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特許7082415切粉・粉塵防止カバー、切粉・粉塵防止カバーセット、チャック機構及び工作機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】切粉・粉塵防止カバー、切粉・粉塵防止カバーセット、チャック機構及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/00 20060101AFI20220601BHJP
   B23Q 11/08 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
B23B31/00 B
B23Q11/08 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018551658
(86)(22)【出願日】2017-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2017041069
(87)【国際公開番号】W WO2018092797
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2016222648
(32)【優先日】2016-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509033099
【氏名又は名称】有限会社 シンセテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石川 禎章
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-136603(JP,U)
【文献】実公昭47-009184(JP,Y1)
【文献】特開2001-277012(JP,A)
【文献】特許第6233827(JP,B1)
【文献】米国特許第02903268(US,A)
【文献】米国特許第06467775(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00
B23Q 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック端面に設置される切粉・粉塵防止カバーであって、
放射状に配置されたマスタージョーの前記チャック端面の中心側の所定領域を覆う板面部と、
前記マスタージョーと当該マスタージョーに設置され当該マスタージョーと一体化された部材とを含むマスタージョー等移動部材に対して、当該マスタージョー等移動部材の前記中心側の端部に密接する密接部と、
前記マスタージョー等移動部材の前記チャック端面の径方向の所定の移動に対して、前記密接した状態を維持して当該切粉・粉塵防止カバーを追従させる付勢力を受ける受力部と
前記マスタージョーの径方向両側に沿って延伸するマスタージョー側部側延伸部と、
前記マスタージョー側部側延伸部に形成され、前記マスタージョーのセレーション面に気流を噴出するエアー噴出口と、
所定の箇所から供給される気流を前記エアー噴出口に供給する切粉・粉塵防止カバー空気溝と
を有する切粉・粉塵防止カバー。
【請求項2】
前記密接部は、前記マスタージョーのセレーション面部分の前記中心側に密接する第1の密接部を有する請求項1に記載の切粉・粉塵防止カバー。
【請求項3】
前記密接部は、マスタージョー等移動部材の前記マスタージョーのセレーション面部分以外の部分に密接する第2の密接部を有する請求項1に記載の切粉・粉塵防止カバー。
【請求項4】
チャック端面に設置されるチャック端面プレートであって、
請求項に記載の切粉・粉塵防止カバーを、前記チャック端面の径方向に移動自在に装着可能な切粉・粉塵防止カバー設置案内部と、
前記切粉・粉塵防止カバー設置案内部に装着された切粉・粉塵防止カバーに、前記付勢力を付与する付勢手段と、
チャック本体に設置されたパイプを介して供給される気流を、前記切粉・粉塵防止カバーの前記切粉・粉塵防止カバー空気溝に供給するトッププレート空気溝と
を有するチャック端面プレート。
【請求項5】
請求項に記載の切粉・粉塵防止カバーと、
チャック端面に設置されるチャック端面プレートであって、
前記切粉・粉塵防止カバーが、前記チャック端面の径方向に移動自在に装着される切粉・粉塵防止カバー設置案内部と、
前記切粉・粉塵防止カバー設置案内部に装着された切粉・粉塵防止カバーに、前記付勢力を付与する付勢手段と、
チャック本体に設置されたパイプを介して供給される気流を、前記切粉・粉塵防止カバーの前記切粉・粉塵防止カバー空気溝に供給するトッププレート空気溝と
を有するチャック端面プレートと
を有する切粉・粉塵防止カバーセット。
【請求項6】
切粉・粉塵防止カバーとチャック端面プレートとを有する切粉・粉塵防止カバーセットであって、
前記切粉・粉塵防止カバーは、
チャック端面に設置される切粉・粉塵防止カバーであって、
放射状に配置されたマスタージョーの前記チャック端面の中心側の所定領域を覆う板面部と、
前記マスタージョーと当該マスタージョーに設置され当該マスタージョーと一体化された部材とを含むマスタージョー等移動部材に対して、当該マスタージョー等移動部材の前記中心側の端部に密接する密接部と、
前記マスタージョー等移動部材の前記チャック端面の径方向の所定の移動に対して、前記密接した状態を維持して当該切粉・粉塵防止カバーを追従させる付勢力を受ける受力部と、を有し、
前記チャック端面プレートは、
チャック端面に設置されるチャック端面プレートであって、
前記切粉・粉塵防止カバーが、前記チャック端面の径方向に移動自在に装着される切粉・粉塵防止カバー設置案内部と、
前記切粉・粉塵防止カバー設置案内部に装着された切粉・粉塵防止カバーに、前記付勢力を付与する付勢手段と、を有し、
前記切粉・粉塵防止カバー及び前記チャック端面プレートの前記切粉・粉塵防止カバー設置案内部に構成され、前記切粉・粉塵防止カバーの移動範囲を規定する切粉・粉塵防止カバー固定手段をさらに有する記載の切粉・粉塵防止カバーセット。
【請求項7】
請求項5または6に記載の切粉・粉塵防止カバーセットを有するチャック機構。
【請求項8】
請求項に記載のチャック機構を有する工作機械。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤等の工作機械のチャック端面に設置され、チャック端面に生じる隙間を閉塞する切粉・粉塵防止カバー、その切粉・粉塵防止カバーとともに用いて好適なプレートを含む切粉・粉塵防止カバーセット、その切粉・粉塵防止カバーセットを用いたチャック機構、及び、そのチャック機構を有する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤に用いられるチャックの一例を図12及び図13に示す。図12及び図13は、各々、チャック本体110の端面112を、チャック本体110の軸方向外側から内側方向に見た図であり、図12はチャックが開いた状態を示す図であり、図13はチャックが閉じた状態を示す図である。図12及び図13に示すように、チャック本体110の端面112には、3本のマスタージョー挿入溝115に各々マスタージョー120が設置されており、各マスタージョー120にワークを把握する爪210が装着されている。マスタージョー120は、チャック本体110の内部に設置される図示せぬシフターの軸方向の移動により、3個同時に径方向に移動可能に構成されている。チャック本体110の中心孔には、端面112側から筒状のチャックカバー117が挿入設置されており、チャックカバー117の端面112側の端面は蓋118で覆われている。
【0003】
旋盤でワークを切削加工する際には、爪210をチャック本体110の端面の径方向外側に動かして図12に示すようにチャックが開いた状態とし、開いたチャック本体110の端面の中央部にワークを嵌め込む。ワークを配置したら、爪210を径方向内側に動かして図13に示すようにチャックを閉じた状態とし(ワークは図示しない)、3個の爪210でワークを把握する。その後、旋盤の主軸を回転させ、ワークを回転させながらワークの加工面にバイトを押し当て、ワークを所望の形状に切削加工する。
【0004】
旋盤等のチャックを用いる工作機械においてワークの高精度な加工を行うためには、高精度にワークの芯出しをすること、及び、一度取り外した後再度ワークを取り付ける際に再現性よくワークの芯出しをすることが重要である。このような要求に応えることができるチャックとして、マスタージョーと爪の当接する面に異なる方向に延在する複数のセレーションを形成しておき、これらを係合させることにより爪とマスタージョーとの当接面の面方向のずれを防止するチャック機構が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
