(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】異常な新生血管形成を伴う眼疾患を処置するためにニンテダニブを使用する組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/496 20060101AFI20220531BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220531BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220531BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220531BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220531BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220531BHJP
A61P 27/14 20060101ALI20220531BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220531BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20220531BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220531BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20220531BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20220531BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
A61K31/496
A61P27/02
A61P9/00
A61K9/08
A61P37/06
A61P29/00
A61P27/14
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
A61P33/00
A61P27/04
A61P27/06
(21)【出願番号】P 2019515767
(86)(22)【出願日】2017-05-26
(86)【国際出願番号】 US2017034795
(87)【国際公開番号】W WO2017210132
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-05-22
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521410762
【氏名又は名称】エイディーエス セラピューティクス リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ニ ジンソン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ロン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-040313(JP,A)
【文献】特表2016-501849(JP,A)
【文献】Viet Anh Nguyen Huu et al.,Light-responsive nanoparticle depot to control release of a small molecule angiogenesis inhibitor in the posterior segment of the eye,Journal of Controlled Release,2015年,200,p.71-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高リスク患者が角膜移植を受けた後の角膜移植片拒絶を処置するための、有効量のニンテダニブを含む組成物であって、ニンテダニブが前記患者の眼において異常な新生血管形成および炎症を阻害することにより移植片拒絶を予防するために有効な量で投与され、前記組成物が局所用点眼液の形態またはインプラントの形態
である、前記組成物。
【請求項2】
前記患者が、移植片対宿主病;アトピー性結膜炎;眼性酒さ;眼類天疱瘡;ライエル症候群;ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、または寄生虫感染症により誘発される新生血管形成;コンタクトレンズ誘発性新生血管形成;潰瘍;アルカリによるやけど;幹細胞欠乏;ドライアイ病;またはスティーブン・ジョンソン症候群を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ニンテダニブが
、眼用インプラントの形態で投与される、請求項1
または2に記載の
組成物。
【請求項4】
前記眼用インプラントが、半固体または固体の持続放出インプラントの形態であ
り、前記インプラントが前記対象の眼に挿入される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ニンテダニブが、局所用点眼液の形態である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
前記局所用点眼液が、罹患した眼に局所投与される、請求項5に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は、2016年6月2日に出願された米国仮特許出願第62/344,878号および2016年6月2日に出願された米国仮特許出願第62/344,870号の恩典を主張し、それら各々の全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本開示は、高リスク角膜移植患者における移植片拒絶の処置および予防のためならびに眼の前方部における異常な新生血管形成を伴う眼疾患の処置のためにニンテダニブを使用する眼用組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
