(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】横向き突き合わせ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20220601BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20220601BHJP
B23K 33/00 20060101ALI20220601BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
B23K9/23 F
B23K9/02 G
B23K33/00 Z
B23K9/12 350B
(21)【出願番号】P 2020546787
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2019032092
(87)【国際公開番号】W WO2020054312
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018170677
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】野々村 将一
(72)【発明者】
【氏名】大岩 直貴
(72)【発明者】
【氏名】早川 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】飯島 亨
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-074212(JP,A)
【文献】特開2000-102870(JP,A)
【文献】特開昭51-056750(JP,A)
【文献】特開平8-10944(JP,A)
【文献】特開2017-24062(JP,A)
【文献】特開2016-10810(JP,A)
【文献】特公昭53-41105(JP,B1)
【文献】特公昭50-11857(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B23K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に並べて支持されたアルミ合金製の被溶接材同士を突き合わせて接合する横向き突き合わせ溶接方法において、
前記被溶接材間の突き合わせ部に横向きのV開先を形成し、
水平面に対する前記V開先の上側開先面の成す角度θaを水平面に対する前記V開先の下側開先面の成す角度θbよりも大きく設定し、
前記V開先に沿って溶接トーチをウィービングさせつつ複数回パスさせて肉を盛る際の最初のパスは該溶接トーチを水平にして
溶接トーチに供給される溶接ワイヤをルートギャップの下側面に近づけてから実施し、
以降、前記V開先の前記下側開先面に直に肉を盛るパスは前記溶接トーチを水平面に対して下方に角度αb傾けて実施し、
前記V開先の前記下側開先面に盛った下側ビードから前記V開先の前記上側開先面にかけて肉を盛って上側ビードを形成するパスは前記溶接トーチを水平面に対して上方に角度αa傾けて実施する横向き突き合わせ溶接方法。
【請求項2】
前記V開先の前記下側開先面に盛った下側ビードに肉を盛って中間ビードを形成する場合には、前記溶接トーチを水平にしてパスを実施し、前記中間ビードから前記V開先の前記上側開先面にかけて肉を盛って前記上側ビードを形成するパスを水平面に対して前記溶接トーチを上方に角度αa傾けて実施する請求項1に記載の横向き突き合わせ溶接方法。
【請求項3】
前記V開先の前記上側開先面と水平面とが成す角度θaと、前記V開先の前記下側開先面と水平面とが成す角度θbとの合計が70°以下である請求項1又は2に記載の横向き突き合わせ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型構造物、例えば、タンカーに搭載される自立角型タンク(Self-supporting, Prismatic-shape IMO type B(自立角型IMOタイプBタンク))を製造する際に用いられる横向き突き合わせ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した自立角型タンクとしては、船体の形状に合わせて製造されるアルミ合金製のタンクがあり、このような自立角型タンクは、個々に製造される多数のブロックから構成されている。これらの多数のブロックの製造は、その大半がアルミ合金製の大型パネル(例えば16m角の大型パネル;被溶接材)同士のMIG溶接による突き合わせ接合から開始される。
