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特許7082050脊髄性筋萎縮症の処置において有用なアデノ-関連ウイルスベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】脊髄性筋萎縮症の処置において有用なアデノ-関連ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220531BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220531BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220531BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
A61P21/02
A61P43/00 121
A61K35/76
A61K48/00
C12N7/01 ZNA
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018531163
(86)(22)【出願日】2016-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 US2016066669
(87)【国際公開番号】W WO2017106354
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-12-09
(31)【優先権主張番号】62/267,012
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
(72)【発明者】
【氏名】ヒンデラー,クリスチャン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-521612(JP,A)
【文献】国際公開第2015/121501(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0110857(US,A1)
【文献】HU, C. et al.,RH10 provides superior transgene expression in mice when compared with natural AAV serotypes for neonatal gene therapy,Journal of Gene Medicine,2010年,Vol.12, No.9,P.766-778
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N A61P A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5のアミノ酸配列又はそれに少なくとも99%同一な配列を含むAAVrh10キャプシドと、機能がある生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードする配列番号2により定義される核酸配列及び宿主細胞におけるSMN配列の発現を方向付ける発現調節配列を含むベクターゲノムとを含む、組換えアデノ関連ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項2】
前記発現調節配列はプロモーターを含む、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項3】
前記プロモーターはCBプロモーターである、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項4】
前記プロモーターはCB7プロモーターである、請求項3に記載のAAVベクター。
【請求項5】
前記発現調節配列は組織特異的プロモーターを含む、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項6】
組織特異的プロモーターはニューロン-特異的プロモーターである、請求項5に記載のAAVベクター。
【請求項7】
イントロン、コザック配列、ポリA、WPRE及び転写後調節エレメントの1つ以上をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載のAAVベクター。
【請求項8】
AAV逆位末端反復(ITRs)配列をさらに含む、請求項1~7のいずれかに記載のAAVベクター。
【請求項9】
前記ITRsは、キャプシドを供給するAAVと異なるAAVに由来する、請求項8に記載のAAVベクター。
【請求項10】
前記ITRsはAAV2に由来する、請求項8に記載のAAVベクター。
【請求項11】
製薬学的に許容され得る担体及び請求項1~10のいずれか1つに記載のAAVベクターを含む、医薬組成物。
【請求項12】
ヒト患者の脊髄性筋萎縮症の処置に使用するための、請求項1~10のいずれか1つに記載のAAVベクター又は請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記AAVベクター又は組成物は別の療法と併用して投与可能である、請求項12に記載の使用のための、AAVベクター又は組成物。
【請求項14】
前記AAVベクター又は組成物は体重kg当たり約1x1010個のゲノムコピー(GC)ないし体重kg当たり約1x1014個のGCの用量で投与可能である、請求項13に記載の使用のための、AAVベクター又は組成物。
【請求項15】
前記AAVベクター又は組成物は体重kg当たり約5x1013個のGCの用量で投与可能である、請求項14に記載の使用のための、AAVベクター又は組成物。
【請求項16】
前記AAVベクター又は組成物は体重kg当たり約2.5x1012個のGCの用量で投与可能である、請求項14に記載の使用のための、AAVベクター又は組成物。
【請求項17】
前記AAVベクター又は組成物は1回以上投与可能である、請求項12~16のいずれかに記載の使用のための、AAVベクター又は組成物。
【請求項18】
患者における脊髄性筋萎縮症を処置するための薬剤を製造するための、請求項1~10のいずれか1に記載のAAVベクター又は請求項11に記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記薬剤がクモ膜下腔内投与のために調整される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記患者が哺乳類である、請求項18又は19に記載の使用。
【請求項21】
前記患者がヒトである、請求項20に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脊髄性筋萎縮症の処置に有用な組成物及び方法を提供する。該組成物はAAVキャプシド、例えばAAVrh.10キャプシド及び機能があるSMNタンパク質をコードする核酸配列を含む組換えアデノ関連ウイルスベクターを含む。前記方法は、これらの組成物を必要のあるヒトに投与することを含む。
【背景技術】
【0002】
電子形態で提出された材料の文献援用
出願人は、電子形態で添付して申請される配列表材料を、本明細書の一部を構成するものとして援用する。このファイルは“16-7655PCT_SEQ_Listing_ST25.txt”と標識される。
【0003】
発明の背景
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、スプライセオソーム(splicesome)生合成に含まれる普遍的に発現されるタンパク質(survival of motor neuron-SMN)をコードする遺伝子であるテロメアSMN1中の突然変異により引き起こされる神経筋疾患である。不明確な理由で、SMN欠乏は下位運動ニューロンへの選択的な毒性を生じ、進行性のニューロン消失及び筋力低下を生ずる。疾患の重篤度は、少量の全長SMN転写物の産生しか生じないスプライス部位の突然変異を有する相同遺伝子(SMN2)のセントロメア複製のコピー数により変化する。1-2個のSMN2のコピーを有する患者は、SMAの重症を呈し、それは生後数か月内の発症及び呼吸不全への急速な進行を特徴とする。3個のSMN2のコピーを有する患者は、一般に軽症の疾患を示し、典型的には6月齢後に発症する。多くは歩行能力を得ることはないが、めったに呼吸不全に進行せず、多くの場合に成人まで生きる。4個のSMN2のコピーを有する患者は成人まで発症せず、筋力低下が徐々に発症する。緩和ケア以外にSMAのための現在の処置はない。
【0004】
SMN機能の消失と疾患の重篤度の間の関連性は、SMAを遺伝子療法に関する標的候補とする。アデノ関連ウイルス、AAV8-hSMNのSMA-マウスモデルにおけるCNS(中枢神経系)への投与を含む以前の研究は、脊髄におけるSMNの発現を示し、SMA表現型を救い得ることを示した;しかしながら運動ニューロンの数の控えめな保存しか生じず-長期生存は達成されなかった(非特許文献1)。
【0005】
SMN遺伝子産物は細胞内にあることが理由の一部であるため、疾患は遺伝子療法に関する独特の挑戦を与える。かくして含まれる運動ニューロンの原因となる(underlying)サブセットに関する安定した形質導入効率は、薬効性のために重要である。処置のための代替的な方法は、SMN2のスプライシングを変えて、SMNタンパク質の産生を増加させるために、マウスCNSに注入されるアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を研究した。(非特許文献2)。
【0006】
遺伝子療法に関し、AAV9は、CNSへの遺伝子の導入を含む動物研究において達成された結果に基づいて、最適のベクターとして浮上した。例えばSMAマウスモデルにおけるSMNのAAV9形質導入の用量-反応研究に基づき、Passiniは非ヒト霊長類(“NHPs”)においてクモ膜下腔内に注入されるAAV9の用量を試験し、運動ニューロンへのマーカー遺伝子(緑色蛍光タンパク質、“GFP”)の十分な導入が達成されたか否かを決定した。(非特許文献3)。そして他の研究者はAAV9のクモ膜下腔内注入を受けたマウス及びNHPsのCNSにおけるGFPの広範囲の分布を報告した。(
