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特許7082135三フッ化窒素ガス製造用電解槽及びその隔壁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】三フッ化窒素ガス製造用電解槽及びその隔壁
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/02 20060101AFI20220531BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20220531BHJP
   C25B 1/245 20210101ALI20220531BHJP
   C25B 9/09 20210101ALI20220531BHJP
   C25B 9/17 20210101ALI20220531BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20220531BHJP
【FI】
C25B13/02 302
C25B13/08 305
C25B1/245
C25B9/09
C25B9/17
C25B9/63
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019551185
(86)(22)【出願日】2018-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2018039437
(87)【国際公開番号】W WO2019087885
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2017210133
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 公敬
(72)【発明者】
【氏名】今尾 周二郎
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-130790(JP,A)
【文献】特開平3-249189(JP,A)
【文献】特開2006-336035(JP,A)
【文献】特開2008-240058(JP,A)
【文献】特開2009-263765(JP,A)
【文献】特開2013-27090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極から発生するガスと、陰極から発生するガスとを隔離するために、陰極及び陽極のうち一方の電極の上部域を被覆する隔壁を有し、
前記隔壁は、その下端側領域に、横方向成分を有する方向に延びる複数本のリブを有しており、
前記リブ及び前記隔壁は、フッ素樹脂からなり、一体に形成されている、三フッ化窒素ガス製造用電解槽。
【請求項2】
前記隔壁が金属の板、或いは、別の分離可能なフッ素樹脂の板を有していない、請求項1に記載の電解槽。
【請求項3】
前記リブが、前記隔壁における前記電極の一面に対し平行な面に設けられている、請求項1又は2に記載の電解槽。
【請求項4】
前記隔壁及び前記リブが前記電極における上部域を取り囲んでいる、請求項1ないし3の何れか1項に記載の電解槽。
【請求項5】
前記隔壁の一の面にリブを複数本有している、請求項1ないし4の何れか1項に記載の電解槽。
【請求項6】
前記隔壁の周囲を囲むように環状に形成されたリブが2以上存在する、請求項に記載の電解槽。
【請求項7】
リブの幅Wの隔壁の厚みTに対する比率(W/T)が0.5以上10以下である、請求項1ないしの何れか1項に記載の電解槽。
【請求項8】
リブの幅Wの隔壁の厚みTに対する比率(W/T)が1以上5以下である、請求項に記載の電解槽。
【請求項9】
リブの高さHの隔壁の厚みTに対する比率(H/T)が0.5以上である、請求項1~の何れか1項に記載の電解槽。
【請求項10】
リブの高さHの隔壁の厚みTに対する比率(H/T)が1以上5以下である、請求項に記載の電解槽。
【請求項11】
リブ間の距離D2の隔壁の厚みTに対する比率(D2/T)が0.1以上20以下である、請求項1~10の何れか1項に記載の電解槽。
【請求項12】
リブ間の距離D2の隔壁の厚みTに対する比率(D2/T)が0.1以上10以下である、請求項11に記載の電解槽。
【請求項13】
前記リブが、前記隔壁の下端から上側に離間した位置に設けられている請求項1~12の何れか1項に記載の電解槽。
【請求項14】
最も隔壁の下端側に位置するリブの下端と、隔壁の下端との距離D1と、隔壁の厚みTとの比(D1/T)が0以上5以下である、請求項13に記載の電解槽。
【請求項15】
三フッ化窒素ガス製造用電解槽の陽極及び陰極のうち一方の電極の上部域を被覆するために用いられる隔壁であって、
