(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】足裏装着具及びそれを用いたトレーニング方法
(51)【国際特許分類】
A41D 13/06 20060101AFI20220601BHJP
A61F 13/06 20060101ALI20220601BHJP
A43B 17/00 20060101ALI20220601BHJP
A43B 7/14 20220101ALI20220601BHJP
A61F 5/14 20220101ALI20220601BHJP
【FI】
A41D13/06
A61F13/06 A
A61F13/06 F
A61F13/06 N
A61F13/06 G
A43B17/00 E
A43B7/14 A
A61F5/14
(21)【出願番号】P 2018110684
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田井中 幸司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】高野 孝介
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-509384(JP,A)
【文献】特開2014-147622(JP,A)
【文献】国際公開第2007/086251(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/06
A61F 13/06
A43B 17/00
A43B 7/14
A61F 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましい足圧中心軌跡に誘導するために、歩行時又は走行時に着用者の足裏を刺激する刺激部が設けられた足裏装着具であって、
前記好ましい足圧中心軌跡に沿って前記刺激部が設けられ、
当該刺激部が、立方骨又はその外側から、土踏まずの外側を周りこんで第一基節骨を経由し、第一末節骨までを繋ぐ曲線に対応する位置に配置され
、
拇趾部が独立した指袋を備えた、足裏装着具。
【請求項2】
前記刺激部が突起である、請求項1に記載の足裏装着具。
【請求項3】
前記刺激部が弾性体によって形成されている、請求項1又は2に記載の足裏装着具。
【請求項4】
拇趾の裏面に接触する部分に配置された刺激部から足裏に伝わる刺激が他の部分に配置された刺激部から足裏に伝わる刺激よりも強い、請求項1~3のいずれかに記載の足裏装着具。
【請求項5】
拇趾の裏面に接触する部分以外の部分に配置された刺激部に沿って緩衝材が設けられた請求項4に記載の足裏装着具。
【請求項6】
前記刺激部が突起であり、かつ拇趾の裏面に接触する部分に配置された突起が他の部分に配置された突起よりも高い、請求項4に記載の足裏装着具。
【請求項7】
靴下、中敷、履物、足袋、ストッキング又はタイツである、請求項1~6のいずれかに記載の足裏装着具。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の足裏装着具を装着して、前記刺激部からの刺激を意識しながら歩行又は走行することによって正しい歩行又は走行方法を習得する、トレーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行時又は走行時に着用者の足裏を刺激する刺激部が設けられた足裏装着具に関する。また、本発明は、このような足裏装着具を用いて正しい歩行又は走行方法を習得するトレーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから人の歩容について研究が行われている。人の歩容は、老化や運動刺激の減少によって、筋肉、骨、関節、神経、軟骨、椎間板等の運動器が衰えること等により徐々に乱れる。高齢者の歩容は「滑りやすい路面を歩くときの動作」や「暗闇を手探りで歩くときの動作」と表現されることがある。また、老若男女は、一般的に正しい歩容を教えてもらった経験がほとんどない。その為、正しい歩容が如何なるものかを理解して実践している人は少ないので、人の歩容は乱れやすいとも言える。人の歩容が乱れると、見た目だけでなく、当然、身体面にも悪影響が及ぶ。人の歩容は、疾病を診断したり、その原因を突き止めたりする際の手掛かりとなるため、臨床上でもこれらの評価が行われている。