異常な新生血管形成は、眼の前方部における多くの疾患に関与する。異常な新生血管形成は、高リスク角膜移植患者における移植片拒絶に関与する。これらの適応症の多くに対する現行の処置法は、改善を必要としている。本明細書に開示される方法は、現行の処置法の問題に対処し、これらの疾患に対する改善された処置を提供する。
【発明の概要】
【0004】
概要
特定の局面において、本開示は、眼の前方部における異常な新生血管形成を伴う眼疾患を処置するための方法であって、ニンテダニブまたはその薬学的に許容される塩の有効量をそのような処置を必要とする対象の眼に投与する工程を含む、方法を提供する。特定の局面において、開示される方法は、角膜移植患者において移植片拒絶を処置するか、予防するか、またはその発症を遅らせる。例えば、開示される方法は、移植片拒絶のリスクが高い角膜移植患者において移植片拒絶を処置するか、予防するか、またはその発症を遅らせる。特定の局面において、開示される方法は、高リスク角膜移植における移植片拒絶を予防するために、手術前に、手術と同時に、または手術後に実施される。
【0005】
特定の局面において、ニンテダニブは、罹患した眼に局所投与される局所用眼用製剤の形態で投与される。特定の局面において、製剤中のニンテダニブの濃度は、組成物の総重量または総容量の0.001%~10%である。例えば、水性組成物は、0.001%、0.01%、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、5.0%、または最大10%のニンテダニブを含む。特定の局面において、局所用眼用製剤は、溶液、懸濁液、ジェル、または乳濁液である。別の局面において、ニンテダニブは、罹患した眼に挿入されるインプラントの形態または半固体持続放出製剤の形態で投与される。特定の局面において、インプラント中のニンテダニブの量は、1μg~100mgである。
【0006】
「対象」という用語は、動物もしくはヒト、または動物もしくはヒトに由来する1つもしくは複数の細胞を表す。好ましくは、対象はヒトである。対象はまた、非ヒト霊長類を含み得る。ヒト対象は、患者として公知であり得る。
【0007】
他に定義がなされていない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本発明において使用される方法および材料が本明細書に記載されているが、当技術分野で公知の他の適切な方法および材料も使用することができる。材料、方法、および実施例は例にすぎず、限定は意図されていない。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、患者、配列、データベースのエントリー、およびその他の参照文献は、それらの全体が参照により組み入れられる。相反する場合、定義を含めて、本明細書が優先される。
【0008】
[本発明1001]
局所用点眼液の形態またはインプラントの形態のニンテダニブまたはその薬学的に許容される塩の有効量を対象の眼に投与する工程を含む、異常な新生血管形成を伴う眼の適応症を処置するための方法。
[本発明1002]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が、高リスク患者が角膜移植を受けた後の角膜移植片拒絶である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
ニンテダニブが、前記対象の眼において異常な新生血管形成および炎症を阻害することにより移植片拒絶を予防するのに有効な量で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が移植片対宿主病である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症がアトピー性結膜炎である、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が眼性酒さである、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が眼類天疱瘡である、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症がライエル症候群である、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、または寄生虫感染症により誘発される新生血管形成である、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症がコンタクトレンズ誘発性新生血管形成である、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が潰瘍である、本発明1001の方法。
[本発明1012]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症がアルカリによるやけどである、本発明1001の方法。
[本発明1013]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が幹細胞欠乏である、本発明1001の方法。
[本発明1014]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が瞼裂斑である、本発明1001の方法。
