(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】分子シート、分子シートの製造方法、透明電極、表示装置、及び、タッチパネル
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20220601BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
C07D495/04 101
H01B5/14 A
(21)【出願番号】P 2018139184
(22)【出願日】2018-07-25
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】小林由佳
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-007253(JP,A)
【文献】国際公開第2014/057721(WO,A1)
【文献】Terauchi, Takeshi et al.,Synthesis of bis-fused tetrathiafulvalene with mono- and dicarboxylic acids,Tetrahedron Letters,2012年,vol.53, no.26,pp.3277-3280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/04
H01B 1/12
H01B 1/20
H01B 5/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式2′で表される化合物
が2次元的に集積した単層構造体、又は前記単層構造体が複数積層した積層構造体である分子シート。
【化1】
式2′中、XはS、O、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表し、複数ある前記Xはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、
R
1は水素原子を表し、R
2が*-COO
-であり、R
3が*-COOH(*は、結合位置を表す)である。
【請求項2】
前記化合物が、下記式で表される化合物である、請求項1に記載の分子シート。
【化2】
【請求項3】
下記式
2′で表される化合物と、溶媒とを含有する組成物を調製する工程と、
前記組成物をゲル化させ、ゲルを得る工程と、
前記ゲルを水、及び、有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を含有する剥離液に分散し、請求項1
又は2に記載の分子シートを得る工程と、を有する分子シートの製造方法。
【化3】
式
2′中、XはS、O、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表し、複数ある前記Xはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、
R
1
は水素原
子を表し、
R
2
が*-COO
-
であり、R
3
が*-COOH(*は、結合位置を表す)である。
【請求項4】
前記化合物が、下記式で表される化合物である、請求項3に記載の分子シートの製造方法。
【化4】
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の分子シートを有する透明電極。
【請求項6】
請求項
5に記載の透明電極を有する表示装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の表示装置を有するタッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子シート、分子シートの製造方法、透明電極、表示装置、及び、タッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
テトラチアフルバレン等のフルバレン又はその縮環化合物に特定の置換基を導入た誘導体化合物を導電性材料として用いる検討が進んでいる。特許文献1には、所定の構造を有するフルバレン及びその縮環化合物に特定の置換基を導入した誘導体化合物が有機透明電極等に利用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に記載された化合物を含有する組成物を用いて、薄膜を形成し、導電性を測定したところ、改善の余地があることを知見した。
そこで、本発明は、テトラチアフルバレン等のフルバレン又はその縮環化合物に特定の置換基を導入した誘導体化合物を含有し、優れた導電性を有する分子シートの提供を課題とする。また、本発明は、分子シートの製造方法、透明電極、タッチパネル、及び、表示装置を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
[1]後述する式2′で表される化合物が2次元的に集積した単層構造体、又は前記単層構造体が複数積層した積層構造体である分子シート。
[2]前記化合物が、後述するTEDである、[1]に記載の分子シート。
[3]後述する式2′で表される化合物と、溶媒とを含有する組成物を調製する工程と、組成物をゲル化させ、ゲルを得る工程と、ゲルを水、及び、有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を含有する剥離液に分散し、[1]又は[2]に記載の分子シートを得る工程を有する、分子シートの製造方法。
[4]前記化合物が、後述するTEDである、[3]に記載の分子シートの製造方法。
