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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】差動装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/40 20120101AFI20220531BHJP
【FI】
F16H48/40
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019041949
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020143755
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 亜久人
(72)【発明者】
【氏名】相根 祥吾
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-32018(JP,A)
【文献】特開2004-90181(JP,A)
【文献】特開2009-216154(JP,A)
【文献】特開2019-132389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/08
F16H 48/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面(8ci)の少なくとも一部が機械加工されて第1軸線(X1)回りに回転可能な中空のケース本体(8c)、及び該ケース本体(8c)の外周に一体に突設したフランジ部(8f)を有するデフケース(8)と、前記ケース本体(8c)内に収容される差動機構(20)と、前記ケース本体(8c)に設けられる作業窓(H)と、動力源に連なる駆動ギヤ(31)と噛合して該駆動ギヤ(31)からの動力を前記デフケース(8)に伝えるべく、前記フランジ部(8f)に結合されるリングギヤ(R)とを備え、
前記差動機構(20)は、前記ケース本体(8c)に前記第1軸線(X1)回りに回転自在に支持される一対のサイドギヤ(23)と、前記ケース本体(8c)に前記第1軸線(X1)と直交する第2軸線(X2)回りに回転自在に支持されて前記一対のサイドギヤ(23)と噛合するピニオンギヤ(22)とを有する差動装置において、
前記作業窓(H)は、前記サイドギヤ(23)及び前記ピニオンギヤ(22)を該作業窓(H)を通して前記ケース本体(8c)内に組付け可能な形状に形成され、
前記フランジ部(8f)の、前記作業窓(H)に臨む側の一側面(8fs)には、該フランジ部(8f)を径方向に横切るように延び且つ前記内面(8ci)への機械加工の際に加工ツール(T)との干渉を回避可能な第1溝部(81)と、前記第1軸線(X1)と直交する投影面で見て前記第2軸線(X2)を挟んで第1溝部(81)と反対側に位置し且つ該第1溝部(81)よりも小さい、少なくとも1個の第2溝部(82,82′)とが形成され
前記フランジ部(8f)は、前記投影面で見て前記第2軸線(X2)に関して前記第1溝部(81)との対称位置に孔(8fz)を有することを特徴とする差動装置。
【請求項2】
前記フランジ部(8f)は、該フランジ部(8f)に前記リングギヤ(R)を締結するための複数のボルト(B)がそれぞれ挿通される複数のボルト孔(8fh)を周方向に間隔をおいて有しており、
前記第1,第2溝部(81,82,82′)の各々が周方向に隣り合う前記ボルト孔(8fh)間に配置され、
前記第1溝部(81)は機械加工により、また前記第2溝部(82,82′)は鋳造によりそれぞれ形成されることを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
前記第2溝部(82)は、前記フランジ部(8f)に1個だけ設けられていて、前記投影面で見て前記第2軸線(X2)に関して前記第1溝部(81)との対称位置にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の差動装置。
【請求項4】
内面(8ci)の少なくとも一部が機械加工されて第1軸線(X1)回りに回転可能な中空のケース本体(8c)、及び該ケース本体(8c)の外周に一体に突設したフランジ部(8f)を有するデフケース(8)と、前記ケース本体(8c)内に収容される差動機構(20)と、前記ケース本体(8c)に設けられる作業窓(H)と、動力源に連なる駆動ギヤ(31)と噛合して該駆動ギヤ(31)からの動力を前記デフケース(8)に伝えるべく、前記フランジ部(8f)に結合されるリングギヤ(R)とを備え、
前記差動機構(20)は、前記ケース本体(8c)に前記第1軸線(X1)回りに回転自在に支持される一対のサイドギヤ(23)と、前記ケース本体(8c)に前記第1軸線(X1)と直交する第2軸線(X2)回りに回転自在に支持されて前記一対のサイドギヤ(23)と噛合するピニオンギヤ(22)とを有する差動装置であって、
前記作業窓(H)は、前記サイドギヤ(23)及び前記ピニオンギヤ(22)を該作業窓(H)を通して前記ケース本体(8c)内に組付け可能な形状に形成され、
前記フランジ部(8f)の、前記作業窓(H)に臨む側の一側面(8fs)には、該フランジ部(8f)を径方向に横切るように延び且つ前記内面(8ci)への機械加工の際に加工ツール(T)との干渉を回避可能な第1溝部(81)と、前記第1軸線(X1)と直交する投影面で見て前記第2軸線(X2)を挟んで第1溝部(81)と反対側に位置し且つ該第1溝部(81)よりも小さい第2溝部(82,82′)とが形成され、