ところで、ワークを切削加工すると切粉が発生するが、その切粉が、爪210、マスタージョー120、マスタージョー挿入溝115あるいはチャック本体110に付着したり堆積したりすると、チャッキング不良やワークの把握精度(クランプ精度)の悪化等が生じる危険性が高まる。また、爪交換(段取り換え)時には、マスタージョーと爪との装着精度が悪化する危険性が生じる。そのため、爪210やマスタージョー120の周囲に切粉が付着したり堆積するのを防ぐ必要がある。
【0006】
しかしながら、前述したようにマスタージョー120はチャック本体110の端面112において径方向に移動してチャックの開閉を行うため、マスタージョー120の径方向中心部側の端面とチャックカバー117(チャックカバー蓋118)の外径部との間には、マスタージョー120の移動を可能にするための空間が必須となる。すなわち、図12及び図13に斜線で示すような間隙119が必要となる。その結果、この間隙119に切粉が侵入し堆積し、チャッキング不良等を生じる危険性、さらには加工不良が生じる危険性が高まるという問題があった。
【0007】
このような場合、従来ではエアーブローにより切粉の侵入を防ぐことが行われている。しかしながら、マスタージョー120の径方向中心側のこの間隙119は比較的深く、エア―ブローでも切粉の侵入を完全に防ぐのは難しい。特に、経験的に鋳物の切粉等がこの間隙119に溜り易く、その改善が望まれている。
【0008】
また、このような問題がある場合には、作業者が常に注意をして旋盤等による加工を行わなければならない。このような状況は、旋盤等の工作機械の自動運転、無人運転、メンテナンスフリーな稼働等の障害となるもので、生産性の向上や機械稼働率の向上が期待できなくなる。このような観点からも、切粉が侵入、堆積しないチャック機構が強く要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4273218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、切粉がチャック機構内に侵入あるいは堆積することを防ぐことができ、特に、マスタージョーの径方向内側の端面とチャック中心部のチャックカバーとの間の間隙に切粉が侵入あるいは堆積することを防ぐことができ、その結果、所望の切削加工を精度よく効率よく行うことができ、ひいては、旋盤等の工作機械の自動運転、無人運転、メンテナンスフリーな稼働等が可能となり生産性及び機械稼働率の向上を達成することのできる、切粉・粉塵防止カバー、切粉・粉塵防止カバーセット、チャック機構及び工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の切粉・粉塵防止カバーは、チャック端面に設置される切粉・粉塵防止カバーであって、
放射状に配置されたマスタージョーの前記チャック端面の中心側の所定領域を覆う板面部と、
前記マスタージョーと当該マスタージョーに設置され当該マスタージョーと一体化された部材とを含むマスタージョー等移動部材に対して、当該マスタージョー等移動部材の前記中心側の端部に密接する密接部と、
前記マスタージョー等移動部材の前記チャック端面の径方向の所定の移動に対して、前記密接した状態を維持して当該切粉・粉塵防止カバーを追従させる付勢力を受ける受力部とを有する。
【0012】
ここで、板面部が覆う「チャック端面の中心側の所定領域」とは、例えば、マスタージョーの径方向内側の端面とチャック中心部のチャックカバーとの間の間隙等の、チャック端面に生じた隙間を含む領域であり、好ましくはその隙間を包含する領域である。
【0013】
また、「マスタージョー等移動部材」とは、例えば、マスタージョーと、マスタージョーに設置された爪、及び、マスタージョーに爪を設置するための部材であって本願の実施形態において例示するステアやいわゆるTナットと言われる部材等を含む概念である。これらは、チャックにワークを把握するときには、マスタージョーに対して固設されマスタージョーと一体にチャックの径方向に移動可能な状態とされる。「マスタージョー等移動部材」は、このようにチャックにワークを把握するときにマスタージョーと一体化された任意の部材を含むものである。
【0014】
また、マスタージョー等移動部材のチャック端面の径方向の「所定の移動」とは、ワークをチャック本体の端面の中央部に嵌め込むために、マスタージョー等移動部材をャック本体の端面の径方向外側に動かしてチャックを開いた状態とする場合の最も外側の位置と、爪でワークを把握するために、マスタージョー等移動部材をャック本体の端面の径方向内側に動かしてチャックを閉じた状態とする場合の最も中心側の位置との間の、チャック本体の端面に対するマスタージョー等移動部材の移動である。
【0015】
好ましくは、本発明の切粉・粉塵防止カバーは、前記密接部は、前記マスタージョーのセレーション面部分の前記中心側に密接する第1の密接部を有する。
【0016】
また、好ましくは、本発明の切粉・粉塵防止カバーは、前記密接部は、マスタージョー等移動部材の前記マスタージョーのセレーション面部分以外の部分に密接する第2の密接部を有する。
【0017】
また、好ましくは、本発明の切粉・粉塵防止カバーは、
前記マスタージョーの径方向両側に沿って延伸するマスタージョー側部側延伸部と、
前記マスタージョー側部側延伸部に形成され、前記マスタージョーのセレーション面に気流を噴出するエアー噴出口と、
所定の箇所から供給される気流を前記エアー噴出口に供給する切粉・粉塵防止カバー空気溝と、をさらに有する。
【0018】
また、本発明のチャック端面プレートは、チャック端面に設置されるチャック端面プレートであって、
前記の切粉・粉塵防止カバーを、前記チャック端面の径方向に移動自在に装着可能な切粉・粉塵防止カバー設置案内部と、
前記切粉・粉塵防止カバー設置案内部に装着された切粉・粉塵防止カバーに、前記付勢力を付与する付勢手段とを有する。
【0019】
また、本発明のチャック端面プレートは、チャック端面に設置されるチャック端面プレートであって、
前記の切粉・粉塵防止カバーを、前記チャック端面の径方向に移動自在に装着可能な切粉・粉塵防止カバー設置案内部と、
前記切粉・粉塵防止カバー設置案内部に装着された切粉・粉塵防止カバーに、前記付勢力を付与する付勢手段と、
チャック本体に設置されたパイプを介して供給される気流を、前記切粉・粉塵防止カバーの前記切粉・粉塵防止カバー空気溝に供給するトッププレート空気溝とを有する。
【0020】
また、本発明の切粉・粉塵防止カバーセットは、前記の切粉・粉塵防止カバーと、前記のチャック端面プレートとを有する。
また、本発明の切粉・粉塵防止カバーセットは、粉・粉塵防止カバー空気溝を有する前記の切粉・粉塵防止カバーと、トッププレート空気溝を有する前記のチャック端面プレートとを有する。
【0021】
なお、好ましくは、本発明の切粉・粉塵防止カバーセットは、放射状に配置された複数のマスタージョーに対する複数の前記切粉・粉塵防止カバーと、複数の前記切粉・粉塵防止カバーに対する複数の前記切粉・粉塵防止カバー設置案内部、及び、複数の前記切粉・粉塵防止カバーに対する複数の前記付勢手段を有する前記チャック端面プレートとを有する。
【0022】
また、好ましくは、本発明の切粉・粉塵防止カバーセットは、前記切粉・粉塵防止カバー及び前記チャック端面プレートの前記切粉・粉塵防止カバー設置案内部に構成され、前記切粉・粉塵防止カバーの移動範囲を規定する切粉・粉塵防止カバー固定手段を有する。
【0023】
また、本発明のチャック機構は、前記の切粉・粉塵防止カバーセットを有する。
【0024】
また、本発明の工作機械は、前記のチャック機構を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、切粉がチャック機構内に侵入あるいは堆積することを防ぐことができ、特に、マスタージョーの径方向内側の端面とチャック中心部のチャックカバーとの間の間隙に切粉が侵入あるいは堆積することを防ぐことができ、その結果、所望の切削加工を精度よく効率よく行うことができ、ひいては、旋盤等の工作機械の自動運転、無人運転、メンテナンスフリーな稼働等が可能となり生産性及び機械稼働率の向上を達成することのできる、切粉・粉塵防止カバー、切粉・粉塵防止カバーセット、チャック機構及び工作機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る本発明の一実施形態の旋盤の構成を示す図である。
図2図2は、本発明に係るチャック機構のチャック本体及びマスタージョーの構成を示す図である。
図3図3は、本発明に係るチャック機構のステア付爪の構成を示す図である。
図4図4は、図3に示したステア付爪のステア付爪本体の構成を示す図である。
図5図5は、図3に示したステア付爪のセレーションピースの構成を示す図である。
図6図6は、本発明に係るチャック機構のリアグリップ及びフロントグリップの構成を示す図である。
