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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】軸受情報解析装置及び軸受情報解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/045 20190101AFI20220601BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20220601BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220601BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20220601BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
G01M13/045
F16C19/52
F16C19/06
F16C41/00
G01H17/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019038922
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020143934
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 崇子
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆行
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/045
F16C 19/52
F16C 19/06
F16C 41/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受の構成部品から生じる磁気を検出する磁気センサと、
前記軸受に生じる振動を検出する振動センサと、
前記軸受から同じタイミングで検出した前記磁気センサによる磁気信号と前記振動センサによる振動信号とを収集する信号収集部と、
前記軸受の仕様値に基づいて、当該軸受の理論的な固有周波数である理論的固有周波数を算出するとともに、前記信号収集部に収集された信号から、当該軸受の検出結果に基づく固有周波数である検出固有周波数を算出する信号処理部と、
前記信号処理部によって算出された情報を表示する表示部と、
を備え
前記信号処理部は、
前記信号収集部に収集された前記磁気信号に周波数解析を行って検出される周波数特性から、前記磁気信号の前記検出固有周波数と前記軸受の回転周期とを算出し、
前記算出された前記回転周期に基づいて決定されるフィルタ設定値を用いて、前記信号収集部に収集された前記振動信号に対する包絡線処理を実施し、前記包絡線処理の実施後の前記振動信号に周波数解析を行って検出される周波数特性から、前記振動信号の前記検出固有周波数を算出する
ことを特徴とする軸受情報解析装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記磁気信号の前記検出固有周波数及び前記振動信号の前記検出固有周波数のそれぞれについて、対応する前記理論的固有周波数との一致性を比較し、当該比較の結果に基づいて前記軸受の正常/異常を判定する異常判定を行い、
前記表示部は、少なくとも前記異常判定の結果を表示する
ことを特徴とする請求項に記載の軸受情報解析装置。
【請求項3】
前記異常判定において前記信号処理部は、
前記軸受の所定の構成部品ごとの前記検出固有周波数について、対応する前記理論的固有周波数との一致性を比較する
ことを特徴とする請求項に記載の軸受情報解析装置。
【請求項4】
前記異常判定において前記信号処理部は、
前記磁気信号の前記検出固有周波数と対応する前記理論的固有周波数とが一致であった場合に、前記軸受が異常であると判定する
ことを特徴とする請求項に記載の軸受情報解析装置。
【請求項5】
前記異常判定において前記信号処理部は、
前記磁気信号の前記検出固有周波数と対応する前記理論的固有周波数とが一た場合には、前記振動信号の前記検出固有周波数と対応する前記理論的固有周波数との一致性を比較し、前記振動信号について一致したとき、前記軸受が異常であると判定する
ことを特徴とする請求項に記載の軸受情報解析装置。
【請求項6】
前記異常判定で前記軸受が異常と判定されたとき、
前記信号処理部は、当該異常の詳細を診断する異常診断を行い、
前記表示部は、少なくとも前記異常診断の結果を表示する
ことを特徴とする請求項に記載の軸受情報解析装置。
【請求項7】
前記異常診断において前記信号処理部は、
前記磁気信号の時間波形から、前記軸受の回転動作の異常を診断する
ことを特徴とする請求項に記載の軸受情報解析装置。
【請求項8】
前記異常診断において前記信号処理部は、
前記振動信号の前記検出固有周波数から、前記軸受の所定の前記構成部品における損傷状態を判定し、前記軸受の異常箇所を診断する
ことを特徴とする請求項に記載の軸受情報解析装置。
【請求項9】
軸受の状態を解析する軸受情報解析装置による軸受情報解析方法であって、
前記軸受情報解析装置は、
前記軸受の構成部品から生じる磁気を検出する磁気センサと、
前記軸受に生じる振動を検出する振動センサと、
前記軸受から前記磁気センサによって検出された磁気信号及び前記振動センサによって検出された振動信号を解析する信号解析部と、
所定の情報を表示する表示部と、
を有し、
前記信号解析部が、前記軸受の仕様値に基づいて、当該軸受の理論的な固有周波数である理論的固有周波数を算出する理論的固有周波数算出ステップと、
