(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】組成物、導電性塗膜、タッチパネル、及び、表示装置
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20220601BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20220601BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20220601BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220601BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220601BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20220601BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
C07D495/04 101
H01B1/20 A
C09D5/24
C09D7/63
H01B5/14 A
H01B1/12 Z
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2018128420
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】小林 由佳
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/057721(WO,A1)
【文献】特開2010-277701(JP,A)
【文献】特開2013-104031(JP,A)
【文献】Terauchi, Takeshi et al.,Synthesis of bis-fused tetrathiafulvalene with mono- and dicarboxylic acids,Tetrahedron Letters,2012年,vol.53, no.26,pp.3277-3280
【文献】Allard, Emmanuel et al.,Photoinduced electron-transfer processes in C60-tetrathiafulvalene dyads containing a short or long flexible spacer,Physical Chemistry Chemical Physics,2002年,vol.4, no.24,pp.5944-5951
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/04
H01B 1/20
C09D 5/24
C09D 7/63
H01B 1/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式2′で表される化合物と、溶媒とを含有する組成物であって、
前記溶媒は、多価アルコールと、非プロトン性極性溶媒とを含有する、組成物。
【化1】
式2′中、XはS、O、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表し、複数ある前記Xはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、
R
1
は水素原子を表し、R
2
が*-COO
-
であり、R
3
が*-COOH(*は、結合位置を表す)である。
【請求項2】
前記化合物が、下記式で表される化合物である、請求項
1に記載の組成物。
【化2】
【請求項3】
前記多価アルコールの含有量が、前記溶媒の全質量に対して、0.3~3質量%であり、
前記非プロトン性極性溶媒の含有量が、前記溶媒の全質量に対して、40~60質量%である、請求項
1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物を用いて形成された導電性塗膜。
【請求項5】
請求項
4に記載の導電性塗膜を有するタッチパネル。
【請求項6】
請求項
4に記載の導電性塗膜を有する表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、導電性塗膜、タッチパネル、及び、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラチアフルバレン等のフルバレン又はその縮環化合物に特定の置換基を導入た誘導体化合物を導電性材料として用いる検討が進んでいる。特許文献1には、所定の構造を有するフルバレン及びその縮環化合物に特定の置換基を導入した誘導体化合物が有機透明電極等に利用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に記載された化合物を含有する組成物を用いて、導電性塗膜の形成を試みたところ、均一な導電性塗膜が得られない場合があることを知見した。言い換えれば、得られる膜が不均一となってしまう場合があることを知見した。
そこで、本発明は、テトラチアフルバレン等のフルバレン又はその縮環化合物に特定の置換基を導入た誘導体化合物を含有し、優れた均一性を有する塗膜を形成できる、組成物の提供を課題とする。また、本発明は、導電性塗膜、タッチパネル、及び、表示装置を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1] 後述する式1~4からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう。)と、溶媒とを含有する組成物であって、溶媒は、多価アルコールと、非プロトン性極性溶媒とを含有し、化合物Aが、後述する式2′で表される化合物である、組成物。