非特許文献4及び非特許文献5)。AAV9の全身的送達は血液脳関門を通過し、CNSへのGFPの広範囲の遺伝子導入を達成することも示された。(非特許文献6;非特許文献7)。
【0007】
近年、マウスにおける多くの組織の形質導入のために少なくともAAV9と同様に有効であると報告された別のAAVベクターである、AAVrh10を分析し、新生仔マウスにおける血管内送達後のCNS及びPNS(末梢神経系)へのマーカー遺伝子GFPの遺伝子導入を達成する能力を比較した。低用量のAAVrh10は試験された組織においてより高い形質導入を引き起こすように思われたが、治療効果のために必要と考えられるより高い用量において、差はあまり明白でなかった。(非特許文献8)。
【0008】
必要なのはSMAのための有効な処置である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Passiniら、2010,J Clin Invest 120:1253-1264
【文献】Passiniら、2011,Sci Transl Med 3:72ra18
【文献】Passiniら、2014,Human Gene Therapy 25:619-630
【文献】Myerら、2014,Mol.Ther.23:477-487
【文献】Hindererら、2014,Mol.Ther 1:14051
【文献】Foustら、2009,Nature Biotech 27:59-65
【文献】Duqueら、2009,Mol Ther 17:1187-1196
【文献】Tanguyら、2015,Front Mol Neurosci 8:article 36
【発明の概要】
【0010】
1つの側面において、アデノ-関連ウイルスベクター(AAV)ベクターは、AAVrh10キャプシドと、AAV逆位末端反復(ITR(s))及びSMNタンパク質をコードする核酸配列及び宿主細胞におけるSMNの発現を方向付ける発現調節配列を含むベクターゲノムとを含む。
【0011】
さらなる側面において本発明は、核酸を包むAAVrh10キャプシドを有し、動物の患者におけるクモ膜下腔内投与に適した組換えアデノ-関連ウイルスベクター(rAAV)に関し、前記核酸は、AAVITR(s)(逆位末端反復)を含み、SMNをコードし、宿主細胞におけるSMN発現を方向付ける調節エレメントにより調節される(“rAAV.SMN”)。そのようなrAAV.SMNsは、複製欠損性であり、SMN欠乏と診断される患者;特にSMAと診断されるヒトの患者のCNSにSMNを送達するために有利に用いられ得る。好ましい態様において、rAAVは脳及び脊髄においてニューロンそして特に運動ニューロンを形質導入する。別の好ましい態様において、本発明のrAAVは、処置されるべき患者中に存在する場合があるAAV9キャプシドへの抗血清により中
和されない。ある態様において、核酸配列は配列番号1又はそれと少なくとも95%の同一性を共有する配列をコードする。
【0012】
ある態様において、ヒトSMNタンパク質(“hSMN”)タンパク質をコードする核酸配列をコドン最適化することができる。例えばSMNタンパク質をコードする核酸配列は配列番号2のSMN1配列又はそれと少なくとも70%の同一性を共有する配列である。
【0013】
別の側面において、製薬学的に許容され得る担体及び本明細書に記載されるrAAVベクターを含む製薬学的組成物を提供する。
【0014】
さらに別の側面において、患者における脊髄性筋萎縮症の処置方法を提供する。方法は、本明細書に記載される製薬学的組成物を必要のある患者に投与することを含む。
【0015】
さらに別の側面において、患者においてSMNを発現させる方法を提供する。1つの態様において、方法は本明細書に記載される製薬学的組成物を必要のある患者に投与することを含む。
【0016】
本発明の他の側面及び利点は、以下の本発明の詳細な記述から容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】SMNベクターゲノム構造を示す図である。ITR=AAV2逆位末端反復。CB7=サイトメガロウイルスエンハンサーを有するチキンベータアクチンプロモーター。RBG=ウサギベータグロブリンポリアデニル化シグナル。
図2】ベクター処置されたSMNΔ7マウスの脊髄及び後根神経節におけるヒトSMN発現を示す顕微鏡写真である。コドン-最適化されたヒトSMN cDNA及びCBプロモーターから成る発現コンストラクトをAAVrh10キャプシド中に包んだ。新生SMNΔ7マウスの顔面静脈中に5x1010個のGCを注入した。生後7日に動物を犠牲にし、ヒトSMNに対する抗体(2B1,Santa Cruz)で組織を染色した。脊髄はたまに形質導入された細胞を示したが、後根神経節は多くが形質転換された。
図3】pAAV.CB7.C1.hSMNを用いるHEK 293及びHuh7細胞ライセート+/-トランスフェクションのウエスターンブロットである。リポフェクタミン2000を用いて90%の集密度で細胞をトランスフェクションし、48時間後に収穫した。
図4A図4A及び図4Bは、本明細書に記載されるコドン最適化された配列(クエリー;配列番号2)に対する天然の(native)hSMN1,変異型d(アクセッション番号NM_000344.3)(サブジェクト;配列番号3)のアラインメントである。
図4B図4A及び図4Bは、本明細書に記載されるコドン最適化された配列(クエリー;配列番号2)に対する天然の(native)hSMN1,変異型d(アクセッション番号NM_000344.3)(サブジェクト;配列番号3)のアラインメントである。
図5】本明細書に記載されるAAVrh.10.hSMN1コンストラクトのプラスミドマップである。
図6】実施例2に記載されるものに類似の種々の用量のAAVrh.10.hSMN1を用いて静脈内処置されたSMNΔ7仔マウスの生存曲線である。
【発明の詳細な説明】
【0018】
遺伝子操作されたヒト(h)生存運動ニューロン1(SMN1)cDNAが本明細書に
提供され、それは天然のhSMN1配列と比較して翻訳を最大にするように設計された(図5及び配列番号3に示される通り)。5’キャッピング及びmRNAの安定性を向上させるためにイントロンをコード配列の上流に導入した(図5及び配列番号4を参照されたい)。
【0019】
遺伝子操作されたhSMN1配列を含むウイルスベクターも本明細書に提供される。これらの組成物を本明細書に説明される通りに脊髄性筋萎縮症の処置方法において用いる場合がある。比較の目的で、天然のヒトSMN1コード配列及び遺伝子操作されたcDNAのアラインメントを図4に示す。
【0020】
国際SMAコンソーシアム分類(international SMA Consortium classification)は、発症の年齢及び運動発達の目安(motor development milestone)に応じて、SMA表現型におけるいくつかの重篤度を定義している。SMA0指定は出生前発症ならびに重症の関節拘縮、顔面両麻痺及び呼吸不全を反映するように提案されている。I型SMA、Werdnig-Hoffmann I病は生後6ヶ月以内に発症する最も重症の出生後形態である。患者は起き上がることができず、重症の呼吸機能障害を有する。II型SMAは最初の2年以内に発症する中程度の形態である;子供は起き上がることができるが、歩行できない。臨床経過は様々である。III型(Kugelberg-Welander病とも呼ばれる)は2歳より後に始まり、通常は慢性の展開を有する。子供は少なくとも幼少期には自力で立ち歩くことができる。成人形態(IV型)は最も軽度であり、30歳より後に発症する;数例しか報告されておらず、その頻度は正確に知られていない。
【0021】
SMAは常染色体劣性遺伝疾患であり、SMA患者の約95%はSMN1遺伝子のエクソン7及び8(又はエクソン7のみ)のホモ接合不在(homozygous absence)を有する。患者の残りはSMN1突然変異に関して複合ヘテロ接合体であり、一方の染色体上に微細突然変異(subtle mutation)及び他方の上に欠失又は遺伝子変換を有する。機能があるSMN1遺伝子を与えることは表現型を救い得ることが示された。上記で引用されたTanguyを参照されたい。
【0022】
1つの側面において、機能があるSMNタンパク質をエンコードするコード配列を提供する。1つの態様において、機能があるSMN1のアミノ酸配列は配列番号1の配列又はそれと95%の同一性を共有する配列である。1つの態様において、改変hSMN1コード配列を提供する。好ましくは、改変hSMN1コード配列は全長の天然のhSMN1コード配列(図4、配列番号3)と約80%未満の同一性、好ましくは約75%以下の同一性を有する。1つの態様において、改変されたhSMN1コード配列は、天然のhSMN1と比較される時のAAV-媒介送達(例えばrAAV)後の翻訳速度の向上を特徴とする。1つの態様において、改変hSMN1コード配列は、全長の天然のhSMN1コード配列と約80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%又はそれ未満の同一性を共有する。1つの態様において、改変hSMN1コード配列は配列番号2又は配列番号2と70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくはそれより高い同一性を有する配列である。
【0023】
核酸配列の文脈における「パーセント(%)同一性」、「配列同一性」、「パーセント配列同一性」又は「パーセント同一の」という用語は、対応させるために整列させた時に2つの配列で同一の残基を指す。配列同一性を比較する長さは、ゲノムの全長か、遺伝子コード配列の全長か、又は少なくとも約500~5000個のヌクレオチドのフラグメントかが望ましい。しかしながら、例えば、少なくとも約9個のヌクレオチド、通常少なくとも約20~24個のヌクレオチド、少なくとも約28~32個のヌクレオチド、少なく
とも約36個以上のヌクレオチドのより短いフラグメント間の同一性が望ましい場合もある。
【0024】
