(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】新規D-アラビナン分解酵素
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220601BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20220601BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20220601BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20220601BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220601BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220601BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220601BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
C12N15/09 ZNA
C12N9/24
C12P19/04 Z
C12Q1/34
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2017141706
(22)【出願日】2017-07-21
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307011381
【氏名又は名称】株式会社スディックスバイオテック
(72)【発明者】
【氏名】藤田 清貴
(72)【発明者】
【氏名】隅田 泰生
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】Accession No.A0A0F0LST3,Uniprot[online],[retrieved on 2021.07.01],2017年06月07日,Retrieved from Internet:,URL, https://www.uniprot.org/uniprot/A0A0F0LST3.txt?version=8
【文献】澤井 未視他,Aureobacteriumsp. M2由来のエンド-D-アラビナーゼの精製と諸性質の解析,The Society for Biotechnology, Japan/Annual Meeting 2015,p.105,1P-065
【文献】Bifidobacterium longum由来の新規アラビナン分解酵素の機能解析,日本応用糖質科学会平成20年度大会(第57回)・第16回糖質関連酵素化学シンポジウム,2008年,p.56, Dp-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなり、かつ、エンド-D-アラビナーゼ活性を有する糖質分解酵素:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列、若しくは、当該アミノ酸配列からシグナル配列部分を除いた配列、
(b)前記配列番号2に記載のアミノ酸配列若しくは前記シグナル配列部分を除いた配列において、1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【請求項2】
以
下(a)の塩基配列からなり、かつ、エンド-D-アラビナーゼ活性を有する糖質分解酵素をコードする組換えDNA:
(a)配列番号1に記載の塩基配列、若しくは、当該塩基配列からシグナル配列部分を除いた配
列。
【請求項3】
請求項2記載の組換えDNAを含むベクターを構築し、
前記ベクターにより形質転換された形質転換体を用いて組換えタンパク質を発現させる
ことからなる
エンド-D-アラビナーゼ活性を有する糖質分解酵素の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の糖質分解酵素又は請求項3記載の製造方法によって得られる糖質分解酵素を、抗酸菌由来のリポアラビノマンナン及び/又はアラビノガラクタンを含む原料に作用させる工程を含む、D-アラビノースで構成されたD-アラビノオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の糖質分解酵素又は請求項3記載の製造方法によって得られる糖質分解酵素を、抗酸菌由来のリポアラビノマンナン及び/又はアラビノガラクタンを含む原料に作用させる工程を含む、前記リポアラビノマンナン及び/又はアラビノガラクタンの解析又は検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規D-アラビナン分解酵素であるエンド-D-アラビナーゼ及びエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ、及びそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
結核は、ストレプトマイシンやリファンピシリンなどの抗結核薬の登場とBCG接種の普及により制圧できると考えられてきた。しかし、発展途上国において多剤耐性結核菌の感染が増加し、日本でも2万人を超える感染者が確認されている。このため、より強力な抗結核薬を求めて、新たに、細胞壁合成・タンパク質合成・DNA合成・ATP合成阻害剤の開発が進められている。この中で、ヒトが持たない結核菌細胞壁成分の中で、特にリポアラビノマンナン(LAM)と呼ばれる糖脂質が創薬の重要なターゲットの一つとし注目され、LAMの生合成経路の解明とその生合成を阻害する抗結核薬の開発が進められている。
【0003】
LAMは、ホスファチジルイノシトール(PI)がマンナン鎖によって修飾された糖脂質であるリポマンナン(LM)に、D-アラビナン鎖と呼ばれるアラビノースによって修飾された構造を有する(
