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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】泥水処理設備および泥水処理方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/13 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
E21D9/13 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018108285
(22)【出願日】2018-06-06
(65)【公開番号】P2019210720
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591022232
【氏名又は名称】株式会社三央
(73)【特許権者】
【識別番号】511123429
【氏名又は名称】テクニカ合同株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】金野 正一
(72)【発明者】
【氏名】豊田 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 祐幸
(72)【発明者】
【氏名】栃木 雅之
(72)【発明者】
【氏名】高矢 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】梅原 歩
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-062970(JP,A)
【文献】特開2012-012771(JP,A)
【文献】特開平11-244611(JP,A)
【文献】特開2016-144783(JP,A)
【文献】特開2014-190022(JP,A)
【文献】特開2007-007535(JP,A)
【文献】特開平05-017761(JP,A)
【文献】特開平08-105290(JP,A)
【文献】特開平06-042294(JP,A)
【文献】特開平05-017762(JP,A)
【文献】特開2001-055565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泥水シールド工法または泥水推進工法に用いる泥水処理設備であって、
掘削用泥水を貯留する調整槽と、
前記調整槽から掘進機に前記掘削用泥水を供給する送泥水管と、
前記掘進機で発生する掘削土を伴う排泥水を該掘進機から回収する排泥水管と、
前記排泥水から土砂を分離する土砂分離機であって、該排泥水が投入される脱水篩と、該脱水篩を通過した篩下泥水を受ける下部水槽と、該下部水槽から該篩下泥水が移送され、アンダーフローを前記脱水篩に戻し、オーバーフローを前記調整槽に戻す湿式サイクロンとを備える土砂分離機とを有し、
前記掘進機の作動中に、前記送泥水管中の前記掘削用泥水に、または前記脱水篩に投入される前の前記排泥水に抑泡剤が添加され
前記下部水槽内の前記篩下泥水の発泡を検知する第1発泡検知手段を前記土砂分離機が備え、該第1発泡検知手段の出力に応じて該下部水槽に消泡剤が供給される、
泥水処理設備。
【請求項2】
前記調整槽、前記送泥水管、前記排泥水管および前記土砂分離機を含む泥水の循環経路中で、該循環経路を流れる泥水に中和剤が供給される、
請求項1に記載の泥水処理設備。
【請求項3】
前記調整槽から余剰泥水が移送され、該余剰泥水が中和される中和槽をさらに有する、
請求項1または2に記載の泥水処理設備。
【請求項4】
前記掘削用泥水の発泡を検知する第2発泡検知手段を前記調整槽が備え、該第2発泡検知手段の出力に応じて該調整槽に消泡剤が供給される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の泥水処理設備。
【請求項5】
前記抑泡剤と前記消泡剤として同じ薬剤が用いられる、
請求項4に記載の泥水処理設備。
