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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】補修溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
B23K31/00 D
B23K31/00 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018136325
(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公開番号】P2020011274
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】本田 雅幹
(72)【発明者】
【氏名】西尾 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】駒井 伸好
(72)【発明者】
【氏名】時吉 巧
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正昭
(72)【発明者】
【氏名】富永 公彦
(72)【発明者】
【氏名】大山 博之
(72)【発明者】
【氏名】坂田 文稔
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 耕一
(72)【発明者】
【氏名】村上 英治
(72)【発明者】
【氏名】山口 明範
(72)【発明者】
【氏名】西 文雄
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-194458(JP,A)
【文献】特開2015-116603(JP,A)
【文献】特開2014-147949(JP,A)
【文献】特開昭56-160872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の第1端部と第2端部とが溶接によって接続された部材の補修溶接方法であって、
前記部材の既設溶接部における第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する工程と、
前記部位の除去後に補修溶接を行う工程と、
を備え、
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記既設溶接部における前記第1熱影響部と前記補修溶接による第2熱影響部との全ての交差部において、前記第1熱影響部と前記第2熱影響部との交差角度は、70度以上110度以下である
補修溶接方法。
【請求項2】
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記補修溶接は、前記第1端部側の前記母材から前記第2端部側の前記母材にわたって行われ、
前記第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する前の、前記第1端部側の前記母材に生じた前記第1熱影響部と、前記第2端部側の前記母材に生じた前記第1熱影響部との前記母材の表面における第1間隔に対して、前記第1端部側の前記母材に生じた前記第2熱影響部と、前記第2端部側の前記母材に生じた前記第2熱影響部との前記母材の表面における第2間隔は、前記第1間隔の1.1倍以上2.0倍以下である、
請求項1に記載の補修溶接方法。
【請求項3】
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記補修溶接は、前記第1端部側の前記母材から前記第2端部側の前記母材にわたって行われ、
前記第1端部側の前記交差部と前記第2端部側の前記交差部との第3間隔は、前記第2熱影響部のうち、前記補修溶接の溶接金属の表面から前記第2熱影響部までの深さの最大値の0.8倍の深さとなる前記第1端部側の位置と、該最大値の0.8倍の深さとなる前記第2端部側の位置との第4間隔以下である
請求項1又は2に記載の補修溶接方法。
【請求項4】
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記既設溶接部の溶接金属に前記補修溶接により生じた第2熱影響部の延在方向と、前記部材の厚さ方向との交差角度は、70度以上110度以下である
請求項1乃至3の何れか一項に記載の補修溶接方法。
【請求項5】
前記補修溶接の溶接止端部は、前記母材内に存在する
請求項1乃至4の何れか一項に記載の補修溶接方法。
【請求項6】
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記補修溶接は、前記第1端部側の前記母材から前記既設溶接部の溶接金属にわたって行われ、
前記第1端部側の前記母材の表面に現れる前記第2熱影響部の位置と、前記既設溶接部の前記溶接金属の表面に現れる前記第2熱影響部の位置との中間位置は、前記第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する前の前記既設溶接部の前記溶接金属内に存在する
請求項1に記載の補修溶接方法。
【請求項7】
前記補修溶接を行う工程に先立ち、前記第1熱影響部の形状を計測する工程と、
前記第1熱影響部の形状を計測する工程で計測した前記第1熱影響部の形状に基づいて、前記第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する工程における除去範囲を決定する工程と、
をさらに備える
請求項1乃至6の何れか一項に記載の補修溶接方法。
【請求項8】
前記第1熱影響部の形状を計測する工程は、フェイズドアレイ法による超音波探傷によって前記第1熱影響部の形状を計測する、または、エッチングにより前記第1熱影響部の形状を現出させて前記第1熱影響部の形状を計測する