前記第2溝部(82)は、前記フランジ部(8f)に1個だけ設けられていて、前記投影面で見て前記第2軸線(X2)に関して前記第1溝部(81)との対称位置にある差動装置の製造方法において
前記第1,第2溝部(81,82)を設けるべき位置に形成される一対の第2溝部(82)を有した前記デフケース(8)を鋳造により製作する第1ステップと、
前記第1ステップで得られた前記デフケース(8)の前記フランジ部(8f)に対し、何れか一方の前記第2溝部(82)の溝形状を拡大するよう機械加工を施して、前記第1溝部(81)を形成する第2ステップと
を含むことを特徴とする、差動装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置、特に内面の少なくとも一部が機械加工されて第1軸線回りに回転可能な中空のケース本体、及びケース本体の外周に一体に突設したフランジ部を有するデフケースと、ケース本体内に収容される差動機構と、ケース本体に設けられる作業窓と、動力源に連なる駆動ギヤと噛合して駆動ギヤからの動力をデフケースに伝えるべく、フランジ部に結合されるリングギヤとを備え、差動機構が、ケース本体に第1軸線回りに回転自在に支持される一対のサイドギヤと、ケース本体に第1軸線と直交する第2軸線回りに回転自在に支持されて一対のサイドギヤと噛合するピニオンギヤとを有する構造の差動装置に関する。
【0002】
尚、本発明及び本明細書において、「周方向」「径方向」とは、デフケース8の回転軸線(即ち第1軸線X1)を基準とした周方向、径方向をそれぞれ意味する。
【背景技術】
【0003】
斯かる差動装置は、下記特許文献1に開示されるように、既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-10040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示のデフケースに設けられる作業窓は、サイドギヤ及びピニオンギヤを作業窓を通してデフケースのケース本体内に組付け可能な形状に形成される。
【0006】
ところで差動装置の外形を所定サイズに抑えたまま、デフケースがリングギヤから入力される、より大きな伝達トルクに対応するためには、サイドギヤ及びピニオンギヤの径をより大きくする必要があり、これらギヤを収容するケース本体の内部空間を機械加工(例えば旋削加工)でより大きく形成する必要がある。その場合、加工ツールの作業窓通過を許容すべくデフケースのフランジ部に設けられる加工用逃げ溝も大きく形成する必要があるが、この逃げ溝を大きくすればするほど、デフケースにおける重量バランスが少なからず崩れ、差動装置に回転振動が生じ易くなる等の不都合ある。
【0007】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、従来装置の問題を簡単な構造で解決可能とした差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、内面の少なくとも一部が機械加工されて第1軸線回りに回転可能な中空のケース本体、及び該ケース本体の外周に一体に突設したフランジ部を有するデフケースと、前記ケース本体内に収容される差動機構と、前記ケース本体に設けられる作業窓と、動力源に連なる駆動ギヤと噛合して該駆動ギヤからの動力を前記デフケースに伝えるべく、前記フランジ部に結合されるリングギヤとを備え、前記差動機構は、前記ケース本体に前記第1軸線回りに回転自在に支持される一対のサイドギヤと、前記ケース本体に前記第1軸線と直交する第2軸線回りに回転自在に支持されて前記一対のサイドギヤと噛合するピニオンギヤとを有する差動装置において、前記作業窓は、前記サイドギヤ及び前記ピニオンギヤを該作業窓を通して前記ケース本体内に組付け可能な形状に形成され、前記フランジ部の、前記作業窓に臨む側の一側面には、該フランジ部を径方向に横切るように延び且つ前記内面への機械加工の際に加工ツールとの干渉を回避可能な第1溝部と、前記第1軸線と直交する投影面で見て前記第2軸線を挟んで第1溝部と反対側に位置し且つ該第1溝部よりも小さい、少なくとも1個の第2溝部とが形成され、前記フランジ部は、前記投影面で見て前記第2軸線に関して前記第1溝部との対称位置に孔を有することを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記フランジ部は、該フランジ部に前記リングギヤを締結するための複数のボルトがそれぞれ挿通される複数のボルト孔を周方向に間隔をおいて有しており、前記第1,第2溝部の各々が周方向に隣り合う前記ボルト孔間に配置され、前記第1溝部は機械加工により、また前記第2溝部は鋳造によりそれぞれ形成されることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記第2溝部は、前記フランジ部に1個だけ設けられていて、前記投影面で見て前記第2軸線に関して前記第1溝部との対称位置にあることを第3の特徴とする。
【0013】
