部環境へ漏洩した場合、放射性物質が換気空調システム1を介して中央制御室101へ流入する可能性がある。そこで、換気空調システム1は、原子力プラントの通常運転時の通常運転モードで使用される系統と事故時の非常用運転モードで使用される系統の両系統を備えている。
【0018】
なお、外部環境の空気中へ漏洩して問題となる放射性物質として、放射性セシウムや放射性ヨウ素の他に、キセノン及びクリプトンを主に含む放射性希ガスが挙げられる。放射性セシウムや放射性ヨウ素の発生量が特に多い。放射性希ガスのなかでは、量的には、キセノンが大部分を占めており、クリプトンは少ない傾向にある。
【0019】
換気空調システム1は、給気系統として、外部環境から空気を取り込むための外気取込口11と、外気取込口11と中央制御室101とを接続する給気ライン12とを備えている。給気ライン12は、外部環境及び中央制御室に連通しており、外部環境から外気取込口11を介して取り込んだ空気を中央制御室101へ導くものである。給気ライン12には、上流側から順に、放射線検出部13、第1送風機14が設けられている。放射線検出器13は、放射性物質の外部環境への漏洩を検知するものである。放射線検出器13は、例えば、図示しない制御装置に接続されており、検出信号を制御装置へ出力する。第1送風機14は、中央制御室101へ空気を強制的に供給するものであり、例えば、図示しない制御装置によって制御される。
【0020】
給気ライン12は、放射線検出部13と第1送風機14との間において、並列に接続された第1給気ライン16と第2給気ライン17とを有している。第1給気ライン16は、通常運転モード時に使用される系統であり、外部環境から取り込んだ空気を通常運転時に流通させるラインである。一方、第2給気ライン17は、非常用運転モード時に使用される系統であり、外部環境から取り込んだ空気を放射性物質の漏洩事故等の非常時に流通させるラインである。
【0021】
第1給気ライン16と第2給気ライン17との上流側の接続部分には、切換弁18が設けられている。切換弁18は、取り込んだ空気を第1給気ライン16及び第2給気ライン17のいずれか一方に流通させるものであり、例えば、三方弁で構成されている。切換弁18は、取り込んだ空気を、通常運転モードでは第1給気ライン16へ流通させる一方、非常用運転モードでは第2給気ライン17へ流通させるように切り換えられる。
【0022】
第2給気ライン17には、上流側から順に、前段フィルタ装置21、後段フィルタ装置22、ホールドアップ装置23が設置されている。第2給気ライン17は、これらの装置21、22、23によって取り込んだ空気中に含まれる放射性物質を除去するためのラインである。
【0023】
前段フィルタ装置21は、放射性セシウムを含む粒子状の放射性物質及び放射性ヨウ素を捕集するように構成されたものである。前段フィルタ装置21は、例えば、活性炭やゼオライト等の表面に多数の細孔を有する材料を用いたフィルタ(例えば、チャコールフィルタ)やHEPAフィルタ等を備えている。ただし、前段フィルタ装置21では、取り込んだ空気気中に含まれる可能性のある放射性希ガスを除去することは難しい。
【0024】
後段フィルタ装置22は、分子レベルの網目構造を有し、各種気体の分子径の差を利用して特定の気体を選択的に透過させる分子ふるい膜を備えている。後段フィルタ装置22の分子ふるい膜は、例えば、放射性希ガスのうちのキセノンガス(分子径が例えば約0.396nm)が透過しにくい一方、酸素ガス(分子径が例えば約0.346nm)が透過しやすい特性を有している。後段フィルタ装置22の分子ふるい膜として、ポリイミドを主成分とした材料により形成された高分子膜、窒化ケイ素を主成分とした材料により形成されたセラミック膜、炭素を主成分とした材料により形成された酸化グラフェン膜の3種類の膜のいずれかを用いることが好適である。酸化グラフェン膜を用いた分子ふるい膜は、キセノンガスを空気から分離する性能が上記3種類の膜のうち最も高いという特徴がある。高分子膜を用いた分子ふるい膜は、キセノンガスを空気から分離する性能が比較的高いと共に、空気中に含まれる水蒸気(中央制御室101へ供給すべき成分)の透過性能が高いという特徴がある。セラミック膜を用いた分子ふるい膜は、高い強度と高い耐熱性を有しているという特徴がある。なお、放射性希ガスのうちクリプトンガスは、その分子径(例えば、約0.360nm)がキセノンガスの分子径よりも小さく、酸素ガスの分子径に近いので、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過しやすい傾向にある。
【0025】