請求項7に記載の補修溶接方法。
【請求項9】
前記母材は、高強度フェライト系耐熱鋼である
請求項1乃至8の何れか一項に記載の補修溶接方法。
【請求項10】
前記部材は、ボイラ配管である
請求項1乃至9の何れか一項に記載の補修溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、補修溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接部を有する部材が使用された後、補修のために補修溶接が行われることがある。
例えば、火力・原子力発電プラントや化学プラント等におけるボイラやタービンの高温配管等では、長期間の使用により溶接部にクリープ損傷が生じることがある。
このような場合に、クリープ損傷が生じた配管の全体を取り換えるのではなく、クリープ損傷が生じた部位を切除し、その切除した部分に補修溶接を施すことが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭60-008148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の補修溶接方法では、本溶接接手溶着金属、すなわち、既設の溶接部の溶接金属の内部に補修溶接によって生じる熱影響部の延在方向を考慮することで該熱影響部に作用する応力が小さくなるようにしている。
ところで、既設の溶接部の熱影響部と補修溶接の熱影響部とが重複する領域では、既設の溶接部の溶接の際、及び補修溶接の際の双方で熱の影響を受けており、既設の溶接部の溶接の際、又は補修溶接の際の何れか一方の熱の影響だけを受けている領域と比べると、作用する応力によって損傷を受け易いことが分かってきている。そのため、既設の溶接部の熱影響部と補修溶接の熱影響部とが重複する領域ができるだけ生じないようにすることが望ましい。しかし、特許文献1に記載の補修溶接方法では、既設の溶接部の熱影響部と補修溶接の熱影響部とが重複する領域については特に言及されていない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、補修溶接の熱影響部が部材の寿命に与える影響を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る補修溶接方法は、
母材の第1端部と第2端部とが溶接によって接続された部材の補修溶接方法であって、
前記部材の既設溶接部における第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する工程と、
前記部位の除去後に補修溶接を行う工程と、
を備え、
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記既設溶接部における前記第1熱影響部と前記補修溶接による第2熱影響部との全ての交差部において、前記第1熱影響部と前記第2熱影響部との交差角度は、70度以上110度以下である。
【0007】
母材及び既設溶接部を含む断面において、既設溶接部における第1熱影響部と補修溶接による第2熱影響部との交差部では、上述したように、作用する応力によって損傷を受け易いため、該交差部ができるだけ生じないようにすることが望ましい。母材及び既設溶接部を含む断面において、第1熱影響部及び第2熱影響部がそれぞれ溶接金属と接する境界面に沿って一定の幅をもって形成されているので、第1熱影響部と第2熱影響部との交差角度が90度であれば、交差部の断面積を最も小さくすることができ、交差角度が90度からずれるほど、交差部の断面積が大きくなる。
その点、上記(1)の方法によれば、第1熱影響部と第2熱影響部との交差角度が70度以上110度以下であるので、母材及び既設溶接部を含む断面において、交差部の断面積が大きくなることを抑制できる。これにより、補修溶接による部材の寿命の低下を抑制できる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記補修溶接は、前記第1端部側の前記母材から前記第2端部側の前記母材にわたって行われ、
前記第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する前の、前記第1端部側の前記母材に生じた前記第1熱影響部と、前記第2端部側の前記母材に生じた前記第1熱影響部との前記母材の表面における第1間隔に対して、前記第1端部側の前記母材に生じた前記第2熱影響部と、前記第2端部側の前記母材に生じた前記第2熱影響部との前記母材の表面における第2間隔は、前記第1間隔の1.1倍以上2.0倍以下である。
【0009】
上記(2)の方法によれば、上記第2間隔が上記第1間隔の1.1倍以上であるので、母材の表面近傍で第1熱影響部と第2熱影響部とが重複することを抑制できる。また、上記(2)の方法によれば、上記第2間隔が上記第1間隔の2.0倍以下であるので、補修溶接の範囲を抑制できる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記補修溶接は、前記第1端部側の前記母材から前記第2端部側の前記母材にわたって行われ、
前記第1端部側の前記交差部と前記第2端部側の前記交差部との第3間隔は、前記第2熱影響部のうち、前記補修溶接の溶接金属の表面から前記第2熱影響部までの深さの最大値の0.8倍の深さとなる前記第1端部側の位置と、該最大値の0.8倍の深さとなる前記第2端部側の位置との第4間隔以下である。
【0011】
