(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】体毛試料からのポリヌクレオチドサンプルの調製方法、RNAの発現解析方法、DNAの解析方法、体毛試料の保管試薬及び体毛試料の採取キット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20220601BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220601BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20220601BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220601BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12M1/00 A
C12M1/26
C12Q1/68
(21)【出願番号】P 2020056733
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2020-04-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-29
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503303466
【氏名又は名称】学校法人関西文理総合学園
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】永井 信夫
(72)【発明者】
【氏名】小倉 淳
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】中島 庸子
【審判官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122265号公報
【文献】特開2017-29133号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12Q 1/00-3/00, C12N 15/00-18/90
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の
皮膚表面の
興味領域において毛乳頭に結合している体毛を抜いて採取した、
毛根に付着した被験体自身の細胞を含む体毛試料から
RNAサンプルを調製することを含み、
ここで、前記興味領域
は被験因子が直接適用された皮膚表面の部位であり、前記被験体がヒトであり、体毛試料は、頭髪試料を含まない、
前記毛根に付着した被験体自身の細胞から、前記被験因子
に起因する前記被験体における皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を評価するための、
RNAサンプルの調製方法。
【請求項2】
被験体の
皮膚表面の
興味領域において毛乳頭に結合している体毛を抜いて採取した、
毛根に付着した被験体自身の細胞を含む体毛試料からRNAサンプルを調製することと、
前記調製されたRNAサンプルを用いて、
前記毛根に付着した被験体自身の細胞におけるRNAの発現解析を行うことを含み、
ここで、前記興味領域
は被験因子が直接適用された皮膚表面の部位であり、前記被験体がヒトであり、体毛試料は、頭髪試料を含まない、
前記毛根に付着した被験体自身の細胞から、前記被験因子
に起因する前記被験体における皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を評価するための、RNAの発現解析方法。
【請求項3】
前記被験因子の安全性評価
に使用するための、請求項
2に記載のRNAの発現解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、体毛試料からのポリヌクレオチドサンプルの調製方法が開示される。また、本明細書には、前記ポリヌクレオチドサンプルを用いたRNAの発現解析方法、又はDNAの解析方法が開示される。さらに、本明細書には、体毛試料を保管するための保管試薬、及び体毛試料の採取キットが開示される。
【背景技術】
【0002】
皮膚病の診断は、問診や落屑、赤味、腫れ具合、発疹の形状、色調の変化などの視覚的判断、こわばりや発熱などの情報、さらには血液検査などの結果を総合して医師により行われている。更により詳細な視覚的な診断においてはダーモスコーピーなど優れた拡大鏡が用いられており、診断には非常に有益な方法である(非特許文献1)。これらの方法を用いて推定できない場合や内部の状態を判断する必要がある際に組織診が行われるが、通常はトレパンと呼ばれる器具等で皮膚の一部を採取し病理標本を作製する。この他非常にまれではあるが、癌等の診断に穿刺吸引により回収した試料の細胞診が行われることもある(非特許文献2)。
【0003】
また、皮膚の状態の情報は、病理的な診断以外に美容目的でも収集される。美容目的の皮膚の解析を肌診断と呼ぶことがある。肌診断は、肌質、感受性、肌の状態、肌の相対的年齢等をモニタリングする方法である。肌診断では、テープや採取具を用いて集めた角質、皮脂(特許文献1)等を解析する方法が一般的である。また、他の肌診断の方法として、マイクロスコープ等を用いて肌の外観に対し画像解析を行って肌の状態を診断する方法(特許文献2)、皮膚全体の画像解析を行って年齢を判断する方法(特許文献3)を挙げることができる。その他の肌診断方法として、肌にラバー素材等を塗布し固めて肌のレプリカを製造し、レプリカに基づいて肌のきめやシワの形状を判断するレプリカ法を挙げることができる。
【0004】
さらに、肌診断以外に、SKICON等の水分測定装置(特許文献4)を用いた電気的に測定した肌の水分量、TEWAメーターを用いて測定した水分の蒸散量等の肌の状態を示す因子を測定し、肌の状態を評価することも行われている。
【0005】
肌診断は、各個人に対する塗布剤の有効性確保や、化粧品の選択基準として用いられている。例えば、テープにより皮膚表面の角質等を採取する方法をテープストリッピングと呼び、採取された角質細胞の大きさがターンオーバーや年齢、炎症の有無を示し、有核細胞の観察は炎症や表皮バリアの正常性を示すなど、採取した試料を用いた肌診断方法から得られる情報は大きく広く肌の診断に用いられている。またレプリカを撮像した画像を使った診断によるしわの深さや頻度の測定は見た目の年齢にもよく相関することから、医薬部外品の効果基準にも用いられている。水分量の測定は皮膚の乾燥度合を、水分の蒸散量を示すTEWL値は、皮膚のバリア状態を見ることで皮膚の炎症度合と相関性が見られるなど皮膚の情報を推定することができる。また、このような情報は美容だけでなく医学的な診断にも用いられることもある。
さらに特許文献5には、皮脂に由来する核酸を用いて、被験体の遺伝子解析を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4157873号
【文献】特願2000-192793
【文献】特開2002-7568
【文献】特許第1981624号
【文献】国際公開第2018/008319号広報
【非特許文献】
【0007】
【文献】どう診る?どう治す?皮膚診療はじめの一歩~すぐに使える皮膚診療のコツとスキル 羊土社2013/11/12 宇原 久 (著)
【文献】横山繁生,卜部省悟,蒲池綾子,駄阿勉,加島健司:第2部:細胞診の実際とトピックス 24.皮膚,病理と臨床,31(臨時増刊号),379-389,2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在の化粧品においては、大枠での分類だけでなく各個人の違いに目を向けられており、各人の肌状態の違いに注目して商品を設計するテーラーメード型の化粧品等にも、優れた肌診断方法の開発は常に求められている。
【0009】
しかしながら、従来の肌診断方法は複合要因により生み出された解析結果を多くの間接的情報から総合的に判断することから、判断基準の一定化や偏見の排除が難しかった。また表面的な情報を元に内部での変化を判断するなど情報の処理についても十分な理論が確立されていないことから、評価方法確立のための情報蓄積などでも困難を伴ってきた。
【0010】
また、現状の測定方法を用いて肌状態の診断が難しい理由の一つとして、得られた試料が生きた細胞ではなくその死骸である角質や或いは脂質など分泌された物質のみであることが挙げられる。老化状態や肌状態を決定するのは細胞の活動変化であって、生きていない角質を調べて細胞の生前の状態を推定するには限界がある。逆に言えば、局部の皮膚から生細胞を取得して解析することに成功すれば、これまでのものとは一線を画した量の肌状態や年齢を示す情報を得ることが可能となる。
【0011】
皮膚において生細胞は表面に露出しておらず、任意の対象皮膚から生細胞を取得するには少なからず皮膚の侵襲が必要になる。例えば、病理標本からは正確で大量の情報を得ることができるが、侵襲を伴うため採取できる場所や症状が限られるなどの難点がある。目的が美容情報であった場合、細胞を得ることにより得る情報の大部分が肌状態や肌の老化度などとなり、このような情報を得るために侵襲的手段を選択することは消費者の利益にかなわず、受け入れられるものではない。また上述のように医療目的の診断においてもできる限り侵襲が少ない方法が、患者の利益にかなうことは議論の余地がない。そのためより低侵襲であり、より直接的に対象皮膚の細胞を解析できる方法の確立は、消費者や開発者、医療関係者により潜在的に求められてきたものである。
しかし、特許文献5に記載の方法では、皮脂の分泌が少ない被験体や、皮脂の分泌が少ない箇所では、サンプリングできる核酸量に制限がある。
上記従来法の諸問題に鑑み、本発明は、より侵襲性の低い方法により皮膚の細胞情報を得て皮膚の疾患の診断の補助等の肌の解析を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、数本の体毛サンプルからポリヌクレオチドの解析を行えることを見出した。
【0013】
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.被験体の皮膚組織の興味領域から直接採取された、毛根周囲細胞を含む体毛試料からポリヌクレオチドサンプルを調製することを含む、ポリヌクレオチドサンプルの調製方法。
項2.前記被験体がヒトであるとき、体毛試料は、頭髪試料を含まない、項1に記載の調製方法。
項3.ポリヌクレオチドがRNAである、項1又は2に記載の調製方法。
項4.項3に記載の調製方法により調製されたポリヌクレオチドサンプルを用いて、毛根周囲細胞におけるRNAの発現解析を行うことを含む、RNAの発現解析方法。
項5.前記被験体が被験因子に晒された個体であり、解析結果を、前記被験因子が被験体に及ぼす作用を評価するために使用する、項4に記載のRNAの発現解析方法。
項6.前記評価が、前記被験因子の安全性評価である、項5に記載のRNAの発現解析方法。
項7.前記評価が、前記被験因子の有用性評価である、項5に記載のRNAの発現解析方法。
項8.前記評価の指標が、前記被験因子に起因する前記被験体における肌の健康状態、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を示す指標である、項6又は7に記載のRNAの発現解析方法。
項9.ポリヌクレオチドがDNAである、項1又は2に記載の調製方法。
項10.項9に記載の調製方法により調製されたポリヌクレオチドサンプルを用いて、毛根周囲細胞由来DNAの変異解析、コピー数解析、及びDNAのメチル化解析の少なくとも一種を行うことを含む、DNAの解析方法。
項11.前記被験体が被験因子に晒された個体であり、解析結果を、前記被験因子が前記被験体に及ぼす作用を評価するために使用する、項10に記載のDNAの解析方法。
項12.前記評価が、前記被験因子の安全性評価である、項11に記載のDNAの解析方法。
項13.前記評価が、前記被験因子の有用性評価である、項11に記載のDNAの解析方法。
項14.前記被験体が被験因子に晒された個体であり、解析結果を、前記被験体における被験因子による損傷の蓄積量を評価するために使用する、項10に記載のDNAの解析方法。
項15.前記被験因子が紫外線、及び/又は加齢である、項14に記載のDNAの解析方法。
項16.毛根周囲細胞由来ポリヌクレオチドの解析を行うためのポリヌクレオチド解析装置であって、前記ポリヌクレオチドの解析装置は処理部を備え、前記処理部は、項1から3、及び項9のいずれか一項に記載の調製方法により調製されたポリヌクレオチドサンプルを用いて解析された、被験因子に晒された被験体の皮膚組織の興味領域から採取された毛根周囲細胞に由来するポリヌクレオチドの解析情報を被験情報として取得し、被験情報を、対応する基準情報と比較し、前記被験体の皮膚の興味領域における前記被験因子による皮膚の損傷の蓄積量、又は低減量を評価する、前記ポリヌクレオチド解析装置。
