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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】関節潤滑のためのリポソーム製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/685 20060101AFI20220601BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220601BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220601BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220601BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220601BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
A61K31/685
A61K9/127
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/22
A61P19/02
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020511447
(86)(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 IL2018050923
(87)【国際公開番号】W WO2019038763
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】62/548,429
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520059236
【氏名又は名称】モエビウス メディカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】バレンホルツ イェチェズケル
(72)【発明者】
【氏名】ドレヴ ヤニヴ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルジェマン カレン
(72)【発明者】
【氏名】サルファティ ガディ
(72)【発明者】
【氏名】アヤル-ヘルシュコヴィッツ マティ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-512926(JP,A)
【文献】特表2010-540406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類関節に潤滑を提供するための、単位用量の形態で製剤化された医薬組成物であって、前記単位用量が、
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)及び1,2‐ジパルミトイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホコリン(DPPC)から本質的になるリポソームであって、前記リポソームが、少なくとも一つの膜及び約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する多重層ベシクル(MLV)である、リポソームと、
前記組成物の投与部位における浸透圧性ショックを防止することにより局所的刺激を低減するために十分な量のマンニトールと、
緩衝液または水から選択される流体媒体であって、前記リポソームが懸濁している流体媒体と
から本質的になり、
前記医薬組成物が、ヒアルロン酸及び追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まず、
前記医薬組成物が、前記組成物の潤滑効率性も向上させるための存在するマンニトールの量により、前記相転移温度を上回る温度を有する哺乳類関節の潤滑を提供し、
前記マンニトールが、前記医薬組成物の合計重量の約1%(w/w)~約7%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在し、
前記リポソームとマンニトールとの間の重量比が約6:1~約2:1を範囲とし、
前記医薬組成物の前記単位用量が、約30mg~約550mgのDPPC、約20mg~約450mgのDMPC、及び約20mg~約350mgのマンニトールを有する、医薬組成物。
【請求項2】
DMPCが、約1%(w/w)~約10%(w/w)を範囲とする重量パーセントで前記医薬組成物中に存在し、DPPCが、約2%(w/w)~約12%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記緩衝液が、ヒスチジン緩衝液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
約200~約600mOsmの範囲内のオスモル濃度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
約5~8のpHを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
DMPC:DPPCのモルパーセント比が約25:75~約70:30の範囲内にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
DMPC:DPPCのモルパーセント比が約45:55である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記リポソームが約0.5μmから約10μmの間の平均直径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記少なくとも一つの膜が、約30℃~約35℃の相転移温度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記哺乳類関節の温度が、前記相転移温度を約1~15℃上回る範囲内にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記リポソームが、懸濁液の形態をとる、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、関節内注射、関節鏡下投与、及び外科的投与からなる群から選択される投与に好適な形態をとる、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記潤滑が、関節障害もしくは状態、または前記障害もしくは状態から生じる症状を、処置、管理、または防止するためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
哺乳類関節に潤滑を提供するための、単位用量の形態で製剤化された医薬組成物であって、前記単位用量が、
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)及び1,2‐ジパルミトイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホコリン(DPPC)から本質的になるリポソームであって、前記リポソームが、少なくとも一つの膜及び約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する多重層ベシクル(MLV)である、リポソームと、
約200~約600mOsmの範囲内のオスモル濃度を得るために十分な量のマンニトールと、
前記リポソームが懸濁している、ヒスチジン緩衝液の流体媒体と
から本質的になり、
前記組成物が、約5~8のpHを有し、
前記リポソームが約0.5μmから約10μmの間の平均直径を有し、
前記医薬組成物が、ヒアルロン酸及び追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まず、
前記医薬組成物が、前記組成物の潤滑効率性も向上させるための存在するマンニトールの量により、前記相転移温度を上回る温度を有する哺乳類関節の潤滑を提供し、
DMPCが、約1%(w/w)~約10%(w/w)を範囲とする重量パーセントで前記医薬組成物中に存在し、DPPCが、約2%(w/w)~約12%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在し、マンニトールが、前記医薬組成物の合計重量の約1%(w/w)~約7%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在し、
前記リポソームとマンニトールとの間の重量比が約6:1~約2:1を範囲とし、
前記医薬組成物の前記単位用量が、約20mg~約350mgのマンニトール、約30mg~約550mgのDPPC、及び約20mg~約450mgのDMPCを有する、医薬組成物。
【請求項15】
哺乳類の関節における痛みの処置、及び/または局所的刺激の低減のための方法のための医薬の製造のための請求項1に記載の医薬組成物の使用であって、前記方法が、前記関節の腔に、前記医薬を投与することを含む、使用
【請求項16】
前記医薬が、関節内注射、関節鏡下投与、及び外科的投与からなる群から選択される経路により投与される、請求項15に記載の使用
【請求項17】
前記医薬が、前記リポソームの懸濁液を有する非経口用医薬組成物の形態をとり、約0.5ml~約10mlの用量で投与される、請求項15に記載の使用
【請求項18】
哺乳類の関節における痛みの処置、及び/または局所的刺激の低減のための方法のための医薬の製造のための請求項14に記載の医薬組成物の使用であって、前記方法が、前記関節の腔に、前記医薬を投与することを含む、使用
【請求項19】
前記医薬が、関節内注射、関節鏡下投与、及び外科的投与からなる群から選択される経路により投与される、請求項18に記載の使用
【請求項20】
前記医薬が、前記リポソームの懸濁液を有する非経口用医薬組成物の形態をとり、約0.5ml~約10mlの用量で投与される、請求項18に記載の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脂質自体が唯一の活性医薬薬剤であるリポソーム医薬組成物と、関節潤滑のためのその治療的使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
関節機能不全は、人口の大部分に影響を及ぼす。十分な生体潤滑は適切な関節可動性に不可欠であり、これは関節の分解性変化の防止及び緩和に極めて重要である。
【0003】
一般的な関節機能不全は変形性関節炎(OA)であり、有病者は米国のみで2,000万人を超える。現状の処置は、関節の過負荷の低減、理学療法、ならびに痛み及び炎症の軽減(通常は、薬物の全身投与または関節内投与により行われる)に焦点を当てている。
【0004】
関節軟骨は滑らかで強靱で弾力のある柔軟な表面を形成し、この表面によって骨の動きが容易になる。滑膜空間は、ヒアルロン酸(HA)及び糖タンパク質ラブリシンを含有する粘性の高い滑液(SF)で満たされている。HAは、D-グルクロン酸とD-N-アセチルグルコサミンとのポリマーであり、OAの炎症条件下では非常に不安定であり分解する(Nitzan,D.W.,Kreiner,B.& Zeltser,R.TMJ lubrication system:its effect on the joint function,dysfunction,and treatment approach.Compend.Contin.Educ.Dent.25,437-444(2004);Yui,N.,Okano,T.& Sakurai,Y.Inflammation responsive degradation of crosslinked hyaluronic acid gels.J.Control.Release 22,105-116(1992))。ラブリシンは、約44%のタンパク質と、約45%の炭水化物と、約11%のリン脂質(PL)とから構成され、リン脂質のうち、約41%がホスファチジルコリン(PC)、約27%がホスファチジルエタノールアミン(PE)、約32%がスフィンゴミエリンである。これらのPLは「表面活性リン脂質」(SAPL)と呼ばれる。
【0005】
潤滑物質分子の層が対向表面を分離する境界潤滑は、関節の負荷下で生じる。HA及びラブリシンを含めたいくつかの異なる基質が、関節軟骨における天然の境界潤滑物質として提唱されている。Pickard他ならびにSchwartz及びHillsは、ラブリシンの表面活性リン脂質として定義されるリン脂質が、関節軟骨における関節潤滑を容易にすることを実証した(Pickard,J.E.,Fisher,J.,Ingham,E.& Egan,J.Investigation into the effects of proteins and lipids on the frictional properties of articular cartilage.Biomaterials 19,1807-1812(1998);Schwarz,I.M.& Hills,B.A.Surface-active phospholipid as the lubricating component of lubricin.Br.J.Rheumatol.37,21-26(1998))。Hills及び共同研究者は、OA関節がSAPL欠損を有しており、OA患者の関節に表面活性リン脂質1,2‐ジパルミトイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホコリン(DPPC)を注射することで、重大な副作用を伴わずに14週間持続する可動性改善がもたらされることを実証した(Vecchio,P.,Thomas,R.& Hills,B.A.Surfactant treatment for osteoarthritis.Rheumatology(Oxford)38,1020-1021(1999);Gudimelta,O.A.,Crawford,R.& Hills,B.A.Consolidation responses of delipidized cartilage.Clin.Biomech.19,534-542(2004))。別の研究において、Watanabe他は、独自の低温軟骨保存技法を利用して、潤滑に主要な役割を果たすと想定される健康な軟骨の表面上の脂肪球ベシクルを観察した(Watanabe,M.et al.Ultrastructural study of upper surface layer in rat articular cartilage by’’in vivo cryotechnique’’combined with various treatments.Med.Elect.Microsc.33,16-24(2000))。Kawano他及びForsey他は、動物モデルを用いて、高分子量のHA(約2000kDa)をDPPCと組み合わせて使用することで後者の潤滑能力が改善することを示した(Kawano,T.et al.Mechanical effects of the intraarticular administration of high molecular weight hyaluronic acid plus phospholipid on synovial joint lubrication and prevention of articular cartilage degeneration in experimental osteoarthritis.Arthritis Rheum.48,1923-1929(2003);Forsey,R.W.et al.The effect of hyaluronic acid and phospholipid based lubricants on friction within a human cartilage damage model.Biomaterials 27,4581-4590(2006))。
【0006】
米国特許第6,800,298号は、哺乳類関節の潤滑のための、脂質(詳細には、リン脂質)を含有するデキストランベースのヒドロゲル組成物を開示している。
【0007】
米国特許出願第2005/0123593号は、変形性関節炎の処置のための関節内投与用のリポソーム送達システム内にカプセル化されたグリコサミノグリカンを含む組成物を対象とする。
【0008】
米国特許第8,895,054号は、関節潤滑及び/または軟骨摩耗の防止の方法であって、約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有するリン脂質膜から本質的になるリポソームを利用する、方法に関する。