【0003】
近年、老化に伴い運動器に障害が起こり、骨の変形を伴う膝痛及び腰痛並びに転倒骨折により、「立つ」「歩く」といった移動機能が低下している高齢者が急増している。この状態をロコモティブシンドローム(運動器症候群)と呼び、要介護リスクが高まるため、これを予防、進行防止、改善する取り組みが非常に注目されている。ロコモティブシンドロームの代表例として変形性膝関節症が知られている。変形性膝関節症患者の歩行時の特徴として、膝関節内反により膝関節が外側に開くことが知られている。変形性膝関節症の治療方法のひとつに、装具、サポーター、足底板(インソール)などの矯正器具を用いて患部の膝関節の不正な動作を抑制する方法が採用されている。しかしながら、このような矯正器具を装着して日常生活を送ると、動きが制限されて不便であった。また、不正な動作は個々の状態で様々であるため、効果的に不正な動作を抑制するには、個々の動きに応じたオーダーメイドの器具が必要となる。さらに、このような矯正器具を用いて患部の動作を矯正した場合、患部以外の部分に負担がかかり、元々正常であった部分に問題(代償)が生じることもあった。歩容を改善して、ロコモティブシンドロームの予防、進行防止、改善することが健康寿命を延ばすためには重要であることから、その実現が強く求められている。しかしながら、上述のように前記矯正器具は、体への負担や日常生活への影響が大きいうえに、歩容の改善効果も小さい。ましてや、予防を目的とした使用には適していなかった。
【0004】
また、子供や大人たちのケガや慢性的な障害(骨の変形を伴わない膝や腰の痛み、肩こり、捻挫等)、子供から大人たちのスポーツ障害や外傷、足のトラブル(外反母趾、タコ、魚の目、巻き爪、O脚等)及び歩行時の疲れやすさ等の予防や改善にも、歩き方や走り方の改善(=正しく歩く・走る)が極めて有効であると考えられる。
【0005】
このようなことから、「歩き方」や「走り方」の改善が可能であり、体への負担が少なく、日常生活において不自由なく使用できる器具が求められている。
【0006】
特許文献1には、足裏部と当接する歩行矯正用具であって、踵部と母趾球部とを繋ぐ線上と、母趾球部と母趾部とを繋ぐ線上に隆起部が形成された歩行矯正用具が記載されていて、その実施例には、当該踵部と母趾球部とを直線で繋いだ例が記載されている。そして、歩行の際に、足裏と当接する隆起部が意識されることにより、踵部から母趾球部への体重移動が行えるようになると記載されている。しかしながら、当該歩行矯正用具による歩容の改善効果はなお不十分であった。
【0007】
ところで、「歩き方」や「走り方」を解析する指標の一つとして足圧中心(COP:Center of pressure)軌跡が知られている。足圧中心軌跡とは、歩行時や走行時において、足が接地する時から離地するまでの足底の圧力の中心である足圧中心の軌跡(移動)を示すものである。正常な(好ましい)足圧中心軌跡は、踵から始まり、足底のやや外側を経由して前足部に移動し、徐々に内側に向かった後、最後は拇趾へと移動することが知られている。しかしながら、足圧中心軌跡を直接利用して「歩き方」・「走り方」を改善することについてはこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、「歩き方」や「走り方」の改善が可能であり、体への負担が少なく、日常生活において不自由なく使用できる足裏装着具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、好ましい足圧中心軌跡に誘導するために、歩行時又は走行時に着用者の足裏を刺激する刺激部が設けられた足裏装着具であって、前記好ましい足圧中心軌跡に沿って前記刺激部が設けられ、当該刺激部が、立方骨又はその外側から、土踏まずの外側を周りこんで第一基節骨を経由し、第一末節骨までを繋ぐ曲線に対応する位置に配置されている、足裏装着具を提供することによって解決される。
