(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物、抗腫瘍剤および新規なクルクミン誘導体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/12 20060101AFI20220601BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220601BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220601BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
A61K31/12
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P35/02
(21)【出願番号】P 2018071180
(22)【出願日】2018-04-02
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】加藤 順也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 規子
(72)【発明者】
【氏名】金谷 重彦
(72)【発明者】
【氏名】森本 積
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-075666(JP,A)
【文献】特開2011-190228(JP,A)
【文献】Eun-Ryeong Hahm et al.,New and known symmetrical curcumin derivatives inhibit the formation of Fos-Jun-DNA complex,Cancer Letters,2002年10月08日,184(1),89-96
【文献】Chi Hoon Park et al.,Curcumin Derivatives Inhibit the Formation of Jun-Fos-DNA Complex Independently of their Conserved Cysteine Residues,Journal of Biochemistry and Molecular Biology,2005年07月,Vol.38, No.4,474-480
【文献】Anil Kumar et al.,In Silico Inhibition Studies of Jun-Fos-DNA Complex Formation by Curcumin Derivatives,International Journal Of Medicinal Chemistry,2012年11月,Vol.2012 ,1-8,Article ID 316972
【文献】Yonika Arum Larasati et al.,Curcumin targets multiple enzymes involved in the ROS metabolic pathway to suppress tumor cell growth,SCIENTIFIC REPORTS,2018年02月01日,8:2039,1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記からなる群より選択される1種類以上の化合物またはその塩を含む、活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物
。
【化1】
【請求項2】
下記からなる群より選択される1種類以上の化合物またはその塩を有効成分として含む、
活性酸素種のレベルを上昇させることにより腫瘍を抑制する抗腫瘍剤。
【化2】
【請求項3】
慢性骨髄性白血病、膵臓癌、子宮頸癌、膠芽腫、子宮癌、乳癌または腎臓癌用である、請求項2に記載の抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物、抗腫瘍剤および新規なクルクミン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腫瘍に対する治療戦略には、外科的手術、化学療法、放射線療法などが存在していたが、昨今では分子標的薬が登場するに至った。分子標的薬とは、変異を起こした腫瘍関連遺伝子産物に特異的に作用し、腫瘍細胞に特異的な細胞死を誘導する薬剤であり、その作用機序のために副作用を軽減できると期待されている。例えば、特許文献1には、有機硫黄化合物又は有機セレン化合物からなるPPM1D(Protein phosphatase 1D)阻害剤が開示されている。
【0003】
また、次世代の分子標的薬の候補として、クルクミンが注目を集めている。本発明者らの研究によると、クルクミンは、マウスにおいてin vivoでの腫瘍形成を阻害する(非特許文献1)。同文献はまた、クルクミンが活性酸素種(ROS)代謝酵素群を阻害し、腫瘍細胞に特異的な細胞老化または細胞死を誘導できることも報告している。一方、クルクミンのヒトへの応用に関しては、米国では既に臨床試験が開始されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Larasati YA, Kato J et al. (2018) "Curcumin targets multiple enzymes involved in the ROS metabolic pathway to suppress tumor cell growth," Scientific Reports, Vol.8, Article number 2039.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなクルクミンに関する研究成果とは裏腹に、クルクミン誘導体の有する生理作用に関する知見は充分に蓄積されておらず、研究・開発の余地が残されていた。
