IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドマテックスの特許一覧

特許7082257半導体実装材料用フィラー及びその製造方法並びに半導体実装材料
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】半導体実装材料用フィラー及びその製造方法並びに半導体実装材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20220531BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20220531BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20220531BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
H01L23/30 R
C01B33/18 E
C08K9/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022522231
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2021045204
【審査請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2020205043
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩本 伸太
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
(72)【発明者】
【氏名】安部 賛
【審査官】多賀 和宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171206(JP,A)
【文献】特開2009-155200(JP,A)
【文献】特表2020-515489(JP,A)
【文献】特開2004-217515(JP,A)
【文献】特開2000-143229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29-23/31
C01B 33/00-33/193
C08K 9/00-9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料中に分散して半導体実装材料を形成する粒子材料を含む半導体実装材料用フィラーを製造する方法であって、
400mLのエタノール中に50g分散させた分散液に対して、38kHz、300Wの超音波を20分間照射した後に24時間静置したときの上澄み液中に含まれる20μm以上の炭素を含有する着色異物が10個以下であり、体積平均粒径が0.1μm以上40μm以下、球形度が0.85以上である金属酸化物を主成分とし、
前記金属酸化物に含まれる金属及び/又は前記金属酸化物を主成分とする原料粒子材料を、炭素を含有しない可燃性の炭素非含有ガスを体積基準で20%以上含有する可燃性ガスを燃焼して得られる火炎中に投入して燃焼及び/又は溶融させることで前記粒子材料を形成する球状化工程を有する半導体実装材料用フィラーの製造方法。
【請求項2】
前記原料粒子材料は、前記金属酸化物を有する請求項1に記載の半導体実装材料用フィラーの製造方法。
【請求項3】
前記可燃性ガスは、前記炭素非含有ガスを100%含有する請求項1又は2に記載の半導体実装材料用フィラーの製造方法。
【請求項4】
前記炭素非含有ガスは、アンモニア及び/又は水素である請求項1~3のうちの何れか1項に記載の半導体実装材料用フィラーの製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物はシリカである請求項1~4のうちの何れか1項に記載の半導体実装材料用フィラーの製造方法。
【請求項6】
400mLのエタノール中に50g分散させた分散液に対して、38kHz、300Wの超音波を20分間照射した後に24時間静置したときの上澄み液中に含まれる20μm以上の炭素を含有する着色異物が10個以下であり、体積平均粒径が0.1μm以上40μm以下、球形度が0.85以上である金属酸化物を主成分とする粒子材料を有し、
樹脂材料中に分散して半導体実装材料を形成する半導体実装材料用フィラー。
【請求項7】
前記金属酸化物はシリカである請求項6に記載の半導体実装材料用フィラー。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の半導体実装材料用フィラーと、
