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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】バルーン付き血管内血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/135 20210101AFI20220531BHJP
   A61M 60/237 20210101ALI20220531BHJP
   A61M 60/861 20210101ALI20220531BHJP
【FI】
A61M60/135
A61M60/237
A61M60/861
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019560740
(86)(22)【出願日】2018-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2018061350
(87)【国際公開番号】W WO2018202776
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】17169581.0
(32)【優先日】2017-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
(72)【発明者】
【氏名】ニックス クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】アボウルホーセン ワリド
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-509950(JP,A)
【文献】特表2012-531975(JP,A)
【文献】国際公開第2016/207293(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0021074(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/135
A61M 60/237
A61M 60/861
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管への経皮挿入のための血管内血液ポンプ(1)であって、カテーテル(100)と、前記カテーテル(100)に取り付けられたポンプ装置(2)とを含み、前記ポンプ装置(2)は、血液流入口(3)と、血液流出口(4)と、血液を前記血液流入口(3)から前記血液流出口(4)まで流れさせるための回転子(8)とを有し、前記血液ポンプは、
前記ポンプ装置(2)の前記血液流入口(3)と前記血液流出口(4)の間に配置され、つぶれた形態と膨らんだ形態とをとるように構成され、前記患者の血管の近位領域を前記血管の遠位領域から分離するように、前記血管に挿入されると前記膨らんだ形態で前記血管の内壁に接触し、前記内壁に接して封止するように構成された、リングシール(10)と、
前記リングシール(10)を内側から支持するために前記リングシール(10)内部に配置され、前記血管の前記近位領域と前記遠位領域との所定の圧力差が前記リングシール(10)に作用すると少なくとも部分的につぶれるように構成され、つぶれる前に100mmHgまでの圧力差に耐える、支持部材(12、13)とを含む、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプであって、前記支持部材(12、13)は、前記支持部材(12、13)がつぶれる前に20mmHgまでの前記近位領域と前記遠位領域との圧力差に耐えるように構成された、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血液ポンプであって、前記支持部材(12、13)は、約5mmHgから約35mmHgまでの、前記近位領域と前記遠位領域との圧力差に耐えるように構成された、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の血液ポンプであって、前記支持部材(12、13)は、約7mmHgから約30mmHgまでの、前記近位領域と前記遠位領域との圧力差に耐えるように構成された、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記リングシール(10)は可撓膜(11)を含む、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項6】
請求項に記載の血液ポンプであって、前記リングシール(10)は、バルーンへの流体の供給と前記バルーンからの流体の除去とを可能にする膨張口を有する前記バルーンを形成する、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項7】
