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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】薬剤送達デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/145 20060101AFI20220601BHJP
   A61M 5/148 20060101ALN20220601BHJP
【FI】
A61M5/145 504
A61M5/148
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019516420
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017073724
(87)【国際公開番号】W WO2018060026
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】16190884.3
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ-アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・シャーバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ベアーテ・フランケ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアーノ・プラデル
(72)【発明者】
【氏名】イラーリオ・メルツィ
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・ヴェルラーク
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ネルソン
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-512193(JP,A)
【文献】特表2013-526366(JP,A)
【文献】特表平06-504215(JP,A)
【文献】特表平03-501348(JP,A)
【文献】特表2015-511528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/145
A61M 5/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達デバイスであって:
ハウジングと;
該ハウジング内に完全に針が受け入れられる後退位置から、ハウジングから針が突出する伸長位置へ可動の針と;
それぞれハウジング内に配置されたリザーバおよび投薬部材、第1および第2の付勢部材、ならびに第1および第2のロック部材を含む薬剤送達機構と;
第1のロック部材に力を及ぼし、該第1のロック部材をロック状態からロック解除状態へ付勢するようにハウジングに対して初期位置から中間位置へ可動のアクチュエータであって、ロック解除状態では、第1の付勢部材が針を後退位置から伸長位置へ動かす、アクチュエータとを含み、
ここで、該アクチュエータは、第2のロック部材に力を及ぼし、該第2のロック部材をロック状態からロック解除状態へ付勢するようにハウジングに対して中間位置から第2の位置へ可動であり、ロック解除状態では、第2の付勢部材がハウジング内で投薬部材を動かし、リザーバが薬剤を収容しているときリザーバから薬剤を投薬する、前記薬剤送達デバイス。
【請求項2】
アクチュエータは、ハウジングに対して摺動可能な押しボタンを含む、請求項1に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項3】
第1および/または第2のロック部材は、ハウジングに旋回可能に連結される、請求項1または2に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項4】
第1のロック部材は突出部を含み、アクチュエータは、該アクチュエータが第1の位置から中間位置へ動かされて第1のロック部材をロック解除状態へ動かしたとき突出部に当接するように構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項5】
第1のロック部材は、第1のロック部材がロック状態にあるとき伸長位置への針の動き
に抵抗するように構成された表面を含み、第1のロック部材は、該表面と突出部との間の点でハウジングに旋回可能に連結される、請求項4に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項6】
第2のロック部材は、第1の部分と、該第1の部分に対して傾斜して延びる第2の部分とを含み、第1の部分は、第2のロック部材がロック状態にあるとき投薬部材に当接する、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項7】
第1の部分は、第2のロック部材がロック状態にあるとき投薬部材の少なくとも一部を受け入れるように構成された凹部を含む、請求項6に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項8】
アクチュエータは、該アクチュエータが中間位置から第2の位置へ動かされて第2のロック部材をロック解除状態へ動かしたとき第2の部分に当接するように構成される、請求項6または7に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項9】
薬剤送達機構は、第3の付勢部材および第3のロック部材をさらに含み、該第3のロック部材は、ロック状態から、第3の付勢部材が針を後退位置へ動かすロック解除状態へ可動である、請求項1~8のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項10】
第2の付勢部材は、第3のロック部材がロック解除状態へ動かされるように投薬部材を第3のロック部材に対して付勢するように構成される、請求項9に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項11】
第3のロック部材は、ハウジングに旋回可能に連結されており、第1の部分と、該第1の部分に対して傾斜して延びる第2の部分とを含み、第2の付勢部材は、投薬部材を第3のロック部材の第1の部分に対して付勢するように構成される、請求項10に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項12】
第3のロック部材の第2の部分は、第3のロック部材がロック状態にあるとき第3の付勢部材を圧縮状態で保持するように構成された突出部を含む、請求項11に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項13】
ハウジングは、接着剤層を有する遠位端壁を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項14】
第1のロック部材は、該第1のロック部材がロック状態にあるとき第1の付勢部材が針を後退位置から伸長位置へ動かすのを防止する、請求項1~13のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項15】
第2のロック部材は、該第2のロック部材がロック状態にあるとき第2の付勢部材がハウジング内で投薬部材を動かすのを防止する、請求項1~14のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項16】
ハウジングは、互いに対して初期位置から準備完了位置へ可動の第1および第2の部分を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項17】
初期位置から準備完了位置への第1および第2の部分の動きにより、第1の付勢部材を準備する、請求項16に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項18】
初期位置から準備完了位置への第1および第2の部分の動きにより、第2の付勢部材を準備する、請求項16または17に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項19】