前記半導体実装材料用フィラーを分散する前記樹脂材料と、
を有する半導体実装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体実装材料用フィラー及びその製造方法並びに半導体実装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプリント配線基板用材料、電子基板、ソルダーレジスト、層間絶縁膜、ビルドアップ材料、FPC用接着剤、ダイボンド材料、アンダーフィル、ACF、ACP、NCF、NCP、封止材料などの半導体実装材料には、樹脂材料中に無機物からなる粒子材料が分散された樹脂組成物が汎用されている。半導体実装材料は、半導体に直接接触するため、高い絶縁性などの電気的特性や、小さな線膨張係数などの機械的特性などの種々の性能が要求されており、無機物からなる粒子材料を樹脂材料中に分散させることで高度な性能を実現している(例えば、特許文献1)。
【0003】
粒子材料としては、金属酸化物から構成される粒子材料(酸化物粒子材料)を採用することが望ましく、特に球形度が高い粒子材料を採用することにより、粒子材料の充填性が高くできるため好ましい。
【0004】
球形度が高い粒子材料を製造する方法としては、金属から構成される粒子材料(金属粒子材料)を火炎中に投入して燃焼させることで金属酸化物から構成される粒子材料を製造するいわゆるVMC法と称される方法であったり、金属酸化物からなる原料粒子材料を火炎中に投入することで溶融させたものを冷却することで粒子材料を製造する溶融法がある。
【0005】
VMC法では、金属粒子材料は火炎中で爆発的に燃焼して、得られた金属酸化物が気化した後、冷却されることで極めて真球性の高い酸化物粒子材料を製造することができる。このときに用いられる火炎は、プロパンなどの可燃性ガスを酸素などの助燃ガスと混合して燃焼させることで形成している。
【0006】
また、VMC法の原料として用いられる金属粒子材料を構成する金属は、比較的精製が容易であり、得られた酸化物粒子材料についても純度が高いものを得やすいという特徴が有る。
【0007】
それに対して、溶融法では、原料としての金属酸化物粒子材料を溶融・冷却により球状化するため、原料に制限が少なく様々な原料から粒子材料を製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2020-111474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年の半導体の微細化に伴い、半導体実装材料中に分散させる粒子材料に高い性能が求められるようになった。例えば、配線の微細化が進んだ半導体に直接接触する用途において、導電性を示す粒子(導電性粒子)が不純物として混入すると隣接する配線間で短絡が生じるおそれがあるため、導電性粒子の量を低減する必要がある。そのためにVMC法や溶融法で製造した酸化物粒子材料についても更なる高純度化を本発明者らは目指すこととした。
【0010】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、従来よりも優れた性能をもつ半導体実装材料用フィラー及びその製造方法並びに半導体実装材料を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、VMC法や溶融法にて用いる火炎に用いる可燃性ガスの組成に着目した。従来、VMC法や溶融法に用いる可燃性ガスとしてはプロパンなどの炭化水素ガスを用いている。炭化水素ガスは燃焼により二酸化炭素と水とになるが、不完全燃焼などにより一部が炭素となって、製造される粒子材料中に混入する。そこで、可燃性ガスを炭化水素ガスに変えて水素やアンモニアなどの炭素を含有しない可燃性のガス(炭素非含有ガス)を採用することで、不完全燃焼が発生しても炭素などの導電性粒子が生成しないことが分かった。
【0012】
更に特に炭素非含有ガスとしてアンモニアを採用する場合には、アンモニアに由来する好ましい性状をもつ粒子材料が製造できることが分かった。
【0013】
本発明者らは上記知見に基づき以下の発明を完成した。すなわち、上記課題を解決する本発明の半導体実装材料用フィラーの製造方法は、樹脂材料中に分散して半導体実装材料を形成する粒子材料を含む半導体実装材料用フィラーを製造する方法であって、
400mLのエタノール中に50g分散させた分散液に対して、38kHz、300Wの超音波を20分間照射した後に24時間静置したときの上澄み液中に含まれる20μm以上の炭素を含有する着色異物が10個以下であり、体積平均粒径が0.1μm以上40μm以下、球形度が0.85以上である金属酸化物を主成分とし、
