IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スター精密株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-工作機械 図1
  • 特許-工作機械 図2
  • 特許-工作機械 図3
  • 特許-工作機械 図4
  • 特許-工作機械 図5
  • 特許-工作機械 図6
  • 特許-工作機械 図7
  • 特許-工作機械 図8
  • 特許-工作機械 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/08 20060101AFI20220601BHJP
   B23B 7/06 20060101ALI20220601BHJP
   B23B 13/12 20060101ALI20220601BHJP
   B23B 23/00 20060101ALI20220601BHJP
   B23B 25/04 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
B23Q11/08 D
B23B7/06
B23B13/12 B
B23B23/00 Z
B23B25/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018083933
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019188527
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(74)【代理人】
【識別番号】100126077
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 亮平
(72)【発明者】
【氏名】出野 真敏
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-136646(JP,A)
【文献】特開平07-293560(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00316469(GB,A)
【文献】特開2016-036882(JP,A)
【文献】特開平07-060593(JP,A)
【文献】特開2014-065083(JP,A)
【文献】中国実用新案第206677657(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/08
B23B 7/06
B23B 13/12
B23B 23/00
B23B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に設けられ、移動体の移動方向に沿って設けられた支持側合わせ部を有する送り装置と、
前記移動体に設けられて前記支持側合わせ部に対して前記移動方向へ移動可能に嵌まり合った移動側合わせ部と、を備え、
第一使用状態である場合に前記移動体を第一移動範囲内で前記移動方向へ移動させてワークを加工し、第二使用状態である場合に前記移動体を前記第一移動範囲とは異なる第二移動範囲内で前記移動方向へ移動させてワークを加工する工作機械であって、
前記移動体に設けられ、前記移動方向において前記送り装置の位置の一部を覆う移動側カバーと、
前記移動方向において前記移動側カバーにおける前記第二移動範囲側の端部よりも前記第一移動範囲側に配置され、前記第一使用状態である場合に前記移動側カバーとで前記移動方向において連続して前記送り装置の位置の一部を直接又は間接的に覆い、前記第二使用状態である場合に前記移動方向において前記移動側カバーとの間に隙間が生じる支持側カバーと、
該支持側カバーと前記移動側カバーの一方である相手カバーに対して前記移動方向においてスライド可能に取り付けられ、前記第二使用状態である場合に前記移動方向において前記相手カバーから引き出された状態で前記隙間を隠すスライドカバーと、を備える、工作機械。
【請求項2】
前記相手カバーが前記支持側カバーである、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記相手カバーに対して前記スライドカバーが前記移動方向へスライドしたときに該スライドカバーを前記第一使用状態と前記第二使用状態の一方に合わせた位置に決める位置決め構造を有する、請求項1又は請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記移動体は、前記移動方向に沿った主軸中心線を中心として前記ワークとともに回転可能な主軸を有し、
前記工作機械は、前記主軸の前方において前記ワークを摺動可能に支持するガイドブッシュが着脱可能に設けられる支持台をさらに備え、
前記第一使用状態は、前記ガイドブッシュが前記支持台に取り付けられている状態であり、
前記第二使用状態は、前記ガイドブッシュが前記支持台から取り外されている状態であり、
前記第二移動範囲は、前記第一移動範囲よりも前記支持台に近い、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体に対して移動体を移動させてワークを加工する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械として、ワークを摺動可能に支持するガイドブッシュを主軸の前方に設けた主軸移動型旋盤が知られている。主軸を設けた主軸台を主軸中心線方向へ移動させる駆動手段は、例えば、主軸中心線に沿ったねじ軸とナットとを有するボールねじ、レールとガイド部材とのスライド可能な案内構造、及び、ねじ軸を回転駆動するサーボモーターを備える。ボールねじの保護や、安全性を向上させるため、また、ワークの切粉がボールねじに付着するのを防ぐ等のため、例えば、ボールねじを覆うカバーが主軸台に設けられる。
【0003】