ホールドアップ装置23は、例えば、タンクや塔等の容器内に活性炭等の吸着剤を多量に収容したものであり、放射性希ガス(特に、後段フィルタ装置22を透過する傾向にあるクリプトンガス)を吸着剤によって物理吸着するように構成されている。ホールドアップ装置23では、吸着剤を収容した容器内を酸素ガスが容易に通過する一方、放射性希ガスが吸着剤に対して物理吸着及び脱離を繰り返すことで容器内に留まる時間が酸素ガスよりも長くなり、その結果、放射性希ガスの放射能が減衰する。ホールドアップ装置23では、収容する吸着剤の量に応じて放射性希ガスを保持可能な持続時間が制限される。
【0026】
換気空調システム1は、排気系統として、中央制御室101内の空気を外部環境へ排出するための排気口31と、排気口31と中央制御室101とを接続する排気ライン32とを備えている。排気ライン32は、中央制御室101内の空気を排気口31へ導くものである。排気ライン32には、排気口31側から中央制御室101側への空気の逆流を阻止する第1逆止弁33が設けられている。
【0027】
換気空調システム1は、非常用運転モードで使用される排気系統として、非常用排気ライン35を備えている。非常用排気ライン35は、一方側が第2給気ライン17における前段フィルタ装置21の下流側かつ後段フィルタ装置22の上流側の部分(前段フィルタ装置21と後段フィルタ装置22の間の部分)に接続され、他方側が排気ライン32における第1逆止弁33よりも下流側の部分に接続されて外部環境に連通している。非常用排気ライン35は、後段フィルタ装置22を透過できない気体、特に放射性希ガスのうちキセノンガスを排気ライン32へ導くものである。非常用排気ライン35には、第2送風機36が設置されている。第2送風機36は、後段フィルタ装置22を透過できない気体を非常用排気ライン35及び排気ライン32を介して外部環境へ強制的に排出するものである。
【0028】
さらに、換気空調システム1は、中央制御室101内の空気を外部環境へ排出せずに再び中央制御室101へ供給する再循環ライン41を備えている。再循環ライン41は、例えば、一方側が排気ライン32における第1逆止弁33よりも上流側の部分に接続されると共に、他方側が給気ライン12における第1送風機14よりも上流側の部分(第2給気ライン17におけるホールドアップ装置23よりも下流側の部分)に接続されている。
【0029】
再循環ライン41には、上流側から順に、第3送風機42、二酸化炭素除去装置43、第2逆止弁44が設けられている。第3送風機42は、中央制御室101内の空気を給気ライン12へ再循環ライン41を介して強制的に送出するものである。二酸化炭素除去装置43は、再循環ライン41を流れる空気中に含まれる二酸化炭素を除去するものである。二酸化炭素除去装置43は、例えば、二酸化炭素の溶解が可能な水等の水溶液を貯留した容器を備えており、二酸化炭素を含む空気を水溶液中に導入する(吹き込む)ことで、二酸化炭素を水溶液中に溶解させて空気から分離するように構成されている。第2逆止弁44は、再循環ライン41を介して給気ライン12側へ送出された空気の逆流を阻止すると共に、第1給気ライン16又は第2給気ライン17から再循環ライン41を介して直接排気ライン32へ流れることを阻止するものである。
【0030】
次に、本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1の実施の形態の機能を図1及び図2を用いて説明する。図2図1に示す本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1の実施の形態における非常用運転モード時の機能を示す説明図である。図1及び図2中、白抜き矢印は空気の流れを示している。
【0031】
換気空調システム1は、原子力プラントの通常運転時、通常運転モードにて作動する。具体的には、給気系統の切換弁18を、図1に示すように、第1給気ライン16が外気取込口11に連通するように切り換えておく。第1送風機14が駆動することで、外部環境から外気取込口11を介して空気が取り込まれる。取り込まれた空気は、第2給気ライン17を経ずに第1給気ライン16を経る給気ライン12を介して強制的に中央制御室101へ供給される(図1の白抜き矢印を参照)。また、外気が中央制御室101へ強制的に供給されることで中央制御室101内の圧力が高まり、中央制御室101内の空気が排気ライン32を介して排気口31から外部環境へ排出される(図1の白抜き矢印を参照)。このとき、第1逆止弁33によって、排気ライン32を流れる空気の中央制御室101への逆流が阻止されると共に、第2逆止弁44によって、給気ライン12を流れる空気の再循環ライン41を介した排気ライン32への流出が阻止される。これにより、中央制御室101では、作業員が作業可能な居住性が確保されている。
【0032】
原子力プラントで万が一事故が発生して放射性物質が周辺の外部環境へ漏洩して換気空調システム1内に流入すると、放射性物質からの放射線を放射線検出部13が検知する。この場合、換気空調システム1は、通常運転モードから非常用運転モードに切り換わる。具体的には、切換弁18を、図2に示すように、第2給気ライン17が外気取込口11に連通するように切り換える。さらに、第2送風機36及び第3送風機42を駆動させる。