前記隔壁は、その一端部側が電解槽の上部に固定されて用いられるとともに、その他端部側の壁面において、それら両端部が対向する方向と垂直な方向成分を有する方向に延びる複数本のリブを有しており、
前記隔壁は、フッ素樹脂からなり、前記リブと一体に形成されている、三フッ化窒素ガス製造用電解槽用の隔壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三フッ化窒素ガス製造用電解槽及び該電解槽に用いる隔壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気分解によって三フッ化窒素を製造する方法が知られている。電解法による三フッ化窒素の製造としては、例えばフッ化アンモニウム-フッ化水素系溶融塩電解により、以下の反応式により三フッ化窒素を製造する方法が知られている。
【0003】
(陽極)NH +7F→NF+4HF+6e
(陰極)6H+6e→3H
【0004】
上記反応式の通り、電解法による三フッ化窒素の製造においては陽極から三フッ化窒素が発生し、陰極から水素ガスが発生する。この2つのガスが混合すると爆発を引き起こす危険性がある。
このため従来から、陽極から発生する三フッ化窒素と、陰極から発生する水素ガスとの混合を防止するための隔板を電解槽に設けることが行われている。
例えば、特許文献1には、陽極から発生するガスと陰極から発生するガスとを隔離するための樹脂製隔板の下端の周囲に、ニッケル板又はフッ素樹脂板を溶接した電解槽が記載されている。
特許文献2には、三フッ化窒素製造用電解槽において電極を囲むために設けられるコレクタであって、その下側に、補強用の金属製リングを挿入可能な補強リング結合部を設け、この補強リング結合部に補強リングが安着されたコレクタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-336035号公報
【文献】韓国公開特許第10-2017-0040109号公報
【発明の概要】
【0006】
電解法による三フッ化窒素の製造は、通常、長時間、高温の電解液に隔壁を浸漬させて行う。このため、電解槽の運転時間が経過するに従い、隔壁における浸漬部分が変形し、隔壁として効果が発揮できないという問題がある。
【0007】
特許文献1は溶接により補強用の板材を樹脂製隔板に設けて樹脂製隔板を補強するが、補強材としてニッケル板を使用する場合は、溶接部分や樹脂製隔板材そのものに電解液が浸透することを完全に抑えられず、長時間の運転によって補強用ニッケル板の腐食やガスの発生が起こり、樹脂製隔板が変形する恐れがある。補強材としてフッ素樹脂板を使用する場合についても、溶接部分や樹脂製隔板材そのものに電解液が浸透することによる変形が生じる恐れがある。
更に、特許文献2に記載された補強リング結合部の形状では、補強の効果は限定的である。また特許文献2に記載されたように、内部に金属製リングを挿入する構造を形成する場合も、リングの挿入口からの電解液の浸透による金属製リングの腐食やガスの発生による補強部の変形の恐れがある。
【0008】
本発明は、上記のような従来の方法による問題点を解決する電解槽及び隔壁を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記目的を解決すべく鋭意検討を進めた結果、三フッ化窒素製造用電解槽について、フッ素樹脂からなる隔壁に当該隔壁と一体形成されたリブを設けることにより、腐食の恐れがなく、また隔壁の変形が効果的に抑制されて、電解槽を長時間安定的に運転できることを見出した。
【0010】
本発明は上記の知見に基づくものであり、
陽極から発生するガスと、陰極から発生するガスとを隔離するために、陰極及び陽極のうち一方の電極の上部域を被覆する隔壁を有し、
前記隔壁は、前記電極の一面と対向する壁面を有しており、
前記壁面は、その下端側領域に、横方向成分を有する方向に延びるリブを有しており、
前記リブ及び前記隔壁は、フッ素樹脂からなり、一体に形成されている、三フッ化窒素ガス製造用電解槽を提供するものである。
【0011】
また本発明は、三フッ化窒素ガス製造用電解槽の陽極及び陰極のうち一方の電極の上部域を被覆するために用いられる隔壁であって、
前記隔壁は、その一端部側が電解槽の上部に固定されて用いられるとともに、その他端部側の壁面において、それら両端部が対向する方向と垂直な方向成分を有する方向に延びるリブを有しており、
前記隔壁は、フッ素樹脂からなり、前記リブと一体に形成されている、三フッ化窒素ガス製造用電解槽用の隔壁を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態である電解槽の一例を示す縦断面図である。
図2図2は、図1におけるI-I’線矢視図を示す。
図3図3は、図1における隔壁を、下から見た斜視図を示す。
