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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20220601BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220601BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20220601BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
G02B27/01
G02B5/30
B60K35/00 A
G02B27/28 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019505989
(86)(22)【出願日】2018-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2018009365
(87)【国際公開番号】W WO2018168726
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2017047784
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017047785
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 興一
(72)【発明者】
【氏名】早崎 智之
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-096874(JP,A)
【文献】特表2017-504079(JP,A)
【文献】国際公開第2006/107006(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052367(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105842850(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
G02B 5/30
B60K 35/00
G02B 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基材と1/2波長板とを有する光学積層体と、
表示画像を示す表示光をS偏光またはP偏光にして出射する表示器と、
を備え、
前記光学積層体の表面に垂直な軸から45°以上65°以下に傾斜した位置から入射する前記S偏光または前記P偏光の偏光軸と、前記1/2波長板の遅相軸とのなす角度が、35°以上44°以下であり、
前記1/2波長板の遅相軸と任意の入射角で前記光学積層体に入射されるS偏光あるいはP偏光の偏光軸とのなす角度θが、下記式(2)および(3)を満たすことを特徴とするヘッドアップディスプレイシステム。
【数2】
【請求項2】
前記1/2波長板が、3/4波長板と1/4波長板とをそれぞれの遅相軸が交差するように積層してなる位相差層を有する、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項3】
前記1/2波長板が、偏光軸を変換させる作用を有する位相差層が存在する側にブロック層を有する、請求項1又は2に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項4】
前記ブロック層が、紫外線硬化樹脂組成物、熱硬化樹脂組成物又はこれらの混合物を硬化した硬化膜である、請求項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項5】
前記紫外線硬化樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、多官能エポキシ(メタ)アクリレート、多官能ポリエステル(メタ)アクリレート及び多官能トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートからなる群から選択される紫外線硬化樹脂を1種以上含有する、請求項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項6】
前記表示器から出射される表示光がP偏光であり、
前記光学積層体に対する前記P偏光のブリュースター角をαとしたとき、前記光学積層体に入射する前記P偏光の入射角が、α-10°以上α+10°以下の範囲である、請求項1乃至のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項7】
前記光学積層体が、前記1/2波長板が2枚の中間膜に挟持された中間積層体を有し、前記中間積層体が、2枚の前記基材に挟持されている、請求項1乃至のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項8】
前記2枚の中間膜のうち、少なくとも一方の中間膜が、予め前記基材に直接積層された膜である、請求項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項9】
前記基材がガラスである、請求項1乃至のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項10】
前記1/2波長板が重合性液晶層を含む、請求項1乃至のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項11】
前記重合性液晶層が、配向処理された支持基板上に設けられている、請求項10に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示器から投射された表示画像を虚像としてガラス等のディスプレイに映し出すヘッドアップディスプレイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機等の運転者に情報を表示する方法として、ナビゲーションシステムやヘッドアップディスプレイ(以下、HUDともいう)等が用いられている。HUDシステムは液晶表示器(以下、LCDという)等の画像投影手段から投射された表示画像を、例えば自動車のフロントガラス等に投影するシステムである。
【0003】
画像表示手段から出射した表示光は、反射鏡にて反射し、さらにフロントガラスで反射した後、観察者へ到達する。観察者はフロントガラスに投影された表示画像を見ているが、表示画像は虚像としてフロントガラスよりも遠方の画像位置にあるように見える。この方法では、運転者はフロントガラスの前方を注視した状態でほとんど視線を動かすことなく、様々な情報を入手することができるため、視線を移さなければならなかった従来のカーナビゲーションに比べ安全である。
【0004】
HUDシステムにおいて、表示情報は実際にフロントガラスから見える景色に重ねて投影されるが、表示光は、フロントガラスの室内側と室外側の2つの表面で反射されるため、反射像が二重像となり、表示情報が見づらいという問題があった。
【0005】
この問題に対して、偏光方向を90°変えることができる旋光子を自動車用フロントガラスに用いることにより、反射像が二重像になるという問題を改善できることが知られている。例えば、特許文献1には、フィルム状の旋光子を内部に具備する自動車用フロントガラスに、S偏光の表示光をブリュースター角で入射した場合には、車内側のフロントガラスの表面でS偏光の一部を反射させ、当該表面を透過したS偏光を旋光子によりP偏光に変換し、さらに車外側のフロントガラスの表面でP偏光の全てを車外に出射して二重像を防ぐことが開示されている。また、特許文献1には、自動車用フロントガラスに、P偏光の表示光をブリュースター角で入射した場合には、車内側のフロントガラスの表面ではP偏光を反射させず、当該表面を透過したP偏光を旋光子によりS偏光に変換し、かつ、車外側のフロントガラスの表面でS偏光のほぼ全てを反射させ、再度旋光子によりS偏光をP偏光に変換させて二重像を防ぐことが開示されている。
【0006】
ところで、HUDには、フロントガラスに入射されるP偏光またはS偏光を、より効率的にS偏光またはP偏光にそれぞれ変換可能な優れた偏光軸変換性能を有していることが望まれる。特許文献1には、旋光子の偏光軸変換性能については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-40271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、二重像の発生を抑制しつつ、優れた偏光軸変換性能を示すヘッドアップディスプレイシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基材と1/2波長板とを有する光学積層体に、表示器から出射されたS偏光またはP偏光を45°以上65°以下入射角で光学積層体に入射させ、かつ、1/2波長板の遅相軸と、入射されるS偏光またはP偏光の偏光軸とのなす角度を制御することにより、二重像の発生を抑制しつつ、優れた偏光軸変換性能を示すヘッドアップディスプレイシステムを提供できることを新たに見出した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1]少なくとも1つの基材と1/2波長板とを有する光学積層体と、
表示画像を示す表示光をS偏光またはP偏光にして出射する表示器と、
を備え、
前記光学積層体の表面に垂直な軸から45°以上65°以下に傾斜した位置から入射する前記S偏光または前記P偏光の偏光軸と、前記1/2波長板の遅相軸とのなす角度が、35°以上44°以下であることを特徴とするヘッドアップディスプレイシステム。
[2]前記1/2波長板の遅相軸と任意の入射角で前記光学積層体に入射されるS偏光あるいはP偏光の偏光軸とのなす角度θが、下記式(2)および(3)を満たす、上記[1]に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【0011】
【数1】
【0012】
[3]前記1/2波長板が、3/4波長板と1/4波長板とをそれぞれの遅相軸が交差するように積層してなる位相差層を有する、上記[1]又は[2]に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[4]前記1/2波長板が、偏光軸を変換させる作用を有する位相差層が存在する側にブロック層を有する、上記[1]乃至[3]までのいずれか1つに記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[5]前記ブロック層が、紫外線硬化樹脂組成物、熱硬化樹脂組成物又はこれらの混合物を硬化した硬化膜である、上記[4]に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[6]前記紫外線硬化樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、多官能エポキシ(メタ)アクリレート、多官能ポリエステル(メタ)アクリレート及び多官能トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートからなる群から選択される紫外線硬化樹脂を1種以上含有する、上記[5]に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[7]前記表示器から出射される表示光がP偏光であり、
前記光学積層体に対する前記P偏光のブリュースター角をαとしたとき、前記光学積層体に入射する前記P偏光の入射角が、α-10°以上α+10°以下の範囲である、上記[1]乃至[6]までのいずれか1つに記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[8]前記光学積層体が、前記1/2波長板が2枚の中間膜に挟持された中間積層体を有し、前記中間積層体が、2枚の前記基材に挟持されている、上記[1]乃至[7]までのいずれか1つに記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[9]前記2枚の中間膜のうち、少なくとも一方の中間膜が、予め前記基材に直接積層された膜である、上記[8]に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[10]前記基材がガラスである、上記[1]乃至[9]までのいずれか1つに記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[11]前記1/2波長板が重合性液晶層を含む、上記[1]乃至[10]までのいずれか1つに記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[12]前記重合性液晶層が、配向処理された支持基板上に設けられている、上記[11]に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、二重像の発生を抑制しつつ、優れた偏光軸変換性能を示すヘッドアップディスプレイシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に従うヘッドアップディスプレイシステムの一実施形態を示す模式図である。
図2図2は、本発明に従うヘッドアップディスプレイシステムの他の実施形態を示す模式図である。
図3図3は、本発明に使用される光学積層体の一実施形態を示す側面断面図である。
図4図4は、本発明に使用される中間積層体の一実施形態を示す側面断面図である。
図5図5は、図4に示される中間積層体を備える光学積層体の一実施形態を示す側面断面図である。