リザーバは、薬剤を収容する、請求項1~18のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤の注射による定期的な治療を必要とする様々な疾病が存在し、そのような注射は、注射デバイスを使用することによって実行することができる。薬剤の注射を送達するための様々な注射デバイスが、当技術分野では知られている。支持を集めている別のタイプの注射ポンプは、ボーラス注射デバイスである。いくつかのボーラス注射デバイスは、比較的大きい容量、典型的には少なくとも1ml、場合により数mlの薬剤とともに使用されることが意図される。そのような大容量の薬剤の注射には、数分またはさらには数時間かかる可能性がある。そのような大容量ボーラス注射デバイスを、大容量デバイス(LVD)と呼ぶことができる。通常、そのようなデバイスは患者自身によって操作されるが、医療従事者によって操作されることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、改善された薬剤送達デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、薬剤送達デバイスであって:ハウジングと;ハウジング内に完全に針が受け入れられる後退位置から、ハウジングから針が突出する伸長位置へ可動の針と;それぞれハウジング内に配置されたリザーバおよび投薬部材、第1および第2の付勢部材、ならびに第1および第2のロック部材を含む薬剤送達機構と;第1のロック部材に力を及ぼし、第1のロック部材をロック状態からロック解除状態へ付勢するようにハウジングに対して初期位置から中間位置へ可動のアクチュエータであって、ロック解除状態では、第1の付勢部材が針を後退位置から伸長位置へ動かす、アクチュエータとを含み、ここで、アクチュエータは、第2のロック部材に力を及ぼし、第2のロック部材をロック状態からロック解除状態へ付勢するようにハウジングに対して中間位置から第2の位置へ可動であり、ロック解除状態では、第2の付勢部材がハウジング内で投薬部材を動かし、リザーバが薬剤を収容しているときリザーバから薬剤を投薬する、薬剤送達デバイスが提供される。
【0005】
有利には、薬剤送達デバイスは、伸長位置への針の動きを開始し、薬剤をリザーバから投薬するために、同じアクチュエータを利用する。これにより、薬剤送達デバイスが小型になり、使用するのが容易になる。患者は、1つの運動で中間位置を介してアクチュエータを第1の位置から第2の位置へ動かし、針を伸長位置へ動かし、薬剤をリザーバから投薬することができる。
【0006】
一実施形態では、アクチュエータは、ハウジングに対して摺動可能な押しボタンを含む。
【0007】
一実施形態では、アクチュエータは、ハウジングに対して摺動する摺動部材を含む。1つのそのような実施形態では、アクチュエータは、レールに取り付けられており、ハウジングに対して第1の位置と、中間位置と、第2の位置との間を動くように、レールに沿って摺動可能である。一実施形態では、ハウジングはスロットを含み、摺動部材はスロットから延びる。使用者は、摺動部材をスロット内で初期位置から中間位置へ、また中間位置から第2の位置へ摺動させることが可能である。
【0008】
別の実施形態では、アクチュエータは、初期位置から中間位置へ、また中間位置から第2の位置へ動くように、ハウジングに対して回転可能である。1つのそのような実施形態では、アクチュエータは、ハウジングのねじ山に係合するねじ山を含む。したがって、ハウジングに対するアクチュエータの回転の結果、ハウジングに対するアクチュエータの線形運動が生じる。1つのそのような実施形態では、アクチュエータが第1の位置にあるときは、ハウジングに対するアクチュエータの回転によりねじ山が係合し、それによりアクチュエータは中間位置へ線形に動き、アクチュエータが中間位置にあるときは、ハウジングに対するアクチュエータの回転によりねじ山が係合し、それによりアクチュエータは第2の位置へ線形に動く。1つのそのような実施形態では、ハウジングは、径方向内向きのねじ山を有する凹部を含み、アクチュエータは、凹部のねじ山に係合する径方向外向きのねじ山を有する部材を含む。1つのそのような実施形態では、アクチュエータは、使用者によって回転させられて第1の位置から第2の位置へ動いたとき、凹部に螺着される。
【0009】
第1および/または第2のロック部材は、ハウジングに旋回可能に連結することができる。
【0010】
一実施形態では、第1のロック部材は突出部を含み、アクチュエータは、アクチュエータが第1の位置から中間位置へ動かされて第1のロック部材をロック解除状態へ動かしたとき突出部に当接するように構成される。第1のロック部材は、第1のロック部材がロック状態にあるとき伸長位置への針の動きに抵抗するように構成された表面を含むことができ、第1のロック部材は、表面と突出部との間の点でハウジングに旋回可能に連結される。したがって、伸長位置への針の偶発的な動きが防止される。
【0011】
一実施形態では、第2のロック部材は、第1の部分と、第1の部分に対して傾斜して延びる第2の部分とを含み、第1の部分は、第2のロック部材がロック状態にあるとき投薬部材に当接する。第1の部分は、第2のロック部材がロック状態にあるとき投薬部材の少なくとも一部を受け入れるように構成された凹部を含むことができる。アクチュエータは、アクチュエータが中間位置から第2の位置へ動かされて第2のロック部材をロック解除状態へ動かしたとき第2の部分に当接するように構成することができる。
【0012】
一実施形態では、薬剤送達機構は、第3の付勢部材および第3のロック部材をさらに含み、第3のロック部材は、ロック状態から、第3の付勢部材が針を後退位置へ動かすロック解除状態へ可動である。第2の付勢部材は、第3のロック部材がロック解除状態へ動かされるように投薬部材を第3のロック部材に対して付勢するように構成することができる。したがって、薬剤がリザーバから投薬された後、針を後退位置へ自動的に戻し、ハウジング内に安全に収納することができる。
【0013】
一実施形態では、第3のロック部材は、ハウジングに旋回可能に連結されており、第1の部分と、第1の部分に対して傾斜して延びる第2の部分とを含み、第2の付勢部材は、投薬部材を第3のロック部材の第1の部分に対して付勢するように構成される。
【0014】
第3のロック部材の第2の部分は、第3のロック部材がロック状態にあるとき第2の付勢部材を圧縮状態で保持するように構成された突出部を含むことができる。
【0015】
一実施形態では、ハウジングは、接着剤層を有する遠位端壁を含む。したがって、ハウジングは、患者の注射部位に取り付けることができる。
【0016】
一実施形態では、第1のロック部材は、第1のロック部材がロック状態にあるとき第1の付勢部材が針を後退位置から伸長位置へ動かすのを防止する。
【0017】
一実施形態では、第2のロック部材は、第2のロック部材がロック状態にあるとき第2の付勢部材がハウジング内で投薬部材を動かすのを防止する。
【0018】
ハウジングは、互いに対して初期位置から準備完了位置へ可動の第1および第2の部分を含むことができる。一実施形態では、初期位置から準備完了位置への第1および第2の部分の動きにより、第1の付勢部材を準備する。一実施形態では、初期位置から準備完了位置への第1および第2の部分の動きにより、第2の付勢部材を準備する。一実施形態では、初期位置から準備完了位置への第1および第2の部分の動きにより、第1の付勢部材および第2の付勢部材を準備する。一実施形態では、第1および第2の部分は、互いに対して摺動し、初期位置から準備完了位置へ動く。別の実施形態では、第1および第2の部分は、互いに対して回転し、初期位置から準備完了位置へ動く。1つのそのような実施形態では、第1および第2の部分は、係合するねじ山を含む。
【0019】
リザーバは、薬剤を収容することができる。
【0020】
一実施形態では、薬剤送達デバイスは、大容量デバイスを含む。
【0021】
本発明によれば、ハウジングと、針と、アクチュエータと、リザーバ、投薬部材、第1および第2の付勢部材、ならびに第1および第2のロック部材を有する薬剤送達機構とを有する薬剤送達デバイスから、薬剤を投薬する方法であって:アクチュエータが第1のロック部材に力を及ぼし、第1のロック部材をロック状態からロック解除状態へ付勢するように、アクチュエータをハウジングに対して初期位置から中間位置へ動かす工程であって、ロック解除状態では、第1の付勢部材が、ハウジング内に完全に針が受け入れられる後退位置から、ハウジングから針が突出する伸長位置へ、針を動かす、工程と;アクチュエータが第2のロック部材に力を及ぼし、第2のロック部材をロック状態からロック解除状態へ付勢するように、アクチュエータをハウジングに対して中間位置から第2の位置へ動かす工程であって、ロック解除状態では、第2の付勢部材が、ハウジング内で投薬部材を動かし、リザーバから薬剤を投薬する、工程とを含む方法も提供される。
【0022】
