(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】状態監視システム
(51)【国際特許分類】
B01F 35/00 20220101AFI20220601BHJP
B01F 29/90 20220101ALI20220601BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20220601BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20220601BHJP
【FI】
B01F15/00 Z
B01F9/22
B01D19/00 102
G01J5/00 101Z
(21)【出願番号】P 2020507923
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012054
(87)【国際公開番号】W WO2019182105
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2018055360
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000145286
【氏名又は名称】株式会社写真化学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高岡 文彦
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 亮輔
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-018431(JP,A)
【文献】特開平04-058841(JP,A)
【文献】特開2015-136689(JP,A)
【文献】特開2002-116086(JP,A)
【文献】登録実用新案第3058116(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 29/00ー33/87
B01F 35/00ー35/95
B01D 19/00ー19/04
G01J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌・脱泡処理装置において被処理物を収容する容器を公転及び自転させながら行われる撹拌・脱泡処理の状態監視システムであって、
センサ部と解析部とを備え、
前記センサ部は、前記被処理物の温度を特定可能な温度センサと、前記温度センサの出力値を前記解析部に送信する第1の送受信部とを備え、
前記解析部は、第2の送受信部と、記録部と、判定部とを有し、
前記第2の送受信部は、前記第1の送受信部が送信する前記温度センサの出力値を受信し、
前記記録部は、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れ得る事象と、当該事象に応じて前記判定部が行う比較判定後処理の内容とが関連付けられた情報を記録しており、
前記判定部は、前記撹拌・脱泡処理中に、前記撹拌・脱泡処理前から前記記録部に記録されている
、前記温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化を示す前記情報と、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた
、前記温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化である特定の事象とを比較し、比較結果に応じた前記比較判定後処理を行う状態監視システム。
【請求項2】
前記解析部は、
前記第2の送受信部が受信した、前記撹拌・脱泡処理中での前記温度センサの出力値を記録する出力値記録処理と、
前記出力値記録処理によって記録した前記温度センサの出力値に現れる特定の事象と、当該事象に応じて前記判定部が行う前記比較判定後処理の内容とを、互いに関連付けられた状態で、前記情報として前記記録部に記録する情報記録処理と、を行う学習機能を有する請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項3】
前記解析部は、前記情報記録処理において、前記温度センサの出力値に現れる前記特定の事象を、前記温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる前記温度センサの出力値の時間に対する変化を示す数値情報で記録する請求項2に記載の状態監視システム。
【請求項4】
前記解析部は、前記情報記録処理において、前記温度センサの出力値に現れる前記特定の事象を、前記温度センサの出力値の時間に対する変化を示す形状情報で記録する請求項2に記載の状態監視システム。
【請求項5】
前記解析部は、前記出力値記録処理によって記録した前記温度センサの出力値を表示できる出力部と、操作者からの情報入力を受け付ける操作部とを有し、
前記解析部が前記情報記録処理において記録する前記特定の事象は、前記出力部に表示された前記温度センサの出力値のうち、前記操作者が前記操作部を用いて選択した領域での前記温度センサの出力値に現れる事象である請求項2~4の何れか一項に記載の状態監視システム。
【請求項6】
前記解析部は、情報を出力する出力部を有し、前記出力部は、前記判定部が行う前記比較判定後処理の内容を示す情報を出力する請求項1~5の何れか一項に記載の状態監視システム。
【請求項7】
前記比較判定後処理は、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた特定の事象に応じた前記被処理物の状態又は状態変化を判定する処理である請求項1~6の何れか一項に記載の状態監視システム。
【請求項8】
前記比較判定後処理は、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行う処理である請求項1~6の何れか一項に記載の状態監視システム。
【請求項9】
前記対処は、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた特定の事象に対応する前記被処理物の状態又は状態変化に応じて設定される請求項8に記載の状態監視システム。
【請求項10】
前記解析部は、情報を出力する出力部を有し、
前記対処は、前記出力部からアラームを出力することである請求項8又は9に記載の状態監視システム。
【請求項11】
前記対処は、前記撹拌・脱泡処理が正常に行われたことを記録すること、又は、前記撹拌・脱泡処理が正常に行われなかったことを記録すること、又は、前記撹拌・脱泡処理中に現れた前記温度センサの出力値の中で、前記記録部に記録されている前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れ得る事象を検出できなかったことを記録することである請求項8又は9に記載の状態監視システム。
【請求項12】
前記対処は、前記撹拌・脱泡処理装置に対する動作指令を決定することである請求項8又は9に記載の状態監視システム。
【請求項13】
前記温度センサは、前記被処理物から放射される放射光の強度を反映する出力値を出力する請求項1~12の何れか一項に記載の状態監視システム。
【請求項14】
前記温度センサは、前記被処理物から放射される放射光の強度を測定し、
前記情報は、設定値であり、
前記特定の事象は、前記温度センサの出力値の変化率であり、
前記判定部は、前記被処理物の前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値の前記変化率の大きさが前記設定値以上になった場合、前記被処理物に含まれる物質の気化が生じたと判定する請求項1に記載の状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌・脱泡処理装置において被処理物を収容する容器を公転及び自転させながら行われる撹拌・脱泡処理の状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撹拌・脱泡処理する被処理物の状態をリアルタイムで観察するためには、特許文献1に開示されているように、回転運動に同期した光源とカメラとを用いたストロボ撮影による観察方法が用いられている。このように、回転運動と同期して被処理物の状態を確認することで、撹拌・脱泡処理条件の最適化を支援することができる。
この観察方法は、処理過程に実際に発生している現象を画像データで確認し、問題がある場合には原因の推定ができるという点で優れており、特に製品開発に寄与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、撮影カメラを用いた観察方法は、撹拌・脱泡処理装置にカメラ撮影を可能にするための設備を設置する必要があり、既存の撹拌・脱泡処理装置を大幅に改造する必要がある。
また、画像データは定量化が困難であり、画像データから状況を理解するには、熟練した技術者の経験と知識が必要となる。
さらに、製品の品質管理をするためには、撮影された画像データを人的に監視する必要があるが、瞬時に被処理物の状態を判断し対処することは困難である。さらに、画像データを定量化するには高度な画像処理技術が必要であり、品質管理のため画像データを用いて自動で被処理物の状態を監視することは困難である。その結果、被処理物の状態に応じた何らかの処理をリアルタイムで行うことは困難であった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、撹拌・脱泡処理時の被処理物の状態を容易にリアルタイムで定量的に監視できる状態監視システムを提供する点にある。尚、本願明細書において、撹拌・脱泡という用語は、被処理物の撹拌、被処理物に含まれる泡を消失させるための脱泡、或いは、上記撹拌及び脱泡の両方、を意味する用語として記載している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る状態監視システムの特徴構成は、撹拌・脱泡処理装置において被処理物を収容する容器を公転及び自転させながら行われる撹拌・脱泡処理の状態監視システムであって、
センサ部と解析部とを備え、
前記センサ部は、前記被処理物の温度を特定可能な温度センサと、前記温度センサの出力値を前記解析部に送信する第1の送受信部とを備え、
前記解析部は、第2の送受信部と、記録部と、判定部とを有し、
前記第2の送受信部は、前記第1の送受信部が送信する前記温度センサの出力値を受信し、
前記記録部は、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れ得る事象と、当該事象に応じて前記判定部が行う比較判定後処理の内容とが関連付けられた情報を記録しており、
前記判定部は、前記撹拌・脱泡処理中に、前記撹拌・脱泡処理前から前記記録部に記録されている、前記温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化を示す前記情報と、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた、前記温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化である特定の事象とを比較し、比較結果に応じた前記比較判定後処理を行う点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、判定部は、撹拌・脱泡処理中に、撹拌・脱泡処理前から記録部に記録されている、温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化を示す前記情報と、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた、前記温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化である特定の事象とを比較する。つまり、判定部は、撹拌・脱泡処理中に温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化を示す情報を参照して、撹拌・脱泡処理時の被処理物の状態を容易にリアルタイムで定量的に監視できる。