図1)。なお、LAMに修飾されているアラビノースは、植物に見られるL体では無く、結核菌やらい菌などの抗酸菌特有のD体のフラノース型である。D-アラビナン鎖は、α1,5-結合のD-アラビノフラノース(D-Araf)で構成されたα1,5-D-アラビナン主鎖にα1,3-結合で分岐した枝分かれ構造を有している。さらにその非還元末端はβ1,2-結合のD-Arafとマンノースで修飾されている。また、抗酸菌の細胞壁を構成するアラビノガラクタン鎖(AG)もLAMと同様のD-アラビナン鎖で修飾されていることが知られている。なお、本明細書において「Ara」はアラビノースを表し、「f」はフラノース環構造を表す。
【0004】
エンド-D-アラビナーゼとは、LAMやAGのD-アラビナン鎖に対してエンド型に作用しD-アラビノオリゴ糖を遊離させるとともに、LAMをLMに分解する酵素である。エンド-D-アラビナーゼに関する報告は、オーレオバクテリウム(Aureobacterium)に属するM2株(現在Microbacterium arabinogalactanolyticum NBRC14344として寄託されている)が分泌する天然型酵素(nEndo-MA)の存在が報告されている(非特許文献1)。また、その精製に関する報告が行われている(非特許文献2)。さらに、放線菌Cellulomonas属細菌からの精製に関するもの(非特許文献3)及び、非結核性抗酸菌Mycobacterium Smegmatisに菌体内酵素として存在していることを確認したものがある(非特許文献4)。しかしながら、現在までこれらのエンド-D-アラビナーゼのクローニング及び異種遺伝子発現に関する報告は行われていない。
一方、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼとは、エンド-D-アラビナーゼによって遊離されたα-D-アラビノオリゴ糖に対してエキソ型に作用しD-Araを遊離する酵素である。本酵素に関してはオーレオバクテリウムM2株が生産する酵素の精製に関する報告がある(非特許文献5)。しかし、現在までエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼのクローニング及び異種遺伝子発現に関する報告は行われていない。なお、本明細書において酵素名の前に記載された「r」は組換えタンパク質であることを表し、「n」は天然型タンパク質であることを表す。
【0005】
さらに、抗体作成の際に用いられる完全フロイトアジュバント(CFA:免疫動物内で抗原の放出を穏やかにすることで,強力でかつ長期間に渡り持続的な免疫応答を促進する薬剤)には加熱死菌の結核菌の類縁菌Mycobacterium butyricumが使用されている。CFAは免疫動物に炎症を引き起こす欠点があり、その代替品が必要とされている。既にLAMには免疫を活性化する能力があることが報告されており、LAMの免疫賦活能力を維持したまま低分子化することによる体内動態の最適化の可能性も指摘されている(非特許文献6)。また、LMにも免疫賦活能力があることが報告されている(非特許文献7)。エンド-D-アラビナーゼとエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼはこの低分子化及びLAMのLMへ分解を行うことができる酵素である。しかし、先行技術文献のうち精製工程が記載されているのは非特許文献2と3と5があるが、ここに記載の方法では精製工程も煩雑であり、夾雑物を含まない精製酵素の大量調製は困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】S. Kotani, et al. Biken J., 14, 379-387 (1971).
【文献】澤井未視等, 日本生物工学会大会講演要旨集, 67, 105(2015).
【文献】M.Z. Sun, et al. Protein J, 31, 51-58 (2012).
【文献】Y. Xin, et al. Biochim. Biophys. Acta, 1473, 267-271 (1999).
【文献】小前幸三等,日本農芸化学会大会講演要旨集, 665(1986).
【文献】A. Yonekawa, et al. Immunity, 41, 402-413 (2014)
【文献】D.N. Dao, et al. Infect. Immun., 72, 2067-2074 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、LAMまたはAGのD-アラビナン部位を分解する糖質分解酵素であるエンド-D-アラビナーゼ及びエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼの遺伝子をクローニングすることにより、該酵素の効率的な発現生産に寄与することである。オーレオバクテリウムM2株からのエンド-D-アラビナーゼの酵素生産を行うためには、抗酸菌細胞壁抽出液を誘導物質として添加する必要があり長時間の培養を要する上、精製工程も煩雑で単一精製を行うことが極めて困難という問題があった。組換え酵素の発現生産系の確立により、該酵素の効率的な発現生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意研究を進めた結果、オーレオバクテリウムM2株にコードされたエンド-D-アラビナーゼ遺伝子と、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ遺伝子の同定に成功した。また、これらの組換え酵素がD-アラビナン分解活性を有することを見いだし、以下の本発明を完成させた。
【0009】
