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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】防曇組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20220601BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20220601BHJP
   C08G 65/332 20060101ALI20220601BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20220601BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20220601BHJP
   C08F 299/06 20060101ALI20220601BHJP
   C09D 175/16 20060101ALI20220601BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20220601BHJP
【FI】
C09D4/02
C08G18/67 010
C08G65/332
C08G18/76 092
C08F290/06
C08F299/06
C09D175/16
C08J7/04 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018107659
(22)【出願日】2018-06-05
(65)【公開番号】P2019210377
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】掛谷 文彰
(72)【発明者】
【氏名】福永 泰隆
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-277537(JP,A)
【文献】特開平05-310871(JP,A)
【文献】特開2008-280383(JP,A)
【文献】特開平07-238160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 4/02
C08G 18/67
C08G 65/332
C08G 18/76
C08F 290/06
C08F 299/06
C09D 175/16
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンアクリレートの成分(a)、
下記式(2)で示される成分(b)、
官能基の数が2または3であり、前記成分(b)とは異なる(メタ)アクリレートの成分(c)、及び、
官能基の数が1であり、繰り返しオキシアルキレン骨格を有するモノマーの成分(d)を含み、
前記各成分(a)~(d)の固形分重量比(a)/(b)/(c)/(d)が、5~45/5~70/5~21/5~35であり、
前記(メタ)アクリレートの成分(c)が、下記式(3)で示されるものを含むことを特徴とする防曇組成物。
【化1】
(式(2)中、
は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、
Xは、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキレン基であり、
mとnは、それぞれ独立して、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示す数値であり、m+nが20~40である。)
【化2】
(式(3)中、
は、水素原子又はメチル基を示し、
kは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示す1~5の数値である。)
【請求項2】
前記ウレタンアクリレートの成分(a)が、6官能ウレタンアクリレートを含む、請求項1に記載の防曇組成物。
【請求項3】
前記ウレタンアクリレートの成分(a)が、下記式(1)で示される6官能ウレタンアクリレートを含む、請求項に記載の防曇組成物。
【化3】
(式(1)中、
は、独立して、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキル基であり、
Aは、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキリジン基であり、
Bは、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖状、又は分岐状のアルキレン基、もしくは単結合であり、
pは、0~4の整数である。)
【請求項4】
前記(メタ)アクリレートの成分(c)が、前記式(3)で示される、請求項1に記載の防曇組成物
【請求項5】
前記モノマーの成分(d)が、下記式(4-1)、又は下記式(4-2)で示されるものを含む、請求項1に記載の防曇組成物。
【化4】
(式(4-1)中、
は、炭素数4~20の直鎖状、又は分岐状のアルキル基であり、
は、平均付加モル数を示す1~30の数値であり、
は、0~3の整数であり、
(式(4-2)中、
は、炭素数6~30の直鎖状、又は分岐状のアルキル基であり、
は、水素、又はメチル基であり、
nは、平均付加モル数を示す1~30の数値である。)
【請求項6】
光重合開始剤をさらに含み、紫外線硬化型である、請求項1~5のいずれかに記載の防曇組成物。
【請求項7】
基材上に、請求項6に記載の紫外線硬化型の防曇組成物を硬化させた塗膜を有する成形品。
