IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マイクロトラック・ベル株式会社の特許一覧

特許7082596ガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法
<>
  • 特許-ガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法 図1
  • 特許-ガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法 図2
  • 特許-ガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法 図3
  • 特許-ガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】ガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 7/04 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
G01N7/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019149861
(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公開番号】P2021032591
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】512187756
【氏名又は名称】マイクロトラック・ベル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲井 和之
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-061615(JP,A)
【文献】特開2014-081250(JP,A)
【文献】特開2013-238444(JP,A)
【文献】特開平08-304256(JP,A)
【文献】米国特許第06595036(US,B1)
【文献】特開2005-049354(JP,A)
【文献】吉田将之,吸着基礎シリーズ 吸着等温線の測定テクニック-吸着等温線測定と正確な吸着量算出方法-,Adsorption News,日本,2016年10月,Vol.30,No.3,通巻No.118,pp.14-21
【文献】吉田将之,低容量型吸着装置における新規死容積測定方法の開発,Adsorption News,日本,2007年12月,Vol.21,No.4,通巻No.83,pp.5-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのサンプル管を備え、前記サンプル管に吸着ガスを供給して前記サンプル管に収容されるサンプルのガス吸着量を測定するガス吸着量測定装置であって、
前記サンプル管のフリースペースの容積を決定するためのリファレンス管と、
前記サンプル管、前記リファレンス管、および前記吸着ガスの供給管が接続される配管部と、
前記配管部、前記サンプル管、および前記リファレンス管の圧力を計測する圧力計と、
前記サンプル管および前記リファレンス管の温度を所定の温度に維持するデバイスと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
キャリブレーション条件において、前記配管部を介して、サンプルが入っていない前記サンプル管、および前記リファレンス管に前記吸着ガスを導入して当該各管の内圧を計測し、前記内圧、当該各管の温度、および前記配管部の容積に基づいて、前記サンプル管のフリースペースの基準容積Vdst,ads、および前記リファレンス管のフリースペースの基準容積Vdref,ads をそれぞれ算出し、
前記基準容積Vdref,ads、およびガス吸着量の実測条件における前記リファレンス管のフリースペースの容積Vdref,ads(i)から容積変化量ΔVdref(i)を算出し、
前記容積変化量ΔVdref(i)および前記基準容積Vdst,adsから、前記実測条件における前記サンプル管のフリースペースの容積Vdst,ads(i)を算出し、
前記実測条件において、前記サンプル入りの前記サンプル管に前記吸着ガスを導入して内圧を計測し、当該サンプル管のフリースペースの容積Vd sam,ads(i) を算出して、前記容積Vdst,ads(i)および前記容積Vdsam,ads(i)から、前記実測条件における当該サンプルのガス吸着量を算出するように構成されている、ガス吸着量測定装置。
【請求項2】
前記サンプル管は、複数設けられ、
前記制御部は、1つの前記リファレンス管を用いて、複数の前記サンプル管の基準容積Vdst,adsをそれぞれ算出する、請求項1に記載のガス吸着量測定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ガス吸着量の算出過程で求められる前記サンプル管のフリースペースの容積から、予め求められた前記サンプルの体積を排除して表面過剰吸着量を算出するように構成されている、請求項1または2に記載のガス吸着量測定装置。
【請求項4】
少なくとも1つのサンプル管と、前記サンプル管のフリースペースの容積を決定するためのリファレンス管とを用いたガス吸着量測定方法であって、
キャリブレーション条件において、基準容積部を介して、サンプルが入っていない前記サンプル管、および前記リファレンス管に吸着ガスを導入して当該各管の内圧を計測し、前記内圧、当該各管の温度、および前記基準容積部の容積に基づいて、前記サンプル管のフリースペースの基準容積Vdst,ads、および前記リファレンス管のフリースペースの基準容積Vdref,ads をそれぞれ算出し、
前記基準容積Vdref,ads、およびガス吸着量の実測条件における前記リファレンス管のフリースペースの容積Vdref,ads(i)から容積変化量ΔVdref(i)を算出し、
前記容積変化量ΔVdref(i)および前記基準容積Vdst,adsから、前記実測条件における前記サンプル管のフリースペースの容積Vdst,ads(i)を算出し、