【0009】
活性成分としてのヒアルロン酸に基づいた、変形性関節炎の防止及び処置用に市販されている医薬組成物としては、特に、Antalvisc(登録商標)、Kartilage(登録商標)、及びKartilage(登録商標)Crossが挙げられる。当該医薬組成物は、HAに加えてマンニトールも含む。マンニトールは、酸化ストレス下でのHA分解を低減する能力を有し、そのため、マンニトールが、注入されたHAの関節内滞留時間を顕著に増加させ、HAベースの関節内注射の関節内補充療法の有効性を改善させるために使用できることが分かった(M.Rinaudo,B.Lardy,L.Grange,and T.Conrozier,Polymers 2014,6,1948-1957)。変形性膝関節症の患者において、高濃度のマンニトールと共に混合した中程度の分子量(MW)のヒアルロン酸から作製した関節内補充薬と、高MWのHA単独(Bio-HA)とにおける安全性及び有効性の両方を比較した臨床試験では、マンニトール含有関節内補充薬の有効性が、六ヵ月にわたる疼痛緩和と機能改善の観点において、より多くの副作用の誘発を伴うことなく比較対照Bio‐HAに劣らないことが明らかになった(Conrozier,Thierry et al.The Knee,2016,23(5),842-848)。マンニトールがHAベースの関節内補充薬組成物の効力に及ぼす効果についても、Eymard他(Eymard F,Bossert M,Lecurieux R,Maillet B,Chevalier X,et al.(2016)Addition of Mannitol to Hyaluronic Acid may Shorten Viscosupplementation Onset of Action in Patients with Knee Osteoarthritis:Post-Hoc Analysis of A Double-blind,Controlled Trial.J Clin Exp Orthop 2:21)及びConrozier,T.他(Role of high concentrations of mannitol on the stability of hyaluronan in an oxidative stress model induced by xanthine/xanthine oxidase Osteoarthritis and Cartilage,Volume 22 ,S478)が試験を行った。Ferraccioli他は、滑液の紫外線照射は、フリーラジカルの産生による粘性低下を誘発するため、薬物のフリーラジカル捕捉効果のスクリーニングに有用な方法であり得ることを示した。ヒト滑液の粘性の保護は、スーパーオキシドジスムターゼ、マンニトール、及びカタラーゼによって媒介される(G.F.Ferraccioli,U.Ambanelli,P.Fietta,N.Giudicelli,C.Giori,Decrease of osteoarthritic synovial fluid viscosity by means of u.v.illumination:A method to evaluate the free radical scavenging action of drugs,Biochemical Pharmacology,30,(13)1981,1805-1808)。
【0010】
国際特許出願第WO2012/001679号は、関節刺激を軽減もしくは低減するための、または既存の関節炎症の悪化を低減するための、関節内注射用に製剤化された注射用医薬製剤であって、活性のポリオール成分を含み、当該ポリオール活性成分がキシリトールである、注射用医薬製剤を対象とする。関節刺激の防止におけるキシリトールの効力をマンニトール及びグリセロールの効力と比較し、マンニトールまたはグリセロールの溶液が、ウサギの膝に関節内注射により注射した場合に刺激を防止しなかったことが開示されている。
【0011】
米国特許出願第2014/0038917号は、対象の関節内関節の関節内空間に投与するための無菌注射用水性製剤であって、ヒアルロン酸またはその塩と、ポリオール、好ましくは7mg/ml以上の濃度のソルビトールとを含むゲルの形態をとる、無菌注射用水性製剤を対象とする。
【0012】
国際特許出願第WO2003/000191号は、関節を処置するための組成物及び方法であって、一つ以上のグリコサミノグリカンと一つ以上のヒアルロニダーゼ阻害物質との組み合わせを含み、当該ヒアルロニダーゼ阻害物質が、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、及びキシロース硫酸から選択され得、ヒアルロン酸が、リポソーム内でヒアルロニダーゼ阻害物質と共にカプセル化され得る、組成物及び方法に関する。
【0013】
注射用HA組成物は、移動困難、筋肉の痛みまたは硬直、関節の痛み、及び関節の腫脹または発赤などの様々な副作用を有することが知られている。Antalvisc(登録商標)の副作用の一部には、注射後の一時的な痛み及び注射を受けた関節の腫脹が含まれる。
【0014】
そのため、持続的な効果をもたらすと同時に関節内投与に関連する副作用の可能性を低減する、関節潤滑のための効率的な医薬組成物に対するアンメットニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、滑膜性関節に導入して、痛み及び刺激を低減し関節可動性を改善または回復するために、潤滑をもたらすためのリポソーム製剤を提供する。リポソーム製剤は、具体的には関節内送達用に適応している。本発明の医薬組成物はリポソームを活性成分として含み、このリポソームは、生理的温度よりわずかに低い相転移温度を有するリン脂質膜を含む。そのため、リポソームは滑膜性関節に投与されると無秩序液体(LD)相となる。当該医薬組成物はさらに、ポリオールである張性剤を含む。張性剤は、適用部位における浸透圧性ショックを防止することにより局所的刺激を低減するために使用される。
【0016】
本発明は、部分的には、リポソーム組成物に添加した非イオン性張性剤がイオン性張性剤に比べて潤滑を増強したという、驚くべき発見に基づいている。詳細には、マンニトールをリポソーム製剤に添加したところ組成物の潤滑有効性が改善されたのに対し、塩化ナトリウムを使用したところリポソームの潤滑効率性の減少がもたらされた。当該医薬組成物が、リン脂質自体の他にはいかなる追加の医薬的活性薬剤も含まないという事実、詳細には、当該医薬組成物が、ポリオールの添加によって活性が増強されることが知られているヒアルロン酸を含有しないという事実に鑑みると、マンニトールの効果はなおいっそう驚くべきことである。異なる非イオン性ポリオール(具体的にはグリセロールを含む)を添加した場合も、著しさの程度は劣るものの、塩化ナトリウムを使用した場合に比べてリポソーム製剤の潤滑能力が増強された。
【0017】
したがって、第一の態様によれば、本発明は、医薬組成物であって、ポリオールを含む張性剤と、同じまたは異なる二つのC12-C18炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)及びC12-C18炭化水素鎖を有するスフィンゴミエリン(SM)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含む、少なくとも一つの膜を含む、リポソームであって、当該少なくとも一つの膜が約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する、リポソームとを含み、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まない、医薬組成物を提供する。当該医薬組成物は、当該相転移温度を上回る温度を有する哺乳類関節の潤滑に有用である。一部の実施形態によれば、張性剤は非イオン性である。さらなる実施形態によれば、ポリオールは、マンニトール及びグリセロールから選択される。特定の実施形態によれば、張性剤はマンニトールを含む。
【0018】
別の態様において、哺乳類関節を潤滑するための方法であって、当該関節の腔に、ポリオールを含む張性剤と、同じまたは異なる二つのC12-C18炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)及びC12-C18炭化水素鎖を有するスフィンゴミエリン(SM)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含む、少なくとも一つの膜を含む、リポソームであって、当該少なくとも一つの膜が約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する、リポソームとを含む医薬組成物を投与することを含み、当該医薬組成物が、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まず、当該関節が、当該相転移温度を上回る関節温度を有する、方法が提供される。一部の実施形態によれば、張性剤は非イオン性である。さらなる実施形態によれば、ポリオールは、マンニトール及びグリセロールから選択される。特定の実施形態によれば、張性剤はマンニトールを含む。
【0019】
別の態様において、関節障害を有する対象の関節における痛みまたは刺激の処置のための方法であって、当該関節の腔に、ポリオールを含む張性剤と、同じまたは異なる二つのC12-C18炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)及びC12-C18炭化水素鎖を有するスフィンゴミエリン(SM)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含む、少なくとも一つの膜を含む、リポソームであって、当該少なくとも一つの膜が約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する、リポソームとを含む医薬組成物を投与することにより、当該対象の関節を潤滑することを含み、当該医薬組成物が、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まず、当該関節が、当該相転移温度を上回る関節温度を有する、方法が提供される。一部の実施形態によれば、張性剤は非イオン性である。さらなる実施形態によれば、ポリオールは、マンニトール及びグリセロールから選択される。特定の実施形態によれば、張性剤はマンニトールを含む。
【0020】
別の態様において、本発明は、当該相転移温度を上回る温度を有する哺乳類関節の潤滑のための医薬組成物を調製するための、ポリオールを含む張性剤と、同じまたは異なる二つのC12-C18炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)及びC12-C18炭化水素鎖を有するスフィンゴミエリン(SM)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含む、少なくとも一つの膜から本質的になるリポソームであって、当該少なくとも一つの膜が約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する、リポソームとの使用であって、当該医薬組成物が、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まない、使用を提供する。一部の実施形態によれば、張性剤は非イオン性である。さらなる実施形態によれば、ポリオールは、マンニトール及びグリセロールから選択される。特定の実施形態によれば、張性剤はマンニトールを含む。
【0021】
一部の実施形態において、ポリオールはキシリトールを含まない。
【0022】
一部の実施形態において、ポリオールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約5%(w/w)~約50%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。一部の実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約20%(w/w)~約40%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。一部の実施形態において、グリセロールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約5%(w/w)~約25%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。一部の実施形態において、リン脂質は、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約50%(w/w)~約95%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。
【0023】
一部の実施形態において、医薬組成物はさらに、リポソームが分散または懸濁している流体媒体を含む。さらなる実施形態において、ポリオールは、当該流体媒体中に分散または溶解している。またさらなる実施形態において、マンニトールは、当該流体媒体中に溶解している。流体媒体は、緩衝液及び水から選択され得る。あるいくつかの実施形態において、当該緩衝液は、ヒスチジン緩衝液またはリン酸緩衝食塩水を含む。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。あるいくつかの実施形態において、当該緩衝液はヒスチジン緩衝液を含む。
【0024】
一部の実施形態において、医薬組成物は、流体媒体中に懸濁したリポソームを含む、医薬的に許容される懸濁液の形態をとる。
【0025】
一部の実施形態によれば、リポソーム内部のポリオールの濃度は、リポソーム外部の媒体中のポリオールの濃度と本質的に同じである。
【0026】
一部の実施形態において、ポリオールは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約0.05%(w/w)~約10%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。さらなる実施形態において、ポリオールの重量パーセントは約0.1%(w/w)~約7%(w/w)を範囲とする。またさらなる実施形態において、ポリオールの重量パーセントは約1%(w/w)~約5%(w/w)を範囲とする。
【0027】
一部の実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約0.1%(w/w)~約7%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。さらなる実施形態において、マンニトールの重量パーセントは約1%(w/w)~約7%(w/w)を範囲とする。
【0028】
一部の実施形態において、グリセロールは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約0.05%(w/w)~約5%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。さらなる実施形態において、グリセロールの重量パーセントは約0.5%(w/w)~約5%(w/w)を範囲とする。
【0029】
一部の実施形態において、医薬組成物は、約200~約600mOsmの範囲内のオスモル濃度を有する。あるいくつかの実施形態において、医薬組成物は約300mOsmのオスモル濃度を有する。あるいくつかのこのような実施形態において、医薬組成物は等張性である。
【0030】
一部の実施形態において、医薬組成物は約5~8のpHを有する。
【0031】
一部の実施形態において、リポソームとポリオールとの間の重量比は約15:1~約1:1を範囲とする。さらなる実施形態において、リポソームとマンニトールとの間の重量比は約10:1~約1:1を範囲とする。追加の実施形態において、リポソームとグリセロールとの間の重量比は約15:1~約2:1を範囲とする。
【0032】
一部の実施形態によれば、リポソームは二つ以上の膜を有する。あるいくつかのこのような実施形態において、リポソームは多重層ベシクル(MLV)である。
【0033】
一部の実施形態において、GPLは二つのアシル鎖を含む。さらなる実施形態において、当該鎖は、C14、C15、C16、及びC18アシル鎖からなる群から選択される。あるいくつかの実施形態において、当該炭化水素鎖のうちの少なくとも一つは飽和炭化水素鎖である。さらなる実施形態において、二つの炭化水素鎖が飽和している。