上記(3)の方法によれば、第1端部側の交差部及び第2端部側の交差部の深さ、すなわち補修溶接の溶接金属の表面からの深さを補修溶接の溶接金属の表面から第2熱影響部までの深さの最大値の0.8倍以上とすることができる。これにより、前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、第1端部側の交差部及び第2端部側の交差部の深さ方向の位置を第2熱影響部における最も深い位置に近づけることができる。したがって、第1端部側の交差部及び第2端部側の交差部における第2熱影響部の延在方向を深さ方向に対して直交する方向に近づけることができる。そのため、交差部における第1熱影響部が深さ方向と略同じ方向に延在していれば、交差部における上記の交差角度を90度に近づけることができ、交差部の断面積が大きくなることを抑制できる。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの方法において、前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記既設溶接部の溶接金属に前記補修溶接により生じた第2熱影響部の延在方向と、前記部材の厚さ方向との交差角度は、70度以上110度以下である。
【0013】
既設溶接部の溶接金属に補修溶接により生じた第2熱影響部、すなわち、既設溶接部の溶接金属内の第2熱影響部は、母材の第2熱影響部や補修溶接の熱の影響を受けていない既設溶接部の溶接金属よりも作用する応力によって損傷を受け易い。そのため、上記の部材に対して第1端部側と第2端部側とが互いに離間する方向に引張応力が作用する場合、この引張応力が作用する方向から見たときの、既設溶接部の溶接金属内の第2熱影響部の投影面積は小さい方が望ましい。
その点、上記(4)の方法によれば、前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、既設溶接部の溶接金属内の第2熱影響部の延在方向と、部材の厚さ方向との交差角度が70度以上110度以下であるので、既設溶接部の溶接金属内の第2熱影響部の延在方向が上述した引張応力が作用する方向に近づき、上記投影面積を抑制できる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの方法において、前記補修溶接の溶接止端部は、前記母材内に存在する。
【0015】
上記(5)の方法によれば、補修溶接の溶接止端部が既設溶接の溶接金属内に存在する場合と比べて、該溶接金属における第2熱影響部の領域を減らすことができる。
【0016】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記母材及び前記既設溶接部を含む断面において、前記補修溶接は、前記第1端部側の前記母材から前記既設溶接部の溶接金属にわたって行われ、
前記第1端部側の前記母材の表面に現れる前記第2熱影響部の位置と、前記既設溶接部の前記溶接金属の表面に現れる前記第2熱影響部の位置との中間位置は、前記第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する前の前記既設溶接部の前記溶接金属内に存在する。
【0017】
上記(6)の方法によれば、交差部の断面積が大きくなることを抑制しつつ、第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する工程における除去量、及び、補修溶接による溶接金属の体積を減らすことができ、補修溶接のための工数を削減できる。
【0018】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の方法において、
前記補修溶接を行う工程に先立ち、前記第1熱影響部の形状を計測する工程と、
前記第1熱影響部の形状を計測する工程で計測した前記第1熱影響部の形状に基づいて、前記第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去する工程における除去範囲を決定する工程と、
をさらに備える。
【0019】
上記(7)の方法によれば、第1熱影響部と第2熱影響部との交差角度が70度以上110度以下となるように、第1熱影響部の少なくとも一部を含む部位を除去することができるようになる。これにより、母材及び既設溶接部を含む断面において、交差部の断面積が大きくなることを抑制でき、補修溶接による部材の寿命の低下を抑制できる。
【0020】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の方法において、前記第1熱影響部の形状を計測する工程は、フェイズドアレイ法による超音波探傷によって前記第1熱影響部の形状を計測する、または、エッチングにより前記第1熱影響部の形状を現出させて前記第1熱影響部の形状を計測する。
【0021】
上記(8)の方法によれば、フェイズドアレイ法による超音波探傷によって第1熱影響部の形状を計測することで、第1熱影響部の形状を非破壊で計測できる。また、上記(8)の方法によれば、エッチングという簡易な方法によって部材の表面に第1熱影響部の形状を現出させることで、第1熱影響部の形状の計測が容易になる。
【0022】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの方法において、前記母材は、高強度フェライト系耐熱鋼である。
【0023】
上記(9)の方法は、母材が高強度フェライト系耐熱鋼で形成された部材の補修溶接に適している。
【0024】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れかの方法において、前記部材は、ボイラ配管である。
【0025】
上記(10)の方法は、ボイラ配管の補修溶接に適している。
【発明の効果】