全長のタンパク質に及ぶアミノ酸配列、ポリペプチド、約32個のアミノ酸、約330個のアミノ酸又はそのペプチドフラグメントあるいは対応する核酸配列コード配列に関してパーセント同一性を容易に決定することができる。適したアミノ酸フラグメントは少なくとも約8個の長さのアミノ酸である場合があり、最高で約700個のアミノ酸である場合がある。一般に2つの異なる配列間の「同一性」、「相同性」又は「類似性」に言及する場合、「同一性」、「相同性」又は「類似性」は「整列した」配列を参照して決定される。「整列した」配列又は「アラインメント」は、多くの場合に参照配列と比較して欠失しているか又は追加の塩基又はアミノ酸に関する修正を含む複数の核酸配列又はタンパク質(アミノ酸)配列を指す。
【0025】
アラインメントは、公開されているか又は商業的に入手可能な多様な複数配列アラインメントプログラム(Multiple Sequence Alignment Programs)のいずれかを用いて行われる。アミノ酸配列に関して配列アラインメントプログラム、例えば“Clustal X”、“MAP”、“PIMA”、“MSA”、“BLOCKMAKER”、“MEME”及び“Match-Box”プログラムが入手可能である。一般にこれらのプログラムのいずれもデフォルト設定で用いられるが、当該技術分野における熟練者は必要に応じてこれらの設定を変えることができる。あるいはまた、当該技術分野における熟練者は、少なくとも言及されたアルゴリズム及びプログラムにより与えられる同一性又はアラインメントと同様のレベルのそれらを与える別のアルゴリズム又はコンピュータープログラムを用いることができる。例えばJ.D.Thomsonら、Nucl.Acids.Res.,“A comprehensive comparison of multiple sequence alignments”,27(13):2682-2690(1990)を参照されたい。
【0026】
複数配列アラインメントプログラムが核酸配列に関しても入手可能である。そのようなプログラムの例には“Clustal W”、“CAP Sequence Assembly”、“BLAST”、“MAP”及び“MEME”が含まれ、それらはインターネット上のウェブサーバー(Web Servers)を介して利用可能である。そのようなプログラムに関する他の源は当該技術分野における熟練者に既知である。あるいはまた、Vector NTIユーティリティーも用いられる。上記のプログラム中に含有されるものも含めて、ヌクレオチド配列同一性の測定に用いられ得る当該技術分野において既知の複数のアルゴリズムもある。別の例として、GCG Version 6.1中のプログラムであるFasta(商標)を用いてポリヌクレオチド配列を比較することができる。Fasta(商標)はクエリー及びサーチ配列の間の最高重複(best overlapping)領域のアラインメント及びパーセント配列同一性を与える。例えば、引用することによりその記載事項が本明細書の内容となるGCG Version 6.1中に与えられるFasta(商標)をそのデフォルトパラメーター(6の文字列の長さ及びスコアリングマトリックス(scoring matrix)のためのNOPAM因子)と共に用いて核酸配列間のパーセント配列同一性を決定することができる。
【0027】
1つの態様において、改変されたhSMN1コード配列は、患者の種における発現のために最適化されたコドン最適化配列である。本明細書で用いられる場合、「患者」は哺乳類、例えばヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタあるいはサル、チンパンジー、ヒヒ又はゴリラのような非ヒト霊長類である。好ましい態様において、患者はヒトである。1つの態様において、配列はヒトにおける発現のためにコドン最適化される。
【0028】
種々の異なる方法によりコドン最適化コード領域を設計することができる。この最適化は、オンラインで入手可能な方法(例えばGeneArt)、公開されている方法又はコドン最適化サービス、例えばDNA2.0(Menlo Park,CA)を提供する会社を用いて行われる場合がある。1つのコドン最適化法が例えば米国国際特許公開番号国際公開第2015/012924号パンフレット中に記載されており、それは引用することによりその記載事項全体が本明細書の内容となる。例えば米国特許公開第2014/0032186号明細書及び米国特許公開第2006/0136184号明細書も参照されたい。適切には、産物に関するオープンリーディングフレーム(ORF)の全長が改変される。しかしながらいくつかの態様において、ORFの1つのフラグメントのみが改変される場合がある。これらの方法の1つの使用により、いずれかの与えられるポリペプチド配列に頻度を適用し、ポリペプチドをコードするコドン最適化コード領域の核酸フラグメントを作製することができる。
【0029】
コドンに実際の変更を行うため、又は本明細書に説明される通りに設計されるコドン最適化コード領域を合成するための複数の選択肢が利用可能である。当該技術分野における通常の熟練者に周知の標準的かつ慣例的な分子生物学的操作を用いてそのような改変又は合成を行うことができる。1つの方法では、それぞれ長さが80-90個のヌクレオチドであり、所望の配列の長さに及ぶ一連の相補的オリゴヌクレオチド対は標準的な方法により合成される。これらのオリゴヌクレオチド対は、アニーリングされるとそれらが付着末端を含有する80-90個の塩基対の二本鎖フラグメントを形成するように合成され、例えば塩基対中の各オリゴヌクレオチドは塩基対中の他のオリゴヌクレオチドに相補的である領域を越えて3、4、5、6、7、8、9、10個か又はそれ以上の塩基を延ばして合成される。オリゴヌクレオチドの各対の一本鎖末端は、オリゴヌクレオチドの別の対の一本鎖末端とアニーリングするように設計される。オリゴヌクレオチド対はアニーリングされ、これらの二本鎖フラグメントの約5~6個は次いで付着一本鎖末端を介して一緒にアニーリングされ、次いでそれらは連結されて標準的なバクテリアクローニングベクター、例えばInvitrogen Corporation,Carlsbad,Califから入手可能なTOPO(登録商標)ベクター中にクローニングされる。次いでコンストラクトを標準的な方法により配列決定する。連結された80-90塩基対フラグメントの5~6個のフラグメント、例えば約500塩基対のフラグメントから成るこれらのコンストラクトのいくつかを、所望の配列全体が一連のプラスミドコンストラクトに表されるように作成する。これらのプラスミドの挿入片(inserts)を次いで適した制限酵素を用いて切断し、連結して最終的なコンストラクトを形成する。最終的なコンストラクトを次いで標準的なバクテリアクローニングベクター中にクローニングし、配列決定する。さらなる方法はすぐに熟練者に明らかになるであろう。さらに遺伝子合成は商業的に容易に入手可能である。
【0030】
1つの態様において、本明細書に記載される改変されたhSMN1遺伝子は、ウイルスベクターの作成のため、及び/又は保有するhSMN1配列を転送する宿主細胞、例えば裸のDNA、ファージ、トランスポゾン、コスミド、エピソームなどへの送達のために、有用な適した遺伝子エレメント(ベクター)中に遺伝子操作される。選択されるベクターは、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソーム送達、膜融合法、高速DNAコーテッドペレット(high velosity DNA-coated pellet)、ウイルス感染及びプロトプラスト融合を含むいずれかの適した方法により送達される場合がある。そのようなコンストラクトの作成のために用いられる方法は核酸操作の熟練者に既知であり、遺伝子工学、組換え遺伝子工学及び合成法が含まれる。例えばSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory
Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NYを参照されたい。
【0031】
1つの側面において、hSMN1核酸配列を含む発現カセットが提供される。本明細書で用いられる場合、「発現カセット」はhSMN1配列、プロモーターを含み、かつそれらのための他の調節配列を含むことがある核酸分子を指し、そのカセットはウイルスベクター(例えばウイルス粒子)のキャプシド中に包まれる場合がある。典型的に、ウイルスベクターの作成のためのそのような発現カセットは、ウイルスゲノムのパッケージングシグナル及び本明細書に記載されるもののような他の発現調節配列に挟まれる本明細書に記載されるhSMN1配列を含む。例えばAAVウイルスベクターにとって、パッケージングシグナルは5’逆位末端反復(ITR)及び3’ITRである。AAVキャプシド中に包まれると、ITRsは発現カセットと共に本明細書で「組換えAAV(rAAV)ゲノム」又は「ベクターゲノム」と呼ばれる。
【0032】
かくして1つの側面において、AAVキャプシド及び少なくとも1つの発現カセットを含むアデノ関連ウイルスベクターが提供され、ここで少なくとも1つの発現カセットはSMN1をコードする核酸配列及び宿主細胞におけるSMN1配列の発現を方向付ける発現調節配列を含む。AAVベクターはAAV ITR配列も含む。1つの態様において、ITRsはキャプシドを供給するAAVと異なるAAV由来のものである。好ましい態様において、ITR配列はAAV2又はその欠失バージョン(ΔITR)由来のものであり、それは便宜上又は規制に関する承認を速めるために用いられ得る。しかしながら他のAAV源からのITRsが選択される場合がある。ITRsの出所がAAV2であり、AAVキャプシドが別のAAV由来のものである場合、得られるベクターは偽型(pseudotyped)と称される場合がある。典型的にAAVベクターゲノムはAAV5’ITR、hSMN1コード配列及びいずれかの調節配列ならびにAAV3’ITRを含む。しかしながらこれらのエレメントの他の配置が適している場合がある。D-配列及び末端切開部位(terminal resolution sites)(trs)が欠失しているΔITRと称される5’ITRの短縮バージョンが記載されている。他の態様において、全長AAV5’及び3’ITRsが用いられる。
【0033】
