(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】茶の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/06 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
A23F3/06 U
A23F3/06 301F
A23F3/06 E
A23F3/06 W
(21)【出願番号】P 2018085061
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】旭 俊也
(72)【発明者】
【氏名】村松 浩明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】上條 裕介
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-159000(JP,A)
【文献】農業技術,1985年,第40巻, 第4号,p.148-152
【文献】化学工学, 1968年,第32巻, 第12号,p.1188-1190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉を殺青処理した後、茶葉を加熱乾燥処理する工程を備えた
碾茶の製造方法であって、
当該製造方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する装置
(「殺青装置」と称する)を設置する区域と、茶葉を加熱乾燥する
碾炉を設置する区域とを、
床から天井まで至る隔壁によって仕切って別の部屋とすると共に、茶葉の搬送を行う搬送手段を通す開口部を前記隔壁に設けることを特徴とする
碾茶の製造方法。
【請求項2】
茶葉を殺青処理した後、茶葉の水分を調整する水分調整処理を行い、茶葉を加熱乾燥処理する工程を備えた
碾茶の製造方法であって、
当該製造方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する装置
(「殺青装置」と称する)及び茶葉の水分調整を行う水分調整処理装置を設置する区域と、茶葉を加熱乾燥する
碾炉を設置する区域とを、
床から天井まで至る隔壁によって仕切って別の部屋とすると共に、茶葉の搬送を行う搬送手段を通す開口部を前記隔壁に設けることを特徴とする
碾茶の製造方法。
【請求項3】
茶葉を殺青処理した後、茶葉の水分を調整する水分調整処理を行い、
散茶機により散茶処理を行い、茶葉を加熱乾燥処理する工程を備えた
碾茶の製造方法であって、
当該製造方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する装置
(「殺青装置」と称する)、茶葉の水分調整を行う水分調整処理装置及び
散茶機を設置する区域と、茶葉を加熱乾燥する
碾炉を設置する区域とを、
床から天井まで至る隔壁によって仕切って別の部屋とすると共に、茶葉の搬送を行う搬送手段を通す開口部を前記隔壁に設けることを特徴とする
碾茶の製造方法。
【請求項4】
茶葉を洗浄装置で洗浄した後、殺青処理する請求項1~3の何れか一項に記載の碾茶の製造方法において、
当該洗浄装置を設置する区域と、殺青装置を設置する区域とを、床から天井まで至る隔壁によって仕切って別の部屋とすることを特徴とする碾茶の製造方法。
【請求項5】
上記殺青処理では、殺青処理前の植物の質量(A)に対する蒸気発生量(B)の比率(B/A)が0.05~0.5となるように処理することを特徴とする請求項1
~4の何れか一項に記載の碾茶の製造方法。
【請求項6】
上記水分調整処理では、殺青処理前の植物の質量(A)に対する、水分調整後の茶葉の質量(C)の比率(C/A)が0.4~1.0となるように処理することを特徴とする請求項
2又は3に記載の
碾茶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶の製造方法、中でも特に碾茶に適した茶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な茶は、摘採された茶生葉を蒸気で蒸して茶生葉に含まれる酸化酵素を不活性化(殺青)させた後、粗揉、揉捻、中揉及び精揉等によって揉込み、乾燥させる一連の工程を経て製造するのが通常である(非特許文献1参照)。このように生葉を蒸気で蒸す蒸熱法によって茶葉を殺青すると、蒸熱によって茶葉全体が柔らかくなるため、茶葉中の成分の溶出性を高めることができ、濃いお茶を入れることができる。