【0007】
本発明の一態様は、特定の構造を有するクルクミン誘導体を含む、活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物を提供することを課題とする。本発明の他の態様は、新規なクルクミン誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した。その結果、(i)置換基の位置を特定したクルクミン誘導体、または(ii)リンカーを短くしたクルクミン誘導体が、活性酸素種のレベルを上昇させるなどの生理機能を有するという新規な知見を見出し、本発明を完成させた。
〔1〕下記一般式AおよびBからなる群より選択される1種類以上の化合物またはその塩を含んでいる、活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物:
【0009】
【0010】
式A中、R1~R4は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5の炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基およびアリール基から選択され(このうち、ハロゲン原子を除く官能基は、さらなる置換を有していてもよい)、
式B中、R5~R14は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5の炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基およびアリール基から選択される(このうち、水素原子およびハロゲン原子を除く官能基は、さらなる置換を有していてもよい)。
〔2〕下記式hs-047、hs-054、hs-055、hs-056、hs-057、hs-062、hs-064、hs-073またはhs-089で表される、化合物。
【0011】
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、特定の構造を有するクルクミン誘導体を含む、活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物が提供される。本発明の他の態様によれば、新規なクルクミン誘導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】クルクミン誘導体(hs-031、hs-037、hs-047、hs-055、hs-057およびhs-054)を培地に添加することにより、腫瘍細胞の増殖が抑制されることを示すグラフである。
【
図2】(a)は、実施例1-2における、薬剤添加のスケジュール図である。(b)は、
図1に記載のクルクミン誘導体を一度培地に添加すると、途中で培地からクルクミン誘導体を除去しても、腫瘍細胞の増殖の抑制が持続することを示すグラフである。
【
図3】
図1に記載のクルクミン誘導体によって、細胞老化が促進されることを示すグラフである。
【
図4】
図1に記載のクルクミン誘導体によって、活性酸素種のレベルが上昇することを示すグラフである。
【
図5】
図1とは異なるクルクミン誘導体(hs-056、hs-062、hs-064、hs-073およびhs-089)を培地に添加することによっても、腫瘍細胞の増殖が抑制されることを示すグラフである。
【
図6】
図5に記載のクルクミン誘導体もまた、一度培地に添加すると、途中で培地からクルクミン誘導体を除去しても、腫瘍細胞の増殖の抑制が持続することを示すグラフである。
【
図7】
図5に記載のクルクミン誘導体によっても、細胞老化が促進されることを示すグラフである。
【
図8】
図5に記載のクルクミン誘導体によっても、活性酸素種のレベルが上昇することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。
【0015】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0016】
〔1.活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物〕
[1-1.クルクミン誘導体]
本発明者らは、クルクミン誘導体に関して鋭意検討を進めた結果、特定の構造を有するクルクミン誘導体が、活性酸素種のレベルを上昇させることを見出した。すなわち、本発明の一態様に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物は、上記一般式AおよびBからなる群より選択される1種類以上の化合物またはその塩を含むものである。
【0017】
式Aで表される誘導体は、両側のベンゼン環に結合している置換基の位置を3位および5位に変更した点に特徴がある。これに対しクルクミンは、3位にメトキシ基が、4位にヒドロキシ基が結合している。
【0018】
式Bで表される誘導体は、ベンゼン環を結ぶリンカーの炭素原子を5個に減らした点に特徴があり、分子全体としては非対称である。これに対しクルクミンは、炭素原子7個からなるリンカーを有しており、分子全体として対称な形状をしている。
【0019】
