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特許7082462アンカー補強構造、アンカー補強方法およびアンカー補強部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】アンカー補強構造、アンカー補強方法およびアンカー補強部材
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/00 20060101AFI20220601BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20220601BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20220601BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20220601BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20220601BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
E02D27/00 D
E02D27/00 E
E04B1/24 R
E04B1/41 502A
E04H9/02 351
E04G23/02 D
E04B1/58 511Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017157589
(22)【出願日】2017-08-17
(65)【公開番号】P2019035271
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】316001674
【氏名又は名称】センクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀宣
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 克哉
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-024367(JP,A)
【文献】特開昭50-064143(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105297796(CN,A)
【文献】特開平11-158884(JP,A)
【文献】特開平02-070826(JP,A)
【文献】特開2008-280715(JP,A)
【文献】特開2004-190254(JP,A)
【文献】特開2004-225411(JP,A)
【文献】特開2009-221754(JP,A)
【文献】特表2002-515096(JP,A)
【文献】特開2018-003304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00
E04B 1/24
E04B 1/41
E04H 9/02
E04G 23/02
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカーの補強構造であって、
露出柱脚のベースプレートを固定する既設のアンカーボルトと、
前記アンカーボルトの上部に接合された補強部材と、
を具備し、
前記補強部材は、軸部材と、前記軸部材を内部に収容可能な固定部材と、を具備し、
前記軸部材と前記固定部材の固定面との間に隙間を空けて、前記軸部材の一方の端部が前記アンカーボルトと接合され、
前記固定部材は、一方の端部に、前記軸部材を挿通可能な孔を有し、前記ベースプレートの上面にのみ固定され、
前記軸部材に前記固定部材を被せた状態で、前記固定部材の上部に突出する前記軸部材が、前記固定部材の上部で固定され、
前記軸部材の下端部には、前記軸部材の中間部の軸部の太さよりも太い拡径部が形成され、前記軸部材の上端部には、雄ねじ部が形成され、前記軸部の径は、前記雄ねじ部の谷部の径および前記拡径部の径より小さく、
前記拡径部の下面側には開先が形成され、前記軸部材と前記アンカーボルトとが前記開先で溶接され、
前記軸部材は、前記軸部材と前記アンカーボルトとの接合部の破断する荷重よりも小さな荷重で塑性変形を開始することを特徴とするアンカー補強構造。
【請求項2】
前記軸部材が塑性変形を開始する荷重は、前記アンカーボルトのねじ部が塑性変形を開始する荷重よりも大きく、前記アンカーボルトのねじ部が破断する荷重よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のアンカー補強構造。
【請求項3】