図4図4は、別の形態の隔壁について、図1と同様の位置で切断した縦断面図を示す。
図5図5は、更に別の形態の隔壁について、図3に相当する斜視図を示す。
図6図6は、更に別の形態の隔壁について、図3に相当する斜視図を示す。
図7図7は、更に別の形態の隔壁について、図3に相当する斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の電解槽及び隔壁の好ましい実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明の範囲は以下に説明する範囲に拘束されることはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で変更することが可能である。
【0014】
本発明の電解槽は、三フッ化窒素製造用に用いられる。三フッ化窒素は、フッ化アンモニウム等のアンモニウム塩の電解フッ素化工程によって得られる。
【0015】
図1には、本発明の電解槽の一実施形態が示されている。
図1に示すように、電解槽1は、陽極11及び陰極12を有している。陽極11及び陰極12には、それぞれ陽極接続棒3及び陰極接続棒4が取り付けられている。陽極接続棒3及び陰極接続棒4は、電解槽蓋体9にそれぞれ固定用袋ナット20及び21にて固定されている。蓋体9と陽極11及び陰極12とは、絶縁体17及び18にて絶縁されている。また、蓋体9は、ボルトナット25によって、電解槽本体19の開口部から外方に張り出したフランジ31に着脱自在に固定されている。電解槽蓋体9の形状は、図1に示すような平坦な天面部を構成する形状に限定されず、当該蓋体9に隔壁を設けることで、電解槽における陽極11及び陰極12それぞれから発生する気体の混合を防止可能な形状であればよい。
【0016】
図1及び図2に示すように、電解槽1には、陽極11から発生するガス及び陰極12から発生するガスの混合を防止するための隔壁10が設けられている。
【0017】
隔壁10は、内部に中空部を有する筒状をしており、その筒状の軸方向の一端部10e側が蓋体9に固定されて電解槽1内に配置されている。隔壁10は、その上端部10eにフランジ10gを有していてもよく、フランジ10gを蓋体9の上面又は下面に固定して隔壁10を蓋体9に取り付けてもよい。以下、蓋体9に固定された上記一端部10eを固定端部10e又は上端部10eともいう。前記軸方向における隔壁10の他端部10f側の領域は、別部材によって固定されずに、電解液中に浸漬される。この他端部10fを、自由端部又は下端部ともいう。図1において後述する鉛直方向Yは、隔壁10の端部10e、端部10f同士が対向する方向である。
【0018】
隔壁10は、陽極11及び陰極12のうち、一方の電極の上部域を被覆するものであり、本実施形態では陽極11を被覆している。本明細書中、被覆とは、直接の接触による被覆ではなく、被覆する対象物と離間した状態での被覆を指すことが好ましい。隔壁10は陽極11から発生するガス及び陰極12から発生するガスの混合を防止する機能を有すれば、陰極12及び陽極11のうち、一方の電極上部域の一部のみを被覆するものであってもよく、当該電極の上部域全体を被覆するものであってもよい。本実施形態において隔壁10は、蓋体9に対して着脱自在に設けられているがこれに限定されず、蓋体と一体に成型されて着脱不能となっていてもよい。
【0019】
図1及び図2に示すように、電解槽1の上部の気相部は、陽極11と陰極12との間を、隔壁10により区画することによって、陽極11から発生するガスが存在する気相部80と、陰極12から発生するガスが存在する陰極気相部81とに分離されている。電解時には、隔壁10で隔離された陽極気相部80及び陰極気相部81に希釈ガスとして窒素ガス(N2)等の不活性ガスを導入してもよい。生成した陽極発生ガスである三フッ化窒素ガスと陰極発生ガスである水素ガスは、電解槽蓋体9に設けた陰極ガス発生出口管26から陰極ガスが陰極ガス出口ライン(不図示)へ、陽極ガス発生出口管28から陽極ガスが陽極ガス出口ライン(不図示)へそれぞれ導出される。
【0020】
図2に示す例では、隔壁10は、鉛直方向(図1のY方向)からみたときに、陽極11を周方向に取り囲んでいる。具体的には、隔壁10は、鉛直方向(図1のY方向)の下側からみて矩形状をしている。しかしながら、隔壁10は、陰極12と陽極11との間における電解槽の上部域を区画するものであれば、この構成に限定されない。例えば隔壁10は陰極12と陽極11との間を区画する板状であってもよく、或いは陽極11に代えて陰極12を取り囲んでいてもよい。
【0021】