特許文献1に示される主軸移動型旋盤は、主軸台にねじ止めされた第一前カバー、ガイドブッシュ使用時において送り機構の前端部を回転可能に支持する前端支持部にねじ止めされた第二前カバー、及び、主軸台にねじ止めされた後カバーを備えている。これにより、主軸台の前側にある送り機構は、第一前カバーと第二前カバーとで覆われる。主軸中心線方向において、ガイドブッシュ不使用時の主軸台の移動範囲は、ガイドブッシュ使用時の主軸台の移動範囲よりも前側となる。そこで、第二前カバーは、ガイドブッシュ不使用時に前端支持部から取り外され、送り機構の後端部を回転可能に支持する後端支持部にねじ止めされる。これにより、第二前カバーは主軸台の後側にある送り機構の一部を覆う共用カバーとして機能し、主軸台の後側にある送り機構は後カバーと第二前カバーとで覆われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-136646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガイドブッシュを使用する状態からガイドブッシュを使用しない状態に切り替える場合、前端支持部からねじを外して第二前カバーを取り外し、この第二前カバーを後端支持部に対してねじにより取り付ける必要がある。ガイドブッシュを使用しない状態からガイドブッシュを使用する状態に切り替える場合には、後端支持部からねじを外して第二前カバーを取り外し、この第二前カバーを前端支持部に対してねじにより取り付ける必要がある。
【0006】
ガイドブッシュを使用する状態とガイドブッシュを使用しない状態とを切り替える作業を軽減化させることができると、利便性が向上する。
以上の利便性は、主軸移動型旋盤に限定されず、第一使用状態と第二使用状態とで移動範囲が異なる移動体を移動させてワークを加工する工作機械に広く考えられる。
【0007】
本発明は、移動体の移動範囲を切り替える作業を軽減化させることが可能な工作機械を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、支持体に設けられ、移動体の移動方向に沿って設けられた支持側合わせ部を有する送り装置と、
前記移動体に設けられて前記支持側合わせ部に対して前記移動方向へ移動可能に嵌まり合った移動側合わせ部と、を備え、
第一使用状態である場合に前記移動体を第一移動範囲内で前記移動方向へ移動させてワークを加工し、第二使用状態である場合に前記移動体を前記第一移動範囲とは異なる第二移動範囲内で前記移動方向へ移動させてワークを加工する工作機械であって、
前記移動体に設けられ、前記移動方向において前記送り装置の位置の一部を覆う移動側カバーと、
前記移動方向において前記移動側カバーにおける前記第二移動範囲側の端部よりも前記第一移動範囲側に配置され、前記第一使用状態である場合に前記移動側カバーとで前記移動方向において連続して前記送り装置の位置の一部を直接又は間接的に覆い、前記第二使用状態である場合に前記移動方向において前記移動側カバーとの間に隙間が生じる支持側カバーと、
該支持側カバーと前記移動側カバーの一方である相手カバーに対して前記移動方向においてスライド可能に取り付けられ、前記第二使用状態である場合に前記移動方向において前記相手カバーから引き出された状態で前記隙間を隠すスライドカバーと、を備える、態様を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、移動体の移動範囲を切り替える作業を軽減化させる工作機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ガイドブッシュを取り付けている状態である場合に主軸が最後退位置にある旋盤の要部を一部断面視して模式的に例示する正面図である。
図2】ガイドブッシュを取り付けている状態である場合に主軸が最前進位置にある旋盤の要部を一部断面視して模式的に例示する正面図である。
図3】ガイドブッシュを取り外している状態である場合に主軸が最後退位置にある旋盤の要部を一部断面視して模式的に例示する正面図である。
図4】ガイドブッシュを取り外している状態である場合に主軸が最前進位置にある旋盤の要部を一部断面視して模式的に例示する正面図である。
図5】主軸中心線方向の後側から見て旋盤の要部を模式的に例示する側面図である。
図6】移動側カバー、支持側カバー、及び、スライドカバーの例を模式的に示す斜視図である。
図7】移動側カバー、支持側カバー、及び、スライドカバーの位置関係の例を模式的に示す平面図である。
図8図8A,8Bは移動側カバー、支持側カバー、及び、スライドカバーの例を模式的に示す平面図であり、図8Cは移動側カバー、支持側カバー、及び、スライドカバーの例を模式的に示す正面図である。
図9図9A,9Bは支持側カバー、及び、スライドカバーの例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0012】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~9に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
【0013】
[態様1]
本技術の一態様に係る工作機械(例えば旋盤1)は、基本要素として、支持体(例えば基台2)に設けられ移動体(例えば主軸台10)の移動方向(例えば主軸中心線方向D1)に沿って設けられた支持側合わせ部(例えばねじ軸23)を有する送り装置20、及び、前記移動体(10)に設けられて前記支持側合わせ部(23)に対して前記移動方向(D1)へ移動可能に嵌まり合った移動側合わせ部(例えばナット24)を備える。工作機械(1)は、第一使用状態ST1(例えばガイドブッシュ32を使用する状態)である場合に前記移動体(10)を第一移動範囲110内で前記移動方向(D1)へ移動させてワークW1を加工し、第二使用状態ST2(例えばガイドブッシュ32を使用しない状態)である場合に前記移動体(10)を前記第一移動範囲110とは異なる第二移動範囲120内で前記移動方向(D1)へ移動させてワークW1を加工する。ここで、移動体(10)の移動範囲(110,120)は、移動体の所定箇所を基準として該所定箇所が移動する範囲を示し、移動体自体の主軸中心線方向における長さを含まないものとする。図示の都合上、図1~4ではナット24の前端に相当する位置を基準として移動体(10)の移動範囲(110,120)を示し、図7では移動側カバー40の前側の端部41に相当する位置を基準として移動体(10)の移動範囲(110,120)を示している。
