(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】消化速度が遅い高分子グルカン
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20220531BHJP
C12P 19/20 20060101ALI20220531BHJP
C12P 19/18 20060101ALI20220531BHJP
C12P 19/22 20060101ALI20220531BHJP
C08B 30/12 20060101ALI20220531BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20220531BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20220531BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220531BHJP
A61K 31/718 20060101ALI20220531BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220531BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20220531BHJP
C12Q 1/40 20060101ALN20220531BHJP
【FI】
C12P19/04 Z
C12P19/20
C12P19/18
C12P19/22
C08B30/12
A23L33/125
A23L5/00 N
A61K9/08
A61K31/718
A61P3/02
A61P3/08
C12Q1/40
(21)【出願番号】P 2018559418
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2017046224
(87)【国際公開番号】W WO2018123901
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2016253555
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩史
(72)【発明者】
【氏名】寺田 喜信
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-120471(JP,A)
【文献】国際公開第2006/035848(WO,A1)
【文献】Carbohydrate Polymers,2014年,Vol.107, pp. 182-191
【文献】PLOS ONE,2013年04月,Vol.8, No.4, e59745
【文献】International Journal of Molecular Sciences,2012年,Vol.13, pp. 929-942
【文献】Carbohydrate Polymers,2016年06月27日,Vol.152, pp. 51-61
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00-19/64
C08B 30/00-30/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-1,4-グルコシド結合による主鎖にα-1,6-グルコシド結合による分岐鎖が結合している高分子グルカンであって、
平均分子量が1万~50万であり、
α-1,6-グルコシド結合をイソアミラーゼで消化することにより直鎖状の単位鎖長に分解した後に、HPAEC-PAD法によって単位鎖長分布を分析すると、下記特性(i)~(iii)を満たす、高分子グルカン:
(i)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度1~5を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
1-5/DP
6-10)×100)が33~50%である。
(ii)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度11~15を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
11-15/DP
6-10)×100)が80~125%である。
(iii)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度26~30を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
26-30/DP
6-10)×100)が16~43%である。
【請求項2】
更に、前記単位鎖長分布を分析すると、下記特性(iv)~(vii)の内、少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の高分子グルカン:
(iv)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度16-20を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
16-20/DP
6-10)×100)が53~85%である。
(v)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度21-25を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
21-25/DP
6-10)×100)が31~62%である。
(vi)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度31-35を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
31-35/DP
6-10)×100)が8~30%である。
(vii)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度36-40を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
36-40/DP
6-10)×100)が3~21%である。
【請求項3】
下記in vitro消化性試験において求められる初期消化速度係数kが0.029未満であり、且つ酵素反応開始から120分間までに分解されない成分の割合が10%未満である、請求項1又は2に記載の高分子グルカン:
[in vitro消化性試験の方法]
5w/v%高分子グルカン水溶液100μL、1M酢酸バッファー(pH5.5)20μL、蒸留水716μLを混合し、更に250U/mLの濃度のブタ膵臓由来α-アミラーゼ液4μL、及びα-グルコシダーゼ活性で0.3U/mLに相当する濃度のラット小腸アセトンパウダー液160μLを添加して37℃で反応を開始する。経時的に、各反応液中のグルコース濃度を測定し、高分子グルカンから遊離したグルコース量を測定する。
初期消化速度係数kは、下記式に従って算出する。
【数1】
【請求項4】
前記in vitro消化性試験において、酵素反応開始から20分間までに分解される成分の割合が45%未満であり、且つ酵素反応開始20分後から120分間後までの間で分解される成分の割合が50%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の高分子グルカン。
【請求項5】
α-1,4-グルコシド結合による主鎖の非還元末端がα-1,6-グルコシド結合による分岐構造を有していない、請求項1~4のいずれかに記載の高分子グルカン。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンを含む、飲食品。
【請求項7】
血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇抑制用である、請求項6に記載の飲食品。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンを含む、輸液。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンを含む、医薬品。
【請求項10】
請求項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンの製造方法であって、
分岐状グルカンを基質として、ブランチングエンザイム100~4,000U/g基質と、4-α-グルカノトランスフェラーゼとを、同時に又は任意の順で段階的に反応させ、請求項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンが生成している時点で反応を停止する
工程を含み、
ブランチングエンザイムと4-α-グルカノトランスフェラーゼの添加タイミングが、下記態様1~5のいずれかであり、
態様1:ブランチングエンザイム及び4-α-グルカノトランスフェラーゼの双方を同時に添加して反応させる;
態様2:最初に4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点でブランチングエンザイムを添加して反応させる;
態様3:最初にブランチングエンザイムのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点で4-α-グルカノトランスフェラーゼを添加して反応させる;
態様4:最初に4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点で一度酵素を失活させ、次いでブランチングエンザイムを添加して反応させる;
態様5:最初にブランチングエンザイムのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点で一度酵素を失活させ、次いで4-α-グルカノトランスフェラーゼを添加して反応させる;
前記4-α-グルカノトランスフェラーゼが、アミロマルターゼ及び/又はシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼであり、
4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてアミロマルターゼを単独で使用する場合、反応開始時の溶液中の基質に対して、アミロマルターゼの添加量が0.25~50U/g基質であり、
4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを単独で使用する場合、反応開始時の溶液中の基質に対して、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼの添加量が10~500U/g基質であり、
4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてアミロマルターゼとシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを併用する場合、反応開始時の溶液中の基質に対する両酵素の添加量が、アミロマルターゼ(MalQ)の%酵素量Xとシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)の%酵素量Yの合計値(X+Y)が100~5000を満たす範囲であり、
【数2】
前記ブランチングエンザイムと4-α-グルカノトランスフェラーゼの酵素反応が30~90℃の温度条件で行われ、
前記態様1の場合、ブランチングエンザイムと4-α-グルカノトランスフェラーゼを同時に添加して反応させる際の反応時間が1~100時間であり、
前記態様2の場合、4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加後ブランチングエンザイム添加前までの反応時間が0.5~24時間、ブランチングエンザイム添加後の反応時間が1~100時間であり、
前記態様3の場合、ブランチングエンザイム添加後4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加前までの反応時間が0.5~24時間、4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加後の反応時間が1~100時間であり、
前記態様4の場合、4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加後失活工程前までの反応時間が1~72時間、ブランチングエンザイム添加後の反応時間が1~100時間であり、
前記態様5の場合、ブランチングエンザイム添加後失活工程前までの反応時間が1~72時間、4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加後の反応時間が1~100時間である、
高分子グルカンの製造方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンの製造方法であって、
分岐状グルカンを基質として、ブランチングエンザイム100~4,000U/g基質を反応させ、次いでエキソ型アミラーゼ
0.5~150U/g基質を反応させ、請求項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンが生成している時点で反応を停止する
工程を含み、
ブランチングエンザイム添加後エキソ型アミラーゼ添加前の反応温度が30~90℃、エキソ型アミラーゼ添加後の反応温度が25~40℃であり、
ブランチングエンザイム添加後エキソ型アミラーゼ添加前までの反応時間が1~100時間、エキソ型アミラーゼ添加後の反応時間が0.25~2.75時間である、
高分子グルカンの製造方法。
【請求項12】
前記エキソ型アミラーゼが、β-アミラーゼである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記分岐状グルカンが、ワキシー澱粉である、請求項10~
12のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低消化速度及び高消化性を兼ね備える高分子グルカンに関する。また、本発明は、当該高分子グルカンの製造方法、及び当該高分子グルカンを使用した各種製品に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物はエネルギー源として必須の栄養素である。炭水化物の代表的なものにデンプンがあるが、天然のデンプンは加工食品の原料として使用する場合、水への溶解のしにくさなどの加工性の低さ、老化性などの保存安定性などが問題となる。これらの問題を解決するために、酸や酵素で部分的に加水分解した高分子グルカン、いわゆるデキストリンが開発されている。しかしながら、デキストリンは、加工性や保存安定性等の特性は改善されているものの、消化速度が速くなるという特性があり、摂取後の血糖値やインスリン値の急激な上昇を招く点で問題点がある。摂取後の血糖値やインスリン値の急激な上昇は、肥満や糖尿病の原因の一つになっていると考えられている。そこで、この問題に対し、化学反応や酵素反応によりデキストリンの化学構造を変えることで消化速度を落とそうとする試みが行われている(非特許文献1)。
【0003】
従来、酵素反応を利用してデキストリンの構造を改変し消化速度を落とす方法としては、デキストリンの結晶性を上げて消化酵素が作用しにくくする方法(特許文献1、非特許文献2)と、デキストリン中のα-1,6‐グルコシド結合の割合を増やす方法(特許文献3、5、非特許文献3)、α-1,6-グルコシド結合以外のα-1,2、α-1,3‐グルコシド結合の割合を増やす方法(特許文献6)等が報告されている。しかし、これらの方法は、いずれも、デキストリンの消化速度を十分(天然のグリコーゲンの消化速度未満)に低下させようとすると、消化できない構造(難消化性の構造)部分が増加し、エネルギー源として利用できる構造部分が減るという欠点がある。
【0004】
また、従来、使用する酵素の種類や使用量を工夫することで、難消化性成分を低減させ、且つ消化性の遅いデキストリンが合成できることも報告されている(特許文献2、非特許文献4)。しかしながら、これらのデキストリンでも、消化速度を低下させるために、ヒトの消化酵素が分解できないα-1,3‐グルコシド結合が含まれており、少なくともこの結合を含む部分はエネルギー源として利用できない。また、これらのデキストリンは、消化速度を低下させるために酵素反応を十分行う結果として、分子量が低下しており、それに伴う溶液の浸透圧の上昇、還元糖量の増加等を招いてしまう。浸透圧が高い飲料は、下痢や腹部膨満感の原因となるため、溶液の浸透圧は低くすることが望ましいと考えられており、また、還元糖量が多いと、製品の保存時の着色等の問題も生じる。
【0005】
このように、低消化速度、高消化性、且つ高分子という特性を持つグルカンは、生理機能面や加工適性等で価値が高いものの、このような特性を有するグルカンは知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Critical Reviews in Food Science and Nutrition 49, 852-867 (2009).
【文献】Cereal Chemistry 81, 404-408 (2004).
【文献】Carbohydrate Polymers 132, 409-418 (2015).
【文献】Journal of Applied Glycoscience 61, 45-51 (2014).
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-131682号公報
【文献】特開2015-109868号公報
【文献】特開2001-11101号公報
【文献】特開2009-524439号公報
【文献】特開2012-120471号公報
【文献】特開平11-236401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低消化速度及び高消化性を兼ね備える高分子グルカンを提供することである。更に、本発明の他の目的は、当該高分子グルカンを使用した各種製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、澱粉、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、酵素合成分岐グルカン、高度分岐環状グルカン等の分岐状グルカンを基質として、(1)特定濃度のブランチングエンザイムと、(2)4-α-グルカノトランスフェラーゼ及び/又はエキソ型アミラーゼとを作用させることによって、消化速度が遅く、難消化性成分を殆ど含まず、低消化速度及び高消化性を両立できる高分子グルカンが生成することを見出した。
【0010】
また、本発明者等は、前記高分子グルカンの構造として、α-1,4-グルコシド結合による主鎖にα-1,6-グルコシド結合による分岐鎖が結合しており、平均分子量が1万~50万の高分子グルカンであって、α-1,6-グルコシド結合をイソアミラーゼで消化した後に、HPAEC-PAD法によって単位鎖長分布を分析すると、下記特性(i)~(iii)を満たすことを見出した。
(i)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度1~5を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP1-5/DP6-10)×100)が33~50%である。
(ii)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度11~15を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP11-15/DP6-10)×100)が80~125%である。
(iii)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度26~30を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP26-30/DP6-10)×100)が16~43%である。
【0011】
本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. α-1,4-グルコシド結合による主鎖にα-1,6-グルコシド結合による分岐鎖が結合している高分子グルカンであって、
平均分子量が1万~50万であり、
α-1,6-グルコシド結合をイソアミラーゼで消化することにより直鎖状の単位鎖長に分解した後に、HPAEC-PAD法によって単位鎖長分布を分析すると、下記特性(i)~(iii)を満たす、高分子グルカン:
(i)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度1~5を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
1-5/DP
6-10)×100)が33~50%である。
(ii)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度11~15を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
11-15/DP
6-10)×100)が80~125%である。