[2] 化合物Aが、後述するTEDである[1]に記載の組成物。
[3] 前記多価アルコールの含有量が、前記溶媒の全質量に対して、0.3~3質量%であり、前記非プロトン性極性溶媒の含有量が、前記溶媒の全質量に対して、40~60質量%である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] [1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物を用いて形成された導電性塗膜。
[5] [4]に記載の導電性塗膜を有するタッチパネル。
[6] [4]に記載の導電性塗膜を有する表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、化合物Aを含有し、優れた均一性を有する塗膜を形成できる、組成物が提供できる。また、本発明によれは、導電性塗膜、タッチパネル、及び、表示装置も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】導電性塗膜1の光学顕微鏡写真を画像処理したものである。
【
図2】導電性塗膜2の光学顕微鏡写真を画像処理したものである。
【
図3】塗膜3の光学顕微鏡写真を画像処理したものである。
【
図4】塗膜4の光学顕微鏡写真を画像処理したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表す。また、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルの双方、又は、いずれかを表す。
【0011】
[組成物]
本発明の実施形態に係る組成物は、化合物Aと、溶媒とを含有する組成物であって、上記溶媒は、アルコールと、非プロトン性極性溶媒とを含有する。
【0012】
上記組成物が本発明の効果を有する機序は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。なお、以下の推測以外の機序により本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれるものとする。
【0013】
化合物A、典型的には、テトラチアフルバレン誘導体は、その拡張されたπ共役部により2次元に集積したネットワーク構造を形成する傾向があり、このことが、両性イオンラジカル種を分子配列中で非局在化させるものと本発明者らは推測している。その結果、化合物Aを含有する塗膜が優れた導電性を有するものと本発明者らは推測している。
すなわち、化合物A(典型的にはテトラチアフルバレン誘導体)は、水素結合によって自己集積化し、かつ、そこに生じたプロトン欠陥が、拡張したπ共役部位に非局在化した分子スピンを発生して金属化しているものと推測される。
【0014】
本発明者らは、上記化合物Aと様々な溶媒を含有する組成物について、得られる塗膜の面状を観察して、より均一な塗膜が得られる構成を鋭意検討してきた。
その結果、アルコールと、非プロトン性極性溶媒とを含有する組成物によれば、驚くべきことに、より優れた均一性を有する導電性塗膜が形成できることを発見し、本発明の完成に至った。
上述した化合物Aの特性に鑑みると、本発明の実施形態に係る組成物が含有する溶媒の組み合わせによれば、化合物Aがより規則正しく均一に自己集積化した結果、優れた均一性を有する塗膜が得らたものと推測される。
【0015】
なお、本明細書において、導電性塗膜の均一性とは、導電性塗膜の膜厚の均一性を意味し、実施例に記載した方法により評価される膜厚の均一性を意味する。
以下では、本発明の実施形態に係る組成物が含有する各成分について説明する。
【0016】
〔溶媒〕
本発明の実施形態に係る組成物は、溶媒を含有する。溶媒としては後述するアルコール、及び、非プロトン性極性溶媒を含有していれば特に制限されず、その他の溶媒、具体的には、水、及び/又は、有機溶媒を含有していてもよい。
本発明の組成物が含有する溶媒の含有量としては特に制限されず、得られる塗膜が所望の膜厚となるよう、組成物の固形分を調整すればよい。なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、組成物の全固形分が、0.001~99.9質量%となるよう調整するのが好ましく、0.01~10質量%がより好ましく、0.1~5質量%が更に好ましく、0.3~1質量%が特に好ましい。
【0017】
<アルコール>
上記溶媒は、アルコールを含有する。溶媒中におけるアルコールの含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、溶媒の全質量に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.3~3質量%が更に好ましい。
【0018】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、及び、イソアミルアルコール等の第1級アルコール;2-プロパノール、2-ブタノール、及び、シクロヘキサノール等の第2級アルコール;tert-ブチルアルコール等の第3級アルコール;等が挙げられる。
【0019】
また、アルコールとしては、多価アルコールであってもよく、その場合、分子中におけるヒドロキシ基の個数としては特に制限されないが、一般に、2~10個が好ましい。
【0020】
2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンチレングリコール、1,3-ペンチレングリコール、1,4-ペンチレングリコール、1,5-ペンチレングリコール、及び、ヘキシレングリコール等のアルキレングリコール類;ジエチレングリコール、及び、ジプロピレングリコール等;ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。