【0011】
このとき、前記刺激部が突起であることや弾性体によって形成されていることが好ましい。前記足裏装着具において、拇趾の裏面に接触する部分に配置された刺激部から足裏に伝わる刺激が他の部分に配置された刺激部から足裏に伝わる刺激よりも強いことが好ましい。このとき、拇趾の裏面に接触する部分以外の部分に配置された刺激部に沿って緩衝材が設けられていることや、前記刺激部が突起であり、かつ拇趾の裏面に接触する部分に配置された突起が他の部分に配置された突起よりも高いことがより好ましい。前記足裏装着具が、拇趾部が独立した指袋を備えていることが好ましい。
【0012】
靴下、中敷、履物、足袋、ストッキング、及びタイツが前記足裏装着具の好適な実施態様である。
【0013】
上記課題は、前記足裏装着具を装着して、前記刺激部からの刺激を意識しながら歩行又は走行することによって正しい歩行又は走行方法を習得する、トレーニング方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の足裏装着具を装着して歩行又は走行することにより、好ましい足圧中心軌跡に誘導されるため、「歩き方」や「走り方」が改善される。また、当該足裏装着具は、体への負担が少なく、なおかつ日常生活において不自由なく使用できる。本発明の足裏装着具を用いて「歩き方」や「走り方」が改善されることにより、特に、膝腰の関節の変形性疾患等のロコモティブシンドローム、子供や大人たちのケガや慢性的な障害(骨の変形を伴わない膝や腰の痛み、肩こり、捻挫等)、子供から大人たちのスポーツ障害や外傷、足のトラブル(外反母趾、タコ、魚の目、巻き爪、O脚等)及び歩行時の疲れやすさ等の予防、進行防止、改善が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】足骨格(左足)を足裏側から見た模式図である。
【
図2】足底に刺激部が形成された足裏装着具(靴下)の足底を示す模式図である。
【
図3】拇趾の裏面に接触する部分以外の部分に配置された刺激部に沿って緩衝材が設けられた足裏装着具(靴下)の足底を示す模式図である。
【
図4】拇趾の裏面に接触する部分に配置された突起が他の部分に配置された突起よりも高い足裏装着具(靴下)の足底を示す模式図である。
【
図5】実施例1及び比較例2において、足裏側から見た足に装着された靴下の模式図である。
【
図6】実施例1及び比較例2における、刺激部を配置する際の基準として用いた足圧中心軌跡を示す模式図である。
【
図7】実施例1、並びに比較例1及び2における、歩行時の足底圧の分布(変化)を示す図である。
【
図8】実施例1又は比較例2の足圧中心軌跡長を、比較例1の足圧中心軌跡長と比較した図である。
【
図9】実施例1、並びに比較例1及び2における、歩行時の股関節角度の時系列変化を示す図である。
【
図10】実施例2及び3、並びに比較例4において、足裏側から見た足に装着された靴下の模式図である。
【
図11】実施例2及び3、並びに比較例3及び4における、歩行時の足底圧の分布(変化)を示す図である。
【
図12】実施例2、実施例3又は比較例4の足圧中心軌跡長を、比較例3の足圧中心軌跡長と比較した図である。
【
図13】実施例2及び3、並びに比較例3及び4における、歩行時の股関節角度の時系列変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の足裏装着具は、好ましい足圧中心軌跡に誘導するために、歩行時又は走行時に着用者の足裏を刺激する刺激部が設けられた足裏装着具であって、前記好ましい足圧中心軌跡に沿って前記刺激部が設けられ、当該刺激部が、立方骨又はその外側から、土踏まずの外側を周りこんで第一基節骨を経由し、第一末節骨までを繋ぐ曲線に対応する位置に配置されているものである。