本発明の上記およびその他の態様は、後述する実施形態から明らかであり、これらの実施形態を参照して説明される。
【0023】
本発明の実施形態について、例示のみを目的として、添付の図面を参照して次に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ハウジングの近位部分が初期位置にある、本発明の第1の実施形態による薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図2】近位部分が準備完了位置にあり、ボタンが近位部分から突出している、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図3図1の薬剤送達デバイスの一部の拡大概略側断面図である。
図4】ボタンがハウジング内へ部分的に押し下げられ、針が後退位置にある、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図5】1対の針ロック部材がロック解除状態へ動かされている、図1の薬剤送達デバイスの針伸長ロックの拡大概略側断面図である。
図6】1対の伸長ロック部材がロック解除状態へ動かされている、図1の薬剤送達デバイスの投薬ロックの拡大概略側断面図である。
図7】針が伸長位置にあり、針から薬剤が投薬されている、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図8】針が後退位置にある、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図9A】1対の後退ロック部材がロック状態にある、図1の薬剤送達デバイスの針後退ロックの拡大概略側断面図である。
図9B】1対の後退ロック部材がロック解除状態にある、図1の薬剤送達デバイスの針後退ロックの拡大概略側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書に記載する薬剤送達デバイスは、薬剤を患者に注射するように構成することができる。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内で行うことができる。そのようなデバイスは、患者または看護師もしくは医師などの医療従事者によって動作させることができ、様々なタイプの安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器を含むことができる。デバイスは、カートリッジに基づくシステムを含むことができ、封止されたアンプルを使用前に穿孔する必要がある。これらの様々なデバイスによって送達される薬剤の体積は、約0.5ml~約2mlの範囲とすることができる。さらに別のデバイスは、「大」容量の薬剤(典型的には、約2ml~約10ml)を送達するために一定期間(たとえば、約5、15、30、60、または120分)にわたって患者の皮膚に付着するように構成された大容量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含むことができる。
【0026】
特有の薬剤と組み合わせて、前述したデバイスはまた、必要とされる仕様の範囲内で動作するようにカスタマイズすることができる。たとえば、デバイスは、特定の期間(たとえば、自動注射器の場合は約3~約20秒、大容量デバイスの場合は約10分~約60分)の範囲内で薬剤を注射するようにカスタマイズすることができる。他の仕様は、低いもしくは最小の不快レベル、または人的要因、保管寿命、有効期限、生体適合性、環境的考慮などに関係する特定の条件を含むことができる。そのような変動は、たとえば薬物の粘性が約3cP~約50cPの範囲に及ぶことなどの様々な要因により生じることがある。したがって、薬物送達デバイスは、多くの場合、サイズが約25~約31ゲージの中空の針を含む。一般的なサイズは、27および29ゲージである。
【0027】
図1~9Bは薬剤送達デバイス10を示し、例示的な実施形態では、薬剤送達デバイス10は、本発明の第1の実施形態によるボーラス注射デバイスを含む。薬剤送達デバイス10は、大容量デバイスの形態とすることができる。
【0028】
薬剤送達デバイス10は、ハウジング11、針12、針作動機構13、投薬機構14、およびアクチュエータ15を含む。
【0029】
ハウジング11は、遠位部分16および近位部分17を含む。「遠位」という用語は、注射部位に比較的近い位置を指し、「近位」という用語は、注射部位から離れて比較的遠い位置を指す。
【0030】
ハウジング11の遠位部分16は、略U字形の断面をともに有する円筒形の外周壁18および端壁19を含む。ハウジング11の遠位部分16は、遠位部分16の円筒形の外周壁18と同心円状に配置された円筒形の内壁16Aをさらに含む。ハウジング11の近位部分17は、略U字形の断面をともに有する円筒形の外周壁20および端壁21を含む。ハウジング11の近位部分17は、近位部分17の円筒形の外周壁20と同心円状に配置された円筒形の内壁17Aを含む。
【0031】
ハウジング11の遠位部分16の外周壁18は、近位部分17の外周壁20内に摺動可能に受け入れられ、それにより遠位部分16の端壁19は、近位部分17の端壁21から隔置され、遠位部分16の端壁19と近位部分17の端壁21との間に凹部22が形成される。ハウジング11の遠位および近位部分16、17は、中心軸(図2の破線A-A参照)を有する略円筒形の形状をともに形成する。
【0032】
遠位部分16の端壁19は、外面19Aおよび内面19Bを有し、近位部分17の端壁21は、外面21Aおよび内面21Bを有する。遠位および近位部分16、17の端壁19、21の外面19A、21Aのうち一方または両方は、実質上平坦とすることができる。
【0033】
遠位部分16の端壁19の外面19Aは、接着剤層(図示せず)を含み、この接着剤層は、最初はラベル(図示せず)によって覆われている。使用の際、ラベルが接着剤層から取り外され、次いで接着剤層は患者の注射部位で患者の皮膚に付着し、それにより遠位部分16の端壁19が注射部位に接着される。
【0034】
投薬機構14は、薬剤リザーバ23、投薬部材24、投薬付勢部材25、および投薬ロック26を含む。
【0035】
薬剤リザーバ23は、環状の軟質バッグ23の形態である。軟質バッグ23は、ハウジング11内で凹部22内に配置され、遠位部分16の端壁19の内面19Bに当接する。軟質バッグ23は、遠位部分16の外周壁18内のアパーチャ18Aに流体連結される。アパーチャ18Aは、遠位部分16の外周壁18を通って軟質バッグ23を薬剤で充填することを可能にする充填ポート18Aを形成する。軟質バッグ23および/またはアパーチャ18Aは、薬剤が軟質バッグ23からアパーチャ18Aを介して流れるのを防止するように構成された一方向弁(図示せず)を含むことができる。別法または追加として、軟質バッグ23が薬剤で充填された後にアパーチャ18Aを封止するようにアパーチャ18A内に挿入される栓(図示せず)を設けることができる。
【0036】
投薬部材24は、板24の形態である。板24は、環状とすることができる。板24は、ハウジング11内の凹部22内に配置され、それにより軟質バッグ23は、板24の遠位対向面24Aと遠位部分16の端壁19の内面19Bとの間に位置する。板24は、凹部22内でハウジング11の中心軸A-Aの方向に摺動可能であり、それにより板24は軟質バッグ23に対して可動である。
【0037】
投薬付勢部材25は、投薬ばね25の形態である。投薬ばね25は、つる巻きばねとすることができる。投薬ばね25は、ハウジング11内の凹部22内に配置され、ハウジング11の中心軸A-Aの周りに延びる。投薬ばね25は、近位部分17の内壁17Aと近位部分17の外周壁20との間に位置する。
【0038】
投薬ばね25は、軟質バッグ23に対して板24の反対側に配置される。投薬ばね25の第1の端部は、近位部分17の端壁21の内面21Bに位置し、投薬ばね25の第2の遠い端部は、板24の近位対向面24Bに位置する。
【0039】
近位部分17は、ハウジング11の遠位部分16に対して初期位置(図1に示す)と準備完了位置(図2図4図7、および図8に示す)との間を可動である。近位部分17が初期位置にあるとき、近位部分17の端壁21は、板24および遠位部分16の端壁19から隔置され、それにより投薬ばね25は実質上圧縮されていない。さらに、近位部分17が初期位置にあるとき、遠位部分16の外周壁18のわずかな部分のみが、近位部分17の外周壁20内に受け入れられる。
【0040】