2価アルコールとしては、より優れた本発明の効果を有し、かつ、より優れた導電性を有する導電性塗膜が得られる点で、炭素数1~10個の2価アルコールが好ましく、炭素数2~8個の2価アルコールがより好ましい。
【0021】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する導電性塗膜が得られる点で、2価アルコールとしては、鎖状の脂肪族炭化水素の2つの炭素原子に1つずつヒドロキシ基が置換した化合物が好ましく、このとき、脂肪族炭化水素の炭素原子の数としては、1~10個が好ましく、1~6個がより好ましい。
また、化合物A、及び/又は、非プロトン性極性溶媒との親和性に優れ、結果として、更に優れた本発明の効果を有する導電性塗膜が得られる点で、25℃における水への溶解度が0.1g/mL以上であることが好ましい。
【0022】
3価アルコールとしては、例えば、グリセリン(グリセロール)、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、1,2,4-ペンタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、2,3,4-ヘキサントリオール、2-エチル-1,2,3-ブタントリオール、トリメチロールプロパン、4-プロピル-3,4,5-ヘプタントリオール、及び、2,4-ジメチル-2,3,4-ペンタントリオール等が挙げられる。
4価アルコールとしては、エリスリトール、ペンタエリスリトール、1,2,3,4-ペンタテトロール、2,3,4,5-ヘキサテトロール、1,2,4,5-ペンタンテトロール、1,3,4,5-ヘキサンテトロール、ジグリセリン、及び、ソルビタン等が挙げられる。
5価アルコールとしては、アドニトール、アラビトール、キシリトール、及びトリグリセリン等が挙げられる。
6価アルコールとしては、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0023】
アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上のアルコールを併用する場合には、溶媒中における合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0024】
アルコールとしては、得られる導電性塗膜がより優れた導電性を有する点で、多価アルコールを含有することが好ましく、ヒドロキシ基の個数として2~10個であることがより好ましい。
上記の多価アルコールを含有する組成物を用いて得られた導電性塗膜はより優れた導電性を有する。
【0025】
<非プロトン性極性溶媒>
上記溶媒は、非プロトン性極性溶媒を含有する。溶媒中における非プロトン性極性溶媒の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、溶媒の全質量に対して、10~70質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。
【0026】
本明細書において、非プロトン性極性溶媒とは、解離性のH+を有さない極性有機溶媒を意味し、25℃における双極子モーメントが2.5D(デバイ)以上の有機溶媒が好ましい。
【0027】
非プロトン性極性溶媒としては特に制限されないがアセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルりん酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び、テトラメチル尿素等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する点で、非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び、スルホランからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0028】
非プロトン性極性溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上のアルコールを併用する場合には、溶媒中における合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0029】
<その他の成分>
溶媒は、本発明の効果を奏する範囲内において、その他の成分、具体的には、水、又は、有機溶媒を含有していてもよく、水を含有することが好ましい。
溶媒中における水の含有量としては特に制限されないが、一般に、1~90質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましい。
【0030】
〔化合物A〕
本発明の実施形態に係る組成物は、下記の式1~4からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(化合物A)を含有する。
組成物中における化合物Aの含有量としては特に制限されず、得られる導電性塗膜の膜厚に応じて適宜選択可能である。化合物Aの含有量としては、特に制限されないが、組成物の全質量に対して、0.001~99.9質量%が好ましく、0.01~10質量%がより好ましく、0.1~5質量%が更に好ましく、0.3~1質量%が特に好ましい。
【0031】