請求項1に記載の本発明は、新規糖質分解酵素の組換えエンド-D-アラビナーゼ1(rEndo-MA1)であり、以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列、若しくは、当該アミノ酸配列からシグナル配列部分を除いた配列、
(b)前記配列番号2に記載のアミノ酸配列若しくは前記シグナル配列部分を除いた配列において、1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、以下(a)の塩基配列からなり、かつ、エンド-D-アラビナーゼ活性を有する糖質分解酵素をコードする組換えDNAである。
(a)配列番号1に記載の塩基配列、若しくは、当該塩基配列からシグナル配列部分を除いた配列。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、上記請求項2記載の組換えDNAを含むベクターを構築し、前記ベクターにより形質転換された形質転換体を用いて組換えタンパク質を発現させることからなるエンド-D-アラビナーゼ活性を有する糖質分解酵素の製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の本発明は、上記請求項1記載の糖質分解酵素又は請求項3記載の製造方法によって得られる糖質分解酵素を、抗酸菌由来のリポアラビノマンナン及び/又はアラビノガラクタンを含む原料に作用させる工程を含む、D-アラビノースで構成されたD-アラビノオリゴ糖の製造方法である。
【0013】
請求項5に記載の本発明は、上記請求項1記載の糖質分解酵素又は請求項3記載の製造方法によって得られる糖質分解酵素を、抗酸菌由来のリポアラビノマンナン及び/又はアラビノガラクタンを含む原料に作用させる工程を含む、前記リポアラビノマンナン及び/又はアラビノガラクタンの解析又は検出方法である。
【0014】
また、別の発明としては、新規糖質分解酵素の組換えエンド-D-アラビナーゼ2(rEndo-MA2)であり、以下の(a)、(b)又は(c)の組換えタンパク質である。
(a)配列番号4に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくともシグナル配列部分を除いた部分を含む一部からなる組換えタンパク質。
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、エンド-D-アラビナーゼ活性を有する組換えタンパク質。
(c)配列番号4に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、エンド-D-アラビナーゼ活性を有する組換えタンパク質。
前記rEndo-MA2は、以下の(A)、(B)又は(C)の組換えDNAでコードされる組換えタンパク質でもある。
(A)配列番号3に記載の塩基配列の全部又は少なくともシグナル配列部分を除いた部分を含む一部からなる組換えDNA。
(B)配列番号3に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、エンド-D-アラビナーゼ活性を有する組換えタンパク質をコードする組換えDNA。
(C)配列番号3に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、エンド-D-アラビナーゼ活性を有する組換えタンパク質をコードする組換えDNA。
【0015】
さらに、別の発明としては、新規糖質分解酵素の組換えエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ1(rExo-MA1)であり、以下の(a)、(b)又は(c)の組換えタンパク質である。
(a)配列番号6に記載のアミノ酸配列の全部又は一部からなる組換えタンパク質。
(b)配列番号6に記載のアミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ活性を有する組換えタンパク質。
(c)配列番号6に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ活性を有する組換えタンパク質。
前記rExo-MA1は、以下の(A)、(B)又は(C)の組換えDNAでコードされる組換えタンパク質でもある。
(A) 配列番号5に記載の塩基配列の全部又は一部からなる組換えDNA。
(B)配列番号5に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ活性を有する組換えタンパク質をコードする組換えDNA。
(C)配列番号5に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ活性を有する組換えタンパク質をコードする組換えDNA。
【0016】
また、上記の組換えタンパク質を単独でもしくは複数組み合わせて抗酸菌由来のリポアラビノマンナンやアラビノガラクタンを含む原料に作用させる工程を含む、D-アラビノースで構成されたD-アラビノオリゴ糖及びリポマンナン及びガラクタンの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、新規D-アラビナン分解酵素である組換えエンド-D-アラビナーゼ及びその組換えタンパク質をコードする組換えDNAが提供される。また、新規D-アラビナン分解酵素である組換えエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ及びその組換えタンパク質をコードする組換えDNAが提供される。本発明により、該酵素の効率的な発現生産方法を提供することができ、結核菌などの抗酸菌に存在するLAMやAGからD-アラビナンが除去されたLM又はガラクタン又はD-アラビノオリゴ糖を製造するための有益なツールとしての活用が期待される。さらに、LAMやAGのD-アラビナン構造を解析するためのツールとしての活用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】LAM(A)とAG(B)の構造を示す図である。
