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特許7082132燃料電池用セパレータ板の製造方法及び上記セパレータを備える燃料電池スタックの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ板の製造方法及び上記セパレータを備える燃料電池スタックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0226 20160101AFI20220531BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20220531BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20220531BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20220531BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220531BHJP
【FI】
H01M8/0226
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/0228
H01M8/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019542775
(86)(22)【出願日】2017-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 DK2017050343
(87)【国際公開番号】W WO2018072803
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】PA201670823
(32)【優先日】2016-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】519144015
【氏名又は名称】フィッシャー エコ ソリューションズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】グロマドスキー デニーズ
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-120737(JP,A)
【文献】特開2007-173028(JP,A)
【文献】特開2004-193044(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0033857(KR,A)
【文献】特表2001-514794(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165492(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0229993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも70%のカーボン粉末、0.5~5%のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、及びPTFEとは異なる10~20%の熱可塑性ポリマーの、粉末の材料ブレンドを準備する工程(全ての百分率は前記材料の質量による)、及び前記ブレンドをセパレータ板に成型する工程によって燃料電池用セパレータ板を製造する方法において、懸濁液として粉末のブレンドを準備する工程、前記懸濁液中のスラリーとして前記粉末を沈殿させる工程、前記スラリーから過剰量の液体を除去する工程及び型内の前記スラリーをセパレータ板の形状に圧縮成型する工程を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
・前記熱可塑性ポリマーを溶融させる工程及び前記熱可塑性ポリマーをカーボン粉末と混合してカーボン担持ポリマーを準備する工程;
・前記カーボン担持ポリマー混合物を混ぜ合わせてペレットにする工程;
・前記ペレットをカーボン-ポリマー粉末に粉砕する工程;
・微粉化PTFE粒子の懸濁液を準備する工程;
・前記カーボン-ポリマー粉末を前記PTFE懸濁液と混合してカーボン/ポリマー/PTFE懸濁液を準備する工程;
・凝集粒子沈殿物の湿ったスラリーが展性及び可撓性の物質として残るまで、前記カーボン/ポリマー/PTFE懸濁液を加熱して前記懸濁液から液体を蒸発させる工程;
・前記展性及び可撓性の物質から過剰量の液体を除去する工程;
・前記展性及び可撓性の物質をシートに圧縮圧延する工程;