【0017】
本発明の足裏装着具には、好ましい足圧中心軌跡に沿って刺激部が設けられている。足圧中心軌跡とは、歩行時や走行時において、足が接地する時から離地するまでの足底の圧力の中心である足圧中心の軌跡(移動)を示すものである。また、好ましい足圧中心軌跡とは、人の正常な足圧中心軌跡を意味する。前記足裏装着具が足に装着された際に、前記刺激部が足裏の好ましい足圧中心軌跡に沿って配置されている必要がある。歩行時や走行時に、足に刺激部が踏まれることによって、好ましい足圧中心軌跡に沿って足裏が刺激される。これにより、驚くべきことに着用者の足圧中心軌跡が好ましい軌跡に近づく。このとき、好ましい足圧中心軌跡に沿った刺激部を踏むように歩行又は走行することにより、拇趾まで体重が乗せられるようになり、好ましい足圧中心軌跡に近づくことを着用者に知らせたうえで、着用者が前記刺激部を意識して歩行又は走行することが好ましい。
【0018】
図1は、足骨格(左足)を足裏側から見た模式図である。
図1を用いて、前記足裏装着具が足に装着された際の刺激部の位置について具体的に説明する。曲線1は、好ましい足圧中心軌跡に対応するものであり、足裏側から前記好ましい足圧中心軌跡を見た際に、当該軌跡と曲線1とが一致する。曲線1は、踵骨2外側(左足の場合、着用者から見て左外側)から、立方骨3又はその外側を経由し、土踏まず4の外側を周りこんで第一基節骨5を経由し、第一末節骨6の先端までを繋ぐものである。そして、前記足裏装着具が足に装着された際に、前記刺激部は、曲線1のうち、少なくとも立方骨3又はその外側から、第一末節骨までを繋ぐS字状(又はその対称形)の部分に対応する位置に配置される必要がある。このとき、刺激部は連続的に配置されていてもよいし、間欠的に配置されていてもよいが前者が好ましい。刺激部が間欠的に配置されている場合、刺激部同士の間隔が20mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。歩行時又は走行時に刺激部によって足裏が刺激されるためには、足裏の歩行時又は走行時に接地する部分に対応する位置に刺激部が配置される必要がある。
【0019】
曲線1は、踵骨2外側を始点とし、立方骨3又はその外側に到達する。このとき、曲線1が踵骨2を経由してから、立方骨3又はその外側に到達してもよいし、踵骨2を経由せずに踵骨2の外側から直接立方骨3又はその外側に到達してもよい。踵骨2外側とは、足裏側から足骨格を平面視した場合における、踵骨2の重心7よりも外側(小趾側)の部分を意味する。曲線1が踵骨2の重心7の外側(小趾側)を経由することが好ましい。このとき、足のサイズが25cmの場合、曲線1と踵骨2の重心7の最短距離が5mm以上であることが好ましく、1cm以上であることがより好ましい。この距離は足のサイズに比例するため、足のサイズに比例して算出される。
【0020】
足圧中心軌跡がさらに改善される点から、曲線1が立方骨3を経由することが好ましい。このとき、足裏側から足骨格を平面視した場合における、立方骨3の重心8と、曲線1の最短距離(足のサイズが25cmの場合)が1.5cm以下であることが好ましく、1cm以下であることがより好ましい。重心8と、曲線1の最短距離は足のサイズに比例するため、足のサイズに比例して算出される。足圧中心軌跡がさらに改善される点から、曲線1が第五中足骨9を経由しないことが好ましい。曲線1は、立方骨3又はその外側を経由して土踏まず4の外側を周りこんで第一基節骨5に到達する。土踏まず4とは、足裏内側(拇趾側)の、歩行時又は走行時に接地しない部分を意味する。足圧中心軌跡が改善されるためには、曲線1が土踏まず4を経由せず、その外側を回り込んで第一基節骨5に到達することが重要である。曲線1が土踏まず4を経由せずに第一基節骨5に到達するためには、曲線1が第三中足骨10及び第二中足骨11をこの順で経由して第一基節骨5に到達することが好ましい。また、同様の理由で、曲線1が、舟状骨12及び内側楔状骨13を経由しないことが好ましい。曲線1は、第一基節骨5及び第一末節骨6をこの順で経由して、第一末節骨6の先端を終点とするS字状(又はその対称形)の線である。