【0003】
中国茶や日本の釜炒り茶(かまいり製玉緑茶)などでは、蒸熱の代わりに、加熱した釜で茶葉を炒ることによって酸化酵素を不活性化(殺青)させる方法が採られている(非特許文献1参照)。直火加熱によって茶葉を殺青すると、釜炒り特有の香味を発揚できると同時に、すっきりとした味の茶に仕上げることができるため、最近では釜炒りで製造した原料茶葉を使った茶飲料も販売されている。
その他、嬉野茶などで採用されている炒り蒸や、湿度60~90%、温度250~390℃程度の高湿度熱風を当てて加熱処理を行う殺青方法(特許文献1、2参照)なども知られている。
【0004】
他方、抹茶の原料に使用される碾茶の製造方法は、蒸気を用いて生茶葉を殺青し(蒸熱)、次に、茶葉についた蒸し露を取り除き、葉が重ならないように分散させた後(冷却・分散)、碾炉などの加熱乾燥機で輻射熱を用いて高温短時間で乾燥し(加熱乾燥)、次に、葉脈及び茎を除いて葉肉のみとする(つる切り)ことによって製造するのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-233997号公報
【文献】特開2001-136908号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】静岡県茶業会議所編、1988、「新茶業全書」、静岡県茶業会議所、p275-276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
碾茶特有の香りは、碾炉などの加熱乾燥機による輻射熱によって茶葉を加熱乾燥させることで発生する炙り香によるといわれており、この加熱乾燥条件によって、品質が大きく異なることが知られている。
しかしながら、茶葉や天候などに応じて加熱乾燥条件をその都度最適化することは難しい。他方、加熱乾燥する環境を完全に管理するには過剰な設備投資が必要であり、実現することは困難であった。
【0008】
本発明は、簡易な方法で加熱乾燥条件を整えることができ、茶、中でも特に碾茶の品質を向上させることができる、新たな茶の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、茶葉を殺青処理した後、茶葉を加熱乾燥処理する工程を備えた茶の製造方法であって、当該製造方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する装置を設置する区域と、茶葉を加熱乾燥する装置を設置する区域とを、隔壁で仕切ることを特徴とする、茶の製造方法を提案する。
【0010】
本発明はまた、茶葉を殺青処理した後、茶葉の水分を調整する水分調整処理を行い、茶葉を加熱乾燥処理する工程を備えた茶の製造方法であって、当該製造方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する装置及び茶葉の水分調整を行う水分調整処理装置を設置する区域と、茶葉を加熱乾燥する装置を設置する区域とを、隔壁で仕切ることを特徴とする、茶の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提案する茶の製造方法においては、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する装置を設置する区域と、茶葉を加熱乾燥する装置を設置する区域とを、隔壁で仕切ることにより、加熱乾燥条件の設定が容易になるほか、乾燥効率が向上し、茶の品質を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<本茶製造方法>
本発明が提案する茶の製造方法(「本茶製造方法」とも称する)は、茶葉を殺青処理した後、茶葉を加熱乾燥処理する工程を備えた茶の製造方法であって、当該製造方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する装置(「殺青装置」と称する)を設置する区域と、茶葉を加熱乾燥する装置(「加熱乾燥装置」と称する)を設置する区域とを、隔壁で仕切ることを特徴とする。