・全ての液体残余が蒸発するまで前記シートを100℃~270℃の範囲の第2の温度に保つ工程;
・型内の前記シートをセパレータ板の形状に圧縮成型する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
・前記カーボン-ポリマー粉末を第1の液体中に懸濁させてカーボン-ポリマー粉末懸濁液を準備する工程、
・第2の液体中に懸濁した前記微粉化PTFE粒子を準備する工程;
・前記カーボン-ポリマー粉末懸濁液を前記PTFE懸濁液と混合して前記カーボン/ポリマー/PTFE懸濁液を準備する工程
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の液体がアルコールであるか、又は前記第1の液体が主成分としてアルコール若しくはアルコールのブレンドを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第1の温度が65℃~195℃の範囲である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記カーボン粉末が黒鉛粉末である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーがポリフェニレンスルフィドである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記成型する工程が40~100MPaの範囲の圧力で、かつ200~330℃の範囲の温度で行われるか、又は前記成型する工程が200~400MPaの範囲の圧力で、かつ25~200℃の範囲の温度で行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記セパレータ板がバイポーラ板であり、前記シートを、前記バイポーラ板の各面上に流路パターンを備えるバイポーラ板に成型する工程を含む、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
燃料電池スタックを製造する方法であって、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法によって複数のセパレータ板を製造する工程、前記セパレータ板の間に燃料電池膜を備える配置として前記セパレータ板を並べる工程を含み、前記膜が酸素ガスから水素燃料を分離する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタック及びその製造方法、燃料電池用セパレータ板及びその製造に関する。
【背景技術】
【0002】
セレネルギーによる国際特許出願WO2009/010066及びWO2009/010067は、プロトン交換膜(PEM)燃料電池を開示している。この電池には、主に黒鉛及びバインダーを含む硬質セパレータ板、特にバイポーラ板の間に前記膜が挟まれている。
【0003】
燃料電池スタック、特にPEM(プロトン交換膜)燃料電池用の燃料電池スタックに関し、セパレータ板という用語は、水素燃料及び酸素含有ガスの流れ用、及び可能な場合には、また、冷却用の水、トリエチレングリコール(TEG)又はシリコーンオイルの流れ用の流れ構造、通常はチャネルを備えた、膜を分離する硬質板に使用される。セパレータ板は、バイポーラ板、冷却板、陰極板及び陽極板を含む。バイポーラ板は、水素燃料を燃料電池膜に供給するための第1流れ構造を備える第1面と、反対側に、酸素を隣接する電池膜に供給するための第2流れ構造を備える第2面とを有する。酸素は、通常、空気から供給され、燃料電池に冷却効果をもたらす。燃料電池の代替的な形態では、水素を燃料電池膜に供給するための流れ構造を有する第1面を備える陰極板、及び酸素を燃料電池膜に供給するための流れ構造を備える第1面を有する陽極板が提供される。次いで、膜が陰極板と陽極板の間に提供される。任意で、陰極板又は陽極板若しくはその両方は、その反対側に、冷却剤(例えば冷却剤として水)流用の流れ構造を有する第2面を有してもよい。セパレータ板という用語はまた、冷却板に隣接した対応する陰極板及び陽極板に冷却を供給するための水流構造を両面に有する冷却板を含む。種々の形態の例は、WO2009/010066及びWO2009/010067に示されており、陰極板及び陽極板の間の冷却板の使用も開示されている。
【0004】