請求項に記載の血液ポンプであって、前記膨張口は、前記バルーンに流体を供給することによって前記バルーンを膨らませ、前記バルーンから流体を除去することによって前記バルーンをしぼませることができるようにするために、流体線路(14)に接続されている、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記支持部材(12、13)は少なくとも部分的に圧縮可能である、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記支持部材(12、13)は、前記膨らんだ形態の方をとる傾向がある、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記支持部材(12)は、フォームまたはスポンジを含む、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記支持部材(13)は、少なくとも1本の弾性ワイヤを含む、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項12】
請求項11に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1本の弾性ワイヤは、形状記憶材料によって形成される、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項13】
請求項12に記載の血液ポンプであって、前記形状記憶材料は、ニチノールである、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記膨らんだ形態の前記リングシール(10)の外径は、約1cmから約2.5cmである、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記リングシール(10)は、前記リングシール(10)の外周から延びる可撓遮蔽体(16)を含み、前記可撓遮蔽体(16)は、前記カテーテル(100)が前記血管に挿入され、前記リングシール(10)が前記膨らんだ形態であるときに、前記血管内壁に接触するように構成された、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項16】
請求項1に記載の血液ポンプであって、前記遮蔽体(16)は、前記リングシールに取り付けられた近位端と、前記血管内壁に接触するように構成された自由遠位端とを有する、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項17】
請求項1または1に記載の血液ポンプであって、前記遮蔽体(16)は、前記遮蔽体(16)を硬くするために流体を受けることによって膨張させられ、前記遮蔽体(16)を柔らかくするために前記流体を除去することによってしぼまされるように構成された少なくとも1つの流体受け溝を有する補強構造(17)を含む、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、肺動脈に挿入されるように構成された、ことを特徴とする血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血管内に経皮的に挿入するための血管内血液ポンプに関する。この血液ポンプは、右心室補助装置、すなわち、患者の心臓の右心室の機能を補助するための血液ポンプとすることができる。
【背景技術】
【0002】
左心室補助装置(LVAD)または右心室補助装置(RVAD)として患者の心臓の機能を補助するために、血管内血液ポンプが使用される。血管内血液ポンプは、典型的には、カテーテルと、カテーテルに取り付けられたポンプ装置とを含み、患者の心臓内に、例えば大動脈を通して左心室に、または大静脈を通して右心室に挿入される。カテーテルは、近位部と遠位部とを備えた細長い本体を有する場合があり、長手方向軸に沿って延び、カテーテルの、典型的には、外科医などの操作者から遠い遠位部にポンプ装置が取り付けられている。
【0003】
心室補助装置は、先天性心臓欠陥など、患者の心臓の機能障害または形成異常を治療するために使用することができる。例えば、いわゆるフォンタン手術時に、右心房から肺動脈に静脈血を迂回させるように、すなわち機能しない右心室がRVADによってバイパスされるように、患者の心臓にRVADが挿入される。RVADの別の用途は、例えばLVADが組み込まれた治療によって右心室に生じることがある障害を持つ患者のための用途である。右心室の異常に高い圧力を、最大25mmHgまでなどに緩和するため、および、左心室の治療中に右心室の障害を回避するために、LVADに加えてRVADが適用されることがある。正常で健康な静脈血圧は、約3~5mmHgの範囲であり得る。