【0021】
前記刺激部は、曲線1のうち、少なくとも立方骨3又はその外側から、第一末節骨6までを繋ぐ部分に対応する位置に配置されている必要がある。足圧中心軌跡をさらに改善する観点から、前記刺激部が第一末節骨6の先端に対応する位置まで延設されていることが好ましい。同様の観点から、前記刺激部が、立方骨3又はその外側よりも踵側の部分に対応する位置まで延設されていて、立方骨3又はその外側に対応する部分全体に当該刺激部が配置されていることが好ましい。このとき、前記刺激部が、踵骨2外側に対応する部分まで延設されていても構わないが、踵骨2の重心7よりも後側(進行方向の反対側)の部分に対応する位置まで延設されていないことが好ましい。前記刺激部が踵の踵接地する部分に対応する位置に配置されていると着用者が歩行又は走行する際の踵着地時に痛みとして感じる場合があり、このような位置に配置されていないことが好ましい。足圧中心軌跡をさらに改善する観点から、前記刺激部は、曲線1に対応する位置、すなわち好ましい足圧中心軌跡に沿った位置以外の位置には配置されていないことが好ましい。
【0022】
図2は、本発明の足裏装着具の具体的な実施態様の一例である、足底14に刺激部15が形成された靴下の足底14を示す模式図である。
図2を用いて、本発明の足裏装着具についてさらに説明する。
図2に示される靴下の足底14の表側(足に接触しない側)には、好ましい足圧中心軌跡に沿って刺激部15が配置されている。歩行時や走行時に、刺激部15が足に踏まれることによって、好ましい足圧中心軌跡に沿って足裏が刺激される。このように、好ましい足圧中心軌跡に沿って足裏を刺激することが可能であれば、刺激部15の形状は特に限定されないが、体への負担が少なく、日常生活において不自由なく使用できる点から、刺激部15が突起であることが好ましい。
図2に示される靴下のように、足底14の表側に突起が配置されていて、突起が足とは逆の向きに突出していてもよいし、足底14の裏側(足と接触する側)に突起が配置されていて、突起が足に向かって突出していてもよい。また、
図2に示される靴下のように、刺激部15と足裏の間に編地16等の部材が配置されていてもよいし、刺激部15が足裏と直接接触する位置に配置されていてもよい。
【0023】
本発明の効果が阻害しない範囲であれば、刺激部15の高さ(足裏に対して垂直方向、足のサイズが25cmの場合)は特に限定されないが、0.1~5mmが好ましい。刺激部15の高さが0.1mm未満の場合、足裏に伝わる刺激が弱すぎて、足圧中心軌跡が十分に改善されないおそれがある。刺激部15の高さは、0.3mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましい。一方、刺激部15の高さが5mmを超える場合、足裏に伝わる刺激が強すぎて、装着者が刺激を痛みとして感じるおそれがある。刺激部15の高さは、3mm以下がより好ましい。この高さは足のサイズに比例するため、足のサイズに比例して算出される。
【0024】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、刺激部15の幅(足裏に対して平行であり、かつ好ましい足圧中心軌跡に対して垂直である方向)は特に限定されないが、0.1~20mmが好ましい。刺激部15の幅が0.1mm未満の場合、足裏に伝わる刺激が弱すぎて、足圧中心軌跡が十分に改善されないおそれがある。刺激部15の幅は、0.3mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましい。一方、刺激部15の幅が20mmを超える場合、好ましい足圧中心軌跡から離れた部分が刺激されたり、足裏が刺激されなかったりすることにより、足圧中心軌跡が十分に改善されないおそれがある。刺激部15の幅は、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましい。