図6図6は、1/2波長板の遅相軸と任意の入射角で光学積層体に入射するS偏光またはP偏光の偏光軸とのなす角度θを示す簡略図である。
図7図7は、ブロック層を有する1/2波長板の一実施形態を示す側面断面図である。
図8図8は、ブロック層を有する1/2波長を備える中間積層体の一実施形態を示す側面断面図である。
図9図9は、図8に示される中間積層体を備える光学積層体の一実施形態を示す側面断面図である。
図10】光学積層体にP偏光がブリュースター角近傍で入射される概要を示す概略図である。
図11】1/2波長板の偏光軸変換性能の測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ヘッドアップディスプレイシステム]
以下、本発明に従う実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、下記の実施形態は、本発明のいくつかの代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の変更を加えることができる。また、後述する(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基またはメタクリロイル基を表わし、分子中互いに独立して存在することを意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0016】
図1は、本発明のHUDシステムを模式図で示したものである。図1に示されるHUDシステムは、表示画像を示す表示光をP偏光にして出射する表示器2と、表示器2から出射された表示光を反射する反射鏡3と、表示器2から出射されたS偏光またはP偏光が入射する光学積層体4とを備えている。表示器2から出射されたS偏光またはP偏光を反射鏡3で反射させ、この反射された表示光を光学積層体4に照射することにより、観察者1に光路5を介してS偏光またはP偏光が到達し、表示画像の虚像6が視認できる。尚、図1に示されるHUDシステムにおいて、表示器2から出射された表示光は、反射鏡3を介して光学積層体4に入射しているが、表示器2から直接光学積層体4に入射していてもよい。
【0017】
<表示器>
本発明のHUDシステムに使用される表示器2は、最終的に光学積層体4に到達するまでに、所望とするS偏光またはP偏光を出射することができれば特に限定されるものではないが、例えば、液晶プロジェクターのような液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OELD)等が挙げられる。表示器2が液晶表示装置である場合、出射光は通常直線偏光となっているため、そのまま用いることができる。一方、表示器2が有機ELディスプレイである場合、例えば、図2に示すように、表示器2は、光源20とS偏光またはP偏光を出射可能な偏光板30とから構成されていてもよい。また、HUDシステムを自動車に使用する場合、液晶表示装置、有機ELディスプレイは、例えばダッシュボードのような光出射口に偏光板や1/2波長板等の光学部材を配置して、表示器2からS偏光またはP偏光が出射できるように調整することも可能である。また、表示器2に使用される光源も特に限定されるものではなく、レーザー光源、LED光源等を使用することができる。また、後述する1/2波長板の中心反射波長を、上記の光源の発光スペクトルに対応するように設定することで、より効果的に表示画像を鮮明に映すことができる。
【0018】
<光学積層体>
本発明に用いられる光学積層体は、少なくとも1つの基材と1/2波長板とを有する。このような光学積層体は、1/2波長板の片面または両面に基材を有していればよい。図3は、本発明に使用される光学積層体の一実施形態を示す。図3に示される光学積層体4は、1/2波長板8と2枚の基材7とを備え、1/2波長板8が2枚の基材7に挟持された構成を有している。また、図4、5に示されるように、光学積層体4は、1/2波長板8が2枚の中間膜9に挟持された中間積層体10を有し、この中間積層体10が、2枚の基材7に挟持された構成であってもよい。1/2波長板8の片面または両面、あるいは、1/2波長板8の片面または両面に中間膜9が積層された中間積層体10の片面または両面に基材7を貼り合わせることで、本発明で使用される光学積層体4を得ることができる。光学積層体は、例えば、基材を1/2波長板の片面または両面に高温・高圧にて圧着することにより得ることができる。図5のように、光学積層体4が中間積層体10を有する場合、中間膜9は、基材7と1/2波長板8との密着性を保持するための粘着剤または接着剤としての機能も有している。
【0019】
(基材)
本発明に使用される基材は、表示画像の視認性を保つために、可視光領域において、透明であることが好ましく、具体的には波長380~780nmの可視光線透過率が50%以上であればよく、70%以上であれば好ましく、85%以上であることがより好ましい。また、基材は、着色されていてもよいが、着色されていないか、着色が少ないことが好ましい。さらに、基材の屈折率は1.2~2.0であることが好ましく、1.4~1.8であることがより好ましい。基材の厚みは、表示光の反射に影響を与えない範囲であれば、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設計することができる。
【0020】
基材は、単層であっても2層以上の積層体であってもよい。基材の材料の例としては、例えば、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、アクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。これらのなかでも、入射光の偏光軸を変化させないために、複屈折性の少ないガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィン、アクリル等が好ましく、ガラスがより好ましい。また、これら基材の反射面には、多層膜からなる増反射膜や、遮熱機能をも兼ねる金属薄膜層を設けてもよい。これらの膜は入射する偏光の反射率を向上させることができるが、光学積層体を自動車用フロントガラスとして用いる場合は、光学積層体の可視光線透過率が70%以上となるように反射率を調整することが好ましい。また、基材の形状も特に限定されるものではなく、シート状、フィルム状、板状、曲面形状等、用途に応じて適宜設計することができる。例えば、基材として、自動車用フロントガラスと同様にガラス板を使用する場合、1/2波長板または中間積層体をガラス板に貼り合わせる方法としては、粘着剤もしくは接着剤を1/2波長板または中間積層体の片面あるいは両面に塗布し、次いで、ガラス板を貼り合わせることによって得ることができる。粘着剤および接着剤には特に制限はないが、後にガラス板を剥がすことがある場合は、リワーク性に優れた粘着性を有する材料が好ましく、例えばシリコーン粘着剤またはアクリル系粘着剤等が好ましい。
【0021】
(1/2波長板)
1/2波長板は、P偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に変換する機能、すなわち偏光軸を変換する機能を有する位相差層を備える位相差素子である。位相の程度を示す位相差値は波長によって異なるが、例えば、波長が550nmの偏光に対しての1/2波長板の位相差値は275nmである。本発明に使用される位相差素子においては、偏光が斜め方向から入射するため、入射角度に伴う位相差値の変化も考慮する必要がある。変化の程度は用いる位相差素子によって異なるが、本発明に使用される位相差素子としての位相差値は、位相差素子の法線方向における理論上の位相差値(以下、「理論値」という)±30nmの範囲内が好ましく、理論値±25nmの範囲内がより好ましく、理論値±20nmの範囲内がさらに好ましい。例えば、本発明に使用される位相差素子(1/2波長板)の場合、波長が550nmの偏光に対する位相差素子の位相差値は、245~305nmの範囲であることが好ましく、250~300nmの範囲であることがより好ましく、255~295nmの範囲であることがさらに好ましい。このような位相差素子は、例えば、ポリカーボネートまたはシクロオレフィンポリマーからなるフィルムを位相差が波長の1/2となるように一軸延伸したり、あるいは、水平配向する重合性液晶を位相差が波長の1/2となるような厚さで配向させたりすることによって得ることができる。また、水平配向する重合性液晶層を含む1/2波長板は、一般に、偏光軸を変換させる作用を有する位相差層としての重合性液晶層と、当該重合性液晶層を形成する塗布液が塗布され、位相差層を支持する支持基板とを有している。このような1/2波長板の位相差層の厚みの上限値は、液晶の配向性の観点から10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、1/2波長板の位相差層の厚みの下限値は、液晶の重合性の観点から0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、上記のように光が1/2波長板の主表面に対して斜めの位置から入射する場合、光の入射角に応じて位相差が変化する場合において、より厳密に位相差を適合させるため、例えば、位相差素子の屈折率を調整した位相差素子を用いることにより、入射角に伴う位相差の変化を抑制することができる。例えば、位相差素子の面内での遅相軸方向の屈折率をnx、位相差素子の面内でnxと直交する方向の屈折率をny、位相差素子の厚さ方向の屈折率をnzとするとき、下記式(1)で示される係数Nzが、好ましくは0.3~1.0、より好ましくは0.5~0.8となるように制御する。
【0022】
【数2】
【0023】
本発明のHUDシステムにおいて、P偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に効率的に変換するために、図6に示すように、光学積層体の表面に垂直な軸から45°以上65°以下、好ましくは50°以上60°以下に傾斜した位置から入射するP偏光の偏光軸15またはS偏光の偏光軸16と、1/2波長板の遅相軸17とのなす角度θを、35°以上44°以下に制御する。1/2波長板に入射するS偏光またはP偏光の入射角を45°以上65°以下の範囲にすることにより、P偏光が光学積層体に入射した場合には、光学積層体の表面での反射率を理論上2%以下に抑制することができる。透過したP偏光は1/2波長板によりS偏光に変換し、変換されたS偏光は入射側と反対側の光学積層体の空気との界面で反射する。反射したS偏光が1/2波長板により再びP偏光に変換され、このP偏光が観察者に到達する。また、S偏光が光学積層体に入射した場合にも、S偏光は光学積層体の表面で反射し、このS偏光が観察者に到達する。透過したS偏光は1/2波長板によりP偏光に変換し、変換されたS偏光は入射側と反対側の光学積層体の空気との界面で反射されず、通過する。このように、光学積層体に入射するS偏光またはP偏光の入射角を45°以上65°以下に制御することにより、観察者へ到達するS偏光またはP偏光の重なりを防止し、その結果、二重像の発生を抑制することができる。また、角度θが35°未満または44°よりも大きい場合、光学積層体に入射したP偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に変換する偏光軸変換性能が低く、その結果、ディスプレイ上表示画像も暗くなってしまう。そのため、この角度θを適切に制御することにより、1/2波長板は優れた偏光軸変換性能を示し、その結果、表示画像は極めて鮮明に視認できるようになる。
【0024】
1/2波長板が示す偏光軸の変換性能をより高めるため、角度θは、下記式(2)および(3)から算出される値であることが好ましい。ここで、下記式(2)および(3)の技術的意義を説明する。光学積層体に入射するS偏光またはP偏光が、空気とは異なる屈折率を有する媒質である1/2波長板を通過する際、1/2波長板に入射する入射角が変化する。ここで、光学積層体に対するS偏光またはP偏光の入射角をα、1/2波長板に実際に入射する入射角、すなわち1/2波長板の屈折角をβ、空気の屈折率をnα、1/2波長板の屈折率をnβとすると、スネルの法則にしたがい、sinα/sinβ=nβ/nαが成立し、この式をβが求まる方程式に簡略化すると、式(3)が導かれる。一方、光学積層体に入射するS偏光の偏光軸をx軸、P偏光の偏光軸をy軸、y軸と1/2波長板の遅相軸とのなす角をθとしたときの位相差値がReである場合、ベクトル的解析により、y軸はRe・cosθ、x軸はRe・sinθで表される。ここで、1/2波長板の偏光軸変換性能は、1/2波長板の遅相軸に対して45°で光が入射されるときに最大となることが知られているため、理論上、1/2波長板の遅相軸に対する入射角は、45°であることが望ましい。しかしながら、上述のように、光学積層体に入射するS偏光またはP偏光の入射角をθとしても、実際には、1/2偏光板に入射する角度はβである。そこで、Re・cosθのy軸(理論上のy軸)について、x軸を中心に角度β傾斜した際のy軸(事実上のy軸)を求めると、Re・cosθ/事実上のy軸=sin(90°-β)が成立し、事実上のy軸は、Re・cosθcosβで表される。上述したように、1/2波長板の遅相軸に対する入射角は、45°であることが望ましい。光学積層体に入射するS偏光またはP偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角度を45°にするためには、x軸(Re・sinθ)と、事実上のy軸(Re・cosθcosβ)を等しくする必要がある。これにより、Re・sinθ=Re・cosθcosβが求まり、この式を簡略化することにより、式(2)が導かれる。このように、下記式(2)および(3)から算出された値に基づき、角度θを実際に1/2偏光板に入射する角度βとの関係で厳密に制御することにより、1/2波長板が示す偏光軸変換性能を最大限に活かすことができる。