【0003】
そして、最終的には、個々に製造されたブロック同士を接合して自立角型タンクを得るが、この最終段階における上下に積まれたブロック同士の突き合わせ接合には、横向き姿勢での突き合わせ溶接が実施される。
【0004】
従来において、上記したブロック同士の突き合わせ接合に採用される横向き突き合わせ溶接方法としては、例えば、特許文献1に記載された横向き自動溶接法がある。
この横向き自動溶接法では、上下に積まれたブロックの各立壁パネル間にレ開先を形成し、ウィービング機構を装備した台車に溶接トーチを搭載して、ウィービング動作する溶接トーチに溶接ワイヤを供給しつつ、台車をレ開先に沿って走行さて横向き溶接を行うようにしている。
【0005】
この際、アルミ合金に対する溶接は、溶接対象がアルミ合金であるが故にブローホールや溶け落ち等の溶接欠陥が生じやすい。
そこで、上記した従来の横向き自動溶接法では、レ開先のほぼ水平な下側開先面(下側ブロックにおける立壁パネルの端面)と溶接トーチ(溶接ワイヤ)とが成す角度を0~30°に設定してウィービング動作を行わせることで、レ開先内にビードを盛るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した従来の横向き自動溶接法にあっては、上述したようにアルミ合金製におけるブロックの各立壁パネル同士を接合するに際して、良好なビード形状を得るべく、レ開先の下側開先面と溶接トーチとが成す角度を0~30°に設定してウィービング動作を行わせるようにしているが、レ開先の下側開先面に溶け込み不足やブローホール等の溶接欠陥が生じてしまうのが現実であり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0008】
本開示は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、溶接欠陥を生じさせることなくアルミ合金に対する横向き突き合わせ溶接を行うことが可能である横向き突き合わせ溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、上下に並べて支持されたアルミ合金製の被溶接材同士を突き合わせて接合する横向き突き合わせ溶接方法において、前記被溶接材間の突き合わせ部に横向きのV開先を形成し、水平面に対する前記V開先の上側開先面の成す角度θaを水平面に対する前記V開先の下側開先面の成す角度θbよりも大きく設定し、前記V開先に沿って溶接トーチをウィービングさせつつ複数回パスさせて肉を盛る際の最初のパスは該溶接トーチを水平にして溶接トーチに供給される溶接ワイヤをルートギャップの下側面に近づけてから実施し、以降、前記V開先の前記下側開先面に直に肉を盛るパスは前記溶接トーチを水平面に対して下方に角度αb傾けて実施し、前記V開先の前記下側開先面に盛った下側ビードから前記V開先の前記上側開先面にかけて肉を盛って上側ビードを形成するパスは前記溶接トーチを水平面に対して上方に角度αa傾けて実施する構成としている。
【0010】
本開示の第1の態様に係る横向き突き合わせ溶接方法において、アルミ合金製の被溶接材間の突き合わせ部に、水平面に対して角度θbを成す下側開先面を有するV開先が形成されている。そのうえ、このV開先の下側開先面に肉を盛って下側ビードを形成するべく溶接トーチをパスさせる場合に、この溶接トーチを水平面に対して下方に角度αb傾けて実施するので、下側開先面に溶け込み不足が生じることが回避されることとなる。
【0011】
この際、V開先における上側開先面の水平面に対する角度θaは、下側開先面の水平面に対する角度θbよりも大きく設定されているので、例えば、溶接部分にシールドガスを供給する場合、溶融金属中に発生するシールドガスに含まれる水素の気泡の上方への移動が促進されて、溶接部分にブローホールが残ることも回避されることとなる。
【0012】
加えて、本開示の第1の態様に係る横向き突き合わせ溶接方法では、V開先の下側開先面に盛った下側ビードからV開先の上側開先面にかけて肉を盛って上側ビードを形成する場合に、溶接トーチを水平面に対して上方に角度αa傾けてパスを実施するので、上側開先面に溶け込み不足が生じることも回避されることとなる。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る横向き突き合わせ溶接方法において、溶接欠陥を生じさせることなくアルミ合金に対する横向き突き合わせ溶接を行うことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施例に係る横向き突き合わせ溶接方法に用いられる横向き溶接装置を示す斜視説明図である。