前記信号解析部が、前記軸受から同じタイミングで検出された前記磁気信号及び前記振動信号を収集する信号収集ステップと、
前記信号解析部が、前記信号収集ステップで収集された信号から、前記軸受の検出結果に基づく固有周波数である検出固有周波数を算出する検出固有周波数算出ステップと、
前記表示部が、前記理論的固有周波数算出ステップ及び前記検出固有周波数算出ステップで算出された情報を表示する表示ステップと、
を備え
前記検出固有周波数算出ステップにおいて前記信号解析部が、
前記信号収集ステップで収集された前記磁気信号に周波数解析を行って検出される周波数特性から、前記磁気信号の前記検出固有周波数と前記軸受の回転周期とを算出し、
前記算出された前記回転周期に基づいて決定されるフィルタ設定値を用いて、前記信号収集ステップで収集された前記振動信号に対する包絡線処理を実施し、前記包絡線処理の実施後の前記振動信号に周波数解析を行って検出される周波数特性から、前記振動信号の前記検出固有周波数を算出する
ことを特徴とする軸受情報解析方法。
【請求項10】
前記検出固有周波数算出ステップの後に、前記信号解析部が、前記磁気信号の前記検出固有周波数及び前記振動信号の前記検出固有周波数のそれぞれについて、対応する前記理論的固有周波数との一致性を比較し、当該比較の結果に基づいて前記軸受の正常/異常を判定する異常判定ステップをさらに備え、
前記表示ステップにおいて、前記表示部は少なくとも前記異常判定ステップの結果を表示する
ことを特徴とする請求項に記載の軸受情報解析方法。
【請求項11】
前記異常判定ステップにおいて、前記信号解析部は、前記磁気信号の前記検出固有周波数と対応する前記理論的固有周波数とが一致であった場合に、前記軸受が異常であると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受情報解析方法。
【請求項12】
前記異常判定ステップにおいて、前記信号解析部は、前記磁気信号の前記検出固有周波数と対応する前記理論的固有周波数とが一た場合には、前記振動信号の前記検出固有周波数と対応する前記理論的固有周波数との一致性を比較し、前記振動信号について一致したとき、前記軸受が異常であると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受情報解析方法。
【請求項13】
前記異常判定ステップで前記軸受が異常と判定されたときに、前記信号解析部が当該異常の詳細を診断する異常診断ステップをさらに備え、
前記表示ステップにおいて、前記表示部は少なくとも前記異常診断ステップの結果を表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受情報解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受情報解析装置及び軸受情報解析方法に関し、特に、転がり軸受の低速回転時において、他の駆動系から混入する振動ノイズの影響を排除して行うリアルタイム診断のために、転がり軸受から得られる情報を解析する軸受情報解析装置及び軸受情報解析方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
軸受は、動力機器のモータや車軸などに搭載されており、動作対象物の荷重を受けながら軸を滑らかに回転させ、摩擦によるエネルギー損失を減少させる効果がある。軸受の効果を阻害する要因としては、軌道面や転動体の表面がうろこ状に剥離するフレーキングや傷が知られている。
【0003】
そして、フレーキングや傷に由来する異常を間接的に評価する技術として、例えば特許文献1には、AEセンサや加速度センサを活用して、軸受の劣化に起因する高周波帯域の非周期ノイズ成分をハイパスフィルターで抽出し、得られた信号に基づいて軸受の異常を判断する技術が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、軸受を設置した回転体の振動振幅および位相を求めるため、回転軸に回転検出センサを取り付けて、得られた信号に対してフーリエ変換処理を行い、軸受の振動信号と位相を抽出する方法が開示されている。特許文献2に開示された方法は、非周期ノイズ成分の影響を除外するため、振動信号の検出精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3997528号公報
【文献】特許第5499412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に開示された技術は、高周波帯域の非周期ノイズを計測して軸受の劣化診断を行うものであり、例えば3000rpmといった高速回転条件で動作する軸受に対して優れた効果を発揮する。しかし、特許文献1に開示された技術は、エスカレータなどの設備機器に採用されるような、例えば数十rpm程度の低速回転条件で動作する転がり軸受に対しては、次のような理由から、正確な診断を期待することが困難と考えられる。
【0007】
