(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】接続金具
(51)【国際特許分類】
E04B 1/02 20060101AFI20220531BHJP
E04B 1/61 20060101ALI20220531BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220531BHJP
F16B 5/10 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
E04B1/02 D
E04B1/61 503G
E04B1/58 602
F16B5/10 L
(21)【出願番号】P 2019166143
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】594100779
【氏名又は名称】三菱地所ホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099357
【氏名又は名称】日高 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179534
【氏名又は名称】関口 かおる
(72)【発明者】
【氏名】石川 一
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119990(JP,A)
【文献】特開2018-066161(JP,A)
【文献】特開2018-053617(JP,A)
【文献】特開2018-188902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/02
E04B 1/38-1/61
F16B 5/00-5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に起立する平板状の木製の構造壁と、前記構造壁に直交して配置される構造体とを接続する接続金具であって、
前記接続金具は、前記構造壁に形成された凹部の開口側に配置されて前記構造体に固定される基礎部と、該基礎部から凹部内部に向けて延設される板状の挿入板部と、を備え、
前記挿入板部には、前記構造壁に前後方向に刺通されたドリフトピンの胴部がそれぞれ配置されるスリットが左右方向に複数設けられ、
前記スリットは、前記挿入板部の上下方向における前記基礎部の反対側の端縁が開放して形成されて
おり、
前記挿入板部の左右両端に位置する前記スリットの始端は、前記挿入板部の中央側に位置する前記スリットの始端に比べて前記基礎部側に位置しており、複数の前記スリットは、前記挿入板部の左右両端から中央側に近づくにつれて、前記始端が前記基礎部から離間して形成されており、各前記ドリフトピンは自身が挿入されている前記スリットの始端側から略同一寸法離間していることで前記構造体に対して前記構造壁を相対的に傾動可能に接続していることを特徴とする
接続金具。
【請求項2】
前記スリットは、それぞれ鉛直方向に延びて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の
接続金具。
【請求項3】
前記挿入板部における前記基礎部の反対側の端縁は円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1
または2に記載の
接続金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家屋、店舗、倉庫等の木造の建物構造において構造壁と構造体とを接続する接続金具に関する。
【0002】
木造の建物に用いられる工法としては、軸組工法や枠組壁工法やラーメン工法等があり、いずれも壁を構成する柱や構造壁と、床面や天井面を構成する梁やスラブ板である構造体とが接続されるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1に示される建物構造では、壁が固定される木製の柱と木製の梁とを接続金具を用いて接続している。詳しくは、接続金具は、木製の梁にネジ固定される基礎部と、柱の上端または下端に形成された凹部の内部に向けて基礎部から延設される板状の挿入板部とを備え、挿入板部には前後方向に貫通する貫通孔が形成されており、貫通孔には柱に前後方向に刺通されたドリフトピンの胴部がそれぞれ挿通されている。
【0004】