[5] [1]又は[2]に記載の分子シートを有する透明電極。
[6] [5]に記載の透明電極を有する表示装置。
[7] [6]に記載の表示装置を有するタッチパネル。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、後述する式1~4からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(以下「化合物A」ともいう。)を含有し、優れた導電性を有する分子シートを提供できる。
また、本発明によれは、分子シートの製造方法、透明電極、表示装置、及び、タッチパネルも提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る分子シートの光学顕微鏡像である。
【
図2】ドロップキャスト法で製造した化合物Aを含有する薄膜の光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表す。また、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルの双方、又は、いずれかを表す。
【0010】
[分子シート]
本発明の実施形態に係る組成物は、化合物Aを含有する分子シートであり、より好ましくは、化合物Aからなる分子シートである。
本明細書において分子シートとは、典型的にはテトラチアフルバレン誘導体である化合物Aが2次元的に集積した単層構造体、及び、上記単層構造体が複数積層した積層構造体を意味する。
なかでも、上記化合物A(典型的にはテトラチアフルバレン誘導体)が、水素結合によって平面的に配列した単層構造体、及び、上記単層構造体が積層した積層構造体が好ましい。
【0011】
なお、本明細書における分子シートの厚みとしては特に制限されないが、一般に、50nm~50μmが好ましい。
【0012】
本発明の実施形態に係る分子シートは、後述するように、典型的には化合物Aを含有するゲルを剥離液に浸漬することにより、上記ゲルから層状に剥離することで得られる。これは、本発明の実施形態に係る分子シートが、2次元方向には、整然と配列し、強固な構造を有していることに比較して、単層構造体同士の厚み方向における結合力が比較的弱いことに起因していると推測される。
得られた薄膜が分子シートであるか否かは、上記方法により確かめることができる。すなわち、分子シートは剥離液に浸漬した場合、更に層状に剥離するか、又は、変化がないかのいずれかであるが、分子シートではない薄膜は、剥離液中で、塊状に凝集してしまうことがある。
【0013】
本発明の実施形態に係る分子シートにおいては、化合物A、典型的には、テトラチアフルバレン誘導体が2次元的に配列されることによって、両性イオンラジカル種を分子配列中で非局在化させ、結果的には優れた導電性を有するものと本発明者らは推測している。
すなわち、化合物A(典型的にはテトラチアフルバレン誘導体)を含有する分子シートは、化合物Aの水素結合によるネットワークに生じたプロトン欠陥が、拡張したπ共役部位に非局在化した分子スピンを発生して金属化し、2次元(平面)方向に優れた導電性が発揮されるものと推測される。
以下では、本発明の実施形態に係る分子シートの含有する成分について詳述する。
【0014】
〔化合物A〕
本発明の実施形態に係る分子シートは、下記の式1~4からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(化合物A)を含有する。
分子シートにおける化合物Aの含有量としては特に制限されないが、一般に分子シートの全質量に対して、0.001~100質量%が好ましく、51~100質量%がより好ましい。
【0015】
なお、本発明の実施形態に係る分子シートは、より優れた導電性を有する点で、化合物A以外の成分を実質的に含有しない形態も好ましい。分子シートが化合物A以外の成分を実質的に含有しないとは、分子シートにおける化合物A以外の成分の含有量が分子シートの全質量に対して、1.0質量%以下であることを意味し、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
なお、本発明の実施形態に係る分子シートは、化合物Aの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。化合物Aの2種以上を併用する場合は、2種以上の化合物Aの含有量の合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0017】
【0018】
式1~4中、XはS、O、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表し、複数あるXはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、Rは水素原子、又は、1価の置換基を表し、複数あるRはそれぞれ同一でも異なっていてもよいが、Rのうち少なくとも1つは、下記式5で表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、隣接する原子に置換するR(環を形成するのは式5で表される基以外のRであることが好ましい。)は互いに連結して環を形成してもよい。
【0019】
【0020】
なお、上記式5中、*は結合位置を表し、Lは単結合、又は、2価の連結基を表し、単結合が好ましく、Arは、水素原子、又は、炭素数1~4個のアルキル基を表す。
【0021】