【0025】
【数3】
【0026】
角度θの範囲は、当該角度θの値の±7°の範囲に制御されていることが好ましく、±5°の範囲に制御されていることがより好ましく、±2°の範囲に制御されていることがさらに好ましく、±1°の範囲に制御されていることが特に好ましい。角度θが下記式(2)および(3)から算出される値を満たす角度の±5°の範囲外であると、1/2波長板が示すP偏光からS偏光への偏光軸の変換効率が低くなりやすい。角度θの範囲を、式(2)および(3)から算出された値に基づき厳密に制御することにより、1/2波長板によるP偏光からS偏光への偏光軸の変換効率の低下を抑制し、1/2波長板が示す偏光軸変換性能をより高めることができる。
【0027】
式(3)に代入される1/2波長板の屈折率は、1/2波長板の遅相軸方向の屈折率をnx、1/2波長板の面内でnxと直交する方向の屈折率をny、1/2波長板の厚さ方向の屈折率をnzとし、これらの和を平均化した値を平均屈折率として用いる。また、市販品の1/2波長板を使用する場合、平均屈折率はカタログ等に載せられた値を使用することもできる。また、1/2波長板の材料として後述する重合性液晶を用いた場合、液晶本来の常光屈折率noと異常光屈折率neを用いると、平均屈折率は(nx+ny+nz)/3=(no+ne)/2で表される。
【0028】
式(2)および(3)から算出されるθの具体例を示すと、例えば、空気の屈折率を1.00とし、屈折率1.55の1/2波長板を用い、S偏光またはP偏光の入射角が45°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は42°であるため、θの範囲は好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは37°以上44°以下であり、さらに好ましくは40°以上44°以下であり、特に好ましくは41°以上43°以下である。
【0029】
S偏光またはP偏光の入射角が50°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は41°であるため、θの範囲は好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは38°以上44°以下であり、さらに好ましくは39°以上43°以下であり、特に好ましくは40°以上42°以下である。
【0030】
S偏光またはP偏光の入射角が56°または60°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は40°であるため、θの範囲は好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは37°以上43°以下であり、さらに好ましくは38°以上42°以下であり、特に好ましくは39°以上41°以下である。
【0031】
S偏光またはP偏光の入射角が65°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は39°であるため、θの範囲は好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは36°以上42°以下であり、さらに好ましくは37°以上41°以下であり、特に好ましくは38°以上40°以下である。
【0032】
基材として屈折率1.48のガラスを用い、基材にブリュースター角(約56°)でP偏光を入射する場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は40°であり、θの範囲は好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは37°以上43°以下であり、さらに好ましくは38°以上42°以下であり、特に好ましくは39°以上41°以下である。
【0033】
(位相差層)
上述のように、本発明では、光学積層体に入射するS偏光またはP偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角度θを厳密に制御することで、1/2波長板が示す偏光軸変換性能をより高めることができる。そのような場合、1/2波長板の遅相軸の制御性および生産コスト的な観点から、偏光軸を変換させる作用を有する位相差層として重合性液晶層を含む1/2波長板を使用することが特に好ましい。位相差層は、P偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に変換する作用を有するため、透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層を意味する。
【0034】
位相差層に波長依存性がある場合、用いる光源の波長に応じて位相差値を調整することにより、より精度よく偏光軸を変換することができる。例えば、光源の波長が550nmの場合には、位相差層の位相差値は275nmであることが好ましく、光源の波長が450nmの場合には、位相差層の位相差値は225nmであることが好ましく、光源の波長が650nmの場合には、位相差層の位相差値は325nmであることが好ましい。また、例えば、フルカラー表示に対応するために、複数の波長が含まれる白色光源等を用いる場合、全ての波長に対して略均一な位相差を付与する方法としては、例えば、特許第3325560号公報、特許第4186981号公報、特許第5375644号公報に記載の、いわゆる逆波長分散性を有する位相差層が形成された1/2波長板を用いる方法、同様な波長依存性を有する3/4波長板と1/4波長板とをそれぞれの遅相軸が交差するように積層した位相差層を用いる方法が好ましい。後者の方法においては、同じ波長分散性を有する3/4波長板と1/4波長板とを光源からの光が入射する角度から見たときに、それぞれの遅相軸が直交するように交差させて積層した位相差層を用いることが特に好ましい。このような位相差層を用いることにより、例えば、フルカラー表示等のために白色光源を用いる場合であっても、白色光源が含む各波長のS偏光をP偏光に、または各波長のP偏光をS偏光に精度よく偏光軸を変換することができるため、二重像の発生をさらに抑制することができる。なお、3/4波長板は、透過光に3/4波長分の位相差を付与する3/4波長位相差層を備える位相差素子を意味し、1/4波長板は、透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層を備える位相差素子を意味する。
【0035】
3/4波長板と1/4波長板とを交差させる場合、光源からのS偏光またはP偏光の入射角が正面から垂直、すなわち入射角が0°では、それぞれの遅相軸を直交させることが好ましい。一方、例えば、空気の屈折率を1.00とし、屈折率が1.55となるように1/4波長板と3/4波長板とを用い、S偏光またはP偏光の入射角が45°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は42°であるため、θの範囲は好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が35°以上44°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-44°以上-35°以下となるように交差させ、より好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が37°以上44°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-44°以上-37°以下となるように交差させ、さらに好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が40°以上44°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-44°以上-40°以下となるように交差させ、特に好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が41°以上43°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-42°以上-40°以下となるように交差させる。
【0036】
S偏光またはP偏光の入射角が50°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は41°であるため、θの範囲は好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が35°以上44°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-44°以上-35°以下となるように交差させ、より好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が38°以上44°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-44°以上-38°以下となるように交差させ、さらに好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が39°以上43°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-43°以上-39°以下となるように交差させ、特に好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が40°以上42°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-42°以上-40°以下となるように交差させる。
【0037】
S偏光またはP偏光の入射角が56°または60°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は40°であるため、θの範囲は好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が35°以上44°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-44°以上-35°以下となるように交差させ、より好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が37°以上43°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-43°以上-37°以下となるように交差させ、さらに好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が38°以上42°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-42°以上-38°以下となるように交差させ、特に好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が39°以上41°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-41°以上-39°以下となるように交差させる。
【0038】
S偏光またはP偏光の入射角が65°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は39°であるため、θの範囲は好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が35°以上44°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-44°以上-35°以下となるように交差させ、より好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が36°以上42°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-42°以上-36°以下となるように交差させ、さらに好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が37°以上41°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-41°以上-37°以下となるように交差させ、特に好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が38°以上40°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-40°以上-38°以下となるように交差させる。
【0039】