【0034】
一部の実施形態において、PLはホスファチジルコリン(PC)である。さらなる実施形態において、少なくとも一つの膜は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)を含む。
【0035】
一部の実施形態において、少なくとも一つの膜は、さらに、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジペンタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C15)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、及びN-パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシルホスホリルコリン(D-エリスロC16)からなる群から選択されるPCを含む。一部の実施形態において、少なくとも一つの膜中のDMPCのモルパーセントは約10%~約75%を範囲とする。
【0036】
一部の実施形態において、少なくとも一つの膜はDMPC及びDPPCを含む。さらなる実施形態において、DMPC:DPPCのモルパーセント比は約25:75~約70:30の範囲内にある。あるいくつかの実施形態において、DMPC:DPPCのモルパーセント比は約45:55である。
【0037】
一部の実施形態において、少なくとも一つの膜はDMPC及びC15を含む。さらなる実施形態において、DMPC:C15のモルパーセント比は約25:75~約45:55の範囲内にある。
【0038】
一部の実施形態において、少なくとも一つの膜はDMPC及びDSPCを含む。さらなる実施形態において、DMPC:DSPCのモルパーセント比は約75:25である。
【0039】
一部の実施形態において、少なくとも一つの膜はDMPC及びD-エリスロC16を含む。さらなる実施形態において、DMPC:D-エリスロC16のモルパーセント比は約10:90~約25:75の範囲内にある。
【0040】
一部の実施形態において、少なくとも一つの膜はC15を含む。
【0041】
本発明の一部の実施形態に従う医薬組成物中のリン脂質の合計濃度は、約50~約300mMを範囲とする。あるいくつかの実施形態において、リン脂質の合計濃度は約100mM~約200mMを範囲とする。
【0042】
一部の実施形態において、リン脂質は、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約0.5%(w/w)~約30%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。さらなる実施形態において、リン脂質の重量パーセントは約3%(w/w)~約30%(w/w)を範囲とする。
【0043】
一部の実施形態において、リポソームは約0.5μmから約10μmの間の平均直径を有する。
【0044】
あるいくつかの実施形態において、少なくとも一つの膜は約30℃~約35℃の相転移温度を有する。
【0045】
一部の実施形態において、関節の温度は、当該相転移温度を約1~15℃上回る範囲内にある。
【0046】
現時点で好ましい一部の実施形態において、医薬組成物はヒアルロン酸を本質的に含まない。
【0047】
あるいくつかの実施形態において、リポソームは、上記で詳述されているように、少なくとも一つのリン脂質(PL)を含む、少なくとも一つの膜から本質的になる。
【0048】
一部の実施形態において、医薬組成物は、DMPC及びDPPCから本質になる膜を有するMLVリポソームと、マンニトールと、ヒスチジン緩衝液とを含む。さらなる実施形態において、DMPCは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約1%(w/w)~約10%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。またさらなる実施形態において、DPPCは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約2%(w/w)~約12%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。なお更なる実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約1%(w/w)~約7%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。
【0049】
一部の実施形態において、関節の潤滑は、関節障害、または関節障害から生じる症状を処置するためのものである。さらなる実施形態において、関節障害は、関節炎、変形性関節炎、リウマチ性関節炎患者における変形性関節炎、外傷性関節損傷、関節ロック、スポーツ損傷、関節穿刺後の状態、関節鏡下手術、及び関節置換からなる群から選択される。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。あるいくつかの実施形態において、医薬組成物は、変形性関節炎患者における膝関節痛を低減するためのものである。
【0050】
一部の実施形態において、潤滑は、関節摩耗を防止するためのものである。
【0051】
特定の実施形態によれば、医薬組成物は、リポソームの懸濁液を含む非経口用医薬組成物である。当該医薬組成物は、関節内注射、関節鏡下投与、または外科的投与による投与に好適な形態をとることができる。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。
【0052】
本発明の様々な実施形態に従う医薬組成物は、約0.5ml~約10mlの用量で投与することができる。さらなる実施形態において、医薬組成物は約1ml~約6mlの用量で投与される。あるいくつかの実施形態において、医薬組成物は約3mlの用量で投与される。
【0053】
一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約20mg~約350mgのマンニトールを含む。ある実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約120mgのマンニトールを含む。
【0054】
一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約50mg~約1000mgのリン脂質を含む。一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約50mg~約500mgのDPPCを含む。一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約40mg~約300mgのDMPCを含む。
【0055】
本発明のさらなる実施形態及び適用性の完全な範囲は、以下に示される詳細な説明から明らかになるであろう。ただし、発明を実施するための形態及び特定の例は、本発明の好ましい実施形態を示す一方で、例示として与えられるものに過ぎないということが理解されるべきである。というのも、本発明の趣旨及び範囲内の様々な変更及び改変は、当業者にとってはこの発明を実施するための形態から明らかとなるからである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1は、DMPC/DPPCを含む等張性及び低張性のリポソーム組成物における未加工の示差走査熱量測定法(DSC)サーモグラムを示している。
図2図2は、C15を含む等張性及び低張性のリポソーム組成物における未加工の示差走査熱量測定法(DSC)サーモグラムを示している。
図3図3は、DSC走査から評価した異なるリン脂質の混合物を含むリポソームのSO-LD相転移温度範囲を示す棒図表グラフである。灰色の区域は20℃~39℃の温度範囲を示している。
図4図4は、タンパク質ベース液体中での摩耗試験の前後における軟骨ピンのプロファイルを示している。軟骨下骨の出現位置が矢印で示されている。より見やすくするようにプロファイルをシフトさせているため、このスケールは有効な高さを示していない。
図5図5A~5Bは、タンパク質ベース液体中での摩耗試験の前(図5A)及び12時間後(図5B)における軟骨ピン#9の光学的画像を示している。外側の軟骨リングの他に、軟骨が大きく摩耗した位置では軟骨下骨が出現した(矢印で示す)。
図6図6は、リポソーム組成物中での摩耗試験の前後における軟骨ピンのプロファイルを示している。より見やすくするようにプロファイルをシフトさせているため、このスケールは有効な高さを示していない。
図7図7A~7Bは、リポソーム組成物中での摩耗試験の前(図7A)及び6時間後(図7B)における軟骨ピン#14の光学的画像を示している。
図8図8A~8Bは、リポソーム組成物中での摩耗試験の前(図8A)及び12時間後(図8B)における軟骨ピン#17の光学的画像を示している。
図9図9A~9Bは、タンパク質ベース組成物とリポソーム組成物とにおける質量損失(図9A)及び高さ損失(図9B)のグラフによる比較を示している。エラーバーは、測定精度の大まかな推定である。
図10図10A図10Bは、タンパク質ベース液体(図10A)中及びリポソーム組成物(図10B)中での摩耗試験の前後における軟骨表面のプロファイルを示している。
図11図11は、リポソーム組成物中で試験したピン13~18における摩耗試験の前(t=0)及び後(6時間及び12時間)の粗さパラメーターRa(●)、Rk(◆)、Rpk(▲)、及びRvk(▼)を示しており、Raは粗さプロファイルの算術平均偏差であり、Rkは粗さの深さ(最も高いピーク(Rpk)及び最も低い谷(Rvk)の値を除外した粗さの深さ)である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明は、哺乳類関節の潤滑で使用するためのリポソーム製剤であって、痛み及び刺激を低減し、関節可動性を改善または回復し、関節の摩耗を低減する、リポソーム製剤を提供する。当該医薬組成物は、さらに、関節障害または状態の処置、管理、または防止に使用することができる。本発明の原理に従う医薬組成物は、リポソーム膜において、関節の温度を下回る規定の相転移温度を有する、リポソーム組成物に基づいている。
【0058】
本明細書で使用される「相転移温度」という用語は、一部の実施形態において、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)へのリポソームの相転移が生じる温度を指す。リポソームの相転移温度は、示差走査熱量測定法(DSC)により評価することができる。相転移温度を評価するための検討対象となり得るDSCサーモグラムの様々なパラメーターとしては、Ton(SO-LD相転移が開始される温度に相当)、及びToff(加熱走査中にSO-LD相転移が終了する温度に相当)、ならびにT及びT(それぞれ前転移(T)中及び主転移(T)中に熱容量の最大変化が生じる温度に相当)が挙げられる。
【0059】
多重層ベシクルリポソームは、二つのC12-C16炭化水素鎖を有する様々なPCから構成されており、SO-LD相転移温度をわずかに上回る(例えば、1℃、2℃、3℃、5℃、8℃、11℃、及び最大約15℃の場合)温度において有効な軟骨潤滑物質かつ摩耗低減物質であることが過去に示されている(これは米国特許第8,895,054号で詳述されており、当該文献の内容はその全体が参照により本明細書に援用される)。本発明の医薬組成物はさらに、組成物のオスモル濃度を増加させる非イオン性張性剤を含む。
【0060】
驚くべきことに、非イオン性ポリオールを含む医薬組成物の潤滑効率性は、イオン性張性剤、詳細には塩化ナトリウム塩を含む医薬組成物に比べて、顕著に高いことが分かった。本発明の医薬組成物は、ポリオールの添加により活性が増強されることが知られているヒアルロン酸に基づいていないため、ポリオールにおける塩化ナトリウムと比較しての正の効果は、全く予期されないものであった。
【0061】
発明者らはさらに、マンニトールの添加でリポソーム膜の相転移温度が変化しないことも示した。理論または作用機序に拘泥されることは望まないが、ポリオール添加の驚くべき効果は、潤滑能力をもたらす本質的特徴であることが過去に報告されているリポソームの相転移温度に直接関係するわけではないことが想定され得る。
【0062】
したがって、本発明の一態様によれば、ポリオールを含む張性剤と、グリセロリン脂質(GPL)またはスフィンゴ脂質(SPL)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含み、約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する、リポソームとを含む医薬組成物であって、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まない、医薬組成物が提供される。一部の実施形態において、医薬組成物は、哺乳類関節の潤滑で使用するためのものである。
【0063】
別の態様において、哺乳類関節を潤滑するための方法であって、当該関節の腔に、ポリオールを含む張性剤と、グリセロリン脂質(GPL)及びスフィンゴ脂質(SPL)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含み、約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する、リポソームとを含む医薬組成物を投与することを含み、当該医薬組成物が、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まない、方法が提供される。
【0064】
別の態様において、関節障害を有する対象の関節における痛みまたは刺激の処置のための方法であって、当該関節の腔に、ポリオールを含む張性剤と、グリセロリン脂質(GPL)及びスフィンゴ脂質(SPL)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含み、約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する、リポソームとを含む医薬組成物を投与することにより、当該対象の関節を潤滑することを含み、当該医薬組成物が、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まない、方法が提供される。
【0065】
別の態様において、本発明は、哺乳類関節の潤滑のための医薬組成物を調製するための、ポリオールを含む張性剤と、グリセロリン脂質(GPL)及びスフィンゴ脂質(SPL)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含み、約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有する、リポソームとの使用であって、当該医薬組成物が、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まない、使用を提供する。
【0066】
本明細書で使用される「張性剤(tonicity agent)」という用語は、一部の実施形態において、関節内注射用の医薬組成物で使用するのに好適な張性剤を指す。
【0067】
一部の実施形態において、張性剤は非イオン性である。一部の実施形態において、ポリオールは直鎖状ポリオールである。一部の実施形態において、ポリオールは環状ポリオールである。本発明の医薬組成物で使用するのに好適な非イオン性ポリオールの非限定的な例としては、マンニトール、グリセロール、デキストロース、ラクトース、及びトレハロースが挙げられる。
【0068】
現時点で好ましい一部の実施形態において、ポリオールはマンニトールである。マンニトールはよく知られた低コストの賦形剤であり、様々なタイプの医薬組成物で調剤者が頻繁に使用する。上記で述べられているように、マンニトールは、関節潤滑用の医薬組成物でヒアルロン酸と組み合わせて使用されてきた。また、マンニトールは、リポソームの凍結保存で有用であることも報告されている(Talsma H,van Steenbergen MJ,Salemink PJ,Crommelin DJ,Pharm Res.1991,8(8):1021-6)。
【0069】
一部の実施形態において、張性剤はグリセロールを含む。
【0070】
一部の実施形態において、医薬組成物は、ポリオールの組合せ、すなわちマンニトールとグリセロールとの組合せを含む。当該医薬組成物はさらに、ポリオールと追加の張性剤との組合せを含むことができる。