【請求項6】
前記調整槽にpHの急激な変化を抑制する安定剤が供給される、
請求項1~5のいずれか一項に記載の泥水処理設備。
【請求項7】
泥水シールド工法または泥水推進工法用の泥水処理方法であって、
掘削用泥水を調整槽から掘進機に供給する工程と、
前記掘進機で発生する掘削土を伴う排泥水を該掘進機から回収する工程と、
脱水篩と湿式サイクロンを用いて前記排泥水から土砂を分離する工程と、
前記湿式サイクロンのオーバーフローを前記調整槽に戻す工程と、
前記掘進機の作動中に、前記排泥水に抑泡剤を添加する工程と、
前記掘進機の作動中に、前記脱水篩を通過した篩下泥水を受ける下部水槽内で該篩下泥水の発泡を検知して、前記下部水槽に消泡剤を供給する工程と、
を有する泥水処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は泥水シールド工法または泥水推進工法に用いられる泥水処理設備および泥水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
泥水シールド工法や泥水推進工法では、加圧した泥水を掘進機(シールド機または推進機)に供給することで切羽の安定を図り、掘削された土砂を泥水とともに流体輸送によって回収する。回収された排泥水は、篩、湿式サイクロン等によって土砂分を分級除去し、比重や粘度を調整して循環利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-063170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地下開発利用が進むにつれて、自然地盤だけでなくより特殊な環境での掘削技術が求められている。しかし、地下に構築されたコンクリート構造物やセメント等を含有する改良地盤を泥水シールド工法や泥水推進工法で掘削する場合は、従来の泥水処理設備で排泥水を処理することが難しかった。構築物等に含まれる物質の影響によって排泥水が処理工程中で発泡しやすく、土砂分離工程等で巻き込んだ空気が泡となって抜けず、泡が大量に発生すると排泥水が槽から溢れたり、ポンプの揚水能力が低下したりするからである。
【0005】
本発明は、上記を考慮してなされたものであり、コンクリート構造物やセメント等を含有する改良地盤を泥水シールド工法や泥水推進工法で掘削する場合にも、排泥水を適切に処理できる泥水処理設備および泥水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の泥水処理設備は、泥水シールド工法または泥水推進工法に用いる泥水処理設備であって、掘削用泥水を貯留する調整槽と、前記調整槽から掘進機に前記掘削用泥水を供給する送泥水管と、前記掘進機で発生する掘削土を伴う排泥水を該掘進機から回収する排泥水管と、前記排泥水から土砂を分離する土砂分離機とを有する。前記土砂分離機は、前記排泥水が投入される脱水篩と、該脱水篩を通過した篩下泥水を受ける下部水槽と、該下部水槽から該篩下泥水が移送され、アンダーフローを前記脱水篩に戻し、オーバーフローを前記調整槽に戻す湿式サイクロンとを備える。そして、前記掘進機の作動中に、前記送泥水管中の前記掘削用泥水に、または前記脱水篩に投入される前の前記排泥水に抑泡剤が添加される。
【0007】
この構成によって、コンクリート構造物やセメント等を含有する改良地盤を泥水シールド工法や泥水推進工法で掘削する場合にも、排泥水の発泡を抑制して、適切に処理を行うことができる。
【0008】
好ましくは、上記泥水処理設備において、前記調整槽、前記送泥水管、前記排泥水管および前記土砂分離機を含む泥水の循環経路中で、該循環経路を流れる泥水に中和剤が供給される。循環経路を流れる泥水、すなわち掘削用泥水、排泥水、篩下泥水および湿式サイクロンオーバーフローのいずれかに中和剤を添加することにより、pHの過度な上昇を抑えることができる。
【0009】
好ましくは、上記泥水処理設備は、前記調整槽から余剰泥水が移送され、該余剰泥水が中和される中和槽をさらに有する。これにより、中和作業の制御が容易となる。