また本発明は、内面の少なくとも一部が機械加工されて第1軸線回りに回転可能な中空のケース本体、及び該ケース本体の外周に一体に突設したフランジ部を有するデフケースと、前記ケース本体内に収容される差動機構と、前記ケース本体に設けられる作業窓と、動力源に連なる駆動ギヤと噛合して該駆動ギヤからの動力を前記デフケースに伝えるべく、前記フランジ部に結合されるリングギヤとを備え、前記差動機構は、前記ケース本体に前記第1軸線回りに回転自在に支持される一対のサイドギヤと、前記ケース本体に前記第1軸線と直交する第2軸線回りに回転自在に支持されて前記一対のサイドギヤと噛合するピニオンギヤとを有する差動装置であって、前記作業窓は、前記サイドギヤ及び前記ピニオンギヤを該作業窓を通して前記ケース本体内に組付け可能な形状に形成され、前記フランジ部の、前記作業窓に臨む側の一側面には、該フランジ部を径方向に横切るように延び且つ前記内面への機械加工の際に加工ツールとの干渉を回避可能な第1溝部と、前記第1軸線と直交する投影面で見て前記第2軸線を挟んで第1溝部と反対側に位置し且つ該第1溝部よりも小さい第2溝部とが形成され、前記第2溝部は、前記フランジ部に1個だけ設けられていて、前記投影面で見て前記第2軸線に関して前記第1溝部との対称位置にある差動装置の製造方法において、前記第1,第2溝部を設けるべき位置に形成される一対の第2溝部を有した前記デフケースを鋳造により製作する第1ステップと、前記第1ステップで得られた前記デフケースの前記フランジ部に対し、何れか一方の前記第2溝部の溝形状を拡大するよう機械加工を施して、前記第1溝部を形成する第2ステップとを含むことを第の特徴とする。
【0014】
本発明において、第2溝部が「第1溝部よりも小さい」とは、第2溝部が第1溝部よりも溝幅が狭く且つ溝深さが浅いものが含まれることは元より、第2溝部が第1溝部よりも溝幅が狭いか又は溝深さが浅いものも含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の特徴によれば、デフケースのケース本体に設けられる作業窓が、サイドギヤ及びピニオンギヤを作業窓を通してケース本体内に組付け可能な形状に形成される差動装置において、ケース本体外周に一体に突設したフランジ部の、作業窓に臨む側の一側面には、フランジ部を径方向に横切るように延び且つケース本体内面への機械加工の際に加工ツールとの干渉を回避可能な比較的大きな第1溝部と、第1軸線と直交する投影面で見て第2軸線を挟んで第1溝部と反対側に位置する比較的小さな、少なくとも1個の第2溝部とが形成されるので、比較的大きな第1溝部と作業窓とを通して加工ツールを、デフケースと干渉させずにより広範囲に移動させることが可能となり、これにより、デフケースの内部空間を機械加工で容易に拡げることができるため、サイドギヤ及びピニオンギヤを大径化して大きな入力トルクに対応可能となる。また大きな第1溝部の、第2軸線を挟んで反対側に少なくとも1個の第2溝部が配設されるため、フランジ部に大きな第1溝部だけを設ける構造よりもデフケースの重量バランスを改善することができる。しかも第2溝部が比較的小さい関係で、フランジ部の溝部特設による剛性低下を、重量バランスを改善しつつ効果的に抑えることができる。また、フランジ部は、前記投影面で見て第2軸線に関して第1溝部と対称位置に孔を有するので、重量調整のために、上記対称位置に存する孔を第2溝部と併用することで、第1溝部との関係でデフケースの重量バランスを一層容易に改善可能となる。
【0016】
また第2の特徴によれば、フランジ部は、これにリングギヤを締結するための複数のボルトがそれぞれ挿通される複数のボルト孔を、フランジ部の周方向に間隔をおいて有し、第1,第2溝部の各々が周方向に隣り合うボルト孔間に配置されるので、大きな第1溝部を、加工公差の小さい機械加工で形成することで、その加工公差の範囲で第1溝部を、これを挟んで隣り合うボルト孔に対し干渉を回避しつつ近づけることができ、これにより、第1溝部をより大きく形成できる。しかも機械加工される第1溝部の加工公差が小さい分、フランジ部のボルト孔周辺部とリングギヤとの接触面積を確保し易くなり、第1溝部周辺でのボルトの軸力低下を防止可能となる。その上、第2溝部は、これを鋳造で形成することで、機械加工を不要としてコスト節減が図られる。
【0017】
また第3の特徴によれば、第2軸線を挟んで第1溝部と反対側で第2溝部は、フランジ部に1個だけ設けられるから、これを鋳造で形成しても金型構造を極力簡素化してコスト節減及び生産性向上に寄与することができる。しかも、この第2溝部が上記投影面で見て第2軸線に関して第1溝部との対称位置にあるので、第2溝部が1個だけでも、第1溝部との関係でデフケースの重量バランスを容易に改善可能となる。
【0020】
また第の特徴によれば、内面の少なくとも一部が機械加工されて第1軸線回りに回転可能な中空のケース本体、及び該ケース本体の外周に一体に突設したフランジ部を有するデフケースと、ケース本体内に収容される差動機構と、ケース本体に設けられる作業窓と、動力源に連なる駆動ギヤと噛合して該駆動ギヤからの動力をデフケースに伝えるべく、前記フランジ部に結合されるリングギヤとを備え、前記差動機構は、ケース本体に第1軸線回りに回転自在に支持される一対のサイドギヤと、ケース本体に第1軸線と直交する第2軸線回りに回転自在に支持されて一対のサイドギヤと噛合するピニオンギヤとを有する差動装置であって、作業窓は、サイドギヤ及びピニオンギヤを該作業窓を通してケース本体内に組付け可能な形状に形成され、前記フランジ部の作業窓に臨む側の一側面には、該フランジ部を径方向に横切るように延び且つ前記内面への機械加工の際に加工ツールとの干渉を回避可能な第1溝部と、第1軸線と直交する投影面で見て第2軸線を挟んで第1溝部と反対側に位置し且つ該第1溝部よりも小さい第2溝部とが形成され、第2溝部は、前記フランジ部に1個だけ設けられていて、前記投影面で見て前記第2軸線に関して前記第1溝部との対称位置にある差動装置の製造方法が、第1,第2溝部を設けるべき位置に形成される一対の第2溝部を有したデフケースを鋳造により製作する第1ステップと、第1ステップで得られたデフケースのフランジ部に対し、何れか一方の第2溝部の溝形状を拡大するよう機械加工を施して、第1溝部を形成する第2ステップとを含むので、第3の特徴による前記効果と同様の効果が達成可能である。