前記軸部材が塑性変形を開始する荷重は、前記アンカーボルトのねじ部が塑性変形を開始する荷重よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のアンカー補強構造。
【請求項4】
既設アンカーの補強方法であって、
軸部材と、前記軸部材を内部に収容可能な固定部材と、を具備するアンカー補強部材を用い、
露出柱脚のベースプレートを固定する既設のアンカーボルトのナットを外す工程と、
前記軸部材の一方の端部を、前記アンカーボルトに溶接する工程と、
前記固定部材を、前記軸部材に被せて、前記軸部材の他方の端部を前記固定部材の上に突出させ、前記軸部材と前記固定部材とを前記固定部材の上部で固定する工程と、
を具備し、
前記固定部材は、前記ベースプレートの上面にのみ固定され、
前記軸部材の下端部には、前記軸部材の中間部の軸部の太さよりも太い拡径部が形成され、前記軸部材の上端部には、雄ねじ部が形成され、前記軸部の径は、前記雄ねじ部の谷部の径および前記拡径部の径より小さく、
前記拡径部の下面側には開先が形成され、前記軸部材と前記アンカーボルトとが前記開先で溶接され、
前記軸部材と前記固定部材の固定面との間には隙間が空いており、前記軸部材は、前記アンカーボルトのねじ部が破断する荷重よりも小さい荷重で塑性変形を開始することを特徴とするアンカー補強方法。
【請求項5】
露出柱脚のベースプレートを固定する既設のアンカーの補強部材であって、
軸部材と、
前記軸部材を内部に収容可能であり、且つ前記ベースプレートの上面にのみ固定される固定部材と、
を具備し、
前記軸部材の下端部には、前記軸部材の中間部の軸部の太さよりも太い拡径部が形成され、前記軸部材の上端部には、雄ねじ部が形成され、前記軸部の径は、前記雄ねじ部の谷部の径および前記拡径部の径より小さく、
前記拡径部の下面側には開先が形成され、
前記固定部材は、一方の端部に、前記軸部材を挿通可能な孔を有することを特徴とするアンカー補強部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、柱脚のベースプレート等を固定するアンカーボルトに対する、アンカー補強構造、アンカー補強方法およびアンカー補強部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震による構造体の倒壊等を防ぐため、柱等の構造体に対しては、所定以上の耐震強度が要求されている。しかし、現在の耐震基準となる前に建設された構造体には、現在のような厳しい耐震強度が要求されていなかったため、古い構造体は、現在の耐震基準を満たしていない場合がある。しかし、柱等の構造体のすべてを新たに再構築するのは時間もコストもかかる。
【0003】
このような、構造体の補強方法として、例えば、既存柱の柱脚部の周囲にコンクリートを打設して、鉄筋コンクリート根巻き部を構築する方法がある。しかし、柱周りにコンクリートを施工するため、鉄筋、型枠工事といった施工手間が多く発生し、かつコンクリートの分だけ柱の寸法が大きくなるため、建物の利便性を阻害する。
【0004】
一方、柱脚等の構造体は、通常、基礎や地盤に対してアンカーボルトによって固定されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-104780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンカーボルトの強度や変形能力が十分でないと、早期にアンカーボルトの破断等によって構造体の転倒などのおそれがある。このため、構造体の補強には、アンカーボルトの補強が必要な場合がある。特に、古い年代の鉄骨造りの露出柱脚に使われているアンカーボルトは、アンカーボルトの軸部が十分に塑性変形する前に、ねじ部が破断を起こすものが多く、柱脚の変形能力が乏しいものが多い。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、効率よくアンカーボルトの補強が可能なアンカー補強構造、アンカー補強方法およびアンカー補強部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、アンカーの補強構造であって、露出柱脚のベースプレートを固定する既設のアンカーボルトと、前記アンカーボルトの上部に接合された補強部材と、を具備し、前記補強部材は、軸部材と、前記軸部材を内部に収容可能な固定部材と、を具備し、前記軸部材と前記固定部材の固定面との間に隙間を空けて、前記軸部材の一方の端部が前記アンカーボルトと接合され、前記固定部材は、一方の端部に、前記軸部材を挿通可能な孔を有し、前記ベースプレートの上面にのみ固定され、前記軸部材に前記固定部材を被せた状態で、前記固定部材の上部に突出する前記軸部材が、前記固定部材の上部で固定され、前記軸部材の下端部には、前記軸部材の中間部の軸部の太さよりも太い拡径部が形成され、前記軸部材の上端部には、雄ねじ部が形成され、前記軸部の径は、前記雄ねじ部の谷部の径および前記拡径部の径より小さく、前記拡径部の下面側には開先が形成され、前記軸部材と前記アンカーボルトとが前記開先で溶接され、前記軸部材は、前記軸部材と前記アンカーボルトとの接合部の破断する荷重よりも小さな荷重で塑性変形を開始することを特徴とするアンカー補強構造である。