項17.コンピュータに実行させたときに、コンピュータに、項1から3、及び項9のいずれか一項に記載の調製方法により調製されたポリヌクレオチドサンプルを用いて解析された、被験因子に晒された被験体の皮膚組織の興味領域から採取された毛根周囲細胞に由来するポリヌクレオチドの解析情報を被験情報として取得するステップと、被験情報を、対応する基準情報と比較するステップと、前記被験体の皮膚の興味領域における前記被験因子による皮膚の損傷の蓄積量、又は低減量を評価するステップと、を備える処理を実行させる、毛根周囲細胞由来ポリヌクレオチドの解析を行うためのポリヌクレオチド解析プログラム。
項18.項1から3、及び項9のいずれか一項に記載の調製方法により調製されたポリヌクレオチドサンプルを用いて解析された、被験因子に晒された被験体の皮膚組織の興味領域から採取された毛根周囲細胞に由来するポリヌクレオチドの解析情報を被験情報として取得する工程と、被験情報を、対応する基準情報と比較する工程と、前記被験体の皮膚の興味領域における前記被験因子による皮膚の損傷の蓄積量、又は低減量を評価する工程と、を含む、毛根周囲細胞由来ポリヌクレオチドの解析を行うためのポリヌクレオチド解析方法。
項19.被験体の皮膚組織の興味領域から直接採取された、毛根周囲細胞を含む体毛試料を保存するための保管試薬であって、体毛試料に含まれるポリヌクレオチドの品質を維持し、項1から3及び9のいずれか一項に記載の調製方法に用いられる保管試薬。
項20.被験体の皮膚組織の興味領域から直接毛根周囲細胞を含む体毛試料を採取するための採取用製品と、項18に記載の保管試薬を含む、項1から3及び9のいずれか一項に記載の調製方法に用いられる体毛試料を採取するための採取キット。
【0014】
上記実施形態は、産毛或いはその他の体毛を採取し付着する毛根周囲細胞の解析を特徴とすることから、検査の対象となる皮膚の疾患部位や被験部位より容易に皮膚の細胞試料を得てポリヌクレオチドサンプルを調製し、次世代シークエンサーやリアルタイムPCR等による遺伝子情報の解析を行うことができる。現在の遺伝子情報の解析には、発現プロファイル、変異蓄積、エピジェネティクスなど種々の解析が提案、確立されていることから、これらの手法を組み合わせて用いることで、皮膚内での細胞の働きや老化状態、被験因子が与える細胞機能への影響などに関わる多量の情報を収集することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかるポリヌクレオチドサンプルの調製方法によれば、より低侵襲で皮膚細胞由来のポリヌクレオチドサンプルを取得することができる。また、取得されたポリヌクレオチドサンプルを用いて、医学分野、又は美容分野に必要な皮膚に由来する情報を収集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】解析プログラム1042の処理の概要を示す。
【
図2】ポリヌクレオチド解析情報データベースの例を示す。
【
図5】解析プログラム1042の処理の一部を示す。
【
図6】解析プログラム1042の処理の一部を示す。
【
図7】解析プログラム1042の処理の一部を示す。
【
図8】解析プログラム1042の処理の一部を示す。
【
図9】解析プログラム1042の処理の一部を示す。
【
図10】50歳代男性のDNAの変異解析結果と変異解析結果の表示例を示す。
【
図11】
図10に示す変異の位置においてheteroplasmyが判明した配列を示す。「Position」は参照配列に付された位置番号を示す。「Ref.seq.」は参照配列のヌクレオチドシーケンスを示す。「Sub.Seq.」は、参照配列に対応する被験者の配列を示す。「頻度」はリードの頻度を示す。「Depth」は各リードのシーケンスDepthを示す。
【
図12】20歳代男性のDNAの変異解析結果と変異解析結果の表示例を示す。
【
図13】
図12に示す変異の位置においてheteroplasmyが判明した配列を示す。「Position」、「Ref.seq.」、「Sub.Seq.」、「頻度」、「Depth」は、
図11と同様である。
【
図14】
図14(A)は濃度の異なるcDNAサンプルを用いたときの各遺伝子の増幅曲線を示す。
図14(B)はメルティングカーブを示す。
図14(C)にIL-1α mRNAの相対発現量を示す。
図14(D)にβ-actin mRNAの相対発現量を示す。
【
図15】GAPDH、IL-33、IL-23、IL-17、及びTNF-αの相対発現量を示す。
【
図16】
(A)はHMGB-1 mRNAの相対発現量を示す。及び(
B)はTNFα mRNAの相対発現量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.用語の説明
はじめに、本明細書において用いられる主要な用語の意味を説明する。
【0018】
「被験体」は、体毛試料を採取する個体を意図する。「個体」は、特に制限されず、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類等が挙げられる。好ましくはヒト、マウス、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ等の哺乳動物であり、より好ましくはヒト、マウス、イヌ、又はネコ等であり、さらに好ましくはヒト又はマウスであり、最も好ましくはヒトである。
【0019】
「体毛」は、個体の体表の皮膚組織に生じた毛を意図する。個体がヒトである場合、体毛には、生毛、及び硬毛を含み得る。硬毛には、頭髪、眉毛、腋毛、陰毛、及びひげ等を含み得る。好ましくは、個体がヒトである場合、体毛には頭髪を含まない。個体が鳥類である場合、体毛には、羽毛を含む。
【0020】
本明細書において、体毛は、毛球の一部又は全部を含むことが好ましい。毛球を含まない体毛は、採取時に体毛がちぎれ、細胞成分を含んでいない可能性が高いためである。したがって、「体毛試料」は、被験体の皮膚組織から直接採取され、毛根周囲細胞を含む。毛根周囲細胞は、毛包細胞、毛乳頭細胞、腺管細胞、血管上皮細胞、赤血球、白血球、血小板等の毛根周囲組織に由来する細胞を含み得る。さらに、白血球には、リンパ球、好中球、単球、好酸球、好塩基球を含み得る。また、毛根周囲細胞には、微生物及び微生物に感染された細胞を含み得る。微生物には病原体、及び皮膚の常在微生物を含み得る。微生物には、細菌、真菌、ウイルス、ダニ等を含み得る。
【0021】
体毛試料を、「直接採取する」とは、毛乳頭に結合している体毛を抜いて採取することを意図する。すなわち、体毛は、好ましくは皮膚から脱落したものを回収することを意図しない。体毛は、指、ピンセット(毛抜きを含む)、脱毛テープ、脱毛ワックス等の公知の手法により採取することができる。体毛は、ポリヌクレオチドサンプルを採取したい部位(以下、「興味領域」という)から採取しうる。体毛試料の採取は、被験体自身が行ってもよく、被験体以外の個体が採取してもよい。被験体以外の個体は、好ましくはヒトである。体毛試料を採取するヒトには、医師、看護師、理美容師、エスティシャンを含み得る。被験体がヒトである場合には、被験体自身で体毛試料を採取することが好ましい。
【0022】
ポリヌクレオチドサンプルを調製するために必要な体毛の本数は、1本から10本程度、好ましくは3本から5本程度である。体毛試料の採取部位により、後述するポリヌクレオチドの解析結果が変わってくるため、興味領域から反復して体毛試料を採取する場合には、できる限り前回の採取部位から近い部位から採取することが好ましい。
【0023】
ポリヌクレオチドには、DNA及びRNAを含み得る。DNAには、ゲノムDNA及びミトコンドリアDNAを含み得る。RNAには、メッセンジャーRNA(mRNA)、非翻訳RNA、microRNA、リボゾーマルRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)等を含み得る。RNAとして好ましくは、mRNA、非翻訳RNA、及びmicroRNAである。
【0024】
ポリヌクレオチドサンプルは、体毛試料に由来するポリヌクレオチドを含む限り制限されない。乾燥状態であっても、バッファー等に溶解されていてもよい。また、ポリヌクレオチドサンプルに含まれるポリヌクレオチドは、精製されたもの、粗精製されたもの、又は未精製のものであってもよい。
【0025】
ポリヌクレオチドサンプルには、エチレンジアミン四酢酸、β-メルカプトエタノール(又はジチオスレイトール)、ウシ血清アルブミン、塩化ナトリウム等を含んでいてもよい。
【0026】
個体には、被験因子に晒された個体が含まれる。
被験因子は、被験体に及ぼす作用を評価する対象となる因子を意図する。また、被験因子は、体毛試料を採取する興味領域が晒される因子である。被験因子には、化合物;核酸;糖質;脂質;糖タンパク質;糖脂質;リポタンパク質;アミノ酸;ペプチド;タンパク質;ポリフェノール類;ケモカイン;前記物質の終末代謝産物、中間代謝産物、及び合成原料物質からなる群から選択される少なくとも一種の代謝物質;金属イオン;又は微生物等の物質が含まれうる。また、前記物質は、単体でもよいが複数種の物質が混合したものであってもよい。好ましくは、物質には、医薬品、医薬部外品、薬用化粧品、食品、特定保健用食品、機能性表示食品及びこれらの候補品等が含まれる。また、被験因子は、物質以外の因子を含み得る。例えば、物質以外の被験因子として、光、放射線、大気等の環境因子;ホルモン状態等の生理的因子を挙げることができる。光には、紫外線、赤外線、可視光等を含み得る。放射線には、α線、β線、γ線、X線等を含み得る。大気には、屋内又は屋外の湿度、温度等を含み得る。生理的因子には、年齢(加齢)、睡眠時間、体重制御、月経の有無、ストレスを含み得る。
【0027】
被験因子は、被験体において肌の健康状態の不良、皮膚疾患の兆候及び皮膚疾患の少なくとも1つを惹起することがある。被験因子に起因し、肌の健康状態の不良、皮膚疾患の兆候又は皮膚疾患が惹起されたか否かの推定は、評価の指標が、肌の健康状態の不良、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患の発症を示唆しているか否かを決定することにより行われる。
【0028】
被験因子は、被験体において肌の健康状態の改善又は良好な状態の維持、或いは皮膚疾患の兆候や皮膚疾患を低減、又は抑制することがある。被験因子に起因し、肌の健康状態が改善された又は良好な状態が維持されているか否かの推定、或いは皮膚疾患の兆候又は皮膚疾患が低減又は抑制されたか否かの推定は、評価の指標が、肌の健康状態の改善又は良好な状態の維持、或いは皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患の低減又は抑制を示唆しているかいなかを決定することにより行われる。
【0029】
ここで、皮膚疾患には、炎症性疾患、腫瘍性疾患等を含み得る。炎症性疾患には、毛包炎(毛嚢炎)、皮膚炎を含み得る。皮膚炎には、非アレルギー疾患とアレルギー疾患等を含み得る。アレルギー疾患には、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、乾癬等を含み得る。腫瘍性疾患には、良性腫瘍、悪性腫瘍を含み得る。悪性腫瘍には、皮膚癌(特に、扁平上皮癌)、悪性黒色腫等を含み得る。
【0030】
皮膚炎の兆候には、まだ肉眼的、被験体の自覚症状として皮膚に症状は出ていないものの、毛包周囲組織に白血球等の浸潤が認められる、毛包周囲組織における炎症性マーカーの発現が上昇している状態をいう。
【0031】
肌の健康状態には、肌のはり、肌のきめ、肌の水分量、1細胞あたりのミトコンドリア量等の状態が含まれ得る。肌の健康状態の評価は「肌診断」とも呼ばれる。
前記評価の指標は、肌の健康状態、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を示唆するものである限り制限されない。
【0032】
評価の指標には、ポリヌクレオチドがRNAである場合には、肌の健康状態、皮膚疾患の兆候又は皮膚疾患を評価可能な遺伝子の発現が含まれる。例えば、TNF-α、インターロイキン-1等の炎症の際に発現が上方する遺伝子の発現を挙げることができる。インターロイキン-33、インターロイキン-17、インターロイキン-23等はリンパ球や抗原提示細胞等で炎症時に発現される遺伝子であるが、毛根周囲組織へ浸潤した炎症細胞の有無、又は量の評価に使用することができる。マトリックスメタロプロテアーゼ-1、中性エンドペプチダーゼ、ヒアルロニダーゼ-1等は、紫外線照射に伴って発現が上昇する遺伝子であり、コラーゲン繊維、エラスチン繊維等の肌のはりを維持するために必要なタンパク質や肌のきめや水分量を維持するヒアルロン酸を分解することが知られている。このため、これらの遺伝子は、肌の健康状態の劣化の指標として使用することができる。I型コラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、及びヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現は、肌のはり、肌のきめ、肌の水分量の維持に必要な遺伝子であるため、これらの遺伝子発現は、肌の健康状態の改善、又は肌の健康状態の維持の指標として使用することができる。
【0033】