図1及び図2に示すように、隔壁10は陽極11の上部域を取り囲んでいるところ、該隔壁10は、該隔壁10が取り囲む陽極11の一面11a、11bと対向する壁面10a、10bに、リブ50、51を有している。陽極11及び陰極12の形状は限定されるものではないが、通常、図1に示すように、電解槽の鉛直方向Yの下側から見たときに多角形状をしている。隔壁10は、該隔壁10が取り囲む電極(本実施形態では陽極11)の一面と平行な壁面に、リブ50、51を有していることが、変形防止効果が高いために好ましい。
【0022】
例えば図3に示す例では、陽極11は直方体状をしており、当該直方体の辺に沿う方向として、電解槽1内における鉛直方向Yと、それに直交する厚さ方向Zと、その厚さ方向Z及び鉛直方向Yと直交する幅方向Xを有している。陽極11の幅方向Xの寸法は、厚さ方向Zよりも大きい。陽極11は板状であることが好ましい。以下では、直方体状の陽極11の各面のうち、鉛直方向Yに延びる辺と幅方向Xに延びる辺に囲まれる表面を陽極11の板面といい、鉛直方向Yに延びる辺と厚み方向Zに延びる辺とに囲まれる面を陽極11の側面といい、幅方向Xに延びる辺と厚み方向Zに延びる辺とに囲まれる面を陽極11の上面及び下面という。
本実施形態において、隔壁10は、板面11a、11bに対向する壁の一対の面10a、10bそれぞれに、リブ50、51を有している。隔壁10の面10a、10bは、陽極11の板面11a、11bと平行な面であることが好ましい。なお、上記では陽極11の形状について説明したが、陰極12の形状としても同様の形状が挙げられる。
【0023】
リブ50、51及び隔壁10は、フッ素樹脂からなる。これにより、電解液の浸食を受けずに、長時間高温下で安定な形状を維持できる。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体等が何れも使用可能である。
【0024】
リブ50、51及び隔壁10は一体に形成されている。一体に形成されているとは、リブ50、51と隔壁10とが同一材料で隙間なく連続して形成されていることを意味する。リブ50、51と隔壁10とが同一材料で形成されていた場合であっても、接着剤により接着されている場合並びに溶接又は溶着されている場合は本発明に含まれない。リブ50、51と隔壁10とが一体に形成されている例としては、リブ50、51と隔壁10が一つの型により一体成形されている状態が挙げられる。
【0025】
図3に示すように、前記壁面10a、10bにおけるリブ50、51は、壁面10a、10bの下端側領域に配置されており、横方向成分を有する方向に延びている。ここでいう横方向及び当該横方向成分を有する方向は、リブ50、51が形成されている壁面に沿う方向である。横方向とは、リブ50、51が形成されている壁面に沿い、且つ、鉛直方向Yに直交する方向である。横方向成分を有する方向とは、横方向以外に、例えば図7に示すように、斜め上方や斜め下方といった、鉛直方向Y以外の方向を含む。横方向成分を有する方向は、横方向となす角度が45°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましい。図3に示す例では、リブ50、51は横方向に延びており、図4図5及び図6に示す形態も同様である。
【0026】
リブ50、51は、それぞれ独立に、それが形成されている壁面における横方向の一端から他端まで連続的に延びている。しかしながら、リブ50、51は隔壁10の壁面において、横方向に間欠的に延びていてもよい。間欠的に延びているとは、1か所又は2か所以上の欠落部分を有することを意味する。また、リブ50、51の存在箇所は、それが形成されている壁面における横方向の全体であってもよく、一部のみであってもよい。例えば隔壁10の一の壁面におけるリブ50、51は、隔壁10の該壁面の横方向における端部(例えば壁面10aであれば、端部10a1及び10a2、図3参照)に到達するまで延びていてもよく、該壁面端部に到達せずに、該壁面端部よりも横方向内側までの延設にとどまっていてもよい。
【0027】
隔壁10が陽極11を取り囲む形状をしているときに、リブ50、51も隔壁10の外周または内周に沿って陽極11を取り囲んでいることが、変形防止効果を高める点から好ましい。この場合、リブ50、51は、隔壁10の各側面、例えば図3でいえば、陽極11の側面11c、11dと対向する壁面10c、10dにおいても、その下端側領域において、横方向成分を含む方向に延びている。最も好ましくは、隔壁10は、陽極11の全周を取り囲んでおり、リブが、当該隔壁10の全周にわたり設けられている。
【0028】