【0004】
RVADとして使用される場合、ポンプ装置は、カテーテルを使用して肺動脈を通して1つの肺葉に向かって前進させられる。血液ポンプから流出する血液は肺に向けられるため、特に左心室から大動脈に血液をポンプ式に送り込むLVADと比較して、血液ポンプによって生じる圧力差が非常に重要である。高い圧力は肺の血管を傷つける可能性がある。肺動脈内の正常な健康圧は、約10mmHgから25mmHgの範囲、通常は約15mmHgであろう。心臓疾患のある患者では、30mmHgから40mmHg、さらには70mmHgから100mmHgなどのより高い肺動脈圧が見られることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、血管に沿った高い圧力差に対する保護を与える、患者の血管に経皮挿入するための血管内血液ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、本発明により、独立請求項1に記載の特徴を有する血液ポンプによって達成される。本発明の好ましい実施形態およびその他の開発技術は、請求項1に従属する各請求項に記載されている。
【0007】
本発明によると、患者の血管内に経皮挿入するための血管内血液ポンプであって、カテーテルと、ポンプ装置と、リングシール内に配置された支持部材を備えるリングシールとを含む血管内血液ポンプが提供される。ポンプ装置は、血液流入口と、血液流出口と、血液を血液流入口から血液流出口まで流れさせるための回転子とを含む。リングシールは、ポンプ装置の血液流入口と血液流出口の間に配置される。
【0008】
リングシールは、つぶれた形態と膨らんだ形態とをとることができ、血管内に挿入されると膨らんだ形態で患者の血管の内壁に接触し、内壁に接して封止するように構成される。このようにして、リングシールは血管の近位領域を血管の遠位領域から分離する。支持部材は、リングシールを内側から支持するためにリングシールの内部に配置され、支持部材は血管の近位領域と遠位領域との所定の圧力差がリングシールに作用すると少なくとも部分的につぶれるように構成される。それと同時に、支持部材は、100mmHgまでの圧力差、好ましくは50mmHgまでなどのより小さい圧力差、好ましくは20mmHgまでの圧力差に耐えるように構成される。本開示全体を通じて、「遠位」という用語は、ユーザから離れて心臓に向かう方向を指し、「近位」という用語は、ユーザに向かう方向を指す。言い換えると、リングシールは、血液ポンプによって生じる流入口側と流出口側との圧力差が所定の値より大きいときにつぶれる。好ましくは、血液ポンプは肺動脈内に挿入されるように構成される。
【0009】
支持部材は、具体的には、以下でより詳細に説明するような機械的支持部材である。支持部材は、所定の圧力差まで、リングシールを膨らんだ形態に維持するように構成されるが、同時に、血管内の近位領域と遠位領域との所定の圧力差が超えられないように保証するのに十分に柔軟である。これは、例えば肺動脈において血液ポンプによって生じる圧力上昇を制限するために重要である。リングシールは、以下でより詳細に説明するように、100mmHg以上、好ましくは20mmHg以上の圧力差で、血管を閉塞させない。言い換えると、リングシールは、過圧弁のような働きをし、すなわち圧力差の所定の閾値を超えると、血液がリングシールを通過して圧力の低い方の側に向かう方向に流れることができるようにする。したがって、リングシールを設けることで、血管内に自己制御圧力がもたらされる。リングシールの内圧は好ましくは大気圧であり、すなわち、リングシールの内部は例えば開放線路を使用して環境と流体連絡することができる。
【0010】
リングシール、具体的にはリングシールを通って延びるカテーテル本体とは独立したその全体的外形は、所望の用途に適した任意の大きさと形状とを有することができる。例えば、リングシールは、球形、楕円形、円柱形またはこれらの組合せとすることができる。リングシールは、カテーテルの中心長手方向軸に関して対称、具体的には軸対称であってよく、または非対称であってもよい。リングシールの外径、具体的には膨らんだ形態における外径は、用途に応じて選定可能である。肺動脈での用途に適合し得る一実施形態では、膨らんだ形態のリングシールの外径は、約1cmから約2.5cmとすることができる。ポンプ装置は、約3cmから6cmの長さを有し得る。
【0011】
好ましくは、支持部材は、カテーテルが肺動脈内へ前進させられる用途にとって適切な圧力差である約20mmHgまでの、近位領域と遠位領域との所定の圧力差に耐えるように構成される。言い換えると、支持部材は、血管内の近位領域と遠位領域との20mmHgまでの圧力差でリングシールの膨らんだ形態を維持し、圧力差が20mmHgを超えるとつぶれるように構成される。所望の用途に応じて、所定の圧力差は約5mmHgから約35mmHg、より好ましくは約7mmHgから約30mmHgの範囲とすることができる。