加えて、判定部は、その比較結果に応じた比較判定後処理を行う。つまり、判定部は、被処理物の状態に応じた処理をリアルタイムで行うことができる。
従って、撹拌・脱泡処理時の被処理物の状態を容易にリアルタイムで定量的に監視し、その被処理物の状態に応じた処理を行うことができる状態監視システムを提供できる。
【0008】
本発明に係る状態監視システムの別の特徴構成は、前記解析部は、
前記第2の送受信部が受信した、前記撹拌・脱泡処理中での前記温度センサの出力値を記録する出力値記録処理と、
前記出力値記録処理によって記録した前記温度センサの出力値に現れる特定の事象と、当該事象に応じて前記判定部が行う前記比較判定後処理の内容とを、互いに関連付けられた状態で、前記情報として前記記録部に記録する情報記録処理と、を行う学習機能を有する点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、解析部は、第2の送受信部が受信した、撹拌・脱泡処理中での温度センサの出力値を記録する出力値記録処理と、出力値記録処理によって記録した温度センサの出力値に現れる特定の事象と、当該事象に応じて判定部が行う比較判定後処理の内容とを、互いに関連付けられた状態で、情報として記録部に記録する情報記録処理と、を行う学習機能を有する。つまり、記録部に記録されている情報を参照すれば、撹拌・脱泡処理時の被処理物の状態に応じて行われる比較判定後処理を決定できる。
【0010】
本発明に係る状態監視システムの更に別の特徴構成は、前記解析部は、前記情報記録処理において、前記温度センサの出力値に現れる前記特定の事象を、前記温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる前記温度センサの出力値の時間に対する変化を示す数値情報で記録する点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、解析部は、情報記録処理において、温度センサの出力値に現れる特定の事象を、温度センサの出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる温度センサの出力値の時間に対する変化を示す数値情報で記録できる。
【0012】
本発明に係る状態監視システムの更に別の特徴構成は、前記解析部は、前記情報記録処理において、前記温度センサの出力値に現れる前記特定の事象を、前記温度センサの出力値の時間に対する変化を示す形状情報で記録する点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、解析部は、情報記録処理において、温度センサの出力値に現れる特定の事象を、温度センサの出力値の時間に対する変化を示す形状情報で記録できる。
【0014】
本発明に係る状態監視システムの更に別の特徴構成は、前記解析部は、前記出力値記録処理によって記録した前記温度センサの出力値を表示できる出力部と、操作者からの情報入力を受け付ける操作部とを有し、
前記解析部が前記情報記録処理において記録する前記特定の事象は、前記出力部に表示された前記温度センサの出力値のうち、前記操作者が前記操作部を用いて選択した領域での前記温度センサの出力値に現れる事象である点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、出力部に表示された温度センサの出力値のうち、操作者が操作部を用いて選択した領域での温度センサの出力値に現れる事象を、解析部が情報記録処理において記録する特定の事象にすることができる。
【0016】
本発明に係る状態監視システムの更に別の特徴構成は、前記解析部は、情報を出力する出力部を有し、前記出力部は、前記判定部が行う前記比較判定後処理の内容を示す情報を出力する点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、例えば出力部が出力した情報を操作者が得た場合、その操作者は、どのような内容の比較判定後処理が行われるのかを知ることができる。
【0018】
本発明に係る状態監視システムの更に別の特徴構成は、前記比較判定後処理は、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた特定の事象に応じた前記被処理物の状態又は状態変化を判定する処理である点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、判定部は、比較判定後処理として、撹拌・脱泡処理中に温度センサの出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を判定できる。
【0020】
本発明に係る状態監視システムの更に別の特徴構成は、前記比較判定後処理は、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行う処理である点にある。ここで、前記対処は、前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れた特定の事象に対応する前記被処理物の状態又は状態変化に応じて設定されていてもよい。
加えて、前記解析部は、情報を出力する出力部を有し、前記対処は、前記出力部からアラームを出力することであってもよい。或いは、前記対処は、前記撹拌・脱泡処理が正常に行われたことを記録すること、又は、前記撹拌・脱泡処理が正常に行われなかったことを記録すること、又は、前記撹拌・脱泡処理中に現れた前記温度センサの出力値の中で、前記記録部に記録されている前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値に現れ得る事象を検出できなかったことを記録することであってもよい。また或いは、前記対処は、前記撹拌・脱泡処理装置に対する動作指令を決定することであってもよい。
【0021】
上記特徴構成によれば、判定部は、比較判定後処理として、撹拌・脱泡処理中に温度センサの出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行うことができる。
【0022】
本発明に係る状態監視システムの更に別の特徴構成は、前記温度センサは、前記被処理物から放射される放射光の強度を反映する出力値を出力する点にある。
【0023】
上記特徴構成によれば、温度センサは、被処理物から放射される放射光の強度を反映する出力値を出力できる。
【0024】
本発明に係る状態監視システムの更に別の特徴構成は、前記温度センサは、前記被処理物から放射される放射光の強度を測定し、
前記情報は、設定値であり、
前記特定の事象は、前記温度センサの出力値の変化率であり、
前記判定部は、前記被処理物の前記撹拌・脱泡処理中に前記温度センサの出力値の前記変化率の大きさが前記設定値以上になった場合、前記被処理物に含まれる物質の気化が生じたと判定する点にある。
【0025】
上記特徴構成によれば、判定部は、被処理物に含まれる物質の気化が生じたか否かをリアルタイムで定量的に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】は、温度センサ部を備えた撹拌・脱泡処理装置の例を示す構成図である。
【
図3】は、状態監視システム及び撹拌・脱泡処理装置の主要構成図である。
【
図4】は、ケース1の温度測定値及び圧力の時間推移を示すグラフである。
【
図5】は、ケース1のサンプルA及びBの表面写真である。
【
図6】は、ケース2の温度測定値及び圧力の時間推移を示すグラフである。
【
図7】は、ケース3の温度測定値及び圧力の時間推移を示すグラフである。
【
図9】は、ケース4の温度測定値の時間推移を示すグラフである。
【
図10】は、ケース5の温度測定値及び圧力の時間推移を示すグラフである。
【
図11】は、ケース5のサンプルの表面写真である。
【
図12】は、ケース6の温度測定値の時間推移を示すグラフである。
【
図16】は、温度測定値の時間推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は、いずれも本発明の要旨の認定において限定的な解釈を与えるものではない。また、同一又は同種の部材については同じ参照符号を付して、説明を省略することがある。
【0028】
(装置構成)
以下、撹拌・脱泡状態をリアルタイムでモニタする状態監視システム1の構成について説明する。尚、本願明細書において、撹拌・脱泡という用語は、被処理物の撹拌、被処理物に含まれる泡を消失させるための脱泡、或いは、上記撹拌及び脱泡の両方、を意味する用語として記載している。つまり、撹拌・脱泡処理装置は、被処理物を撹拌する撹拌処理を行う目的で使用でき、被処理物に含まれる泡を消失させるための脱泡処理を行う目的で使用でき、或いは、上記撹拌処理及び脱泡処理の両方を行う目的で使用できる。
【0029】
図1は、撹拌・脱泡処理の状態監視システム1の構成を示す。
センサ部2は、被処理物の温度を特定可能な温度センサ3(例えば赤外線温度センサ)、電源4(例えば電池)及び通信部5を備える。温度センサ3は、被処理物の温度を特定可能な様々なセンサを用いて実現できる。例えば、被処理物から放射される放射光(赤外線)の強度を測定し、その測定値に基づいて被処理物の温度を特定するタイプの放射温度計などの非接触式の温度センサや、熱電対等を用いて被処理物の温度を特定する接触式の温度センサなどを用いて実現できる。尚、
図1では、温度センサ3のことを放射温度計3と記載している。通信部5は、記録部6、時計部7、温度センサ3の出力値を解析部9に送信する送受信部8(本発明の「第1の送受信部」の一例)を備える。
以下の説明では、温度センサ3は、被処理物を収容する容器20の上方、例えば蓋に設置され、被処理物から放射される放射光の強度により、被処理物の温度を直接測定する放射温度計3を用いた場合を説明する。この意味において、本発明における「温度センサ3」とは、赤外光など、物質からの放射光に関する物理量を計測するものを意味する。
【0030】
通信部5は、記録部6に記録された測定命令に従って、所定の頻度、例えば1秒間隔で、所定の期間、例えば撹拌・脱泡処理の開始時から終了時まで、時計部7の計測機能により指定された時刻に、温度センサ3の温度測定値、即ち、温度センサ3の出力値を読み取り、無線通信規格、例えばIEEE 802.15.4等に則り、送受信部8から温度測定値及び測定時刻を出力(送信)する。
電源4は、温度センサ3及び通信部5に電力を供給する。
【0031】
解析部9は、送受信部10(本発明の「第2の送受信部」の一例)、制御部11、出力部12、操作部13、判別部14(本発明の「判定部」の一例)及び記録部15を備える。解析部9は、例えばコンピュータ装置などを用いて実現できる。判別部14は、そのコンピュータ装置が備える演算処理装置を用いて実現でき、以下に説明するような様々な処理を行うことができる。
解析部9は、送受信部10によって、センサ部2の送受信部8が送信する温度センサ3の出力値、即ち、センサ部2から送信された温度測定値及び測定時刻を受信することができる。そのため、撹拌・脱泡処理中にセンサ部2と解析部9との間で、送受信が可能であり、リアルタイムで温度測定値をもとに状態の監視が可能である。
【0032】
操作部13は、解析部9と操作者とのインターフェイスとなり、操作者からの命令、情報を入力する。例えば被処理物の構成材料(後述する被処理物情報など)の入力、処理条件(後述する処理条件情報など)の入力が可能であり、入力された情報は、制御部11によって記録部15に記録(登録)することができる。
【0033】
出力部12は、文字情報や光の点灯、消灯、点滅などにより情報を出力できる表示部や、音声情報を出力できるスピーカ等を用いて実現できる。
【0034】
制御部11は、送受信部10から取得した温度測定値を、測定時刻とともに記録部15に記録する。また、出力部12に温度測定値及び測定時刻を表示することも可能である。
判別部14は、記録部15に記録された温度測定値及び測定時刻を読み込み、記録部15に記録(登録)された判別条件(後述する対処)にしたがい、被処理物の状態を判別し、記録部15に記録されている対処の内容に従って、判別された状態に対応した対処、例えばアラームの表示、撹拌・脱泡処理の停止命令の出力、正常終了の履歴の保存等を実行する。
