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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/40 20120101AFI20220531BHJP
【FI】
F16H48/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018220941
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2020085141
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 陽一
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-89650(JP,A)
【文献】特開2011-167746(JP,A)
【文献】特開2016-188657(JP,A)
【文献】国際公開第2008/104198(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源に連なる駆動ギヤ(31)から回転駆動力を受けるリングギヤ(R)と、前記リングギヤ(R)と所定軸線(X1)回りに一体に回転するデフケース(DC)と、前記デフケース(DC)の胴部(6)に内蔵される差動機構(DG)とを備え、前記差動機構(DG)は、前記駆動ギヤ(31)から前記リングギヤ(R)を経て前記デフケース(DC)に伝達された回転駆動力を一対のドライブ軸(11,12)に差動回転を許容しつつ分配可能である差動装置において、
前記リングギヤ(R)は、前記駆動ギヤ(31)と噛合するギヤ部(Rg)と、前記ギヤ部(Rg)の内周に一体に形成されて前記胴部(6)の最外径外周部(6oMAX )又は該最外径外周部(6oMAX )よりも小径の所定外周部(6ox)に非溶接状態で嵌合するリム部(Rr)とを備えており、
前記リム部(Rr)は、該リム部(Rr)と前記胴部(6)との嵌合部(50)から軸方向に離間し且つ該嵌合部(50)よりも径方向内方側の位置で前記胴部(6)に溶接される被固定部(Rra)を有し、
前記被固定部(Rra)と前記胴部(6)との溶接部(w)が前記嵌合部(50)から軸方向に離間していて、該溶接部(w)と該嵌合部(50)との間に、前記胴部(6)及び前記リム部(Rr)で挟まれた空洞部(C)が形成され、前記胴部(6)の外周面の、前記空洞部(C)に臨む空洞形成面部(6c)が、前記溶接部(w)の軸方向内端から径方向内方に延びて前記所定軸線(X1)と略直交する第1平坦面部(f1)を有し、また前記リム部(Rr)の内周面の、前記空洞部(C)に臨む空洞形成面部(Rrc)が、前記溶接部(w)の軸方向内端から径方向外方に延びて前記所定軸線(X1)と略直交する第2平坦面部(f2)を有し、前記胴部(6)及び前記リム部(Rr)は、両者の前記溶接部(w)周辺において、溶接時の入熱によって硬化する熱影響部(t1,t2)を各々有し、前記第1,第2平坦面部(f1,f2)は、前記熱影響部(t1,t2)の前記空洞部(C)に臨む領域を全て含むように形成されることを特徴とする差動装置。
【請求項2】
前記胴部(6)は、前記溶接部(w)よりも径方向内方側に位置し且つ該胴部(6)の軸方向内方側に窪んだ凹部(H)を有することを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
前記溶接部(w)の軸方向幅をa、前記溶接部(w)の軸方向外端からの前記凹部(H)の軸方向深さをbとしたときに、b>aが成立するように前記軸方向幅及び前記軸方向深さが設定されることを特徴とする、請求項2に記載の差動装置。
【請求項4】
前記リングギヤ(R)は、前記ギヤ部(Rg)と前記駆動ギヤ(31)との噛合により該リングギヤ(R)が軸方向のスラスト荷重を受ける歯部形状を有しており、前記空洞形成面部(6c)が、前記溶接部(w)の軸方向内端と前記嵌合部(50)とに渡って滑らかに連続した連続面で形成されることを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
【請求項5】
記空洞部(C)と前記凹部(H)とは、各々の軸方向範囲の少なくとも一部が互いにオーバラップするように形成されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の差動装置。
【請求項6】