Lの2価の連結基としては特に制限されないが、-O-、-S-、-Se-、以下の式で表される基、及び、これらを組み合わせた基が挙げられる。
【0022】
【0023】
上記式中、*は結合位置を表し、Xは、S、O、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表す。
なお、上記式中、水素原子(式中には表示していない)は、1価の基で置換されていてもよく、1価の基としては特に制限されないが、後述するR′のうち、水素原子以外の1価の基が好ましい。
【0024】
Lの2価の連結基としては、特に制限されないが、より具体的には、以下の基、及び、以下の基を組み合わせた基が挙げられる。
【0025】
【0026】
ここで、式1~4のRのうち、式5で表される基以外の1価の置換基としては特に制限されないが、例えば、*-L1-R′で表される基が挙げられる。
上記式中、L1は、単結合、又は、2価の連結基を表し、R′は、水素原子、炭化水素基(直鎖状、分岐鎖状、若しくは、環状のいずれであってもよい)、(ポリ)アルキレンオキシ基を表し、*は結合位置を表す。
L1の2価の連結基の形態としては、式5のLの2価の連結基として説明した基と同様である。
【0027】
上記炭化水素基の炭素数としては特に制限されないが、一般に1~30個が好ましく、1~20個がより好ましい。上記(ポリ)アルキレンオキシ基におけるアルキレン鎖部分の炭素数としては特に制限されないが、一般に1~30個が好ましく、1~20個がより好ましい。また、ポリアルキレンオキシ基である場合のアルキレンオキシ単位の繰り返し数としては特に制限されないが、一般に2~30が好ましい。
【0028】
上記式中、R′は、*-L1-R′のR′としてすでに説明したR′と同様である。また、Xは、O、S、及び、Seからなる群より選択される少なくとも1種の原子を表し、n、及び、mはそれぞれ、1~30の整数を表し、Yは1~50の整数を表す。なお複数あるR′及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0029】
Rのうち少なくとも1つは、上記式5で表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、上記基は、ブレンステッド酸基の共役塩基である。ブレンステッド酸基とは、ブレンステッド酸としての機能を有する置換基を意味し、上記化合物Aが水素結合により自己集積化したネットワーク(水素結合ネットワーク)において、プロトン欠陥を生じさせる機能を有する置換基を意味する。
【0030】
式1~4のRのうち、式5で表される基以外の1価の置換基としては、ブレンステッド酸基であってもよい。ブレンステッド酸基としては、例えば、*-L2-Acで表される基が挙げられる。ここで、L2は単結合、又は、2価の連結基を表し、単結合が好ましい。Acは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、*-P(=X)OROHで表される基(ただし、Xは、酸素原子、又は、硫黄原子を表し、Rは、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキレン基を表し、*は結合位置を表す。)を表す。
【0031】
化合物Aにおけるブレンステッド酸基は塩を形成した状態でもよく、この場合、対イオンとしては、特に制限さなれないが、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、又は、カリウムイオン)、及び、有機カチオン(グアニジウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、及び、アニリニウムイオン等)が挙げられる。また、ブレンステッド酸基は、ヒドロキシアミン塩を形成した状態であってもよい。
なお、本明細書において上記対イオンは、化合物Aに含まれるものとする。
【0032】
化合物Aがより優れた安定性を有する点では、Rのうち1つが式5で表される基であり、Rのうち他の1つ以上が、ブレンステッド酸基又はその塩であることが好ましく、その場合、隣接する原子に置換するRのうち一方が式5で表される基であり、他方がブレンステッド酸基又はその塩であることがより好ましい。
【0033】
化合物Aの好適形態としては、例えば、以下の式1′~4′で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【0035】
式1′~4′中、R1は、式1~4におけるR′の形態と同様である。R2、及び、R3のいずれか一方は、式5で表される基であり、他方は、それに対応するブレンステッド酸基又はその塩である。
典型的には、R2が*-COO-であり、R3が*-COOH又は*-COO-NH4
+(いずれも*は結合位置を表す)である場合が挙げられる。
【0036】
化合物Aの好適形態としては、例えば、特開2016-129137号公報の0009~0029段落、及び、0116~0121段落に記載の化合物が挙げられ、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0037】
化合物Aの製造方法としては特に制限されず、公知の製造方法が適用できる。化合物Aの製造方法としては、例えば、特開2016-129137号公報に記載の方法が挙げられる。より具体的には、特開2016-129137号公報の
図1、及び、0047~0048段落に記載の方法が挙げられる。
【0038】
〔その他の成分〕