リブ50、51は、その幅W(図3参照)の隔壁10の厚みT(図3参照)に対する比率(W/T)が0.5以上10以下であることが、隔板の変形防止効果が高いことや隔壁の強度が高いことから好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。例えば、隔壁10の一の面におけるW/Tの比率は、リブが延びる方向に沿って一定であってもよく、異なっていてもよい。隔壁10の一の壁面におけるW/Tの比率がリブが延びる方向に沿って異なる場合、該隔壁10の当該壁面におけるリブの各位置におけるW/Tの最大値と最小値との中間値(平均値)を、隔壁10の該壁面のリブのW/Tとする。隔壁10において複数のリブが存在する場合、各リブに係るW/Tの比率は同一であっても、異なっていてもよい。また隔壁10のうちリブを有する各壁面におけるリブのW/Tは同一であってもよく、異なっていてもよい。
隔壁の厚さTは、リブを除く厚さである。
【0029】
図1~3に示す例では、リブ50、51は隔壁10の外側の壁面に形成されていた。このようにすると、リブ50、51を有することにより、隔壁10と陽極11との距離が小さくなることがなく、隔壁10と陽極11とが近すぎることによる三フッ化窒素と水素の混合を防止できる点から好ましい。
【0030】
図1~3に示すように、複数のリブ50、51が隔壁10に設けられていることが好ましい。ここでリブの数は、例えば隔壁10の異なる2以上の面に一つのリブを有し、それらの面のリブ同士が連続している場合、当該連続したリブの数を1とカウントする。一方、図示していないが、隔壁が異なる2つの面にそれぞれ1つずつリブを有し、それらの面のリブが不連続である場合、リブの数は2つとカウントする。隔壁が複数のリブを有するとは、そのように異なる面に1つずつリブを有する形態であってもよいが、好ましくは隔壁10の一の面にリブが複数存在することが好ましい。隔壁10の一の面において、リブの数は、1以上10以下であることが製造しやすさや隔板の変形を防止するための補強効果を高める点から好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。また、隔壁10の一の面にリブが複数設けられている場合、隔壁10の一の面に互いに平行に延びるリブを複数有していることが好ましく、隔壁10において電極の一対の板面11a、11bにそれぞれ対向する壁の一対の面10a、10bそれぞれに複数のリブが設けられていることも好ましく、当該一対の面10a、10bそれぞれに互いに平行に延びる複数のリブが設けられていることが更に好ましい。最も好ましいのは、隔壁10の周囲を囲むように環状に形成されたリブが2以上存在することである。また、隔壁10の一の面に複数のリブが設けられている場合、当該面におけるリブの数は2以上5以下であることが特に好ましく、3以上5以下であることが最も好ましい。
図3に示すように、リブ50、51はその延びる方向が、互いに平行であることが、隔壁の補強効果が高い点から好ましいが、後述するように、これに限定されない。
【0031】
リブは隔壁10の下端に設けられていてもよく、下端から上方に離間した位置に設けられていてもよい。
例えば、図3に示す形態では、複数のリブのうち、最も下端部10f側に位置するリブ51は、隔壁10の下端10mfよりも、上端部10e(図1参照)側に離間した位置に設けられており、更にその上端部10e側に、別のリブ50が設けられている。
最も下端10mf側に位置するリブ51の下端位置51aと、隔壁の下端10mfとの間の距離D1は、隔壁10の厚みTに対する比(D1/T)が、0以上5以下であることが、補強効果の高い点から好ましく、0以上2以下であることが特に好ましい。
なお、上記でいう隔壁10の下端10mfとは、隔壁のうちリブ以外の部分の下端をいう。
【0032】
図1に示すように、リブ50、51の側断面視形状は、矩形状となっている。しかしながら、リブの形状はこれに限定されず、例えば、リブの立設する方向(面10a、10bに形成されたリブについては図3のZ方向外側)に対して向けた凸の曲面状や三角形状に形成されていてもよい。
【0033】
リブは、その高さH(図3参照)の隔壁の厚みTに対する比率(H/T)が0.5以上であることが、変形防止効果が高いために好ましく、1以上であることがより好ましい。また、リブの高さHと隔壁10の厚みTの比率H/Tは、5以下であることが、隔壁の強度が高いことからより好ましい。例えば、隔壁10の一の面におけるH/Tの比率は、リブが延びる方向に沿って一定であってもよく、異なっていてもよい。隔壁10の該面におけるH/Tの比率がリブの延びる方向に沿って異なる場合、当該隔壁10の該面におけるリブの各位置におけるH/Tの最大値と最小値との中間値(平均値)を、隔壁10の該面のリブのH/Tとする。隔壁10の一の面に複数のリブが存在する場合、各リブに係るH/Tの比率は同一であっても、異なっていてもよい。また隔壁10のうちリブを有する各壁面におけるリブのH/Tは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