式A中、R1~R4は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5の炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基およびアリール基から選択される。
【0020】
ここで、上記炭化水素基は、鎖状であっても、分枝を有していても、環を有していてもよい。また、上記炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても、不飽和炭化水素基であってもよい。このような炭化水素基には、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基などが含まれる。
【0021】
また、R1~R4の選択肢に含まれる、ハロゲン原子を除く官能基は、さらなる置換を有していてもよい。つまり、ヒドロキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5の炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基およびアリール基は、官能基内の一部が、他の官能基または他の原子(炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子など)と置換されていてもよい。このような、さらなる置換を有している官能基の例としては、ヘテロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、アリールチオ基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、置換アミノ基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルフォニルオキシ基、アルキルスルフォニルオキシ基が挙げられる。
【0022】
式B中、R5~R14は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5の炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基およびアリール基から選択される。つまり、R5~R14は、R1~R4とは異なり、1つ以上が未置換(水素原子)であってもよい。
【0023】
R5~R14の選択肢に関して、炭化水素基については、上記に説明した通りである。同じく、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5の炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基およびアリール基が、さらなる置換を有していてもよいことについても、上記に説明した通りである。
【0024】
なお、R1~R14は、化合物の親水性を向上させうるものであることが好ましい。このような置換基の例としては、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0025】
本発明の一実施形態に係る組成物は、式Aまたは式Bで表される化合物の塩を含んでいる。ここで言う「塩」とは、医薬品として被験体に投与することが生理学的に許容されうる塩であるならば、特に限定されない。このような塩の例としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、アンモニウム塩、有機塩基塩(トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩など)、有機酸塩(酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、蟻酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩など)、無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩など)を挙げられる。
【0026】
一実施形態において、式Aで表される化合物は、下記hs-031またはhs-037である。
【0027】
一実施形態において、式Bで表される化合物は、下記hs-047、hs-054、hs-055、hs-056、hs-057、hs-062、hs-064、hs-073またはhs-089である。これらの化合物は、本発明者らが新規に合成した化合物であって、いずれも活性酸素種のレベルを上昇させる生理的効果を有している。したがってこれらの化合物は、それ自体として本発明の一態様を構成している。
【0028】
【0029】
以上に説明した化合物は、例えば、本明細書の実施例に記載の方法によって合成することができる。化合物の塩は、公知の手法を適宜採用することによって得られる。
【0030】
[1-2.活性酸素種のレベル]
本発明の一実施形態に係る組成物は、活性酸素種のレベルを上昇させる効果を奏する。「活性酸素種のレベルを上昇させる効果」とは、生体または生体に由来する系(組織片、培養細胞、細胞抽出液など)において、活性酸素種の産生を促進する効果を意図する。より具体的には、以下に例示される効果を意図する。
(1)上記組成物を投与(添加)した対象が、当該組成物を投与(添加)しなかった対象よりも、多くの活性酸素種を産生する。
(2)上記組成物を投与(添加)した対象が、当該組成物を投与(添加)しなかった対象よりも、活性酸素種の減少の程度が軽減される。
【0031】