【
図2】新規D-アラビナン分解酵素であるエンド-D-アラビナーゼ(A)及びエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ(B)のアミノ酸配列に含まれるドメイン構造を示す概略図である。
【
図3】LAMに対するエンド-D-アラビナーゼ及びエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼの切断部位(ハサミで表す)を示す図である。
【
図4】試験例1により調製した組換えエンド-D-アラビナーゼであるrEndo-MA1(A)、rEndo-MA2(B)及び、組換えエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼであるrExo-MA1(C)の精製酵素をSDS-PAGEにより解析した図である。SDS-PAGEは10%ポリアクリルアミドゲルを用い、染色はCoomassie Brilliant Blueを用いた。両端のレーンはサイズマーカーを表す。
【
図5】結核菌由来のLAMに対して試験例1により調製したエンド-D-アラビナーゼを作用させた時の反応産物をSDS-PAGE(A)、及びHPAEC-PAD(B)により解析した結果である。SDS-PAGEは15%ポリアクリルアミドゲルを用い、染色はシルバーPASを用いた。HPAEC-PADのピークA1はD-Ara、A2はD-Araf-α1,5-D-Ara (D-Ara
2)、A3はD-Araf-α1,5- D-Araf-α1,5-D-Ara (D-Ara
3)で構成される。なお、A4-A20は、詳細な構造は未同定であるが溶出時間から4糖から20糖のD-Araで構成されたオリゴ糖であることが予想される領域を表す。
【
図6】結核菌由来のLAMに対して試験例1により調製したエンド-D-アラビナーゼとエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼを単独もしくは共同で作用させた時の反応産物をHPAEC-PADにより解析した結果である。
【
図7】非結核性好酸菌由来のLAMに対して試験例1により調製したエンド-D-アラビナーゼを作用させた時の反応産物をSDS-PAGE(A)、及びHPAEC-PAD(B)により解析した結果である。
【
図8】糖誘導体Methyl-α-D-arabinofuranoside(図中ではA-Meと略す)に対して試験例1により調製したエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ及びエンド-D-アラビナーゼを作用させた時の反応産物をTLCにより解析した結果である。
【
図9】非結核性好酸菌由来のAGに対して試験例1により調製したエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ及びエンド-D-アラビナーゼを作用させた時の反応産物をTLC(A)、及びHPAEC-PAD(B)により解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0020】
[エンド-D-アラビナーゼ及びエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ遺伝子をコードする微生物]
エンド-D-アラビナーゼ及びエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ遺伝子をコードする微生物であるオーレオバクテリウムM2株は1984年にIFO14344として寄託された後、基準株としてMicrobacterium arabinogalactanolyticumの学名で登録されている。今回クローニングに用いたオーレオバクテリウムM2株は寄託機関から分譲されたものではないため、その同一性を担保する目的で、16SリボソーマルRNA遺伝子の塩基配列を定法により同定した。次に、Microbacterium arabinogalactanolyticum NBRC14344の16srRNA遺伝子塩基配列(http://www.nbrc.nite.go.jp/NBRC2/SequencSearchServlet?ID=NBRC&CAT=00014344&DNA=2)と比較したところ100%の塩基配列が同一であった。このため、本発明のために用いたオーレオバクテリウムM2株と寄託機関に保存されたMicrobacterium arabinogalactanolyticum NBRC14344は同一の菌株であると考えられる。
【0021】
[エンド-D-アラビナーゼ]
本発明の組換えエンド-D-アラビナーゼであるrEndo-MA1とは、具体的には配列番号2に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくともシグナル配列部分を除いた部分を含む一部からなる組換えタンパク質である。また、rEndo-MA2とは、具体的には配列番号4に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくともシグナル配列部分を除いた部分を含む一部からなる組換えタンパク質である。
【0022】
また、本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2は、後述する組換えエンド-D-アラビナーゼ活性が損なわれない限り、配列番号2及び4に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入の変異が加えられたアミノ酸配列であってもよい。ここで、1若しくは数個とは、好ましくは1~30個、より好ましくは1~10個、特に好ましくは1~5個である。