前記実測条件において、前記サンプル入りの前記サンプル管に前記吸着ガスを導入して内圧を計測し、当該サンプル管のフリースペースの容積Vd sam,ads(i) を算出して、前記容積Vdst,ads(i)および前記容積Vdsam,ads(i)から、前記実測条件における当該サンプルのガス吸着量を算出する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法に関し、より詳しくは定容量法に係る測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定容量法により材料の吸着等温線を測定するガス吸着量測定装置が広く知られている。吸着等温線は、材料の比表面積や細孔分布などの情報を得ることができる重要な基礎物性の1つであって、液体窒素(LN:77K)、液体アルゴン(LAr:87K)等の温度で、窒素、アルゴン等の吸着ガスを用いて測定される。例えば、特許文献1には、粉体材料を収容したガラス製のサンプル管を液体窒素が充填されたデュワー瓶に浸漬し、当該サンプル管に窒素を供給してサンプル管の圧力変化を計測することにより粉体材料のガス吸着量を算出する吸着特性測定装置が開示されている。
【0003】
一般的に、定容量法によるガス吸着量測定では、吸着測定前において、サンプルが収容されたサンプル管を液体窒素等の冷媒が充填されたデュワー瓶等の冷媒容器に浸漬し、サンプルに吸着し難いヘリウムを用いてフリースペースの基準容積を測定する。なお、サンプルがゼオライト、活性炭等のマイクロ孔を持つ材料である場合、ガス吸着量の測定後にフリースペースの基準容積を測定することがある。この場合も、ヘリウムが使用される。
【0004】
ところで、吸着特性の測定中にデュワー瓶内の液体窒素が気化して液面レベルが徐々に低下すると、フリースペースの基準容積が変化して正確なガス吸着量の測定が困難になる。このため、液面センサを用いてデュワー瓶を段階的に上昇させるなど、かかる容積変化を抑制するための工夫が行われてきた。
【0005】
一方、液体窒素の液面レベルが徐々に低下してフリースペースの基準容積が刻々と変化していくことをそのまま利用する方法も提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。この方法では、リファレンス管をサンプル管と並べて液体窒素に浸漬し、吸着測定前に各管のフリースペースの基準容積を測定した後、刻々と変化するリファレンス管の内圧から容積の変化率を算出し、この変化率を用いてサンプル管のフリースペースの容積を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6037760号公報
【文献】特許第3756919号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】吉田将之・仲井和之、「定容量型吸着装置における新規死容積測定方法の開発」、Adsorption News、日本吸着学会、2007年12月25日、Vol.21、No.4(December 2007)、通巻No.83、p.5-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来のガス吸着量測定(特許文献2・非特許文献1に開示された技術を含む)では、サンプル管のフリースペースの基準容積を測定するためにヘリウムを使用している。しかし、ヘリウムの需要拡大、資源量の減少に伴い、ヘリウムの入手が困難になることが予想される。このため、近い将来、ガス吸着量の算出に必要なフリースペースの基準容積を、ヘリウムを使用することなく測定する方法が不可欠になると考えられる。
【0009】
本発明の目的は、ヘリウムを使用することなくサンプル管のフリースペースの基準容積を測定し、当該容積を用いて高精度のガス吸着量測定が可能な類例のないガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、リファレンス管を利用することにより、窒素等の吸着ガスを用いて測定されるサンプル管のフリースペースの基準容積を、高精度のガス吸着量測定に適用できることを見出した。本発明に係るガス吸着量測定装置は、サンプルが入っていないサンプル管のフリースペースの基準容積Vdst,ads、およびリファレンス管のフリースペースの基準容積Vdref,adsを、吸着ガスを用いてそれぞれ測定し、当該基準容積Vdst,ads,Vdref,adsを用いてサンプルのガス吸着量を算出するように構成されている。本発明に係るガス吸着量測定装置は、ヘリウムを使用することなく高精度のガス吸着量測定が可能な類例のない装置である。
【0011】
本発明の一態様であるガス吸着量測定装置は、少なくとも1つのサンプル管を備え、前記サンプル管に吸着ガスを供給して前記サンプル管に収容されるサンプルのガス吸着量を測定するガス吸着量測定装置であって、前記サンプル管のフリースペースの容積を決定するためのリファレンス管と、前記サンプル管、前記リファレンス管、および前記吸着ガスの供給管が接続される配管部と、前記配管部、前記サンプル管、および前記リファレンス管の圧力を計測する圧力計と、前記サンプル管および前記リファレンス管の温度を所定の温度に維持するデバイスと、制御部と、を備え、前記制御部は、キャリブレーション条件において、サンプルが入っていない前記サンプル管のフリースペースの基準容積Vdst,ads、および前記リファレンス管のフリースペースの基準容積Vdref,adsを、前記吸着ガスを用いてそれぞれ測定し、前記基準容積Vdref,ads、およびガス吸着量の実測条件における前記リファレンス管のフリースペースの容積Vdref,ads(i)から、容積変化量ΔVdref(i)を算出し、前記容積変化量ΔVdref(i)および前記基準容積Vdst,adsから、前記実測条件における前記サンプル管のフリースペースの容積Vdst,ads(i)を算出し、前記容積Vdst,ads(i)、および前記実測条件におけるサンプル入りの前記サンプル管のフリースペースの容積Vdsam,ads(i)から、前記実測条件における当該サンプルのガス吸着量を算出するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様であるガス吸着量測定方法は、少なくとも1つのサンプル管と、前記サンプル管のフリースペースの容積を決定するためのリファレンス管とを用いたガス吸着量測定方法であって、キャリブレーション条件において、サンプルが入っていない前記サンプル管のフリースペースの基準容積Vdst,ads、および前記リファレンス管のフリースペースの基準容積Vdref,adsを、吸着ガスを用いてそれぞれ測定し、前記基準容積Vdref,ads、およびガス吸着量の実測条件における前記リファレンス管のフリースペースの容積Vdref,ads(i)から、容積変化量ΔVdref(i)を算出し、前記容積変化量ΔVdref(i)および前記基準容積Vdst,adsから、前記実測条件における前記サンプル管のフリースペースの容積Vdst,ads(i)を算出し、前記容積Vdst,ads(i)、および前記実測条件におけるサンプル入りの前記サンプル管のフリースペースの容積Vdsam,ads(i)から、前記実測条件における当該サンプルのガス吸着量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るガス吸着量測定装置およびガス吸着量測定方法によれば、ヘリウムを使用することなくサンプル管のフリースペースの基準容積を測定し、当該容積を用いて高精度のガス吸着量測定が可能である。