リブが一の面に複数設けられている場合、当該面におけるリブ間の距離D2(図3参照)の隔壁の厚みTに対する比率(D2/T)が20以下であることが、変形防止効果が高いために好ましく、10以下であることがより好ましい。また、リブ間の距離D2と隔壁10の厚みTの比率D2/Tは、0.1以上であることが、多数のリブを設けやすい点や隔板の変形を防止するための補強効果の高い点から好ましい。隔壁10の一の面におけるD2/Tの比率は、リブが延びる方向に沿って一定であってもよく、異なっていてもよい。隔壁10の該壁面におけるD2/Tの比率がリブの延びる方向に沿って異なる場合、当該隔壁10の該壁面におけるリブの各位置におけるD2/Tの最大値と最小値との中間値(平均値)を、当該隔壁10の壁面10aのリブのD2/Tとする。隔壁10の一の面に複数のリブが存在する場合、各リブに係るD2/Tの比率は同一であっても、異なっていてもよい。また隔壁10のうちリブを有する各面におけるリブのD2/Tは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
隔壁10は金属材を有していないことが好ましい。例えば、特許文献2には、コレクタであって、その下側に、補強用金属リングを挿入可能な補強リング結合部を設け、この補強リング結合部に補強リングが安着している。このような金属板を有しないことで、金属板の装着箇所への電解液の浸透による金属板の腐食や隔壁の変形を防止することができる。ここでいう金属材とは、板、ロッド、ワイヤーなどであって、特許文献2のように隔板の挿入部に装着されるものや、接着剤や溶接などで隔壁に接合されるものが挙げられる。
【0036】
また隔壁10は、別の分離可能なフッ素樹脂板をも有しないことが好ましい。これは、例えば、特許文献1の隔壁において、金属板の代わりにフッ素樹脂板を含有する場合であっても、フッ素樹脂板の挿入部から電解液が流入し、変形の原因となってしまう恐れがあるためである。
【0037】
また隔壁10はリブ以外に、隔壁とは別に成型されたフッ素樹脂材が接着剤や溶接などで接合されているものであってもよい。例えば、フランジ10g(図1参照)が溶接で隔壁に取り付けられていてもよい。またリブを一体形成した隔板同士を溶接した隔壁であってもよい。しかしながら隔壁10はリブ以外の部材についても、そのような接合がなされていない一体成型体からなるものであることが、電解液による浸食による変形が起こりにくい点や隔壁の強度が高いことから好ましい。
【0038】
上記のように、図1図3に基づき、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の電解槽及び隔壁はこれに限定されない。
【0039】
例えば、図4に示す隔壁10’のように、リブ50、51は、隔壁10の内側面に形成されていてもよい。また、リブ50、51は、その角部がRを有するように形成されていてもよい。
【0040】
また例えば、図5に示す隔壁10’’のように、最も下側に位置するリブ52が、隔壁10’’の下端10mfと鉛直方向Yにおける同位置に設けられていてもよい。
【0041】
また、例えば、図1図5の形態において、隔壁は横方向成分を含む方向に延びるリブのみを有していたが、これに代えて、図6の隔壁10’’’のように、横方向成分を含む方向に延びるリブ50、51、52に加えて鉛直方向Yに延びるリブ53を有していてもよい。また、陽極11の形状によっては、隔壁は、鉛直方向Yの下方つまり、自由端部10f側からみて一方に長い形状を有していなくてもよく、図6に示すように、例えば略正方形状に形成されていてもよい。
【0042】
また、例えば、図7に示すように、リブ50、51は、隔壁の各面に設けられずに、例えば電極の板面と対向する壁面10a、10bのみに設けられて側面と対向する壁面10c、10dには設けられていなくてもよい。またリブ50、51は、上述した図3の形態のように互いに平行であることが隔板の変形を防止するための補強効果が高いものの、平行でなくてもよく、互いに交差していてもよい。
【0043】
リブと一体に形成された本発明の隔壁は、フッ素樹脂を金型射出成形等の各種金型成形法により、容易に製造することができる。
【0044】
本発明の電解槽は、アンモニウム塩とフッ化水素を含む溶融塩の電気分解による三フッ化窒素ガス製造に用いられる。この電解槽に用いる電極としては、鉄、スチール、ニッケル、モネル等を使用することができる。
【0045】
電解槽としては、三フッ化窒素製造可能な電解槽であれば、特別な構造を有する必要はない。電解液による電解槽材料の浸食等を防止し、耐久性を向上するために、内面をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)などのフッ素樹脂で被覆していることが好ましい。
【0046】