後述するように、個々のケースに応じて、温度測定値の時間推移の特徴が記録部15に記録(登録)されており、その特徴により被処理物の状態判別ができる。
【0035】
図2は、被処理物の状態をリアルタイムで観察するため、センサ部2を撹拌・脱泡処理装置100に取り付けた一実施形態を示す。
被処理物を収容する容器20の蓋部に温度センサ3(赤外線センサ)を備えたセンサ部2を設置し、温度センサ3の出力値をリアルタイムで送信し、解析部9は受信した出力値をデータとしての記録部15に保存する。
【0036】
以下、状態監視システム1を適用する撹拌・脱泡処理装置100の例について、その動作原理を説明する。
公転歯車101を有する回転ドラム102は、軸受を介して公転軸103(固定軸)に対して回転自在に支持されている。モータ104による回転運動が、公転歯車101を介して回転ドラム102に伝達され、回転ドラム102は、公転軸103を軸に回転する。
【0037】
公転テーブル105は、回転ドラム102に連結(固定)されており、回転ドラム102とともに回転する。
容器ホルダー106は、回転軸107(自転軸)を有し、回転軸107は、軸受を介して公転テーブル105に回転自在に支持されている。
そのため、容器ホルダー106は、公転テーブル105の回転により、公転軸103を中心に回転(公転)する。
【0038】
容器ホルダー106は、自転歯車108を有している。自転歯車108は、軸受を介して公転テーブル105に回転自在に支持されている中間歯車109と噛合する。さらに中間歯車109は、太陽歯車110と噛合する。
太陽歯車110は、回転ドラム102の外側に配置されており、回転ドラム102に対して、軸受を介して回転自在に支持されている。
【0039】
さらに太陽歯車110は、歯車111に噛合する。歯車111には、互いに噛合する歯車112及び歯車113を介して、パウダーブレーキ等の制動装置114の制動力が伝達される。
【0040】
太陽歯車110は、制動装置114により加えられる制動力が無い(制動力がゼロの)場合、回転ドラム102に従動して、回転する。
【0041】
制動装置114の制動力が歯車111を介して太陽歯車110に伝達された場合、太陽歯車110の回転速度が回転ドラム102の回転速度に比べて減少し、太陽歯車110の回転速度と回転ドラム102に連結されている公転テーブル105の回転速度との間に差が生じる。その結果、太陽歯車110に対して、中間歯車109が相対的に回転する。中間歯車109は、自転歯車108と噛合するため、自転歯車108が回転し、容器ホルダー106は、回転軸107を軸に回転(自転)する。
【0042】
なお、上記撹拌・脱泡処理装置100は、1つの駆動モータ104により、容器ホルダー106を公転及び自転させる構成例を示したが、撹拌・脱泡処理装置の構成はこの
図2の例に限定するものではない。
例えば、公転用駆動モータと自転用駆動モータを別々に備え、容器ホルダー106を公転及び自転させてもよく、他の構成であってもよい。センサ部2は、容器20に設置することができるため、既存の様々な撹拌・脱泡処理装置に適用可能であるからである。
さらに、センサ部2と解析部9とは無線通信によってデータの送受信を行うため、本状態監視システム1は、既存の様々な撹拌・脱泡処理装置に適用可能である。
【0043】
図2においては、2つの容器20を搭載している。このように2つ以上の複数の容器20を同時に撹拌・脱泡処理を行い、同時に複数の容器20に収容されている被処理物の温度測定を行うことが可能である。
複数の容器20、すなわち複数のセンサ部2と単一の解析部9とは、上記通信規格に則り、無線通信で接続可能である。
1回の通信で送信するデータ量が少ないため、上記通信規格の他に様々な通信規格、例えばIEEE 802.15.1を利用することができる。
【0044】
センサ部2の温度センサ3は、角度θで決定される測定視野を有する。測定視野は、容器20の底部で定まる範囲内に設定されており、測定視野内の被処理物の温度を測定することができる。従って、温度センサ3を用いて温度測定を行うと、測定視野の範囲内の温度変化を温度測定値に反映することができる。
【0045】
さらに温度センサ3の出力値は、測定対象物から放射される放射光の強度を反映するものであるため、温度センサ3の出力値からは、被処理物の温度を特定可能である。加えて、温度センサ3の出力値を参照して被処理物の状態等の他の情報も特定できる。例えば、温度センサ3の出力値に反映される放射光の強度は測定対象物の放射率に依存するため、温度が同一であっても測定対象の放射率が異なれば、温度センサ3は異なる温度測定値(出力値)を出力する。従って、温度センサ3の出力値は、単に温度を測定するに留まらず、測定対象物の種類、状態に依存した放射光強度を検出することになる。温度センサ3は、熱型、量子型のいずれも使用できるが、被処理物に依存した特定の放射光を検出する場合、光の波長依存性の強い量子型が好適に使用できる。
【0046】
図3は、状態監視システム1及び撹拌・脱泡処理装置100の主要構成図である。
図3に示すように、撹拌・脱泡処理装置100には、被処理物を収容する容器20が設置され、その容器20の蓋部にセンサ部2が設置される。撹拌・脱泡処理装置100は、
図2に示したモータ104及び制動装置114などに加えて、制御装置30と、記録部31と、入力受付部32と、出力部33と、送受信部34とを備える。制御装置30は、モータ104及び制動装置114の動作を制御して、容器20を公転させ、自転させる。記録部31は、撹拌・脱泡処理装置100で取り扱われる情報を記録する。入力受付部32は、撹拌・脱泡処理装置100の操作者が、撹拌・脱泡処理の開始指令、停止指令、処理条件の入力などを行う場合に利用するボタンなどを用いて実現できる。出力部33は、文字情報を出力できる表示装置や、音声情報を出力できるスピーカや、点灯、消灯、点滅など光情報を出力できる1以上のランプなどの光学装置等を用いて実現できる。送受信部34は、有線又は無線で外部の装置との情報通信を行う装置を用いて実現できる。本実施形態では、撹拌・脱泡処理装置100の送受信部34と解析部9の送受信部10との接続は、有線接続及び無線接続の何れでも構わない。
【0047】
詳細は後述するが、本実施形態の状態監視システム1において、解析部9の記録部15は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れ得る事象と、その事象に応じて判別部14が行う比較判定後処理の内容とが関連付けられた情報を記録している。例えば、操作者が、1種類の被処理物に対して毎回同じ処理条件で撹拌・脱泡処理を行う場合には、解析部9の記録部15に記憶されている情報は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れ得る事象と、その事象に応じて判別部14が行う比較判定後処理の内容とが関連付けられた情報で充分である。そして、判別部14は、記録部15に記録されている情報と、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象とを比較し、比較結果に応じた比較判定後処理を行う。
【0048】
或いは、本実施形態の状態監視システム1において、解析部9の記録部15は、撹拌・脱泡処理における被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報と、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れ得る事象と、その事象に応じて判別部14が行う比較判定後処理の内容とが関連付けられた情報を記録している。例えば、操作者が、複数種類の被処理物に対して複数種類の処理条件で撹拌・脱泡処理を行う場合には、撹拌・脱泡処理における被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報を併せて記録しておく必要がある。そして、判別部14は、記録部15に記録されている情報の中から、撹拌・脱泡処理の実行に先立って設定されているその撹拌・脱泡処理における撹拌・脱泡処理情報に対応する情報を抽出する抽出処理を行い、その抽出処理によって記録部15から抽出した情報と、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象とを比較し、比較結果に応じた比較判定後処理を行う。
【0049】
上述した状態監視システム1において、比較判定後処理は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を判定する処理である。
【0050】
或いは、比較判定後処理は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行う処理である。この対処は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に対応する被処理物の状態又は状態変化に応じて設定されていてもよい。例えば、対処は、出力部12からアラームを出力することである。或いは、対処は、撹拌・脱泡処理が正常に行われたことを記録すること、又は、撹拌・脱泡処理が正常に行われなかったことを記録すること、又は、撹拌・脱泡処理中に現れた温度センサ3の出力値の中で、記録部15に記録されている撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れ得る事象を検出できなかったことを記録することである。
【0051】
また或いは、対処は、撹拌・脱泡処理装置100に対する動作指令を決定することである。例えば、対処として決定される動作指令として以下の例を挙げることができる。更に、撹拌・脱泡処理装置100に対する動作指令を記録するという対処を行ってもよい。
・容器20の公転の回転速度を速くすること又は遅くすること又は維持すること。
・容器20の自転の回転速度を速くすること又は遅くすること又は維持すること又は自転を停止すること(即ち、自転を停止し、公転を継続すること)。
・容器20の回転を停止すること。
・容器20の内部の真空度を上げること又は下げること又は維持すること。
・容器20の内部を大気圧に戻すこと。
・被処理物を加熱すること又は冷却すること。
・容器20の内部を窒素やアルゴンなどのガスで雰囲気を置換すること。
・撹拌・脱泡処理の次のステップに移行すること。
・次の対処に移行すること。
【0052】
(状態監視方法)
以下、本状態監視システム1による、被処理物の状態監視方法について詳細に説明する。
まず、温度計測値が状態変化を監視できる理由について説明し、その後、実際の測定事例に基づき具体的に説明する。
【0053】
被処理物の最も単純な温度変化は、容器20の回転運動によって定常的に発生した摩擦熱が被処理物に流入するとともに、被処理物の温度(T)と周囲温度(Ta)との差に依存した熱伝導によって熱が流出すると仮定することにより算出される。被処理物の温度(T(t))は、T(t)=Ta+A(1-exp(-αt)) (式1)と表すことができる。ここで、A、αは定数、tは時間である。
【0054】
この最も単純なモデルに対する温度変化のずれ(乖離)は、被処理物の状態の単純モデルからのずれを反映すると考えられる。
そこで、このような温度変化のずれを生み出す原因について考察した結果、以下の要因が存在すると考えられる。
【0055】
(熱の流入)
処理時に発生する熱は、摩擦熱の他に被処理物の化学反応により生じることがある。
摩擦熱は、容器20と被処理物との摩擦熱の他に、被処理物内部での摩擦熱がある。
例えば、被処理物が液体と固体から構成される場合、液体と固体、固体と固体、液体と液体との摩擦熱の発生が起こりうる。
液体と固体(例えば粉体)から構成される場合の摩擦熱の寄与は、材料の配合比率だけでなく、撹拌・脱泡処理時の混合状態に依存する。
液体と液体との摩擦熱は、液体の粘性により流れの接線方向に働く剪断応力により発生する。また、液体の粘性は、液体と液体、液体と固体との混合状態だけでなく、液体と気体(気泡)との混合状態にも依存する。