前記リングギヤ(R)は、前記ギヤ部(Rg)と前記駆動ギヤ(31)との噛合により該リングギヤ(R)が軸方向のスラスト荷重を受ける歯部形状を有しており、前記胴部(6)の外周面の前記空洞形成面部(6c)が、前記第1平坦面部(f1)と、前記第1平坦面部(f1)に連なる凹部形状の第1曲面部(r1)と、前記第1曲面部(r1)に連なる凹部形状の第2曲面部(r2)とを有しており、前記所定軸線(X1)を含む前記胴部(6)の縦断面で見て、前記第1曲面部(r1)は、前記第2曲面部(r2)よりも曲率半径が小さい円弧状であることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置、特に動力源に連なる駆動ギヤから回転駆動力を受けるリングギヤと、リングギヤと所定軸線回りに一体に回転するデフケースと、デフケースの胴部に内蔵される差動機構とを備え、差動機構は、駆動ギヤからリングギヤを経てデフケースに伝達された回転駆動力を一対のドライブ軸に差動回転を許容しつつ分配可能である差動装置に関する。
【0002】
尚、本発明及び本明細書において、「軸方向」とは、特に断りのない限りデフケースの回転軸線(前記所定軸線)に沿う方向をいい、また「径方向」とは、特に断りのない限りデフケースの回転軸線(前記所定軸線)を中心線とする半径方向をいう。
【背景技術】
【0003】
斯かる差動装置は、下記特許文献1に開示されるように、既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-132174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される差動装置では、リングギヤのリム部内周から径方向内方側に延びる内向きフランジが一体に突設されており、この内向きフランジと、デフケースの胴部外周より径方向外方側に延びる外向きフランジとを接合(例えばボルト結合)している。
【0006】
このような従来のリングギヤ及びデフケース相互の結合構造において、リングギヤを十分小径化するために、例えばリングギヤの内向きフランジを廃止してリングギヤのリム部内周をデフケースの胴部外周に直接嵌合、溶接することが考えられるが、その場合には、リングギヤのギヤ部と溶接部とが近接する関係で、ギヤ部に対する溶接による熱歪の影響が大となり、ギヤ部の強度や耐久性の低下要因となる問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、従来装置の問題を簡単な構造で解決可能とした差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、動力源に連なる駆動ギヤから回転駆動力を受けるリングギヤと、前記リングギヤと所定軸線回りに一体に回転するデフケースと、前記デフケースの胴部に内蔵される差動機構とを備え、前記差動機構は、前記駆動ギヤから前記リングギヤを経て前記デフケースに伝達された回転駆動力を一対のドライブ軸に差動回転を許容しつつ分配可能である差動装置において、前記リングギヤは、前記駆動ギヤと噛合
するギヤ部と、前記ギヤ部の内周に一体に形成されて前記胴部の最外径外周部又は該最外径外周部よりも小径の所定外周部に非溶接状態で嵌合するリム部とを備えており、前記リム部は、該リム部と前記胴部との嵌合部から軸方向に離間し且つ該嵌合部よりも径方向内方側の位置で前記胴部に溶接される被固定部を有し、前記被固定部と前記胴部との溶接部が前記嵌合部から軸方向に離間していて、該溶接部と該嵌合部との間に、前記胴部及び前記リム部で挟まれた空洞部が形成され、前記胴部の外周面の、前記空洞部に臨む空洞形成面部が、前記溶接部の軸方向内端から径方向内方に延びて前記所定軸線と略直交する第1平坦面部を有し、また前記リム部の内周面の、前記空洞部に臨む空洞形成面部が、前記溶接部の軸方向内端から径方向外方に延びて前記所定軸線と略直交する第2平坦面部を有し、前記胴部及び前記リム部は、両者の前記溶接部周辺において、溶接時の入熱によって硬化する熱影響部を各々有し、前記第1,第2平坦面部は、前記熱影響部の前記空洞部に臨む領域を全て含むように形成されることを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記胴部は、前記溶接部よりも径方向内方側に位置し且つ該胴部の軸方向内方側に窪んだ凹部を有することを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第2の特徴に加えて、前記溶接部の軸方向幅をa、前記溶接部の軸方向外端からの前記凹部の軸方向深さをbとしたときに、b>aが成立するように前記軸方向幅及び前記軸方向深さが設定されることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記リングギヤは、前記ギヤ部と前記駆動ギヤとの噛合により該リングギヤが軸方向のスラスト荷重を受ける歯部形状を有しており、前記空洞形成面部が、前記溶接部の軸方向内端と前記嵌合部とに渡って滑らかに連続した連続面で形成されることを第4の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第2又は第3の特徴に加えて、前記空洞部と前記凹部とは、各々の軸方向範囲の少なくとも一部が互いにオーバラップするように形成されることを第5の特徴とする。
