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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/716 20060101AFI20220601BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220601BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220601BHJP
   A61L 15/46 20060101ALI20220601BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20220601BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20220601BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
A61K31/716
A61P31/04
A61P17/02
A61L15/46
A01N43/16 A
A01N61/00 D
A01P3/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018134357
(22)【出願日】2018-07-17
(65)【公開番号】P2019019127
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2017139165
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(73)【特許権者】
【識別番号】515161102
【氏名又は名称】株式会社アルチザンラボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大中 信輝
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 圭
(72)【発明者】
【氏名】坪内 源
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 潤
(72)【発明者】
【氏名】赤司 昭
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和彦
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-167102(JP,A)
【文献】特開2014-231479(JP,A)
【文献】特開2012-205656(JP,A)
【文献】Carbohydrate Polymers,2015年,122,pp.84-92
【文献】マテリアルライフ学会誌,2011年,23(1),第21~32頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C08B
A61L
A01N
A01P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラミロン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つの6位ヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるパラミロン誘導体を含有する、抗菌剤。
【請求項2】
前記R1及びR2が水素原子である、請求項に記載の抗菌剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗菌剤を含む、創傷治療剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の抗菌剤を含む、抗菌材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌感染症は生物にとって重大な死亡要因である。このため、抗菌剤は、医療分野等の非常に多様な分野において用いられている。新たな抗菌剤の開発が常に求められている。また、環境において細菌の増殖を抑制し、感染症の蔓延を防止することもこれまで以上に重要な役割となる。抗菌物質使用の別の例として、多くの人が接触し得る(例えば公共施設や病院における)部材や器具は、それを通じた細菌感染症の感染及び拡大を防ぐべく、抗菌化されていることが望ましい。
【0003】
創傷は、細菌に対するバリア機能を果たす皮膚が欠損しているが故に細菌感染が起こり易い状態である。また一部の細菌感染により創傷感染を来すと重篤化することもあり、創傷治癒が遅延することがあることから、創傷治療においては、基本的に湿潤治療を行った上に創傷治癒作用を有する成分と共に、抗菌作用を有する成分が用いられることがある。
【0004】
一方、パラミロンやカードランは、ミドリムシやある種の細菌が産生するβ1,3-グルカンであり、種々の機能を有することが知られている。例えば、パラミロンについては、創傷治癒促進作用を有することが報告されている(特許文献1)。しかしながら、パラミロンやその誘導体が抗菌作用を有することについては、いまだ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-231479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新たな有効成分の抗菌剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体が、抗菌活性を有することを見出した。本発明者らはこのような知見に基づき、さらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体を含有する、抗菌剤.
項2. 前記ヒドロキシ基が6位ヒドロキシ基である、項1に記載の抗菌剤.
項3. 前記R1及びR2が水素原子である、項1又は2に記載の抗菌剤.
項4. 前記β1,3-グルカン誘導体がパラミロン誘導体又はカードラン誘導体である、項1~3のいずれかに記載の抗菌剤.
項5. 前記β1,3-グルカン誘導体が直鎖状であり、且つ糖残基間の結合が全てβ1,3-グルコシド結合である、項1~4のいずれかに記載の抗菌剤.
項6. 項1~5のいずれかに記載の抗菌剤を含む、創傷治療剤.
項7. 項1~5のいずれかに記載の抗菌剤を含む、抗菌材料.