本発明の実施形態に係る分子シートは、本発明の効果を奏する範囲内において、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては特に制限されないが、緩衝化剤、界面活性剤、粘度調整剤、及び、防腐剤等が挙げられる。
【0039】
〔用途〕
本発明の実施形態に係る分子シートは、すでに説明した剥離液によって、単層構造体、及び/又は、より少ない厚みの積層構造体へと分離できるため、分離して得られた単層構造体を所望の基板上に配置すれば、導電性基板を形成可能である。本発明の実施形態に係る分子シートは可視光領域で透明であり、上記のようにして得られた導電性基板は、例えば、電線、情報伝達媒体、電子デバイス、電子素子に利用する電極、スピントロニクス素子、情報通信素子、メモリ素子、磁気シールド、医療用磁気シールド、磁石、磁性半導体、電界効果トランジスタ(FET)、磁石入り絆創膏、ハードディスクドライブのヘッド、高感度再生用GMR(巨大磁気抵抗効果)ヘッド、固体磁気メモリ、磁気抵抗メモリ(MRAM)、ファイバ通信用光アイソレータ、磁界で色が変わる材料、伝導電子スピンと原子磁気モーメントの相互作用を利用した材料等に使用可能である。
【0040】
また、上記導電性基板は、透明性と導電性とを利用して、透明電極としても利用可能である。このような透明電極は、タッチパネル、表示装置、ディスプレイ、電子デバイス、液晶ディスプレイ、薄型テレビ、プラズマディスプレイ、電子インク、有機EL(エレクトロルミネッセンス)におけるアノード(正孔注入層)、太陽電池、帯電防止剤、電磁波シールド材料、光学コーティング剤、赤外線反射材、ガスセンサー、反射防止膜、表面処理剤、半導体レーザー、光学デバイス、光学素子、曲げ耐性を利用したデバイス、電解コンデンサ、電子機器、リチウムイオン電池の電極、及び、発光素子等にも適用可能である。
【0041】
[分子シートの製造方法]
本発明の実施形態に係る分子シートの製造方法は、以下の工程を有する分子シートの製造方法である。
・式1~4からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、溶媒とを含有する組成物を調製する工程(組成物調製工程)
・上記組成物をゲル化させ、ゲルを得る工程(ゲル化工程)
・上記ゲルを、水、及び、有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を含有する剥離液に分散し、分子シートを得る工程(分子シート化工程)
以下では、上記各工程について、その形態を詳述する。なお、その際、すでに説明した事項については説明を省略する。
【0042】
〔組成物調製工程〕
組成物調製工程は、化合物Aと、溶媒とを含有する組成物を調製する工程である。組成物を調製する方法としては特に制限されないが、典型的には溶媒に化合物Aを分散(又は溶解)させる方法が挙げられる。
【0043】
<溶媒>
上記組成物は溶媒を含有する。溶媒としては特に制限されないが、水、及び、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては特に制限されないが、化合物Aを分散(又は溶解)させやすい観点で、水に可溶である有機溶媒が好ましい。
なかでもより優れた本発明の効果を有する分子シートが得られる観点で、有機溶媒としては、非プロトン性極性溶媒を含有することが好ましい。
【0044】
上記組成物が含有する溶媒の含有量としては特に制限されないが、一般に、組成物の全固形分が、0.001~99.9質量%となるよう調整するのが好ましく、0.01~10質量%がより好ましい。
なお、組成物は溶媒の1種を単独で含有していてもよく、2種以上を併せて含有していてもよい。組成物が2種以上の溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0045】
(非プロトン性極性溶媒)
上記溶媒は、非プロトン性極性溶媒を含有することが好ましい。溶媒中における非プロトン性極性溶媒の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、溶媒の全質量に対して、10~100質量%が好ましい。
【0046】
本明細書において、非プロトン性極性溶媒とは、解離性のH+を有さない極性有機溶媒を意味し、25℃における双極子モーメントが2.5D(デバイ)以上の有機溶媒が好ましい。
【0047】
非プロトン性極性溶媒としては特に制限されないがアセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルりん酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び、テトラメチル尿素等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する点で、非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び、スルホランからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0048】
非プロトン性極性溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上の非プロトン性極性溶媒を併用する場合には、溶媒中における合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0049】
〔ゲル化工程〕
ゲル化工程は、すでに説明した上記組成物をゲル化させ、化合物Aと、溶媒と、を含有するゲルを調製する工程である。組成物をゲル化させる方法としては特に制限されないが、本発明者らの検討によれば、驚くべきことに、上記組成物は、所定の時間、静置することによりゲルを形成することを知見している。