基材として屈折率1.48のガラスを用い、基材にブリュースター角(約56°)でP偏光を入射する場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は40°であり、θの範囲は好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が35°以上44°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-44°以上-35°以下となるように交差させ、より好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が37°以上43°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-43°以上-37°以下となるように交差させ、さらに好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が38°以上42°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-42°以上-38°以下となるように交差させ、特に好ましくは3/4波長板もしくは1/4波長板の遅相軸が39°以上41°以下であり、もう一方の1/4波長板もしくは3/4波長板の遅相軸が-41°以上-39°以下となるように交差させる。
【0040】
このように、3/4波長板と1/4波長板とを光源からの光が入射する角度から見た場合には、3/4波長板と1/4波長板のそれぞれの遅相軸が概ね直交したような状態となる。すなわち、3/4波長板と1/4波長板とをそれぞれの遅相軸が交差するように積層してなる位相差層は、実質的に1/2波長板となる。また、3/4波長板と1/4波長板とが積層された位相差層は、当該位相差層を支持する支持基板を有していてもよい。この支持基板として、1/2波長板で使用される後述の支持基板を使用することができる。なお、積層された位相差層の遅相軸の方向は、3/4波長板の遅相軸の方向とみなすことができる。
【0041】
重合性液晶とは、分子内に重合性基を有し、ある温度範囲あるいは濃度範囲で液晶性を示すネマチック液晶モノマーである。重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、カルコニル基、シンナモイル基およびエポキシ基などが挙げられる。また、重合性液晶が液晶性を示すためには、分子内にメソゲン基があることが好ましく、メソゲン基とは、例えば、ビフェニル基、ターフェニル基、(ポリ)安息香酸フェニルエステル基、(ポリ)エーテル基、ベンジリデンアニリン基、またはアセナフトキノキサリン基等のロッド状、板状の置換基、あるいはトリフェニレン基、フタロシアニン基、またはアザクラウン基等の円盤状の置換基、すなわち、液晶相挙動を誘導する能力を有する基を意味する。ロッド状または板状の置換基を有する液晶化合物は、カラミティック液晶として当該技術分野で既知である。このような重合性基を有するネマチック液晶モノマーは、例えば、特開2003-315556号公報および特開2004-29824号公報等に記載されている重合性液晶、PALIOCOLORシリーズ(BASF社製)およびRMMシリーズ(Merck社製)等の重合性液晶が挙げられる。これら重合性基を有するネマチック液晶モノマーは、単独で使用しても、あるいは複数混合して使用してもよい。
【0042】
さらに、重合性基を有するネマチック液晶モノマーと反応可能な液晶性を有しない重合性化合物を添加することも可能である。そのような化合物としては、例えば、紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと1,6-ヘキサメチレン-ジ-イソシアネートとの反応生成物、イソシアヌル環を有するトリイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとの反応生成物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとイソホロン-ジ-イソシアネートとの反応生成物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタアクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、トリグリセロール-ジ-(メタ)アクリレート、プロピレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ポリプロピレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール-ジ-(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、1,6-ヘキサンジオール-ジ-(メタ)アクリレート、グリセロール-ジ-(メタ)アクリレート、エチレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ジエチレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(メタアクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビスフェノールA-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、ブチルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよびブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で使用してもあるいは複数混合して使用してもよい。これら液晶性を有しない紫外線硬化型樹脂は、ネマチック液晶モノマーを含む組成物が液晶性を失わない程度に添加すればよく、好ましくは、重合性基を有するネマチック液晶モノマー100重量部に対して0.1~20重量部、より好ましくは1.0~10重量部である。
【0043】
上述した重合性基を有するネマチック液晶モノマー、重合性化合物が紫外線硬化型である場合、これらを含んだ組成物を紫外線により硬化させるために、光重合開始剤が添加される。光重合開始剤としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォノプロパン-1(BASF社製イルガキュアー907)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製イルガキュアー184)、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン(BASF社製イルガキュアー2959)、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン(Merck社製ダロキュアー953)、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン(Merck社製ダロキュアー1116)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(BASF社製イルガキュアー1173)およびジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(BASF社製イルガキュアー651)等のベンゾイン系化合物;ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン(日本化薬社製カヤキュアーMBP)等のベンゾフェノン系化合物;ならびに、チオキサントン、2-クロルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーCTX)、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーRTX)、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーCTX)、2,4-ジエチルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーDETX)および2,4-ジイソプロピルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーDITX)等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。好ましくは、光重合開始剤としては、例えば、Irgacure TPO、Irgacure TPO-L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300、Irgacure 184、Irgacure 369、Irgacure 379、Irgacure 819、Irgacure 127、Irgacure 907およびIrgacure 1173(いずれもBASF社製)が挙げられ、特に好ましくは、Irgacure TPO、Irgacure TPO-L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300およびIrgacure 907が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種類または複数を任意の割合で混合して使用することができる。
【0044】
光重合開始剤として、ベンゾフェノン系化合物またはチオキサントン系化合物を用いる場合には、光重合反応を促進させるために、助剤を併用することも可能である。そのような助剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n-ブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’―ジエチルアミノフェノン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチルおよび4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物が挙げられる。
【0045】
上述した光重合開始剤および助剤の添加量は、ネマチック液晶モノマーを含む組成物の液晶性に影響を与えない範囲で使用することができ、当該組成物中の紫外線で硬化する化合物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上10重量部以下であり、より好ましくは2重量部以上8重量部以下である。また、助剤は光重合開始剤に対して、0.5倍から2倍量であることが好ましい。
【0046】
また、下記式(4)で表される化合物、下記式(5)で表される化合物及び下記式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(以下、単に「添加化合物」ともいう)が、液晶性化合物と共に添加されることにより、1/2波長板の耐熱性が向上し、高温雰囲気下においても1/2波長板の位相差値の変化を少なくすることができる。
【0047】
【化1】
【0048】
式(4)~式(6)中、R1-1、R1-2およびR1-3は、それぞれ独立して炭素数5以上の分岐構造を有するアルキル基を表す。R1-1、R1-2およびR1-3が、それぞれ独立して分岐構造を有するアルキル基であるときに、高温雰囲気下における1/2波長板の位相差値の変化が特に小さくなる。炭素数は6以上18以下であることが好ましい。R1-1、R1-2およびR1-3は、それぞれ独立してCH-(CH-CH(RX)-基であることがより好ましい。ここで、RXは、炭素数1~5のアルキル基を表し、R1-1、R1-2およびR1-3は、それぞれ独立してCH-(CH-CH(C)-基であることがさらに好ましく、2-エチルヘキシル基又は2-エチルブチル基であることが特に好ましい。ここで、mは1~6の範囲内の整数を表す。式(5)中、R3は-(CH-基又はフェニレン基を表し、pは4~8の整数を表す。Rがフェニレン基である場合、フェニレン基はo位、m位、p位のいずれに置換基を有してもよいが、o位に置換基を有することが好ましい。式(6)中、Rは置換フェニレン基を表し、置換フェニレン基はo位、m位、p位のいずれに置換基を有してもよいが、o位及びp位に置換基を有することが好ましい。式(4)中、Rは-CH-CH-基、-CH-CH(CH)-基又は-CH-CH-CH-基を表し、-CH-CH-基が好ましい。
【0049】
式(4)で表される化合物は、例えば、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ペンタエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、オクタエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、ノナエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートおよびデカエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0050】
式(5)で表される化合物は、例えば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(2-エチルブチル)、アゼライン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アゼライン酸ビス(2-エチルブチル)、セバシン酸-ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸-ジ-2-エチルブチル、フタル酸-ジ-2-エチルヘキシルおよびフタル酸-ジ-2-エチルブチル等が挙げられる。
【0051】
式(6)で表される化合物は、例えば、トリメリット酸-トリ-2-エチルヘキシルおよびトリメリット酸-トリ-2-エチルブチル等が挙げられる。
【0052】