図7図7は、図3に示したステア付爪を図2に示したマスタージョーに設置する手順を説明するための図である。
図8図8は、チャックが開いたときのチャック本体の端面の状態を示す図である。
図9図9は、チャックが閉じたときのチャック本体の端面の状態を示す図である。
図10図10は、トッププレートの構成を示す図である。
図11図11は、トップカバー(切粉・粉塵防止カバー)の構成を示す図である。
図12図12は、従来のチャック機構において、チャックが開いたときのチャック本体の端面の状態を示す図である。
図13図13は、従来のチャック機構において、チャックが閉じたときのチャック本体の端面の状態を示す図である。
図14図14は、本発明の第2実施形態に係るトッププレートの構成を示す図である。
図15図15は、本発明の第2実施形態に係るトップカバー(切粉・粉塵防止カバー)の構成を示す図である。
図16図16は、チャック本体に、図14に示したトッププレートと図15に示したトップカバー、及び、マスタージョーを設置した状態を模式的に示す図である。
図17図17は、本発明に係るチャック機構のチャック本体及びマスタージョーの他の構成を示す図である。
図18図18は、本発明に係るチャック機構のステア付爪の他の構成を示す図である。
図19図19は、図3に示したステア付爪を図2に示したマスタージョーに設置する他の手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1実施形態
本発明の第1実施形態として、本発明の一実施形態の旋盤について、図1図11を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態の旋盤の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の旋盤1は、加工対象のワークを把握するチャック機構10、チャック機構10を回転駆動するモータ30、モータ30の回転動力をチャック機構10に伝達する主軸(スピンドル)40及びモータ30の動作等を制御する制御部50を有する。
【0028】
チャック機構10は、図2に示すチャック本体110及びマスタージョー120、図3に示すステア付爪200、図6に示す一対のグリップ510,540、図10に示すトッププレート310、及び、図11に示すトップカバー(切粉・粉塵防止カバー)360を有する。
【0029】
図2は、チャック機構10のチャック本体110及びマスタージョー120の構成を示す図である。
チャック本体110は、円筒形状をなし、端面112に、マスタージョー120を設置するための径方向のマスタージョー挿入溝115が等配に3本形成されている。マスタージョー挿入溝115は、幅広の底部と幅狭の上部とが2段に連なった断面形状を有し、チャック本体の外周面から径方向に所定の長さに形成されている。チャック本体110の中心孔113には、端面112側から筒状のチャックカバー117が挿入設置されており、チャックカバー117の端面112側の端面は蓋118で覆われている。チャック本体110の内部には、マスタージョー挿入溝115に設置されたマスタージョー120に係合しマスタージョー120を径方向に移動させる図示せぬシフタ―が設置されている。
【0030】
マスタージョー120は、ステア付爪200をチャック本体110に取り付ける受け台である。マスタージョー120は、チャック本体110のマスタージョー挿入溝115に内接し収容される断面形状及びサイズの金属製部材である。マスタージョー120の上面には、ステア付爪200を取り付けるための爪設置溝123が長手方向に沿って形成されている。爪設置溝123は、幅広の底部と幅狭の上部とを有するT字形状の断面を有し、上部と底部の境界となる下向きの段差面が、ステア付爪200を下方に引き込む際の肩部(引き込み支持面)124に形成されている。
【0031】
マスタージョー120の上面には、爪設置溝123の上部開口(溝開口部)127を挟んで両側に、セレーション面125,126が形成されている。セレーション面125、126は、四角錐形状のスパイクが、爪設置溝123の延伸方向に垂直な方向及び平行な方向に各々所定のピッチで多数整列された構造である。このような構造のスパイクは、例えば、爪設置溝123の延伸方向に垂直な方向に延伸し平行な方向に所定のピッチで配列された断面が三角形の縦方向の鋸歯と、爪設置溝123の延伸方向に平行な方向に延伸し垂直な方向に所定のピッチで配列された断面が三角形の横方向の鋸歯とを同じ面上に形成することにより形成される。
【0032】
マスタージョー120の高さは、チャック本体110のマスタージョー挿入溝115の深さよりも若干高い。換言すれば、マスタージョー120のセレーション面125、126の上面は、チャック本体110の端面112よりも若干突出している(図2参照)。
【0033】
マスタージョー120は、図示しないが底部から突出した係合部がチャック本体110の内部に設置される図示せぬシフターと係合しており、シフタ―の軸方向の移動により、3個のマスタージョー120が同時に、チャック本体110の径方向に移動するように構成されている。
【0034】
図3は、ステア付爪200の構造を示す図であり、図3(A)は部分切断斜視図であり、図3(B)は側面図であり、図3(C)は正面図である。また、図4は、図3に示したステア付爪200のステア付爪本体201の構造を示す図であり、図4(A)は部分切断斜視図であり、図4(B)は側面図であり、図4(C)は正面図である。また、図5は、図3に示したステア付爪200のセレーションピース271,272の構造を示す図であり、図5(A)は横セレーションピース271の斜視図であり、図5(B)は横セレーションピース271のセレーション面273の鋸歯を示す図であり、図5(C)は縦セレーションピース272の斜視図であり、図5(D)は縦セレーションピース272のセレーション面274の鋸歯を示す図である。
【0035】
ステア付爪200は、図3(A)に示すように、ワークを把握する爪210と、爪210をマスタージョー120に設置するためのステア240とが一体的に形成された部材である。
【0036】
図3(B)に示すように、爪210の先端部は、ワークに接触しワークを把握するワーク把握面を形成するためのワーク把握部211に形成されている。本実施形態の爪210は生爪(ソフトジョー)である。ワークを切削加工する場合は3つの爪210によりワークを把握するが、各爪210のワーク把握部211が適切な接触面でワークを把握するとともにチャック本体110に対して完全に芯出しされた状態でワークを把握するために、まず、ワーク把握部211が加工されワーク把握部211にワーク把握面が形成される。すなわち、いわゆる爪の形成が行われる。そして、その後、3つの爪210により実際にワークが把握され、ワークの切削加工が行われる。
【0037】
図3(C)に示すように、爪210の下面の両側には、横セレーション面273及び縦セレーション面274が形成されている。横セレーション面273及び縦セレーション面274は、各々、断面が略正三角形の鋸歯が所定のピッチで多数配列された構造である。横セレーション面273は、爪210の幅方向(短手方向)に延伸する鋸歯が爪210の長手方向に所定のピッチで配列された構造であり、マスタージョー120の一方のセレーション面125(図2参照)に係合するセレーション面である。また、縦セレーション面274は、爪210の長手方向に延伸する鋸歯が爪210の幅方向(短手方向)に所定のピッチで配列された構造であり、マスタージョー120の他方のセレーション面126(図2参照)に係合するセレーション面である。
【0038】
ステア付爪200は、図4に示すステア付爪本体201と、図5(A)に示す横セレーションピース271と、図5(B)に示す縦セレーションピース272とが、セレーションピース取付ボルト280により組み立てられて一体化された構成である。
【0039】
ステア付爪本体201は、図4(A)~図4(C)に示すように、爪本体202とステア240とが一体成形された部材である。
【0040】
爪本体202は、爪210(図3参照)の幅方向両側面の下部に、ワーク把握部211とは反対側の端部から所定の長さでセレーションピース用切欠き203,204を形成した部材である。換言すれば、爪210からセレーションピース271,272に対応する部分を除外した部材である。
【0041】
ステア240は、爪210をマスタージョー120に設置するための金属製部材である。ステア240のリア側端面245及びフロント側端面246は、各々、波形係合面に形成されている。この波形係合面は、対向する形状の対向波形係合面を有する後述するグリップ510,540によりステア240が挟持され締め付けられることにより、グリップ510,540に対して下方向に引き込まれる形状に形成されている。
【0042】