【0071】
一部の実施形態において、ポリオールはキシリトールを含まない。
【0072】
強調すべきことは、現時点で好ましい一部の実施形態によれば、張性剤はリポソーム内でカプセル化されていないことである。本明細書で使用される「カプセル化」という用語は、一部の実施形態において、リポソーム外部の媒体中張性剤の濃度よりも実質的に高い、リポソーム内部の張性剤の濃度を指す。「リポソーム内部」という用語は、リポソームの少なくとも一つの内部水相を包含するものと理解されたい。「濃度」という用語は、オスモル濃度を含むことができる。本明細書で使用される「実質的により高い」という用語は、一部の実施形態において、少なくとも約90%の濃度の差を指す。一部の実施形態において、ポリオールはリポソーム内でカプセル化されていない。さらなる実施形態において、マンニトールはリポソーム内でカプセル化されていない。追加の実施形態において、グリセロールはリポソーム内でカプセル化されていない。
【0073】
さらなる実施形態によれば、リポソーム内部の張性剤の濃度は、リポソーム外部の媒体中の張性剤の濃度と本質的に同じである。本明細書で使用される「本質的に同じ」という用語は、一部の実施形態において、少なくとも約15%未満の濃度の差を指す。さらなる実施形態において、「本質的に同じ」という用語は、約10%未満、約5%未満、約2.5%未満、または約1%未満の濃度の差を指す。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。
【0074】
さらなる実施形態によれば、リポソーム内部のポリオールの濃度は、リポソーム外部の媒体中のポリオールの濃度と本質的に同じである。またさらなる実施形態によれば、リポソーム内部のマンニトールの濃度は、リポソーム外部の媒体中のマンニトールの濃度と本質的に同じである。なお更なる実施形態によれば、リポソーム内部のグリセロールの濃度は、リポソーム外部の媒体中のグリセロールの濃度と本質的に同じである。
【0075】
一部の実施形態において、リポソームは凍結乾燥されない。さらなる実施形態において、リポソームは、関節に投与する前に凍結乾燥及び/または解凍されない。
【0076】
一部の実施形態において、医薬組成物はさらに流体媒体を含む。一部の実施形態において、リポソームは当該流体媒体中に分散または懸濁している。さらなる実施形態において、張性剤は当該流体媒体中に溶解または分散している。さらなる実施形態において、マンニトールまたはグリセロールは当該流体媒体中に溶解している。一部の実施形態において、医薬組成物は、流体媒体中に懸濁したリポソームを含む、医薬的に許容される懸濁液の形態をとる。
【0077】
さらに提供されるのは、上記の様々な実施形態に従う医薬組成物を含み、さらに流体媒体を含む、医薬的に許容される懸濁液である。
【0078】
一部の実施形態において、ポリオールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約5%(w/w)~約50%(w/w)、または約10%(w/w)~約40%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。あるいくつかの実施形態において、ポリオールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約30%(w/w)の重量パーセントで存在する。追加の実施形態において、ポリオールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約15%(w/w)の重量パーセントで存在する。
【0079】
一部の実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約10%(w/w)~約50%(w/w)、または約20%(w/w)~約50%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。さらなる実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約30%(w/w)の重量パーセントで存在する。
【0080】
一部の実施形態において、グリセロールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約5%(w/w)~約35%(w/w)、または約5%(w/w)~約25%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。さらなる実施形態において、グリセロールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約15%(w/w)の重量パーセントで存在する。
【0081】
一部の実施形態において、リポソームを形成するリン脂質は、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約50%(w/w)~約95%(w/w)、または約60%(w/w)~約85%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。さらなる実施形態において、リン脂質は、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約70%(w/w)の重量パーセントで存在する。さらなる実施形態において、リン脂質は、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約85%(w/w)の重量パーセントで存在する。
【0082】
本明細書で使用される「乾燥重量」という用語は、一部の実施形態において、流体媒体を含まない医薬組成物の重量を指す。さらなる実施形態において、「乾燥重量」という用語は、水を含まない医薬組成物の重量を指す。
【0083】
一部の実施形態において、本発明の組成物は医薬的に許容される。本明細書で使用される「医薬的に許容される」という用語は、一部の実施形態において、安全であり、本発明で使用する有効量の活性成分を所望の投与経路に対し適切に送達する、任意の製剤を指す。この用語は、化合物の安定性及び投与経路に従って、pHがpH4.0~pH9.0を範囲とする特定の所望値で維持される、緩衝製剤の使用も指す。
【0084】
そのため流体媒体は、緩衝液、水、及び塩溶液から選択され得る。一部の実施形態において、流体媒体は緩衝液を含む。あるいくつかの実施形態において、当該緩衝液は、ヒスチジン緩衝液またはリン酸緩衝食塩水を含む。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。ヒスチジンの濃度は、約0.5mg/ml~約10mg/mlを範囲とすることができる。あるいくつかの実施形態において、ヒスチジンの濃度は約2mg/mlである。一部の実施形態において、ヒスチジンの濃度は約1mM~約50mMを範囲とする。あるいくつかの実施形態において、ヒスチジンの濃度は約10mMである。ヒスチジンは、溶解した塩酸塩または酢酸塩の形態で組成物中に存在することができる。あるいくつかの実施形態において、医薬組成物はさらに、微量の無機酸、例えば塩酸を含む。
【0085】
医薬組成物のpHは、約5~約8を範囲とすることができる。一部の実施形態において、pHは約6から約7の間を範囲とする。あるいくつかの実施形態において、医薬組成物のpHは約6.5である。
【0086】
一部の実施形態において、医薬組成物中のポリオールの濃度は約0.5~約100mg/mlを範囲とする。さらなる実施形態において、ポリオールの濃度は約1~約70mg/mlを範囲とする。またさらなる実施形態において、ポリオールの濃度は約2.5~約60mg/mlを範囲とする。なお更なる実施形態において、ポリオールの濃度は約5~約50mg/mlを範囲とする。またさらなる実施形態において、ポリオールの濃度は約30~約50mg/mlを範囲とする。あるいくつかの実施形態において、ポリオールの濃度は約5~約30mg/mlを範囲とする。
【0087】
一部の実施形態において、医薬組成物中のマンニトールの濃度は約1mg/ml~約70mg/mlを範囲とする。さらなる実施形態において、マンニトールの濃度は約10mg/ml~約70mg/mlを範囲とする。またさらなる実施形態において、マンニトールの濃度は約10mg/ml~約50mg/mlを範囲とする。あるいくつかの実施形態において、マンニトールの濃度は約40mg/mlである。追加の実施形態において、マンニトールの濃度は約20mg/mlである。
【0088】
一部の実施形態において、医薬組成物中のグリセロールの濃度は約0.5mg/ml~約50mg/mlを範囲とする。さらなる実施形態において、グリセロールの濃度は約1mg/ml~約40mg/mlを範囲とする。またさらなる実施形態において、グリセロールの濃度は約5mg/ml~約30mg/mlを範囲とする。あるいくつかの実施形態において、グリセロールの濃度は約20mg/mlである。追加の実施形態において、グリセロールの濃度は約10mg/mlである。
【0089】
一部の実施形態において、医薬組成物中のポリオールの濃度は約50~約500mMを範囲とする。さらなる実施形態において、ポリオールの濃度は約100~約400mMを範囲とする。またさらなる実施形態において、ポリオールの濃度は約200~約300mMを範囲とする。ポリオールは、マンニトール及びグリセロールから選択され得る。
【0090】
一部の実施形態において、ポリオールは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約0.05%(w/w)~約10%(w/w)、約0.1%(w/w)~約7%(w/w)、約0.5%(w/w)~約10%(w/w)、または約1%(w/w)~約5%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。あるいくつかの実施形態において、ポリオールの重量パーセントは約4%(w/w)である。追加の実施形態において、ポリオールの重量パーセントは約2%(w/w)である。
【0091】
一部の実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約0.1%(w/w)~約7%(w/w)、約0.5%(w/w)~約10%(w/w)、または約1%(w/w)~約7%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。あるいくつかの実施形態において、マンニトールの重量パーセントは約4%(w/w)である。
【0092】
一部の実施形態において、グリセロールは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約0.05%(w/w)~約5%(w/w)、または約0.5%(w/w)~約5%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。あるいくつかの実施形態において、グリセロールの重量パーセントは約2%(w/w)である。
【0093】
本明細書で使用される「合計重量」という用語は、一部の実施形態において、流体媒体を含む医薬組成物の重量を指す。さらなる実施形態において、「合計重量」という用語は医薬的に許容される懸濁液の重量を指す。
【0094】
一部の実施形態において、医薬組成物は、約200~約600mOsmの範囲内のオスモル濃度を有する。さらなる実施形態において、医薬組成物は、約250~約500mOsmの範囲内のオスモル濃度を有する。さらなる実施形態において、医薬組成物は、約250~約400mOsmの範囲内のオスモル濃度を有する。あるいくつかの実施形態において、医薬組成物は約300mOsmのオスモル濃度を有する。あるいくつかのこのような実施形態において、医薬組成物は等張性である。
【0095】
一部の実施形態において、リポソームとポリオールとの間の重量比は約30:1~約1:2を範囲とする。さらなる実施形態において、リポソームとポリオールとの間の重量比は約15:1~約2:1を範囲とする。またさらなる実施形態において、リポソームとポリオールとの間の重量比は約10:1~約2:1を範囲とする。なお更なる実施形態において、リポソームとポリオールとの間の重量比は約6:1~約2:1を範囲とする。追加の実施形態において、リポソームとポリオールとの間の重量比は約10:1~約6:1を範囲とする。
【0096】
一部の実施形態において、リポソームとマンニトールとの間の重量比は約10:1~約1:1を範囲とする。さらなる実施形態において、リポソームとマンニトールとの間の重量比は約6:1~約2:1を範囲とする。あるいくつかの実施形態において、リポソームとマンニトールとの間の重量比は約4:1である。
【0097】
一部の実施形態において、リポソームとグリセロールとの間の重量比は約15:1~約2:1を範囲とする。さらなる実施形態において、リポソームとグリセロールとの間の重量比は約12:1~約2:1を範囲とする。またさらなる実施形態において、リポソームとグリセロールとの間の重量比は約10:1~約6:1を範囲とする。
【0098】
一部の実施形態において、医薬組成物のpHは、無機酸または無機塩基の使用によって調整することができる。好適な無機塩基の非限定的な例としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。
【0099】
本発明の一部の実施形態によれば、GPLはホスホコリン頭部(ホスファチジルコリン、PCベース脂質)またはホスホグリセロール頭部(ホスファチジルグリセロール、PGベース脂質)を含み、SPLはセラミド(ホスホコリン頭部を保有するN-アシルスフィンゴシン、N-アシルスフィンゴシン-ホスホコリン(SMベース脂質)とも呼ばれる)である。
【0100】
PC及びSMは、カチオン性コリン及びアニオン性ジエステルのリン酸部分(ホスホコリン頭部を構成する)を有する双性イオン性リン脂質である。PC及びPGの疎水性部分は、2つの炭化水素(例えば、アシル及びアルキル)鎖を含む。また、SMは、一方がスフィンゴ塩基自身であり他方がN-アシル鎖である二つの疎水性炭化水素鎖も有する。炭化水素鎖が12個の炭素原子を上回るPC、SM、及びPGは、パッキングパラメーターが0.74~1.0の範囲内にあるため、いずれも円筒様形状である。これらが形成する脂質二重膜は、SO-LD相転移温度を上回ると高度に水和及びベシクル化されて脂質ベシクル(リポソーム)を形成する。PC及びPGリポソーム二重膜は、秩序固体(SO)相または無秩序液体(LD)相にあり得る。SO-LD相間の変換は、主相転移と呼ばれる吸熱性の一次相転移を伴う。Tは、SD-LD相転移中に熱容量変化の最大変化が生じる温度である。PLのT及びSO-LD相転移の温度範囲は、特に、PL炭化水素鎖の組成に依存する。LD相において(SO相では生じない)、荷電したホスホコリン及びホスホグリセロール頭部は高度に水和されている。
【0101】
一部の実施形態において、「相転移温度」という用語はTを指す。他の実施形態において、「相転移温度」という用語はSO-LD相転移の温度範囲を指す。
【0102】
さらに留意されたいのは、PG及びSMが有するTは、対応するPC(同じ長さの置換炭化水素鎖(一つまたは複数))のTに類似することである。例えば、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルグリセロール(DMPG)のTmはDMPCのTmと同一で、すなわち23℃であり、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルグリセロール(DPPG)またはN-パルミトイルSMのTmはDPPCのTと同一で、すなわち41℃である。したがって、以下の実施例では主にPCベース脂質が利用されているが、本発明に従うPLもPGベースまたはSMベースの脂質であり得る。
【0103】
本発明の原理によれば、二つ以上のPL(例えば、二つの異なるPC、PC及びPG、二つの異なるPG、二つのSM、PCまたはPG及びSM、その他)の混合物は、in situにおいて(例えば、健康な関節または機能不全の関節の関節領域にて)形成される混合物がLD状態にある限りは、使用することができる。
【0104】
一部の特定の実施形態において、リポソームはPCを含む。さらなる特定の実施形態において、リポソームは二つの異なるPCの組合せを含む。他の特定の実施形態において、リポソームはPCとSMとの組合せを含む。
【0105】