まず、低速回転条件では、高速回転時に比べて、発生する全体の振動エネルギー(非周期ノイズを含む)が低くなるため、診断自体が困難になる。さらに、振動エネルギーが低いと、振動振幅が小さくなることに加えて、他の動作系から混入する回転数以外の周波数成分(高周波帯域を含む非周期ノイズ振動)等の影響が相対的に高まることで、S/N比が低下するため、正確な診断が困難になる。また、軸受の異常を判定するためには軸受の固有振動値との比較が有用であるが、低速回転条件で動作する設備機器では回転精度が常に一定ではないことが多いため、軸受の型番等に基づいて固有振動値を理論的に算出することには問題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示された技術は、非周期ノイズ振動の影響を除外するため、回転系の一部に回転検出器を取り付けて振動周波数の検出精度を向上させることができる。しかしながら、回転検出器は予め回転系装置に設置する必要があり、回転を検出するための特殊な標識部材を取り付けておく必要がある。回転検出器による回転検出は中心軸の回転数を検出するのみであり、複雑に構成された軸受の各部品の固有信号を検出することは困難である。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、低速回転条件という、振動エネルギーが小さく、かつ他動作系からの非周期ノイズ成分が混入するS/N比が小さい条件においても、軸受の状態を高精度に解析することができる軸受情報解析装置及び軸受情報解析方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明においては、軸受の構成部品から生じる磁気を検出する磁気センサと、前記軸受に生じる振動を検出する振動センサと、前記軸受から同じタイミングで検出した前記磁気センサによる磁気信号と前記振動センサによる振動信号とを収集する信号収集部と、前記軸受の仕様値に基づいて、当該軸受の理論的な固有周波数である理論的固有周波数を算出するとともに、前記信号収集部に収集された信号から、当該軸受の検出結果に基づく固有周波数である検出固有周波数を算出する信号処理部と、前記信号処理部によって算出された情報を表示する表示部と、を備え、前記信号処理部が、前記信号収集部に収集された前記磁気信号に周波数解析を行って検出される周波数特性から、前記磁気信号の前記検出固有周波数と前記軸受の回転周期とを算出し、前記算出された前記回転周期に基づいて決定されるフィルタ設定値を用いて、前記信号収集部に収集された前記振動信号に対する包絡線処理を実施し、前記包絡線処理の実施後の前記振動信号に周波数解析を行って検出される周波数特性から、前記振動信号の前記検出固有周波数を算出する軸受情報解析装置が提供される。
【0011】
また、かかる課題を解決するため本発明においては、軸受の状態を解析する軸受情報解析装置による以下の軸受情報解析方法が提供される。ここで、前記軸受情報解析装置は、前記軸受の構成部品から生じる磁気を検出する磁気センサと、前記軸受に生じる振動を検出する振動センサと、前記軸受から前記磁気センサによって検出された磁気信号及び前記振動センサによって検出された振動信号を解析する信号解析部と、所定の情報を表示する表示部と、を有する。そして、本軸受情報解析方法は、前記信号解析部が、前記軸受の仕様値に基づいて、当該軸受の理論的な固有周波数である理論的固有周波数を算出する理論的固有周波数算出ステップと、前記信号解析部が、前記軸受から同じタイミングで検出された前記磁気信号及び前記振動信号を収集する信号収集ステップと、前記信号解析部が、前記信号収集ステップで収集された信号から、前記軸受の検出結果に基づく固有周波数である検出固有周波数を算出する検出固有周波数算出ステップと、前記表示部が、前記理論的固有周波数算出ステップ及び前記検出固有周波数算出ステップで算出された情報を表示する表示ステップと、を備え、前記検出固有周波数算出ステップにおいて前記信号解析部が、前記信号収集ステップで収集された前記磁気信号に周波数解析を行って検出される周波数特性から、前記磁気信号の前記検出固有周波数と前記軸受の回転周期とを算出し、前記算出された前記回転周期に基づいて決定されるフィルタ設定値を用いて、前記信号収集ステップで収集された前記振動信号に対する包絡線処理を実施し、前記包絡線処理の実施後の前記振動信号に周波数解析を行って検出される周波数特性から、前記振動信号の前記検出固有周波数を算出する
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低速回転時であっても軸受の状態を高精度に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係る軸受情報解析装置の構成例を示すブロック図である。
図2】磁気信号解析処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図3】振動信号解析処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図4】解析結果表示画面の一例を示す図である。
図5】回転動作中の正常軸受から磁気センサが検出した磁気信号のデータである。
図6】回転動作中の正常軸受と異常軸受から振動センサが検出した振動信号のデータである。
図7】異常軸受から検出した振動信号に包絡線処理と周波数解析を行った後のデータである。
図8】第1の変形例における異常判定のイメージを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0015】
(1)軸受情報解析装置の構成
図1は、本実施の形態に係る軸受情報解析装置の構成例を示すブロック図である。図1では、軸受2を軸受情報解析装置1による検査対象物の一例とし、軸受情報解析装置1の磁気センサ3及び振動センサ4が軸受2に設置されている。
【0016】
図1に示したように、軸受情報解析装置1は、磁気センサ3、振動センサ4、磁気センサ回路5、振動センサ回路6、信号解析部7、データ入力部8、データ表示部9、及び電源回路10を備えて構成される。電源回路10は、電源11と、各センサ(磁気センサ3,振動センサ4)や信号解析部7の制御を行う制御回路12とを備える。
【0017】
