(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】健康度測定方法、健康度判定装置及び毛髪健康診断システム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220601BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220601BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20220601BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
G01N33/50 H
G01N33/68
G01N33/483 C
A61B5/107 700
(21)【出願番号】P 2018533503
(86)(22)【出願日】2017-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2017028781
(87)【国際公開番号】W WO2018030409
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2016158794
(32)【優先日】2016-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508253111
【氏名又は名称】株式会社オーガンテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝
(72)【発明者】
【氏名】豊島 公栄
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-007566(JP,A)
【文献】特開2000-352566(JP,A)
【文献】特開2006-053101(JP,A)
【文献】特開2004-045133(JP,A)
【文献】特開2008-232674(JP,A)
【文献】特開2008-249700(JP,A)
【文献】特開2002-136503(JP,A)
【文献】特開平09-106427(JP,A)
【文献】特開2014-052322(JP,A)
【文献】米国特許第5610071(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
A61B 5/107
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の毛髪を分析する毛髪分析工程(A)が、後頭部の毛髪を分析する工程、または、同一患者において後頭部の
毛髪を正常コントロールとし、これを後頭部以外の部位の毛髪と比較し分析する工程を含む、被験者の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項2】
上記毛髪分析
工程(A)に供する毛髪が、時期を特定するためのマーキング処理を施されている、請求項1に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項3】
上記毛髪分析工程(A)により得られた分析データを、母集団の分析データと比較する比較処理工程(B)をさらに含む、請求項1または2に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項4】
上記毛髪分析
工程(A)が、毛髪の、外部構造分析、内部構造分析、性状分析、遺伝子解析及び組成分析からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1から3のいずれか一項に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項5】
上記外部構造分析が、キューティクル及び光学的特性からなる群から選択される少なくとも一種の分析である、請求項4に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項6】
上記内部構造分析が、毛皮質、毛髄質、メラニン顆粒及び毛幹構造の規則性からなる群より選択される少なくとも一種の分析である、請求項4又は5に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項7】
上記毛幹構造の規則性が、毛髪産生のリズムに起因する階層性を有する構造的規則性である、請求項6に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項8】
上記性状分析が、毛髪の強度、しなやかさ、毛幹直径、毛髪断面形状及びウェーブ状態からなる群より選択される少なくとも一種の分析である、請求項4から7のいずれか一項に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項9】
上記組成分析が、ミネラル、タンパク質、脂質、色素及び代謝物からなる群より選択される少なくとも一種の分析である、請求項4から8のいずれか一項に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項10】
上記毛髪分析
工程(A)が、少なくとも内部構造分析を含む、請求項4から9のいずれか一項に記載の
毛髪に記録された健康状態の測定方法。
【請求項11】
被験者の毛髪の分析データが入力される入力手段と、
上記入力手段を介して入力された被験者の分析データを、母集団の分析データの分布と比較することにより、被験者の健康度を判定する判定手段とを備え、該被験者の毛髪の分析データが、被験者の後頭部の毛髪の分析データ、または、同一患者において後頭部の
毛髪を正常コントロールとし、これを後頭部以外の部位の毛髪と比較した毛髪の分析データである、
被験者の
毛髪に記録された健康状態の判定装置。
【請求項12】
被験者の毛髪の分析データが入力される入力手段と、
上記入力手段を介して入力された被験者の分析データを、母集団の分析データの分布と比較処理する比較処理手段と、
上記比較処理
手段により得られた被験者の分析データと母集団の分析データの分布との比較処理結果に基づいて、被験者の
毛髪に記録された健康状態を判定する判定手段と
を備え、
該被験者の毛髪の分析データが、被験者の後頭部の毛髪の分析データ、または、同一患者において後頭部の
毛髪を正常コントロールとし、これを後頭部以外の部位の毛髪と比較した毛髪の分析データであり、
上記判定手段において、上記母集団の分析データの分布として他人を対象として作成される他人の分析データの分布を用いて被験者の状態又は体質の偏りを判定し、上記母集団の分析データの分布として被験者の状態又は体質を評価する評価期間内で集めた被験者本人の分析データの分布を用いて被験者の状態又は体質の変化を判定すること、を特徴とする毛髪健康診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康度測定方法、健康度判定装置及び毛髪健康診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の健康診断は、医療機関等において、各種医療機器を用いた検査、血液検査、尿検査等の数多くの検査を受け、特定の疾患にかかっているか否か、医療機関での診察を受ける必要があるか否かといった、疾患に直接関連する情報を得るというものである。