特許文献1のような接続金具にあっては、貫通孔が挿入板部の左右方向に複数形成されており、柱と梁との水平方向の移動や柱の左右方向の変形に際して生じるせん断方向の応力を複数のドリフトピンの胴部に分散でき、これら柱と梁との接続部分における構造強度を高めることができる。尚、このような接続金具は近年、枠組壁工法において構造壁と構造体との接続にも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-104730号公報(第4頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地震などの外力が建物に作用して、柱の移動や変形によって、せん断方向の応力だけでなく、接続部分において柱と梁とが上下方向に対して傾動もしくは上下方向に互いに離間するような力が作用することがある。このような力に対して特許文献1のような接続金具にあっては、構造強度の高い金属製の挿入板部の貫通孔とドリフトピンは耐久性が高いため、木製の柱の孔部とドリフトピンとの間に応力が集中してしまい、ドリフトピンが刺通された孔部の周辺に割れ等の破損が生じる虞があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、木造の建物構造において、せん断方向の以外の応力に対しても耐久性を備える構造壁と構造体とを接続する接続金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上下方向に起立する平板状の木製の構造壁と、前記構造壁に直交して配置される構造体とを接続する接続金具であって、
前記接続金具は、前記構造壁に形成された凹部の開口側に配置されて前記構造体に固定される基礎部と、該基礎部から凹部内部に向けて延設される板状の挿入板部と、を備え、
前記挿入板部には、前記構造壁に前後方向に刺通されたドリフトピンの胴部がそれぞれ配置されるスリットが左右方向に複数設けられ、
前記スリットは、前記挿入板部の上下方向における前記基礎部の反対側の端縁が開放して形成されており、
前記挿入板部の左右両端に位置する前記スリットの始端は、前記挿入板部の中央側に位置する前記スリットの始端に比べて前記基礎部側に位置しており、複数の前記スリットは、前記挿入板部の左右両端から中央側に近づくにつれて、前記始端が前記基礎部から離間して形成されており、各前記ドリフトピンは自身が挿入されている前記スリットの始端側から略同一寸法離間していることで前記構造体に対して前記構造壁を相対的に傾動可能に接続していることを特徴としている。
この特徴によれば、接続金具の挿入板部に形成されたスリット内に構造壁を前後に貫通する孔部に挿通されるドリフトピンの胴部が配置されているため、構造壁と構造体との水平方向における相対移動を規制することができる。加えて、スリットは挿入板部の上下方向における基礎部の反対側の端縁に開放しており、ドリフトピンはスリット内にて上下方向への移動が許容されているため、地震などの外力が建物に作用して、構造壁の移動や変形によって、接続部分において構造壁と構造体とが上下方向に対して傾動もしくは上下方向に互いに離間するような力が作用した場合であっても、ドリフトピンとドリフトピンが刺通された孔部との間に応力が集中せず、木製の構造壁の破損を効果的に防止することができる。
また、構造壁と構造体とが上下方向に対して傾動したときに、移動幅の大きい左右両端のドリフトピンの移動代を大きく確保することができる。
また、ドリフトピンを上下方向に分散して形成できるので、構造壁の強度を確保できる。
【0009】
前記スリットは、それぞれ鉛直方向に延びて形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、構造壁と構造体とが水平方向に相対移動したときに各ドリフトピンが各スリットに均等に接触する。
【0012】
前記挿入板部における前記基礎部の反対側の端縁は円弧状に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、構造壁と構造体との相対移動によりドリフトピンがスリットから抜け出しても、構造壁と構造体との相対移動が収束したときにドリフトピンが挿入板部の縁部に干渉することなくスリット内に戻りやすい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例における建物構造を示す斜視図である。
【