【0014】
また本発明は、第1~第5の何れかの特徴に加えて、前記リングギヤは、前記ギヤ部と前記駆動ギヤとの噛合により該リングギヤが軸方向のスラスト荷重を受ける歯部形状を有しており、前記胴部の外周面の前記空洞形成面部が、前記第1平坦面部と、前記第1平坦面部に連なる凹部形状の第1曲面部と、前記第1曲面部に連なる凹部形状の第2曲面部とを有しており、前記所定軸線を含む前記胴部の縦断面で見て、前記第1曲面部は、前記第2曲面部よりも曲率半径が小さい円弧状であることを第の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の特徴によれば、リングギヤは、ギヤ部と、ギヤ部の内周に一体に形成されてデフケース胴部の最外径外周部又は最外径外周部よりも小径の所定外周部に非溶接状態で嵌合するリム部とを備え、リム部は、リム部と胴部との嵌合部から軸方向に離間し且つ該嵌合部よりも径方向内方側の位置で胴部に溶接される被固定部を有するので、リングギヤは、これの小径化を図るべくリム部内周をデフケース胴部の外周に直接嵌合させても、リングギヤ及びデフケース相互の溶接部よりギヤ部を離すことができて、ギヤ部に対する溶接による熱歪の影響を抑制可能となり、これにより、その熱歪の影響によるギヤ部の
強度や耐久性の低下を抑えながらリングギヤ付きデフケースの小径化を達成することができる。またデフケースとリングギヤ間の溶接部位を少なくして、コスト節減及び生産性向上に寄与することができる。また、胴部外周面の空洞形成面部が、溶接部の軸方向内端から径方向内方に延びて所定軸線と略直交する第1平坦面部を有し、またリム部内周面の空洞形成面部が、溶接部の軸方向内端から径方向外方に延びて所定軸線と略直交する第2平坦面部を有し、胴部及びリム部は、両者の溶接部周辺において、溶接時の入熱によって硬化する熱影響部を各々有し、第1,第2平坦面部は、熱影響部の空洞部に臨む領域を全て含むように形成される。これにより、上記熱影響部や溶接部に、応力集中の要因となる変曲点や段差が設けられないことで、熱影響部や溶接部を起点とした破損を効果的に防止可能となる。
【0016】
また第2の特徴によれば、デフケース胴部は、リム部の被固定部と胴部との溶接部よりも径方向内方側に位置し且つ胴部の軸方向内方側に窪んだ凹部を有するので、胴部外周の凹部周辺(特に凹部と溶接部との間)が弾性変形し易くなり、これにより、溶接後の収縮による熱歪を吸収可能となって、ギヤ部に対する熱歪の影響をより少なくすることができる。
【0017】
また第3の特徴によれば、溶接部の軸方向幅をa、溶接部の軸方向外端からの凹部の軸方向深さをbとしたときに、b>aが成立するようにしたので、溶接部の軸方向幅に対し凹部を十分深く設定できて、凹部周辺が弾性変形し易くなり、ギヤ部に対する熱歪の影響をより少なくすることができる。
【0018】
また第4の特徴によれば、リングギヤは、駆動ギヤとの噛合によりスラスト荷重を受ける歯部形状を有し、空洞形成面部が、溶接部の軸方向内端と嵌合部とに渡って滑らかに連続した連続面で形成されるので、胴部外周の空洞形成面部近傍でスラスト荷重に因る応力集中が生じることが抑えられる。
【0019】
また第5の特徴によれば、空洞部と凹部とは、各々の軸方向範囲の少なくとも一部が互いにオーバラップするように形成されるので、胴部外周面の空洞形成面部と凹部内面との間で肉厚が最も薄い部分が、上記溶接後の収縮による熱歪によって弾性変形し易くなり、これにより、溶接後の収縮による熱歪を吸収可能となって、ギヤ部に対する熱歪の影響をより少なくすることができる。
【0021】
また、スラスト荷重で胴部外周面の空洞形成面部に生じる応力は、その空洞形成面部の凹曲面の曲率半径が大きいほど広範囲に分散されて応力集中の緩和に有効であるが、その反面、第1平坦面部が溶接部内端より径方向内方に延びる関係で、第1平坦面部に連なる上記凹曲面の曲率半径が大きくなるほど空洞形成面部の径方向内方側への凹みが大きくなって胴部の肉厚が減少してしまう。これに対し、第の特徴によれば、第1平坦面部に、曲率半径の小さい第1曲面部を介して曲率半径の大きい第2曲面部を連ねたことで、スラスト荷重で胴部外周面の空洞形成面部に生じる応力を曲率半径の大きい第2曲面部で広範囲に分散させて応力集中を緩和しながら、曲率半径の小さい第1曲面部の特設により空洞形成面部の上記凹みを極力浅くすることができて、空洞形成面部の特設による肉厚の減少を極力抑えることができ、胴部に十分な剛性強度を確保可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係る差動装置及び周辺機器を示す縦断面図
図2図1の2矢視部拡大断面図
図3】本発明の第2実施形態に係る差動装置及び周辺機器を示す要部縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0024】