ポリヌクレオチドがDNAである場合には、肌の健康状態、皮膚疾患の兆候又は皮膚疾患を評価可能な、DNAの変異、コピー数又はDNAのメチル化の少なくとも一種が含まれる。DNAの変異は、指標として、ゲノムDNA及び/又はミトコンドリアDNA全体、又は特定の遺伝子における変異数、特定の遺伝子内の特定の変異の有無を含み得る。コピー数には、特定の遺伝子のコピー数、ミトコンドリアDNAのコピー数を含み得る。DNAのメチル化には、ゲノムDNA及び/又はミトコンドリアDNA全体、又は特定の遺伝子におけるメチル化の有無、ポリヌクレオチドサンプル内でのメチル化の程度を含む。
【0034】
また、ミトコンドリアDNAに存在するND1遺伝子、ND5遺伝子、SLCO2B1遺伝子、及びSERPINA1遺伝子等のポリヌクレオチドサンプル中のコピー数は、1細胞あたりのミトコンドリア数に換算することができる。ミトコンドリア数は、肌年齢の評価に使用することができる。
【0035】
2.ポリヌクレオチドサンプルの調製方法、体毛試料の保管試薬及び体毛試料の採取キット
(1)ポリヌクレオチドサンプルの調製方法
体毛試料からのポリヌクレオチドサンプルの調製は、公知の方法にしたがって行うことができる。
【0036】
ポリヌクレオチドがDNAの場合には、例えば、皮膚組織から採取した体毛試料を所定の溶解液に加え、プロティナーゼK等の蛋白分解酵素で処理した後、フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿を行うことにより、DNAを抽出することができる。
【0037】
ポリヌクレオチドがRNAの場合には、例えば、皮膚組織から採取した体毛試料をグアニジン等を含む溶解液に加え、溶解した後、フェノール/クロロホルム抽出及びイソプロピルアルコール沈殿を行うことにより、RNAを抽出することができる。
【0038】
ポリヌクレオチドをエタノール沈殿、又はイソプロピルアルコール沈殿する際には、サケ精子由来DNA、酵母由来tRNA、グリコーゲン等の共沈物質を添加してもよい。
【0039】
ポリヌクレオチドは、フェノール/クロロホルム精製、及びエタノール沈殿、又はイソプロピルアルコール沈殿による精製に替えて、シリカメンブレン等を使用してカラム精製してもよい。
また、ポリヌクレオチドの抽出には、市販の核酸抽出試薬、又は核酸抽出キットを使用してもよい。
ここで、抽出されるポリヌクレオチドは、主に毛根周囲細胞に由来する。
【0040】
(2)体毛試料の保管試薬
体毛試料の保管試薬は、ポリヌクレオチドの品質を維持できる限り制限されない。ポリヌクレオチドの品質は、ポリヌクレオチドのフラグメンテーション、分解を指標に評価することができる。体毛試料から抽出されるポリヌクレオチドは微量であるため、ポリヌクレオチドのフラグメンテーション、又は分解は、例えば、抽出したポリヌクレオチドを鋳型として、後述するハウスキーピング遺伝子をコードするDNA配列、又はRNA配列に対して、PCR又はRT-PCRを行い、増幅し、一定サイズの増幅産物が得られるかいなかで評価することができる。一定サイズとは、例えば200bp以上、好ましくは500bp以上を例示することができる。
【0041】
ポリヌクレオチドがDNAの場合には、例えば、所定の溶解液等を皮膚組織から採取した体毛試料をDNA抽出まで保存するための保管試薬として使用することができる。溶解液には、pHを調製するための緩衝液(例えば、終濃度で10mM~100mM程度のTris HClバッファーであって、pH7.0~8.5は程度)、キレート剤(終濃度で0.5mM~2mM程度のエチレンジアミン四酢酸)、塩(例えば、150mM程度のNaCl)、界面活性剤(例えば、終濃度で0.1重量/容積%から1%重量/容積程度のラウリル硫酸ナトリウム)、溶媒としての水等を含み得る。さらに保管試薬には、フェノールを含んでいてもよい。
【0042】
ポリヌクレオチドがRNAの場合には、例えば、所定の溶解液等を皮膚組織から採取した体毛試料をRNA抽出まで保存するための保管試薬として使用することができる。溶解液には、タンパク質変性剤(例えば、終濃度で4M程度のグアニジンチオシアネート溶液)、溶媒としての水等を含み得る。さらに保管試薬には、ジチオスレイトール又はβメルカプトエタノール(1mMから2mM程度)、酢酸ナトリウム(終濃度で200mM程度)、フェノールを含んでいてもよい。
【0043】
ここで、保管試薬は、市販のDNA又はRNA抽出試薬を使用してもよい。また、ISOGEN(ニッポンジーン)、TRI reagent(商標)(Molecular Research Center, Inc.)等のDNA及びRNAの両方を抽出可能な試薬を保管試薬として使用してもよい。
【0044】
(3)体毛試料の採取キット
体毛試料の採取キットには、例えば、上記2.(2)で述べた保管試薬と体毛試料を採取するための採取用製品を含み得る。採取用製品として、ピンセット(毛抜き)、脱毛テープ、脱毛ワックスを例示することができる。採取キットには、さらにポリヌクレオチドを抽出するための、フェノール試薬、クロロホルム試薬(イソアミルアルコールを含む)及びこれらの混合液を含んでいてもよい。また、Proteinase K等のタンパク質分解酵素、エタノール又はイソプロピルアルコール、グリコーゲン等を含んでいてもよい。
【0045】
さらに、採取キットには、キットの取扱説明書、キットの取扱説明書にインターネットを介してアクセスするための、URL、QRコード(商標)等を記載した用紙が添付されていてもよい。
3.RNAの発現解析方法
本実施形態はRNAの解析方法に関する。
【0046】
3-1.RNAの測定値の取得
上記2.において調製されたRNAを含むポリヌクレオチドサンプルは、RNAの発現解析に使用することができる。発現解析の対象となるRNAを「興味RNA」と呼ぶ。
【0047】
RNAの発現解析は、公知の方法にしたがって行うことができる。RNAの発現解析方法は、発現量を定量的に評価できることが好ましい。例えば、RNAの発現量の定量的な評価方法は、リアルタイムRT-PCR、マイクロアレイ、デジタルPCR、RNA-Seq等を挙げることができる。
【0048】
リアルタイムRT-PCRによる定量は、はじめに体毛試料から抽出したRNAを鋳型として逆転写反応を行いcDNAを得る。得られたcDNAを鋳型として目的とするRNAに特異的なプライマーを使用してリアルタイムPCR法等で解析することにより行うことができる。リアルタイムRT-PCRによる興味RNAの発現量は、Threshold Cycle(Ct)値、ΔCt値等で表してもよい。Ct値とは、PCR増幅産物がある一定量に達したときのサイクル数である。ΔCt値は、興味RNAのCt値と、後述するハウスキーピング遺伝子のCt値との差である。
【0049】
マイクロアレイによる解析は、はじめに体毛試料から抽出したRNAを鋳型として逆転写反応を行い、得られたcDNAにプライマーサイト等をタギングした鋳型DNAを調製する。タギングしたcDNAを蛍光標識しながら増幅し、蛍光標識された増幅産物をマイクロアレイ上のプローブにハイブリダイズする。マイクロアレイ上の蛍光強度を測定することにより、RNAを定量化することができる。
【0050】
RNA-Seqは、体毛試料から抽出したRNAを断片化し、これを鋳型として逆転写反応によるcDNAの合成とライブラリ作成を行う。各ライブラリに含まれる断片について次世代シークエンサーにより塩基配列を決定し、その情報をNational Center for Biotechnology Information (NCBI)等に登録されている公知のReference genome配列にマッピングし、シーケンシングによって得られた各遺伝子のリード数をRPKM(Reads Per Killobases per Million)として表す。RPKMは、ヒートマップ等のシグナルの強度として表してもよい。次世代シークエンサーとしては、例えば、イルミナ社(サンディエゴ、CA)のMiSeq(商標)、HiSeq(商標)、NextSeq(商標)、MiniSeq(商標)、NovaSeq(商標);サーモ・フィッシャー社(ウォルサム、MA)のIon Proton(商標)、Ion PGM(商標);ロシュ社(バーゼル、スイス)のGS FLX +(商標)、GS Junior(商標)等が挙げられる。
【0051】
リアルタイムRT-PCR、マイクロアレイ、RNA-Seq等によって取得されるRNAの発現量を反映した値を、「RNAの測定値」ともいう。RNAの測定値は、一定量の検体中に存在する興味RNAのコピー数(絶対量)で表されてもよい。また、RNAの測定値は、β2-ミクログロブリンmRNA、GAPDH mRNA、Maea mRNA及びβ-アクチン mRNA等のハウスキーピング遺伝子の発現量に対する相対発現量を反映した値であってもよい。或いは、RNAの測定値は、蛍光や発光などのシグナルの強度で表されてもよい。
【0052】
また、興味RNAの測定値は、例えば陽性対照又は陰性対照の体毛試料から取得された興味RNAの発現量に対する、被験体の体毛試料から取得されたRNAの発現量の相対値で表されてもよい。
【0053】
陽性対照としては、例えば、被験因子に晒された個体、疾患を有する個体等を挙げることができる。陰性対照としては、被験因子に晒されていない個体、疾患を有さない個体(例えば、健常個体)を挙げることができる。このとき、陽性対照又は陰性対照の体毛試料と被験体の体毛試料とは、同じ部位から採取されることが好ましい。これは、体毛試料の採取部位によって、RNAの発現量が変化することがあるためである。
【0054】
また、陽性対照の体毛試料と陰性対照の体毛試料を1個体から採取してもよい。例えば、1個体の背部の矢状面(sagittal plane)を挟む左右の領域において、一方の領域を被験因子に晒し陽性対象の体毛試料を採取し、被験因子に晒した部位の体側から被験試料に晒されていない陰性対照の体毛試料を採取してもよい。この組み合わせは、例えば矢状面に替えて、冠状面(coronal plane)を挟む背部領域と腹部領域、横断面(transverse plane)を挟む上下領域であってもよい。さらに、これは、体毛試料の採取部位によって、RNAの発現量が変化することがあるためである。
【0055】
3-2.RNAの測定値を用いた被験因子が被験体に及ぼす作用の評価
被験因子に晒された個体から採取された体毛試料から取得されたRNAの測定値は、被験因子の安全性評価、又は有用性評価に使用することができる。この場合、使用されるRNAの測定値は、被験因子に起因する被験体における皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を示す評価の指標となる遺伝子から発現されるRNAの測定値である。評価の指標となる遺伝子は、上記1.で述べたとおりである。
【0056】
安全性試験を行う場合、一般的には、少なくとも皮膚については健常な個体を被験体とし、被験因子に晒す。そして、例えば、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を示す評価の指標となる興味RNAの測定値が、被験体と被験因子との接触に依存して変化した場合に、被験因子が被験体に対して安全性を欠くことを示唆していると決定することができる。
【0057】
被験因子に晒された被験体の体毛試料において興味RNAの測定値が変化しているか否かは、例えば被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値を、興味RNAと同じRNAの測定値の基準値と比較することにより決定することができる。
【0058】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存して発現が上昇するRNAの場合であって、陰性対照の体毛試料に由来するRNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値よりも高くなった場合に、興味RNAの測定値が変動したと判定することができる。
【0059】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存して発現が上昇するRNAの場合であって、陽性対照の体毛試料に由来するRNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値に近づくか、基準値よりも高くなった場合に、興味RNAの測定値が変動したと判定することができる。
【0060】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存して発現が低下するRNAの場合であって、陰性対照の体毛試料に由来するRNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が、基準値よりも低くなった場合に、興味RNAの測定値が変動したと判定することができる。
【0061】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存して発現が低下するRNAの場合であって、陽性対照の体毛試料に由来するRNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値は基準値に近づくか、基準値よりも低くなった場合に、興味RNAの測定値が変動したと判定することができる。