式(4)で表される化合物、式(5)で表される化合物、式(6)で表される化合物は、それぞれ単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、式(4)で表される化合物は、上述した液晶性化合物との相溶性に優れ、安定した位相差素子を得ることができるため好ましい。式(4)で表される化合物のうち、液晶性化合物との相溶性に優れ、高温雰囲気下における1/2波長板の位相差値の変化の抑制効果に特に優れることから、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)およびトリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート(3GH)がより好ましく、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)がさらに好ましい。
【0053】
式(4)で表される化合物、式(5)で表される化合物及び式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の添加化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、上記液晶性化合物100重量部に対して、0.1重量部以上300重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上50重量部以下がより好ましく、0.8重量部以上30重量部以下がさらに好ましく、1重量部以上15重量部以下が特に好ましい。上記添加化合物の含有量が0.1重量部未満であると、高温雰囲気下における1/2波長板の位相差値の変化の抑制効果が得られないことがある。一方、上記添加化合物の含有量が300重量部を超えても、高温雰囲気下での1/2波長板の位相差値の変化の抑制効果は変わらないため、上記添加化合物の含有量の上限値は、材料コストの観点から300重量部以下が好ましい。
【0054】
(支持基板)
1/2波長板は、位相差層を支持するための支持基板を有していてもよい。このような支持基板は、表示画像の視認性を保つために、可視光領域において、透明であることが好ましく、具体的には波長380~780nmの非偏光透過率が50%以上であればよく、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。ここで、非偏光透過率とは、光の振動に規則性がない光の透過率、すなわち自然光の透過率を意味する。また、支持基板は、着色されていてもよいが、着色されていないか、着色が少ないことが好ましい。さらに、支持基板の屈折率は1.2~2.0であることが好ましく、1.4~1.8であることがより好ましい。支持基板の厚みは、用途に応じて適宜選択すればよく、好ましくは5μm~1000μmであり、より好ましくは10μm~250μmであり、特に好ましくは15μm~150μmである。
【0055】
支持基板は、単層であっても2層以上の積層体であってもよい。支持基板の例としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、アクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンおよびポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。これらのなかでも、入射されるP偏光またはS偏光の偏光軸を変化させないために、複屈折性の少ないトリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィンおよびアクリルなどが好ましい。なお、これら支持基板は、後述するブロック層としても使用することができる。
【0056】
(ブロック層)
本発明に用いられる1/2波長板は、偏光軸を変換させる作用を有する位相差層が存在する側にブロック層を有することが好ましい。図7は、ブロック層を有する1/2波長板の一実施形態を示す。図7に示される1/2波長板11は、支持基板13と、支持基板13上に形成されている位相差層12と、位相差層12上に形成されたブロック層14とを有している。図7では、ブロック層14は1/2波長板11の片面に形成されているが、1/2波長板11の両面、すなわち、支持基板13をブロック層とみなしてもよく、支持基板13の外側にもさらにブロック層14が形成されていてもよい。
【0057】
1/2波長板の片面または両面に設けられるブロック層は、高分子フィルム、あるいは樹脂組成物から形成される塗膜を乾燥または硬化させることにより得られる硬化膜からなる。ブロック層が高分子フィルムである場合、ブロック層は上記支持基板としても用いることができ、例えば、トリアセチルセルロースフィルム(TAC)、シクロオレフィンポリマーフィルム(COP)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、アクリル系フィルムなどが挙げられる。また、このような支持基板は、位相差値の低下を抑制できるものであって、本発明の偏光軸変換性能を大きく損なわないように使用できれば延伸されていてもよい。一方、ブロック層が硬化膜である場合、具体的には、1/2波長板の表面に、ブロック層形成用の樹脂組成物である塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥または硬化させることにより、1/2波長板上にブロック層を積層させる。
【0058】
1/2波長板は、車載用中間膜と接した状態で、高温環境下、例えば自動車のフロントガラスの使用環境下等に置かれることにより位相差値が低下することがある。これは、車載用中間膜の材料自体による浸食、中間膜に含まれる可塑剤等の影響によるものと考えられる。このように、1/2波長板が位相差層側にブロック層を有することにより、車載用中間膜等の位相差値の変化原因となり得る層と1/2波長板の偏光軸を変換させる作用を有する位相差層とが直接接触することが防止される。これにより、1/2波長板の位相差値の低下を抑制することができ、その結果、耐熱性に優れ、高温雰囲気下において1/2波長板の位相差値の変化が少なく、安定した光学性能を維持できるヘッドアップディスプレイシステムを提供することが可能となる。
【0059】
ブロック層形成用の樹脂組成物は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂およびアクリル樹脂からなる群より選択される1種単独または2種以上の樹脂を含み、当該樹脂組成物を塗布および乾燥することによりブロック層を形成することができる。または、ブロック用形成用の樹脂組成物は、例えば、紫外線硬化型樹脂組成物、熱硬化型樹脂組成物およびこれらの混合物であり、当該硬化型樹脂組成物を塗布および乾燥し、次いで硬化させることによりブロック層を得ることができる。このような硬化型樹脂組成物は、透明性、塗布性および生産コストなどの観点から紫外線硬化型樹脂組成物であることが好ましい。
【0060】
紫外線硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化型樹脂と光重合開始剤とを少なくとも含有し、任意にさらなる成分を含有する。紫外線硬化型樹脂としては、分子中に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートが好ましく、例えば、ジ(メタ)アクリレート、多官能ポリエステルアクリレート類、多官能ウレタン(メタ)アクリレート類および多官能エポキシ(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらは、単独または2種以上を混合して使用してもよい。これらの紫外線硬化型樹脂を用いることにより、1/2波長板の位相差値の低下をより有効に防ぐことができる。
【0061】
ジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε-カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート(例えば、日本化薬社製、KAYARADHX-220、HX-620など)およびビスフェノールAのEO付加物のジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0062】
多官能ポリエステル(メタ)アクリレート類としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびトリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0063】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオールまたはポリテトラメチレングリコール等のポリオール類と、ヘキサメチレンジイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートまたは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネート類と、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物またはペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の水酸基含有エチレン性不飽和化合物類との反応物であるウレタン(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0064】
多官能エポキシ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテルまたはトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどのポリグリシジル化合物と、(メタ)アクリル酸との反応物であるエポキシ(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0065】
3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトール類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートおよびジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のメチロール類;ならびに、トリスアクリロキシエチルイソシアヌレートおよびトリスアリルイソシアヌレート等のイソシアヌレート類が挙げられる。
【0066】
上記の紫外線硬化型樹脂として、分子中にアクリロイル基を2個有するエポキシアクリレート類またはアクリロイル基を3個以上有するウレタンアクリレート類を5重量%以上60重量%以下、好ましくは20重量%以上50重量%以下含有する樹脂組成物から形成されるブロック層は、1/2波長板との密着性、また、紫外線硬化させた際の硬化収縮が少ないため加工性の観点から好ましい。さらに、このような樹脂組成物から形成されるブロック層は、本発明に係る光学積層体を切断加工する際に、切り屑が発生しにくいため好ましい。また、紫外線硬化型樹脂として、分子中に少なくとも3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を5重量%以上80重量%以下、好ましくは15重量%以上70重量%以下含有する樹脂組成物から形成されるブロック層は、可塑剤などの浸食による1/2波長板の位相差値の低下を防ぐ効果がより高くなるため好ましい。分子中に少なくとも3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の含有率の上限値が80重量%よりも大きいと、硬化収縮が大きいため、加工性、1/2波長板との密着性が低下する傾向にあり、さらに、光学積層体を切断加工する際に、切り屑が発生しやすくなる。一方、上記化合物の含有率の下限値が5重量%未満では、ブロック層の上記性能が低下する傾向にある。
【0067】
また、ブロック層形成用の材料として、ガラス転移温度(Tg)が比較的高い樹脂、水溶性の樹脂、分子中にアクリロイル基を3個以上有するアクリレート類を使用することが好ましい。これにより、ブロック層の耐久性を向上させる効果を高めることができる。ガラス転移温度(Tg)は、80℃以上300℃以下であることが好ましく、150℃以上250℃以下であることがより好ましい。特に、水溶性の樹脂、ガラス転移温度が150℃以上である樹脂、分子中にアクリロイル基を3個以上有するアクリレート類は、1/2波長板の位相差値の低下を防ぐ効果がより顕著である。
【0068】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オンなどのアセトフェノン類;2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノンおよび2-アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントンおよび2-クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタールおよびベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイドおよび4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;ならびに、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドおよびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類等が挙げられる。
【0069】
光重合開始剤の具体例として、例えば、チバ・スペシャリティケミカルズ社製のIrgacure 184(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)およびIrgacure 907(2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)、BASF社製ルシリンTPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)等の市販品が挙げられる。これらは、単独で使用しても、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0070】