工作機械(1)は、さらに、移動側カバー40、支持側カバー50、及び、スライドカバー60を備える。前記移動側カバー40は、前記移動体(10)に設けられ、前記移動方向(D1)において前記送り装置20の位置の一部を覆っている。前記支持側カバー50は、前記移動方向(D1)において前記移動側カバー40における前記第二移動範囲120側(例えば前側)の端部41よりも前記第一移動範囲110側(例えば後側)に配置され、前記第一使用状態ST1である場合に前記移動側カバー40とで前記移動方向(D1)において連続して前記送り装置20の位置の一部を覆う。前記第二使用状態ST2である場合には、前記移動方向(D1)において前記支持側カバー50と前記移動側カバー40との間に隙間CL1が生じる。前記スライドカバー60は、前記支持側カバー50と前記移動側カバー40の一方である相手カバー(図7では支持側カバー50)に対して前記移動方向(D1)においてスライド可能に取り付けられ、前記第二使用状態ST2である場合に前記移動方向(D1)において前記相手カバーから引き出された状態で前記隙間CL1を隠す。
【0014】
上記態様1では、移動方向(D1)において移動側カバー40における第二移動範囲120側の端部41よりも第一移動範囲110側に支持側カバー50が配置されている。移動体(10)を第一移動範囲110内で移動方向(D1)へ移動させてワークW1を加工する第一使用状態ST1である場合、支持側カバー50と移動側カバー40とが移動方向(D1)において連続して送り装置20の位置の一部を覆う。移動体(10)を第二移動範囲120内で移動方向(D1)へ移動させてワークW1を加工する第二使用状態ST2である場合、移動方向(D1)において支持側カバー50と移動側カバー40との間に隙間CL1が生じる。支持側カバー50と移動側カバー40の一方である相手カバーからスライドカバー60が移動方向(D1)において引き出されると、前記隙間CL1が隠れる。これにより、支持側カバー50とスライドカバー60と移動側カバー40とが移動方向(D1)において連続して送り装置20の一部を覆う。
【0015】
以上により、ワークW1の切削粉が送り装置20に付着することが抑制され、送り装置20が保護され、安全性も向上する。また、スライドカバー60があることにより、支持側カバー50や移動側カバー40が移動方向(D1)において短くて済み、移動方向(D1)において機械寸法を短縮することができる。
【0016】
さらに、第一使用状態ST1から第二使用状態ST2に切り替える場合、相手カバーからスライドカバー60をスライドさせて引き出すという簡単な作業を行えばよい。第二使用状態ST2から第一使用状態ST1に切り替える場合には、相手カバーにスライドカバー60をスライドさせて重ねるという簡単な作業を行えばよい。従って、本態様は、移動体の移動範囲を切り替える作業を軽減化させる工作機械を提供することができる。
【0017】
ここで、移動体には、主軸台、刃物台、等が含まれる。主軸台には、正面加工を行う正面主軸台、背面加工を行う背面主軸台、等が含まれる。支持体は、工作機械自体の基台でもよいし、この基台に対して移動可能に設置されたテーブルでもよい。
支持側合わせ部は、支持体に取り付けられた別部材でもよいし、支持体と一体に形成された部位でもよい。
移動側合わせ部は、移動体に取り付けられた別部材でもよいし、移動体と一体に形成された部位でもよい。
支持側合わせ部と移動側合わせ部との組合せには、移動体を移動方向へ送るための送り機構、移動体を移動方向へ案内するためのガイド機構、等が含まれ、具体的には、ねじ軸とナットとの組合せ、レールとガイド部材との組合せ、アリ溝とアリとの組合せ、等が含まれる。
カバーが送り装置の位置の一部を覆うことには、カバーが送り装置を直接覆うこと、及び、カバーが別の部材(例えば別のカバー)を介して送り装置を間接的に覆うことの両方が含まれる。ここで、送り装置の位置の一部を覆うことは、送り装置が設けられている領域の一部を覆うことを意味する。例えば、図1~5に示すようにカバーが送り装置の上側に配置される場合、カバーが送り装置の位置の一部を覆うことは、平面視において送り装置が設けられている領域の一部にカバーが重なることを意味する。
支持側カバーは、送り機構を駆動する駆動部に設けられてもよいし、支持体に設けられてもよい。また、支持側カバーは、モーター自体の外装でもよい。
移動体に移動側カバーが設けられることには、設置対象に対して着脱可能に移動側カバーが取り付けられること、移動体に設けられる金具といった部品に移動側カバーが取り付けられること、移動体に対して分離不能に移動側カバーが形成されること、等が含まれる。
駆動部や支持体といった設置対象に支持側カバーが設けられることには、設置対象に対して着脱可能に支持側カバーが取り付けられること、設置対象に設けられる金具といった部品に支持側カバーが取り付けられること、設置対象に対して分離不能に支持側カバーが形成されること、等が含まれる。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0018】
[態様2]
図1~4等に例示するように、前記相手カバーは、前記支持側カバー50でもよい。この態様は、スライドカバーが移動物とともに移動しないのでスライドカバーを相手カバーに取り付ける構造を軽量化させることができるうえ、移動物の重量が増えないので移動物の駆動エネルギーを低減させることができる。
【0019】
[態様3]
図7等に例示するように、本工作機械(1)は、前記相手カバーに対して前記スライドカバー60が前記移動方向(D1)へスライドしたときに該スライドカバー60を前記第一使用状態ST1と前記第二使用状態ST2の一方に合わせた位置に決める位置決め構造130を有してもよい。この態様は、移動体の移動範囲を切り替える作業をさらに軽減化させる工作機械を提供することができる。
【0020】
[態様4]
図1~4等に例示するように、前記移動体(10)は、前記移動方向(D1)に沿った主軸中心線AX1を中心として前記ワークW1とともに回転可能な主軸12を有してもよい。本工作機械(1)は、前記主軸12の前方において前記ワークW1を摺動可能に支持するガイドブッシュ32が着脱可能に設けられる支持台30をさらに備えてもよい。前記第一使用状態ST1は、前記ガイドブッシュ32が前記支持台30に取り付けられている状態でもよい。前記第二使用状態ST2は、前記ガイドブッシュ32が前記支持台30から取り外されている状態でもよい。前記第二移動範囲120は、前記第一移動範囲110よりも前記支持台30に近くてもよい。本態様は、ガイドブッシュを使用する状態と使用しない状態とを切り替える作業を軽減化させることができる。