一実施形態において、上記組成物が上昇させるのは、細胞内の活性酸素種のレベルである。一実施形態において、上記組成物が上昇させるのは、細胞内全体の活性酸素種のレベルである。他の実施形態において、上記組成物が上昇させるのは、細胞の一部分(細胞質、ミトコンドリア内、核内、細胞膜周辺、小胞体)における活性酸素種のレベルである。なお、活性酸素種の産生量は、例えば実施例に記載のアッセイによって測定することができる。
【0032】
本発明の一実施形態に係る組成物によって活性酸素種のレベルを上昇させることにより、例えば、抗腫瘍効果、抗認知症効果、生活習慣病予防、健康増進、新陳代謝促進などの生理的・医療的な効果を得ることができる。このうち抗腫瘍効果については、以下の推定作用機序に基づいて作用していると考えられる。
【0033】
すなわち、式Aまたは式Bで表されるクルクミン誘導体は、活性酸素種の代謝に関わる酵素を阻害することにより、細胞内の活性酸素種のレベルを上昇させる。ここで一般的に、腫瘍細胞における活性酸素種のレベルは、正常細胞における活性酸素種のレベルよりも高い。このため、クルクミン誘導体によって細胞内の活性酸素種のレベルが上昇した結果、腫瘍細胞中の活性酸素種のレベルは生体にとって過剰となり、細胞老化または細胞死に至る(巨視的に表現すると、腫瘍の増殖が抑制されるか、あるいは腫瘍が縮小する)。一方、正常細胞においては、クルクミン誘導体によって細胞内の活性酸素種のレベルが上昇しても、依然として生存に問題のない活性酸素種のレベルにとどまっている。結果として、式Aまたは式Bで表されるクルクミン誘導体によって、腫瘍細胞に特異的に細胞老化または細胞死を誘導することができる。
【0034】
上記の推定作用機序は、本発明の理解を促すためのものであって、特許請求の範囲に対する何らの制限を与えるものではない。
【0035】
[1-3.クルクミンと比較した利点]
本発明の一実施形態に係る組成物に含まれているクルクミン誘導体は、クルクミンに対する利点を有している場合がある。以下に、このような利点の例を列挙して説明する。
【0036】
1.水溶性が高い
本発明の一実施形態に係るクルクミン誘導体は、クルクミンよりも水溶性が高い。クルクミンの水に対する溶解度が小さいことは従前知られており、製薬上の課題となっていた(CLogP値:2.9394)。水溶性が高いクルクミン誘導体を組成物に用いることによって、例えば、当該組成物を経口製剤や食品の態様で投与した場合の吸収率が高まることが期待される。水溶性は、クルクミン誘導体に極性の官能基(ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基など)を導入することによって向上させることができ、好ましくはヒドロキシ基の導入によって向上させることができる。
【0037】
2.抗腫瘍効果が高い
本発明の一実施形態に係るクルクミン誘導体は、クルクミンよりも抗腫瘍効果が高い。一例において、上記クルクミン誘導体は、クルクミンよりも腫瘍細胞の増殖を抑制する。他の例において、上記クルクミン誘導体は、当該クルクミン誘導体による処置を停止した後でも、腫瘍細胞の増殖の抑制が持続する。さらに他の例において、上記クルクミン誘導体は、クルクミンよりも多様な腫瘍細胞に対して抗腫瘍効果を示す。抗腫瘍効果が高いクルクミン誘導体は、例えば、より強力または多用途な抗腫瘍剤に利用できることが期待される。あるいは、例えば、投薬停止後の腫瘍の再発を抑制できることも期待される。
【0038】
3.細胞老化の促進が顕著である
本発明の一実施形態に係るクルクミン誘導体は、クルクミンよりも顕著に細胞老化を誘導する。細胞老化を強力に促進するクルクミン誘導体は、例えば、腫瘍細胞の増殖をより強力かつ速やかに抑制でき、また腫瘍の再発をより効果的に防止できることが期待される。
【0039】
4.活性酸素種産生の促進が顕著である
本発明の一実施形態に係るクルクミン誘導体は、クルクミンよりも顕著に活性酸素種の産生を誘導する。活性酸素種産生を強力に促進するクルクミン誘導体は、例えば、より強力な抗腫瘍剤に利用できることが期待される。
【0040】
なお、上述した効果(水溶性、抗腫瘍効果、細胞老化の促進、活性酸素種産生の促進)の測定・比較は、例えば、実施例に記載の方法によることができる。
【0041】
〔2.抗腫瘍剤〕
本発明の一実施形態は、〔1〕で説明した組成物を有効成分として含んでいる、抗腫瘍剤である。上記抗腫瘍剤は、例えば、以下の類型に含まれる抗腫瘍効果を奏するものである。
(1)抗腫瘍剤を投与しなかった場合と比較して、腫瘍に係る1つ以上の症状の発症を防止する、またはリスクを低減する。
(2)抗腫瘍剤を投与しなかった場合と比較して、腫瘍に係る1つ以上の症状の再発を防止する、またはリスクを低減する。
(3)抗腫瘍剤を投与しなかった場合と比較して、腫瘍に係る1つ以上の症状の徴候の発生を防止する、またはリスクを低減する。
(4)抗腫瘍剤を投与しなかった場合と比較して、腫瘍に係る1つ以上の症状の重篤度を低減する。
(5)抗腫瘍剤を投与しなかった場合と比較して、腫瘍に係る1つ以上の症状の重篤度の増加、または進行を防止する。
(6)抗腫瘍剤を投与しなかった場合と比較して、腫瘍に係る1つ以上の症状の重篤度の増加速度、または進行速度を低減する。
【0042】
より具体的な例を挙げると、本発明の一実施形態に係る抗腫瘍剤は、(i)腫瘍を縮小させる効果を奏してもよいし、(ii)腫瘍の拡大を防止する効果を奏してもよいし、(iii)腫瘍の拡大速度を低減させる効果を奏してもよい。あるいは、本発明の一実施形態に係る抗腫瘍剤は、種々の腫瘍に伴う症状や腫瘍マーカーなどを、(i)回復させる効果を奏してもよいし、(ii)増悪を防止する効果を奏してもよいし、(iii)増悪の進行速度を低減する効果を奏してもよい。さらに、本発明の一実施形態に係る抗腫瘍剤は、(i)腫瘍治療の予後を改善する効果を奏してもよいし、(ii)腫瘍の再発リスクを低減する効果を奏してもよい。
