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  • 特許-積層体の製造方法 図1
  • 特許-積層体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 63/02 20060101AFI20220531BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220531BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20220531BHJP
   B32B 37/06 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
B29C63/02
B32B27/34
B32B15/088
B32B37/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020542922
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2020029687
(87)【国際公開番号】W WO2021024988
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2019146663
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊田 真之
(72)【発明者】
【氏名】石山 敬太
(72)【発明者】
【氏名】小堺 守
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/063466(WO,A1)
【文献】特開2005-199615(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00-63/48
B29C 65/00-65/82
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムに金属箔が積層された積層体を製造する方法であって、
ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面と保護フィルムとの間に金属箔を挟むように前記ポリイミドフィルム、前記金属箔及び前記保護フィルムの各々を搬送しながら、前記ポリイミドフィルム、前記金属箔及び前記保護フィルムを互いに重ね合わせて前記ポリイミドフィルムと前記金属箔とを一対の加圧ロール間で熱圧着する熱圧着工程を有し、
搬送方向における前記加圧ロールの圧接部から上流側の1~200cmの範囲において、前記ポリイミドフィルムの温度を、70℃以上かつ200℃以下となるようにするとともに、
搬送方向における前記加圧ロールの圧接部から下流側の1~100cmの範囲において、前記加圧ロールから送り出された保護フィルム付き積層体の温度を、200~350℃となるようにする積層体の製造方法。
【請求項2】
熱圧着時の前記加圧ロールの温度を、前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)以上かつ400℃以下とする、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記熱圧着工程後に、前記加圧ロールから搬出された保護フィルム付き積層体から前記保護フィルムを剥離する保護フィルム回収工程を有する、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
不活性ガス雰囲気下で行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミドフィルムの膜厚が12.5~50μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記金属箔の膜厚が9~70μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムは熱可塑性ポリイミドを含み、
前記保護フィルムが非熱可塑性ポリイミドからなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
熱圧着時のラミネート速度が2.0~6.0m/分である、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法に関し、より詳しくは、ポリイミドフィルムと金属箔とを積層した積層体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子材料分野では、電気絶縁性を有するポリイミドフィルムやポリアミドフィルムなどの樹脂層、エポキシ樹脂又はポリイミド樹脂を主成分とする接着層、導電性を有する銅箔、銀箔、アルミ箔などの金属箔層、などを適宜組み合わせた、カバーレイやフレキシブル金属張積層板などのフレキシブルプリント配線板(FPC)用材料が用いられている。
【0003】
FPCを製造する場合、一般に、まず、樹脂層をコアフィルム(基材)とし、このコアフィルムの表面に接着層を介して金属箔層を熱ラミネートすることにより貼り合わせて金属張積層体を製造する。金属張積層体は、各層を連続的に搬送しながら熱圧着させるロールtoロール方式で製造され、熱ラミネートは、各層を重ね合わせて加圧ロールの間を通過させることにより、樹脂層と金属箔層とを接着層のガラス転移温度(Tg)以上かつ融点よりも低い温度で加熱し、圧着して行う。そして得られた金属張積層体を所望の大きさに裁断したフレキシブル金属張積層板上に回路パターンを形成し、当該回路パターンの表面にカバー層(カバーレイフィルム)を形成する。
【0004】