かかる変異としては、アミノ酸置換が好ましく、電荷、極性(もしくは疎水性)又は側鎖の構造が類似種類のアミノ酸であることが望ましい。類似種類のアミノ酸とは、例えば塩基性アミノ酸(リシン、ヒスチジン、アルギニン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性アミノ酸(グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン)、無極性アミノ酸(アラニン、バリンロイシン、イソロイシン、プロリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンチロシン)などに分けることができる。
【0023】
本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2は、配列番号1及び3に記載の塩基配列の全部又は少なくともシグナル配列部分を除いた部分を含む一部からなる組換えDNAでコードされる組換えタンパク質でもある。
【0024】
また、本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2は、後述する組換えエンド-D-アラビナーゼ活性が損なわれない限り、配列番号1及び3に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする組換えDNAでコードされる組換えタンパク質であってもよい。
【0025】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、標的配列に対して相同性を有するヌクレオチド鎖の相補鎖が標的配列に優先的にハイブリダイズし、そして相同性を有さないヌクレオチド鎖の相補鎖が実質的にハイブリダイズしない条件を意味する。
【0026】
また、本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2は、後述する組換えエンド-D-アラビナーゼ活性が損なわれない限り、 配列番号1及び3に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有する塩基配列でコードされる組換えタンパク質であってもよい。
【0027】
InterPro (http://www.ebi.ac.uk/interpro/)を用いてドメイン検索を行ったところ、Endo-MA1は、N-末端側(配列番号2の第1~32位を含む)にシグナルペプチド(SP)を有することが予想された(
図2A)。また、Endo-MA1は、配列番号2の第49~353位にDUF4185ドメインを有することが予想された。DUFドメインは、いくつかのタンパク質によって共有された機能未知のドメインである。さらに、C-末端側(配列番号2の第338~511位を含む)にガラクトース結合領域様ドメイン (Galactose-bd-like)を有することが予想された。また、Endo-MA2は、N-末端側(配列番号4の第1~38位を含む)にシグナルペプチド(SP)を有することが予想された(
図2A)。また、Endo-MA2は、配列番号4の第57~359位にDUF4185ドメインを有することが予想された。
【0028】
前述した様に、DUFドメインはPfamデータベース(http://pfam.xfam.org)に登録された機能未知ドメインを表すため、DUFドメインに登録されている時点で機能が明らかにされているタンパク質は存在していないと考えることができる。さらに、rEndo-MA1及びrEndo-MA2のアミノ酸配列についてNCBI BLASTPデータベース(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて相同性検索を行ったところ、エンド-D-アラビナーゼを含め既知酵素は見つからなかった。このため、rEndo-MA1及びrEndo-MA2はアミノ酸配列の新規性が高い酵素であり、CAZyデータベース(http://www.cazy.org)における新規の糖質分解酵素ファミリー(GHファミリー)に該当すると考えられる。また、rEndo-MA1のDUF4185ドメイン(配列番号2の第57~348位を含む)とrEndo-MA2のDUF4185ドメイン(配列番号4の第61~354位を含む)間は、アミノ酸同一性27%、アミノ酸相同性42%であり、その類似性は低い。これは、Pfamデータベースに登録されたDUF4185ドメインを有する遺伝子の多くがエンド-D-アラビナーゼをコードする可能性が高いことを意味している。
【0029】
[エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ]
本発明の組換えエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼであるrExo-MA1とは、具体的には配列番号6に記載のアミノ酸配列の全部又は一部からなる組換えタンパク質である。
【0030】
また、本発明のrExo-MA1は、後述する組換えエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ活性が損なわれない限り、配列番号6に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入の変異が加えられたアミノ酸配列であってもよい。ここで、1若しくは数個とは、好ましくは1~30個、より好ましくは1~10個、特に好ましくは1~5個である。
かかる変異としては、アミノ酸置換が好ましく、電荷、極性(もしくは疎水性)又は側鎖の構造が類似種類のアミノ酸であることが望ましい。類似種類のアミノ酸とは、例えば塩基性アミノ酸(リシン、ヒスチジン、アルギニン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性アミノ酸(グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン)、無極性アミノ酸(アラニン、バリンロイシン、イソロイシン、プロリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンチロシン)などに分けることができる。