【0043】
本発明の一実施形態に係る抗腫瘍剤は、腫瘍の種類に特に限定されることなく用いられうる。上述した通り、腫瘍細胞中の活性酸素種レベルは正常細胞と比較して高い傾向にあるので、本発明の一実施形態に係る抗腫瘍剤は、広範な腫瘍に対して効果を奏することが期待される。
【0044】
本明細書において「腫瘍」とは、良性腫瘍、良性悪性境界病変および悪性腫瘍を包含する概念である。また、癌腫および肉腫のいずれもが、「腫瘍」の範囲に含まれる。「腫瘍」に含まれる疾患の具体例としては、脳腫瘍(膠芽腫など)、神経芽腫、網膜芽細胞腫、咽頭癌、食道癌、胃癌、大腸癌(結腸癌、直腸癌など)、肝臓癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、肺癌、胸腺癌、中皮腫、乳癌、子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌など)、卵巣癌、膣癌、外陰癌、前立腺癌、精巣腫瘍、膀胱癌、皮膚癌(基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫など)、甲状腺癌、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫など)、白血病(慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病など)、骨肉種、ユーイング肉腫、軟部肉腫、横紋筋肉腫などが挙げられる。上記に列挙した以外にも、「腫瘍」には、国際疾病分類第10版(ICD-10、2003年改訂)においてC00~D48に分類される疾病が含まれる。
【0045】
一例において、本発明の一実施形態に係る抗腫瘍剤は、慢性骨髄性白血病、膵臓癌、子宮頸癌、膠芽腫、子宮癌、乳癌または腎臓癌用である。
【0046】
〔3.製剤、剤型および処方〕
[3-1.製剤]
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤は、常法に則り製剤されうる。より具体的には、一般式AおよびBで表される化合物またはその塩の1種類以上と、医薬品添加物を調合することによって製剤されうる。
【0047】
一般式AまたはBで表される化合物またはその塩については、〔1〕に説明した通りである。
【0048】
本明細書において「医薬品添加物」とは、製剤に含まれる有効成分以外の物質を意図する。医薬品添加物は、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、有用性を高めるなどの目的のため、製剤に含まれている。一例において、上記医薬品添加物は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤(固形防止剤)、着色剤、カプセル被膜、コーティング剤、可塑剤、矯味剤、甘味剤、着香剤、溶剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤(粘着剤)、粘稠剤、pH調整剤(酸性化剤、アルカリ化剤、緩衝剤)、湿潤剤(可溶化剤)、抗菌性保存剤、キレート剤、坐剤基材、軟膏基剤、硬化剤、軟化剤、医療用水、噴射剤、安定剤、保存剤、でありうる。これらの医薬品添加物は、意図された剤型および投与経路、ならびに標準的な薬学的慣行に従って、当業者によって容易に選択されうる。
【0049】
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤は、一般式AまたはBで表される化合物またはその塩以外にも、有効成分を含んでいてよい。このような有効成分は、活性酸素種のレベルの上昇または抗腫瘍に関連する効果を有していてもよいし、他の効果を有していてもよい。
【0050】
以上に説明した有効成分および医薬品添加物の具体例は、例えば、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)、日本国厚生労働省などが策定している基準により、知ることができる。
【0051】
[3-2.剤型]
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤は、任意の剤型を取り得る。一例において、上記剤型は、錠剤、カプセル剤、内用剤、外用剤、坐剤、注射剤、吸入剤でありうる。
【0052】
[3-3.処方]
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤は、医師または医療従事者の判断により、適宜処方されうる。
【0053】
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤の投与経路は、処置しようとする疾患の種類および重篤度などの要素により、適宜選択される。一例において、上記投与経路は、非経口投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、鼻腔内投与、硬膜外投与、経口投与、舌下投与、鼻腔内投与、脳内投与、膣内投与、経皮投与、直腸内投与、吸入、局所投与であり得る。
【0054】