近年、電子機器の高性能化及び小型化に伴い、FPCは任意に折り曲げできる屈曲性を備えることが要求されており、ポリイミドフィルムを用いたFPCは屈曲性、耐熱性に優れることから着目されている。そして、ポリイミドフィルムに銅箔を積層したフレキシブル銅張積層板が一般的に広く用いられている。
【0005】
ポリイミドフィルムと銅箔から構成される銅張積層体を製造する場合、ポリイミドフィルムと銅箔との密着性を高めるために、通常、銅箔には表面に粗化粒子と称される微細な金属粒子を形成させる粗化処理(黒化処理)が施される。しかし、ロールtoロール方式での製造では、銅箔表面の粗化粒子が加圧ロールに付着し、そのまま連続製造されるとその異物が搬送されてくる銅箔表面に転写され凹みが形成されることがある。
【0006】
そこで、銅箔と加圧ロールとの間に保護フィルムを介在させて、銅箔が直接加圧ロールに接触しないようにして製造する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリイミドを材質とする基材の少なくとも一方の表面に、銅箔層の表面に防錆効果を発揮する防錆層が設けられている銅箔を載置しつつ両者をラミネートするラミネート手段と、前記ラミネート手段でのラミネートと同時またはそれよりも前に、少なくとも1層の前記防錆層のうち前記銅箔層とは反対側の表面に、保護フィルムを配置して、所定温度に加熱しながら前記防錆層と前記保護フィルムとを貼付するフィルム貼付手段と、前記フィルム貼付手段により生成された中間生成物が、40秒~80秒の適正時間を200度~230度の適正温度範囲内で保持するように、温度調節を行う温度調節手段と、前記温度調節手段で温度調節がされた前記中間生成物から、前記保護フィルムを前記防錆層から剥離させる剥離手段と、を備えるフレキシブルプリント積層板の製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、光学的異方性の溶融相を形成する液晶ポリマーよりなるフィルムと金属箔とを重ね合わせて加圧ロールの間を通過させることによりフィルムと金属箔とを積層する積層体の製造方法において、該フィルムと該金属箔とを加圧ロールの間に通過させる工程で、該加圧ロールの外部に加熱手段を設けて、フィルムおよび金属箔、及び/又は加圧ロールを加熱又は保温する、積層体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/171078号
【文献】日本国特開2006-272743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の方法では、防錆処理された銅箔における保護フィルム剥離時の波打ちを解消し、フレキシブルプリント積層板における残留応力を増加させずに済むとされている。しかしながら、保護フィルムを介在させて積層体を製造する従来の製造方法では、保護フィルムにより接着層への加圧ロールの熱の伝わりが遅くなるので、加圧ロールで十分に熱圧着させるためには搬送速度を低速にしなければならず、加工速度に制限があった。また、従来の製造方法では、搬送速度を低速にした場合であっても、積層体に十分な熱を与えることができず、ポリイミドフィルム内部に残留する歪を十分に緩和がすることができない、という問題があった。ポリイミドフィルム内部に歪が残った状態で積層体の銅箔をエッチングした場合、銅箔により固定されていたポリイミドフィルム内部の歪が開放され、寸法変化のバラツキが大きくなってしまう。
また、特許文献2記載の方法では、金属箔と加圧ロールの間に保護フィルムを貼付しないため、加熱手段を通過した積層体の急激な冷却を抑制することができず、外観不良(波打ち)が発生してしまう場合があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ポリイミドフィルムを基材として金属箔を備えて構成されるフレキシブル金属積層板を得るための積層体を製造する方法であって、ロールtoロール方式で製造する際に、従来よりも速い速度での製造が可能であり、かつエッチング後の寸法変化のバラツキが小さく、積層体表面における波打ちの発生が抑制された積層体を得るための積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、加圧ロール間でポリイミドフィルムと金属箔とを圧着する際に、ポリイミドフィルムを、加圧ロールの圧接部直前の特定の領域において特定の温度範囲となるように搬送しながら熱圧着するとともに、加圧ロールで圧着した後の特定の領域において、保護フィルム付き積層体を特定の温度範囲になるようにすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の(1)~(7)を特徴とする。
(1)ポリイミドフィルムに金属箔が積層された積層体を製造する方法であって、
ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面と保護フィルムとの間に金属箔を挟むように前記ポリイミドフィルム、前記金属箔及び前記保護フィルムの各々を搬送しながら、前記ポリイミドフィルム、前記金属箔及び前記保護フィルムを互いに重ね合わせて前記ポリイミドフィルムと前記金属箔とを一対の加圧ロール間で熱圧着する熱圧着工程を有し、
搬送方向における前記加圧ロールの圧接部から上流側の1~200cmの範囲において、前記ポリイミドフィルムの温度を、70℃以上かつ前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)未満となるようにするとともに、
搬送方向における前記加圧ロールの圧接部から下流側の1~100cmの範囲において、前記加圧ロールから送り出された保護フィルム付き積層体の温度を、200~350℃となるようにする積層体の製造方法。