(iii)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度26~30を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
26-30/DP
6-10)×100)が16~43%である。
項2. 更に、前記単位鎖長分布を分析すると、下記特性(iv)~(vii)の内、少なくとも1つを満たす、項1に記載の高分子グルカン:
(iv)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度16-20を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
16-20/DP
6-10)×100)が53~85%である。
(v)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度21-25を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
21-25/DP
6-10)×100)が31~62%である。
(vi)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度31-35を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
31-35/DP
6-10)×100)が8~30%である。
(vii)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度36-40を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP
36-40/DP
6-10)×100)が3~21%である。
項3. 下記in vitro消化性試験において求められる初期消化速度係数kが0.029未満であり、且つ酵素反応開始から120分間までに分解されない成分の割合が10%未満である、項1又は2に記載の高分子グルカン:
[in vitro消化性試験の方法]
5w/v%高分子グルカン水溶液100μL、1M酢酸バッファー(pH5.5)20μL、蒸留水716μLを混合し、更に250U/mLの濃度のブタ膵臓由来α-アミラーゼ液4μL、及びα-グルコシダーゼ活性で0.3U/mLに相当する濃度のラット小腸アセトンパウダー液160μLを添加して37℃で反応を開始する。経時的に、各反応液中のグルコース濃度を測定し、高分子グルカンから遊離したグルコース量を測定する。
初期消化速度係数kは、下記式に従って算出する。
【数1】
項4. 前記in vitro消化性試験において、酵素反応開始から20分間までに分解される成分の割合が45%未満であり、且つ酵素反応開始20分後から120分間後までの間で分解される成分の割合が50%以上である、項1~3のいずれかに記載の高分子グルカン。
項5. α-1,4-グルコシド結合による主鎖の非還元末端がα-1,6-グルコシド結合による分岐構造を有していない、項1~4のいずれかに記載の高分子グルカン。
項6. 項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンを含む、飲食品。
項7. 血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇抑制用である、項6に記載の飲食品。
項8. 項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンを含む、輸液。
項9. 項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンを含む、医薬品。
項10. 項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンの製造方法であって、
分岐状グルカンを基質として、ブランチングエンザイム100~4,000U/g基質と、4-α-グルカノトランスフェラーゼとを、同時に又は任意の順で段階的に反応させ、項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンが生成している時点で反応を停止する、
高分子グルカンの製造方法。
項11. 項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンの製造方法であって、
分岐状グルカンを基質として、ブランチングエンザイム100~4,000U/g基質を反応させ、次いでエキソ型アミラーゼを反応させ、項1~5のいずれかに記載の高分子グルカンが生成している時点で反応を停止する、
高分子グルカンの製造方法。
項12. 前記4-α-グルカノトランスフェラーゼが、アミロマルターゼ及び/又はシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼである、項10に記載の製造方法。
項13. 前記エキソ型アミラーゼが、β-アミラーゼである、項11に記載の製造方法。
項14. 前記分岐状グルカンが、ワキシー澱粉である、項10~13のいずれかに記載の製造方法。
項15. 血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇抑制剤を製造するための、項1~4のいずれかに記載の高分子グルカンの使用。
項16. 血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇の抑制が求められる人に、項1~4のいずれかに記載の高分子グルカンを投与する、血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇抑制方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高分子グルカンは、特定の単位鎖長分布を有することによって低消化速度を実現できており、摂取されると、生体内では緩やかに消化され、血糖値やインスリン値を急激に上昇するのを抑制することができる。また、本発明の高分子グルカンは、ほとんど難消化性成分を含んでいないため、高消化性を備え、エネルギー源として効率的に利用することもできる。このような低消化速度と高消化性を両立させた高分子グルカンは、従来報告されておらず、飲食品や医薬等の分野において、従来の分岐状グルカン(澱粉、デキストリン等)の代替品として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の高分子グルカン、従来のデキストリン、グリコーゲン及び難消化性デキストリンの単位鎖長分布のモデル図である。
【
図2】実施例1で得られた高分子グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図3】実施例1-3及び1-6の高分子グルカンを酵素法による結合様式の分析を行った結果(生成物の分析結果)を示す図である。
【
図4】比較例1で得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図5】比較例2で得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図6】比較例3の酵素合成分岐グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図7】比較例4の天然グリコーゲンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図8】実施例2で得られた高分子グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図9】実施例3で得られた高分子グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図10】実施例4で得られた高分子グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図11】比較例5で得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図12】実施例5で得られた高分子グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図13】比較例6で得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布を示す図である。
【
図14】実施例1-3の高分子グルカン及びグルコースを経口摂取した際の血糖値及び血中インスリン値について、経時的変化及び血中濃度-時間曲線下面積(AUC)示す図である。
【
図15】実施例1-3の高分子グルカン及び比較例1-3の分岐状グルカンを経口摂取した際の血糖値及び血中インスリン値について、経時的変化及び血中濃度-時間曲線下面積(AUC)示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.定義
本明細書において、「低消化速度」とは、経口摂取後に高分子グルカンが消化される速度が遅いことを指し、例えば、後述するin vitro消化性試験における初期消化速度係数kが0.029未満であることが挙げられる。
【0015】
本明細明細書において、「高消化性」とは、高分子グルカンに含まれる難消化性成分が少なく、経口摂取後にエネルギーとして利用可能な成分量が多いことを指し、例えば、後述するin vitro消化性試験において、消化酵素による120分の加水分解反応後、グルコースまで分解されなかった成分が10%未満であることが挙げられる。
【0016】
本明細書において、イソアミラーゼ、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、及びα-グルコシダーゼの1単位(1U)は、以下の酵素量を指す。
イソアミラーゼ1U:カキグリコーゲンから1分間に1μmolの還元糖を生成する酵素量。
α-アミラーゼ1U:可溶性澱粉から3分間に1mgのマルトースを生成する酵素量。
グルコアミラーゼ1U:可溶性澱粉から30分間に10mgのグルコースを生成する酵素量。
α-グルコシダーゼ1U:p-ニトロフェニル-α-D-グルコピラノシドから1分間に1μmolの4-ニトロフェノールを遊離する酵素量。
【0017】
本明細書において、「ラット小腸アセトンパウダー」とは、ラットの小腸をホモジネーとした後にアセトンを加えて冷却し、生じた沈殿を回収して乾燥することにより得られる、α-グルコシダーゼを含む粗酵素粉末製剤である。
【0018】
2.高分子グルカン
本発明の高分子グルカンは、α-1,4-グルコシド結合による主鎖にα-1,6-グルコシド結合による分岐鎖が結合している高分子グルカンであって、分子量が1万~50万であり、α-1,6-グルコシド結合をイソアミラーゼで消化することにより直鎖状の単位鎖長に分解すると特定の単位鎖長分布を示すことを特徴とする。以下、本発明の高分子グルカンについて詳述する。
【0019】
2-1.D-グルコースの結合様式
本発明の高分子グルカンは、α-1,6-グルコシド結合を持つ分岐状α-1,4-グルカンである。
【0020】
本発明の高分子グルカンにおいて、α-1,6-グルコシド結合による分岐頻度については、後述する単位鎖長分布を充足することを限度として特に制限されないが、例えば、約7%以上、好ましくは約7.5%以上、更に好ましくは約8%以上が挙げられる。また、当該分岐頻度の上限値についても、後述する単位鎖長分布を充足することを限度として特に制限されないが、例えば、約11%以下、好ましくは約10.5%以下、更に好ましくは約10%以下が挙げられる。本発明の高分子グルカンにおける当該分岐頻度として、具体的には、約7~約11、好ましくは約7.5~約10.5、更に好ましくは約8~約10が挙げられる。
【0021】
なお、本発明において、α-1,6-グルコシド結合による分岐頻度は、以下の式によって計算される値である。
【数2】
【0022】
本発明の高分子グルカンにおいて、α-1,6-グルコシド結合による分岐鎖は、主鎖に対して不均一に分布していてもよいし、均一に分布していてもよい。
【0023】
また、本発明の高分子グルカンの結合様式の好適な態様として、α-1,4-グルコシド結合による主鎖の非還元末端がα-1,6-グルコシド結合による分岐構造を有していないことが挙げられる。
【0024】
2-2.平均分子量及び平均重合度
本発明の高分子グルカンの平均分子量は1万~50万である。本発明の高分子グルカンの一態様として、平均分子量が、好ましくは約5万以上、更に好ましくは約10万以上が挙げられる。また、本発明の高分子グルカンの一態様として、平均分子量が、好ましくは約30万以下、更に好ましくは約20万以下が挙げられる。本発明の高分子グルカンの好適な態様として、平均分子量が、好ましくは約5万~約30万、更に好ましくは約10万~約20万が挙げられる。本発明の高分子グルカンは、このような平均分子量を満たすことによって、飲料に添加しても浸透圧の上昇を抑制することが可能になり、また、配合される各種製品における還元糖量の増加を抑制することも可能になる。
【0025】
本発明において、高分子グルカンの平均分子量は、GPC-MALS法によって測定される重量平均分子量を指す。高分子グルカンの平均分子量の詳細な測定条件については、実施例の欄に示す通りである。
【0026】
また、本発明の高分子グルカンの平均重合度については、前記平均分子量を満たす範囲であればよいが、例えば、約60以上、好ましくは約80以上、更に好ましくは約100以上、特に好ましくは約120以上が挙げられる。また、本発明の高分子グルカンの平均重合度の上限値についても、前記平均分子量を満たす範囲であればよいが、例えば、約3.5×103以下、好ましくは約3×103以下、更に好ましくは約2.5×103以下、特に好ましくは約2×103以下が挙げられる。より具体的には、本発明の高分子グルカンの平均重合度として、例えば、約60~約3.5×103、好ましくは約80~3×103、更に好ましくは約100~2.5×103、特に好ましくは約120~2×103が挙げられる。
【0027】
本発明において、高分子グルカンの平均重合度は、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量を、グルコースの分子量から水分子の分子量を除いた162で割った値を指す。また、後述する基質の平均重合度の測定方法についても同様である。
【0028】
2-3.単鎖長分布
澱粉等のα-1,6-グルコシド結合を持つ分岐状α-1,4-グルカンは、イソアミラーゼなど適切な酵素処理によりα-1,6-グルコシド結合のみを完全に分解し、直鎖状α-1,4-グルカンのみに変換することができる。このように分岐状α-1,4-グルカンが分解された直鎖状α-1,4-グルカンは、分岐状α-1,4-グルカンの単位鎖といい、その重合度を単位鎖長という。分岐状α-1,4-グルカンから得られる単位鎖は、様々の重合度を持ち、HPAEC-PAD法等によって各重合度の単位鎖長の濃度分布(単位鎖長分布)を得ることができる。
【0029】
本発明の高分子グルカン、従来のデキストリン、グリコーゲン及び難消化性デキストリンの単位鎖長分布のモデル図を
図1に示す。
図1に示すように、本発明の高分子グルカンの単位鎖長分布は、従来のデキストリンで認められる単位鎖長分布と比較し、短鎖長側(重合度5~15程度の範囲内)に高い濃度を示す高いピーク現れることが特徴になっている。また、本発明の高分子グルカンは、突出したピークがなく、全体的になだらかな分布を示し、重合度10以下の短鎖長側と重合度25以上の長鎖長側の両方に高い濃度を示すピークが現れる点でも、従来のデキストリン、グリコーゲン及び難消化性デキストリンとは異なる特徴を有している。即ち、本発明の高分子グルカンにおいて、特定の単位鎖長分布を有していることが特徴の一つになっている。限定的な解釈を望むものではないが、本発明の高分子グルカンは、このような特定の単位鎖長分布を有していることによって、低消化速度と高消化性を両立させることが可能になっていると考えられる。
【0030】
具体的には、本発明の高分子グルカンの構造上の特徴として、α-1,6-グルコシド結合をイソアミラーゼで消化することにより直鎖状の単位鎖長に分解した後に、HPAEC-PAD法によって単位鎖長分布を分析すると、下記特性(i)~(iii)を満たすことが挙げられる。
(i)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度1~5を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP1-5/DP6-10)×100;以下、「DP1-5率」と表記することがある)が33~50%である。
(ii)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度11~15を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP11-15/DP6-10)×100;以下、「DP11-15率」と表記することがある)が80~125%である。
(iii)重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度26~30を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP26-30/DP6-10)×100;以下、「DP26-30率」と表記することがある)が16~43%である。
【0031】
本発明の高分子グルカンは、前記特性(i)に規定しているDP
1-5率が33~50%であり、従来のデキストリンに比べて、短鎖長側に高い濃度を示す高いピーク現れることが一つの特徴になっている(
図1参照)。前記特性(i)に規定しているDP
1-5率として、より効果的に消化速度を遅くするという観点から、好ましくは35~48%、更に好ましくは35~45%が挙げられる。
【0032】
また、本発明の高分子グルカンは、前記特性(i)に規定しているDP
11-15率が80~125%であり、重合度6~10を示す各ピークのエリア面積の合計値と重合度11~15を示す各ピークのエリア面積の合計値が比較的近似する値になっているのに対して、従来のデキストリンではDP
11-15率が125%を大幅に上回っており、DP
11-15率の点でも、従来のデキストリンとは構造上明らかに異なっている(
図1参照)。前記特性(ii)に規定しているDP
11-15率として、より効果的に消化速度を遅くするという観点から、好ましくは85~120%、更に好ましくは90~110%が挙げられる。
【0033】
更に、本発明の高分子グルカンは、前記特性(iii)に規定しているDP
26-30率が16~43%であり、従来のデキストリンに比べて、長鎖長側に高い濃度を示すピークが現れることも一つの特徴になっている(
図1参照)。前記特性(iii)に規定しているDP
26-30率として、より効果的に消化速度を遅くするという観点から、好ましくは18~42%、更に好ましくは20~41%が挙げられる。
【0034】
また、本発明の高分子グルカンの構造上の好適な特徴として、前記方法で測定される単位鎖長分布が、前記特性(i)~(iii)を満たすことに加えて、下記特性(iv)~(vii)の内、少なくとも1つの特性、好ましくは3つの特性、更に好ましくは4つ(全て)を満たすものが挙げられる。
(iv)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度16-20を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP16-20/DP6-10)×100;以下、「DP16-20率」と表記することがある)が53~85%である。
(v)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度21-25を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP21-25/DP6-10)×100;以下、「DP21-25率」と表記することがある)が31~62%である。
(vi)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度31-35を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP31-35/DP6-10)×100;以下、「DP31-35率」と表記することがある)が8~30%である。
(vii)重合度6-10を示す各ピークのエリア面積の合計値に対して、重合度36-40を示す各ピークのエリア面積の合計値の割合((DP36-40/DP6-10)×100;以下、「DP36-40率」と表記することがある)が3~21%である。
【0035】
前記特性(iv)に規定しているDP16-20率として、好ましくは55~84%、更に好ましくは60~83%が挙げられる。
【0036】
前記特性(v)に規定しているDP21-25率として、好ましくは35~61%、更に好ましくは39~60%が挙げられる。
【0037】
前記特性(vi)に規定しているDP31-35率として、好ましくは11~29%、更に好ましくは14~29%が挙げられる。
【0038】
前記特性(vi)に規定しているDP36-40率として、好ましくは5~20%、更に好ましくは7~20%が挙げられる。
【0039】