先ず、図1及び図2を参照して、第1実施形態について説明する。図1において、車両、例えば自動車に搭載したミッションケース5内には、図示しない動力源(例えば車載のエンジン)からの動力を左右の車軸11,12に分配して伝達する差動装置Aが収容される。差動装置Aは、所定軸線としての第1軸線X1回りに回転可能な金属製のデフケースDCと、デフケースDCに内蔵される差動機構DGとを備える。左右の車軸11,12は、一対のドライブ軸の一例である。
【0025】
またミッションケース5内には、前記動力源に不図示の変速装置を介して連動する駆動ギヤ31が設けられており、この駆動ギヤ31と噛合するリングギヤRがデフケースDCに、後述する取付構造を以て固定、支持される。
【0026】
デフケースDCは、概略球体状に形成されて内部に差動機構DGを収納した中空の胴部6と、胴部6の左右一側部及び他側部にそれぞれ一体に連設されて第1軸線X1上に並ぶ第1,第2軸受ボス7,8とを備える。第1及び第2軸受ボス7,8は、軸受13,14を介してミッションケース5に第1軸線X1回りに回転自在に支持される。尚、ミッションケース5は、相互間が着脱可能な複数のケース要素より分割構成され、デフケースDCの取付時や点検整備時には適宜、分解される。
【0027】
また第1及び第2軸受ボス7,8の内周面には、左右の車軸11,12がそれぞれ回転自在に嵌合されると共に、潤滑油引込み用の螺旋溝15,16(図1参照)が設けられる。螺旋溝15,16は、各軸受ボス7,8と各車軸11,12との相対回転に伴いミッションケース5内の潤滑油をデフケースDC内に送り込むねじポンプ作用を発揮する。
【0028】
差動機構DGは、胴部6の中心Oで第1軸線X1と直交する第2軸線X2上に配置されて胴部6に支持されるピニオン軸21と、このピニオン軸21に回転自在に支持される一対のピニオンギヤ22,22と、各ピニオンギヤ22と噛合し且つ第1軸線X1回りに回転可能な左右のサイドギヤ23,23とを備える。両サイドギヤ23,23は、差動機構DGの出力ギヤとして機能するものであり、両サイドギヤ23,23の内周面には、左右の車軸11,12の内端部がそれぞれスプライン嵌合される。
【0029】
ピニオンギヤ22及びサイドギヤ23の各背面は、胴部6の内面6iにワッシャ25,26を介してそれぞれ回転自在に支承される。胴部6の内面6i、例えばピニオンギヤ22の背面にワッシャ25を介して対面するピニオンギヤ支持面と、サイドギヤ23の背面にワッシャ26を介して対面するサイドギヤ支持面とは、加工ツール(例えば旋盤のバイト)により球面状に機械加工される。尚、ワッシャ25,26を省略して、ピニオンギヤ22及びサイドギヤ23の各背面を胴部6の内面6iに回転自在に直接支承させるようにしてもよい。
【0030】
ピニオン軸21は、胴部6に設けられて第2軸線X2上に延びる一対の支孔6hに挿通、保持される。両支孔6hは、胴部6の最外径外周部6oMAX 又はその周辺の厚肉外周部に配設される。その胴部6の厚肉外周部には、ピニオン軸21の一端部を横切るよう貫通する抜け止めピン17が挿着(例えば圧入)され、この抜け止めピン17により、ピニオン軸21の支孔6hからの離脱が阻止される。
【0031】
ところで胴部6は、軸方向でピニオン軸21よりも一方側(図1で左側)に位置する第1胴部半体6Lに比べて、その他方側(図1で右側)に位置する第2胴部半体6Rの方が全体的に厚肉に構成される。そして、この厚肉の第2胴部半体6RにリングギヤRの内周側が安定よく固定、支持される。 而して、駆動ギヤ31からリングギヤRを経てデフケースDCの胴部6に伝達された回転駆動力は、差動機構DGにより、左右の車軸11,12に対し差動回転を許容しつつ分配される。尚、差動機構DGの差動機能は従来周知であるので、説明を省略する。
【0032】
尚、図示はしないが、デフケースDCの胴部6は、主として第1胴部半体6Lにおいて一対の作業窓を有しており、両作業窓は、第1軸線X1と直交する投影面で見て、第2軸線X2を挟んでその両側方に対称的に配置、形成される。両作業窓は、胴部6の内面6iに対する旋削加工や胴部6内への差動機構DGの組付けを許容するための窓であり、その目的に即した十分大きい形状に形成される。 次に、図2も併せて参照して、リングギヤRの胴部6(より具体的には第2胴部半体6R)への取付構造について説明する。
【0033】
リングギヤRは、駆動ギヤ31と噛合するギヤ部Rgと、ギヤ部Rgの内周に一体に形成されるリム部Rrとを備える。ギヤ部Rgは、ヘリカルギヤ状の歯部を有しており、これにより、同じくヘリカルギヤ状の歯部を有する駆動ギヤ31との噛合に伴い、軸方向のスラスト荷重(即ち噛合反力のスラスト方向成分)を受ける。そして、このスラスト荷重は、リングギヤRから後述する溶接部wを経て胴部6に受け止められる。尚、図1において、ギヤ部Rgは、表示を簡略化するために、歯筋に沿う断面表示とした。
【0034】