また、基準値は、陽性対照又は陰性対照に変えて、被験因子に晒される前の被験体から採取した体毛試料に由来する興味RNAの測定値であってもよい。
【0062】
有用性試験を行う場合、一般的には、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を有する個体を被験体とし、被験因子に晒す。そして、例えば、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を示す評価の指標となる興味RNAの測定値が、被験体と被験因子との接触に依存して改善した場合に、被験因子が、被験体が有している皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患に対して有用であることを示唆していると決定することができる。
【0063】
被験因子に晒された被験体の体毛試料において興味RNAの測定値が改善しているか否かは、例えば被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値を、興味RNAと同じRNAの測定値の基準値と比較することにより決定することができる。
【0064】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存して発現が上昇するRNAの場合であって、陰性対照の体毛試料に由来するRNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値に近づくか、基準値よりも低くなった場合に、興味RNAの測定値が改善したと判定することができる。
【0065】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存して発現が上昇するRNAの場合であって、陽性対照の体毛試料に由来するRNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値よりも低くなった場合に、興味RNAの測定値が改善したと判定することができる。
【0066】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存して発現が低下するRNAの場合であって、陰性対照の体毛試料に由来するRNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値に近づくか、基準値よりも高くなった場合に、興味RNAの測定値が改善したと判定することができる。
【0067】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存して発現が低下するRNAの場合であって、陽性対照の体毛試料に由来するRNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値よりも高くなった場合に、興味RNAの測定値が改善したと判定することができる。
【0068】
基準値として、陰性対照に替えて、被験因子に晒される前の同一被験体から採取した体毛試料に由来する興味RNAの測定値を使用してもよい。さらに基準値は、同一被験体において、被験因子に晒された部位と晒されていない部位が存在する場合、陰性対照に替えて、被験因子に晒されていない部位から採取した体毛試料に由来する興味RNAの測定値を使用してもよい。
【0069】
基準値として、陽性対照に替えて、被験因子に晒された後の同一被験体から採取した体毛試料に由来する興味RNAの測定値を使用してもよい。さらに基準値は、同一被験体において、被験因子に晒された部位と晒されていない部位が存在する場合、陽性対照に替えて、被験因子に晒された部位から採取した体毛試料に由来する興味RNAの測定値を使用してもよい。
【0070】
さらに基準値は、陽性対照群、又は陰性対照群の平均値、最頻値、中央値、最低値、最高値、第一四分位、第三四分位等を採用してもよい。また、陽性対照群及び陰性対照群を最も精度よく判別できる値を基準値としてもよい。最も精度よく判別できる値は、例えば、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率等に基づいて決定することができる。
【0071】
ここで、基準値よりも高いとは、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値の、例えば115%以上、好ましくは130%以上、より好ましくは150%以上になっている場合を意図する。
【0072】
また、基準値よりも低いとは、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値の、例えば85%未満、好ましくは70%未満、より好ましくは50%未満になっている場合を意図する。
基準値に近づくとは、例えば、被験体の体毛試料に由来する興味RNAの測定値が基準値の85%以上、115%未満の範囲である場合を意図する。
4.DNAの解析方法
本実施形態は、DNAの解析方法に関する。
【0073】
4-1.DNAの測定値の取得
上記2.において調製されたDNAを含むポリヌクレオチドサンプルは、DNAの変異解析、コピー数解析、及びDNAのメチル化解析の少なくとも一種に使用することができる。
【0074】
DNAの変異解析、コピー数解析、又はDNAのメチル化解析は、公知の方法にしたがって行うことができる。
【0075】
(1)DNAの変異解析
DNAの変異の解析方法として、例えば、DNAシーケンシングを挙げることができる。DNAシーケンシングは、例えば、はじめに被験体の体毛試料から抽出したDNAを断片化し、プライマーサイト等をタギングしたDNAライブラリを調製する。このライブラリをPCR等で増幅し、シーケンシングに供する。シーケンシングは、例えば次世代シークエンサーを用いて行うことができる。得られた被験体のDNAのヌクレオチド配列を公知のReference genome配列、日本人の平均的ミトコンドリア配列AF346990にマッピングし、変異の有無や変異の数、及び変異箇所を検出することができる。次世代シークエンサーは、上記3-1.に例示したとおりである。DNAの変異解析は、ポリヌクレオチドサンプルに含まれているDNA全体に対して行ってもよいが、特定の遺伝子、マイクロサテライト等の特定の遺伝子座の領域を増幅し、その領域についてのみ行ってもよい。
【0076】
(2)遺伝子座のコピー数解析
遺伝子座のコピー数の解析方法として、リアルタイムPCR、マイクロアレイ、DNAシーケンシング等を挙げることができる。
【0077】
リアルタイムPCRによる遺伝子座のコピー数定量は、ポリヌクレオチドサンプルに含まれるDNAを鋳型として目的とする遺伝子座に特異的なプライマーを使用してリアルタイムPCR法等で解析することにより行うことができる。DNAのコピー数は、Ct値、ΔCt値等で表してもよい。
【0078】
マイクロアレイによる遺伝子座のコピー数定量は、はじめに体毛試料から抽出したDNAにプライマーサイト等をタギングした鋳型DNAを調製する。タギングしたDNAを蛍光標識しながら増幅し、蛍光標識された増幅産物をマイクロアレイ上のプローブにハイブリダイズする。マイクロアレイ上の蛍光強度を測定することにより、DNAを定量化することができる。
【0079】
DNAシーケンシングによる遺伝子座のコピー数定量は、はじめに体毛試料から抽出したDNAの合成とライブラリ作成を行う。各ライブラリに含まれる断片について次世代シークエンサーによりヌクレオチド配列を決定し、その情報を公知のReference genome配列し、各遺伝子座のリード数をRPKMとして表す。RPKMは、ヒートマップ等のシグナルの強度として表してもよい。
【0080】
遺伝子座のコピー数解析は、ポリヌクレオチドサンプルに含まれるDNA全体に対して行ってもよいが、特定の遺伝子座の領域を増幅し、その領域についてのみ行ってもよい。また、遺伝子座のコピー数解析は、ゲノムDNAに対して行ってもよいが、ミトコンドリアDNAに対して行ってもよい。特にミトコンドリアDNAのコピー数は、皮膚の状態と相関することが報告されている。ミトコンドリアDNAのコピー数は、ポリヌクレオチドサンプルに含まれるDNA全体における、ND1遺伝子、SLCO2B1遺伝子、ND5遺伝子、及びSERPINA1遺伝子等のCt値からhttps://www.takara-bio.co.jp/research/r/mtdna_monitoring_tool/等のプログラムを使って算出することができる。
【0081】
(3)DNAのメチル化解析
DNAのメチル化の解析方法として、例えばポリヌクレオチドサンプルに含まれるDNAにバイサルファイト処理を行って、非メチル化シトシンをウラシルに変えてから、特定の遺伝子座のヌクレオチド配列をPCR、リアルタイムPCR又はシークエンシングで解析する方法を挙げることができる。また、メチル化感受性制限酵素により、ポリヌクレオチドサンプルに含まれるDNAのメチル化部位を切断してから、特定の遺伝子座の領域をPCR又はリアルタイムPCRにより特定の遺伝子座の領域が切断されたか否かを判定することにより、メチル化を検出することができる。
【0082】
(4)興味DNAの測定値
DNAの変異解析によって得られる変異の数を表す値、コピー数解析によって得られる遺伝子座のコピー数の値、DNAのメチル化の解析によって得られるメチル化の程度を表す値は、総称して「DNAの測定値」と呼ぶ。また、解析対象となっている特定の遺伝子座を「興味遺伝子座」ともいう。
【0083】
興味DNAの測定値は、例えば陽性対照又は陰性対照の体毛試料から取得された興味DNAの測定値に対する、被験体の体毛試料から取得されたDNAの測定値の相対値で表されてもよい。
【0084】
陽性対照としては、例えば、被験因子に晒された個体、疾患を有する個体等を挙げることができる。陰性対照としては、被験因子に晒されていない個体、疾患を有さない個体(例えば、健常個体)を挙げることができる。このとき、陽性対照又は陰性対照の体毛試料と被験体の体毛試料とは、同じ部位から採取されることが好ましい。これは、体毛試料の採取部位によって、RNAの発現量が変化することがあるためである。これは、体毛試料の採取部位によって、DNAの変異の入り方、コピー数、メチル化の程度が変化することがあるためである。
【0085】
また、陽性対照の体毛試料と陰性対照の体毛試料を1個体から採取してもよい。例えば、1個体の背部の矢状面(sagittal plane)を挟む左右の領域において、一方の領域を被験因子に晒し陽性対象の体毛試料を採取し、被験因子に晒した部位の体側から被験試料に晒されていない陰性対照の体毛試料を採取してもよい。この組み合わせは、例えば矢状面に替えて、冠状面(coronal plane)を挟む背部領域と腹部領域、横断面(transverse plane)を挟む上下領域であってもよい。さらに、これは、体毛試料の採取部位によって、RNAの発現量が変化することがあるためである。
4-2.DNAの測定値を用いた被験因子が被験体に及ぼす作用の評価
【0086】
被験因子に晒された個体から採取された体毛試料から取得されたDNAの測定値は、被験因子の安全性評価、又は有用性評価に使用することができる。この場合、使用されるDNAの測定値は、被験因子に起因する被験体における皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を示す評価の指標となる遺伝子座のDNAの測定値である。評価の指標となる遺伝子は、上記1.で述べたとおりである。
【0087】
安全性試験を行う場合、一般的には、少なくとも皮膚については健常な個体を被験体とし、被験因子に晒す。そして、例えば、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を示す評価の指標となる興味DNAの測定値が、被験体と被験因子との接触に依存して変化した場合に、被験因子が被験体に対して安全性を欠くことを示唆していると決定することができる。
【0088】
被験因子に晒された被験体の体毛試料において興味DNAの測定値が変化しているか否かは、例えば被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値を、興味DNAと同じDNAの測定値の基準値と比較することにより決定することができる。
【0089】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存してDNAの測定値が上昇するDNAの場合であって、陰性対照の体毛試料に由来するDNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値よりも高くなった場合に、興味DNAの測定値が変動したと判定することができる。
【0090】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存してDNAの測定値が上昇するDNAの場合であって、陽性対照の体毛試料に由来するDNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値に近づくか、基準値よりも高くなった場合に、興味DNAの測定値が変動したと判定することができる。