図3】構造壁と第1梁構造体とを連結する様子を示す分解斜視図である。
【
図7】(a)は第1梁構造体と第2梁構造体との通常状態を示す説明図、(b)は第1梁構造体に対して第2梁構造体が右側に水平移動した状態を示す説明図、(c)は(b)の状態からさらに第2梁構造体が右側に水平移動した状態を示す説明図である。
【
図8】(a)はせん断金物とドリフトピンとの通常状態を示す説明図、(b)はせん断金物に対してドリフトピンが上下に移動した状態を示す説明図、(c)は(b)の状態からさらにドリフトピンが上下に移動した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る接続金具を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0015】
実施例に係る建物構造につき、
図1から
図8を参照して説明する。以下、
図1の紙面右手前側を建物構造の正面側(前方側)とし、建物構造を正面から見た左右を建物構造の左右側として説明する。
【0016】
図1に示されるように、建物構造1は、例えば、戸建て住宅やアパートなどの建物構造であって、本実施例においては2階建ての建物に適用される。尚、本実施例の建物構造1は、2階建てである形態を例示するが、平屋、または3階建て以上の建物にも適用できる。
【0017】
図1及び
図2に示されるように、建物構造1は、基礎Fと、複数の構造壁2,2’,…と、第1スラブ3(構造スラブ板)と、第1梁構造体4(構造体)と、第2スラブ5(構造スラブ板)と、第2梁構造体6(構造体)と、屋根材7と、から主に構成されている。具体的には、基礎Fの上方には、1階部分の側壁(外壁)を構成する複数の構造壁2が立設して配置されている。1階部分の構造壁2の上方には第1スラブ3が固定され、該第1スラブ3の上方には第1梁構造体4が固定されている。また、第1梁構造体4の上方には、2階部分の側壁を構成する複数の構造壁2’が立設して配置されている。2階部分の構造壁2’の上方には第2スラブ5が固定され、該第2スラブ5の上方には第2梁構造体6が固定され、第2梁構造体6の上方に屋根材7が固定されている。すなわち、構造壁2,2’が第1スラブ3及び第2スラブ5を支持しており、構造壁2,2’以外の柱を省略できるようになっている。尚、本実施例では、構造壁2,2’が側壁を構成する形態を例示したが、構造壁2,2’の外側に側壁を別途設けてもよい。
【0018】
構造壁2,2’は、例えば、厚さが150mmの集成材厚板パネルで構成されており、左右方向または前後方向(構造壁2の幅方向)に並設されることにより建物構造1の側壁を構成している。また、構造壁2同士、及び構造壁2’同士が離間した部位には、窓枠16が設置される(
図1のみ図示)。尚、構造壁2,2’同士が離間した部位には、窓枠16を設けず、開口としてもよいし、窓枠16に代えて他の構造部材を配置してもよい。
【0019】
また、基礎F及び第1梁構造体4の上方には、図示しない床板(床仕上げ材)が支持されるようになっている。また、建物構造1の1階部分または2階部分には、空間を区画する構造壁2,2’とは異なるパーティション(図示略)が設けられている。1階部分のパーティションは、第1スラブ3に吊り下げられた状態で第1スラブ3と床板との間で固定されている。すなわち、当該パーティションは、床板よりも構造強度の高い第1スラブ3に支持されるので、パーティションを安定して設置できる。尚、2階部分のパーティションについても1階部分のパーティションと同様の構成であるため、その説明を省略する。また、パーティションは、床板の上方に自立して設置されていてもよく、この場合、第1スラブ3または第2スラブ5に達しない高さのパーティションであってもよい。
【0020】
第1スラブ3は、厚さが150~210mmの複数の厚板集成材31,31’が左右方向(第1スラブ3の幅方向)に並設されて固定されることにより一体的に構成されており、1階部分の天井を構成する構造スラブ板として機能している。この厚板集成材31は、厚板集成材31’よりも前後方向に短く形成されており、第1スラブ3は上面視で略L字状を成す。
【0021】
また、第2スラブ5は、厚さが150~210mmの複数の厚板集成材51が左右方向(第2スラブ5の幅方向)に並設されて固定されることにより一体的に構成されており、2階部分の天井を構成する構造スラブ板として機能している。この厚板集成材51は、前後方向に同一長さに延設されており、第2スラブ5は上面視で長方形を成す。