【0025】
図3は、拇趾の裏面に接触する部分以外の部分に配置された刺激部15に沿って緩衝材19が設けられた足裏装着具(靴下)の足底14を示す模式図である。足圧中心軌跡が改善されるためには、歩行時又は走行時に、拇趾の裏側の部分が刺激される必要があるが、拇趾が前記刺激部を踏む際の圧力は、拇趾以外の部分が刺激部を踏む際の圧力よりも低い。したがって、拇趾の裏面に接触する部分とそれ以外の部分に同じ刺激部を配置した場合、拇趾の裏側へ伝わる刺激が弱くなりすぎて足圧中心軌跡の改善効果が不十分になったり、拇趾の裏側以外の部分へ伝わる刺激が強くなりすぎて痛みとして感じられたりするおそれがある。このようなことから、前記足裏装着具において、足裏の各部分が同じ圧力で刺激部を踏んだ場合に、拇趾の裏面に接触する部分に配置された刺激部から足裏に伝わる刺激が他の部分に配置された刺激部から足裏に伝わる刺激よりも強いことが好ましい。このように足裏に伝わる刺激を調整する方法としては、前記足裏装着具において、拇趾の裏面に接触する部分以外の部分に配置された刺激部15に沿って緩衝材19を設ける方法が挙げられる。拇趾の裏側以外の足裏の部分に対応する位置に緩衝材19を設けることによって、拇趾の裏側以外の部分へ伝わる刺激が低減されて痛みを防止することができる。足裏に伝わる刺激を低減させることができれば、緩衝材19の形状や位置は特に限定されず、平紐状の緩衝材19を刺激部15の足裏側又はその反対側に配置する方法や、足裏側から刺激部15を見た際に、刺激部15を挟んでその両側に平紐状の緩衝材19を配置する方法等が挙げられる。緩衝材19が弾性体であることが好ましく、当該弾性体が繊維集合体、ゴム成形品又は樹脂成形品であることがより好ましい。
【0026】
図4は、拇趾の裏面に接触する部分に配置された突起20が他の部分に配置された突起21よりも高い足裏装着具(靴下)の足底を示す模式図である。このような足裏装着具によっても、足裏に伝わる刺激を調整して拇趾の裏側以外の部分の痛みを防止できる。
図4に示される足裏装着具では、突起20、21がゴム紐で形成されていて、拇趾の裏面に接触する部分に配置されるゴム紐(突起20)の外径を他の部分に配置されるゴム紐(突起21)よりも大きくすることによって突起20、21の高さが調整されている。
【0027】
足裏が接地する際に着用者に知覚されるものであれば刺激部15を形成する材料は特に限定されないが、刺激部15が弾性体によって形成されていることが好ましく、前記弾性体がゴム成形品、樹脂成形品又は繊維集合体であることがより好ましい。
【0028】
前記足裏装着具の足底14に刺激部15を形成する方法は特に限定されず、足裏装着具の種類に適した方法を採用すればよい。例えば、前記足裏装着具が靴下である場合、靴下の足底14に紐状の部材(ゴム紐等)を好ましい足圧中心軌跡に沿うように、縫い付けたり、接着剤を用いたりすることにより固定する方法が挙げられる。また、足裏装着具の足底14にラテックスや溶融した樹脂を好ましい足圧中心軌跡に沿うように塗布する方法も挙げられる。当該方法によれば、足裏装着具の足底14に、線状の刺激部15を形成することにより、刺激部15を連続的に配置することや破線状、ドット状等の刺激部15を形成することにより、刺激部15を間欠的に配置することができる。また、前記足裏装着具の足底14に緩衝材19を形成する場合も、刺激部15と同様の方法を採用できる。
【0029】
前記足裏装着具が拇趾部17が独立した指袋18を備えていることが好ましい。これにより、装着時において、前記足裏装着具の位置ずれが防止される。
【0030】
前記足裏装着具が靴下、中敷、履物、足袋、ストッキング又はタイツであることが好ましい。
【0031】