本発明に係る装置および方法では、ヘリウムの代わりに、窒素等の吸着ガスを用いてサンプル管のフリースペースの基準容積を測定する。また、本発明に係る装置および方法によれば、従来のようにガス吸着量の測定の度にサンプル管のフリースペースの基準容積を測定する必要がなく、測定時間を短縮することができる。
【0014】
加えて、従来の手法では、サンプルがゼオライト、活性炭等のマイクロ孔を持つ材料である場合、ヘリウムがマイクロ孔にトラップされて測定精度が低下することが想定されるが、本発明に係る装置および方法によれば、ヘリウムを使用しないため、かかる測定精度の低下は生じない。従来の手法では、吸着量の測定後にヘリウムを用いたフリースペースの測定を行うことにより、この問題を克服してきたが、測定中の吸着等温線の評価ができない、測定終了後、吸着ガスの排気に時間がかかる、吸着ガスの残留量が一定であると仮定してフリースペースを測定することになる等の問題がある。本発明に係る装置および方法によれば、マイクロ孔を持つサンプルについても、測定時間の短縮、並びに測定精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態の一例であるガス吸着量測定装置の構成図である。
図2】本発明の実施形態の一例であるガス吸着量測定方法を説明するための図である。
図3】サンプル管およびリファレンス管のフリースペースの基準容積の測定手順の一例を示すフローチャートである。
図4】サンプルのガス吸着量(ネット吸着量)の測定手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態の一例であるガス吸着量測定装置10について詳細に説明する。ガス吸着量測定装置10は、あくまでも実施形態の一例であって、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において、「略~」との記載は、略同一を例に説明すると、完全に同一である場合および実質的に同一と認められる場合を意味する。
【0017】
図1は、ガス吸着量測定装置10の構成図である。図1に例示するように、ガス吸着量測定装置10は、複数のサンプル管11,12,13を備え、各管にそれぞれ収容されるサンプル1,2,3のガス吸着量を並行して測定可能に構成されている。図1では、3つのサンプル管11,12,13を図示しているが、サンプル管の数は特に限定されず、1つまたは2つであってもよく、4つ以上であってもよい。3つのサンプル管11,12,13は、互いに同じものであって、略同一の内径を有する。サンプル1,2,3は、ガス吸着量測定の対象物であって、例えば粉体材料である。
【0018】
ガス吸着量測定装置10は、サンプル管11,12,13のフリースペースの容積を決定するためのリファレンス管14を備える。リファレンス管14は複数設けられてもよいが、好ましくはサンプル管の数に関わらず1つである。リファレンス管14は、サンプル管11,12,13と同じものであって、各サンプル管と略同一の内径を有する。特に、後述の冷媒19に浸漬される部分の内径は略同一とする必要がある。また、ガス吸着量測定装置10には、吸着ガスの飽和蒸気圧(P)を実測するための飽和蒸気圧管15が設けられている。なお、ガス吸着量測定装置10は、飽和蒸気圧管15を有さず、温度計により冷媒19の温度を測定して飽和蒸気圧(P)を算出してもよい。
【0019】
ガス吸着量測定装置10は、サンプル管11,12,13、リファレンス管14、および吸着ガスの供給管101が接続される配管部16と、配管部16、サンプル管11,12,13、およびリファレンス管14の圧力を計測するための圧力計とを備える。圧力計は、1つであってもよいが、好ましくは配管部16に複数設置される。圧力計には、配管部16の後述する基準容積部Sの圧力を計測する圧力計20、およびサンプル管11,12,13、リファレンス管14の内圧をそれぞれ計測する圧力計21,22,23,24が含まれる。配管部16には、さらに、飽和蒸気圧管15の内圧を計測する圧力計25が設けられている。
【0020】
また、ガス吸着量測定装置10は、サンプル管11,12,13およびリファレンス管14の温度を所定の温度に維持するデバイスと、装置の動作を制御してガス吸着量測定を実行する制御部40とを備える。デバイスは、例えば、冷媒19が充填される冷媒容器18と、冷媒容器18を昇降させる昇降機構(図示せず)とを有する。冷媒19は特に限定されないが、一般的には液体窒素または液体アルゴンである。以下、特に断らない限り、冷媒19が液体窒素であるものとして説明する。
【0021】
ガス吸着量測定装置10は、一般的に配管部16、制御部40等を内蔵する筐体を備える。また、筐体には、サンプル管11,12,13、リファレンス管14、飽和蒸気圧管15、冷媒容器18等が取り付けられる。ガス吸着量測定装置10(筐体)には、吸着ガス供給源100から延びる供給管101が接続される第1接続部50、および排気ポンプ102から延びる排気管103が接続される第2接続部53が設けられる。吸着ガス供給源100の一例は窒素ガスボンベであり、排気ポンプ103の一例は真空ポンプである。
【0022】