[本発明1015]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が血管新生緑内障である、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症がドライアイ病である、本発明1001の方法。
[本発明1017]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症がシェーグレン症候群である、本発明1001の方法。
[本発明1018]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症がマイボーム腺機能不全である、本発明1001の方法。
[本発明1019]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症がスティーブン・ジョンソン症候群である、本発明1001の方法。
[本発明1020]
前記異常な新生血管形成を伴う適応症が眼における腫瘍である、本発明1001の方法。
[本発明1021]
ニンテダニブが、局所用眼用製剤の形態または眼用インプラントの形態で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1022]
前記眼用インプラントが、半固体または固体の持続放出インプラントの形態である、本発明1021の方法。
[本発明1023]
前記インプラントが前記対象の眼に挿入される、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記局所用眼用製剤が局所用点眼液である、本発明1021の方法。
[本発明1025]
前記局所用眼用製剤が、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ジェル、ジェル形成液、リポソームもしくはミセルを含む懸濁液、噴霧用製剤、または乳濁液である、本発明1021の方法。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面からならびに特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示にしたがい高リスク角膜移植患者において移植片拒絶を予防する例示的なメカニズムを示す概略図である。
【
図2】
図2Aおよび2Bは、ウサギ角膜縫合モデルにおいてニンテダニブの存在下で角膜新生血管形成が減少したことを示すグラフである。
図2Aは第12日の結果を提供し、
図2Bは第14日の結果を提供する。各処置グループにおける角膜新生血管形成の面積が示されている(CBT-1 = ニンテダニブ眼用製剤:0.2%CBT-1 BID、0.2%CBT-1 TID;0.05%CBT-1 BID、0.0.5%CBT-1 TID;ビヒクル対象TID)。各グループとビヒクルを比較するT検定有意性レベルが、アスタリスク記号によって示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
角膜移植は、一般的な外科的手法である。角膜移植の全体的な成功率は良いものの、一部の高リスク患者においては依然として生着不全が問題となっている。これらの患者は、宿主移植部位において強い炎症および新生血管形成を有し、これらが同種移植片の免疫応答および拒絶を亢進する(Yu et al. World J Transplant. 2016; 6(1): 10-27)。生着不全のリスクを軽減するために経口免疫抑制薬が使用されることもあるが、これらは全身的な副作用を有する。開示される方法は、血管内皮成長因子(「VEGF」)および血小板由来成長因子(「PDGFR」)を介する過剰な新生血管形成を阻害し、VEGFおよび線維芽細胞成長因子(「FGF」)に関連する免疫応答を弱めることにより高リスク患者において移植片拒絶を予防する。このメカニズムは、
図1に示されている。
【0011】
角膜移植片拒絶に加えて、眼の前方部における異常な新生血管形成を伴う任意の眼の適応症を処置するために、開示される方法を使用することができる。これらの適応症は、移植片対宿主病、アトピー性結膜炎、眼性酒さ、眼類天疱瘡、ライエル症候群、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、または寄生虫感染症により誘発される新生血管形成、コンタクトレンズ誘発性新生血管形成、潰瘍、アルカリによるやけど、幹細胞欠乏、瞼裂斑、血管新生緑内障、ドライアイ病、シェーグレン症候群、マイボーム腺機能不全、スティーブン・ジョンソン症候群、眼における腫瘍を含む。
【0012】
「処置(treatment)」、「処置する(treating)」、「処置する(treat)」等の用語は、本明細書において、一般に所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを表すために使用される。この効果は、疾患もしくはその症状の完全もしくは部分的予防という点で予防的であり得、ならびに/または疾患および/もしくはその疾患に起因する副作用の部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒という点で治療的であり得る。「処置」という用語は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、(a)疾患および/もしくは症状が、その疾患もしくは症状を発症しやすい体質であり得るが未だそれを発症していると診断されていない対象において発症することを予防すること;(b)疾患および/もしくは症状を抑制すること、すなわち、それらの進展を停止させること;または(c)疾患症状を軽減すること、すなわち、その疾患および/もしくは症状を退行させることを含む。処置を必要とする者は、すでに発病している者(例えば、角膜新生血管形成が増大している者等)およびその予防が望まれる者を含む。
【0013】