その結果、爪210のセレーション面273,274のセレーションとマスタージョー120のセレーション面125、126のセレーションとが確実に係合され、爪210がマスタージョー120の所定の位置に正確に設置される。そのために、ステア240には、爪210の長手方向にリア側端面245とフロント側端面246との間を貫通するように、ステア240とグリップ510,540とを連結するためのクランプボルト570(図7(C)参照)を通過させるためのクランプボルト通過孔263が形成されている。
【0043】
横セレーションピース271は、図5(A)に示すように、直方体形状の金属製部材である。横セレーションピース271には、幅方向に両側面間を貫通するようにボルト通過孔275が形成されている。ステア付爪本体201に設置した際に外面となる側の側面のボルト通過孔275の周囲には、セレーションピース取付ボルト280(図3参照)の頭部が収容される座ぐり277が形成されている。横セレーションピース271の下面は、図5(B)に示すように、横セレーションピース271の短手方向(幅方向)に延伸する鋸歯が形成された横セレーション面273に形成されている。
【0044】
縦セレーションピース272は、図5(C)に示すように、横セレーションピース271と略同じサイズの直方体形状の金属製部材である。縦セレーションピース272には、やはり幅方向に両側面間を貫通するようにボルト通過孔276が形成されている。ステア付爪本体201に設置した際に噛み合う外面となる側の側面のボルト通過孔276の周囲には、セレーションピース取付ボルト280(図3参照)がねじ込まれるナットが収容される座ぐり278が形成されている。縦セレーションピース272の下面は、図5(D)に示すように、縦セレーションピース272の長手方向に延伸する鋸歯が形成されたセレーション面274に形成されている。
【0045】
このような構成の横セレーションピース271及び縦セレーションピース272を、図4に示すステア付爪本体201のセレーションピース用切欠き203及び204に各々配置し、各3個所のセレーションピース271,272のボルト通過孔275,276及びステア付爪本体201のボルト通過孔206(図4参照)を各々貫通するように3本のセレーションピース取付ボルト280(図3参照)を設置し、図示せぬナットによりこれらを締め付ける。その結果、図3(A)~図3(C)に示すようなステア付爪200が形成される。
【0046】
図6は、チャック機構10のリアグリップ510及びフロントグリップ540の構成を示す図である。
リアグリップ510及びフロントグリップ540は、マスタージョー120の爪設置溝123(図2参照)に挿入され、ステア付爪200のステア240(図3参照)を両側から挟み込むことにより、ステア付爪200をマスタージョー120に固定する(図7参照)。従って、グリップ510,540は、各々、マスタージョー120の爪設置溝123に内接し収容される形状の断面、すなわち爪設置溝123と同じT字形状の断面を有する金属製部材である。
【0047】
リアグリップ510は、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入された状態において外径側となる端面513が、ステア付爪200のステア240のリア側端面245に対向し接面する対向波形係合面513に形成されている。また、フロントグリップ540は、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入された状態において内径側となる端面が、ステア付爪200のステア240のフロント側端面246に対向し説明する対向波形係合面543に形成されている。
【0048】
リアグリップ510及びフロントグリップ540には、爪設置溝123に挿入された場合に幅方向となる方向の両側に、マスタージョー120の爪設置溝123の肩部124と対向し当接する段差面512,542が形成されている。段差面512,542は、後述するように、ステア付爪200のステア240を締め付けてステア付爪200を引き込む際の引き込み支持面となる。また、リアグリップ510の段差面512の内径側の端部は、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入された場合に、爪設置溝123の内径側の隅部と干渉しないように、面取り状態に切り欠かれた傾斜面に形成されている。
【0049】
また、グリップ510,540には、これらをマスタージョー120の爪設置溝123に挿入した際に爪設置溝123の延伸方向となる方向に、クランプボルト用孔530,560が形成されている。リアグリップ510のクランプボルト用孔530には、クランプボルトの先端の螺子部分がねじ込まれる螺子溝が形成されている。また、フロントグリップ540に形成されたクランプボルト用孔560の外径側端面544側には、クランプボルト用孔560と同軸に、クランプボルトの頭部が収容される座ぐり561が形成されている。
【0050】
リアグリップ510及びフロントグリップ540により、ステア付爪200をマスタージョー120に設置する方法について、図7を参照して説明する。
図7(A)~図7(C)は、各々、ステア付爪200をマスタージョー120に設置する手順を説明するための図である。
なお、チャック本体110のマスタージョー挿入溝115には、マスタージョー120が設置されているものとする。
【0051】
まず、図7(A)に示すように、マスタージョー120の爪設置溝123にグリップ510,540を挿入する。まず、リアグリップ510を、外径側端面(対向波形係合面)513が外径側となる向きで爪設置溝123に挿入し、その後、フロントグリップ540を、外径側端面544が外径側となる向きで爪設置溝123に挿入する。その結果、マスタージョー120の爪設置溝123には、図7(A)に示すような形態でグリップ510,540が設置される。
【0052】
次に、ステア付爪200をマスタージョー120に対して設置する。ステア付爪200を、図7(A)に示すように、マスタージョー120の爪設置溝123の上側からマスタージョー120の爪設置溝123方向に移動させ、ステア240を爪設置溝123に挿入し、図7(B)に示すように、爪210がマスタージョー120上に接触した状態に配置する。このとき、ステア付爪200の爪210の下面のセレーション面273,274のセレーションと、マスタージョー120のセレーション面125,126のセレーションとを所定の位置で係合させる(図2及び図5参照)。これにより、ステア付爪200は、径方向及び周方向にマスタージョー120上の所定の位置に配置されることとなる。
【0053】
ステア付爪200のステア240を爪設置溝123に挿入したら、図7(C)に示すように、チャック本体110の外周面のマスタージョー120の端部からに、クランプボルト570を挿入する。クランプボルト570は、フロントグリップ540の外径側端面544(図6参照)のクランプボルト用座ぐり561の部分からクランプボルト用孔560に挿入され、ステア240のフロント側端面246(図3参照)からリア側端面245までクランプボルト通過孔263を通過し、ねじ穴に形成されているリアグリップ510のクランプボルト用孔530にねじ込まれる。
【0054】
この状態でクランプボルト570を締め付けていくことにより、リアグリップ510とフロントグリップ540との間隔が狭くなり、ステア付爪200のステア240の波形係合面(245,246)とグリップ510,540の対向波形係合面(513,543)とが係合し噛み合い、ステア付爪200はグリップ510,540に対して相対的に下方向に引き込まれる。このとき、グリップ510,540の段差面512,542(図6参照)は、マスタージョー120の段差面(引き込み支持面)124に当接し支持されているのでチャック本体110の端面112方向に移動することができないため、ステア付爪200はマスタージョー120に対して爪設置溝123の深さ方向に引き込まれることとなり、ステア付爪200の下面のセレーション面273,274のセレーション(筋状の鋸歯)と、マスタージョー120のセレーション面125,126のセレーション(スパイク)とが深く係合することとなる。その結果、これらのセレーションの中心が精密に位置合わせされることとなり、ステア付爪200の爪210の位置も高精度に位置決めされることとなる。
【0055】
次に、本発明に係るトッププレート310及びトップカバー360について、図8図11を参照して説明する。なお、トッププレート310と3枚のトップカバー360とを備えた一式を、トップカバーセット(切粉・粉塵防止カバーセット)300と称する。
図8は、チャックが開いた状態のチャック本体110の端面112の状態を示す図であり、図9は、チャックが閉じた状態のチャック本体110の端面112の状態を示す図である。
【0056】