【0026】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、補修溶接の熱影響部が部材の寿命に与える影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】幾つかの実施形態に係る補修溶接方法が適用される部材の一例としての配管の一部を示す図である。
図2】母材及び既設溶接部を含む配管の断面の一部を模式的に示す図である。
図3】幾つかの実施形態に係る補修溶接方法の処理の手順を示すフローチャートである。
図4】母材及び既設溶接部を含む配管の断面の一部についての一例を示す図であり、(a)は断面のマクロ組織を示す図であり、(b)は該断面のフェイズドアレイ法による超音波探傷の結果を示すコンタ図である。
図5】マイクロエッチングを行った後の配管の表面の一例を示す図である。
図6】除去工程S30において除去範囲を除去した後の配管の断面の一部を模式的に示す図である。
図7】除去工程S30において除去範囲を除去した後の配管の断面の一部を模式的に示す図である。
図8】除去工程S30において除去範囲を除去した後の配管の断面の一部を模式的に示す図である。
図9】補修溶接後の配管の断面の一部を模式的に示す図である。
図10】補修溶接後の配管の断面の一部を模式的に示す図である。
図11】補修溶接後の配管の断面の一部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0029】
図1は、幾つかの実施形態に係る補修溶接方法が適用される部材の一例としての配管の一部を示す図である。
幾つかの実施形態に係る補修溶接方法が適用される部材(対象物)は、例えば火力・原子力発電プラントや化学プラント等におけるボイラやタービンの高温配管等である。このような高温配管(配管)1には、複数の種類の溶接個所が存在する。例えば、高温配管1には、配管同士を接続する円周溶接部や、配管と分岐管とを接続する管台溶接部が存在する。また、配管1が板状部材から製造されている場合には、図1に示すように、母材である板の端部同士を接続するために管軸方向に延在する長手溶接部10が存在する。
【0030】
この高温配管1のように、高温高圧の環境下で長時間使用される部材には、溶接部、特に熱影響部(HAZ部)においてクリープ損傷により亀裂が発生するおそれがある。以下の説明では、配管1の長手溶接部10の熱影響部に亀裂が発生した場合を例に挙げて説明する。図2は、母材2及び既設溶接部11を含む配管1の断面の一部を模式的に示す図である。すなわち、図2は、管軸方向と直交する方向に切断した配管1の断面(管軸方向から見た断面)の一部を模式的に示す図である。なお、図2において、左右方向は配管1の周方向であり、上側は径方向外側であり、下側は径方向内側である。以下の説明では、補修溶接を行う前から存在している長手溶接部10を既設溶接部11と呼ぶ。
【0031】
既設溶接部11は、配管1の母材2の第1端部3と第2端部4とを接続する溶接部であり、溶接金属5と、既設溶接部11の溶接時の熱の影響を受けることで母材2に生じた熱影響部6とを含む。図2に示す配管1では、第1端部3側の熱影響部6に亀裂7が生じたものとする。なお、配管1には、主として配管1の内部を流通する流体の圧力によってフープ応力が作用する。そのため、既設溶接部11には、主として周方向、すなわち図2における左右方向への引張応力が作用する。
【0032】
例えば、幾つかの実施形態では、プラントの定期検査の際に、配管1の検査が行われる。以下の説明では、定期検査によって配管1に生じた亀裂7が見つかり、配管1を補修溶接によって補修することになった場合について説明する。
配管1に亀裂7が生じた場合、亀裂7を含む配管1の一部の領域を除去し、その除去した部位に補修溶接を行うことで配管1を補修することができる。しかし、補修溶接を行うことで配管1には補修溶接による熱の影響を受けた熱影響部が生じる。以下の説明では、既設溶接部11の溶接時の熱の影響を受けることで母材2に生じた熱影響部6を第1熱影響部6とも呼ぶ。そして、補修溶接部21(図9図11参照)の溶接時の熱の影響を受けることで生じる熱影響部を第2熱影響部26(図9図11参照)と呼ぶ。
【0033】
例えば、後述する図6図8に示すように、既設溶接部11を含む配管1の一部を除去した後、後述する図9図11に示すように補修溶接を行うと、第1熱影響部6と第2熱影響部26とが重複する領域が生じる。この重複領域を、以下の説明では、重複熱影響部36と呼ぶこととする。
重複熱影響部36では、第1熱影響部6や第2熱影響部26のように、既設溶接部11の溶接の際、又は補修溶接の際の何れか一方の熱の影響だけを受けている領域と比べると、作用する応力によって損傷を受け易いことが分かってきている。そのため、補修溶接を行うにあたり、重複熱影響部36が生じる場合には、重複熱影響部36の大きさをできる限り小さくすることが望ましい。
【0034】
そこで、幾つかの実施形態に係る補修溶接方法では、以下のようにして、重複熱影響部36の大きさをできる限り小さくするようにしている。
図3は、幾つかの実施形態に係る補修溶接方法の処理の手順を示すフローチャートである。幾つかの実施形態に係る補修溶接方法は、熱影響部形状計測工程S10と、除去範囲決定工程S20と、除去工程S30と、補修溶接工程S40とを含む。
幾つかの実施形態に係る補修溶接方法の概略の流れは、次のとおりである。幾つかの実施形態に係る補修溶接方法では、熱影響部形状計測工程S10で第1熱影響部6の形状を計測し、その計測結果に基づいて、配管1から除去する範囲を除去範囲決定工程S20で決定する。そして、除去範囲決定工程S20で決定された除去範囲を除去工程S30で除去し、その除去した部分に補修溶接工程S40で補修溶接を行う。以下、各工程の詳細について説明する。
【0035】
(熱影響部形状計測工程S10)