近位部分17が準備完了位置へ動かされたとき、近位部分17の端壁21は、遠位部分16の端壁19の方へ動かされ、それにより端壁19、21間の距離が低減される。近位部分17が準備完了位置にあるとき、遠位部分16の外周壁18のうち近位部分17の外周壁20内に受け入れられる量が増大する。
【0041】
投薬ロック26は、対応する旋回連結部28によってハウジング11の遠位部分16に連結された1対の投薬ロック部材27を含む。投薬ロック部材27はそれぞれ、細長い部材29と、細長い部材29と一体形成された突出部30とを含む。
【0042】
細長い部材29は、第1の端部29Aおよび第2の端部29Bを有する。細長い部材29はそれぞれ、細長い部材29の第1の端部29Aに向かって対応する旋回連結部28に取り付けられる。各細長い部材29の第2の端部29Bは、対応する旋回連結部28から隔置され、それにより各第2の端部29Bは、対応する旋回連結部28の周りを旋回可能である。各細長い部材29の第2の端部29B内に、凹部29Cが設けられる。
【0043】
各投薬ロック部材27の突出部30は、対応する細長い部材29から傾斜して延びており、細長い部材29の第1の端部29A近傍に位置する。各突出部30は、前記対応する細長い部材29から遠い自由端30Aを有する。細長い部材29および突出部30は、投薬ロック部材27がそれぞれ略L字形またはV字形になるように配置することができる。
【0044】
投薬ロック部材27は、ロック状態(図2および図3に示す)からロック解除状態(図4および図6に示す)へ旋回可能である。ロック状態で、投薬ロック部材27はそれぞれ、細長い部材29が、細長い部材29の第1の端部29Aから第2の端部29Bへの方向に、ハウジング11の中心軸A-Aから離れて近位部分17の端壁21の方へ傾斜して延びるように位置する。さらに、ロック状態で、投薬ロック部材27は、突出部30が、突出部30の自由端30Aに向かう方向に、ハウジング11の中心軸A-Aに対して近位部分17の端壁21の方へ傾斜して延びるように位置する。
【0045】
投薬ロック部材27がロック状態にあるとき、板24は、細長い部材29の凹部29C内に位置し、それにより板24がハウジング11の遠位部分16の端壁19の方へ動くのが防止される。凹部29Cの構成は、各細長い部材29の一部分が板24の径方向内向き表面24Cに当接し、したがって投薬ロック部材27がロック状態にあり、板24に当接するとき、細長い部材29の第2の端部29Bがハウジング11の中心軸A-Aから離れて径方向外方へ動く方向に投薬ロック部材27が回転するのを防止するようになっている。
【0046】
投薬ロック部材27は、ロック解除状態へ可動であり、投薬ロック部材27は回転し(図6の矢印「B」の方向)、それにより各細長い部材29の第2の端部29Bおよび対応する突出部30の自由端30Aが、それぞれの旋回連結部28の周りを旋回し、ハウジング11の中心軸A-Aに向かって径方向内方へ動く。投薬ロック部材27がロック解除状態にあるとき、各細長い部材29の第2の端部29Bは、板24から隔置され、それにより板24は、細長い部材29の凹部29C内に受け入れられない。したがって、板24は、投薬ロック部材27によって遠位部分16の端壁19の方へ動くことが制限されない。
【0047】
アクチュエータ15は、外周壁15Aおよび端壁15Bを有するボタン15の形態である。ボタン15は、ハウジング11の近位部分17内に受け入れられており、それによりボタン15の外周壁15Aは、近位部分17の内壁17Aの内側に位置し、近位部分17の内壁17Aと同心円状に位置合わせされる。ボタン15は、近位部分17の内壁17A内でハウジング11の中心軸A-Aの方向に摺動可能である。
【0048】
針12は、ハウジング11の遠位部分16に対して後退位置(図1~4、図8、および図9Bに示す)と伸長位置(図7および図9Aに示す)との間を可動である。針12が後退位置にあるとき、針12はハウジング11内の凹部22内に完全に受け入れられ、それにより針12を遮蔽して、針12の損傷を防止し、針12による偶発的な負傷から患者を保護する。
【0049】
針12が後退位置から伸長位置へ動かされたとき、針12はハウジング11の中心軸A-Aの方向に線形に動かされ、それにより針12の端部は、遠位部分16の端壁19内のアパーチャ19Cから突出する。したがって、遠位部分16の接着剤層が患者の注射部位に接着されているとき、針12は患者の皮膚を穿孔し、注射部位内へ延びて注射部位に薬剤を送達する。
【0050】
薬剤送達デバイス10は、遠位部分16の端壁19の内面19Bに固定されたセプタム31をさらに含む。セプタム31は、遠位部分16の端壁19内のアパーチャ19Cを覆うように位置する。針12は、最初は後退位置にあり、セプタム31によって保護されている。より具体的には、セプタム31は、汚染物質が遠位部分16の端壁19内のアパーチャ19Cを通って侵入し、滅菌した針12に接触するのを防止する。針12が伸長位置へ動かされたとき、針12はセプタム31を穿孔し、針12の端部はセプタム31を通過して端壁19から突出する。セプタム31は、プラスチック、ゴム、または金属箔などの不浸透性の材料から製造することができる。代替実施形態では、セプタム31は、遠位部分16の端壁19の外面19Aに固定され、または端壁19内のアパーチャ19C内に位置する。
【0051】
針作動機構13は、針伸長および後退付勢部材32、33、伸長および後退保持要素34、35、ならびに針伸長および後退ロック36、37を含む。
【0052】
針伸長付勢部材32は、針伸長ばね32の形態である。針伸長ばね32は、つる巻きばねとすることができる。針伸長ばね32は、ボタン15の外周壁15A内に位置し、ハウジング11の中心軸A-Aの周りに延びる。針伸長ばね32は、針12のベース12Aと伸長保持要素34との間に配置される。
【0053】
伸長保持要素34は、ハウジング11の遠位部分16に対して固定されており、セプタム31に対して針12のベース12Aの反対側に位置する。伸長保持要素34は、針伸長ばね32の近位端が当接する止め具として作用するように構成され、それにより針伸長ばね32の近位端がハウジング11の中心軸A-Aの方向に近位部分17の端壁21の方へ動くのが防止される。針12が最初の後退位置にあるとき、針伸長ばね32は、針12のベース12Aと伸長保持要素34との間で圧縮されており、それにより針伸長ばね32は、針12をハウジング11の中心軸A-Aの方向に伸長保持要素34から離れる方へ付勢し、それにより針12は伸長位置へ動くように付勢される。
【0054】
針伸長ロック36は、それぞれの旋回連結部39によってハウジング11の遠位部分16に連結された1対の伸長ロック部材38を含む。伸長ロック部材38はそれぞれ、細長い部材38Aと、細長い部材38Aと一体形成された第1および第2の突出部40、41とを含む。第1の突出部40は、細長い部材38Aの近位端に位置し、第2の突出部41は、細長い部材38Aの遠位端の方に位置する。
【0055】
各細長い部材38Aは、細長い部材38Aの近位および遠位端間の点でそれぞれの旋回連結部39に取り付けられ、それにより第1および第2の突出部40、41は、それぞれの旋回連結部39の周りで旋回可能である。
【0056】
伸長ロック部材38は、ロック状態(図3に示す)からロック解除状態(図5に示す)へ可動である。ロック状態で、伸長ロック部材38は、細長い部材38Aがハウジング11の中心軸A-Aに対して実質上平行に延び、各伸長ロック部材38の第1の突出部40が第2の突出部41よりハウジング11の近位部分17の端壁21の近くに位置するように位置する。
【0057】
各伸長ロック部材38の第1の突出部40は、伸長ロック部材38がロック状態にあるとき、ハウジング11の中心軸A-Aに向かって径方向内方へ延びる。第1の突出部40はそれぞれ、伸長ロック部材38がロック状態にあるときに針12のベース12Aに当接する近位対向面40Aを含み、それにより針12がハウジング11の中心軸A-Aの方向に遠位部分16の端壁19の方へ動くのを防止する。したがって、伸長ロック部材38がロック状態にあるとき、伸長ロック部材38は、針12のベース12Aと伸長保持要素34との間で圧縮状態に保持されている針伸長ばね32の力に逆らって、針12を後退位置で保持する。
【0058】
各伸長ロック部材38の第2の突出部41は、伸長ロック部材38がロック状態にあるとき、ハウジング11の中心軸A-Aから離れて径方向外方へ延びる。第2の突出部41はそれぞれ、ハウジング11の中心軸A-Aから離れて近位部分17の端壁21の方へ傾斜して対向する傾斜面41Aを含む。
【0059】
ボタン15は、ハウジング11の中心軸A-Aに向かう方向にボタン15の外周壁15Aの内側から径方向内方へ延びるリップ15Cを含む。リップ15Cは、略環状とすることができる。
【0060】