配管部16は、サンプル管11,12,13、リファレンス管14、および飽和蒸気圧管15の各々と、第1接続部50および第2接続部53とをそれぞれ接続するための複数の配管で構成される。配管部16には、複数の配管をまとめる多岐管であるマニホールド17と、複数の開閉弁とが設けられる。配管部16には、マニホールド17の温度を所定の温度に維持する第2のデバイスが設けられていてもよく、マニホールド17の内部空間である基準容積部Sの温度が第2のデバイスによって一定の温度に維持されてもよい。基準容積部Sの容積は、サンプル管11等のフリースペースの容積測定の際の基準となる。
【0023】
図1に示す例では、サンプル管11,12,13、リファレンス管14、飽和蒸気圧管15、第1接続部50、および第2接続部53に対応して、開閉弁31,32,33,34,35,51,54がそれぞれ設けられている。開閉弁51を開くことで、配管部16の各開閉弁で囲まれた基準容積部Sに吸着ガスが導入され、例えば開閉弁31を開くことで、サンプル管11に吸着ガスが導入される。各開閉弁は、制御部40の制御下で作動するように構成されている。
【0024】
ガス吸着量測定装置10では、フリースペース容積の測定にヘリウムを使用しないため、ヘリウム供給源は接続されない。言い換えると、ガス吸着量測定装置10は、ヘリウム供給源との接続部を有さない。なお、ガス吸着量測定装置10は、複数の第1接続部50を備え、複数種の吸着ガスの供給源が接続可能であってもよい。また、ガス吸着量測定装置10は通信機能を有し、制御部40の機能の一部が外部サーバー、クラウド等に設けられていてもよい。
【0025】
以下、ガス吸着量測定装置10の各構成要素について、さらに詳説する。ガス吸着量測定装置10では、サンプル管11,12,13が同じ構成を有するから、サンプル管11,12,13で共通する内容はサンプル管11を例に挙げて説明する。
【0026】
サンプル管11は、一方端が開口し、他方端が閉じられたガラス製の管状容器である。サンプル管11の寸法の一例は、内径1cm、長さ20cmである。なお、サンプル管11には、石英製の容器、または金属製の容器を用いてもよい(リファレンス管14についても同様)。また、サンプル管11の形状は特に限定されず、長さ方向に管径が一定の円筒形状であってもよく、サンプル1が収容される底部側が開口側よりも太くなった形状を有していてもよい。
【0027】
サンプル管11は、配管部16のポート56に接続される。ガス吸着量測定装置10(筐体)にはサンプル管11の接続口であるポート56が設けられ、サンプル管11の開口した一方端がポート56に接続される。サンプル管11がポート56に接続されることで、サンプル管11は配管部16を介して、吸着ガス供給源100および排気ポンプ102と接続される。また、ガス吸着量測定装置10は、サンプル管12,13の接続口であるポート57,58を有する。ポート56,57,58は、ガス吸着量測定装置10の使用状態において水平方向に並んで配置され、サンプル管11,12,13は同じ高さに取り付けられる。
【0028】
リファレンス管14は、上述のように、サンプル管11と同じものであって、略同一の内径を有する。リファレンス管14の容積は、サンプル管11のフリースペースの容積を算出する際の基準となる。詳しくは後述するが、リファレンス管14を利用することにより、ヘリウムを使用することなく、吸着ガスを用いてサンプル管11のフリースペースの基準容積を測定することが可能となる。ガス吸着量測定装置10は、リファレンス管14の接続口であるポート59を有する。ポート59は、ガス吸着量測定装置10の使用状態においてポート56,57,58と水平方向に並んで同じ高さに配置される。
【0029】
リファレンス管14は、サンプル管11,12,13と一緒に冷媒容器18に充填された液体窒素に浸漬可能に配置される。サンプル管11,12,13およびリファレンス管14は、同じ高さに取り付けられるため、各管は底部から同じ高さまで液体窒素に浸漬される。なお、飽和蒸気圧管15も同様に、配管部16のポート60に接続され、サンプル管11等と一緒に冷媒容器18に充填された冷媒19に浸漬される。
【0030】
冷媒容器18は、液体窒素等の冷媒19が充填される容器であって、サンプル管11,12,13、リファレンス管14、および飽和蒸気圧管15を収容可能な内部空間を有する。好適な冷媒容器18は、断熱機能を有するデュワー瓶である。吸着ガスとして窒素を用いる場合、冷媒19には、一般的に液体窒素(LN:77K)が用いられる。なお、サンプル管11,12,13、リファレンス管14、および飽和蒸気圧管15を所定の温度に維持するデバイスは、恒温水槽(室温付近吸着温度)やヒーター(高温吸着温度)を有していてもよい。
【0031】
ガス吸着量測定装置10には、上述のように、サンプル管11,12,13、リファレンス管14、および飽和蒸気圧管15の内圧をそれぞれ計測するための圧力計21,22,23,24,25が設けられる。図1に示す例では、サンプル管11とマニホールド17をつなぐ配管56aに圧力計21が設置されている。また、配管56aには、圧力計21よりもマニホールド17側に開閉弁31が設置されている。すなわち、圧力計21は、配管56aにおいてポート56と開閉弁31の間に接続され、サンプル管11(配管56aの一部を含む)の内圧を計測する。
【0032】
圧力計22,23,24,25、および開閉弁32,33,34,35も、圧力計21および開閉弁31と同様に、サンプル管12,13、リファレンス管14、および飽和蒸気圧管15とマニホールド17を接続する各配管57a,58a,59a,60aにそれぞれ設置されている。また、第1接続部50とマニホールド17をつなぐ配管には開閉弁51と流量調整弁52が、第2接続部53とマニホールド17をつなぐ配管には開閉弁54と流量調整弁55が、それぞれ設置されている。圧力計20は、マニホールド17に設置され、マニホールド17(基準容積部S)の内圧を計測する。
【0033】
開閉弁31,32,33,34,35,51,54に囲まれたマニホールド17の内部空間は、上述のように基準容積部Sと呼ばれ、その容積はサンプル管11等のフリースペースの容積測定の際の基準となる。他方、サンプル管11,12,13、およびリファレンス管14の内部空間は、フリースペースと呼ばれる。なお、サンプル管11のフリースペースの容積は、正確には、配管56aの一部(開閉弁31からポート56まで)の内部空間、およびサンプル管11の内部空間を足した容積である。
【0034】