【0050】
上記組成物を静置してゲルを形成する場合、静置時間としては特に制限されないが、組成物を調製した後、24時間以上が好ましく、72時間以上がより好ましく、168時間以上が更に好ましい。上限としては特に制限されないが、製造の効率の観点から、336時間以下が好ましい。
組成物を静置する際の温度としては特に制限されないが、10~40℃が好ましい。
【0051】
本発明の実施形態に係る分子シートの製造方法は、本工程を有することによって、結果として、優れた導電性を有する分子シートが得られたものと本発明者は推測している。そのメカニズムとしては必ずしも明らかではないが、所定の期間かけて溶媒中で、ゲル化することにより、化合物Aが2次元的に配列しやすいものと本発明者は推測している。
【0052】
〔分子シート化工程〕
分子シート化工程は、上記ゲルを、水、及び、有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を含有する剥離液に分散し、分子シートを得る工程である。
ゲルを剥離液に分散する方法としては特に制限されないが、ゲルを剥離液に浸漬し、放置する方法が挙げられる。放置の時間としては特に制限されないが、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。
【0053】
有機溶媒としては特に制限されないが、水に溶解する有機溶媒が好ましく、アルコール類が好ましい。アルコール類としては特に制限されないが、1価のアルコールであってもよく、多価アルコールであってもよい。なかでも、エタノールが好ましい。
【0054】
剥離液は、上記以外の成分を含有していてもよい。上記以外の成分としては例えば、無機酸が挙げられる。無機酸としては特に制限されないが、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、塩酸がより好ましい。
無機酸を用いる場合、その濃度としては特に制限されないが、より優れた導電性を有する分子シートが得られる点で、0.001~4Nが好ましい。
【0055】
〔その他の工程〕
本発明の実施形態に係る分子シートの製造方法は、上記の工程以外に得られた分子シートを乾燥する工程を更に有していてもよい。分子シートを乾燥する方法としては特に制限されないが、一般に、分子シートを基板(例えば、ガラス基板)上に配置し、減圧して、乾燥する方法が挙げられる。
また、上記分子シートを洗浄する工程を更に有していてもよい。分子シートを洗浄する方法としては特に制限されないが、基板上に配置した分子シートを水で洗浄する方法が挙げられる。
なお、本発明の実施形態に係る分子シートの製造方法は、上記乾燥工程、及び/又は、洗浄工程を複数回有していていてもよい。
【実施例】
【0056】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0057】
[テトラチアフルバレン誘導体の合成]
特開2016-129137号公報の0105~0114段落、及び、0116~0121段落の記載を参照して、粉末状のテトラチアフルバレン誘導体を合成した(化合物Aに該当する。)。
なお、合成したテトラチアフルバレン誘導体の構造は、1H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)、及び、飛行時間形質量分析計(エレクトロスプレーイオン化)を用いて確認した。その結果、以下の式で表される化合物を含有することを確認した。
【0058】
【0059】
なお、以下では、合成した上記化合物を「TED」ともいう。
【0060】
[実施例]
粉末状のTEDをメノウ乳鉢内で20分間粉砕して試料を得て、上記試料の0.1mgに対して、ジメチルスルホキシド(DMSO)100μLを加えて溶解してTED溶液を得た。次に、上記TED溶液を室温で2週間静置し、TEDとDMSOとを含有するゲルを得た。つぎに、上記ゲルを、水(10 mL)(剥離液に該当する)に分散させ、1時間放置したところ、ゲルから分子シート(厚み1.23μm)が剥離した。
【0061】
上記分子シートを透過型電子顕微鏡で観察したところ、TED分子が2次元平面的に配向した様子が観察できた。上記分子シートの光学顕微鏡像を
図1に示した。
図1によれば平滑な平面を有する均一な分子シートが得られたことがわかる。
【0062】
[比較例]
粉末状のTEDをメノウ乳鉢内で20分間粉砕して試料を得て、上記試料の0.1mgに対して、ジメチルスルホキシド(DMSO)100μLを加えて溶解してTED溶液を得た。次に、上記TED溶液を、ガラス基板上に1μLドロップキャストして、薄膜を得た。上記薄膜を70℃で10分間加熱した後に除冷し、真空乾燥した。得られた薄膜の厚みは1.01μmだった。なお、上記薄膜を実施例と同様の剥離液に浸漬したところ、薄膜が収縮したような塊状となってしまった。すなわち、上記方法により得られた薄膜は分子シートではないことが分かった。
【0063】
上記薄膜の光学顕微鏡像を
図2に示した。
図2によれば、
図1と比較して表面により凹凸がおおい不均一な膜であることがわかる。
【0064】
[評価]
実施例の分子シート、及び、比較例の薄膜について、金電極を4か所に配置し、室温(300K)で、電気伝導度を測定したところ、実施例の分子シートは、623S/cmだった。一方、比較例の薄膜は、22S/cmだった。
上記の結果から、本発明の実施形態に係る分子シートは優れた導電性(より高い電気伝導度)を有していることがわかった。