【0003】
一方、毛髪の分析については、従来から、覚せい剤等の法規制薬物、スポーツドーピング規制薬物、催眠薬等の医薬品、アルコール等の使用や、農薬、有害金属、環境汚染物質等への暴露を証明するために、毛髪中に取り込まれた化学物質の分析が行われている。(特許文献1参照)。また、毛髪中のCa量を測定して体調の異変を簡便に診断する方法(特許文献2参照)、毛髪中のCa量の変化から乳癌を早期発見する方法も開発されている(非特許文献1参照)。さらに、毛髪のアミノ酸組成分析、ミネラル分析を行い、その結果から生体の状況をモニタリングする方法も提案されているが(特許文献3参照)、これらの方法における精度は十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-232674号公報
【文献】特開2004-045133号公報
【文献】特開2000-352566号公報
【非特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような情況の中、人体に非侵襲、且つより容易な方法を用いた健康診断であって、科学的根拠に基づく信頼性の高い診断結果を提供できる健康診断へのニーズは高い。また、健康診断によって得られる情報としても、疾患に直接関連するもの以外に、その時々のストレス状態、老化度、疲労度等、広い意味での被験者の健康状態といった、日々の生活により密着した情報が望まれている。そこで、本発明は、人体に非侵襲であり、且つより容易な方法を用いて、科学的根拠に基づく信頼性の高い診断結果を提供できる健康診断の方法、特に被験者の健康度(疾患に直接関連する情報、及び未病を含む広い意味での健康状態)の測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、毛髪を分析することにより、精度高く被験者の健康状態を判定することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
毛髪には様々なレベルに構造的規則性が存在する。例えば、毛髪の産生は毛母において一定のリズムを持って行われるため、毛髪の内部構造に見られるような構造的規則性は、毛髪産生のリズムに起因することが知られている。本発明者らは、毛髪中の毛髄質に構造的規則性が存在し、その規則性が、加齢や男性型脱毛症等の症状の進行等に伴って影響を受け、毛髄質そのものの喪失、規則性(連続性)の喪失等が生じることを見出し、このような毛髪の状態を分析することで、精度高く被験者の健康状態を判定する方法を開発した。また、人種による差が大きいものの、ヒト頭髪の波状毛や巻き毛に限らず、齧歯類の体毛の大半を占めるZigzag毛などにも一定リズムに起因する毛幹曲率や周期的な屈曲といった規則性が見られる。毛髪の内部構造及び毛幹屈曲は、どちらも時間軸にそった構造変化であり、同様に毛種により規定された高い時間的規則性を持つ毛周期も、リズムに起因する規則性の一側面として捉えることができる。毛髪中の構造規則性は、光学顕微鏡等による観察により、比較的容易に、かつ精度よく定量的に計測することが可能である。 すなわち、本発明は、
[1]被験者の毛髪を分析する毛髪分析工程(A)を含む、被験者の健康度測定方法;
[2]上記毛髪分析工程(A)が、後頭部の毛髪を分析する工程(A-1)を含む、[1]に記載の健康度測定方法;
[3]上記毛髪分析工程(A)が、後頭部以外の部位の毛髪を分析する工程(A-2)をさらに含む、[2]に記載の健康度測定方法;
[4]上記毛髪分析に供する毛髪が、時期を特定するためのマーキング処理を施されている、[1]から[3]のいずれかに記載の健康度測定方法;
[5]上記毛髪分析工程(A)により得られた分析データを、母集団の分析データと比較する比較処理工程(B)をさらに含む、[1]から[4]のいずれかに記載の健康度測定方法。
[6]上記毛髪分析が、毛髪の、外部構造分析、内部構造分析、性状分析、遺伝子解析及び組成分析からなる群より選択される少なくとも一種である、[1]から[5]のいずれかに記載の健康度測定方法;
[7]上記外部構造分析が、キューティクル及び光学的特性からなる群から選択される少なくとも一種の分析である、[6]に記載の健康度測定方法;
[8]上記内部構造分析が、毛皮質、毛髄質、メラニン顆粒及び毛幹構造の規則性からなる群より選択される少なくとも一種の分析である、[6]又は[7]に記載の健康度測定方法;
[9]上記毛幹構造の規則性が、毛髪産生のリズムに起因する階層性を有する構造的規則性である、[8]に記載の健康度測定方法;
[10]上記性状分析が、毛髪の強度、しなやかさ、毛幹直径、毛髪断面形状及びウェーブ状態からなる群より選択される少なくとも一種の分析である、[6]から[9]のいずれかに記載の健康度測定方法;
[11]上記組成分析が、ミネラル、タンパク質、脂質、色素及び代謝物からなる群より選択される少なくとも一種の分析である、[6]から[10]のいずれかに記載の健康度測定方法;
[12]上記毛髪分析が、少なくとも内部構造分析を含む、[6]から[11]のいずれかに記載の健康度測定方法;
[13]被験者の毛髪の分析データが入力される入力手段と、
上記入力部を介して入力された被験者の分析データを、母集団の分析データの分布と比較する比較処理手段と、
上記比較処理結果に基づいて、被験者の健康度を判定する判定手段と
を備える、被験者の健康度を判定する健康度判定装置;
[14]被験者の毛髪の分析データが入力される入力手段と、
上記入力手段を介して入力された被験者の分析データを、母集団の分析データの分布と比較処理する比較処理手段と、
上記比較処理結果に基づいて、被験者の健康度を判定する判定手段と
を備え、
上記判定手段において、上記母集団の分析データの分布として他人を対象として作成される他人の分析データの分布を用いて被験者の状態又は体質の偏りを判定し、上記母集団の分析データの分布として被験者の状態又は体質を評価する評価期間内で集めた被験者本人の分析データの分布を用いて被験者の状態又は体質の変化を判定すること、を特徴とする毛髪健康診断システム
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の健康度測定方法によると、毛髪分析という、人体に非侵襲、且つより容易な方法を用いて、科学的根拠に基づく信頼性の高い健康診断結果を提供することができる。特に毛髪は現在から過去のある一定の時期までのあらゆる情報が記録された記憶媒体ともいえるため、本発明によると、被験者の健康状態の変化についての情報も提供することができる。また、毛髪から得られる情報と、様々なビッグデータをつなぐことで、個々人に対応した解決方法を提供することができる。さらに、ヘルスケア、ヘアケア等の分野において、科学的根拠に基づく新しい製品開発をも可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、各毛種における毛幹の直径及び毛髄の形態と存在様式を示す図である。
【
図2】
図2は、年代、性別の異なる被験者の毛髪の毛髄の形態を示す図である。
【
図3】
図3は、被験者の毛髪の毛髄の形態を示す図である。
【
図4】
図4は、被験者の毛髪の毛髄の形態を示す図である。
【
図5】
図5は、被験者の毛髪の毛髄の形態を示す図である。
【
図6】