【0012】
一実施形態では、リングシールは可撓膜を含む。具体的には、膜は柔軟であって弾力がある。このようにして、膜はリングシールの膨らんだ形態とつぶれた形態とに追従することができる。膜は、支持構造体を囲む外被を形成することができる。具体的には、膜は流体がバルーンに供給されることができるようにするとともにバルーンから除去されることができるようにする膨張口を有するバルーンを形成することができる。膨張口は、バルーンに流体を供給することによってバルーンを膨らませることができ、バルーンから流体を除去することによってバルーンをしぼませることができるように、カテーテルの細長い本体に沿って延びる流体線路に接続されることができる。具体的には、流体線路は、リングシールをつぶすためにバルーン内に真空または負圧を生じさせることを可能にするように、真空線路とすることができる。バルーンと流体線路とは、液体または気体などの任意の流体、具体的には生理食塩水または空気などに適したものとすることができる。上述のように、リングシール内の圧力は大気圧とすることができる。したがって、バルーンに接続された流体線路は環境に対して開放されているかまたはその他の方法によりバルーン内部の圧力を大気圧と同等にするように構成されてよい。
【0013】
支持部材は、少なくとも部分的に圧縮可能とすることができる。これにより、支持部材は、つぶれた形態であってもリングシール内部に留まることができる。これに代えて、またはこれに加えて、支持部材は、リングシールを膨らんだ形態からつぶれた形態にするために、リングシールから引き出されてもよい。
【0014】
好ましくは、支持部材は、膨らんだ形態の方をとる傾向があってもよい。これによって、自己拡大(または自己膨張)特性と自己保持特性とを備えたリングシールがもたらされる。言い換えると、負荷がかけられていないときにリングシールが膨らんだ形態をとりやすいため、リングシールをつぶれた形態から膨らんだ形態にするのに外部操作を必要としない。具体的には、リングシールは、真空を加えることによってつぶれた形態に保持可能であり、真空を解放するとリングシールを膨らませることができる。ただし、外部操作によって、例えばリングシールに供給される加圧流体を使用して、リングシールの膨張を促進してもよい。
【0015】
一実施形態では、支持部材は、フォームまたはスポンジを含むことができる。フォームは、クローズドセルフォームまたはオープンセルフォームとすることができる。フォームは、例えば大気圧で膨らんだ形態をとることができ、リングシールに真空またはその他の外力を加えることによって圧縮可能である。具体的には、フォームが可撓膜によって囲まれている場合、フォームと膜とを含むリングシールは血管内壁の大きさおよび形状に適応するのに特に好適である。フォームの特性は、リングシールが所定の最小圧力でつぶれることができるように選定することができる。フォームは、任意の適合する材料、具体的にはポリウレタンなどの高分子材料を含み得る。フォームまたはスポンジの構造は、リングシールがつぶれることになる所定の最小圧力を設定するように、言い換えると、支持部材が膨らんだ形態を維持する所定の最大圧力差を設定するように選定される。
【0016】
別の実施形態では、支持部材は、好ましくはニチノールなどの形状記憶材料からなる、少なくとも1本の弾性ワイヤを含むことができる。ナイロンなど、形状記憶特性または超弾性特性を有する別の材料を使用することもできる。一般に、形状記憶は、形状記憶材料がある1つの温度で変形し、その後、その材料の「変態温度」より高温に加熱すると元の変形していない形状に戻ることを可能にする、温度依存特性である。この温度変化は、材料のマルテンサイト相とオーステナイト相との間での変態を引き起こす。超弾性は、形状記憶材料が形状記憶材料に加えられた外力により機械的変形を起こし、その後、その外力が解放されるとその元の変形していない形状に戻ることを可能にする、非温度依存特性である。超弾性は擬弾性とも呼ばれ、外部負荷によって起こるマルテンサイト相とオーステナイト相との間の変態によって生じる。
【0017】
ワイヤは、上述のようにニチノールからなってよく、リングシールをつぶすことができるようにするためにリングシールから引き出すことができる。ワイヤを引き出すと、ワイヤをカテーテルの管腔内に引き込むことによってワイヤをまっすぐにすることができる。逆に、ワイヤをリング内に前進させると、ワイヤは曲線形状となることができ、それによってリングシールを膨らませることができる。曲線形状は、形状記憶材料の所定の形状とすることができ、例えばリングシールの所望の膨らんだ形態をもたらすように、らせん状またはその他の形状とすることができる。具体的には、ワイヤは、リングシールを膨らませるようにリングシールの内部から可撓膜に力を加えることができる。さらに、必ずではないが、膨らませるとリングシールが液体または気体などの流体で満たされ得る。したがって、リングシールから弾性ワイヤを引き出すとリングシールからその流体が除去され得る。