【0011】
前記軸部材が塑性変形を開始する荷重は、前記アンカーボルトのねじ部が塑性変形を開始する荷重よりも大きく、前記アンカーボルトのねじ部が破断する荷重よりも小さくてもよい。
【0012】
前記軸部材が塑性変形を開始する荷重は、前記アンカーボルトのねじ部が塑性変形を開始する荷重よりも小さくてもよい。
【0013】
第1の発明によれば、アンカーボルトの上部に補強部材が取り付けられ、軸部材が、アンカーボルトとの接合部が破断する荷重よりも小さな荷重で塑性変形を開始するため、地震等の際に、アンカーボルトとの接合部が破断を起こす前に十分な変形量を確保することができる。
【0014】
このような補強部材は、柱脚のベースプレートを固定するアンカーボルトを補強するのに対して特に有効である。
【0015】
また、軸部材の下端部に、軸部材の中間部の軸部の太さよりも太い拡径部を形成し、拡径部の下面側に開先を形成することで、アンカーボルトと軸部材とを容易に溶接することができる。この際、軸部材の中間部の断面積よりも、接合部の溶接面積を大きくすることができるため、アンカーボルトとの接合部が破断する荷重よりも小さな荷重で軸部材を塑性変形させることができる。
【0016】
なお、軸部材が塑性変形を開始する荷重が、アンカーボルトのねじ部が塑性変形を開始する荷重よりも大きく、ねじ部が破断する荷重よりも小さければ、高い強度とアンカーの破断防止の効果を両立することができる。
【0017】
また、軸部材が塑性変形を開始する荷重が、アンカーボルトのねじ部が塑性変形を開始する荷重よりも小さければ、軸部材の強度設計が容易である。
【0018】
第2の発明は、既設アンカーの補強方法であって、軸部材と、前記軸部材を内部に収容可能な固定部材と、を具備するアンカー補強部材を用い、露出柱脚のベースプレートを固定する既設のアンカーボルトのナットを外す工程と、前記軸部材の一方の端部を、前記アンカーボルトに溶接する工程と、前記固定部材を、前記軸部材に被せて、前記軸部材の他方の端部を前記固定部材の上に突出させ、前記軸部材と前記固定部材とを前記固定部材の上部で固定する工程と、を具備し、前記固定部材は、前記ベースプレートの上面にのみ固定され、前記軸部材の下端部には、前記軸部材の中間部の軸部の太さよりも太い拡径部が形成され、前記軸部材の上端部には、雄ねじ部が形成され、前記軸部の径は、前記雄ねじ部の谷部の径および前記拡径部の径より小さく、前記拡径部の下面側には開先が形成され、前記軸部材と前記アンカーボルトとが前記開先で溶接され、前記軸部材と前記固定部材の固定面との間には隙間が空いており、前記軸部材は、前記アンカーボルトのねじ部が破断する荷重よりも小さい荷重で塑性変形を開始することを特徴とするアンカー補強方法である。
【0019】
第2の発明によれば、既設のアンカーボルトを容易に補強することができる。
【0020】
第3の発明は、露出柱脚のベースプレートを固定する既設のアンカーの補強部材であって、軸部材と、前記軸部材を内部に収容可能であり、且つ前記ベースプレートの上面にのみ固定される固定部材と、を具備し、前記軸部材の下端部には、前記軸部材の中間部の軸部の太さよりも太い拡径部が形成され、前記軸部材の上端部には、雄ねじ部が形成され、前記軸部の径は、前記雄ねじ部の谷部の径および前記拡径部の径より小さく、前記拡径部の下面側には開先が形成され、前記固定部材は、一方の端部に、前記軸部材を挿通可能な孔を有することを特徴とするアンカー補強部材である。
【0021】
第3の発明によれば、アンカーボルトを容易に補強することが可能な補強部材を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、効率よくアンカーボルトの補強が可能なアンカー補強構造、アンカー補強方法およびアンカー補強部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】アンカー補強構造1を示す側面図。
図2】アンカー補強構造1の拡大断面図。
図3】補強部材11の分解図。
図4】既設の柱脚3を示す図。
図5】ナット27を外した状態を示す図。
図6】軸部材13を取り付けた状態を示す図。
図7】固定部材15を配置して、ナット17を取り付ける状態を示す図。
図8】アンカー補強構造1aの拡大断面図。
図9】柱脚3が変位した状態を示す図。
図10図9のF部の拡大断面図。