また、リム部Rrは、基本的に円筒状に形成され、これの内周面40の、軸方向一端側(即ちピニオン軸21寄り)の第1内周面部41が、胴部6の所定外周部6oxに非溶接状態で嵌合、支持される。この所定外周部6oxは、最外径外周部6oMAX よりも若干小径の円筒面状に形成され、最外径外周部6oMAX とは小さな段差6osを介して隣接する。そして、その段差6osにリム部Rの内端面を当接させることで、リングギヤRの胴部6外周に対する嵌合位置が軸方向に確実に位置決めされる。
【0035】
尚、図示はしないが、第1実施形態の変形例として、リム部Rの内端面を段差6osに当接させない(即ち段差6osから軸方向に少し離間させる)構造も実施可能である。
【0036】
また本実施形態では、段差6osの立ち上がり部分は、強度確保のためにアール状に面取りされ、またリム部Rrの第1内周面部41の軸方向内端部も、段差6osの立ち上がり部分を逃げるように面取りされている。
【0037】
上記したようにリングギヤRは、リム部Rr内周をデフケースDCの胴部6外周、特に最外径外周部6oMAX に近い所定の外周部6oxに嵌合支持されるため、その嵌合支持のためにリム部Rr内周から径方向内向きのフランジを突設させる必要はなく、また胴部6外周からも径方向外向きのフランジを突設させる必要はない。従って、リングギヤRの小径化を図る上で有利である。
【0038】
而して、リム部Rr(即ち第1内周面部41)と胴部6(即ち所定外周部6ox)との嵌合部50は、本実施形態ではリム部Rr(即ち第1内周面部41)と胴部6(即ち所定外周部6ox)とが軸方向相対摺動可能であるものの、径方向にガタのない嵌合状態に設定される。そして、このような相対摺動可能な嵌合状態であれば、嵌合部50の摺動間隙が僅かであっても、嵌合部50を通して溶接時のガス抜きが可能となる。
【0039】
尚、嵌合部50は、これが圧入嵌合状態(例えば軽圧入又は高圧入)となるよう嵌合面間に所定の締代を設定してもよい。この場合は、圧入状態の嵌合部50を通しても、上記したスラスト荷重が受け止め可能となり、また或る程度のトルク伝達が可能となるため、それだけ後述する溶接部wの荷重負担が軽減されることとなる。
【0040】
かくして、本発明でいう「嵌合」とは、軸方向相対摺動可能な嵌合が含まれることは元より、嵌合部50が上記した圧入嵌合状態(例えば軽圧入又は高圧入)にある場合も含まれる概念である。
【0041】
ところでリングギヤRのリム部Rrの内周面には、リム部Rrと胴部6との嵌合部50から軸方向外方側(即ちピニオン軸21から離れる側)に離間した位置で、径方向内方側に延びる内向き環状鍔状の被固定部Rraが一体に突設される。一方、胴部6(第2胴部半体6R)の外周面には、上記嵌合部50から軸方向外方側に離間した位置で、径方向外向きの環状鍔状の支持突部6aが一体に突設される。
【0042】
そして、支持突部6aの径方向外端部と被固定部Rraの径方向内端部とは、上記嵌合部50よりも軸方向外方側で且つ径方向内方側の位置に在って、相互間が全周に亘り突き合わせ状態で溶接される。その溶接手段としては、従来周知の溶接手法(例えばレーザ溶接、電子ビーム溶接等)が適宜、採用可能である。
【0043】
また、胴部6(より具体的には第2胴部半体6R)の軸方向外端面、特に支持突部6aに連なる端面部分には、被固定部Rraと支持突部6aとの溶接部wよりも径方向内方側に位置していて軸方向で胴部6の内方側に窪んだ環状の凹部Hが形成される。
【0044】
さらに、溶接部wと上記嵌合部50とは、相互に軸方向に離間している上、その両者w,50の相互間には、胴部6及びリム部Rrで径方向に挟まれた環状の空洞部Cが形成されている。
【0045】
しかも、その空洞部Cと凹部Hとは、各々の軸方向範囲の少なくとも一部が互いにオーバラップするように形成される。即ち、溶接部wの軸方向幅をa、溶接部wの軸方向外端からの凹部Hの軸方向深さをbとしたときに、b>aが成立するように軸方向幅a及び軸方向深さbが設定される。従って、凹部Hの軸方向深さbは、溶接部wの軸方向範囲aより深くなる。
【0046】
また、空洞部Cと凹部Hとの軸方向範囲のオーバラップ量をdとすれば、d=b-aとなる。従って、凹部Hの軸方向深さbが溶接部wの軸方向幅aと比べ深ければ深いほど、空洞部Cと凹部Hとのオーバラップ量dが大きくなる。
【0047】
更に、溶接部wの外端から空洞部Cの軸方向内端までの軸方向距離をcとしたときに、c>bが成立するように上記軸方向距離c及び凹部Hの軸方向深さbが設定される。これにより、空洞部Cの内端部が凹部Hの内端部と比べて更に奥まった位置(即ち軸方向内方側)に存することが明らかである。この場合、c>bであることで空洞部Cの空間容積を十分に確保できるため、溶接時に空洞部C内のガスが膨張する際に、空洞部C内の内圧は空間容積が大きいことで空洞部C内のガスの熱容量が大きくなり、溶接による入熱に対してガスが膨張しにくくなる。また、溶接によって入熱されてから自然冷却されるまでの間の空洞部C内の内圧が、溶接不良を生じさせる圧力まで上昇しない場合は、ガス抜きのための構造が不要となる。たとえ、ガス抜きが必要な場合でも、空洞部Cの空間容積が大きいことでガスが膨張しにくくなっているため、排出すべきガスの量を低下させることができて、ガス抜きに必要な孔等の断面積を小さくすることができる。