光重合開始剤は、ブロック層形成用の樹脂組成物の固形分中に0.01重量%以上10重量%以下含有されることが好ましく、1重量%以上7重量%以下含有されることがより好ましい。
【0071】
ブロック層形成用の樹脂組成物には、さらに溶剤が含まれる。このような溶剤は、使用する樹脂および光重合活性剤等を溶解できれば、特に限定されるものではなく、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、シクロペンタノン等が挙げられ、好ましくはメチルエチルケトンである。また、これらの溶剤は任意の割合で加えることができ、1種類のみを加えてもよいし、複数の溶剤を併用してもよい。これら溶剤は、乾燥工程にて乾燥除去される。
【0072】
ブロック層形成用樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含有することもできる。硬化促進剤としては、例えば、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、2-メチルアミノエチルベンゾエート、ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミノエステルおよびEPAなどのアミン類;ならびに2-メルカプトベンゾチアゾールなどの水素供与体が挙げられる。これらの硬化促進剤の含有量は、ブロック層形成用樹脂組成物の固形分中に、0重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0073】
さらに、ブロック層形成用樹脂組成物は、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、重合禁止剤および架橋剤などの添加剤を1以上含有し、それぞれ目的とする機能を付与することも可能である。レベリング剤としては、例えば、フッ素系化合物、シリコーン系化合物およびアクリル系化合物等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物およびトリアジン系化合物等が挙げられる。光安定化剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物およびベンゾエート系化合物等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物等が挙げられる。重合禁止剤としては、例えば、メトキノン、メチルハイドロキノンおよびハイドロキノン等が挙げられる。架橋剤としては、例えば、脂環式ポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等ポリイソシアネート類並びにメラミン化合物等が挙げられる。これらの各添加剤の添加量は、付与すべき機能に応じて、適宜設計される。
【0074】
ブロック層の厚みは、特に限定されるものではないが、紫外線硬化型樹脂から構成されるブロック層の厚みの上限値は、硬化収縮の観点から50μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、紫外線硬化型樹脂から構成されるブロック層の厚みの下限値は、硬化性の観点から0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。ブロック層の厚みが0.1μm以上50μm以下の範囲であることにより1/2波長板の位相差値の低下をより効果的に防ぐことができる。ブロック層は、ブロック層形成用樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が0.1μm以上50μm以下の範囲になるように塗布し、次いで塗膜を乾燥後、紫外線照射または加熱により硬化させて硬化膜を形成させることにより得ることができる。
【0075】
ブロック層形成用樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されるものではなく、例えば、バーコーター塗工、ワイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、マイクログラビア塗工、マイクロリバースグラビアコーター塗工、ダイコーター塗工、ディップ塗工、スピンコート塗工およびスプレー塗工等が挙げられる。
【0076】
ブロック層形成用樹脂組成物に含まれる樹脂が紫外線硬化型樹脂である場合、樹脂の硬化のために紫外線を照射するが、電子線などを使用することもできる。紫外線により樹脂を硬化させる場合、光源としては、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプまたはLEDなどを有する紫外線照射装置を使用することができ、必要に応じて光量、光源の配置などが調整される。高圧水銀灯を使用する場合、80~120W/cmのエネルギーを有するランプ1灯に対して搬送速度5~60m/分で樹脂を硬化させるのが好ましい。一方、電子線により樹脂を硬化させる場合は、100~500eVのエネルギーを有する電子線加速装置を使用することが好ましく、その際、光重合開始剤を使用しなくてもよい。
【0077】
次に、上記の重合性基を有するネマチック液晶モノマーを用いて、本発明に使用される1/2波長板を作製する方法を説明する。このような方法としては、例えば、重合性基を有するネマチック液晶モノマーを溶剤に溶解させ、次いで溶液中に光重合開始剤を添加する。このような溶剤は、使用する液晶モノマーを溶解できれば、特に限定されるものではないが、例えば、シクロペンタノン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、シクロペンタノンおよびトルエン等が好ましい。その後、この溶液を支持基板として用いられるPETフィルムまたはTACフィルム等のプラスチックフィルム上に厚みができるだけ均一になるように塗布し、加熱により溶剤を除去させながら、塗布フィルム上で液晶となって配向するような温度条件で一定時間放置させる。このとき、支持基板表面を塗布前に所望とする配向方向にラビング処理、あるいは偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料を支持基板表面に成膜し偏光照射する等の配向処理をしておくことで、液晶の配向をより均一にすることができる。これにより、1/2波長板の遅相軸を所望とする角度に制御し、かつ、1/2波長板のヘーズ値を低減することが可能となる。次いでこの配向状態を保持したまま、高圧水銀灯等でネマチック液晶モノマーに紫外線を照射し、液晶の配向を固定化させることにより、所望とする遅相軸を有する1/2波長板を得ることができる。
【0078】
重合性液晶モノマーが、上述のような配向処理された支持基板上に直接塗布されている場合、すなわち、1/2波長板が、配向処理された支持基板上に設けられた重合性液晶層を有する場合、1/2波長板は塗布フィルムを有するため扱いやすい。また、このような構成は、重合性液晶層を別基板に接着剤や粘着剤等を用いて貼合する構成と比較し、製造工程が少ないため、より安価に本発明に用いられる光学積層体を作製することができる。なお、支持基板に上述した配向処理を行い、配向処理された支持基板上重合性液晶モノマーを直接塗布させる場合は、1/2波長板の偏光軸を変化させないために、複屈折性が小さい調整されたトリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィン(COP)、アクリル、ナイロン、ポリエステル(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)、ポリビニルブチラール系樹脂(PVB)、ポリウレタンまたはエチレン-酢酸ビニル共重合系樹脂(EVA)などを支持基板として使用することができる。また、支持基板が、延伸等により複屈折性が高いプラスチックフィルムであっても、P偏光の偏光軸に対して遅相軸を平行または直交するように配置することで、複屈折性が高いプラスチックフィルムを使用することもできる。
【0079】
また、ブロック層を有する1/2波長板において、重合性液晶モノマーが、上述のような配向処理された支持基板上に直接塗布されている場合、すなわち、1/2波長板が、配向処理された支持基板上に設けられた重合性液晶層を有する場合、支持基板がブロック層と同様に1/2波長板の位相差値の低下を防ぐ機能を有する。1/2波長板がこのような構成を有することにより、車載用中間膜等の位相差値の変化原因となり得る層が、支持基板側からも1/2波長板の重合性液晶層と直接接触せず、その結果、1/2波長板の位相差値の低下を抑制することができる。また、このような構成は、1/2波長板の両面にブロック層を設ける構成と比較し、ブロック層を1層分形成する製造工程を減らすことができるため、より安価に本発明に用いる光学積層体を作製することができる。
【0080】
本発明に用いられる光学積層体は、ブロック層を有する1/2波長板上に中間膜が形成された中間積層体を備えていてもよい。図8には、このような中間積層体の一実施形態を示す。図8に示される中間積層体10’は、片面にブロック層を有する1/2波長板11と2枚の中間膜9とを備え、1/2波長板11が2枚の中間膜9に挟持された構成を有している。また、図9は、このような中間積層体を備える光学積層体の一実施形態を示し、図9に示される光学積層体4は、ブロック層を備える中間積層体10’が2枚の基材7に挟持された構成を有している。中間積層体10’には、中間膜9がブロック層14側に形成されていればよく、1/2波長板11の支持基板13側にも形成されていてもよい。また、光学積層体4が中間積層体10’を有する場合、図5に示される光学積層体4と同様、中間膜9は、基材7と1/2波長板11との密着性を保持するための粘着剤または接着剤としての機能も有している。
【0081】
(中間膜)
光学積層体に、さらに中間膜が積層される場合、中間膜としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、一般的に用いられている車載用中間膜を用いることが好ましい。このような車載用中間膜は、例えば、ポリビニルブチラール系樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)またはエチレン-酢酸ビニル共重合系樹脂(EVA)である。これらは合わせガラス用中間膜として汎用的であるために好ましい。また、中間膜の厚みは、表示光の反射に影響を与えない範囲であれば、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設計することができる。
【0082】
中間膜には、加工性の観点から可塑剤が添加されていることが好ましい。このような可塑剤として、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機酸エステル可塑剤、および、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。一塩基性有機酸エステルは、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールまたはトリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)またはデシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。
【0083】
多塩基性有機酸エステルは、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4~8の直鎖または分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。このような有機エステル可塑剤は、例えば、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコール-ジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、1,2-ブチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、トリエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコールジヘプタノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ヘプチルとアジピン酸ノニルとの混合物、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、ならびに、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物等が挙げられる。
【0084】
有機リン酸可塑剤は、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、およびトリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0085】