図10は、トッププレート310の構成を示す図であり、図10(A)は平面図(チャック本体110の端面112に装着した場合、チャック本体110の軸方向外側から端面112方向を見た図、以下同じ)、図10(B)は図10(A)のAの方向から見た側面図、図10(C)は図10(A)のB-Bにおける拡大部分断面図、図10(D)は図10(A)のC-Cにおける拡大部分断面図である。なお、理解を容易にするために、図10(B)において、図10(A)のD-Dのラインより図示右側の構成については図示をしていない。
【0057】
図11は、トップカバー360の構成を示す図であり、図11(A)は平面図、図11(B)は図11(A)のEの方向から見た正面図、図11(C)は図11(A)のFの方向から見た側面図である。
【0058】
図8及び図9に示すように、トッププレート310及びトップカバー360は、チャック本体110の端面112に設置され、マスタージョー120及びステア付爪200の内径側端部(チャック本体110の端面112の内径側端部)と、チャック本体110に設置されたチャックカバー117(チャックカバー蓋118)との間に生じる間隙への切粉の侵入を防ぐ。図示のごとく、チャック本体110の端面112には、1枚のトッププレート310と3枚のトップカバー360が設置されている。
【0059】
トッププレート310は、図10(A)及び図10(B)に示すように、略三角形の平面形状を有する板状部材である。トッププレート310の長尺の3辺の中央部には、マスタージョー進入用切り欠き320が形成されている。マスタージョー進入用切り欠き320は、トッププレート310をチャック本体110の端面112に設置した際に、図8及び図9に示すように、チャック本体110のマスタージョー挿入溝115の中心側の部分に重なる切り欠きである。すなわち、マスタージョー進入用切り欠き320の幅aは、マスタージョー挿入溝115の幅と同じであり、マスタージョー進入用切り欠き320には、マスタージョー挿入溝115中を径方向に移動するマスタージョー120の中央部側の端部が進入可能な形態に構成されている。
【0060】
マスタージョー進入用切り欠き320の奥行きbとしては、チャックが閉じた状態、すなわちマスタージョー120の中心側の端部が最も中心側に移動したときに(図9の状態)、マスタージョー120とトッププレート310とが干渉しない長さが確保されている。
【0061】
トッププレート310のマスタージョー進入用切り欠き320の周囲には、トップカバー案内凹部330が形成されている。トップカバー案内凹部330は、図10(C)及び図10(D)に示すように、トッププレート310の下面側(チャック本体110の端面112に接する側)に形成され、その内部を、後述するトップカバー360が、マスタージョー120の移動方向と平行な方向(チャック本体110の端面112の径方向)に移動可能に構成されている。
【0062】
トップカバー案内凹部330の幅cは、トップカバーセット300が覆って閉塞しようとしている間隙、すなわち、マスタージョー120の内径側端部とチャックカバー117との間に生じる間隙の幅(トッププレート310の長尺の辺と平行な方向の長さ)と略同じ長さである。また、トップカバー案内凹部330の幅cは、後述するトップカバー360の幅と略同じであって、トップカバー360がトップカバー案内凹部330内を容易に移動可能な長さである。
【0063】
また、トップカバー案内凹部330の奥行きdとしては、チャックが閉じた状態、すなわちマスタージョー120の中心側の端部が最も中心側に移動したとき(図9の状態)に、後述するようにマスタージョー120に追従して中心側方向に移動するトップカバー360の中心側端部がトッププレート310に干渉しない長さが確保されている。
【0064】
トップカバー360は、図11(A)~図11(C)に示すように、略矩形の平面形状を有する板状部材である。トップカバー360は、図8及び図9に示すようにトッププレート310の3個所のトップカバー案内凹部330に各々嵌入されて、トップカバー案内凹部330に案内されて、チャック本体110の端面112を径方向に移動する。
【0065】
トップカバー360の外側の辺縁には、その辺縁の両側に、内側に向かって切り欠かれたマスタージョーセレーション面嵌合部(第1の密接部)370が形成され、そのマスタージョーセレーション面嵌合部370の間に、外側に向かって突出したグリップ当接部(第2の密接部)375が形成されている。両側のマスタージョーセレーション面嵌合部370は、マスタージョー120の中心側の端部に嵌合する部分(密接部)である。また、グリップ当接部375は、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入されたリアグリップ510の内径側端面514に当接する部分である。
【0066】
前述したように、マスタージョー120には、短手方向の両側にセレーション面125、126が形成されている(図2参照)。また、一方のセレーション面125と他方のセレーション面126との間は、爪設置溝123の上部開口127となっている。また、セレーション面125、126は、チャック本体110の端面112より表面側に突出している。トップカバー360は、このような構成のマスタージョー120の中心側端部に嵌合可能な形状に形成されている。すなわち、図8に示すように、両側のマスタージョーセレーション面嵌合部370に、マスタージョー120のセレーション面125、126が嵌合し、トップカバー360のグリップ当接部375は、マスタージョー120のセレーション面125、126の間の溝開口部127に嵌合している。
【0067】
前述したようにステア付爪200をマスタージョー120に装着した場合、マスタージョー120のセレーション面125、126間の溝開口部127には、ステア付爪200のステア240を挟持するグリップ510,540が配置されることとなる。したがって、グリップ当接部375の端部は、リアグリップ510の内径側端面514の形状と略等しい形状に形成されており(本実施形態では平坦面である)、ステア付爪200を装着するためにマスタージョー120の溝開口部127にリアグリップ510を挿入した状態においては、グリップ当接部375は、リアグリップ510の内径側端面514に当接する。これにより、トップカバー360は、両側のマスタージョーセレーション面嵌合部370及び中央のグリップ当接部375の外側の辺縁の全ての箇所で、マスタージョー120及びリアグリップ510に当接(密接)する。
【0068】
トッププレート310のトップカバー案内凹部330の領域には、図10(A)及び(D)に示すように、タップ332が形成されている。タップ332は、トップカバー案内凹部330を表裏に貫通するねじ穴である。タップ332は、トッププレート310の3個所のトップカバー案内凹部330に各々形成されている。このタップ332には、図10(D)に示すように、トップカバー固定ボルト340が設置される。トップカバー固定ボルト340は、例えば六角穴付き止めねじである。
【0069】
また、図11(A)~図11(C)に示すように、トップカバー360の表面には固定ボルト受け380が形成されている。固定ボルト受け380は、所定の深さで長円形状の凹部(長座グリ)である。固定ボルト受け380は、トップカバー360をトッププレート310のトップカバー案内凹部330に嵌入した際にトッププレート310のタップ332が装着されている位置に形成される。すなわち、固定ボルト受け380には、トップカバー360をトッププレート310に装着した際に、トッププレート310のタップ332に設置されたトップカバー固定ボルト340の先端が挿入される。なお、通常の状態では、トップカバー固定ボルト340は、固定ボルト受け380の底面を押さえる状態にはせず、トップカバー360がトッププレート310のトップカバー案内凹部330に沿って移動自在な状態を維持する程度に、固定ボルト受け380に遊合される。
【0070】
前述したように、通常の状態では、トップカバー360はトッププレート310のトップカバー案内凹部330に沿ってチャック本体110の端面112の径方向に移動自在に設置されているが、トップカバー360を固定する必要のある場合には、トップカバー固定ボルト340を締め付ける。すなわち、トップカバー固定ボルト340がトップカバー360の固定ボルト受け380の底面を押さえる状態に、トップカバー固定ボルト340を締め付ける。その結果、トップカバー360はチャック本体110の端面112とトップカバー固定ボルト340との間で挟持された状態となり、トップカバー360のトッププレート310のトップカバー案内凹部330に沿った移動は不能となり固定される。
なお、これらタップ332、トップカバー固定ボルト340及び固定ボルト受け380によるトップカバー360を固定するための構成が、特許請求の範囲等に記載の「切粉・粉塵防止カバー固定手段」に相当する。
【0071】