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤を投与する場合、投与回数1回当たりに含まれている一般式AまたはBで表される化合物またはその塩の量の下限値は、0.001mg、0.002mg、0.005mg、0.007mg、0.01mg、0.02mg、0.05mg、0.07mg、0.1mg、0.2mg、0.5mg、0.7mg、1mg、2mg、5mg、7mg、10mgでありうる。
【0055】
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤を投与する場合、投与回数1回当たりに含まれている一般式AまたはBで表される化合物またはその塩の量の上限値は、1mg、2mg、5mg、7mg、10mg、20mg、50mg、70mg、100mg、1g、2g、5g、7g、10gでありうる。
【0056】
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤を投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与間隔に制限はない。上記投与間隔は、通常1時間~6箇月間に1回であり、好ましくは1時間に1回、2時間に1回、3時間に1回、6時間に1回、12時間に1回、1日間に1回、2日間に1回、3日間に1回、4日間に1回、5日間に1回、6日間に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1箇月間に1回、2箇月間に1回、3箇月間に1回、4箇月間に1回、5箇月間に1回、6箇月間に1回であり、より好ましくは少なくとも1日に1回、少なくとも2日間に1回、少なくとも3日間に1回、少なくとも4日間に1回、少なくとも5日間に1回、少なくとも6日間に1回、少なくとも1週間に1回である。
【0057】
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤を投与する「被験体」は、ヒトに限定されない。その他に、非ヒト哺乳動物に対しても適用することができる。上記非ヒト哺乳動物としては、偶蹄類(ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、奇蹄類(ウマなど)、齧歯類(マウス、ラット、ハムスター、リスなど)、ウサギ目(ウサギなど)、食肉類(イヌ、ネコ、フェレットなど)などが挙げられる。上述した非ヒト哺乳動物には、家畜またはコンパニオンアニマル(愛玩動物)に加えて、野生動物も包含される。
【0058】
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤はまた、生体以外にも用いることができる。例えば、生体に由来する系(組織片、培養細胞、細胞抽出液など)にも用いることができる。
【0059】
[3-4.食品]
本発明の一実施形態に係る活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物または抗腫瘍剤は、医薬品以外にも、食品(健康食品、菓子、サプリメントなど)として製造することができる。この場合の製造方法、食品の形態、適切な摂取量・摂取間隔は、上記の説明に準じて、あるいは食品加工分野における技術常識に則って、決定することができる。
【0060】
〔4.本発明のその他の態様〕
一態様において、本発明は、一般式AおよびBからなる群より選択される1種類以上の化合物またはその塩を投与する工程を含む、被験体における活性酸素種のレベルを上昇させる方法である。好ましくは、上記方法は、被験体の細胞内における活性酸素種のレベルを上昇させる方法である。
【0061】
他の態様において、本発明は、一般式AおよびBからなる群より選択される1種類以上の化合物またはその塩を投与する工程を含む、被験体の腫瘍を処置する方法である。ここで、「被験体の腫瘍を処置する」とは被験体に抗腫瘍効果を与えることであり、抗腫瘍効果については〔2〕で説明した通りである。
【0062】
〔まとめ〕
本発明は、以下の構成を包含している。
<1> 一般式AおよびBからなる群より選択される1種類以上の化合物またはその塩を含んでいる、活性酸素種のレベルを上昇させるための組成物;式A中、R1~R4は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5の炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基およびアリール基から選択され(このうち、ハロゲン原子を除く官能基は、さらなる置換を有していてもよい);式B中、R5~R14は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5の炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基およびアリール基から選択される(このうち、水素原子およびハロゲン原子を除く官能基は、さらなる置換を有していてもよい)。
<2> <1>に記載の組成物を有効成分として含んでいる、抗腫瘍剤。
<3> 慢性骨髄性白血病、膵臓癌、子宮頸癌、膠芽腫、子宮癌、乳癌または腎臓癌用である、<2>に記載の抗腫瘍剤。
<4> 式hs-047、hs-054、hs-055、hs-056、hs-057、hs-062、hs-064、hs-073またはhs-089で表される、化合物。
【0063】
上記各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。したがって、異なる実施形態にそれぞれ開示されている技術的手段を、適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0064】