(2)熱圧着時の前記加圧ロールの温度を、前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)以上かつ400℃以下とする、前記(1)に記載の積層体の製造方法。
(3)前記熱圧着工程後に、前記加圧ロールから搬出された保護フィルム付き積層体から前記保護フィルムを剥離する保護フィルム回収工程を有する、前記(1)又は(2)に記載の積層体の製造方法。
(4)不活性ガス雰囲気下で行う、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
(5)前記ポリイミドフィルムの膜厚が12.5~50μmである、前記(1)~(4)のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
(6)前記金属箔の膜厚が9~70μmである、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
(7)前記ポリイミドフィルムは熱可塑性ポリイミドを含み、前記保護フィルムが非熱可塑性ポリイミドからなる、前記(1)~(6)のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、加圧ロールで熱圧着される時点でポリイミドフィルムが70℃以上に温められているので、加圧ロールでの加熱により短時間でポリイミドフィルムの表面を溶融させて金属箔と一体化させることができる。よって、搬送速度を上げることができるので、加工速度を短くすることができる。また、加圧ロールでの圧着直前にポリイミドフィルムが温められていると、ポリイミドフィルム内部の歪みが緩和されるため、片面金属箔積層体を製造する場合であっても積層体内の導体厚みにおける寸法変化を小さくすることができる。そして、加圧ロールの圧接部から送り出された直後の保護フィルム付き積層体を200~350℃の範囲に温めることで、積層体から保護フィルムを剥離した際に発生しやすい波打ちを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層板の製造装置の概要を示す図である。
図2図2は、寸法変化率の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の積層体の製造方法は、ポリイミドフィルムに金属箔が積層された積層体を製造する方法であって、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面と保護フィルムとの間に金属箔を挟むように各々を搬送しながら、互いを重ね合わせて一対の加圧ロール間で熱圧着する熱圧着工程を有する。本発明の積層体の製造方法では、搬送方向における前記加圧ロールの圧接部から上流側の1~200cmの範囲において、前記ポリイミドフィルムの温度を、70℃以上かつ前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)未満となるようにするとともに、搬送方向における前記加圧ロールの圧接部から下流側の1~100cmの範囲において、前記加圧ロールから送り出された保護フィルム付き積層体の温度を、200~350℃となるようにする。
【0016】
本実施形態において、前記熱圧着工程後に、加圧ロールから搬出された保護フィルム付き積層体から保護フィルムを剥離する保護フィルム回収工程を有することが好ましい。
以下、各工程について説明する。
【0017】
<熱圧着工程>
熱圧着工程では、ポリイミドフィルムを備えた基材と、金属箔と、保護フィルムとを、各々供給ロールから引き出し、一対の加圧ロールに向けて搬送し、加圧ロール間で互いを熱圧着する。
【0018】
(基材)
基材は、積層体の強化材となる材料である。本実施形態において、基材はポリイミドフィルムを備える。
【0019】
ポリイミドフィルムは、少なくとも熱可塑性ポリイミドを含有する層(熱可塑性ポリイミド層)を備え、当該熱可塑性ポリイミド層が加熱により溶融して、金属箔と接着する。
熱可塑性ポリイミドとしては、例えば、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等が挙げられる。中でも、低吸湿特性の観点から、熱可塑性ポリエステルイミドが好ましい。熱可塑性ポリイミドは、例えば、酸二無水物とジアミンを共重合することによって得られる。
【0020】
熱可塑性ポリイミドを構成する酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、上記の中でも、接着性、入手容易性の観点から、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0021】
熱可塑性ポリイミドを構成するジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、上記の中でも、接着性、入手容易性の観点から、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0022】
熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度(Tg)は、フレキシブル金属張積層板の用途に依存するため特に限定されないが、好ましくは240~290℃であり、より好ましくは260~290℃であり、さらに好ましくは280~290℃である。熱可塑性ポリイミドのTgが240℃以上であると、金属箔との貼り合わせが容易となる傾向にあり、290℃以下であると、加工性や耐熱性が良好となる傾向にある。
なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができ、例えば、TA Instruments社製「RSA-G2」(商品名)を用い、昇温温度10℃/分で測定を行い、得られたtanδのピークをTg(℃)とする。
【0023】
熱可塑性ポリイミドの線膨張係数は、積層体面内の寸法変化を抑制するという観点から、20~100ppm/Kであることが好ましく、30~70ppm/Kがより好ましく、40~60ppm/Kがさらに好ましい。
線膨張係数は、TMA(例えば、株式会社島津製作所製「TMA-60」(商品名))により測定することができ、昇温速度10℃/分で、100℃から150℃の範囲に得られた測定値より求める。
【0024】
ポリイミドフィルムは、熱可塑性ポリイミド層の他に、非熱可塑性ポリイミドを含有する層(非熱可塑性ポリイミド層)を備えていることが好ましい。本明細書において、「非熱可塑性ポリイミド」とは、300℃以上に加熱しても軟化せず、接着性を示さないポリイミドのことをいう。非熱可塑性ポリイミド層を有することにより、積層体に対して耐熱性を与えることができる。
【0025】
非熱可塑性ポリイミド層に用いられる非熱可塑性ポリイミドは、例えば、酸二無水物とジアミンを共重合することによって得られる。酸二無水物及びジアミンとしては、脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物のいずれも用いることができるが、耐熱性の観点からは、酸二無水物としては芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、ジアミンとしては芳香族ジアミンが好ましい。
【0026】
非熱可塑性ポリイミドを構成する酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸二無水物が挙げられ、上記の中でも、耐熱性、寸法安定性の観点から、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸二無水物が好ましい。
【0027】
非熱可塑性ポリイミドを構成するジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンが挙げられ、上記の中でも、耐熱性、寸法安定性の観点から、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、1,5-ジアミノナフタレン及び1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンを含有することが好ましい。
【0028】
非熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度(Tg)は、フレキシブル金属張積層板の用途に依存するため特に限定されないが、好ましくは290℃以上であり、より好ましくは320℃以上であり、さらに好ましくは340℃以上である。非熱可塑性ポリイミドのTgが290℃以上であると、耐熱性が良好となる傾向にある。非熱可塑性ポリイミドはTgが高いほど耐熱性を有するため、その上限は特に限定されない。
【0029】
非熱可塑性ポリイミドの線膨張係数は、積層体面内の寸法変化のバラツキを抑制するという観点から、20ppm/K以下であることが好ましく、18ppm/K以下がより好ましく、16ppm/K以下がさらに好ましい。
【0030】
非熱可塑性ポリイミド層は、市販品として入手可能なポリイミドフィルムを用いることができ、例えば、株式会社カネカ製「アピカルNPI」シリーズ、東レ・デュポン株式会社製「カプトンEN」シリーズ、宇部興産株式会社製「ユーピレックスS」シリーズ(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0031】
ポリイミドフィルムの構成としては、金属箔と接する側の面を熱可塑性ポリイミド層で構成すれば特に限定されず、例えば、熱可塑性ポリイミド層単層、熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層、熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層等が挙げられる。
【0032】
ポリイミドフィルムが複数の層で構成された多層フィルムである場合、ポリイミドフィルムは、上記したような市販の熱可塑性ポリイミドフィルム及び/又は非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いて互いを熱圧着させる方法、非熱可塑性ポリイミドフィルムの表面に熱可塑性ポリイミド組成物を塗布して乾燥させる方法、熱可塑性ポリイミド組成物と非熱可塑性ポリイミド組成物を用いて一体成形する方法等により作製することができる。
【0033】
ポリイミドフィルム全体の線膨張係数は、積層体面内の寸法変化のバラツキを抑制するという観点から、10~30ppm/Kであることが好ましく、12~25ppm/Kがより好ましく、15~20ppm/Kがさらに好ましい。
【0034】
なお、多層構造のポリイミドフィルムとしては、市販品を用いてもよく、例えば、株式会社カネカ製「ピクシオFRS」シリーズ、宇部興産株式会社製「ユピセルNVT」シリーズ(いずれも商品名)等が好適なものとして挙げられる。
【0035】
ポリイミドフィルムの厚さは、フレキシブル金属張積層板の用途に依存するため特に限定されないが、単層であるか多層であるかにかかわらず、9~75μmであることが好ましく、より好ましくは12.5~50μmである。ポリイミドフィルムの厚さが9μm未満であると、絶縁性に劣る傾向にあり、また引裂け・破れ等の機械的特性が低くなる傾向にある。一方、ポリイミドフィルムの厚さが75μmを超えると、熱処理の際に発泡を生じ易くなったり、柔軟性が損なわれる傾向にある。