また、図10(A)~図10(D)に示すように、トッププレート310のトップカバー案内凹部330を形成する面のうちの奥面には、バネの端部が設置されるバネ座335が形成されている。また、図11(A)~図11(C)に示すように、トップカバー360の中心側の端面の中央部、すなわち、トップカバー360をトッププレート310のトップカバー案内凹部330に設置した際に、トッププレート310のバネ座335に対向する面には、バネ座(受力部)385が形成されている。
【0072】
トップカバー360をトッププレート310のトップカバー案内凹部330に装着する際には、図8及び図9に示すように、トッププレート310に設けられたバネ座335とトップカバー360に設けられたバネ座385との間に、トッププレート310とトップカバー360とを離反する方向に力を付勢するスプリング390(付勢手段)が配置される。これにより、トップカバー360には常に外側方向の力、すなわちマスタージョー120の方向への力が作用することとなり、トップカバー360はマスタージョー120に押し付けられた状態に維持される。
【0073】
なお、トッププレート310は、ボルト穴339に図示せぬ取付けボルトが挿入されて、図8及び図9に示すように、チャック本体110の端面112に設置される。
【0074】
また、トッププレート310及びトップカバー360は、チャック本体110にマスタージョー120が設置された状態で、ステア付爪200をマスタージョー120に設置する前に、チャック本体110の端面112に設置される。
【0075】
このような構成のチャック機構10においても、旋盤1でワークを切削加工する際には、図8に示すように、マスタージョー120及びこれに装着された爪210をチャック本体110の端面112の径方向外側に動かしてチャックが開いた状態とし、開いたチャック本体110の端面の中央部にワークを嵌め込む。このとき、マスタージョー120に対しては、スプリング390により外周方向に付勢されているトップカバー360が押し付けられ、マスタージョー120の中心側の端面に嵌合している。すなわち、トップカバー360の両側のマスタージョーセレーション面嵌合部370がマスタージョー120の中心側のセレーション面125、126の端部に当接嵌合し、トップカバー360のグリップ当接部375が、マスタージョー120に装着されたステア付爪200のステア240の中心側端面に当接嵌合している。
【0076】
また、トップカバー360の周囲はトッププレート310により覆われており、マスタージョー120の径方向中心部側の端面とチャックカバー117(チャックカバー蓋118)の外径部との間の間隙は、チャック本体110の端面112に露呈していない。すなわち、本実施形態のチャック機構10においては、マスタージョー120及びステア付爪200がチャック本体110の端面112の外周側に後退してチャックが開いた状態においても、マスタージョー120の中央中心側に切粉が進入するような間隙は形成されない。
【0077】
また、ワークを配置したら、マスタージョー120及びステア付爪200を径方向内側に動かして図9に示すようにチャックを閉じた状態とし、ワークを3個の爪210で把握する。この時も、トップカバー360はマスタージョー120の移動に合わせて中心側に移動するが、このときも、マスタージョー120の中央中心側に切粉が進入するような間隙は形成されない。すなわち、マスタージョー120の径方向中心部側の端面とチャックカバー117(チャックカバー蓋118)の外径部との間の間隙は、チャック本体110の端面112に露呈していない。
【0078】
このように、本実施形態のチャック機構10によれば、切粉が、爪210、マスタージョー120、マスタージョー挿入溝115あるいはチャック本体110に付着したり堆積したりすることを適切に防ぐことができ、チャッキング不良やワークの把握精度(クランプ精度)の低下等が生じる危険性を無くすことができる。その結果、所望の切削加工を精度よく効率よく行うことができる。また、これにより、旋盤等の工作機械の自動運転、無人運転、メンテナンスフリーな稼働等が可能となり、生産性及び機械稼働率の向上を達成することができる。
【0079】
第2実施形態
本発明の第2実施形態として、トップカバーセット(切粉・粉塵防止カバーセット)300の他の形態について、図14図16を参照して説明する。
旋盤等の工作機械を自動化あるいは無人化運転する場合には、マスタージョーのセレーション面、あるいはマスタージョーと爪との係合セレーション面(以下、単にマスタージョーのセレーション面125と称する)に、清掃のためのエアブローを行うのが好ましい。第2実施形態として示すトップカバーセットは、マスタージョーのセレーション面にエアブローを行うことのできるトップカバーセットである。
【0080】
第2実施形態のトップカバーセットも、第1実施形態のトップカバーセット300と同様に1枚のトッププレート610と3枚のトップカバー(切粉・粉塵防止カバー)660とを有し、第1実施形態と同様の旋盤1に適用される。ただし、第2実施形態のトップカバーセットが適用されるチャック本体110には、軸方向中央部にエアーが送られてくる主軸内部パイプ114(図14(B)参照)が設置されているものとする。
【0081】
トッププレート610、トップカバー660及び上記した主軸内部パイプ114以外の構成、すなわち、これら以外のチャック機構10や旋盤1あるいはマスタージョー120等の構成は第1実施形態と同じである。したがって、トッププレート610とトップカバー660以外の構成については、以下、説明は省略するとともに、参照する場合は第1実施形態と同一の参照符号を用いる。
【0082】
図14は、トッププレート610の構成を示す図であり、図14(A)は平面図、図14(B)は図14(A)のG-Gにおける断面図である。
図14(A)には、第2実施形態のトッププレート610と第1実施形態のトッププレート310との相違が明確になるように、第1実施形態のトッププレート310を二点鎖線により示す。図14(A)に示すように、第2実施形態の第2トッププレート610は、第1実施形態のトッププレート310のマスタージョー進入用切り欠き320及びトップカバー案内凹部330を、チャック本体110の端面112の外周まで拡大した構成である。
【0083】
すなわち、第2実施形態のトッププレート610は、第1実施形態のトッププレート310より一回り大きく、チャック本体110の端面112の大部分を覆うような、略三角形の平面形状を有する板状部材である。マスタージョー進入用切り欠き620及びトップカバー案内凹部630の構造は、奥行きb及びd(図10参照)が長くなった点以外は、第1実施形態のマスタージョー進入用切り欠き320及びトップカバー案内凹部330と同じである。また、マスタージョー進入用切り欠き620及びトップカバー案内凹部630の機能は、挿入されるトッププレートが異なるのみで、基本的な機能は第1実施形態のマスタージョー進入用切り欠き320及びトップカバー案内凹部330と同じである。
【0084】
また、トッププレート610のトップカバー案内凹部630を形成する面のうちの奥面には、第1実施形態のバネ座335と同様に、バネの端部が設置されるバネ座(スプリング孔)635が形成されている。また、トッププレート610のトップカバー案内凹部630の領域には、第1実施形態のタップ332と同じ構造及び機能のタップ632が形成されている。
【0085】
図14(A)及び図14(B)に示すように、第2実施形態のトッププレート610の中央部の下面(チャック本体110の端面112に接する面)には、中心円形孔651及び3箇所のスプリング孔接続溝652からなるトッププレート空気溝650が形成されている。中心円形孔651は、チャック本体110の主軸内部パイプ114を通って送られてきたエアーを受ける凹部であり、スプリング孔接続溝652は、中心円形孔651と3箇所のスプリング孔(バネ座)635とを各々接続する溝である。このような構造のトッププレート空気溝650により、チャック本体110の主軸内部パイプ114を介して送られたエアーは、中心円形孔651、スプリング孔接続溝652及びスプリング孔(バネ座)635を介して、トップカバー案内凹部630に送られる。
【0086】
図15は、トップカバー660の構成を示す図であり、図15(A)は全体の平面図、図15(B)は図15(A)のHの部分の拡大図(部分平面図)、図15(C)は図15(B)と同じ箇所の断面図(図15(C)のL-Lにおける断面図)、図15(D)は図15(A)のHの部分を図15(A)のIの方向から見た側面図、図15(E)は、図15(A)のHの部分の図15(B)のJ-J及び図15(D)のL-Lにおける断面図である。
【0087】
図15(A)に示すように、第2実施形態のトップカバー660は、第1実施形態のトップカバー360と同様に略矩形の平面形状を有する板状部材である。トップカバー660は、トッププレート610の3個所のトップカバー案内凹部630(図14(A)参照)に各々嵌入されて、トップカバー案内凹部630に案内されて、チャック本体110の端面112を径方向に移動する。