本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
〔実験例1〕
[合成例1]
hs-031およびhs-037は、既報[Shang YJ et al. (2010) "Antioxidant capacity of curcumin-directed analogues: Structure-activity relationship and influence of microenvironment," Food Chemistry, Vol.119(Issue 4), pp.1435-1442(文献A)]および[Hitoshi E et al. (2014) "Structure activity relationship study of curcumin analogues toward the amyloid-beta aggregation inhibitor," Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, Vol.24(Issue 24), pp.5621-5626(文献B)]に記載の方法に準拠して合成した。
【0067】
hs-047、hs-055、hs-057およびhs-054は、文献Aおよび文献Bの方法に加えて、[Chimni SS et al. (2005) "Electron deficiency of aldehydes controls the pyrrolidine catalyzed direct cross-aldol reaction of aromatic/heterocyclic aldehydes and ketones in water," Tetrahedron, Vol.61(Issue 21), pp.5019-5025(文献C)]および[Bartlett SL et al. (2011) "High-Yielding Oxidation of β-Hydroxyketones to β-Diketones Using o-Iodoxybenzoic Acid," The Journal of Organic Chemistry, Vol.76(Issue 23), pp.9852-9855(文献D)]に記載の方法に準拠して合成した。
【0068】
具体的には、以下の手法に従った:
hs-047、hs-055およびhs-057は、文献Cに記載の反応において、反応温度を室温から0℃に変更して合成した。
hs-054は、(i)文献Bに記載の反応において、反応温度を-78℃から「-78℃下で三臭化ホウ素を添加後、室温に昇温」に変更し、さらに(ii)文献Cに記載の反応において、反応温度を室温から0℃に変更して合成した。
【0069】
各クルクミン誘導体について、ChemDraw Professional 16.0を用いてCLogP値を算出した結果を、下図に示す。これによると、hs-037およびhs-054は、クルクミンよりもCLogP値が低かった。つまり、hs-037およびhs-054は、クルクミンよりも水溶性に優れることが示唆された。
【0070】
【0071】
[実験例1-1]
合成例1で合成したクルクミン誘導体の、抗腫瘍活性を検討した。具体的な手法は、非特許文献1に記載の実験方法に準拠した。概要は以下の通りである。
1.慢性骨髄性白血病細胞株であるK562細胞を、実験に用いた。上記細胞は、RPMI-1640培地にグルタミン:2mM、ペニシリン:100U/mL、ストレプトマイシン:100μg/mLおよびFBS:10%を添加した培地で維持されていたものである。
2.K562細胞を、3×105の細胞密度で35mmディッシュに播種した。
3.K562細胞を、クルクミン誘導体またはクルクミンで処置した。すなわち、クルクミン誘導体またはクルクミンを培地に加えて(濃度:50μM)、4日間培養した。ネガティブコントロールとしては、培地にDMSOを加えて4日間培養した。
4.実験中1日ごとに、トリパンブルー染色によって生存している細胞数を計測した。
【0072】
(結果)
図1に実施例1-1の結果を示す。同図から判るように、いずれのクルクミン誘導体も、クルクミンと同等またはそれ以上にK562細胞の増殖を抑制していた。つまり、いずれのクルクミン誘導体も、クルクミンと同等以上の抗腫瘍活性を示した。特に、hs-031、hs-037およびhs-055は、クルクミン以上の抗腫瘍活性を示した。
【0073】
[実験例1-2]
合成例1で合成したクルクミン誘導体の抗腫瘍活性が、どの程度持続するのかを検討した。具体的な手法は、非特許文献1に記載の実験方法に準拠した。概要は以下の通りである。
1.実施例1-1の手順1~3に従って、クルクミン誘導体またはクルクミンを含有する培地でK562細胞の培養を開始した。
2.培養開始から2日後に、K562細胞をPBSで洗浄し、クルクミン誘導体またはクルクミンを除去した(
図2の(a)を参照)。
3.クルクミン誘導体またはクルクミンを含まない培地にK562細胞を播種し、さらに4日間培養した。
4.実験中1日ごとに、トリパンブルー染色によって生存している細胞数を計測した。
【0074】
(結果)
図2の(b)に実施例1-2の結果を示す。同図から判るように、いずれのクルクミン誘導体も、培地から除去された後にも抗腫瘍活性を示した。特に、hs-031およびhs-054はクルクミンと同程度に、hs-037およびhs-055はクルクミンよりも顕著に、培地からの除去後も抗腫瘍活性が持続していた。この事実は、これらのクルクミン誘導体が、腫瘍の再発を防止しうることを示唆している。