このように、蒸気の発生を伴う殺青装置を設置する区域と、加熱乾燥装置を設置する区域とを、隔壁で仕切ることにより、加熱乾燥条件の設定が容易になるほか、乾燥効率が向上し、茶の品質を高めることができる。
【0014】
本茶製造方法においては、上記殺青処理と加熱乾燥処理との間に、茶葉の水分を調整する水分調整処理を挿入してもよい。この場合、当該製造方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴う殺青装置及び茶葉の水分調整を行う装置(「水分調整処理装置」と称する)を設置する区域と、加熱乾燥装置を設置する区域とを、隔壁で仕切るのが好ましい。
水分調整処理を実施する場合、水分調整処理によって水分調整処理装置から水分が発生し、加熱乾燥処理を行う環境に影響を与えるため、水分調整処理装置を設置する区域と、加熱乾燥装置を設置する区域とを、隔壁で仕切るのが好ましい。こうすることで、加熱乾燥条件の設定が容易になるほか、乾燥効率が向上し、茶の品質を高めることができる。
【0015】
ここで、本発明において、或る処理を行う装置xを設置する区域Xと、別の処理を行う装置yを設置する区域Yとを隔壁で仕切るとは、床から天井まで至る隔壁によって区域Xと区域Yを仕切って別の部屋とすればよい。なお、装置x及び装置yはそれぞれの装置を識別するための名称であり、特定の装置を示すものではない。また、区域X及び区域Yは、装置x、yを設置する区域を識別するための名称であり、特定の区域を示すものではない。
この際、装置xを設置する区域Xと、装置yを設置する区域Yとを隔壁で仕切って別の部屋とすれば、区域Xと区域Yとが隣接していなくてもよく、区域Xと区域Yとの間に空間や別の部屋が介在してもよい。
【0016】
上記隔壁には、茶葉の搬送を行う搬送手段を通す開口部が設けてあってもよい。但し、区域Xと区域Yとの間で多くの空気が流通することは好ましくないため、開口部の大きさを、0.005平方メートル~1平方メートル程度に小さくしたり、或いは、例えば搬送手段を筒状の囲い部で覆って、当該囲い部と開口部との間に隙間を設けないようにしたりするのが好ましい。
なお、上記隔壁の材質及び厚さは任意である。
【0017】
(殺青処理)
本茶製造方法における殺青処理は、茶葉の酵素の働きを止める処理であって、蒸気の発生を伴う処理であればよい。
この際、「蒸気の発生」には、蒸気を使用して殺青する場合と、殺青の際に茶葉から蒸気が発生する場合の両方を包含する。よって、当該殺青処理の方法としては、蒸機による蒸熱処理や炒り蒸処理のほか、蒸気が発生する熱風乾燥、釜炒りなどの直火加熱、熱風を当てる熱風殺青などの殺青方法を採用可能である。また、これらを組み合わせて行うこともできる。例えば蒸機により蒸熱処理を行った後、熱風を当てる熱風殺青を行ってもよい。
【0018】
上記殺青処理では、殺青処理前の植物の質量(A)に対する蒸気発生量(B)の比率(B/A)が0.05~0.5となるように処理するのが好ましい。
当該比率(B/A)が0.05以上であれば、植物に対して十分な熱を加えて殺青できるから好ましく、当該比率(B/A)が0.5以下であれば、過度な加熱により植物の色や香りが減ずることを防止できるため好ましい。
かかる観点から、当該比率(B/A)は0.05~0.5であるのが好ましく、中でも0.07以上或いは0.4以下、その中でも0.1以上或いは0.35以下であるのがさらに好ましい。
当該比率(B/A)を上記範囲に調整するためには、例えば蒸気殺青であれば蒸発量、上記の流量や圧力などの条件を調整すればよく、熱風殺青であれば熱風の温度や流量、殺青時間などの条件を調整すればよく、釜炒り殺青であれば釜の温度、殺青時間、単位時間当たりの撹拌回数などの条件を調整すればよい。
【0019】
(水分調整処理)
上記殺青処理と加熱乾燥処理との間に挿入する水分調整処理は、茶葉の水分を少なくする処理であるのが好ましい。
殺青処理後の茶葉は、水分を含んでいるため、製造ラインに茶葉が貼り付き易く、品質低下の要因になる。よって、茶葉の貼り付きを防ぐために、殺青処理後に水分調整処理を行って、茶葉の水分を少なくするのが好ましい。