ボタン15のリップ15Cは、ボタン15がハウジング11内で遠位部分16の端壁19の方へ動かされたとき、両方の伸長ロック部材38の傾斜面41Aに当接するように構成される。これにより、各伸長ロック部材38の第2の突出部41は中心軸A-Aに向かって径方向内方へ付勢され、それにより伸長ロック部材38は、ロック状態からロック解除状態へ(図5で矢印「C」の方向に)回転する。ロック解除状態で、第1の突出部40は、径方向外方へ動かされ、それにより針12のベース12Aに当接しなくなり、したがって針12のベース12Aは、針伸長ばね32の力を受けて伸長保持要素34から離れる方へ動くことが可能になる。したがって、伸長ロック部材38がロック解除状態にあるとき、針12は、針伸長ばね32の力を受けて後退位置から伸長位置へ動く。
【0061】
針後退付勢部材33は、針後退ばね33の形態である。針後退ばね33は、つる巻きばねとすることができる。針後退ばね33は、ハウジング11の遠位部分16内に位置し、その中心軸A-Aの周りに延びる。針後退ばね33は、後退保持要素35とセプタム31との間に配置される。セプタム31は、ハウジング11の遠位部分16に対して固定され、したがって針後退ばね33の遠位端が当接する止め具として作用する。
【0062】
後退保持要素35は、ハウジング11の遠位部分16の内壁16A内に摺動可能に受け入れられる。針後退ばね33は、最初はセプタム31と後退保持要素35との間で圧縮されており、それにより針後退ばね33は、後退保持要素35をハウジング11の中心軸A-Aの方向にセプタム31から離れる方へ付勢する。針後退ロック37は、最初は針後退ばね33の力に逆らって後退保持要素35を定位置で保持しており、それにより針後退ばね33は圧縮される。
【0063】
針後退ロック37は、それぞれの旋回連結部43によってハウジング11の遠位部分16に連結された1対の後退ロック部材42を含む。後退ロック部材42はそれぞれ、第1および第2の細長い部材44、45、凹部46、ならびに突出部47を含む。第1および第2の細長い部材44、45は、一方の端部で一体形成されている。第1および第2の細長い部材44、45は、互いに対して傾斜して延びる。本実施形態では、各後退ロック部材42の第1および第2の細長い部材44、45は、互いに対して実質上直交して延びる。
【0064】
第1および第2の細長い部材44、45は、旋回連結部43から遠いそれぞれの自由端44A、45Bを含む。凹部46は、第1の細長い部材44の自由端44Aに位置し、突出部47は、第2の細長い部材45の自由端45Aに位置する。
【0065】
後退ロック部材42は、ロック状態(図9Aに示す)からロック解除状態(図9Bに示す)へ旋回可能である。ロック状態で、後退ロック部材42はそれぞれ、第1の細長い部材44がハウジング11の中心軸A-Aから離れて径方向外方へ延び、一実施形態ではハウジング11の中心軸A-Aに対して実質上直交するように位置する。各第1の細長い部材44の自由端44Aは、径方向に板24と重なる。さらに、ロック状態で、後退ロック部材42はそれぞれ、第2の細長い部材45がそれぞれの旋回連結部43から近位部分17の端壁21の方へ延び、一実施形態ではハウジング11の中心軸A-Aに対して実質上平行になるように位置する。
【0066】
後退ロック部材42がロック状態にあるとき、各後退ロック部材42の突出部47は、ハウジング11の中心軸A-Aに向かって径方向内方へ延びて後退保持要素35の近位対向面に当接する。したがって、後退保持要素35は、近位部分17の端壁21の方へ動くことが防止され、したがって針後退ばね33は、セプタム31と後退保持要素35との間で圧縮状態に保持される。
【0067】
投薬機構14の動作により板24がハウジング11内で遠位部分16の端壁19の方へ動くことで、板24は各第1の細長い部材44の自由端44Aに対して付勢され、それにより板24は、各第1の細長い部材44の凹部46内に受け入れられる。したがって、板24が遠位部分16の端壁19の方へ動く結果、各第1の細長い部材44の自由端44Aに力がかかる。この力により、各第1の細長い部材44の自由端44Aが遠位部分16の端壁19の方へ付勢され、それにより各後退ロック部材42が付勢され、それぞれの旋回連結部43の周りでロック状態からロック解除状態へ(図9Bで矢印「D」の方向に)回転する。
【0068】
後退ロック部材42がロック解除状態へ回転したとき、各第2の細長い部材45の自由端45Aに位置する突出部47が、ハウジング11の中心軸A-Aから離れて径方向外方へ動かされ、それにより突出部47は後退保持要素35から隔置される。したがって、突出部47は、針後退ばね33の力に逆らって後退保持要素35を定位置に保持しなくなり、したがって後退保持要素35は、針後退ばね33によって近位部分17の端壁21の方へ動かされる。
【0069】
針12は、後退保持要素35内のアパーチャ35Aを通って延び、それにより針12が伸長位置にあり、後退ロック部材42がロック状態(図9Aに示す)にあるとき、針12のベース12Aは後退保持要素35に近接して位置する。したがって、次に後退ロック部材42がロック解除状態へ動かされたとき、後退保持要素35が解放され、それにより針後退ばね33は、後退保持要素35を針12のベース12Aに対して付勢し、針12を近位部分17の端壁21の方へ後退位置(図9Bに示す)に動かす。
【0070】
各後退ロック部材42とセプタム31および遠位部分16の端壁19との間に隙間(図示せず)を設けて、ロックおよびロック解除状態間の後退ロック部材42の動きを容易にすることができる。別法として、セプタム31は、後退ロック部材42の動きを容易にする可撓性の材料から製造することができる。
【0071】
薬剤送達デバイス10は、ハウジング11の遠位および近位部分16、17間に連結部48をさらに含む。連結部48は、近位部分17が準備完了位置から離れて初期位置の方へ動かされることに抵抗するように構成される。連結部48は、近位部分17が準備完了位置にあるとき、板24と近位部分17の端壁21との間に位置する投薬ばね25の力により近位部分17の端壁21が遠位部分16の端壁19から離れる方へ動くのを防止するように構成することができる。
【0072】
連結部48は、掛止部48の形態である。掛止部48は、第1、第2、および第3の止め具49、50、51を含む。第1の止め具49は、ハウジング11の近位部分17の外周壁20と一体形成された第1のリップ49の形態である。第1のリップ49は、ハウジング11の中心軸A-Aに向かって径方向内方へ延びる。第1のリップ49は、近位部分17の外周壁20のうち近位部分17の端壁21から遠い端部から延びる。第1のリップ49は、近位対向面49Aを含む。
【0073】
第2の止め具50は、遠位部分16の外周壁18と一体形成された第2のリップ50の形態である。第2のリップ50は、ハウジング11の中心軸A-Aから離れて径方向外方へ延びる。第2のリップ50は、遠位部分16の外周壁18のうち遠位部分16の端壁19から遠い端部から延びる。第2のリップ50は、遠位対向面50Aを含む。
【0074】
ハウジング11の近位部分17が初期位置(図1に示す)にあるとき、第1のリップ49の近位対向面49Aは、第2のリップ50の遠位対向面50Aに当接して、近位部分17と遠位部分16との間の軸方向運動範囲を制限し、それにより近位部分17が遠位部分16から離れる方へ動いて遠位部分16から分離されるのを防止する。
【0075】
第3の止め具51は、遠位部分16の外周壁18の外面内へ延びる凹部51の形態である。遠位対向面51Aは、凹部51の縁部に形成される。
【0076】
掛止部48は、第2の止め具50の遠位対向面50Aと第3の止め具51の遠位対向面51Aとの間に延びる傾斜面52をさらに含む。傾斜面52は、ハウジング11の中心軸A-Aに対してわずかに傾斜しており、それにより傾斜面52は、第2の止め具50から第3の止め具51への方向でハウジングの中心軸A-Aからわずかに離れるように延びる。傾斜面52は、遠位部分16の外周壁18の外面の一部分から形成される。
【0077】
傾斜面52は、近位部分17が初期位置から準備完了位置へ動かされるとき、第1のリップ49が傾斜面52の上を動き、傾斜面52によって径方向外方へ付勢され、それにより第1のリップ49がハウジング11の中心軸A-Aから離れる方へ付勢されるように構成される。近位部分17の厚さおよび材料は、第1のリップ49が傾斜面52の上を動くとき、近位部分17の外周壁20が径方向外方へ弾性変形するようになっている。この外周壁20の可撓性により、第1のリップ49が傾斜面52の上を動くことが容易になる。同様に、遠位部分16もまた、第1のリップ49が傾斜面52の上を動くときに遠位部分16の外周壁18が径方向内方へ撓むことを可能にする厚さを有することができ、かつ/またはそのような材料から製造することができる。遠位および近位部分16、17は、たとえばプラスチックまたは金属から製造することができる。