【0021】
(2)工作機械の構成の具体例:
図1~4は、工作機械の例として主軸移動型のNC(数値制御)旋盤1の構成を一部断面視して模式的に示している。図1は、ガイドブッシュ32を支持台30に取り付けている状態(第一使用状態ST1の例)である場合に主軸台10が最も後退した状態の旋盤1の要部を示しており、主軸台10が最も前進した状態における主軸12の位置を二点鎖線で示している。図2は、ガイドブッシュ32を支持台30に取り付けている状態である場合に主軸台10が最も前進した状態の旋盤1の要部を示している。図3は、ガイドブッシュ32を支持台30から取り外している状態(第二使用状態ST2の例)である場合に主軸台10が最も後退した状態の旋盤1の要部を示している。図4は、ガイドブッシュ32を支持台30から取り外している状態である場合に主軸台10が最も前進した状態の旋盤1の要部を示している。図1~4では、分かり易く示すため、カバー50,60の延出部50c,60cの図示を省略している。また、符号AX1は主軸中心線を示し、符号D1は水平方向である主軸中心線方向(移動方向の例)を示し、符号S1は主軸中心線方向D1における前側を示し、符号S2は主軸中心線方向D1における後側を示し、符号D2は主軸中心線方向D1と直交する径方向を示している。むろん、図1~4は、本技術を説明するための例を示しているに過ぎず、本技術を限定するものではない。また、各部の位置関係の説明は、例示に過ぎない。従って、前後方向を鉛直方向又は斜め方向に変更したり、回転方向を逆方向に変更したり等することも、本技術に含まれる。また、方向や位置等の同一は、厳密な一致に限定されず、誤差により厳密な一致からずれることを含む。
【0022】
また、図5は、主軸中心線方向D1の後側S2から旋盤1の要部を模式的に例示している。ここで、X軸方向とY軸方向は径方向D2に含まれ、X軸方向は主軸中心線方向D1と直交する水平方向を示し、Y軸方向は主軸中心線方向D1と直交する鉛直方向を示している。図5の下部には、支持側カバー50とスライドカバー60を拡大して示している。図6は、移動側カバー40、支持側カバー50、及び、スライドカバー60を模式的に例示している。
尚、図示していないが、主軸台10の前側において送り装置20を覆うカバーが配置されてもよい。
【0023】
図1~5に示す旋盤1は、基台2(支持体の例)、制御部8、主軸台10(移動体の例)、送り装置20、ガイドブッシュ支持台30、刃物台35、カバー40,50,60、等を備えている。基台2は、ベッド又はテーブル等とも呼ばれ、前述の各部10,20,30等を支持する土台部分を構成する。基台2、主軸台10、支持台30、刃物台35、及び、工具T1の主要部は、例えば金属で形成することができる。制御部8は、例えば、NCプログラムが記憶されたRAM(Random Access Memory)、NCプログラムを解釈して実行するための解釈実行プログラムが記憶されたROM(Read Only Memory)、解釈実行プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)、タイマー回路、インターフェイス、等を有する。制御部8は、NCプログラムに従って、各部10,20,30,35等の動作を制御する。
【0024】
主軸台10に設けられた主軸12は、主軸中心線方向D1へ挿入された円柱状(棒状)のワークW1を解放可能に把持し、ワークW1の長手方向に沿った主軸中心線AX1を中心としてワークW1を回転させる。主軸台10には、ボールねじ22に含まれるナット24(移動側合わせ部の例)、及び、長手方向を主軸中心線方向D1に向けた一対のガイド部材27(図5参照)が固定されている。主軸12を設けた主軸台10は、主軸中心線方向D1へ移動可能とされている。
【0025】
送り装置20は、数値制御可能なサーボモーター21、主軸中心線方向D1に沿ったねじ軸23(支持側合わせ部の例)、及び、図5に示す一対のレール28を有し、基台2上に設置されている。
各レール28は、長手方向を主軸中心線方向D1へ向けて基台2に取り付けられている。各レール28には、主軸台10に固定されたガイド部材27が主軸中心線方向D1へスライド可能に嵌まり合っている。すなわち、ガイド部材27とレール28とで構成された組合せが2組あり、これらの組合せがX軸方向においてねじ軸23を挟む位置に設けられている。尚、基台2にガイド部材を取り付けて主軸台10にレールを取り付けることも可能である。
【0026】
ねじ軸23の前端部23aは、基台2上に設置された前端支持部材25に対してねじ軸23の中心線を中心として回転可能に支持されている。ねじ軸23の後端部23bは、図示しないカップリングを介してモーター21に接続されている。ねじ軸23には、ボール(不図示)を介してナット24が主軸中心線方向D1へ移動可能に嵌まり合っている。ボールねじ22は、ねじ軸23とナット24がボールを介して作動する機械部品であり、ねじ軸23が主軸中心線AX1を中心として回転することによりナット24を主軸中心線方向D1へ移動させる。モーター21は、制御部8からの指令に従ってねじ軸23を回転駆動する。これにより、ナット24とともに主軸台10が一対のレール28に沿って主軸中心線方向D1へ移動する。
【0027】
図1,2に示すように、支持台30に取り付けられたガイドブッシュ32は、主軸12の前方に配置され、主軸12を貫通した長手状のワークW1を主軸中心線方向D1へ摺動可能に支持し、主軸12と同期して主軸中心線AX1を中心として回転駆動される。ガイドブッシュ32は、支持台30において主軸中心線方向D1へ貫通した貫通穴に対して着脱可能に設けられる。ガイドブッシュがあることにより、細長いワークW1の撓みが抑制されて高精度の加工が行われる。ガイドブッシュ使用時、主軸12がガイドブッシュ32よりも後側の第一移動範囲110内で主軸中心線方向D1へ移動するように主軸台10が駆動される。上述したように、図1~4では、図示の都合上、ナット24の前端に相当する位置を基準として主軸台10の移動範囲110,120を示している。一方、ガイドブッシュ32を使用すると、ワークW1の残材が長くなることになる。また、ガイドブッシュ32はワークW1の外周を支持するため、一旦加工したワークW1をガイドブッシュ内に後退させて加工することができない。そこで、図3,4に示すように、支持台30からガイドブッシュ32を取り外してガイドブッシュ使用時と比べて主軸12が前側S1となる第二移動範囲120内で主軸中心線方向D1へ移動させてワークW1を加工することができるようにしている。