【0031】
本発明のrExo-MA1は、配列番号5に記載の塩基配列の全部又は一部からなる組換えDNAでコードされる組換えタンパク質でもある。
【0032】
また、本発明のrExo-MA1は、後述するエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ活性が損なわれない限り、配列番号5に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする組換えDNAでコードされる組換えタンパク質であってもよい。
【0033】
また、本発明のrExo-MA1は、後述するエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ活性が損なわれない限り、配列番号5に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有する塩基配列でコードされる組換えタンパク質であってもよい。
【0034】
InterProを用いてドメイン検索を行ったところ、rExo-MA1は、配列番号6の第86~334位にDUF2961ドメインを有することが予想された。なお、Exo-MA1は、シグナルペプチドを持たないことが予想されたため、菌体内酵素であると考えられる。
【0035】
rExo-MA1のアミノ酸配列についてNCBI BLASTPデータベースを用いて相同性検索を行ったところ、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼを含め既知酵素は見つからなかった。このため、rExo-MA1はアミノ酸配列の新規性が高い酵素であり、CAZyデータベースにおける新規のGHファミリーに該当すると考えられる。また、Pfamデータベースに登録されたDUF2961ドメインを有する遺伝子の多くがエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼをコードする可能性が高い。
【0036】
[LAMとAGの構造]
図1に示すように、LAMは脂質部分のフォスファチジルイノシトールにマンナン鎖が結合したリポマンナン(LM)にD体のArafで構成されたD-アラビナン鎖が付加したものである。また、D-アラビナン鎖の構造は抗酸菌の細胞壁を構成するAGと類似した構造をとることが知られている(L. Shi et al., J. Biol. Chem., 281, 19512-19526 (2006))。また、LAMの構造は非結核性抗酸菌と結核菌で異なっており、結核菌ではD-アラビナン鎖の非還元末端がマンノースで修飾されるなどの違いがある(Y. Guerardel et al., J. Biol. Chem., 277, 30635-30648 (2002))。
【0037】
[rEndo-MA1及びrEndo-MA2及びrExo-MA1の基質特異性]
本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2は、LAM及び類似のD-アラビナン構造を有するAGのD-アラビナン領域のα1,5鎖をエンド型に認識して切断するエンド-D-アラビナーゼである。なお、この分解活性は結核菌由来のLAM(
図5)と非結核性抗酸菌由来のLAM(
図7)及びAG(
図9)で確認できる。また、本発明のrExo-MA1は、α結合を有するD-Arafで構成された糖誘導体またはα-D-アラビノオリゴ糖をエキソ型に認識して切断するエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼである(
図8)。
図3を参照して説明すると、(A)LAMに対して組換えエンド-D-アラビナーゼであるrEndo-MA1及びrEndo-MA2が作用し、LAMのD-アラビナン領域のα1,5鎖をエンド型に認識して切断することにより、LAMからD-アラビノオリゴ糖とLMを生成する(
図5)。 (B)エンド-D-アラビナーゼ処理後に組換えエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼであるrExo-MA1を作用させた場合、α-D-Arafを非還元末端にもつD-アラビノオリゴ糖もしくは、LMの非還元末端のα-D-Arafに対してエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼが作用してD-Araを遊離する(
図6)。(C) 結果的に、α-D-Arafを非還元末端にもつD-アラビノオリゴ糖やLMの非還元末端に残されたα-D-Arafは除去されるが、D-Arafが除去されたLMや非還元末端側にβ-D-Arafが付加されたD-アラビノオリゴ糖は分解されずに残る。なお、
図1及び
図3に示すようにLAMやAGの非還元末端はβ結合のD-Arafにより修飾されているため、rExo-MA1はLAMやAGに単独で作用させても分解活性を示すことはなく、エンド-D-アラビナーゼにより遊離された非還元末端にα結合を有するD-Arafで構成されたα-D-アラビノオリゴ糖に対してのみ分解活性を示すことができる(
図6)。このため、本発明のエンド-D-アラビナーゼとエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼを組み合わせてLAM及びAGに対して作用させることにより、非還元末端側にβ-D-Arafが付加されたD-アラビノオリゴ糖及び、D-アラビナン部位を完全除去したLM及びガラクタンを調製することが可能になる。
【0038】
[rEndo-MA1及びrEndo-MA2及びrExo-MA1の酵素反応条件]