1つの側面において、ウイルスベクターの作製に有用なDNA分子であるコンストラクト(例えばプラスミド)を提供する。所望のベクターエレメントを含有する代表的なプラスミドはpAAV.CB7.CI.hSMNにより示され、そのマップは図5に示され、その配列は配列番号4であり、それは引用により本明細書に取り込まれる。この代表的なプラスミドは:5’ITR(配列番号4のnt 4150-4279)、TATAシグナル(配列番号4のnt 4985-4988)、合成hSMN1コード配列(配列番号4のnt 18-899)、ポリA(配列番号4のnt 984-1110)、3’ITR(配列番号4のnt 1199-1328)、CMVエンハンサー(配列番号4のnt 4347-4728)、チキンベータアクチンイントロン(配列番号4のnt 5107-6079)及びCBプロモーター(配列番号4のnt 4731-5012)を含む核酸配列を含有する。本明細書に記載される他の合成hSMN1コード配列及び本明細書に記載される他の発現調節エレメントを用いて他の発現カセットを作成する場合がある。
【0034】
発現カセットは、発現調節配列の一部として、例えば選ばれた5’ITR配列とhSMN1コード配列との間に置かれるプロモーター配列を含有するのが典型的である。本明細書に記載される代表的なプラスミド及びベクターは、遍在するニワトリβ-アクチンプロモーター(CB)をCMV即時型エンハンサー(CMV IE)と一緒に用いる。あるいはまた、他のニューロン特異的なプロモーターが用いられる場合がある[例えばhttp://chinook.uoregon.edu/promoters.htmlにおいてアクセスされるthe Lockery Lab neuron-specific promoters databaseを参照されたい]。そのようなニューロン特異的なプロモーターには、例えばシナプシンI(SYN)、カルシウム/カルモジュリン-依存性タンパク質キナーゼII、チューブリンアルファI、ニューロン-特異的エノラーゼ
及び血小板-由来成長因子ベータ鎖プロモーターが含まれるがこれらに限られない。引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれるHiokiら、Gene Therapy,June 2007,14(11):872-82を参照されたい。他のニューロン特異的なプロモーターには67kDaグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD67)、ホメオボックスDlx5/6、グルタメートレセプター1(GluR1)、プレプロタキキニン1(Tac1)プロモーター、ニューロン-特異的エノラーゼ(NSE)及びドーパミンレセプター1(Drd1a)プロモーターが含まれる。例えばDelzorら、Human Gene Therapy Method.August 2012,23(4):242-254を参照されたい。別の態様において、プロモーターはGUSbプロモーター http://www.jci.org/articles/view/41615#B30である。
【0035】
構成的プロモーター、調節可能プロモーター[例えば国際公開第2011/126808号パンフレット及び国際公開第2013/04943号パンフレットを参照されたい]又は生理学的合図(physiologic cues)に反応性のプロモーターのような他のプロモーターが本明細書に記載されるベクター中で用いられる場合がある。プロモーターは種々の出所、例えばヒトサイトメガロウイルス(CMV)即時型エンハンサー/プロモーター、SV40初期エンシンサー/プロモーター、JCポリモウイルスプロモーター、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)又はグリア線維酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)潜在関連プロモーター(LAP)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)長末端反復(LTR)プロモーター、ニューロン特異的プロモーター(NSE)、血小板由来成長因子(PDGF)プロモーター、hSYN、メラニン-濃縮ホルモン(MCH)プロモーター、CBA、マトリックス金属タンパク質(matrix metalloprotein)プロモーター(MPP)及びニワトリベータ-アクチンプロモーターから選ばれる場合がある。
【0036】
プロモーターに加え、発現カセット及び/又はベクターは、1つ以上の他の適切な転写開始、停止、エンハンサー配列と、スプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナルのような有効なRNAプロセシングシグナルと、細胞質mRNAを安定化する配列、例えばWPRE;翻訳効率を増強する配列(すなわちコザック共通配列)と、タンパク質安定性を増強する配列と、ならびに所望なら、コードされる産物の分泌を増強する配列とを含む場合がある。適したポリA配列の例には、例えばSV40、SV50、ウシ成長ホルモン(bGH)、ヒト成長ホルモン及び合成ポリAsが含まれる。適したエンハンサーの例はCMVエンハンサーである。他の適したエンハンサーにはCNS適応症(CNS indications)に適しているものが含まれる。1つの態様において、発現カセットは1つ又はそれより多い発現エンハンサーを含む。1つの態様において、発現カセットは2つ以上の発現エンハンサーを含む。これらのエンハンサーはすべて同一であるか又は互いに異なる場合がある。例えばエンハンサーはCMV即時型エンハンサーを含む場合がある。このエンハンサーは互いに隣接して位置する2つのコピー中に存在する場合がある。あるいはまた、エンハンサーの2個のコピー(dual copies)が1つ以上の配列により隔てられている場合がある。さらに別の態様において、発現カセットはさらにイントロン、例えばニワトリベータ-アクチンイントロンを含有する。他の適したイントロンには、例えば国際公開第2011/126808号パンフレットに説明されているような当該技術分野において既知のものが含まれる。場合により、mRNAの安定化のための1つ以上の配列が選ばれることがある。そのような配列の例は改変WPRE配列であり、それをポリA配列の上流かつコード配列の下流に遺伝子操作で導入される場合がある[例えばMA Zanta-Boussifら、Gene Therapy(2009)16:605-619を参照されたい]。
【0037】
これらの調節配列はhSMN1遺伝子配列に「作動可能に連結」される。本明細書で用
いられる場合、「作動可能に連結」という用語は、問題の遺伝子と連続している発現調節配列と、トランスで(in trans)又は問題の遺伝子を調節する距離で働く発現調節配列との両方を指す。
【0038】
アデノ-関連ウイルス(AAV)ウイルスベクターは、AAVタンパク質キャプシドを有するAAV DNase耐性粒子であり、核酸配列が標的細胞への送達のためにキャプシド中に包まれている。AAVキャプシドは60個のキャプシド(cap)タンパク質サブユニット、VP1、VP2及びVP3から構成され、それらは選ばれるAAVに応じて約1:1:10~1:1:20の比率で正二十面体対称に配置されている。AAVキャプシドはそれらの変異体を含む当該技術分野おいて既知のものから選ばれる場合がある。1つの態様において、AAVキャプシドはニューロン細胞を有効に形質導入するものから選ばれる。1つの態様において、AAVキャプシドはAAV1、AAV2、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.10、AAV5、AAVhu.11、AAV8DJ、AAVhu.32、AAVhu.37、AAVpi.2、AAVrh.8、AAVhu.48R3及びそれらの変異体から選ばれる。それぞれ引用によりそれらの記載事項が本明細書に取り込まれるRoyoら、Brain Res,2008 Jan,1190:15-22;Petrosyanら、Gene Therapy,2014 Dec,21(12):991-1000;Holehonnurら、BMC Neuroscience,2014,15:28及びCearleyら、Mol Ther.2008 Oct;16(10):1710-1718を参照されたい。本明細書で有用な他のAAVキャプシドにはAAVrh.39、AAVrh.20、AAVrh.25、AAV10、AAVbb.1及びAAVbb.2及びそれらの変異体が含まれる。例えばAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、rh10、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8、rh.10と、既知の又は挙げられたAAVsのいずれかの変異体あるいは未発見のAAVsとを含む他のAAV血清型がAAVウイルスベクター(DNase耐性ウイルス粒子)のキャプシドのための源として選ばれる場合がある。例えば米国公開特許出願第2007-0036760-A1号明細書;米国公開特許出願第2009-0197338-A1号明細書;欧州特許第1310571号明細書を参照されたい。国際公開第2003/042397号パンフレット(AAV7及び他のサルAAV)、米国特許第7790449号明細書及び米国特許第7282199号明細書(AAV8)、国際公開第2005/033321号パンフレット及び米国特許第7,906,111号明細書(AAV9)ならびに国際公開第2006/110689号パンフレット及び国際公開第2003/042397号パンフレット(rh.10)も参照されたい。あるいはまた、挙げられたAAVsのいずれかに基づく組換えAAVがAAVキャプシドのための源として用いられる場合がある。これらの文書はAAVの作成のために選ばれることがある他のAAVも記載しており、それらの記載事項は引用により本明細書に取り込まれる。いくつかの態様において、ウイルスベクター中で用いるためのAAV capを、上記で挙げたAAV Caps又はそのコード核酸の1つの突然変異誘発により(すなわち挿入、欠失又は置換により)作成することができる。いくつかの態様において、AAVキャプシドは、前記で挙げたAAVキャプシドたんぱく質の2つ又は3つ又は4つ以上からのドメインを含むキメラである。いくつかの態様において、AAVキャプシドは2又は3種のAAVsあるいは組換えAAVsからのVp1、Vp2及びVp3モノマーのモザイクである。いくつかの態様において、rAAV組成物は前記で挙げたCapsの1つ以上を含む。AAVに関して本明細書で用いられる場合、変異体という用語は既知のAAV配列から誘導されるAAV配列を意味し、アミノ酸又は核酸配列上で(over)少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%又はそれ以上の配列同一性を共有するものを含む。他の態様において、AAVキャプシドは、いずれかの記載された又は既知のAAVキャプシド配列からの最高で約10%の変異を含む場合がある変異体を含む。すなわちAAVキャプシドは、本明細書