【0018】
一実施形態では、リングシールは、リングシールの外周、すなわちリングシールの本体部の外周面から延びる、可撓遮蔽体を含むことができる。可撓遮蔽体は、カテーテルが血管に挿入され、リングシールが膨らんだ形態になると血管内壁に接触するように構成することができる。遮蔽体は、リングシールの本体部と比較して、比較的柔らかく、薄くてもよく、それによって血管を傷つけるリスクを低減することができ、リングシールの血管の大きさと形状とへの適応をさらに向上させることができる。遮蔽体は、リングシールを囲み、リングシールによって支持されるスカートまたはスリーブとして形成することができる。遮蔽体は、好ましくは、リングシールがつぶれるとつぶれ、膨れる。遮蔽体は、リングシールに取り付けられた近位端と、血管内壁に接触するように構成された自由遠位端とを有することができる。したがって、遮蔽体は、逆流を防ぎ、封止特性を向上させるために、血流の方向に開放されていてよい。しかし、遮蔽体はリングシールがつぶれるとつぶれるため、血管内の圧力差は上述のように制限される。
【0019】
遮蔽体は、補強構造を含むことができる。補強構造は、遮蔽体を硬くするために流体を受けることによって膨らまされ、遮蔽体を柔らかくするために流体を除去するとしぼむように構成された、少なくとも1つの流体受け溝を有し得る。例えば、遮蔽体は、傘状の遮蔽体を形成するように長手方向に延びる溝を有してもよい。遮蔽体に硬さをもたせるのに適合する、例えばらせん曲線状など溝の任意の他の大きさ、形状、数および構成も可能であることがわかるであろう。1つの溝または複数の溝は、完全に満たされるかまたは空にされることができ、または部分的にのみ満たされるか空にされることも可能である。これにより、遮蔽体の硬さの調整を可能にすることができる。
【0020】
上記の概要と、以下の好ましい実施形態の詳細な説明は、添付図面とともに読めばよりよく理解できるであろう。本開示を例示するために、図面を参照する。しかし、本開示の範囲は、図面で開示されている特定の実施形態には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】患者の心臓に挿入された血管内血液ポンプを示す図である。
図2】膨らんだ形態の一実施形態によるカテーテルのリングシールの概略断面図を示す図である。
図3】つぶれた形態の図2のリングシールを示す図である。
図4】膨らんだ形態の別の実施形態によるカテーテルのリングシールの概略断面図を示す図である。
図5】つぶれた形態の図4のリングシールを示す図である。
図6a図4の実施形態のためのリングシールの異なる実施例の概略断面図を示す図である。
図6b図4の実施形態のためのリングシールの異なる実施例の概略断面図を示す図である。
図7】膨らんだ形態のさらに別の実施形態によるカテーテルのリングシールの概略断面図を示す図である。
図8】つぶれた形態の図7のリングシールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、患者の心臓Hに挿入された血管内血液ポンプが示されている。より詳細には、この例示の実施形態では、血液ポンプ1は、それを使用して血流ポンプ1が下大静脈IVCを経由して患者の心臓Hの右心室RVを通って肺動脈PAに挿入されるカテーテル100を含む。異なる手法では、カテーテルは上大静脈SVCを通して挿入されてもよい。動作時、血液ポンプ1、具体的にはカテーテル100が三尖弁TRVと肺動脈弁PVとを通って延びる。血液ポンプ1は、血液流入口3と血液流出口4とを有するポンプ装置2を含む。血液を血液流入口3に流入させ、血液流出口4に向かわせて血液流出口4から流出させるために、羽根車または回転子(図示せず)が設けられる。この実施形態による血液ポンプ1は、右心室補助装置(RVAD)として設計され、例えばフォンタン手術で、または左心室補助装置(LVAD)に加えて使用することができる。ポンプ装置2は、肺動脈PA内に配置される。
【0023】
