(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】防汚性マット調部材
(51)【国際特許分類】
C04B 41/86 20060101AFI20220601BHJP
C23D 3/00 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
C04B41/86 R
C23D3/00 B
(21)【出願番号】P 2017245403
(22)【出願日】2017-12-21
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2016249836
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲
(72)【発明者】
【氏名】山澤 幸香
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046364(JP,A)
【文献】特開2001-152367(JP,A)
【文献】特開2016-018068(JP,A)
【文献】特開2004-010428(JP,A)
【文献】国際公開第99/061392(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/86
C23D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材表面に設けられたガラス質層と、
を備え、
前記ガラス質層の表面は、60°光沢度が20以下であり、JIS B0601(2001)で規定される歪度Rskが-0.5以上であり、最大高さ粗さRzが2.5μmよりも大きく5.7μm未満であり、粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)と粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)との比(Rc/Rsm)が20×10
-3以上33×10
-3以下である、マット調部材。
【請求項2】
基材と、
該基材表面に設けられたガラス質層と、
を備え、
前記ガラス質層の表面は、60°光沢度が20以下であり、JIS B0601(2001)で規定される歪度Rskが-0.5以上であり、最大高さ粗さRzが2.5μmよりも大きく
4.8μm以下である、マット調部材。
【請求項3】
基材と、
該基材表面に設けられたガラス質層と、
を備え、
前記ガラス質層の表面は、60°光沢度が20以下であり、JIS B0601(2001)で規定される歪度Rskが-0.5以上
0.1以下であり、最大高さ粗さRzが2.5μmよりも大きく5.7μm未満であ
る、マット調部材。
【請求項4】
Rzが3.0μm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のマット調部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット調でありながら優れた防汚性を示す表面を有するマット調部材に関する。
【背景技術】
【0002】
浴槽、洗面器あるいは便器等では、その表面を緻密にしたり、保護したりするために、基材表面を釉薬や琺瑯などのガラス質層で被覆する場合がある。一方、空間全体で調和のとれた意匠性に優れた外観に対するニーズも高まっている。そのため、ガラス質層が有する光沢感以外に、艶消し調のしっとりとした外観を表現することも求められている。
特開平6-191920号公報には、表面を艶消し状態にして陶磁器を焼成する陶磁器の製造方法が記載されている。この方法では、焼成過程において、釉薬中のアルミナを分離させ、陶磁器表面に小さいアルミナ結晶を析出させて表面を艶消し状態にするというものである。
特開2012-46364号公報には、防汚性マット調表面を有した衛生陶器が記載されている。この衛生陶器は、Rc(平均高さ)が0.5μm以上2.5μm以下であり、Rc/Rsm(平均長さ)が9×10-3より大きく16×10-3より小さく、光沢度が25~51であり、釉薬焼成時に結晶粒子を析出させてマット調の表面を形成させ、防汚性とマット調の両立を図っている。
特開平8-133870号公報には、施釉製品の製造方法が記載されている。この方法では、施釉面をブラスト処理した後、釉の軟化温度よりも高くかつ焼成温度よりも低い温度で焼成することによって、防汚性とマット調の両立を図っている。
特開2010-120232号公報には、施釉面をブラスト処理した後、電子ビーム加工、レーザー加工、又はプラズマ加工を施すことにより鋭い凹凸をなだらかにして、防汚性を付与する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-191920号公報
【文献】特開2012-46364号公報
【文献】特開平8-133870号公報