で提示された及び/又は当該技術分野において既知のAAVキャプシドに約90%の同一性~約99.9%の同一性、約95%~約99%の同一性又は約97%~約98%の同一性を共有する。1つの態様において、AAVキャプシドはAAVキャプシドと少なくとも95%の同一性を共有する。AAVキャプシドのパーセント同一性を決定する場合、様々な(variable)タンパク質(例えばvp1、vp2又はvp3)のいずれかについて比較を行う場合もある。1つの態様において、AAVキャプシドはAAV8 vp3と少なくとも95%同一性を共有する。別の態様において、自己-相補性AAVが用いられる。
【0039】
1つの態様において、キャプシドはAAVrh.10キャプシド又はその変異体である。本明細書で用いられる場合、「AAVrh10キャプシド」は、引用することによりその記載事項が本明細書の内容となるGenBank,アクセッション:AAO88201のアミノ酸配列を有するrh.10を指す。この配列は配列番号5にも再現される。このコードされる配列からのいくらかの変異は許容され得、配列番号5、AAO88201及び米国特許第2013/0045186A1号明細書において言及されるアミノ酸配列に約99%の同一性を有する配列を含む場合がある。キャプシドの作成方法、それのためのコード配列及びrAAVウイルスベクターの作成方法は記載されている。例えばGaoら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10),6081-6086(2003)及び米国特許第2013/0045186A1号明細書を参照されたい。例えば引用することによりそれらの記載事項が本明細書の内容となる国際公開第2003/042397号パンフレット;国際公開第2005/033321号パンフレット、国際公開第2006/110689号パンフレット;米国特許第7588772B2号明細書に記載されているもののような他のキャプシドをヒトの患者において用いる場合がある。
【0040】
1つの態様において、自己-相補性AAVを提供する。本状況下における「sc」という略語は自己-相補性を指す。「自己-相補性AAV」は、組換えAAV核酸配列が保有するコード領域が分子内二本鎖DNAテンプレートを形成するように設計されているコンストラクトを指す。感染すると、第2の鎖の細胞媒介合成を待つのではなく、scAAVの2つの相補的半分(two complementary halves)が会合して、即時複製及び転写への準備ができている1つの二本鎖DNA(dsDNA)単位を形成するであろう。例えばD M McCartyら、”Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV) vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis”,Gene Therapy,(August 2001),Vol 8,Number 16,pages 1248-1254を参照されたい。自己-相補性AAVsは、例えば米国特許第6,596,535;7,125,717及び7,456,683号明細書に記載されており、それらのそれぞれの記載事項全体は引用により本明細書に取り込まれる。
【0041】
患者への送達に適したAAVウイルスベクターの作製及び単離方法は当該技術分野において既知である。例えば米国公開特許出願第2007/0036760号明細書(2007年2月15日)、米国特許第7790449号明細書;米国特許第7282199号明細書;国際公開第2003/042397号パンフレット;国際公開第2005/033321号パンフレット、国際公開第2006/110689号パンフレット及び米国特許第7588772B2号明細書を参照されたい。1つの系において、ITRsに挟まれた導入遺伝子をコードするコンストラクト及びrepとcapをコードするコンストラクトを用いてプロデューサー細胞株を一過的にトランスフェクションする。第2の系において、repとcapを安定して供給するパッケージング細胞株を、ITRsに挟まれた導入遺伝子をコードするコンストラクトを用いて一過的にトランスフェクションする。これらの系のそれぞれにおいて、汚染ウイルスからのrAAVsの分離を必要とするヘルパーアデノウイルス又はヘルペスウイルスの感染に反応して、AAVビリオンが産生される。もっと最近には、AAVの回収にヘルパーウイルスの感染を必要としない系が開発された-必要なヘルパー機能(すなわちアデノウイルスE1、E2a、VA及びE4又はヘルペスウイルスUL5、UL8、UL52及びUL29ならびにヘルペスウイルスポリメラーゼ)も系によりトランスで供給される。これらのより新しい系において、必要なヘルパー機能をコードするコンストラクトを用いる細胞の一過性トランスフェクションによりヘルパー機能を供給することができるか、又はヘルパー機能をコードする遺伝子を安定して含有するように細胞を遺伝子操作することができ、その遺伝子の発現は転写レベル又は転写後レベルで調節され得る。さらに別の系において、ITRsによりフランキングされた導入遺伝子及びrep/cap遺伝子を、バキュロウイルスに基づくベクターを用いる感染により昆虫細胞中に導入する。これらの生産系についての総説に関し、一般に例えばZhangら、2009,”Adenovirus-adeno-associated virus hybrid for large-scale recombinant adeno-associated virus production,”Human Gene Therapy 20:922-929を参照されたく、それらのそれぞれの記載事項全体は引用により本明細書に取り込まれる。これら及び他のAAV生産系の作製及び使用方法は以下の米国特許にも記載されており、それらのそれぞれの記載事項全体は引用により本明細書に取り込まれる:5,139,941;5,741,683;6,057,152;6,204,059;6,268,213;6,491,907;6,660,514;6,951,753;7,094,604;7,172,893;7,201,898;7,229,823;及び7,439,065号明細書。
【0042】
場合により、本明細書に記載されるhSMN1遺伝子を用いてrAAV以外のウイルスベクターを製作することがある。そのような他のウイルスベクターは、アデノウイルス;ヘルペスウイルス;レンチウイルス;レトロウイルス;などを含むがこれらに限られない遺伝子療法に適したいずれかのウイルスを含む場合がある。適切には、これらの他のベクターの1つを作成する場合、それは複製欠損ウイルスベクターとして作成される。
【0043】
「複製欠損ウイルス」又は「ウイルスベクター」は、問題の遺伝子を含有する発現カセットがウイルスキャプシド又はエンベロープ中に包まれており、ここでやはりウイルスキャプシド又はエンベロープ中に包まれているいずれかのウイルスゲノム配列が複製欠損性である合成又は人工ウイルス粒子を指し、すなわちそれらは子孫ビリオンを生産できないが標的細胞に感染する能力を保持している。1つの態様において、ウイルスベクターのゲノムは複製に必要な酵素をコードする遺伝子を含まないが(ゲノムを、人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要なシグナルにより挟まれた問題の導入遺伝子のみを含有する「ガットレス(gutless)」であるように遺伝子操作することができる)、生産の間にこれらの遺伝子を供給する場合がある。従って、複製に必要なウイルス酵素の存在下を除いて、子孫ビリオンによる複製及び感染は起こり得ないので、それは遺伝子療法における使用に関して安全であるとみなされる。そのような複製欠損ウイルスはアデノ-関連ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス(インテグレーション又は非インテグレーション)あるいは別の適したウイルス源である場合がある。
【0044】
本明細書に製薬学的組成物も提供する。本明細書に記載される製薬学的組成物は、いずれかの適した経路又は異なる経路の組み合わせにより、送達の必要のある患者に送達するために設計される。1つの態様において、CNSへの直接送達が望ましく、クモ膜下腔内注入により行われる場合がある。「クモ膜下腔内投与」という用語は、脳脊髄液(CSF)を標的とする送達を指す。これを脳室又は腰椎CSF中への直接注入により、後頭下穿刺により、又は他の適した手段により行う場合がある。Meyerら、Molecular Therapy(2014年10月31日)は、直接CSF注入の有効性を示し、それは静脈内適用と比較して10倍低い用量を用いた場合に、マウス及び非ヒト霊長類における脊髄全体で広範囲に導入遺伝子が発現した。この文書は引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれる。1つの態様において、脳室内ウイルス注入を介して組成物を送達する(例えば引用することによりその記載事項が本明細書の内容となるKimら、J Vis Exp.2014 Sep 15;(91):51863を参照されたい)。引用することによりその記載事項が本明細書の内容となるPassiniら、Hum Gene Ther.2014 Jul;25(7):619-30も参照されたい。別の態様において、腰椎注入を介して組成物を送達する。
【0045】