【0075】
[実験例1-3]
合成例1で合成したクルクミン誘導体について、細胞老化の誘導能を検討した。細胞老化の程度はSA-β-galアッセイ(senescence associated-b-galactosidase assay)によって定量化し、具体的な手法は非特許文献1に記載の実験方法に準拠した。概要は以下の通りである。
1.実施例1-1の手順1~3に従って、クルクミン誘導体またはクルクミンを含有する培地でK562細胞を4日間培養した。
2.培養後のK562細胞を、X-Gal溶液(X-Gal:0.2%、MgCl2:2mM、K4Fe(CN)6:5mM、K3Fe(CN)6:5mM)中で16~24時間インキュベートした。その後、位相差顕微鏡で細胞を観察した。
【0076】
(結果)
図3に実施例1-3の結果を示す。同図から判るように、いずれのクルクミン誘導体も、細胞老化を誘導していた。特に、hs-047は、クルクミンよりも顕著に高い細胞老化の誘導能を有してしていた。
【0077】
[実験例1-4]
合成例1で合成したクルクミン誘導体について、活性酸素種産生の誘導能を検討した。具体的な手法は、非特許文献1に記載の実験方法に準拠した。概要は以下の通りである。
1.実施例1-1の手順1~3に従って、クルクミン誘導体またはクルクミンを含有する培地でK562細胞の培養を開始した。
2.培養開始から0時間後、18時間後、21時間後、24時間後、27時間後および30時間後において、細胞を染色して活性酸素種のレベルを測定した。測定にはCellular Reactive Oxygen Species Detection Assay Kit(Deep Red Fluorescence, Abcam)および、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson製)を使用した。
【0078】
(結果)
図4に実施例1-4の結果を示す。同図から判るように、いずれのクルクミン誘導体も、活性酸素種の産生を誘導していた。特に、hs-037は、クルクミンよりも顕著に高い活性酸素種産生の誘導能を有してしていた。
【0079】
〔実験例2〕
[合成例2]
hs-056、hs-062、hs-064、hs-073、hs-089は、合成例1に記載の文献A~Dに記載の方法に準拠して合成した。
【0080】
具体的には、以下の手法に従った:
hs-056およびhs-064は、文献Cに記載の反応において、反応温度を室温から0℃に変更して合成した。
hs-062およびhs-073は(i)文献Bに記載の反応において、反応温度を-78℃から「-78℃下で三臭化ホウ素を添加後、室温に昇温」に変更し、さらに(ii)文献Cに記載の反応において、反応温度を室温から0℃に変更して合成した。
hs-089は既報の方法に準拠して合成した(なお、反応温度などの合成条件は既報と同じであるが、合成に使用した物質が異なるため、hs-089自体は新規化合物である)。
【0081】
各クルクミン誘導体について、ChemDraw Professional 16.0を用いてCLogP値を算出した結果を、下図に示す。これによると、hs-062およびhs-073は、クルクミンよりも水溶性に優れることが示唆された。
【0082】
【0083】
[実験例2-1~2-4]
合成例2で合成したクルクミン誘導体について、実施例1-1~1~4と同様の手順で、抗腫瘍活性、抗腫瘍活性の持続、細胞老化の誘導能、および活性酸素種産生の誘導能を検討した。なお、実施例2-4においては、活性酸素種のレベルは培養開始から24時間後のみに測定した。
【0084】
(結果)
図5に抗腫瘍活性、
図6に抗腫瘍活性の持続、
図7に細胞老化の誘導能、
図8に活性酸素種産生の誘導能の測定結果を示す。これらの図から判るように、合成例2で合成したクルクミン誘導体のいずれについても、抗腫瘍活性、抗腫瘍活性の持続、細胞老化の誘導能、および活性酸素種産生の誘導能は、クルクミンと同等かそれ以上であった。
【0085】
とりわけ、hs-064は、クルクミン以上の抗腫瘍活性および抗腫瘍活性の持続を示した(
図5、6を参照)。hs-056、hs-062、hs-073は、クルクミンより顕著に高い細胞老化の誘導能を有していた(
図7を参照)。hs-056は、クルクミンより顕著に高い活性酸素種産生の誘導能を有していた(
図8を参照)。
【0086】
〔実験例3〕
K562細胞株以外の腫瘍由来細胞株(またはそれに類する細胞株)に対する、クルクミン誘導体の抗腫瘍活性を検討した。
【0087】
合成例1、2で合成したクルクミン誘導体(全11種)について、実施例1-1と同様の手法により、抗腫瘍活性を測定した。使用した細胞は、以下の通りである。
・慢性骨髄性白血病細胞株(MEG-01、MOLM-7、KCL-22、MOLM-1)
・子宮頸癌細胞株(HeLa)
・膠芽腫細胞株(U-87 MG)
・子宮癌細胞株(AN3 CA)
・乳癌細胞株(MCF-7)
・膵癌細胞株(MIA PaCa-2、PANC-1)
・ヒト胎児腎臓由来細胞株(293T)。
【0088】
(結果)
いずれのクルクミン誘導体も、全ての細胞に対して、抗腫瘍活性を示した。この結果から、本発明の一実施形態に係る抗腫瘍剤が、広範な腫瘍に対して適用できることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、例えば、抗腫瘍剤に利用することができる。