なお、本発明の実施形態に係る組成物には、化合物Aの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。化合物Aの2種以上を併用する場合は、2種以上の化合物Aの含有量の合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0032】
【0033】
式1~4中、XはS、O、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表し、複数あるXはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、Rは水素原子、又は、1価の置換基を表し、複数あるRはそれぞれ同一でも異なっていてもよいが、Rのうち少なくとも1つは、下記式5で表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、隣接する原子に置換するR(環を形成するのは式5で表される基以外のRであることが好ましい。)は互いに連結して環を形成してもよい。
【0034】
【0035】
なお、上記式5中、*は結合位置を表し、Lは単結合、又は、2価の連結基を表し、単結合が好ましく、Arは、水素原子、又は、炭素数1~4個のアルキル基を表す。
【0036】
Lの2価の連結基としては特に制限されないが、-O-、-S-、-Se-、以下の式で表される基、及び、これらを組み合わせた基が挙げられる。
【0037】
【0038】
上記式中、*は結合位置を表し、Xは、S、O、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表す。
なお、上記式中、水素原子(式中には表示していない)は、1価の基で置換されていてもよく、1価の基としては特に制限されないが、後述するR′のうち、水素原子以外の1価の基が好ましい。
【0039】
Lの2価の連結基としては、特に制限されないが、より具体的には、以下の基、及び、以下の基を組み合わせた基が挙げられる。
【0040】
【0041】
ここで、式1~4のRのうち、式5で表される基以外の1価の置換基としては特に制限されないが、例えば、*-L1-R′で表される基が挙げられる。
上記式中、L1は、単結合、又は、2価の連結基を表し、R′は、水素原子、炭化水素基(直鎖状、分岐鎖状、若しくは、環状のいずれであってもよい)、(ポリ)アルキレンオキシ基を表し、*は結合位置を表す。
L1の2価の連結基の形態としては、式5のLの2価の連結基として説明した基と同様である。
【0042】
上記炭化水素基の炭素数としては特に制限されないが、一般に1~30個が好ましく、1~20個がより好ましい。上記(ポリ)アルキレンオキシ基におけるアルキレン鎖部分の炭素数としては特に制限されないが、一般に1~30個が好ましく、1~20個がより好ましい。また、ポリアルキレンオキシ基である場合のアルキレンオキシ単位の繰り返し数としては特に制限されないが、一般に2~30が好ましい。
【0043】
上記式中、R′は、*-L1-R′のR′としてすでに説明したR′と同様である。また、Xは、O、S、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表し、n、及び、mはそれぞれ、1~30の整数を表し、Yは1~50の整数を表す。なお複数あるR′及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0044】
Rのうち少なくとも1つは、上記式5で表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、上記基は、ブレンステッド酸基の共役塩基である。ブレンステッド酸基とは、ブレンステッド酸としての機能を有する置換基を意味し、上記化合物Aが水素結合により自己集積化したネットワーク(水素結合ネットワーク)において、プロトン欠陥を生じさせる機能を有する置換基を意味する。
【0045】
式1~4のRのうち、式5で表される基以外の1価の置換基としては、ブレンステッド酸基であってもよい。ブレンステッド酸基としては、例えば、*-L2-Acで表される基が挙げられる。ここで、L2は単結合、又は、2価の連結基を表し、単結合が好ましい。Acは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、*-P(=X)OROHで表される基(ただし、Xは、酸素原子、又は、硫黄原子を表し、Rは、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキレン基を表し、*は結合位置を表す。)を表す。
【0046】
化合物Aにおけるブレンステッド酸基は塩を形成した状態でもよく、この場合、対イオンとしては、特に制限さなれないが、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、又は、カリウムイオン)、及び、有機カチオン(グアニジウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、及び、アニリニウムイオン等)が挙げられる。また、ブレンステッド酸基は、ヒドロキシアミン塩を形成した状態であってもよい。
【0047】
化合物Aがより優れた安定性を有する点では、Rのうち1つが式5で表される基であり、Rのうち他の1つ以上が、ブレンステッド酸基又はその塩であることが好ましく、その場合、隣接する原子に置換するRのうち一方が式5で表される基であり、他方がブレンステッド酸基又はその塩であることがより好ましい。
【0048】
化合物Aの好適形態としては、例えば、以下の式1′~4′で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【0050】