【請求項8】
前記塗膜の欧州規格EN168に準じた防曇時間が、30秒を超える請求項7に記載の成形品。
【請求項9】
前記基材は、透明樹脂層である、請求項7または8に記載の成形品。
【請求項10】
請求項7~9のいずれかに記載の成形品を含む、スポーツもしくは産業用のゴーグル。
【請求項11】
請求項7~9のいずれかに記載の成形品を含む、ヘルメットシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇組成物、及び成形品に関するものであり、更に詳しくは、優れた防曇性、滑り性等を兼ね備えた硬化塗膜を与え得る防曇組成物、及び、防曇組成物由来の硬化塗膜を有する防曇性成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、加工の自由度、軽量性等に優れていることからガラスに代わる構造材料として広く使用されており、電気・電子・OA機器等のメーターカバーや液晶ディスプレーカバー、計器カバー等の自動車用途、採光用屋根材や窓ガラスのような建材用途等に広く用いられている。特に、ポリカーボネート樹脂は耐衝撃性が良好なことからゴーグル、サングラス、ヘルメットシールドなどにも幅広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂製品においては、急激な温度、及び湿度の変化によって表面に微細な水滴が付き、曇りが発生する傾向が認められる。特に、視認性が要求されるゴーグル、サングラス、偏光メガネ、ヘルメットシールドといった用途においては曇りが大きな問題となり得るため、ポリカーボネート樹脂製品への防曇性の付与が求められている。
【0004】
上述の防曇性の要求に対応するため、様々な方法が提案されている。
例えば、セルローストリアセテートフィルムを鹸化し、防曇性を付与する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、セルローストリアセテートフィルムを貼り合せた樹脂製品は外観品質が劣り、加工歩留まりも良くない。
【0005】
また、特定の親水性モノマーを用いた紫外線硬化型の防曇組成物が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この防曇組成物は有機溶剤の混合系であり、塗装工程で乾燥する際に大気中に放出されることが懸念される。さらに、特許文献2で提案されている防曇組成物においては、防曇性、特に、長時間蒸気に接触した際の防曇性を満足することができなかった。
【0006】
さらに、防曇性塗膜用樹脂組成物として、特定の親水性モノマー、ノニオン系界面活性剤、及びアニオン系界面活性剤を併用したものが提案されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3で提案されている樹脂組成物は、官能基数が少ないモノマーから構成されているために、硬化して得られる塗膜の滑り性が悪く、表面の汚れを拭き取る際に傷が付きやすいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭60-147446号公報
【文献】特開2005-239832号公報
【文献】特開2001-131445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた防曇性、滑り性、及び外観品質を兼ね備えた硬化塗膜を与えることができる防曇組成物、及び、該防曇組成物を硬化させて得られる硬化塗膜を表面に形成した防曇性の成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意研究を重ねた結果、多官能ウレタンアクリレート等を配合した組成物が、優れた防曇性等を実現可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示す防曇組成物、及び、成形品等に関するものである。
【0011】
(I)ウレタンアクリレート(a)、
エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(b)、
官能基の数が2または3であり、前記(b)とは異なる(メタ)アクリレート(c)、及び、
官能基の数が1であり、繰り返しオキシアルキレン骨格を有するモノマー(d)を含み、
前記各成分(a)~(d)の固形分重量比(a)/(b)/(c)/(d)が、5~45/5~70/5~21/5~35であることを特徴とする防曇組成物。
(II)前記ウレタンアクリレート(a)が、下記式(1)で示される6官能ウレタンアクリレートを含む、上記(I)に記載の防曇組成物。
【化1】
(式(1)中、
は、独立して、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキル基であり、
Aは、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキリジン基であり、
Bは、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖状、又は分岐状のアルキレン基、もしくは単結合であり、
pは、0~4の整数である。)
(III)前記エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(b)が、下記式(2)で示されるものを含む、上記(I)に記載の防曇組成物。
【化2】
(式(2)中、
は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、