中間膜には、さらに、紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、着色剤、接着調整剤等が適宜添加配合されていてもよく、とりわけ、赤外線を吸収する微粒子が分散された中間膜は、高性能な遮熱合わせガラスを作製する上で重要である。赤外線を吸収する微粒子には、Sn、Ti、Zn、Fe、Al、Co、Ce、Cs、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、VおよびMoからなる群から選択される金属、金属酸化物、金属窒化物、SbもしくはFをドープした上記の金属、金属酸化物または金属窒化物、あるいはこれらの中から少なくとも2種以上を含む複合物などの導電性を有する材料の超微粒子を用いることができる。特に、遮熱合わせガラスを、透明性が求められる建築用や自動車用の窓として用いる場合には、可視光線の領域で透明である錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫が、特に好ましい。中間膜に分散させる赤外線を吸収する微粒子の粒径は、0.2μm以下であることが好ましい。微粒子の粒径が0.2μm以下であれば、可視光領域での光の散乱を抑制しつつ微粒子が赤外線を吸収でき、また、ヘーズを発生させることなく、電波透過性と透明性を確保しつつ、接着性、透明性、耐久性等の特性を未添加の中間膜と同等に維持し、さらには通常の合わせガラス製造ラインでの作業で合わせガラス化処理を行うことができる。なお、中間膜にPVBを用いる場合には、中間膜の含水率を最適に保つために、恒温恒湿の部屋で合わせ化処理を行う。また、中間膜には、その一部が着色されていてもよく遮音機能を有する層がサンドイッチされていてもよく、あるいは、HUDシステムにおける二重像の発生を軽減するため、中間膜の厚さに傾斜があるもの(楔形)等が使用されていてもよい。
【0086】
特に、中間膜がPVB樹脂製である場合、位相差層として重合性液晶層を有する1/2波長板は、中間膜と重合性液晶層との接触により高温条件下で劣化し、位相差値が低下してしまうおそれがある。これは、1/2波長板に隣接するPVB樹脂自体の浸食、PVB樹脂中に含まれる上述の可塑剤等の影響であると考えられる。本発明で用いられる光学積層体が、ブロック層を有する1/2波長板を備えることにより、このようなPVB樹脂製の中間膜、または可塑剤を含むPVB樹脂製の中間膜が、1/2波長板の位相差層と直接接するように積層されていても、1/2波長板の劣化が抑えられ、また、位相差値の変化を抑制することができる。
【0087】
光学積層体が、1/2波長板が2枚の中間膜に挟持された中間積層体を有する場合、2枚の中間膜は、ラミネートにより形成された膜であることが好ましい。中間膜をラミネートする方法は特に制限はないが、例えば、ニップロールを用いて、中間膜、1/2波長板、中間膜を同時に圧着してラミネートする方法が挙げられる。ラミネートする際に、ニップロールが加熱できる場合は、加熱しながら圧着することも可能である。また、中間膜と1/2波長板との密着性が劣る場合は、中間膜にコロナ処理やプラズマ処理などによる表面処理を予め行ってからラミネートしてもよい。
【0088】
中間膜は、溶剤に溶解させた状態で、1/2波長板の片面または両面に直接積層してもよい。中間膜としてポリビニルブチラール系樹脂(PVB)を使用する場合、ブチラール化度の下限値は、40モル%であることが好ましく、55モル%であることがより好ましく、60モル%であることが特に好ましい。一方、ブチラール化度の上限値は、85モル%であることが好ましく、80モル%であることがより好ましく、75モル%であることが特に好ましい。なお、ブチラール化度は、赤外吸収スペクトル(IR)法により、測定することができ、例えば、FT-IRを用いて測定することができる。
【0089】
ポリビニルブチラール系樹脂の水酸基量の下限値は、15モル%であることが好ましく、上限値は35モル%であることが好ましい。水酸基量が15モル%未満であると、基材としてガラスを使用した場合、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下したり、合わせガラスの耐貫通性が低下したりすることがある。一方、水酸基量が35モル%を超えると、中間膜が硬くなることがある。
【0090】
ポリビニルブチラール系樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより調製することができる。ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。また、ポリビニルアルコールの重合度の上限値は4000であることが好ましく、3000であることがより好ましく、2500であることが特に好ましい。重合度が4000を超えると、中間膜の成形が困難となることがある。
【0091】
<反射鏡>
本発明のHUDシステムは、反射鏡を備えていてもよい。反射鏡は、表示器からの表示光を光学積層体に向けて反射することができれば、特に限定されるものではなく、例えば、平面鏡、凹面鏡などから構成される。反射鏡として凹面鏡を用いた場合、凹面鏡は、表示器からの表示光を所定の拡大率で拡大することも可能である。
【0092】
<光学積層体の製造方法>
次に、基材としてガラスを用いて光学積層体を作製する方法の一例を具体的に説明する。まず、2枚のガラス板を準備する。ガラス板を自動車のフロントガラス用の合わせガラスとして用いる場合は、フロート法で作られたソーダライムガラスを使用することが好ましい。ガラスは透明、緑色に着色されたもの、いずれであってもよく、特に制限されない。これらのガラス板の厚さは、通常、約2mmtのものを使用するが、近年のガラスの軽量化の要求に応じて、これよりも若干薄い厚さのガラス板を使用することもできる。ガラス板を所定の形状に切り出し、ガラスエッジに面取りを施し洗浄する。黒色の枠状やドット状のプリントが必要な場合には、ガラス板にこれを印刷する。フロントガラスのように曲面形状が必要とされる場合には、ガラス板を650℃以上に加熱し、その後、モールドによるプレスや自重による曲げなどで2枚が同じ面形状となるように整形し、ガラスを冷却する。このとき、冷却速度を早くしすぎると、ガラス板に応力分布が生じて強化ガラスとなるため、徐冷する。このように作製したガラス板のうちの1枚を水平に置き、その上に1/2波長板を重ね、さらにもう一方のガラス板を置く。あるいは、ガラス板の上に中間膜と、1/2波長板と、中間膜とを順に重ねるか、中間膜と、1/2波長板とを順に重ねるか、または、1/2波長板と、中間膜とを順に重ね、最後にもう一方のガラス板を置くといった方法であってもよい。次いで、ガラスのエッジからはみ出した1/2波長板および中間膜は、カッターで切断・除去する。その後、サンドイッチ状に積層したガラス、中間膜、1/2波長板との間に存在する空気を脱気しながら温度80℃~100℃に加熱し、予備接着を行う。空気を脱気する方法には、ガラス/(中間膜)/1/2波長板/(中間膜)/ガラスの予備積層体を耐熱ゴムなどでできたゴムバッグで包んで行うバッグ法と、予備積層体のガラスの端部のみをゴムリングで覆ってシールするリング法の2種があり、どちらの方法を用いてもよい。予備接着が終了後、ゴムバッグから取り出したガラス/(中間膜)/1/2波長板/(中間膜)/ガラスの予備積層体、もしくはゴムリングを取り外した予備積層体をオートクレーブに入れ、10~15kg/cmの高圧下で、120℃~150℃に加熱し、この条件で20分~40分間、加熱・加圧処理する。加熱・加圧処理後、予備積層体を50℃以下に冷却し、さらに除圧し、ガラス/(中間膜)/1/2波長板/(中間膜)/ガラスからなる光学積層体をオートクレーブから取り出す。
【0093】
こうして得られた光学積層体は、普通自動車、小型自動車、軽自動車などとともに、大型特殊自動車、小型特殊自動車のフロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして使用できる。さらには、鉄道車両、船舶、航空機の窓としても、また、建材用および産業用の窓材としても使用できる。また、光学積層体は、UVカット機能または調光機能を有する部材と、積層あるいは貼合して用いることもできる。
【0094】
本発明のHUDシステムは、図10に示されるように、表示器2から出射された表示光がP偏光であり、さらに、光学積層体4に対するP偏光のブリュースター角をαとしたとき、光学積層体4に入射するP偏光の入射角が、α-10°以上α+10°以下の範囲であることが好ましい。すなわち、表示器2からのP偏光を、光学積層体の表面に垂直な軸18に対してブリュースター角近傍の入射角19で光学積層体4へ入射させることにより、光学積層体表面でのP偏光の反射が大幅に低減される。光学積層体を透過したP偏光は、光学積層体を構成する1/2波長板でS偏光に変換され、変換されたS偏光は他方の光学積層体4の界面で反射する。反射したS偏光が1/2波長板により再びP偏光に変換され、このP偏光が観察者に到達する。これにより、表示画像は虚像として観察者に視認可能となる。一方、P偏光の入射角がα-10°未満、またはα+10°より大きい場合、P偏光の入射角は、ブリュースター角近傍からずれてしまうため、P偏光の反射率が増加し、二重像が発生してしまう場合がある。このように、P偏光の入射角をブリュースター角近傍に調整することにより、二重像の発生を大幅に軽減させることができる。また、一般に路面からの反射光はS偏光であるため、偏光サングラスは、S偏光を吸収できるように設計されている。そのため、S偏光を利用した従来のHUDシステムでは、偏光サングラスを介したHUDの表示画像の視認性が極端に低下してしまう。一方、観察者にP偏光が到達する、P偏光を利用したHUDシステムであれば、二重像の発生を抑制できるとともに、偏光サングラス着用時においても、表示画像の視認性を高めることができる。
【0095】
また、上記の実施形態では、中間膜は1つの独立した膜として、基材と1/2波長板との間に重ねて配置されているが、それに代えて、中間膜が、予め基材に直接積層された状態で配置されていてもよい。具体的には、2枚の中間膜のうち、少なくとも一方の中間膜が、予め基材に直接積層された膜であってもよい。このような中間膜の使用により、1/2波長板と基材との間に中間膜を配置する工程を省くことができ、その結果、製造コストを削減することが可能となる。
【実施例
【0096】
以下、実施例により、本発明を詳細に例示する。実施例において「部」は重量部を意味する。
【0097】
[実施例1]
<塗布液(液晶組成物)の調製>
表1に示す組成を有する塗布液Aを調製した。
【0098】
【表1】
【0099】
<1/2波長板の作製>
調製した塗布液Aを用い、下記の手順にてそれぞれ1/2波長板を作製した。支持基板としては、特開2002-90743号公報の実施例1に記載された方法でラビング処理されたTACフィルム(厚さ80μm)を使用した。
【0100】
(1)塗布液Aを、ワイヤーバーを用いて、乾燥後にそれぞれ得られる1/2波長板の厚みが2μmになるように、TACフィルムのラビング処理面上に室温にて塗布した。
(2)得られた塗布膜を、50℃にて2分間加熱して溶剤を除去するとともに、液晶相とした。次いで、液晶相に対して高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120Wの出力で5~10秒間UV照射し、液晶相を固定して、TACフィルム上に重合性液晶層を積層した1/2波長板を作製した。
【0101】
<中間積層体の作製>
厚さが0.38mmで、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを含有した透明なポリビニルブチラール中間膜を2枚用い、作製した1/2波長板を2枚のポリビニルブチラールフィルム間に配置し、次いで、ラミネーターにて加圧圧着することにより、中間積層体を作製した。
【0102】
<光学積層体の作製>
1枚の厚さが2mmである2枚の透明なガラス板の間に、作製した中間積層体を配置し、次いで、下記方法にて、加圧・加熱することにより、光学積層体を作製した。
【0103】
まず、一方のガラス板上に、作製した中間積層体、他方のガラス板を順に重ねた。次に重ねたガラス板のエッジ部からはみ出した中間積層体の余分な部分を切断・除去した。これをゴムバッグで包み、90℃に加熱したオートクレーブ中で10分間脱気し、予備接着した。予備接着した中間積層体を室温まで冷却し、次いでこれをゴムバッグから取り出し、再度、オートクレーブ中で135℃、12kg/cmの高圧下で30分間加熱・加圧した。こうして、外観が良好な本発明に用いられる光学積層体を作製した。得られた光学積層体の位相差値を自動複屈折計(王子計測社製「KOBRA-21ADH」)で測定した結果、546nmにおける位相差値が252nmであった。
【0104】
<1/2波長板の偏光軸変換性能の測定>
島津製作所社製の分光光度計MPC-3100を用いて、図11に示す測定方法にて、1/2波長板の偏光軸変換性能の測定を行った。図11において、測定サンプル40に光源からのP偏光を入射角60で出射し、受光器側と測定サンプル40との間にS偏光を吸収する偏光板50が設置されている。なお、この測定方法では、P偏光を光源とし、受光器側にS偏光を吸収する偏光板を設置しているため、偏光軸変換性能が高い測定サンプルほど、受光器が検知する光(平均透過率)は低くなる。この測定方法を用い、1/2波長板の遅相軸と、光学積層体に入射するP偏光の偏光軸とのなす角度θが50゜、45°、40°、35°、30°になるように実施例1で作製した光学積層体を測定サンプル40として設置し、P偏光の入射角が0°、30°、50°、56°、65°の条件で、各入射角における光学積層体の平均透過率を測定した。結果を表2に示した。
【0105】
<偏光軸変換性能の評価>