【0022】
図2及び
図3に示されるように、第1梁構造体4は、複数のH形鋼41~48(金属梁)を一体的に連結した枠体に形成されている。具体的には、左右方向に延びるH形鋼41,42が前後に離間して平行に配置されており、H形鋼41,42間を繋ぐように前後方向に延びるH形鋼43,44,45,46が左右に離間して配置されている。H形鋼41,42は、厚板集成材31の前後方向の長さと略同じ長さで離間しており、厚板集成材31の延設方向(前後方向)と直交する方向に延びている。
【0023】
また、H形鋼43~46のうち最も右側に配置されるH形鋼43と、その左側に隣接するH形鋼44との間は、左右方向に延びるH形鋼47により連結されており、H形鋼44と、その左側に隣接するH形鋼45との間は、左右方向に延びるH形鋼48により連結されている。また、H形鋼43は、H形鋼41,42の右端部を連結しており、H形鋼43~46のうち最も左側に配置されるH形鋼46は、H形鋼41,42の左端部よりも右側の位置で連結している。尚、第2梁構造体6は、第1梁構造体4と同一構成であるため、第2梁構造体6の説明を省略する。
【0024】
次いで、構造壁2,2’、第1スラブ3、第1梁構造体4の詳しい連結態様について
図3~
図5に基づいて説明する。尚、構造壁2’、第2スラブ5、第2梁構造体6の連結態様は、構造壁2、第1スラブ3、第1梁構造体4の連結態様と同一であるため、その説明を省略する。さらに尚、ここでは、第1梁構造体4のH形鋼41に構造壁2,2’及び第1スラブ3が連結される形態を例示する。
【0025】
図3~
図5に示されるように、構造壁2の上端部の左右両側には、上下方向に延びる接合ボルト8が埋め込まれて設置されている。接合ボルト8はその上端部が構造壁2の上端面2aよりも上方に突出しており、接続金具12の下板部12Bに挿通させた後ナット24を螺合させることにより接続金具12と固定されている。このとき、接続金具12の下板部12Bが構造壁2の上端面2aに接触するようになっているため、接続金具12が水平方向に移動したり上下方向に対して傾動しにくく、接合ボルト8に応力が集中することを抑制でき、接合ボルト8の変形を防止できる。後に詳述するが接合ボルト8は、筒状体25に棒状体26が挿通され、離間する方向に所定のストロークを限度として相対移動可能に接続された伸縮構造となっている(
図7参照)。
【0026】
接続金具12は、第1スラブ3の切り欠き部15に配置される構造であり、その上板部12AがH形鋼41の底板にボルト及びナット17等により固定されている。詳しくは、ボルト及びナット17は、H形鋼41の起立部41bを挟んだ両側で固定されている。尚、切り欠き部15は、接続金具12を遊嵌可能な大きさを有しており、接続金具12と切り欠き部15との隙間には被覆木材18が配設されることにより接続金具12のがたつきが規制される。
【0027】
また、構造壁2の上端部の中央部には、せん断金物10(接続金具)の挿入板部10cが埋め込まれて設置されている。このせん断金物10は、構造壁2の上端部の中央部に形成された凹部2b(
図5参照)の開口部の周縁に固定される基礎部10bと、基礎部10bから凹部2bに向けて延設される板状の挿入板部10cとを備え、基礎部10bには、上方に延びるボルト10aが設けられている。
【0028】
せん断金物10は、ボルト10aとナット20によりボックス金具11に固定されているとともに、ボックス金具11は、切り欠き部15’を介してH形鋼41の底板にボルト及びナット19等により固定されている。
【0029】
また、接続金具12及びボックス金具11は、第1スラブ3の厚さと同程度の厚みを有し、第1スラブ3の切り欠き部15,15’に配置される構造であり、第1梁構造体4と上下階の構造壁2,2’とは、接続金具12及びボックス金具11を介して連結されることで、これらの固定強度を確保しながら、組み立てが容易となっている。
【0030】
また、構造壁2’の下端部の左右両側には、上下方向に延びる接合ボルト8’と、該接合ボルト8’の下端部に接続される金具22と、が埋め込まれて設置されている。金具22は、平面視矩形状をなし、H形鋼41の上板にボルト及びナット23等により固定されている。
【0031】