【0048】
また本実施形態では、リム部Rrと胴部6との嵌合部50の軸方向嵌合長さが、溶接部wの軸方向長さよりも十分長く設定されている。これにより、胴部6にリム部Rrをより安定よく嵌合、支持させることができる。
【0049】
ところで胴部6の外周面の、空洞部Cに臨む空洞形成面部6cは、溶接部wの軸方向内端と嵌合部50とに渡って滑らかに連続した連続面で形成される。より具体的に言えば、空洞形成面部6cは、図2にも明示されるように、溶接部wの軸方向内端から径方向内方にストレートに延びる第1平坦面部f1と、第1平坦面部f1に連なる凹部形状の第1曲面部r1と、第1曲面部r1に連なる凹部形状の第2曲面部r2と、第2曲面部r2に連なる凹部形状の第3曲面部r3と、第3曲面部r3から径方向外方にストレートに延びて嵌合部50(即ち前記した所定外周部6ox)の外端近傍に至る第3平坦面部f3とを有する。
【0050】
そして、第1軸線X1を含む胴部6の縦断面(例えば図2)で見て、第1平坦面部f1は所定軸線X1と略直交しており、且つ第1及び第3曲面部r1,r3は、第2曲面部r2よりも曲率半径が小さい円弧状に形成される。また、第2曲面部r2は可能な限り曲率半径を大きくすることが望ましい。
【0051】
一方、リム部Rrの内周面の、空洞部Cに臨む空洞形成面部Rrcは、溶接部wの軸方向内端から径方向外方にストレートに延びて所定軸線X1と略直交する第2平坦面部f2と、第2平坦面部f2に連なる第4曲面部r4と、第4曲面部r4に連なり嵌合部50(即ち前記した第1内周面部41)まで軸方向に延びる円筒面状の第2内周面部42とを有する。尚、リム部Rrの第1,第2内周面部41,42間には、僅かな内径差が存在し、その間がアール状の小さな段差面で接続される。
【0052】
また、胴部6の支持突部6a及びリム部Rrの被固定部Rraは、両者の溶接部w周辺において、溶接時の入熱によって硬化する熱影響部t1,t2を各々有している。そして、第1,第2平坦面部f1,f2は、図2にも明示する如く熱影響部t1,t2の空洞部Cに臨む領域を全て含み得るように、十分な径方向範囲で形成される。
【0053】
次に第1実施形態の作用を説明する。
【0054】
デフケースDCは、全体が適当な金属材料(例えば鉄系合金、アルミ合金等)で一体成形(例えば鋳造成形)され、その成形後にデフケースDCの各部に対し適宜、機械加工が施される。この機械加工には、例えば、胴部6の所定外周部6oxや段差6osに対する表面仕上げ加工や、螺旋溝15,16の溝加工の他、胴部6の内面6iに対する旋削加工が少なくとも含まれる。
【0055】
差動装置Aの組立に際しては、先ず、デフケースDCの胴部6内に差動機構DGの各構成要素を、不図示の作業窓又は支孔6hを通して装入し、所定の組付位置にセットする。しかる後、リングギヤRをデフケースDCの胴部6外周に、次のような作業手順で固定する。
【0056】
先ず、デフケースDCの胴部6の所定外周部6oxにリングギヤRのリム部Rrの第1内周面部41を、リム部Rrの軸方向内端面が胴部6外周の段差6osに係合するまで嵌合させる。そして、この嵌合が完了した状態では、胴部6外周の支持突部6aの径方向外端部と、リム部Rr内周の被固定部Rraの径方向内端部とが径方向で互いに突き合わせた状態となる。
【0057】
次いで、その突き合わせ状態から支持突部6aの径方向外端部と被固定部Rraの径方向内端部とを、デフケースDCの軸方向外方側(図1,2で右方側)から全周に亘り溶接すると、その溶接部wを介してリム部Rr内周と胴部6外周間が一体に結合される。この場合、胴部6外周の段差6osは、リングギヤRの胴部6外周への嵌合位置を容易に位置決めする位置決め手段となるばかりか、リングギヤRが駆動ギヤ31から受ける一方向(図1,2で左方向)のスラスト荷重を受け止める機能を果たし得るため、リングギヤRの組付作業性を高め且つ溶接部wの荷重負担を軽減する上で有利となる。
【0058】
尚、胴部6内への差動機構DGの組付け作業と、胴部6へのリングギヤRの固定作業とは、上記とは逆の手順でも実行可能である。即ち、リングギヤRを胴部6外周に嵌合、溶接した後で、胴部6内へ差動機構DGを組付けるようにしてもよい。
【0059】
そして、差動機構DGの組付け及びリングギヤRの溶接が終了したデフケースDCは、これの第1,第2軸受ボス7,8を軸受13,14を介してミッションケース5に回転自在に支持させ、更に左右の車軸11,12の内端部を第1,第2軸受ボス7,8に挿入させ且つ左右のサイドギヤ23,23の内周にスプライン嵌合させることで、差動装置Aのミッションケース5内への組付けが終了する。