図11】荷重と変形量の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態にかかるアンカー補強構造1について説明する。図1は、アンカー補強構造1を示す側面図である。なお、以下の説明では、アンカー補強構造1は、柱脚3のベースプレート7を固定するアンカーボルト9に対する補強構造を示すが、本発明はこれに限られず、アンカーで固定される構造体であれば適用可能である。
【0025】
柱脚3は、床5(例えば基礎)上に構築される。床5上には、ベースプレート7がアンカーボルト9で固定される。アンカーボルト9の上部には、補強部材11が固定される。
【0026】
図2は、図1のA部拡大断面図であり、図3は、補強部材11の分解断面図である。補強部材11は、軸部材13と固定部材15とからなる。図3に示すように、軸部材13は、一方の端部(上端部)に雄ねじ部21が設けられ、他方の端部(下端部)に拡径部22が設けられる。拡径部22と雄ねじ部21との中間部が軸部23となる。なお、拡径部22は、軸部23の太さよりも太い。また、軸部23の径は、雄ねじ部21の谷部の径および拡径部22の径よりも小さい。
【0027】
固定部材15は、内部に軸部材13を収容可能である。固定部材15の一方の端部には、雄ねじ部21および軸部23を挿通可能な孔25が形成される。
【0028】
図2に示すように、軸部材13の端部の拡径部22は、アンカーボルト9のねじ部9aと接合される。軸部材13とアンカーボルト9とは、例えば、溶接やピン接合などで接合される。図示した例では、軸部材13とアンカーボルト9とは、溶接部31で接合される。すなわち、軸部材13とアンカーボルト9とは、ねじ構造以外で接合される。この場合には、拡径部22の下面に開先29を設けることで、軸部材13とアンカーボルト9とを容易に溶接することができる。なお、溶接部31の溶接面積(アンカーボルト9の軸方向に垂直な断面であって、溶接ビードとアンカーボルト9との接合面の断面積)は、軸部23の断面積よりも大きい。
【0029】
この状態で、軸部材13を覆うように固定部材15が配置され、固定部材15の孔25から、雄ねじ部21が上方に突出する。さらに、雄ねじ部21にはナット17が設けられ、固定部材15の上部に固定される。
【0030】
この際、軸部材13(拡径部22)の先端と、固定部材15の固定面であるベースプレート7の上面との間には隙間が形成される。すなわち、軸部材13は、固定部材15の固定面とは接触しない。
【0031】
なお、軸部材13および固定部材15は、例えば鋼製である。軸部材13は、棒状の素材の端部にタップ加工によって雄ねじ部21が形成され、軸部23は、例えば、棒状の素材に対して切削等によって径を細くすればよい。
【0032】
次に、補強部材11を用いた、既設の柱脚の補強方法について説明する。図4は、既設の柱脚3を示す図である。前述したように、柱脚3は、床5上に設置される。柱脚3のベースプレート7は、床5に対してアンカーボルト9およびナット27によって固定される。
【0033】
この状態から、図5に示すように、ナット27をアンカーボルト9から取り外す(図中矢印C)。したがって、アンカーボルト9のねじ部9aがベースプレート7上に突出した状態となる。
【0034】
次に、図6に示すように、ベースプレート7から突出するアンカーボルト9に軸部材13を接合する。例えば、アンカーボルト9のねじ部9aと軸部材13の拡径部22とを溶接部31で溶接する。この際、前述したように、軸部材13(拡径部22)の下端とベースプレート7の上面との間には隙間が形成される。
【0035】
次に、図7に示すように、軸部材13に固定部材15を被せる。この際、軸部材13の雄ねじ部21が、固定部材15の孔25に挿通され、固定部材15の上方に突出する。さらに、固定部材15の上方から、雄ねじ部21にナット17を取り付けて固定することで(図中矢印D)、アンカー補強構造1が構築される。なお、ナット17は、アンカーボルト9を固定していたナット27をそのまま用いてもよい。
【0036】
なお、複数のアンカーボルト9が隣接する場合には、それぞれのアンカーボルト9に対して軸部材13を取り付けた後、複数の孔25が設けられた一つの固定部材15を、複数の軸部材13に一括して被せて、それぞれの軸部材13をナット17で固定してもよい。
【0037】
また、図8に示すアンカー補強構造1aのように、軸部材13と固定部材15とを溶接部31aで接合してもよい。この場合には、軸部材13の上端部には、雄ねじ部21を設けなくてもよい。このように、軸部材13と固定部材15とを接合可能であれば、その接合方法は特に限定されない。
【0038】