【0091】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存してDNAの測定値が低下するDNAの場合であって、陰性対照の体毛試料に由来するDNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が、基準値よりも低くなった場合に、興味DNAの測定値が変動したと判定することができる。
【0092】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存してDNAの測定値が低下するDNAの場合であって、陽性対照の体毛試料に由来するDNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値は基準値に近づくか、基準値よりも低くなった場合に、興味DNAの測定値が変動したと判定することができる。
また、基準値は、陽性対照又は陰性対照に変えて、被験因子に晒される前の被験体から採取した体毛試料に由来する興味DNAの測定値であってもよい。
【0093】
有用性試験を行う場合、一般的には、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を有する個体を被験体とし、被験因子に晒す。そして、例えば、皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患を示す評価の指標となる興味DNAの測定値が、被験体と被験因子との接触に依存して改善した場合に、被験因子が、被験体が有している皮膚疾患の兆候、又は皮膚疾患に対して有用であることを示唆していると決定することができる。
【0094】
被験因子に晒された被験体の体毛試料において興味DNAの測定値が改善しているか否かは、例えば被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値を、興味DNAと同じDNAの測定値の基準値と比較することにより決定することができる。
【0095】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存してDNAの測定値が上昇するDNAの場合であって、陰性対照の体毛試料に由来するDNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値に近づくか、基準値よりも低くなった場合に、興味DNAの測定値が改善したと判定することができる。
【0096】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存してDNAの測定値が上昇するDNAの場合であって、陽性対照の体毛試料に由来するDNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値よりも低くなった場合に、興味DNAの測定値が改善したと判定することができる。
【0097】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存してDNAの測定値が低下するDNAの場合であって、陰性対照の体毛試料に由来するDNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値に近づくか、基準値よりも高くなった場合に、興味DNAの測定値が改善したと判定することができる。
【0098】
例えば、被験因子に晒されたとき、或いは疾患に依存してDNAの測定値が低下するDNAの場合であって、陽性対照の体毛試料に由来するDNAの測定値を基準値とする場合、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値よりも高くなった場合に、興味DNAの測定値が改善したと判定することができる。
【0099】
基準値として、陰性対照に替えて、被験因子に晒される前の同一被験体から採取した体毛試料に由来する興味DNAの測定値を使用してもよい。さらに基準値は、同一被験体において、被験因子に晒された部位と晒されていない部位が存在する場合、陰性対照に替えて、被験因子に晒されていない部位から採取した体毛試料に由来する興味RNAの測定値を使用してもよい。
【0100】
基準値として、陽性対照に替えて、被験因子に晒された後の同一被験体から採取した体毛試料に由来する興味DNAの測定値を使用してもよい。さらに基準値は、同一被験体において、被験因子に晒された部位と晒されていない部位が存在する場合、陽性対照に替えて、被験因子に晒された部位から採取した体毛試料に由来する興味DNAの測定値を使用してもよい。
【0101】
さらに基準値は、陽性対照群、又は陰性対照群の平均値、最頻値、中央値、最低値、最高値、第一四分位、第三四分位等を採用してもよい。また、陽性対照群及び陰性対照群を最も精度よく判別できる値を基準値としてもよい。最も精度よく判別できる値は、例えば、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率等に基づいて決定することができる。
【0102】
ここで、基準値よりも高いとは、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値の、例えば115%以上、好ましくは130%以上、より好ましくは150%以上になっている場合を意図する。
【0103】
また、基準値よりも低いとは、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値の、例えば85%未満、好ましくは70%未満、より好ましくは50%未満になっている場合を意図する。
基準値に近づくとは、例えば、被験体の体毛試料に由来する興味DNAの測定値が基準値の85%以上、115%未満の範囲である場合を意図する。
【0104】
5.被験因子による皮膚の損傷の蓄積又は低減の評価
本実施形態は、同一被験体において、被験因子による皮膚の損傷の蓄積又は低減を評価することに関する。
【0105】
5-1.皮膚の損傷の蓄積又は低減の評価の概要
ポリヌクレオチドの測定値は、被験因子によって皮膚に損傷が蓄積しているか否かを評価することができる。体毛試料には、毛根周囲細胞が含まれ、毛根周囲細胞には、皮膚上皮細胞、腺細胞、腺管細胞、毛乳頭細胞及びこれらの幹細胞を含み得る。一般的に、皮膚上皮細胞等の幹細胞から分化した細胞のターンオーバーは、約6週間といわれている。つまり、幹細胞から成熟し始めた上皮細胞等は約6週間かけて分化成熟し、死滅する。しかし、このサイクルは、被験因子として例示されている様々な環境因子、生理的因子等により影響を受け得る。さらに、被験因子によって、幹細胞に損傷が起こった場合には、その影響は皮膚上皮のターンオーバー期間を超えて残存することとなる。
【0106】
本実施形態は、毛根周囲細胞由来ポリヌクレオチドの解析を行うための方法であり、環境因子、生理的因子等の被験因子による皮膚の損傷がどの程度蓄積しているか、又はどの程度低減しているかを評価する。
本実施形態の流れを
図1に示す。
【0107】
具体的には、上記2.に記載の調製方法により調製されたポリヌクレオチドサンプルを用いて解析された、被験因子に晒された被験体の皮膚組織の興味領域から採取された毛根周囲細胞に由来するポリヌクレオチドの解析情報を被験情報として取得する工程(ステップS1)と、被験情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値に対応する基準値を含む基準情報を取得する工程(ステップS2)と、被験情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値を、対応する基準値と比較する工程と、被験体の皮膚の興味領域における前記被験体における被験因子による皮膚の損傷の蓄積量、又は低減量を評価する工程(ステップS3)と、を含み得る。これらの工程は、ヒトが行っても、コンピュータが行ってもよい。コンピュータが上記工程を行う場合には、ステップS4として、結果を出力する工程を含み得る。
【0108】
ステップS1では、上記2.に記載の調製方法により調製されたポリヌクレオチドサンプルを用いて、上記3.及び4.に記載された方法にしたがって、RNAの測定値又はDNAの測定値をポリヌクレオチドの測定値として取得する。ポリヌクレオチドの測定値は、例えば、その測定値を取得した被験体を特定するための情報及び体毛試料の採取日等の情報と紐付けられて、ポリヌクレオチドの解析情報を構成する。被験体を特定するための情報には、各被験体の識別子及び/又は被験体の氏名等が含まれ得る。また、被験体を特定するための情報には、各被験体の生物種別、各被験体の性別、年齢、月齢、週齢等が紐付けられていてもよい。さらに、被験体を特定するための情報には、被験体の基礎疾患等が紐付けられていてもよい。
【0109】
ポリヌクレオチドの解析情報には、被験体が晒された被験因子を特定するための情報が紐付けられていてもよい。被験因子を特定するための情報には、被験因子の名称及び/又は識別子、曝露量、暴露期間等が紐付けられていてもよい。ポリヌクレオチドの解析情報には、試料の採取部位、抽出したポリヌクレオチドの種類が含まれていてもよい。
【0110】
1つのポリヌクレオチドの解析情報は、一時点で採取された体毛試料毎に精製され、データベースに格納され得る。
図2にデータベースとして格納されたポリヌクレオチドの解析情報のテーブルを例示する。このテーブルは、後述するポリヌクレオチド解析情報データベースDB1に対応する。
図2の第1行目は、各ポリヌクレオチド解析情報を識別するための識別子(例えば、識別ID)を示す。ポリヌクレオチド解析情報を識別するための識別子は、それぞれのポリヌクレオチド解析情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値、及び/又は配列情報が紐付けられている。第2行目は、各ポリヌクレオチド解析情報が由来する被験体の生物種別を表す。
図2では、生物種別として「ヒト」が示されている。第3行目は、被験体の識別子(識別ID)を示す。ポリヌクレオチド解析情報IDの「1」と「2」で表されるポリヌクレオチド解析情報は、同一被験体から採取されているため、被験体IDは、同じ「1」となっている。ポリヌクレオチド解析情報IDの「3」と「4」で表されるポリヌクレオチド解析情報は、同一被験体から採取されているため、被験体IDは、同じ「2」となっている。第4行目は、被験体の氏名を表す。被験体の氏名は、被験体IDに対応する。被験体がヒトでない場合には、被験体氏名はなくてもよい。第5行目は、各被験体の性別を示す。第6行目は、各被験体の年齢を示す。第7行目は、被験体の基礎疾患を示す。被験体ID「1」で示される被験体は、基礎疾患として色素性乾皮症を有している。被験体ID「2」で示される被験体は、基礎疾患は有していない。第8行目は、体毛試料等の採取部位を示す。第9行目は、試料の採取日を示す。第10行目は、被験体が暴露された被験因子を示す。被験因子は、皮膚の興味領域が晒された因子である。第11行目は、皮膚の興味領域が被験因子に晒された期間を示す。
【0111】
本実施形態において、被験情報は、被験因子に晒された興味領域から取得された体毛試料であって、被験因子による皮膚の損傷の蓄積量、又は低減量を評価する目的で、評価したいタイミングで採取された体毛試料から取得されたポリヌクレオチドの解析情報を意図する。
【0112】
本実施形態において、基準情報は、被験情報に基づいて被験因子による皮膚の損傷の蓄積量、又は低減量を評価するために使用される基準となるポリヌクレオチドの解析情報である。基準情報として使用されるポリヌクレオチドの解析情報は、体毛試料から取得されても、体毛以外の試料から取得されてもよい。また、基準情報として使用されるポリヌクレオチドの解析情報は、公知のデータベースに登録されている参照配列から取得されるポリヌクレオチドの解析情報であってもよい。例えば、皮膚に被験因子が与えた損傷の蓄積量、又は低減量をある一時点で評価する場合、基準情報は、被験因子に晒されていない皮膚、又は皮膚以外の組織(例えば、口腔粘膜、鼻腔粘膜等)から取得することができる。また、皮膚に被験因子が与えた損傷の蓄積量、又は低減量をある一時点で評価する場合、基準情報として、National Center for Biotechnology Information (NCBI)等に登録されている公知のReference genome配列等を使用することができる。
【0113】
また、皮膚に被験因子が与えた損傷の蓄積量、又は低減量を経時的に評価する場合には、基準情報は、同一被験体の同一興味領域であって、被験情報を取得する体毛試料を採取する前の興味領域から採取した体毛試料から取得することができる。例えば、被験情報を取得する体毛試料を採取する1週間前、2週間前、4週間前、6週間前、3ヶ月前、6ヶ月前、1年前、2年前、3年前、5年前、8年前、10年前、15年前、及び20年前から選択される少なくとも一時点に、被験情報を取得した個体と同一個体の同一興味領域から採取した体毛試料からポリヌクレオチドの解析情報を取得し、これを基準情報とすることができる。個体がマウス等の近傍系個体を得られる動物の場合には、前記同一個体は、同一系統の個体集団、又は同一系統の別個体であってもよい。