一部の実施形態において、リポソームは、同じまたは異なる二つのC12-C18炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質及びC12-C18炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)から選択される少なくとも一つのリン脂質(PL)を含む、少なくとも一つの膜を含むことを特徴とする。秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)への相転移が生じる相転移温度は、約20℃~約39℃の温度範囲内にある。リポソームは、相転移温度より高い関節温度を有する関節の潤滑に使用される。したがって、リポソームは関節内ではLD相にある。
【0106】
リポソームが含有するPL(単一のPL、またはPLと追加のPLとの組合せ)は、リポソームが約20℃から約39℃の間のSO-LD相転移温度を有するように選択されることに留意されたい。
【0107】
GPLまたはSPLは、アルキル、アルケニル、またはアシルのC12-C18炭化水素鎖を有することができる。GPLの場合には、二つの鎖は同じであっても異なっていてもよい。一部の実施形態において、GPLはC12-C16炭化水素鎖鎖を有する。追加の実施形態において、SPLはC12-C16炭化水素鎖鎖を有する。
【0108】
一つの特定の実施形態は、少なくとも一つのC14アシル鎖を伴うGPLまたはSPLを有するリポソームを含む医薬組成物に関する。別の特定の実施形態は、少なくとも一つのC15アシル鎖を伴うGPLまたはSPLを有するリポソームを含む医薬組成物に関する。また別の特定の実施形態は、C14、C15、C16、及びC18アシル鎖のうちの少なくとも一つを有するGPLを含む医薬組成物に関する。さらに別の特定の実施形態は、C16アシル鎖を伴うSPLを有するリポソームを含む医薬組成物に関する。追加の実施形態は、上記のリポソームのいずれかの組合せを含む医薬組成物に関する。
【0109】
一部の実施形態において、少なくとも一つのC12-C18またはC12-C16の疎水性鎖は飽和している。さらなる実施形態において、C12-C18及びC12-C16の疎水性鎖はいずれも飽和している。
【0110】
一つの実施形態において、当該C12-C18またはC12-C16の疎水性鎖は飽和していない。
【0111】
本発明の原理に従うリポソーム内に存在し得るリン脂質の非限定的な例としては、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC、T 約24℃):1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC、T 41.4℃);1,2-ジペンタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C15、T 33.0℃);1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC、T 55℃);及びN-パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシルホスホリルコリン(D-エリスロC16、T 41.0℃)が挙げられる。様々なPCベース脂質のT値は、’’Thermotropic Phase Transitions of Pure Lipids in Model Membranes and Their Modifications by Membrane Proteins’’,John R.Silvius,Lipid-Protein Interactions,John Wiley & Sons,Inc.,New York,1982に見いだすことができ、またLipid Thermotropic Phase Transition Data Base(LIPIDAT)及びMarsh(1990)にも見いだすことができる。
【0112】
一部の実施形態によれば、二つ以上のPLを使用する場合、これらの間のモル比は、医薬組成物が関節に投与される際に、この組合わせのTがLD相にあるリポソームをもたらすように設計される。さらなる実施形態において、モル比は、約20℃~約39℃の範囲内の相転移温度を有するリポソームをもたらすように選択される。
【0113】
一部の実施形態において、リポソームはDMPCを含む。さらなる実施形態において、リポソームはDMPCから本質的になる。またさらなる実施形態において、リポソームの少なくとも一つの膜はDMPCから本質的になる。追加の実施形態において、DMPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中の張性剤の濃度と本質的に同じ濃度を有する張性剤を含む。さらなる実施形態において、DMPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のポリオールの濃度と本質的に同じ濃度を有するポリオールを含む。またさらなる実施形態において、DMPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のマンニトールの濃度と本質的に同じ濃度を有するマンニトールを含む。
【0114】
一部の実施形態において、医薬組成物は、DMPCと追加のPCとの組合せを含むリポソームを含む。一部の実施形態において、医薬組成物は、DMPCとSPMとの組合せを含むリポソームを含む。
【0115】
一部の実施形態において、リポソーム膜中のDMPCのモルパーセントは約5%~約100%を範囲とする。さらなる実施形態において、リポソーム膜中のDMPCのモルパーセントは約5%~約80%を範囲とする。さらなる実施形態において、リポソーム膜中のDMPCのモルパーセントは約10%~約75%、約15%~約70%、約20%~約65%、約25%~約60%、約30%~約55%、約35%~約50%、約5%~約15%、約20%~約30%、約5%~約30%、約40%~約50%、または約70%~約80%を範囲とする。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。一部の例示的な実施形態において、リポソーム膜中のDMPCのモルパーセントは約10%である。他の例示的な実施形態において、リポソーム膜中のDMPCのモルパーセントは約25%である。さらなる例示的な実施形態において、リポソーム膜中のDMPCのモルパーセントは約45%である。追加の例示的な実施形態において、リポソーム膜中のDMPCのモルパーセントは約75%である。
【0116】
一部の実施形態において、リポソームはDMPCとDPPCとの組合せを含む。さらなる実施形態において、リポソームはDMPC及びDPPCから本質的になる。またさらなる実施形態において、リポソームの少なくとも一つの膜はDMPC及びDPPCから本質的になる。追加の実施形態において、DMPC及びDPPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中の張性剤の濃度と本質的に同じ濃度を有する張性剤を含む。さらなる実施形態において、DMPC及びDPPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のポリオールの濃度と本質的に同じ濃度を有するポリオールを含む。またさらなる実施形態において、DMPC及びDPPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のマンニトールの濃度と本質的に同じ濃度を有するマンニトールを含む。
【0117】
一部の実施形態において、DMPC:DPPCのモルパーセント比は約25:75~約70:30の範囲内にある。さらなる実施形態において、DMPC:DPPCのモルパーセント比は、約30:70~約65:25、約35:65~約60:30、または約40:60~約55:45の範囲内にある。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。あるいくつかの実施形態において、DMPC:DPPCのモルパーセント比は約45:55である。追加の実施形態において、DMPC:DPPCのモルパーセント比は約25:75である。
【0118】
一部の実施形態において、DMPCとDPPCとの組合せを含むリポソームの相転移温度は約33℃から約37℃の間を範囲とする。
【0119】
一部の実施形態において、リポソームはDMPCとC15との組合せを含む。さらなる実施形態において、リポソームはDMPC及びC15から本質的になる。またさらなる実施形態において、リポソームの少なくとも一つの膜はDMPC及びC15から本質的になる。追加の実施形態において、DMPC及びC15から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中の張性剤の濃度と本質的に同じ濃度を有する張性剤を含む。さらなる実施形態において、DMPC及びC15から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のポリオールの濃度と本質的に同じ濃度を有するポリオールを含む。またさらなる実施形態において、DMPC及びC15から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のマンニトールの濃度と本質的に同じ濃度を有するマンニトールを含む。
【0120】
一部の実施形態において、DMPC:C15のモルパーセント比は約15:85~約55:45の範囲内にある。さらなる実施形態において、DMPC:C15のモルパーセント比は約25:75~約45:55の範囲内にある。あるいくつかの実施形態において、DMPC:C15のモルパーセント比は約45:55である。追加の実施形態において、DMPC:C15のモルパーセント比は約25:75である。
【0121】
一部の実施形態において、DMPCとC15との組合せを含むリポソームの相転移温度は約29℃から約31℃の間を範囲とする。
【0122】
一部の実施形態において、少なくとも一つの膜はDMPC及びDSPCを含む。さらなる実施形態において、リポソームはDMPC及びDSPCから本質的になる。またさらなる実施形態において、リポソームの少なくとも一つの膜はDMPC及びDSPCから本質的になる。追加の実施形態において、DMPC及びDSPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中の張性剤の濃度と本質的に同じ濃度を有する張性剤を含む。さらなる実施形態において、DMPC及びDSPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のポリオールの濃度と本質的に同じ濃度を有するポリオールを含む。またさらなる実施形態において、DMPC及びDSPCから本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のマンニトールの濃度と本質的に同じ濃度を有するマンニトールを含む。
【0123】
一部の実施形態において、DMPC:DSPCのモルパーセント比は約75:25である。
【0124】
一部の実施形態において、DMPCとDSPCとの組合せを含むリポソームの相転移温度は約27℃である。
【0125】
一部の実施形態において、リポソームはDMPCとD-エリスロC16との組合せを含む。さらなる実施形態において、リポソームはDMPC及びD-エリスロC16から本質的になる。またさらなる実施形態において、リポソームの少なくとも一つの膜はDMPC及びD-エリスロC16から本質的になる。追加の実施形態において、DMPC及びD-エリスロC16から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中の張性剤の濃度と本質的に同じ濃度を有する張性剤を含む。さらなる実施形態において、DMPC及びD-エリスロC16から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のポリオールの濃度と本質的に同じ濃度を有するポリオールを含む。またさらなる実施形態において、DMPC及びD-エリスロC16から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のマンニトールの濃度と本質的に同じ濃度を有するマンニトールを含む。
【0126】
さらなる実施形態において、DMPC:D-エリスロC16のモルパーセント比は約5:95~約50:50の範囲内にある。さらなる実施形態において、DMPC:D-エリスロC16のモルパーセント比は、約10:90~約45:55、約10:90~約40:60、または約10:90~約35:65、約10:90~約30:70、または約10:90~約25:75の範囲内にある。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。さらなる実施形態において、DMPC:D-エリスロC16のモルパーセント比は約5:95~約50:50の範囲内にある。一部の例示的な実施形態において、DMPC:D-エリスロC16のモルパーセント比は約10:90である。他の例示的な実施形態において、DMPC:D-エリスロC16のモルパーセント比は約25:75である。
【0127】
一部の実施形態において、DMPCとD-エリスロC16との組合せを含むリポソームの相転移温度は約27℃から32℃の間を範囲とする。
【0128】
一部の実施形態において、リポソームはC15を含む。さらなる実施形態において、リポソームはC15から本質的になる。またさらなる実施形態において、リポソームの少なくとも一つの膜はC15から本質的になる。追加の実施形態において、C15から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中の張性剤の濃度と本質的に同じ濃度を有する張性剤を含む。さらなる実施形態において、C15から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のポリオールの濃度と本質的に同じ濃度を有するポリオールを含む。またさらなる実施形態において、C15から本質的になるリポソームは、リポソーム内部で、リポソーム外部の媒体中のマンニトールの濃度と本質的に同じ濃度を有するマンニトールを含む。
【0129】
本発明の一部の実施形態に従う医薬組成物中の合計PL濃度は、約20mM~約500mMを範囲とする。さらなる実施形態において、濃度は約50mM~約300mMを範囲とする。またさらなる実施形態において、濃度は約100mM~約200mMを範囲とする。なお更なる実施形態において、濃度は約130mM~約170mMを範囲とする。あるいくつかの実施形態において、合計PL濃度は約150mMである。
【0130】
一部の実施形態において、合計PL濃度は約10mg/ml~約500mg/mlを範囲とする。さらなる実施形態において、濃度は約30mg/ml~約300mg/mlを範囲とする。またさらなる実施形態において、濃度は約50mg/ml~約200mg/mlを範囲とする。あるいくつかの実施形態において、合計PL濃度は約100mg/mlである。
【0131】
一部の実施形態において、リポソームを形成するリン脂質は、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約0.1%(w/w)~約40%(w/w)、約0.5%(w/w)~約30%(w/w)、約3%(w/w)~約30%(w/w)、または約1%(w/w)~約20%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。あるいくつかの実施形態において、リポソームを形成するリン脂質は、医薬組成物中に約10%(w/w)の重量パーセントで存在する。
【0132】
一部の実施形態によれば、本発明の医薬組成物で使用するのに好適なリポソームは、その二重膜にコレステロールなどの膜活性ステロールを含まない。留意されたいのは、本発明の医薬組成物がプロピレングリコールを含有しないのが好ましいことである。さらに留意すべきなのは、本発明の医薬組成物がデキストランを含有しないのが好ましいことである。
【0133】
加えて、強調すべきなのは、本発明の医薬組成物で使用されるリポソームは、それ自体が活性成分として使用され、ある特定の医薬的活性薬剤の担体として使用されるわけではないことである。そのため、本明細書で上述されているように、本発明の原理に従う医薬組成物は、追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まない。本明細書で使用される「追加の医薬的活性薬剤を本質的に含まない」という用語は、一部の実施形態において、治療有効量未満の、関節潤滑、関節機能不全の処置、関節痛の低減、刺激及び/もしくは摩耗、またはこれらの任意の組合せでの使用が知られている医薬的活性薬剤を含む、医薬組成物を指す。本明細書で使用される「使用が知られている」という用語は、一部の実施形態において、示された使用が発明の時点で承認済みの医薬的活性薬剤を指す。さらなる実施形態において、「使用が知られている」という用語は、示された使用が今後承認される医薬的活性薬剤を指す。またさらなる実施形態において、「使用が知られている」という用語は、示された使用に好適であると科学文献及び/または特許で言及されている医薬的活性薬剤を指す。