バイポーラ板の製造のための複合体の概略は、John Cupoletti博士により編集され2011年にWWW.intechopen.comにインターネット上で公開された「Nanocomposites with Unique Properties and Applications in Medicine and Industry」 ISBN 978-953-307-351-4の本において公開された、Yeetsornらによる「A Review of Thermoplastic Composites for Bipolar Plate Materials in PEM Fuel Cells」の論文に開示されている。この論文において、著者らは、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、液晶ポリマー(LCP)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)、及びフルオロポリマー等の熱可塑性樹脂は、バイポーラ板製造において熱硬化性樹脂より使用が少ないことについて議論している。その理由として、この論文は、熱硬化性樹脂が低い粘度を有しており、それにより伝導性フィラーをより高い割合で含むことを述べている。特に、エポキシ樹脂はポリマー複合体バイポーラ板製造のための一般的な選択として考えられている。
【0005】
バイポーラ板について、熱可塑性樹脂はUS9065086に開示され、熱可塑性及び熱硬化性樹脂の両方はUS7910501で議論されている。
【0006】
バイポーラ板の湿式積層(wet lay)製造技術は、Journal of Power Sources 165 (2007) 764-773において公開された、Cunninghamらによる「Development of bipolar plates for fuel cells from graphite filled wet-lay material and a thermoplastic laminate skin layer」という論文に開示されている。この論文において、カーボン粉末とPTFEの合剤が用いられている。
【0007】
類似のアプローチが露国特許RU2333575Cにおいて見出されており、バイポーラ板を提供する手段として金属基材上のカーボン層を開示している。この方法のより詳細には、アルコール懸濁液中のカーボン粉末及び1.5%PTFE(ポリテトラフルオロエチレンでTeflon(商標)とも呼ばれる)を混合、乾燥及び粉砕する。カーボン粉末及び15%PTFEの第2混合物を金属基材上でシートを形成する。粉砕した粉末をシート上に供給し、(250kgf/cm2=25MPa)140度で圧縮する。
【0008】
電極製造用の、カーボンと混合するためのPTFEを含むバインダー懸濁液はまた、米国特許出願US2008/00031166に開示されている。
【0009】
EP1758185には、燃料電池用セパレータを形成する方法が記載されており、前記セパレータは、79質量%の黒鉛粉末、5質量%のカーボンブラック、2質量%のPTFE粉末及び14質量%の熱的に未硬化なエポキシ樹脂を含んでいる。その複合物を金属鋳型に注入し、180℃で圧縮して、通路溝を有するセパレータを形成する。セパレータはPEM燃料電池スタックに用いられる。
【0010】
総合的な結論として、バイポーラ板について多種多様な組成物が先行技術に開示されているが、最適な製造方法及び材料についての一般的な合意はない。しかしながら、熱硬化性樹脂にしろ熱可塑性樹脂にしろ、別方向の継続的な改善及び改良に向けた明確な傾向がある。この開発の強い駆動力は、継続的に成長する燃料電池市場である。
【発明の概要】
【0011】
従って、本発明の目的は、技術的な改良を提供することである。特に、目的は、燃料電池におけるセパレータ板の改良された製造技術及び改良された材料を提供することである。この目的は、特許請求の範囲及び以下により詳細に記載するようなセパレータ板及び上記板を備える燃料電池スタックの製造方法で達成される。セパレータ板、例えばバイポーラ板の定義は、上述の導入部で述べた。
【0012】
燃料電池用セパレータ板を製造する方法は、少なくとも70%のカーボン粉末、0.5~5%のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、及びPTFEとは異なる10~20%の熱可塑性ポリマーの材料ブレンドを準備する工程及び前記ブレンドをセパレータ板に成型する工程を含む。全ての百分率は、プロセスに関与する液体の蒸発後の最終的なセパレータ板の材料の質量による。
【0013】