【文献】特開2010-120232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、艶消し調の表面を実現するために、例えばその表面で光が拡散されるよう表面に凹凸を設ける方法が採用されてきた。しかしながら、凹凸形状によっては汚れが凹部に入り込み除去することが困難となる課題があった。また、汚れ除去性を担保しつつ、60°光沢度で20以下の艶消し調表面は未だ達成されていなかった。本発明は、より低い光沢度の領域で防汚性との両立が可能なマット調部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはガラス質層表面において、Rskを所定値以上に大きくし、かつRzを所定範囲内とすることで、60°光沢度で20以下の艶消し調の外観と高い汚れ除去性とを両立できることを見出した。すなわち本発明は、基材と、該基材表面に設けられたガラス質層と、を備え、前記ガラス質層の表面は、60°光沢度が20以下であり、JIS B0601(2001)で規定される歪度Rskが-0.5以上であり、最大高さ粗さRzが2.5μmよりも大きく5.7μm未満である、マット調部材を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、60°光沢度で20以下の艶消し調の外観と高い汚れ除去性とを両立したマット調部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】例1の試料について測定した表面形状プロファイルの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のマット調部材は、基材と、該基材表面に設けられたガラス質層とを備える。本発明で使用される基材は、特に限定されるものではなく、例えばセラミック、金属などが挙げられる。
基材表面に設けられるガラス質層の表面は、60°光沢度が20以下である。また、基材表面に設けられるガラス質層の表面は、JIS B0601(2001)で規定される歪度Rskが-0.5以上であり、好ましくは0.1以下である。また、基材表面に設けられるガラス質層の表面は、JIS B0601(2001)で規定される最大高さ粗さRzが2.5μmよりも大きく5.7μm未満であり、好ましくは3.0μm以上であり、また好ましくは4.8μm以下であり、さらに好ましくは3.0μm以上4.8μm以下である。このような性状を有する表面とすることで、マット調(艶消し調)でありながら、汚れが付着しにくく、また汚れが付着しても容易に除去できる部材を提供することができる。
また、基材表面に設けられるガラス質層の表面は、好ましくはそれぞれJIS B0601(2001)で規定される粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)と粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)との比(Rc/Rsm)が20×10-3以上33×10-3以下である。
【0009】
ガラス質層は、釉薬を基材表面に塗布することによって設けられる。基材表面には、中間層となる釉薬層がさらに設けられていてもよい。ガラス質層を生成するために用いる釉薬の組成は、特に限定されない。一般的には、釉薬原料として、珪砂、長石、石灰石等の天然鉱物粒子の混合物、コバルト化合物、鉄化合物等の顔料、珪酸ジルコニウム、酸化錫等の乳濁剤などが使用される。釉薬原料を高温で溶融した後、急冷してガラス化させることでガラス質層を得ることができる。本発明において好ましい釉薬組成は、例えば、長石が10wt%~30wt%、珪砂が15wt%~40wt%、炭酸カルシウムが10wt%~25wt%、コランダム、タルク、ドロマイト、亜鉛華が、それぞれ10wt%以下、乳濁剤および顔料が合計15wt%以下のものである。
【0010】
本発明のマット調部材は、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、まず、基材を用意する。基材が陶器の場合には、例えば陶器素地を、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した陶器素地泥漿を、吸水性の型を利用した鋳込み成形により、所望の形状に成形する。その後、乾燥させた成形体表面に、釉薬原料をスプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング等の一般的な方法で塗布する。次いで、釉薬原料が塗布された成形体を焼成する。焼成温度は、陶器素地が焼結し、かつ釉薬が軟化する1,000℃以上1,300℃以下の温度が好ましい。さらに、得られた成形体のガラス質層の表面を、ウエットブラスト処理などにより、先に定義した表面形状がを得ることができる。ウエットブラスト処理では、ガラス質層の表面に対して水と研磨材と圧縮空気の混合物を同時に噴射することで、所定の表面形状に調整することが可能である。
基材が金属の場合には、例えば、脱脂、洗浄等の前処理を施した金属表面に、釉薬原料をスプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング等の一般的な方法で塗布し、焼成する。焼成温度は、例えば750℃以上850℃以下の温度が好ましい。
本発明のマット調部材においては、あまり汚れが付着しない部分などの一部の領域で、先に定義した表面形状を得るための処理が施されていない部分を有していてもよい。また、本発明のマット調部材においては、光沢部分と、マット調部分とで模様を形成してもよい。
【実施例】
【0011】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0012】
1.サンプル作製
1-1 ブラスト:例1~6、9、10、13、16~18
ブラスト前の釉薬組成
【表1】