被処理物が液体と固体から構成される場合であっても、均一な混合状態となる前には、固体と固体の摩擦が発生する。また、固体と容器20側壁との摩擦も生じる。
被処理物に依っては、化学反応を生ずることがあり、化学反応により熱が発生する。化学反応は、摩擦熱により活性化エネルギーを得て進行する場合もあり、ある温度に到達すると、温度上昇率が増加する場合もある。
【0056】
(熱の流出)
熱の流出は、被処理物から容器20や大気等の他の物質への熱伝導や、被処理物が気化するときの気化熱によっても生じる。
熱伝導による熱の流出は、被処理物の熱伝導率に依存するが、被処理物が異なる熱伝導率の物質を含む場合、混合状態や気泡の混入により熱伝導率が異なる場合、熱伝導率の不均一性(例えば容器20中央と周辺における熱伝導率の不均一)も熱伝導に影響を与える。
なお、被処理物が異なる熱伝導率の物質を含む場合は、異なる伝導率の液体と液体、液体と固体、液体と気体(気泡)の組合わせが考えられる。
【0057】
そこで、様々な被処理物に対して系統的に研究を行った結果、温度測定値の時間推移の特性は、被処理物の様々な構成、撹拌・脱泡条件に依存しており、特有のパターンが存在し、その温度測定値の時間的推移(時間依存性)を実際に測定することにより、被処理物の状態を定量的にリアルタイムに監視できることを見出した。
また、被処理物情報及び処理情報の組合わせ(以下、簡単に被処理物情報及び処理情報と記載することがある。また、処理情報のことを、処理条件情報と記載することもある。)と温度測定値の時間推移とを関連付けて記録(登録)し、さらに、被処理物情報及び処理情報に対する解析結果及び対処をデータベース化することで、撹拌・脱泡処理の最適条件の決定、製品の品質の維持向上及び管理に効果的に利用することができる。
【0058】
以下、被処理物情報、処理情報(撹拌・脱泡処理での処理条件についての情報)と解析結果及び対処の関係について、典型的なケース(事例)の例を挙げて、具体的に説明する。
【0059】
(ケース1)
(1)被処理物情報:
シリコーン300,000mm
2/s、総重量100g
(2)処理条件情報:
常圧及び減圧下(設定圧力0.1kPa)
公転回転速度1340rpm、自転回転速度 1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図4に常圧下で撹拌・脱泡処理(単に処理と称す)を行ったサンプル(サンプルA、図中点線)と減圧下で処理を行ったサンプル(サンプルB、図中実線)の温度測定値の時間変化を比較して示す。また、図中一点鎖線Pは、処理時の圧力を示す。
なお、グラフにおいて横軸の時間の原点(0)は、測定開始時刻であり、容器20の回転開始時刻とは必ずしも一致しない。他のグラフも同様である。
【0060】
常圧下で処理を行ったサンプルAは、時間120秒で測定温度の時間推移の特性が変化することが分かる。
一方、減圧下で処理を行ったサンプルBには、そのような変化点(即ち、温度センサ3の出力値の時間推移の特性が変化する箇所)は見られない。
そこで、被処理物が、処理時間に依存してどのような状態変化が生じているかを調査するため、ストロボ撮影による画像データにより確認した。
【0061】
図5は、サンプルA及びBを、各時間においてストロボ撮影した表面写真を比較して示す。
サンプルAに関しては、時間40秒において微細な気泡が確認され、さらに時間120秒において微細な気泡が増加している。時間140秒においては、微細な気泡が全体に拡がり、全体が白濁して見える。
一方、サンプルBに関しては、時間40秒においては、わずかに微細な気泡が確認されるもののサンプルAと比較し明らかに気泡は少なく、時間120秒及び時間140秒においては、気泡は確認されない。
【0062】
一般に液体を撹拌すると気泡が混入する。サンプルAについて、120秒付近まで見受けられる渦状の気泡は流動性が高い。この状態では、気泡が変形し表面張力による変形抵抗が消失することで粘度を低下させる。そうしたレオロジー特性により、サンプルAの流動性が高まる。液体の中で、気泡が多い領域、少ない領域が存在すると、それぞれの領域の粘度が異なる。そのため、それらの領域の境界部では、せん断力が高くなり、摩擦熱が増大し、温度測定値の時間に対する上昇率(以下、単に温度上昇率と称す)が高くなる。
一方、気泡が液体全体に飽和すると、上記のような場所に依存した粘度の違いが低減し、せん断力が弱まり、液内部での摩擦熱が低減し、温度上昇率が低くなる。
【0063】
温度測定値の変化は、気泡による粘度の変化、流動性の変化、不均一性というような被処理物の状態又は状態変化を反映していることが理解できる。従って、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を判定するという比較判定後処理を行うことができる。
【0064】
一方、
図4に示すように、サンプルBに関しては、サンプルAと比較し温度上昇率が低い。シリコーンは飽和蒸気圧が非常に低く、気化熱による冷却効果は無視できることから、温度上昇率が低いのは、せん断力が低く、摩擦熱の発生が少ないことを示唆する。
実際、
図5からサンプルBに関しては、気泡の混入が抑制されており、温度測定値の時間推移の挙動と整合する。
【0065】
撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れ得る事象、例えば、温度測定値の変化点の時間や温度上昇率等を、被処理物情報、処理条件情報と関連付けて、記録部15に、解析結果及び対処の情報の一部として登録しておき、被処理物を処理する場合、登録された温度測定値の変化点の時間や温度上昇率を用いて、各事象が現れたか否かを判断するために適宜設定される値(本実施形態では、閾値、設定値などと記載することもある)との比較判定等により、以下に記載するように種々の対処が可能である。つまり、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行うという比較判定後処理を行うことができる。
【0066】
例えば、温度上昇率をモニタし、その温度上昇率が閾値より大きい場合、気泡の混入による温度上昇が大きいと判断し、出力部12からアラームを出力する等の対処ができる。
なお、温度上昇率は、所定の時間での平均の温度上昇率(例えば、過去5秒間の時間と温度測定値の相関関係の線型近似式の傾き)により計算することができる。閾値は、例えば
図4から得られた温度上昇率を基準にして、余裕を持たせて設定することができる。
また、温度上昇率をモニタし、その温度上昇率が閾値以下であれば、撹拌・脱泡処理の終了時点まで、温度測定値を継続して取得し、正常終了したことを記録部15に記録するという対処ができる。
なお、時間ではなく温度測定値、即ち、撹拌・脱泡処理を、温度センサ3の出力値により制御することで、物理的状態の変化に基づいた制御を実行することも可能である。
【0067】
さらに、粘度の均一性を検出できるため、均一な起泡処理への応用も可能であることが分かる。この場合、気泡が混入し温度上昇率が一旦増加し(第1の閾値以上となり)、その後、気泡が均一になり温度上昇率が低下する(第2の閾値以下となる)ことが判別(検出)された場合、均一な起泡処理が完了したと判断し、撹拌・脱泡処理を停止させるという撹拌・脱泡処理装置100に対する動作指令を決定して、撹拌・脱泡処理装置100に出力するか、撹拌・脱泡処理が正常に行われたことを記録部15に記録するという対処ができる。それに対して、温度上昇率が一旦増加し(第1の閾値以上となり)、その後、気泡が均一になり温度上昇率が低下する(第2の閾値以下となる)という特定の事象が判別(検出)されなかった場合には、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に現れた温度センサ3の出力値の中で、記録部15に記録されている撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れ得る上記特定の事象を検出できなかったことを記録部15に記録してもよい。
なお、均一な乳化処理についても、同様の判別と対処が可能である。
【0068】
これらの対処は、被処理物情報及び処理条件情報の組合わせ、例えば「シリコーン300,000mm2/s、総重量100g」及び「常圧。公転回転速度1340rpm、自転回転速度 1340rpm(公転方向と逆回転)」の組合わせや、「シリコーン300,000mm2/s、総重量100g」及び「減圧下(設定圧力0.1kPa)。公転回転速度1340rpm、自転回転速度1340rpm(公転方向と逆回転)」の組合わせに関連付けて登録しておく。一旦被処理物情報及び処理条件情報に対する解析結果及び対処を記録部15に登録しておけば、例えば製品を量産する際に、状態監視システム1は、リアルタイムで取得した温度測定値の時間変化と、被処理物情報及び処理条件情報に関連付けて登録しておいた対処の内容に従って、適切な対処を実行することが可能となる。このことは、以下の各ケースにおいても同様である。
【0069】
図5のように画像データから判断する場合、操作者が常時画像を確認し、瞬間的に対処を判断する必要があるが現実的に不可能である。
上記のように温度センサ3の温度測定値を用いることにより、容易に定量データを得ることができ、登録された対処の内容を自動で実行することが可能となる。
【0070】
このように画像データを用いた解析を開発段階で行い、温度センサ3の温度測定値に対して対処内容を予め登録することで、量産段階で、自動で対処を行うことができようになる。
また、対処内容が確立しているため、撹拌・脱泡手法の技術を開発部門から製造部門への技術移管も容易になる。さらに、コンピュータを用いた対処を行うことにより、操作者に依存した判定の差がなく、安定して品質を維持、管理することができる。
【0071】
更に、解析部9の出力部12から、判別部14が行う比較判定後処理の内容を示す情報を出力してもよい。つまり、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化についての判定結果や、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じて行われる対処の内容についての情報を、出力部12から出力させてもよい。その結果、例えば出力部12が出力した情報を操作者が得た場合、その操作者は、上述した判定結果や対処の内容などの情報を知ることができる。
この場合、出力部12は、それらの情報を、音声情報や、文字情報や、光の点灯、消灯、点滅などにより出力できる。また、出力部12は、それらの情報を記録メディアに記録し、操作者は、それらの情報を後に参照し、また通信手段等を経由して受信することもできる。
【0072】
(ケース2)
(1)被処理物情報:
球状黒鉛(30g)とIPA(10g)との混合物。
溶媒として揮発性の高いIPA(イソプロピルアルコール)を使用。
(2)処理条件情報:
常圧及び減圧下(設定圧力3kPa)。
公転回転速度1340rpm、自転回転速度1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図6に常圧(大気圧)下で処理を行ったサンプル(サンプルA、図中点線)と減圧下で処理を行ったサンプル(サンプルB、図中実線)の温度測定値の変化を比較して示す。また、図中一点鎖線Pは、処理時の圧力を示す。
減圧下で処理を行ったサンプルBは、時間25秒付近でピークが確認された。IPA内部の気体が、気泡となり一度に放出され、流動性が大きく変化したためである。気泡が一度に発生すると体積が膨張し、被対象物の表面が盛り上がり、温度センサ3との距離が変化するとともに、気泡によって放射率も変化する。温度センサ3は、このような変化を敏感に検知することができる。
この結果より、揮発性の高い溶媒を用い減圧下で処理を行う場合、処理開始直後に急激に状態が変化することが分かる。
【0073】
その後、サンプルBは、気化熱によりサンプルAより温度は低く推移し、時間150秒から温度上昇率が増大する。時間150秒では、IPAが蒸発することで、球状黒鉛同士の摩擦熱の寄与が増大したためである。また、温度上昇率が設定値以上になった後で、温度低下率も設定値以上になっている。