【0033】
外部環境の空気が外気取込口11から取り込まれて第2給気ライン17を流れて前段フィルタ装置21を通過する(図2の白抜き矢印を参照)。前段フィルタ装置21は、取り込んだ空気中に含まれる放射性セシウム等の粒子状の放射性物質及び放射性ヨウ素を捕集する。しかし、前段フィルタ装置21では、取り込んだ空気中に含まれる放射性希ガスが捕集されずに通過する。
【0034】
前段フィルタ装置21を通過した空気は、前段フィルタ装置21の下流側の後段フィルタ装置22を通過する(図2の白抜き矢印を参照)。後段フィルタ装置22の分子ふるい膜では、前段フィルタ装置21で除去されなかった放射性希ガスのうちキセノンガスの大部分が透過を阻止されて捕集される一方、酸素ガス分子や水蒸気分子等の空気の成分が透過する。なお、前段フィルタ装置21で除去されなかった放射性希ガスのうちクリプトンガスは、その分子径が酸素ガス分子の分子径に近いので、酸素ガス分子を含む空気と共に後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過する傾向にある。
【0035】
後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過できない放射性キセノンガスを含む気体は、第2送風機36によって非常用排気ライン35及び排気ライン32を介して強制的に外部環境へ排出される。したがって、放射性キセノンガスの給気ライン12を介した中央制御室101内への侵入を抑制することができる。
【0036】
一方、後段フィルタ装置22を通過した空気は、ホールドアップ装置23内へ流入する(図2の白抜き矢印を参照)。空気中に含まれている放射性希ガスのクリプトンガスは、ホールドアップ装置23を通過する際に吸着剤に対して吸着及び脱離を繰り返すことで、ホールドアップ装置23内に長時間留まる。これにより、ホールドアップ装置23を通過する空気中に含まれる放射性希ガスの量が減少すると共に放射性希ガスの放射能が減衰する。
【0037】
前段フィルタ装置21、後段フィルタ装置22、及びホールドアップ装置23の3つの装置を通過して放射能レベルが大幅に低下した空気が給気ライン12を介して中央制御室101へ供給される(図2の白抜き矢印を参照)。したがって、中央制御室101内に滞在する作業員の放射性物質による被ばくを低減することができる。なお、原子力プラントにおける放射性クリプトンガスの発生量は放射性キセノンガスの発生量と比較して少量であり、ホールドアップ装置23を通過する空気中に含まれる可能性のある放射性クリプトンガスの人体や機器に対する放射線による影響は放射性キセノンガスと比べて極めて小さい。
【0038】
中央制御室101内の空気は、通常運転モード時と同様に、排気ライン32を介して排気口31から外部環境へ放出される。このとき、第1逆止弁33によって、放射性物質を含む外気が排気口31から排気ライン32を介して中央制御室101内へ侵入することを阻止している。
【0039】
また、中央制御室101から排気ライン32へ排出された空気の一部は、第3送風機42の駆動により再循環ライン41を介して中央制御室101に再供給される。再循環ライン41を流れる空気は、二酸化炭素除去装置43によって二酸化炭素の一部が除去されて二酸化炭素濃度が低下している。二酸化炭素濃度の低下した空気が再循環ライン41を介して中央制御室101へ供給される。
【0040】
このように、本実施の形態においては、放射性物質の外部環境への漏出時に外部環境から取り込んだ空気を前段フィルタ装置21、後段フィルタ装置22、及びホールドアップ装置23を通過させることで、空気中に含まれる放射性物質を捕集又は滞留させつつ、酸素ガスや水蒸気を含む空気を中央制御室101へ供給する。さらに、二酸化炭素濃度が上昇した中央制御室101内の空気の一部を、排気ライン32から外部環境へ排出すると共に、二酸化炭素除去装置43で処理して再循環ライン41を介して再び中央制御室101へ供給する。これにより、中央制御室101内の空気の放射能レベル及び二酸化炭素濃度を低く維持することができるので、作業員の効率的な作業が可能な居住性を確保することができる。
【0041】
また、本実施の形態においては、放射性希ガスのうち発生量の大部分を占めるキセノンガスが後段フィルタ装置22の分子ふるい膜によって捕集される。そのため、ホールドアップ装置23では、放射性クリプトンを主に処理すればよく、ホールドアップ装置23における放射性希ガスの処理量が少なくて済む。したがって、放射性希ガスを吸着させるための吸着剤がその分少なくて済み、ホールドアップ装置23の大型化を回避することができる。
【0042】