熱影響部形状計測工程S10は、補修溶接工程S40に先立ち、第1熱影響部6の形状を計測する工程である。重複熱影響部36の大きさをできる限り小さくするためには、補修溶接を行う領域をどのような形状に設定すればよいのかを検討する必要があり、そのためには、既設溶接部11の熱影響部6の形状を把握する必要がある。そこで、幾つかの実施形態に係る補修溶接方法では、熱影響部形状計測工程S10において、亀裂7の近傍の熱影響部6の形状を計測する。
【0036】
具体的には、熱影響部形状計測工程S10では、例えばフェイズドアレイ法による超音波探傷によって、亀裂7の近傍の熱影響部6の形状を計測する。図4は、母材2及び既設溶接部11を含む配管1の断面の一部についての一例を示す図である。図4(a)は、断面のマクロ組織を示す図であり、図4(b)は、該断面のフェイズドアレイ法による超音波探傷の結果を示すコンタ図である。説明の便宜上、図4(a)及び図4(b)には、母材2及び溶接金属5と、第1熱影響部6との境界を破線で示している。図4(b)における2点鎖線12は、配管1の形状を表す仮想線である。
【0037】
図4(b)に示したコンタ図13から明らかであるように、フェイズドアレイ法による超音波探傷によって、熱影響部6の形状を計測することができる。なお、コンタ図13には、配管1の内周面における裏面エコー14が現れる。また、コンタ図13には、溶接金属5中のノイズ15やウェッジノイズ16が現れることもある。そのため、これら裏面エコー14やノイズ15,16が現れることを考慮して、第1熱影響部6の形状を特定する必要がある。
なお、定期検査においてフェイズドアレイ法による超音波探傷によって配管1の損傷の有無を検査する場合には、当該検査によって得られた検査結果に基づいて亀裂7の近傍の熱影響部6の形状の情報を取得してもよい。
【0038】
なお、フェイズドアレイ法以外にも、他の方法による超音波探傷によって亀裂7の近傍の熱影響部6の形状を計測してもよい。
このように、フェイズドアレイ法等の超音波探傷によって第1熱影響部6の形状を計測することで、第1熱影響部6の形状を非破壊で計測できる。
【0039】
また、熱影響部形状計測工程S10では、例えばエッチングにより第1熱影響部6の形状を現出させて第1熱影響部6の形状を計測するようにしてもよい。図5は、エッチングを行った後の配管1の表面の一例を示す図である。図5から明らかなように、例えばエッチングを行うことで、配管1の外周面における第1熱影響部6の位置や形状を計測することができる。なお、配管1の内部の第1熱影響部6の形状は、開先形状等、既設溶接部11に関する設計情報に基づいて推定することができる。
エッチングという簡易な方法によって配管1の表面に第1熱影響部6の形状を現出させることで、第1熱影響部6の形状の計測が容易になる。
なお、第1熱影響部6の形状を計測しなくても後述するように第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度を所望の角度とすることができる場合には、上述した熱影響部形状計測工程S10は、必ずしも実施する必要はない。
【0040】
(除去範囲決定工程S20)
除去範囲決定工程S20は、熱影響部形状計測工程S10で計測した第1熱影響部6の形状に基づいて、除去工程S30における除去範囲を決定する工程である。
例えば図9に示すように、母材2及び既設溶接部11を含む配管1の断面において、第1熱影響部6は、溶接金属5と接する境界面に沿って該境界面から母材2側に向かう一定の幅W1をもって形成されている。同様に、母材2及び既設溶接部11を含む配管1の断面において、第2熱影響部26は、補修溶接の溶接金属25と接する境界面に沿って一定の幅W2をもって形成されている。したがって、母材2及び既設溶接部11を含む配管1の断面において、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度θ1~θ5が90度であれば、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差部、すなわち重複熱影響部36の断面積を最も小さくすることができる。逆に、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度θ1~θ5が90度からずれるほど、重複熱影響部36の断面積が大きくなる。
【0041】
そこで、幾つかの実施形態に係る除去範囲決定工程S20では、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度θ1~θ5が70度以上110度以下となるように、且つ、亀裂7を除去するように、除去工程S30における除去範囲を決定する。
具体的には、幾つかの実施形態に係る除去範囲決定工程S20では、除去工程S30で配管1の一部を除去した後に表れる表面から配管1を構成する部材の内部側に一定の幅W2をもって第2熱影響部26が形成されることを考慮して、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度が70度以上110度以下となるように、除去工程S30における除去範囲を決定する。
【0042】
例えば、一実施形態に係る除去範囲決定工程S20では、図6に示すように、亀裂7が生じていた第1端部3側の熱影響部6の一部だけでなく、亀裂7が生じていなかった第2端部4側の熱影響部6の一部も除去範囲40として決定する。なお、図6は、次に述べる除去工程S30において除去範囲40を除去した後の配管1について、母材2及び既設溶接部11を含む断面の一部を模式的に示す図である。