【
図2】本開示の一実施例に係る横向き突き合わせ溶接方法により接合される被溶接材間のV開先を
図1白抜き矢印方向から見た拡大断面説明図である。
【
図3】
図1の横向き溶接装置により接合された被溶接材のV開先を
図1白抜き矢印方向から見た拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示の一実施例に係る横向き突き合わせ溶接方法に用いられるMIG溶接機である横向き溶接装置を示しており、
図2,3は、本開示の一実施例に係る横向き突き合わせ溶接方法により接合されるアルミ合金製の立壁パネル(被溶接材)間のV開先を示している。
【0016】
図1に示すように、アルミ合金製の立壁パネルWu,Wlは、上下に積まれたアルミ合金製の自立角型タンクにおけるブロックの各立壁を構成するパネルである。これらの立壁パネルWu,Wlを接合する横向き溶接装置1は、上側の立壁パネルWu及び下側の立壁パネルWl間に形成されたV開先Wvに沿って配置されるレール2と、このレール2上を移動する台車列3を備えている。この台車列3は、黒太矢印で示す溶接方向の前進側(図示左下側)に位置するトーチ台車3A及びこのトーチ台車3Aにパイプ4を介して連結されているフィーダ台車3Bを具備している。
【0017】
トーチ台車3Aには、立壁パネルWu,Wlに接近離間する方向に配置されたガイド3aに沿って移動する支持台5と、この支持台5にV開先Wvを横切る方向(上下方向)に配置された図示しない縦ガイドに沿って上下動するスライダ6と、このスライダ6に図示しないウィービン機構を介して湾曲矢印方向に揺動可能に支持される溶接トーチ7と、立壁パネルWu,Wlに対する溶接トーチ7の距離を検出するレーザ変位計8が搭載されている。
【0018】
一方、フィーダ台車3Bには、溶接ワイヤ10を巻き付け状態で保持するリール11と、このリール11から溶接ワイヤ10を送り出してコンジットライナ12を介して溶接トーチ7に送るフィーダ13が搭載されている。
【0019】
また、この横向き溶接装置1は、溶接トーチ7及びフィーダ13に電源を供給すると共に、立壁パネルWu,Wlにアース接続する溶接電源15と、制御部16を備えている。
【0020】
制御部16は、スライダ6に配置したウィービン機構の図示しないウィービン用モータの動作を制御する。加えて、制御部16は、レーザ変位計8で検出する立壁パネルWu,Wlと溶接トーチ7との間の距離を一定に保持するように、支持台5の図示しない駆動モータの動作を制御するようになっている。
【0021】
この場合、溶接トーチ7には、
図2に示すように、V開先Wv内に向けてシールドガスGを噴射するノズル7aが一体に設けられており、ホース21及び溶接トーチ7のノズル7aを介してV開先Wvに供給されるガスボンベ17からのシールドガスGの流量は、図外のガス圧力センサで検出するガス圧に応じて制御部16により制御されるようになっている。
【0022】
つまり、制御部16では、立壁パネルWu,Wl間に形成されたV開先Wvに対して溶接を行う際に、溶接トーチ7と立壁パネルWu,Wlとの距離及びシールドガスGの流量をあらかじめ算出した所定の値に保つように、支持台5の図示しない駆動モータ及びガスボンベ17を含むガス供給系を制御するようになっている。
【0023】
さらに、この横向き溶接装置1は、溶接速度や溶接電流等の溶接条件を調整するための溶接リモコン18と、制御部コントローラ19を備えている。制御部コントローラ19は、上記溶接トーチ7と立壁パネルWu,Wlとの距離及びシールドガスGの流量等の溶接条件に加えて、V開先WvのルートギャップWgの変化に対応するための複数パターンの溶接条件を制御部16に入力する。なお、
図1における符号20は電源ケーブルである。
【0024】
この実施例では、例えば、溶接中において、V開先WvのルートギャップWgが比較的大きく変化している部位に溶接トーチ7が差し掛かる際に、溶接リモコン18の簡単なボタン操作で、ルートギャップWgの変化に対応する溶接条件に変更することができるようにしている。
【0025】
ここで、立壁パネルWu,Wl間に形成された横向きのV開先Wvにおいて、溶接中に溶融金属に発生するシールドガスGに含まれる水素の気泡の上方への移動を促すうえで、上側開先面Waの水平面に対する角度θaを下側開先面Wbの水平面に対する角度θbよりも大きく設定している。