【0010】
好ましくは、前記下部水槽内の前記篩下泥水の発泡を検知する第1発泡検知手段を前記土砂分離機が備え、該第1発泡検知手段の出力に応じて該下部水槽に消泡剤が供給される。また、好ましくは、前記掘削用泥水の発泡を検知する第2発泡検知手段を前記調整槽が備え、該第2発泡検知手段の出力に応じて該調整槽に消泡剤が供給される。このように、排泥水管中での抑泡剤の添加に加えて下部水槽や調整槽での発泡状態を監視しながら消泡剤を添加することで、より確実に発泡を抑えて、安定した泥水処理が可能となる。
【0011】
好ましくは、前記抑泡剤と前記消泡剤が同じ薬剤である。これにより、抑泡剤を貯留する槽と消泡剤を貯留する槽を共用できるので、泥水処理設備が小型化できる。
【0012】
好ましくは、上記泥水処理設備において、前記調整槽にpHの急激な変化を抑制する安定剤が供給される。掘進機に供給される掘削用泥水に安定剤を添加することにより、排泥水に添加する抑泡剤や中和剤の使用量を削減できる。
【0013】
本発明の泥水処理方法は、泥水シールド工法または泥水推進工法用の泥水処理方法であって、掘削用泥水を調整槽から掘進機に供給する工程と、前記掘進機で発生する掘削土を伴う排泥水を該掘進機から回収する工程と、脱水篩と湿式サイクロンを用いて前記排泥水から土砂を分離する工程と、前記湿式サイクロンのオーバーフローを前記調整槽に戻す工程と、前記掘進機の作動中に、前記排泥水に抑泡剤を添加する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の泥水処理設備または泥水処理方法によれば、コンクリート構造物やセメント等を含有する改良地盤を泥水シールド工法や泥水推進工法で掘削する場合にも、排泥水の発泡を抑制して、適切に処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態である泥水処理設備の構成を示す図である。
図2】本発明の第2実施形態である泥水処理設備の構成を示す図である。
図3】本発明の第3実施形態である泥水処理設備の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の泥水処理設備の第1実施形態を図1に基づいて説明する。
【0017】
図1を参照して、本実施形態の泥水処理設備10は、調整槽20、土砂分離機23、貯泥槽30、固液分離機であるフィルタープレス31、ろ液槽32、希釈水槽33、抑泡剤槽34、消泡剤槽35、安定剤槽37、中和剤槽38を有する。各部の間は図1に示すように配管で接続されている。各配管にはポンプと図示しないバルブが設けられており、泥水、各種薬剤等の移送の開始・停止および移送量が制御される。
【0018】
掘削用泥水は調整槽20から送泥水管40を通って掘進機60に供給される。掘削土を含む排泥水は掘進機から排泥水管41を通って回収され、土砂分離機23で土砂が分離されて調整槽に戻り、掘削用泥水として循環利用される。余剰の泥水は調整槽から貯泥槽30を経てフィルタープレス31で固形分が分離されて廃棄される。フィルタープレスのろ液はろ液槽32、希釈水槽33を経て一部は調整槽へ戻され、残りは排水処理設備70に送られる。本実施形態の泥水処理設備10では、設備内の各所において、抑泡剤、消泡剤、安定剤または中和剤が泥水等に添加される。以下に各部を説明する。
【0019】
調整槽20は、比重、粘度等が調整された掘削用泥水を貯留する。調整槽は撹拌手段として槽内に撹拌羽根Bを備える。掘削用泥水の調整方法は後述する。調整槽に貯留された掘削用汚泥は送泥水管40を通って掘進機60に供給される。送泥水管には内部を流れる掘削用泥水の比重を測定する比重計D1と流量を測定する流量計F1が設けられている。掘進機が作動すると、掘削土を含む排泥水が排泥水管41を通って回収され、土砂分離機23に投入される。排泥水管には内部を流れる排泥水の比重を測定する比重計D2と流量を測定する流量計F2が設けられている。
【0020】