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新たな有効成分の抗菌剤を提供することができる。本発明の抗菌剤によれば、多様な種類の細菌に対して、強い抗菌作用(特に殺菌作用)を発揮することができる。また、本発明によれば、本発明の抗菌剤を用いた創傷治療剤や抗菌材料等も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】合成例1-2で得られた化合物のIRデータを示す。
図2】合成例1-2で得られた化合物のカーボンNMRデータを示す。
図3】合成例1-3で得られた化合物のIRデータを示す。
図4】合成例1-3で得られた化合物のカーボンNMRデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「含有」とは、comprise、consist essentially of及びconsist ofのいずれも包含する概念である。また、本明細書中において、「抗菌」とは、「殺菌」、及び「静菌」のいずれも包含する概念である。
【0012】
本発明は、その一態様において、β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体(本明細書において、「本発明のβ1,3-グルカン誘導体」と示すこともある)を含有する、抗菌剤(本明細書において、「本発明の抗菌剤」と示すこともある)に関する。以下に、これについて説明する。
【0013】
1.β1,3-グルカン誘導体
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体である。
【0014】
「β1,3-グルカン」は、グルコースがβ1,3結合のみで連結してなる1本の糖鎖(又は糖鎖構造)を主鎖として有するものであれば特に制限されない。β1,3-グルカンは、化学合成により得られたものであってもよいが、入手容易性等の観点から、各種生物が産生する天然β1,3-グルカンが好ましい。天然β1,3-グルカンとしては、例えばパラミロン、カードラン、ラミナラン、カロース、レンチナン、シゾフィラン等が挙げられる。
【0015】
「グルコース残基」は、β1,3-グルカンを構成するグルコースの残基である限り特に制限されず、例えばグルコースがβ1,3結合のみで連結してなる1本の直鎖状の糖鎖におけるグルコース残基とは、式(a)~(c):
【0016】
【化1】
【0017】
で表される一価又は二価の基である。
【0018】
「少なくとも一部のグルコース残基」とは、β1,3-グルカンを構成するグルコース残基の一部又は全部を意味する。
【0019】
「グルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基」は、グルコース残基の構造内に(通常は複数個)存在するヒドロキシ基の内の、少なくとも1つのヒドロキシ基である限り特に制限されない。例えば式(a)において、グルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基とは、*1で示されるヒドロキシ基、*2で示されるヒドロキシ基、及び*3で示されるヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種を意味する。該ヒドロキシ基は、抗菌活性をより確実に(例えばより低濃度で、より多様な細菌に対して等)発揮できるという観点から、6位のヒドロキシ基(式(a)の場合であれば、*1で示されるヒドロキシ基)を含むことが好ましく、6位のヒドロキシ基のみ(すなわち、6位のヒドロキシ基以外のヒドロキシ基は含まない)であることが好ましい。
【0020】
R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。「各出現においてそれぞれ独立して」とは、R1及びR2がそれぞれ独立して(同一又は異なって)という意味と、-NR1R2が複数存在する場合に、各々のR1及び各々のR2が独立して(同一又は異なって)という意味の両方を包含する。該用語の意味については、後述においても同様である。
【0021】
R1及びR2で示される「炭素原子数1~6のアルキル基」には、直鎖状又は分枝鎖状のいずれのものも包含される。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。
【0022】
抗菌活性をより確実に(例えばより低濃度で、より多様な細菌に対して等)発揮できるという観点から、好ましくはR1及びR2の少なくとも一方(R1又はR2、或いはR1及びR2)が水素原子であり、より好ましくはR1及びR2の両方が水素原子である。
【0023】
「グルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなる」とは、換言すれば、グルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基の代わりに-NR1R2が存在してなることである。例えば、式(a)において、グルコース残基の6位のヒドロキシ基のみが-NR1R2に置き換えられている場合であれば、そのグルコース残基は式(a’):
【0024】
【化2】
【0025】
で表すことができる。
【0026】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、グルコース及び/又は少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるグルコース誘導体がβ1,3結合のみで連結してなる1本の糖鎖(又は糖鎖構造)を主鎖として有する限りにおいて特に制限されず、直鎖状のものに限らず、分枝鎖を有するものも包含する。
【0027】
直鎖状の場合、糖残基間の結合が全てβ1,3-グルコシド結合である場合(すなわち、本発明のβ1,3-グルカン誘導体が、グルコース及び/又は少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるグルコース誘導体がβ1,3結合のみで連結した1本の糖鎖のみからなる場合)と、該糖鎖の末端と他の結合様式(例えば、β1,4結合)の糖鎖の末端とが連結した場合が包含される。