【0026】
この際、溶け込み不足やブローホール等の溶接欠陥の発生を抑えつつ、適量の溶接ワイヤ10を溶接金属としてV開先Wvに溶け込ませるために、上側開先面Waの水平面に対する角度θaと、下側開先面Wbの水平面に対する角度θbとの合計を70°以下とすることが望ましく、50°前後とすることがより望ましい。
【0027】
次に、上記横向き溶接装置1を用いて、アルミ合金製の立壁パネルWu,Wl同士を突き合わせ接合する要領を説明する。
【0028】
まず、上下に並べて支持されたアルミ合金製の立壁パネルWu,Wl同士を複数個所で溶接により仮付けする。
【0029】
この後、溶接トーチ7をウィービングさせつつ、立壁パネルWu,Wl間のV開先Wvに沿って台車列3を走行させて、横向き突き合わせ溶接を開始する。
【0030】
この横向き突き合わせ溶接では、V開先Wvに沿って溶接トーチ7を複数回パスさせて肉を盛るが、最初のパスは、溶接トーチ7を水平にして(
図2に示す状態で)、溶接ワイヤ10をルートギャップWgの下側面Wgbに近づけてから実施する。この裏波溶接により、
図3に示すように、V開先Wvの裏側に裏波ビードBsが形成される。
【0031】
これに続く裏波ビードBs上に肉を盛るパスのうち、V開先Wvの下側開先面Wbに直に肉を盛るパスは、
図3に仮想線で示すように、溶接トーチ7を水平面に対して下方に角度αb(15°前後)傾けて、溶接ワイヤ10をV開先Wvの下側開先面Wbに近づけてから実施する。これによって、下側開先面Wb上に下側ビード(
図3において●を付したビード)が形成される。
【0032】
また、これらの下側ビードに肉を盛るパスは、溶接トーチ7を水平にして、溶接ワイヤ10を下側ビードに近づけてから実施する。これにより、下側ビード上に中間ビード(
図3において〇を付したビード)が形成される。
【0033】
さらに、これらの中間ビードからV開先Wvの上側開先面Waにかけて肉を盛るパスは、
図3に実線で示すように、溶接トーチ7を水平面に対して上方に角度αa(5°前後)傾けて、溶接ワイヤ10を中間ビードに近づけてから実施する。これにより、中間ビード上に上側ビード(
図3において△を付したビード)が形成される。
【0034】
そして、この実施例では、最後のパスも、溶接トーチ7を水平面に対して上方に角度αa傾けて、溶接ワイヤ10を前パスで盛った上側ビードに近づけてから実施する。これにより、前パスの上側ビード上に最終ビードBeが形成される。
【0035】
なお、立壁パネルWu,Wlの肉厚が薄く、V開先Wvの開先幅が狭い場合は、下側ビードに中間ビードを盛らずに直接上側ビードを重ねて盛ってもよい。すなわち、V開先Wvの下側開先面Wbに盛った下側ビードからV開先Wvの上側開先面Waにかけて肉を盛って上側ビードを形成するパスを、水平面に対して溶接トーチ7を上方に角度αa傾けて実施する。
【0036】
本実施例に係る横向き突き合わせ溶接方法において、上記したように、アルミ合金製の立壁パネルWu,Wl間の突き合わせ部に、水平面に対して角度θbを成す下側開先面Wbを有するV開先Wvが形成されている。そのうえ、このV開先Wvの下側開先面Wbに直に肉を盛るべく溶接トーチ7をパスさせる場合に、この溶接トーチ7を水平面に対して下方に角度αb傾けて実施するので、下側開先面Wbに溶け込み不足が生じることが回避されることとなる。
【0037】
また、V開先Wvにおける上側開先面Waの水平面に対する角度θaは、下側開先面Wbの水平面に対する角度θbよりも大きく設定されているので、溶融金属中に発生するシールドガスGに含まれる水素の気泡の上方への移動が促進されて、溶接部分にブローホールが残ることも回避されることとなる。
【0038】
加えて、本実施例に係る横向き突き合わせ溶接方法では、V開先Wvの下側開先面Wbに盛った下側ビードからV開先Wvの上側開先面Waにかけて肉を盛って上側ビードを形成する場合に、溶接トーチ7を水平面に対して上方に角度αa傾けてパスを実施するので、上側開先面Waに溶け込み不足が生じることも回避されることとなる。
【0039】
また、本実施例に係る横向き突き合わせ溶接方法では、下側ビードに肉を盛って中間ビードを形成する場合も、上下の開先面Wa,Wbに溶け込み不足が生じること、及び、溶接部分にブローホールが残ることのいずれもが回避されることとなる。
【0040】