カーボン粉末は電気伝導性であるべきである。カーボン粉末の例は、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ又はアモルファスカーボンである。最初の2種のカーボンが好ましい。通常、カーボンブラック粉末における粒子の大きさは、サブミクロン範囲、例えば20nmと100nmの間の平均サイズである。黒鉛粉末は、その平均粒子サイズが0.1~20ミクロンの範囲であるが、通常0.25~5ミクロンの範囲である。
【0014】
熱可塑性ポリマーの例は、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、セルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、シクロ-オレフィンコポリマー(COC)、ポリアミド(PA)、ポリアミド-イミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリ-1-ブテン(PB)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、ポリ乳酸(PLA)、ポリクロロトリフルオロエテン(PCTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレン(PE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びその混合物である。ポリマーとしてポリフェニレンスルフィド(PPS)を用いると良好な実験結果が得られた。PPSはその化学的耐性と安定性のために魅力的な候補である。
【0015】
例えば、PTFEは微粉化PTFEの粉末として提供される。粒子サイズの例は、0.2~10ミクロンの範囲、任意には0.5~5ミクロンの範囲又は更に0.5~2ミクロンの範囲である。
【0016】
カーボン粉末、熱可塑性ポリマー、及びPTFEを、懸濁液中の粉末のブレンドとして準備し、粉末を懸濁液中でスラリーとして沈殿させる。任意で、過剰量の液体をスラリーから除去してもよい。スラリーを、例えば、最初に議論したような、一面又は両面に流路パターンを含んでもよいセパレータ板の形状、例えば、バイポーラ板、陰極板、陽極板又は冷却板の形状に型内で圧縮成型する。
【0017】
例えば、カーボン粉末を溶融した熱可塑性ポリマーと混合し、その混合物を混ぜ合わせてペレットにする。懸濁液中の微粉化PTFE粒子と混合する前に、固められたペレットを、微細なカーボン-ポリマー粉末に粉砕する。
【0018】
原理的には乾燥カーボン-ポリマー粉末を混合してPTFE懸濁液にすることは可能だが、いくつかの実施形態では、PTFE懸濁液と混合する前に、カーボン-ポリマー粉末を第1の液体中に懸濁させることが好ましい。第1の液体としては、アルコール又はアルコールを主に含む液体が良好な選択である。アルコールは、カーボン-ポリマー粉末の詰まり(clogging)を防止するために好ましい主要成分である。アルコールの例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソ-プロパノール、ブタノール、イソ-ブタノール、ペンタノール、イソ-ペンタノール、ヘキサノール、イソ-ヘキサノール、ヘプタノール、イソ-ヘプタノール、オクタノール、イソ-オクタノール又はこれらの混合物である。アルコールは、疎水性であるカーボンの界面活性剤として作用し、その表面に吸着し、それによってPTFEの水性懸濁液によるカーボン粒子の濡れ性を改善する。好ましい界面活性剤はイソ-プロパノールであり、これは優れた表面活性、高い水溶性に加えて比較的低い沸点を有する。
【0019】
第2の液体はこのPTFE懸濁液に用いられ、例えば水又は水を主に含む液体である。任意で、懸濁液中の粒子状PTFEの詰まりを更に防ぐために、懸濁液は界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤の例はTriton X-100(商標)(SigmaAldrich(登録商標)から市販されている)であり、これは非イオン性であり、親水性のポリエチレンオキシド鎖及び芳香族炭化水素の親油性基又は疎水性基を有する。炭化水素基は4-フェニル基である。式はC14H22O(C2H4O)n(n=9~10)である。任意で、懸濁液は50~60%のPTFE、6~12%の非イオン性界面活性剤、及び残余の脱イオン水を含んでもよい。
【0020】
有利には、PTFE水懸濁液は、カーボン-ポリマー粉末アルコール懸濁液と混合する前に、PTFE濃度に関して調節される。カーボン-ポリマー粉末アルコール懸濁液と混合する際のPTFEの濃度が高いと、避けるべきPTFE粒子の凝集が高確率で起こり得ることが判明した。一方で、(SigmaAldrich(登録商標)から)購入したPTFE懸濁液は、水中の60%PTFEを含み、これは有利には、カーボン-ポリマー粉末アルコール懸濁液と混合する前に、脱イオン水を用いて2~10%、例えば4~8%の範囲のPTFE濃度に希釈される。6%PTFE懸濁液で良好な結果が実験的に得られた。