尚、本技術を適用可能なガイドブッシュは、本具体例のように回転可能なガイドブッシュに限定されず、回転しない固定型ガイドブッシュでもよい。
【0028】
刃物台35は、支持台30の前側においてX軸方向及びY軸方向へ移動可能に支持されている。刃物台35には、複数の工具T1が取り付けられている。工具T1には、回転不能に固定されたバイト等の固定工具、及び、回転ドリルのように回転する回転工具の両方が含まれる。ガイドブッシュ使用時には、ガイドブッシュ32から前側へ突出したワークW1が工具T1により加工される。ガイドブッシュ不使用時には、主軸12から前側へ突出したワークW1が工具T1により加工される。
刃物台35には、タレット刃物台、櫛型刃物台、等を用いることができる。
【0029】
カバー40,50,60は、主軸中心線方向D1において、ナット24から後側にある送り装置20を連続して覆う。カバー40,50,60に覆われる対象の送り装置20は、モーター21とねじ軸23であり、基台2に直接又は間接的に取り付けられている。
【0030】
移動側カバー40は、主軸台10に固定され、主軸中心線方向D1においてねじ軸23を含む送り装置20の一部を覆うことが可能である。図6の上段には、移動側カバー40の斜視図を例示している。移動側カバー40は、略水平に配置される基部40b、及び、前側の端部41から上方へ延出した折曲部40dを有している。後述するカバー50,60のように、基部40bのX軸方向における両端部からそれぞれ下方へ延出した延出部が移動側カバー40に形成され、該延出部がカバー50,60の延出部50c,60cの外側に配置されてもよい。折曲部40dには、ねじSC1を螺合させずに通すための挿通孔43が複数形成されている。むろん、ねじSC1を通す箇所は、2箇所に限定されず、1箇所でもよいし、3箇所以上でもよい。主軸台10の背面部には、各ねじSC1と螺合するねじ穴が形成されている。各挿通孔43に通したねじSC1を主軸台10のねじ穴に螺合させると、主軸台10の背面部に移動側カバー40を取り付けることができる。
【0031】
支持側カバー50は、モーター21上に固定され、主軸中心線方向D1において移動側カバー40における前側の端部41よりも後側に配置されている。図6の下段には、支持側カバー50の斜視図を例示している。支持側カバー50は、略水平に配置される基部50b、及び、この基部50bのX軸方向における両端部からそれぞれ下方へ延出した延出部50cを有している。基部50bと延出部50cにより、支持側カバー50には、下側が開口した溝50aが長手方向を主軸中心線方向D1に向けて形成されている。延出部50cがあることにより、X軸方向から切削粉が送り装置20に入ることが抑制される。
基部50bには、各ねじSC2と螺合するねじ穴53が形成されている。ねじSC2は、支持側カバー50に対してスライドカバー60を主軸中心線方向D1へスライド可能に固定する固定手段である。図6に示すように、基部50bには、スライドカバー60の2本の長穴63に合わせて、前側の端部51の近傍に2個のねじ穴53、及び、これらのねじ穴53から後側S2へ所定間隔離れた2個のねじ穴53が配置されている。むろん、ねじ穴53の数は、4個に限定されず、3個以下でもよいし、5個以上でもよい。
【0032】
スライドカバー60は、相手カバーの例である支持側カバー50に対して脱落しないように主軸中心線方向D1においてスライド可能に取り付けられる。図6の中段には、スライドカバー60の斜視図を例示している。スライドカバー60は、略水平に配置される基部60b、この基部60bのX軸方向における両端部からそれぞれ下方へ延出した延出部60c、及び、基部60bにおける前側の端部61から上方へ延出した折曲部60dを有している。基部60bと延出部60cにより、スライドカバー60には、下側が開口した溝60aが長手方向を主軸中心線方向D1に向けて形成されている。延出部60cがあることにより、X軸方向から切削粉が送り装置20に入ることが抑制される。
基部60bには、主軸中心線方向D1へ並んだ2本のねじSC2を螺合させずに通しておく長穴63が2本形成されている。各長穴63の幅、すなわち、X軸方向における長さは、ねじSC2のねじ山の直径よりも若干長くされている。従って、長穴63は、ねじSC2を通した状態で主軸中心線方向D1におけるねじSC2の位置を変えることができるような形状である。各長穴63は、平面視において支持側カバー50に対して主軸中心線方向D1へ2個並んだねじ穴53と重なる位置に配置されている。各長穴63に主軸中心線方向D1へ2個並んだねじ穴53に螺合しているねじSC2が常に通されていることにより、スライドカバー60は、支持側カバー50から分離されず、且つ、支持側カバー50に対して主軸中心線方向D1へスライド可能である。むろん、長穴63の数は、2本に限定されず、1本でもよいし、3本以上でもよい。
【0033】
図7は、カバー40,50,60の位置関係を平面視において模式的に例示している。図7では、ねじSC2を長穴63の位置において断面視している。本具体例ではカバー40,50,60の下側に送り装置20(図7では不図示)が配置されているので、図7に示す平面図において送り装置20はカバー40,50,60の背後に位置する。上述したように、図7では、図示の都合上、移動側カバー40の前側の端部41に相当する位置を基準として主軸台10の移動範囲110,120を示している。
図7の上半分に示すようにガイドブッシュ32を使用する第一使用状態ST1である場合、各長穴63の前端63aに前側のねじSC2が突き当たる位置においてスライドカバー60が支持側カバー50にねじ止めされる。スライドカバー60において前端63aを有する長穴63、支持側カバー50の前側のねじ穴53(図6参照)、及び、前側のねじ穴53と螺合したねじSC2は、スライドカバー60を第一使用状態ST1に合わせた位置に決める位置決め構造131を構成する。図7の上半分において、上側は主軸台10が最後退位置にある場合の移動側カバー40の位置を示し、下側は主軸台10が最前進位置にある場合の移動側カバー40の位置を示している。