以上より、温度センサ3による温度測定値の変化から、溶媒から気泡が発生する状態、溶媒が気化により消失する状態(固体間の摩擦の発生状況)というような被処理物の状態又は状態変化がわかる。また、経過時間とともに気化熱が生じている状態(溶媒の気化の状態)がわかる。このように、判別部14は、被処理物の撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値の変化率の大きさが設定値以上になった場合、被処理物に含まれる物質の気化が生じたと判定できる。尚、気化には、液相から気相への相転移現象である蒸発と、固相から気相への相転移現象である昇華とが含まれる。
【0074】
被処理物情報及び処理条件に対して、上記結果に基づいた時間(又は温度測定値)を関連付けて、記録部15に、解析結果及び対処の情報の一部として登録しておき、その登録した時間(又は温度測定値)により、撹拌・脱泡処理を制御するという対処が可能となる。つまり、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行うという比較判定後処理を行うことができる。例えば、判別部14は、処理時間150秒以下で処理を完了させるよう、撹拌・脱泡処理装置100に対する動作指令を決定し、その動作指令を送受信部10から撹拌・脱泡処理装置100へ送信する。そして、撹拌・脱泡処理装置100では、送受信部34がその動作指令を受信し、制御装置30がその動作指令に応じてモータ104及び制動装置114などの動作を制御する。
また、上記温度測定値の変化から、排気速度(減圧速度)の制御の重要性が理解できる。排気速度は、真空ポンプの回転速度や、排気ラインの途中に設けた大気の流入口のバルブ開度等により調整できる。
【0075】
このように被処理物情報に対応して、撹拌・脱泡処理装置100の排気システム(図示せず)に対して、排気速度を制御するという撹拌・脱泡処理装置100に対する動作指令を決定して、撹拌・脱泡処理装置100に出力するという対処も可能となる。
減圧下で処理により、25秒付近のピークの検出がなく、その後の温度上昇率の変化が無い場合、撹拌・脱泡処理が正常に行われたという履歴を記録部15に記録するという対処も可能である。
【0076】
上記のように、温度センサ3を用いることにより、1回の実験により、被処理物の状態の変化点となる時間が複数あること、及びその複数の変化点となる時間を測定できる。
従来の手法では、20~180秒の範囲で20秒毎の9個のサンプルを準備し、その処理結果から状態が変化する時間は、20秒から40秒の間、140秒から160秒の間に存在すると推定することになる。
すなわち、本発明による状態監視システム1を用いることにより、サンプル数が9分の1に低減でき、さらに正確な時間が同定できるため、開発段階においても開発コスト、工期を低減できるという効果もある。
【0077】
更に、上記ケース1の場合と同様に、解析部9の出力部12から、判別部14が行う比較判定後処理の内容を示す情報を出力してもよい。つまり、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化についての判定結果や、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じて行われる対処の内容についての情報を、出力部12から出力させてもよい。
【0078】
(ケース3)
(1)被処理物情報:
膠(にかわ)40g+水40g
(2)処理条件情報:
減圧下(設定圧力5kPa)。
公転回転速度1340rpm、自転回転速度297rpm(公転方向と逆回転)(二次撹拌)
(3)解析結果及び対処:
図7に、減圧下で処理を行ったサンプル(サンプルA、図中実線)の温度測定値の変化を示す。また、図中一点鎖線Pは、処理時の圧力を示す。
なお、本サンプルは、予め一次撹拌(常圧下、公転回転速度1340rpm、自転回転速度1340rpm(公転方向と逆回転))処理により乳化している。
【0079】
図7より、処理開始直後から30秒付近まで、温度測定値が増減し、乱れていることが分かる。また、140秒付近で温度測定値に変化点(約3℃の低下)が観察される。
記録部15には、温度測定値の時間推移だけでなく、解析結果及び対処の情報の一部として、上記変化点の時間を登録する。
【0080】
図8(a)及び
図8(b)に、ストロボ撮影による、時間30秒及び140秒でのサンプルの表面写真を示す。
図8(a)より、時間30秒では、容器20の側壁面にサンプルの一部が付着していることが分かる。すなわち、一次撹拌にて多量の気泡が混入しているサンプルを、減圧下で二次撹拌したため、激しく突沸したことが分かる。
30秒付近では、温度センサ3は、放射率の異なる膠と容器20からの放射光を検出しており、さらに気泡の影響により膠の放射率が変化し、膠からの放射光が変動している状態を検出しているものであると理解できる。
このように乱れた温度測定値は、被対象物の状態が大きく変動していることを温度センサ3が検知する能力を有することを示すものである。この能力は、各物質が有する放射率という物性値の違い(変化)を、放射光の強度の違い(変化)として温度センサ3が検出できるという特性に依るものである。また、温度センサ3は応答性が高いため、このような短時間での状態の変化を敏感に検出することができる。
【0081】
また、
図8(b)より、時間140秒では、容器20とサンプルが接する付近からゲル化が進んでいることが確認される。
このことから、140秒付近での温度測定値の変化点は、ゲル化が進むことで被処理物の流動性が低下し、ずり応力の低下により摩擦熱の発生が低下し、さらに気化熱により温度が低下したというような被処理物の状態又は状態変化を反映していると考えられる。従って、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を判定するという比較判定後処理を行うことができる。
【0082】
以上の結果から、減圧開始時の突沸を防止するためには減圧速度(真空ポンプによる排気速度)を最適化する必要があることが分かる。そのため、温度測定値の変動量、例えば極大値と極小値の差分をパラメータとして、定量的に減圧速度の最適化をすることができる。それにより、減圧速度の条件決定が容易となり、また過剰に減圧速度を低減し、処理時間を不必要に長くすることもなくなる。
また、被処理物を処理している過程において、上記変動量の値が所定の閾値を超えた場合、突沸が発生したと判別しアラームを出力すること、又は、撹拌・脱泡処理が正常に行われなかったという履歴を記録部15に記録し、閾値以下であれば撹拌・脱泡処理完了後、撹拌・脱泡処理が正常に行われたことを表示又は履歴として記録部15に記録するという対処も可能である。つまり、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行うという比較判定後処理を行うことができる。
また、ゲル化が発生する時間が分かるため、処理時間をゲル化が発生する時間より短く設定することができる。例えば、操作者が、処理条件としてゲル化が発生する時間より長い時間設定を行った場合、出力部12がアラームを出力するとう対処も可能である。
また、温度測定値の変化点(温度測定値の低下)が検出された場合、ゲル化が発生したと判別し、アラームを出力又は履歴として記録部15に記録してもよい。
【0083】
品質管理ができるように、製品のロット番号と処理履歴(温度測定値、アラームの有無)とを対応させて記録装置に登録するという対処ができる。このように製品のロット番号と処理履歴による品質管理は、他のケースにおいても同様に可能である。
【0084】
更に、上述した場合と同様に、解析部9の出力部12から、判別部14が行う比較判定後処理の内容を示す情報を出力してもよい。つまり、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化についての判定結果や、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じて行われる対処の内容についての情報を、出力部12から出力させてもよい。
【0085】
(ケース4)
(1)被処理物情報:
エポキシ樹脂 主剤100g+硬化剤20g
(2)処理条件情報:
減圧下(設定圧力0.1kPa)。
公転回転速度1340rpm、自転回転速度1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図9は、本サンプルの温度測定値の時間推移を示す。温度測定値は、150秒付近まで徐々に非線形に上昇し、150秒付近から450秒付近まで線形に上昇し、その後非線形に急増していることが分かる。
記録部15には、温度測定値の時間推移だけでなく、解析結果及び対処の情報の一部として、温度上昇率が変わる時間、及び温度測定値の上昇率を登録することができる。
【0086】
このような温度測定値の挙動は、撹拌により温度が上昇し、75℃付近からエポキシ樹脂の化学反応(架橋反応)が活発になり、反応熱により急激に温度が上昇したことに基因する。さらにエポキシ樹脂の架橋が進行した箇所ではエポキシ樹脂の粘度が上がり、粘度の不均一が発生し、せん断応力により摩擦熱が増大したことも温度測定値の上昇の要因となっていると考えられる。
なお、
図9には示されていないが、架橋反応が終了しエポキシ樹脂が固まると摩擦熱も低減する傾向がある。
【0087】
このように温度測定値の変化点から、新規な樹脂であっても1回の測定で、樹脂の架橋反応が開始する時間(又は温度)を容易に測定することができる。つまり、温度測定値は被処理物の状態又は状態変化を判定していると言える。従って、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を判定するという比較判定後処理を行うことができる。そのため、樹脂に対応した撹拌処理時間(温度)の上限を登録し、処理時間をその上限以下に設定することができる。
また、樹脂を処理する過程において、温度測定値が上限の温度を超えた場合、状態監視システム1の解析部9は、アラームを出力し、アラームが発生したことを処理履歴として記録部15に記録し、上限以下であれば撹拌・脱泡処理が正常に行われたことを処理履歴として記録部15に記録するという対処を実行することができる。また温度測定値が上限の温度を超えた場合、処理を停止させるという撹拌・脱泡処理装置100に対する動作指令を決定して、撹拌・脱泡処理装置100に出力するという対処も可能である。つまり、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行うという比較判定後処理を行うことができる。
【0088】
更に、上述した場合と同様に、解析部9の出力部12から、判別部14が行う比較判定後処理の内容を示す情報を出力してもよい。つまり、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化についての判定結果や、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じて行われる対処の内容についての情報を、出力部12から出力させてもよい。
【0089】
(ケース5)
(1)被処理物情報:
アルミナ 70g+シリコーン 10,000mm
2/s 30g、総重量100g
(2)処理条件情報:
減圧下(設定圧力0.1kPa)。
公転回転速度1340rpm、自転回転速度1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図10は、本サンプルの温度測定値及び圧力の時間推移を示す。
温度測定値は、処理開始後、非線型に増加し、時間44秒付近で変化点が見られ、その後100秒付近までほぼ線型に増加した後、上昇率が緩やかに低減しながらも増加している。記録部15には、温度測定値の時間推移だけでなく、解析結果及び対処の情報の一部として、変化点の時間と温度測定値の上昇率も登録しておく。
【0090】
図11(a)、
図11(b)及び
図11(c)に、ストロボ撮影による、処理前、時間40秒及び60秒でのサンプルの表面写真を示す。時間40秒では、少なくとも表面にダマが生じており、均一に混合されていないことが分かる。一方処理時間60秒では、ダマがなく均一に混合されたスラリーとなっていることが分かる。