その上、第2ステップで第1溝部の機械加工を行うに当たり、第1ステップの鋳造でフランジ部に対称的に形成した一対の第2溝部の何れか一方に対し(即ち一方の第2溝部を下溝として)機械加工を施して第1溝部を形成するため、第1溝部の機械加工量を低減して迅速且つ低コストで第1溝部を形成可能となる。しかも第1ステップ(鋳造)で得た一対の第2溝部が第2軸線に対し対称配置されるため、その何れの第2軸部を第2ステップで機械加工しても第1溝部が得られ、また機械加工されない第2溝部が本来の第2溝部となるから、第2ステップでの加工ツールに対するワークの位置決め自由度が拡がり、加工作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係る差動装置及びその周辺装置を示す縦断面図(図2の1-1線断面図)
図2】ミッションケース、車軸、軸受及び差動機構のギヤの図示を省略して示す上記差動装置の右側面図
図3】(3A)はデフケース単体の、ケース中心を通り且つ図1で右側から見た横断面図(図4の3A-3A線断面図)、また(3B)は、図3(3A)の3B-3B線拡大断面図)
図4図3(3A)の4-4線断面図
図5】本発明の第2実施形態を示す図3(A)対応断面図
図6】本発明の第3実施形態のデフケース製造過程で第1ステップの鋳造後(第2ステップの旋削加工前)の状態のデフケースを示す図3(A)対応断面図
図7】本発明の第1実施形態の変形例を示す図3(A)対応断面図
図8】本発明の第2実施形態の変形例を示す図3(A)対応断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0023】
先ず、図1図4を参照して、第1実施形態について説明する。図1において、車両(例えば自動車)のミッションケース9内には、図示しない動力源(例えば車載のエンジン)からの動力を一対のドライブ軸としての左右車軸11,12に分配して伝達する差動装置10が収容される。差動装置10は、金属製のデフケース8と、デフケース8に内蔵される差動機構20とを備える。
【0024】
デフケース8は、概略球体状に形成されて内部に差動機構20を収納した中空のケース本体8cと、ケース本体8cの右側部及び左側部に一体に連設されて第1軸線X1上に並ぶ第1,第2軸受ボス8b1,8b2と、ケース本体8cの外周部に径方向外向きに一体に形成されて、第1軸線X1を中心とした円周方向に延びるフランジ部8fとを備える。そして、第1及び第2軸受ボス8b1,8b2は、それらボス8b1,8b2の外周側において軸受13,14を介してミッションケース9に第1軸線X1回りに回転自在に支持される。
【0025】
また第1及び第2軸受ボス8b1,8b2の内周面には、ドライブ軸としての左右の車軸11,12がそれぞれ回転自在に嵌合されると共に、潤滑油引込み用の螺旋溝15,16(図4参照)が設けられる。螺旋溝15,16は、各軸受ボス8b1,8b2と各車軸11,12との相対回転に伴いミッションケース9内の潤滑油をデフケース8内に送り込むねじポンプ作用を発揮する。
【0026】
デフケース8のフランジ部8fは、ケース本体8cの外周面にリング板状に一体に突設されており、これにリングギヤRが複数のボルトBで着脱可能に結合される。そして、フランジ部8fは、ケース本体8cの中心Oから軸方向(即ち第1軸線X1に沿う方向)で第2軸受ボス8b2側にオフセットした位置に配置される。
【0027】
リングギヤRは、ヘリカルギヤ(斜歯)状の歯部Ragを外周に有するリムRaと、このリムRaの内周面から一体に突出するリング板状のスポークRbとを備えており、歯部Ragは、動力源に連なる変速装置の出力部となる駆動ギヤ31と噛合する。かくして、駆動ギヤ31からの回転駆動力は、リングギヤR及びフランジ部8fを介してデフケース8のケース本体8cに伝達される。
【0028】
またスポークRbは、それの一側面Rbsがフランジ部8fの第1側面8fs(即ち第1軸受ボス8b1側の側面)に当接すると共に、内周端面Rbiがケース本体8cの、フランジ部8fに連なる外周端面に同心状に嵌合しており、その嵌合状態で、フランジ部8fに複数のボルトBを以て周方向に間隔をおいて締結される。
【0029】
フランジ部8fには周方向に等間隔おきにボルト孔8fhが設けられ、またそれらボルト孔8fhに対応してスポークRbには複数のボルト挿通孔Rbhが設けられる。そして、複数のボルトBは、スポークRbのボルト挿通孔Rbhを通してフランジ部8fのボルト孔8fhにそれぞれ螺挿、緊締される。尚、図1において、歯部Ragは、表示を簡略化するために、歯筋に沿う断面表示とした。
【0030】
更にフランジ部8fには、周方向に隣り合うボルト孔8fhの中間位置(本実施形態では、後述する第2軸線X2に関して第1溝部81との非対称位置)に位置決め孔8fz′が、図3に例示したように設けられる。この位置決め孔8fz′は、これと抜差可能な不図示の位置決めピンと協働して、差動装置10の組立時や加工時にデフケース8を他の部材(例えばリングギヤR)に対し周方向に位置決めするために用いられる。