水分調整処理の具体的な処理方法としては、マイクロ波や熱風によって熱を加える方法、外気と同程度の風を送り込む方法、遠心力や加圧を用いて水を取り除く方法などを挙げることができる。より具体的には、網状のベルトコンベヤや網籠などを搬送手段として設け、殺青処理後の茶葉を、この搬送手段で搬送しながら水分を調整する方法を挙げることができる。
【0020】
上記水分調整処理では、殺青処理前の植物の質量(A)に対する、水分調整後の茶葉の質量(C)の比率(C/A)が0.4~1.0となるように処理するのが好ましい。
当該比率(C/A)が0.4以上であれば、茶葉が脆くなって搬送が難しくなるのを防ぐことができるばかりか、乾燥させ過ぎて香味が劣化するのを防ぐことができるから好ましく、当該比率(C/A)が1.0以下であれば、茶葉の貼り付きを効果的に防止することができるから好ましい。
かかる観点から、当該比率(C/A)は0.4~1.0であるのが好ましく、中でも0.45以上或いは0.98以下、その中でも0.55以上或いは0.95以下であるのがさらに好ましい。
当該比率(C/A)を上記範囲に調整するためには、例えば送風量、処理時間などの条件を調整すればよい。
【0021】
(加熱乾燥処理)
本茶製造方法における加熱乾燥処理は、茶葉を加熱して乾燥させることができる乾燥処理であれば、任意の方法及び装置を採用可能である。碾茶の製造においては、碾炉などの加熱乾燥機による加熱乾燥処理がこれに該当する。
【0022】
上記加熱乾燥処理では、殺青処理前の植物の質量(A)に対する、加熱乾燥処理後の植物の質量(D)の比率(D/A)が0.3~0.65となるように処理するのが好ましい。
当該比率(D/A)が0.3以上であれば、過度な加熱による香味の低下を防止できるから好ましく、当該比率(D/A)が0.65以下であれば、水分量の低下により品質を保持しやすくなるから好ましい。
かかる観点から、当該比率(D/A)は0.3~0.65であるのが好ましく、中でも0.35以上或いは0.6以下、その中でも0.4以上或いは0.56以下であるのがさらに好ましい。
当該比率(D/A)を上記範囲に調整するためには、例えば加熱時間、加熱温度、水分調整後の茶葉の含水率などの条件を調整すればよい。
【0023】
(本茶製造方法の利用)
本茶製造方法は、蒸気の発生を伴う殺青処理を行った後、加熱乾燥処理を実施する茶の製造方法であれば、適宜利用することができる。
【0024】
例えば、煎茶や容器詰め緑茶飲料に用いる荒茶の製造方法に本茶製造方法を適用する場合の一例としては、蒸気の発生を伴う殺青処理を行った後、揉捻、加熱乾燥などを経て荒茶を製造する方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する殺青装置を設置する区域と、茶葉を加熱乾燥する装置を設置する区域とを、少なくとも隔壁で仕切ればよく、揉捻を行う装置は、殺青装置を設置する区域に設置するのが好ましい。
【0025】
また、碾茶の製造方法に本茶製造方法を適用する場合の一例としては、蒸気の発生を伴う殺青処理を行った後、好ましくは茶葉の水分を調整する水分調整処理を行い、碾炉などの加熱乾燥機による加熱乾燥処理、つる切り処理などを経て碾茶を製造する方法を実施する施設において、蒸気の発生を伴って茶葉を殺青する装置及び茶葉の水分調整を行う水分調整処理装置を設置する区域と、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域とを、隔壁で仕切るのが好ましい。
【0026】
次に、本茶製造方法を、碾茶の製造方法に適用した場合の実施形態について具体的に説明する。
【0027】
<本碾茶製造方法>
本発明の実施形態の一例に係る製造方法(「本碾茶製造方法」と称する)は、茶葉を洗浄装置で洗浄し、搬送手段Aにより搬送し、茶葉を殺青装置で殺青し、水分調整処理を行うことができる搬送手段Bにより搬送し、散茶機により散茶処理を行い、搬送手段Cにより搬送し、碾炉などの加熱乾燥機による加熱乾燥処理を行い、搬送手段Dにより搬送し、つる切り装置によりつる切り処理を行い、搬送手段Eにより搬送し、選別装置で選別処理を行う工程を備えた製造方法である。
また、本発明では、「碾茶」とは、生茶葉を殺青し、揉まずに乾燥して得られた茶をいうものである。