本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2及びrExo-MA1の酵素反応条件は、特に限定されないが、例えば温度は25℃~60℃が好ましく、35℃~50℃がより好ましい。また、pHは4.0~7.5が好ましく、5.5~7.0がより好ましい。
【0039】
[rEndo-MA1及びrEndo-MA2の酵素活性の確認方法]
ここで、エンド-D-アラビナーゼ活性は、例えば以下の方法により確認することができる。すなわち、本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2を、LAMと反応させて、SDS-PAGEとシルバーPAS染色を組み合わせた方法によりLAMからLMへの分解を定性的に評価できるし、AGと反応させてD-アラビナンを分解させた後、TLCを用いて分離したオリゴ糖をオルシノール硫酸のような発色剤を用いて検出することもできる。また、HPAEC-PAD (High performance anion exchange chromatography with pulsed amperometric detection)等のクロマトグラフィー法により生成したオリゴ糖を検出し、そのピークの溶出時間から遊離糖のサイズを評価できる。さらに、ソモジーネルソン法のような切断により生ずる還元糖量を評価することにより、酵素活性を定量的に評価することができる。
【0040】
[rExo-MA1の酵素活性の確認方法]
また、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼ活性は、例えば以下の方法により確認することができる。すなわち、本発明のrExo-MA1をp‐ニトロフェニル‐α‐D‐アラビノフラノシドを基質として反応させ、遊離するp‐ニトロフェノールの量を400nmの吸光度により測定する方法を用いることもできる。また、メチル‐α‐D‐アラビノフラノシドを基質として反応させ、TLCを用いて分離したオリゴ糖をオルシノール硫酸のような発色剤を用いて検出することもできる。さらに、本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2によりLAMやAGから遊離させたα-D-アラビノオリゴ糖を基質として反応させ、HPAEC-PAD等のクロマトグラフィー法により生成したオリゴ糖を検出し、そのピークから遊離糖のサイズを評価することもできる。
【0041】
[rEndo-MA1及びrEndo-MA2及びrExo-MA1の製造方法]
本発明のrEndo-MA1及びrEndo-MA2及びrExo-MA1は、遺伝子工学的手法を用いて適当な宿主細胞に組換えタンパク質を産生させることにより製造できる。
【実施例1】
【0042】
本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
[試験例1]組換え酵素及び天然型酵素の作製
Endo-MA1遺伝子のシグナルペプチドをコードする部位を除いた配列(配列番号1の第97~1533位)及びEndo-MA2遺伝子のシグナルペプチドをコードする部位を除いた配列(配列番号3の第115~1107位)及びExo-MA1のストップコドンをコードする部位を除いた配列(配列番号5の第1~1100位)を有するDNAをPCRで増幅し、定法によりpET23dベクターに組み込み、取得したプラスミドをpET23d_Endo-MA1及びpET23d_Endo-MA2及びpET23d_Exo-MA1と名付けた。
定法により大腸菌BL21(DE3)をpET23d_Endo-MA1もしくはpET23d_Endo-MA2もしくはpET23d_Exo-MA1で形質転換し、Overnight Express Autoinduction System(メルク社製)を用いて酵素を誘導生産した。BugBuster protein extraction reagent (メルク社製)を用いて菌体内酵素を抽出した後、タンパク質のC末端に付加したHis-tagを利用して酵素精製を行い、rEndo-MA1及びrEndo-MA2及びrExo-MA1を得た。各組換え酵素はSDS-PAGEでシングルバンドになっていることを確認した(
図4)。また、各アミノ酸配列からの予測されるタンパク質分子量である53.6kDa (rEndo-MA1)、36.9kDa(rEndo-MA2)、42.1kDa(rExo-MA1)付近にバンドが確認された。なお、天然型酵素nEndo-MAは非特許文献2の方法に従って調製した。
【0044】
[試験例2]エンド-D-アラビナーゼの結核菌由来のLAMに対する分解活性の確認
1mg/mlの結核菌青山B株由来のLAM(ナカライテスク社製)水溶液10μlに、1M酢酸バッファー(pH6.0) 1μl、及び滅菌水8μl中に、(1)で取得したnEndo-MAもしくはrEndo-MA1もしくはrEndo-MA2溶液(0.1μg/μl)1μlを加え、37℃にて18時間反応させた。回収した反応液10μlをSDS-PAGEに供し、シルベストステイン-ネオ(ナカライテスク社製)を用いたシルバーPAS染色を行った(
図5A)。また、同反応液をHPAEC-PADでも解析した(
図5B)。なお、HPAEC-PADを行った機材はICS-3000 (Dionex 社製)、カラムはCarboPac PA-1、移動相は溶離液A (0.1 M NaOH) 、溶離液B (0.5 M sodium acetate 及び 0.1 M NaOH)、プログラムは 0-5 min, 100% 溶離液 A; 5-45 min, 0%-80% 溶離液 B; 45-50 min, 100% 溶離液B。流速1.0 mL/min。温度は30℃。検出器はPADである。
その結果、
図5AのSDS-PAGE解析において、rEndo-MA1処理及びrEndo-MA2処理の両方にて、天然型酵素nEndo-MAと同様にLAMのLMへの分解が確認された。また、