また、本発明の高分子グルカンの一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度1から重合度5までのピーク面積の合計が、重合度1から重合度50までのピーク面積の合計に対して7.0~14.0%、好ましくは8~12%、更に好ましくは8~10%を占めていることが挙げられる。
【0040】
また、本発明の高分子グルカンの一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度1から重合度7までのピーク面積の合計が、重合度1から重合度50までのピーク面積の合計に対して14~24%、好ましくは15~22%、更に好ましくは16~20%を占めていることが挙げられる。
【0041】
また、本発明の高分子グルカンの一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度1から重合度10までのピーク面積の合計が、重合度1から重合度50までのピーク面積の合計に対して24~40%、好ましくは26~40%、更に好ましくは18~36%を占めていることが挙げられる。
【0042】
更に、本発明の高分子グルカンの一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度11から重合度24までのピーク面積の合計が、重合度1から重合度50までのピーク面積の合計に対して45~55%、好ましくは46~53%、更に好ましくは47~50%を占めていることが挙げられる。
【0043】
また、本発明の高分子グルカンの一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度6から重合度10までのピーク面積の合計が、重合度1から重合度50までのピーク面積の合計に対して20~30%、好ましくは20~28%、更に好ましくは20~26%を占めていることが挙げられる。
【0044】
また、本発明の高分子グルカンの一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度6から重合度15までのピーク面積の合計が、重合度1から重合度50までのピーク面積の合計に対して40~55%、好ましくは40~54%、更に好ましくは40~50%を占めていることが挙げられる。
【0045】
また、本発明の高分子グルカンの一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度6から重合度40までのピーク面積の合計が、重合度1から重合度50までのピーク面積の合計に対して85~90%、好ましくは86~90%、更に好ましくは87~90%を占めていることが挙げられる。
【0046】
更に、本発明の高分子グルカンの一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度1から重合度10までのピーク面積と重合度11から重合度24までのピーク面積との合計値を、重合度11から重合度24までピーク面積の合計値で割った値({(DP1-10)+(DP25-50)}/DP11-24)が、例えば、1.0±0.2、好ましくは1.0±0.1を満たすことが挙げられる。
【0047】
本発明の高分子グルカンの好適な一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布において、重合度の数を1毎に区分した各重合度のピーク面積の割合に突出した数値がないことが挙げられ、具体的には、重合度1から重合度50までのピーク面積の合計に対して、重合度1から重合度50までに存在する何れの単独の重合度のピーク面積の割合も、6%以下、好ましくは5%以下であることが挙げられる。
【0048】
更に、本発明の高分子グルカンの好適な一態様として、前記方法で測定される単位鎖長分布から算出される下記「20%-60%累計プロットの傾き」が、6以下、好ましくは5.5以下になるものが挙げられる。当該20%-60%累計プロットの傾きは、単位鎖長の分布の広がり方と相関しており、特定範囲の重合度の単位鎖長が多く存在する場合、当該傾きは大きくなる。
【数3】
【0049】
本発明において、前述する単位鎖長分布の特性を特定するには、前記方法で測定される単位鎖長分布における重合度の分布範囲は、重合度1から重合度50まで特定できていればよいが、前記方法で測定される単位鎖長分布におけるピークは、通常、重合度が1~1000、好ましくは1~200、更に好ましくは1~100の範囲に分布し得る。
【0050】
なお、単位鎖長分布を測定する際に、高分子グルカンのα-1,6-グルコシド結合をイソアミラーゼで消化して直鎖状の単位鎖長を得るには、例えば、測定対象となる高分子グルカン2.5mg/mL及びイソアミラーゼ10U/mLを含む反応液(20mM酢酸緩衝液pH5.5)中で、37℃、18時間程度インキュベートすればよい。なお、分岐鎖がない直鎖状の単位鎖長が得られていることについては、HPAEC-PAD法によって確認することができる。なお、前記イソアミラーゼとしては、例えば、Megazyme社製Pseudomonas種由来イソアミラーゼを使用できる。
【0051】
2-4.in vitro消化性
本発明の高分子グルカンは、前述する特性を備えることによって、生体内では緩やかに消化され、血糖値やインスリン値を急激に上昇させない低消化速度と、難消化性成分をほとんど有しないことによる高消化性との2つの消化特性を併せ持つことができる。
【0052】
具体的には、本発明の高分子グルカンが備え得る消化特性の一態様として、後述するin vitro消化性試験において、反応開始から30分までの消化速度係数(初期消化速度係数)kが0.029未満、好ましくは0.010~0.028、更に好ましくは0.020~0.027であることが挙げられる。
【0053】
更に、本発明の高分子グルカンが備え得る消化特性の一態様として、後述するin vitro消化性試験において酵素反応開始から120分間までに分解されない成分(難消化性画分)の割合が、10%未満、好ましくは0~9%、更に好ましくは0~8%であることが挙げられる。
【0054】
本発明の高分子グルカンが備え得る消化特性の一態様として、後述するin vitro消化性試験において酵素反応開始から20分間までに分解される成分(易消化性画分)の割合が、45%未満、好ましくは10~43%、更に好ましくは20~41%であることが挙げられる。
【0055】
また、本発明の高分子グルカンが備え得る消化特性の一態様として、後述するin vitro消化性試験において酵素反応開始20分後から120分間後までの間で分解される成分(緩消化性画分)の割合が、50%以上、好ましくは51~90%、更に好ましくは52~80%であることが挙げられる。
【0056】
なお、in vitro消化性試験は、以下の手順に従って行われる。
[in vitro消化性試験の方法]
Englystら(European Journal of Clinical Nutrition、1992、46、S33~S50)の方法を基に改変した方法を用いた。5w/v%高分子グルカン水溶液100μL、1M酢酸バッファー(pH5.5)20μL、蒸留水716μLを混合し、更に250U/mLの濃度のブタ膵臓由来α-アミラーゼ液4μL、及びα-グルコシダーゼ活性で0.3U/mLに相当する濃度のラット小腸アセトンパウダー抽出液160μLを添加して37℃で反応を開始する。ラット小腸アセトンパウダー抽出液は、ラット小腸アセトンパウダー150mgを50mM酢酸バッファー(pH5.5)3mLに懸濁し、遠心上清をラット小腸粘膜酵素の粗酵素液として調製する。経時的に、各反応液中のグルコース濃度を測定し、高分子グルカンから遊離したグルコース量を測定する。より具体的な試験方法は、実施例の欄に記載の通りである。なお、前記ブタ膵臓由来α-アミラーゼ及びラット小腸アセトンパウダーとしては、例えば、Sigma社製のものを使用できる。
【0057】
初期消化速度係数kは、ButterworthらのLogarithm of the slope (LOS) plot法(Carbohydrate Polymers 87 (2012) 2189-2197)の手法に従って求められる。具体的には、初期消化速度係数kは、以下の式から算出される。
【数4】
【0058】
また、高分子グルカンに含まれる易消化性画分、緩消化性画分、及び難消化性画分の割合(%)は、以下の式から算出される。
【数5】
【0059】
2-5.用途
本発明の高分子グルカンは、従来の澱粉と同様の用途に使用することができる。具体的には、本発明の高分子グルカンは、飲食品、輸液、食品添加剤、医薬品、接着剤等の各種製品に配合して使用することができる。また、本発明の高分子グルカンは、水に溶解させた際の糊液の粘度が低いという特性があり、生物崩壊性プラスチックの原料、澱粉からシクロデキストリン等を製造する際の中間物質、澱粉加工工業における原料等としても好適にも使用できる。
【0060】
特に、本発明の高分子グルカンは、人体のエネルギー源として機能するので、飲食品の配合成分として使用することが好適である。特に、本発明の高分子グルカンは、低消化速度及び高消化性を兼ね備えているので、血糖値や血中インスリン濃度の急激な上昇の抑制が求められる人に対する飲食品に好適に使用される。即ち、本発明の高分子グルカンが配合された飲食品は、血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇抑制用の飲食品として提供することができる。本発明の高分子グルカンが配合された飲食品の好適な具体例としては、コーヒー、醤油、たれ、麺類のつゆ、ソース、ダシの素、シチューの素、スープの素、複合調味料、カレーの素、ゼリー、キャラメル、ガム、チョコレート、クッキー、クラッカー、アイスクリーム、シャーベット、ジュース、粉末ジュース、和生菓子、洋生菓子、冷凍食品、冷蔵食品、餅、おにぎり、スポーツ中又はスポーツの後に摂取される飲料及び食品(スポーツ飲料及びスポーツ食品);腹膜透析患者、糖尿病患者、腎臓病患者等の患者用飲食品等が挙げられる。
【0061】
本発明の高分子グルカンを各種製品に配合する場合、その配合量については、配合対象となる製品の種類や形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば飲食品組成物の場合であれば、本発明の高分子グルカンの配合量として、100質量%以下、好ましくは75質量%以下、更に好ましくは50質量%以下が挙げられる。また、飲食品組成物における本発明の高分子グルカンの配合量の下限値については、特に制限されないが、例えば、0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、特に好ましくは8質量%以上、最も好ましくは10質量%以上が挙げられる。飲食品組成物における本発明の高分子グルカンの配合量として、具体的には、0.1~100質量%、好ましくは1~100質量%、更に好ましくは3~100質量%、特に好ましくは8~75質量%、最も好ましくは10~50質量%が挙げられる。
【0062】
また、前述する通り、本発明の高分子グルカンは、人体のエネルギー源として機能すると共に、血糖値や血中インスリン濃度の急激な上昇を抑制することができる。従って、本発明の高分子グルカンは、血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇抑制剤として、飲食品、医薬品等に配合して使用することができる。即ち、本発明は、更に、血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇抑制剤を製造するための、当該高分子グルカンの使用を提供する。また、本発明は、血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇の抑制が求められる人に、当該高分子グルカンを炭水化物源として投与する、血糖値及び/又は血中インスリン濃度の上昇抑制方法をも提供する。当該方法において、高分子グルカンの投与量は、例えば、1回当たり、1~200g程度に設定すればよい。
【0063】
3.高分子グルカンの製造方法
本発明の高分子グルカンの製造方法については、特に制限されないが、好適な例として、(1)分岐状グルカンを基質として、ブランチングエンザイム100~4,000U/g基質と、4-α-グルカノトランスフェラーゼとを、同時に又は任意の順で段階的に反応させ、本発明の高分子グルカンが生成している時点で反応を停止する方法(以下、第1法)、(2)分岐状グルカンを基質として、ブランチングエンザイム100~4,000U/g基質を反応させ、次いでエキソ型アミラーゼを反応させ、本発明の高分子グルカンが生成している時点で反応を停止する方法(以下、第2法)が挙げられる。以下、当該第1法及び第2法を用いた本発明の高分子グルカンの製造方法について詳述する。
【0064】
3-1.第1法
3-1-1.基質
第1法では、基質として分岐状グルカンを使用する。本発明で使用される分岐状グルカンは、D-グルコースがα-1,4-グルコシド結合により連結した直鎖状グルカンが、α-1,6-グルコシド結合により分岐しているグルカンである。本発明では、分岐状グルカンとして、α-1,6-グルコシド結合以外の結合によって分岐されていないものが好ましい。α-1,6-グルコシド結合以外の結合による分岐構造が多いと、当該構造部分が合成される高分子グルカンに残存して難消化性を示し、高消化性を有する高分子グルカンが得られなくなる。また、基質として使用される分岐状グルカンは、イソアミラーゼ処理及びプルラナーゼ処理をされていないことが望ましい。
【0065】
基質として使用される分岐状グルカンの分岐頻度については、特に制限されないが、例えば、分岐頻度の下限として、3%以上、好ましくは4%以上、更に好ましくは5%以上、特に好ましくは6%以上が挙げられる。また、天然の分岐状グルカンは通常、それほど分岐頻度が高くなく、分岐頻度の上限については、10%以下、は9%以下、8%以下、7%以下、等であり得る。基質として使用される分岐状グルカンの分岐頻度として、より具体的には、例えば3~10%、好ましくは4~9%、更に好ましくは5~8%が挙げられる。
【0066】
基質として使用される分岐状グルカンの平均重合度については、特に制限されないが、例えば、平均重合度の下限として、約70以上、好ましくは約80以上、更に好ましくは約90以上、特に好ましくは約100以上が挙げられる。また、基質として使用される分岐状グルカンの平均重合度の上限については、例えば、約1×107以下、好ましくは約3×106以下、更に好ましくは約1×106以下、特に好ましくは約5×105以下、最も好ましくは約3×105以下が挙げられる。基質として使用される分岐状グルカンの平均重合度として、より具体的には、例えば、約70~約1×107、好ましくは約80~約3×106、更に好ましくは約90~約1×106、特に好ましくは約100~約5×105、最も好ましくは約100~約3×105が挙げられる。
【0067】
基質として使用される分岐状グルカンの好適な例としては、澱粉、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、酵素合成分岐グルカン、高度分岐環状グルカン等が挙げられる。以下、これらの分岐状グルカンについて詳述する。
【0068】
澱粉
本発明において、「澱粉」とは、アミロースとアミロペクチンとの混合物をいう。基質として使用される澱粉としては、アミロペクチン含量の高いものが好ましい。澱粉としては、通常市販されている澱粉であればどのような澱粉でも用いることができる。澱粉に含まれるアミロースとアミロペクチンとの比率は、澱粉を産生する植物の種類によって異なる。モチゴメ、モチトウモロコシなどの有する澱粉のほとんどはアミロペクチンである。他方、アミロースのみからなり、かつアミロペクチンを含まない澱粉は、通常の植物からは得られない。澱粉は、天然の澱粉、澱粉分解物、及び化工澱粉に区分される。これらの澱粉の中でも、本発明で使用される基質として、好ましくは、天然の澱粉、及び天然の澱粉の分解物、更に好ましくは天然の澱粉が挙げられる。
【0069】
天然の澱粉は、原料により、いも類澱粉及び穀類澱粉に分類され、本発明では、基質としてこれらのいずれを使用してもよい。いも類澱粉としては、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉、わらび澱粉等が挙げられる。穀類澱粉としては、例えば、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等が挙げられる。天然の澱粉は、ハイアミロース澱粉(例えば、ハイアミロースコーンスターチ)又はワキシー澱粉であってもよい。更に、澱粉は可溶性澱粉であってもよい。可溶性澱粉とは、天然の澱粉に種々の処理を施すことにより得られる、水溶性の澱粉をいう。本発明で使用される基質として、好ましくはワキシー澱粉が挙げられる。
【0070】
また、基質として使用される澱粉は、澱粉粒の状態であってもよい。本発明において、「澱粉粒」とは、天然の結晶構造を少なくとも一部保持している澱粉分子をいう。澱粉粒は、未処理の澱粉粒であってもよく、未処理の澱粉粒を化学修飾または物理処理することによって得られる澱粉粒であってもよい。食品として分類される酵素処理澱粉を使用することが好ましい場合には、使用される澱粉粒は、代表的には、植物から得られた未処理の澱粉粒であり、例えば、糊化過程を経ていない澱粉粒が挙げられる。また、澱粉粒としては、水中に懸濁した状態での加熱により澱粉粒が破裂することにより懸濁液が流動性を失うという特性を示すあらゆる澱粉粒が使用可能である。基質として使用される澱粉粒として、好ましくは、アミロペクチン含量が高いものが挙げられる。
【0071】
植物は、アミロプラスト内に澱粉分子を顆粒として(すなわち、大きな結晶として)貯蔵している。この顆粒は澱粉粒と呼ばれる。澱粉粒内では、澱粉分子同士が水素結合等によって結合している。そのため、澱粉粒はそのままでは水に溶け難く、消化もされ難い。澱粉粒を水とともに加熱すると膨潤し、分子がほぐれてコロイド状になる。この変化は「糊化」と呼ばれる。澱粉粒の大きさ及び形態は、その澱粉粒が得られた植物によって異なる。例えば、トウモロコシの澱粉粒(コーンスターチ)の平均粒径は約12μm~約15μmであり、他の澱粉粒と比べて小さめで大きさは揃っている。コムギおよびオオムギの澱粉粒は、粒径約20μm~約40μmの大型の澱粉粒と粒径数μmの小型の澱粉粒の2種の大きさに分かれる。コメではアミロプラスト内に直径数μmの角ばった澱粉小粒が多数蓄積される複粒構造となる。バレイショの澱粉粒は平均粒径約40μmであり、澱粉原料として一般に利用されているものの中では最も大きい。本発明においては、市販されている各種の澱粉粒を基質として使用することができる。植物等から澱粉粒を精製するなどの方法により澱粉粒を調製して、基質として使用してもよい。
【0072】
澱粉粒の状態では澱粉分子同士が強く結合しているため、酵素が作用し難い。食品として扱われる酵素処理澱粉を得るための特定の実施形態では、本発明で使用される澱粉粒は、植物から単離または精製されているが、酸処理、化学修飾処理および熱処理を受けていないものである。本明細書中では、用語「未処理」の澱粉粒とは、天然で生成される澱粉粒であって、自然状態で共存している他の成分(例えば、タンパク質、脂質など)から澱粉粒を分離するために必要な処理以外の処理が施されていない澱粉粒をいう。したがって、植物などから不純物を除去して澱粉を精製する工程などの、澱粉粒を調製する方法における各工程は、本明細書中においては、澱粉粒の処理には含まれない。澱粉粒としては、通常市販されている澱粉粒であればどのような澱粉粒でも使用され得る。
【0073】
澱粉粒は、糊化処理を施されていない澱粉であることが好ましい。澱粉粒は、天然の結晶構造を少なくとも一部保持しており、酵素が作用し難い。澱粉粒は、例えば、30℃の水に澱粉粒を加えることにより40重量%の水懸濁液を作製し、この懸濁液を100℃にて10分間加熱した後60℃に冷却した場合に得られる溶液の流動性がないものであることが好ましい。なお、「溶液の流動性がない」とは、例えば容量100mLのガラスビーカーに10分間加熱済みの50gの溶液(60℃)を入れ、そのビーカーを反転させて溶液サンプルの下側が開放された状態で60℃にて1分間放置した場合に、入れた溶液の20重量%以上(すなわち、10g以上)の溶液がビーカー中に残ることをいう。溶液の流動性がないと、溶液に酵素を均一に拡散させることが困難である。ここで、「溶液に流動性がある」とは、例えば容量100mLのガラスビーカーに溶液を入れ、そのビーカーを反転させたときに重力によって1分間以内に全体の80%以上の溶液が流れ落ちる状態を指す。この状態の溶液であれば酵素を添加して攪拌することにより、澱粉を溶液中に均一に分散することができる。流動性がある溶液は通常の製造工程中のラインを詰まらせることはない。
【0074】
また、基質として使用される加工澱粉は、化学修飾又は物理処理のいずれか少なくとも一方が施されているものであればよい。
【0075】