【0031】
而して、リングギヤRは、ヘリカルギヤ状の歯部Ragを有することで、同じくヘリカルギヤ状の歯部を有する駆動ギヤ31との噛合により第1軸線X1に沿う方向のスラスト荷重(噛合反力のスラスト方向成分)を受け、このスラスト荷重は、リングギヤRからフランジ部8fを経てケース本体8cに受け止められる。
【0032】
差動機構20は、ケース本体8cの中心Oで第1軸線X1と直交する第2軸線X2上に配置されてケース本体8cに支持されるピニオン軸21と、このピニオン軸21に回転自在に支持される一対のピニオンギヤ22,22と、各ピニオンギヤ22と噛合し且つ第1軸線X1回りに回転可能な左右のサイドギヤ23,23とを備える。両サイドギヤ23,23は、差動機構20の出力ギヤとして機能するものであり、両サイドギヤ23,23の内周面には、左右の車軸11,12の内端部がそれぞれスプライン嵌合される。
【0033】
ピニオンギヤ22及びサイドギヤ23の各背面は、ケース本体8cの内面8ciに直接に、或いは図示しないワッシャを介して、回転自在に支承される。ケース本体8cの内面8ciは、本実施形態では旋盤の施削工具としてのバイトTにより球面状に旋削加工される。そして、その旋削加工されるケース本体8cの内面8ciには、例えばピニオンギヤ22の背面に対面するピニオンギヤ支持面8cipや、サイドギヤ23の背面に対面するサイドギヤ支持面8cisも含まれる。而して、バイトTは、加工ツール(施削工具)の一例である。
【0034】
ピニオン軸21は、ケース本体8cの外周端部に形成されて第2軸線X2上に延びる一対の支孔8chに挿通、保持される。またケース本体8cには、ピニオン軸21の一端部を横切るよう貫通する抜け止めピン17が挿着(例えば圧入)され、この抜け止めピン17により、ピニオン軸21の支孔8chからの離脱が阻止される。
【0035】
そして、駆動ギヤ31からリングギヤRを経てケース本体8cに伝達された回転駆動力は、差動機構20を介して左右の車軸11,12に対し差動回転を許容しつつ分配伝達される。尚、差動機構20の差動機能は従来周知であるので、説明を省略する。
【0036】
図2図4に示すように、デフケース8は、第1軸線X1に沿う方向でフランジ部8fよりも第1軸受ボス8b1側のケース本体8cの側壁に一対の作業窓Hを有する。この一対の作業窓Hは、第1軸線X1と直交する投影面(図2図3の(3A)を参照)で見て、第2軸線X2を挟んでその両側方に配置され、換言すれば、第1,第2軸線X1,X2と直交する第3軸線X3上で第1軸受ボス8b1を挟んで対称的に並ぶようにケース本体8cの上記側壁に形成される。尚、本明細書では、以下において説明の重複を避けるため、第1軸線X1と直交する投影面を単に「投影面」と呼ぶ。
【0037】
そして、前記投影面で見て、ケース本体8cの、一対の作業窓Hに挟まれた側壁部分80は、第2軸線X2に沿って延びる幅広の帯状に形成され、この帯状の側壁部分80の中間部に第1軸受ボス8b1が連設される。また、その帯状の側壁部分80の両端部80a(即ちケース本体8cの外周端部となる部分)は、これと一体に連なるフランジ部8fと相互に補強し合うことで剛性が高められ、しかもピニオン軸21を支持すべく比較的厚肉に形成されている。即ち、斯かる側壁部分80の両端部80aは、ピニオン軸21を強固に支持する高剛性のピニオン軸支持部として機能する。
【0038】
作業窓Hは、ケース本体8cの内面8ciに対する旋削加工やケース本体8c内への差動機構20の組付けを許容するための作業窓であり、その目的に即した十分大きい形状に形成される。即ち、本実施形態の作業窓Hは、第1軸線X1に沿う方向でフランジ部Fの根元部分まで達し且つケース本体8cの周方向に幅広く開口するように形成されている。尚、作業窓Hは、フランジ部Fの根元部分から軸方向で若干離間して形成してもよいし、或いは、フランジ部Fの根元部分に若干食い込むように形成してもよい。
【0039】
ところでデフケース8においてフランジ部8fの、作業窓Hに臨む側(即ち第1軸受ボス8b1側)の第1側面8fsには、比較的大きな第1溝部81と、この第1溝部81よりも小さい(より具体的には第1溝部81よりも溝幅が狭く且つ溝深さが浅い)第2溝部82とが、それぞれフランジ部8fを径方向に横切るようにして形成される。第1溝部81は、ケース本体8cの内面8ciを旋削する加工ツール即ち前記バイトTが、旋削加工の際に第1溝部81を通過可能な(即ちバイトTに対する逃げ溝となる)ようなサイズに形成される。
【0040】
また、第2溝部82は、第1溝部81に対し、前記投影面で見て第2軸線X2を挟んで反対側に位置していて、第1溝部81と第3軸線X3上に並ぶように配置される。換言すれば、第1,第2溝部81,82は、第2軸線X2に関して対称位置に在る。
【0041】
デフケース8は、後述するように鋳造で形成され、その鋳造後にデフケース8の各部が機械加工される。例えば、鋳造後のデフケース8(特にケース本体8c)の内面8ciの旋削加工を行う場合には、ワークであるデフケース8が旋盤の不図示のワーク支持部に対し第3軸線X3回りに回転駆動可能に取付けられ、また旋盤のバイトTは、第3軸線X3に沿う方向と、第3軸線X3と直交する方向とにそれぞれ徐々に送り可能に構成される。また旋削加工時には、前記投影面(図3の(3A)参照)で見て、第3軸線X3が第1,第2溝部81,82の軸線と重なる配置となるように、デフケース8の旋盤に対する取付位置が設定される。
【0042】