前記金属酸化物に含まれる金属及び/又は前記金属酸化物を主成分とする原料粒子材料を、炭素を含有しない可燃性の炭素非含有ガスを体積基準で20%以上含有する可燃性ガスを燃焼して得られる火炎中に投入して燃焼及び/又は溶融させることで前記粒子材料を形成する球状化工程を有する。
【0014】
可燃性ガス中に炭素非含有ガスを体積基準で20%以上含有させることによって炭素からなる導電性粒子の生成は原理的に少なくなり、特に可燃性ガスの全てを炭素非含有ガスにすることで導電性粒子の生成は原理的になくなる。そのため、篩分けなどにより炭素からなる導電性粒子を除去する工程が必要無くなるか、導電性粒子の除去が容易になる。特に炭化水素ガス由来の炭素は、製造される粒子材料に対して表面などに付着して形成されたり粒子材料の内部に形成されたりすることもあるため、篩分けなどでは完全に除去できない場合もあるが、本発明の製造方法によると原理的に炭素の混入を防止乃至は抑制できる。
【0015】
更に、本発明の粒子材料の製造方法において炭素非含有ガスとしてアンモニアを特に採用すると、以下の記載するような付随的な効果も生じる。
【0016】
付随的な効果の1つ目は、粒径が小さな粒子材料を含むようにできることである。粒径が小さな粒子材料を含むと、流動性を向上することが可能になる。アンモニアは、炭化水素ガスよりも燃焼により発生する熱量が小さいため、同等の熱量を発生しようとすると、炭化水素ガスよりも大きな体積が必要になる。その結果、火炎の大きさが大きくでき、原料粒子材料を確実に燃焼させることが可能になって、製造される粒子材料の球形度が向上する。また、アンモニアにて形成される火炎の温度は低くなり、火炎中での粒成長の進行が遅くなって粒径が小さな粒子材料を含むようにできる。
【0017】
付随的な効果の2つ目は、粒子材料としてシリカから形成されるものの場合に、粒子材料中にSi-N結合を導入できることである。Si-N結合は、シリカの主な結合であるSi-O結合と同等の結合エネルギーであるが、Oの結合手が2つであるのに対し、Nの結合手は3つであり、粒子材料の単位質量(又は単位体積)あたりの相対的な結合エネルギーを増加させることが可能になり、粒子材料の硬度が上昇したり、屈折率が上昇したり、耐酸性や耐アルカリ性が向上したりすることが期待できる。
【0018】
付随的な効果の3つ目は、可燃性ガスの単位熱量あたりに発生する水の量が相対的に増えることにより金属酸化物粒子材料の表面水酸基の量が増え、カップリング剤などによる表面処理の反応点が増加したり、樹脂との密着性が向上したりすることが期待できる。
【0019】
上記課題を解決する本発明の粒子材料は、400mLのエタノール中に50g分散させた分散液に対して、38kHz、300Wの超音波を20分間照射した後に24時間静置して粒子材料を自然沈降させたときの上澄み液中に含まれる20μm以上の炭素を含む着色異物が10個以下であり、体積平均粒径が0.1μm以上40μm以下、球形度が0.85以上である金属酸化物を主成分とする。
【0020】
着色異物とは、通常の金属酸化物粒子材料とは色調が異なるものである。着色異物であるか否かは、顕微鏡下での外観により判断する。具体的には、上澄み液を分離された沈殿に含まれる粒子材料と比較して着色しているかどうかで判断する。なお、着色異物の粒径は、粒子材料の体積平均粒径の2倍以下であることが好ましい。炭素の有無は、エネルギー分散型X線分析(EDX)により判断でき、EDXにより検出された炭素元素の含有量が1原子%以上であるときに炭素を含有すると判断する。特に本明細書において含有することを問題にする炭素としては、煤やグラファイトなどの導電性をもつ状態のものであり、炭素の有無を問題にするときには、煤やグラファイト状の炭素を検出してその有無を問題にすることが望ましい。
【0021】
金属酸化物からなる粒子材料を製造する方法として汎用されるVMC法や溶融法では、金属や金属酸化物からなる原料粒子材料を火炎中に投入することで粒子材料を製造しており、火炎を形成する可燃性ガスとしてはプロパンなどの炭化水素ガスを利用していることから炭化水素ガス由来の炭素を含む着色異物の混入は不可避である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の半導体実装材料用フィラー及びその製造方法、並びに半導体実装材料について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態の半導体実装材料用フィラーは、樹脂材料中に分散させて用いる。半導体実装材料としては、プリント配線基板用材料、電子基板、ソルダーレジスト、層間絶縁膜、ビルドアップ材料、FPC用接着剤、ダイボンド材料、アンダーフィル、ACF、ACP、NCF、NCP、封止材料などが挙げられる。なお、本明細書中において「粒径」とは、粒子材料の集合体に対しては体積平均粒径を意味し、個々の粒子材料について言及する場合には個々の粒子材料それぞれの粒径を意味する。