化学修飾された澱粉としては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、漂白澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸化モノエステル化リン酸架橋澱粉等が挙げられる。「アセチル化アジピン酸架橋澱粉」とは、澱粉を無水酢酸および無水アジピン酸でエステル化して得られたものをいう。「アセチル化酸化澱粉」とは、澱粉を次亜塩素酸ナトリウムで処理した後、無水酢酸でエステル化して得られたものをいう。「アセチル化リン酸架橋澱粉」とは、澱粉をトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンおよび無水酢酸または酢酸ビニルでエステル化して得られたものをいう。「オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム」とは、澱粉を無水オクテニルコハク酸でエステル化して得られたものをいう。「酢酸澱粉」とは、澱粉を無水酢酸または酢酸ビニルでエステル化して得られたものをいう。「酸化澱粉」とは、澱粉を次亜塩素酸ナトリウムで処理して得られたものであって、厚生労働省告示485号記載の純度試験法に準じて試料澱粉中のカルボキシ基(カルボキシル基ともいう)の分析を行った場合にカルボキシ基が1.1%以下であるものをいう。ただし、カルボキシ基の量がこの範囲にあっても「漂白澱粉」は「酸化澱粉」の定義には含まれない。「漂白澱粉」とは、澱粉を次亜塩素酸ナトリウムで処理して得られたものであって、厚生労働省告示485号記載の純度試験法に準じて試料澱粉中のカルボキシ基の分析を行った場合にカルボキシ基が0.1%以下であるものであって、厚生労働省告示485号記載の酸化澱粉の「確認試験(3)」による試験結果が陰性でかつ粘度等の澱粉の性質に生じた変化が酸化によるものでないことを合理的に説明できるものをいう。カルボキシ基の量が0.1%以下であっても粘度等の澱粉の性質が天然澱粉から変化しているものは酸化澱粉に分類され、日本では食品としては取り扱われず、食品添加物として取り扱われる。「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」とは、澱粉をトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンでエステル化し、酸化プロピレンでエーテル化して得られたものをいう。「ヒドロキシプロピル澱粉」とは、澱粉を酸化プロピレンでエーテル化して得られたものをいう。「リン酸架橋澱粉」とは、澱粉をトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンでエステル化して得られたものをいう。「リン酸化澱粉」とは、澱粉をオルトリン酸、そのカリウム塩もしくはナトリウム塩またはトリポリリン酸ナトリウムでエステル化して得られたものをいう。「リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉」とは、澱粉をオルトリン酸、そのカリウム塩もしくはナトリウム塩またはトリポリリン酸ナトリウムでエステル化し、トリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンでエステル化して得られたものをいう。
【0076】
物理処理された澱粉粒としては、例えば、湿熱処理澱粉および熱抑制澱粉が挙げられる。「湿熱処理澱粉」とは、澱粉を糊化しない程度の低水分状態で加熱処理することにより得られる加工澱粉をいう。「澱粉を糊化させない程度の低水分状態」としては、具体的には、水分含量が50重量%以下程度、好ましくは5~30重量%程度以下、より好ましくは5~25重量%程度、更に好ましくはま5~20重量%程度であることが挙げられる。「熱抑制処理澱粉」とは、極めて低水分に乾燥した澱粉粒を、ドライ加熱処理することにより澱粉粒の結晶構造を強化した加工澱粉をいう。「極めて低水分に乾燥した澱粉粒」とは、具体的には、澱粉粒の水分含量が1%未満程度、好ましくは0%程度であることが挙げられる。
【0077】
基質として使用される澱粉の平均重合度については、特に制限されないが、その下限として、例えば、約1×103以上、好ましくは約5×103以上、更に好ましくは約1×104以上、特に好ましくは約2×104以上が挙げられる。また、基質として使用される澱粉の平均重合度の上限については、特に制限されないが、例えば、約1×107以下、好ましくは約3×106以下、更に好ましくは約1×106以下、特に好ましくは約3×105以下が挙げられる。基質として使用される澱粉の平均重合度として、より具体的には、約1×103~約1×107、好ましくは約5×103~3×106、更に好ましくは約1×104~1×106、特に好ましくは約2×104~約3×105が挙げられる。
【0078】
アミロペクチン
アミロペクチンとは、α-1,4-グルコシド結合によって連結されたグルコース単位に、α-1,6-グルコシド結合でグルコース単位が連結された分岐状分子である。アミロペクチンは天然の澱粉中に含まれる。アミロペクチンとして、例えば、アミロペクチン100%からなるワキシーコーンスターチを用いることができる。
【0079】
基質として使用されるアミロペクチンの平均重合度については、特に制限されないが、その下限として、例えば、約1×103以上、好ましくは約5×103以上、更に好ましくは約1×104以上、特に好ましくは約2×104以上が挙げられる。また、基質として使用されるアミロペクチンの平均重合度の上限については、特に制限されないが、例えば、約1×107以下、好ましくは約3×106以下、更に好ましくは約1×106以下、特に好ましくは約3×105以下が挙げられる。基質として使用されるアミロペクチンの平均重合度として、より具体的には、約1×103~約1×107、好ましくは約5×103~約3×106、更に好ましくは約1×104~約1×106、特に好ましくは約2×104~約3×105が挙げられる。
【0080】
グリコーゲン
グリコーゲンは、グルコースから構成されるグルカンの一種であり、高頻度の枝分かれを有するグルカンである。グリコーゲンは、動物の貯蔵多糖として殆どのあらゆる細胞に顆粒状態で広く分布している。グリコーゲンは、植物中では、例えば、トウモロコシのスイートコーン種の種子に存在している。グリコーゲンは、代表的には、グルコースのα-1,4-グルコシド結合の糖鎖に対して、グルコースおよそ3単位おきに1本程度の割合で、平均重合度12~18のグルコースのα-1,4-グルコシド結合の糖鎖がα-1,6-グルコシド結合で結合している。α-1,6-グルコシド結合で結合している分枝鎖にも同様にグルコースのα-1,4-グルコシド結合の糖鎖がα-1,6-グルコシド結合で結合している。そのため、グリコーゲンは網状構造を形成する。
【0081】
基質として使用されるグリコーゲンは、動物由来であってもよく、植物由来であってもよい。また、グリコーゲンは、酵素合成により製造できることも知られており(特開2008-095117号公報)、本発明では、酵素合成によって得られたグリコーゲンを基質として使用してもよい。
【0082】
基質として使用されるグリコーゲンの平均重合度については、特に制限されないが、その下限として、例えば、約500以上、好ましくは約1×103以上、更に好ましくは約2×103以上、特に好ましくは約3×103以上が挙げられる。また、基質として使用されるグリコーゲンの平均重合度の上限については、特に制限されないが、例えば、約1×107以下、好ましくは約3×106以下、更に好ましくは約1×106以下、特に好ましくは約3×105以下が挙げられる。基質として使用されるグリコーゲンの平均重合度として、より具体的には、約500~約1×107、好ましくは約1×103~3×106、更に好ましくは約2×103~約1×106、特に好ましくは約3×103~約3×105が挙げられる。
【0083】
基質として使用されるグリコーゲンは、化学修飾が施されたグリコーゲン誘導体であってもよい。グリコーゲン誘導体としては、例えば、グリコーゲンのアルコール性水酸基の少なくとも1つが、グリコシル化、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化、リン酸化等によって化学修飾された誘導体が挙げられる。また、グリコーゲン誘導体は、同一分子内に1種の化学修飾が施されていてもよく、また同一分子内に2種以上の化学修飾が施されていてもよい。
【0084】
デキストリン
デキストリンは、グルコースから構成されるグルカンの一種であり、澱粉とマルトースとの中間の複雑さをもつグルカンである。デキストリンは、澱粉を酸、アルカリまたは酵素によって部分的に分解することによって得ることができる。
【0085】
基質として使用されるデキストリンの平均重合度については、特に制限されないが、その下限として、例えば、約50以上、好ましくは約60以上、更に好ましくは約70以上、特に好ましくは約80以上が挙げられる。また、基質として使用されるデキストリンの平均重合度の上限については、特に制限されないが、例えば、約1×104以下、好ましくは約9×103以下、更に好ましくは約7×103以下、特に好ましくは約5×103以下が挙げられる。基質として使用されるデキストリンの平均重合度として、より具体的には、約50~約1×104、好ましくは約60~9×103、更に好ましくは約70~約7×103、特に好ましくは約80~約5×103が挙げられる。
【0086】
基質として使用されるデキストリンは、化学修飾が施されたデキストリン誘導体であってもよい。デキストリン誘導体としては、例えば、デキストリンのアルコール性水酸基の少なくとも1つが、グリコシル化、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化、リン酸化等によって化学修飾された誘導体が挙げられる。また、デキストリン誘導体は、同一分子内に1種の化学修飾が施されていてもよく、また同一分子内に2種以上の化学修飾が施されていてもよい。
【0087】
酵素合成分岐グルカン
酵素合成分岐グルカンとは、酵素を使用して合成された分岐状グルカンをいう。SP-GP法でのアミロースの合成(国際公開第WO02/097107号パンフレット(第127頁-第134頁)、H.Waldmannら、Carbohydrate Research, 157 (1986) c4-c7)の際に反応液中にブランチングエンザイムを加えることにより、分岐構造を有するグルカンを合成することができる。分岐の程度はブランチングエンザイムの添加量によって適宜調整可能である。
【0088】
基質として使用される酵素合成分岐グルカンの平均重合度については、特に制限されないが、その下限として、例えば、約70以上、好ましくは約80以上、更に好ましくは約100以上、特に好ましくは約200以上が挙げられる。また、基質として使用される酵素合成分岐グルカンの平均重合度の上限については、特に制限されないが、例えば、約2×105以下、好ましくは約1×105以下、更に好ましくは約5×104以下、特に好ましくは約3×104以下が挙げられる。基質として使用される酵素合成分岐グルカンの平均重合度として、より具体的には、約70~約2×105、好ましくは約80~約1×105、更に好ましくは約100~約5×104、特に好ましくは約200~約3×104が挙げられる。
【0089】
基質として使用される酵素合成分岐グルカンは、化学修飾が施された酵素合成分岐グルカン誘導体であってもよい。酵素合成分岐グルカン誘導体としては、例えば、酵素合成分岐グルカンのアルコール性水酸基の少なくとも1つが、グリコシル化、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化、リン酸化等によって化学修飾された誘導体が挙げられる。また、酵素合成分岐グルカン誘導体は、同一分子内に1種の化学修飾が施されていてもよく、また同一分子内に2種以上の化学修飾が施されていてもよい。
【0090】
高度分岐環状グルカン
高度分岐環状グルカンとは、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有するグルカンであり、特許第3107358号に記載される方法によって製造される。特許第3107358号に記載される方法では、BE、4-α-グルカノトランスフェラーゼ又はシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)を単独で使用するため、高度分岐状環状グルカンの鎖長分布は、本発明の高分子グルカンが備える鎖長分布とは異なっている。高度分岐環状グルカンは、分子全体として少なくとも1つの分岐を有すればよい。
【0091】
基質として使用される高度分岐環状グルカンの分子全体としての平均重合度については、特に制限されないが、その下限として、例えば、約50以上、好ましくは約60以上、更に好ましくは約80以上、特に好ましくは約100以上が挙げられる。また、基質として使用される高度分岐環状グルカンの分子全体としての平均重合度の上限については、特に制限されないが、例えば、約1×104以下、好ましくは約7×103以下、更に好ましくは約5×103以下、特に好ましくは約4×103以下が挙げられる。基質として使用される高度分岐環状グルカンの分子全体としての平均重合度として、より具体的には、約50~約1×104、好ましくは約60~約7×103、更に好ましくは約80~約5×103、特に好ましくは約100~約4×103が挙げられる。
【0092】
高度分岐環状グルカンに存在する、内分岐環状構造部分の重合度については、特に制限されないが、その下限として、例えば、約10以上、好ましくは約15以上、更に好ましくは約20以上が挙げられる。また、当該内分岐環状構造部分の重合度の上限については、特に制限されないが、例えば、約500以下、好ましくは約300以下、更に好ましくは約100以下が挙げられる。当該内分岐環状構造部分の重合度として、より具体的には、約10~約500、好ましくは約15~約300、更に好ましくは約20~約100が挙げられる。
【0093】
高度分岐環状グルカンに存在する、外分岐構造部分の重合度については、特に制限されないが、その下限として、例えば、約40以上、好ましくは約100以上、更に好ましくは約300以上が挙げられる。また、当該外分岐構造部分の重合度の上限については、特に制限されないが、例えば、約3×103以下、好ましくは約1×103以下、更に好ましくは約500以下が挙げられる。当該外分岐構造部分の重合度として、より具体的には、約40~約3×103以下、好ましくは約100~約1×103、更に好ましくは約300~約500が挙げられる。
【0094】
また、高度分岐環状グルカンに存在する、内分岐環状構造部分のα-1,6-グルコシド結合の数については、少なくとも1個あればよいが、例えば1個以上、5個以上、10個以上などであり得る。また、当該内分岐環状構造部分のα-1,6-グルコシド結合の数は、例えば約200個以下、約50個以下、約30個以下、約15個以下、約10個以下などであり得る。当該内分岐環状構造部分のα-1,6-グルコシド結合の数として、より具体的には、1~200、好ましくは5~50、更に好ましくは10~30が挙げられる。
【0095】
高度分岐環状グルカンは、単一の重合度のものを単独で用いてもよく、また、異なる重合度のものを2種以上組み合わせた混合物であってもよい。高度分岐環状グルカンとして、異なる重合度のものを2種以上組み合わせて使用する場合、最大の重合度のものと最小の重合度のものとの重合度の比が約100以下、好ましくは約50以下、更に好ましくは約10以下であることが望ましい。
【0096】
基質として使用される高度分岐環状グルカンは、好ましくは、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50から5×103の範囲にあるグルカンであって、ここで、内分岐環状構造部分とはα-1,4-グルコシド結合とα-1,6-グルコシド結合とで形成される環状構造部分であり、そして外分岐構造部分とは、該内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分である、グルカンが挙げられる。この外分岐構造部分の各単位鎖の重合度は、平均で好ましくは約10以上、更に好ましくは約20以下である。
【0097】
高度分岐環状グルカンは、例えば、江崎グリコ株式会社から「クラスターデキストリン」として市販されており、当該市販品を基質として使用することもできる。
【0098】
基質として使用される高度分岐環状グルカンは、化学修飾が施された高度分岐環状グルカン誘導体であってもよい。高度分岐環状グルカン誘導体としては、例えば、高度分岐環状グルカンのアルコール性水酸基の少なくとも1つが、グリコシル化、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化、リン酸化等によって化学修飾された誘導体が挙げられる。また、高度分岐環状グルカン誘導体は、同一分子内に1種の化学修飾が施されていてもよく、また同一分子内に2種以上の化学修飾が施されていてもよい。
【0099】
3-1-2.酵素
ブランチングエンザイム(BE)
ブランチングエンザイム(系統名:1,4-α-D-グルカン:1,4-α-D-グルカン 6-α-D-(1,4-α-D-グルカノ)-トランスフェラーゼ、EC 2.4.1.18;以下、BEと表記することもある)は、α-1,4-グルコシド結合を切断し、別のグルコース残基の6位OH基に転移することにより、α-1,6-グルコシド結合を形成する酵素である。BEは当該分野において1,4-α-グルカン分枝酵素、枝作り酵素又はQ酵素とも呼ばれている。BEは、動物、植物、糸状菌、酵母および細菌に広く分布しており、グリコーゲン又は澱粉の分岐結合合成を触媒している。
【0100】
本発明の高分子グルカンの製造に使用されるBEは、好ましくは、耐熱性BEである。耐熱性BEとは、ブランチングエンザイム活性測定を、反応温度を変化させて行った場合の反応の至適温度が45℃以上であるBEをいう。
【0101】
ブランチングエンザイム活性(BE活性)とは、アミロースとヨウ素との複合体の660nmにおける吸光度を減少させる活性であり、BEがα-1,4-グルコシド結合を切断し、別のグルコース残基の6位OH基に転移することにより、α-1,6-グルコシド結合を形成し、アミロースの直鎖状部分を減少させる作用に基づいて発揮される。
【0102】
BE活性測定法は当該分野で公知であり、例えば、Takata,H.ら,J.Appl.Glycosci.,2003.50:p.15-20に記載されている。BEのブランチングエンザイム活性は、例えば、以下のようにして測定することができる。先ず、50μLの基質液(0.12%(w/v)アミロース(TypeIII、Sigma Chemical社製))に50μLの酵素液を添加することによって反応を開始する。反応は、そのBEの反応至適温度で行う。10分間BEを作用させた後、1mLの0.4mM塩酸溶液を添加することによって反応を停止する。その後、1mLのヨウ素液を添加し、よく混合した後、660nmの吸光度を測定する。対照液として、酵素液添加前に0.4mM塩酸溶液を添加したものを同時に調製する。基質液は、100μLの1.2%(w/v)アミロースTypeIII溶液(ジメチルスルホキシドに溶解させる)に、200μLの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を添加し、更に700μLの蒸留水を添加してよく混合することにより調製する。但し、緩衝液のpHは、そのBEの反応至適pHに合わせる。ヨウ素液は0.125mLのストック溶液(2.6重量%I2、26重量%KI水溶液)に0.5mLの1規定塩酸を混合し、蒸留水で65mLとすることにより調製する。測定された660nmの吸光度の値に基づいて、以下の計算式に従って酵素液のBE活性が算出される。
【数6】
【0103】
また、このBE活性から、基質1gあたりのBE活性を計算することができる。また、本明細書においては、BEの活性としては、原則としてBE活性を用いる。BE活性の単位は「単位」又は「U」を表す。
【0104】
BEの反応至適温度は、通常は約45℃~約90℃である。ここで、「反応至適温度」とは、前記BE活性測定法において温度のみ変化させて行ったときに、最も活性が高い温度をいう。本発明で使用されるBEの反応至適温度として、好ましくは約45℃以上、更に好ましくは約50℃以上、より好ましくは約55℃以上、特に好ましくは約60℃以上、最も好ましくは約65℃以上が挙げられる。本発明で使用されるBEの反応至適温度の上限については、特に制限されないが、例えば、約90℃以下、約85℃以下、約80℃以下、約75℃以下等が挙げられる。
【0105】
本発明で使用されるBEは、基質に作用させる際の温度においてBE活性を有することが好ましい。基質に作用させる際の温度において「BE活性を有する」とは、そのBEの反応至適温度の代わりに、基質に作用させる際の温度においてBEを作用させること以外は前記BE活性測定法と同じ方法で測定を行った場合にBE活性が検出されることをいう。基質に作用させる際の温度におけるBE活性としては、例えば、約10U/mL以上、好ましくは約20U/mL以上、更に好ましくは約30U/mL以上、特に好ましくは約40U/mL以上、最も好ましくは約50U/mL以上が挙げられる。基質に作用させる際の温度でのBE活性は高いほど好ましく、その上限については、特に制限されないが、例えば、500,000U/mL以下、200,000U/mL以下、100,000U/mL以下、80,000U/mL以下、50,000U/mL以下等が挙げられる。
【0106】
BEは、国際生化学分子生物学連合の定める酵素番号EC 2.4.1.18に分類される酵素であることを限度として特に制限されないが、例えば、Aquifex属、Rhodothermus属、Bacillus属、Thermosynechococcus属に属する細菌由来が挙げられる。本発明で使用されるBEとして、好ましくはAquifex属に属する細菌由来が挙げられる。
【0107】