【0036】
本実施形態において、基材はポリイミドフィルムの片面に金属箔が設けられた片面金属張積層体を用いてもよい。金属箔の金属としては、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、金、コバルト、チタン、タンタル、亜鉛、鉛、錫、シリコン、ビスマス、インジウム又はこれらの合金等が挙げられる。
【0037】
基材として用いる片面金属張積層体の構造としては、例えば、熱可塑性ポリイミド層/金属箔、熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/金属箔、熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層/金属箔等が挙げられる。
【0038】
基材の厚さは、基材がポリイミドフィルムからなる場合は前記したように9~75μmであることが好ましく、12.5~50μmがより好ましい。また、金属箔等の他の層を備える場合は、フレキシブル金属張積層板の薄型化への適用等を考慮し、基材全体の厚さを10~180μmとすることが好ましく、20~70μmがより好ましい。
【0039】
(金属箔)
基材に積層する金属箔の金属としては、上記した金属と同様であり、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、金、コバルト、チタン、タンタル、亜鉛、鉛、錫、シリコン、ビスマス、インジウム又はこれらの合金等が挙げられる。中でも、導電性、回路加工性の観点から、銅又は銅合金の金属箔が好ましい。なお、金属箔の表面には亜鉛メッキ、クロムメッキ等による無機表面処理、シランカップリング剤等による有機表面処理を施してもよい。
【0040】
金属箔の厚さは、フレキシブル金属張積層板の用途に依存するため特に限定されないが、好ましくは1~105μmであり、より好ましくは9~70μm、更に好ましくは9~35μmであり、最も好ましくは9~18μmである。金属箔の厚さが1μm未満であると、回路基板を作製した際にピンホールや破れ等で回路欠損を引き起こしやすくなる傾向にあり、105μmを超えると、ポリイミドフィルムとの貼り合せ温度が高くなり生産性が低下する傾向にある。
【0041】
なお、金属箔の表面は、基材のポリイミドフィルムとの接着性を高めるために、粗化処理を施すことが好ましい。金属箔のポリイミドフィルムと接する面の表面粗さRzは、圧延銅箔であれば、0.1~0.9μmであることが好ましく、電解銅箔であれば、0.1~1.2μmであることが好ましい。表面粗さが0.1μm以上であると、ポリイミドフィルムとの接着力が向上する傾向にある。表面粗さが、圧延銅箔の場合は0.9μm以下、電解銅箔の場合は1.2μm以下であると、銅箔の粗さ(凹凸)を埋めるために必要な熱可塑ポリイミドの厚みが薄くなり、積層体の寸法変化が小さくなる傾向にある。
【0042】
金属箔としては、市販品を用いてもよく、例えば、JX金属株式会社製「圧延銅箔BHY」シリーズ、福田金属箔粉工業株式会社製「圧延銅箔ROFL」シリーズ(いずれも商品名)等が好適なものとして挙げられる。
【0043】
(保護フィルム)
保護フィルムは、金属箔が加圧ロールと直接接触しないように金属箔と加圧ロールとの間に介在させるためのフィルムである。加圧ロールの圧接面に異物等が付着していたとしても、保護フィルムにより異物等と金属箔との接触が防止され、金属箔の表面に異物等による凹みが形成されるのを防ぐことができる。また、積層体の最表面に保護フィルムを貼付することで、熱圧着後の積層体の急冷を抑制し、波打ち等の外観不良を防止することができる。
【0044】
保護フィルムは、ラミネート時の熱に耐えることが出来る任意の樹脂フィルムや金属箔を用いることができ、例えば、非熱可塑性ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れる非熱可塑性ポリイミドフィルムがより好ましい。
【0045】
保護フィルムの厚みとしては、25~125μmであることが好ましく、50~125μmがより好ましく、75~125μmが更に好ましい。保護フィルムの厚みが25μm以上であると、加圧ロール上に存在する異物形状が圧着時に金属箔に転写されないようにすることができるとともに、熱圧着後に加圧ロールから送り出された積層体の急冷を抑制し、波うち等の外観不良を防止することができる。また125μm以下であると、熱圧着時に加圧ロールの熱を、積層板に十分伝えることができる。
【0046】
保護フィルムとしては、市販品を用いてもよく、例えば、株式会社カネカ製「アピカルNPI」シリーズ、東レ・デュポン株式会社製「カプトンH」シリーズ(いずれも商品名)等が好適なものとして挙げられる。
【0047】
(貼り合せ方法)
熱圧着工程では、基材であるポリイミドフィルムの熱可塑性ポリイミド層に、金属箔を貼り合せる。貼り合せる方法としては、一対の加圧ロールを有する熱ロールラミネート装置を用いてラミネートする方法が挙げられる。図1に示す実施形態では、ポリイミドフィルム(具体的に、熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層)1の両面に、金属箔2a,2bと保護フィルム3a,3bがこの順に積層されるようにして各々を加圧ロール7a,7bに搬送し、加圧ロール7a,7b間で、積層されたポリイミドフィルム1、金属箔2a,2bおよび保護フィルム3a,3bをポリイミドフィルム1と金属箔2a,2bとを熱圧着する。
【0048】