【0134】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、潤滑剤である医薬的活性薬剤(例えば、特にグリコサミノグリカン)、またはその医薬的に許容される塩、エステル、もしくは誘導体を含まない。あるいくつかの実施形態において、当該グリコサミノグリカンはヒアルロン酸、またはヒアルロナン含有塩もしくはエステルである。あるいくつかの実施形態において、ヒアルロン酸はリポソーム内でカプセル化されていない。追加的にまたは代替的に、ヒアルロン酸は液体媒体に分散されるべきではない。現時点で好ましい一部の実施形態において、医薬組成物はヒアルロン酸、またはその医薬的に許容される塩もしくはエステルを本質的に含まない。「本質的に含まない」という用語は、ヒアルロン酸に関して使用される場合、一部の実施形態において、治療有効量未満のヒアルロン酸またはその塩もしくはエステルを含む医薬組成物を指す。追加の実施形態において、「本質的に含まない」という用語は、検出可能量未満のヒアルロン酸またはその塩もしくはエステルを含む医薬組成物を指す。
【0135】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、表層ゾーンタンパク質(SZP)、ラブリシン、プロテオグリカン4、ならびにこれらのアナログ及び誘導体から選択される潤滑剤である医薬的活性薬剤を含まない。
【0136】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、抗炎症剤である医薬的活性薬剤、例えば、キシリトール、ベタメタゾン、プレドニゾロン、ピロキシカム、アスピリン、フルルビプロフェン、(+)-N-{4-[3-(4-フルオロフェノキシ)フェノキシ]-2-シクロペンテン-1-イル}-N-ヒドロキシウレアサルサラート、ジフルニサル、イブプロフェン、フェノプロフェン、フェナマート、ケトプロフェン、ナブメトン、ナプロキセン、ジクロフェナク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、エトドラク、ケトロラク、オキサプロジン、セレコキシブ、メクロフェナマート、メフェナム酸、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、サリチラート、またはフィトスフィンゴシンタイプの薬剤を含まない。
【0137】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、抗ウイルス剤である医薬的活性薬剤、例えば、アシクロビル、ネルフィナビル、またはビラゾールを含まない。
【0138】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、抗生物質である医薬的活性薬剤(ペニシリンファミリーに属する抗生物質、セファロスポリン、アミノグリコシド系薬、マクロライド、カルバペネム、及びペネム、ベータラクタム単環、ベータラクタマーゼ阻害物質、ならびにテトラサイクリン、ポリペプチド抗生物質、クロラムフェニコール及び誘導体、ポリエーテルイオノフォア、ならびにキノロンを含む)を含まない。このような抗生物質の非限定的な例としては、アンピシリン、ダプソン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、セファクロル、セファドロキシル、セファレキシン、セフラジン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、アモキシシリン、アンピシリン、バカンピシリン、カルベニシリン、ジクロキサシリン、シクラシリン、ピクロキサシリン、ヘタシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、チカルシリン、リファンピン、テトラサイクリン、フシジン酸、リンコマイシン、ノボビオシン、及びスペクチノマイシンが挙げられる。
【0139】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、抗感染剤である医薬的活性薬剤、例えば、塩化ベンザルコニウムまたはクロルヘキシジンを含まない。
【0140】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、ステロイドである医薬的活性薬剤を含まない。本明細書で使用される「ステロイド」という用語は、天然に存在するステロイド及びその誘導体、ならびにステロイド様活性を有する合成または半合成のステロイドアナログを指す。ステロイドは、グルココルチコイドまたはコルチコステロイドであり得る。具体的な天然及び合成のステロイドの例としては、以下に限定されないが、アルドステロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、クロプレドノール、コルチゾン、コルチバゾール、デオキシコルトン、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフルオロコルトロン、フルクロロロン、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロン、フルオシノニド、フルオコルチンブチル、フルオロコルチゾン、フルオロコルトロン、フルオロメトロン、フルランドレノロン、フルチカゾン、ハルシノニド、ヒドロコルチゾン、イコメタゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、チキソコルトール、またはトリアムシノロン、及びこれらのそれぞれの医薬的に許容される塩または誘導体が挙げられる。
【0141】
一部の実施形態によれば、リン脂質は、唯一の活性成分として本発明の医薬組成物で使用される。
【0142】
一部の実施形態によれば、医薬組成物は、本明細書で説明されているように、ポリオールを含む非イオン性張性剤と、リポソームとから本質的になる。一部の実施形態において、「~から本質的になる」という用語は、唯一の活性成分が、示された活性成分(すなわち、リポソーム)である組成物を指すが、製剤のオスモル濃度、粘性、及び/またはpHを安定化、保持、または制御するためのものであり、ただしリポソーム及び/またはリン脂質の治療効果に直接関与することのない他の化合物が含まれてもよい。一部の実施形態において、「なる」という用語は、リポソームと、張性剤と、医薬的に許容される溶媒または賦形剤とを含有する組成物を指す。
【0143】
本発明の様々な実施形態に従う医薬組成物は滅菌し、所望の場合は、リポソームに有害に反応しない助剤(例えば、保存料、安定剤、湿潤剤、合成乳化剤、浸透圧に影響をもたらすための追加の塩、着色料、及び/または芳香物質など)と混合することができる。
【0144】
GPL、SPL、またはこれらの組合せは、リポソーム、好ましくは、平均直径が約0.3μmより大きい、約0.5μmより大きい、約0.8μmより大きい、または約1μmより大きいリポソームを形成する。リポソームの平均直径は、約10μm、8μm、7μm、6μm、または5μmであり得る。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。一部の実施形態によれば、リポソームは、約0.3μmから10μmの間の範囲内の平均直径を有する。さらなる実施形態によれば、リポソームは、約0.5μmから9μmの間の範囲内の平均直径を有する。またさらなる実施形態によれば、リポソームは、約1μmから8μmの間の範囲内の平均直径を有する。なお更なる実施形態によれば、リポソームは、約3μmから5μmの間の範囲内の平均直径を有する。
【0145】
「平均直径」及び「平均粒子サイズ」という用語は、本明細書では互換的に使用され、一部の実施形態において、数分布モデルに基づいた粒子サイズ分布に由来するリポソームの平均直径を指す。一部の実施形態において、当該用語は、体積分布モデルに基づいた粒子サイズ分布に由来するリポソームの平均直径を指す。追加の実施形態において、当該用語は、表面積分布モデルに基づいた粒子サイズ分布に由来するリポソームの平均直径を指す。粒子サイズ分布は、特に、レーザー光回折及び/またはコールターカウンター法により定量することができる。
【0146】
リポソームは、単一膜リポソームである場合もあれば、一部の実施形態によれば、多重層ベシクル(MLV)リポソームである場合もある。他の実施形態によれば、リポソームは、大型多重層ベシクル(LMVV)または脱水再水和ベシクル(DRV)リポソームであってもよい。
【0147】
現時点で好ましい一部の実施形態において、リポソームは多重層ベシクル(MLV)である。あるいくつかのこのような実施形態によれば、リポソームは二つ以上の膜を有する。
【0148】
一つの実施形態によれば、MLVは、0.3μmから10μmの間の範囲内の平均直径により定義される。別の実施形態によれば、MLVは、0.5μmから9μmの間の範囲内の平均直径により定義される。またさらなる実施形態によれば、MLVは、約1μmから8μmの間の範囲内の平均直径により定義される。なお更なる実施形態によれば、MLVは、約3μmから5μmの間の範囲内の平均直径により定義される。
【0149】
あるいくつかの実施形態において、医薬組成物は、ポリオールと、DMPC及びDPPCから本質的になる膜を有するMLVリポソームとを含む。ポリオールは、マンニトール及びグリセロールから選択され得る。さらなる実施形態において、医薬組成物は、マンニトールと、DMPC及びDPPCから本質になる膜を有するMLVリポソームとを含む。追加の実施形態において、マンニトールの濃度は約1から約70mg/mlの間を範囲とする。なお別の実施形態において、医薬組成物は、約200~約600mOsmの範囲内のオスモル濃度を有する。また別の実施形態において、リポソームとマンニトールとの間の重量比は約6:1~約2:1を範囲とする。
【0150】
一部の実施形態において、医薬組成物は、マンニトールと、DMPC及びDPPCから本質になる膜を有するMLVリポソームとを含む。一部の実施形態において、DMPCは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約20%(w/w)~約40%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。ある実施形態において、DMPCは、医薬組成物中に約30%(w/w)の重量パーセントで存在する。一部の実施形態において、DPPCは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約30%(w/w)~約60%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。ある実施形態において、DPPCは、医薬組成物中に約40%(w/w)の重量パーセントで存在する。一部の実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に、医薬組成物の乾燥重量の約20%(w/w)~約40%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。ある実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に約30%(w/w)の重量パーセントで存在する。
【0151】
一部の実施形態において、マンニトールと、DMPC及びDPPCから本質になる膜を有するリポソームとを含む医薬組成物は、さらに、ヒスチジン緩衝液を流体媒体として含む。さらなる実施形態において、DMPCは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約1%(w/w)~約10%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。ある実施形態において、DMPCは、医薬組成物中に約4%(w/w)の重量パーセントで存在する。一部の実施形態において、DPPCは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約2%(w/w)~約12%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。ある実施形態において、DPPCは、医薬組成物中に約5%(w/w)の重量パーセントで存在する。一部の実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に、医薬組成物の合計重量の約1%(w/w)~約7%(w/w)を範囲とする重量パーセントで存在する。ある実施形態において、マンニトールは、医薬組成物中に約4%(w/w)の重量パーセントで存在する。
【0152】
本発明の様々な実施形態に従う医薬組成物は、天然に存在する軟骨PLの代替物、すなわち関節潤滑物質及び/または摩耗低減物質の調製に使用することができる。
【0153】
留意されたいのは、関節潤滑の低減または関節摩耗(例えば、変形性関節炎)に罹患している患者の関節温度は、疾患が進行するに伴って変動することである[Hollander,J.L.;Moore,R.,Studies in osteoarthritis using Intra-Articular Temperature Response to Injection of Hydrocortisone.Ann.Rheum.Dis. 1956,15,(4),320-326]。事実上、この温度変化は、変形性関節炎の炎症を評価するための臨床ツールとして使用されていた[Thomas,D.;Ansell,B.M.;Smith,D.S.;Isaacs,R.J.,Knee Joint Temperature Measurement using a Differential Thermistor Thermometer.Rheumatology 1980,19,(1),8-13]。変形性関節炎患者の手関節では、温度が約28から約33C℃まで変動することが示された[Varju,G.;Pieper,C.F.;Renner,J.B.;Kraus,V.B.,Assessment of hand osteoarthritis:correlation between thermographic and radiographic methods.Rheumatology 2004,43,915-919]のに対し、健康な顎関節(TMJ)の温度は約35から37℃まで変動する[Akerman,S.;Kopp,S.,Intra-articular and skin surface temperature of human temporomandibular joint.Scand.J.Dent.Res.1987,95,(6),493-498]。
【0154】
したがって、本発明の原理によれば、PLまたはその混合物がin situで、当該PLまたはその混合物を用いて潤滑する関節領域にてLD相にあることは必須であり、事実上前提条件である。一部の実施形態において、リポソームは、in situの、すなわち関節の温度から15℃より高くはない、約20℃~約39℃の範囲内にあるSO-LD相転移のオフセット温度(上限)を有する。本発明の原理によれば、リポソームは、GPL、SPL、またはこれらの組合せから形成されており、そのため、上記で説明されているSO-LD相転移温度は、GPL、SPL、またはこれらの組合せから形成されるリポソームに関するものであり、そのためPLまたはその混合物がLD相にあるリポソームがもたらされる。
【0155】
あるいくつかの実施形態において、ポリオールを含む非イオン性張性剤はリポソームの相転移温度に影響を及ぼさない。さらなる実施形態において、ポリオールを含む非イオン性張性剤と組み合わせたリポソームの相転移温度は、リポソーム単独の相転移温度と約10%以下異なる。またさらなる実施形態において、ポリオールを含む非イオン性張性剤と組み合わせたリポソームの相転移温度は、リポソーム単独の相転移温度と約5%以下異なる。
【0156】