不均一な状態の領域では流動性が乱れ、せん断応力が生じ、摩擦熱が大きくなるため、温度測定値の上昇率が大きくなり、その後均一に混合されると、温度測定値はなだらかなカーブを描きながら上昇する。このように、温度測定値は被処理物の状態又は状態変化を判定していると言える。従って、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を判定するという比較判定後処理を行うことができる。
【0091】
アルミナとシリコーンから均質なスラリーを得るためには、このようなダマが生じている時間以上に撹拌する必要がある。温度測定値の推移から撹拌不良状態となる時間を登録しておき、その時間以上に処理時間を設定するという対処により、均質なスラリーを得る。すなわち最小処理時間を決定することができる。例えば、処理条件として、上記の変化点を検出後、さらに50秒間処理を行うという対処(即ち、撹拌・脱泡処理装置100に対する動作指令の決定)も可能となる。つまり、判別部14は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行うという比較判定後処理を行うことができる。
また、上記変化点となる時間が、予め設定した閾値、例えば60秒より長い場合、ダマが生じている状態が許容範囲以上に長いと判定し、アラームを出力し、処理履歴として記録部15に記録することもできる。
【0092】
また、温度測定値の変動量の実績値から閾値(例えば、実績値の最大値)を設定しておき、品質管理を行うため、製品ロット処理時に温度測定値の変動量が閾値を超えた場合にはアラームを出力し、閾値以下の場合には撹拌・脱泡処理が正常に行われたことをロット処理履歴として記録部15に記録するという対処を実行することができる。
なお、温度測定値の変動量は、例えば、44秒付近の温度測定値の変化点における変動量で評価し、例えば、30秒から60秒の間の温度測定値の最大と最小の差分に依って容易に得ることができる。
【0093】
更に、上述した場合と同様に、解析部9の出力部12から、判別部14が行う比較判定後処理の内容を示す情報を出力してもよい。つまり、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化についての判定結果や、温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じて行われる対処の内容についての情報を、出力部12から出力させてもよい。
【0094】
(ケース6)
(1)被処理物情報:
サンプルA:アルミナ 70g+シリコーン 10,000mm
2/s 30g
サンプルB:アルミナ 30g+シリコーン 10,000mm
2/s 70g
(2)処理条件情報:
減圧下(設定圧力0.1kPa)。
公転回転速度1340rpm、自転回転速度1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図12は、サンプルA及びサンプルBの温度測定値の時間推移を示す。サンプルAはサンプルBよりアルミナの配合率が高く、材料の配合の違いにより温度測定値の上昇率が変わることが分かる。例えば、サンプルAの温度測定値は、時間55秒でピークが確認されるが、サンプルBの温度測定値にはこのピークは確認されず、アルミナの配合比率によって温度測定値の時間推移が変化することが分かる。
記録部15には、温度測定値の時間推移だけでなく、このピーク値(時間及び温度測定値)も解析結果及び対処の情報の一部として登録することができる。
【0095】
ピークが発生する原因は、サンプルAはアルミナの配合比率が高く、ケース5と同様に、ダマが発生しているが、サンプルBはアルミナの配合比率が低くダマの発生が抑えられているためであると考えられる。
また、アルミナの量が多いサンプルAの方が、温度測定値が高く、アルミナの配合比率が高い方が摩擦による熱の発生が大きいことが理解できる。
【0096】
このように、アルミナの配合比率の違いが、温度測定値の時間推移から検知することができる。つまり、記録部15に、撹拌・脱泡処理中に現れ得る温度センサ3の出力値の時間に対する変化を記録しておけば、判別部14は、記録部15に記録されている撹拌・脱泡処理中に現れ得る温度センサ3の出力値の時間に対する変化と、撹拌・脱泡処理中に現れた温度センサ3の出力値の時間に対する変化との類似性を判定できる。
そして、温度測定値を監視することで、材料の配合比率の間違いを検知することができ、アラームの表示といった対処を実行することができる。
すなわち、解析部9は、品質管理が可能となるように、温度測定値の変化点の有無や、特定の時間、例えば80秒での温度測定値の上昇率を、製品のロット番号と関連付けて記録するという対処を実行する。
なお、特定の時間は、被処理物情報及び処理条件情報に関連付けられたデータベースに登録されている変化点の時間(55秒)より長い時間を設定することができる。
【0097】
更に、解析部9の出力部12から、判別部14が判定した類似性の結果を示す情報を出力してもよい。
【0098】
その他:
図2に示すように、撹拌・脱泡処理装置100が、複数の容器20を有する場合、それぞれの温度測定値の時間推移を比較し、その乖離の有無を判定して、登録された対処を実行することも可能である。
例えば、被処理物が同じ構成のサンプル、例えば、同じ配合比率のシリコーンとアルミナを、異なる複数の容器20において、撹拌・脱泡処理装置100において同時に処理を行った場合、それぞれの温度測定値の差分をリアルタイムで監視し、差分が所定の閾値より大きい場合、アラームを出力し、アラーム情報を温度測定値とともに処理履歴として記録部15に記録するという対処を行い、差分が所定の閾値以下の場合、正常終了したことを処理履歴として記録部15に記録するという対処を行うことができる。
【0099】
また、複数の容器20の1つに、リファレンスサンプル、例えばアルミナを含まないシリコーン、を収容し、他の容器20に別の構成の評価用サンプル、例えばアルミナを所定の配合比率で含むシリコーン、を収容し、撹拌・脱泡処理装置100において同時に処理し、温度測定を行い、それぞれの温度測定値の時間変化及びリファレンスサンプルに対する評価用サンプルの差分を処理履歴として記録部15に記録し、場合によっては、その差分が所定の閾値を超えた場合、アラームを出力し、処理履歴にアラーム情報とともに温度測定値を記録部15に記録するという対処を行い、差分が所定の閾値以下の場合、正常終了したことを処理履歴として記録部15に記録するという対処を行うことができる。
リファレンスサンプルとして温度測定値の変化点が無いサンプルを用い、評価用サンプルとの差分を検出することで、温度測定値の変化点がより一層検知し易くなる。
【0100】
この場合、解析結果及び対処の情報に、複数の容器20で処理を行う場合の情報を登録すればよく、同じ被処理物である場合と異なる被処理物である場合の上記対処を登録しておけばよい。解析部9の制御部11は、複数の被処理物の処理を行うか否かを判別し、単独の被処理物の対処と複数の被処理物の対処とのいずれか一方又は両方の対処の実行を行うことができ、操作者は、処理開始前に対処の選択を行い、制御部11に選択した対処の実行を命令すればよい。
【0101】
同時に処理を行う複数の被処理物を比較することにより、処理条件の変動の影響を受けること無く、被処理物間の品質の管理が可能となる。
【0102】
(変化点の自動検出)
温度測定値をリアルタイムで監視する際に、温度測定値は定量データであるため変化点を自動で検出することが可能であり、自動検出は、各被処理条件情報に従って最適な方法を選択できる。
例えば、過去数点の温度測定値の時間推移から平均的な温度測定値の上昇率を求めておき、上昇率の変動量が閾値より大きくなった時間を変化点であるとすることができる。その他の方法として、例えば、
(i)温度センサ3から取得済みの温度測定値のうち、過去数点(3点以上)の温度測定値の微分(差分)の平均値を計算し、傾きを求め、その変化で判定する。
(ii)過去数点(3点以上)の温度測定値に対する近似直線を最小自乗法で算出し、傾きを求め、その変化で判定する。
(iii)PID制御のIのように漸近する直線との差の面積を算出して、その変化で判定する。
(iv)カオス系で使用するローレンツプロットを利用し、ある点から次の点までの距離の変化で判定する。
といった方法なども考えられる。
【0103】
(状態監視システム1の活用)
以上のように、温度測定値の時間推移は、被処理物の状態の推移を反映し、被処理物の材料、配合比率に依存することが判明した。
従って、状態監視システム1は被処理物情報及び処理条件情報に応じて温度測定値の時間推移の情報が取得でき、製品開発時及び製品生産(量産)時において、有効に活用することができる。
【0104】
(1)製品開発段階
製品開発段階や撹拌・脱泡処理条件を決定するための最適化作業の段階において、以下に示す手順で状態監視システム1を活用することができる。
S1:被処理物情報及び処理条件情報の記録
解析部9の操作部13は、操作者によって、例えば入力端末から入力された被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報を取得し、解析部9の制御部11は、取得した撹拌・脱泡処理情報を記録部15へ記録(登録)する。
尚、同じ一つの被処理物に対して、同じ一つの処理条件で撹拌・脱泡処理を行う場合には、撹拌・脱泡処理情報を記録部15へ記録(登録)しなくてもよい。
【0105】
S2:測定命令の送信
操作者は、撹拌・脱泡処理の開始を撹拌・脱泡処理装置100に命令するとともに、状態監視システム1に操作部13を介して温度測定の開始を命令する。温度測定開始命令を取得した解析部9の制御部11は、温度測定開始命令に従い、送受信部10を介してセンサ部2に測定命令を送信する。
温度測定開始命令は、測定の開始時刻だけで無く、測定の頻度、測定期間を指示することも可能である。
【0106】
このとき、解析部9は、例えば上記の通信規格等の公知の通信規格に従い、センサ部2に温度測定開始命令を送信するが、容器20が複数存在し、複数のセンサ部2を有する場合、各センサ部2を識別する識別番号とともに温度測定開始命令を送信することで、各容器20において、異なる頻度等の測定条件で温度測定を行うことも可能である。
なお、状態監視システム1は、撹拌・脱泡処理装置100を介して、操作者による撹拌・脱泡処理の開始命令を取得してもよく、逆に状態監視システム1から撹拌・脱泡処理装置100に操作者による撹拌・脱泡処理の開始命令を出力してもよい。
【0107】
S3:温度測定の実行
センサ部2の通信部5は、解析部9からの測定開始命令を送受信部8によって受信し、時計部7の計時機能を用いて、所定の頻度で所定の期間、温度センサ3の温度測定値を取得し、測定時間と共に、記録部6に温度測定値を記録(保存)する。
【0108】
S4:温度測定値の記録
センサ部2は、記録部6に記録された温度測定値を送受信部8によって送信する。
なお、センサ部2の記録部6は温度測定値を一時的に記録し、送信後に、温度測定値を削除してもよい。
解析部9は、温度測定値を送受信部10により受信し、制御部11は、温度測定値と測定時間を記録部15に記録する。つまり、解析部9の制御部11は、送受信部10が受信した、撹拌・脱泡処理中での温度センサ3の出力値を記録する出力値記録処理を行う。このとき、温度測定値と測定時間を、既に記録されている被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報に関連付けて、記録部15に記録してもよい。
【0109】
なお、複数の容器20によって被処理物を処理する場合、それぞれの容器20の被処理物を識別する情報をさらに関連付けて記録部15に、データベースとして記録(登録)する。例えば、複数の容器20に、リファレンスサンプルと評価用サンプルとを収容する場合、配合の異なる複数のサンプルを収容する場合、再現性を評価するために同一の構成のサンプルを収容する場合、それぞれのサンプルを識別して、温度測定値を記録しておくことができる。
【0110】