熱ロールラミネート装置は、図1に示したように、ポリイミドフィルム(基材)を供給するポリイミドフィルム供給ロール11、金属箔を供給する金属箔供給ロール12a,12b、保護フィルムを供給する保護フィルム供給ロール13a,13b、各供給ロールから送り出されたポリイミドフィルム1、金属箔2a,2b及び保護フィルム3a,3b(以下、被積層材料ともいう。)を加熱加圧する一対の加圧ロール7a,7b、並びに、熱圧着工程の後に保護フィルムを巻き取る保護フィルム巻取ロール14a,14bと積層体を巻き取る積層体巻取ロール16を備える。
各供給ロールから送り出されたポリイミドフィルム1、金属箔2a,2b、保護フィルム3a,3bは、搬送ローラー21a~21eを介してポリイミドフィルム1と保護フィルム3a,3bとの間に金属箔2a,2bを挟むように搬送され、互いを重ね合わせて加圧ロール7a,7b間で加熱加圧されることで、ポリイミドフィルム1と金属箔2a,2bとが熱圧着される。
【0049】
本実施形態において、少なくとも搬送方向における加圧ロール7a,7bの圧接部71直前の領域R1におけるポリイミドフィルム1の温度を70℃以上かつポリイミドフィルム1のガラス転移温度(Tg)未満となるようにする。圧接部71への搬入直前の領域R1は、圧接部71から上流側の1~200cmの範囲であり、少なくともこの範囲のポリイミドフィルム1の温度を70℃以上かつポリイミドフィルム1のTg未満にすることで、ポリイミドフィルム1の表面を溶解しない程度に軟化した状態とすることができ、さらに加圧ロール7a,7bに入る直前までその状態を保つことができるので、加圧ロール7a,7bでの熱圧着時に短時間でポリイミドフィルム1と金属箔2a,2bとを接着することができる。また、加圧ロールでの圧着直前にポリイミドフィルムが温められていると、ポリイミドフィルム内部の歪みが緩和されるため、片面金属箔積層体を製造する場合であっても積層体内の導体厚みにおける寸法変化を小さくすることができる。領域R1は、圧接部71から上流側の1~220cmの範囲であることが好ましく、1~250cmの範囲がより好ましい。
なお、ポリイミドフィルム1の温度は、少なくともポリイミドフィルム1の表面の温度が前記範囲となるようにすればよく、具体的に、ポリイミドフィルム1の表面を構成する熱可塑性ポリイミド層が、70℃以上かつ当該熱可塑性ポリイミド層のガラス転移温度(Tg)未満となるようにする。領域R1におけるポリイミドフィルム1の温度は、120℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。
【0050】
領域R1のポリイミドフィルム1の温度を調整する方法としては、領域R1内のポリイミドフィルム1を一定の温度に保つことができれば特に限定されず、例えば、領域R1のポリイミドフィルム1をヒーター等の加熱装置を用いて加熱する方法、チャンバーで少なくとも領域R1のポリイミドフィルム1を囲み、チャンバー内を、加熱装置等を用いて加温する方法、熱ロールラミネート装置を設置した部屋全体を加熱する方法等が挙げられる。熱風、赤外線ヒーター、セラミックヒーター等で直接加熱する方法では、熱効率が良く、且つ熱ラミネーター装置の大型化を防ぐことができる。
【0051】
ポリイミドフィルム1の温度を測定する方法としては、ポリイミドフィルム1に接触して測定する方法や、非接触で測定する方法等が挙げられる。ポリイミドフィルム1に接触して測定する方法としては、領域R1に搬送されるポリイミドフィルム1に熱電対を貼り付けて測定する方法等が挙げられる。非接触で測定する方法としては、領域R1に搬送されるポリイミドフィルム1を非接触温度計により測定する方法、ポリイミドフィルム1近辺の雰囲気温度を測定し、ポリイミドフィルムの温度を予測する方法等が挙げられる。
この中でも、ポリイミドフィルム1を搬送する途中における異物との接触によって、フィルムに皺が寄ったり、凹凸ができたりするのを防ぐ観点から、非接触で測定することが好ましい。なお、ポリイミドフィルム近辺の雰囲気温度を測定する場合、領域R1を搬送されるポリイミドフィルム1の上面又は下面から15cm以内の温度を測定し、その温度から約23℃を加算した温度をポリイミドフィルム1の予測温度とすることができる。
【0052】
加圧ロール7a,7bは、金属製ロール、ゴム製ロール等を用いることができ、中でも、耐熱性に優れる金属製ロールを用いることが好ましい。金属製ロールとしては、例えば、鉄製ロール、ステンレス製ロール等が挙げられる。
【0053】
熱圧着時の加圧ロールの温度(ラミネート温度ともいう。)は、ポリイミドフィルム1のガラス転移温度(Tg)以上かつ400℃以下であることが好ましい。なお、ポリイミドフィルム1のTgとは、フィルムの表面を構成する熱可塑性ポリイミド層の温度のことをいう。ラミネート温度をポリイミドフィルム1のTg以上とすることで、ポリイミドフィルム1と金属箔2a,2bとの接着性が良好となる。なお、400℃を超えた温度としても接着力は向上せず、逆に熱可塑ポリイミド層の粘度が大幅に低下するため、加工性が低下する。このため、上限は400℃とすることが好ましい。ラミネート温度は、ポリイミドフィルム1のTg+50℃以上がより好ましく、Tg+70℃以上が更に好ましい。
【0054】
本実施形態において、熱圧着工程における熱圧着時の被積層材料の搬送速度(ラミネート速度ともいう。)は、2.0m/分以上とすることができる。ラミネート速度が2.0m/分以上であるので、加工速度が速く、短時間で積層体を量産することができる。積層体の接着性の観点から、ラミネート速度は2.0~6.0m/分であることが好ましく、2.0~4.0m/分がより好ましい。
【0055】
加圧ロール7a,7bでの貼り合せ圧力(ラミネート圧力ともいう。)は、高ければ高いほどラミネート温度を低く、かつラミネート速度を速くすることができる利点があるが、一般にラミネート圧力が高すぎると得られる積層体の寸法変化が悪化する傾向にある。また、逆に、ラミネート圧力が低すぎると得られる積層体の接着性が劣る傾向にある。したがって、ラミネート圧力は、5~50kNの範囲内であることが好ましく、10~30kNの範囲内であることがより好ましい。