土砂分離機23は、掘進機60から戻る排泥水から土砂を分離する。土砂分離機は、供給箱24、脱水篩25、下部水槽27と湿式サイクロン29を備える。
【0021】
排泥水は排泥水管41から一旦供給箱24に投入された後、供給箱下部の開口から流下することにより、脱水篩25に投入される。供給箱は排泥水管が接続され、下部開口が設けられている他は密閉され、好ましくは内部が減圧される。供給箱を用いる理由は、排泥水を排泥水管から直接脱水篩上に吐出すると、網目(スクリーン)を損壊する虞があるので、排泥水の水勢を減殺するためである。また、複数の脱水篩を並置する場合は、供給箱によって排泥水が各脱水篩へ分岐して供給される。
【0022】
脱水篩25に投入された排泥水は、網目と振動により土砂分が除去される。除去された土砂は、コンベア等の図示しない搬送装置によって搬出される。脱水篩を通過した篩下泥水は下部水槽27内に設けられた整流箱28で水勢が減殺されて、下部水槽に流入する。下部水槽内の篩下泥水は、ポンプP3により移送配管42を通って湿式サイクロン29に供給される。移送配管42には流量計F3が設けられている。移送された篩下泥水は湿式サイクロンで分級され、高比重のアンダーフローは脱水篩に戻され、低比重のオーバーフローは調整槽20に戻される。
【0023】
従来の泥水処理設備でセメント分等を含有する排泥水を処理すると、排泥水が脱水篩25で空気中に開放されるのにともなって空気を巻き込んで発泡することがあった。これにより篩下泥水が下部水槽27から溢れ出たり、ポンプP3のケーシング内に気泡が溜まって揚水能力が低下したり、さらには排泥水処理のバランスが崩れて排泥水の受け入れが不能となって掘進停止に至る虞があった。
【0024】
これに対して本実施形態では、抑泡剤槽34からの抑泡剤供給管43が土砂分離機23の手前で排泥水管41に接続されており、掘進機60が作動中に、排泥水に排泥水管中で抑泡剤が添加される。なお、抑泡剤は泥水が発泡する前に添加されればよく、抑泡剤が添加される場所はこれには限られない。例えば、抑泡剤供給管を送泥水管40に接続して、抑泡剤を送泥水管中の掘削用泥水に添加してもよい。あるいは、抑泡剤供給管を供給箱24に接続して、抑泡剤を供給箱中の排泥水に添加してもよい。好ましくは、抑泡剤は、脱水篩25に投入される前の排泥水に、排泥水管中または供給箱中で添加される。掘削用泥水に添加すると、掘進機60からの逸泥とともに抑泡剤が失われるからである。
【0025】
掘進機60が作動中か停止中かは作動検知手段によって検知できる。例えば、掘進機からの状態を知らせる信号を作動検知手段として作動または停止を判断してもよい。また、送泥水管40に設けられた比重計D1と排泥水管41に設けられた比重計D2を作動検知手段として、両者の差が所定の値以上になった場合に掘進機が作動していると判断してもよい。そして、作動検知手段の出力に応じて、掘進機が作動中であると判断された場合に抑泡剤が添加される。
【0026】
抑泡剤の種類は特に限定されず、ポリエーテル系、シリコーン系、鉱物油系、高級アルコール系やこれらの2種以上を混合したものなど、公知のものを用いることができる。抑泡剤の添加量は、排泥水管41に設けられた流量計F2で計測された排泥水量に対して、ポンプP4のモーター回転数などを制御して所定の割合に調整することができる。
【0027】
このように排泥水が脱水篩25に投入される前に予め抑泡剤を添加しておくことで、下部水槽27での篩下泥水発泡を少ない添加量で効率良く抑制することができる。また、整流箱28によって下部水槽に流入する篩下泥水の水勢を減殺することも発泡の抑制に寄与する。
【0028】
掘進機60が停止中は抑泡剤を添加してもよいし、しなくてもよい。掘進機が停止中であっても、流量を安定させるなどの目的で泥水を循環させることがある。掘削用泥水は、調整槽20から送泥水管40を通って送られ、掘進機の手前で図示しないバイパス管を経由して排泥水管41へ移り、排泥水管から土砂分離機23を通って調整槽へと循環する。このように掘進機が停止中でも泥水を循環させている場合は、掘削土を含まない排泥水に排泥水管中で抑泡剤を添加してもよい。掘進機が停止中で、泥水を循環させていない場合は、抑泡剤を添加しないことが好ましい。抑泡剤の使用量を低減するためである。