本発明の医薬組成物は、関節機能不全に関連する任意の関節障害または関節障害から生じる症状の処置、軽減、遅延、防止、管理、または治癒のために使用することができる。本明細書で使用される「関節障害」という用語は、関節の変性、痛み、可動性の低減、炎症、刺激、または生理的破壊及び機能不全を引き起こす関節領域の任意の苦痛(先天性、自己免疫、その他)、損傷、または疾患を意味するとみなされるべきである。この障害は、関節の分泌及び潤滑の低減に関連する可能性があり、さらに膝及び臀部の置換の合併症からのものである可能性もある。
【0157】
本発明の原理に従う関節は、膝、臀部、足首、肩、肘、足根、手根、指節間、及び椎間のうちのいずれか一つであり得る。各々の可能性は、本発明の別々の実施形態に相当する。あるいくつかの実施形態において、当該関節は膝関節である。
【0158】
具体的な関節障害としては、以下に限定されないが、哺乳類、好ましくはヒトにおける、関節炎(リウマチ性関節炎における関節びらんの状態を含む)に起因する関節分泌及び/または潤滑の欠乏、変形性関節炎、リウマチ性関節炎患者における変形性関節炎、外傷性関節損傷(スポーツ損傷を含む)、関節ロック(例えば、顎関節(TMJ))、関節穿刺後の状態、関節鏡下手術、開放関節手術、関節(例えば、膝または臀部)置換が含まれる。本発明の医薬組成物の使用により処置または防止するのに好ましい障害は、変形性関節炎である。
【0159】
あるいくつかの実施形態において、医薬組成物は、変形性関節炎患者における膝関節痛を低減するためのものである。
【0160】
本発明の医薬組成物は、将来のダメージまたは変性を防止するための予防的措置として使用することができると考えられる。例えば、当該医薬組成物は、運動選手に対し選手人生全体において断続的に関節内投与して、応力関連の損傷または軟骨変性のリスクを最小化することができると考えられる。
【0161】
本発明の医薬組成物は、抗炎症剤、鎮痛剤、筋弛緩薬、抗うつ薬、または関節硬直(例えば、関節炎)に関連する障害の処置のために一般的に使用される関節潤滑を促進する薬剤を除外して、またはその補助剤として、投与することができる。併用療法的アプローチは、関節潤滑の低減に関連する障害(例えば、変形性関節炎)の防止、管理、または処置のために一般的に使用される薬剤(例えば、非ステロイド抗炎症薬(NSAID))に関連する副作用を低減するのに有益である。安全性の強化に加えて、併用療法的アプローチは、処置の効力を増大するのにも有利であり得る。
【0162】
一部の実施形態において、医薬組成物は、非経口投与に好適な形態をとる。患者の関節腔への本発明の医薬組成物の非経口投与は、関節内注射、関節鏡下投与、または外科的投与からなる群から選択される方法によって実施することができる。したがって、一部の実施形態において、医薬組成物は、関節内注射、関節鏡下投与、または外科的投与から選択される経路による投与に好適な形態で製剤化される。本開示の医薬組成物における有益な特徴の一つは、リポソーム組成物のオスモル濃度を生理的な値に調整し、それにより関節内投与に関連する副作用を低減する張性剤の存在である。
【0163】
本発明の様々な実施形態に従う医薬組成物は、約0.5ml~約10mlの用量で投与することができる。さらなる実施形態において、医薬組成物は約1ml~約6mlの用量で投与される。あるいくつかの実施形態において、医薬組成物は約3mlの用量で投与される。
【0164】
一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約20mg~約350mgのマンニトールを含む。一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約40mg~約250mgのマンニトールを含む。ある実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約120mgのマンニトールを含む。別の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約40mgのマンニトールを含む。追加の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約250mgのマンニトールを含む。
【0165】
一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約50mg~約1000mgのリン脂質を含む。一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約100mg~約800mgのリン脂質を含む。ある実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約300mgのリン脂質を含む。別の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約100mgのリン燐脂質を含む。追加の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約600mgのリン脂質を含む。
【0166】
一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約30mg~約550mgのDPPCを含む。一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約50mg~約500mgのDPPCを含む。ある実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約180mgのDPPCを含む。別の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約60mgのDPPCを含む。追加の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約365mgのDPPCを含む。
【0167】
一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約20mg~約450mgのDMPCを含む。一部の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は、約40mg~約300mgのDMPCを含む。ある実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約140mgのDPPCを含む。別の実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約45mgのDPPCを含む。ある実施形態において、医薬組成物の一単位用量は約275mgのDPPCを含む。
【0168】
医薬組成物は、バイアルもしくは単回注射、または実際の使用に好都合な任意の他の方法で分割することができる。
【0169】
本発明の医薬組成物の投与が企図される対象には哺乳類が含まれ、哺乳類は例えば、ヒト及びその他の霊長類であるが、これに限定されない。
【0170】
本明細書の説明及び請求項の全体において、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、及び「当該(the)」は、文脈による別段の明確な定めがない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「(一つの)PL(a PL)」に対する言及は一つ以上のPLに対する言及であり、「(一つの)リポソーム」とは一つ以上のリポソームを指す。本明細書の説明及び請求項の全体において、単語の複数形は、文脈による別段の明確な定めがない限り、単数の指示対象を含む。留意されたいのは、「及び」という用語または「または」という用語は、文脈による別段の定めがない限り、概して、「及び/または」を含めた意味で用いられる。
【0171】
さらに、本明細書の説明及び請求項全体において、「含む(comprise)」及び「含有する(contain)」ならびにこれらの語の変化形態、例えば、「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」は、「以下を含むがこれに限定されない」ことを意味し、その他の部分、添加物、構成要素、整数、またはステップを除外するようには意図されていない(かつ除外しない)。
【0172】
本明細書で使用される「約」という用語は、量、時間的期間などの測定可能な値を指す場合、本開示の方法を実施するのに以下のような変動が適切であることから、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%、いっそうより好ましくは+/-1%、更により好ましくは+/-0.1%の変動を包含するように意図される。
【0173】
以下の実施例は、本発明の一部の実施形態をより十分に例示するために提示される。ただし、この実施例は、決して本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者は、本明細書で開示される原理における多くの変形形態及び変更形態を、本発明の範囲から逸脱することなく、容易に考案することができる。
【実施例
【0174】
材料及び方法
材料
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC 14:0、カタログ番号556200)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC 16:0、カタログ番号556300)をLipoid(Ludwigshafen,Germany)から取得した。1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC 18:0、カタログ番号850365P)、1,2-ジペンタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C15(本明細書ではPC(15:0)とも略される)、カタログ番号850350P)をAvanti Polar Lipids(Alabaster(AL,USA))から取得した。N-パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシルホスホリルコリン(パルミトイルスフィンゴミエリン、D-エリスロC16(本明細書ではC16 SPMとも略される)、カタログ番号16608050)をBio-Lab ltd.(Jerusalem,Israel)から取得した。
【0175】
高純度水(18.2メガオームの抵抗)を、WaterPro PS HPLC/Ultrafilter Hybrid System(Labconco,Kansas City,MO)を用いて取得した。HPLCグレードエタノールをBioLab Ltd(Jerusalem,Israel)から取得した。L-ヒスチジン一塩酸塩一水和物、水酸化ナトリウム(NaOH)、及びD-マンニトールは、いずれもMerck(Darmstadt,Germany)から取得した。グリセロールをMerckから取得した(カタログ番号 1.04093)。塩化ナトリウムをJ.T.Bakerから取得した(カタログ番号 4058-02)。
【0176】
方法
MLVリポソームを含む低張性組成物の調製
所望のリン脂質の混合物を2.5mlのエタノールに溶解し、180mMの濃度にした。この溶液をボルテックスにより撹拌し、20分間水浴(60℃)に入れた。リン脂質が完全に溶解するまで撹拌を数回繰り返した。エタノール溶液を温かい10mMまたは7.5mMのヒスチジン緩衝液10ml(pH6.5)に移し、脂質を水和し所望のMLVの懸濁液を形成するために、ボルテックスにより2分間激しく混合した。
【0177】
5サイクルの遠心分離及び4℃の冷たい緩衝液の置換によりエタノールを除去した。PCからなるリポソームシステムに対する遠心分離は、第1サイクルでは3000rpmにて40分間、以降のサイクルでは4000rpmにて30分間行った。SPLを含むリポソームシステムに対する遠心分離は、第1サイクルでは4000rpmにて50分間で2回、間に一晩のスタンバイを入れて行い、第2及び第3サイクルでは4000rpmにて40分間で2回行った。第4及び第5サイクルは4000rpmにて60分間行った。エタノール除去のモニタリングはオスモル濃度測定により行った。毎回冷たい緩衝液を置換した後に、滅菌ピペットを用いてペレットを再懸濁させて粘着性のペレットをほぐし、次いでチューブをしっかり閉じ、2分間ボルテックスした。混合物のオスモル濃度が50mOsm未満になるまで、遠心分離プロセス及び溶液置換を繰り返した。HB(10mM、7.5mM)の浸透圧を測定し、それぞれ26及び19mOsmであることが分かった。MLVは解析を行うまで2~8℃にて保管した。
【0178】
MLVリポソームと張性剤とを含む等張性組成物の調製
上記で説明されているようにリポソームを調製した。リポソームのエタノール溶液を、マンニトール、グリセロール、及び塩化ナトリウムから選択される張性剤を含む温かい13.5mMのヒスチジン緩衝液10ml(pH6.5)に移し、脂質を水和し所望のMLVの懸濁液を形成するために、ボルテックスにより2分間激しく混合した。
【0179】
ヒスチジン緩衝液中の張性剤の濃度は以下のようにした:グリセロール:235mM、マンニトール:234mM、及びNaCl:131mM。
【0180】
混合物のオスモル濃度が約300mOsmになるまで、遠心分離プロセス及び溶液置換を繰り返した。組成物は解析を行うまで2~8℃にて保管した。
【0181】
MLVリポソームのキャラクタリゼーション
修正バートレット法を用いてリン脂質濃度を定量した[Barenholz,Y.and S.Amselem,Quality control assays in the development and clinical use of liposome-based formulations.Liposome technology,1993.1:p.527-616].リポソームのサイズ分布は、40nm~2mmの範囲内の粒子サイズの測定を可能にするレーザー回折粒子サイズアナライザー(LS13320 Beckman Coulter)を用いて定量した。コールターカウンター法(伝導性流体中に懸濁した粒子が小さな開口部を通過する際の電気伝導性の変化を測定することに基づく)もサイズ分布定量に使用した。
【0182】
潤滑効率性の評価のための軟骨オン軟骨ex vivoモデル
Hadassah Medical Center(Jerusalem)での大腿骨頭骨折の手術からドナー(年齢:男性70歳、女性68、72、81、87、98歳)からの正常な関節軟骨を取得した。組織は解析するまで-20℃にて凍結した。
【0183】
Hadassah Medical Center(Jerusalem)のドナー8名からの滑液をプールした。
【0184】
軟骨試験片の調製に使用した試薬には、Superglue(シアノアクリレート接着剤、3g)、NaCl(Baio Lab LTD(Israel)19030291、カタログ番号:19030291、ロット番号:57747)、及びエタノール(Frutarom(Israel)、カタログ番号:5551640、ロット番号:26141007)が含まれた。
【0185】
試料の調製は、Technion IIT(Haifa,Israel)のBiomedical Engineering学部のCartilage and Joints Diseases研究室で行った。試験は、Technion IIT(Haifa,Israel)のMechanical Engineering学部のShamban & Microsystems Tribology研究室で実施した。摩擦測定用のインハウス装置に、ひずみゲージ測定システム(HBM Z8(Germary))及びLabViewソフトウェア(National Instruments(USA))を備えたロードセルを装着した。
【0186】
以下のように装置をセットアップした。軟骨プラグを調製し、固定した。各軟骨から、直径4mmまたは8mmのプラグを10~20個調製した。これらのプラグを様々な試験対象製剤にランダムに割り当てた。8mmプラグを装置内の固定ホルダーに取り付け、1:1の比(v/v)で2mlの滑液(SF)及び試験溶液を含有する溶液に浸した。4mmプラグを上部ピストンに固定した。
【0187】
測定:摩擦試験を、異なる試験対象試料の存在下で複数回繰り返し実施した。毎回の測定において上部プラグを底部プラグの上に置き、数秒の滞留間隔の後、摩擦係数を測定した。任意の所与のプラグ対に対し10回以上の独立的な測定を実施し、全ての繰返しにおいて同様の条件を提供するため、各々の次の試験の前にプラグを回転させた。
【0188】
静止摩擦係数は、表1に示すように、適用荷重、滑り速度、滞留時間、及び温度における具体的なトライボロジー条件下で定量した。