【0060】
以上説明した本実施形態の差動装置Aにおいて、リングギヤRは、ギヤ部Rgと、ギヤ部Rg内周に一体に形成されてデフケースDCの胴部6の最外径外周部6oMAX 近傍の所定外周部6oxに非溶接状態で嵌合するリム部Rrとを備えており、リム部Rrは、リム部Rrと胴部6との嵌合部50から軸方向に離間し且つ嵌合部50よりも径方向内方側の位置で胴部6に溶接される被固定部Rraを有している。
【0061】
このようなリングギヤRの固定構造によれば、リングギヤRは、これの小径化を図るべくリム部Rr内周を胴部6の外周に直接嵌合させても、リングギヤR及び胴部6相互の溶接部wよりギヤ部Rgを径方向に十分に離間させることができるため、ギヤ部Rgに対する溶接による熱歪の影響を抑制可能となる。従って、その熱歪の影響によるギヤ部Rgの強度や耐久性の低下を抑えながら、リングギヤR付きデフケースDCの小径化が達成可能となる。その上、リム部Rr内周を胴部6の外周に非溶接状態で直接嵌合させるようにして胴部6とリングギヤR間の溶接部位を減らしたため、それだけコスト節減及び生産性向上が図られる。
【0062】
しかも本実施形態の胴部6の軸方向外方側の端面には、リム部Rr内周と胴部6外周と の溶接部wよりも径方向内方側に位置し且つ軸方向で胴部6の内方側に窪んだ凹部Hが形成される。この凹部Hの特設によれば、胴部6外周の凹部H周辺(特に凹部Hと溶接部wとの間で径方向に挟まれた部位)が弾性変形し易くなるため、溶接後の収縮による熱歪を無理なく吸収可能となって、ギヤ部Rgに対する熱歪の影響を更に抑制可能となる。
【0063】
この場合、特に本実施形態では溶接部wの軸方向幅をa、溶接部wの軸方向外端からの凹部Hの軸方向深さをbとしたときに、b>aが成立するように設定しているため、溶接部wの軸方向幅に対し凹部Hを十分深く設定できて、上記した弾性変形可能部位を十分に確保可能となり、ギヤ部Rgに対する熱歪の影響をより少なくすることができる。
【0064】
また本実施形態のリングギヤRは、駆動ギヤ31との噛合によりスラスト荷重を受ける歯部形状(即ちヘリカル歯)を有し、リム部Rrと胴部6との溶接部wが、嵌合部50から軸方向に離間していて、その溶接部wと嵌合部50との間に、胴部6及びリム部Rrで径方向に挟まれた環状の空洞部Cが形成されている。
【0065】
そして、胴部6外周面の空洞形成面部6cが、溶接部wの軸方向内端と嵌合部50とに渡って滑らかに連続した連続面(即ちf1,r1~r3,f3)で形成されるため、スラスト荷重に因る空洞形成面部6c近傍での応力集中を有効に緩和可能である。
【0066】
また、本実施形態では、空洞部Cと凹部Hとが、各々の軸方向範囲の少なくとも一部が互いにオーバラップ(図2のd領域を参照)するように形成される。このオーバラップ構成によれば、胴部6外周面の空洞形成面部6cと凹部Hの内面との間に挟まれた、肉厚が最も薄い薄肉部位61(例えば図2の格子状ハッチング領域を参照)が、上記溶接後の収縮による熱歪によって弾性変形し易くなるので、溶接後の収縮による熱歪を吸収可能となって、ギヤ部Rgに対する熱歪の影響を少なくすることができる。また、空洞形成面部6cと凹部Hとの相対位置関係の適宜設定により、上記薄肉部位61の剛性や位置、領域等を容易に調整可能となる。
【0067】
その上、本実施形態では、胴部6外周面の空洞形成面部6cが、溶接部wの軸方向内端から径方向内方に延びて第1軸線X1と略直交する第1平坦面部f1を有する一方、リム部Rr内周面の空洞形成面部Rrcが、溶接部wの軸方向内端から径方向外方に延びて第1軸線X1と略直交する第2平坦面部f2を有する。そして、胴部6及びリム部Rrは、両者の溶接部w周辺において、溶接時の入熱によって硬化する熱影響部t1,t2を各々有していて、第1,第2平坦面部f1,f2が、熱影響部t1,t2の空洞部Cに臨む領域を全て含むように形成される。これにより、熱影響部t1,t2に、応力集中の原因となる変曲点や段差が設けられないことで、熱影響部t1,t2を起点とした破損を効果的に防止可能となる。
【0068】
ところで、スラスト荷重で胴部6外周の空洞形成面部6cに生じる応力は、その空洞形成面部6cの凹曲面の曲率半径が大きいほど広範囲に分散されて応力集中の緩和に有効であるが、その反面、第1平坦面部f1が溶接部w内端より径方向内方に延びる関係で、第1平坦面部f1に連なる上記凹曲面の曲率半径が大きくなるほど空洞形成面部6cの径方向内方側への凹みが深くなって胴部6の肉厚が減少してしまう不都合がある。これに対して本実施形態では、第1平坦面部f1に、曲率半径の小さい第1曲面部r1を介して曲率半径の大きい第2曲面部r2を連ねたことで、スラスト荷重で空洞形成面部6cに生じる応力を曲率半径の大きい第2曲面部r2で広範囲に分散させて応力集中を緩和しながら、曲率半径の小さい第1曲面部r1の特設により空洞形成面部6cの上記凹みを極力浅くすることができて、空洞形成面部6cの特設による肉厚の減少が極力抑えられる。