【0078】
近位部分17が最初の位置から準備完了位置へ動くことで、第1のリップ49は傾斜面52の上を第2のリップ50から凹部51の方へ動く。第1のリップ49が凹部51に到達したとき、第1のリップ49は径方向内方へ動いて凹部51内へ「カチッ」と留まり、それにより第1のリップ49の近位対向面49Aが凹部51の縁部で遠位対向面51Aに当接する。したがって、近位部分17は、準備完了位置で定位置に保持され、それにより近位部分17の端壁21が遠位部分16の端壁19から離れる方へ動くことに抵抗する。
【0079】
傾斜面52は、近位部分17が準備完了位置の方へ動かされるとき、第1のリップ49が径方向外方へ付勢されることにより、第1のリップ49が傾斜面52の上を第2のリップ50から凹部51の方へ動くことに対して、少量の抵抗を提供するように配置される。したがって、患者は、近位部分17を遠位部分16に対して初期位置から準備完了位置へ動かすために、少量の抵抗に打ち勝たなければならない。これにより、近位部分17が偶発的に準備完了位置へ動かされる可能性が低減される。
【0080】
薬剤送達デバイス10の例示的な動作について、次に説明する。薬剤送達デバイス10は、典型的には、滅菌した包装(図示せず)内に収納されている。患者はまず、薬剤送達デバイス10を滅菌した包装から取り出す。薬剤送達デバイス10が滅菌した包装から取り出されたとき、ハウジング11の近位部分17は初期位置にあり、針12は後退位置にあり、ボタン15は近位部分17に後退されており(図1に示す)、それにより患者がボタン15にアクセスしてボタン15を作動させることができないようになっている。たとえば、近位部分17の内壁17Aの内寸は、患者が内壁17A内へ指を挿入してボタン15にアクセスすることができないように十分に小さくすることができる。したがって、患者は、ボタン15を押し下げて投薬機構14を動作させ、軟質バッグ23から薬剤を投薬することはできず、したがって投薬機構14は動作不能になっている。さらに、患者は、針作動機構13を動作させて針12を伸長位置へ動かすことができない。
【0081】
患者は次いで、薬剤送達デバイス10の投薬機構14へ薬剤を供給する。より具体的には、患者は、ハウジング11の遠位部分16の外周壁18内の充填ポート18Aを介して、軟質バッグ23へ薬剤を供給する。薬剤は、たとえば、シリンジ、容器、または加圧されたキャニスタから供給することができる。代替実施形態では、薬剤リザーバ23は薬剤で事前充填されており、その場合、充填ポート18Aを省略することができる。
【0082】
次いで、遠位部分16の端壁19の外面19A上の接着剤層(図示せず)からラベル(図示せず)が取り外される。次いで、接着剤層は注射部位で患者の皮膚に接着され、それにより遠位部分16の端壁19が注射部位に固定される。
【0083】
次いで、患者はハウジング11の近位部分17に力を加えて、近位部分17を初期位置から準備完了位置へ動かす。たとえば、患者は、片方の手を使用して近位部分17の遠位壁21の外面21Aに力を加え、前記遠位壁21を遠位部分16の遠位壁19の方へ押すことができる。近位部分17が準備完了位置の方へ動かされるにつれて、投薬ばね25が近位部分17の遠位壁21の内面21Bと板24の近位対向面24Bとの間で圧縮され、それにより板24に付勢力がかかり、板24を遠位部分16の端壁19の方へ付勢する。しかし、投薬ロック部材27が最初はロック状態にあり、投薬ばね25の力に逆らって板24を定位置で保持している。
【0084】
近位部分17が準備完了位置に到達したとき、第1の止め具49は第3の止め具51に係合し、それにより近位部分17は準備完了位置で保持される。圧縮されている投薬ばね25は、近位部分17が準備完了位置にあるとき、近位部分17の遠位壁21を板24から離れる方へ付勢し、それにより近位部分17は、投薬ばね25の力によって準備完了位置から離れる方へ付勢される。しかし、第1および第3の止め具49、51間の係合は、近位部分17が投薬ばね25の力を受けて準備完了位置から離れる方へ動くのを防止するようになっている。したがって、患者が近位部分17を準備完了位置へ動かした後、患者は近位部分17を準備完了位置で保持するために近位部分17の端壁21に力を加える必要がなくなる。
【0085】
ボタン15は、ハウジング11の近位部分17の内壁17A内に受け入れられ、それにより近位部分17が準備完了位置へ動かされたとき、近位部分17はボタン15に対して摺動する。これにより、ボタン15は近位部分17から突出する(図2に示す)。したがって、患者はボタン15を作動させることができる。ボタン15は、近位部分17が準備完了位置にあるとき、近位部分17の端壁21から突出する。
【0086】
薬剤送達デバイス10は、近位部分17が準備完了位置にある状態で、患者の注射部位へ薬剤を供給するために準備される。患者は、ボタン15の端壁15Bを押し下げ、それによりボタン15は、ハウジング11の近位部分17内へ摺動する。これにより、ボタン15は針伸長ロック36に係合し、それにより針伸長ばね32は解放されて、針12を伸長位置へ動かす。より詳細には、ボタン15は遠位部分16の端壁19の方へ摺動し、その後、ボタン15の突出部15Cが各伸長ロック部材38の第2の突出部41の傾斜面41Aに対して付勢され、その結果、各伸長ロック部材38がロック状態(図3に示す)からロック解除状態(図5に示す)へ回転する。上記で論じたように、これにより、針12のベース12Aが針伸長ばね32の力を受けて伸長保持要素34から離れる方へ動くことが可能になり、それにより針12は、軸方向に動いてセプタム31を通過し、遠位部分16の端壁19内のアパーチャ19Cから延びる。したがって、針12は、伸長位置(図7に示す)へ動かされる。遠位部分16の端壁19は、患者の皮膚に接着されており、したがって針12が伸長位置へ動かされたとき、針12は患者の注射部位に入る。
【0087】
針12が伸長位置へ動かされたとき、針12は軟質バッグ23の内側と流体連通する。一実施形態では、軟質バッグ23の内側と流体的に連結する導管(図示せず)が設けられる。針12は、針12が伸長位置へ動かされたときに導管と流体連通するように導管と位置合わせされたアパーチャ(図示せず)を含み、それにより薬剤は、軟質バッグ23から導管を通って針12のアパーチャ内へ流れ、針12から投薬される。
【0088】
患者は、ボタン15をハウジング11内へ押し続け、次いでボタン15を投薬ロック26に係合させ、それにより針12が伸長位置へ動かされた後、投薬ばね25が解放されて、板24を遠位部分16の端壁19の方へ付勢し、それにより薬剤が軟質バッグ23から投薬される。より具体的には、ボタン15の遠位端は、各投薬ロック部材27の突出部30の自由端30Aに対して付勢され、その結果、各投薬ロック部材27がロック状態(図3に示す)からロック解除状態(図6に示す)へ回転する。上記で論じたように、これにより板24が、投薬ばね25の力を受けて遠位部分16の端壁19の方へ動くことが可能になる。したがって、軟質バッグ23は、板24と遠位部分16の端壁19との間で圧縮され、それにより軟質バッグ23内の薬剤の圧力が上昇し、したがって薬剤が軟質バッグ23から流出し、針12を通って患者の注射部位に入る。
【0089】
投薬ロック部材27がロック解除状態へ動かされて薬剤送達を開始する程度までボタン15が押し下げられた後、患者は、ボタン15の押下を止めることができる。板24は、引き続き遠位部分16の端壁19の方へ動き、それにより軟質バッグ23は圧縮され、したがって薬剤が針12を介して患者の注射部位へ送達される。したがって、薬剤送達デバイス10を使用することで、患者が連続してボタン15に力を加えることを必要とすることなく、長時間、たとえば数時間にわたって、患者の注射部位へ薬剤を送達することができる。
【0090】
薬剤は引き続き注射部位へ送達され、その後、板24は、ハウジング11内で板24が針後退ロック37に係合する位置へ動き、それにより針後退ばね33は解放されて、針12を後退位置へ動かす。より詳細には、板24は投薬ばね25の力を受けて遠位部分16の端壁19の方へ動かされ、その後、板24は後退ロック部材42の各第1の細長い部材44の自由端44Aに対して付勢され、その結果、各後退ロック部材42がロック状態(図9Aに示す)からロック解除状態(図9Bに示す)へ回転する。上記で論じたように、これにより、後退保持要素35が針後退ばね33の力を受けて遠位部分16の端壁19から離れて動くことが可能になり、それにより後退保持要素35は、針12のベース12Aに対して付勢され、針12をハウジング11内へ後退位置に動かす(図8および図9Bに示す)。次いで患者は、薬剤送達デバイス10を注射部位から取り外すことができる。