制御部40は、ガス吸着量測定装置10の動作を制御してガス吸着量の測定を実行するように構成されている。具体的には、配管部16の開閉弁、流量調整弁を制御してサンプル管11に所定の相対圧(P/P)の吸着ガスを供給し、圧力計の計測値に基づいて、サンプル管11に収容されたサンプル1のガス吸着量を算出する。流量調整弁としてニードルバルブを用いてもよく、流量調整弁の代わりに抵抗管を利用して吸着ガスの流量を調整してもよい。また、制御部40は、ガス吸着量の測定に先立ち、サンプル1が入っていないサンプル管11のフリースペースの基準容積を測定する。なお、ガス吸着量測定装置10では、サンプル管11の測定と並行して、サンプル管12,13のフリースペースの基準容積を測定することができる。
【0035】
制御部40は、プロセッサ46、メモリ47、入出力インターフェイス等を備えるコンピュータで構成される。プロセッサ46は、例えばCPUまたはGPUで構成され、処理プログラムを読み出して実行することにより後述の各処理部の機能を実現する。メモリ47は、ROM、HDD、SSD等の不揮発性メモリと、RAM等の揮発性メモリとを含む。処理プログラムは、不揮発性メモリに記憶されている。
【0036】
また、ガス吸着量測定装置10は、サンプルの質量等のガス吸着量測定に必要な情報を入力するための入力装置、ガス吸着量の測定結果等を表示するための表示装置などを備えていてもよい。或いは、ガス吸着量測定装置10に汎用のキーボード、モニターなどが接続されてもよい。
【0037】
図1に例示するように、制御部40は、サンプル管11およびリファレンス管14のフリースペースの基準容積を測定する基準容積測定処理部41を含む。また、制御部40は、基準容積測定処理部41の機能により測定された基準容積を用いてサンプルのガス吸着量の測定を実行する処理部(容積変化量算出処理部42、サンプル管容積算出処理部43、および吸着量算出処理部44)を含む。さらに、制御部40は、サンプルの表面過剰吸着量を算出する表面過剰量算出処理部45を含んでいてもよい。以下では、吸着ガスとして、窒素を用いる場合を例示する。
【0038】
制御部40は、キャリブレーション条件において、サンプル1が入っていないサンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,ads、およびリファレンス管14のフリースペースの基準容積Vdref,adsを、窒素を用いてそれぞれ測定するように構成されている。基準容積Vdst,ads,Vdref,adsの測定は、基準容積測定処理部41の機能により実行される。従来の測定システムでは、サンプルを収容したサンプル管について、サンプルに吸着し難いヘリウムを用いて基準容積が測定されるが、ガス吸着量測定装置10では、窒素を用いてサンプル1が入っていないサンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,adsを測定する。
【0039】
ここで、キャリブレーション条件とは、基準容積Vdst,ads,Vdref,adsを測定する際の条件を意味し、例えば、冷媒容器18に充填され、サンプル管11およびリファレンス管14を冷却する液体窒素の液面が第1の状態(レベルA)であることを意味する。詳しくは後述するが、室温における基準容積Vdst,RT,Vdref,RTを測定し、これを用いて、吸着温度における基準容積Vdst,ads,Vdref,adsを測定する。室温と吸着温度における基準容積の差は、サーマルトランスピレーション補正(圧力補正)に使用できる。なお、基準容積Vdst,ads,Vdref,adsのみを使用して(すなわち、基準容積Vdst,RT,Vdref,RTを使用せず)、ガス吸着量を算出することも可能である。
【0040】
また、後述の実測条件とは、サンプルのガス吸着量を測定する際の条件を意味し、例えば、冷媒容器18に充填され、サンプル管11およびリファレンス管14を冷却する液体窒素の液面が第2の状態(レベルB)であることを意味する。一般的に、ガス吸着量の測定は、サンプル管11に供給される窒素の相対圧(P/P)を変更して複数回行われるので、実測条件(液体窒素の液面レベル)は、レベルB、C、D・・・のように複数存在する。なお、基準容積Vdst,ads,Vdref,adsの測定時と、サンプルのガス吸着量の測定時とで、液体窒素の液面レベルを同程度にすることはできるが、完全に同一とすることは困難である。
【0041】
基準容積測定処理部41は、室温(温度TRT)においてサンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,RTを測定した後、サンプル管11をリファレンス管14と共に冷媒容器18に充填された液体窒素に浸漬して温度Tadsまで冷却し、冷却前後の圧力変化から基準容積Vdst,adsを求める。同様に、基準容積測定処理部41は、室温(温度TRT)においてリファレンス管14のフリースペースの基準容積Vdref,RTを測定し、基準容積Vdref,RTを用いて基準容積Vdref,adsを測定する。基準容積測定処理部41は、サンプル管11について、例えば基準容積Vdref,RT,Vdref,ads,Vdst,RT,Vdst,ads、温度Tads,TRTをメモリ47に保存する。
【0042】
基準容積測定処理部41は、サンプル管11およびリファレンス管14を液体窒素に浸漬して温度Tadsまで冷却し、マニホールド17に窒素を導入して圧力計20で内圧を計測した後、サンプル管11に窒素を導入してマニホールド17およびサンプル管11の内圧を計測し、当該各計測値に基づいて基準容積Vdst,adsを算出してもよい。同様に、基準容積測定処理部41は、マニホールド17から、温度Tadsに冷却されたリファレンス管14に窒素を導入してマニホールド17およびリファレンス管14の内圧を計測して基準容積Vdref,adsを算出してもよい。
【0043】
容積変化量算出処理部42、サンプル管容積算出処理部43、および吸着量算出処理部44の機能によるガス吸着量の測定は、基準容積Vdst,adsが求められたサンプル管11、および基準容積Vdref,adsが求められたリファレンス管14を用いて行われる。そして、ガス吸着量の測定に必要な、後述の容積変化量ΔVdref(i)、およびサンプル管11の容積Vdst,ads(i)は、サンプル1を収容したサンプル管11および空のリファレンス管14をポート56,59にそれぞれ取り付け、液体窒素に浸漬して冷却した実測条件で求められる。
【0044】