図6に示す実施形態では、除去範囲40の底面、すなわち、当該除去範囲40を除去した後に表れる表面のうち、周方向(図示左右方向)に延在する面41は、図6に模式的に示すように平面状としてもよく、図示はしていないが、配管1の軸線を中心とする曲面状としてもよく、平面状とした場合よりも周方向の中央側に向かうにつれて除去範囲40の深さが深くなるようにしてもよい。
【0043】
また、図6に示す一実施形態では、除去範囲40の側面、すなわち、当該除去範囲40を除去した後に表れる表面のうち、母材2の厚さ方向(図示上下方向)に延在する、第1端部3側の面42及び第2端部4側の面42は、図6に模式的に示すように、配管1の外周面1aから母材2の厚さ方向と略同じ方向に延在し、且つ、除去範囲40が配管1の径方向内側に向かうにつれて狭くなるように、その延在方向を設定してもよい。
なお、第1端部3側の面42及び第2端部4側の面42の延在方向を母材2の厚さ方向(配管1の径方向)に近づけることで、除去範囲40を狭める、すなわち、補修溶接を行う範囲を狭めることができ、除去及び補修溶接に要する工数を抑制できる。
【0044】
例えば、他の実施形態に係る除去範囲決定工程S20では、図7に示すように、亀裂7が生じていた第1端部3側の熱影響部6の一部を除去範囲40として決定する。なお、図7は、次に述べる除去工程S30において除去範囲40を除去した後の配管1について、母材2及び既設溶接部11を含む断面の一部を模式的に示す図である。
図7に示す実施形態では、面41は、図6に示した一実施形態の場合と同様に、図7に模式的に示すように平面状としてもよく、図示はしていないが、配管1の軸線を中心とする曲面状としてもよい。
【0045】
また、図7に示す他の実施形態では、第1端部3側の面42及び溶接金属5に形成された面42は、図6に示した一実施形態の場合と同様に、図7に模式的に示すように、配管1の外周面1aから母材2の厚さ方向と略同じ方向に延在し、且つ、除去範囲40が配管1の径方向内側に向かうにつれて狭くなるように、その延在方向を設定してもよい。
【0046】
例えば、さらに他の実施形態に係る除去範囲決定工程S20では、図8に示すように、亀裂7が生じていた第1端部3側の熱影響部6の一部だけでなく、亀裂7が生じていなかった第2端部4側の熱影響部6の一部も除去範囲40として決定する。なお、図8は、次に述べる除去工程S30において除去範囲40を除去した後の配管1について、母材2及び既設溶接部11を含む断面の一部を模式的に示す図である。
図8に示す実施形態では、面41は、第1端部3側の熱影響部6の延在方向と直交する方向に近づくように傾斜した第1面41aと、第2端部4側の熱影響部6の延在方向と直交する方向に近づくように傾斜した第2面41bとを含む。すなわち、図8に示した、さらに他の実施形態では、延在方向がわずかに異なる第1端部3側の熱影響部6と、第2端部4側の熱影響部6とに合わせて、第1面41aの延在方向、及び、第2面41bの延在方向を個別に設定している。
【0047】
また、図8に示す、さらに他の実施形態では、第1端部3側の面42及び第2端部4側の面42は、図6に示した一実施形態の場合と同様に、図8に模式的に示すように、配管1の外周面1aから母材2の厚さ方向と略同じ方向に延在し、且つ、除去範囲40が配管1の径方向内側に向かうにつれて狭くなるように、その延在方向を設定してもよい。
【0048】
このように、幾つかの実施形態に係る補修溶接方法では、熱影響部形状計測工程S10と除去範囲決定工程S20とを備えるので、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度が70度以上110度以下となるように、除去範囲40を設定して除去することができるようになる。これにより、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、重複熱影響部36の断面積が大きくなることを抑制でき、補修溶接による配管1の寿命の低下を抑制できる。
【0049】
(除去工程S30)
除去工程S30は、既設溶接部11における第1熱影響部6の少なくとも一部を含む部位を除去する工程である。
除去工程S30では、例えばグラインダ等の研削工具を用いて、除去範囲決定工程S20で決定した除去範囲40を配管1から除去する。除去工程S30で除去範囲40を除去した後の配管1は、上述したように、図6図8に示すような断面形状となる。
【0050】
(補修溶接工程S40)
補修溶接工程S40は、除去範囲40の除去後に補修溶接を行う工程である。
一実施形態に係る補修溶接工程S40では、図9に示すように、補修溶接を行う。なお、図9は、母材2及び既設溶接部11を含む配管1の断面の一部を模式的に示す図であり、一実施形態に係る除去工程S30で図6に示す除去範囲40を除去した後に補修溶接を行った場合について示す図である。
他の実施形態に係る補修溶接工程S40では、図10に示すように、補修溶接を行う。なお、図10は、母材2及び既設溶接部11を含む配管1の断面の一部を模式的に示す図であり、他の実施形態に係る除去工程S30で図7に示す除去範囲40を除去した後に補修溶接を行った場合について示す図である。
さらに他の実施形態に係る補修溶接工程S40では、図11に示すように、補修溶接を行う。なお、図11は、母材2及び既設溶接部11を含む配管1の断面の一部を模式的に示す図であり、さらに他の実施形態に係る除去工程S30で図8に示す除去範囲40を除去した後に補修溶接を行った場合について示す図である。
なお、説明の便宜上、図9図11において、既設溶接部11の第1熱影響部6が存在していた位置を2点鎖線で表している。
【0051】
幾つかの実施形態に係る補修溶接工程S40で補修溶接が行われた後の配管1は、次のような特徴を有する。換言すると、補修溶接後の配管1が次のような特徴を有するように、除去範囲決定工程S20で除去範囲40が決定されている。
【0052】