図6は、マウス週齢と、毛幹の規則性変化の関連を示す図である。
【
図7】
図7は、マウス週齢と、毛幹の異常構造の割合の関連を示す図である。
【
図8】
図8は、加齢に伴う毛髪の変曲点間隔の変化を示す図である。
【
図9】
図9は、個人ユーザーを対象にした、本発明の健康度判定装置を含む毛髪健康診断システムの概念図である。
【
図10】
図10は、製品開発企業向けの、毛髪健康診断システムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<健康度測定方法>
本発明の健康度測定方法は、被験者の毛髪を分析する毛髪分析工程(A)を含むことを特徴とする。また、本発明の健康度測定方法は、毛髪分析工程(A)により得られた分析データを、母集団の分析データと比較する比較処理工程(B)を含むことが好ましい。この比較処理工程(B)によって、被験者の体調、疲労度、ストレス度、老化(加齢)度、健康に影響を与える特定の元素や化学物質への暴露や体内への取込状況、特定の疾患リスク(その疾患に罹患しているか否か、罹患している場合にはその程度等)、特定の疾患発症リスク(将来その疾患に罹患する可能性等)等を、所定の分析/演算処理により定量的又は定性的に求めることができる。
【0011】
本発明の方法は、毛髪を分析材料とすることから、被験者にとって非侵襲であり、傷みを伴うことなく容易に分析サンプルを採取することができる点、必要に応じて医療従事者の手を借りることなく被験者自らが分析サンプルを採取可能である点等で従来の健康診断と相違している。また、毛髪は、現在から過去のある一定の時期までのあらゆる情報が記録された記憶媒体であるともいえるため、本発明によると、被験者の健康状態の経時的変化を知ることもできる。特に、本発明では、毛髪診断の項目として、従来から知られているミネラル分析、外部構造分析に加えて、毛髄等の毛髪内部構造を新規パラメータとすることで、科学的根拠に基づいたより確度の高い診断結果を提供することができる。また、上記診断結果から、それが必要な被験者に対しては、適切な解決方法をも提供することができる。さらには、本発明の健康度測定方法を利用した健康度判定装置及び毛髪健康診断に関する新しいビジネスモデルを提案することができる。以下に、本発明の健康度測定方法の各工程について詳細に説明する。
【0012】
本発明において健康度とは、被験者の健康状態が客観的にどのような状態にあるのかを示すものであり、本実施の形態にあっては、ある基準値、若しくはある基準値に対する相対的な健康指標とその変化の傾向をいう。具体的には、被験者の体調、疲労度、ストレス度、老化(加齢)度、健康に影響を与える特定の元素や化学物質への暴露や体内への取込状況、特定の疾患リスク(その疾患に罹患しているか否か、罹患している場合にはその程度等)、特定の疾患発症リスク(将来その疾患に罹患する可能性等)等、未病状態も含む広い意味での健康状態をいう。また、上記体調、疲労度、ストレス度、老化(加齢)度には、被験者の体全体における各程度のみならず、毛髪、肌、爪、眼、耳等の各部位の健康度の程度も含まれる。上記健康度は、各分析項目により得られるデータに基づき、被験者の体調、疲労度、ストレス度、老化(加齢)度、特定の疾患リスク(その疾患に罹患しているか否か、罹患している場合にはその程度等)、特定の疾患発症リスク(将来その疾患に罹患する可能性等)等を、所定の分析/演算処理により定量的又は定性的に求める。
【0013】
本発明における被験者は、健常人でも疾患の罹患者でもよく、年齢、人種、性別も限定されない。
【0014】
[毛髪分析工程(A)]
本発明における毛髪分析工程(A)は、被験者の毛髪を、特定の分析方法により分析する工程である。
【0015】
本発明において分析に用いる毛髪は、検査機関等で試験担当者が採取してもよいし、被験者自身が自分で採取してもよい。採取した毛髪を郵送によって試験機関に送付してもよい。毛髪検体は微細であることから気流や静電気等の影響による紛失の恐れや、環境中に存在する他者又は他動物種の毛髪の混入の危険性が想定される。そのため、採取、輸送、分析の各行程における取扱には、想定される危険性を最小限とする方法をとることが求められる。例えば、採取した毛幹を分析行程に影響を与えず、また洗浄により容易に除去可能な粘着剤に貼付したり、個別パック可能な袋等に封じるなどして、必要に応じてエタノールなどの非極性溶液中において取り扱うことが考えられる。また、分析項目によっては、被験者が自ら自身の毛髪の写真を撮影し、写真のデータを試験機関に送付するだけで、健康度を測定してもらうことも可能である。例えば被験者自身がスマートフォン等で撮影した毛髪の写真をそのままメールに添付して試験機関に送信する等の手軽な方法も考えられる。
【0016】
本発明において分析に用いる毛髪は、採取後そのまま用いてもよいし、洗浄・前処理等を行ってから用いることもできる。また、毛根部を含む抜け毛サンプル、毛根部を含まない切り毛サンプル等を毛髪検体として用いることができる。これらの毛髪検体を毛根からの距離が異なる位置毎に一定長さで切り出して各種成分等を測定し、この測定値の変化から、過去の経歴を知ることもできる。即ち、毛髪の成長速度は、個々人によって多少の差はあるが、概ね一日あたり0.2ミリメートル~0.5ミリメートル程度であり、この数値を用いることにより、過去の正確な時点における被験者の状況を把握することができる。このことは、即ち、必須元素の欠乏や必須栄養素の欠乏などに起因する生体の不調のように、過去の経緯が影響を及ぼしている、生体状況の原因把握には極めて好適である。また、このような成分の欠乏などに限らず、ある一定期間にその被験者が受けた影響、例えば、ストレス、紫外線によるダメージ等の程度を知ることもできる。
【0017】
さらに、過去の正確な時点における被験者の状況をより正確に把握するために、被験者の毛髪に、時期を特定するためのマーキング処理を施すことができる。マーキング処理の方法としては、既に体表面に萌出している毛幹に対して化学的処理を加える方法や、毛包において産生される際に指標物質を取り込ませる方法等が挙げられる。前者としては、体表面より一定の距離にある毛幹の一部に染毛剤や脱色剤を用いて色調変化を与える方法や、一定の毛幹先端部を切ることにより成長速度を読み取るなどのマーキング方法が有効である。また、後者としては、健康に影響しない範囲で必須金属元素を含む製剤、例えば鉄や銅、あるいは亜鉛製剤を短期間経口投与することによりマーキングする方法が有効である。
【0018】
毛髪は、キューティクル(毛表皮)領域、毛皮質(コルテックス)領域、毛髄質(メデュラ)領域から構成される。キューティクルは毛髪の表面部分に存在し、無色透明の複数のシートがうろこ状に重なった構造をしている。このキューティクルとキューティクルの間には細胞膜複合体(CMC)が存在してキューティクル同士を接着し、外部刺激から毛髪を守り、毛髪成分の流出を防いで毛髪内部を保護している。このキューティクル領域が毛髪のツヤや手触りを決定している。また、毛皮質は、葉巻状の形をしており、縦方向につながり比較的規則正しく並んでいる。横方向はコルテックス領域にある細胞膜複合体(CMC)で接着されており、縦方向の引っ張りの強さと比較すると弱く、枝毛になる等、裂けやすい性質を持っている。また、毛皮質内にはメラニン色素が存在し、髪色を決定している。この毛皮質領域は毛髪全体の85~90%を占めており、水分を保持して毛髪の強度に大きな影響を与えている。毛髄質は基本的には毛髪の中心部に存在するものであるが、具体的な機能等は分かっていない部分が多い。本発明者らは、特にこの毛髄質に着目し、毛種や年齢、体調等によって毛髄質の構造に違いが生じることから、このような毛髄質等の毛髪内部構造の状態を指標のひとつとすることで、被験者の健康度を精度高く測定できることを見出した。