【0114】
5-2.ポリヌクレオチド解析装置
本実施形態は、上記5-1.の概要で述べたポリヌクレオチドの解析方法を実現するための解析装置10に関する。以下
図3及び
図3を用いて解析装置10のハードウエア構成及び機能構成について説明する。
【0115】
(1)ハードウエア構成
図3に、解析装置10のハードウエア構成を示す。解析装置10は、汎用コンピュータであり得る。解析装置10は、入力デバイス111と、出力デバイス112と、メディアドライブ113と通信可能に接続されている。また解析装置10は、ネットワークを介して参照配列データベース(参照配列DB)500、測定装置30と通信可能である。
【0116】
解析装置10は、CPU101と、メモリ102と、ROM(read only memory)103と、記憶デバイス104と、通信インタフェース(I/F)105と、入力インタフェース(I/F)106と、出力インタフェース(I/F)107と、メディアインターフェース(I/F)108とを備える。解析装置10内の各構成はバス109によって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0117】
記憶デバイス104は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。記憶デバイス104には、オペレーティングシステム(OS)1041と、後述する解析プログラム1042と、ポリヌクレオチド解析情報データベース(DB)DB1とが格納されている。解析プログラム1042は、オペレーティングシステム1041と協働して、コンピュータを解析装置10として機能させる。オペレーティングシステム1041として、Windows(商標)、Linux(商標)を例示できる。
CPU101は、本実施形態において処理部101とも呼ばれる。
【0118】
ポリヌクレオチド解析情報データベースDB1は、上記5-1.で取得したポリヌクレオチドの解析情報を格納する。ポリヌクレオチドの解析情報に含まれる目的ポリヌクレオチドの測定値以外の各情報は、オペレータによって入力されるか、検査依頼時に入力された情報が反映されてもよい。目的ポリヌクレオチドの測定値は、オペレータが入力してもよいが、CPU101が目的ポリヌクレオチドの測定値をポリヌクレオチド解析情報データベースDB1に記録してもよい。
【0119】
入力デバイス111は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、解析装置10に文字入力又は音声入力を行う。入力デバイス111は、処理部10の外部から接続されても、解析装置10と一体となっていてもよい。
出力デバイス112は、例えばディスプレイ等の表示デバイス、プリンタ等で構成され、各種操作ウインドウ、解析結果等を出力する。
メディアドライブ113は、USBドライブ、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等であり得る。
参照配列データベース500は、上記1-1で述べた各種データベースを意図する。
測定装置30は、検査を依頼する依頼者が使用する端末であり、汎用コンピュータであり得る。
【0120】
すなわち、解析装置10は、参照配列データベース500と、測定装置30が接続された、解析システム1000を構築し得る。測定装置30は、配列解析を行うシークエンサー、リアルタイムPCR装置、又はPCR装置であり得る。
【0121】
(2)機能構成
図4に、解析装置10の機能構成を示す。
解析装置10は、測定データ取得手段M1と、マッピング手段M2と、被験情報取得手段M3と、基準情報取得手段M4と、被験情報取得/基準情報比較手段M5と、評価手段M6と、結果出力手段M7とを備える。測定データ取得手段M1は後述するステップS11a、ステップS11b、ステップS11c、又はステップS11dに該当する。マッピング手段は後述するステップS12a、ステップS12b、ステップS12c、又はステップS12dに該当する。被験情報取得手段M3は後述するステップS14a、ステップS14b、ステップS14c、又はステップS13dに該当する。基準情報取得手段M4は後述するステップS2に該当する。被験情報取得/基準情報比較手段M5は後述するステップS31に該当する。評価手段M6は後述するステップS32、ステップS34、又はステップS35に該当する。評価結果出力手段M7は後述するステップS4に該当する。
【0122】
5-3.解析プログラム1042の処理
図1及び
図5から
図9を用いて、解析プログラム1042がCPU101に実行させる処理を説明する。
【0123】
CPU101は、オペレータからの処理開始の入力を受け付け、処理を開始する。
【0124】
CPU101は、
図1のステップS1において、上記5-1.で述べたように、被験因子に晒された被験体の皮膚組織の興味領域から採取された毛根周囲細胞に由来するポリヌクレオチドの解析情報を被験情報として取得する。ステップS1における処理を、
図5から
図8を用いてより詳細に説明する。
【0125】
図5にポリヌクレオチドがRNAの場合の被験情報の取得処理を示す。CPU101は、オペレータが入力デバイス111から入力した処理開始要求を受け付け、
図5に示すステップS11aにおいて、測定装置30から、ポリヌクレオチドサンプルの配列情報を取得する。次に、CPU101は、ステップS12aにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力したマッピング開始要求を受け付け、取得した配列情報を参照配列データベース500に格納されている公知のReference genome配列にマッピングし、各RNAのリード数を取得する。マッピングは、マッピングソフトウエアBowtie2等を使用して行うことができる。したがって、マッピングソフトウエアBowtie2等は、解析プログラム1042の一部を構成しうる。次にCPU101は、ステップS13aにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力した測定値取得要求を受け付け、目的RNAの測定値を目的RNAのリード数から取得する。目的RNAの測定値は、マッピングソフトウエアBowtie2等を使用し取得することができる。さらに、CPU101は、例えば、オペレータが入力デバイス111から入力した測定値記録要求を受け付け、ステップS12aにおいて取得した目的RNAの測定値を記憶デバイス104内のポリヌクレオチド解析情報データベースDB1に目的RNAの測定値以外のポリヌクレオチドの解析情報と対応付けて格納する。そして、CPU101は、ステップS14aにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力した被験情報取得要求を受け付け、被験情報となるポリヌクレオチドの解析情報をポリヌクレオチド解析情報データベースDB1からメモリ102に呼び出すことにより、被験情報を取得する。CPU101は、
図5に示すステップS14aの後、
図1に示すステップS2に進む。
【0126】
図6にポリヌクレオチドがDNAの場合であって、DNAの測定値が変異解析に基づく測定値である場合の被験情報の取得処理を示す。CPU101は、オペレータが入力デバイス111から入力した処理開始要求を受け付け、
図6に示すステップS11bにおいて、測定装置30から、ポリヌクレオチドサンプルの配列情報を取得する。次に、CPU101は、ステップS12bにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力したマッピング開始要求を受け付け、ステップS11bにおいて取得した配列情報を参照配列データベース500に格納されている公知のReference genome配列にマッピングし、各配列情報が対応する遺伝子座の情報を取得する。マッピングは、マッピングソフトウエアBowtie2、BWA等を使用して行うことができる。したがって、マッピングソフトウエアBowtie2、BWA等は、解析プログラム1042の一部を構成しうる。次にCPU101は、ステップS13bにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力した測定値取得要求を受け付け、目的とする各配列情報のどの部位に参照配列と異なる配列があるかを示す目的DNAの測定値を取得する。変異情報の取得は、例えば、GATK(Genome Analysis Toolkit;Broad Institute)、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)等を使用し取得することができる。また、ミトコンドリアDNAの解析には、Mitoseek、MtDNA-Server(Cloudgene)等を使用し、変異情報を取得することができる。さらに、CPU101は、例えば、オペレータが入力デバイス111から入力した測定値記録要求を受け付け、ステップS12bにおいて取得した目的DNAの測定値を記憶デバイス104内のポリヌクレオチド解析情報データベースDB1に目的DNAの測定値以外のポリヌクレオチドの解析情報と対応付けて格納する。そして、CPU101は、ステップS14bにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力した被験情報取得要求を受け付け、被験情報となるポリヌクレオチドの解析情報をポリヌクレオチド解析情報データベースDB1からメモリ102に呼び出すことにより、被験情報を取得する。CPU101は、
図5に示すステップS14bの後、
図1に示すステップS2に進む。
【0127】
図7にポリヌクレオチドがDNAの場合であって、DNAの測定値がコピー数解析である場合の被験情報の取得処理を示す。CPU101は、オペレータが入力デバイス111から入力した処理開始要求を受け付け、
図7に示すステップS11cにおいて、測定装置30から、ポリヌクレオチドサンプルの配列情報を取得する。次に、CPU101は、ステップS12cにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力したマッピング開始要求を受け付け、取得した配列情報を参照配列データベース500に格納されている公知のReference genome配列にマッピングし、各遺伝子座のリード数を取得する。マッピングは、マッピングソフトウエアBowtie2等を使用して行うことができる。したがって、マッピングソフトウエアBowtie2等は、解析プログラム1042の一部を構成しうる。次にCPU101は、ステップS13cにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力した測定値取得要求を受け付け、目的DNAの測定値を目的DNAを含む遺伝子座のリード数から取得する。目的DNAの測定値は、マッピングソフトウエアBowtie2等を使用し取得することができる。さらに、CPU101は、例えば、オペレータが入力デバイス111から入力した測定値記録要求を受け付け、ステップS12cにおいて取得した目的DNAの測定値を記憶デバイス104内のポリヌクレオチド解析情報データベースDB1に目的DNAの測定値以外のポリヌクレオチドの解析情報と対応付けて格納する。そして、CPU101は、ステップS14cにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力した被験情報取得要求を受け付け、被験情報となるポリヌクレオチドの解析情報をポリヌクレオチド解析情報データベースDB1からメモリ102に呼び出すことにより、被験情報を取得する。CPU101は、
図7に示すステップS14cの後、
図1に示すステップS2に進む。
【0128】
図8にポリヌクレオチドがDNAの場合であって、DNAの測定値がメチル化の解析に基づく測定値である場合の被験情報の取得処理を示す。CPU101は、
図8に示すステップS11dにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力した処理開始要求と目的遺伝子座のメチル化の情報の入力を受け付ける。次に、CPU101は、ステップS12dにおいて、例えば、オペレータが入力デバイス111から入力した記録要求を受け付け、ステップS11dにおいて取得した情報を記憶デバイス104内のポリヌクレオチド解析情報データベースDB1に配列情報以外のポリヌクレオチドの解析情報と対応付けて格納する。そして、CPU101は、ステップS13dにおいて、オペレータが入力デバイス111から入力した被験情報取得要求を受け付け、被験情報となるポリヌクレオチドの解析情報をポリヌクレオチド解析情報データベースDB1からメモリ102に呼び出すことにより、被験情報を取得する。CPU101は、
図8に示すステップS13dの後、
図1に示すステップS2に進む。
【0129】