【0029】
好ましくは、排泥水管41への抑泡剤の添加を補完するものとして、下部水槽27内の篩下泥水の発泡を検知する第1発泡検知手段を土砂分離機23が備え、第1発泡検知手段の出力に応じて消泡剤槽35から第1消泡剤供給管44を通って下部水槽に消泡剤が供給される。
【0030】
第1発泡検知手段としては、下部水槽27に液面計S1等のセンサを設けてもよい。例えば、静電容量式の液面計を用いて掘削用泥水の液面の高さと泡の上面の高さを同時に計測することで、あるいは電波式の液面計を用いることで、発泡の有無を検知できる。また、下部水槽内の篩下泥水を監視カメラで撮影し、画像処理によって発泡の有無を検知してもよい。あるいは、下部水槽から湿式サイクロン29へ篩下泥水を移送する移送配管42に、篩下泥水の移送量を監視する第1発泡検知手段を設けてもよい。例えば、ポンプP3の電流値の低下、流量計F3を通過する篩下泥水の流量の低下、湿式サイクロンへの篩下泥水の流入圧の低下によって、下部水槽内の篩下泥水の発泡を間接的に検知できる。そして、第1発泡検知手段の出力に応じて、下部水槽内の篩下泥水が発泡していると判断された場合に、篩下泥水に消泡剤が添加される。好ましくは、消泡剤は下部水槽内の発泡した篩下泥水の表面に散布される。
【0031】
消泡剤の種類は特に限定されず、ポリエーテル系、シリコーン系、鉱物油系、高級アルコール系やこれらの2種以上を混合したものなど、公知のものを用いることができる。
【0032】
このように下部水槽27での実際の発泡を検知して、下部水槽内の篩下泥水に消泡剤を添加して破泡することで、何らかの要因の変動によって篩下泥水が一時的に発泡したときにも確実に発泡を抑制できる。
【0033】
調整槽20には、土砂分離機23の湿式サイクロン29のオーバーフローが流入する。調整槽内の泥水は、必要に応じて加水または加泥されて比重、粘度等が調整され、掘削用泥水として再利用が可能な品質となる。加水する場合は、清水を希釈水槽33、あるいは図示しない清水源から補給する。加泥する場合は、図示しない作泥槽で泥水を調製して補給する。作泥は、ベントナイト、その他の粘土、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を混練して行われる。
【0034】
好ましくは、排泥水管41への抑泡剤の添加を補完するものとして、調整槽20内の掘削用泥水の発泡を検知する第2発泡検知手段を調整槽が備え、第2発泡検知手段の出力に応じて消泡剤槽35から第2消泡剤供給管45を通って調整槽に消泡剤が供給される。
【0035】
第2発泡検知手段としては、静電容量式や電波式の液面計S2を用いることができる。また、調整槽20内の掘削用泥水を監視カメラで撮影し、画像処理によって発泡の有無を検知してもよい。そして、第2発泡検知手段の出力に応じて、調整槽内の掘削用泥水が発泡していると判断された場合に、掘削用泥水に消泡剤が添加される。
【0036】
このように調整槽20での実際の発泡を検知して消泡剤を添加することで、より確実に掘削用泥水から泡を排除できる。
【0037】
調整槽20には安定剤槽37から延伸する安定剤供給管46が接続されており、掘削用泥水に安定剤が添加される。
【0038】
安定剤の1つの作用は、泥水のpHの急激な変化を抑える緩衝作用である。これにより、後述する中和剤の使用量を節減できる。また、本発明者らの実験によれば泥水のpHが12以上になると発泡しやすくなることが分かっており、安定剤を添加してpHの急激な上昇を抑えることにより排泥水の発泡を抑制できる。
【0039】
安定剤の他の作用は、泥水のゲル化を抑える分散作用である。ベントナイトを含む掘削用泥水は、カルシウムイオンの存在によりゲル化し、粘度が上昇して、発泡しやすくなることがある。安定剤はカルシウムイオンを不活性化することにより、結果として排泥水の発泡を抑制する。
【0040】