本発明で使用されるBEの由来細菌としては、具体的には、Aquifex aeolicus、Aquifex pyrophilus、Rhodothermus obamensis、Rhodothermus marinus、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticus、Bacillus flavothermus、Bacillus acidocaldarius、Bacillus caldotenax、Bacillus smithii、Thermosynechococcus elongatus、Escherichia coli等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはAquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticus、Escherichia coli、更に好ましくはAquifex aeolicus、Rhodothermus obamensisが挙げられる。なお、最近では、好熱性のBacillus属細菌は、Geobacillus属細菌と記載されることも多い。例えば、Bacillus stearothermophilusは、Geobacillus stearothermophilusと同一の細菌を指す。
【0108】
本明細書において、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を宿主に導入して、その宿主を培養して酵素を得た場合であっても、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0109】
本発明で使用されるBEは、野生型のBEのアミノ酸配列に対して、1又は2以上のアミノ酸残基が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されてなる改変型のBEであってもよい。例えば、WO2000/058445号公報には、Rhodothermus obamensis由来BEの改変体が記載されている。改変型のBEは、改変を導入する前のBEと同等以上のBE活性を有することが好ましい。改変型のBEに導入されるアミノ酸残基の改変は、アミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置で行われていてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で行われていてもよい。また、アミノ酸残基の改変は、1残基ずつ点在していてもよく、数残基連続していてもよい。
【0110】
BEは、それを産生する細菌を培養することにより得ることができる。また、BEのアミノ酸配列及び塩基配列は公知であるので、BEは遺伝子工学的手法を用いて製造することもできる。例えば、Aquifex aeolicus VF5由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、Takata,H.ら,J.Appl.Glycosci.,2003.50:p.15-20、及びvan der Maarel, M. J. E. C.ら、Biocatalysis and Biotransformation、2003、21巻、p199-207に記載されている。また、Rhodothermus obamensis JCM9785由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、Shinohara,M.L.ら,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2001.57(5-6):p.653-9及び特表2002-539822号公報に記載されている。更に、本発明では、市販品のBEを使用してもよい。
【0111】
4-α-グルカノトランスフェラーゼ
4-α-グルカノトランスフェラーゼは、供与体分子の非還元末端からグルコシル基又は2個以上のグルコースからなるユニットを受容体分子の非還元末端に転移する酵素である。本発明で用いられる4-α-グルカノトランスフェラーゼは、国際生化学分子生物学連合の定める酵素番号EC 2.4.1.25に分類される酵素、及び/又は酵素番号EC 2.4.1.19に分類される酵素を利用し得る。酵素番号EC 2.4.1.25に分類される酵素(以下、MalQと表記することもある)は、アミロマルターゼ、ディスプロポーショネーティングエンザイム、D-酵素、不均化酵素などとも呼ばれる酵素である。微生物由来のMalQはアミロマルターゼと呼ばれ、植物由来のMalQはD-酵素と呼ばれている。酵素番号EC 2.4.1.19に分類される酵素(以下、CGTaseと表記することもある)は、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼと呼ばれており、供与体分子の非還元末端の6~8個のグルコース鎖を認識してこの部分を環状化させるように転移反応を行い、重合度6~8個のシクロデキストリンと非環状リミットデキストリンとを生成し得る酵素である。
【0112】
4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてMalQを使用する場合、アミロマルターゼであってもよく、またD-酵素であってもよい。また、本発明では、MalQとして、Glycogen Debranching Enzymeという、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性とアミロ-1,6-グルコシダーゼ活性を併せ持つ酵素(EC 3.2.1.33+EC 2.4.1.25)を使用してもよい。
【0113】
4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてMalQを使用する場合、微生物由来又は植物由来のいずれのMalQを使用してもよい。MalQの由来微生物としては、例えば、Aquifex aeolicus、Streptococcus pneumoniae、Clostridium butylicum、Deinococcus radiodurans、Haemophilus influenzae、Mycobacterium tuberculosis、Thermococcus litralis、Thermotoga maritima、Thermotoga neapolitana、Chlamydia psittaci、Pyrococcus sp.、Dictyoglomus thermophilum、Borrelia burgdorferi、Synechosystis sp.、Escherichia coli、Saccharomyces cerevisiae、Thermus aquaticus、Thermus thermophilus等が挙げられる。また、MalQの由来植物としては、例えば、馬鈴薯、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバ等の芋類;トウモロコシ、イネ、コムギ、などの穀類、えんどう豆、大豆等の豆類等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはThermus aquaticusが挙げられる。
【0114】
4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてCGTaseを使用する場合、例えば、Bacillus stearothrmophilus、Bacillus macerans、Alkalophilic Bacillus sp.A2-5a(FERM P-13864)等の微生物由来のものを使用することができる。
【0115】
4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性測定は、以下の方法従って行われる。MalQの場合は、10w/v%マルトトリオース、50mM酢酸ナトリウム緩衝液、酵素を含む反応液120μlを70℃で10分間インキュベートし、その後、100℃で10分間加熱して反応を停止する。グルコースオキシダーゼ法により反応液中のグルコース量を測定する。MalQの単位量は、1分間に1μmolグルコースを生成する4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を1単位(U又はUnit)とする。CGTaseの場合は、ブルーバリュー法により測定する。具体的には、1.2w/v%可溶性澱粉、50mM酢酸バッファー、酵素を含む反応溶液250μlを40℃で10分間インキュベートし、その後、反応停止液(0.5N酢酸:0.5N塩酸=5:1)500μlを加えて撹拌し反応を停止する。反応液のうち100μlに5mlのI2溶液を加え660nm吸光度(A660)測定する。CGTaseの単位量は、1分間にA660を10%低下させる4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を1単位(U又はUnit)とする。なお、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性の測定において、4-α-グルカノトランスフェラーゼの性質に応じて、測定時の反応温度、反応pH等を適宜調整し得る。
【0116】
4-α-グルカノトランスフェラーゼの反応至適温度は、通常は約45℃~約90℃である。ここで、「反応至適温度」とは、前記4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性測定法において温度のみ変化させて行ったときに、最も活性が高い温度をいう。本発明で使用される4-α-グルカノトランスフェラーゼの反応至適温度として、好ましくは約45℃以上、更に好ましくは約50℃以上、より好ましくは約55℃以上、特に好ましくは約60℃以上、最も好ましくは約65℃以上が挙げられる。本発明で使用される4-α-グルカノトランスフェラーゼの反応至適温度の上限については、特に制限されないが、例えば、約90℃以下、約85℃以下、約80℃以下、約75℃以下等が挙げられる。
【0117】
本発明で使用される4-α-グルカノトランスフェラーゼは、基質に作用させる際の温度において4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有することが好ましい。基質に作用させる際の温度において「4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有する」とは、70℃で10分間のインキュベーションの代わりに、基質に作用させる際の温度において10分間のインキュベーションすること以外は上記の4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性測定法と同じ方法で測定を行った場合に4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性が検出されることをいう。基質に作用させる際の温度における4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性としては、例えば、約1U/mL以上、好ましくは約2U/mL以上、更に好ましくは約5U/mL以上、特に好ましくは約10U/mL以上、最も好ましくは約20U/mL以上が挙げられる。基質に作用させる際の温度での4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性は高いほど好ましく、その上限については、特に制限されないが、例えば、約5,000U/mL以下、約2,000U/mL以下、約1,000U/mL以下、約500U/mL以下、約250U/mL以下等が挙げられる。
【0118】
本発明で使用される4-α-グルカノトランスフェラーゼは、野生型の4-α-グルカノトランスフェラーゼのアミノ酸配列に対して、1又は2以上のアミノ酸残基が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されてなる改変型の酵素であってもよい。改変型の4-α-グルカノトランスフェラーゼは、改変を導入する前の4-α-グルカノトランスフェラーゼと同等以上の4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有することが好ましい。改変型の4-α-グルカノトランスフェラーゼに導入されるアミノ酸残基の改変は、アミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置で行われていてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で行われていてもよい。また、アミノ酸残基の改変は、1残基ずつ点在していてもよく、数残基連続していてもよい。
【0119】
4-α-グルカノトランスフェラーゼは、それを産生する微生物や植物から単離することにより得ることができる。また、4-α-グルカノトランスフェラーゼのアミノ酸配列及び塩基配列は公知であるので、4-α-グルカノトランスフェラーゼは遺伝子工学的手法を用いて製造することもできる。
【0120】
更に、本発明では、市販品の4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用してもよい。例えば、CGTaseの場合であれば、Bacillus stearothrmophilus由来のCGTase(例えば、株式会社林原生物化学研究所、岡山)、Bacillus macerans由来のCGTase(例えば、商品名:コンチザイム、天野エンザイム株式会社、名古屋)等の市販品があり、本発明では、これらの市販のCGTaseを使用することもできる。
【0121】
3-1-3.酵素反応
第1法では、基質となる分岐状グルカンに対して、BEを100~4,000U/g基質と、4-α-グルカノトランスフェラーゼとを、同時に又は任意の順で段階的に反応させ、本発明の高分子グルカンが生成している時点で反応を停止させる。
【0122】
第1法における酵素反応を行うに当たり、先ず、基質液を調製する。基質として固体の澱粉を使用する場合、澱粉を加熱により糊化し、又は澱粉の糊化の前にBEを添加し、その後、澱粉及びBEを含む混合液の温度を上昇させることで澱粉を糊化させたものを基質液として利用することができる。また、例えばα-アミラーゼを利用するような一般的な液化工程により得られた澱粉液化液を基質液として利用してもよい。その後、酵素反応に適切な温度まで澱粉液化液(基質液)の温度を下げてから、BE及び4-α-グルカノトランスフェラーゼを用いた酵素反応に供することが好ましい。
【0123】
澱粉の糊化開始温度は、アミログラフによって測定することができる。糊化開始温度の測定方法については、「澱粉科学の事典」(不破ら編集、株式会社朝倉書店、2003年)の194頁~197頁に記載される。
【0124】
第1法における酵素反応には、酵素として、所定濃度のBEと、4-α-グルカノトランスフェラーゼとを使用する。4-α-グルカノトランスフェラーゼは、MalQ又はCGTaseのいずれか一方のみを使用してもよく、これらの双方を使用してもよい。
【0125】
第1法における酵素反応における酵素の添加タイミングとしては、具体的には、下記態様1~5が挙げられる。
態様1:BE及び4-α-グルカノトランスフェラーゼの双方を同時に添加して反応させる。
態様2:最初に4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点でBEを添加して反応させる。
態様3:最初にBEのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点で4-α-グルカノトランスフェラーゼを添加して反応させる。
態様4:最初に4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点で一度酵素を失活させ、次いでBEを添加して反応させる。
態様5:最初にBEのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点で一度酵素を失活させ、次いで4-α-グルカノトランスフェラーゼを添加して反応させる。
【0126】
前記態様1~5において、反応がある程度進んだ段階で、必要に応じて、BE及び4-α-グルカノトランスフェラーゼのうちの少なくとも1つを更に追加添加してもよい。
【0127】
前記態様1のように、基質に、所定濃度のBEと、4-α-グルカノトランスフェラーゼとを同時に作用させると、クラスターへの分断とグルカン鎖の転移とが同時に行われると考えられる。基質にBEと4-α-グルカノトランスフェラーゼを同時反応させると、4-α-グルカノトランスフェラーゼの不均化反応により、BEの反応場が形成されることで、分岐状部分のグルカン鎖の転移が行われ、分岐反応が相乗的に触媒されることが期待できる。
【0128】
また、前記態様2及び4のように、基質に先ず4-α-グルカノトランスフェラーゼを作用させると、分岐状グルカンが分子量約3万~50万程度のクラスターに分断されると共に、不均化反応により、長鎖長の糖鎖と単鎖長の糖鎖が形成されると考えられる。その後、所定濃度のBEを作用させることにより、分岐状部分のグルカン鎖の転移が行われ、得られる高分子グルカンの分岐頻度が高まると考えられる。
【0129】
また、前記態様3及び5のように、基質に先ず所定濃度のBEを作用させると、クラスターへの分断と分岐状部分のグルカン鎖の転移が行われると考えられる。その後、4-α-グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、不均化反応により短鎖長及び長鎖長が増大すると考えられる。
【0130】
反応開始時の基質濃度については、使用する基質の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、約50g/l以上、好ましくは約100g/l以上、更に好ましくは約150g/l以上が挙げられる。また、反応開始時の基質濃度の上限としては、溶液の粘度が著しく高くならない範囲で適宜設定すればよいが、例えば、約300g/l以下、好ましくは約250g/l以下、更に好ましくは約200g/l以下が挙げられる。反応開始時の基質濃度として、より具体的には、50~300g/l、好ましくは100~250g/l、更に好ましくは150~200g/lが挙げられる。
【0131】
また、BEの添加量については、100~4,000U/g基質に設定する。100U/g基質より少ないBEの量では、反応が進まず、BEの作用によってもとの基質と大きな構造上の差が生じ難くなり、4-α-グルカノトランスフェラーゼとの相乗効果によって本発明の高分子グルカンとは異なるが近い構造が得られるものの、その消化性はやや早く、目的の緩やかな初期消化性は得られ難くなる。また、4,000U/g基質より多いBEの量では、4-α-グルカノトランスフェラーゼとの相乗効果によって、短鎖長の糖鎖の量や分岐頻度が大きくなって、難消化性成分が増大するため、本発明の高分子グルカンは得られなくなる。より効率的に本発明の高分子グルカンを製造するという観点から、BEの添加量として、好ましくは150~3,000U/g基質、更に好ましくは200~2,000U/g基質が挙げられる。
【0132】
また、4-α-グルカノトランスフェラーゼの添加量については、使用する4-α-グルカノトランスフェラーゼの種類、反応時間、反応温度等を勘案して適宜設定すればよい。
【0133】
例えば、4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてMalQを単独で使用する場合であれば、反応開始時の溶液中の基質に対して、代表的には0.25U/g基質以上、好ましくは0.3U/g基質以上、より好ましくは0.5U/g基質以上が挙げられる。また、MalQを単独で使用する場合、その添加量の上限としては、本発明の高分子グルカンが合成される範囲で適宜設定すればよいが、代表的には約50U/g基質以下、好ましくは10U/g基質以下、更に好ましくは約1U/g基質以下が挙げられる。MalQを単独で使用する場合、その添加量として、より具体的には、0.25~50U/g基質、好ましくは0.3~10U/g基質、更に好ましくは0.5~1U/g基質が挙げられる。0.1U/g基質より少ないMalQの量では、十分な不均化反応が得られず、BEとの相乗効果による本発明の高分子グルカンが得られ難くなる。また、50U/g基質より多いMalQの量では、過剰な不均化反応によって、本発明の高分子グルカンが得られ難くなり、更に高分子の生成物の沈殿が生じたりする。
【0134】
また、例えば、4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてCGTaseを単独で使用する場合であれば、反応開始時の溶液中の基質に対して、代表的には10U/g基質以上、好ましくは25U/g基質以上、更に好ましくは50U/g基質以上が挙げられる。また、CGTaseを単独で使用する場合、その添加量の上限としては、本発明の高分子グルカンが合成される範囲で適宜設定すればよいが、代表的には500U/g基質以下、好ましくは250U/g基質以下、更に好ましくは100U/g基質以下が挙げられる。CGTaseを単独で使用する場合、その添加量として、より具体的には、10~500U/g基質、好ましくは25~250U/g基質、更に好ましくは50~100U/g基質が挙げられる。10U/g基質より少ないCGTaseの量では、十分な不均化反応が得られず、BEとの相乗効果による本発明の高分子グルカンが得られ難くなる。また、500U/g基質より多い4-α-グルカノトランスフェラーゼの量では、多量のシクロデキストリンの生成や、過剰な不均化反応によって、本発明の高分子グルカンが得られ難くなり、更に高分子の生成物の沈殿が生じたりする。