【0028】
分枝鎖としては、特に制限されず、例えば主鎖上のグルコース残基又は少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるグルコース誘導体残基の6位のヒドロキシ基と他の糖のヒドロキシ基とがグリコシド結合して、そこから伸びていく分枝鎖が挙げられる。
【0029】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、抗菌活性をより確実に(例えばより低濃度で、より多様な細菌に対して等)発揮できるという観点から、好ましくは直鎖状であり、より好ましくは直鎖状であり且つ糖残基間の結合が全てβ1,3-グルコシド結合である。
【0030】
また、同様の観点から、本発明のβ1,3-グルカン誘導体において、主鎖(グルコース及び/又は少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるグルコース誘導体がβ1,3結合のみで連結してなる1本の糖鎖(又は糖鎖構造))を構成する糖残基の数は、本発明のβ1,3-グルカン誘導体全体を構成する糖残基の総数100%に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0031】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体の重量平均分子量は、特に限定されないが、抗菌活性をより確実に(例えばより低濃度で、より多様な細菌に対して等)発揮できるという観点から、例えば1×104~2×106、好ましくは5×104~1×106、より好ましくは1×105~1×106である。
【0032】
なお、重量平均分子量は、GPC法により、測定することができる
抗菌活性をより確実に(例えばより低濃度で、より多様な細菌に対して等)発揮できるという観点から、本発明のβ1,3-グルカン誘導体において、-NR1R2を有するグルコース誘導体残基の数は、本発明のβ1,3-グルカン誘導体全体を構成する糖残基の総数100%に対して、例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは40%以上、よりさらに好ましくは60%以上、よりさらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、である。
【0033】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体においては、構成糖残基のヒドロキシ基の一部が、-NR1R2以外の他の基で置き換えられていてもよい。
【0034】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体の好ましい一態様としては、例えば一般式(1):
【0035】
【化3】
【0036】
[式中、R3及びR4は、各出現においてそれぞれ独立して、ヒドロキシ基又は-NR1R2(R1及びR2は前記に同じ)を示す(但し、全てのR3及び全てのR4が同時にヒドロキシ基である場合を除く)。nは25~25000の整数を示す。]
で表される構造を主鎖として有するβ1,3-グルカン誘導体が挙げられ、好ましくは一般式(2):
【0037】
【化4】
【0038】
[式中、R3、R4、及びnは、前記に同じである。]
で表されるβ1,3-グルカン誘導体が挙げられる。
【0039】
nは、抗菌活性をより確実に(例えばより低濃度で、より多様な細菌に対して等)発揮できるという観点から、好ましくは50~5000、より好ましくは100~2000、さらに好ましくは200~1000である。
【0040】
R4は、抗菌活性をより確実に(例えばより低濃度で、より多様な細菌に対して等)発揮できるという観点から、好ましくはヒドロキシ基である。
【0041】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、塩の形態も包含する。塩は、薬学的に許容される塩である限り、特に制限されるものではない。該塩としては、特に制限されないが、例えば-NR1R2との酸性塩が挙げられる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0042】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、溶媒和物の形態も包含する。溶媒としては、例えば、水や、薬学的に許容される有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0043】
2.β1,3-グルカン誘導体の製造方法
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、様々な方法で合成することができる。例えば、Carbohydrate Polymer 122 (2015) 84-92.や特開2012-180328号公報等の公知文献に記載の方法に準じて合成することができる。一例として、少なくとも一部のグルコース残基の6位のヒドロキシ基がアミノ基に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体については、β1,3-グルカンを出発材料として、例えば以下の反応式:
【0044】
【化5】
【0045】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。部分構造Aは出発材料であるβ1,3-グルカン中のグルコース残基を示す。部分構造B~Dはβ1,3-グルカン誘導体中のグルコース誘導体残基を示す。]
に従って合成することができる。また、その他の構造を有する本発明のβ1,3-グルカン誘導体についても、上記式に準じた方法、上記式に公知の反応を組み合わせた方法等によって合成することができる。
【0046】
(2-1)出発材料(部分構造Aを有するβ1,3-グルカン)→部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体
本工程では、出発材料(部分構造Aを有するβ1,3-グルカン)とハロゲン化剤とを反応させることで、部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体を得ることができる。