上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1の実施の形態によれば、放射性物質の外部環境への漏洩事故時に換気空調システム1に取り込む空気中に含まれる可能性のある放射性希ガスのうちキセノンガスを後段フィルタ装置22の分子ふるい膜により捕集して非常用排気ライン35を介して第2送風機36により外部環境へ排出することが可能なので、放射性希ガスの中央制御室101内への侵入を抑制することができる。その結果、中央制御室101内に滞在している作業員の放射性希ガスによる被ばくを低減できるので、事故対応可能な人数や時間、手段等の制限が解消されてプラントの安全性が向上する。
【0043】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜は酸素ガスが透過しやすい特性を有しているので、後段フィルタ装置22を通過した空気を中央制御室101へ供給することで、中央制御室101に滞在する作業員が必要な酸素を確保することができる。
【0044】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜としてポリイミドを主成分とした高分子膜を用いることで、後段フィルタ装置22は、キセノンガスの空気に対する高い分離性能及び水蒸気の高い透過性能を得ることができる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜として窒化ケイ素を主成分としたセラミック膜を用いることで、後段フィルタ装置22は高い強度及び耐熱性を得ることができる。
【0046】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜として炭素を主成分とした酸化グラフェン膜を用いることで、後段フィルタ装置22は、キセノンガスの空気に対する特に優れた分離性能を得ることができる。
【0047】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22の下流側にホールドアップ装置23を設置したので、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過した放射性希ガスのクリプトンガスを吸着剤により物理吸着してホールドアップ装置23内に長時間保持することができる。その結果、ホールドアップ装置23内を通過した空気中に含まれる放射性クリプトンガスの量が減少すると共に放射性クリプトンガスの放射能が減衰しているので、放射性希ガスの中央制御室101内への侵入を更に抑制することができる。したがって、中央制御室101に滞在している作業員の放射性希ガスによる被ばくが更に低減する。
【0048】
また、本実施の形態によれば、放射性セシウム等の粒子状の放射性物質及び放射性ヨウ素を捕集可能な前段フィルタ装置21を後段フィルタ装置22の上流側に設置したので、後段フィルタ装置22によって粒子状の放射性物質及び放射性ヨウ素を捕集する必要がなく、後段フィルタ装置22の構造を簡素化することができる。
【0049】
また、本実施の形態によれば、中央制御室101内の空気を再び中央制御室101へ供給する再循環ライン41に二酸化炭素除去装置43を設置しているので、中央制御室101の居住性を確保しつつ、非常用運転モード時に外部環境から取り込む空気の流量を中央制御室101へ再循環させる流量分低減することができる。したがって、前段フィルタ装置21、後段フィルタ装置22、ホールドアップ装置23の処理流量が少なくて済むので、その分、前段フィルタ装置21、後段フィルタ装置22、及びホールドアップ装置23の小型化が可能である。
【0050】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の原子力プラントの換気空調システムの第2の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムの構成について図3を用いて説明する。図3は本発明の原子力プラントの換気空調システムの第2の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムを示す主要系統図である。図3中、矢印は空気の流れを示している。なお、図3において、図1及び図2に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0051】
図3に示す本発明の原子力プラントの換気空調システムの第2の実施の形態が第1の実施の形態と相違する点は、第1の実施の形態のホールドアップ装置23(図2参照)に代えて、第2給気ライン17における後段フィルタ装置22の下流側に設置されたイオン化希ガス除去装置25を備えることである。第2の実施の形態におけるそれ以外の構成は、第1の実施の形態の構成と同様なものである。
【0052】