【0021】
2つの懸濁液の混合物を65℃~195℃の範囲の温度まで加熱する。温度の選択は、アルコールの種類に依存し、当該アルコールが沸騰して、それにより少なくとも部分的に蒸発するように選択される。65℃の下限はメタノールの沸点によって決定され、195℃の上限はオクタノールの沸点によって決定される。第1の液体が水に加えてアルコールのブレンドを含む場合、最も低い沸点を有する液体、例えば64.7℃の沸点を有するメタノールが、液体の成分の次に高い沸騰、例えば水の100℃まで温度が上昇した後に最初に蒸発するように、液体中の温度が段階的に上昇する。イソ-プロパノールのような、水と共沸混合物を形成するアルコールの場合、この混合物は、純粋なイソ-プロパノールの沸点よりも低い温度で(80.4℃対82.5℃)、かつ液体成分が分離せずに沸騰することも指摘されている。
【0022】
混合物を2~20分の範囲の時間、この温度で維持することで粒子の塊のスラリーが得られ、これは、展性(malleable)及び可撓性の(pliable)物質に変わるスラッジを沈殿させる。
【0023】
いくつかの実施形態では、いくらかのアルコールの残留物は、以下で説明するように、その後の圧延プロセスにおいて有用であるため、沸騰及び蒸発手順を、全ての液体、特にアルコールが蒸発する前に停止させる。例えば、スラッジが乾燥するかなり前、及びいくつかの実施形態では、アルコールが完全に蒸発する前に、蒸発を停止させる。蒸発工程後の残った液体レベルが、例えば残った水に起因して、スラッジレベルをかなり超える場合、例えばスラッジの表面からそれを注ぎ出す(pouring it off)ことによって、残った液体を除去する。
【0024】
このように、展性及び可撓性の物質を、室温又は高温で、上記物質が未だ液体、通常アルコール、及び潜在的に存在してもよい少量の水で湿っている間に、圧延圧縮によってシートに圧延する。アルコールの残余は、PTFEに対する可塑剤としての役割を果たし、PTFEが圧延圧縮にさらされると黒鉛/ポリマー複合体と共に繊維状構造を作ると考えられる。シートは、更に100℃~270℃の範囲の温度、10~60分の範囲で維持されて、全ての液体残余、例えば、アルコール、水及び潜在的に存在してもよい界面活性剤、例えばTriton X-100(商標)を除去する。カーボン/ポリマー混合物の圧延プロセスの例は、US2005/0271798に開示されている。この方法に関連して、同様の圧延手順を適用することができる。
【0025】
圧延された構造体は、セパレータ板が形成される固定された型の中で、加圧及び高温下で成型される。例えば、成型する工程は、20~60MPaの範囲、任意で30~50MPa範囲であってもよい圧力で行う。適切な温度は、通常360~380℃の範囲(PTFEの結晶融点を僅かに上回る)であるPTFEの焼結温度をかなり下回る、250~320℃の範囲、例えば280~300℃の範囲である。PTFEを焼結温度まで又は焼結温度を超えて加熱すると、避けるべきPTFEの分解が起こる。
【0026】
型内のセパレータ板の構造化は、流れパターン、例えば水素燃料、酸素含有ガス、又は冷却剤、例えば水、TEG又はシリコーンオイル等の液体冷却剤の流れ用のチャネルの形成を含んでもよい。成型後は、通常、セパレータ板の機械加工による更なる構造化は必要ない。
【0027】
最終的なセパレータ板は、10~20%の熱可塑性ポリマー、0.5~5%のPTFE、及び少なくとも70%のカーボン粉末、例えば少なくとも75%のカーボン粉末を含む。例えば、最終的なセパレータ板におけるPTFE濃度は、1~3質量%の範囲である。上記板は、優れた温度安定性、化学的耐性、及び高電気伝導性を実験的に示した。従って、これは燃料電池システム、特に燃料電池スタックにおけるセパレータ板、例えばバイポーラ板に適した候補である。
全ての百分率は質量による相対濃度である。
【0028】
本発明を、図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、バイポーラ板、膜、シーラント及び端板を示す本発明に係る燃料電池スタックアセンブリの分解斜視図である。
図2図2は、(左から右に向かって)PEMバイポーラ板の陽極側を密封するためのシーラント;PEMバイポーラ板;PEMバイポーラ板の陰極側を密封するためのシーラント;及び最後に膜を含む、一つの「サンドイッチ要素」の陽極側の斜視図である。