典型的にこれらの送達手段は、本明細書に記載されるAAV組成物を含有する懸濁剤の直接全身送達を避けるように設計される。適切には、これは全身投与と比較して用量を減らす、毒性を低下させるならびに/あるいはAAV及び/又は導入遺伝子産物への望ましくない免疫反応を低下させる利益を有する場合がある。
【0046】
あるいはまた、他の投与経路(例えば経口的、吸入、鼻内、気管内、動脈内、眼内、静脈内、筋肉内及び他の非経口的経路)を選ぶ場合がある。
【0047】
本明細書に記載されるhSMN1送達コンストラクトを、単一の組成物において又は複数の組成物において送達する場合がある。場合により2種以上のAAVを送達することがある[例えば国際公開第2011/126808号パンフレット及び国際公開第2013/049493号パンフレットを参照されたい]。別の態様において、そのような複数のウイルスは異なる複製欠損ウイルス(例えばAAV、アデノウイルス及び/又はレンチウイルス)を含む場合がある。あるいはまた、例えばミセル、リポソーム、カチオン性脂質-核酸組成物、ポリ-グリカン組成物及び他のポリマー、脂質又はコレステロールに基づく核酸複合体ならびに本明細書に記載されているような他のコンストラクトを含む種々の送達組成物及びナノ粒子と合体した(coupled)非ウイルスコンストラクト、例えば「裸のDNA」、「裸のプラスミドDNA」、RNA及びmRNAにより送達が媒介される場合がある。例えば両方とも引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれるX.Suら、Mol.Pharmaceutics,2011,8(3),pp774-787;ウェブ刊行日:2011年3月21日;国際公開第2013/182683号パンフレット、国際公開第2010/053572号パンフレット及び国際公開第2012/170930号パンフレットを参照されたい。そのような非ウイルスhSMN1送達コンストラクトを前に記載した経路により投与する場合がある。
【0048】
ウイルスベクター又は非ウイルスDNAもしくはRNA導入部分を、遺伝子導入及び遺伝子療法用途における使用のために、生理学的に許容され得る担体を用いて調製することができる。複数の適した精製法を選ぶことができる。ベクター粒子から空のキャプシドを分離するための適した精製法の例は説明されおり、例えば方法は2016年12月9日に申請された国際特許出願番号PCT/US16/65976及びその優先権書類、2016年4月13日に申請された米国特許出願第62/322,098号明細書及び2015年12月11日に申請された米国特許第62/266,341号明細書に記載されており、”Scalable Purification Method for AAV8”という表題であり、それらは引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれる。2016年12月9日に出願された国際特許出願番号PCT/US16/65974ならびにその優先権書類、2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,083号明細書及び2015年12月11日に出願された第62/266,351号明細書(AAV1);2016年12月9日に出願された国際特許出願番号PCT/US16/66013ならびにその優先権書類、2016年4月13日に出願された米国特許暫定出願第62/322,055号明細書及び2015年12月11日に出願された第62/266,347号明細書(AAVrh10);ならびに2016年12月9日に出願された国際特許出願番号PCT/US16/65970ならびにその優先権出願、米国特許仮出願第62/266,357号明細書及び第62/266,357号明細書(AAV9)に記載されている精製法も参照されたく、それらは引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれる。要するに、rAAV生産細胞培養物の透明化濃縮上清ゲノム-含有rAAVベクター粒子を選択的に捕捉して単離する2段階精製案が記載されている。方法は高塩濃度において行われるアフィニティー捕捉法を用い、それに高pHで行われるアニオン交換樹脂法が続き、実質的にrAAV中間体を含まないrAAVベクター粒子を与える。
【0049】
AAVウイルスベクターの場合、調製物中に含有される用量の尺度としてゲノムコピー(”GC”)の定量を用いる場合がある。本発明の複製-欠損ウイルス組成物のゲノムコピー(GC)数の決定のために、当該技術分野において既知のいずれの方法を用いることもできる。AAV GC数測定を行うための1つの方法は以下の通りである:精製されたAAVベクター試料を最初にDNaseで処理して生産プロセスからの汚染宿主DNAを取り除く。次いでDNase耐性粒子を熱処理に供してキャプシドからゲノムを放出させる。放出されたゲノムを、次いでウイルスゲノムの特定の領域(例えばポリAシグナル)を標的とするプライマー/プローブセットを用いるリアルタイムPCRにより定量する。ゲノムコピーの決定のための別の適した方法は、定量的-PCR(qPCR)、特に最適化qPCR又はデジタルドロップレットPCR(digital droplet PCR)である[Lock Martinら、Human Gene Therapy Methods.April 2014,25(2):115-125.doi:10.1089/hgtb.2013.131,2013年12月13日に編集の前にオンラインで公開された]。
【0050】
複製欠損ウイルス組成物をヒトの患者用に、すべての整数又は分数量を範囲内に含む約1.0x109個のGC~約1.0x1015個のGC(体重が70kgの平均的な患者の処置のため)そして好ましくは1.0x1012個のGC~約1.0x1014個のGCの範囲内である量の複製欠損ウイルスを含有するように、投薬単位において調製することができる。1つの態様において、組成物は、すべての整数又は分数量を範囲内に含む用量当たり少なくとも1x109、2x109、3x109、4x109、5x109、6x109、7x109、8x109又は9x109個のGCを含有するように調製される。別の態様において、組成物は、すべての整数又は分数量を範囲内に含む用量当たり少なくとも1x1010、2x1010、3x1010、4x1010、5x1010、6x1010、7x1010、8x1010又は9x1010個のGCを含有するように調製される。別の態様において、組成物は、すべての整数又は分数量を範囲内に含む用量当たり少なくとも1x1011、2x1011、3x1011、4x1011、5x1011、6x1011、7x1011、8x1011又は9x1011個のGCを含有するように調製される。別の態様において、組成物は、すべての整数又は分数量を範囲内に含む用量当たり少なくとも1x1012、2x1012、3x1012、4x1012、5x1012、6x1012、7x1012、8x1012又は9x1012個のGCを含有するように調製される。別の態様において、組成物は、すべての整数又は分数量を範囲内に含む用量当たり少なくとも1x1013、2x1013、3x1013、4x1013、5x1013、6x1013、7x1013、8x1013又は9x1013個のGCを含有するように調製される。別の態様において、組成物は、すべての整数又は分数量を範囲内に含む用量当たり少なくとも1x1014、2x1014、3x1014、4x1014、5x1014、6x1014、7x1014、8x1014又は9x1014個のGCを含有するように調製される。別の態様において、組成物は、すべての整数又は分数量を範囲内に含む用量当たり少なくとも1x1015、2x1015、3x1015、4x1015、5x1015、6x1015、7x1015、8x1015又は9x1015個のGCを含有するように調製される。1つの態様において、ヒトへの適用のために用量は、すべての整数又は分数量を範囲内に含む用量当たり1x1010~約1x1012個のGCの範囲であることができる。
【0051】
これらの上記の用量を、処置されるべき領域のサイズ、用いられるウイルス力価、投与経路及び望まれる方法の効果に応じて、すべての数を範囲内に含んで約25~約1000マイクロリットルの範囲の多様な容積の担体、賦形剤又は緩衝剤調製物中で投与する場合がある。1つの態様において、担体、賦形剤又は緩衝剤の容積は少なくとも約25μLである。1つの態様において、容積は約50μLである。別の態様において、容積は約75μLである。別の態様において、容積は約100μLである。別の態様において、容積は約125μLである。別の態様において、容積は約150μLである。別の態様において、容積は約175μLである。さらに別の態様において、容積は約200μLである。別の態様において、容積は約225μLである。さらに別の態様において、容積は約250μLである。さらに別の態様において、容積は約275μLである。さらに別の態様において、容積は約300μLである。さらに別の態様において、容積は約325μLである。別の態様において、容積は約350μLである。別の態様において、容積は約375μLである。別の態様において、容積は約400μLである。別の態様において、容積は約450μLである。別の態様において、容積は約500μLである。別の態様において、容積は約550μLである。別の態様において、容積は約600μLである。別の態様において、容積は約650μLである。別の態様において、容積は約700μLである。別の態様において、容積は約700~1000μLである。
【0052】
1つの態様において、約1μL~150mLの容積が選ばれることがあり、より大きい容積が成人用に選ばれる。典型的に新生児のために適した容積は約0.5mL~約10mLであり、より大きい乳児(older infants)のために約0.5mL~約15mLが選ばれる場合がある。幼児のために約0.5mL~約20mLの容積を選ぶ場合がある。子供のために、最高で約30mLの容積を選ぶ場合がある。10才以前及び10才台のために、最高で約50mLの容積を選ぶ場合がある。さらに別の態様において、患者は約5mL~約15mL又は約7.5mL~約10mLの容積においてクモ膜下腔内投与を受ける場合がある。他の適した容積及び用量が決定される場合がある。用量は、何らかの副作用に対して治療的利益を釣り合わせるように調整され、そのような用量は組換えベクターが用いられる治療的用途に応じて変わる場合がある。