血液ポンプ1、具体的にはポンプ装置2は、リングシール10を備える。リングシール10は、以下で図2ないし図6を参照しながらより詳細に説明するが、膨らんだ形態とつぶれた形態をとることができ、図1では膨らんだ形態で示されている。リングシール10は、肺動脈PAの内壁に接触し、それにより肺動脈PAの近位部を肺動脈PAの遠位部に接して封止する。血液ポンプ1の動作により、肺動脈PAの近位部と遠位部の間に圧力差が生じ、より詳細には、圧力が近位部から遠位部に向かって上昇する。圧力上昇を制限するために、リングシール10は、肺動脈PAの近位部と遠位部との所定の最小圧力差に達するとつぶれるように構成され、すなわち、リングシール10は所定の圧力差までの圧力差に耐える。つぶれた形態のリングシール10は、血液が肺動脈PAの遠位部からポンプ装置2を通過して肺動脈PAの近位部に向かって流れることができるようにする。圧力差が所定の最小圧力より下がると、リングシール10は、再び膨らむことができる。これは、以下でさらに詳しく説明するように、リングシール10内部の支持部材の自己拡大特性によって促進される。所定の最小圧力差は、肺動脈PAでの用途の場合、約20mmHgとすることができる。
【0024】
次に図2を参照すると、ポンプ装置2のリングシール10が血管V内に挿入された概略縦断面図で示されている。図を簡単にするために血液ポンプ1の詳細が省かれていることはわかるであろう。図2は、ポンプ装置2の周りに配置された膨らんだ形態のリングシール10を示している。リングシール10は、バルーン状の要素を形成する可撓膜11を含む。可撓膜11は、この実施形態ではフォーム、具体的にはポリウレタンフォームを含む、支持部材12を囲んでいる。フォームは、リングシール10に自己拡大特性および自己保持特性をもたせるために膨らんだ形態の方をとる傾向がある(biased)ものとされる。好ましくは、膨らんだ形態のときにリングシール10の内部に大気圧がかかっている。例えばポンプ装置2の挿入中に能動的にリングシール10をつぶれた形態にするために、または患者の心臓Hからポンプ装置2を取り出すために、リングシール10から液体または気体などの流体を除去するための真空線路14を設けることができる。
【0025】
リングシール10は、図3ではつぶれた形態で示されている。つぶれた形態では、フォームは少なくとも部分的に圧縮されている。これは、リングシール10から流体を除去することによって実現可能である。しかし、具体的には、リングシール10は、リングシール10に作用する対向する両側の間の所定の圧力差を超えると自動的につぶれる。最小圧力差は、7mmHgと30mmHgの間とすることができ、好ましくは20mmHgとすることができる。高い方の圧力と低い方の圧力との圧力差の方向が、図2では矢印Pで示されている。
【0026】
図4に、リングシール10内の支持部材以外は図2および図3の実施形態に類似している別の実施形態を示す。図4では真空線路14を示していない。しかし、この実施形態でも真空線路を設けてよいことがわかるであろう。支持部材13は、具体的にはニチノールなどの形状記憶材料からなる、弾性ワイヤを含む。ワイヤは図4では概略的に示されている。図6aおよび図6bに、弾性ワイヤの異なる実施例を、ポンプ装置2の長手方向軸に直角な断面図で示す。リングシール10を膨らませるために、例えば、カテーテル100に沿ってポンプ装置2内に延び、ワイヤをまっすぐにする管腔から、ワイヤをリングシール10の内部に前進させる。リングシール10内に前進した後は、ワイヤはその所定の曲線形状をとることになる。曲線形状は、例えば図6aに示すようならせん状、または図6bに例示するような他の曲線状であってもよい。ワイヤはリングシール10の内部から可撓膜11に対して作用し、それによってリングシール10を膨らませる。リングシール10をつぶすために、図5に示すようにワイヤをリングシール10から引き出すことができる。ワイヤは、所定の最小圧力がリングシール10にかかるとリングシール10をつぶれさせるように構成され、または、言い換えると、リングシール10を所定の圧力差までのみ圧力差に耐えるように支持するように構成される。
【0027】
図7に示す別の実施形態では、リングシール10はリングシール10の本体部から延びる可撓遮蔽体16を含む。遮蔽体16はリングシール10の外周上に配置され、図7に示すようにリングシール10が膨らんだ形態のときに血管Vの内壁に接触するように構成される。遮蔽体16は、膜を含んでよく、血管壁を保護するためと、血管壁に接した封止を向上させるために、比較的薄い。遮蔽体16を硬くするように流体で満たされることができる補強構造として溝17が設けられてもよい。遮蔽体16を柔らかくするために、溝17から流体を除去することができる。図8に示すように、遮蔽体16はつぶれた形態のリングシール10とともにつぶれる。前述の実施形態と同様に、遮蔽体16を含むリングシール10は、肺動脈PA内の圧力上昇が高くなり過ぎるのを回避するために、肺動脈PAの近位部と肺動脈PAの遠位部との所定の最小圧力差がリングシール10に作用するとつぶれるように構成される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8