【0091】
一実施形態(図示せず)では、近位部分17が最初の位置にあるときにボタン15を定位置でロックするためのロックを設けることができる。このロックは、近位部分17が初期位置にあるときにロック状態でハウジング11に対するボタン15の動きを防止するロック部材を含むことができる。ロック部材は、近位部分17が準備完了位置へ動かされたときにロック解除状態へ動かされ、それによりボタン15をハウジング11に対して動かすことができるようになる。
【0092】
前述の実施形態では、針伸長および後退ばね32、33は事前に圧縮されており、それによりばね32、33は、ハウジング11の近位部分17が準備完了位置へ動かされる前は圧縮状態にある。しかし、代替実施形態(図示せず)では、針伸長および後退ばね32、33は、近位部分17が初期位置にあるときは実質上圧縮されていない状態にあり、近位部分17が準備完了位置へ動くことで、伸長および後退ばね32、33を圧縮する。たとえば、伸長保持要素34は代わりに、近位部分17に対して固定することができ、それにより近位部分17が初期位置から準備完了位置へ動くことで、伸長保持要素34を遠位部分16の端壁19の方へ動かす。したがって、針伸長ばね32は、伸長保持要素34と針12のベース12Aとの間で圧縮される。
【0093】
前述の実施形態では、近位部分17は初期位置から準備完了位置へ動かされて、投薬ばね25を圧縮したが、代替実施形態(図示せず)では、投薬ばね25は事前に圧縮されており、それにより投薬ばね25は、近位部分17が初期位置にあるときは圧縮状態で保持される。
【0094】
前述の実施形態では、アクチュエータ15は、近位部分17が初期位置にあるとき、ハウジング11内に完全に受け入れられる。しかし、代替実施形態では、アクチュエータ15は、近位部分17が初期位置および準備完了位置にあるとき、ハウジング11の近位部分17から突出するように構成される。1つのそのような実施形態では、アクチュエータ15は、近位部分17が初期位置にあるときに近位部分17の端壁21から突出するのに十分な長さである。
【0095】
前述の実施形態では、投薬付勢部材25ならびに針伸長および後退付勢部材32、33は、それぞれのばね25、32、33を含む。しかし、代替実施形態(図示せず)では、投薬付勢部材25、針伸長付勢部材32、および針後退付勢部材33のうちの1つまたはそれ以上が、異なるタイプの付勢部材、たとえば圧縮されて付勢力を及ぼす弾性変形可能な材料の一部分を含む。
【0096】
前述の実施形態では、薬剤送達デバイス10は、近位部分17を遠位部分16に対して動かすことを可能にする掛止部48を含む。しかし、代替実施形態(図示せず)では、掛止部は省略され、代わりに遠位および近位部分16、17が、それぞれのねじ山を含む。これらのねじ山が係合し、それによりハウジング11の近位部分17を遠位部分16に螺着させることができ、それにより近位部分17の端壁21が遠位部分16の端壁19の方へ動く。1つのそのような実施形態では、第1のねじ山が遠位部分16の外周壁18の外面に設けられ、第2のねじ山が近位部分17の外周壁20の内面に設けられる。別の実施形態では、ハウジング11の遠位および近位部分16、17は、互いに対して固定されており、一体形成することができる。
【0097】
前述の実施形態では、薬剤送達デバイス10は、1対の投薬ロック部材27、1対の伸長ロック部材38、および1対の後退ロック部材42を含む。しかし、代替実施形態(図示せず)では、薬剤送達デバイス10は代わりに、単一の投薬ロック部材27、単一の伸長ロック部材38、および/または単一の後退ロック部材42を含む。
【0098】
本明細書で使用する用語「薬物」または「薬剤」は、1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物を説明するために本明細書において使用される。以下に説明されるように、薬物または薬剤は、1つまたはそれ以上の疾患を処置するための、様々なタイプの製剤の少なくとも1つの低分子もしくは高分子、またはその組み合わせを含むことができる。例示的な薬学的に活性な化合物は、低分子;ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえばホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素);炭水化物および多糖類;ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(裸およびcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNAおよびRNAなどのアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドを含むことができる。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに組み込むことができる。これらの薬物の1つまたはそれ以上の混合物もまた、企図される。
【0099】
用語「薬物送達デバイス」は、薬物をヒトまたは動物の体内に投薬するように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。限定されることなく、薬物送達デバイスは、注射デバイス(たとえばシリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、かん流システム、または眼内、皮下、筋肉内、もしくは血管内送達にあわせて構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(たとえば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(たとえば鼻用または肺用)、埋め込み(たとえば、コーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムとすることができる。ここに説明される薬物は、針、たとえば小ゲージ針を含む注射デバイスで特に有用であることができる。
【0100】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスで使用するように適用された主要パッケージまたは「薬物容器」内に含むことができる。薬物容器は、たとえば、カートリッジ、シリンジ、リザーバ、または1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物の保存(たとえば短期または長期保存)に適したチャンバを提供するように構成された他の容器とすることができる。たとえば、一部の場合、チャンバは、少なくとも1日(たとえば1日から少なくとも30日まで)の間薬物を保存するように設計することができる。一部の場合、チャンバは、約1カ月から約2年の間薬物を保存するように設計することができる。保存は、室温(たとえば約20℃)または冷蔵温度(たとえば約-4℃から約4℃まで)で行うことができる。一部の場合、薬物容器は、薬物製剤の2つまたはそれ以上の成分(たとえば薬物および希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保存するように構成された二重チャンバカートリッジとすることができ、またはこれを含むことができる。そのような場合、二重チャンバカートリッジの2つのチャンバは、ヒトまたは動物の体内に投薬する前、および/または投薬中に薬物または薬剤の2つまたはそれ以上の成分間で混合することを可能にするように構成することができる。たとえば、2つのチャンバは、これらが(たとえば2つのチャンバ間の導管によって)互いに流体連通し、所望の場合、投薬の前にユーザによって2つの成分を混合することを可能にするように構成することができる。代替的に、またはこれに加えて、2つのチャンバは、成分がヒトまたは動物の体内に投薬されているときに混合することを可能にするように構成することができる。
【0101】
本明細書において説明される薬物送達デバイスおよび薬物は、数多くの異なるタイプの障害の処置および/または予防に使用することができる。例示的な障害は、たとえば、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症を含む。さらなる例示的な障害は、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチである。