Xは、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキレン基であり、
mとnは、それぞれ独立して、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示す数値であり、m+nが20~40である。)
(IV)前記(メタ)アクリレート(c)が、下記式(3)で示されるものを含む、上記(I)に記載の防曇組成物。
【化3】
(式(3)中、
は、水素原子又はメチル基を示し、
kは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示す1~5の数値である。)
(V)前記モノマー(d)が、下記式(4-1)、又は下記式(4-2)で示されるものを含む、上記(I)に記載の防曇組成物。
【化4】
(式(4-1)中、
は、炭素数4~20の直鎖状、又は分岐状のアルキル基であり、
は、平均付加モル数を示す1~30の数値であり、
は、0~3の整数であり、
(式(4-2)中、
は、炭素数6~30の直鎖状、又は分岐状のアルキル基であり、
は、水素、又はメチル基であり、
nは、平均付加モル数を示す1~30の数値である。)
(VI)光重合開始剤をさらに含み、紫外線硬化型である、上記(I)~(V)のいずれかに記載の防曇組成物。
(VII)基材上に、上記(VI)に記載の紫外線硬化型の防曇組成物を硬化させた塗膜を有する成形品。
(VIII)前記塗膜の欧州規格EN168に準じた防曇時間が、30秒を超える上記(VII)に記載の成形品。
(IX)基材は、透明樹脂層である、上記(VII)または(VIII)に記載の成形品。
(X)上記(VII)~(IX)のいずれかに記載の成形品を含む、スポーツもしくは産業用のゴーグル。
(XI)上記(VII)~(IX)のいずれかに記載の成形品を含む、ヘルメットシールド。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防曇性組成物を用いれば、優れた防曇性、滑り性、及び外観品質を兼ね備えた防曇性の硬化塗膜を形成することができる。そしてこのように、従来技術に比較して顕著な防曇性を有する硬化塗膜は、親水性が高く、大気中の水分が塗膜表面に吸着しても速やかに膜化させることが可能である。従って、蒸気と接触して曇りが生じたときに速やかに曇りを消失させる性質のみならず、長時間蒸気に接触しても曇りを生じない性質を備えている。
そして、このような本発明の防曇性組成物により、成形品の表面、例えば、ゴーグル、サングラス、偏光メガネ、及び、ヘルメットシールド等の表面に硬化塗膜を形成することにより、これらの成形品に高い防曇性を付与することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1.防曇組成物]
本発明の防曇組成物は、以下に示す成分(a)~(d)からなる光重合性組成物を含む、光重合性の組成物である。
(a)6官能ウレタンアクリレート
(b)エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート
(c)2官能性または3官能性(メタ)アクリレート
(d)単官能基モノマー
以下、これらの各成分について説明する。
【0014】
<成分(a)ウレタンアクリレート>
防曇組成物に含まれる(a)ウレタンアクリレートは、好ましくは、以下の式(1)で表される6官能ウレタンアクリレートを含む。
【化5】
式(1)において、Rは、独立して、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキル基であり、好ましくは、炭素数1~4の直鎖状、又は分岐状のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基である。そして、Rの置換基の個数を定めるpは、0~4の整数であり、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
式(1)において、Aは、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキリジン基であり、好ましくは、炭素数1~3の直鎖状、又は分岐状のアルキリジン基であり、より好ましくは、炭素数2のアルキリジン基である。
また、式(1)において、Bは、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖状、又は分岐状のアルキレン基、もしくは単結合であり、好ましくは、炭素数1のアルキレン基である。
【0015】
(a)6官能ウレタンアクリレートの好ましい具体例として、以下の式(1a)で表されるものが挙げられる。
【化6】
(a)6官能ウレタンアクリレート等のウレタンアクリレートの含有量は、防曇組成物における成分(a)~(d)の合計重量、すなわち、光重合性組成物全体の重量を基準として、5~45重量%であることが好ましく、より好ましくは7~40重量%であり、さらに好ましくは10~30重量%であり、特に好ましくは15~25重量%である。
【0016】
<成分(b)エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート>
防曇組成物に含まれる(b)エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートは、好ましくは、以下の式(2)で表される。
【化7】
式(2)において、Rは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、好ましくは、水素原子である。