換気空調システム1Aのイオン化希ガス除去装置25は、後段フィルタ装置22を通過した空気中に含まれている放射性希ガス(特に、後段フィルタ装置22を透過する傾向にあるクリプトンガス)をイオン化し、イオン化した放射性希ガスから活性な元素との化学反応によって希ガス化合物を生成し、生成した希ガス化合物を吸着剤によって化学吸着することで、放射性希ガスを捕集するように構成されている。希ガスは一般的に不活性である。しかし、ヘリウム以外のキセノンやクリプトン等の希ガスに対して放電等により高電圧を負荷することで、放射性希ガスのイオン化が可能である。イオン化した希ガスを活性な元素と化学反応させることで希ガス化合物を生成することができる。例えば、イオン化した希ガスとフッ素を反応させることで、希ガスのフッ化物が生成される。希ガスのフッ化物は、吸着剤を用いた化学吸着による捕集が可能である。電子結合による化学吸着は、ファンデルワース力による物理吸着と比較して吸着力が高い。したがって、イオン化希ガス除去装置25は、放射性希ガスを物理吸着するホールドアップ装置に対して小型化が可能である。
【0053】
本実施の形態においては、放射性希ガスのうち発生量の大部分を占めるキセノンガスが後段フィルタ装置22により捕集されるので、イオン化希ガス除去装置25における放射性希ガスの処理量が少なくて済む。したがって、放射性希ガスを化学吸着するための吸着剤がその分少なくて済むので、イオン化希ガス除去装置25の大型化を回避することができる。
【0054】
上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、放射性希ガスのうちキセノンガスを後段フィルタ装置22の分子ふるい膜により捕集して外部環境へ排出することが可能なので、放射性希ガスの中央制御室101内への侵入を抑制することができる。
【0055】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22の下流側にイオン化希ガス除去装置25を設置したので、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過した放射性希ガスであるクリプトンガスを希ガス化合物として吸着剤により化学吸着してイオン化希ガス除去装置25内に長時間留めることができる。その結果、イオン化希ガス除去装置25を通過した空気中に含まれる放射性クリプトンガスの量が減少すると共に放射性クリプトンガスの放射能が減衰しているので、放射性希ガスの中央制御室101内への侵入を更に抑制することができる。したがって、中央制御室101に滞在している作業員の放射性希ガスによる被ばくが更に低減する。
【0056】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の原子力プラントの換気空調システムの第3の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムの構成について図4を用いて説明する。図4は本発明の原子力プラントの換気空調システムの第3の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムを示す主要系統図である。図4中、矢印は空気の流れを示している。なお、図4において、図1図3に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0057】
図4に示す本発明の原子力プラントの換気空調システムの第3の実施の形態が第1の実施の形態と相違する点は、第1の実施の形態のホールドアップ装置23(図2参照)に代えて、第2給気ライン17における後段フィルタ装置22の下流側に設置された酸素イオン透過装置26を備えることである。第3の実施の形態におけるそれ以外の構成は、第1の実施の形態の構成と同様なものである。
【0058】
換気空調システム1Bの酸素イオン透過装置26は、酸素イオンが透過可能なイオン伝導性の酸素分離膜を備えており、当該酸素分離膜によって空気中に含まれる酸素ガスの一部を空気から分離するように構成されている。酸素イオン透過装置26は、例えば、酸素分離膜として燃料電池で使用されるようなセラミック製の固体電解質を備えている。
【0059】
酸素イオン透過装置26では、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過した空気を酸素分離膜の一方側に流入させると、空気中に含まれている酸素ガス分子が酸素分離膜の表面上で電子を受け取ってイオン化し、酸素イオンが酸素分離膜内を移動して酸素分離膜の他方側の表面で電子を放出することで再び酸素ガス分子となる。これにより、酸素分離膜の一方側に放射性希ガス(特に、後段フィルタ装置22を透過する傾向にある放射性クリプトンガス)を含む酸素濃度の低下した空気が残留する一方、酸素分離膜の他方側に放射性希ガスから分離された高い酸素濃度の空気を得ることができる。酸素イオン透過装置26で得られた高い酸素濃度の空気は中央制御室101へ供給される一方、放射性希ガスを含む酸素濃度の低下した空気は非常用排気ライン35及び排気ライン32を介して外部環境へ排出することが可能である。