ニンテダニブ{メチル(3Z)-3-{[(4-{メチル[(4-メチルピペラジン-1-イル)アセチル]アミノ}フェニル)アミノ](フェニル)メチリデン}-2-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-6-カルボキシレート}は、本明細書に記載されるようにキナーゼ阻害物質である。ニンテダニブは主として、例えば血管内皮成長因子受容体(VEGFR1~3)、血小板由来成長因子受容体(PDGFRαおよびβ)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR1~4)を含む受容体型チロシンキナーゼを阻害する。
【0014】
製剤および投薬レジメン
本明細書に記載される方法は、有効成分として本明細書に記載される方法により同定される化合物を含む薬学的組成物の製造および使用を含む。薬学的組成物自体も含まれる。
【0015】
薬学的組成物は典型的に、薬学的に許容される賦形剤を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される賦形剤」または「薬学的に許容される担体」という語は、薬学的投与に適した生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含む。
【0016】
本明細書で使用される「薬学的に許容される塩」という語句は、哺乳動物への投与に関して安全かつ有効であり、所望の生物学的活性を有する関心対象の化合物の塩を意味する。薬学的に許容される酸性塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、過リン酸塩、I 0 イソニコチン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ピルビン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、パントテン酸塩、重酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩およびパモ酸(すなわち、I,I'メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート))塩を含むがこれらに限定されない。適切な塩基性塩は、15アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛、ビスマス、およびジエタノールアミン塩を含むがこれらに限定されない。
【0017】
適切な薬学的組成物を製剤化する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005およびDrugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker, NY)シリーズの文献を参照されたい。例えば、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ジェル、ジェル形成液、リポソームもしくはミセルを含む懸濁液、噴霧用製剤、または眼科用途で使用される乳濁液は、以下の成分を含み得る:滅菌希釈液、例えば注射用水、生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;抗菌剤;抗酸化物質;キレート剤;緩衝液、例えば酢酸、クエン酸、またはリン酸および等張性調整剤、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース。pHは、酸または塩基、例えば塩酸または水酸化ナトリウムを用いて調整され得る。
【0018】
本明細書に開示される薬学的組成物は、「治療的有効量」の本明細書に記載される作用物質を含み得る。そのような有効量は、投与される作用物質の効果、または2つ以上の作用物質が使用される場合は、作用物質の併用効果に基づき決定され得る。治療的有効量の作用物質はまた、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびにその個体において所望の応答、例えば少なくとも1つの障害パラメータの改善もしくはその障害の少なくとも1つの症状の改善を誘導する化合物の能力等の要因によって変化し得る。治療的有効量はまた、組成物の任意の毒性または有害効果をその治療上有益な効果が上回る量である。
【0019】
状態の処置のための、本開示の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、ヒトであるか動物であるかによらず、対象の生理学的状態、投与される他の医薬、および処置が予防的であるか治療的であるかを含む多くの異なる要因によって変化する。処置用量は、安全性および有効性を最適化するための当業者に公知の従来的方法を用いて滴定され得る。
【0020】
注射用途に適した薬学的組成物は、滅菌性の注射可能な溶液または分散物を即時調製するための滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散物および滅菌粉末を含み得る。それは、製造および保管条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌等の微生物の混入作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)ならびにそれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散物の場合は必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成され得る。多くの例で、等張剤、例えば糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトールおよび塩化ナトリウムを組成物中に含めることが好ましい。注射可能な組成物の長期的吸収は、吸収を遅らせる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0021】