【0023】
(半導体実装材料用フィラー及び半導体実装材料)
本実施形態の半導体実装材料用フィラーは、樹脂材料中に分散させて半導体実装材料を構成する。本実施形態の半導体実装材料用フィラーとしては、後述する粒子材料によって一部乃至全部を構成することができる。樹脂材料としては特に限定しないが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが例示できる。特に硬化前の熱硬化性樹脂を採用することが好ましい。半導体実装材料用フィラーは、全体の質量を基準として、樹脂材料中に20%~92%程度含有させることが好ましく、40%~90%程度含有させることがより好ましく、60%~88%程度含有させることが更に好ましい。
本実施形態の半導体実装材料用フィラーを構成する粒子材料(以下単に「本実施形態の粒子材料」と称する)は、金属酸化物を主成分とする。金属酸化物としてはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、これらの混合物や複合酸化物が例示できる。特に全体の質量を基準としてシリカを50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上含有することが好ましく、不可避不純物以外は全てシリカから構成されることがより好ましい。
【0024】
金属酸化物としてシリカを有する場合には、粒子材料は、Si-N結合を有することが好ましい。Si-N結合が存在するか否かの判断は、窒素元素を含有するかどうかで判断する。窒素元素の含有量は特に限定しないが、粒子材料全体の質量を基準として0.1at%以上含有していればSi-N結合が存在すると判断する。
【0025】
本実施形態の粒子材料は、体積平均粒径が0.1μm以上40μm以下である。体積平均粒径の測定は、レーザー回折法により測定する。体積平均粒径の上限値は、40μm、20μm、10μm、5μmであることが好ましく、下限値は、0.1μm、0.3μm、0.5μm、2μmであることが好ましい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることが可能である。
【0026】
本実施形態の粒子材料は、球形度が0.85以上であり、0.88以上、0.90以上、0.95以上、0.97以上であることが好ましい。球形度の測定は、画像解析装置FPIA-3000(シスメックス社製)を用いて測定した値を採用する。
【0027】
粒子材料は表面処理されていても良い。表面処理を行うことで粒子材料の表面の性質を好ましいものにすることができる。例えば、樹脂材料中に混合する場合には樹脂材料との親和性を向上するために疎水化(フェニル基、炭化水素基など)したり、樹脂との反応性をもつ官能基(ビニル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基など)を導入したりすることができる。表面処理の量は特に限定しないが目的の性質が実現できるように表面処理することができる。また、表面処理剤がフィラー材料の表面の官能基(OH基など)と反応する物である場合にはフィラー材料の表面に存在する官能基の量に応じて表面処理剤の量を選択することができる(表面の官能基の全量、半量、倍量など)。
【0028】
表面処理を行う表面処理剤はシラン化合物を採用することができる。シラン化合物としては、SiH、SiOH、SiOR(Rは炭化水素基)を有するいわゆるシランカップリング剤と称されるものやヘキサメチレンジシラザンなどのシラザン類が例示でき、シラン化合物がもつSiに任意の官能基が結合されている物が例示できる。
【0029】
任意の官能基としては、炭化水素基(アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など)、アルケニル基(ビニル基、エテニル基、プロペニル基など)、フェニル基、アミノ基、フェニルアミノ基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、スチリル基、シリコーン、これらの組み合わせが挙げられる。シラン化合物としては1種類を用いて処理したり、2種類以上を組み合わせて処理できる。2種類以上を組み合わせて表面処理する場合には複数種類の表面処理剤を混合して表面処理したり、複数種類の表面処理剤を用いて順次表面処理したりできる。
【0030】