【0053】
1つの態様において、マウスのような小動物の患者のために約1μL~約3μLの容積において少なくとも1x109~約1x1011個のGCsの用量でウイルスコンストラクトを送達する場合がある。より大きな獣医学的患者のために、上記で述べたより大きなヒト用の用量(larger human dosages)及び容積が有用である。種々の獣医学的動物への物質の投与のための実施基準の議論に関し、例えばDiehlら、J.Applied Toxicology,21:15-23(2001)を参照されたい。この文書は引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれる。
【0054】
上記の組換えベクターを、公開されている方法に従って宿主細胞に送達する場合がある。好ましくは生理学的に適合性の担体中に懸濁されたrAAVをヒト又は非-ヒトの哺乳類患者に投与する場合がある。別の態様において、組成物は担体、希釈剤、賦形剤及び/又は添加剤を含む。適切な担体は、導入ウイルスが向けられる適応症を見て、当該技術分野における熟練者が容易に選択し得る。例えば1つの適した担体には食塩水が含まれ、それは多様な緩衝溶液と調製される場合がある(例えばリン酸塩緩衝食塩水)。他の代表的な担体には無菌食塩水、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、ピーナツ油、ゴマ油及び水が含まれる。緩衝剤/担体は、rAAVが輸液チューブに吸着するのを防ぐが生体内におけるrAAV結合活性を妨げない成分を含むべきである。
【0055】
場合により、本発明の組成物は、rAAV及び担体に加えて、防腐剤又は化学的安定剤のような他の通常の製薬学的成分を含有することがある。適した代表的な防腐剤にはクロ
ロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン、エチルバニリン、グリセリン、フェノール及びパラクロロフェノールが含まれる。適切な化学的安定剤にはゼラチン及びアルブミンが含まれる。
【0056】
本発明に従う組成物は、上記で定義されたような製薬学的に許容され得る担体を含む場合がある。適切には、本明細書に記載される組成物は、製薬学的に適した担体中に懸濁され、ならびに/あるいは注入、浸透圧ポンプ、クモ膜下腔内カテーテルを介する患者への送達用又は別の装置若しくは経路による送達用に設計される適した賦形剤と混合される、1種又はそれより多種のAAVの有効量を含む。1つの例において、組成物はクモ膜下腔内送達用に調製される。1つの態様においてクモ膜下腔内送達は、脊柱管、例えばクモ膜下腔中への注入を包む。
【0057】
本明細書に記載されるウイルスベクターは、必要のある患者(例えばヒトの患者)にhSMN1を送達するため、患者に機能があるSMNを供給するため及び/又は脊髄性筋萎縮症を処置するための薬剤の製造において用いられる場合がある。処置経過は、場合により同じウイルスベクター(例えばAAVrh.10ベクター)又は異なるウイルスベクター(例えばAAV9とAAVrh10)の繰り返し投与を含むことがある。本明細書に記載されるウイルスベクター及び非-ウイルス送達系を用いてさらに別の組み合わせが選ばれる場合がある。
【0058】
当該技術分野において周知の方法を用いて、本明細書に記載されるhSMN1 cDNA配列を試験管内で及び合成的に作成することができる。例えばXiongら、PCR-based accurate synthesis of long DNA sequence,Nature Protocols 1,791-797(2006)により記載されている通り、長いDNA配列のPCRに基づく正確な合成(PAS)法が用いられる場合がある。二重非対称PCRとオーバーラップ伸長PCR法を組み合わせた方法はYoungおよびDong,Two-step total gene synthesis method,Nucleic Acids Res.2004;32(7):e59により記載されている。Gordeevaら、J Microbiol Methods.Improved PCR-based gene synthesis method and its application to the Citrobacter freundii phytase gene codon modification.2010 May;81(2):147-52.Epub 2010 Mar
10も参照されたい。オリゴヌクレオチド合成及び遺伝子合成についての以下の特許も参照されたい。Gene Seq.2012 Apr;6(1):10-21;米国特許第8008005号明細書;及び米国特許第7985565号明細書。それらの文書のそれぞれは引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれる。さらに、PCRを介してDNAを作製するためのキット及びプロトコルは商業的に入手可能である。これらはTaqポリメラーゼ;OneTaq(登録商標)(New England Biolabs);Q5(登録商標)High-Fidelity DNAポリメラーゼ(New England Biolabs);及びGoTaq(登録商標)G2ポリメラーゼ(Promega)を含むがこれらに限られないポリメラーゼの使用を含む。本明細書に記載されるhSMN配列を含有するプラスミドを用いてトランスフェクションされた細胞からDNAを作製する場合もある。キット及びプロトコルは既知でありかつ商業的に入手可能であり、QIAGENプラスミドキット;Chargeswitch(登録商標)Pro Filter Plasmid Kits(Invitrogen);及びGenElute(商標)Plamid Kits(Sigma Aldrich)が含まれるがこれらに限られない。本明細書において有用な他の方法には、熱サイクルの必要性を取り除いた配列-特異的等温増幅法が含まれる。これらの方法は、二重鎖DNAを分離するために、熱の代わりに典型的にBst DNA Polymerase、Large Fragme
nt(New England Biolabs)のような鎖置換DNAポリメラーゼを用いる。RNA依存性DNAポリメラーゼである逆転写酵素(RT)の使用を介する増幅を介してRNA分子からDNAを作成する場合もある。RTsは、最初のRNAテンプレートに相補的でありcDNAと呼ばれるDNAの鎖を重合させる。このcDNAを次いでPCR又は上記で概述した等温法を介してさらに増幅することができる。GenScript;GENEWIZ(登録商標);GeneArt(登録商標)(life Technologies);及びIntegrated DNA Technologiesを含むがこれらに限られない会社から商業的にカスタムDNA(custom DNA)を作成することもできる。
【0059】
「発現」という用語は本明細書においてその最も広い意味で用いられ、RNAの産生又はRNAおよびタンパク質の産生を含む。RNAに関し、「発現」又は「翻訳」という用語は特にペプチド又はタンパク質の産生に関する。発現は一過性又は持続性の場合がある。
【0060】
本発明の状況下における「翻訳」という用語は、mRNA鎖がアミノ酸配列の集合を調節してタンパク質又はペプチドを生成するリボソームにおけるプロセスに関する。
【0061】
本発明に従うと、「治療的に有効な量」のhSMN1を本明細書に記載される通りに送達して所望の結果、すなわちSMA又は1つ以上のその症状の処置を達成する。本明細書に記載される通り、所望の結果には筋力低下の軽減、筋力及び筋緊張の向上、脊柱側弯症の予防又は軽減あるいは呼吸器健康の保持又は向上あるいは振戦又は単収縮の軽減が含まれる。他の所望のエンドポイントは、医師により決定され得る。
【0062】
いくつかの場合、妊娠約30~36週の胎児においてSMAが検出される。この状況で、出産後可能な限りすぐに新生児を処置するのが望ましい場合がある。子宮内で胎児を処置するのが望ましい場合もある。かくして新生児患者(例えばヒトの患者)のニューロン細胞にhSMN1遺伝子を送達する段階を含む、SMAに罹った新生児患者を救う及び/又は処置する方法を提供する。子宮内の胎児のニューロン細胞にhSMN1遺伝子を送達する段階を含むSMAに罹った胎児を救う及び/又は処置する方法を提供する。1つの態様において、遺伝子は本明細書に記載される組成物中でクモ膜下腔内注入を介して送達される。この方法は、本明細書に記載されるコドン最適化hSMN1であろうと又は天然のhSMN1であろうと又は「野生型」タンパク質と比較して強められた活性を有するhSMN1アレレであろうと又はそれらの組み合わせであろうと、機能があるhSMNタンパク質をコードするいずれかの核酸配列を用いる場合もある。1つの態様において、子宮内における処置は、胎児におけるSMAの検出後に本明細書に記載されるhSMN1コンストラクトを投与することと定義される。例えば引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれるDavidら、Recombinant adeno-associated virus-mediated in utero gene transfer gives therapeutic transgene expression in the sheep,Hum Gene Ther.2011 Apr;22(4):419-26.doi:10.1089/hum.2010.007.Epub 2011
Feb 2を参照されたい。
【0063】
1つの態様において新生児処置は、出産の8時間以内、最初の12時間以内、最初の24時間以内又は最初の48時間以内に本明細書に記載されるhSMN1コンストラクトを投与されることと定義される。別の態様において、特に霊長類(ヒト又は非ヒト)に関し、新生児送達は約12時間~約1週間、2週間、3週間又は約1ヵ月以内あるいは約24時間~約48時間後である。
【0064】