軸受2は、転がり軸受である。一般的に、転がり軸受は耐摩耗性能に優れる高炭素クロム鋼や浸炭鋼を材料とし、これらの鉄鋼材料は磁性を持つ。したがって、軸受2の構成部品の回転動作は磁気センサ3で検出することができる。軸受2は、その構成部品として内輪21、保持器22、転動体23、及び外輪24を有する。転動体23は、例えばボールであるが、他にも円筒コロ等の形状の異なるものであってもよい。
【0018】
また、軸受2を回転装置や設備機器に設置する際は、軸受2を軸受固定具25に組み込んで使用する。軸受固定具25には鋳鉄等の金属製を用いてもよい。そして、磁気センサ3及び振動センサ4は、軸受2を組み込んだ軸受固定具25の外環表面に設置される。各センサの設置は特定の方法に限定されるものではなく、例えば、グリス等の粘性接着剤や、磁石、ネジによる固定が採用できる。
【0019】
磁気センサ3は、例えばTMR(Tunnel Magneto Resistive)センサ、AMR(Anisotropic Magneto Resistive)センサ、GMR(Giant Magneto Resistive effect)センサ、または検出コイルである。磁気センサ3で検出された磁気の検出信号は磁気センサ回路5に出力される。
【0020】
振動センサ4は、軸受2の回転に起因する振動信号、または他の動力系から混入する振動信号を検出するセンサであり、例えば、圧電素子、加速度センサ、音響マイク等である。また、振動センサ4はICチップを用いたセンサでもよい。磁気センサ3と振動センサ4は同一の筐体に配置されてもよいし、各々のセンサが別の筐体に配置されてもよい。振動センサ4で検出された振動の検出信号は振動センサ回路6に出力される。
【0021】
磁気センサ回路5は、磁気センサ3から出力された磁気の検出信号に対して一般的なアナログ処理を行ってアナログの磁気信号を信号解析部7に出力する。具体的には、磁気センサ回路5は、磁気センサ3からの出力信号を増幅する磁気信号アンプと、磁気信号アンプで増幅された出力信号に対して一般的なアナログ用フィルタ処理(商用周波数の除去や所望の周波数領域の通過)を施して、アナログ信号を出力するフィルタ回路とを有している。
【0022】
振動センサ回路6は、振動センサ4から出力された振動の検出信号に対して一般的なアナログ処理を行ってアナログの振動信号を信号解析部7に出力する。具体的には、振動センサ回路6は、振動センサ4からの出力信号を増幅する振動信号アンプと、振動信号アンプで増幅された出力信号に対して一般的なアナログ用フィルタ処理を施してアナログ信号を出力するフィルタ回路とを有している。
【0023】
信号解析部7は、図1に示したように、A/D変換器13,15と、信号収集器14,16と、信号処理器17とから構成される。信号解析部7は、専用の機器であってもよいが、汎用的なコンピュータ(例えばPC18)等であってもよい。信号解析部7をPC18とするとき、信号解析部7による処理はPC18におけるプログラム処理によって実現可能であり、データ入力部8及びデータ表示部9も、キーボードや液晶ディスプレイといったPC18の関連機器とすることができる。
【0024】
A/D変換器13は、磁気センサ回路5から出力されたアナログの磁気信号をデジタル信号に変換し、信号収集器14に出力する。信号収集器14は、例えばメモリやストレージであり、A/D変換器13から出力されたデジタルの磁気信号を格納する。
【0025】
A/D変換器15は、振動センサ回路6から出力されたアナログの振動信号をデジタル信号に変換し、信号収集器16に出力する。信号収集器16は、例えばメモリやストレージであり、A/D変換器15から出力されたデジタルの振動信号を格納する。
【0026】
信号処理器17については、データ入力部8及びデータ表示部9の説明を行った後に、詳しく説明する。
【0027】
データ入力部8は、例えばPC18において入力インタフェースを介して接続されたボタンやエンコーダ等の入力装置である。データ入力部8は、ユーザによる入力操作を受けて、当該入力操作に応じたデータや指令を制御回路12に与え、各センサ(磁気センサ3,振動センサ4)の駆動と制御、及び信号取得時間等の測定条件を設定することができる。さらにデータ入力部8は、ユーザによる入力操作に基づいて、軸受2の情報を信号解析部7に入力することができる。入力される具体的な情報は、軸受2の製造メーカや型番等であり、信号解析部7が軸受2を特定して構成部品に関する仕様値を取得できるようにする情報である。詳細は後述するが、信号解析部7は、これらの仕様値を用いて、軸受2の構成部品の固有周波数の理論値(理論的固有周波数)を算出することができる。
【0028】
データ表示部9は、例えばPC18において出力インタフェースを介して接続された液晶ディスプレイ等であり、信号解析部7で実行された処理結果等を表示する(解析結果表示画面)。後述する図4には、データ表示部9による解析結果表示画面の具体例が示される。
【0029】
(1-1)信号処理器
信号処理器17は、例えばCPU(Central Processing Unit)を備え、このCPUが所定の信号解析プログラムを実行することにより、軸受情報解析装置1が軸受2から得られる情報を解析するための種々の処理が行われる。
【0030】
まず、信号処理器17は、CPUによる信号解析プログラムの実行により、データ入力部8から入力された軸受2の情報から、軸受構成部品の固有周波数の理論値を算出する「事前処理」を実行する。
【0031】