図9図11に示す幾つかの実施形態では、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、既設溶接部11における第1熱影響部6と補修溶接による第2熱影響部26との全ての交差部(重複熱影響部36)において、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度θ1~θ5は、70度以上110度以下である。
【0053】
母材2及び既設溶接部11を含む断面において、既設溶接部11の第1熱影響部6と補修溶接部21の第2熱影響部26との交差部(重複熱影響部36)では、上述したように、作用する応力によって損傷を受け易いため、重複熱影響部36ができるだけ生じないようにすることが望ましい。
また、上述したように、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、第1熱影響部6及び第2熱影響部26がそれぞれ溶接金属5,25と接する境界面に沿って一定の幅W1,W2をもって形成されているので、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度θ1~θ5が90度であれば、重複熱影響部36の断面積を最も小さくすることができ、交差角度θ1~θ5が90度からずれるほど、重複熱影響部36の断面積が大きくなる。
その点、図9図11に示す幾つかの実施形態では、第1熱影響部6と第2熱影響部26との交差角度θ1~θ5が70度以上110度以下であるので、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、重複熱影響部36の断面積が大きくなることを抑制できる。これにより、補修溶接による配管1の寿命の低下を抑制できる。
【0054】
図9及び図11に示す実施形態では、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、補修溶接は、第1端部3側の母材2から第2端部4側の母材2にわたって行われる。
そして、除去範囲40を除去する前の、第1端部3側の母材2に生じた第1熱影響部6と、第2端部4側の母材2に生じた第1熱影響部6との母材2の表面における第1間隔d1に対して、第1端部3側の母材2に生じた第2熱影響部26と、第2端部4側の母材2に生じた第2熱影響部26との母材2の表面における第2間隔d2は、第1間隔d1の1.1倍以上2.0倍以下である。
第2間隔d2を第1間隔d1の1.1倍以上とすることで、母材2の表面近傍で第1熱影響部6と第2熱影響部26とが重複することを抑制できる。また、第2間隔d2を第1間隔d1の2.0倍以下とすることで、補修溶接の範囲を抑制できる。
【0055】
図9に示す一実施形態では、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、補修溶接は、第1端部3側の母材2から第2端部4側の母材2にわたって行われる。
そして、第1端部3側の重複熱影響部36と第2端部4側の重複熱影響部36との第3間隔d3は、第2熱影響部26のうち、溶接金属25の表面から第2熱影響部26までの深さhの最大値hmaxの0.8倍の深さとなる第1端部3側の位置P1と、該最大値hmaxの0.8倍の深さとなる第2端部4側の位置P2との第4間隔d4以下である。
【0056】
これにより、第1端部3側の重複熱影響部36及び第2端部4側の重複熱影響部36の深さHを補修溶接の溶接金属の表面から第2熱影響部26までの深さhの最大値hmaxの0.8倍以上とすることができる。これにより、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、第1端部3側の重複熱影響部36及び第2端部4側の重複熱影響部36の深さ方向の位置を第2熱影響部26における最も深い位置に近づけることができる。したがって、第1端部3側の重複熱影響部36及び第2端部4側の重複熱影響部36における第2熱影響部26の延在方向を深さ方向に対して直交する方向に近づけることができる。そのため、重複熱影響部36における第1熱影響部6が深さ方向と略同じ方向に延在していれば、重複熱影響部36における交差角度θ1,θ2を90度に近づけることができ、重複熱影響部36の断面積が大きくなることを抑制できる。
【0057】
図9に示す一実施形態では、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、既設溶接部11の溶接金属5に補修溶接により生じた第2熱影響部26の延在方向と、配管1の厚さ方向との交差角度θ6は、70度以上110度以下である。
【0058】
既設溶接部11の溶接金属5内の第2熱影響部26は、母材2の第2熱影響部26や補修溶接の熱の影響を受けていない既設溶接部11の溶接金属5よりも作用する応力によって損傷を受け易い。そのため、配管1に対して周方向、すなわち第1端部3側と第2端部4側とが互いに離間する方向に引張応力が作用する場合、この引張応力が作用する方向から見たときの、既設溶接部11の溶接金属5内の第2熱影響部26の投影面積は小さい方が望ましい。
その点、図9に示す一実施形態では、既設溶接部11の溶接金属5内の第2熱影響部26の延在方向と、配管1の厚さ方向との交差角度θ6が70度以上110度以下であるので、既設溶接部11の溶接金属5内の第2熱影響部26の延在方向が上述した引張応力が作用する方向に近づき、上記投影面積を抑制できる。
【0059】
図9及び図11に示す実施形態では、補修溶接の溶接止端部23は、母材2内に存在する。また、図10に示す実施形態では、補修溶接の第1端部3側の溶接止端部23は、母材2内に存在する。
これにより、補修溶接の溶接止端部23が既設溶接部11の溶接金属5内に存在する場合と比べて、該溶接金属5における第2熱影響部26の領域を減らすことができる。