本実施形態の粒子材料は、結晶化度が3%以下であることが好ましい。結晶化度は、XRDにより測定したスペクトルから結晶質に由来するピークの面積と非晶質に由来するピークの面積とから算出する。結晶質に由来するピークは、国際回折データセンターが提供するPowder Diffraction Fileから導出する。
【0031】
本実施形態の粒子材料は、以下の方法により測定される20μm以上の着色異物の数が10個/50g以下であり、8個/50g以下、6個/50g以下、4個/50g以下、2個/50g以下であることが好ましい。なお、着色異物の数の上限値としては、更に多くなっても良い可能性があり、例えば、比較例の結果からは、30個/50g以下、25個/50g以下、20個/50g以下、15個/50g以下などの上限値でも十分な性能を発揮できることもあることが推察される。
【0032】
着色異物の数の測定は、分散媒としてのエタノール400mL中に粒子材料50gを分散させた分散液に対して、38kHz、300Wの超音波を20分間照射した後に24時間静置したときの上澄み液を目開き20μmのナイロンメッシュスクリーンにて濾過し、スクリーン上に残った異物の数として測定する。ここで炭素を含む着色異物であるか否かについては、先述した方法により測定して判断する。
【0033】
(粒子材料の製造方法)
本実施形態の粒子材料の製造方法により製造される粒子材料は、上述した本実施形態の粒子材料である。従って、製造される粒子材料についての説明は省略する。本実施形態の粒子材料の製造方法は、原料粒子材料を火炎中に投入して燃焼及び/又は溶融させる球状化工程を有する。原料粒子材料は、製造される粒子材料を構成する金属酸化物の種類に対応した金属及び/又はその金属酸化物から構成される。例えば、金属酸化物がシリカの場合には、原料粒子材料は金属ケイ素を含むか、シリカを含むか、金属ケイ素とシリカとの両者を含む。本実施形態の製造方法は、適正な大きさ及び材質から形成された炉内で行うことができる。炉内では、炭素からなる粒子が残存しないようにすることが好ましい。
【0034】
燃料として用いる可燃性ガスは、酸素などの助燃ガスと反応して金属酸化物を溶解できる温度や金属酸化物の原料となる金属と反応できる温度よりも高い温度の火炎を形成できるガスである。
【0035】
可燃性ガスは、水素やアンモニアなどの炭素非含有ガスを一部乃至全部として採用する。炭素非含有ガスは、可燃性ガスの全体の体積を基準として20%以上含有し、40%以上含有することが好ましく、60%以上含有することがより好ましく、80%以上含有することが更に好ましく、100%を炭素非含有ガスとすることが特に好ましい。
【0036】
ここで、炭素非含有ガスとして水素及びアンモニアを採用する場合には、それぞれ単独で用いても良いし、混合物で用いても良い。つまり、炭素非含有ガス中の水素:アンモニアの比は、10:0~0:10の範囲で任意に設定することが可能であり、例えば、9:1、8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7、2:8、1:9などの比で混合することができる。また、水素とアンモニア以外の炭素を含有しない炭素非含有ガスを含有するものであっても良い。
【0037】
原料粒子材料は、アトマイザ、粉砕機、造粒機などにより金属や金属酸化物を粒子化したものを採用できる。例えば、原料を加熱して溶融した後、アトマイザにより微粒子化することができる。そして原料粒子材料よりも大きな材料に対して粉砕操作を行うことで原料粒子材料を得ることができる。また、原料粒子材料よりも粒径が小さい材料については、造粒して目的の大きさにすることができる。なお、造粒する場合には結着剤として炭素を含有しないものを採用することが望ましい。例えば水中に分散させた分散液を噴霧乾燥することで結着剤無しで造粒することが可能である。
【0038】
原料粒子材料は、原料粒子材料の流動性改善などを目的として粒子材料の欄にて先述した表面処理を行うこともできる。原料粒子材料の粒径は、特に限定しないが、製造する粒子材料と同程度の粒度分布を採用することができる。また、D90/D10が3以下であることが好ましく、2以下であることが更に好ましい。なお、D10及びD90は、体積基準で粒径が小さい方からの累計がD10では10%、D90では90%になるときの粒径である。
【0039】