尚、本実施例では、接続金具12が第1スラブ3の厚さと同程度の高さを有し、接続金具12が第1梁構造体4を支持する形態を例示したが、これに限られず、例えば、接続金具12を第1スラブ3の厚さよりも低い高さに形成し、接続金具12が第1梁構造体4から若干下方に離間した位置で連結されていてもよい。
【0032】
また、構造壁2’の下端部の中央部には、凹部2b’(
図5参照)が形成されており、せん断金物10’(接続金具)の挿入板部10c’が該凹部2b’に埋め込まれて設置されている。また、せん断金物10’の基礎部10b’から下方に延びるボルト10a’は第1梁構造体4のH形鋼41に形成された貫通孔41aに上方から挿通され、ナット9により締結されている。
【0033】
また、第1梁構造体4のH形鋼41は、ネジ14と第1スラブ3のネジ孔3a等を用いて第1スラブ3に固定されている。すなわち、第1スラブ3と第1梁構造体4とは一体化され、第1スラブ3は、その構造強度が第1梁構造体4により補強されつつ支持されている。
【0034】
また、前述したように、第1スラブ3は、上面視で略L字状を成しているので、厚板集成材31’の前側の部位が第1梁構造体4よりも前方側に張り出すようになっている。すなわち、厚板集成材31’の前側の部位がキャンチレバー構造となっており、下方に構造壁2や柱などが存在しないので1階部分の空間を開放的に演出することができる。
【0035】
構造壁2は、第1梁構造体4のH形鋼41の垂直上方及び垂直下方の位置に配置されている。尚、1階部分の側壁を構成する構造壁2は、図示しないアンカーボルトや金具などを介して基礎Fに固定されている。
【0036】
次に、せん断金物10,10’の構造について
図6に基づいて説明する。尚、せん断金物10,10’の構造はほぼ同一であることから、ここでは、
図6における上側のせん断金物10’の構造について説明し、下側のせん断金物10の説明を省略する。
【0037】
図6に示されるように、せん断金物10’の挿入板部10c’は、その上方側の端縁(基礎部10b’の反対側の端縁)の中央部の上下幅が高くなるように略円弧状に形成されており、上方に開口するスリット10d,10e,10f,…が左右方向に複数設けられているとともに、同じく上方に開口する案内スリット10gが挿入板部10c’の左右方向中央部に設けられている。
【0038】
スリット10d,10e,10fは、案内スリット10gの左右両側にそれぞれ1つずつ形成されており、それぞれ上下方向(鉛直方向)に延びて形成されている。また、各スリット10d,10e,10f,…は、略同一の上下方向の寸法L1を有している。前述のように、挿入板部10c’は、中央部の上下幅が高くなるように略円弧状に形成されていることから、挿入板部10c’の最も左右両端に配置されるスリット10dの始端10j(基礎部10b’側の端部)は、基礎部10b’に最も近い位置P1に配置され、該スリット10dの挿入板部10c’の中央側に隣接するスリット10eの始端10kは、位置P1よりも基礎部10b’から離れた位置P2に配置され、該スリット10eの挿入板部10c’の中央側に隣接するスリット10fの始端10mは、位置P2よりも基礎部10b’から離れた位置P3に配置されている。
【0039】
また、案内スリット10gは、寸法L1よりも長い上下方向の寸法L2を有している(L1<L2)。また、案内スリット10gの始端10n(基礎部10b’側の端部)は、位置P2に配置されている。
【0040】
これらスリット10d,10e,10f,…及び案内スリット10gには、構造壁2’の前後方向に刺通されたドリフトピン21の胴部がそれぞれ配置されている(特に
図5及び
図7(a)参照)。構造壁2’には、前面側から後面側に向けて所定長さ延びる孔部2c’が形成されており、ドリフトピン21は孔部2c’に挿通されている(
図5参照)。尚、構造壁2には、後面側から前面側に向けて所定長さ延びる孔部2cが形成されており、ドリフトピン21は孔部2cに挿通されている。
【0041】
次いで、第1梁構造体4と第2梁構造体6とが相対的に水平移動した場合について
図7及び
図8を用いて説明する。尚、ここでは、構造壁2’と第1梁構造体4との接合部分にかかるせん断応力について説明し、構造壁2’と第2梁構造体6との接合部分にかかるせん断応力の説明を省略する。
【0042】
図7(a)に示されるように、通常時には、構造壁2’と第1梁構造体4及び第2梁構造体6とが直交するように接続されている。また、構造壁2’内には筒状体25が埋め込まれて固定されており、筒状体25内に棒状体26の上端部が遊挿されて接合ボルト8’を構成しており、筒状体25と棒状体26とは離間する方向に所定のストロークを限度として相対移動可能に接続されている。