【0088】
トップカバー660は、マスタージョーセレーション面嵌合部670及びグリップ当接部675を有する。これらマスタージョーセレーション面嵌合部670及びグリップ当接部675は、第1実施形態のトップカバー360のマスタージョーセレーション面嵌合部370及びグリップ当接部375と同じ構造及び機能である。すなわち、マスタージョーセレーション面嵌合部670はマスタージョー120のセレーション面125、126(図8及び図9参照。以下同じ。)に嵌合し、グリップ当接部675はリアグリップ510の内径側端面514に当接する。これによりトップカバー660は、マスタージョーセレーション面嵌合部670及び中央のグリップ当接部675を含む外側の辺縁の全ての箇所で、マスタージョー120及びリアグリップ510に当接(密接)する。
【0089】
また、トップカバー660の表面には、固定ボルト受け680が形成されている。また、トップカバー660の中心側の端面の中央部、すなわち、トップカバー660をトッププレート610のトップカバー案内凹部630に設置した際に、トッププレート610のスプリング孔(バネ座)635に対向する面には、スプリング孔(バネ座)685が形成されている。これら、固定ボルト受け680及びスプリング孔(バネ座)685の構造及び機能は、基本的に第1実施形態のトップカバー360の固定ボルト受け380及びバネ座385と同じ構造及び機能である。
【0090】
第2実施形態のトップカバー660が第1実施形態のトップカバー360と大きく異なる点は、以下の2点である。第1は、2箇所のマスタージョーセレーション面嵌合部670の外側部分が、マスタージョーセレーション面嵌合部670の方向に沿って大きく延伸しマスタージョー側部側延伸部665に形成されている点である。第2は、そのマスタージョー側部側延伸部665に形成されたエアー噴出口695を含む、マスタージョーのセレーション面にエアを噴出するための構成が形成されている点である。
【0091】
第1の相違点に関し、第1実施形態のトップカバー360のマスタージョーセレーション面嵌合部370の外側部分の形状を、図15(A)に二点鎖線により示す。図15(A)に示すように、第2実施形態のトップカバー660においては、マスタージョーセレーション面嵌合部670の両外側部分が、マスタージョー120が配置される方向に沿って長く延伸している。マスタージョー側部側延伸部665は、図16(A)に示すように、トップカバー660がマスタージョー120に嵌合された場合に、マスタージョー120のセレーション面125,126の側部の全域に沿って配置される。
【0092】
第2の相違点に関し、第2実施形態のトップカバー660は、マスタージョーのセレーション面にエアを噴出するための構成として、接続溝691及び延伸部空気溝692からなるトップカバー空気溝(切粉・粉塵防止カバー空気溝)690と、エアー噴出口695とを有する。接続溝691は、スプリング孔(バネ座)685と延伸部空気溝692の端部とを接続する溝である。延伸部空気溝692は、マスタージョー側部側延伸部665の内側(マスタージョー120のセレーション面125,126に近接する側(図16参照))に沿って形成される溝である。
【0093】
そして、エアー噴出口695は、図15(B)、図15(C)及び図15(E)に示すように、延伸部空気溝692に流されたエアーを、マスタージョーのセレーション面に噴出させるための開口部である。エアー噴出口695は、図15(D)に示すようにマスタージョー側部側延伸部665の内側端面に開口が形成されるように延伸部空気溝692とマスタージョー側部側延伸部665の内側端面とを連通する構造であり、図15(B)及び図15(C)に示すようにマスタージョー側部側延伸部665の延伸方向に沿って所定間隔に整列して形成されている。
【0094】
このような構成の第2実施形態のトップカバーセット(トッププレート610、トップカバー660)により、マスタージョーのセレーション面にエアブローを行うことについて、図16を参照して説明する。
図16は、チャック本体110に、第2実施形態に係るトッププレート610及びトップカバー660、及び、マスタージョー120を設置した状態を模式的に示す図であって、3箇所のうち1箇所のみを示す図であり、図16(A)は平面図、図16(B)は図16(A)におけるMの部分の断面図(図16(C)のR-Rにおける断面図)、図16(C)は図16(A)のMの部分を図16(A)のNの方向から見た側面図、図16(D)は、図16(A)のMの部分の図16(B)のP-P及び図16(C)のQ-Qにおける断面図である。
【0095】
図16(A)に示すように、トッププレート610を装着した旋盤等において、主軸内部パイプ114を介して送られてきたエアーは、トッププレート610の中心円形孔651、スプリング孔接続溝652及びスプリング孔(バネ座)635を流れて、トップカバー案内凹部630に送られる。トッププレート610のトップカバー案内凹部630に送られたエアーは、トップカバー660のスプリング孔(バネ座)685を介して、トップカバー660の接続溝691及び延伸部空気溝692を流れ、図16(B)に示すように、延伸部空気溝692に対して形成されたエアー噴出口695から、マスタージョー120及び爪のセレーション面125,126方向に噴出される。
【0096】
このとき、エアー噴出口695とマスタージョー120及び爪のセレーション面125,126との位置関係は、図16(C)及び図16(D)に示すように、エアー噴出口695から噴出したエアーがマスタージョー120のセレーション面125,126の鋸歯の間(溝)に噴出する位置関係とされている。したがって、マスタージョー120のセレーション面125,126に適切にエアーが噴出され、仮に、セレーションの溝に切粉やごみ等が存在していた場合でも、その切粉等を吹き飛ばして除外することができる。
【0097】
このように、第2実施形態のトッププレート610及びトップカバー660を用いても、旋盤1等において、切粉が、爪、マスタージョー、マスタージョー挿入溝あるいはチャック本体に付着したり堆積したりすることを適切に防ぐことができ、チャッキング不良やワークの把握精度(クランプ精度)の低下等が生じる危険性を無くすことができる。また特に、第2実施形態のトッププレート610及びトップカバー660を用いた場合には、ワークの交換や爪の交換を行う際に、マスタージョーのセレーション面に切粉が入り込むことを適切に防ぐことができる。その結果、特に、旋盤等の工作機械の自動運転、無人運転、メンテナンスフリーな稼働等が可能となり、それら自動運転等により所望の切削加工を精度よく効率よく行うことができ、生産性及び機械稼働率の向上を達成することができる。
【0098】
なお、第2実施形態のトップカバーセットを適用する場合、チャック本体110の端面112とトッププレート610との間にエアーの漏洩を防止するためのシート状部材を設置するようにしてもよい。シート状部材は、トッププレート610とほぼ同様の外形を有し、トッププレート610の下面のトッププレート空気溝650の中心円形孔651、トップカバー案内凹部630、ボルト穴639等に対応する箇所が切り欠かれた部材である。場合によっては、トッププレート空気溝650のスプリング孔接続溝652の部分もさらに切り欠かれた形状であってもよい。
【0099】
そのシート状部材の材質としては、チャック本体110の端面112とトッププレート610の下面との間をシールできる材料であれば任意の材料でよく、ゴム等の樹脂、金属、セラミック等の任意の材料でよいが、好ましくは、パッキンあるいはガスケット等として通常用いられる材料が好適である。
このようなシート状部材を設置することにより、第2実施形態として前述した意図した流路以外へエアーが流れること、すなわち、エアーの漏洩を防止することができ、エアーにより切粉等を吹き飛ばして除外するという前述した第2実施形態のトップカバーセットの作用効果を一層高めることができる。
【0100】
なお、このようなシート状部材も本願発明の1つであり、このようなシート状部材を含んだトップカバーセット(切粉・粉塵カバーセット)も、本願発明の範囲内である。
【0101】
変形例
なお、本発明は前述した実施形態に限られるものではなく、任意好適な種々の改変が可能である。
例えば、前述した実施形態においてマスタージョーは、幅広の底部と幅狭の上部とが2段に連なった断面形状のマスタージョー120であり(図2参照)、これが嵌挿されるチャック本体110の溝115もマスタージョー120の断面形状と同じ幅広の底部と幅狭の上部とが2段に連なった断面形状を有するものであった。しかしながら、マスタージョー及びチャック本体のマスタージョー挿入溝の形態はこれに限られるものではない。例えば図17に示すように、マスタージョーは、幅広の底部と幅狭の上部とを1段のみ有する断面形状のマスタージョー120bであってもよい。この場合は、チャック本体110の溝も、マスタージョー120の断面形状と同じ幅広の底部と幅狭の上部とを1段のみ有する断面形状のマスタージョー挿入溝115bとなる。このように、マスタージョー及びこれが嵌挿されるチャック本体のマスタージョー挿入溝の断面形状を簡単にすることにより、マスタージョーをチャック本体に装着する際の作業が容易になる。マスタージョー及びチャック本体のマスタージョー挿入溝は、このような構成であってもよい。