この場合、複数の容器20に設置された各センサ部2には、予め識別番号(識別名)が割り当てられており、センサ部2の記録部6に記録されている。一方、解析部9の記録部15には、各センサ部2に割り当てられた識別番号が記録されており、各センサ部2に対応して、温度測定値を記録することができる。そのため、複数の容器20に収容されたサンプル毎に、被処理物情報、処理条件情報及び温度測定値を関連付けて記録することができる。
【0111】
S5:解析
解析部9の制御部11は、上記出力値記録処理によって記録した温度センサ3の出力値に現れる特定の事象と、その事象に応じて判別部14が行う比較判定後処理の内容とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録する情報記録処理を行う。或いは、解析部9の制御部11は、情報記録処理において、出力値記録処理によって記録した温度センサ3の出力値に現れる特定の事象と、その事象に応じて判別部14が行う比較判定後処理の内容と、撹拌・脱泡処理における被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録する。
【0112】
具体的に説明すると、操作者は、解析部9の記録部15に記録された温度測定値を出力部12に表示することで、各被処理物情報及び処理条件情報に対応した温度測定値の時間推移の特性を確認及び解析することができる。また、これらの温度測定値のデータは、デジタルデータとして出力することも可能であり、外部のコンピュータ等で解析することができる。以下に、
図13~
図15を参照して、この解析処理の具体例を説明する。
【0113】
図13~
図15に示すように、出力部12に、温度センサ3の出力値の時間に対する変化のグラフが表示される。操作者は、解析部9の操作部13を用いて、温度センサ3の出力値に現れる特定の事象を選択する。例えば、
図13の場合であれば操作者は「事象1」に対応する領域を選択し、
図14の場合であれば操作者は「事象1」及び「事象2」に対応する領域を選択し、
図15の場合であれば「事象1」に対応する領域を選択している。このような事象に対応する領域が選択されると、解析部9の制御部11は、操作者によって選択された領域での温度センサ3の出力値に現れる特定の事象を記録部15に記録する。例えば、制御部11は、温度センサ3の出力値に現れる特定の事象を数値情報で記録する。或いは、制御部11は、温度センサ3の出力値に現れる特定の事象を曲線モデルで記録する。
【0114】
温度センサ3の出力値に現れる特定の事象を数値情報で記録する場合、解析部9の制御部11は、「事象1」に含まれる温度センサ3の出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化を数値情報で記録部15に記録する。例えば、
図13に示す例であれば、制御部11は、「事象1」を「過去5秒間の増加率が、所定の第1閾値以上になった後、所定の第2閾値以下になるという変化が、時刻120秒から時刻140秒の間で現れた」という情報で記録できる。
図14に示す例であれば、制御部11は、「事象1」を「変化率(増加率)が3℃/s以上」という情報で記録でき、「事象2」を「過去10秒間の平均温度が1.5℃以内に収まった状態になった後、過去10秒間の平均温度が1.5℃よりも大きく低下」という情報で記録できる。
図15に示す例であれば、制御部11は、「事象1」を「増加率が線形で推移した後、増加率が設定値以上増加した」という情報で記録できる。
【0115】
温度センサ3の出力値に現れる特定の事象を曲線モデルで記録する場合、解析部9の制御部11は、選択された事象に対応する領域に含まれる温度センサ3の出力値の近似曲線(曲線の形状)を決定する。例えば、
図13に示す例であれば、制御部11は、「事象1」を「曲線モデル1」の形状情報で記録できる。
図14に示す例であれば、制御部11は、「事象1」を「曲線モデル1」という形状情報で記録でき、「事象2」を「曲線モデル2」という形状情報で記録できる。
図15に示す例であれば、制御部11は、「事象1」を「曲線モデル1」という形状情報で記録できる。
【0116】
〔温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を記録する〕
操作者は、解析部9の操作部13を用いて、温度センサ3の出力値に現れる特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を入力する。そして、解析部9は、上記出力値記録処理によって記録した温度センサ3の出力値に現れる特定の事象と、その事象に応じた被処理物の状態又は状態変化とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録する情報記録処理を行う。例えば、
図13に示す例であれば、操作者は、「事象1」に応じた被処理物の状態又は状態変化として、「気泡が不均一に分布した状態から均一に分布した状態へと変化した」という情報を入力する。そして、解析部9の制御部11は、「事象1」と、操作者から受け付けた被処理物の状態又は状態変化についての情報とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録する情報記録処理を行う。
図14に示す例であれば、操作者は、「事象1」に応じた被処理物の状態又は状態変化として、「被処理物が気化した」という情報を入力する。そして、解析部9の制御部11は、「事象1」と、操作者から受け付けた被処理物の状態又は状態変化についての情報とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録する情報記録処理を行う。また、操作者は、「事象2」に応じた被処理物の状態又は状態変化として、「ゲル化が収束した」という情報を入力する。そして、解析部9の制御部11は、「事象2」と、操作者から受け付けた被処理物の状態又は状態変化についての情報とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録する情報記録処理を行う。
図15に示す例であれば、操作者は、「事象1」に応じた被処理物の状態又は状態変化として、「架橋反応が活発化した」という情報を入力する。そして、解析部9の制御部11は、「事象1」と、操作者から受け付けた被処理物の状態又は状態変化についての情報とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録する情報記録処理を行う。
【0117】
尚、解析部9の制御部11は、情報記録処理において、出力値記録処理によって記録した温度センサ3の出力値に現れる特定の事象と、その事象に応じて判別部14が行う比較判定後処理の内容と、撹拌・脱泡処理における被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録することもできる。
【0118】
〔温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処を記録する〕
操作者は、解析部9の操作部13を用いて、温度センサ3の出力値に現れる特定の事象に応じた対処を入力して記録部15に記録させる。この場合、解析部9の制御部11は、温度センサ3の出力値に現れる特定の事象と、その事象に応じた対処と、撹拌・脱泡処理における被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報とを、互いに関連付けられた状態で記録部15に記録する情報記録処理を行う。この情報記録処理の例を示すと、操作者は、変化点等の解析結果と、各被処理物情報及び処理条件情報に対応した対処を、解析部9の操作部13を用いて、解析部9に入力する。解析部9の制御部11は、入力された解析結果及び対処、例えば、変化点の記録、閾値の設定、アラーム表示等を被処理物情報及び処理条件情報に関連付けて、解析部9の記録部15に記録(登録)する。
【0119】
なお、対処は、上記各ケースに記載したように、各被処理物情報及び処理条件情報に応じて異なる。そのため、このように被処理物情報及び処理条件情報と対処の情報を蓄積し、テーブルで管理することにより、状態監視システム1に学習機能を持たせることができる。
【0120】
(2)製品処理段階
S1:データの読み込み
操作者は、状態監視システム1に、撹拌・脱泡処理における被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報、例えば被処理物情報及び処理条件情報を入力する。
状態監視システム1は、解析部9の記録部15に記憶されたデータベースから、入力された被処理物情報及び処理条件情報に対応した解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報の有無を判断し、解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報がある場合、温度測定を開始し、解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報が無い場合、操作者に解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報が無いことを出力部12を介して警告し、測定及び撹拌・脱泡処理を留保することも可能である。つまり、判別部14は、記録部15に記録されている情報の中から、撹拌・脱泡処理の実行に先立って設定されているその撹拌・脱泡処理における被処理物情報及び処理条件情報のうちの少なくとも一方を含む撹拌・脱泡処理情報に対応する情報を抽出する抽出処理を行う。
【0121】
尚、操作者が、状態監視システム1に被処理物情報及び処理条件情報を入力する必要が無い場合もある。例えば、操作者が、1種類の被処理物に対して毎回同じ処理条件で撹拌・脱泡処理を行う場合には、解析部9の記録部15に記憶されている情報は、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れ得る事象と、その事象に応じて判別部14が行う比較判定後処理の内容とが関連付けられた情報で充分であり、それらの情報と併せて被処理物情報及び処理条件情報を記録部15に記録する必要はない。よって、このような場合には上記抽出処理は行われない。
【0122】
S2:測定
状態監視システム1の解析部9はセンサ部2に指令を送信する。センサ部2は、温度センサ3により測定された被処理物の温度測定値及び時間を、所定の頻度で所定の期間、容器20に設置されたセンサ部2の識別番号とともに解析部9に送信する。
【0123】
S3:比較判定後処理の実行
状態監視システム1の解析部9は、センサ部2から受信した温度測定値及び時間を記録する。
解析部9の制御部11は、記録部15に記録(登録)されている被処理物情報及び処理条件情報に対応した解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報を読み込む。判別部14は、温度測定値及び時間と読み込んだ解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報に従い、対処の要否又は被処理物の状態又は状態変化の判定の要否を判別する。例えば、判別部14は、記録部15に記録されている情報と、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象とを比較し、比較結果に応じた比較判定後処理を行う。
【0124】
記録部15に記録されている情報と、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象との比較は、温度センサ3の出力値に現れ得る特定の事象に対応する数値情報又は曲線モデルの形状情報と、実際の温度センサ3の出力値との比較によって行われる。前者の場合、判別部14は、撹拌・脱泡処理中での温度センサ3の出力値の増加率、減少率、増加率の変化、及び、減少率の変化のうちの少なくとも一つで特定できる出力値の時間に対する変化を解析して、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象が、記録部15に記録されている事象の数値情報と一致するか否かを判定する。後者の場合、判別部14は、撹拌・脱泡処理中での温度センサ3の出力値の時間に対する変化の曲線形状が、記録部15に記録されている事象の曲線モデルと一致するか否かを判定する。そして、判別部14は、一致する事象が存在する場合には、その事象に関連付けられた比較判定後処理を行う。尚、判別部14は、一致する事象が存在しない場合には、上述したように記録部15に記録されている撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れ得る事象を検出できなかったことを記録するなどの対処を行うことができる。