【0019】
(分析項目)
本発明における毛髪の分析方法は、必要とされる情報に合わせて適切な分析項目を選択して決定することができる。上記分析項目としては、上述の毛髪内部構造の状態を採用することが好ましく、これに組合せてその他健康度の指標となる分析項目をさらに採用することがより好ましい。その他の分析項目としては、例えば、毛髪の外部構造分析、性状分析、遺伝子解析、組成分析等が挙げられる。
【0020】
上記内部構造分析としては、例えば毛髄質、毛皮質、メラニン顆粒、毛幹構造の規則性等の分析が挙げられる。これらの分析は、光学顕微鏡、電子顕微鏡等により観察することにより判別し評価可能となる。
【0021】
ヒト毛髪において毛髄質は、頭髪、眉毛、睫や第二次性徴期以降の髭や性毛といった硬毛にのみ見られる内部構造であり、生毛又は軟毛には見られない。そのため、毛髄質の有無や存在様式は、硬毛と軟毛、及びその中間的毛種を判別する重要な指標となる。但し、硬毛においても毛髄質は毛幹全長にわたり連続的に存在する構造ではなく、不連続性を呈する場合もある。
【0022】
毛髄質存在様式としては、例えば、連続性、形態、太さ(直径)等を分析項目として挙げることができる。また、ヒト硬毛の毛髄質は分化した1列の円柱状上皮細胞が積み重なって形成されたものであり、毛種特徴的な硬ケラチン類の細繊維により構成される。当該特許の発明者らは、毛髄質を構成する細胞の増殖と分化及び毛成長速度と連携して、毛髄質構造は一定のリズムを示すことを見いだした。さらにその内部には毛幹の光学特性や力学的特性に影響を与えると考えられる有色の顆粒や空包及び脂溶性成分を含む。そのため、毛髄質の存在様式は、種々の硬毛に特有な特性や、脱毛症や加齢に伴う毛髪の病態と相関する。
【0023】
具体的には、例えば、初期の若年性又は壮年性男性型脱毛症を呈する頭頂部領域の毛髪では、毛髄質の不連続性が顕著となり、さらに男性型脱毛症の進行に伴って毛髄質が消失した無髄毛へと変化する傾向がある。即ち、毛髪の毛髄質の有無、太さ、連続性を分析することで、男性型脱毛症の進行度、リスクを判定し、被験者の毛髪の健康度を測定することができる。また同様に、男性型脱毛症としての明瞭な病態が認められない壮年期男性においても、年齢が高くなるにしたがって前頭部や頭頂部毛髪の毛髄質は不連続性の増大や欠損する傾向が認められる。即ち連続性や無髄毛の比率などにより毛髄質の存在様式の変化を定量的化することにより、加齢に伴う毛髪の質的変化を測定することができる。
【0024】
毛皮質は毛髪の主要な構造体であり、硬ケラチン類が毛軸に平行な繊維束を構成することにより、毛髪特有の高い引っ張り強度を生み出している。また、毛皮質にはメラニン顆粒が散在しており、有色毛としての色調を生み出している。毛皮質を構成する硬ケラチン分子は、高度に規則的な立体配置を取り、さらに硬ケラチン分子間のSS結合や、ケラチン関連分子種による強固な化学的架橋により極めて安定している。これらの架橋反応において重金属が毛幹中に取り込まれることから、毛幹は重金属の排出器官としての機能を有する。そのため、全身性の健康変化や栄養条件、必須金属元素と有害重金属元素の摂取に伴い、力学的特性、光学的特性、及び組成成分において変化が生じる。さらに、日常の洗髪や染毛などの化学的処理やドライヤーによる加熱処理により構成成分の溶出や変性などを強く受けることも知られている。
【0025】
メラニン顆粒は、毛包内に存在する色素性幹細胞より供給された娘細胞が、増殖と分化によりメラノサイトへと変化し、毛母においてメラニン色素を産生することにより生じる。メラノサイト幹細胞は、老化に伴う幹細胞ニッチの質的変化や化学物質及び放射線などにより減少又は枯渇する。その結果、多くの場合加齢及び外的要因の時間的蓄積を受けて白髪化すると考えられている。また、色素性幹細胞の増殖と分化は毛包成長期と連携していることが知られており、毛幹全体の質的な変化に対する影響も示唆される。
【0026】
上述したように毛幹構造には、毛髄質に見られる毛軸に直行するように積み重ねられた構造的規則性と、毛皮質やキューティクルにおいて見られる毛軸に水平な構造的規則性が見られる。このような規則性は、毛髪産生のリズムに起因する階層性を有する構造的規則性であるといえる。毛髪の産生は毛母において一定のリズムを持って行われるため、何らかの原因によってその毛髪産生のリズムが乱れると、毛幹構造の規則性に影響を与える。これらの規則性は、毛幹を作り出す毛包における細胞動態の変化や、遺伝子発現の変化により、変化を受けると考えられる。また、毛髪が暴露されている環境や、種々の処理といった外因的な要因によって生じる変化にともなう変化も考えられる。従って毛幹に見られる種々の構造的規則性及びその乱れと、個体レベルの加齢及び健康状態は強く結びつくと考えられる。毛幹構造の規則性については、光学顕微鏡、電子顕微鏡等を用いて、内部構造として形態学的に観察することができる。また、毛幹の断面形状や毛髄質の存在様式により生じる規則性は、赤外線トモグラフィーや光音響顕微鏡を用いることによっても検出することができる。さらに、分子レベルの規則性は、X線回折や質量分析により検出することもできる。後述する比較処理工程(B)を経て、被験者におけるこれらの毛幹構造に異常が見られないと判断される場合には、健康度は高いと判定され、これらの毛幹構造の一部又は全部に異常が検出された場合には、被験者の健康度が低いと判定され得る。また、異常が検出された毛幹構造の種類やその程度によっては、毛髪関連疾患を含む各種疾患等の可能性を示唆することもできる。
【0027】
上記外部構造分析としては、例えばキューティクル構造の状態、光学的特性等の分析が挙げられる。
【0028】
キューティクル構造の状態については、光学顕微鏡等を用いて観察することができる。キューティクル構造は、ストレス、心理的状況、栄養状態、生活環境等の影響を受け易いことから、被験者のキューティクル構造を分析することで、被験者のストレス度、栄養状態、老化度等の健康度も測定することができる。また、キューティクルは、毛髪を構成する要素のうち、最表層にある毛髪の性状、艶などの美観に対する寄与が最も大きいと言われている部分であるため、キューティクル構造を分析することで、毛髪自体の健康度を測定することもできる。
【0029】
光学的特性については、例えば毛髪に光を照射し、反射・散乱の状態、光の透過量等を分析することで、毛髪の不均質性、光沢の程度を知ることができる。毛髪の不均質性や光沢は、被験者の年齢、体調等によって変わってくることから、毛髪の光学的特性を分析することにより、被験者の健康度及び毛髪自体の健康度を測定することができる。
【0030】
上記性状分析としては、例えば毛髪の強度、しなやかさ、毛幹直径、毛髪断面形状、ウェーブ状態等の分析が挙げられる。
【0031】