安定剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどを用いることができ、好ましくは炭酸水素ナトリウムを用いる。排泥水のpHの急激な上昇を抑える効果があり、セメント等に由来する水酸化カルシウムと反応して炭酸カルシウムを析出させることで、カルシウムイオンを固定して不活性化するからである。
【0041】
安定剤の添加量は、掘削量に所定の割合を乗じて定めることができる。掘削量は例えば、送泥水管40に設けられた比重計D1と流量計F1、および排泥水管に設けられた比重計D2と流量計F2の測定値に基づいて求めることができる。
【0042】
また、本実施形態の調整槽20は、下部から掘削用汚泥を吸引して上部に戻す循環配管47を備えており、循環配管47には中和剤槽38から延伸する第1中和剤供給管48が接続されている。循環配管47にはpHセンサS3が設けられ、pHが所定の値を超えるときは、第1中和剤供給管を通って中和剤が供給される。例えば掘削用泥水のpHが12を超えるときに中和剤が添加される。中和剤としては、希硫酸を好適に用いることができる。このように配管中で添加することによって、中和剤を泥水とよく混合させることができる。
【0043】
中和剤は、調整槽20、送泥水管40、排泥水管41および土砂分離機23を含む泥水の循環経路中で、掘削用泥水、排泥水、篩下泥水または湿式サイクロン29のオーバーフローに添加される。図1では調整槽が備える循環配管47で中和剤が添加されたが、これには限られず、中和剤は循環経路中の他の場所で添加されてもよい。
【0044】
調整槽20で余剰となった泥水は余剰泥水として貯泥槽30に移送される。図1では配管を図示しないが、貯泥槽に中和剤を供給して、余剰泥水を中和してもよい。貯泥槽において、余剰泥水に凝集剤が添加される。貯泥槽は撹拌手段として槽内に撹拌羽根Bを備える。凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等の公知の凝集剤を用いることができる。
【0045】
貯泥槽30内の余剰泥水量がフィルタープレス31で処理できる量に達すると、余剰泥水は貯泥槽からフィルタープレスに移送される。移送された余剰泥水はフィルタープレスで固液分離される。分離された固体分は脱水汚泥として処分または再生利用される。分離されたろ過液はろ液槽32に貯留され、必要に応じて中和剤が添加されて、希釈水槽33へ移送される。ろ液槽は撹拌手段として槽内に撹拌羽根Bを備える。
【0046】
希釈水槽33へ移送されたろ過液は、必要に応じて中和剤が添加されてpHが調整され、一部は調整槽20への加水に用いられ、他はさらに排水処理設備70を経て放流される。希釈水槽は撹拌手段として槽内に撹拌羽根Bを備える。
【0047】
次に、本発明の泥水処理設備の第2実施形態を図2に基づいて説明する。本実施形態の泥水処理設備は中和槽を備える点で第1実施形態と異なる。
【0048】
図2を参照して、本実施形態の泥水処理設備11は、調整槽21と貯泥槽30との間に中和槽22を有する。
【0049】
調整槽21で余剰となった泥水は余剰泥水として中和槽22に移送される。調整槽から中和槽への移送配管49にはpHセンサS4が設けられ、中和剤槽38から延伸する第2中和剤供給管50が接続されている。中和槽に移送される余剰泥水のpHが所定の値を超えるときは、第2中和剤供給管を通して余剰泥水に中和剤が添加される。中和槽は撹拌手段として槽内に撹拌羽根Bを備える。また、中和槽は、下部から余剰汚泥を吸引して上部に戻す循環配管51を備えており、循環配管51には中和剤槽から延伸する第3中和剤供給管52が接続されている。中和槽にはpHセンサS5が設けられ、中和槽内の余剰泥水のpHが所定の値を超えるときは、循環配管51中で中和剤が添加される。
【0050】
なお、本実施形態では、調整槽21、送泥水管40、排泥水管41および土砂分離機23を含む循環経路中で泥水に中和剤を添加する手段が設けられていない。しかし、中和槽22から調整槽21への移送配管53が設けられており、必要に応じて、中和された余剰泥水を中和槽から調整槽に戻すことにより、加泥のための作泥量を節減しながら、掘削用泥水のpHを下げて泥水の劣化を抑えることができる。