式(2)において、Xは、炭素数1~6の直鎖状、又は分岐状のアルキレン基であり、好ましくは、炭素数1~4の直鎖状、又は分岐状のアルキレン基であり、より好ましくは、C(CH=として表されるアルキレン基である。
また、式(2)において、mとnは、それぞれ独立して、エチレンオキサイド(以下、「EO」ともいう)の平均付加モル数を示す数値であり、m+nの値は20~40である。m+nの値は、好ましくは22~37であり、より好ましくは25~35、例えば、約30である。
m+nが上述の範囲内にあれば、防曇組成物、及び硬化後の塗膜層にて親水性が保たれ、充分な防曇性が得られるとともに、硬化塗膜にベトツキ(粘着性)が残らないため表面に傷がつきにくい。
【0017】
上記エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)クリレートとして、市販されているものを使用することができる。具体的には、商品名「Miramer M2300」(MIWON社製、EO平均付加モル数=30)、商品名「BPE-20」(第一工業製薬(株)製、EO平均付加モル数=20)、商品名「FA-321M」(日立化成工業(株)製、EO平均付加モル数=10)、商品名「A-BPE-10」(新中村化学(株)製、EO平均付加モル数=10)、商品名「A-BPE-20」(新中村化学(株)製、EO平均付加モル数=17)等が挙げられるがこれに限られない。
(b)エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートの好ましい具体例として、以下の式(2a)で表されるものが挙げられる。
【化8】
式(2a)において、m+nの値は約30である。
【0018】
(b)エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートの含有量は、防曇組成物における成分(a)~(d)の合計重量、すなわち、光重合性組成物全体の重量を基準として、5~70重量%であることが好ましく、より好ましくは10~65重量%であり、さらに好ましくは20~60重量%であり、特に好ましくは30~55重量%である。
エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)クリレートの含有量が上述の範囲内にあれば、防曇組成物、及び硬化後の塗膜層にて親水性が保たれ、充分な防曇性が得られるとともに、硬化塗膜にベトツキ(粘着性)が残らないため表面に傷がつきにくい。
【0019】
<成分(c)2又は3官能性(メタ)アクリレート>
防曇組成物に含まれる(c)2又は3官能性(メタ)アクリレートは、官能基の数が2または3であって、上記(b)エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートとは異なる(メタ)アクリレートである。成分(c)の(メタ)アクリレートは、好ましくは2官能性であって、具体例が以下の式(3)で表される。
【化9】
式(3)において、Rは、水素原子又はメチル基を示し、好ましくは水素原子である。
また、式(3)において、kは、EOの平均付加モル数を示しており、1~5の数値であることが好ましく、より好ましくは1~3の数値であり、特に好ましくは1である。
成分(c)の2官能性(メタ)アクリレートとして、より具体的には、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、及び、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
(c)2又は3官能性(メタ)アクリレートの含有量は、防曇組成物における成分(a)~(d)の合計重量、すなわち、光重合性組成物全体の重量を基準として、5~21重量%であることが好ましく、より好ましくは6~20重量%であり、さらに好ましくは7~18重量%であり、特に好ましくは8~15重量%である。
【0021】
<成分(d)単官能性モノマー>
防曇組成物に含まれる(d)単官能性モノマーは、官能基の数が1であり、繰り返しオキシアルキレン骨格を有するモノマー(d)である。このようなモノマー(d)の具体例として、好ましくは、以下の式(4-1)、及び、式(4-2)等で表されるものが挙げられる。
【化10】
式(4-1)において、Rは、炭素数4~20の直鎖状、又は分岐状のアルキル基である。Rの炭素数は、好ましくは6~16、より好ましくは8~14、特に好ましくは10~12である。また、Rは、好ましくは、直鎖状のアルキル基であり、置換基を有していてもよい。
式(4-1)において、rは、平均付加モル数を示す1~30の数値であり、好ましくは3~20の数値であり、より好ましくは5~15の数値である。
また、式(4-1)において、rは、0~3の整数であり、好ましくは1又は2、より好ましくは1である。
【0022】
上記式(4-1)で表される(d)単官能性モノマーのより好ましい具体例として、下記式(4-1’)で表されるものが挙げられる。
【化11】
式(4-1’)において、qは、4~20の整数であり、好ましくは6~16、より好ましくは8~14、特に好ましくは10~12である。
また、式(4-1’)において、rは、式(4-1)と同様に平均付加モル数を示す1~30の数値であり、好ましくは3~20の数値であり、より好ましくは5~15の数値である。
【0023】
【化12】