図7の下半分に示すようにガイドブッシュ32を使用しない第二使用状態ST2である場合、各長穴63の後端63bに後側のねじSC2が突き当たる位置においてスライドカバー60が支持側カバー50にねじ止めされる。スライドカバー60において後端63bを有する長穴63、支持側カバー50の後側のねじ穴53(図6参照)、及び、後側のねじ穴53と螺合したねじSC2は、スライドカバー60を第二使用状態ST2に合わせた位置に決める位置決め構造132を構成する。図7の下半分において、上側は主軸台10が最後退位置にある場合の移動側カバー40の位置を示し、下側は主軸台10が最前進位置にある場合の移動側カバー40の位置を示している。
尚、位置決め構造131,132を位置決め構造130と総称している。
【0034】
まず、ガイドブッシュ32を使用してワークW1を加工するする第一使用状態ST1におけるカバー40,50,60の位置関係を説明する。
図7の上半分に示す例では、主軸中心線方向D1において、支持側カバー50の前側の端部51とスライドカバー60の前側の端部61との位置が合い、支持側カバー50の後側の端部52とスライドカバー60の後側の端部62との位置が合っている。両カバー50,60の位置関係は、これに限定されず、両カバー50,60に重なりがある限り、前側の端部51,61の位置が違っていてもよいし、後側の端部52,62の位置が違っていてもよい。スライドカバー60が支持側カバー50から前側へ引き出されていないので、図1に示すようにスライドカバー60の前側の端部61が主軸台10と干渉しない。
【0035】
移動側カバー40は、ガイドブッシュ使用時、主軸中心線方向D1において、図1,2に示すように主軸台10とともに第一移動範囲110内で移動する。図7では、移動側カバー40の前側の端部41を基準として、第一移動範囲110の後退端112及び前進端111を示している。移動側カバー40が第一移動範囲110内で移動しても、支持側カバー50は、常に、移動側カバー40の前側の端部41よりも後側にある。また、移動側カバー40が前進端111にあっても、移動側カバー40の後側の端部42は支持側カバー50の前側の端部51よりも前側とはならない。従って、ガイドブッシュ32を使用する第一使用状態ST1である場合、両カバー40,50が主軸中心線方向D1において連続して送り装置20の一部を覆う。
【0036】
ガイドブッシュ32を使用しない場合、支持台30の貫通穴からガイドブッシュ32を取り外し、図3,4に示すように主軸台10を前進させて支持台30の貫通穴に主軸12を通した状態にする。このため、主軸中心線方向D1において、支持側カバー50の前側の端部51と移動側カバー40の後側の端部42との間に隙間CL1が生じる。支持側カバー50の前側の端部51を前側に延ばすことは、主軸台10が後退した時に支持側カバー50の前側の端部51と干渉してしまうので(図1参照)、できない。むろん、移動側カバー40の後側の端部42を後側S2へ延ばせば隙間CL1を無くすことができるものの、図1,2に示すガイドブッシュ使用時に移動側カバー40の後側の端部42が外装3に干渉しないように外装3を後側S2へ移す必要がある。これでは、主軸中心線方向D1において機械が大型化してしまう。
本具体例では、支持側カバー50に取り付けられているスライドカバー60を前側S1へ引き出すことによりカバー40,50間の隙間CL1を隠すことにしている。
【0037】
以下、ガイドブッシュ32を使用しないでワークW1を加工する第二使用状態ST2におけるカバー40,50,60の位置関係を説明する。
図7の下半分に示す例では、主軸中心線方向D1において、スライドカバー60の前側の端部61が支持側カバー50の前側の端部51よりも前側にあり、スライドカバー60の後側の端部62が支持側カバー50における前側の端部51と後側の端部52との間にある。従って、支持側カバー50、及び、支持側カバー50から前側へ引き出されたスライドカバー60は、主軸中心線方向D1において連続して送り装置20の一部を覆っている。支持側カバー50から引き出された部分のスライドカバー60は、支持側カバー50と移動側カバー40との間にある部分の送り装置20を覆う位置にある。
【0038】
移動側カバー40は、ガイドブッシュ不使用時、主軸中心線方向D1において、図3,4に示すように主軸台10とともに第一移動範囲110よりも前側の第二移動範囲120内で移動する。図7では、移動側カバー40の前側の端部41を基準として、第二移動範囲120の後退端122及び前進端121を示している。主軸台10が後退しても、図3に示すようにスライドカバー60の前側の端部61は主軸台10と干渉しない。移動側カバー40が前進端121にあっても、移動側カバー40の後側の端部42はスライドカバー60の前側の端部61よりも前側とはならない。従って、ガイドブッシュ32を使用しない第二使用状態ST2である場合、支持側カバー50から前側へ引き出されたスライドカバー60が支持側カバー50と移動側カバー40との間の隙間CL1を隠す。これにより、カバー40,50,60が主軸中心線方向D1において連続して送り装置20の一部を覆う。
【0039】
(3)工作機械の使用状態を切り替える方法の具体例:
次に、ガイドブッシュを使用するか使用しないかを切り替える方法について、説明する。
ガイドブッシュ32を使用する時、作業者は、図1,2に示すように支持台30にガイドブッシュ32を取り付ける作業を行う。また、作業者は、支持側カバー50に螺合している4本のねじSC2を緩め、支持側カバー50に対してスライドカバー60を後側S2へスライドさせる。長穴63の前端63aが前側のねじSC2に突き当たると、スライドカバー60はガイドブッシュ32を使用する第一使用状態ST1に合わせた位置に合わせられる。このようにスライドカバー60が位置決めされた状態で、作業者は、支持側カバー50に螺合している4本のねじSC2を締める作業を行えばよい。むろん、この作業のために支持側カバー50からスライドカバー60を取り外す必要は無い。
【0040】