【0028】
本碾茶製造方法は、上記処理を備えていれば、他の処理を追加することは可能である。例えば粉砕処理、冷却処理、その他の処理を適宜追加することが可能である。
他方、必要に応じて、上記散茶処理や選別処理を省略することも可能である。
【0029】
(製造施設)
本碾茶製造方法においては、少なくとも、本碾茶製造方法を実施する施設において、殺青装置を設置する区域と、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域とを、隔壁で仕切ることが好ましい。
殺青装置を設置する区域と、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域とを、隔壁で仕切ることにより、碾炉などの加熱乾燥機による加熱乾燥条件の設定が容易になるほか、熱履歴を減少させて乾燥効率を向上させることができ、さらには茶の品質を高めることができる。例えば、茶葉内部まで均一に乾燥させることができる。
【0030】
さらに、茶葉を洗浄する洗浄装置を設置する区域は、雑菌の増殖を防止するなどの衛生的な観点から、殺青装置を設置する区域及び碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域と、隔壁で仕切ることが好ましい。
この際、洗浄装置から送り出される茶葉を殺青装置に搬送する搬送手段Aについては、洗浄装置を設置する区域と、殺青装置を設置する区域とを仕切る隔壁に設けた開口部を貫通するように配置すればよい。
なお、搬送手段A~Eのいずれも公知の搬送手段を採用すればよい。例えばベルトコンベヤや籠などの公知の搬送手段を採用することができる。
【0031】
散茶機については、散茶機からも水分が発生するため、碾炉などの加熱乾燥機による加熱乾燥条件の設定をより容易にする観点からは、殺青装置を設置する区域内に散茶機を設置するのが好ましい。
しかし、碾炉などの加熱乾燥機へ茶葉が重なった状態で供されて、色や香りが低下することを抑制する観点からすると、散茶機は加熱乾燥機を設置する区域内に設置することがより好ましい。
【0032】
つる切り装置は、水分を発生しないため、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域内に設置するのが好ましい。
この際、碾炉などの加熱乾燥機から送り出される茶葉をつる切り装置に搬送する搬送手段Dも、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域内に設置するのが好ましい。
【0033】
選別装置は、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域の容積を小さくして加熱乾燥条件の設定を容易する観点から、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域とは異なる区域に設置することが好ましい。この場合、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域と隔壁で仕切ることが好ましい。
なお、選別装置としては、網篩を利用した選別装置、風選を利用した選別装置などの公知の選別装置をあげることができ、数種類の選別装置を組み合わせることもできる。
この際、つる切り装置から送り出される茶葉を選別装置に搬送する搬送手段Eは、碾炉などの加熱乾燥機を設置する区域と、選別装置を設置する区域とを仕切る隔壁に設けた開口部を貫通するように配置すればよい。
【0034】
本碾茶製造方法を実施する上記製造施設において、上述したように、或る処理を行う装置xを設置する区域Xと、別の処理を行う装置yを設置する区域Yとを隔壁で仕切るとは、床から天井まで至る隔壁によって区域Xと区域Yを仕切って別の部屋とすればよい。
この際、装置xを設置する区域Xと、装置yを設置する区域Yとを隔壁で仕切って別の部屋とすれば、区域Xと区域Yとが隣接していなくてもよく、区域Xと区域Yとの間に空間や別の部屋が介在してもよい。
【0035】