式(4-2)において、Rは、炭素数6~30の直鎖状、又は分岐状のアルキル基である。Rの炭素数は、好ましくは10~28、より好ましくは12~24、特に好ましくは16~22である。また、Rは、好ましくは、直鎖状のアルキル基であり、置換基を有していてもよい。
式(4-2)において、Rは、水素、又はメチル基であり、好ましくはメチル基である。
また、式(4-2)において、nは、平均付加モル数を示す1~30の数値であり、好ましくは3~20の数値であり、より好ましくは5~15の数値である。
【0024】
上記式(4-2)で表される(d)単官能性モノマーのより好ましい具体例としては、下記式式(4-2’)で表されるものが挙げられる。
【化13】
式(4-2’)において、sは、6~30の整数であり、好ましくは10~28、より好ましくは12~24、特に好ましくは16~22、例えば19である。
また、式(4-2’)において、nは、式(4-2)と同様に平均付加モル数を示す1~30の数値であり、好ましくは3~20の数値であり、より好ましくは5~15の数値である。
【0025】
上記単官能性モノマーとして、市販されているものを使用することができる。具体的には、商品名「アクアロンKH」、及び「アクアロンBC-10」(第一工業製薬株式会社製)、商品名「アデカリアソーブSR」、及び「アデカリアソーブSE」(エーテルサルフェート型の界面活性剤:株式会社ADEKA製)等が挙げられるが、これに限られない。
【0026】
(d)単官能性モノマーの含有量は、防曇組成物における成分(a)~(d)の合計重量、すなわち、光重合性組成物全体の重量を基準として、5~35重量%であることが好ましく、より好ましくは10~33重量%であり、さらに好ましくは15~30重量%であり、特に好ましくは18~25重量%である。
【0027】
<各成分(a)~(d)の比率>
防曇組成物において、上記各成分(a)~(d)の固形分重量比(a)/(b)/(c)/(d)は、5~45/5~70/5~21/5~35である。
より好ましくは、固形分重量比(a)/(b)/(c)/(d)は、7~40/10~65/6~20/10~33であり、さらに好ましくは、10~30/20~60/7~18/15~30であり、特に好ましくは、15~25/30~55/8~15/18~25である。
【0028】
本発明の防曇組成物は、成分(a)~(d)からなる光重合性組成物以外にも、光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤を含む防曇組成物は、光、特に紫外線によって硬化する紫外線硬化性を有する。
【0029】
<光重合開始剤>
本発明に使用される光重合開始剤としては、一般に知られているものが使用できる。具体的には、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド等が挙げられるがこの限りではない。
【0030】
防曇組成物における光重合開始剤の含有量は、光重合性組成物(成分(a)~(d))100重量部に対して1~10重量部が好ましく、特に好ましくは2~5重量部である。光重合開始剤の含有量を上記範囲内に調整すると、紫外線硬化型の防曇組成物の硬化不良を生じさせず、なおかつ硬化塗膜の着色を防止することが可能である。
【0031】
<その他の成分>
本発明の防曇組成物には、界面活性剤、シリコーン系、アクリル系重合物等の表面調整剤、一般的な希釈剤、紫外線吸収剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0032】
[2.成形品]
本発明の成形品は、上述の防曇組成物を硬化させた塗膜を有する。成形品において、塗膜は、例えば、成形品の基材上に形成されている。このように硬化塗膜は、成形品において、基材の表面の少なくとも一部を覆うように積層されていることが好ましい。
【0033】
成形品に含まれる基材は、透明樹脂層であることが好ましく、ポリカーボネートを含む樹脂によって形成されていることが好ましい。また、基材のみならず、本発明の成形品は、主としてポリカーボネート樹脂により形成された製品であることが好ましい。
このような成形品は、従来公知のポリカーボネート樹脂材料から成形されるものであればよい。
【0034】
成形品の材料となるポリカーボネート樹脂として、ポリヒドロキシ化合物の炭酸エステル重合物であり、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量の他のポリヒドロキシ化合物とホスゲンとから界面重合法により得られる熱可塑性ポリカーボネート重合体、及び、上記芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により作られる分岐していてもよい熱可塑性ポリカーボネート重合体等が挙げられる。一般的には、ビスフェノールAを芳香族ジヒドロキシ化合物の主原料とする炭酸エステル重合物が使用される。
【0035】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、通常の押出成形によりシートを製造できることが好ましく、粘度平均分子量は15,000~40,000、好ましくは20,000~35,000、より好ましくは22,000~30,000である。特に耐衝撃性が求められる用途では27,000~30,000がより好ましい。ポリカーボネート樹脂には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良く、添加剤としては、例えば、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染顔料などが挙げられる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂成形体にはあらゆる形状の成形品が含まれるが、本発明の効果を十分に発揮するためには、シート状の基材であることが好ましい。シート状の基材の厚みは特に限定されないが、好ましくは0.5~4.0mm、より好ましくは1.0~3.0mm程度である。シート状基材は、熱成形により所望の形状に賦型することもできる。