【0047】
ハロゲン化剤は、β1,3-グルカンの6位のヒドロキシ基をハロゲン基に置き換えることができる限りにおいて特に制限されない。ハロゲン化剤としては、例えばトリフェニルホスフィンとN-ハロスクシンイミドとの組合せ、トリフェニルホスフィンと四ハロゲン化炭素との組合せ等が挙げられる。ハロゲン化剤は、収率、合成の容易さ等の観点から、トリフェニルホスフィンとN-ハロスクシンイミドとの組合せが好ましい。
【0048】
ハロゲン化剤の使用量は、ハロゲン化剤の種類に応じて異なるが、収率、合成の容易さ等の観点から、通常、出発材料1 gに対して、ハロゲン化剤の総量2~20 gが好ましく、5~15 gがより好ましい。
【0049】
本工程は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒の1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、収率、合成の容易さ等の観点から、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0050】
本工程においては、N,N-ジメチルアセトアミドを使用する場合、さらにハロゲン化リチウムが添加される。また、他の溶媒を使用する場合も、必要に応じて、ハロゲン化リチウムが添加される。
【0051】
本工程においては上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0052】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、加熱下及び常温下のいずれでも行うことができ、通常、20~150℃(特に50~100℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、10分間~8時間、好ましくは1時間~6時間とすることができる。
【0053】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることもできる。また、精製処理を施さずに次の工程を行うこともできる。
【0054】
(2-2)部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体→部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体
本工程では、部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体とアジド化剤とを反応させることで、部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体を得ることができる。
【0055】
アジド化剤は、部分構造Bのハロゲン原子をアジド基に置き換えることができる限りにおいて特に制限されない。アジド化剤としては、例えばアジ化ナトリウム、アジ化リチウム等が挙げられる。アジド化剤は、収率、合成の容易さ等の観点から、アジ化ナトリウムが好ましい。
【0056】
アジド化剤の使用量は、アジド化剤の種類に応じて異なるが、収率、合成の容易さ等の観点から、通常、部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体1 gに対して、0.5~3 gが好ましく、1~2 gがより好ましい。
【0057】
本工程は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒の1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、収率、合成の容易さ等の観点から、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0058】
本工程においては、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0059】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、加熱下及び常温下のいずれでも行うことができ、通常、20~150℃(特に50~100℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、8時間~48時間、好ましくは16時間~32時間とすることができる。
【0060】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることもできる。また、精製処理を施さずに次の工程を行うこともできる。
【0061】
(2-3)部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体→部分構造Dを有するβ1,3-グルカン誘導体
本工程では、部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体と還元剤とを反応させることで、部分構造Dを有するβ1,3-グルカン誘導体を得ることができる。
【0062】
還元剤は、部分構造Cのアジド基をアミノ基に還元できる限りにおいて特に制限されない。還元剤としては、例えば水素ガス、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化シアノホウ素ナトリウム(NaBH3CN)等が挙げられる。還元剤は、収率、合成の容易さ等の観点から、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)が好ましい。
【0063】
還元剤の使用量は、還元剤の種類に応じて異なるが、収率、合成の容易さ等の観点から、通常、部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体1 gに対して、2~8 gが好ましく、3~5 gがより好ましい。
【0064】
本工程は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒の1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、収率、合成の容易さ等の観点から、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0065】