図1に戻り、ステップS2について説明する。ステップS2では、各被験情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値に対応する基準値を含む基準情報を取得する。上記5-1.で述べたように、基準情報は、皮膚に被験因子が与えた損傷の蓄積量、又は低減量を一時点で評価するか、経時的に評価するかに応じて、選択され得る。
【0130】
例えば、皮膚に被験因子が与えた損傷の蓄積量、又は低減量を一時点で評価する場合、
図2において、ポリヌクレオチド解析情報ID1で示されるポリヌクレオチドの解析情報が被験情報となり、この被験情報に含まれるRNAの測定値に対応する基準値を含む基準情報は、被験因子に晒されていない部位から採取した試料から取得したポリヌクレオチドの解析情報であるポリヌクレオチド解析情報ID2で示されるポリヌクレオチドの解析情報である。また、ポリヌクレオチド解析情報ID2に替えて、基準情報として公知のReference genome配列を使用してもよい。
【0131】
例えば、皮膚に被験因子が与えた損傷の蓄積量、又は低減量を経時的に評価する場合、
図2において、ポリヌクレオチド解析情報ID3で示されるポリヌクレオチドの解析情報が被験情報となり、この被験情報に含まれるDNAの測定値に対応する基準値を含む基準情報は、2年後に同じ興味領域から採取した体毛試料から取得したポリヌクレオチド解析情報ID4で示されるポリヌクレオチドの解析情報である。
【0132】
CPU101は、ステップS2において、オペレータが入力デバイス111から入力した基準情報取得要求を受け付け、基準情報となるポリヌクレオチドの解析情報をポリヌクレオチド解析情報データベースDB1から、或いは、参照配列データベース500からメモリ102に呼び出すことにより、基準情報を取得する。Reference genome配列等の基準情報は、あらかじめ参照配列データベース500からダウンロードし、記憶デバイス104に格納しておいてもよい。
CPU101は、
図1に示すステップS2の後、ステップS3に進む。
【0133】
ステップS3において、CPU101は、被験情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値を、対応する基準値と比較し、被験体の皮膚の興味領域における前記被験体における被験因子による皮膚の損傷の蓄積量、又は低減量を評価する。
ステップS3の詳細な処理を
図9に示す。
【0134】
CPU101は、ステップS31において、オペレータが入力デバイス111から入力した評価処理要求を受け付け、
図5に示すステップS14a、
図6に示すステップS14b、
図7に示すステップS14c、及び
図9に示すステップS13dにおいて取得された被験情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値を、対応する基準値と比較する。つづいて、CPU101は、被験情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値が基準範囲内であるか否かを判定する。基準範囲とは、例えば
図1に示すステップS2で取得された基準情報に含まれる基準値の85%以上、115%未満の範囲を意図する。
【0135】
CPU101は、ステップS31において、被験情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値が基準範囲である場合(「YES」の場合)には、ステップS32に進み、皮膚の損傷はないと決定する。
【0136】
CPU101は、ステップS31において、被験情報に含まれるポリヌクレオチドの測定値が基準範囲外である場合(「NO」の場合)には、ステップS33に進む。CPU101は、ステップS33において、被験情報に含まれているポリヌクレオチドの測定値が「増悪」を示しているかいなかを判定する。「増悪示す」とは、次のパターンを例示することができる。例えば、ポリヌクレオチドがRNAの場合であって、皮膚の損傷の蓄積にしたがってRNAの発現量が上昇する遺伝子の場合、被験情報に含まれるRNAの測定値が基準範囲を超えた場合に、増悪したと判定することができる。例えば、ポリヌクレオチドがRNAの場合であって、皮膚の損傷の蓄積にしたがってRNAの発現量が減少する遺伝子の場合、被験情報に含まれるRNAの測定値が基準範囲を下回った場合に、増悪したと判定することができる。例えば、ポリヌクレオチドがDNAの場合であって、皮膚の損傷の蓄積にしたがってDNAの変異数、コピー数、メチル化の程度が上昇する遺伝子座の場合、被験情報に含まれるDNAの測定値が基準範囲を超えた場合に、増悪したと判定することができる。CPU101は、ステップS33において、被験情報に含まれているポリヌクレオチドの測定値が「増悪」を示していない場合(「NO」の場合)には、ステップS34に進み、皮膚の損傷は低減していると決定する。CPU101は、ステップS33において、被験情報に含まれているポリヌクレオチドの測定値が「増悪」を示している場合(「YES」の場合)には、ステップS35に進み、皮膚の損傷は蓄積していると決定する。
次にCPU101は、
図1に示すステップS4に進み、評価結果を出力デバイス112へ出力する。
【0137】
例えば、
図2に示す例を用いて説明すると、被験体ID1で示される被験体は、基礎疾患として色素性乾皮症を有している。色素性乾皮症の患者は、被験因子である紫外線によって惹起されたDNA損傷を修復する能力が極めて低いため、DNA損傷がDNA変異となり、蓄積し、やがて皮膚癌を発症する。色素性乾皮症の患者は、生まれたときから、通常生活においても紫外線になるべくあたらないように配慮しているが、紫外線からの皮膚の保護が十分であるかの評価は困難である。また、幼少期に頻繁に侵襲的な評価を行うことは困難である。体毛を使った検査は、子どもからも容易に試料を採取でき、変異の蓄積を評価できるため、このような点からも本解析方法は有用である。
【0138】
また、マトリックスメタロプロテアーゼ-1、中性エンドペプチダーゼ、ヒアルロニダーゼ-1等は、紫外線照射により増加することが報告されている。これらの遺伝子の発現量も紫外線の曝露量の評価に使用することが可能である。
【0139】
また、光による肌の老化に伴ってミトコンドリアDNA変異が増加することが知られている。換言するとミトコンドリアDNAの変異の蓄積は、肌年齢のバイオマーカーとなる。後述する実施例に示すように、口腔粘膜から採取した試料におけるミトコンドリアDNAと、同じ被験体の顔から採取したミトコンドリアDNAと、同じ被験体の腕から採取したミトコンドリアDNAとの間で変異数を解析すると、口腔内よりも顔から採取した体毛試料に由来するミトコンドリアDNAの方が変異数が多く、さらに顔よりも腕から採取した体毛試料に由来するミトコンドリアDNAの方が変異数の方が多い傾向を示す。日焼け止めやファンデーション等により,ある程度紫外線が遮断されているものの、腕は生活紫外線を浴びやすいと考えられる。このことから、本解析方法により、肌年齢の評価が可能である。
【0140】
また、肌年齢の評価は、加齢に伴うI型コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸合成酵素の発現量の低下でも評価することができる。被験体ID2で示される被験体において、例えば、肌年齢を評価する場合には、ポリヌクレオチド解析情報ID3で示されるポリヌクレオチドの解析情報に含まれるI型コラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、及びヒアルロン酸合成酵素遺伝子から選択される少なくとも1つのRNAの測定値がよりも、ポリヌクレオチド解析情報ID3で示されるポリヌクレオチドの解析情報に含まれる、I型コラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、及びヒアルロン酸合成酵素遺伝子から選択される少なくとも1つのRNAの測定値が低いときには、肌年齢が上がっていると評価することができる。
【0141】
5-4.解析プログラム1042を格納した記録媒体
ステップS1からS4までの処理を行う解析プログラム1042は、記録媒体に記憶されていてもよい。すなわち、前記コンピュータプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記録媒体に記憶される。また前記コンピュータプログラムは、クラウドサーバ等のネットワークで接続可能な記録媒体に記憶されていてもよい。コンピュータプログラムは、ダウンロード形式の、又は記録媒体に記録されたプログラム製品であってもよい。
【0142】
前記記録媒体へのプログラムの記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記録媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0143】
5-5.変形例
(1)ステップS11aとステップS12aの間、ステップS11bとステップS12bの間、又はステップS11cとステップS12cの間において、CPU101は、ポリヌクレオチドの前処理を行ってもよい。ポリヌクレオチドの前処理には、配列長のトリミング処理;配列情報を記録したファイルフォーマットの変換処理;ポリヌクレオチドサンプルには本来含まれない、例えばライブラリDNAやポリヌクレオチド断片をタグ化する際に使用されるタグに由来するアダプター配列やプライマー配列を除去する処理;次世代シークエンサーのウェット処理におけるPCRエラーに起因するPCR duplicate等の除去配列の除去;クオリティの低いリードの除去等が含まれる。配列長のトリミング処理は、例えばトリミングソフトウエアSolexaQA等を使用することができる。ファイルフォーマット変換には、例えばSamtools等のソフトウエアを使用することができる。例えば、Samtoolsにより、BWA等から出力されるsamファイル形式のデータをbamファイル形式のデータに変換する。bamファイル形式のデータは、GATK等で解析可能でありPCR duplicateの除去を行うことができる。アダプター配列やプライマー配列の除去は、fastx_clipper等のソフトウエアを使用して行うことができる。また、クオリティの低いリードの除去は、例えばFastQC等を使用して行うことができる。したがって、これらのソフトウエアも解析プログラム1042の一部を構成しうる。
【0144】
(2)DNAの変異解析の場合には、評価結果の出力処理に、Integrative Genomics Viewer (Broad Institute)等を使用し、被験情報に含まれるポリヌクレオチドの変異位置の情報と、基準情報に含まれる変異の位置情報を、後述する
図10または
図12に示すように一画面に表示してもよい。このとき解析装置10は提示装置としても機能する。このように表示することで、被験体のポリヌクレオチドサンプルに含まれるDNAにおいて検出された変異が、基準情報に含まれるDNAの変異と同じ一の変異であるか、異なる位置の変異であるかをオペレータが把握しやすくなる。また、変異数の変化も把握しやすくなる。Integrative Genomics Viewerには、例えば、GATK等によりvcfファイル形式で変異の位置データを含む評価結果を生成し、生成したデータを入力することができる。
【0145】
(3)上記5-1.及び5-4.では
図1に示すステップS1からステップS4の処理を行う解析処理を示した。しかし、ステップS3は、必ずしもCPU101が行う必要はない。すなわち、ステップS1、ステップS2及びステップS4をCPU101が行い、ヒトがCPU101が出力デバイス112に出力した結果を見て、ステップS3に相当する被験情報に含まれる測定値を基準値と比較及び被験因子による損傷の蓄積量、又は低減量の評価を行ってもよい。
【0146】
(4)ステップS11aからS13a、ステップS11bからS13b、及びステップS11cからS13cでは、オペレータが各ステップの処理開始の要求を入力し、CPU101がこの入力を受け付けて処理を開始する例を示した。しかし、オペレータによる各要求の入力に替えて、CPU101は前のステップ終了をトリガとして、次のステップの処理を開始してもよい。
(5)本明細書において、同一符号は、同一の部位、及び同一の機能を意図する。
【実施例】
【0147】
以下に、実施例を用いて本発明の実施形態についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0148】
また、本実施例における動物実験は、長浜バイオ大学付属実験施設運営委員会の承認の元に行った。
【0149】
1.実施例1
体毛試料を用いたDNA解析の実効性を確認するため、皮膚から採取した体毛試料を用いたミトコンドリアDNAの変異解析を行った。
【0150】
<試料作製、及び次世代シークエンサー解析>
50歳代の男性1名と20歳代の男性1名の計2名の被験者それぞれの顔面の頬部、及び上腕部の皮膚に脱毛ワックスを貼付し、10秒程度静置したのちにはがして、産毛を脱毛した。このワックスシートからDNA extractor FM kit (Wako)を用いてゲノムDNA及びミトコンドリアDNAを含む全DNAを抽出した。対照DNA試料として、口腔粘膜を綿棒により擦過し口腔粘膜細胞を採取し、同様に全DNAを抽出して用いた。