ここで、本実施の形態において信号処理器17は、製造メーカや型番といった軸受2の情報に基づいて、軸受2の構成部品に関する仕様値を取得できるように構成される。具体的な構成としては例えば、診断対象となり得る複数種類の軸受について、製造メーカや型番等の情報と仕様値とが紐付けられて、予め軸受情報解析装置1の内部に記憶されていてもよい。また例えば、信号処理器17が、ネットワーク経由で外部のデータベースを参照する等して、データ入力部8から入力された軸受2の情報をキーとして検索することにより、軸受構成部品の仕様値を取得できるようにしてもよい。
【0032】
そして信号処理器17は、事前処理において、軸受構成部品の仕様値を用いて後述する式1~式3を演算することにより、軸受構成部品の固有周波数の理論値(理論的固有周波数)を算出することができる。信号処理器17は、これらの理論的固有周波数の検出を基にして、実際に動作している軸受2において異常がどの部位に発生しているかを明らかにすることが可能である。
【0033】
詳しく説明すると、例えば、軸受2について転動体23の直径d[mm]、転動体23のピッチサークル径D[mm]、転動体23の数Z、転動体23の接触角α[rad]、及び内輪21の回転周期fとした場合、内輪21の損傷に由来する信号成分fは以下の式1で示され、外輪24の損傷に由来する信号成分fは以下の式2で示される。また、転動体23及び保持器22の公転信号成分fは以下の式3で示されるが、外輪24の1点に傷がある場合の周波数は、転動体23の数Zを式3に乗することで算出できる。つまり式2がこれに該当し、外輪24の損傷成分fとは、固定された外輪24に対する転動体23の通過周期で示すことができる。
【数1】
【0034】
また信号処理器17は、CPUによる信号解析プログラムを軸受2の動作中に実行することにより、磁気信号の信号収集器14及び振動信号の信号収集器16に格納された各々の信号の解析と診断を実施する。
【0035】
例えば、信号収集器14に集められた磁気信号は、信号処理器17において高速フーリエ変換処理を施され、軸受2の理論的固有周波数との照合が行われる。磁気信号では、例えば、外輪24と嵌め合い面との隙間が原因となって生じるクリープ現象や、転動体23の破損によって内輪21の動作が停止するロック状態が軸受2に発生した場合、その固有周波数は理論値と一致しない。
【0036】
一方、信号収集器16に集められた振動信号では、軸受2が正常な場合においては固有周波数が検出されないため、理論値との照合によって正常と劣化の診断が可能である。しかしながら、振動信号には外部構造体から生じる様々な振動成分が混入したり、モータ回転精度のバラつきが生じたりするため、前述した式1~式3による理論値計算のみでは精度が低下する。特に、エスカレータ等の設備機器において、軸受2が例えば数十rpmといった低速回転条件で動作する場合には、実際のモータ回転精度にばらつきが生じることが知られている。そこで本実施の形態に係る軸受情報解析装置1では、磁気センサ3で軸受構成部品の動作周波数を検出することで、実際の回転周期を高精度に検知することを可能としている。
【0037】
(2)情報処理解析処理
次に、本実施の形態に係る軸受情報解析装置1が動作中の軸受2から得られる情報を解析する情報解析処理について、概要を説明した後に、図面を参照しながら処理手順について詳しく説明する。
【0038】
なお、本実施の形態では、軸受2に対する情報解析処理を開始する前に、前述したように信号処理器17によって事前処理が実行され、軸受構成部品の固有周波数(理論的固有周波数)が算出されている。算出された理論的固有周波数は、信号解析部7内の記憶領域に保持され、以後の軸受情報解析処理において参照される。
【0039】
軸受情報解析装置1による情報解析処理において、軸受2を構成する軸受構成部品の回転動作は、磁気センサ3で検出することができる。このとき同時に、振動センサ4を用いて、回転する軸受2からの振動信号を取得する。磁気センサ3で検出された磁気信号は、磁気センサ回路5でアナログ処理が施され、信号解析部7のA/D変換器13でデジタル変換された後、信号収集器14に格納される。格納された磁気信号は、信号処理器17において高速フーリエ変換の演算処理が実行されることで、磁気信号による軸受2の周波数特性が検出される。そして、算出された磁気信号の周波数特性はデータ表示部9に表示される。
【0040】
このとき、信号処理器17では、データ入力部8から入力された軸受2の情報が保持されており、また、事前処理によって、内輪21の回転周期及び理論的固有周波数が算出されている。そこで、信号処理器17は、磁気センサ3で検出した信号をフーリエ変換して得られた周波数成分と、軸受2の理論的固有周波数とを照合することで、軸受2が異常状態にあるか否かを診断することができる。具体的には、磁気信号から検知された信号周波数が、前述した式1~式3を用いて理論的に算出された周波数と一致しているかどうかを照合し、もし一致しない場合は、軸受2のクリープやロック等によって回転動作に何らかの異常が発生していると考えられる。
【0041】
本実施の形態では、軸受情報解析装置1による情報解析処理のうち、上記の磁気信号に対する解析処理を「磁気信号解析処理」と呼び、後述する図2でその処理フローを示す。
【0042】
次に、振動センサ4で検出された振動信号は、振動センサ回路6でアナログ処理が施され、信号解析部7のA/D変換器15でデジタル変換された後、信号収集器16に格納される。ここで前述したように、信号処理器17では、フーリエ変換後の磁気信号から軸受の周波数特性が算出されている。そこで信号処理器17は、この周波数特性に基づいてフィルタ設定値(BPF値)を決定し、決定したフィルタ設定値を用いて信号収集器16に格納された振動信号に対して包絡線処理を行い、振動信号の包絡線データを作成する。
【0043】