図3図3は、(左から右に向かって)膜;PEMバイポーラ板の陰極側を密封するためのシーラント;PEMバイポーラ板;及び最後にPEMバイポーラ板の陽極側を密封するためのシーラントを含む、一つの「サンドイッチ要素」の陰極側の斜視図である。
図4図4は、燃料電池スタックの原理を図示したものであり、バイポーラ板が電解膜の間に使用されている。
図5図5は、セパレータ板の製造方法の段階を図示したものである。
図6図6は、代替的な燃料電池スタックの原理を図示したものであり、陰極板と陽極板とが、陰極板と陽極板の間に冷却区分を有して連続して配置されている。
図7図7は、更に代替的な燃料電池スタックの原理を図示したものであり、冷却板が陽極板と陰極板の間に挟まれており、冷却が冷却板と陰極板の間の体積内、及び冷却板と陽極板の間の体積内に供給される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、端板92の間に組み立てられた複数のバイポーラ板1を含むPEM燃料電池スタック90を図示したものである。隣接するバイポーラ板1の間のプロトン交換膜(PEM)40は、シーラント70及び50によって周囲環境に対して密封される。図2は、膜40及びPEMバイポーラ板の陽極側を密封するためのシーラント70及びPEMバイポーラ板の陰極側を密封するためのシーラント50を含むバイポーラ板1アセンブリの陽極側に向かった斜視図である。これに対して、図3は、バイポーラ板1アセンブリの陰極側に向かった斜視図である。陽極側は、膜40に沿った酸素ガスの流れ用の、及び酸素ガス、通常空気による十分な冷却用の蛇行チャネルパターンを含む。陰極側は、膜40に沿った水素の輸送用の直線チャネルを含む。図4は、バイポーラ板10を備えた上記形態を図示したものであり、その陰極側28では、電解膜30にプロトンを供与するために水素流れが供給され、その陽極側26では、膜30からのプロトンを受け取るために、酸素又は空気若しくは他の流体が流れる。陽極の流体、例えば酸素又は空気は、バイポーラ板を冷却するための冷却媒体として使用される。バイポーラ板1の陽極側26は、上述したように蛇行チャネルパターンを備える。チャネルパターンの代表的な詳細及びバイポーラ板の他の詳細は、WO2009/010066及びWO2009/010067で説明されている。
【0031】
図5を参照すると、上記バイポーラ板の製造のために、製造方法が説明されている。
【0032】
平均粒子サイズが0.25~5ミクロンの範囲である黒鉛粉末を準備し、10~20%の熱可塑性ポリマーと混合する。図5のステップ11を参照。百分率は質量%であり、カーボン及びポリマーの混合物の質量に対して相対的に計算される。熱可塑性ポリマーの例はPPSであり、これはその高い化学的安定性のために有利である。
【0033】
ステージ12に示されるように、融解するまでポリマーを加熱し、例えば溶融ポリマーをカーボン粉末と共に撹拌することによって、カーボンをポリマーと共に十分に混合する。次いで、例えばペレット製造機を備える混合機を用いることによって、混合物を混ぜ合わせてペレットにする。
【0034】
固めたら直ちに、ペレットを粉砕機の中で微細粉末に粉砕する。ステップ13を参照。典型的な平均粒子サイズは数マイクロメートルであり、例えば2~5マイクロメートルの範囲である。十分な混合によって、粉末の各粒子はカーボン及びポリマーを含む。しかしながら、ポリマーの濃度は非常に低く、即ちたった10~20%であるため、適切な電気伝導性が維持されている。例えば、混ぜ合わされた材料の比抵抗は、25℃で5~12mΩ・cmである。
【0035】
次いで、粉砕した微細カーボン-ポリマー粉末をアルコール中に懸濁させる。ステップ14を参照。懸濁のために、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソ-プロパノール、ブタノール、イソ-ブタノール、ペンタノール、イソ-ペンタノール、ヘキサノール、イソ-ヘキサノール、ヘプタノール、イソ-ヘプタノール、オクタノール、イソ-オクタノール又はそれらの混合物等は、好ましい主成分である。アルコールは、疎水的なカーボンの界面活性剤として作用して、その表面に吸着し、それによってPTFEの水性懸濁液によるカーボン粒子の濡れ性を改善する。好ましい界面活性剤はイソ-プロパノールであり、これは優れた表面活性、高い水溶性に加えて比較的低い沸点を有する。
【0036】