表1:軟骨オン軟骨モデルの実験条件:
【表1】
【0189】
示差走査熱量測定法(DSC)による測定
異なるリポソームシステムのTを定量するため、MicroCal(商標)VP-DSC GE Healthcare Life Sciences(Uppsala(Sweden)、現在はMalvern(UK)が所有)を用いて試料を走査した。HB中MLVの試料、及びリポソームとマンニトールとを含む医薬組成物の試料を、約20mMのリン脂質の濃度にて、参照セル中のHB及びマンニトールを伴うHBと共に、1℃/分の加熱速度にて10℃から75℃の間の範囲で走査した。試験した各試料を同じ割合で三回走査した(温度を10℃から75℃に増加させ(走査1)、温度を75℃から10℃に減少させ(走査2)、再び温度を10℃から75℃に増加した(走査3))。Origin(登録商標)7.0ソフトウェアにより熱量測定データの処理を行った。主相転移のTon及びToffは、直線を外挿して主相転移の温度範囲を定義することにより、定量した。システムF1については、ピーク2に幅広の「肩」があったため、Model:MN2Stateを適合させることによる追加の解析を行った。
【0190】
実施例1:張性剤がリポソーム医薬組成物の潤滑特性に及ぼす効果
張性剤とリポソームとを含む医薬組成物による軟骨潤滑を、軟骨オン軟骨ex vivoモデルを用いて評価した。軟骨オン軟骨ex vivoモデルは、生体潤滑調製物が静止摩擦係数に及ぼす相対的効果を試験するための実験システムをもたらす。このタイプの測定は、異なる潤滑物質の軟骨摩擦係数を低減する能力の指標となり得る。軟骨オン軟骨ex vivoモデルは、固定した二つのヒト軟骨プラグを、異なる潤滑物質溶液に浸しながら一方を他方に対し滑らせる装置を利用する。この装置は、二つの軟骨試験片間の静止摩擦係数の測定を可能にする[Merkher Y et al. ’’A rational human joint friction test using a human cartilage-on-cartilage.’’Tribology Letters(2006):29-36]。このモデルは、過去に、異なるリポソーム組成物の摩擦係数を比較するために使用されている[Sivan S et al. ’’Liposomes act as effective biolubricants for friction reduction in human synovial joints.’’Langmuir(2010):1107-16]。
【0191】
ここでの実験は、静止摩擦係数測定により反映される、張性剤を含むリポソーム製剤の相対的潤滑特性を定量し、当該リポソーム製剤を低張性リポソーム製剤と比較するように設計された。表2は、試験した医薬組成物を提示している。リポソームの組合せは、45:55のモルパーセント比のDMPC/DPPCを選択した。
表2:低張性リポソーム組成物及び等張性リポソーム組成物
【表2】
【0192】
リポソーム組成物は、3mlの10mMヒスチジン緩衝液(HB)pH6.5中に分散した183mgのDPPCと136mgのDMPCとを含んだ。10mMヒスチジン緩衝液を含むリポソーム組成物のオスモル濃度は約50mOsmであった(表3)。したがって、オスモル濃度を約300mOsmの等張レベルに増加させるために、張性剤の濃度は約250mMの溶質をもたらすように調整すべきである。
【0193】
マンニトールを120mg(4%wt.または40mg/ml)の量で添加して等張性組成物を形成した。グリセロールを61mg(2%wt.または20mg/ml)の量で添加した。塩化ナトリウムを21mgの量で添加した。
【0194】
表3は、異なるリポソーム組成物の物理化学的特性を概括している。三つの異なる張性剤を用いてリポソーム組成物を調製した。各張性剤は、調製物の全体的オスモル濃度に等しく寄与する。これらの調製物の等張性は約300mOsmであった。イオン性張性剤(NaCl)と非イオン性張性剤(マンニトール及びグリセロール)との間で比較を実施した。張性剤なしの低張性リポソーム組成物(50mOsm未満)に対しても試験を行った。材料及び方法の項で説明されているように軟骨オン軟骨モデルセットアップを用いて、張性剤がリポソーム組成物の潤滑能力に及ぼす効果を評価した。
表3:リポソーム組成物の物理化学的特性。
【表3】
【0195】
表4は、実験で取得された平均静止摩擦係数の予備的結果を提示している。測定繰返しの精度は、相対SDによって反映されているように、全ての試験対象製剤の間で類似している。
表4:リポソーム組成物の潤滑特性。
【表4】
【0196】
製剤の比較により、マンニトールを含有する調製物は、他の等張性組成物に比べて最も低い静止摩擦係数を示すことが明らかになった。この最も低い静止摩擦係数は、マンニトール製剤がより高い潤滑特性を有することを示すものである。驚くべきことに、マンニトール製剤を使用した場合に取得される静止摩擦係数は、張性剤なしの低張性リポソーム組成物を用いた場合よりも約30%低いことが分かった。グリセロール製剤も、より良好な潤滑をもたらした(低張性製剤に比べて約20%低い平均静止摩擦係数)。これに対し、イオン性張性をリポソーム組成物に加えても組成物の潤滑能力を強化することはなかった。
【0197】
実施例2:張性剤がリポソーム医薬組成物のサーモトロピック特性に及ぼす効果
本実験は、張性剤の添加がリポソーム組成物のサーモトロピック挙動及び熱力学的パラメーター(SO-LD相転移の範囲(Ton→Toff)、T、T、T1/2、及びHを含む)に影響を及ぼすかどうかを定量するように設計された。Ton及びToffは、加熱走査中にSO-LD相転移が開始及び終了した温度に相当し、T及びTは、前転移中(T)及び主転移中(T)に熱容量の最大変化が生じる温度に相当し、T1/2は、SO-LD相転移中のエンタルピーの変化に相当する吸熱の半分の高さにおける温度(幅)範囲に相当し、Hは、SO-LD相転移中のエンタルピーの合計変化に相当する曲線下面積である。
【0198】
二つのタイプのリポソーム組成物を選択し、各組成物に対し(張性剤としての)マンニトールあり及びなしで試験した。試験対象リポソーム組成物を表5に提示する。

表5:低張性リポソーム組成物及び等張性リポソーム組成物
【表5】
【0199】
DMPC/DPPCリポソーム組成物は、3mlの10mMヒスチジン緩衝液(HB)pH6.5中に分散した183mgのDPPCと136mgのDMPCとを含んだ。C15リポソーム組成物は、212mg(70.6mg/ml)のリン脂質を含んだ。マンニトールを120mg(4%wt.)の量で添加して、等張性組成物を形成した。
【0200】
表6は、異なるリポソーム組成物の物理化学的特性を概括している。

表6:リポソーム組成物の物理化学的特性。
【表6】
【0201】
異なるシステムのサーモトロピック挙動及び熱力学的パラメーター(Ton→Toff、T、T1/2、ΔH)を定量するため、MicroCalTM VP-DSC(GE Healthcare Life Sciences(Uppsala,Sweden))を用いて試料を走査した。Origin(登録商標)7.0ソフトウェアにより熱量測定データの処理を行った。Ton→Toff範囲を定量する方法は、材料及び方法の項で説明されている。
【0202】
表7は、DSC走査から評価した試験対象リポソーム組成物のサーモトロピックキャラクタリゼーションを提示している。

表7:リポソーム組成物のサーモトロピックキャラクタリゼーション。
【表7】
【0203】
表7ならびに図1及び2で概括されている結果は、マンニトールが、DMPC/DPPC 45/55モル比のMLV及び100モル%のC15 MLVのサーモトロピック挙動に対し効果を及ぼさないことを示している。
【0204】
実施例3:リポソームの組合せにおける相転移温度
本試験は、様々なリポソーム組成物のサーモトロピック挙動及び熱力学的パラメーターを評価するように、詳細には、20℃~39℃の範囲内の相転移温度を有するリポソームの組合せを見いだすように構成された。マンニトールの添加は(実施例2で示されたように)リポソームのサーモトロピック挙動に影響を及ぼさないことから、本試験で試験される様々なリポソーム組成物の相転移温度は、対応する等張性組成物の相転移温度に類似するはずである。
【0205】
試験対象リポソーム組成物を表8に提示する。

表8:リポソーム組成
【表8】
【0206】
異なるMLVシステムを、サイズ分布、オスモル濃度、及び合計PC濃度についてキャラクタリゼーションした。結果を表9~12に概括する。

表9:異なるDPPC:DMPC混合物のMLVにおける物理化学的特性
【表9】
表10:DSPC:DMPC混合物のMLVにおける物理化学的特性
【0207】
この表に記載されたオスモル濃度の結果に基づけば、全てのMLVシステムにおけるエタノールレベルは0.1%未満である。リポソーム/水の分配係数に基づけば、そのほとんどが水相にある。

表10:DSPC:DMPC混合物のMLVにおける物理化学的特性
【表10】
【0208】
この表に記載されたオスモル濃度の結果に基づけば、エタノールレベルは0.2%未満である。リポソーム/水の分配係数に基づけば、そのほとんどが水相にある。このMLVは、エタノールの除去中に生じた重大な脂質損失を表す。

表11:異なるC15:DMPC混合物のMLVにおける物理化学的特性
【表11】
【0209】
この表に記載されたオスモル濃度の結果に基づけば、全てのMLVシステムにおけるエタノールレベルは0.1%未満である。リポソーム/水の分配係数に基づけば、そのほとんどが水相にある。

表12:異なるDMPC/D-エリスロC16混合物のMLVにおける物理化学的特性
【表12】
【0210】
この表に記載されたオスモル濃度の結果に基づけば、全てのMLVシステムにおけるエタノールレベルは0.1%未満である。リポソーム/水の分配係数に基づけば、そのほとんどが水相にある。
【0211】
実施例2及び材料及び方法の項で説明されているように、リポソームの組合せにおけるサーモトロピック挙動及び熱力学的パラメーターを評価した。表13は、試験したリポソームの組合せにおけるサーモトロピックキャラクタリゼーション結果を概括し、図3は、DSC走査から評価した異なるリン脂質混合物のMLVにおけるSO-LD相転移温度範囲を示している。

表13:DSC走査から評価した異なる混合物のMLVにおけるサーモトロピックキャラクタリゼーション
【表13】
【0212】
様々なリポソームの組合せ(例えば、DMPC/DPPC(25/75)、DMPC/DPPC(45/55)、DMPC/DSPC(75/25)、DMPC/C15(45/55)、DMPC/C15(25/75)、D-エリスロC16/DMPC(75/25)、D-エリスロC16/DMPC(25/75)、及びD-エリスロC16/DMPC(10/90)を含む)が、所望の20℃~39℃の温度範囲内でリポソーム膜の相転移温度を有することが分かる。
【0213】
実施例4:ピンオンディスク(pin-on-disc)軟骨摩滅試験によるリポソーム組成物の評価
ブタ軟骨ピンを用いてCoCrMoディスクに対し滑らせるピンオンディスク試験により、膝における摩擦学的条件をin vitroでシミュレーションした。ピンオンディスク試験は、Advanced Mechanical Technology Inc.(AMTI)(Watertown,MA 02472-4800,USA)製のOrthoPODマシンで行った。当該マシンをサーモスタットで加熱して37±3℃の液体内部温度を確保した。円筒形の容器に20mLの試験液体を満たした。Mecmesin力ゲージを用いて3、10、30、50、及び100Nにて各個々の保持アームが適用した力を、ディスクの上方で中心に位置するピンでチェックした。
【0214】
軟骨ピンは豚の肩から回収した。メスを用いて関節包を開いて軟骨表面を露出させた。内径5.0mmの中空パンチを使用することにより少なくとも10本の円筒形ピンを収集した。各ピンオンディスク摩滅試験向けに、同じ動物から適切な長さ及び最小の表面傾斜を有する6本のピンを選択した。
【0215】
12時間の摩耗試験後における軟骨下骨の質量損失及び高さ損失を測定することにより、本発明の医薬組成物の潤滑能力を評価した。6本の軟骨ピンを各試験用に使用し、このうち3本のピンは6時間後に除去し、残りの3本のピンはさらに6時間試験した。ピンの重量及び質量の損失を定量することの他に、試験前後における軟骨表面を光学的プロファイラーにより解析した。使用したデバイスはS neox干渉法共焦点顕微鏡(Sensofar,Spain)である。粗さパラメーターを定量するため、型除去後にトポグラフィーから12超のラインプロファイルを抽出した。表面の傾斜を説明するため、南に向いた最も高いレベルでピンが位置決めされるときに、南北方向の5X共焦点測定からプロファイルを抽出した。明快さを高めるため、Kaleidagraph 4.0を用いてこれらのプロファイルを平滑化及びシフトした。
【0216】
摩耗試験でマンニトールを含むリポソームベース組成物(表2の製剤#3)を試験した。この組成物を、臀部シミュレーター試験(ISO 14242-1)で使用される、30g/lのウシ血清タンパク質、EDTA、及びNaNを含有するタンパク質含有液体と比較した。
【0217】
結果
摩耗試験
タンパク質含有液体内のピンオンディスク試験では軟骨の摩耗が明らかになった。ピンの平均質量損失は、試験から6時間後の22mgから12時間後の26mgに増加した。ピンの平均高さ損失の増加はこれよりも著しく、摩耗の6時間後には0.6mm、12時間後には1.1mmと増加した。抽出プロファイル(図4)は、摩耗の6時間後には軟骨表面が平坦化していたことを示している。軟骨材料の一部は脇に移動して外側に隆起を形成したが、これは最初のピンにゆるく付着しているに過ぎないものであった。この付着した隆起を含めて重量が定量されたため、実際の質量損失が過小評価された。12時間の摩耗後、残りの3本のピンは、軟骨が摩耗し軟骨下骨が出現した区域を示した(図4及び図5A、5B)。
【0218】
リポソーム組成物(製剤#3)中の軟骨ピンは、除去後に摩耗の徴候を示した。ピンの平均質量損失は、6時間の摩耗後に14mgであった、追加の6時間の摩耗の間はそのレベルでとどまった。高さ損失は、二つの時点においておよそ0.3~0.4mmであった。6時間の摩耗後、軟骨表面は平坦化しており(図6及び図7A、7B)、軟骨材料は中心の周囲で隆起を形成していた。12時間の摩耗後、残りのピンの軟骨表面は依然無傷であり、軟骨下骨が出現する区域を示さなかった(図8A、8B)。
【0219】
タンパク質液体中の軟骨ピンは12時間の摩耗後に軟骨下骨の出現を示したが、リポソーム組成物中のピンはこれとは異なり、試験全体において軟骨が無傷のままであった。リポソーム組成物中では、6時間から12時間の間で追加の質量損失も高さ損失も観察されなかったことから、摩耗の速度が遅くなるように思われた。
【0220】
摩耗の結果は、図9A(質量損失)及び9B(高さ損失)でさらに説明されている。二つの液体の比較により、リポソーム組成物が軟骨ピンの質量及び高さの損失を小さくすることが示された。
【0221】
粗さ測定
DI 10X対物レンズによる干渉法測定に基づいた一連の抽出プロファイルから粗さパラメーターを定量した。測定は、十分に接触表面内にあるピンの中心部分で行った。図10A及び10Bは、底面の型の除去後の例示的なプロファイルを示している。
【0222】
選択した粗さパラメーターRa、Rk、Rpk、及びRbkが図11に示されている。タンパク質ベース液体における摩耗試験では、摩耗に起因するこれらのパラメーターの有意性の高い増加を観察することができた2(p<0.01)。例えば、平均粗さRaは、摩耗したピンにおいてt=0の0.5±0.2μmから1.6±0.4μmに増加し、カーネル粗さPkは1.4±0.5μmから4.5±1.1μmに増加した。リポソーム組成物中での摩耗試験では、これより小さいものの有意な粗さパラメーターの増加がRpk(p>0.2)以外で観察された。平均粗さRaは、0.4±0.2μmから0.8±0.3μmに増加し、カーネル粗さPkは0.9±0.4μmから2.4±0.8μmに増加した。
【0223】
当業者は、本発明が上記で詳細に示され説明された内容に限定されないことを理解する。むしろ本発明の範囲は、上記で説明されている様々な特徴の組合せ及び部分組合せ、ならびに変形形態及び変更形態を含む。そのため、本発明は、詳細に説明された実施形態に制約されるように構築されるものではなく、本発明の範囲及び概念は、以下の請求項を参照することによってより容易に理解される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11