上記遺伝子解析は、毛髪サンプル中に安定的に保存されているゲノムDNA及びミトコンドリアDNAを試料として、特定の遺伝子の発現量を算出することにより行うことができる。また、採取した毛髪の毛幹基部に付着している上皮性細胞(毛根鞘細胞)に含まれるmRNAを試料として、特定の遺伝子の発現量を算出することにより行うこともできる。なお、本発明における遺伝子解析では、遺伝子の発現量は、絶対値又は相対値(比較対象又は標準の発現量との比率や差など)として算出される。またDNAについては、その配列的な特徴として例えばSNPsやトリプレットリピートの変化、特定遺伝子配列の部分的又は遺伝子座の欠失や重複として検出することができる。
【0032】
遺伝子解析でその発現量が調べられることになる「特定の遺伝子」は、被験者の健康度に関連する遺伝子や、特定の遺伝的特徴を有する人種や血縁集団を示す遺伝子であれば特に限定されない。被験者の健康度に関連する遺伝子は、マイクロアレイなどを用いた実験によって同定することが可能である。特定の遺伝子としては、例えば、アンドロゲン受容体、II型5αリダクターゼをコードする遺伝子、ミトコンドリアDNAや毛幹の形質に影響する種々の核内転写因子などが例示される。
【0033】
上記組成分析としては、例えばミネラル(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、銅、亜鉛、リン、セレニウム、ヨウ素、リチウム、バナジウム、コバルト、ニッケル、ホウ素、ゲルマニウム、臭素ベリリウム、カドミウム、水銀、アルミニウム、鉛、ヒ素)、タンパク質、脂質、色素、代謝物等の分析が挙げられる。これらの分析方法としては、ミネラル類であれば、原子吸光分析或いは電子顕微鏡を用いた蛍光X線解析等が例示できる。特定のタンパクの含有量や分布は、染色条件によってその染まり具合によってもわかるし、透過或いは前反射赤外吸収分光スペクトルからも定量することができる。
【0034】
現代生活では睡眠不足、添加物、農薬、環境汚染された食材、食生活、ストレス等の影響により毛髪中のミネラル分が減少することが知られている。例えば、人にとっての必須ミネラルであるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、銅、亜鉛、リン、セレニウム、ヨウ素の毛髪中の含有量を測定することで、被験者の健康度を測定することができる。すなわち、後述する比較処理工程(B)を経て、被験者におけるこれらの必須ミネラルの毛髪中の含有量が正常な範囲であると判断される場合には、被験者の健康度は高いと判定され、正常な範囲を逸脱し異常レベルであることが検出された場合には、被験者の健康度が低いと判定され得る。また、異常レベルと検出されたミネラルの種類によっては、各種疾患等の可能性を示唆することもできる。さらにこれら必須ミネラルの含有量が少ない場合には、これらを補充できるサプリメント、食品を摂取することを適切に提案することができる。
【0035】
毛髪中には加齢、生活環境に伴って水銀やカドミウムなどの有害ミネラルが蓄積され、カリウムやマグネシウム、鉄などの必須ミネラルは減る傾向にある。そこで毛髪測定データから、特に年齢と相関するミネラルをピックアップし、一定の計算式から被験者の老化度(加齢度)を判定することも可能である。
【0036】
毛髪分析工程(A)は、後頭部の毛髪を分析する工程(A-1)を含むことが好ましい。後頭部の毛髪は他の部位の毛髪と比べて構造が安定しているため、安定した分析結果を取得することができる。本発明の分析サンプルとしての毛髪を後頭部の毛髪とすることにより、従来に比べて、より安定し、信頼性の高い分析結果を取得することができる。
【0037】
毛髪分析工程(A)は、後頭部以外の部位の毛髪を分析する工程(A-2)をさらに含むことが好ましい。被験者の後頭部の毛髪の分析結果と、環境の変化、体調の変化、加齢等に対してより敏感に変化する他の部位の毛髪の分析結果を比較することで、被験者の健康度を感度よく判定することも可能となる。
【0038】
[比較処理工程(B)]
本発明の健康度測定方法は、毛髪分析工程(A)で得られた分析データを、母集団の分析データの分布と比較処理する比較処理工程(B)を含む。上記母集団としては、他人を対象として作成される他人の分析データの分布、いわゆるビッグデータを用いることができる。毛髪分析工程(A)で得られた個人の分析データを、他人の分析データの分布と比較する際には、他人の分析データ全体の母集団と比較してもよいし、上記個人の年齢、性別、住居地等によって選択された特定の母集団と比較してもよい。
【0039】
被験者の後頭部以外の部位の毛髪を分析する工程(A-2)で得られたデータを、後頭部の毛髪を分析する工程(A-1)で得られたデータと比較する工程は、比較処理工程(B)に含めてもよい。被験者の後頭部の毛髪の分析結果と、環境の変化、体調の変化、加齢等に対してより敏感に変化する他の部位の毛髪の分析結果を比較することで、被験者の健康度を感度よく判定することができる。
【0040】
比較処理工程(B)においては、毛髪分析工程(A)において得られた個人の毛髪データを解析して、被験者の健康度の経時的な変化を確認することができる。即ち、毛髪は一種の記憶媒体であるといえることから、毛根からの距離の異なる各部分のデータ比較することで、被験者の健康度の経時的な変化を確認することができる。その際には、被験者の毛髪に対して、時期を特定するためのマーキング処理が施されていることが好ましい。
【0041】
毛髪分析工程(A)の各分析により得られたデータを、比較処理工程(B)において適切な母集団の分布と比較し、所定の分析/演算処理により、被験者の体調、疲労度、ストレス度、老化(加齢)度、特定の疾患リスク(その疾患に罹患しているか否か、罹患している場合にはその程度等)、特定の疾患発症リスク(将来その疾患に罹患する可能性等)等の健康度を、所定の分析/演算処理により定量的又は定性的に求めることができる。
【0042】
<健康度判定装置>
[個人ユーザー向け健康度判定装置]
本発明は、毛髪分析データによって被験者の健康度を判定する健康度判定装置の発明も含む。本発明の健康度判定装置について
図9を使用して説明する。即ち、本発明の健康度判定装置1は、被験者の毛髪の分析データが入力される入力手段3、上記入力手段を介して入力された被験者の分析データを、母集団の分析データの分布(内部DB5及び外部DB6)と比較する比較処理手段4、比較処理された結果から、被験者の健康度を判定する判定手段7、判定結果を被験者の通知するための通信手段8を備える。通信手段8からの情報は、内部DB5にも蓄積される。また、本発明の健康度判定装置1は、毛髪分析を行う毛髪分析手段2を備えていてもよいし、毛髪分析手段が健康度判定装置1とは別の装置に備わっていてもよい。
【0043】
(毛髪分析手段)
個人ユーザー(被験者)は毛髪分析手段2に毛髪を提供する。毛髪の提供の方法は特に限定されないが、毛髪分析を行う機関において採取してもよいし、被験者自らが採取して郵送等の手段により提供してもよい。例えば、毛髪検体は粘着シートに貼付又は個別パック可能な袋等に封じて、他者検体との混入を防ぐことが好ましい。また、毛髪検体は窓口機関まで常温条件で移送されてもよいし、4℃前後の低温条件で移送されてもよい。なお、毛髪検体に伴う各種個人情報は、十分なセキュリティー対策を施したインターネットサイト等へ入力されてもよい。毛髪検体及び関連の個人情報の両方に付与された匿名化番号等により両者の照合を行うこともできる。提供された毛髪は、毛髪分析手段2において分析される。毛髪分析手段2においては、各種分析(分析A、分析B、分析C、、、)が行われる。具体的な分析項目、分析方法については、本発明の健康度測定方法における説明を適用することができる。