制御部40は、リファレンス管14のフリースペースの基準容積Vdref,ads、およびガス吸着量の実測条件におけるリファレンス管14のフリースペースの容積Vdref,ads(i)から、リファレンス管14のフリースペースの容積変化量ΔVdref(i)を算出するように構成されている。容積変化量ΔVdref(i)の算出は、容積変化量算出処理部42の機能により実行される。リファレンス管14を用いて容積変化量ΔVdref(i)を測定することで、液体窒素の液面レベルがキャリブレーション条件と異なる実測条件において、サンプル管11のフリースペースの容積を正確に求めることが可能となる。
【0045】
容積変化量算出処理部42は、窒素の相対圧(P/P)を変更して行われるガス吸着量の測定点毎にリファレンス管14のフリースペースの容積Vdref,ads(i)を測定し、容積変化量ΔVdref(i)を算出する。なお、測定点毎に冷媒容器18における液体窒素の液面レベルが変化するため、容積変化量ΔVdref(i)の算出は複数の異なる液面レベルで実行されることになる。容積変化量算出処理部42は、例えば、メモリ47から基準容積Vdref,adsを読み出し、マニホールド17およびリファレンス管14の内圧に基づいて容積変化量ΔVdref(i)を算出する。容積変化量ΔVdref(i)は、メモリ47に記憶される。
【0046】
制御部40は、容積変化量ΔVdref(i)および基準容積Vdst,adsから、実測条件におけるサンプル管11のフリースペースの容積Vdst,ads(i)を算出するように構成されている。容積Vdst,ads(i)の算出は、サンプル管容積算出処理部43の機能により実行される。容積Vdst,ads(i)と、基準容積Vdst,adsの差は、リファレンス管14の容積変化量ΔVdref(i)と同等とみなせるので、容積Vdst,ads(i)は下記の式1により算出できる。
【数1】
【0047】
サンプル管容積算出処理部43は、ガス吸着量の測定点毎に容積Vdst,ads(i)を算出する。すなわち、容積Vdst,ads(i)の算出は、容積変化量ΔVdref(i)と同様に、液体窒素の液面レベルが異なる複数の状態で実行される。サンプル管容積算出処理部43は、メモリ47から容積変化量ΔVdref(i)を読み出し、上記式1により容積Vdst,ads(i)を算出する。容積Vdst,ads(i)は、メモリ47に記憶され、サンプル1のガス吸着量の算出に使用される。容積Vdst,ads(i)は、各測定点で実測補正されたサンプル管11の基準容積といえる。
【0048】
制御部40は、実測条件におけるサンプル管11のフリースペースの容積Vdst,ads(i)、および実測条件におけるサンプル1入りのサンプル管11のフリースペースの容積Vdsam,ads(i)から、サンプル1のガス吸着量を算出するように構成されている。ガス吸着量の算出は、吸着量算出処理部44の機能により実行される。サンプル1のガス吸着量の測定・算出には、容積Vdst,ads(i)を使用すること以外、従来と同様の方法を適用できる。吸着量算出処理部44は、サンプル管11等に供給される窒素の相対圧(P/P)が異なる各測定点において容積Vdst,ads(i)を求め、サンプル1の吸着等温線を算出する。
【0049】
制御部40は、ガス吸着量の算出過程で求められるサンプル管11のフリースペースの容積から、予め求められたサンプル1の体積を排除して表面過剰吸着量を算出するように構成されていてもよい。表面過剰吸着量の算出は、表面過剰量算出処理部45の機能により実行される。ガス吸着量測定装置10では、サンプル1が入っていないサンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,adsを用いてサンプル1のガス吸着量が測定されるため、当該吸着量はサンプル1の体積が考慮されたネット吸着量となる。ガス吸着量測定装置10によれば、例えば、容積Vdsam,ads(i)からサンプル1の体積を差し引くことで、一般的な測定装置で測定される表面過剰吸着量を容易に算出できる。
【0050】
表面過剰量算出処理部45は、下記の式2により、サンプル1の体積を排除したサンプル管11のフリースペースの容積Vd′sam,ads(i)を算出する。
【数2】

式中、SWはサンプル1の質量(g)、ρはサンプル1の真密度(g/cm)である。サンプル1の真密度には、例えば文献値、または真密度測定装置により測定された値を適用できる。サンプル1の質量および真密度は、例えば、予め入力装置を用いてシステムに入力され、メモリ47に記憶されている。表面過剰量算出処理部45は、サンプル1の質量および真密度をメモリ47から読み出し、式2により表面過剰吸着量を算出する。
【0051】
以下、図2図4を参照しながら、ガス吸着量測定装置10を用いたガス吸着量の測定方法について詳説する。図2は、図1の構成図を単純化した図であって、ガス吸着量の測定方法を説明するための図である。図3は、サンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,ads、およびリファレンス管14のフリースペースの基準容積Vdref,adsの測定手順の一例を示すフローチャートである。
【0052】
図2に示すように、ガス吸着量測定装置10によりサンプル1のガス吸着量を測定する場合、サンプル1(図2では図示せず)が収容されたサンプル管11、リファレンス管14、および飽和蒸気圧管15が、それぞれ配管部16に取り付けられる。基準容積部S(容積Vs)であるマニホールド17の温度は、上記第2のデバイスにより温度Tに維持されていてもよく、室温TRTであってもよい。以下では、マニホールド17の温度がTであるものとして説明する。
【0053】
ガス吸着量測定装置10では、サンプル1のガス吸着量の測定に先立ち、窒素を用いてサンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,adsを測定する。基準容積Vdst,adsの測定は、サンプル1が収容されていない空のサンプル管11を用いて行う。また、基準容積Vdst,adsの測定と同時に、リファレンス管14の基準容積Vdref,adsを測定する。基準容積Vdst,ads,Vdref,adsは、サンプル管11およびリファレンス管14を液体窒素に浸漬した状態、すなわち吸着温度で測定される。基準容積Vdst,ads,Vdref,adsを測定する際のリファレンス条件は、例えば、液体窒素の液面がレベルAの状態である。
【0054】