【0060】
図10に示す実施形態では、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、補修溶接は、第1端部3側の母材2から既設溶接部11の溶接金属5にわたって行われている。
そして、第1端部3側の母材2の表面に現れる第2熱影響部26の位置P3と、既設溶接部11の溶接金属5の表面に現れる第2熱影響部26の位置P4との中間位置C1は、除去範囲40を除去する前の既設溶接部11の溶接金属5内に存在する。
これにより、重複熱影響部36の断面積が大きくなることを抑制しつつ、除去工程S30における除去量、及び、補修溶接による溶接金属25の体積を減らすことができ、補修溶接のための工数を削減できる。
【0061】
図11に示す実施形態では、母材2及び既設溶接部11を含む断面において、補修溶接は、第1端部3側の母材2から第2端部4側の母材2にわたって行われる。また、図11に示す実施形態では、第1端部3側の第1熱影響部6は、少なくとも第2熱影響部26との交差部(重複熱影響部36)において、配管1の外周面1aから離れるにつれて第2端部4側に位置するように配管1の径方向に対して傾斜している。図11に示す実施形態では、第2端部4側の第1熱影響部6は、少なくとも第2熱影響部26との交差部(重複熱影響部36)において、配管1の外周面1aから離れるにつれて第1端部3側に位置するように配管1の径方向に対して傾斜している。
そして、図11に示す実施形態では、第2熱影響部26は、少なくとも第1端部3側の第1熱影響部6との交差部(重複熱影響部36)において、第1端部3側から第2端部4側に向かうにつれて、配管1の外周面1aからの深さが浅くなるように形成されている。図11に示す実施形態では、第2熱影響部26は、少なくとも第2端部4側の第1熱影響部6との交差部(重複熱影響部36)において、第2端部4側から第1端部3側に向かうにつれて、配管1の外周面1aからの深さが浅くなるように形成されている。
これにより、重複熱影響部36における交差角度θ4,θ5を90度に近づけることができ、重複熱影響部36の断面積が大きくなることを抑制できる。
【0062】
上述した幾つかの実施形態に係る補修溶接方法は、配管1の長手溶接部10を有する配管1の補修溶接に適している。
上述した幾つかの実施形態に係る補修溶接方法は、例えば火力・原子力発電プラントや化学プラント等におけるボイラやタービンの高温配管の補修溶接に適している。このような高温配管は、高温環境下で長期間使用され、仮に破断等が発生すると、プラントの運転に重大な影響を及ぼすことが予想される重要な配管である。また、このような高温配管は、プラントの点検や補修などが定期点検のように限られた時期に行われることが一般的であるため、長期間にわたって使用できることが求められている。また、このような高温配管は、材質や厚さ等の点から、入手に長期間を要することがある。したがって、例えば定期検査等の限られた期間内に、上述した幾つかの実施形態に係る補修溶接方法によって配管1の亀裂7等を修復できれば、その経済的な効果は大きい。
【0063】
なお、上述の説明では、配管1の材質については特に言及してなかったが、幾つかの実施形態に係る補修溶接方法は、重複熱影響部36における強度の低下が特に問題となりやすい、高強度フェライト系耐熱鋼で形成された部材の補修溶接に適している。
ここで、高強度フェライト系耐熱鋼とは、例えば、Gr.91系鋼(火SCMV28、火STPA28、火SFVAF28、火STBA28)の同等材、Gr.92系鋼(火STPA29、火SFVAF29、火STBA29)の同等材、火Gr.122系鋼(火SUS410J3、火SUS410J3TP、火SUSF410J3、火SUS410J3TB、火SUS410J3DTB)の同等材、又は、Gr.23系鋼(火STPA24J1、火SFVAF22AJ1、火STBA24J1、火SCMV4J1)の同等材である。
なお、配管1の材質は、高強度フェライト鋼に限定されることはなく、例えば、低合金鋼やステンレス鋼であってもよい。低合金鋼とは、例えば、STBA12の同等材、STBA13の同等材、STPA20の同等材、火STPA21の同等材、STPA22の同等材、STPA23の同等材、又は、STPA24の同等材である。ステンレス鋼とは、例えば、SUS304TPの同等材、SUS304LTPの同等材、SUS304HTPの同等材、火SUS304J1HTBの同等材、SUS321TPの同等材、SUS321HTPの同等材、SUS316HTPの同等材、SUS347HTPの同等材、又は、火SUS310J1TBの同等材である。
【0064】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した幾つかの実施形態では、配管1の長手溶接部10における補修方法を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。上述した幾つかの実施形態に係る補修溶接方法を、配管同士を接続する円周溶接部や、配管と分岐管とを接続する管台溶接部等の他の溶接部の補修溶接に適用してもよい。また、上述した幾つかの実施形態に係る補修溶接方法を、配管以外の板材等、他の部材の溶接部の補修溶接に適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 高温配管(配管)
2 母材
3 第1端部
4 第2端部
5,25 溶接金属
6 熱影響部(第1熱影響部)
7 亀裂
10 長手溶接部
11 既設溶接部
21 補修溶接部
23 溶接止端部
26 熱影響部(第2熱影響部)
36 交差部(重複熱影響部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11