そして、上記旋削工程では、後述するように、デフケース8が第3軸線X3回りに回転している状態で、デフケース8の外方より作業窓Hを通してバイトTが第3軸線X3に沿う方向に徐々に送られる。これにより、バイトTは、先ず、フランジ部8fの第1側面8fsに対し第1溝部81を横断面円弧状の溝状に旋削する。そして、バイトTが第3軸線X3に沿う方向に所定量送られると、バイトTは、第3軸線X3に沿う方向のみならず、第3軸線X3と直交する方向にも徐々に送られるようになって、ケース本体8cの内面8ciを球面状に旋削してゆく。
【0043】
第2溝部82は、後述するようにデフケース8の鋳造により形成され、鋳造後には特に機械加工されない。また第2溝部82は、第1溝部81のようにバイトTに対する逃げ溝として機能させるためのものではなく、第1溝部81を特設したことに因るフランジ部8f(延いてはデフケース8)の重量アンバランスを改善するためのバランス調整溝として機能する。
【0044】
リングギヤRをデフケース8に固定する複数のボルトBは、前述のようにフランジ部8fの、周方向に等間隔おきに並ぶ複数のボルト孔8fhにそれぞれ螺挿される。しかも第1,第2溝部81,82は、周方向で隣り合う何れか2つのボルト孔8fhの間に(即ち前記投影面で見て、何れのボルト孔8fhとも重ならない位置に)配置される。
【0045】
次に第1実施形態の作用を説明する。
【0046】
デフケース8は、その全体が適当な金属材料(例えばアルミ、アルミ合金、鋳鉄等)で一体成形(より具体的には鋳造成形)され、その成形後にデフケース8の各部に対し適宜、機械加工が施される。この機械加工には、例えば、ボルト孔8fhの孔加工や、螺旋溝15,16の溝加工の他、ケース本体8cの内面8ciに対する旋削加工が少なくとも含まれる。
【0047】
特にケース本体8cの内面8ciに対する旋削は、ワークであるデフケース8が第3軸線X3回りに回転している状態で、第3軸線X3に沿う方向(即ち図3図4で白抜き矢印で示す送り方向)にバイトTがデフケース8外より内方側に徐々に送られることにより、実行される。このとき、バイトTは、先ず、フランジ部8fの第1側面8fsに対して第1溝部81を横断面円弧状に旋削し、次いで、バイトTが一方の作業窓Hを通してケース本体8c内に到達してからは、ケース本体8cの内面8ciを球面状に旋削する。
【0048】
この場合、バイトTの刃先と第3軸線X3との距離は、特にフランジ部8fに第1溝部81を旋削する間は、被旋削面が各部同一曲率の円弧溝状となるように、一定に保たれる。またケース本体8cの内面8ciを旋削する間は、被旋削面が球面となるように、その球面形態に合せて当該距離が微小変化する設定となる。
【0049】
差動装置10の組立に際しては、先ず、デフケース8のケース本体8c内に差動機構20の各構成要素、即ちピニオン軸21、ピニオンギヤ22及びサイドギヤ23を、作業窓Hを通して装入し、所定の組付位置にセットする。次いで、リングギヤRのスポークRbをデフケース8のフランジ部8fに複数のボルトBで締結する。
【0050】
そして、この差動機構20を収納したデフケース8の第1,第2軸受ボス8b1,8b2を軸受13,14を介してミッションケース9に回転自在に支持し、更に左右の車軸11,12の内端部を第1,第2軸受ボス8b1,8b2に挿入し且つ左右のサイドギヤ23,23の内周にスプライン嵌合することで、差動装置10の自動車への組付けが終了する。
【0051】
以上説明した本実施形態によれば、デフケース8外周に突設したフランジ部8fには、フランジ部8fを径方向に横切るように延び且つケース本体8の内面8ciへの機械加工(より具体的には旋削加工)の際にバイトTとの干渉を回避可能な比較的大きな第1溝部81と、第1軸線X1と直交する投影面で見て第2軸線X2を挟んで第1溝部81と反対側に位置する比較的小さな1個の第2溝部82とが形成される。これにより、大きな第1溝部81と作業窓Hとを通してバイトTを、デフケース8と干渉させずにより広範囲に移動させることができるから、ケース本体8cの内部空間を機械加工で容易に拡げることができる。その結果、デフケース8を一定サイズに抑えながら、サイドギヤ23及びピニオンギヤ22を大径化して大きな入力トルクに対応可能となる。
【0052】
その上、大きな第1溝部81の、第2軸線X2を挟んで反対側に第2溝部82が配設されるため、フランジ部8fに大きな第1溝部81だけを設ける構造よりもデフケース8の重量バランスが効果的に改善される。しかも第2溝部82が比較的小さいことから、フランジ部8fの第2溝部82特設による剛性低下を、重量バランスを改善しつつ効果的に抑えることができる。
【0053】
また本実施形態ではフランジ部8f及びリングギヤR間を結合する複数のボルトBが、周方向で等間隔おきに配置され、しかも第1,第2溝部81,82は、フランジ部8fの周方向で隣り合う何れか2つのボルト孔8fhの各間に(即ち前記投影面で見て、何れのボルト孔8fhとも重ならない位置に)配置される。従って、フランジ部8fに複数のボルト孔Bを周方向等間隔おきに設けて伝達荷重をバランスよく分散して受け得るようにしても、これらボルトBのボルト孔8fhが第1,第2溝部81,82(従ってフランジ部8fの薄肉部分)に掛かることはない。
【0054】
この場合、大きな第1溝部81を加工公差の小さい切削(具体的には施削)により形成することで、その加工公差の範囲で第1溝部81を、これを挟んで隣り合うボルト孔8fhに対し干渉しないで近接させることができるため、第1溝部81をより大きく形成できる。しかも第1溝部81の加工公差が小さい分、フランジ部8fのボルト孔8fh周辺部とリングギヤRとの接触面積を確保し易くなり、第1溝部81周辺でのボルトBの軸力低下を防止可能となる。