図5BのHPAEC-PAD解析により単糖から20糖程度のD-アラビノオリゴ糖の遊離が確認できた。さらに、rEndo-MA2がnEndo-MAと類似した切断様式であるのに対して、rEndo-MA1は単糖から3糖の遊離割合が高いことから、基質特異性が一部異なると考えられる。
【0045】
[試験例3]エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼとエンド-D-アラビナーゼを組み合わせた時の結核菌由来のLAMに対する分解活性の確認
1mg/mlの結核菌青山B株由来のLAM水溶液10μlに、1M酢酸バッファー(pH6.0) 1μl、及び滅菌水8μl中に、(1)で取得したrExo-MA1溶液(0.1μg/μl)1μlを単独もしくは、エンド-D-アラビナーゼ(nEndo-MAもしくはrEndo-MA1もしくはrEndo-MA2)溶液(0.1μg/μl)1μlと同時に反応させて、37℃にて18時間反応させた。回収した反応液10μlをHPAEC-PADにより解析した(
図6)。
その結果、rExo-MA1単独ではD-Araの遊離は僅かであるのに対して、エンド-D-アラビナーゼと同時に反応させた場合はD-Araの遊離が確認された。また、エンド-D-アラビナーゼ処理により遊離していた2糖から3糖のα-D-アラビノオリゴ糖がrExo-MA1との組み合わせにより、単糖に分解されることが確認された。
【0046】
[試験例4]エンド-D-アラビナーゼの非結核性抗酸菌由来のLAMに対する分解活性の確認
既知の方法(B. Hamasur et al., FEMS Immunol. Med. Microbiol., 24, 11-17 (1999))で調製した非結核性抗酸菌Mycobacterium smegmatis由来のLAM水溶液10μl、1M酢酸バッファー(pH6.0) 1μl、及び滅菌水8μl中に、(1)で取得したrEndo-MA1もしくはnEndo-MA溶液(0.1μg/μl)1μlを加え、37℃にて18時間反応させた。回収した反応液10μlをSDS-PAGEに供し、シルバーPAS染色によって解析した(
図7A)。また、同反応液をHPAEC-PADでも解析した(
図7B)。
その結果、rEndo-MA1処理において、nEndo-MAと同様にLAMがLMに分解していることが確認された(
図7A)。また、その酵素処理によって単糖から20糖程度のα-D-アラビノオリゴ糖が遊離していることが確認された(
図7B)。
【0047】
[試験例5]エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼの糖誘導体Methyl-α-D-arabinofuranosideに対する分解活性の確認
1mg/mlの糖誘導体Methyl-α-D-arabinofuranoside(Carbosynth社製)水溶液10μlに、1M酢酸バッファー(pH6.0) 1μl、及び滅菌水8μl中に、(1)で取得したrExo-MA1もしくはnEndo-MAもしくはrEndo-MA1もしくはrEndo-MA2溶液(0.1μg/μl)1μlを加え、37℃にて18時間反応させた。回収した反応液1μlをTLCプレート(メルク社製)に供し、n-プロパノール/エタノール/水 =7/1/2にて展開した。オリゴ糖はオルシノール硫酸によって発色させた。
その結果、rExo-MA1反応液においてMethyl-α-D-arabinofuranosideのD-Araへの分解が確認された(
図8)。一方、エンド-D-アラビナーゼ反応液では分解活性が確認できなかった。
【0048】
[試験例6]エンド-D-アラビナーゼの非結核性抗酸菌由来のアラビノガラクタン(AG)に対する分解活性の確認
既知の方法(A. Misaki et al., J. Biochem., 76, 15-27 (1974).)で調製した非結核性抗酸菌Mycobacterium smegmatis由来のAG水溶液(1mg/ml) 10μl、1M酢酸バッファー(pH6.0) 1μl、及び滅菌水8μl中に、(1)で取得したrExo-MA1もしくはnEndo-MAもしくはrEndo-MA1もしくはrEndo-MA2溶液(0.1μg/μl)1μlを加え、37℃にて18時間反応させた。回収した反応液1μlをTLCプレートに供し、n-プロパノール/エタノール/水 =7/1/2にて展開した。オリゴ糖はオルシノール硫酸によって発色させた(
図9A)。また、同反応液をHPAEC-PADでも解析した(
図9B)。
その結果、TLCを用いることで、エンド-D-アラビナーゼ処理を行ったレーンのみに遊離糖のスポットを確認することができた(
図9A)。これは、TLCによりエンド-D-アラビナーゼ活性の有無を簡便に確認できることを示している。また、HPAEC-PADにより単糖から20糖程度のD-アラビノオリゴ糖が遊離していることが確認された(
図9B)。遊離糖のパターンは
図7に示したMycobacterium smegmatis由来のLAMの遊離糖のパターンと類似しており、LAM及びAGのアラビナン構造の類似性を示すものでもある。
一方、エキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼの反応液では分解活性が確認できなかった。これもLAMと同様に非還元末端側にβ-D-Arafが付加されていることによりエキソ-α-D-アラビノフラノシダーゼが作用できなかったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、結核菌などの抗酸菌に存在するリポアラビノマンナンやアラビノガラクタンの解析又は検出して利用する産業で利用される。また、抗酸菌由来のリポアラビノマンナンやアラビノガラクタンを分解し、D-アラビノースで構成されたD-アラビノオリゴ糖及びリポマンナン及びガラクタンを製造して利用する産業で利用される。
【配列表】