前記足裏装着具を装着して、前記刺激部からの刺激を意識しながら歩行又は走行することによって正しい歩行又は走行方法を習得する、トレーニング方法が前記足裏装着具の好適な実施態様である。このとき、好ましい足圧中心軌跡に沿った刺激部を踏むように歩行又は走行することにより、拇趾まで体重が乗せられるようになり、好ましい足圧中心軌跡に近づくことを着用者に知らせたうえで、着用者が前記刺激部を意識して歩行又は走行することが好ましい。
【0032】
前記足裏装着具を装着して歩行又は走行することによって、好ましい足圧中心軌跡に誘導されるため、「歩き方」や「走り方」が改善される。また、当該足裏装着具は、体への負担が少なく、なおかつ日常生活において不自由なく使用できる。本発明の足裏装着具を用いて「歩き方」や「走り方」が改善されることにより、関節の変形性疾患等のロコモティブシンドローム、スポーツ障害、外反母趾、腰痛、肩こり等の予防、進行防止、改善が達成される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0034】
実施例1
市販の靴下の足底の表側(足に接触しない側)に手芸や髪結いに用いられる丸ゴム紐(直径2.5mm)を縫い付けることにより、足底に刺激部が設けられた靴下を作製した。
図5は、足裏側から見た足に装着された前記靴下の模式図である。
図6に刺激部を配置する際の基準として用いた、代表的な好ましい足圧中心軌跡を示す。
【0035】
前記靴下を装着したモニター(50歳の男性)の歩行時の足底圧の分布(変化)、足圧中心軌跡長及び股関節角度を測定した。測定前に、前記靴下には好ましい足圧中心軌跡に沿って刺激部が設けられており、当該刺激部を踏むように歩行又は走行することにより、拇趾まで体重が乗せられるようになり、好ましい足圧中心軌跡に近づくことをモニターに伝えた。
【0036】
靴下が装着された際に、刺激部は、踵骨2外側から、立方骨3を経由し、土踏まず4の外側を周りこんで第一基節骨5を経由し、第一末節骨6の先端までを繋ぐ曲線1(
図1に示される曲線1)に対応する位置に配置された。足底圧及び足圧中心軌跡長の測定には足底圧計測システムを用い、股関節には位置センサーを固定して測定した。
図7に歩行時の足底圧の分布(変化)の測定結果を示す。
図8に足圧中心軌跡長の測定結果を示す。
図9に股関節角度の時系列変化の測定結果を示す。
【0037】
比較例1
モニターが刺激部が設けられていない靴下を装着して歩行したこと以外は実施例1と同様にして足底圧の分布(変化)、足圧中心軌跡長及び股関節角度を測定した。その結果を
図7~9に示す。
【0038】
比較例2
刺激部の配置が異なること以外は実施例1と同様にして靴下の作製を行った。
図5に作製された靴下の模式図を示し、
図6に刺激部を配置する際の基準として用いた足圧中心軌跡を示す。モニターが前記靴下を装着して歩行したこと以外は実施例1と同様にして足底圧の分布(変化)、足圧中心軌跡長及び股関節角度を測定した。比較例2の靴下が装着された際に、刺激部は、第一基節骨に対応する位置及び第一末節骨に対応する位置に配置されていなかった。測定結果を
図7~9に示す。
【0039】
実施例2
拇趾部が独立した指袋を備えた市販の靴下を用いたこと以外は実施例1と同様にして足底に刺激部が設けられた靴下の作製を行った。
図10は、足裏側から見た足に装着された前記靴下の模式図である。モニターが前記靴下を装着して歩行したこと以外は実施例1と同様にして足底圧の分布(変化)、足圧中心軌跡長及び股関節角度を測定した。靴下が装着された際に、刺激部は、踵骨2外側から、立方骨3を経由し、土踏まず4の外側を周りこんで第一基節骨5を経由し、第一末節骨6の先端までを繋ぐ曲線1(
図1に示される曲線1)に対応する位置に配置された。測定結果を
図11~13に示す。
【0040】
実施例3
踵部分(踵接地時に地面と接する部分)に対応する部分にゴム紐を配置しなかったこと及びゴム紐を縫い付けた後、拇趾球に対応する部分よりも踵側の部分に、刺激部からの刺激を軽減させるために緩衝材19として、幅1.5cmの平ゴム(パンツゴム)をゴム紐を覆うように縫い付けたこと以外は実施例2と同様にして靴下の作製を行った。