【0055】
その上、第2溝部82は、これを特に鋳造で形成することで、切削等の機械加工を不要としてコスト節減が図られる。また第2溝部82は、溝幅が比較的小さいことから、隣り合うボルト孔8fh間に在ってもボルト孔8fhとの距離を比較的長くすることができ、従って、第2溝部82を加工公差の大きい鋳造で形成しても、フランジ部8fのボルト孔8fh周辺部とリングギヤRとの接触面積を確保し易くなるため、第2溝部82周辺でのボルトBの軸力低下を防止可能となる。
【0056】
更に本実施形態によれば、第2軸線X2を挟んで第1溝部81と反対側に存する第2溝部82は、フランジ部8fに1個だけ設けられるから、第2溝部82を含むデフケース8を鋳造しても、金型構造を極力簡素化でき、コスト節減及び生産性向上が図られる。しかも、この第2溝部82が前記投影面で見て第2軸線X2に関して第1溝部81と対称的に配置されるため、第2溝部82が只1個だけであっても、第1溝部81との関係で重量バランスを比較的容易に改善可能となり、デフケース8の重量バランスをとり易くなる。
【0057】
ところで、本実施形態の差動装置10(特にデフケース8)の製造方法は、前述のように、第2溝部82をフランジ部8fに有したデフケース8を鋳造により製作する第1ステップと、第1ステップで得られたデフケース8のフランジ部8fに対し切削(特に旋削)加工により第1溝部81を形成する第2ステップとを含んでいる。これにより、本実施形態の上記した作用効果を達成可能であるばかりか、デフケース8を鋳造後の第2ステップで、第1溝部81だけ切削加工を行うことから、フランジ部8fに複数の溝部81,82が有るにも拘わらず全体として切削工程が簡素化され、コスト節減が図られる。
【0058】
また図5には、本発明の第2実施形態が示される。即ち、第1実施形態のデフケース8では、フランジ部8fに鋳造で設けられる只1個の第2溝部82が、前記投影面で見て第2軸線X2に関して第1溝部81と対称的に配置されるが、第2実施形態では、フランジ部8fに、第1溝部81よりも小さい少なくとも2個の第2溝部82′,82′が鋳造で形成される。そして、それら第2溝部82′,82′が、上記投影面で見て第2軸線X2を挟んで第1溝部81とは何れも反対側に、しかも第3軸線X3に関して互いに対称的に配置される。
【0059】
この第2実施形態では、第1実施形態と基本的に同様の作用効果(但し、第2溝部82が只1個だけの効果を除く)を達成可能である。更に第2実施形態では、第1溝部81よりも小さい第2溝部82′,82′を複数設けたことによって、フランジ部8fにおける第1溝部81特設に伴う重量アンバランスをより確実に解消可能である。
【0060】
次に図6を併せて参照して、本発明の第3実施形態について説明する。即ち、第1実施形態のデフケース8の鋳造過程(第1ステップ)では、フランジ部8fに只1個の第2溝部82が形成され、また鋳造後の第2ステップでは、フランジ部8fの平坦な一側面8fsに下溝無しの状態から大きな第1溝部81を切削加工する。
【0061】
これに対して、第3実施形態では、第1溝部81の形成プロセスが第1実施形態とは異なる。即ち、第3実施形態の差動装置10(従ってデフケース8)の製造方法は、第1,第2溝部81,82を設けるべき位置に在って互いに同一形状に形成される一対の第2溝部82を有したデフケース8を鋳造により製作する第1ステップと、第1ステップで得られたデフケース8のフランジ部8fに対し、何れか一方の第2溝部82の溝形状を拡大するよう切削加工を施して、第1溝部81を形成する第2ステップとを含む。
【0062】
そして、図6には、上記第1ステップで鋳造された直後のデフケース8が示され、これのフランジ部8fの第1側面8fsには、同一形状の一対の第2溝部82が鋳造により形成されている。
【0063】
かくして、第3実施形態のデフケース8の製造方法によっても、第1実施形態と基本的の同様の前記作用効果を達成可能である。更に第3実施形態によれば、第2ステップで第1溝部81の切削加工を行うに当たり、第1ステップの鋳造でフランジ部8fに第2軸線X2に関して対称的に形成した一対の第2溝部82のうちの何れか一方に対し(即ち該何れか一方の第2溝部82を下溝として)切削加工を施して第1溝部81を形成できる。これにより、第1溝部81の切削加工量を大幅に低減できるから、迅速且つ低コストで第1溝部81を形成可能となる。
【0064】
しかも第1ステップ(鋳造)で得た一対の第2溝部82,82が第2軸線X2に対し対称配置されるため、その両第2溝部82,82の何れを第2ステップで切削加工しても第1溝部81が得られ、また切削加工されない第2溝部82が本来の第2溝部82として残されるから、第2ステップでのバイトTに対するワーク(即ちデフケース8)の位置決め自由度が拡がり、加工作業性が向上する。
【0065】
尚、第3実施形態では、第1溝部81の切削加工前の下溝として、第2溝部82と同形の下溝を第1ステップの鋳造で形成したが、第3実施形態の変形例として、第2溝部82と異なる(即ち小さい又は大きい)サイズで且つ第1溝部81よりは小さいサイズの下溝を第1ステップの鋳造で形成しておき、この下溝を第2ステップで溝形状を拡大するよう切削加工して第1溝部81を形成するようにしてもよい。そして、この第3実施形態の変形例でも、第1溝部81の切削加工量を低減できて、迅速且つ低コストで第1溝部81を形成可能となる。