表1の組成からなる天然鉱物粒子2kgと水1kg及び球石4kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、ボールミル(粒径:50mm)により約24時間粉砕し釉薬スラリーを得た。次に、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて、70×70mmの板状試験片を作製した。この板状試験片上に、釉薬を濡れ吹き法によるスプレーコーティングで厚み0.5mmになるように塗布し、その後、1100~1200℃で焼成することで基材を得た。
上記の基材に対して、市販のウエットブラスト装置を用いて基材表面の形状を調整した。ウエットブラスト処理では、基材表面に対して水と研磨材と圧縮空気の混合物を同時に噴射することで、基材表面を所定の表面形状に調整することが可能である。研磨材は非球形のアルミナ粒子を用い、研磨材の平均粒径(粒径範囲:10μm~100μm)、圧縮空気の供給圧力、投射距離、投射角度、投射時間を適宜選択することで、所望の表面形状に調整した。
【0013】
1-2 釉薬:例7、8、11、12、14、15、19~23
【表2】
【0014】
表2の組成からなる天然鉱物粒子2kgと水1kg及び球石4kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、ボールミル(粒径:50mm)により約24時間粉砕し釉薬スラリーを得た。次に、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて、70×70mmの板状試験片を作製した。この板状試験片上に、釉薬を濡れ吹き法によるスプレーコーティングで厚み0.5mmになるように塗布し、その後、1100~1200℃で焼成することで試料を得た。以上のようにして、衛生陶器の例7、8、11、12、14、15、20~23を得た。
【0015】
1-3 ブラスト:例24、25
市販の衛生陶器2種類に対して、市販のウエットブラスト装置を用いて基材表面の形状を調整した。ウエットブラスト処理では、基材表面に対して水と研磨材と圧縮空気の混合物を同時に噴射することで、基材表面を所定の表面形状に調整することが可能である。研磨材は非球形のアルミナ粒子を用い、研磨材の平均粒径(粒径範囲:10μm~100μm)、圧縮空気の供給圧力、投射距離、投射角度、投射時間を適宜選択することで、所望の表面形状に調整した。
【0016】
2.評価方法
2-1 表面形状の測定(Rsk、Rz、Rsm、Rc)
例1~25の試料について、JIS B0601(2001年)による定義と表示に従い、JIS B0601(1996年)に準拠した触針式表面粗さ測定装置(株式会社ミツトヨ製SV-624)あるいは、JIS B0601(2001年)に準拠したレーザー顕微鏡 LEXT OLS4000(オリンパス製)を用いて表面形状を測定した。触針式表面粗さ測定装置における測定条件は、評価長さ4mm、カットオフ値λc0.8mmとして、計10箇所の線粗さを測定し、それらの平均値をサンプルの粗さパラメータの値として採用した。レーザー顕微鏡における観察条件は、倍率:430倍、高精度モード(ピッチ0.2μm)を選択し、1視野あたり640μm×640μmの画像を7枚撮影し、画像貼り合せ機能により合成した画像を評価対象とした。評価条件は、評価長さ4mm、カットオフ値λc0.8mmとし、合成した画像の中で計10箇所の線粗さを測定し、それらの平均値をサンプルの粗さパラメータの値として採用した。
例1の試料について、触針式表面粗さ測定装置(株式会社ミツトヨ製SV-624)で測定したプロファイルの一例を
図1(a)、(b)に示す。
図1(b)において、点線枠部分は、ガラス質層内の気泡に対応する。本発明では、このような気泡を除くプロファイルを用いて表面形状測定を実施する。具体的には
図1(a)のような、気泡を含まないプロファイルを用いて粗さパラメータの値を算出する。
【0017】
2-2 光沢度の測定
例1~25の試料について、その60°光沢度を、JIS Z8741に基づき、光沢計(コニカミノルタ社製GM-268plus)により測定した。マット感の指標として、60°光沢度20以下を合格とした。
【0018】
2-3 防汚性の評価
以下の方法によって、例1~25の表面の防汚性を評価した。色差計には、SPECTROPHOTOMETER CM-2600d(コニカミノルタ製)を用いた。測定条件の設定は、表色系:L*a*b*、マスク/グロス:S/I+E、UV設定:UV100%、光源:D65、観察視野:10度、表示:色差絶対値を用いて、正反射光を含むSCIに表示されるa*値(同一箇所の3回測定の平均値)を用いた。
(1)サンプル表面のa*を色差計で測定し、その値をa0*とした。なお、以下も含めて、a*の測定時には、5mm幅の白いマスクを線上に被せて、にじみによる測定バラツキを防止した。
(2)赤クレパスでサンプル上に3mm幅の線を書き、線上のa*を色差計で測定し、その値をa1*とした。
(3)市販のトイレ掃除シート(商品名:トイレクイックル)を用いて、線と垂直な方向に25g/cm2の荷重をかけた状態で、30往復拭き取った。
(4)摺動後のサンプルのクレパスの線上の色を、色差計で測定し、その値をa2*とした。
(5)汚れ除去性を下記の式から算出した。
汚れ除去性(%)=(a1*-a2*)/(a1*-a0*)
80%以上の汚れ除去性は、除去性が良好と判断できる。
【0019】