【0043】
また、
図8(a)に示されるように、通常時には、各ドリフトピン21の胴部がせん断金物10’のスリット10d,10e,10f,…及び案内スリット10gの上下方向略中央部に配置されている。尚、ドリフトピン21の胴部はスリット10d,10e,10f,…及び案内スリット10gの左右幅よりも若干小径となっており、左右方向の移動が規制されている。
【0044】
図7(b)に示されるように、地盤の変化や経年等により構造壁2’と第1梁構造体4との間や構造壁2’と第2梁構造体6との間に歪みが生じる場合がある。具体的には、例えば、第1梁構造体4に対して第2梁構造体6が右方向に水平移動すると、構造壁2’が正面視略平行四辺形となるように変形し、これに伴い筒状体25が棒状体26に対して離間する方向に移動する。このように、筒状体25が棒状体26に対して離間して接合ボルト8’が伸長することにより、接合ボルト8’と構造壁2’との接続箇所が破損することなく、構造壁2’を変形させることができる。
【0045】
このとき、
図8(b)に示されるように、構造壁2’の変形に伴い、せん断金物10’における各ドリフトピン21にも右方向に移動させる力が作用し、各ドリフトピン21がスリット10d,10e,10f,…及び案内スリット10gを構成する右側の壁部に圧接されるとともに、案内スリット10gのドリフトピン21を回動支点としてスリット10d,10e,10f,…のドリフトピン21を上下方向に移動させる力が作用する。詳しくは、案内スリット10gよりも右側に配置されるドリフトピン21は、スリット10d,10e,10fに沿って下方に移動し、案内スリット10gよりも左側に配置されるドリフトピン21は、スリット10d,10e,10fに沿って上方に移動する。
【0046】
このように、せん断金物10’の挿入板部10c’に形成されたスリット10d,10e,10f,…及び案内スリット10g内にドリフトピン21の胴部が配置されているため、構造壁2’と第1梁構造体4との水平方向における相対移動を規制することができる。
【0047】
また、
図7(c)に示されるように、第2梁構造体6が
図7(b)の状態よりもさらに第1梁構造体4に対して右方向に水平移動すると、筒状体25が棒状体26に対して離間する方向に更に移動して、構造壁2’の左側底面が第1梁構造体4の上面から離間するように傾動するようになる。
【0048】
このとき、
図8(c)に示されるように、構造壁2’の傾動に伴って、案内スリット10gのドリフトピン21を回動支点としてスリット10d,10e,10f,…のドリフトピン21をさらに上下方向に移動させる力が作用する。詳しくは、案内スリット10gよりも左側に配置されるスリット10d,10e,10fに配置されるドリフトピン21は、スリット10d,10e,10fの上方の開口から上方に抜け出すことができる。また、最も右側に配置されるスリット10dに配置されるドリフトピン21が該スリット10dの始端10jに接触して、各ドリフトピン21の移動が規制される。
【0049】
尚、本実施例では、案内スリット10gのドリフトピン21を回動支点としてスリット10d,10e,10f,…のドリフトピン21が上下方向に移動する形態を例示したが、構造壁2’と第1梁構造体4との相対移動の状態や、構造壁2’の変形状態によって案内スリット10gのドリフトピン21が上下方向に移動することもある。この場合であっても、案内スリット10gの上下方向の寸法L2は、スリット10d,10e,10f,…の上下方向の寸法L1よりも長寸であるため、ドリフトピン21が案内スリット10gから抜け出しにくい。
【0050】