【0037】
本発明においては、紫外線硬化型の防曇組成物を基材に塗布し、硬化塗膜(防曇塗膜層)を形成する。硬化塗膜を形成するコーティング処理は、ロールコート、スピンコートや特開2004-130540号公報に提案された方法などが適用できる。紫外線によって硬化する際は、酸素存在下では硬化阻害を起こすことがあるため、窒素雰囲気下での硬化やPETフィルムなどのカバーフィルムをかぶせる方法、ガラス基板とポリカーボネート樹脂の間に塗料を挟み込む方法などが好ましい。
【0038】
種々の塗装方法に対応するためには、防曇組成物に有機溶剤を加えて粘度調整を行っても良い。
【0039】
紫外線によって硬化した防曇塗膜層の厚さは3~30μm、好ましくは4~20μm、さらに好ましくは5~12μmである。防曇塗膜層の厚さが3μm未満であると表面硬度の改良効果が不十分になりやすく、逆に30μmを超えると熱成形性が低下し、コスト的にも不利である。
【0040】
また、本発明の防曇組成物を硬化させて得られる防曇塗膜層は、防曇性に優れている。より具体的には、欧州規格EN168に準じた防曇時間が30秒を超える防曇塗膜層が、本発明の防曇組成物により製造できる。
【0041】
そしてこのように、防曇性に優れた防曇塗膜層を有する本発明の成形品は、ゴーグル、サングラス、偏光メガネ、ヘルメットシールドといった用途において特に好適に用いられる。すなわち、本発明の成形品を少なくとも一部に含むスポーツもしくは産業用のゴーグル、及びヘルメットシールド等においては、優れた防曇性が認められる。
【0042】
本発明の成形品をゴーグル、ヘルメットシールド、水中眼鏡、サングラス等として使用する際は、防曇処理面と反対の面にハードコート処理を行うことが望ましい。更には、熱成形が可能なハードコート剤による処理が望ましい。
【0043】
熱成形が可能なハードコート剤の一例として、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーと2官能アクリレートに有機溶剤と光重合開始剤を配合した紫外線硬化タイプのものやメラミン系樹脂を配合した熱硬化タイプのウレタン・メラミン・アルキッド樹脂などがある。紫外線硬化タイプのハードコート剤の具体例としてUT-001(日本ビーケミカル)が、熱硬化タイプのハードコート剤の具体例としてユピカコートES-7614(日本ユピカ)などが挙げられる。
【実施例
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0045】
まず、防曇組成物(樹脂組成物)を製造するために、材料となる(a)~(d)の成分として以下の製品を用いた。
(a)6官能ウレタンアクリレート:ダイセル・オルネクス製EBECRYL220
(b)エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(EO平均付加モル数=30):MIWON製Miramer M2300
(c)2官能アクリレート:日本触媒製VEEA
(d)単官能アリレート:第一工業製薬製KH-10
【0046】
(実施例1)
上記各成分、すなわち、(a)7.1重量部、(b)64.4重量部、(c)7.1重量部、(d)21.4重量部を混合し、UV硬化性の樹脂組成物(光重合性組成物)を得た。
このUV硬化性樹脂組成物100重量部に対し、光重合開始剤I-184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン)を5重量部、添加し、撹拌した。この混合物を、溶媒であるPGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)にて固形分が30重量%となるように濃度を調整して、ポリカーボネートシート(以下、PCシート:0.7mm厚)に塗装し、60℃にて3分乾燥した。その後、PCシートをUV硬化(積算光量500mJ/cm)させ、試験片としての成形品を得た。なお、PCシートは、芳香族ポリカーボネート樹脂(MGCフィルシート株式会社製、ユーピロンNF-2000)により形成した。
【0047】
(実施例2~8、及び比較例1~5)
上記(a)~(d)の各成分の配合量を下記表1に示すように変更した他、実施例1と同様の方法で、試験片としての成形品を得た。
各実施例、及び比較例の試験片について、以下のように評価した。
【0048】
<評価法>
外観:目視で透明性を確認し、充分に透明であると判断したものを良好とした。
防曇性:EN168(EN168:2001(E)の“16 Test for resistance to fogging of ocular”)に従って50℃蒸気下で防曇時間を評価し、30秒以上の防曇時間が認められたものを良好、30秒以上の防曇時間が認められなかったものを不良と判定した。
滑り性:指触評価により、ハードコート上で指が滑るものを良好とした。
以上の項目についての評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
各実施例は、いずれも、外観、防曇性、及び滑り性のすべての性能を満足するものであった。一方、比較例はいずれも、防曇性に劣る結果を示した。