さらに信号処理器17は、作成された振動信号の包絡線データに対して、高速フーリエ変換による演算処理を実行し、軸受2の振動検出に基づく周波数特性を検出する。そして、信号処理器17は、この軸受振動の周波数特性を理論的固有周波数と照合することにより、軸受2の異常状態を判定することができる。補足すると、軸受2が正常に動作している場合は大きな振動は検出されないことから、振動検出に基づく周波数特性において理論的固有周波数と一致する振動信号が検出された場合は、軸受2が異常な状態であると判定することができる。
【0044】
本実施の形態では、軸受情報解析装置1による情報解析処理のうち、上記の振動信号に対する解析処理を「振動信号解析処理」と呼び、後述する図3でその処理フローを示す。
【0045】
以上のように、軸受情報解析装置1では、磁気センサ3及び振動センサ4が同じタイミングで軸受2から取得した磁気信号及び振動信号を用いて、各検出信号に基づく周波数特性から軸受2の状態を判定することができ、その判定結果がデータ表示部9に示される。このとき、2種類のセンサを採用することで、より精度の高い判定が可能となる。
【0046】
図2は、磁気信号解析処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【0047】
図2によればまず、制御回路12による制御に従って、磁気センサ3による磁気信号の測定が開始される(ステップS11)。磁気センサ3及び振動センサ4は、例えば軸受固定具25に設置されることで、軸受2から同時に磁気及び振動の信号を取得することができる。ステップS11で検出された磁気信号は、磁気センサ回路5でアナログ処理が施され、信号解析部7のA/D変換器13でデジタル変換された後、信号収集器14に格納される。
【0048】
次に、信号処理器17は、ステップS11を経て信号収集器14に格納されたデジタルの磁気信号に対して、フーリエ変換による周波数解析を実施する(ステップS12)。ステップS12における磁気信号の周波数解析の結果、軸受2の磁気信号の周波数特性が得られ、信号処理器17はこの周波数特性に基づいて、軸受2の回転周期(軸受回転周期)と固有周波数(検出固有周波数)とを算出する(ステップS13)。
【0049】
次に、信号処理器17は、事前処理で算出した理論的固有周波数と、ステップS13で算出した磁気信号の周波数特性とを照合し、両者の固有周波数が一致するか否かを判定する(ステップS14)。ステップS14において理論的固有周波数と検出固有周波数とが一致しない場合(ステップS14のNO)、信号処理器17は、クリープやロック等による軸受2の回転動作異常が発生していると診断し(ステップS15)、データ表示部9にそれまでの解析結果を表示する(ステップS16)。一方、ステップS14において理論的固有周波数と検出固有周波数とが一致する場合は(ステップS14のYES)、検出された磁気信号からは軸受2に異常は認められないといえるが、信号処理器17は、解析・診断の精度を高めるために、同時に検出された振動信号に対する解析処理(振動信号解析処理)を実行する。
【0050】
図3は、振動信号解析処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【0051】
図3によればまず、制御回路12による制御に従って、図2のステップS11に示した磁気センサ3による磁気信号の測定と並行して、振動センサ4による振動信号の測定が開始される(ステップS21)。したがって、図2のステップS14でYESとなって振動信号解析処理が実行される場合、厳密にはそれ以前に、図3のステップS21の処理が行われている。ステップS21で検出された振動信号は、振動センサ回路6でアナログ処理が施され、信号解析部7のA/D変換器15でデジタル変換された後、信号収集器16に格納される。
【0052】
次に、信号処理器17は、振動信号の包絡線処理を行うために必要となるフィルタ設定値、より具体的には、バンドパスフィルタの設定値(BPF値)を決定する(ステップS22)。このBPF値は、図2のステップS13で磁気信号から算出された軸受回転周期に基づいて算出することができる。
【0053】
そして信号処理器17は、ステップS21を経て信号収集器16に格納されたデジタルの磁気信号に対して、ステップS22で決定したBPF値を適用して包絡線処理を行い、振動信号の包絡線データを作成する(ステップS23)。
【0054】
次に、信号処理器17は、ステップS23で作成された振動信号の包絡線データに対して、高速フーリエ変換による周波数解析を実施する(ステップS24)。ステップS24における振動信号の周波数解析により、軸受2の振動信号の周波数特性が検出され、信号処理器17はこの周波数特性に基づいて、軸受2の固有周波数(検出固有周波数)を算出する(ステップS25)。
【0055】
次に、信号処理器17は、事前処理で算出した理論的固有周波数と、ステップS25で算出した振動信号の周波数特性とを照合し、両者の固有周波数が一致するか否かを判定する(ステップS26)。ステップS26において理論的固有周波数と検出固有周波数とが一致する場合は(ステップS26のYES)、軸受2の損傷に由来する振動信号が検出されていることを意味するため、信号処理器17は、軸受2が異常な状態であると判定し、異常診断を行い(ステップS27)、データ表示部9にそれまでの解析結果を表示する(ステップS28)。一方、ステップS26において理論的固有周波数と検出固有周波数とが一致しない場合は(ステップS26のNO)、軸受2の損傷に由来する振動信号が検出されていないことから、信号処理器17は、軸受2が正常であると判定し、データ表示部9にそれまでの解析結果を表示する(ステップS28)。
【0056】