【0151】
抽出されたDNAの一部を用いてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラ)によるPCR増幅を行った。
【0152】
増幅は、下記プライマーセットを用いてヒトミトコンドリアDNAの全長配列に対して行った。
ミトコンドリアゲノムプライマーセットI:
AAAGCACACATACCAAGGCCAC(配列番号1)
TTGGCTCTCCTTGCAAAGTTT(配列番号2)
ミトコンドリアゲノムプライマーセットII:
TATCCGCCATCCCATACATT(配列番号3)
AATGTTGAGCCGTAGATGCC(配列番号4)
【0153】
増幅は、[98℃ 10秒-68℃ 600秒]の2ステップを30サイクル行った。増幅反応が終了した反応液を1.2%アガロースゲルにアプライし、TBE緩衝液中で電気泳動を行い増幅DNAをサイズ確認した。次世代シークエンサー解析を行うためのDNA試料は、同様の増幅ステップを20サイクルを行い調製した。調製されたDNA試料をIllumina Nextra XT Library Prep kit を用いてライブラリ化し、このライブラリを次世代シークエンサーIllumina Miniseqに供し、ヌクレオチド配列のシークエンシングを行った。
【0154】
<測定データ解析>
次世代シークエンサーから得られた配列データに対し、SolexaQAを用いて配列長のトリミングし、トリミング後の配列データをマッピングソフトウエアBWAにより日本人の平均的ミトコンドリア配列であるAF346990にマッピングを行った。Picardにより、samファイルからbamファイルに変換し、最後にvcf(variant call format)に書き換えたのちGATKによりSNPsの検出と頻度測定解析を行った。また、解析結果の比較表示には、Integrative Genomics Viewerを使った。
【0155】
<測定結果>
対照DNA試料である各被験者から採取された口腔粘膜細胞由来DNAに含まれるミトコンドリアDNAのヌクレオチド配列において、AF346990と異なる配列は先天的(個人的)な多型、または後発的な多型と考えられる。また、各被験者において、AF346990と異なり、かつ口腔、頬部及び上腕部に共通して見られる変異は、先天的な多型であり、それ以外は後天的な多型と考えられる。後天的な多型は何らかの因子によるものと考えられる。今回解析した50歳代の被験者において、参照配列の遺伝子座NC_012920に、口腔粘膜細胞由来ミトコンドリアDNAのヌクレオチド配列には先天的多型は存在しなかった。また、頬の産毛に由来するミトコンドリアDNAでは、AF346990と異なる配列が3カ所見つかった。さらに、上腕部皮膚の産毛に由来するミトコンドリアDNAでは、AF346990と異なり、かつ頬の産毛に由来するミトコンドリアDNAとも異なる配列が4カ所見つかった。この結果を
図10及び
図11に示す。
図10は遺伝子座における変異位置を示す。
図10において、グレーバーは、参照配列から変異している場所すべて全変異位置を示す。白バーは、homoplasmyが100%変異の為、先天的な参照配列からの変異、すなわち個人的もしくは民族的遺伝子多型と思われる変異の位置を示す。黒バーは、heteroplasmyであるため、後天的な変異である可能性が高い変異位置を示す。
図11は頬の産毛に由来するミトコンドリアDNA及び上腕部皮膚の産毛に由来するミトコンドリアDNAにおいて検出された口腔粘膜由来ミトコンドリアDNAと異なっていた配列においてheteroplasmyが判明した変異部位、及び各配列のシークエンスdepthを示す。もう1名の20歳代の被験者の結果を
図12及び
図13に示す。20歳代の被験者では、口腔粘膜細胞由来ミトコンドリアDNAのヌクレオチド配列には先天的な多型は4か所存在した。また、
図13に、検出された配列においてheteroplasmyが判明した変異部位、及び各配列のシークエンスdepthを示す。頬の産毛に由来するミトコンドリアDNAでは、口腔粘膜細胞に存在していた多型以外に、AF346990と異なる配列が4カ所見つかった。さらに、上腕部皮膚の産毛に由来するミトコンドリアDNAでは、口腔粘膜細胞に存在していた1カ所の多型に加え、AF346990と異なる配列が36カ所見つかった。顔の変異は比較的少なく、腕の皮膚での変異の蓄積が進んでいる傾向が見られた。顔面は帽子や日焼け止め等でガードされることが多いが、腕部は露出されていることが多いためではないかと考えられた。また、50歳代男性と比較して、20歳代の男性の方が日焼けしていたため、上腕部皮膚の産毛に由来するミトコンドリアDNAにおいて、変異が蓄積していたものと考えられる。
【0156】
2.実施例2
体毛試料を用いたRNA解析の実効性を確認するため、皮膚から採取した体毛試料からRNAサンプルを調製し、このRNAサンプルを用いてリアルタイムPCRを行い標的遺伝子の発現解析を行った。
【0157】
<試料作製、及びリアルタイムRT-PCR解析>
眉毛および下腕部の産毛をそれぞれ3本ずつ採取しNucleo Spin RNA XS kitを用いてトータルRNAを抽出した。抽出RNAの一部をSMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA kit for Sequencing(Takara)を用いてcDNA合成とPCR増幅を行った。total RNAに対するcDNAを合成し、反応が終わった逆転写反応液を超純水にて600倍に希釈し、この希釈液をリアルタイムPCR試料とした。リアルタイムPCRはThunderbird SYBR試薬を用い、94℃1分後の初期編成後[94℃ 15秒、60℃ 30秒]の2ステップの増幅を18サイクル行った。増幅後、増幅曲線の確認、メルティングカーブの作成、及びCt値から定量化を行った。増幅対象遺伝子は、IL-1α、GAPDH、及びβ-actinとした。
【0158】
<測定結果>
図14に解析結果を示す。
図14(A)は濃度の異なるcDNAサンプルを用いたときの各遺伝子の増幅曲線を示す。増幅曲線は濃度に応じて分布しておりRNAの発現量を反映していると考えられた。また、
図14(B)にメルティングカーブを示す。各増幅産物のメルティングカーブのピークは設定どおりの温度で1ピークであり、増幅曲線が目的とする遺伝子の増幅産物であることを示していた。このことから、体毛試料から抽出されたRNAサンプルを用いて、RNA発現の評価ができると考えられた。
【0159】
図14(C)にGAPDHの発現量を内部標準としたIL-1α mRNAの相対発現量を示す。
図14(D)にGAPDHの発現量を内部標準としたβ-actin mRNAの相対発現量を示す。眉毛のIL-1α mRNAは、腕部産毛周囲細胞よりも約7倍多く発現していた。眉毛のβ-actin mRNAは腕の産毛周囲細胞の1/2程度の発現であった。これらデータより、各遺伝子の発現の比較解析が可能であることが示された。
【0160】
3.実施例3
体毛試料を用いた皮膚疾患の症状診断の実効性を確認するため、疾患モデルマウスの皮膚から採取した体毛試料からRNAサンプルを調製し、このRNAサンプルを用いてリアルタイムPCRを行いバイオマーカー遺伝子の発現解析を行った。
【0161】
<疾患モデルマウスの作製、体毛の採取、及びリアルタイムRT-PCR解析>
C57/BL6マウスの背部の半身部分の体毛をバリカンにて短く刈り込み、体毛を刈り込んだ部位に2%ベセルナクリームを100 mg毎日に塗布し、乾癬モデルを作製した。また、体毛を刈り込まず、ベセルナクリームを塗布していない半身部分を「非塗布部」とした。塗布前、塗布1日後、3日後、5日後に、体毛を5本ずつ塗布部と非塗布部より採取した。Nucleo Spin RNA XS kitを用いて体毛試料からトータルRNAを抽出した。実施例2と同様にリアルタイムRT-PCRを行い、IL-33、IL-23、IL-17、及びTNF-αのmRNA、並びにGAPDH mRNAの発現を定量した。
【0162】
<測定結果>
図15に結果を示す。GAPDH mRNAを内部標準に用いてIL-33、IL-23、IL-17、及びTNF-αの相対発現量を評価した。ベセルナクリームの塗布部位は、乾癬を発症した。乾癬の発症、症状の進行とともに、IL-33、IL-23、IL-17、及びTNF-αのmRNAの相対発現量は経時的に増加した。この結果は視覚的な症状の重症度と一致した。また、IL-33は、皮膚組織を構成する細胞ではなく、組織内に浸潤したリンパ球において発現されるサイトカインである。IL-23は樹状細胞などの抗原提示細胞が産生するサイトカインである。IL-17は、メモリT細胞およびナチュラルキラー細胞のみが産生するサイトカインである。したがって、体毛試料からIL-33、IL-23、IL-17のmRNAの発現が評価できたということは、体毛試料が毛根周囲に浸潤した白血球等の炎症性細胞の活性化状態を反映していることを示している。
【0163】
4.実施例4
乾癬モデルマウスを接触性皮膚炎モデルマウスに変えて、疾患モデルマウスの皮膚から採取した体毛試料からRNAサンプルを調製し、このRNAサンプルを用いてリアルタイムPCRを行いバイオマーカー遺伝子の発現解析を行った。
【0164】
<疾患モデルマウスの作製、体毛の採取、及びリアルタイムRT-PCR解析>
C57/BL6マウスの腹部および背部の半身部分の体毛をバリカンにて短く刈り込み、0.3%ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)溶液を100μlずつ腹部または背部の毛を刈り込んだ部分に塗布した。また、体毛を刈り込まず、DNFB溶液を塗布していない半身部分を「非塗布部」とした。腹部については、塗布から3時間後に体毛を5本ずつ塗布部と非塗布部より採取した。背部については、塗布から6日後に体毛を5本ずつ塗布部と非塗布部より採取した。Nucleo Spin RNA XS kitを用いて、それぞれの体毛試料からtotal RNAを抽出した。実施例2と同様にリアルタイムRT-PCRを行い、HMGB-1 mRNA、β-actin mRNA、TNFα mRNAの発現を定量した。
【0165】
<測定結果>
図16に、β-actin mRNAを内部標準とした各遺伝子の相対発現量を示す。
図16の(A)はDNFB 溶液塗布後3時間後のHMGB-1 mRNAの発現を示す。(B)はDNFB 溶液塗布後6日後のTNFα mRNAの発現を示す。TNFα mRNAはDNFBの塗布により発現の増加が認められた。一方、HMGB-1 mRNAの発現は、DNFBの塗布による変化は認められなかった。
<RNA-seq解析測定方法と結果>
【0166】
次世代シークエンサーの結果をトリミングしたのちTophat2にてMm10マウスシークエンスにマッピングし、RPMK値により各RNAの発現量を比較解析した。
接触性皮膚炎誘導によりもっとも変化したのはIL-1であり、その他IL-33等も大きく誘導されていた。
【0167】
5.実施例5
体毛試料を用いたDNA解析の実効性を確認するため、皮膚から採取した体毛試料を用いたミトコンドリアDNAミトコンドリア数の測定を行った。
【0168】
<試料作製、及びリアルタイムPCR解析>
被験者上腕部よりピンセットにて産毛5本を採取した。体毛試料からDNA extractor 試薬FM(WAKO)を用いてゲノムDNA及びミトコンドリアDNAを含む全DNAを抽出し、得られたDNAをTE緩衝液に溶解した。得られたDNA液のうち100分の1量をリアルタイムPCR用の試料とし、Human Mitochondrial DNA (mtDNA) Monitoring Primer Setを使用して、ND1遺伝子、ND5遺伝子、SLCO2B1遺伝子、及びSERPINA1遺伝子のリアルタイムPCR解析をおこない各遺伝子のCt値を取得した。取得したCt値から1細胞あたりのミトコンドリア数を、https://www.takara-bio.co.jp/research/r/mtdna_monitoring_tool/(タカラ酒造株式会社提供)を算出した。
【0169】
<測定結果>
リアルタイムPCRにおいて、ND1遺伝子、ND5遺伝子、SLCO2B1遺伝子、及びSERPINA1遺伝子のCt値はそれぞれ22.99、32.12、22.51、31.94であり、これらの値から換算されるミトコンドリアコピー数は625であった。
この方法により産毛DNAから1細胞当たりのミトコンドリアコピー数の算定ができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明は、皮膚病の診断補助、皮膚疾患に対する有効成分候補の探索、肌の美容的解析、テーラーメード化粧品および医薬品の適性検査、皮膚老化解析、投与物質の安全性解析および有用性解析、疾患モデルマウスなどの症状解析等に使用可能である。
【符号の説明】
【0171】
10 解析装置
101 処理部