以上説明したように、せん断金物10’は、構造壁2’に形成された凹部2b’の開口側に配置されて第1梁構造体4に固定される基礎部10b’と、基礎部10b’から凹部2b’内部に向けて延設される板状の挿入板部10c’と、を備え、挿入板部10c’には、構造壁2’に前後方向に刺通されたドリフトピン21の胴部がそれぞれ配置されるスリット10d,10e,10f,…が左右方向に複数設けられ、スリット10d,10e,10f,…は、挿入板部10c’の上下方向における基礎部10b’の反対側の端縁が開放して形成されている。これによれば、スリット10d,10e,10f,…内にドリフトピン21が配置されているため、構造壁2’と第1梁構造体4との水平方向への相対移動を規制することができる。加えて、スリット10d,10e,10f,…は挿入板部10c’の上下方向における基礎部10b’の反対側の端縁に開放しており、ドリフトピンはスリット内にて上下方向への移動が許容されているため、基礎部10b’の反対側の端縁に開放しており、ドリフトピン21はスリット10d,10e,10f,…内にて上下方向への移動が許容されているため、ドリフトピン21とドリフトピン21が刺通された構造壁2’の孔部2c’との間に生じる応力を抑制でき、木製の構造壁2’の破損を効果的に防止することができる。
【0051】
具体的には、建物構造1は、木造の構造壁2’と金属製の第1梁構造体4とを接続して構成されているため、地盤の変化や経年等により構造壁2’と第1梁構造体4との間に歪みが生じた場合には、木造の構造壁2’が大きく変形することにより、建物構造1が破損することを防止できるようになっている。
【0052】
また、構造壁2’は、伸縮可能な接合ボルト8’により第1梁構造体4に接続されており、構造壁2’の変形時には、該変形に合わせて接合ボルト8’が伸長するため、構造壁2’の変形代を大きくすることができ、建物構造1の破損が効果的に防止される。
【0053】
また、構造壁2’が大きく変形したときには、せん断金物10’の挿入板部10c’のスリット10d,10e,10f,…内に構造壁2’を前後に貫通する孔部2c’に挿通されるドリフトピン21の胴部が配置されているため、構造壁2’の変形時に構造壁2’と第1梁構造体4との間に作用するせん断応力により構造壁2’と第1梁構造体4とが水平方向に相対移動することを規制できる。ここで、スリット10d,10e,10f,…は、上方に開放しているので、構造壁2’が大きく変形したときには、ドリフトピン21が上方向に移動してスリット10d,10e,10f,…の上部開口から抜け出すことができるため、ドリフトピン21とドリフトピン21が刺通された構造壁2’の孔部2c’との間に生じる応力を抑制でき、木製の構造壁2’の破損を効果的に防止することができる。
【0054】
つまり、構造壁2’を第1梁構造体4に対して大きく変形させることで建物構造1の破損を防止しながら、構造壁2’と第1梁構造体4との接続箇所の破損を防止でき、実質的に建物構造1の耐久性を大幅に高めることができる。
【0055】
尚、構造壁2’と第1梁構造体4との相対移動の状態や、構造壁2’の変形状態によってスリット10d,10e,10f,…及び案内スリット10gの各ドリフトピン21が全体的に上昇または下降することがあるが、この場合であっても、各ドリフトピン21の上下方向に移動が許容されているので、ドリフトピン21と構造壁2’の孔部2c’との間に応力が生じることを防止できる。
【0056】
また、スリット10d,10e,10f,…は、それぞれ鉛直方向に延びて形成されているので、構造壁2’と第1梁構造体4との水平方向における相対移動を確実に規制することができるとともに、構造壁2’と第1梁構造体4とが相対移動したときに各ドリフトピン21が各スリット10d,10e,10f,…に均等に接触する。換言すれば、1つのドリフトピン21に応力が集中しないので、ドリフトピン21及び木製の構造壁2’の破損を防止できる。
【0057】
また、挿入板部10c’の左右両端に位置するスリット10dの始端10jは、挿入板部10c’の中央側に位置するスリット10e,10fの始端10k,10mに比べて基礎部10b’側に位置しており、ドリフトピン21はスリット10dの始端10j側から離間している。具体的には、各ドリフトピン21は、通常状態において各スリット10d,10e,10f,…の上下方向略中央部に配置されている。これによれば、構造壁2’と第1梁構造体4とが相対移動したときに、上下への移動幅の大きい左右両端のスリット10dに配置されるドリフトピン21の移動代を大きく確保することができる。
【0058】