【0135】
また、例えば、4-α-グルカノトランスフェラーゼとしてMalQとCGTaseを併用する場合であれば、それぞれを単独で使用する場合よりも、各酵素の使用量を減らすことができる。具体的には、MalQとCGTaseを併用する場合の各酵素の添加量として、以下に示すMalQの%酵素量XとCGTaseの%酵素量Yの合計値(X+Y)が、100以上、好ましくは100~5000、更に好ましくは100~1000、特に好ましくは100~500が挙げられる。
【数7】
【0136】
即ち、例えば、MalQの使用量が0.2U/g基質であり、且つCGTaseの使用量が5U/g基質である場合、MalQの%酵素量Xは80、CGTaseの%酵素量Yは50になり、前記合計値(X+Y)は130になる。
【0137】
酵素反応が行われる溶液(反応液)には、酵素反応を阻害しないことを限度として、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤が含まれていてもよい。反応液のpHは、使用する酵素が活性を発揮し得るpHになるように適宜設定すればよいが、使用する酵素のいずれかの至適pH付近であることが好ましい。前記態様2~5のように、BEと4-α-グルカノトランスフェラーゼを段階的に作用させる場合は、BEを作用させる段階ではBEに適切なpHに、4-α-グルカノトランスフェラーゼを作用させる段階では4-α-グルカノトランスフェラーゼに適切なpHに調整してもよい。反応液のpHとしては、代表的には約2以上、好ましくは約3以上、更に好ましくは約4以上、より好ましくは約5以上、特に好ましくは約6以上、最も好ましくは約7以上が挙げられる。反応液のpHの上限についても、使用する酵素の特性に応じて設定すればよいが、代表的には約13以下、好ましくは約12以下、更に好ましくは約11以下であり、より好ましくは約10以下、特に好ましくは約9以下、最も好ましくは約8以下が挙げられる。反応液のpHとして、より具体的には、使用する酵素の至適pHの±3以内、好ましくは至適pHの±2以内、更に好ましくは至適pHの±1以内、特に好ましくは至適pHの±0.5以内が挙げられる。
【0138】
酵素反応を行う際の反応温度については、各酵素が所望の活性を発揮できる範囲で適宜設定すればよいが、例えば、約30℃以上、好ましくは約40℃以上、更に好ましくは約50℃以上、より好ましくは約55℃以上、特に好ましくは約60℃以上であり、最も好ましくは約65℃以上が挙げられる。反応温度の上限値については、各酵素が失活しない範囲で適宜設定すればよいが、例えば、約150℃以下、約140℃以下、約130℃以下、約120℃以下、約110℃以下、約100℃以下等であればよいが、好ましくは約90℃以下、更に好ましくは約85℃以下、より好ましくは約80℃以下、特に好ましくは約75℃以下であり、最も好ましくは約70℃以下が挙げられる。反応温度として、より具体的には、約30~約150℃、好ましくは約40~約90℃、更に好ましくは約50~約85℃、より好ましくは約55~約80℃、特に好ましくは約60~約75℃、最も好ましくは約65~約70℃が挙げられる。反応温度は、公知の加熱手段を使用して調節することができ、反応液全体に均質に熱が伝わるように、攪拌を行いながら加熱することが好ましい。
【0139】
酵素反応の反応時間は、短すぎる場合には本発明の高分子グルカンが生成できない場合があり得る。逆に長すぎる場合には酵素反応は定常状態となり、目的の高分子グルカンが得られる。但し、反応時間が長すぎると、製造コストが増大するため好ましくない。そのため、本発明の高分子グルカンが生成している適切な段階で酵素反応を終了させることが必要になる。酵素反応の反応時間については、使用する基質の種類や量、使用する酵素の種類や量、反応温度、酵素の残存活性、酵素の添加タイミングを考慮して設定すればよい。
【0140】
例えば、前記態様1において、BEと4-α-グルカノトランスフェラーゼを同時に添加して反応させる際の反応時間として、例えば、1時間以上、好ましくは2時間以上、更に好ましくは5時間以上、特に好ましくは10時間以上、最も好ましくは24時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、100時間以下、好ましくは72時間以下、更に好ましくは48時間以下、特に好ましくは36時間以下である。より具体的には、当該反応時間として、1~100時間、好ましくは5~72時間、更に好ましくは10~48時間、特に好ましくは24~36時間が挙げられる。
【0141】
前記態様2において、4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加後BE添加前までの反応時間として、例えば、0.5時間以上、好ましくは0.75時間以上、更に好ましくは1時間以上、特に好ましくは2時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、24時間以下、好ましくは12時間以下、更に好ましくは8時間以下、特に好ましくは4時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、0.5~24時間、好ましくは0.75~12時間、更に好ましくは1~8時間、特に好ましくは2~4時間が挙げられる。
【0142】
また、前記態様2において、BE添加後の反応時間として、例えば、1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上、特に好ましくは24時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、100時間以下、好ましくは72時間以下、更に好ましくは48時間以下、特に好ましくは36時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、1~100時間、好ましくは5~72時間、更に好ましくは10~48時間、特に好ましくは24~36時間が挙げられる。
【0143】
前記態様3において、BE添加後4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加前までの反応時間として、例えば、0.5時間以上、好ましくは0.75時間以上、更に好ましくは1時間以上、特に好ましくは2時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、24時間以下、好ましくは12時間以下、更に好ましくは8時間以下、特に好ましくは4時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、0.5~24時間、好ましくは0.75~12時間、更に好ましくは1~8時間、特に好ましくは2~4時間が挙げられる。
【0144】
また、前記態様3において、4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加後の反応時間として、例えば、1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上、特に好ましくは24時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、100時間以下、好ましくは72時間以下、更に好ましくは48時間以下、特に好ましくは36時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、1~100時間、好ましくは5~72時間、更に好ましくは10~48時間、特に好ましくは24~36時間が挙げられる。
【0145】
前記態様4において、4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加後失活工程前までの反応時間として、例えば、1時間以上、好ましくは4時間以上、更に好ましくは12時間以上、特に好ましくは24時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、72時間以下、好ましくは60時間以下、更に好ましくは48時間以下、特に好ましくは36時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、1~72時間、好ましくは4~60時間、更に好ましくは12~48時間、特に好ましくは24~36時間が挙げられる。
【0146】
また、前記態様4において、BE添加後の反応時間として、例えば、1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上、特に好ましくは24時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、100時間以下、好ましくは72時間以下、更に好ましくは48時間以下、特に好ましくは36時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、1~100時間、好ましくは5~72時間、更に好ましくは10~48時間、特に好ましくは24~36時間が挙げられる。
【0147】
前記態様5において、4-α-グルカノトランスフェラーゼ添加後失活工程前までの反応時間として、例えば、1時間以上、好ましくは4時間以上、更に好ましくは12時間以上、特に好ましくは24時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、72時間以下、好ましくは60時間以下、更に好ましくは48時間以下、特に好ましくは36時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、1~72時間、好ましくは4~60時間、更に好ましくは12~48時間、特に好ましくは24~36時間が挙げられる。
【0148】
また、前記態様5において、BE添加後の反応時間として、例えば、1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上、特に好ましくは24時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、100時間以下、好ましくは72時間以下、更に好ましくは48時間以下、特に好ましくは36時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、1~100時間、好ましくは5~72時間、更に好ましくは10~48時間、特に好ましくは24~36時間が挙げられる。
【0149】
また、前記態様1のようにBEと4-α-グルカノトランスフェラーゼを同時に添加して作用させる方法を採用し、且つ基質として澱粉粒を使用する場合には、澱粉の糊化開始温度以下でBE、4-α-グルカノトランスフェラーゼ、及び澱粉粒を含む混合液を調製し、その温度のまま、又は、その後、澱粉の糊化温度内であり、調製時の温度よりも高い温度であって、BE及び4-α-グルカノトランスフェラーゼが作用し得る温度に混合液の温度を上昇させることにより、酵素反応を進行させる方法(以下、実施態様Aと表記することもある)を採用してもよい。澱粉の糊化開始温度は、使用する澱粉粒を得た植物、その植物の収穫時期、その植物の栽培地等によって異なり得る。一般に、通常のトウモロコシ澱粉の糊化開始温度は約70.7℃であり、ワキシーコーンスターチ(モチトウモロコシ)の糊化開始温度は約67.5℃であり、コメ澱粉の糊化開始温度は約73.5℃であり、馬鈴薯澱粉の糊化開始温度は約62.6℃であり、タピオカ澱粉の糊化開始温度は約68.4℃であり、そして緑豆澱粉の糊化開始温度は約71.0℃である。
【0150】
実施態様Aにおいて、澱粉粒の糊化開始温度以下でBE、4-α-グルカノトランスフェラーゼ、及び澱粉粒を含む混合液を調製する際の調製温度としては、使用する澱粉粒に応じて適宜設定すればよいが、例えば、約0℃以上、好ましくは約10℃以上、更に好ましくは約15℃以上、特に好ましくは約20℃以上、最も好ましくは約25℃以上が挙げられる。また当該調製温度の上限については、澱粉粒の糊化開始温度以下であることを限度として特に制限されないが、例えば、約67.5℃以下、好ましくは約60℃以下、更に好ましくは約50℃以下、特に好ましくは約40℃以下、最も好ましくは約35℃以下である。当該調製温度として、具体的には、約0~約67.5℃、好ましくは約10~約60℃、更に好ましくは約15~約50℃、特に好ましくは約20~約40℃、最も好ましくは約25~約35℃が挙げられる。
【0151】
実施態様Aにおいて、酵素反応を進行させる際の温度(即ち、澱粉の糊化温度内であり、調製時の温度よりも高い温度)としては、使用する酵素の至適温度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、約30℃以上、好ましくは約35℃以上、更に好ましくは約40℃以上、特に好ましくは約45℃以上、最も好ましくは約50℃以上が挙げられる。また、当該温度の上限については、使用する酵素の特性等に応じて適宜設定されるが、例えば、約80℃以下、約75℃以下、約70℃以下、約65℃以下、約60℃以下、約55℃以下、50℃以下等が挙げられる。当該温度として、より具体的には、約30~約80℃、好ましくは約35~約75℃、更に好ましくは約40~約75℃、特に好ましくは約45~約75℃、最も好ましくは約50~約75℃が挙げられる。また、この反応の際の温度は、一定の温度であってもよく、徐々に上昇してもよい。
【0152】
酵素反応は、温水ジャケットと攪拌装置を備えたステンレス製反応タンク等の公知の酵素反応装置を用いて行うことができる。
【0153】
酵素反応によって本発明の高分子グルカンを生成させた後に、反応液は、必要に応じて、例えば100℃程度で60分間程度加熱することによって反応溶液中の酵素を失活させてもよい。また、酵素を失活させる処理を行うことなく、そのまま保存されてもよいし、本発明の高分子グルカンの精製工程に供してもよい。
【0154】
3-1-4.精製工程
前記酵素反応によって得られた本発明の高分子グルカンは、必要に応じて精製工程の供される。精製することにより除去される不純物の例は、BE、4-α-グルカノトランスフェラーゼ、副生し得る低分子量グルカン、無機塩類等である。
【0155】
本発明の高分子グルカンの精製方法としては、例えば、有機溶媒を用いて沈殿させる方法(T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942))が挙げられる。有機溶媒を用いる精製に使用され得る有機溶媒の例としては、アセトン、n-アミルアルコール、ペンタゾール、n-プロピルアルコール、n-ヘキシルアルコール、2-エチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール、n-ブチルアルコール、3-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、d,l-ボルネオール、α-テルピネオール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、2-メチル-1-ブタノール、イソアミルアルコール、tert-アミルアルコール、メントール、メタノール、エタノール、エーテル等が挙げられる。
【0156】
また、発明の高分子グルカンの精製は、水に溶解している高分子グルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画やクロマトグラフィー等の分離処理に供して、BE、4-α-グルカノトランスフェラーゼ、副生し得る低分子量グルカン、無機塩類などを除去する方法によって行うこともできる。精製に使用され得る限外濾過膜の例としては、分画分子量約1×103~約1×104、好ましくは約5×103~約5×104、更に好ましくは約1×104~約3×104の限外濾過膜(例えば、ダイセル製UF膜ユニット)が挙げられる。また、クロマトグラフィーに使用され得る担体の例としては、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体および疎水クロマトグラフィー用担体が挙げられる。
【0157】
3-2.第2法
3-2-1.基質
第2法でも、基質として分岐状グルカンを使用する。第2法で使用される基質の種類、好適なもの等については、第1法で使用されるものと同様である。
【0158】
3-2-2.酵素
ブランチングエンザイム(BE)
第2法で使用されるBEの特性、由来等は、第1法で使用されるものと同様である。
【0159】
エキソ型アミラーゼ
β-アミラーゼとは、非還元性末端からα-1,4-グルコシド結合をマルトース単位で順次加水分解するエキソ型アミラーゼである。
【0160】
本発明で使用されるエキソ型アミラーゼは、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼなどのいずれであってもよい。これらのエキソ型アミラーゼの中でも、α-1,6-グルコシド結合を分解する活性を有しないもの又は当該活性が弱いものが好ましく、β-アミラーゼ、α-1,6-グルコシド結合を分解する活性を有していないグルコアミラーゼ、α-1,6-グルコシド結合を分解する活性を有していないα-グルコシダーゼが特に好ましく、β-アミラーゼが最も好ましい。
【0161】
本発明で使用されるエキソ型アミラーゼの由来については、特に制限されず、小麦、大麦、大豆、サツマイモ等の植物由来、細菌由来、カビ由来等のいずれであってもよい。
【0162】
本発明において、β-アミラーゼの酵素量1単位(U又はUnit)は、可溶性澱粉から1分間に1μmolのマルトースを生成する酵素量を指す。また、グルコアミラーゼの酵素量1単位(U又はUnit)は、可溶性澱粉から30分間に10mgのグルコースを生成する酵素量を指す。また、α-グルコシダーゼの酵素量1単位(U又はUnit)は、p-ニトロフェニル-α-D-グルコピラノシドから1分間に1μmolの4-ニトロフェノールを遊離する酵素量を指す。
【0163】
エキソ型アミラーゼの反応至適温度は、由来等に応じて異なるが、例えば甘藷由来β-アミラーゼでは、通常は約60℃~約70℃である。ここで、「反応至適温度」とは、前記エキソ型アミラーゼ活性測定法において温度のみ変化させて行ったときに、最も活性が高い温度をいう。本発明で使用される大豆由来エキソ型アミラーゼの反応至適温度として、好ましくは約30℃以上、更に好ましくは約35℃以上、より好ましくは約37℃以上、特に好ましくは約40℃以上、最も好ましくは約45℃以上が挙げられる。本発明で使用されるエキソ型アミラーゼの反応至適温度の上限については、特に制限されないが、例えば、約65℃以下、約60℃以下、約55℃以下、約50℃以下等が挙げられる。
【0164】
本発明で使用されるエキソ型アミラーゼは、野生型のエキソ型アミラーゼのアミノ酸配列に対して、1又は2以上のアミノ酸残基が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されてなる改変型の酵素であってもよい。改変型のエキソ型アミラーゼは、改変を導入する前のエキソ型アミラーゼと同等以上のエキソ型アミラーゼ活性を有することが好ましい。改変型のエキソ型アミラーゼに導入されるアミノ酸残基の改変は、アミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置で行われていてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で行われていてもよい。また、アミノ酸残基の改変は、1残基ずつ点在していてもよく、数残基連続していてもよい。
【0165】
エキソ型アミラーゼは、それを産生する植物、細菌、カビ等から単離することにより得ることができる。また、エキソ型アミラーゼのアミノ酸配列及び塩基配列は公知であるので、エキソ型アミラーゼは遺伝子工学的手法を用いて製造することもできる。
【0166】
また、エキソ型アミラーゼについては、大豆由来のβ-アミラーゼ(ナガセケムテック製、βアミラーゼ #1500)等の市販品があり、本発明では、これらの市販のβ-アミラーゼを使用することもできる。
【0167】
3-2-3.酵素反応
第2法では、基質となる分岐状グルカンに対して、ブランチングエンザイム100~4,000U/g基質を反応させ、次いでエキソ型アミラーゼを反応させ、本発明の高分子グルカンが生成している時点で反応を停止させる。
【0168】
第2法における酵素反応を行うに当たり、先ず、基質液を調製する。基質液の調製方法については、第1法の場合と同様である。
【0169】
第2法における酵素反応には、酵素として、所定濃度のBEと、エキソ型アミラーゼとを使用する。第2法における酵素反応における酵素の添加タイミングとしては、具体的には、下記態様I及びIIが挙げられる。
態様I:最初にBEのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点でエキソ型アミラーゼを添加して反応させる。
態様II:最初にBEのみを添加し、ある程度反応が進んだ時点で一度酵素を失活させ、次いでエキソ型アミラーゼを添加して反応させる。
【0170】
前記態様I及びIIの中でも、本発明の高分子グルカンをより一層効率的に製造するという観点から、好ましくは前記態様IIが挙げられる。