上記隔壁には、茶葉の搬送を行う搬送手段を通す開口部が設けてあってもよい。この際、当該開口部は搬送手段、加熱乾燥装置で必要な酸素を得るための通気口、配管、電気系統程度の大きさであれば、区域Xと区域Yとの間で空気が流通してもよい。但し、区域Aと区域Bとの間で空気が流通することは、本碾茶製造方法においては好ましくないため、開口部の大きさを、0.005~1平方メートル程度に小さくしたり、或は、例えば搬送手段を筒状の囲い部で覆って、当該囲い部と開口部との間に隙間を設けないようにしたりするのが好ましい。
なお、上記隔壁の材質及び厚さは任意である。
【0036】
(生茶葉)
本碾茶製造方法の原料茶葉である生茶葉は、茶の品種、茶の栽培方法及び摘採時期を限定するものではない。例えば、収穫前に一定期間被覆栽培して摘採した覆下茶葉を使用することも可能であるし、被覆栽培しない茶葉を使用することもできる。また、一番茶、二番茶、三番茶、四番茶、秋冬番茶などを使用することもできる。
また、茶の品種や、茶の栽培方法や、摘採時期などが異なる二種類以上の茶葉を組み合わせて使用することも可能である。
なお、本発明における「生茶葉」とは、酵素の失活処理(殺青)が為されていない茶葉をいう。
【0037】
摘採した茶葉は、必要に応じて、洗浄処理、乾燥処理、切断処理を行った後、次に説明する殺青処理を行うようにしてもよい。
【0038】
(殺青処理)
本碾茶製造方法における殺青処理は、蒸気の発生を伴う殺青であればよい。例えば、蒸機による蒸熱処理や炒り蒸処理のほか、蒸気が発生する熱風乾燥、釜炒りなどの直火加熱、熱風を当てる熱風殺青などの殺青方法を採用可能である。また、これらを組み合わせて行うこともできる。例えば蒸機により蒸熱処理を行った後、熱風を当てる熱風殺青を行ってもよい。
【0039】
殺青処理では、殺青処理前の植物の質量(A)に対する蒸気発生量(B)の比率(B/A)が0.05~0.5となるように処理するのが好ましい。
当該比率(B/A)が0.05以上であれば、植物に対して十分な熱を加えて殺青できるから好ましく、当該比率(B/A)が0.5以下であれば、過度な加熱により植物の色や香りが減ずることを防止できるためであるから好ましい。
かかる観点から、当該比率(B/A)は0.05~0.5であるのが好ましく、中でも0.07以上或いは0.4以下、その中でも0.1以上或いは0.35以下であるのがさらに好ましい。
当該比率(B/A)を上記範囲に調整するためには、例えば蒸気殺青であれば蒸発量、上記の流量や圧力などの条件を調整すればよく、熱風殺青であれば熱風の温度や流量、殺青時間などの条件を調整すればよく、釜炒り殺青であれば釜の温度、殺青時間、単位時間当たりの撹拌回数などの条件を調整すればよい。
【0040】
殺青処理において、蒸気殺青であれば、蒸気を生茶葉に接触させる時間は、生茶葉毎に7~20秒とするのが好ましく、中でも8秒以上或いは17秒以内、その中でも10秒以上或いは15秒以内とするのがさらに好ましい。
【0041】
殺青処理及び乾燥処理前には、茶葉を揉んだり、茶葉に対して打圧を加えたりしないことが、茶葉の重なりを作らず乾燥させ製品の色調を高める観点から好ましい。
【0042】
(水分調整処理)
本碾茶製造方法における水分調整処理としては、茶葉の水分を十分少なくすることができる処理方法であるのが好ましく、例えば、殺青処理後の茶葉を、網状のベルトコンベヤや網籠などの搬送手段乃至装置を用いて、次工程に搬送する間に、搬送しながら水分を調整する方法を挙げることができる。
【0043】
上記水分調整処理では、殺青処理前の植物の質量(A)に対する、水分調整後の茶葉の質量(C)の比率(C/A)が0.4~1.0となるように処理するのが好ましい。
当該比率(C/A)が0.4以上であれば、茶葉が脆くなって搬送が難しくなるのを防ぐことができるばかりか、乾燥させ過ぎて香味が劣化するのを防ぐことができるから好ましく、当該比率(C/A)が1.0以下であれば、茶葉の貼り付きを効果的に防止することができるから好ましい。
かかる観点から、当該比率(C/A)は0.4~1.0であるのが好ましく、中でも0.45以上或いは0.98以下、その中でも0.55以上或いは0.95以下であるのがさらに好ましい。
当該比率(C/A)を上記範囲に調整するためには、例えば、送風量、処理時間などの条件を調整すればよい。
【0044】
(冷却処理)
上記殺青処理後、散茶機などを用いて、茶葉を攪拌して、茶葉を冷却させると共に茶葉を分散させるのが好ましい。