【0044】
(比較処理手段)
毛髪分析手段2によって得られた各分析データ(A、B、C等)及び被験者の個人情報等は、入力手段3によって入力され、比較処理手段4において内部データベース(内部DB5)及び/又は外部データベース(外部DB6)のデータと比較される。内部DB5に、被験者の過去のデータがある場合には、そのデータとの比較も可能であり、被験者の経時的な健康度の変化を確認することもできる。また、毛髪分析手段2によって得られた分析データが、被験者の後頭部の毛髪のデータ、後頭部以外の毛髪のデータを含む場合、両者を比較することもできる。さらに、毛髪分析手段2によって得られた分析データが、被験者の毛根からの距離の異なる毛髪各部分のデータである場合には、それらのデータを比較することもできる。
【0045】
(判定手段)
判定手段7では、比較処理手段4における分析データの比較結果に基づいて、被験者の個人情報(年齢、性別、居住地、職業、身長、体重、既往歴、ストレス状況、生活習慣情報、飲食の嗜好等)も加味した上で、被験者の健康度を判定する。毛髪分析の結果から、被験者の体調、疲労度、ストレス度、老化(加齢)度を判定することができる。さらに、被験者の体全体における各程度の判定のみならず、毛髪自体の健康度の判定も行うことができる。判定手段7においては、被験者の健康度を判定するだけでなく、被験者の健康度に問題がある場合にはその解決方法を提示することもできる。また、被験者の健康度がより向上するような提案をすることも可能である。
【0046】
(通信手段)
判定手段によって出された判定結果は、通信手段8によって被験者に通知される。通知の方法は特に限定されないが、Eメールによる通知、郵便による通知等が好ましい。判定結果は、内部DB5にも蓄積され得るので、本発明の健康度判定装置の精度は判定数に応じて向上していく。
【0047】
判定結果を受領した被験者は、判定結果と共に提供された健康度の解決方法、健康度の向上方法を一定期間実践し、その効果を確認するために、再度本発明の健康度判定装置による判定を受けることもできる。
【0048】
[製品開発企業向け健康度判定装置]
本発明は、毛髪分析データによって各パネラー(被験者)の健康度を判定し、製品開発企業の製品開発に役立てるための健康度判定装置の発明も含む。本発明の健康度判定装置について
図10を使用して説明する。即ち、本発明の健康度判定装置1は、各パネラーの毛髪の分析データが入力される入力手段3、上記入力手段を介して入力された各パネラーの分析データを、母集団の分析データの分布(内部DB5及び外部DB6)と比較する比較処理手段4、比較処理された結果から、各パネラーの健康度を判定する判定手段7、判定結果を製品開発企業に通知するための通信手段8を備える。通信手段8からの情報は、内部DB5にも蓄積される。また、本発明の健康度判定装置1は、毛髪分析を行う毛髪分析手段2を備えていてもよいし、毛髪分析手段が健康度判定装置1とは別の装置に備わっていてもよい。
【0049】
(毛髪分析手段)
製品開発企業は複数のパネラーから提供を受けた各自の毛髪を毛髪分析手段2に提供する。毛髪の提供の方法は特に限定されないが、毛髪分析を行う機関において採取してもよいし、パネラー自らが採取して郵送等の手段により提供してもよい。例えば、毛髪検体は粘着シートに貼付又は個別パック可能な袋等に封じて、他者検体との混入を防ぐことが好ましい。また、毛髪検体は窓口機関まで常温条件で移送されてもよいし、4℃前後の低温条件で移送されてもよい。なお、毛髪検体に伴う各種個人情報は、十分なセキュリティー対策を施したインターネットサイト等へ入力されてもよい。毛髪検体及び関連の個人情報の両方に付与された匿名化番号等により両者の照合を行うこともできる。提供された毛髪は、毛髪分析手段2において分析される。毛髪分析手段2においては、各種分析(分析A、分析B、分析C、、、)が行われる。具体的な分析項目、分析方法については、本発明の健康度測定方法における説明を適用することができる。
【0050】
(比較処理手段)
毛髪分析手段2によって得られた各分析データ(A、B、C等)及び各パネラーの個人情報等は、入力手段3によって入力され、比較処理手段4において内部データベース(内部DB5)及び/又は外部データベース(外部DB6)のデータと比較される。内部DB5に、各パネラーの過去のデータがある場合には、そのデータとの比較も可能であり、開発製品の効果を確認することもできる。また、毛髪分析手段2によって得られた分析データが、各パネラーの後頭部の毛髪のデータ、後頭部以外の毛髪のデータを含む場合、両者を比較することもできる。さらに、毛髪分析手段2によって得られた分析データが、各パネラーの毛根からの距離の異なる毛髪各部分のデータである場合には、それらのデータを比較することもできる。
【0051】
(判定手段)
判定手段7では、比較処理手段4における分析データの比較結果に基づいて、各パネラーの個人情報(年齢、性別、居住地、職業、身長、体重、既往歴、ストレス状況、生活習慣情報、飲食の嗜好等)も加味した上で、各パネラーの健康度を判定する。毛髪分析の結果から、各パネラーの体調、疲労度、ストレス度、老化(加齢)度を判定することができる。さらに、各パネラーの体全体における各程度の判定のみならず、毛髪自体の健康度の判定も行うことができる。各パネラーの健康度に問題がある場合にはその解決方法を提示することもできる。また、各パネラーの健康度がより向上するような提案をすることも可能である。即ち、判定手段7においては、各パネラーの健康度を判定するだけでなく、パネラー全体の傾向を分析した結果を提供することができる。
【0052】
(通信手段)
判定手段によって出された判定結果は、通信手段8によって製品開発企業に通知される。通知の方法は特に限定されないが、Eメールによる通知、郵便による通知等が好ましい。判定結果は、内部DB5にも蓄積され得るので、本発明の健康度判定装置の精度は判定数に応じて向上していく。
【0053】
判定結果を受領した製品開発企業は、その判定結果を自社の製品開発に使用することができる。また、製品開発企業は、自社開発製品の効果を確認するために、再度本発明の健康度判定装置による判定を受けることもできる。
【0054】
<毛髪健康診断システム>
本発明は、毛髪分析による健康診断システムである毛髪健康診断システムも含む。本発明の毛髪健康診断システムは、上述した健康度判定装置を使用した種々のビジネスモデルをシステムにより具現化したものである。即ち、本発明の健康度判定装置と、この健康度判定装置との間で、毛髪分析データ・健康診断結果等を、通信ネットワークを介して送受信する端末とを備える毛髪健康診断システムである。
【0055】
本発明は、被験者の毛髪の分析データが入力される入力手段と、上記分析データを、母集団の分析データの分布と比較処理する比較処理手段と、上記比較処理結果に基づいて、被験者の健康度を判定する判定手段とを備え、上記判定手段において、上記母集団の分析データの分布として他人を対象として作成される他人の分析データの分布を用いて被験者の状態又は体質の偏りを判定し、上記母集団の分析データの分布として被験者の状態又は体質を評価する評価期間内で集めた被験者本人の分析データの分布を用いて被験者の状態又は体質の変化を判定すること、を特徴とする毛髪健康診断システムである。