別の態様において、後期発症SMAに関し、組成物は症状の発症後に送達される。1つの態様において、患者の処置(例えば1回目の注入)は生後1年より前に開始される。別の態様において、処置は生後1年より後に、あるいは2~3歳より後、5歳より後、11歳より後又はもっと高齢に開始される。
【0065】
別の態様において、コンストラクトを後日に再投与する。場合により1回より多い再投与が許される。そのような再投与は同じ型のベクターを用いるか、異なるウイルスベクターを用いるか又は本明細書に記載される非ウイルス送達を介する場合がある。例えば患者がSMNをコードするrAAV9で処置され、2回目の処置必要としている場合、続いてrAAVrh.10.SMNを投与することができ、逆も真である。また、患者がAAV9に対する中和抗体を有している場合、代わりにrAAVrh.10.SMNを患者に投与することができる。
【0066】
SMA患者の処置は、本発明の組成物を用いる処置の前、間及び/又は後の免疫抑制剤を用いる一過性の併用処置(co-treatment)のような併用療法を必要とする場合がある。そのような併用療法のための免疫抑制剤には、ステロイド、代謝拮抗剤、T-細胞阻害剤及びアルキル化剤が含まれるがこれらに限られない。例えばそのような一過性の処置は、約60mgで開始して10mg/日で減少させる(7日は投薬なし)量において用量を減少させて7日間、1日1回投薬されるステロイド(例えばプレドニゾール(prednisole))を含む場合がある。他の用量及び免疫抑制剤が選ばれる場合がある。
【0067】
「機能があるhSMN1」により、配列番号1により特徴付けられるもののような天然のSMNタンパク質あるいは天然の生存運動ニューロンタンパク質の少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%又は大体同じか若しくは100%より高い生物学的活性レベルを与える別のSMNタンパク質あるいは疾患と関連しないその天然の変異体又は多形をコードする遺伝子を意味するものとする。さらにSMN1のホモログであるSMN2もSMNタンパク質をコードするが、機能があるタンパク質のプロセシングの効率は低い。機能があるhSMN1遺伝子がない患者は、SMN2のコピー数に基づき様々な程度までSMAを示す。かくしていくらかの患者に関し、SMNタンパク質が天然のSMNタンパク質の100%未満生物学的活性を与えるのが望ましい場合がある。
【0068】
1つの態様において、そのような機能があるSMNは、天然のタンパク質又は配列番号1の全長配列に約95%以上同一性あるいはアミノ酸レベルで配列番号1に約97%か若しくはそれより高い又は約99%か若しくはそれより高い同一性を有する配列を有する。そのような機能があるSMNタンパク質は天然の多形も包む場合がある。同一性は、配列のアラインメントを準備することにより、かつ当該技術分野において既知であるか又は商業的に入手可能な多様なアルゴリズム及び/又はコンピュータープログラムの使用を介して、決定される場合がある[例えばNeedleman-Wunschアルゴリズム、Smith-Watermanアルゴリズムを用いる例えばBLAST,ExPASy;ClustalO;FASTA;]。
【0069】
試験管内でSMN発現及び活性レベルを測定するための多様なアッセイが存在する。例えば上記で引用したTanguyら、2015を参照されたい。本明細書に説明される方法をSMA又はその症状の処置のための他のいずれかの治療と組み合わせることもできる。例えばSMAのための現在の治療標準の議論を提供するWangら、Consensus Statement for Standard of Care in Spinal Muscular Atropy及びhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1352/も参照されたい。例えばSMAにおいて
栄養が懸念である場合、胃瘻管の造設が適している。呼吸機能が悪化する時、気管切開又は非侵襲性呼吸支持器(respiratory support)が提供される。睡眠時呼吸障害は持続気道陽圧の夜間使用を用いて処置され得る。SMA II及びSMA IIIの患者における脊柱側弯症のための外科手術は、努力肺活量が30%-40%より高い場合、安全に行われ得る。電動車いす(power chair)及び他の装置は生活の質の向上を可能にする。引用によりその記載事項が本明細書に取り込まれる米国特許第8211631号明細書も参照されたい。
【0070】
“a”又は“an”は1つ又は2つ以上を指すことに注意するべきである。従って“a”(又は“an”)、「1つ又は2つ以上」(“one or more”)及び「少なくとも1つ」(“at least one”)は本明細書で互換的に用いられる。
【0071】
「含む」(“comprise”)、「含む」(“comprises”)及び「含む」(“comprising”)という用語は排他的にではなく包含的に解釈されるべきである。「からなる」(“consist”)、「からなる」(“consisting”)という用語及びその変形は包含的にではなく排他的に解釈されるべきである。明細書中の種々の態様は「含む」(“comprising”)の語法(language)を用いて提示されるが、他の状況下で、関連する態様は「からなる」(“consisting of”)又は「本質的にからなる」(“consisting essentially of”)の語法を用いて解釈されるべきことも意図されており、そのように記載される。
【0072】
本明細書で用いられる場合、「約」という用語は、他に特定されなければ与えられる基準から10%(±10%)の変動を意味する。
【0073】
本明細書で用いられる場合、「疾患」、「障害」及び「状態」は、患者における異常な状態を示すために互換的に用いられる。
【0074】
本明細書で他に定義されなければ、本明細書で用いられる技術的及び科学的用語は、当該技術分野における通常の熟練者により、及び、出版された本への参照により、通常理解されると同じ意味を有し、刊行されたテキストは本出願中で用いられる用語の多くへの一般的な指針を当該技術分野における熟練者に与える。
【0075】
以下の実施例は例示のみであり、本発明を制限することを意図していない。
【実施例1】
【0076】
hSMN1を含有するAAVベクター
SMNΔ7マウスモデルを用い、我々はSMAの処置のためのAAV媒介遺伝子療法を評価した。遍在性CBプロモーターの調節下にコドン最適化ヒトSMN1 cDNAを保有する向神経性AAVrh.10ベクターを構築した(図1)。SMNΔ7新生仔に顔面静脈を介してベクターの5x1010個のゲノムコピー(kg当たり5x1013個のゲノムコピー)を注入した。処置はこの用量において後根神経節のような末梢ニューロンにおける健常な発現(図2)ならびに脊髄内における形質導入を生じた。生存期間のいくらかの向上(未処置マウスにおける14日に対して21日)も観察された。
【実施例2】
【0077】
追加の用量研究
SMNΔ7新生仔に1尾当たり5x1012個のゲノムコピーのベクターを静脈内注入を介して注入した。仔マウスのメジアン生存期間は10日であった。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベル
は上昇した。図6
【0078】
4-15日の日齢範囲内の49匹のSMNΔ7仔マウスに1尾当たり5x1011個のゲノムコピーのベクターを、静脈内注入を介して注入した。M44、M46、M37、M45、M47及びM36という呼称は、研究において用いられた異なる一腹の仔マウスを指す。30日に49匹の仔マウスは生き残っていた。
【実施例3】
【0079】
hSMNを含有するAAVベクターのクモ膜下腔内送達
1回の注入を介して脳脊髄液(CSF)に直接送達されるAAVrh.10.SMNの投薬及び薬効を評価する。
【0080】
AAVrh.10.SMN又はsAAVrh.10.GFPの脳室内(ICV)送達をSMNΔ7新生仔において評価する。ベクター投与から7、14、30,60又は90日後に、各処置グループからの動物をベクター生体内分布及び酵素発現の分析のために屠殺する。マウスを生存及び体重増加に関して毎日監視する。マウスについての行動試験は、それらが横向きに置かれてから30秒以内に立ち直る能力を決定することにより、立ち直り反射(righting reflex)に関して試験することを含む。仔マウスの表現型を救うAAVrh.10.SMNの用量を決定し、それはブタSMAモデルに投与される用量に関して有益である。
【0081】
Duqueら、Ann Neurol.2015,77(3):399-414に記載されている通りにブタSMAモデルにおいてAAVrh.10.SMN又はsAAVrh.10.GFPのクモ膜下腔内送達を評価する。薬効、ベクター生体内分布及び酵素発現の分析のために、縦断的(longitudinal)電気生理学的研究、組織学及び神経病理学研究を行う。ブタの表現型を救うAAVrh.10.SMNの用量を決定し、それは非ヒト霊長類及びヒトに投与するための用量に関して有益である。
【0082】
1回のクモ膜下腔内仙椎輸液又は注入を用い、カニクイザルにsAAVrh.10.GFPを投与する。投薬から2週間後、ベクター生体内分布と、酵素発現と、DNA及びRNA生体内分布との分析のためにカニクイザルを安楽死させ、免疫蛍光染色を行う。
【配列表フリーテキスト】
【0083】
以下の情報は識別子<223>の下のフリーテキストを含む配列に関して提供される。
【0084】
【表1】
【0085】
本明細書において引用されたすべての公開文書及び優先権書類、2014年12月14日に出願された米国仮特許出願第62/267,012号明細書は、引用によりその記載事項全体が本明細書に取り込まれる。同様に、本明細書で言及され、かつ添付の配列表中に現れる配列番号は引用により本明細書に取り込まれる。特定の態様を参照して本発明を説明してきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく変更を成し得ることは了解されるであろう。そのような変更は添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
【配列表】
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