【0060】
酸素イオン透過装置26は、酸素イオンの透過が可能な酸素分離膜によって放射性希ガスを含む空気から酸素ガスを分離するものであるので、酸素分離膜の酸素イオン透過性が劣化しない限り、酸素イオン透過装置26の酸素ガスと放射性希ガスの分離機能が持続する。それに対して、第1の実施の形態のホールドアップ装置23では、吸着剤が吸着の破過に達すると、放射性希ガスの吸着が望めなくなる。すなわち、ホールドアップ装置23が機能する持続時間は、吸着剤の収容量によって制限される。第2の実施の形態のイオン化希ガス除去装置25の場合も、第1の実施の形態のホールドアップ装置23と同様に、吸着剤が吸着の破過に達すると、希ガス化合物の化学吸着が望めなくなる。つまり、イオン化希ガス除去装置25が機能する持続時間は、吸着剤の収容量によって制限される。
【0061】
上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、放射性希ガスのうちキセノンガスを後段フィルタ装置22の分子ふるい膜により捕集して外部環境へ排出することが可能なので、放射性希ガスの中央制御室101内への侵入を抑制することができる。
【0062】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22の下流側に酸素イオン透過装置26を設置したので、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過した放射性希ガスのクリプトンガスを含む空気から酸素ガスを分離することができる。酸素イオン透過装置26によって放射性クリプトンガスから分離した酸素ガスを中央制御室101へ供給することで、放射性希ガスの中央制御室101への侵入を更に抑制することができる。したがって、中央制御室101に滞在している作業員の放射性希ガスによる被ばくが更に低減する。
【0063】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の原子力プラントの換気空調システムの第4の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムの構成を図5及び図6を用いて説明する。図5は本発明の原子力プラントの換気空調システムの第4の実施の形態としての中央制御室の換気空調システムを示す主要系統図、図6は本発明の原子力プラントの換気空調システムの第4の実施の形態の一部を構成する溶解分離装置を示す概略図である。図5及び図6中、矢印は空気の流れを示している。なお、図5及び図6において、図1図4に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0064】
図5に示す本発明の原子力プラントの換気空調システムの第4の実施の形態が第1の実施の形態と相違する点は、第1の実施の形態のホールドアップ装置23(図2参照)に代えて、第2給気ライン17における後段フィルタ装置22の下流側に設置された溶解分離装置27を備えるものである。第4の実施の形態におけるそれ以外の構成は、第1の実施の形態の構成と同様なものである。
【0065】
換気空調システム1Cの溶解分離装置27は、後段フィルタ装置22を通過した空気を溶媒に導入して空気中に含まれている放射性希ガス(特に、後段フィルタ装置22を透過する傾向にある放射性クリプトンガス)を溶媒に溶解させることで放射性希ガスを空気から分離して除去するように構成されている。溶解分離装置27は、例えば、酸素ガスと希ガスの水への溶解度の差を利用して希ガスを空気から分離するものである。溶解分離装置27は、例えば図6に示すように、酸素ガスよりも希ガスが溶解しやすい水等の溶媒Sを貯留した容器27aと、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過した空気を容器27a内の溶媒S中に導入する管路27bとを備えている。溶解分離装置27では、後段フィルタ装置22を透過した空気が容器27a内の溶媒S中に吹き込まれると、空気に含まれる放射性クリプトンガスが溶媒S中に溶解することで空気から分離される。溶解分離装置27で放射性クリプトンガスの一部が除去された空気は、図5に示すように、中央制御室101へ供給される。
【0066】
本実施の形態においては、溶媒Sを貯留する容器27aと容器27a内の溶媒S中に空気を導入する管路27bとで溶解分離装置27が大略構成されており、放射性希ガスの空気からの分離を簡素な構成によって実現することができる。
【0067】
また、本実施の形態においては、放射性希ガスのうち発生量の大部分を占めるキセノンガスが後段フィルタ装置22により捕集されるので、溶解分離装置27における放射性希ガスの処理量が少なくて済む。したがって、放射性希ガスを溶解させるための溶媒がその分少なくて済むので、溶解分離装置27の小型化が可能である。
【0068】