【0171】
前記態様I及びIIにおいて、反応がある程度進んだ段階で、必要に応じて、BE及びエキソ型アミラーゼのうちの少なくとも1つを更に追加添加してもよい。
【0172】
前記態様I及びIIのように、基質に先ずBEを作用させると、クラスター分断と分岐状部分のグルカン鎖の移行が行われると考えられる。その後、エキソ型アミラーゼを作用させることにより、短鎖長が増大すると考えられる。
【0173】
反応開始時の基質濃度については、使用する基質の種類等に応じて適宜設定すればよく、その具体的範囲については、第1法の場合と同様である。
【0174】
また、BEの添加量については、第1法の場合と同様である。
【0175】
また、エキソ型アミラーゼの添加量については、使用するエキソ型アミラーゼの種類、反応時間、反応温度等を勘案して適宜設定すればよいが、反応開始時の溶液中の基質に対して、代表的には約0.5U/g基質以上、好ましくは約1.0U/g基質以上、更に好ましくは約1.5U/g基質以上が挙げられる。また、エキソ型アミラーゼの添加量の上限としては、本発明の高分子グルカンが合成される範囲で適宜設定すればよいが、代表的には約150U/g基質以下、好ましくは約75U/g基質以下、更に好ましくは約15U/g基質以下が挙げられる。エキソ型アミラーゼの添加量として、より具体的には、約0.5~約150U/g基質、好ましくは約1.0~約75U/g基質、更に好ましくは約1.5~約15U/g基質が挙げられる。約0.5U/g基質より少ないエキソ型アミラーゼの量では、基質を十分に加水分解できず、本発明の高分子グルカンが得られ難くなる。また、約150U/g基質より多いエキソ型アミラーゼの量では、過剰な加水分解反応により、本発明の高分子グルカンが得られ難くなる。
【0176】
酵素反応が行われる溶液(反応液)には、酵素反応を阻害しないことを限度として、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤が含まれていてもよい。反応液のpHは、使用する酵素が活性を発揮し得るpHになるように適宜設定すればよいが、使用する酵素のいずれかの至適pH付近であることが好ましい。第2法において、BEを作用させる段階ではBEに適切なpHに、エキソ型アミラーゼを作用させる段階ではエキソ型アミラーゼに適切なpHに調整してもよい。反応液のpHの具体的範囲については、第1法の場合と同様である。
【0177】
酵素反応を行う際の反応温度については、各酵素が所望の活性を発揮できる範囲で適宜設定すればよい。
【0178】
具体的には、前記態様I及びIIにおけるBE添加後エキソ型アミラーゼ添加前の反応温度については、第1法の場合の反応温度と同様である。
【0179】
また、前記態様I及びIIにおけるエキソ型アミラーゼ添加後の反応温度については、例えば、約25℃以上、更に好ましくは約30℃以上、特に好ましくは約35℃以上が挙げられる。かかる場合の反応温度の上限については、各酵素が失活しない範囲で適宜設定すればよいが、例えば、約40℃以下であり、好ましくは約37℃以下が挙げられる。かかる場合の反応温度として、具体的には、約25~約30℃、好ましくは約30~約37℃、更に好ましくは約35~約37℃が挙げられる。
【0180】
酵素反応の反応時間は、短すぎる場合には本発明の高分子グルカンが生成できず、逆に長すぎる場合には、エキソ型アミラーゼによる加水分解が進行しすぎて本発明の高分子グルカンが得られなくなることがあるので、本発明の高分子グルカンが生成している適切な段階で酵素反応を終了させる必要がある。酵素反応の反応時間については、使用する基質の種類や量、使用する酵素の種類や量、反応温度、酵素の残存活性、酵素の添加タイミングを考慮して設定すればよい。
【0181】
具体的には、BE添加後エキソ型アミラーゼ添加前までの反応時間として、1時間以上、好ましくは10時間以上、更に好ましくは18時間以上、特に好ましくは24時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、100時間以下、好ましくは72時間以下、更に好ましくは48時間以下、特に好ましくは36時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、1~100時間、好ましくは10~72時間、更に好ましくは18~48時間、特に好ましくは24~36時間が挙げられる。
【0182】
また、エキソ型アミラーゼ添加後の反応時間として、0.25時間以上、好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは0.75時間以上、特に好ましくは1時間以上が挙げられる。当該反応時間に特に上限はないが、例えば、2.75時間以下、好ましくは2.25時間以下、更に好ましくは2時間以下、特に好ましくは1.5時間以下が挙げられる。より具体的には、当該反応時間として、0.25~2.75時間、好ましくは0.5~2.25時間、更に好ましくは0.75~2時間、特に好ましくは1~1.5時間が挙げられる。
【0183】
酵素反応は、温水ジャケットと攪拌装置を備えたステンレス製反応タンク等の公知の酵素反応装置を用いて行うことができる。
【0184】
第2法によって本発明の高分子グルカンを生成させた後に、反応液は、必要に応じて、例えば、100℃程度で60分間程度加熱することによって反応溶液中の酵素を失活させてもよい。また、酵素を失活させる処理を行うことなく、そのまま保存されてもよいし、本発明の高分子グルカンの精製工程に供してもよい。
【0185】
3-2-4.精製工程
反応後に生じた本発明の高分子グルカンの精製方法については、第1法の場合と同様である。
【実施例】
【0186】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定して解釈されるものではない。
【0187】
以下、単位鎖長分布の分析結果に関し、表記「DPX-Y」は、重合度Xから重合度Yまでのピーク面積の積算値を示し、例えば、DP1-5とは重合度1から重合度5までのピーク面積の積算値を意味する。また、単位鎖長分布の分析結果に関し、表記「DPX-Y割合」とは、重合度1から重合度50までのピーク面積の積算値に対する重合度Xから重合度Yまでのピーク面積の積算値の割合(%)を示し、例えば、DP1-5割合とは、重合度1から重合度50までのピーク面積の積算値に対する重合度1から重合度5までのピーク面積の積算値の割合(%)を意味する。
【0188】
また、単位鎖長分布の分析結果に関し、「Top peak割合(%)」とは、重合度1から重合度50までのピーク面積の積算値に対する、重合度1から重合度50までのピークの中でピーク面積が最も大きい重合度のピーク面積の割合(%)である。
【0189】
[試験方法]
(1)高分子グルカンの分子量の測定
高分子グルカンの重量平均分子量はGPC-MALS法によって測定した。具体的には、GPC-MALS法は、多角度レーザー光散乱光度計(MALS、ワイアットテクノロジー社製、HELEOS II)と示差屈折計(株式会社島津製作所製、RID-20A)の検出器と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(カラム:昭和電工株式会社製、OHPAK SB-804HQもしくはSB-806M HQ)を組み合わせた分析装置を利用して分子量分析を行った。溶媒には100mM硝酸ナトリウム水溶液を使用した。測定手順は、先ず、高分子グルカンの粉末50mgを10mLの100mM硝酸ナトリウム水溶液に溶解しサンプルの調整をした。サンプルを孔径0.45μmの膜でろ過を行い、得られた濾液のうちの100μLを上記HPLCシステムに注入した。
【0190】
多角度レーザー光散乱高度計は、光を測定試料に照射したときに生じる散乱(レイリー散乱)の光強度を計測する(静的光散乱測定)。光散乱強度は、分子量の大きさに関係し、分子量の大きいものでは干渉作用が強くなり、小さいものでは弱くなるため、絶対分子量として測定することができる。光散乱強度、散乱角度、分子量の基本関係は以下の式で表される。
【数8】
【0191】
示差屈折計は、光の屈折率の差によって試料溶液の濃度を測定するのに用いた。GPCにより分離した試料溶液の濃度と重量平均分子量の測定値から試料溶液全体の平均分子量を算出した。
【0192】
(2)高分子グルカンの分岐頻度の測定
高分子グルカンの分岐頻度はα-1,6-グルコシド結合の数と分子中のグルコース単位総数を測定することにより算出した。α-1,6-グルコシド結合の数は、グルカンの非還元末端当量測定により求めた。具体的には、20mM酢酸バッファー(pH5.5)溶液中で、高分子グルカン0.25w/v%にPseudomonas由来イソアミラーゼ(Megazyme社製)10U/mLを、37℃で18時間作用させた後の還元力を改変パークジョンソン法(Hizukuriら、Starch,Vol.,35,pp.348-350,(1983))にて測定することにより、非還元末端当量を求めた。
【0193】
また、分子中のグルコース単位総数は、全糖量測定により求めた。具体的には、20mM酢酸バッファー(pH5.5)溶液中で、高分子グルカン0.25w/v%に対して、Pseudomonas由来イソアミラーゼ(Megazyme社製)10U/mL、細菌由来α‐アミラーゼ(ナガセ)20U/mL、及びRhizopus由来グルコアミラーゼ(TOYOBO製)10U/mLを、37℃で18時間作用させてグルコースまで完全分解し、グルコース量をグルコースオキシダーゼ法(和光純薬社製、グルコース CII-テストワコー)にて測定することにより求めた。
【0194】
求めたα-1,6-グルコシド結合の数と分子中のグルコース単位総数から、前記式に従って分岐頻度を算出した。
【0195】
(3)単位鎖長分布の測定
高分子グルカンの分子内の直線状α‐1,4‐グルカン(単位鎖長)を、長さ(重合度)によって分離し、各重合度の単位鎖長の濃度分布を分析した。具体的には、先ず、20mM酢酸バッファー(pH5.5)溶液中で、高分子グルカン0.25w/v%に、Pseudomonas由来イソアミラーゼ(Megazyme社製)10U/mLを37℃で18時間作用させて、高分子グルカンのα‐1,6-グルコシル結合を完全に消化させた。次いで、イソアミラーゼによる消化産物を、HPAEC-PAD法によって単位鎖長分布の分析を行った。
【0196】
HPAEC-PAD法は、Dionex社製HPAEC-PAD装置(送液システム:DX300、検出器:PAD-2、カラム:Carbo Pac PA100)を使用して行った。溶出は、流速:1mL/分、NaOH濃度:150mM、酢酸ナトリウム濃度:0分-50mM、2分-50mM、27分-350mM(Gradient curve No.4)、52分-850mM(Gradient curve No.8)、54分-850mMの条件で行った。Gradient curve No.4及びNo.8のプログラムは、Dionex ICS-3000システムに予め組み込まれているプログラムである。
【0197】
得られた単位鎖長分布の解析は以下のように行った。高分子グルカン分子における各重合度の単位鎖長の割合は、重合度1から重合度50までのピーク面積値を合計した値を100%として換算した。横軸に重合度、縦軸に単位鎖長の割合をプロファイルすることで高分子グルカンの構造的特徴を単位鎖長の点から比較した。なお、殆どの高分子グルカン分子において重合度50超のピークは検出されず、重合度50超のピークが検出された高分子グルカン分子であっても、当該ピークは検出限界程度の僅かなものに過ぎなかった。
【0198】
また、得られた単位鎖長分布に基づいて、前記「20%-60%累計プロットの傾き」につても算出した。
【0199】
(4)メチル化法による高分子グルカンの末端構造の分析
高分子グルカンの末端構造をメチル化法により分析した。メチル化法は箱守のThe Journal of Biochemistry,1964, 55(2),p205-208に記載されている手法に従って行った。高分子グルカン1mgを試験管にとり、1gのジメチルスルフォキシド(DMSO)に20mgの水酸化ナトリウムを加えて調製した溶液を500μL加え、さらにヨウ化メチルを200μL加えて、室温で15分攪拌しメチル化した。水とクロロホルムを加えて液液抽出を3回行い、クロロホルム相をエバポレーターで溶媒除去した。メチル化された高分子グルカンに2Mトリフルオロ酢酸500μL加えて、90℃で1時間攪拌して加水分解した。その後、トルエンを200μL加えてエバポレーターで溶媒除去した。加水分解後、250mM水素化ホウ酸ナトリウム水溶液を500μL加えて、室温で一晩攪拌し還元した。更に、酢酸を泡が出なくなるまで加え、トルエンを200μL加えてエバポレーターで溶媒除去した。最後に、ピリジン200μLと無水酢酸200μLを加え、90℃で20分攪拌してアセチル化を行った。反応後、トルエンを200μL加えてエバポレーターで溶媒除去し、水とクロロホルムを加えて液液抽出を3回行い、クロロホルム相を回収して、エバポレーターで溶媒除去し、部分メチル化糖を合成した。
【0200】
部分メチル化糖の分析はガスクロマトグラフィー質量分析法によって行った。分析はGC-MS-QP2010Plus(島津社製)、カラムはDB-225(J&W Scientific社製)を用いて行った。分析条件は、キャリアガス;ヘリウム、カラム温度;170℃→210℃(昇温速度3℃/min)、気化室温度;230℃、検出器温度;230℃とした。試料はクロロホルムに溶解して調製した。
【0201】
(5)酵素法による高分子グルカンの結合様式の分析
高分子グルカンの結合様式を酵素法により分析した。イソアミラーゼはα-1,6-グルコシド結合を加水分解し、α-アミラーゼおよびβ-アミラーゼはα-1,4-グルコシド結合を加水分解する。また、イソアミラーゼは非還元末端部分のα-1,6-グルコシド結合を加水分解することができない。この3種類の酵素を作用させることでα-1,4-グルコシド結合およびα-1,6-グルコシド結合以外のグルコシド結合の有無及び、非還元末端部分の分岐の有無を確認した。
【0202】
具体的には、先ず、20mM酢酸バッファー(pH5.5)溶液中で、高分子グルカン0.25w/v%に対して、Pseudomonas由来イソアミラーゼ(Megazyme社製)10U/mLを、37℃で18時間作用させ、その後、細菌由来α-アミラーゼ(ナガセケムテック製)20U/mL、及び大豆由来β-アミラーゼ(ナガセケムテック製)30U/mLを37℃で18時間作用させた。得られた酵素分解物について、前記「(3)単位鎖長分布の測定」の欄に示す、HPAEC-PAD法と同条件で分析を行った。
【0203】
(6)in vitro 消化性試験
本試験では、消化速度試験として、生体内における糖質の消化性をin vitroにて模擬的に評価する加水分解試験を採用した。本試験方法は、Englystら(European Journal of Clinical Nutrition、1992、46S33~S50)の方法を基に改変した方法で、糖質に消化酵素(ブタ膵臓由来α-アミラーゼおよびラット小腸粘膜酵素)を作用させ、分解によって放出されるグルコース量を経時的に測定する方法である。消化酵素と試験物質は以下のように調製した。Sigma社製のブタ膵臓由来α-アミラーゼを50mM酢酸バッファー(pH5.5)で懸濁し、活性250U/mLの酵素溶液に調製した。また、Sigma社製のラット小腸アセトンパウダー150mgを50mM酢酸バッファー(pH5.5)3mLに懸濁し、遠心した上清をラット小腸アセトンパウダー抽出液として得た。この抽出液をラット小腸粘膜酵素液として使用した。測定対象となる高分子グルカンは蒸留水で5w/v%に調整し、100℃、5分加熱して完全溶解させた。50mg/mLのラット小腸アセトンパウダーに含まれるα-グルコシダーゼの活性は0.3U/mLであった。
【0204】
本試験は、具体的には以下の手順で行った。5w/v%の高分子グルカン又は同濃度の他のサンプルの水溶液100μL、1M酢酸バッファー(pH5.5)20μL、蒸留水716μLを混合し、更に各酵素溶液(α-アミラーゼ4μL(1U/mL)、及びラット小腸粘膜酵素液160μL(α‐グルコシダーゼ;0.05U/mL))を添加して反応を開始した。反応温度は37℃に設定し、反応開始後0分、10分、20分、30分、60分、90分、及び120分に反応溶液100μLを取り、100℃、5分処理して反応を停止した。これらの反応停止溶液のグルコース濃度を和光純薬工業社製のグルコースCIIテストワコーを用いて定量した。
【0205】
得られた消化速度試験の結果から、Butterworth らのLogarithm of the slope (LOS) plot法(Carbohydrate Polymers 87 (2012) 2189-2197)を使用して、前述する算出式を使用して、反応開始から30分までの反応において認められる初期分解速度係数kを求めた。
【0206】
また、得られた消化速度試験の結果から、前述する算出式を使用して、高分子グルカン又は他のサンプルに含まれる易消化性画分、緩消化性画分、及び難消化性画分の割合(%)を求めた。
【0207】
(7)経口摂取時の血糖値およびインスリン値の変化の測定
10時間以上絶食(水以外)した健常な成人を対象にクロスオーバー・オープン試験を実施した。被験サンプルである高分子グルカン又は対照糖質のグルコースを50g経口摂取させ、摂取前空腹時と糖質摂取後10分、20分、30分、45分、60分、75分、90分、及び120分の血糖値及び血中インスリン値を測定した。
【0208】
[酵素の準備]
(1)Aquifex aeolicus由来BEの製造
特開2008-95117の製造例1に記載された組換えプラスミドpAQBE1を保持する大腸菌TG-1株を用いて、同特許文献に示された方法に従って、Aquifex aeolicus由来BE(AqBE)を含む酵素液(AqBE酵素液)を得た。
【0209】
(2)Thermus aquaticus由来アミロマルターゼの製造
Teradaら(Applied and Enviromental Microbiology、65巻、910-915(1999))に記載されたプラスミドpFGQ8を保持する大腸菌MC1061株を用いて、同文献に示された方法に従って、Thermus aquaticus由来アミロマルターゼ(TaqMalQ)を含む酵素液(TaqMalQ酵素液)を得た。
【0210】
(3)CGTase及びβ-グルコシダーゼ
CGTase(コンチザイム、天野エンザイム株式会社)及びβ-アミラーゼ(ナガセケムテック社製、#1500)を購入し、CGTase酵素液及びβ-アミラーゼ酵素液を準備した。
【0211】
[実施例1:ワキシーコーンスターチ、AqBE、及びTaqMalQを用いた高分子グルカンの製造]
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た。使用したワキシーコーンスターチの分岐頻度は6.5%であり、平均重合度は約1×105であり、重量平均分子量は約2×107であった。次いで、約70℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を200U/g基質(実施例1-1)、300U/g基質(実施例1-2)、700U/g基質(実施例1-3)、1000U/g基質(実施例1-4)、2000U/g基質(実施例1-5)となるように添加し、同時にTaqMalQ酵素液を0.5U/g基質となるように添加して70℃で24時間反応させた。また、約70℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を200U/g基質及びTaqMalQ酵素液を0.25U/g基質となるよう同時に添加して70℃で24時間反応させた(実施例1-6)。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液を凍結乾燥し、粉末状の高分子グルカンを得た。
【0212】
高分子グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた高分子グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表1に示し、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表2に示す。また、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図2に示す。実施例1-1~1-6の高分子グルカンの単位鎖長分布は、いずれも、重合度5~15程度の短鎖長側と重合度25以上の長鎖長側の両方に高い濃度を示すピークがあり、且つ突出したピークがなく全体的になだらかな分布を示し、従来の分岐状グルカンとは、異なる構造を有していることが確認された。
【0213】
また、実施例1-3及び1-6の高分子グルカンについて、メチル化法による末端構造の分析を行ったところ、末端分岐構造に由来する部分メチル化糖が検出されなかった。即ち、実施例1-3及び1-6の高分子グルカンは、末端分岐構造を有していないことが明らかとなった。また、比較のために、非還元末端にα-1,6分岐の構造を持つことが分かっている高分岐デキストリンHBD-20(松谷化学工業株式会社製)についても、メチル化法による末端構造の分析を行ったところ、末端分岐構造に由来する部分メチル化糖が検出された。
【0214】
更に、実施例1-3及び1-6の高分子グルカンについて、酵素法による結合様式の分析を行って得られた生成物の分析結果を