火炎は、可燃性ガスに対して酸素を含む助燃ガスを混合して燃焼させて形成する。炉内温度の指標として炉の耐火構造体の温度は最も高くなる位置(炉体温度)で、900℃以上、1500℃以下にする。炉体温度としては、下限値として900℃、1000℃、1100℃が採用でき、上限値として1500℃、1400℃、1300℃が採用できる。これらの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。助燃ガスとしては、空気や酸素を採用できる。可燃性ガスと助燃ガスは、炉内に供給するときに、別々に供給しても良いし、あらかじめ混合した状態で供給しても良い。別々に供給する場合には、二重管の内管に可燃性ガスを供給し、外管に助燃ガスを供給することができる。可燃性ガスの流速は、10m/s以上であることが好ましく、15m/s以上であることがより好ましく、20m/s以上であることが更に好ましい。助燃ガスの流速は、10m/s以上であることが好ましく、15m/s以上であることがより好ましく、20m/s以上であることが更に好ましい。流速比で可燃性ガス/助燃ガスが、2.0以下になることが好ましく、1.5以下になることがより好ましく、1.0以下になることが更に好ましい。可燃性ガスと助燃ガスとの供給量は、供給する原料粒子材料を十分に加熱できる大きさの火炎が形成できるような可燃性ガスの量と、その可燃性ガスを十分に燃焼可能な助燃ガスの量とする。例えば、処理する原料粒子材料の単位重量に対し可燃性ガスを0.5Nm3/kg~5Nm3/kg、助燃ガスとしての酸素を1Nm3/kg~5Nm3/kg程度にすることができる。そして、原料粒子材料として金属を含有する場合(すなわちVMC法)は、火炎としては酸化炎とする。
【0040】
更に、火炎の周囲にシースガスとしての空気などを供給することが好ましい。シースガスにより火炎の形状が制御可能で炉への火炎による影響を抑制できると共に、得られた粒子材料を速やかに冷却することが可能になる。シースガスの流量としては、原料粒子材料の単位重量に対して5Nm3/kg、20Nm3/kg、40Nm3/kg程度を採用することができる。また、シースガスの吹き込み口を多段とし、高さごとに適切な流量に任意に調節することができる。
【0041】
原料粒子材料を火炎中に供給する方法は特に限定しないが、キャリアガス中に分散させた状態で火炎中に供給することができる。キャリアガスとしては空気、酸素、窒素などが挙げられる。
【0042】
キャリアガス中に原料粒子材料を分散させる濃度としては特に限定しないが、原料粒子材料を0.5kg/Nm3~8.0kg/Nm3程度にすることが好ましく、1.0kg/Nm3~6.0kg/Nm3程度にすることがより好ましく、1.5kg/Nm3~4.0kg/Nm3程度にすることが更に好ましい。
【0043】
製造された粒子材料は、バグフィルタやサイクロンにより分級されて回収される。
得られた粒子材料について、先述した表面処理剤により表面処理を行うことができる。
【0044】
(半導体実装材料用フィラー及び半導体実装材料)
本実施形態の半導体実装材料は、本実施形態の半導体実装材料用フィラーを樹脂材料中に分散させた材料である。本実施形態の半導体実装材料用フィラーとしては、上述した本実施形態の粒子材料を一部乃至全部採用することができる。樹脂材料としては特に限定しないが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが例示できる。特に硬化前の熱硬化性樹脂を採用することが好ましい。半導体実装材料用フィラーは、全体の質量を基準として、樹脂材料中に20%~92%程度含有させることが好ましく、40%~90%程度含有させることがより好ましく、60%~88%程度含有させることが更に好ましい。
【実施例
【0045】
本発明の半導体実装材料用フィラー及びその製造方法、並びに半導体実装材料について実施例に基づいて以下詳細に説明を行う。
【0046】
(半導体実装材料用フィラーを構成する粒子材料の製造)
・原料粒子材料として結晶破砕シリカ、可燃性ガスとしてアンモニア
・実施例1
可燃性ガスとして炭素非含有ガスとしてのアンモニアのみを用いた。原料粒子材料として結晶破砕シリカ(シリカA:体積平均粒径12.3μm)を用いた。キャリアガスとしては酸素を用いた。
【0047】
シリカAの供給量は20.2kg/h、アンモニアの供給量は32.1Nm3/h、助燃ガスとしては酸素を用い、33.0Nm3/hとした。得られた粒子材料はサイクロン、バグフィルタにより回収し本実施例の試験試料とした。
【0048】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.95であり、20μm以上の着色異物の量は4個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は15.6μmであった。溶融度が94.0%であった。
【0049】