【0056】
また、ラミネート時のポリイミドフィルム1に与えられる張力(ポリイミドフィルム張力)は、0.1~20kg/mであることが好ましく、より好ましくは0.2~15kg/mであり、さらに好ましくは0.5~10kg/mである。張力が0.1kg/m未満であると、外観の良好な積層体を得ることが困難となる傾向にあり、20kg/mを超えると寸法安定性が劣る傾向にある。
【0057】
(後加熱工程)
本実施形態では、加圧ロール7a,7bで熱圧着され、加圧ロール7a,7bから送り出された保護フィルム付き積層体5を、加圧ロール7a,7bの圧接部71直後の領域R2において200~350℃となるようにする。圧接部71から搬出直後の領域R2は、少なくとも圧接部71から下流側の1~100cmの範囲であり、この範囲の保護フィルム付き積層体5の温度を200~350℃とすることで、保護フィルム付き積層体5が急激に冷却されるのを防ぎ、徐々に温度を下げることができるので、外観不良や寸法変化のバラツキが発生するのを抑制することができる。領域R2は、圧接部71から下流側の1~120cmの範囲であることが好ましく、1~150cmの範囲がより好ましい。
なお、保護フィルム付き積層体5の温度は、その表面の温度が前記範囲となるようにすればよく、具体的に、保護フィルム付き積層体5の表層である保護フィルム3a,3bの温度が200~350℃となるようにすることが好ましい。領域R2における保護フィルム付き積層体5の温度は、250~350℃が好ましく、280~350℃がより好ましい。
【0058】
領域R2の保護フィルム付き積層体5の温度を調整する方法としては、領域R2内の保護フィルム付き積層体を所定の温度に保つことができれば特に限定されず、例えば、領域R2の保護フィルム付き積層体5をヒーター等の加熱装置を用いて加熱する方法、チャンバーで少なくとも領域R2の保護フィルム付き積層体5を囲み、チャンバー内を加熱装置等を用いて加温する方法、熱ロールラミネート装置を設置した部屋全体を加熱する方法等が挙げられる。なお、本実施形態では、領域R1と領域R2を加圧ロール7a,7bとともに1つのチャンバーで囲んでもよい。
【0059】
保護フィルム付き積層体5の温度を測定する方法としては、上記と同様であり、接触方式と非接触方式のいずれも採用することができる。
【0060】
以上のようにして保護フィルム付き積層体5が得られるが、本実施形態においては、熱圧着工程は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で行うことで、金属箔の酸化を抑制することができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0061】
<保護フィルム回収工程>
その後、保護フィルム付き積層体5から保護フィルム3a,3bを剥離し、搬送ローラー22a~22dを介して保護フィルム3a,3bを保護フィルム巻取ロール14a,14bに巻き取るとともに、ポリイミドフィルム1と金属箔2a,2bが積層された積層体6を積層体巻取ロール16に巻き取る。
【0062】
本実施形態において、積層体の厚みは、30~100μmであることが好ましい。積層体の厚みが前記範囲であると、FPCとしての折り曲げ性が向上するので好ましい。厚みが30μm未満になると加工時のハンドリングが困難になる場合があり、100μmを超えるとFPCとしての折り曲げ性が低下し、薄型化が困難になる場合がある。
【0063】
なお、本実施形態において、熱ロールラミネート装置における被積層材料、保護フィルム付き積層体を搬送する搬送ローラーは、任意の数で、任意の場所に設けることができる。例えば、加圧ロールに近い位置にも搬送ローラーを配置し、保護フィルムを加圧ロールに沿わせるようにして搬送すると、保護フィルム中の水分が加圧ロールの熱により除去され、積層時に金属箔と保護フィルムとの間に空気が溜まって接着性が低下する虞がない。また、加圧ロールの直後に搬送ローラーを複数設置し、保護フィルム付き積層体を屈曲させながら搬送させるようにすると、熱ロールラミネート装置の長さ方向に占める領域R2の長さを短くすることができるので、装置の大型化を防ぐことができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
実施例及び比較例において用いた各材料は以下のとおりである。
(ポリイミドフィルム)
・カネカ社製「ピクシオFRS-522#SW」(商品名、厚さ12.5μm、熱可塑性ポリイミドのTg=280℃)
(銅箔)
・JX金属社製「圧延銅箔BHY」(商品名、厚さ12μm)
(保護フィルム)
・カネカ社製「アピカル125NPI」(商品名、厚さ125μm)
【0066】
各測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
【0067】
[領域R1でのポリイミドフィルムの温度]
試験運転において、熱ラミネート装置の加圧ロールの圧接部から上流側200cmのポリイミドフィルムに熱電対を貼り付け、PCリンク型高機能レコーダ(株式会社キーエンス製「GR-3500」(商品名))により測定を行った。
【0068】
[領域R2での保護フィルム付き積層体の温度]
熱ラミネート装置の加圧ロールの圧接部から下流側100cmの保護フィルム付き積層体の上面から15cm以内の温度を、非接触温度計(OPTEX社製「THERMO-HUNTER MODEL PT-2LD」(商品名))により測定を行い、その温度から23℃を加算した温度を保護フィルム付き積層体の予測温度とした。