上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、放射性希ガスのうちキセノンガスを後段フィルタ装置22の分子ふるい膜により捕集して外部環境へ排出することが可能なので、放射性希ガスの中央制御室101内への侵入を抑制することができる。
【0069】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22の下流側に溶解分離装置27を設置したので、後段フィルタ装置22の分子ふるい膜を透過した空気に含まれる放射性クリプトンガスを溶媒S(例えば、水)に溶解させて空気から分離することができる。したがって、溶解分離装置27によって放射性クリプトンガスの一部を分離した空気を中央制御室101へ供給することで、放射性希ガスの中央制御室101への侵入を更に抑制することができる。したがって、中央制御室101に滞在している作業員の放射性希ガスによる被ばくが更に低減する。
【0070】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の原子力プラントの換気空調システムの第5の実施の形態としての機器室の換気空調システムの構成について図7を用いて説明する。図7は本発明の原子力プラントの換気空調システムの第5の実施の形態としての機器室の換気空調システムを示す主要系統図である。なお、図7において、図1図6に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0071】
図7に示す本発明の原子力プラントの換気空調システムの第5の実施の形態は、第1~第4の実施の形態に係る換気空調システム1、1A、1B、1Cが作業員の滞在する中央制御室101に接続したものであるのに対して、各種機器を収容した機器室102に接続したものである。機器室102は、電子機器や電源盤、ポンプなどの各種機器を収容するものである。機器室102では、機器の発熱により室内の温度が上昇して機器類の機能が喪失する可能性がある。外部環境の空気を機器室102へ供給することで機器室102内の温度上昇を防止している。機器室102内に外部環境から放射性希ガスが侵入した場合、機器室102内の放射線の線量が上昇して機器の誤作動や損傷の虞がある。
【0072】
図6に示す本実施の形態に係る換気空調システム1Dが第1~第4の実施の形態に係る換気空調システム1、1A、1B、1Cと相違する点は、以下の3点である。第1に、後段フィルタ装置22Dの分子ふるい膜の特性が異なることである。第2に、機器室102(中央制御室101)内の空気を再び機器室102(中央制御室101)へ供給するための再循環ライン41、第3送風機42、二酸化炭素除去装置43、第2逆止弁44(図1図5参照)の構成が省略されていることである。第3に、後段フィルタ装置22Dの下流側に設けられた放射性希ガスを処理するための装置、具体的には、ホールドアップ装置23(図2参照)、イオン化希ガス除去装置25(図3参照)、酸素イオン透過装置26(図4参照)、又は溶解分離装置27(図5参照)が省略されていることである。
【0073】
機器室102内の機器は、中央制御室101に滞在する作業員と異なり、酸素を必要としないので、機器室102に酸素ガスを供給する必要がない。そのため、本実施の形態に係る後段フィルタ装置22Dの分子ふるい膜は、酸素ガスの透過性を有する必要がない。そこで、後段フィルタ装置22Dの分子ふるい膜として、酸素ガスの分子径に比較的近い分子径を有するクリプトンガスが透過しにくい特性を有するものが採用されている。後段フィルタ装置22Dの分子ふるい膜が放射性希ガスのうちキセノンガスに加えてクリプトンガスも捕集することができるので、後段フィルタ装置22Dを透過した空気中にはほとんど放射性物質が含まれず、後段フィルタ装置22Dの下流側に放射性物質を処理するための装置が不要となる。
【0074】
上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第5の実施の形態によれば、放射性物質の外部環境への漏洩事故時に換気空調システム1Dに取り込む空気中に含まれる可能性のある放射性希ガスのうちキセノンガス及びクリプトンガスを後段フィルタ装置22Dの分子ふるい膜により捕集して非常用排気ライン35を介して第2送風機36により外部環境へ排出することが可能なので、放射性希ガスの機器室102内への侵入を抑制することができる。その結果、機器室102内に収容されている機器への放射線の影響を低減することができるので、機器の放射線対策が不要となり、コストの増大を防ぐことができる。
【0075】
また、本実施の形態によれば、後段フィルタ装置22Dの分子ふるい膜は、キセノンガスよりも分子径の小さいクリプトンガスが透過しにくい特性を有しているので、放射性希ガスのキセノンガス及びクリプトンガスの両方の機器室102への侵入を確実に抑制することができる。したがって、後段フィルタ装置22Dの下流側に放射性希ガスを処理するための装置を設ける必要がなく、放射性希ガスのキセノンガス及びクリプトンガスの機器室102への侵入の抑制を簡素な構成によって実現することができる。