基準容積Vdst,ads,Vdref,adsの測定は、ガス吸着量の測定の度に実施する必要はなく、サンプル管11について1回だけ実施されてもよい。或いは、所定期間(例えば、1年)に1回、所定の測定回数毎(例えば、100回の測定毎)に1回など、定期的に実施されてもよい。従来のヘリウムを用いた基準容積の測定は、ガス吸着量の測定の度に実施されるが、本開示に係る測定方法によれば、基準容積Vdst,adsの測定回数を大幅に減らすことができ、測定時間の短縮を図ることができる。
【0055】
図3に示す例では、室温で測定されるサンプル管11およびリファレンス管14の基準容積Vdst,RT,Vdref,RTを用いて、吸着温度(例えば、液面レベルAの状態)における基準容積Vdst,ads,Vdref,adsを算出する。この場合、サーマルトランスピレーション補正を行うことができ、測定精度がさらに向上する。
【0056】
図3に示す例では、第1に、室温(温度TRT)におけるリファレンス管14のフリースペースの基準容積Vdref,RTを測定する(S10~S12)。なお、サンプル管11の基準容積Vdst,RTを先に測定してもよい。
【0057】
まず初めに、排気ポンプ102で、マニホールド17、サンプル管11、およびリファレンス管14の内部空間を含む系内を排気し、各圧力計の測定下限以下まで真空度が下がったことを確認する。その後、全ての開閉弁を閉め、全ての圧力計のゼロを調整する。続いて、開閉弁51を開いて基準容積部S(容積Vs)であるマニホールド17に窒素を導入し、マニホールド17の内圧が所定値になった時点で開閉弁51を閉じる。その後、圧力が安定した時点で、圧力計20によりマニホールド17の内圧Ps,iを計測する(S10)。
【0058】
次に、リファレンス管14に対応する開閉弁34を開いて、マニホールド17内の窒素をリファレンス管14に導入する。窒素をリファレンス管14に拡散させるための十分な時間(例えば、5秒)の経過後、開閉弁34を閉じて圧力が安定した時点で圧力計20によりマニホールド17の内圧Ps,eを計測し、圧力計24によりリファレンス管14の内圧Pref,eを計測する(S11)。
【0059】
S10,11で計測した圧力、マニホールド17の容積Vs、温度Tから、下記の式により、室温におけるリファレンス管14のフリースペースの基準容積Vdref,RTを算出する(S12)。リファレンス管14への窒素の導入前後の物質収支は式3により表され、室温における基準容積Vdref,RTは式4により算出される。
【数3】

【数4】

基準容積Vdref,RTは、リファレンス管14のフリースペースの基準値であって、サンプル管11のフリースペースの容積を算出する際に使用される。
【0060】
続いて、サンプル管11についても、サンプル管11に対応する開閉弁31を開いてマニホールド17内の窒素をサンプル管11に導入し、開閉弁31を閉じて圧力が安定した時点で圧力計21によりサンプル管11の内圧Pst,eを計測する(S13)。そして、式4と同様の式により、室温におけるサンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,RTを算出する(S14)。
【0061】
次に、リファレンス管14をサンプル管11と共に、冷媒容器18に充填された液体窒素に浸漬して温度Tdadsまで冷却する(S15)。このとき、サンプル管11およびリファレンス管14の圧力は変化する。圧力が安定した時点で、圧力計24によりリファレンス管14の内圧Pref,e(ads)を計測し(S16)、下記の式により、吸着温度(例えば、液面レベルAの状態)におけるリファレンス管14のフリースペースの基準容積Vdref,adsを算出する(S17)。リファレンス管14の冷却前後の圧力変化による物質収支は式5により表され、吸着温度における基準容積Vdref,adsは式6により算出される。
【数5】

【数6】
【0062】
続いて、サンプル管11についても、圧力が安定した時点で、圧力計21によりサンプル管11の内圧Pst,e(ads)を計測し(S18)、式6と同様の式により、吸着温度におけるサンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,adsを算出する(S19)。なお、サンプル管12,13についても、サンプル管11の測定と並行して基準容積を測定できる。
【0063】
S10~S19の手順は、基準容積測定処理部41の機能により実行される。基準容積測定処理部41は、例えばサンプル管11について、基準容積Vdref,ads,Vdst,ads、温度Tadsをメモリ47に保存する。また、基準容積測定処理部41は、基準容積Vdref,RT,Vdst,RT、温度TRTをメモリ47に保存してもよい。
【0064】
ガス吸着量の測定に液体アルゴン等の他の冷媒19を使用する場合は、液体アルゴンを使用して基準容積Vdref,ads,Vdst,adsを測定する必要がある。この場合、基準容積測定処理部41は、サンプル管11について、液体窒素に係るライブラリー(例えば、Vdref,RT,Vdref,ads(N2),Vdst,RT,Vdst,ads(N2)、温度Tads(N2))と別に、液体アルゴンに係るライブラリー(例えば、Vdref,RT,Vdref,ads(Ar),Vdst,RT,Vdst,ads(Ar)、温度Tads(Ar))を追加する。
【0065】
また、リファレンス管14を破損ないし紛失した場合、新規のリファレンス管14について基準容積Vdref,RT,Vdref,adsを測定し、当該測定値と従来のリファレンス管14の測定値との差分を測定済みのサンプル管の基準容積に適用できる。すなわち、サンプル管の基準容積を再度測定する必要がない。
【0066】
図4は、サンプル1のガス吸着量の測定手順の一例を示すフローチャートである。サンプル1のガス吸着量測定は、吸着量算出処理部44の機能により実行される。図4では、サンプル1の体積が考慮されたネット吸着量の測定手順を示すが、例えば、容積Vdsam,ads(i)からサンプル1の体積を差し引くことで、表面過剰吸着量を容易に算出できる。表面過剰吸着量の算出は、表面過剰量算出処理部45の機能により実行される。
【0067】
一般的に、サンプル1のガス吸着量を測定する際には、サンプル1の前処理が行われる。前処理は、例えばサンプル1をサンプル管11に入れ、真空下または不活性ガス気流下で物性が変化しない温度まで加熱することにより行われる。前処理済みのサンプル1が入ったサンプル管11をポート56に接続し、以下の測定手順を開始する。