表2に示される平均透過率は、400nm~700nmの可視光領域における平均透過率であり、上述したように平均透過率が低い程、偏光軸変換性能が優れていると判断できる。また、光学積層体に入射するP偏光の入射角が45°以上65°以下の範囲である場合には、光学積層体の表面での反射率を理論上2%以下に抑制することができる。このことから、1/2波長板の遅相軸と、50°、56°及び65°の入射角で光学積層体に入射したP偏光の偏光軸とのなす角度θが35°及び40°、すなわち、35°以上44°以下の範囲である場合には、1/2波長板は優れた偏光軸変換性能を示しつつ、光学積層体の表面でのP偏光の高い反射も抑制できることがわかる。
【0106】
【表2】
【0107】
<より高い偏光軸変換性能の算出>
下記式(2)と(3)より、光学積層体に対するP偏光の入射角が0°、30°、50°、56°、65°の際の1/2波長板の遅相軸と、これらの角度で入射されるP偏光の偏光軸とのなす角度θを求めた。その結果、P偏光の入射角が0°、30゜、50°、56°、65°に対して、θの値は、それぞれ45°、43°、41°、40°、39°であった。なお、空気の屈折率は1.00、1/2波長板の屈折率は1.55とした。表2より、P偏光の入射角が0°、30°の場合には、最も平均透過率が高いθの値は45°であり、P偏光の入射角が50°、56°および65°の場合には、θの値が40°で最も平均透過率が高い。すなわち、下記式(2)及び(3)より算出されたθの値付近で、1/2波長板の偏光軸変換性能が最も高い。そのため、下記式(2)と(3)を満たすように角度θを厳密に制御することにより、1/2波長板の偏光軸変換性能をより高めることができる。
【0108】
【数4】
【0109】
<ヘッドアップディスプレイの作製および表示画像の評価>
図2に示すような配置でヘッドアップディスプレイを作製した。なお、表示器2には、光源20として液晶プロジェクター、偏光板30としてP偏光が出射されるように偏光板をそれぞれ設置した。光学積層体4は、実施例1で作製した光学積層体を使用し、1/2波長板の遅相軸と光学積層体4に入射するP偏光の偏光軸とのなす角度θが40°になるように光学積層体4を設置した。また、光学積層体4に対するP偏光の入射角がブリュースター角(約56°)になるように光学積層体4を設置した。次に、暗室内にて、液晶プロジェクターから、光学積層体4へ表示画像を投影したところ、表示画像に二重像は観察されなかった。また、市販の偏光サングラス(S偏光を吸収する)をかけて表示画像を観察しても、表示画像の視認性が高く、極めて鮮明な表示画像が視認可能であった。
【0110】
[実施例2]
偏光板30としてS偏光が出射されるように偏光板を設置し、1/2波長板の遅相軸と光学積層体4に入射するS偏光の偏光軸とのなす角度θが40°であり、かつ光学積層体4に対するS偏光の入射角がブリュースター角(約56°)になるように光学積層体4を設置した以外は、実施例1と同様にヘッドアップディスプレイを作製した。暗室内にて、液晶プロジェクターから、光学積層体4へ表示画像を投影したところ、表示画像に二重像は観察されなかった。
【0111】
[実施例3]
1/2波長板の遅相軸と光学積層体に入射するP偏光の偏光軸とのなす角度θが35°になるように光学積層体を設置したこと以外は、実施例2と同様にヘッドアップディスプレイを作製した。暗室内にて、液晶プロジェクターから、光学積層体へ表示画像を投影したところ、表示画像に二重像は観察されなかった。
【0112】
[比較例1]
1/2波長板の遅相軸と光学積層体4に入射するP偏光の偏光軸のなす角度θを50°に変更する以外は実施例1と同様に評価を行った。その結果、液晶プロジェクターから光学積層体へ表示画像を投影したところ、表示画像は実施例1で観察された表示画像に比べて暗く、総合的に視認性の低いものであった。
【0113】
[実施例4]
<ブロック層形成用の紫外線硬化樹脂塗布液の調製>
表3に示す組成を有する紫外線硬化樹脂組成物の塗布液Bを調製した。
【0114】
【表3】
【0115】
<光学積層体の作製>
実施例1に記載の工程(1)及び(2)により作製した1/2波長板に、さらに以下の工程(3)及び(4)を追加した以外は実施例1と同様に光学積層体を作製した。こうして、位相差層が存在する側にブロック層が形成されている1/2波長板を有する光学積層体を作製した。
【0116】
<1/2波長板の作製>
実施例1に記載の工程(1)及び(2)の後、
(3)1/2波長板の重合性液晶層側に、乾燥後に得られるブロック層の厚みが1.5μmになるように、ブロック層形成用の紫外線硬化樹脂組成物である塗布液Bを、ワイヤーバーを用いて室温にて塗布した。
(4)得られた塗膜を、40℃にて1分間加熱して溶剤を除去した。次いで、塗膜に高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120Wの出力で5~10秒間UV照射し、位相差層側にブロック層を有する1/2波長板を作製した。
【0117】
[実施例5]
ポリビニルブチラール樹脂(クラレ社製のMowital B20H)を固形分が30重量%になるように、メチルエチルケトン中に溶解し、得られた溶液を、実施例2で作製した1/2波長板のブロック層上に、乾燥後の厚みが100μmになるようにコンマコーターを用いて塗布した。次いで、得られた塗膜を80℃で3分間乾燥させ、塗布性ポリビニルブチラール樹脂の中間膜をブロック層上に積層した。1/2波長板の支持基板側の面には、実施例1、2で用いたポリビニルブチラール樹脂製の中間膜1枚を配置し、次いで、ラミネーターにて加圧圧着することにより、中間積層体を得た。得られた中間積層体を用いて、実施例1と同様の方法で光学積層体を作製した。得られた光学積層体の位相差値は546nmにおいて252nmであった。
【0118】
[実施例6]
<3/4波長板と1/4波長板とが積層された1/2波長板の作製>
(1)実施例1で用いた塗布液Aを、ワイヤーバーを用いて、乾燥後に3/4波長板および1/4波長板となるようにそれぞれ厚みを調整しPETフィルムのラビング処理面上に室温にて塗布した。
(2)得られたそれぞれの塗布膜を、50℃にて2分間加熱して溶剤を除去し、次いで高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120Wの出力で5~10秒間UV照射して、PETフィルム上に重合性液晶層からなる位相差層を有するフィルムをそれぞれ作製した。
(3)次に、これらのPETフィルム上に形成されている位相差層同士を、アクリル系粘着剤を用いて、3/4波長板の遅相軸と、1/4波長板の遅相軸とが80°に交差するように、積層し、3/4波長板と1/4波長板とが、それぞれの遅相軸が80°に交差するように積層された位相差層を有する1/2波長板を作製した。
【0119】
<光学積層体の作製>
(4)上記工程(3)により作製した1/2波長板の一方のPETフィルムのみを剥離し、実施例4と同様の操作により、位相差層の一方の面にブロック層を形成した。
(5)さらに、他方のPETフィルムを剥離し、実施例2と同様の操作により、位相差層の他方の面にもブロック層を形成し、3/4波長板と1/4波長板とが積層された位相差層の両面にブロック層を形成した。
(6)上記工程(5)で得られた位相差層の両面にブロック層が形成された1/2波長板を用い、実施例1と同様の操作により、中間膜積層体、さらには光学積層体を作製した。
【0120】
上記工程(2)により作製した3/4波長板及び1/4波長板のPETフィルムをそれぞれ剥離して、各位相差層の位相差値を、実施例1で用いた自動複屈折計を用いて測定した。その結果、3/4波長板が有する位相差層では、546nmにおける位相差値が410nmであり、また、1/4波長板が有する位相差層では、546nmにおける位相差値が137nmであった。
【0121】
<ヘッドアップディスプレイの作製および表示画像の評価>
実施例1と同様の操作により、図2に示すヘッドアップディスプレイを作製した。なお、表示器2には、光源20として液晶プロジェクター、偏光板30としてS偏光が出射されるように偏光板をそれぞれ設置した。光学積層体4は、上記工程(6)で作製した光学積層体を使用し、積層された位相差層を構成する3/4波長板の遅相軸と光学積層体4に入射するS偏光の偏光軸とのなす角度θが40°になるように光学積層体4を設置した。また、光学積層体4に対するS偏光の入射角がブリュースター角(約56°)になるように光学積層体4を設置した。次に、暗室内にて、液晶プロジェクターから、光学積層体4へ表示画像を投影したところ、表示画像はどの色を表示しても二重像は観察されず、極めて鮮明な表示画像が視認可能であった。
【0122】
[実施例7]
3/4波長板と、1/4波長板とをそれぞれの遅相軸が70°に交差するように積層させた以外は、実施例6と同様の操作を行い、3/4波長板と1/4波長板とをそれぞれの遅相軸が70°に交差するように積層してなる位相差層を有する1/2波長板、中間膜積層体、光学積層体を順次作製した。
【0123】
S偏光の偏光軸とのなす角度θが35°、S偏光の入射角がブリュースター角(約56°)になるように光学積層体3/4波長板の遅相軸と光学積層体に入射するS偏光の偏光軸とのなす角度θが35°になるように光学積層体を設置したこと以外は、実施例6と同様にヘッドアップディスプレイを作製した。得られたヘッドアップディスプレイを実施例6と同様に表示画像を投影したところ、表示画像はどの色を表示しても二重像は観察されず、鮮明な表示画像が視認可能であった。
【0124】
[実施例8]
<3/4波長板と1/4波長板とが積層された支持基板を備える1/2波長板の作製>
(1)支持基板兼ブロック層として一軸延伸されたPETフィルムを用いて 実施例6と同様の操作により、PETフィルムの遅相軸方向に対して40°傾斜した方向に配向した3/4波長板と、PETフィルムの遅相軸方向に対して40°傾斜した方向に配向した1/4波長板とをそれぞれ作製した。
(2)次に、これらのPETフィルムを、それぞれのPETフィルムの遅相軸方向が平行になるように、かつ、各PETフィルム上に形成されている3/4波長板の位相差層と1/4波長板の位相差層とを互いに対向するように、アクリル系粘着剤を用いて積層し、3/4波長板と1/4波長板とが、それぞれのPETフィルムの遅相軸が平行になるように積層された位相差層を有する1/2波長板を作製した。
【0125】
<光学積層体の作製>
(3)上記工程(2)により作製した1/2波長板のPETフィルムを剥離することなく、実施例6と同様の操作により、中間膜積層体、さらには光学積層体を作製した。
【0126】
<ヘッドアップディスプレイの作製および表示画像の評価>
実施例1と同様の操作により、図2に示すヘッドアップディスプレイを作製した。なお、表示器2には、光源20として液晶プロジェクター、偏光板30としてS偏光が出射されるように偏光板をそれぞれ設置した。光学積層体4は、上記工程(3)で作製した光学積層体を使用し、積層された位相差層を構成する3/4波長板の遅相軸と光学積層体4に入射するS偏光の偏光軸とのなす角度θが40°になるように光学積層体4設置した。同時に、一軸延伸PETフィルムの遅相軸は、入射するS偏光に対して90°となった。また、光学積層体4に対するS偏光の入射角がブリュースター角(約56°)になるように光学積層体4を設置した。次に、暗室内にて、液晶プロジェクターから、光学積層体4へ表示画像を投影したところ、表示画像はどの色を表示しても二重像は観察されず、極めて鮮明な表示画像が視認可能であった。
【0127】
[比較例2]
1/2波長板上にブロック層を形成しなかった以外は、実施例4と同様の方法で光学積層体を作製した。得られた光学積層体の位相差値は546nmにおいて252nmであった。
【0128】
<1/2波長板の耐熱性評価>
実施例4、5及び比較例2で得られた光学積層体の546nmにおける初期位相差値を自動複屈折計(王子計測社製「KOBRA-21ADH」)により測定した。また、これらの光学積層体を100℃の高温雰囲気下に500時間放置し、放置前後の位相差値の変化率を測定した。結果は表4に示すとおりであった。なお、位相差値の変化率は以下により求めた値である。
【0129】
【数5】
【0130】
【表4】
【0131】
表4より、実施例4~5で作製したブロック層を有する光学積層体は、比較例1で作製したブロック層を有していない光学積層体に比べて、高温雰囲気下での位相差値の変化が大幅に抑制されていることがわかる。
【0132】
本発明によれば、表示画像を鮮明に視認可能であり、かつ、優れた偏光軸変換性能を示すヘッドアップディスプレイシステムを提供することができる。特に、P偏光を入射させた場合、観察者が偏光サングラスを着用していた場合でも、表示画像を鮮明に視認可能である。本発明のヘッドアップディスプレイシステムは、各種自動車のフロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして好適に使用できる他、鉄道車両、船舶、航空機の窓、さらには、建材用および産業用の窓材としても好適に使用できるなど、あらゆる分野での適用が期待できる。
【0133】
また、1/2波長版がブロック層を有することにより、耐熱性に優れ、高温雰囲気下において1/2波長板の位相差値の変化が少なく、光学性能を安定して維持するヘッドアップディスプレイシステムを提供することができる。
【符号の説明】
【0134】
1 観察者
2 表示器
3 反射鏡
4 光学積層体
5 光路
6 虚像
7 基材
8 1/2波長板
9 中間膜
10,10’ 中間積層体
11 1/2波長板
12 位相差層
13 支持基板
14 ブロック層
15 P偏光の偏光軸
16 S偏光の偏光軸
17 1/2波長板の遅相軸
18 光学積層体の表面に垂直な軸
19 ブリュースター角近傍の入射角
20 光源
30 偏光板
40 測定サンプル
50 S偏向を吸収する偏光板
60 入射角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11