【0076】
以上のように、本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1~第5の実施の形態によれば、放射性物質の外部環境への漏洩事故時に換気空調システム1、1A、1B、1C、1Dに取り込む空気中に含まれる可能性のある放射性希ガスのうち少なくともキセノンガスを後段フィルタ装置(第1フィルタ装置)22、22Dの分子ふるい膜により捕集して非常用排気ライン(第2ライン)35を介して第2送風機36により外部環境へ排出することが可能なので、放射性希ガスの中央制御室(部屋)101又は機器室(部屋)102内への侵入を抑制することができる。
【0077】
[その他の実施の形態]
なお、本発明は上述した第1~第5の実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0078】
例えば、上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1~第4の実施の形態は、中央制御室101の換気空調システムに適用したものである。しかし、本発明の原子力プラントの換気空調システムを、緊急時対策所等の作業員が滞在する部屋に接続する換気空調システムに適用することも可能である。
【0079】
また、上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1~第5の実施の形態においては、後段フィルタ装置22、22Dの上流側に前段フィルタ装置21を設けた構成の例を示したが、前段フィルタ装置21を省略する構成も可能である。後段フィルタ装置22、22Dは放射性希ガスのうち少なくともキセノンガスが透過しにくい特性を有する分子ふるい膜を備えているので、前段フィルタ装置21がなくとも、後段フィルタ装置22、22Dによってキセノンガスと同等以上の分子径を有する放射性ヨウ素子及び放射性セシウムの中央制御室101又は機器室102への侵入を抑制することができる。ただし、この場合、後段フィルタ装置22、22Dがキセノンガスに加えて、放射性ヨウ素子及び放射性セシウムを捕集するので、その分、分子ふるい膜の放射性物質の処理量が増える。
【0080】
また、上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1~第4の実施の形態においては、後段フィルタ装置22の下流側にホールドアップ装置23、イオン化希ガス除去装置25、酸素イオン透過装置26、溶解分離装置27のいずれか1つの装置を備えた構成の例を示したが、後段フィルタ装置22の下流側のこれらの装置23、25、26、27を省略する構成も可能である。原子力プラントの事故時に外部環境へ漏出する可能性のある放射性希ガスのうち、クリプトンガスの発生量はキセノンガスと比較して少量であり、放射性クリプトンガスによる人体や機器に対する放射線による影響は放射性キセノンガスと比べて小さい。人体や機器に対する放射線による影響が大きい放射性キセノンガスは後段フィルタ装置22によって捕集されるので、放射性クリプトンガスが後段フィルタ装置22を透過して中央制御室101へ流入しても、人体や機器に対する放射線による影響を低く抑えることができる。
【0081】
また、上述した本発明の原子力プラントの換気空調システムの第1~第4の実施の形態においては、中央制御室101内の空気を再び中央制御室101へ供給するための再循環ライン41、第3送風機42、二酸化炭素除去装置43、第2逆止弁44を備えた構成の例を示したが、これらの装置41、42、43、44を省略する構成も可能である。ただし、この場合、中央制御室101の居住性を確保するためには、中央制御室101へ供給する外気の流量を増加させる必要がある。取り込む外気の流量の増加により、前段フィルタ装置21や後段フィルタ装置22等で処理する流量が増加するので、その分、前段フィルタ装置21や後段フィルタ装置22が大型化しやすい。
【符号の説明】
【0082】
1、1A、1B、1C、1D…換気空調システム、 12…給気ライン(第1ライン)、 14…第1送風機、 17…第2給気ライン(第1ライン)、 21…前段フィルタ装置(第2フィルタ装置)、 22、22D…後段フィルタ装置(第1フィルタ装置)、 23…ホールドアップ装置、 25…イオン化希ガス除去装置、 26…酸素イオン透過装置、 27…溶解分離装置、 35…非常用排気ライン(第2ライン)、 36…第2送風機、 41…再循環ライン、 43…二酸化炭素除去装置、 101…中央制御室(部屋)、 102…機器室(部屋)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7