式1′~4′中、R1は、式1~4におけるR′の形態と同様である。R2、及び、R3のいずれか一方は、式5で表される基であり、他方は、それに対応するブレンステッド酸基又はその塩である。
典型的には、R2が*-COO-であり、R3が*-COOH又は*-COO-NH4
+(いずれも*は結合位置を表す)である場合が挙げられる。
【0051】
化合物Aの好適形態としては、例えば、特開2016-129137号公報の0009~0029段落、及び、0116~0121段落に記載の化合物が挙げられ、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0052】
化合物Aの製造方法としては特に制限されず、公知の製造方法が適用できる。化合物Aの製造方法としては、例えば、特開2016-129137号公報に記載の方法が挙げられる。より具体的には、特開2016-129137号公報の
図1、及び、0047~0048段落に記載の方法が挙げられる。
【0053】
〔その他の成分〕
本発明の実施形態に係る組成物は、本発明の効果を奏する範囲内において、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、特に制限されないが、pH調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、コーティング剤、及び、防腐剤等が挙げられる。
【0054】
[組成物の製造方法]
本発明の実施形態に係る組成物の製造方法としては特に制限されない。すでに説明した上記の各成分を混合すればよい。各成分を混合する際、各成分の添加の順序としては特に制限されず、全成分を一度に混合してもよいし、順次混合してもよい。例えば、化合物Aを非プロトン性極性溶媒と水との混合溶媒に溶解させて混合溶液を得て、上記混合溶液に更にアルコールを添加する方法であってもよい。
【0055】
[導電性塗膜]
本発明の実施形態に係る導電性塗膜は、上記組成物を用いて形成された塗膜である。
上記導電性塗膜は優れた導電性を有する。本発明の実施形態に係る導電性塗膜の膜厚、及び、大きさ等としては特に制限されず、用途に応じて適宜選択可能である。また、その形状も用途に応じて適宜選択可能である。
【0056】
本発明の実施形態に係る導電性塗膜の製造方法としては特に制限されないが、典型的には以下の工程を有する導電性塗膜の製造方法が挙げられる。
・上記組成物を基材上に塗布し、基材上に組成物層を形成する工程(工程1)
・上記組成物層にエネルギーを付与して、導電性塗膜を得る工程(工程2)
【0057】
工程1は、基材上に上記組成物を塗布する工程である。基材としては特に制限されず、有機材料、無機材料(ガラス等)、及び、これらの複合体であってもよい。基材上に組成物を塗布する方法としては特に制限されず、公知の方法が適用可能である。公知の方法としては例えば、グラビアコーター、コンマコーター、バーコーター、ナイフコーター、ダイコーター、及び、ロールコーター等の塗布方式;インクジェット方式;スクリーン印刷方式;ドロップキャスト方式;スピンコート方式;等が適用可能である。
【0058】
組成物層の膜厚としては特に制限されず、最終的な導電性塗膜の膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0059】
工程2は、組成物層にエネルギーを付与して、導電性塗膜を得る工程である。組成物層に付与するエネルギーとしては特に制限されないが、典型的には熱エネルギーが挙げられる。組成物層に熱エネルギーを付与する(言い換えれば加熱する)と、組成物層が含有する溶媒が気化し、一部又は全部が除去され、導電性塗膜が得られる。
【0060】
加熱の際の温度としては特に制限されず、溶媒の種類に応じて、適宜定めればよい。また、加熱時間としても特に制限されず、溶媒の種類に応じて、適宜定めればよい。また、工程1、及び/又は、工程2において、更に減圧してもよい。
【0061】
〔用途〕
本発明の実施形態に係る導電性塗膜の用途としては特に制限されないが、例えば、電線、情報伝達媒体、電子デバイス、電子素子に利用する電極、スピントロニクス素子、情報通信素子、メモリ素子、磁気シールド、医療用磁気シールド、磁石、磁性半導体、電界効果トランジスタ(FET)、磁石入り絆創膏、ハードディスクドライブのヘッド、高感度再生用GMR(巨大磁気抵抗効果)ヘッド、固体磁気メモリ、磁気抵抗メモリ(MRAM)、ファイバ通信用光アイソレータ、磁界で色が変わる材料、伝導電子スピンと原子磁気モーメントの相互作用を利用した材料などが例として挙げられる。更に、タッチパネル、ディスプレイ、電子デバイス、液晶ディスプレイ、薄型テレビ、プラズマディスプレイ、電子インク、有機EL(エレクトロルミネッセンス)におけるアノード(正孔注入層)、太陽電池、帯電防止剤、電磁波シールド材料、光学コーティング剤、赤外線反射材、ガスセンサー、反射防止膜、表面処理剤、半導体レーザー、光学デバイス、光学素子、曲げ耐性を利用したデバイス、電解コンデンサ、電子機器、リチウムイオン電池の電極、発光素子、有機トランジスタ、導電性高分子をインクとしてインクジェット技術などを利用し直接基板にパターンを作るプリンタブル回路なども例として挙げられる。
【0062】
[タッチパネル]
本発明の実施形態に係るタッチパネルは、上記導電性塗膜を有するタッチパネルである。上記導電性塗膜は、優れた導電性を有し、かつ、優れた可視光透過率を有するため、タッチパネルの配線、及び/又は、電極等(例えば、透明電極、及び、引き出し配線等)として使用可能である。
上記タッチパネルは、公知の方法により製造可能であるが、組成物を用いて印刷法により配線、及び/又は、電極を形成する工程を有するタッチパネルの製造方法が挙げられる。
【0063】
[表示装置]