【0125】
判別部14は、比較判定後処理として、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた被処理物の状態又は状態変化を判定する処理、或いは、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処を行う処理を行う。例えば、変化点の時間及び温度、温度測定値の上昇率や変動量と閾値との比較等に基づいて個別に判別し、アラームの表示、撹拌・脱泡処理の停止、正常終了の記録等の対処を実行する。
【0126】
以上のように、状態監視システム1は、開発段階(条件の最適化段階)において、被処理物情報及び処理条件情報をデータベースとして登録し、被処理物情報及び処理条件情報に関連づけて温度測定値の時間推移(時間依存性)を登録し、さらに被処理物情報及び処理条件情報に関連づけて解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報をデータベースとして登録する。
この開発段階においては、従来困難であった撹拌・脱泡処理のリアルタイムの状態変化の定量的測定を行うことができ、熟練を要する撹拌・脱泡条件の最適化にかかるコスト及び労力が低減できる。
【0127】
また、状態監視システム1は、製品処理段階(量産段階)においては、被処理物の温度測定値の時間推移(時間依存性)を取得し、被処理物情報及び処理条件情報に対応した、登録された解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報を読み込み、取得した温度測定値の時間推移(時間依存性)と読み込んだ解析結果、並びに、対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報から、個々のケースに応じた判別を行い、必要な比較判定後処理を実行する。
この製品処理段階においては、撹拌・脱泡処理中の被処理物の状態をリアルタイムで定量的に監視することができ、予め登録された対処又は被処理物の状態又は状態変化についての情報に基づいて、適格な撹拌・脱泡状態の判別、及び撹拌・脱泡処理の制御が可能となり、製造された製品の品質の維持向上及び管理を容易にする。
【0128】
次に、
図16を参照して、本実施形態の状態監視システム1の利点を説明する。
図16は、温度測定値の時間推移を示すグラフであり、そのグラフ自体は
図15で示したグラフと同じである。
図16に示したグラフにおいて、500秒付近に現れている「増加率が線形で推移した後、増加率が設定値以上増加した」という事象に着目する。この事象は、
図15で示した「事象1」に対応する。上述したように、この事象は「架橋反応が活発化した」という被処理物の状態又は状態変化に応じて設定されている。つまり、対処が、特定の事象に対応する被処理物の状態又は状態変化に応じて設定されている。そのため、例1に示す撹拌・脱泡処理であれば時刻t1付近でその事象が発生したと判定され、例2に示す撹拌・脱泡処理であれば時刻t2付近でその事象が発生したと判定される。そして、「架橋反応が活発化した」ことに応じて、例えば撹拌・脱泡処理が終了されるなどの対処が行われる。
【0129】
それに対する比較例として、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処が、特定の事象に対応する被処理物の状態又は状態変化に応じて設定されていない場合、即ち、例えば単なる温度値で設定されている場合を考える。例えば、被処理物の状態又は状態変化とは無関係に、温度T1に達した場合に、撹拌・脱泡処理が終了されるなどの対処が行われる場合を考える。その場合、例1に示す撹拌・脱泡処理及び例2に示す撹拌・脱泡処理の両方とも、温度T1に到達した時点でその事象が発生したと判定され、例えば撹拌・脱泡処理が終了されるなどの対処が行われる。尚、例2に示す撹拌・脱泡処理であれば、被処理物の状態が「架橋反応が活発化した」と判定されるのは、温度T1(時刻t1)付近とは異なる温度T2(時刻t2)付近である。つまり、例2に示す撹拌・脱泡処理の場合、温度T1に到達した時点でその事象が発生したと判定されて撹拌・脱泡処理が終了されると、未だ架橋反応が活発化していないにも関わらず、不適切なタイミングで撹拌・脱泡処理が終了されてしまうという問題が発生する。
以上のように、本実施形態では、対処が、特定の事象に対応する被処理物の状態又は状態変化に応じて設定されていることで、被処理物の状態又は状態変化から見て適切なタイミングで対処を行うことができる。
【0130】
次に、本発明の他の特徴について説明する。
撹拌・脱泡処理の状態監視システムは、解析部及びセンサ部を備え、前記解析部は、記録部、判別部を有し、前記センサ部は、温度センサを有し、前記センサ部は、前記温度センサによる、撹拌・脱泡処理の被処理物の温度測定値を前記解析部に送信し、前記記録部は、
被処理物情報及び処理情報のデータベース並びに前記被処理物情報及び前記処理情報に関連付けられた対処のデータベースが登録されており、前記判別部は、送信された前記温度測定値に応じて、前記記録部に登録された前記対処を実行することを特徴とする。
【0131】
温度センサを用いて取得される温度測定値は、被処理物及び処理条件に依存し、被処理物の状態を反映する。そのため、温度測定値を用いて、定量的に被処理物の状態を監視することができる。
また、被処理物及び処理条件に関連付けられた対処が予めデータベース化されているため、本監視システムは、取得された温度測定値に基づいて、登録された対処を自動で実行することができる。
従って、本監視システムによれば、定量的に製品の品質管理を行うことができ、品質の維持向上に寄与する。さらに、製品の開発段階で得られた知見、ノウハウを、操作者の能力に依存することなく、製品の量産段階に移管し、十分に活用することも可能となる。
【0132】
また、撹拌・脱泡処理の状態監視システムは、
前記被処理物情報は、
被処理物の配合比率又は性状の変化の情報を含むことを特徴とする。
【0133】
被処理物情報として、このような情報を含むことで、撹拌・脱泡処理時の粘度の変化による摩擦熱の影響を考慮に入れた、被処理物に対応した対処を実行することが可能となる。
【0134】
また、撹拌・脱泡処理の状態監視システムは、
前記対処は、前記温度測定値の時間推移の変化点での前記温度測定値の変動量と閾値との比較により判定することを含むことを特徴とする。
【0135】
このように変化点での温度測定値の変動量と所定の閾値と比較することで、異常を検出することができ、製品の品質管理に寄与することができる。
【0136】
また、撹拌・脱泡処理の状態監視システムは、前記センサ部は、撹拌・脱泡処理を行う被処理物を収容する容器の上方に取り付けられ、前記センサ部は、第1の送受信部をさらに有し、前記解析部は、第2の送受信部をさらに有し、前記第1の送受信部は無線通信によって前記温度測定値を前記解析部に送信し、前記第2の送受信部は、送信された前記温度測定値を受信することを特徴とする。
【0137】
このような構成とすることで、被処理物の表面の温度を測定することができ、さらに本状態監視システムを既存の撹拌・脱泡処理装置を改造することなく、容易に適用することができる。なお、容器の上方とは、例えば容器の蓋部、容器ホルダー或いは冶具等により容器の蓋部や容器ホルダー以外の箇所に取り付ける場合が考えられる。すなわち、上方であることが重要であり、後述の実施形態で示す蓋部には限られない。
【0138】
撹拌・脱泡方法は、
所定の処理条件で回転運動を付与された容器に収容された被処理物の上方から、温度センサにより前記被処理物の温度を所定の頻度で所定の期間測定し、温度測定値の時間変化を取得し、
前記温度測定値の時間変化に基づいて、前記被処理物及び前記処理条件の組合わせに関連付けられて予め登録された対処を実行することを含むことを特徴とする。
【0139】
上記撹拌・脱泡方法は、具体的には、例えば、前記の撹拌・脱泡処理の状態監視システムによって、少なくとも撹拌・脱泡処理の開始時から終了時までの期間、前記被処理物の前記温度測定値を取得し、前記対処を実行する構成であってもよい。
【0140】
このような撹拌・脱泡方法とすることで、撹拌・脱泡処理中の被処理物の状態を監視でき、処理された被処理物の品質の維持向上及び管理が容易になる。
【0141】
また、撹拌・脱泡方法は、複数の前記被処理物のそれぞれに対し、複数の前記温度センサにより取得された複数の前記温度測定値を比較し、登録された前記対処を実行することを特徴とする。
【0142】
このような撹拌・脱泡方法とすることで、同時に処理を行う複数の被処理物を比較することにより、処理条件の変動の影響を受けること無く、被処理物間の品質の管理が可能となる。
【0143】
<別実施形態>
<1>
上記実施形態では、情報監視システムの構成について具体例を挙げて説明したが、その構成は適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態において、センサ部2と解析部9との間の情報通信、及び、撹拌・脱泡処理装置100と解析部9との間の情報通信は、無線LANルーターなどの他の中継装置を介して行われてもよい。
解析部9が撹拌・脱泡処理装置100と一体化されていてもよい。即ち、解析部9の機能及び機器が、撹拌・脱泡処理装置100が備えている機能や機器を用いて実現されてもよい。
また、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に対応する被処理物の状態又は状態変化や、撹拌・脱泡処理中に温度センサ3の出力値に現れた特定の事象に応じた対処について、幾つかの具体例を挙げたが、それらは例示目的で記載したものであり、本発明はそれらの例に限定されない。例えば、対処として、判別部14は、出力部12から所定の情報を出力することで、操作者に対して撹拌・脱泡処理装置100の動作変更を促す処理を行ってもよい。
【0144】
<2>
上記実施形態では、解析部9の出力部12から、判別部14が行う比較判定後処理の内容を示す情報を出力する例を説明したが、上述した例の他にも様々な出力形態が有る。例えば、出力部12は、撹拌・脱泡処理装置100に対して送受信部10から情報を送信させて、その撹拌・脱泡処理装置100の出力部33において情報の出力を行わせてもよい。或いは、出力部12は、操作者が利用する携帯型通信機器などの他の機器に対して送受信部10から情報を送信させて、その機器において操作者への情報の出力を行わせてもよい。その場合、出力部12は、その機器に電子メールやメッセージ(プッシュ通知)などの情報を送信して、操作者へ情報を伝達することもできる。更に、操作者が利用する携帯型通信機器において振動を発生させることで、操作者への情報の伝達を行わせてもよい。
【0145】
<3>
上記実施形態では、撹拌・脱泡処理装置100が操作者から受け付けた指令に応じて動作する場合を説明したが、例えば撹拌・脱泡処理装置100の制御装置30が、操作者からの指令によらず、適切な動作を自動で判定して実行してもよい。
【0146】
<4>
上記実施形態(別実施形態を含む)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、撹拌・脱泡処理時の被処理物の状態を容易にリアルタイムで定量的に監視できる状態監視システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0148】
1 状態監視システム
2 センサ部
3 温度センサ
8 第1の送受信部
9 解析部
10 第2の送受信部
12 出力部
14 判別部
15 記録部
20 容器
100 撹拌・脱泡処理装置