【0069】
[寸法変化率]
JIS C 6471の9.6項に準拠して測定した。具体的には以下のとおりに測定した。
図2に示すとおり、500mm幅のフレキシブル銅張積層体6から幅方向に、略同じ大きさの2枚のサンプルを切り出した。図2に示すとおり、それぞれのサンプル8A,8Bに、長さ方向に沿う2つの基準点を決め、これらの基準点から幅方向に195mm離れた場所に他の基準点を決め、長さ方向に対向する基準点間の長さMD-L1~MD-L4を測定した(初期長さ)。なお、基準点間の初期長さMD-L1~MD-L4は255mmとした。積層体表面の銅箔をエッチングで除去し、標準状態で12時間以上放置した後、再び基準点間の長さMD-L1~MD-L4を測定した(エッチング後長さ)。各基準点間の長さMD-L1、MD-L2、MD-L3及びMD-L4の寸法変化率を下記式に従って算出した。
寸法変化率(%)=(エッチング後長さ-初期長さ)/初期長さ×100
次いで、MD-L1、MD-L2、MD-L3及びMD-L4の寸法変化率の最大値と最小値の差を求め、その差が0.05%以内である場合を「A」と評価し、0.05%を超える場合を「B」と評価した。なお、「A」評価が「可」であり、「B」評価が「不可」である。
【0070】
[外観(波打ち)]
フレキシブル銅張積層体の表面を目視により観察し、波打ちがなかった場合を「A」と評価し、波打ちがあった場合を「B」と評価した。なお、「A」評価が「可」であり、「B」評価が「不可」である。
【0071】
[判定]
寸法変化率、外観(波打ち)ともに「A」評価の場合は「A」とし、寸法変化率、外観(波打ち)の少なくとも一方が「B」評価の場合は「B」とした。なお、「A」評価が「可」であり、「B」評価が「不可」である。
【0072】
[実施例1]
図1に示したような一対の加圧ロール7a,7bを有する熱ラミネート装置を用いて、ポリイミドフィルムの両面に銅箔と保護フィルムがこの順に積層されてなるフレキシブル銅張積層体を作製した。装置は、窒素ガス下で稼働させた。
ポリイミドフィルム1と保護フィルム3a,3bとの間に銅箔2a,2bを挟むようにして各々を4.0m/分の速度で搬送しながら互いを重ね合わせて加圧ロール7a,7b間で熱圧着した。加圧ロールの温度は365℃、圧力は21kNとした。また、加圧ロール7a,7bの圧接部71から上流側の200cmの位置にヒーターを設置し、この位置のポリイミドフィルムの温度が70℃となるように加熱した。そして、加圧ロール7a,7bの圧接部71から下流側の100cmの位置にヒーターを設置し、この位置の保護フィルム付き積層体5の温度が200℃となるように加熱した。
熱圧着後、加圧ロール7a、7bよりも下流側300cmの位置で、保護フィルム付き積層体5から保護フィルム3a,3bを剥離し、フレキシブル銅張積層体6を積層体巻取ロール16に巻き取った。
得られたフレキシブル銅張積層体を用いて、寸法変化率、および外観(波打ち)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
加圧ロールの圧接部から上流側200cmの位置のポリイミドフィルムの温度が200℃になる様に加熱した以外は、実施例1と同様の方法によりフレキシブル銅張積層体を得て、寸法変化率、および外観(波打ち)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
加圧ロールの圧接部から下流側100cmの位置の保護フィルム付き積層体の温度が250℃になる様に加熱した以外は、実施例1と同様の方法によりフレキシブル銅張積層体を得て、寸法変化率、および外観(波打ち)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例1]
加圧ロールの圧接部から上流側200cmの位置のポリイミドフィルムの温度が30℃となる様にした以外は、実施例1と同様の方法によりフレキシブル銅張積層体を得て、寸法変化率、および外観(波打ち)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例2]
加圧ロールの圧接部から下流側100cmの位置の保護フィルム付き積層体の温度が、100℃となる様にした以外は、実施例1と同様の方法によりフレキシブル銅張積層体を得て、寸法変化率、および外観(波打ち)の評価を行った。なお、フレキシブル銅張積層体を作製した際の熱ラミネート装置の加工速度は4m/分とした。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1の結果より、実施例1~3はいずれも、エッチング後の寸法変化のバラツキがほとんどなく、波打ちの発生も抑制された。これに対し、比較例1~2は寸法変化のバラツキの抑制と波打ちの抑制を両立させることができなかった。
【0079】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年8月8日出願の日本特許出願(特願2019-146663)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0080】
1 ポリイミドフィルム(基材)
2a,2b 金属箔(銅箔)
3a,3b 保護フィルム
5 保護フィルム付き積層体
6 積層体(フレキシブル銅張積層体)
7a,7b 加圧ロール
8A,8B サンプル
11 ポリイミドフィルム供給ロール
12a,12b 金属箔供給ロール
13a,13b 保護フィルム供給ロール
14a,14b 保護フィルム巻取ロール
16 積層体巻取ロール
21a~21e、22a~22d 搬送ローラー
71 圧接部
R1 圧接部への搬入直前の領域
R2 圧接部から搬出直後の領域
MD-L1~MD-L4 基準点間の長さ
図1
図2