【0051】
中和槽22を調整槽21と別に設ける利点は次のとおりである。調整槽は、湿式サイクロン29からのオーバーフローを絶えず受け入れ、掘削用泥水を均質に迅速に調整して、掘進機60へ送泥するという複数の機能を有している。このような状況でさらに調整槽において泥水を中和する場合、その中和作業の制御が難しかった。調整槽と別に中和槽を設けて中和作業を行うことで、中和作業の制御が容易になる。
【0052】
また、中和槽22と貯泥槽30を分けることの利点は次のとおりである。後続するフィルタープレス31がバッチ処理であるため、貯泥槽内の泥水量は変動が大きく中和作業の制御が難しい。本実施形態では泥水量の変動の小さい中和槽で中和処理を行うので、中和作業の制御が容易である。また、凝集剤が貯泥槽で添加されるので、中和槽内の余剰泥水には凝集剤が含まれず、調整槽21に戻して再利用することができる。
【0053】
次に、本発明の泥水処理設備の第3実施形態を図3に基づいて説明する。本実施形態の泥水処理設備は、抑泡剤および消泡剤として同じ薬剤を用いる点で第2実施形態と異なる。
【0054】
泥水の発泡を抑制するための薬剤には、泡の発生自体を抑制する抑泡作用や成長した泡の破裂を促進する破泡作用が求められる。第1および第2実施形態において、抑泡剤は未だ発泡していない排泥水に添加されて、排泥水が空気中に開放されたときの泡の発生を抑制するので、抑泡剤には抑泡作用が求められる。消泡剤はすでに発泡している下部水槽27内の篩下泥水や調整槽20、21内の掘削用泥水に添加されて泡を消すので、消泡剤には破泡作用が求められる。このように抑泡剤と消泡剤とは機能として異なるものであるが、薬剤によっては両方の作用を奏するものがあるし、それぞれの作用を奏する薬剤を混合することによって両方の作用を奏する薬剤を調製することもできる。本実施形態では、この両方の作用を奏する薬剤(以下「抑泡・消泡剤」という)を抑泡剤および消泡剤として用いる。抑泡・消泡剤は抑泡剤であり、かつ消泡剤である。
【0055】
図3を参照して、本実施形態の泥水処理設備12は抑泡・消泡剤槽36を備える。抑泡・消泡剤槽は抑泡剤槽であると同時に消泡剤槽でもある。抑泡剤供給管43は抑泡・消泡剤槽36と排泥水管41を接続し、排泥水管に抑泡・消泡剤を供給する。第1消泡剤供給管44は抑泡・消泡剤槽から下部水槽27へと延伸して、下部水槽に抑泡・消泡剤を供給する。第2消泡剤供給管45は抑泡・消泡剤槽から調整槽21へと延伸して、調整槽に抑泡・消泡剤を供給する。
【0056】
本実施形態では、抑泡剤を貯留する槽と消泡剤を貯留する槽を共用できるので、泥水処理設備12が小型化できる。
【0057】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では調整槽が1基であったが、特許文献1に開示されているように複数の調整槽を並置して、切り替えながら使用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10~12 泥水処理設備
20、21 調整槽
22 中和槽
23 土砂分離機
24 供給箱
25 脱水篩
27 下部水槽
28 整流箱
29 湿式サイクロン
30 貯泥槽
31 フィルタープレス、固液分離機
32 ろ液槽
33 希釈水槽
34 抑泡剤槽
35 消泡剤槽
36 抑泡・消泡剤槽
37 安定剤槽
38 中和剤槽
40 送泥水管
41 排泥水管
42、49、53 移送配管
43 抑泡剤供給管
44 第1消泡剤供給管
45 第2消泡剤供給管
46 安定剤供給管
47、51 循環配管
48 第1中和剤供給管
50 第2中和剤供給管
52 第3中和剤供給管
60 掘進機
70 排水処理設備
B 撹拌羽根
D1、D2 比重計
F1~F3 流量計
P、P3、P4 ポンプ
S1 液面計(第1発泡検知手段)
S2 液面計(第2発泡検知手段)
S3、S4、S5 pHセンサ
図1
図2
図3