【0068】
まず初めに、排気ポンプ102で、マニホールド17、サンプル管11、リファレンス管14、および飽和蒸気圧管15の内部空間を含む系内を排気し、各圧力計の測定下限以下まで真空度が下がったことを確認する。その後、全ての開閉弁を閉め、全ての圧力計のゼロを調整する。続いて、開閉弁51を開いてマニホールド17に窒素を導入し、マニホールド17の内圧が所定値になった時点で開閉弁51を閉じる。その後、圧力が安定した時点で、圧力計20によりマニホールド17の内圧Ps,i(1)を計測する(S20)。
【0069】
次に、マニホールド17内の窒素をリファレンス管14に導入し、所定時間の経過後、開閉弁34を閉じて圧力が安定した時点で圧力計20によりマニホールド17の内圧Ps,e(1)を計測し、圧力計24によりリファレンス管14の内圧Pref,e(1)を計測する(S21)。下記の式7により、室温におけるリファレンス管14のフリースペースの容積Vdref,RT(1)を算出する(S22)。Vdref,RT(1)=Vdref,RTであることを確認すれば、当該リファレンス管14が、サンプル管11の基準容積の測定に使用したリファレンス管14と同一であること分かる。
【数7】
【0070】
Vdref,RT(1)とVdref,RTが一致しない場合、その誤差は、例えば各々の測定時の室温TRTの差に起因するが、通常は無視できる程度である。基準容積測定時の室温TRTを記憶しておき、容積Vdref,RT(1)測定時の室温TRTと比較することで、室温TRTの変化による誤差を補正することも可能である。
【0071】
次に、リファレンス管14をサンプル管11と共に、冷媒容器18に充填された液体窒素に浸漬して温度Tdadsまで冷却する(S23)。圧力が安定した時点で、圧力計24によりリファレンス管14の内圧Pref,e(ads1)を計測し(S24)、下記の式8により、吸着温度におけるリファレンス管14のフリースペースの容積Vdref,ads(1)を算出する(S25)。容積Vdref,ads(1)を測定する際の第1の実測条件は、例えば、液体窒素の液面がレベルBの状態である。
【数8】
【0072】
このとき、Vdref,ads(1)≠Vdref,adsとなり、この差は液体窒素の液面レベルの差(例えば、液面レベルAとBの差)に起因する。そして、下記の式9により、リファレンス管14のフリースペースの容積変化率ΔVref(1)を算出する(S26)。S26の手順は、容積変化量算出処理部42の機能により実行される。
【数9】
【0073】
次に、容積変化量ΔVdref(1)およびサンプル管11の基準容積Vdst,adsから、吸着温度(例えば、液面レベルBの状態)におけるサンプル管11のフリースペースの容積Vdst,ads(1)を算出する(S27)。容積Vdst,ads(1)の算出は、サンプル管容積算出処理部43の機能により実行される。容積Vdst,ads(1)と、基準容積Vdst,ads(1)の差は、リファレンス管14の容積変化量ΔVdref(1)と同等とみなせるので、容積Vdst,ads(1)は下記の式10により算出できる。
【数10】
【0074】
次に、サンプル1が収容されたサンプル管11に窒素を導入して開閉弁31を閉じ、サンプル1に窒素を吸着させる。サンプル1に窒素が吸着してサンプル管11の内部圧力が平衡状態になるには所定の時間を要し、平衡状態になったか否かは継続的な圧力変化の監視により判断される。平衡状態において圧力計21によりサンプル管11の内圧Psam,e(ads1)を計測して(S28)、サンプル管11のフリースペースの容積Vdsam,ads(1)を算出し、第1の実測条件におけるサンプル1のガス吸着量を算出する(S29)。
【0075】
吸着量算出処理部44は、サンプル管11等に供給される窒素の相対圧(P/P)を変更してサンプル1の吸着等温線を算出する。すなわち、S20~S29の手順は、窒素の相対圧(P/P)が異なる複数の実測条件下で実行される。
【0076】
図3および図4に示す例では、室温における基準容積Vdst,RT,Vdref,RTを測定したが、当該基準容積を測定することなく、吸着温度における基準容積Vdst,ads,Vdref,adsのみを用いてガス吸着量を算出してもよい。具体的には、サンプル管11およびリファレンス管14を液体窒素に浸漬して温度Tadsまで冷却した後、マニホールド17に窒素を導入して内圧を計測する。その後、リファレンス管14に窒素を導入してマニホールド17およびリファレンス管14の内圧を計測し、当該各計測値に基づいて基準容積Vdref,adsを算出する(サンプル管11についても同様)。
【0077】
以上のように、ガス吸着量測定装置10および上述の測定方法によれば、ヘリウムを使用することなく、代わりに吸着ガスを使用してサンプル管11のフリースペースの基準容積Vdst,adsを測定し、当該容積を用いて高精度のガス吸着量測定が可能である。吸着ガスを使用して測定した基準容積Vdst,adsから算出されるガス吸着量は、ヘリウムを使用して測定した基準容積から算出されるガス吸着量と同等の値を示すことが実証されている。すなわち、上述の測定方法は、ヘリウムを用いた従来の測定方法と同程度の精度でガス吸着量を測定できる。さらに、上述の測定方法によれば、従来のようにガス吸着量の測定の度に基準容積Vdst,adsを測定する必要がなく、測定時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0078】
1,2,3 サンプル、10 ガス吸着量測定装置、11,12,13 サンプル管、14 リファレンス管、15 飽和蒸気圧管、16 配管部、17 マニホールド、18 冷媒容器、19 冷媒、20,21,22,23,24,25 圧力計、31,32,33,34,35,51,54 開閉弁、40 制御部、41 基準容積測定処理部、42 容積変化量算出処理部、43 サンプル管容積算出処理部、44 吸着量算出処理部、45 表面過剰量算出処理部、46 プロセッサ、47 メモリ、50 第1接続部,52,55 流量調整弁、53 第2接続部、56,57,58,59,60 ポート、56a,57a,58a,59a,60a 配管、100 吸着ガス供給源、101 供給管、102 排気ポンプ、103 排気管
図1
図2
図3
図4