滅菌注射溶液は、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙された成分の1つまたは組み合わせと共に添加し、その後に滅菌ろ過することによって調製され得る。一般に、分散物は、基本分散媒および上記に列挙されたものの中からの必要とされる他の成分を含む滅菌ビヒクルに活性化合物を添加することによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分および任意の追加の所望の成分の粉末を事前に滅菌ろ過されたその溶液から生成する減圧乾燥および凍結乾燥である。
【0022】
1つの態様において、治療化合物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤のように、身体からの迅速な排出から治療化合物を保護する担体を用いて調製される。生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸が使用され得る。そのような製剤は、標準的技術を用いて調製することができ、また商業的に入手することができる。
【0023】
前記薬学的組成物は、投与に関する説明書と共に、コンテナ、パック、またはディスペンサに収容され得る。
【0024】
ニンテダニブの組成物および製剤は、局所的に、または半固体製剤もしくは固体インプラントの挿入によって、または当技術分野で公知の任意の他の適切な方法によって、投与され得る。本明細書に開示される作用物質をそのまま治療に使用することも可能であるが、例えば意図した投与経路および標準的薬務に関して選択された適切な薬学的賦形剤、希釈剤、または担体と混合された薬学的製剤として作用物質を投与することが好ましい場合がある。薬学的製剤は、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、および/または担体と共に、少なくとも1つの活性化合物を含む。
【0025】
組成物または製剤の投与は、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、またはそれ以上であり得る。頻度は、その処置の処置維持期で、例えば毎日または1日2回の代わりに2日または3日に1回に削減され得る。用量および投与頻度は、処置医の判断に基づき、例えば、本発明の方法により処置される状態の疾患の臨床兆候、病理学的兆候ならびに臨床および亜臨床症状、ならびに患者の病歴を考慮して調整され得る。
【0026】
処置に使用するのに必要とされる本明細書に開示される作用物質の量は、投与経路、処置を必要とする状態の性質、ならびに患者の年齢、体重、および状態によって変化すること、および究極的にはそれは担当医の裁量であることが理解されるであろう。組成物は典型的に、有効量のニンテダニブを含む。動物試験にしたがい予備的用量が決定され得、そして当技術分野で受け入れられているやり方にしたがいヒトへの投与のための用量のスケーリングが実施され得る。
【0027】
処置の長さ、すなわち、日数は、その対象を処置する医師によって容易に決定されることであるが、処置の日数は、約1日~約365日の範囲であり得る。本発明の方法により提供される場合、処置の有効性は、その処置が成功したかどうか、または追加の(または改変された)処置が必要かどうかを決定するために、処置過程の間モニタリングされ得る。
【0028】
治療化合物の用量、毒性、および治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)を決定するために、細胞培養物または実験動物において、標準的な薬学的手法により決定され得る。ニンテダニブの剤形は、当業者によって容易に決定され得、例えば、例えば当技術分野で公知の標準的方法にしたがう用量、安全性、および有効性の決定に関する文献に報告されている動物モデルにおいておよび臨床研究において取得され得る。具体的な配合、投与経路および用量は、患者の状態に照らして、個々の医師によって選択され得る。
【0029】
本発明の方法において使用するための組成物は、組成物の総重量または総容量の0.001%~10%の濃度のニンテダニブを含み得る。例えば、水性組成物は、0.001%、0.01%、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、5.0%、または最大10%のニンテダニブを含む。
【0030】
当業者によく知られているように、水溶液の眼への投与は、ドロッパーまたはピペットまたは他の専用の滅菌デバイスからの(例えば、ニンテダニブ溶液の)「点眼」または複数回の点眼の形態であり得る。そのような点眼は典型的に、最大50マイクロリットルの容量であり得るが、それよりも少ないもの、例えば10マイクロリットル未満でもあり得る。
【実施例】
【0031】
本発明は以下の実施例でさらに説明されるが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
実施例1:ウサギ角膜縫合モデル
新生血管形成のウサギ角膜縫合モデルは、異常な角膜新生血管形成を減少させる本方法の能力を実証する。
【0033】
局所用眼用製剤
リン酸緩衝溶液、pH 7.4中10%の2-ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン中に0.2%または0.05%のニンテダニブを含む局所用組成物を調製した。
【0034】
動物および処置法
13匹のメスのニュージーランドホワイト(Zealand White)種のウサギを使用して本研究を実施した。簡潔に説明すると、第1日に、新生血管形成を誘発するため、各動物の右眼の角膜上部に5本の縫合糸を設置した。これらの動物の両眼を、表1に記載されるように薬物、ビヒクル、または生理食塩水のいずれかで処置した。