着色異物の量の測定は実施形態にて説明した方法にて行った。着色異物は、EDXにより炭素原子が含有することが判明したが、原料粒子材料、可燃性ガス、助燃ガス、キャリアガスなどには炭素原子を含んでいないため、同施設に元から存在する炭素からなる粒子が混入したことが推察された。下記の実施例2についても同様である。シリカの溶融度は、XRDにより測定されたスペクトルから結晶質由来のピークと非晶質由来のハローとを分離し、その比率から全体を基準とした非晶質の割合を溶融度とした。アルミナの溶融度は、下式により算出した。
(アルミナの溶融度)={1-(S1-S2)/(S3-S2)}×100(%)
S1:各試験例のBET比表面積
S2:各試験例の粒子径D50値より、理想真球粒子と仮定して導出される比表面積(=6/ρd)
S3:原料粒子のBET比表面積
ρ:アルミナの真比重
d:各試験例の粒子径D50値
【0050】
・実施例2
シリカAの供給量を15.0kg/hとし、助燃ガスの供給量を28.0Nm3/hとした以外は実施例1と同様の方法で粒子材料を製造した。
【0051】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.96であり、20μm以上の着色異物の量は3個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は14.3μmであった。溶融度は93.7%であった。
【0052】
・実施例3
シリカAの供給量を10.3kg/hとし、助燃ガスの供給量を28.0Nm3/hとした以外は実施例1と同様の方法で粒子材料を製造した。
【0053】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.97であり、20μm以上の着色異物の量は0個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は14.9μmであった。溶融度は96.7%であった。
・原料粒子材料として結晶破砕シリカ、可燃性ガスとしてアンモニア及び水素
・実施例4
シリカAの供給量を9.8kg/hとし、アンモニア単独での供給に代えてアンモニアの供給量を25.7Nm3/h、水素の供給量を8.6Nm3/hとしたこと、助燃ガスの供給量を28.0Nm3/hとした以外は実施例1と同様の方法で粒子材料を製造した。
【0054】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.96であり、20μm以上の着色異物の量は0個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は13.6μmであった。溶融度は94.0%であった。
・実施例5
シリカAの供給量を19.3kg/hとし、アンモニアの供給量を16.1Nm3/h、水素の供給量を21.1Nm3/hとしたこと、助燃ガスの供給量を25.0Nm3/hとした以外は実施例4と同様の方法で粒子材料を製造した。
【0055】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.96であり、20μm以上の着色異物の量は0個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は15.4μmであった。溶融度は95.3%であった。
【0056】
・原料粒子材料として結晶破砕シリカ、可燃性ガスとしてプロパン
・比較例1
可燃性ガスとしてアンモニアに代えてプロパンのみを用いたこと、プロパンの供給量を5.0Nm3/hとし、助燃ガスの供給量を28.0Nm3/hとした以外は実施例1と同様の方法で粒子材料を製造した。なお、原料の単位質量あたりの火炎の発熱量は実施例1と同じである。
【0057】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.97であり、20μm以上の着色異物の量は22個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は15.1μmであった。分離された着色異物についてSEM-EDX分析にて含有元素を調べたところ、主成分がCでOを含む不定形の煤であると思われる粒子と、主成分がOでSiやCを含むシリカと煤が混合していると思われる粒子が観測された。
【0058】
・比較例2
シリカAの供給量を20.3kg/hとし、助燃ガスの供給量を25.0Nm3/hとした以外は比較例1と同様の方法で粒子材料を製造した。
【0059】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.95であり、20μm以上の着色異物の量は31個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は14.8μmであった。