なお、上記説明では、信号処理器17が理論的固有周波数と検出固有周波数との一致性に基づいて軸受2の異常判定を行い(図2のステップS14,図3のステップS26)、異常の場合は異常診断を行う(図2のステップS15,図3のステップS27)としたが、本実施の形態に係る軸受情報処理の別例として、これらの異常判定や異常診断を実行しない場合があってもよく、このときデータ表示部9による解析結果の表示(図2のステップS16,図3のステップS28)の内容も変化する。
【0057】
例えば、軸受2の状態が正常か異常であるかを解析者が判断する場合には、信号処理器17は異常判定及び異常診断を実行しないとしてよく、この場合、データ表示部9には、解析結果の表示として、理論的固有周波数と検出固有周波数とを視覚的に比較可能な信号データ等が示される。
【0058】
また例えば、軸受2の正常/異常までは軸受情報解析装置1が判定し、異常原因や異常箇所の特定は解析者が行う場合には、信号処理器17は異常判定を実行し異常診断はスキップするとしてもよい。この場合、データ表示部9には、少なくとも異常判定の結果が示される。また、磁気信号と振動信号の何れの検出信号に対する異常判定の結果であるかを合わせて表示するようにしてもよい。
【0059】
また、軸受情報解析装置1が異常診断まで実行する場合、信号処理器17は、異常診断において異常箇所の特定(または推定)を行ってもよい。例えば、軸受構成部品の理論的な周波数特性と振動信号に基づく動作周波数特性とを比較することにより、相違箇所から異常箇所の原因となっている軸受構成部品を特定することができる。そして、このような場合、データ表示部9には、解析結果の表示として、異常判定の結果だけでなく、異常箇所についての診断結果も示される。
【0060】
また、本実施の形態において、解析結果としてデータ表示部9に表示する情報は、上記した判定結果や診断結果だけに限定されるものではなく、解析者による判断に有用な様々な情報を含めることができる。図4にデータ表示部9による表示画面の具体例を示す。
【0061】
図4は、解析結果表示画面の一例を示す図である。図4の場合、解析結果表示画面100には、判定結果(判定110)や診断結果(詳細診断120)の他に、解析対象の軸受2の情報(型番130)、解析に用いた検出信号の測定日時(解析日時140)、及び、情報解析処理に用いた信号波形や周波数等の解析情報(周波数解析データ150)が表示されている。なお、周波数解析データ150の表示部分は、プルダウン形式でユーザ所望の解析情報を選択表示できるようにしている。このように、軸受2の解析に関する多様な情報を表示することにより、解析者によるさらに詳しい解析を補助する効果に期待できる。
【0062】
以上のように、本実施の形態に係る軸受情報解析装置1は、解析対象の軸受2から磁気センサ3及び振動センサ4で同時にセンサ信号を取得し、それぞれのセンサ信号について、センサ信号から得られる周波数特性(検出固有周波数)と正常な状態における軸受構成部品の固有周波数の理論値(理論的固有周波数)とを比較することにより、軸受の状態を高精度に解析することができる。
【0063】
ここで特に、軸受情報解析装置1は、磁気センサ3で軸受構成部品の動作周波数を検出して軸受2の実際の回転周期(軸受回転周期)を高精度に検知できるようにし、この軸受回転周期を振動信号のフィルタリングに用いることで、他動作系からの非周期ノイズ成分を高精度に除去することができる。そして、フィルタ後の振動信号から得られる周波数特性を上記理論値と比較することで、他動作系からの非周期ノイズ成分等から受ける影響を抑制したうえで、軸受2の異常を由来とする信号成分をより高精度に検出することができる。
【0064】
かくして、本実施の形態に係る軸受情報解析装置1は、低速回転条件でというS/N比が小さくなりやすい状況で軸受2が動作する場合であっても、軸受の状態を高精度に解析することができ、異常の判定や診断を行うことができる。
【0065】
(3)実験データ
次に、本実施の形態に係る軸受情報解析方法によって実際に軸受の評価を行った実験結果について説明する。
【0066】
本実験では、磁気センサ3にAMRセンサを採用し、振動センサ4には圧電素子を用いた。評価対象の軸受には、型番「6209ZZ」の正常軸受と、内輪に磨耗損傷が生じている異常軸受とを準備し、回転試験機の軸受固定具に設置した。軸受固定具は厚みが約15mmの鋳鉄素材のものを用いており、その外輪上に磁気センサ3と振動センサ4を一体化したセンサプローブを設置した。センサプローブの固定はグリスによる接着固定である。そして、回転試験機の速度を25rpmの低速回転条件に設定し、正常軸受および異常軸受をそれぞれ回転させて、各センサによる測定を行った。信号の測定条件はサンプリング周波数12.8kHz、測定時間は30秒間とした。取得したセンサ信号は軸受情報解析装置1の信号処理と高速フーリエ変換処理を経て、時間波形と周波数特性データとして出力させた。
【0067】
図5は、回転動作中の正常軸受から磁気センサが検出した磁気信号のデータである。図5(A)は時間波形データであり、図5(B)は高速フーリエ変換による周波数解析後(図2のステップS12参照)のデータである。
【0068】
図5(A)からは、正常軸受の回転に伴って磁気信号が検出されていることが分かる。軸受の構成部品(内輪、転動体、及び保持器)は磁性を持つ材質であり、それぞれの部品が持つ磁気モーメントが回転により変動しているために、磁気センサ3で信号が取得できるものである。したがって、軸受固定具と外輪も同様に磁性を持つが、固定された状態であるために磁気モーメントの変動が無く、磁気センサ3で信号は検出されない。
【0069】