本工程においては、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0066】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、通常、0~150℃(特に70~120℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、8時間~48時間、好ましくは16時間~32時間とすることができる。
【0067】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることもできる。また、精製処理を施さずに次の工程を行うこともできる。
【0068】
3.用途
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、抗菌作用を発揮することができる。したがって、本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、抗菌剤の有効成分として、好適に用いることができる。さらに、本発明の抗菌剤は、各種組成物(外用医薬組成物、化粧料組成物、医療用洗浄用組成物、体内および血管内に留置する医療用機器用組成物、皮膚消毒用組成物、食器用殺菌洗浄用組成物、口腔消毒用組成物、表面抗菌用組成物等)に配合して使用してもよい。好適には、本発明の抗菌剤は、創傷治療剤や医療用をはじめ抗菌材料を構成する一成分として利用することもできる。
【0069】
本発明の抗菌剤は、適用対象菌の種類を問わず、グラム陽性菌用又はグラム陰性菌用として用いることができる。適用対象のグラム陽性菌としては、例えば、ブドウ球菌属菌(例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、腸球菌(例えばエンテロコッカス属菌)、レンサ球菌属菌(例えば双球菌、4連、8連球菌等、肺炎球菌、溶血連鎖球菌)、バシラス属菌(例えば炭疽菌、枯草菌)、クロストリジウム属菌(例えば破傷風菌、ボツリヌス菌)、コリネバクテリウム属菌(例えばジフテリア菌)、リステリア属菌、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、プロピオニバクテリウム属菌(例えばニキビの原因となるアクネ菌)、及び放線菌が挙げられる。適用対象のグラム陰性菌としては、例えば、エシェリヒア属菌(例えば大腸菌)、サルモネラ属菌、シュードモナス属菌(例えば緑膿菌)、ヘリコバクター属菌、インフルエンザ菌、ナイセリア属菌(例えば淋菌、髄膜炎菌)が挙げられる。これらの中でも、本発明の抗菌剤は、好ましくはブドウ球菌属菌、シュードモナス属菌、エシェリヒア属菌等に対して用いることができる。
【0070】
本発明の抗菌剤は、本発明のβ1,3-グルカン誘導体を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0071】
本発明の抗菌剤の使用態様は、特に制限されず、その種類に応じて適切な使用態様を採ることができる。本発明の剤は、例えば動物に適用することにより使用することもできるし、生体以外(細胞、部材、器具等)に適用することにより使用することもできる。
【0072】
本発明の抗菌剤を動物に適用する場合、その適用対象動物は特に限定されず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類動物等が挙げられる。
【0073】
本発明の抗菌剤の剤形は特に制限されず、その使用態様に応じて適切な剤形を採ることができる。例えば、塗布剤、貼付剤、エアゾール剤、点鼻剤、吸入剤、肛門坐剤、挿入剤、浣腸剤、ゼリー剤等の外用剤等が挙げられる。また、本発明の剤は、固形剤、半固形剤、液剤のいずれでもよい。
【0074】
本発明の抗菌剤中の本発明のβ1,3-グルカン誘導体の含有量は、使用態様、適用対象、適用対象の状態等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~95重量%、好ましくは0.001~50重量%とすることができる。
【0075】
本発明の抗菌剤を動物に適用する場合の適用量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分である本発明のβ1,3-グルカン誘導体の重量として、1日あたり0.01~100 mg/適用対象部である。上記適用量は1日1回又は2~3回に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0076】
本発明の抗菌剤を創傷治療剤に利用する場合、創傷治療剤は、本発明の抗菌剤を含む限りにおいて特に制限されない。典型的には、本発明の抗菌剤に加えて、創傷治療作用を有する成分を含有する。創傷治療剤の剤形は、特に制限されるものではないが、例えば塗布剤、貼付剤、エアゾール剤、点鼻剤、吸入剤、肛門坐剤、挿入剤、浣腸剤、ゼリー剤等の外用剤等が挙げられる。また、創傷治療剤は、創傷保護するシート(又はフィルム)状の基材に本発明の抗菌剤が保持された形態のものであってもよい。
【0077】
本発明の抗菌剤を抗菌材料に利用する場合、抗菌材料は、本発明の抗菌剤を含む限りにおいて特に制限されない。抗菌材料の形態は、本発明の抗菌剤がその抗菌作用を発揮できる形態である限り特に制限されず、例えば本発明の抗菌剤と樹脂等の材料とを混合後に成形して得られたもの、本発明の抗菌剤を樹脂、金属、ガラス等の材質の表面上にコーティングして得られたものが挙げられる。
【実施例
【0078】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0079】
合成例1:6-アミノ-6-デオキシパラミロンの合成1
Carbohydrate Polymer 122 (2015) 84-92.に記載の方法に準じて、パラミロンから、中間体(6-ブロモ-6-デオキシパラミロン及び6-アジド-6-デオキシパラミロン)を経て、一部のグルコース残基のヒドロキシ基が-NH2に置き換えられてなるパラミロン誘導体(6-アミノ-6-デオキシパラミロン)を合成した。具体的には以下のようにして合成した。