【0056】
本発明の毛髪健康診断システムの概念図を
図9及び
図10に示した。即ち、本発明の毛髪健康診断システムは、健康度判定装置1と、この健康度判定装置1との間で、毛髪分析データ・健康診断結果等を、通信ネットワークを介して送受信する各種端末とを備える毛髪健康診断システムである。即ち、本発明の健康度判定装置1は、被験者の毛髪の分析データが入力される入力手段3、上記入力手段を介して入力された被験者の分析データを、母集団の分析データの分布(内部DB5及び外部DB6)と比較する比較処理手段4、比較処理された結果から、被験者の健康度を判定する判定手段7、判定結果を被験者に通知するための通信手段8を備える。通信手段8からの情報は、被験者の端末(ユーザー端末)に送信されると共に、内部DB5にも蓄積される。通信手段8からの情報は、被験者に電子的に送信されるだけでなく、端末から印刷した紙媒体等により提供されてもよい。また、本発明の健康度判定装置1は、毛髪分析を行う毛髪分析手段2を備えていてもよいし、毛髪分析手段が健康度判定装置1とは別の装置に備わっていてもよい。
【0057】
本発明の毛髪健康診断システムの1つの実施形態を説明する(
図9)。被験者(ユーザー)は、ユーザー端末から毛髪健康診断システムの通信端末に、自己の基本情報、特定のアンケート等への回答を送信すると共に、自分の毛髪を指定の分析機関に送付する。なお、被験者は分析機関に出向いて毛髪を採取してもらってもよい。例えば、毛髪検体は粘着シートに貼付又は個別パック可能な袋等に封じて、他者検体との混入を防ぐことが好ましい。また、毛髪検体は窓口機関まで常温条件で送付されてもよいし、4℃前後の低温条件で送付されてもよい。分析機関(毛髪分析手段)においては、被験者が上記アンケートによって選択した分析項目についての分析が行われる。被験者の基本情報、アンケートの回答、毛髪の分析結果は、個人カルテ(電子)に記載される。なお、毛髪検体に伴う各種個人情報は、十分なセキュリティー対策を施したインターネットサイト等へ入力されることが好ましい。毛髪検体及び関連の個人情報の両方に付与された匿名化番号等により両者の照合を行うこともできる。分析データは分析機関において比較処理端末(比較処理手段4)に送信され、比較処理端末において内部DB5及び/又は外部DB6に保存されている母集団又は母集団の一部のデータ、又は予め設定しておいた基準値と比較して、特定の演算処理が行われる。演算処理によって算出された健康度の情報、健康度を向上させるための提案、健康度に問題があった項目についての解決方法の提案等を記載した毛髪健康診断結果をユーザー端末に送信する。毛髪健康診断結果等も上記個人カルテに記載されて保存される。
【0058】
各個人ユーザーが本発明の毛髪健康診断システムを利用する形態以外に、例えば、美容室(サロン)、製品開発企業が本発明の毛髪健康診断システムを利用する形態も考えられる。
図10を使って説明する。美容室(サロン)又は製品開発企業端末から毛髪健康診断システムの通信端末に、顧客の基本情報、顧客による特定のアンケート等への回答を送信すると共に、各顧客の毛髪を指定の分析機関に送付する。例えば、毛髪検体は粘着シートに貼付又は個別パック可能な袋等に封じて、他者検体との混入を防ぐことが好ましい。また、毛髪検体は分析機関まで常温条件で送付されてもよいし、4℃前後の低温条件で送付されてもよい。分析機関(毛髪分析手段)において、があらかじめ選択した分析項目についての分析が行われる。被験者の基本情報、アンケートの回答、毛髪の分析結果は、個人カルテ(電子)に記載される。なお、毛髪検体に伴う各種個人情報は、十分なセキュリティー対策を施したインターネットサイト等へ入力されることが好ましい。毛髪検体及び関連の個人情報の両方に付与された匿名化番号等により両者の照合を行うこともできる。分析データは分析機関において比較処理端末(比較処理手段4)に送信され、比較処理端末において内部DB5及び/又は外部DB6に保存されている母集団又は母集団の一部のデータ、又は予め設定しておいた基準値と比較して、特定の演算処理が行われる。演算処理によって算出された健康度の情報、健美容室又は製品開発企業康度を向上させるための提案、健康度に問題があった項目についてはその解決方法の提案等を記載した毛髪健康診断結果が美容室(サロン)又は製品開発企業端末に送信される。毛髪健康診断結果等も上記個人カルテに記載されて保存される。美容室又は製品開発企業は、得られた結果を自社のサービス、新製品の開発のために活用することができる。また、各情報を、各顧客にフィードバックすることもできる。このフィードバックの際には、診断結果や分析データと共に、顧客の健康状態改善のためのソリューション(健康飲食品、サプリメント等の製品や各種サービス)を提供することもできる。
【実施例】
【0059】
<毛幹の形態的特徴による毛髪評価1>
毛種および男性型脱毛症(AGA)に伴い転換した毛種に依存した毛髪の形態的特徴を調べた。具体的には、AGA診療ガイドラインに基づき臨床上非AGAであり、頭髪状態が正常な30代男性被験者の頭頂部から頭髪を採取した。採取した毛髪は白色と黒色の両者とも含まれるものの、両者とも毛髄質の存在様式および毛幹直径は同等であった。また、同様に臨床的に若年性AGA患者である20代男性被験者の頭頂部から黒色毛を採取した。さらに、同じAGA患者の後頭部より正常黒色の頭髪および前腕部内側の体毛も採取した。これらの毛髪の構造を光学顕微鏡により観察した。結果を
図1に示す。
【0060】
図1に示す通り、非AGA男性の頭頂部より採取した白髪頭髪及びAGA患者の後頭部より採取した正常黒色の頭髪では、一定の太さの毛髄が毛髪の中心部分に存在しているのに対して、AGA患者の頭頂部毛では、前腕部内側の体毛と同様に消失又は毛髄の不連続化が示され、体毛と同様に軟毛となっていることがわかった。従って、毛髄の状態を観察することで、毛髪の健康度、すなわち老化に伴う脱毛症や若年性脱毛症の傾向の有無等を判定することができる。また、同一患者において、後頭部の頭髪を正常コントロールとし、これと頭頂部の頭髪とを比較することで、その患者の毛髪の健康度を判定することもできる。さらに、後頭部の頭髪は、上記の通りAGA患者においても毛髄が一定の太さを維持しており、脱毛症等の頭髪の疾患の影響を比較的受けにくいことがわかる。そのため、脱毛症等の頭髪の疾患以外の健康度の測定には、後頭部の頭髪を用いることが好ましいと言える。なお、
図1中の「*」は、連続構造を有する毛髄を示している。また、矢印は非連続毛髄を指し示しており、矢尻は毛髄の痕跡と考えられる構造を示す。
【0061】
<毛幹の形態的特徴による毛髪評価2>
年代、性別の異なる被験者の頭頂部から毛髪を採取し、毛髪の形態的特徴を調べた。具体的には、複数の30代女性、50代男性の後頭部から毛髪を採取し、これらの毛髪の構造を光学顕微鏡により観察した。各毛髪について、根元からの距離によって毛幹構造がどのように変化しているかも確認した。結果を
図2~
図5に示す。
【0062】