図3(B)からは、正常軸受の構成部品である内輪、転動体、及び保持器の回転に由来する周波数特性が検出されている。各周波数成分は、軸受型番から理論的に算出される周波数特性(理論的固有周波数)と一致している。具体的には、図3(B)の場合、0.17Hzが保持器の公転周期であり、0.4Hzが内輪の回転周期であり、0.8Hzが内輪の回転周期の高調波成分であり、1.7Hzが外輪に対する転動体の通過周期である。
【0070】
図6は、回転動作中の正常軸受と異常軸受から振動センサが検出した振動信号のデータである。図6(A)は正常軸受の時間波形データであり、図6(B)は異常軸受の時間波形データである。
【0071】
図6(A)においては、振動レベルが非常に低く、損傷による振動は無いと判定できる。一方、図6(B)においては、損傷由来と思われる振動が検出されており、軸受で異常が発生していると判定することができる。但し、図6(B)では複数の信号が出現しており、時間波形のみでは軸受の損傷部位の特定まではできない。このような場合、振動信号の解析を追加して行うことが効果的となる。
【0072】
図7は、異常軸受から検出した振動信号に包絡線処理と周波数解析を行った後のデータである。包絡線処理は図3のステップS23に相当し、周波数解析は図3のステップS24に相当する。なお、包絡線処理に用いられるフィルタ設定値は、振動信号と同じタイミングで取得された磁気信号の計測結果から得られた周波数帯域に基づくバンドパスフィルタ(BPF)で処理した。
【0073】
図7によれば、異常軸受の振動信号は、内輪の回転周期である0.4Hzの成分が主であり、これは内輪部の摩耗損傷に由来する信号成分に一致する。このことから、内輪部の摩耗損傷が生じていると診断することができた。さらに、図7では、内輪の回転周期の高調波成分に一致する0.8Hzの信号成分も検出されていることから、軸受損傷による偏心が生じている可能性が示唆された。
【0074】
以上、図5図7を参照しながら説明したように、本実験では、磁気センサ3で取得した磁気信号に対する解析処理によって、軸受の異常を判定できるが損傷部位までは特定できない場合であっても、振動センサ4で取得した振動信号に対する解析処理をさらに行うことによって、損傷部位の特定・推測といった詳細な診断が可能なことが検証された。
【0075】
(4)その他の形態
上記した実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を本実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。すなわち、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができ、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0076】
具体的な第1の変形例として、軸受情報解析装置1は、磁気信号に対する解析(図2参照)と振動信号に対する解析(図3参照)とを必ずしも個別に実行する必要はなく、これらの処理を統合して軸受情報解析処理を行うようにしてもよい。このとき、信号処理器17は、各センサ(磁気センサ3,振動センサ4)で同期取得した信号から得られる情報に基づいて、軸受2の異常に対する判定及び診断(図2のステップS14~S15や図3のステップS26~S27に相当する処理)を並行して実行することにより、迅速に結果を得られるようになる。図8は、第1の変形例における異常判定のイメージを説明するための図である。図8の場合、振動信号と、軸受構成部品の各周波数でフィルタリングされた磁気信号とが、時間波形で並べて表示されており、これらの信号データを比較することによって振動信号における異常の周期を判定することができるため、異常箇所を特定することができる。
【0077】
また、第2の変形例として、軸受情報解析装置1は、磁気信号で取得した時間波形のデータを基に、軸受2の回転の位相を検出することで、軸受2の嵌め合いを診断する方法に応用するようにしてもよい。
【0078】
なお、本明細書及び図面に示した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、これらの各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、フラッシュメモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)等の記録媒体に置くことができる。また、プログラムの実行で得られたデータは、有線または無線の通信技術を用いて、オンラインで遠隔サイトに結果を送信し、警告を発することができる。
【0079】
また、図面において、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、エスカレータ等の大型設備機器における低速回転時の軸受異常の判定に関して、振動評価のみでは精度が確保できない場合でも、効率的且つ高精度に軸受の情報を解析し、異常の判定や診断を可能とするものである。また低速回転条件に限定されるものではなく、軸受が高速回転で動作する産業機器においても広く適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 軸受情報解析装置
2 軸受
3 磁気センサ
4 振動センサ
5 磁気センサ回路
6 振動センサ回路
7 信号解析部
8 データ入力部
9 データ表示部
10 電源回路
11 電源
12 制御回路
13,15 A/D変換器
14,16 信号収集器
17 信号処理器
18 PC
21 内輪
22 保持器
23 転動体
24 外輪
25 軸受固定具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8