【0080】
合成例1-1:6-ブロモ-6-デオキシパラミロン
アルゴン雰囲気化、重量平均分子量が約20万のパラミロン(20.00 g)、ジメチルアセトアミド(1000 ml)、及び臭化リチウム(63.91 g)を加え、撹拌した。攪拌しながら100℃に昇温して、さらに4時間攪拌した。攪拌後、各成分が溶解していることを確認してから、放冷した。反応混合物へ、トリフェニルホスフィン(129.80 g)及びN-ブロモスクシンイミド(87.90 g)を含むジメチルアセトアミド(250 ml)溶液を、ゆっくり滴下した。反応混合物を70℃に昇温して、1時間撹拌した。攪拌後に放冷してから、反応混合物を、水とメタノールの混合溶媒(5.0 L、w/w = 1/1)にゆっくり滴下した。静置後、孔径3.0μmのフィルターでろ過し、固形分を回収した。固形分をジメチルスルホキシド(200ml)に溶解させ、得られた溶液をエタノール(1000 ml)に滴下した。遠心分離(9000 rpm×10min)で固形物を回収した。このジメチルスルホキシドとエタノールによる再沈殿操作を再度行った。減圧乾燥(40℃)して、目的物(一部のグルコース残基のヒドロキシ基が-Brに置き換えられてなるパラミロン誘導体(6-ブロモ-6-デオキシパラミロン))(58.34 g)を得た。
【0081】
合成例1-2:6-アジド-6-デオキシパラミロン
アルゴン雰囲気化、合成例1-1で得られた6-ブロモ-6-デオキシパラミロン(57.00 g)とジメチルスルホキシド(1000 ml)を2 Lナスフラスコに入れ、撹拌した。溶解を確認し、反応混合物にアジ化ナトリウム(82.08 g)とジメチルスルホキシド(425 ml)を加えた。反応混合物を80℃に昇温して、24時間撹拌した。攪拌後に放冷してから、反応混合物をイオン交換水(17 L)にゆっくり滴下した。静置後に孔径3.0μmのフィルターでろ過し、固形分を回収した。固形分をアセトン(200 ml)に溶解させ、得られた溶液を水(700 ml)に滴下した。遠心分離(9000 rpm×10min)で固形物を回収した。このアセトンと水による再沈殿操作を再度行った。減圧乾燥(40℃)して、目的物(一部のグルコース残基のヒドロキシ基が-N3に置き換えられてなるパラミロン誘導体(6-アジド-6-デオキシパラミロン))(17.30 g)を得た。得られた化合物については、IR及びカーボンNMRにより確認した結果、IRよりアジドの特徴的なピークが2110cm-1に確認でき(図1)、またカーボンNMRより6位のカーボンに化学シフト(51 ppm付近)が確認できた(図2)。これらは、既報(Carbohydrate Polymer 122 (2015) 84-92.)の値と一致しており、確かに目的物が得られていることが確認できた。
【0082】
合成例1-3:6-アミノ-6-デオキシパラミロン
アルゴン雰囲気化、合成例1-2で得られた6-アジド-6-デオキシパラミロン(17.00 g)とジメチルスルホキシド(1700 ml)を2 Lナスフラスコに入れ、撹拌した。溶解を確認し、反応混合物に水素化ホウ素ナトリウム(68.85 g)を加えた。反応混合物を100℃に昇温し、24時間撹拌した。室温まで放冷後、氷浴中で、反応混合物に、1N HClをガスが発生しなくなるまで加えた(約2L)。反応混合物のpHを、飽和した炭酸水素ナトリウム水溶液でpH 7に調整した。反応混合物を、イオン交換水を用いて3日間透析した(透析膜:MWCO=3.5 kD、溶媒交換2回/1日)。透析後、約3/4量を濃縮し、濃縮した溶液を凍結乾燥して、目的物(一部のグルコース残基のヒドロキシ基が-NH2に置き換えられてなるパラミロン誘導体(6-アミノ-6-デオキシパラミロン))(16.42 g)を得た。得られた化合物については、IR及びカーボンNMRにより確認した結果、IRより、特徴的なアジドのピークが消えていること、及びアミンを示すと思われる3000cm-1前後の大きなブロードピークが確認でき(図3)、またカーボンNMRより6位のカーボンに化学シフト(44ppm付近)が確認できた(図4)。これらは、既報(Carbohydrate Polymer 122 (2015) 84-92.)の値と一致しており、確かに目的物が得られていることが確認できた。また、図4より、パラミロンのC6を示すピークが反応後完全にコンバートしていることからC6の推算にのみがアミンに置換しており、置換度が1であることが分かった。
【0083】
実施例1:抗菌活性の評価
既報文献(セルロース繊維のn-alkyl, 3-chloro-2-hydroxypropyl, ammonium chloridesによるカチオン化とそれらの抗菌活性について, 澤裕子ら著, 武庫川女子大紀要 2000, 48, 19-26)を参考にして、接触振とう法変法により、被検物質(合成例1で得られた6-アミノ-6-デオキシパラミロン)の抗菌活性の評価試験を行った。具体的には以下に示す手順で行った。
【0084】
<手順>
(1) 供試菌(S. aureus、S. epidermidis、P. aeruginosa、又はE. coli)をLB培地で35℃で一晩振とう培養した。
(2) 供試菌培養液を回収し遠心分離(10000g, 25℃, 5min)した。
(3) 上澄みを捨てて、純水に懸濁した。
(4) 各種濃度の被験物質水溶液に対して、(3) の懸濁液を、10%の濃度((3)の懸濁容量/被検物質水溶液容量)になるよう植菌した。
(5) 対照系として被験物質を含まない滅菌水に対しても同様の実験を実施した。
(6) 35℃、120rpmで1時間往復振とう培養した。
(7) 純水で任意に希釈してから、標準寒天培地にプレーティングした。
(8) (7)から24時間後にコロニー数を計数し、被験物質を含まないサンプルを対照系として残存生菌数を求めた。
【0085】
結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、6-アミノ-6-デオキシパラミロンは、濃度依存的に、各種細菌に対して抗菌活性(特に、殺菌活性)を発揮することが示された。
図1
図2
図3
図4