【0102】
また、前述した実施形態においてステア付爪200は、ステア付爪本体201とセレーションピース271、272とが、セレーションピース取付ボルト280により組み立てられて一体化された構成であった(図3参照)。しかしながら、ステア付爪本体と横セレーションピース及び縦セレーションピースとの連結形態はこれに限られるものではない。例えば図18に示すように、2箇所のノックピン282によりこれらを連結するようにしてもよい。
【0103】
図18に示すステア付爪200bにおいては、横セレーションピース271b及び縦セレーションピース272bをステア付爪本体201bのセレーションピース用切欠き203及び204(図4参照)に各々配置し、セレーションピース271b,272b及びステア付爪本体201bを貫通するように形成されたノックピン通過孔207にノックピン282を挿入し、ノックピン282の両端面283をセレーションピース271b,272bに溶接しており、これにより、図3を参照して前述したステア付爪200と実質的に同じ構成のステア付爪200bが形成されている。
【0104】
このように、ノックピン282の溶接によりセレーションピース271b,272bをステア付爪本体201bに設置することにより、ボルトの緩みによるセレーションピースのぐらつきや位置ずれを防ぐことができ、より強固にセレーションピースをステア付爪本体に設置することができる。
【0105】
なお、セレーションピースとステア付爪本体とを連結するボルトあるいはノックピンの数は、図3に示したステア付爪では3本、図18に示したステア付爪では2本としたが、これに限られるものではなく、任意の本数でよい。好ましくは、このボルト等の数は、必要な強度やステア付爪のサイズ等に応じて好適な本数に決定される。
【0106】
また、前述した実施形態において、リアグリップ510及びフロントグリップ540によりステア付爪200をマスタージョー120に設置する方法は、図7に示すように、まず、マスタージョー120の爪設置溝123にグリップ510,540を挿入し(図7(A))、その後、ステア付爪200をマスタージョー120の爪設置溝123の上側からマスタージョー120の爪設置溝123方向に移動させステア240を爪設置溝123に挿入し(図7(B))、最後に、クランプボルト570を挿入し締め付けていくものであった。しかしながら、ステア付爪200をマスタージョー120に設置する方法もこれに限られるものではなく、例えば図19に示すように、先にステア付爪200とリアグリップ510及びフロントグリップ540とをクランプボルト570により連結しておく方法でもよい。
【0107】
すなわち、図19に示す方法では、リアグリップ510及びフロントグリップ540をマスタージョー120の爪設置溝123に設置する前に、外部で、ステア付爪200とリアグリップ510及びフロントグリップ540とをクランプボルト570により連結しておく(図19(A))。次に、クランプボルト570により連結されたステア付爪200、リアグリップ510及びフロントグリップ540を、チャック本体110に設置されたマスタージョー120の爪設置溝123にチャック本体110の外周側から嵌挿して行き、ステア付爪200を、マスタージョー120上の所定の位置に配置する(図19(B))。
【0108】
このとき、クランプボルト570を締め付けておく必要はない。ステア付爪200等をマスタージョー120の爪設置溝123に嵌挿する際には、ステア付爪200の爪210の下面に形成されたセレーション面273,274とマスタージョー120の上面に形成されたセレーション面125,126とが干渉しない状態で、ステア付爪200をマスタージョー120の爪設置溝123に沿って移動させる必要がある。そのため、クランプボルト570は、ステア付爪200を上下方向(マスタージョー120の爪設置溝123の深さ方向)に移動可能な状態に緩められており、ステア付爪200が十分に上方向に引き上げられる状態にされている。
【0109】
リアグリップ510及びフロントグリップ540を、チャック本体110に設置されたマスタージョー120の爪設置溝123に挿入したら、クランプボルト570を締め付けていく。その結果、図7を参照して前述した実施形態と同様に、ステア付爪200はグリップ510,540に対して相対的に下方向に引き込まれ、ステア付爪200のセレーション面273,274のセレーションとマスタージョー120のセレーション面125,126のセレーションとが深く係合し、ステア付爪200の爪210の位置も高精度に位置決めされる。
【0110】
このような方法でステア付爪200をマスタージョー120に設置する場合には、ステア付爪200が最初からリアグリップ510及びフロントグリップ540に連結されているので、装着時にステア付爪200が脱落することがなく、より効率よく安全にステア付爪200に設置が可能となる。
【0111】
また、前述した実施形態においては、トッププレート310,610のトップカバー固定ボルト340がトップカバー360,660の固定ボルト受け380,680に遊合されることにより、トップカバー360,660の移動を可能にするとともに、必要に応じてトップカバー固定ボルト340をねじ込むことにより、トップカバー360,660を固定可能にしていた。しかしながら、マスタージョー120はがチャック本体110から取り除かれることは稀であり、特にトップカバー360,660を固定する必要がなければ、トッププレート310,610のトップカバー固定ボルト340とトップカバー360,660の固定ボルト受け380,680とを遊合させる構成(切粉・粉塵防止カバー固定手段)は無くてもよい。この構成がなくとも、切粉のチャック機構内への侵入を防ぐという本願発明の目的は、何ら影響なく達成できる。
【0112】
また、前述した実施形態においては、トッププレート310,610とトップカバー360,660とを離反する方向に力を付勢する付勢手段として、スプリングが配置されていた。しかし、このスプリングは、いわゆるコイルスプリングに限られるものではなく、板バネ等でもよく、トップカバー360,660をトッププレート310,610から離反する方向に付勢可能な手段であれば、任意の構成を用いてよい。
【0113】
また、前述した実施形態において、ステア付爪(200,200b)は、爪本体(202)とステア(240)とが一体化されたステア付爪本体(201,201b)に、横セレーションピース(271,271b)と縦セレーションピース(272,272b)を取り付ける構成であった。しかしながら、セレーション(273,274)が一体に形成された爪(210)にステア(240)と取り付ける構成も考えられ、そのような構成であってもよい。
【0114】
また、前述した実施形態においては本発明を旋盤に適用した例を説明したが、本発明を適用可能な工作機械は旋盤に限られない。例えば、フライス盤及びマシニングセンターのように、ワークをチャック機構に固定した状態で加工する任意の工作機械に本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0115】
1…旋盤(工作機械)
10…チャック機構
110…チャック本体
120,120b…マスタージョー
200,200b…ステア付爪
201,201b…ステア付爪本体
210…爪(生爪、ソフトジョー)
240…ステア
300…トップカバーセット(切粉・粉塵防止カバーセット)
310,610…トッププレート
320,620…マスタージョー進入用切り欠き
330,630…トップカバー案内凹部
332,632…タップ(切粉・粉塵防止カバー固定手段)
335,635…バネ座(スプリング孔)
339,639…ボルト穴
340…トップカバー固定ボルト(切粉・粉塵防止カバー固定手段)
650…トッププレート空気溝
651…中心円形孔
652…スプリング孔接続溝
360,660…トップカバー(切粉・粉塵防止カバー)
665…マスタージョー側部側延伸部
370,670…マスタージョーセレーション面嵌合部(第1の密接部)
375,675…グリップ当接部(第2の密接部)
380,680…固定ボルト受け(切粉・粉塵防止カバー固定手段)
385,685…バネ座(スプリング孔)
390…スプリング
690…トップカバー空気溝(切粉・粉塵防止カバー空気溝)
691…接続溝
692…延伸部空気溝
695…エアー噴出口
510、540…グリップ
図1
図2
図3
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