【0066】
ところで第1~第3実施形態では、デフケース8外周のフランジ部8fに設けられる位置決め孔8fz′が、前記投影面で見て第2軸線X2に関して第1溝部81との非対称位置にあるものを示したが、本発明では、位置決め孔8fzを前記投影面で見て第2軸線X2に関して第1溝部81との対称位置に配設した変形例も実施可能である。そして、この変形例の位置決め孔8fzは、本発明の孔の一例となる。
【0067】
例えば、図7に示す第1実施形態の変形例では、フランジ部8fの、第2軸線X2に関して第1溝部81との対称位置に配設した第2溝部82に重なるようにして位置決め孔8fzが設けられ、また図8に示す第2実施形態の変形例では、フランジ部8fの、第2軸線X2に関して第1溝部81とは反対側に配設した2個の第2溝部82の周方向中間位置(即ち、第2溝部82とは重ならない位置)に位置決め孔8fzが設けられる。この位置決め孔8fzは、第1,第2実施形態の位置決め孔8fz′と同様に、不図示の位置決めピンと協働して差動装置10の組立時や加工時にデフケース8を他部材(例えばリングギヤR)に対し周方向に位置決めするために用いられる。
【0068】
而して、上記した第1,第2実施形態の各変形例によれば、フランジ部8fは、前記投影面で見て第2軸線X2に関して第1溝部81との対称位置に位置決め孔8fzを有しているので、第1溝部81の特設に伴いデフケース8の重量バランスを改善、調整するに当たり、第2溝部82のみならず、上記対称位置に存する位置決め孔8fzを重量バランスの調整手段に併用することで、デフケース8の重量バランスを一層容易に改善、調整可能となる。
【0069】
しかも位置決め孔8fzは、デフケース8の位置決め手段と、重量バランスの調整手段とに兼用されるので、差動装置10の構造簡素化、延いてはコスト節減を図る上で有利となる。
【0070】
尚、上記した第1,第2実施形態の各変形例では、位置決め孔8fzを、フランジ部8fを軸方向に貫通する貫通孔としたが、位置決め孔8fzを有底の盲孔としてもよい。また、その各変形例では、孔の一例である位置決め孔8fzをデフケース8の位置決め手段と重量バランスの調整手段に兼用されるものを示したが、当該孔8fzを、デフケース8の位置決めには用いずに専らデフケース8の重量バランス調整のみに使用してもよい。
【0071】
尚また、位置決め孔8fzは、これのフランジ部8fへの孔加工を、ボルト孔8fhの孔加工時に一緒に行うことができるが、ボルト孔8fhの孔加工時とは別々に行うようにしてもよい。また位置決め孔8fzは、機械加工しないで、デフケース8の鋳造により形成してもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0073】
例えば、上記実施形態では、差動装置10を車両用差動装置、特に左右の駆動車輪間の差動装置として実施したものを示したが、本発明では、差動装置10を前後の駆動車輪間の差動装置として実施してもよく、或いはまた車両以外の種々の機械装置における差動装置として実施してもよい。
【0074】
また、前記実施形態では、第1,第2溝部81,82を横断面円弧状としたものを示したが、横断面が概ね逆台形状又はコ字状の角溝であってもよい。また特に第1溝部81は、前記実施形態ではデフケース8の内面8ciに対する旋削工程の直前に旋削加工されるものを示したが、第1溝部81は、デフケース8の内面8ciに対する旋削工程の前に、その旋削工程とは別の切削工程で溝加工されてもよい。
【0075】
また、前記実施形態では、ボルト孔8fhが、内周面に雌ねじ部を有するねじ孔に形成したものが示されるが、ボルト孔8fhは、雌ねじ部を有しない単なる通し孔に形成されてもよい。この場合は、リングギヤRのボルト挿通孔Rbhの内周面に雌ねじ部を形成し、そのボルト挿通孔RbhにボルトBを、フランジ部8fのボルト孔8fhを通して螺挿すればよい。
【0076】
また、前記実施形態では、デフケース8のフランジ部8fとリングギヤRとの結合を複数のボルトBで結合するものを例示したが、本発明(第2の特徴を除く)では、フランジ部8fとリングギヤRとの結合を溶接(例えばレーザ溶接、電子ビーム溶接等)するようにしてもよい。
【0077】
また前記実施形態では、リングギヤRの歯部Ragをヘリカルギヤ状としたものを示したが、本発明のリングギヤは、ヘリカルギヤでなくても、駆動ギヤ31との噛合により第1軸線X1に沿う方向のスラスト荷重を受ける歯形状の他のギヤ(例えばベベルギヤ、ハイポイドギヤ等)でもよい。或いはまた、駆動ギヤ31との噛合により上記スラスト荷重を受けない歯形状のギヤ(例えばスパーギヤ)でもよい。
【符号の説明】
【0078】
B・・・・・・ボルト
H・・・・・・作業窓
R・・・・・・リングギヤ
T・・・・・・加工ツールとしてのバイト
X1,X2・・第1軸線,第2軸線
8・・・・・・デフケース
8c・・・・・ケース本体
8ci・・・・ケース本体の内面
8f・・・・・フランジ部
8fh・・・・ボルト孔
8fs・・・・フランジ部の、作業窓に臨む側の一側面としての第1側面
8fz・・・・孔としての位置決め孔
10・・・・・差動装置
20・・・・・差動機構
22・・・・・ピニオンギヤ
23・・・・・サイドギヤ
31・・・・・駆動ギヤ
81;82,82′・・第1溝部;第2溝部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8