また、複数のスリット10d,10e,10f,…は、挿入板部10c’の左右両端から中央側に近づくにつれて、始端10j,10k,10mが基礎部10b’から離間して形成されている。具体的には、スリット10dの始端10jは、基礎部10b’に最も近い位置P1に配置され、スリット10eの始端10kは、位置P1よりも基礎部10b’から離れた位置P2に配置され、スリット10fの始端10mは、位置P2よりも基礎部10b’から離れた位置P3に配置されており、各ドリフトピン21は、通常状態において各スリット10d,10e,10f,…の上下方向略中央部に配置されている。これによれば、各ドリフトピン21を上下方向に分散して配置できるので、各ドリフトピン21を設置するための孔部2c’を構造壁2’の水平方向に並べて形成する必要がなく、構造壁2’の強度を確保できる。さらに、構造壁2’と第1梁構造体4とが相対移動したときの各ドリフトピン21の上下の移動幅に合わせてスリット10d,10e,10f,…を最小限の大きさで構成できるので、挿入板部10c’の強度を確保できる。
【0059】
また、挿入板部10c’における基礎部10b’の反対側の端縁は円弧状に形成されており、構造壁2’と第1梁構造体4との相対移動によりドリフトピン21が各スリット10d,10e,10f,…から抜け出しても、構造壁2’と第1梁構造体4との相対移動が収束したときにドリフトピン21が挿入板部10c’の縁部に干渉しにくい。加えて、各スリット10d,10e,10f,…の開口側の縁部(角部)は曲面状に形成されているので、スリット10d,10e,10f,…内にスムーズに戻りやすい。
【0060】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0061】
例えば、前記実施例では、スリット10d,10e,10f,…が鉛直方向に延びて形成される形態を例示したが、例えば、各スリットが挿入板部の左右方向中央部に向けて傾斜または円弧状に延びていてもよい。
【0062】
また、前記実施例では、スリット10d,10e,10f,…が案内スリット10gの左右両側に3つずつ形成されている形態を例示したが、スリットの数量は自由に変更することができる。また、スリットが複数設けられる場合には、案内スリットの構成を省略してもよい。
【0063】
また、前記実施例では、構造壁2が第1スラブ3を介して第1梁構造体4に固定される形態を例示したが、これに限られず、例えば、構造壁2が上面視において第1梁構造体4と前後方向または左右方向にずれた位置で第1スラブ3に固定されていてもよい。
【0064】
また、前記実施例では、せん断金物10,10’が固定される構造体として、第1梁構造体4を主に例示したが、構造体は、第1スラブ3や第2スラブ5等であってもよいし、軸組工法やラーメン工法等に用いられる梁等であってもよい。すなわち、構造体は構造壁が接続されるものであればよい。
【0065】
また、前記実施例では、第1梁構造体4が複数のH形鋼41~48を一体的に連結した枠体である形態を例示したが、H形鋼41~48は第1スラブ3を介して一体的に連結されていれば、H形鋼41~48同士が直接連結されていなくてもよい。尚、H形鋼41~48を個別に第1スラブ3に対して固定してもよいし、H形鋼41~48が一体化して第1梁構造体4を構成した後、第1スラブ3に第1梁構造体4を固定してもよい。
【0066】
また、前記実施例では、構造壁2,2’は、厚さが150mmの厚板集成材により構成されていたが、これに限られず、例えば、複数の板を繊維方向が直交するように積層接着した厚板集成材(所謂Cross Laminated Timber(CLT))で構成されていてもよい。これによれば、構造壁2,2’が曲げ等の変形を許容しつつも強度の高いCLTで構成されるため、構造壁2’が大きく変形しても構造壁2’が破損することを防止できる。
【0067】
また、前記実施例では、構造壁2でのみ第1スラブ3や第2スラブ5等を支持する形態を例示したが、柱等を補助的に配置するようにしてもよい。
【0068】
また、前記実施例では、第1スラブ3や第2スラブ5が複数の厚板集成材31,31’により構成されていたが、構造スラブ板は1枚の板材で構成されていてもよい。
【0069】
また、前記実施例では、金属梁をH形鋼として説明したが、これに限られず、例えば、L形鋼や溝形鋼などでもあってもよいし、中空または中実の角柱状の梁材等であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 建物構造
2,2’ 構造壁
3 第1スラブ
4 第1梁構造体(構造体)
5 第2スラブ
6 第2梁構造体(構造体)
10,10’ せん断金物(接続金具)
10b,10b’ 基礎部
10c,10c’ 挿入板部
10d~10f スリット
10g 案内スリット
10j~10n 始端
21 ドリフトピン
41~48 H形鋼