【0102】
糖尿病または糖尿病に伴う合併症の処置および/または予防のための例示的な薬物は、インスリン、たとえばヒトインスリン、またはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体もしくはGLP-1受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、または薬学的に許容される塩もしくはその溶媒和物、またはそれらの任意の混合物を含む。本明細書において使用される用語「誘導体」は、元の物質と構造的に十分同様のものであり、それによって同様の機能または活性(たとえば治療効果性)を有することができる任意の物質を指す。
【0103】
例示的なインスリン類似体は、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0104】
例示的なインスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。例示的なGLP-1、GLP-1類似体およびGLP-1受容体アゴニストは、たとえば:リキシセナチド(Lixisenatide)/AVE0010/ZP10/リキスミア(Lyxumia)、エキセナチド(Exenatide)/エクセンディン-4(Exendin-4)/バイエッタ(Byetta)/ビデュリオン(Bydureon)/ITCA650/AC-2993(アメリカドクトカゲの唾液腺によって産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Liraglutide)/ビクトザ(Victoza)、セマグルチド(Semaglutide)、タスポグルチド(Taspoglutide)、シンクリア(Syncria)/アルビグルチド(Albiglutide)、デュラグルチド(Dulaglutide)、rエクセンディン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド(Langlenatide)/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド(Exenatide)-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0105】
例示的なオリゴヌクレオチドは、たとえば:家族性高コレステロール血症の処置のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬である、ミポメルセン(mipomersen)/キナムロ(Kynamro)である。
【0106】
例示的なDPP4阻害剤は、ビルダグリプチン(Vildagliptin)、シタグリプチン(Sitagliptin)、デナグリプチン(Denagliptin)、サキサグリプチン(Saxagliptin)、ベルベリン(Berberine)である。
【0107】
例示的なホルモンは、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストを含む。
【0108】
例示的な多糖類は、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩を含む。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。ヒアルロン酸誘導体の例としては、HylanG-F20/Synvisc、ヒアルロン酸ナトリウムがある。
【0109】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例は、抗原を結合する能力を保持するF(ab)およびF(ab’)フラグメントを含む。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型またはヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(たとえばマウス)、または一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低く、または結合することはできない。たとえば、抗体は、アイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは変異体とすることができ、Fc受容体との結合を支持せず、たとえば、これは、突然変異したまたは欠失したFc受容体結合領域を有する。
【0110】
用語「フラグメント」または「抗体フラグメント」は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペププチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本発明に有用である抗体フラグメントは、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、二重特異性、三重特異性、および多重特異性抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの単一特異性または多重特異性抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を含む。抗原結合抗体フラグメントのさらなる例は、当技術分野で知られている。
【0111】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。用語「フレームワーク領域」は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、通常、当技術分野で知られているように、抗原結合に直接的に関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接的に関与することができ、またはCDR内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与えることができる。
【0112】
例示的な抗体は、アンチPCSK-9mAb(たとえばアリロクマブ(Alirocumab))、アンチIL-6mAb(たとえばサリルマブ(Sarilumab))、およびアンチIL-4mAb(たとえばデュピルマブ(Dupilumab))である。
【0113】
本明細書において説明される化合物は、(a)化合物または薬学的に許容されるその塩、および(b)薬学的に許容される担体を含む医薬製剤において使用することができる。化合物はまた、1つまたはそれ以上の他の医薬品有効成分を含む医薬製剤、または存在する化合物またはその薬学的に許容される塩が唯一の有効成分である医薬製剤において使用することもできる。したがって、本開示の医薬製剤は、本明細書において説明される化合物および薬学的に許容される担体を混合することによって作られる任意の製剤を包含する。
【0114】
本明細書において説明される任意の薬物の薬学的に許容される塩もまた、薬物送達デバイスにおける使用に企図される。薬学的に許容される塩は、たとえば酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類金属、たとえばNa+、もしくはK+、もしくはCa2+、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1からR4は互いに独立して:水素、場合により置換されたC1~C6-アルキル基、場合により置換されたC2~C6-アルケニル基、場合により置換されたC6~C10-アリル基、または場合により置換されたC6~C10-ヘテロアリール基を意味する)から選択されるカチオンを有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、当業者に知られている。
【0115】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物またはメタノラート(methanolate)またはエタノラート(ethanolate)などのアルカノラート(alkanolate)である。
【0116】
本発明の完全な範囲および精神から逸脱することなく、本明細書に記載する物質、調合、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素に修正(追加および/または削除)を加えることができ、本発明は、そのような修正およびそのあらゆる均等物を包含することが、当業者には理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B