【0060】
・原料粒子材料として結晶破砕シリカ(粒径小)、可燃性ガスとしてアンモニア
・実施例6
シリカAに代えて体積平均粒径5.3μmの結晶破砕シリカ(シリカB)を用い、シリカBの供給量を10.0kg/hとした以外は実施例1と同様の方法で粒子材料を製造した。
【0061】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.95であり、20μm以上の着色異物の量は3個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は6.5μmであった。溶融度は92.8%であった。
・原料粒子材料として結晶破砕シリカ(粒径小)、可燃性ガスとしてプロパン
・比較例3
シリカBの供給量を16.4kg/hとしたこと、可燃性ガスとしてアンモニアに代えてプロパンのみを用いたこと、プロパンの供給量を5.0Nm3/hとした以外は実施例6と同様の方法で粒子材料を製造した。
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.96であり、20μm以上の着色異物の量は16個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は6.4μmであった。溶融度は96.7%であった。
・原料粒子材料としてアルミナ、可燃性ガスとしてアンモニア
・実施例7
シリカAに代えて体積平均粒径57.6μmの破砕アルミナ(アルミナA)を用い、アルミナAの供給量を10.0kg/hとした以外は実施例2と同様の方法で粒子材料を製造した。
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.96であり、20μm以上の着色異物の量は5個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は35.9μmであった。溶融度は70.4%であった。
・原料粒子材料としてアルミナ、可燃性ガスとしてプロパン
・比較例4
アルミナAの供給量を16.4kg/hとしたこと、可燃性ガスとしてアンモニアに代えてプロパンのみを用いたこと、プロパンの供給量を5.0Nm3/hとした以外は実施例7と同様の方法で粒子材料を製造した。
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.96であり、20μm以上の着色異物の量は19個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は45.5μmであった。溶融度は76.2%であった。
・原料粒子材料として結晶破砕シリカ、可燃性ガスとして水素
・実施例8
シリカAの供給量を5.0kg/hとし、アンモニアに代えて水素のみとし、水素の供給量を48.5Nm3/hとしたこと、助燃ガスの供給量を25.5Nm3/hとした以外は実施例1と同様の方法で粒子材料を製造した。
【0062】
得られた試験試料について分析を行った結果、球形度は0.97であり、20μm以上の着色異物の量は0個であった。得られた試験試料の体積平均粒径は14.8μmであった。溶融度は96.9%であった。
各実施例及び比較例の結果を表1に示す。特に明らかなものでない限り本文中と表との間の齟齬は表を優先する。
【表1】
・考察
可燃性ガスに炭素を含有しないガスを採用する実施例の試験試料は、可燃ガスに炭素を含有するプロパンを採用する比較例の試験試料と比べて着色異物の数が非常に少ないことが分かった。これは、可燃性ガスに炭素非含有ガスを用いたことで炭素からなる不純物が生成しないためであると考えられる。
なお、実施例1及び2、5~7において、観察された着色異物は、粒径が20μm未満のものも含めて炭素を含んでいるとは限らず、また炭素を含んでいるか否かにかかわらず炉体やバグフィルタやサイクロンなどの実験施設に由来した粒子や、原料粒子材料中の不純物や原料粒子材料が変質したものなどであると推測できる。
【要約】
優れた性能をもつ電子材料用フィラーの製造方法を提供すること。
原料粒子材料を、炭素を含有しない可燃性の炭素非含有ガスを燃焼して得られる火炎中に投入して電子材料用フィラーに含まれる粒子材料を形成する燃焼工程を有する。可燃性ガスとして炭素を含有しない可燃性ガスを採用することによって炭素からなる導電性粒子の生成は原理的になくなる。そのため、篩分けなどにより炭素からなる導電性粒子を除去する工程が必要無くなる。特に炭化水素ガス由来の炭素は、粒子材料の表面などに付着して形成されたり粒子材料の内部に形成されたりすることもあるため、篩分けなどでは完全に除去できない場合もあるが、本発明の製造方法によると原理的に炭素の混入が防止できる。