ガイドブッシュ32を使用する第一使用状態ST1からガイドブッシュ32を使用しない第二使用状態ST2に切り替える場合、作業者は、図3,4に示すように支持台30からガイドブッシュ32を取り外す作業を行う。また、作業者は、支持側カバー50に螺合している4本のねじSC2を緩め、支持側カバー50に対してスライドカバー60を前側S1へスライドさせる。長穴63の後端63bが後側のねじSC2に突き当たると、スライドカバー60はガイドブッシュ32を使用しない第二使用状態ST2に合わせた位置に合わせられる。このようにスライドカバー60が位置決めされた状態で、作業者は、支持側カバー50に螺合している4本のねじSC2を締める作業を行えばよい。むろん、この作業のために支持側カバー50からスライドカバー60を取り外す必要は無い。
【0041】
(4)具体例に係る工作機械の作用及び効果:
上述したように、主軸台10を第一移動範囲110内で移動させてワークW1を加工する第一使用状態ST1である場合、支持側カバー50に対してスライドカバー60を後側S2へスライドさせて固定すればよい。これにより、ガイドブッシュ使用時、ナット24から後側にある部分の送り装置20が支持側カバー50と移動側カバー40とで連続して覆われる。主軸台10を第二移動範囲120内で移動させてワークW1を加工する第二使用状態ST2である場合、支持側カバー50に対してスライドカバー60を前側S1へスライドさせて引き出して固定すればよい。これにより、ガイドブッシュ不使用時、支持側カバー50から前側へ引き出されたスライドカバー60が支持側カバー50と移動側カバー40との間の隙間CL1を隠す。従って、ナット24から後側にある部分の送り装置20が支持側カバー50とスライドカバー60と移動側カバー40とで連続して覆われる。
【0042】
以上により、ナット24から後側にある部分の送り装置20にワークW1の切削粉が付着することが抑制され、送り装置20が保護され、安全性も向上する。また、使用状態ST1,ST2に応じて支持側カバー50に対するスライド位置を変えることができるスライドカバー60があることにより、支持側カバー50や移動側カバー40が主軸中心線方向D1において短くて済む。このため、本具体例は、主軸中心線方向D1において機械寸法を短縮することができる。
【0043】
さらに、ガイドブッシュ32を使用する第一使用状態ST1からガイドブッシュ32を使用しない第二使用状態ST2に切り替える場合、支持側カバー50からスライドカバー60をスライドさせて引き出すという簡単な作業を行えばよい。ガイドブッシュ32を使用しない第二使用状態ST2からガイドブッシュ32を使用する第一使用状態ST1に切り替える場合には、支持側カバー50にスライドカバー60をスライドさせて重ねるという簡単な作業を行えばよい。いずれの場合も、支持側カバー50からスライドカバー60を取り外したり支持側カバー50にスライドカバー60を取り付けたりするという煩雑な作業を必要としない。従って、本具体例は、主軸台10の移動範囲を切り替える作業を軽減化することができる。
【0044】
加えて、両カバー50,60には、主軸中心線方向D1において、スライドカバー60を第一使用状態ST1に合わせた位置に決める位置決め構造131、及び、スライドカバー60を第二使用状態ST2に合わせた位置に決める位置決め構造132がある。このため、第一使用状態ST1と第二使用状態ST2とを切り替える時に支持側カバー50に対するスライドカバー60の位置決めが容易であり、この点でも主軸台10の移動範囲を切り替える作業が軽減化される。
【0045】
(5)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、上述した具体例ではスライドカバー60が長穴63を有して支持側カバー50がねじSC2に螺合するねじ穴53を有していたが、支持側カバー50が長穴を有してスライドカバー60がねじSC2に螺合するねじ穴を有していてもよい。この場合、支持側カバー50側から長穴にねじSC2を通してスライドカバー60のねじ穴に螺合させておけば、ねじSC2を緩めることにより支持側カバー50に対してスライドカバー60を取り外さずに主軸中心線方向D1へスライドさせることができる。従って、主軸台の移動範囲を切り替える作業が軽減される。
上述した具体例では支持側カバー50の上面に対してスライドカバー60がスライド可能に取り付けられていたが、支持側カバー50の下面に対してスライドカバー60がスライド可能に取り付けられてもよい。
【0046】
上述した具体例では支持側カバー50がスライドカバー60の相手カバーであったが、移動側カバーがスライドカバーの相手カバーでもよい。この場合、スライドカバーが主軸台とともに移動するので移動物の重量が増えるものの、主軸台の移動範囲を切り替える作業を軽減化させる効果は得られる。
【0047】
上述した具体例では主軸台10の後側の送り装置20をカバー40,50,60で覆ったが、主軸台10の前側の送り装置20をカバーで覆ってもよい。例えば、主軸台10の前側に移動側カバーを取り付け、前端支持部材25に支持側カバーを取り付け、この支持側カバーに対して主軸中心線方向D1においてスライド可能にスライドカバーを取り付けることにより、主軸台10の前側の送り装置20をカバーで覆うことができる。
【0048】
カバーで覆われる送り装置は、ボールねじを利用した送り装置に限定されず、リニアモーターを利用した送り装置、ラックギヤを利用した送り装置、等でもよい。また、支持体に対して移動体を主軸中心線方向D1へ案内する部位に対しても、本技術を適用可能である。例えば、図5で示したレール28(送り装置の一部)を覆う場合にも、移動側カバーを主軸台10に設け、スライドカバーをスライド可能に取り付けた支持側カバーを基台2に設けることができる。この場合、第一使用状態ST1では支持側カバーと移動側カバーとにより連続してレール28の位置の一部が覆われ、第二使用状態ST2では支持側カバーとスライドカバーと移動側カバーとにより連続してレール28の一部が覆われる。
【0049】
移動体は、主軸台に限定されず、刃物台等でもよい。例えば、刃物台が正面加工に使用する第一使用状態と背面加工に使用する第二使用状態とで移動範囲が異なる場合、本技術を適用することができる。この場合、第一使用状態では支持側カバーと移動側カバーとにより連続して送り装置の位置の一部が覆われ、第二使用状態では支持側カバーとスライドカバーと移動側カバーとにより連続して送り装置の一部が覆われる。
むろん、本技術は、旋盤以外の工作機械にも適用可能である。
【0050】
図8A~8Cに例示するように、長穴63とねじSC2の組合せは様々な例が考えられる。尚、上述した具体例で説明した部分に類似する部分に同じ符号を付している。