本発明の実施形態に係る表示装置は、上記導電性塗膜を有していればよく(典型的には、透明電極、及び/又は、配線等として有していればよく)その形態は特に制限されず、液晶表示装置であってもよく、有機エレクトロルミネッセンス表示装置であってもよい。また、その製造方法としては特に制限されず、公知の方法で製造可能である。
【実施例】
【0064】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0065】
[テトラチアフルバレン誘導体の合成]
特開2016-129137号公報の0105~0114段落、及び、0116~0121段落の記載を参照して、粉末状のテトラチアフルバレン誘導体を合成した(化合物Aに該当する。)。
なお、合成したテトラチアフルバレン誘導体の構造は、1H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)、及び、飛行時間形質量分析計(エレクトロスプレーイオン化)を用いて確認した。その結果、以下の式で表される化合物を含有することを確認した。
【0066】
【0067】
なお、以下では、合成した上記化合物を「TED」ともいう。
【0068】
[実施例1]
粉末状のTEDをメノウ乳鉢内で10分間粉砕して試料を得て、上記試料の0.5mgに対して、ジメチルスルホキシド(DMSO)50μL、水50μL、及び、エチレングリコールの1μLの混合物(「溶媒」に概要する。)を加えて、TEDを溶解させて組成物を得た。
上記組成物を、基板(ガラス製)上にドロップキャストしたのち、約50~70℃に設定したホットプレート上で10分間大気中にて加熱して、導電性塗膜1を得た。得られた導電性塗膜は、横が174.566μm、縦が149.355μm、膜厚は448nmであった。
【0069】
得られた導電性塗膜1の光学顕微鏡写真を
図1(図中にはCase3と記載した。)に記載した。なお、
図1において、黒い長方形に見える部分は基板上に配置された一対の金電極を表し、導電性塗膜1は、各電極に接触しつつ、その間を跨ぐように配置されている。
図1は、実際の導電性塗膜1の光学顕微鏡写真を画像処理した物であり、膜厚の均一な部分が同じ色で着色されている。
【0070】
図1によれば、導電性塗膜1は、膜面がほぼ同一の色で着色されており、本発明の実施形態に係る組成物を用いることで、優れた均一性を有する導電性塗膜が得られることがわかった。
【0071】
[実施例2]
エチレングリコールに代えて、グリセリン(グリセロール)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、導電性塗膜2を得た。
得られた導電性塗膜2は、横が173.207μm、縦が165.639μm、厚みが1579nmであった。
得られた導電性塗膜2の光学顕微鏡写真を
図2(図中にはCase4と記載した。)に記載した。なお、
図2において、黒い長方形に見える部分は基板上に配置された一対の電極を表し、導電性塗膜2は、各電極に接触しつつ、その間を跨ぐように配置されている。
図2は、実際の導電性塗膜2の光学顕微鏡写真を画像処理した物であり、膜厚の均一な部分が同じ色で着色されている。
【0072】
図2によれば、導電性塗膜2は、膜面がほぼ同一の色で着色されており、本発明の実施形態に係る組成物を用いることで、優れた均一性を有する導電性塗膜が得られることがわかった。
【0073】
[比較例1]
溶媒として、DMSOの50μLを用いたこと以外は、実施例1と同様にして塗膜3を得た。得られた塗膜は、横が177.202μm、縦が143.209μm、厚みが792nmであった。
得られた塗膜3の光学顕微鏡写真を
図3(図中にはCase1と記載した。)に記載した。なお、
図3において、黒い長方形に見える部分は基板上に配置された一対の電極を表し、塗膜3は、各電極に接触しつつ、その間を跨ぐように配置されている。
図3は、実際の塗膜3の光学顕微鏡写真を画像処理した物であり、膜厚の均一な部分が同じ色で着色されている。
【0074】
図3から、非プロトン性極性溶媒のみを含有する溶媒を用いた組成物によれば、所望の均一性を有する塗膜を形成できないことが分かった。
【0075】
[比較例2]
溶媒として、DMSOの50μL及び水の50μLの混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして塗膜4を得た。
得られた塗膜は、横が163.816μm、縦が143.743μm、厚みが1509nmであった。
得られた塗膜4の光学顕微鏡写真を
図4(図中はCase2と記載した。)に記載した。なお、
図4において、黒く見える部分は基板上に配置された一対の電極を表し、塗膜4は、各電極に接触しつつ、その間を跨ぐように配置されている。
図4は、実際の塗膜4の写真を画像処理した物であり、膜厚の均一な部分が同じ色で着色されている。
【0076】
図4から、非プロトン性極性溶媒及び水のみを含有する溶媒を用いた組成物によれば、所望の均一性を有する塗膜を形成できないことが分かった。
【0077】
各実施例及び比較例に係る溶媒の組成、及び、膜厚の対応を表1に示した。なお、表中「-」で示した溶媒は、使用されなかったことを表す。
【0078】
【0079】
[導電性(電気伝導度)]
上記で作成した導電性塗膜1、及び、2に1μA程度の電流を両端の金電極から流した際、中央の一対の金電極間にかかる電圧を室温条件で測定し、試料サイズで規格化して導電性(電気伝導度:S/cm)を測定した。その結果、実施例2の導電性塗膜2における電気伝導度を1としたとき、実施例1の導電性塗膜1の電気伝導度は84倍であった。
【0080】
上記の結果から、アルコールが2価アルコールである場合、3価アルコールである場合と比較して、得られる導電性塗膜がより優れた導電性(電気伝導度)を有していることがわかった。