【0035】
(表1)
BID:1日2回(およそ10~12時間間隔)。TID:1日3回(およそ6~8時間間隔)。OD=右眼。OS=左眼。
両眼に投薬し、投薬容量はおよそ40μL/眼であった。
注:第1日の生理食塩水の1回目の投薬は、縫合糸の設置から4時間後に行った。
【0036】
研究の間、様々な眼の適応症および体重を含む全般的な身体の状態について動物を入念に観察した。充血の分析のために、眼の画像を第7、10、12、14、21、28日に撮影した。
【0037】
データ分析
NIH ImageJ(登録商標)ソフトウェアを用いて眼の画像を分析した。各画像をImageJ(登録商標)で開き、ルーラーを用いて写真内に目盛りをつけ、縫合糸付近の角膜上の新生血管形成領域を選択ツールによって選択した。そのmm2単位の面積を、ソフトウェア内の測定ツールによって算出し、エクセルに記録し、画像をキャプチャおよび保存した。両側T検定を用いて、グループ間で有意に相違するかどうかを決定した。その結果を、比較を容易にするために、標準偏差と共に、平均のヒストグラムとしてプロットした。
【0038】
結果および考察
図2Aおよび2Bに示されるように、ニンテダニブは、縫合糸による誘発から12および14日後のウサギ角膜において縫合糸誘発性新生血管形成に対して顕著な阻害効果を示した。より高用量である0.2%ニンテダニブは、0.05%ニンテダニブよりも良い効果を示し、TID投薬のより高頻度の投薬レジメンは、BID投薬と比較してより高い効果を示した。
【0039】
まとめると、ニンテダニブは、縫合糸により誘発される角膜新生血管形成を強く阻害した。この強い活性は、VEGFR1~3およびFGFR1~2に対して強力な活性を有するニンテダニブの特別な標的プロファイルによるものであると考えられる。これらの結果は、本明細書に開示される方法を支持するものである。
【0040】
実施例2:マウス角膜移植片拒絶モデル
本実施例では、C57BL/6マウスの角膜を、記載されている通りにBALB/cマウス角膜に移植する(Sonoda et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1995 Feb; 36(2): 427-34; Invest Ophthalmol Vis Sci. 2000 Mar; 41(3): 790-8; Yamagami et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2001 May; 42(6): 1293-8)。移植後第7日に、縫合糸を除去する。マウスを2つのグループに分ける。グループ1はニンテダニブ0.2%溶液で処置し、グループ2はビヒクル溶液で処置する。処置は、移植後直ちに開始し、8週間の間のTIDで行う。記載されているように、8週間の間毎週、角膜の不透明性および移植片拒絶を評価する。
【0041】
ニンテダニブ処置グループは、8週間の実験の間、有意に高い移植片の生存率(より低い拒絶率)を示す。この結果は、ニンテダニブ0.2%溶液が角膜移植片拒絶を予防できることを示す。
【0042】
実施例3:製剤
ニンテダニブ眼用溶液
この薬物製剤は、5.5~8.0のpH範囲の、2-ヒドロキシプロピルβシクロデキストリンまたは他の類似のシクロデキストリンおよび緩衝溶液を用いて調製された等張性眼用溶液である。この製剤の機能性を強化するために、他の粘性剤、滑沢剤、保存剤が添加され得る。この眼用溶液の組成が表2に示されている。
【0043】
【0044】
ニンテダニブ眼用懸濁液
この薬物製剤は、5.5~8.0のpH範囲の、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび緩衝溶液を用いて調製された等張性眼用懸濁液である。薬物の粒子サイズは40マイクロメートル未満にされている。この製剤懸濁液の機能性を強化するために、他の粘性剤、滑沢剤、可溶化剤、および保存剤が添加され得る。その組成が表3に示されている。
【0045】
【0046】
ニンテダニブ眼用乳濁液
この薬物製剤は、等張性眼用乳濁液である。薬物を混合油相および乳化賦形剤に溶解させ、次いでこれを乳化させ、5.5~8.0のpH範囲の水相と混合する。この乳濁液製剤の機能性を強化するために、他の粘性剤、滑沢剤、可溶化剤、および保存剤が添加され得る。その組成が表4に示されている。
【0047】
【0048】
ニンテダニブ持続放出半固体製剤
この薬物製剤は、等張性持続放出半固体製剤である。薬物を、5.5~8.0のpH範囲の半固体媒体に溶解および/または懸濁させる。この持続放出半固体製剤の機能性を強化するために、他の粘性剤、滑沢剤、可溶化剤、および保存剤が添加され得る。その組成が表5に示されている。
【0049】
【0050】
ニンテダニブ持続放出インプラント
この薬物製剤は、固体インプラントである。薬物を、1つまたは複数のポリマーと混合およびブレンドする。この薬物およびポリマーの混合物を、既定温度で溶解させ、既定の直径サイズを有するフィラメントになるよう押し出す。このフィラメント製剤を、眼組織に移植することができる既定サイズのセグメントに切断する。その組成が表6に示されている。
【0051】
【0052】
非限定的に、本発明にしたがう方法において使用される実施例組成物は、示されている眼科的に許容される組成物から改変され得る。
【0053】
他の態様
本発明は、その詳細な説明に関連して説明されているが、上記の説明は例示を意図したものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するものではないことが意図されていることが理解されるべきである。他の局面、利点、および改変も、添付の特許請求の範囲の範囲に包含される。