図3に示す。
図3から分かるように、実施例1-3及び1-6の高分子グルカンの酵素分解物のピークはグルコース及びマルトースのみであった。この結果から、これら高分子グルカンはα-1,4-グルコシド結合及びα-1,6-グルコシド結合のみを結合様式に持ち、α-1,6-グルコシド結合は糖鎖の非還元末端にはないことが明らかとなった。
【0215】
【0216】
【0217】
[比較例1:AqBEのみを用いた分岐状グルカンの製造]
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た(比較例1-1)。使用したワキシーコーンスターチの分岐頻度は6.5%であり、平均重合度は約1×105であり、重量平均分子量は約2×107であった。約70℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を50U/g基質(比較例1-2)、100U/g基質(比較例1-3)、200U/g基質(比較例1-4)、500U/g基質(比較例1-5)、700U/g基質(比較例1-6)、5000U/g基質(比較例1-7)、又は10000U/g基質(比較例1-8)となるように添加して70℃で24時間反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液を凍結乾燥し、粉末状の分岐状グルカンを得た。
【0218】
高分子グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた分岐状グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表3に示し、得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表4に示す。また、得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図4に示す。比較例1-1~1-8の分岐状グルカンの単位鎖長分布は、いずれも、重合度11~16程度の領域に高い濃度で局在化しており、前記特性(i)~(iii)を満たすものではなかった。
【0219】
【0220】
【0221】
[比較例2:ワキシーコーンスターチ、少量又は過剰のAqBE及びTaqMalQを用いた分岐状グルカンの製造]
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た。使用したワキシーコーンスターチの分岐頻度は6.5%であり、平均重合度は約1×105であり、重量平均分子量は約2×107であった。約70℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を50U/g基質(比較例2-1)、又は5000U/g基質(比較例2-2)となるように添加し、同時にTaqMalQ酵素液を0.5U/g基質となるように添加して70℃で24時間反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液を凍結乾燥し、粉末状の分岐状グルカンを得た。
【0222】
分岐状グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた分岐状グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表5に示し、得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表6に示す。また、得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図5に示す。比較例2-1及び2-2の分岐状グルカンの単位鎖長分布は、いずれも、前記特性(i)~(iii)を満たすものではなかった。
【0223】
【0224】
【0225】
[比較例3:酵素合成分岐グルカンの分析]
特開2008-95117号公報に記載の手法に従って合成された酵素合成分岐グルカンについて、重量平均分子量、分岐頻度、還元糖量、及び単位鎖長分布の測定を行った。
【0226】
酵素合成分岐グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表7に示し、酵素合成分岐グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表8に示す。また、酵素合成分岐グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図6に示す。比較例3の酵素合成分岐グルカンの単位鎖長分布は、いずれも、重合度11~16程度の領域に高い濃度で局在化しており、前記特性(i)~(iii)を満たすものではなかった。
【0227】
【0228】
【0229】
[比較例4:天然グリコーゲンの分析]
牛肝臓由来のグリコーゲン(Sigam社製)及び牡蠣由来のグリコーゲン(MB Biomedicals社製)について、重量平均分子量、分岐頻度、還元糖量、及び単位鎖長分布の測定を行った。
【0230】
各天然グリコーゲンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表9に示し、各天然グリコーゲンの単位鎖長分布の分析結果を表10に示す。また、各天然グリコーゲンの単位鎖長分布のグラフを
図7に示す。比較例4-1及び4-2の天然コラーゲンは、重合度11~16程度の領域に高い濃度で局在化しており、前記特性(i)~(iii)を満たすものではなかった。
【0231】
【0232】
【0233】
[実施例2:タピオカ澱粉、AqBE、及びTaqMalQを用いた高分子グルカンの製造]
タピオカ澱粉(東海澱粉株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た。使用したタピオカ澱粉の分岐頻度は4.8%であり、平均重合度は約3×104であり、重量平均分子量は約5×106であった。約70℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を1400U/g基質となるように添加し、同時にTaqMalQ酵素液を0.25U/g基質となるように添加して70℃で24時間反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液を凍結乾燥し、粉末状の高分子グルカンを得た。
【0234】
高分子グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた高分子グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表11に示し、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表12に示す。また、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図8に示す。実施例2の高分子グルカンは、重合度5~15程度の短鎖長側と重合度25以上の長鎖長側の両方に高い濃度を示すピークがあり、且つ突出したピークがなく全体的になだらかな分布を示し、従来の分岐状グルカンとは、異なる構造を有していることが確認された。
【0235】
【0236】
【0237】
[実施例3:ワキシーコーンスターチ、AqBE、及びCGTaseを用いた高分子グルカンの製造]
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た。使用したワキシーコーンスターチの分岐頻度は6.5%であり、平均重合度は約1×105であり、重量平均分子量は約2×107であった。次いで、約70℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を700U/g基質となるように添加し、同時にCGTase(コンチザイム、天野エンザイム株式会社)酵素液を10U/g基質(実施例3-1)又は50U/g基質(実施例3-2)となるように添加して60℃で24時間反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液を凍結乾燥し、粉末状の高分子グルカンを得た。
【0238】
高分子グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた高分子グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表13に示し、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表14に示す。また、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図9に示す。実施例3の高分子グルカンでも、実施例1及び2と同様に、重合度5~15程度の短鎖長側と重合度25以上の長鎖長側の両方に高い濃度を示すピークがあり、且つ突出したピークがなく全体的になだらかな分布を示していた。
【0239】
【0240】
【0241】
[実施例4:ワキシーコーンスターチ、AqBE、MalQ及びCGTaseを用いた高分子グルカンの製造]
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た。使用したワキシーコーンスターチの分岐頻度は6.5%であり、平均重合度は約1×105であり、重量平均分子量は約2×107であった。次いで、約60℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を700U/g基質となるように添加し、同時にCGTase酵素液を2U/g基質及びTaqMalQ酵素液を0.2U/g基質(実施例4-1)、或はCGTase酵素液を5U/g基質及びTaqMalQ酵素液を0.2U/g基質(実施例4-2)となるように添加して、60℃で24時間反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液を凍結乾燥し、粉末状の高分子グルカンを得た。
【0242】
高分子グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた高分子グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表15に示し、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表16に示す。また、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図10に示す。実施例4の高分子グルカンでも、重合度5~15程度の短鎖長側と重合度25以上の長鎖長側の両方に高い濃度を示すピークがあり、且つ突出したピークがなく全体的になだらかな分布を示していた。
【0243】
【0244】
【0245】
[比較例5:ワキシーコーンスターチ、AqBE、及び少量のMalQ又はCGTaseを用いた分岐状グルカンの製造]
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た。使用したワキシーコーンスターチの分岐頻度は6.5%であり、平均重合度は約1×105であり、重量平均分子量は約2×107であった。次いで、約60℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を700U/g基質となるように添加し、同時にTaqMalQ酵素液を0.2U/g基質(比較例5-1)又はCGTase酵素液を5U/g基質(比較例5-2)、或はCGTase酵素液を2U/g基質及びTaqMalQ酵素液を0.1U/g基質(比較例5-3)となるように添加して、60℃で24時間反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液を凍結乾燥し、粉末状の分岐状グルカンを得た。
【0246】
分岐状グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた分岐状グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、及び還元糖量を測定した結果を表17に示し、得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表18に示す。また、得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図11に示す。比較例5-1~5-3の分岐状グルカンでは、MalQ及び/又はCGTaseによる不均化反応が十分に進行しておらず、前記特性(i)~(iii)を満たすものではなかった。
【0247】
【0248】
【0249】
[実施例5:ワキシーコーンスターチ、AqBE、及びβ-アミラーゼを用いた高分子グルカンの製造]
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た。使用したワキシーコーンスターチの分岐頻度は6.5%であり、平均重合度は約1×105であり、重量平均分子量は約2×107であった。次いで、約70℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を100U/g基質となるように添加し、70℃で24時間反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱してBEを失活させた。その後、37℃まで冷却し、β-アミラーゼ酵素液を15U/g基質となるように添加して、37℃で1時間(実施例5-1)又は2時間(実施例5-2)反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液に当量のエタノールを加え、沈殿物を遠心して回収した(エタノール沈殿)。エタノール沈殿は3回繰り返した後、回収した沈殿物を水に溶解させ、この溶液を凍結乾燥し、粉末状の高分子グルカンを得た。
【0250】
高分子グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた高分子グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、還元糖量、収率を測定した結果を表19に示し、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表20に示す。また、得られた高分子グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図12に示す。
【0251】
実施例5-1及び5-2の高分子グルカンは、重合度5~15程度の短鎖長側と重合度25以上の長鎖長側の両方に高い濃度を示すピークがあり、且つ突出したピークがなく全体的になだらかな分布を示していた。但し、製造時にβ-アミラーゼを使用しており、大量のマルトースが副生されるため、収率は高くなかった。
【0252】
【0253】
【0254】
[比較例6:ワキシーコーンスターチ、AqBE、及びβ-アミラーゼを用いて、β-アミラーゼ処理を長時間行うことによる分岐状グルカンの製造]
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gを1Lの20mMクエン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、懸濁液を100℃に加熱することにより糊化させて糊液を得た。使用したワキシーコーンスターチの分岐頻度は6.5%であり、平均重合度は約1×105であり、重量平均分子量は約2×107であった。次いで、約70℃まで冷却した糊液に、AqBE酵素液を100U/g基質となるように添加し、70℃で24時間反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱してBEを失活させた。その後、37℃まで冷却し、β-アミラーゼ酵素液を15U/g基質となるように添加して、37℃で3時間(比較例6-1)、4時間(比較例6-2)、又は6時間(比較例6-3)反応させた。反応後、反応液を100℃で20分間加熱した後、活性炭、陽イオン交換クロマトカラム、及び陰イオン交換クロマトカラムに通液した。回収された溶液に当量のエタノールを加え、沈殿物を遠心して回収した(エタノール沈殿)。エタノール沈殿は3回繰り返した後、回収した沈殿物を水に溶解させ、この溶液を凍結乾燥し、粉末状の分岐状グルカンを得た。
【0255】
分岐状グルカンの製造に使用した酵素濃度、並びに得られた分岐状グルカンの重量平均分子量、分岐頻度、還元糖量、及び収率を測定した結果を表21に示し、得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布の分析結果を表22に示す。また、得られた分岐状グルカンの単位鎖長分布のグラフを
図13に示す。比較例6-1~6-3の分岐状グルカンは、重合度16以下の領域に高い濃度で局在化しており、前記特性(i)~(iii)を満たすものではなかった。
【0256】
【0257】
【0258】
[実施例6:in vitro 消化性試験]
実施例1~5の高分子グルカン、比較例1、2、5、及び6の分岐状グルカン、比較例3の酵素合成分岐グルカン、並びに比較例4の天然グリコーゲンについて、in vitro消化性試験を行い、初期分解速度係数k、並びに易消化性画分、緩消化性画分、及び難消化性画分の各割合(%)を求めた。
【0259】
得られた結果を表23に示す。実施例の高分子グルカンは、いずれも、初期分解速度係数k値が0.029未満であり、難消化性画分は10%未満になっていた。これに対して、比較例の分岐状グルカンでは、初期分解速度係数k値が0.029以上であるか、初期分解速度係数k値が0.029未満である場合は難消化性画分が10%以上であった。また、酵素合成分岐グルカン及び天然グリコーゲンでは、初期分解速度係数k値が0.029以上で、難消化性画分も10%以上であった。
【0260】
【0261】
[実施例7:経口摂取時の血糖値及び血中インスリン値の変化(実施例1-3とグルコースとの比較試験)]
実施例1-3の高分子グルカン及びグルコースを用いて、健常人10名により、経口摂取した際の血糖値および血中インスリン値の測定をクロスオーバー・オープン試験にて実施した。被験者は10時間以上水以外絶食した状態で高分子グルカンまたはグルコースを摂取した。
【0262】
高分子グルカン及びグルコースの摂取前空腹時の血中血糖値およびインスリン値を基準として変化量をプロットした結果、並びに血糖値及び血中インスリン値について血中濃度-時間曲線下面積(AUC)を算出した結果を
図14に示す。
【0263】
この結果、実施例1-3の高分子グルカンの場合には、グルコースの場合に比べて、血糖値の上昇は糖質摂取後10分と20分で有意に低値を示し、初期血糖値の上昇が緩やかであることが明らかとなった。一方で、実施例1-3の高分子グルカンとグルコースでは、血糖値のAUC値には有意差は無く、実施例1-3の高分子グルカンは高効率にグルコースへ分解されることが確認された。
【0264】
また、実施例1-3の高分子グルカンの場合には、グルコースを摂取した場合に比べて、血中インスリン値の上昇は糖質摂取後10分、20分、30分、90分で有意に低値を示し、実施例1-3の高分子グルカンは、摂取後のインスリン分泌が緩やかであることが確認された。更に、実施例1-3の高分子グルカンは、インスリンのAUC値がグルコースの場合と比べ有意に低値を示し、インスリンが分泌しにくい糖質であることも明らかとなった。
【0265】
以上の結果より、本発明で規定されている特定の単位鎖長分布を有する高分子グルカンは、摂取後の初期血糖値上昇が緩やかで、且つインスリン分泌も緩やかな糖質であることが確認された。
【0266】
[実施例8:経口摂取時の血糖値及び血中インスリン値の変化(実施例1-1と比較例1-3との比較試験)]
実施例1-1の高分子グルカンと比較例1-3の分岐状グルカンを用いて、健常人1名により、経口摂取した際の血糖値および血中インスリン値の測定をクロスオーバー・オープン試験にて実施した。被験者は10時間以上水以外絶食した状態で高分子グルカンまたは分岐状グルカンを摂取した。
【0267】
グルカンの摂取前空腹時の血中血糖値およびインスリン値を基準として変化量をプロットした結果、並びに血糖値及び血中インスリン値について血中濃度-時間曲線下面積(AUC)を算出した結果を
図15に示す。
【0268】
この結果、実施例1-1の高分子グルカンは、比較例1-3の分岐状グルカンに比して、摂取後30分までの初期血糖値の上昇値は低値を示し、緩やかに消化される糖質であることが分かった。また、実施例1-1の高分子グルカンは、比較例1-3の分岐状グルカンに比して、血中インスリン値の上昇値も摂取後30分までは低値を示し、緩やかなインスリン分泌をする糖質であることが分かった。一方で、血糖値のAUC値に関しては、実施例1-1の高分子グルカンのAUC値は、比較例1-3の分岐状グルカンのAUC値の約90%であり、両者は、糖質の分解量の点では殆ど同じであった。また、インスリン値のAUC値に関しては、実施例1-1の高分子グルカンのAUC値は、比較例1-3の分岐状グルカンのAUC値の約50%と大きく低下しており、実施例1-1の高分子グルカンはインスリンが分泌しにくい糖質であることが分かった。
【0269】
以上の結果からも、本発明で規定されている特定の単位鎖長分布を有する高分子グルカンは、摂取後の初期血糖値上昇が緩やかで、且つインスリン分泌も緩やかな糖質であることが確認された。