電解液としては、通常、フッ化アンモニウムとフッ化水素を含む溶融塩を使用する。電解液の調製方法としては、例えば、アンモニアガスと無水フッ化水素とを直接混合することにより調製、フッ化アンモニウム或いは酸性フッ化アンモニウムと無水フッ化水素とを混合することにより調製する方法等がある。
【0047】
電解液の組成としてはHF/NHFのモル比は1.5以上2以下が好ましい。該モル比を1.5以上とすることで、電解電圧の上昇を防止でき、かつ、三フッ化窒素製造の電流効率の低下を防止できるため好ましい。また、モル比が2以下とすることでフッ素ガス生成を防止でき、かつ、HFの蒸気圧の増大を防止でき、生成したガスに同伴されて系外に排出される損出するHF量の抑制できるため好ましい。
【0048】
アンモニウム塩とフッ化水素を含む溶融塩の電気分解による三フッ化窒素製造において、電解の条件としては、電流密度を1~20A/dm、反応温度は100~130℃とすることが、三フッ化窒素を効率的に製造することができるため好ましい。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
図1図3に示す電解槽を、三フッ化窒素の製造に用いた。電解槽における隔壁としては、図1図3の形態のものをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂により一体成型して得た。リブの高さHの隔壁の厚みTに対する比率(H/T)は1.5であり、リブの幅Wの隔壁10の厚みTに対する比率(W/T)が1であり、リブの下端10mf側に位置するリブ51の下端位置51aと、隔壁の下端10mfとの間の距離D1と隔壁10の厚みTに対する比(D1/T)は1であり、リブ同士の距離D2の隔壁の厚みTに対する比率(D2/T)は1であった。陽極及び陰極として、それぞれ純度99質量%の純ニッケルを用い、アンモニアと無水フッ酸により、フッ化アンモニウム-フッ化水素系溶融塩NHF・1.8HFを電解槽に調製し、温度120℃で電解を行い、三フッ化窒素を製造した。電解中のガスクロマトグラフィー分析では、陽極ガス中に水素ガスの混入や、陰極ガス中の三フッ化窒素ガスの混入は認められず、また、運転1か月後の該隔壁の形状は、変形等はなく運転開始時点と同様であり、再び三フッ化窒素ガス製造用電解槽に利用することが可能であった。
【0051】
[実施例2]
隔壁の形状を図5で示す形状のもの(D1/T=0、リブが3本)に変更した以外は実施例1と同様にした。電解中のガスクロマトグラフィー分析では、陽極ガス中に水素ガスの混入や、陰極ガス中の三フッ化窒素ガスの混入は認められず、また、運転3か月後の該隔板の形状は、変形等はなく運転開始時点と同様であり、再び三フッ化窒素ガス製造用電解槽に利用することが可能であった。
【0052】
[実施例3]
隔壁の材質をパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)に変更した以外は実施例1と同様にした。電解中のガスクロマトグラフィー分析では、陽極ガス中に水素ガスの混入や、陰極ガス中の三フッ化窒素ガスの混入は認められず、また、運転3か月後の該隔板の形状は、変形等はなく運転後と同様であり、再び三フッ化窒素ガス製造用電解槽に利用することが可能であった。
【0053】
[実施例4]
電解槽における隔壁としては、図4の形態のものをパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)により一体成型した電解槽を用いて実施例1と同様に三フッ化窒素を製造した。電解中のガスクロマトグラフィー分析では、陽極ガス中に水素ガスの混入や、陰極ガス中の三フッ化窒素ガスの混入は認められず、また、運転3か月後の該隔板の形状は、変形等はなく運転後と同様であり、再び三フッ化窒素ガス製造用電解槽に利用することが可能であった。
【0054】
[比較例1]
リブを有していない以外は、実施例1と同様の電解槽を用いた。5時間運転後に、陽極ガス中に水素ガスの混入がガスクロマトグラフィーの分析により1容量%認められたため、運転を停止した。運転停止後の隔壁は壁面10a、10bの下端10mfにおいて波状に変形しており、図3のZ方向に電極板と壁面10a、10bとの距離が広がり、隔壁の効果が得られないものとなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の隔壁は、三フッ化窒素製造用の電解槽において長時間運転しても変形が効果的に抑制されて陰極及び陽極からそれぞれ発生するガスの混合を抑制できる。また本発明の電解槽は、当該隔壁を用いることにより、陰極及び陽極からそれぞれ発生するガスの混合が効果的に抑制されたものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7