このように、茶葉を冷却させると共に、茶葉を分散させて茶葉同士が重なって付着するのを抑制することにより、乾燥処理の効果を均一に付与することができるばかりか、茶葉の色沢が黒くなることを抑制することができる。
【0045】
冷却処理における攪拌は、公知の散茶機を用いて行うことができる。但し、茶葉を冷却させることができ、同時に、茶葉同士が重なって付着している状態を解消することができる装置であれば、散茶機に限定するものではない。
【0046】
(加熱乾燥処理)
加熱乾燥処理では、茶葉を加熱して茶葉の水分量を3~50%(WB)に加熱乾燥するのが好ましい。
本碾茶製造方法における加熱乾燥処理において、茶葉を加熱乾燥させる方法としては、熱媒体を用いた間接加熱が好ましく、更に空気、蒸気、加熱した無機固形物や有機物固形物に接触させる方法が好ましく、更に赤外線や遠赤外線を用いる方法、熱風を用いる方法、加熱水蒸気を用いる方法、加熱した容器に茶葉を接触させる方法が好ましく、特に碾炉などの加熱乾燥機などを用いて、輻射熱を利用して茶葉に熱を与えて加熱乾燥を行うのが好ましい。輻射熱を利用して茶葉を加熱することにより、茶葉に独特の炙り香を付けることができる。
碾炉は、煉瓦で囲まれており、煉瓦の輻射熱すなわち遠赤外線による熱を利用した炉である。
【0047】
加熱乾燥処理では、炉内を上段、中段、下段など複数の段に分けて、各段を順に茶葉を移動させながら加熱乾燥する例を挙げることができる。
この際、複数の段のうち最も温度の高い領域の雰囲気温度を170~220℃、中でも180℃以上或いは210℃以下とし、その領域を通過する時間を90~210秒、中でも100秒以上或いは200秒以下、その中でも150秒以上或いは190秒以下とするのが好ましい。
また、全ての段を移動する全段移動時間は、10~21分、中でも12分以上或いは19分以下、その中でも13分以上或いは19分以下とするのが好ましい。
【0048】
上記加熱乾燥処理では、殺青処理前の植物の質量(A)に対する、加熱乾燥処理後の植物の質量(D)の比率(D/A)が0.3~0.65となるように処理するのが好ましい。
当該比率(D/A)が0.3以上であれば、過度な加熱による香味の低下を防止できるであるから好ましく、当該比率(D/A)が0.65以下であれば、水分量の低下により品質を保持しやすくなるから好ましい。
かかる観点から、当該比率(D/A)は0.3~0.65であるのが好ましく、中でも0.35以上或いは0.6以下、その中でも0.4以上或いは0.56以下であるのがさらに好ましい。
当該比率(D/A)を上記範囲に調整するためには、例えば加熱時間、加熱温度、水分調整後の茶葉の含水率などの条件を調整すればよい。
【0049】
なお、碾炉の代わりに、熱媒体を用いた間接加熱による加熱乾燥処理装置、空気、蒸気、加熱した無機固形物や有機物固形物に接触させる加熱乾燥処理装置、赤外線や遠赤外線を用いる加熱乾燥処理装置、熱風を用いる加熱乾燥処理装置、加熱水蒸気を用いる加熱乾燥処理装置、加熱した容器に茶葉を接触させる加熱乾燥処理装置なども採用可能である。
【0050】
(つる切り処理)
つる切り処理では、加熱乾燥処理した後、葉脈及び茎を除いて葉肉のみとして選別するのが好ましい。
【0051】
(粉砕及び選別)
必要に応じて、葉肉を選別した際の茶葉の径(最長部分の幅×長さ)が25×35mm、中でも幅が2mm以上或いは15mm以下、長さが2mm以上30mm以下となるように、粉砕及び選別するのが好ましい。
【0052】
粉砕手段としては、カッターによる粉砕などの公知の粉砕手段を採用可能であり、これらを組み合わせることもできる。
選別手段としては、回転網などの篩を利用した篩分け、風選など、公知の選別手段を採用可能であり、これらを組み合わせることもできる。
【0053】
<本碾茶製造方法により得られる碾茶>
本碾茶製造方法により得られる碾茶は、緑色度合いに優れた碾茶であるから、粉状に挽いて抹茶として利用することができる。
さらに本碾茶製造方法によれば、秋冬番茶などのより安価な原料茶を使用して緑色度合いを効果的に高めることができるため、安価な加工食品用原料を提供することができる。
【0054】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。