次に、アンカー補強構造1の機能について説明する。図9は、地震の際に、柱脚3が傾いた状態(図中矢印E)を示す図であり、図10は、図9のF部の拡大断面図である。地震によってベースプレート7が浮き上がろうとすると、アンカーボルト9および補強部材11の軸部材13には引張応力が付与される。
【0039】
この際、軸部材13の軸部23の断面積は、雄ねじ部21の谷部の断面積および、軸部材13とアンカーボルト9との接合部(溶接部31)の断面積よりも小さいため、雄ねじ部21または溶接部31が塑性変形を開始するよりも小さな荷重で軸部23が塑性変形(伸び変形)する(図10の矢印H)。
【0040】
さらに、軸部23は、アンカーボルト9のねじ部9aが破断する荷重よりも小さな荷重で塑性変形を開始する。図11は、各部の荷重と変形量との関係を示す図である。図中Iはアンカーボルト9(ねじ部9a)の挙動を示す図である。ねじ部9aは、所定の荷重(図中L)で塑性変形を開始する。しかし、アンカーボルトの強度や変形能力が十分でないため、アンカーボルトの軸部が十分に塑性変形する前に、ねじ部が破断を起こす(図中M)。
【0041】
これに対し、軸部材13の軸部23は、例えば図中Kのような挙動を示す。すなわち、軸部23は、アンカーボルト9のねじ部9aの破断する荷重よりも小さな荷重で塑性変形を開始する。このため、軸部23が塑性変形可能な変形量範囲であれば、ねじ部9aには、ねじ部9aが破断するのに必要な荷重が付与されることがない。
【0042】
このように、本実施形態では、軸部23が優先的に塑性変形することで、アンカーボルト9が破断することを防止することができる。また、軸部23が塑性変形を開始する荷重が、ねじ部9aの破断する荷重よりもわずかに小さいのみであるため、小さな荷重で軸部23が容易に塑性変形してしまうことを抑制することができる。このように、軸部23が塑性変形を開始する荷重は、アンカーボルト9のねじ部9aが塑性変形を開始する荷重よりも大きく、ねじ部9aが破断する荷重よりも小さいことが望ましい。
【0043】
ここで、柱脚3に許容される傾きは、1/30rad程度である。このため、ベースプレート7のサイズと、この傾きとから、必要な伸び量があらかじめ設定される。また、この際、軸部材13とベースプレート7との隙間を、必要な伸び量以上としておくことで、確実に、軸部23の伸びを許容することができる。
【0044】
なお、軸部材13の軸部23は、例えば図中Jのような挙動であってもよい。すなわち、軸部23は、アンカーボルト9のねじ部9aが塑性変形を開始する荷重よりも小さな荷重で塑性変形を開始させてもよい。このようにしても、軸部23が塑性変形可能な変形量範囲において、ねじ部9aには、ねじ部9aが破断するのに必要な荷重が付与されることがない。また、アンカーボルト9のねじ部9aが塑性変形を開始する荷重よりも小さな荷重で塑性変形を開始させるための軸部23の強度設計が容易である。
【0045】
この場合には、前述した例と比較して、より小さ荷重で軸部23が塑性変形を開始することとなるが、アンカーボルト9のねじ部9aの塑性変形を防止することができるため、地震後に、軸部材13を交換するのみで補修を完了することができる。
【0046】
以上、本実施の形態によれば、簡易な作業でアンカー補強構造1を得ることができる。したがって、既設の柱脚3の補強も容易である。また、アンカー補強構造1は、柱脚3を固定するアンカーボルト9の破断を防止することができるため、柱脚3の転倒などを防止することができる。
【0047】
また、地震後には、軸部材13を交換することで、容易に補修を行うことができる。
【0048】
また、軸部材13の軸部23の断面積が、雄ねじ部21の谷部の断面積および溶接部31の断面積よりも小さいため、軸部材13の軸部23を優先的に塑性変形させることができる。
【0049】
また、軸部23の塑性変形開始荷重が、アンカーボルト9のねじ部9aが塑性変形を開始する荷重よりも大きく、ねじ部9aが破断する荷重よりも小さければ、アンカーボルト9の破断の防止と、高い強度とを両立することができる。
【0050】
また、軸部23の塑性変形開始荷重が、アンカーボルト9のねじ部9aが塑性変形を開始する荷重よりも小さければ、地震後にアンカーボルト9のねじ部9aが変形することを防止することができる。
【0051】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0052】
1、1a………アンカー補強構造
3………柱脚
5………床
7………ベースプレート
9………アンカーボルト
9a………ねじ部
11………補強部材
13………軸部材
15………固定部材
17………ナット
21………雄ねじ部
22………拡径部
23………軸部
25………孔
27………ナット
29………開先
31、31a………溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11