さらに、本実施例に係る横向き突き合わせ溶接方法では、V開先Wvの上側開先面Wa及び下側開先面Wbがそれぞれ水平面と成す角度θa,θbの合計を70°以下としているので、アルミ合金製の立壁パネルWu,Wlに対して横向き溶接を行う場合に、溶け込み不足やブローホール等の溶接欠陥の発生を抑えつつ、適量の溶接ワイヤ10を溶接金属としてV開先Wvに溶け込ませ得ることとなる。
【0041】
なお、上記した実施例では、本開示に係る横向き突き合わせ溶接方法により、アルミ合金製のブロックにおける立壁パネルWu,Wl同士を接合する場合を例に挙げて説明したが、被溶接材はパネルに限定されない。
【0042】
本開示に係る横向き突き合わせ溶接方法の構成は、上記した実施例の構成に限定されるものではなく、他の構成として、例えば、レーザ変位計8に替えて超音波センサを採用してもよい。
【0043】
本開示の第1の態様は、上下に並べて支持されたアルミ合金製の被溶接材同士を突き合わせて接合する横向き突き合わせ溶接方法において、前記被溶接材間の突き合わせ部に横向きのV開先を形成し、水平面に対する前記V開先の上側開先面の成す角度θaを水平面に対する前記V開先の下側開先面の成す角度θbよりも大きく設定し、前記V開先に沿って溶接トーチをウィービングさせつつ複数回パスさせて肉を盛る際の最初のパスは該溶接トーチを水平にして溶接トーチに供給される溶接ワイヤをルートギャップの下側面に近づけてから実施し、以降、前記V開先の前記下側開先面に直に肉を盛るパスは前記溶接トーチを水平面に対して下方に角度αb傾けて実施し、前記V開先の前記下側開先面に盛った下側ビードから前記V開先の前記上側開先面にかけて肉を盛って上側ビードを形成するパスは前記溶接トーチを水平面に対して上方に角度αa傾けて実施する構成としている。
【0044】
本開示の第1の態様に係る横向き突き合わせ溶接方法において、アルミ合金製の被溶接材間の突き合わせ部に、水平面に対して角度θbを成す下側開先面を有するV開先が形成されている。そのうえ、このV開先の下側開先面に肉を盛って下側ビードを形成するべく溶接トーチをパスさせる場合に、この溶接トーチを水平面に対して下方に角度αb傾けて実施するので、下側開先面に溶け込み不足が生じることが回避されることとなる。
【0045】
この際、V開先における上側開先面の水平面に対する角度θaは、下側開先面の水平面に対する角度θbよりも大きく設定されているので、例えば、溶接部分にシールドガスを供給する場合、溶融金属中に発生するシールドガスに含まれる水素の気泡の上方への移動が促進されて、溶接部分にブローホールが残ることも回避されることとなる。
【0046】
加えて、本開示の第1の態様に係る横向き突き合わせ溶接方法では、V開先の下側開先面に盛った下側ビードからV開先の上側開先面にかけて肉を盛って上側ビードを形成する場合に、溶接トーチを水平面に対して上方に角度αa傾けてパスを実施するので、上側開先面に溶け込み不足が生じることも回避されることとなる。
【0047】
本開示の第2の態様において、前記V開先の前記下側開先面に盛った下側ビードに肉を盛って中間ビードを形成する場合には、前記溶接トーチを水平にしてパスを実施し、前記中間ビードから前記V開先の前記上側開先面にかけて肉を盛って前記上側ビードを形成するパスを水平面に対して前記溶接トーチを上方に角度αa傾けて実施する構成とする。
【0048】
本開示の第2の態様に係る横向き突き合わせ溶接方法では、下側ビードに肉を盛って中間ビードを形成する場合も、上下の開先面に溶け込み不足が生じること、及び、溶接部分にブローホールが残ることのいずれもが回避されることとなる。
【0049】
本開示の第3の態様は、前記V開先の前記上側開先面と水平面とが成す角度θaと、前記V開先の前記下側開先面と水平面とが成す角度θbとの合計が70°以下である構成としている。
【0050】
本開示の第3の態様に係る横向き突き合わせ溶接方法では、V開先の上側開先面及び下側開先面がそれぞれ水平面と成す角度θa,θbの合計を70°以下としているので、アルミ合金製の被溶接材に対して横向き溶接を行う場合に、ブローホール等の欠陥が生じるのをより確実に抑え得ることとなる。
【符号の説明】
【0051】
7 溶接トーチ
Bs 裏波ビード(最初のパスによるビード)
Wv V開先
Wa 上側開先面
Wb 下側開先面
Wl 下側の立壁パネル(被溶接材)
Wu 上側の立壁パネル(被溶接材)
αa 溶接トーチの上方傾け角度
αb 溶接トーチの下方傾け角度
θa 水平面に対する上側開先面の成す角度
θb 水平面に対する下側開先面の成す角度