図8Aは、各長穴63に通すねじSC2を1本にした例を示している。支持側カバー50には、ねじSC2に螺合するねじ穴が形成されている。ねじSC2が2本であっても、長穴の前端63aにねじSC2を突き当てることによりスライドカバー60を第一使用状態に合わせた位置に精度よく決めることができ、長穴の後端63bにねじSC2を突き当てることによりスライドカバー60を第二使用状態に合わせた位置に精度よく決めることができる。
【0051】
図8Bは、長穴63を1本にした例を示している。支持側カバー50には、各ねじSC2に螺合するねじ穴が形成されている。長穴63が1本であっても、ねじSC2が2本あることにより、スライドカバー60を第一使用状態又は第二使用状態に合わせた位置に精度よく決めることができる。
【0052】
図8Cは、スライドカバー60の延出部60cに長穴63を形成し、支持側カバー50の延出部50cに各ねじSC2に螺合するねじ穴を形成した例を示している。このようにしても、スライドカバー60を第一使用状態又は第二使用状態に合わせた位置に精度よく決めることができる。
むろん、図8A~8Cにおいても、支持側カバー50が長穴を有してスライドカバー60がねじSC2に螺合するねじ穴を有していてもよい。
【0053】
また、図9A,9Bに例示するように、長穴63が無くても相手カバーに対してスライド可能に取り付けることができる。尚、上述した具体例で説明した部分に類似する部分に同じ符号を付している。
図9Aは、ねじ穴53を無くした支持側カバー50、並びに、ねじ穴64及び一対の受け部60eを有するスライドカバー60を例示している。スライドカバー60には、長穴が形成されておらず、各ねじSC2と螺合するねじ穴64が形成され、延出部60cの先端からX軸方向において互いに近付く方向へ一対の受け部60eが延出している。各ねじ穴64は、常にねじSC2に螺合しており、締める向きに回すと支持側カバー50の基部50bを延出部50cの延出方向へ押す。各受け部60eには、ねじSC2により延出方向へ押された支持側カバー50の延出部50cの先端が突き当たる。
【0054】
ガイドブッシュ32を使用する時、作業者は、スライドカバー60に螺合している各ねじSC2を緩め、支持側カバー50に対してスライドカバー60を第一使用状態ST1に合わせた位置まで後側S2へスライドさせ、各ねじSC2を締める作業を行えばよい。ガイドブッシュ32を使用しない時、作業者は、スライドカバー60に螺合している各ねじSC2を緩め、支持側カバー50に対してスライドカバー60を第二使用状態ST2に合わせた位置まで前側S1へスライドさせ、各ねじSC2を締める作業を行えばよい。これらの作業のために支持側カバー50からスライドカバー60を取り外す必要は無い。図9Aには位置決め構造130が示されていないが、例えば、支持側カバー50に凹部を形成し、この凹部とスライド可能に嵌合する凸部をスライドカバー60に形成することにより、位置決め構造130を設けることができる。むろん、位置決め構造130が無くても、主軸台の移動範囲を切り替える作業を軽減化させる効果が得られる。
【0055】
図9Bは、クランプ部材70によりスライドカバー60を支持側カバー50に固定する例を示している。スライドカバー60には長穴が形成されておらず、支持側カバー50にはねじ穴が形成されていない。図9Bに示す例では、支持側カバー50の延出部50cとスライドカバー60の延出部60cとの組合せのそれぞれにクランプ部材70が取り付けられていることが示されている。各クランプ部材70は、延出部50c,60c同士をX軸方向において互いに押し付ける力を延出部50c,60cに加えることにより、支持側カバー50にスライドカバー60を固定している。また、支持側カバー50に対してスライドカバー60を主軸中心線方向D1へスライド可能に固定するため、各クランプ部材70の一端が入る溝50gを支持側カバー50の延出部50cを形成し、各クランプ部材70の他端が入る溝60gをスライドカバー60の延出部60cに形成してもよい。ここで、支持側カバー50の溝50gは支持側カバー50の延出部50cの内側面に対して主軸中心線方向D1へ延び、スライドカバー60の溝60gはスライドカバー60の延出部60cの外側面に対して主軸中心線方向D1へ延びているものとする。このようにすれば、クランプ部材70を取り外さなくても、スライドカバー60に主軸中心線方向D1への力を加えることにより支持側カバー50に対してスライドカバー60をスライドさせることができる。スライドカバー60に主軸中心線方向D1への力が加わらなければ、クランプ部材70からの押し付ける力により支持側カバー50に対してスライドカバー60が移動しないように保持される。
図9Bには位置決め構造130が示されていないが、例えば、溝50g,60gの端部とクランプ部材70とで位置決め構造130を構成することができる。むろん、位置決め構造130が無くても、主軸台の移動範囲を切り替える作業を軽減化させる効果が得られる。
【0056】
(6)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、移動体の移動範囲を切り替える作業を軽減化させる工作機械等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1…旋盤(工作機械の例)、2…基台(支持体の例)、3…外装、
10…主軸台(移動体の例)、12…主軸、
20…送り装置、21…モーター、22…ボールねじ、
23…ねじ軸(支持側合わせ部の例)、24…ナット(移動側合わせ部の例)、
27…ガイド部材、28…レール、
30…支持台、32…ガイドブッシュ、35…刃物台、
40…移動側カバー、41,42…端部、43…挿通孔、
50…支持側カバー、50c…延出部、51,52…端部、53…ねじ穴、
60…スライドカバー、60c…延出部、61,62…端部、
63…長穴、63a…前端、63b…後端、
110…第一移動範囲、120…第二移動範囲、
130,131,132…位置決め構造、
AX1…主軸中心線、CL1…隙間、
D1…主軸中心線方向(移動方向の例)、S1…前側、S2…後側、
SC1,SC2…ねじ、
ST1…第一使用状態、ST2…第二使用状態、
W1…ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9