カーボン-ポリマーアルコール懸濁液を、微粉化粒子状PTFEを含む水ベースの懸濁液と混合する。ステップ16を参照。例えば、PTFE粒子は、0.2~10ミクロンの範囲、任意で0.5~5ミクロンの範囲、又は更には0.5~2ミクロンの範囲であってもよいサイズを有する。任意で、懸濁液中の粒子状PTFEの詰まりを更に防止するために、懸濁液は界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤の例はTriton X-100(商標)であり、これは非イオン性であり、親水性のポリエチレンオキシド鎖及び芳香族炭化水素の親油性基又は疎水性基を有する。炭化水素基は4-フェニル基である。式はC14H22O(C2H4O)n(n=9~10)である。
【0037】
選択肢として、アルコールと混合している間のPTFE粒子の凝集のリスクを低減するために、カーボン-ポリマー粉末アルコール懸濁液と混合する前に、PTFE水懸濁液を水で希釈して、PTFE濃度を、例えば2~10%に下げてもよい。
【0038】
2つの懸濁液の混合物を65℃~195℃の範囲の温度まで加熱する。ステップ17参照。温度は、使用するアルコールの沸点によって決定される。混合物を2~20分の範囲の時間、この温度で維持することで、凝集粒子のスラリーが得られ、これは沈殿して、展性及び可撓性の物質として残るスラッジになる。スラッジが乾燥するほど液体レベルが低下する前に蒸発を停止する。また、一般に、いくらかのアルコールの残留物は、圧延プロセスに望ましい。液体レベルがスラッジレベルをかなり超える場合、例えばスラッジの表面からそれを注ぎ出すことによって、残った液体を除去する。ステップ18を参照。
【0039】
物質が液体、一般にはアルコール、及び潜在的に存在してもよい少量の水で未だ湿っている間に、圧延圧縮によって展性及び可撓性の物質をシートに圧延する。ステップ19を参照。加熱ローラを使用せずに圧延を行うことができるが、高温、例えば65℃~195℃の範囲の温度で圧延すると、残余液体の蒸発がより速い。アルコールの残余はPTFEに対する可塑剤としての役割を果たし、PTFEが圧延圧縮にさらされると黒鉛/ポリマー複合体と共に繊維状構造を作ると考えられる。
【0040】
圧延されたシートを、100℃~270℃の範囲の温度、10~60分の範囲で更に維持して、全ての液体残余、例えばアルコール、水及び潜在的に存在してもよい界面活性剤、任意でTriton X-100(商標)を除去する。ステップ20を参照。
【0041】
カーボン/ポリマー混合物の圧延プロセスの例は、US2005/0271798に開示されている。この方法に関連して、同様の圧延手順を適用することができる。
【0042】
圧延された構造体は、セパレータ板が形成される固定された型の中で、加圧下、可能な場合には高温で成型される。ステップ21を参照。例えば、成型する工程は、高温で、かつ20~60MPaの範囲、例えば30~50MPaの範囲の圧力で行われる。適切な高温は、250~320℃の範囲、例えば280~300℃の範囲であり、この範囲はPTFEの焼結温度、典型的には360~380℃の範囲(PTFEの結晶融点を僅かに上回る)、よりかなり低い温度である。PTFEを焼結温度まで、又は焼結温度を超えて加熱すると、避けるべきPTFEの分解が起こる。代替として、成型する工程は、より低い温度かつより高い圧力で行われる。例えば、成型する工程は、室温の間の温度又は25℃と200℃の間の温度、200~400MPaの圧力で行われる。
【0043】
型内でのセパレータ板の構造化は、流れパターン、例えば、水素燃料、酸素含有ガス、又は冷却剤、例えば水等の液体冷却剤の流れ用のチャネルの形成を含んでもよい。成型後、一般に、セパレータ板の機械加工による更なる構造化は必要ない。
【0044】
本製造方法は、バイポーラ板に適しているだけではなく、陽極板、陰極板及び冷却板等の他のセパレータ板にも同様に十分に適用されるものである。その例を、図6及び図7に示す。
【0045】
図6は、一実施形態を示しており、陽極側26を備える陽極板34が、陰極側28を備える陰極板36及び、冷却流体32、例えば2枚の板の間の空間32の中のガス又は液体と結合している。空間32において、陽極板34又は陰極板36は、上述したように、冷却流体による効率的な冷却のために、チャネルパターン、例えば蛇行チャネルパターンを備える。
【0046】
図7は、更なる代替を示しており、陽極板34と陰極板36とが、2つの冷却スペース32(一方の冷却体積は冷却板38と陽極板34の間であり、他方の冷却体積は冷却板38と陰極板36の間である)が提供されるように冷却板38を挟んでいる。冷却板38は、その両面にチャネルパターン、例えば上述したような蛇行チャネルパターンを備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7