図10は、足裏側から見た足に装着された前記靴下の模式図である。モニターが前記靴下を装着して歩行したこと以外は実施例1と同様にして足底圧の分布(変化)、足圧中心軌跡長及び股関節角度を測定した。靴下が装着された際に、刺激部は、立方骨3から、土踏まず4の外側を周りこんで第一基節骨5を経由し、第一末節骨6の先端までを繋ぐ曲線に対応する位置に配置された(立方骨3に対応する部分全体に刺激部が配置されており、)。測定結果を
図11~13に示す。踵部分に対応する部分の刺激部を削除するとともに、拇趾球に対応する部分よりも踵側の部分に緩衝材19を配置することにより、足裏にソフトな刺激が感じられて不快感なく長時間着用することができた。
【0041】
比較例3
モニターが刺激部が設けられていない靴下を装着して歩行したこと以外は実施例2と同様にして足底圧の分布(変化)、足圧中心軌跡長及び股関節角度を測定した。その結果を
図11~13に示す。
【0042】
比較例4
第一基節骨に対応する位置及び第一末節骨に対応する位置に刺激部を配置しなかったこと以外は実施例2と同様にして靴下の作製を行った。
図10は、足裏側から見た足に装着された前記靴下の模式図である。モニターが前記靴下を装着して歩行したこと以外は実施例1と同様にして足底圧の分布(変化)、足圧中心軌跡長及び股関節角度を測定した。靴下が装着された際に、刺激部は、第一基節骨に対応する位置及び第一末節骨に対応する位置に配置されていなかった。測定結果を
図11~13に示す。
【0043】
好ましい足圧中心軌跡に沿って刺激部が設けられた靴下を装着して歩行した場合の足底圧の分布(変化)及び足圧中心軌跡長(実施例1~3)は、刺激部が設けられていない靴下を装着して歩行した場合の足圧中心軌跡(比較例1、3)と比較して、拇趾方向に伸長しており、足圧中心軌跡が改善したことが確認された(
図7,8、11、12)。一方、第一基節骨に対応する位置及び第一末節骨に対応する位置に刺激部が設けられていない場合(比較例2、4)には、このような足圧中心軌跡の改善が見られなかった(
図7,8、11、12)。また、好ましい足圧中心軌跡に沿って刺激部が設けられた靴下を装着して歩行した場合(実施例1~3)の股関節角度は、刺激部が設けられていない靴下を装着して歩行した場合(比較例1、3)、及び第一基節骨に対応する位置及び第一末節骨に対応する位置に刺激部が設けられていない場合(比較例2、4)と比較して、広がり、歩行時股関節の可動域が増加した(
図9、13)。これは、拇趾まで好ましい足圧中心軌跡が誘導されて軌跡が伸長されたことにより、しっかりと蹴り出し動作が行われた結果であると考えられる。更に、拇趾以外の部分に刺激を軽減する緩衝材を配置した実施例3は、実施例2と同等の歩行時の足底圧の分布及び足圧中心軌跡長の延長、並びに股関節の可動域の増加が認められ、足圧中心軌跡が改善したことが確認された(
図11、12,13)。また、実施例2と比較して実施例3の方が、右蹴出圧max、左足着地時の右足の足圧が強くない(黒くなっていない)。すなわち、足圧がソフト(弱く)であり刺激が緩和されていることが観察された(
図11)。そのため、体への負担が少なく、日常生活において不自由なく使用できる。よって、正しい「歩き方」又は「走り方」を自身の身体で学習する観点から、長時間あるいは日常的及びスポーツ活動中にも着用できるので、好ましい足圧中心軌跡に更に導くことが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 曲線
2 踵骨
3 立方骨
4 土踏まず
5 第一基節骨
6 第一末節骨
7、8 重心
9 第五中足骨
10 第三中足骨
11 第二中足骨
12 舟状骨
13 内側楔状骨
14 足底
15 刺激部
16 編地
17 拇趾部
18 指袋
19 緩衝材
20、21 突起