【0069】
また胴部6外周の空洞形成面部6cを径方向内方側に過度に深く凹ませないようにしたことで、空洞形成面部6cと凹部Hとの間の上記薄肉部位61に必要な肉厚を確保できて、その薄肉部位61が過度に強度低下しないで弾性変形し易くなる。そして、胴部6は、空洞部Cの特設によるも十分な肉厚を確保され、十分な剛性強度を確保可能となる。
【0070】
その上、本実施形態では、胴部6外周面の空洞形成面部6cが、嵌合部50(所定外周部6ox)の外端近傍から径方向内方にストレートに延びる第3平坦面部f3を有しているため、空洞形成面部6cの、嵌合部50側の起点位置を軸方向外方側(即ちピニオン軸21から離れる側、換言すれば嵌合部50の内端から遠い側)に偏位させることができる。そして、その偏位分だけ嵌合部50の軸方向範囲を長く確保できるから、胴部6外周によるリングギヤRの嵌合支持が、より安定する。
【0071】
また本実施形態の空洞形成面部6cは、第3平坦面部f3に連なる凹部形状の第3曲面部r3を有しており、第3曲面部r3は、第2曲面部r2よりも曲率半径が小さい円弧状で、第2曲面部r2と滑らかに連続している。仮に、第3曲面部r3を省略した場合に、第2曲面部r2と第3平坦面部f3の接続部において角部が生じると角部へ応力が集中するため、滑らかに連続した連続面とする必要があるが、第3平坦面部f3に対して曲率半径が大きい第2曲面部r2の接線とを滑らかに連続した連続面となるように配置すると、第2曲面部r2の曲率半径が大きいが故にデフケース(胴部6)のサイズが大きくなってしまう。そこで第3平坦面部f3と第2曲面部r2の間を、第2曲面部r2より曲率半径が小さい第3曲面部r3で接続することで、サイズが大きくなることを避けつつ空洞形成面部6cでの応力集中を緩和できる。
【0072】
また図3には、本発明の第2実施形態が示される。即ち、第1実施形態のデフケースDCでは、胴部6の最外径外周部6oMAX とは段差6osを介して隣接する所定外周部6oxにリングギヤRのリム部Rr内周を嵌合させ且つ段差6osにリム部Rr端面を係合させるものを示した。しかし段差6osは必ずしも設ける必要はなく、例えば、第2実施形態では、胴部6の最外径外周部6oMAX の円筒面にリングギヤRのリム部Rr内周の第1内周面部41を嵌合させている。第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様であるため、第2実施形態の各構成要素には、第1実施形態の対応する構成要素の参照符号をそのまま付記し、構造の説明は省略する。
【0073】
この第2実施形態では、第1実施形態と基本的に同様の作用効果(但し、段差6osにリム部Rr端面を係合させることに基づく効果を除く)を達成可能である。更に第2実施形態では、胴部6の最外径外周部6oMAX 周辺に、リングギヤRの位置決めのための段差を特設する必要はなく、それだけ胴部6の外周形状が単純化されて加工性が良好となる等の利点もある。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0075】
例えば、上記実施形態では、差動装置Aを車両用差動装置、特に左右の駆動車輪間の差動装置として実施したものを示したが、本発明では、差動装置Aを車両の前後の駆動車輪間の差動装置として実施してもよい。或いはまた、本発明の差動装置を、車両以外の種々の機械装置における差動装置として実施してもよい。
【0076】
また前記実施形態では、リングギヤRの歯部をヘリカルギヤ状としたものを示したが、本発明のリングギヤは、ヘリカルギヤでなくても、駆動ギヤ31との噛合により第1軸線X1に沿う方向のスラスト荷重を受ける歯部形状の他のギヤ(例えばベベルギヤ、ハイポイドギヤ等)でもよい。或いはまた、駆動ギヤ31との噛合によりスラスト荷重を受けない歯部形状のギヤ(例えばスパーギヤ)でもよい。
【符号の説明】
【0077】
A・・・・・・差動装置
a・・・・・・溶接部の軸方向幅
b・・・・・・溶接部の軸方向外端からの凹部の軸方向深さ
C・・・・・・空洞部
DC・・・・・デフケース
DG・・・・・差動機構
f1,f2・・第1,第2平坦面部
H・・・・・・凹部
R・・・・・・リングギヤ
Rg・・・・・ギヤ部
Rr・・・・・リム部
Rra・・・・被固定部
Rrc・・・・リム内周面の空洞形成面部
r1~r3・・第1~第3曲面部
t1,t2・・熱影響部
w・・・・・・リム部の被固定部と胴部との溶接部
X1・・・・・所定軸線としての第1軸線
6・・・・・・デフケースの胴部
6c・・・・・胴部外周面の空洞形成面部
6oMAX ,6ox・・胴部の最外径外周部,所定外周部
11,12・・一対のドライブ軸としての左右の車軸
31・・・・・駆動ギヤ
50・・・・・リム部と胴部との嵌合部
図1
図2
図3