図2に示す通り、後頭部又は非男性型脱毛症部位より採取した毛髪を光学顕微鏡で観察することで、毛髄質の消失やキューティクルの乱れの有無を確認することができた。例えば、30代女性Aは毛髪の根元付近において明瞭に連続性を持つ毛髄質が認められるが、先端に向けて毛髄質の欠失や不連続性が見られた。30代女性Bは毛髪の根元より先端までの全域において連続的な毛髄質が認められるが、キューティクル構造の不明瞭化や欠損が認められる。50代男性では、明瞭な毛髄質が認められ、またキューティクルの健全性が示された。また、毛髪
図3及び
図4に示す通り女性A及びBは、根元付近(根元より10cm)より毛先(根元より30cm)までほぼ同一の太さを維持しており、計算上得られる20ヶ月の成長期の全期間を通じて毛種的変化は起こらなかったことを示している。それに対して、
図5に示す通り、50代男性において毛先付近において認められた毛髄質が根元において消失しているのみならず、毛幹直径の減少が見られることから、加齢に伴う男性型脱毛症に類縁の軟毛化が進行していることを示している。
【0063】
これらの結果より、毛髄の喪失や毛幹直径の変化により、加齢に伴う毛種の変化又は毛髪の太さの減少が示された。特に
図5にて示した50代男性の場合、これらの毛種変化は少なくとも過去5ヶ月以内に発生していることが示唆される。これらのことから、根元より毛先までの毛髪の状況を観察計測することにより、過去における毛質変化の発生時期を特定することが可能である。
【0064】
<加齢に伴う毛質変化の定量評価-メラニン顆粒配列>
加齢に伴う毛質変化を定量的に評価することが可能であることを示すために、毛髄質のメラニン顆粒配列の規則性に着目し、その異常が生じた範囲の割合と加齢の関連について理想的実験サンプルを用いて解析した。具体的には、種々の週齢のC57BL/6マウス背部皮膚よりAwl又はGuard毛幹を採取し、毛髄質を構成して梯状の構造として識別可能な硬ケラチン蓄積領域と、メラニン等の顆粒を含む有色領域の規則性を解析した。採取した毛幹は99.5%エタノール中にて分散させ、さらに表面の汚れを洗浄したうえで、APSコートスライドガラス(松浪硝子)上にエタノール液ごと移動させて、できる限り毛幹検体が重ならないよう分散させた上で、5分間程度気流下にて風乾し、その後に90%グリセロールPBS溶液のような水溶性封入剤又は蒸留水とカバーガラスにより封入を行った。Awl又はGuard毛において、毛髄質を構成する硬ケラチン蓄積領域と顆粒領域は、規則的な繰り返し構造を取り、その顆粒領域の最大列数は毛種に依存して一定である。この列数と繰り返し構造の配置をリズムとして捉えると、局所的に列数に異常が生じたり、繰り返し構造が不明瞭となることが見られる。このようなリズムの異常性領域が、観察した毛幹長に占める割合を計測して、週齢ごとにプロットして比較を行った。Awl毛及びGuard毛の顕微鏡画像は、毛髪検体ごとに最大直径部分を選択した。また、若齢マウスにおいては極めて低頻度の出現率である毛髄質の異常配列は高齢マウスにおいて散見されることを定性的に見いだした。そこで、定量化可能であるかどうかを示すために、特有の毛髄質の配列異常が最大の変位が見られる領域を選択して顕微鏡写真を撮影した。規則性の有無は顕微鏡画像において、毛髪研究を1年以上行った3名の研究者が同一の画像データを元に独自に異常領域を識別し、異常領域が締める割合の平均値として計測した。結果を
図6に示す。
【0065】
図6に示す通り、マウスの加齢と、毛髄質構造の規則性の変化には明確な相関性が示されたことから、毛幹形成におけるリズムの加齢による変調を定量化して比較可能であることが示された。
【0066】
<加齢に伴う毛質変化の定量評価-異常構造の割合>
図6において画像撮影領域について最大の差が生じるよう、高齢マウスに特有の異常領域を検出して、毛髄質に見られるリズムの規則性の変化が検出可能であることを示した。本実験においては、主観性を廃して、最大毛幹直径部位の中央部を観察部位として定義し、無作為に個別の毛幹の顕微鏡画像を取得した。さらに、毛髄質の毛質変化について、毛髄列の不整合(毛髄質ディスク数の変調、毛髄質ディスクの挿入、毛髄質ディスクの欠失)、毛髄ディスク融合又は複合化(毛軸に対して水平方向又は直交方向の融合)、及びディスク構造不明瞭(毛髄質の硬ケラチン蓄積領域(無色)と有色の顆粒領域の境界の不明瞭化)と定義して、この異常領域の見られる領域が占める範囲の割合を評価した。また10年以上の毛髪研究歴を有する研究者(評価実施者A)と、1年未満の研究者(評価実施者B)により、それぞれ独立した評価により加齢に伴うC57BL/6マウスの体毛の異常な構造の割合を測定した。具体的には、5週齢と105週齢マウスの毛髄質リズムにおける変化を検出したところ、両評価者によって高週齢マウスにおいて弱週齢には見られない毛髄構造のリズム上の異常が存在することが示され、異常領域として二者により検出した領域は85%の共通性が得られた。結果を
図7に示す。
【0067】
図6においては、毛髄質の規則性の有無の判断について実施する研究者間の主観が多量に含まれることは否定できない。一方、本実験においては、
図7に示す通り、毛質評価基準を明確化することにより評価者間差を縮小することができた。また、マウスの加齢と共に、体毛の単位長さ当たりの異常構造の割合が顕著に増加することがわかった。
【0068】
<加齢に伴う毛質変化の定量評価-変曲点間隔の変化>
マウスの体毛は、毛幹サイズ、毛髄の構造及び変曲点数により、Awl/Auchen、Guard及びZigzag毛の三種に分類される。そのうち、Zigzag毛は70-80%程度を占める。Zigzag毛は3箇所の変曲点を有し、さらに毛髄の顆粒領域は1列である特徴を持つ。この変曲点は、ヒト毛髪におけるウェーブと同様の毛質的特徴であると考えられる。この変曲点の発生位置も一定期間毎に現れることから、毛髄質構造同様にリズム的な規則性を有している。そこで、加齢に伴う毛質の変化を定量的に評価するために、毛髪の変曲点間隔の変化を計測し、週齢による変化を定量的に評価した。具体的には、上記の毛髄質構造の評価と同様に、毛幹サンプルをAPSコートガラスにて封入し、毛先より第1変曲点間、第1変曲点より第2変曲点、さらに第2変曲点から第3変曲点、及び第3変曲点より毛根までの長さを計測して、プロットし、高齢マウス(114週齢)及び若齢マウス(5週齢)における変曲点出現位置を比較した。結果を
図8に示す。
【0069】
図8に示す通り、高週齢マウスでは、各変曲点間距離の延長傾向にあることが示された。毛髄質におけるリズムの不規則性増大により、変曲点間距離が間延びしていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の健康度測定方法によると、毛髪分析という、人体に非侵襲、且つより容易な方法を用いて、科学的根拠に基づく信頼性の高い健康診断結果を提供することができる。特に毛髪は現在から過去のある一定の時期までのあらゆる情報が記録された記憶媒体ともいえるため、本発明によると、被験者の健康状態の変化についての情報も提供することができる。また、毛髪から得られる情報と、様々なビッグデータをつなぐことで、個々人に対応した解決方法を提供することができる。さらに、ヘルスケア、ヘアケア等の分野において、科学的根拠に基づく新しい製品開発をも可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1 健康度判定装置
2 毛髪分析手段
3 入力手段
4 比較処理手段
5 内部DB
6 外部DB
7 判定手段
8 通信手段