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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】高強度高靭性熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220601BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20220601BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/50
C21D9/46 T
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020535191
(86)(22)【出願日】2018-09-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 KR2018010935
(87)【国際公開番号】W WO2019132179
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-08-17
(31)【優先権主張番号】10-2017-0179337
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ぺ、 ジン-ホ
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-047536(JP,A)
【文献】特開2000-144316(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108861(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101135029(CN,A)
【文献】中国特許第105463324(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46-9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.07~0.13%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.5~0.9%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005~0.03%、Cr:0.3~0.6%、Ti:0.005~0.03%、Cu:0.1~0.35%、Ni:0.05~0.3%、Mo:0.01~0.15%、N:0.007%以下、Ca:0.001~0.006%、Al:0.01~0.05%、残りはFe及びその他の不可避不純物からなり
前記合金元素が下記関係式を満たし、組織は、面積分率で、85%以上の多角形フェライト及び15%以下のパーライトを含み、前記多角形フェライトの結晶粒サイズが10μm以下、幅方向における降伏強度偏差が35MPa以下である、高強度高靭性熱延鋼板。
[関係式1]
1.6≦(Mo/96)/(P/31)≦6
[関係式2]
1.6≦(Ca/S)≦3
[関係式3]
3.5≦(3*C/12+Mn/55)*100≦5
【請求項2】
前記熱延鋼板は、単位mm当たりの20nm以下の析出物個数が7×10以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度高靭性熱延鋼板。
【請求項3】
前記熱延鋼板は、-60℃におけるシャルピー衝撃試験で測定された衝撃靭性値が95J以上、衝撃試験片の破断面におけるセパレーション(separation)が0.01mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度高靭性熱延鋼板。
【請求項4】
前記熱延鋼板は、常温降伏強度が520MPa以上、及び常温引張強度が640MPa以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度高靭性熱延鋼板。
【請求項5】
重量%で、C:0.07~0.13%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.5~0.9%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005~0.03%、Cr:0.3~0.6%、Ti:0.005~0.03%、Cu:0.1~0.35%、Ni:0.05~0.3%、Mo:0.01~0.15%、N:0.007%以下、Ca:0.001~0.006%、Al:0.01~0.05%、残りはFe及びその他の不可避不純物からなり
前記合金元素が下記関係式を満たす、鋼スラブを設ける段階と、
前記鋼スラブを1100~1300℃の温度に加熱し、1160℃以上で30分以上維持した後、抽出する段階と、
前記のように加熱されて抽出された鋼スラブを900~1000℃の圧延終了温度及び10%以上の再結晶域パス当たりの圧下率の条件で1次熱間圧延し、750~870℃の圧延終了温度及び85%以上の未再結晶域における累積圧下率の条件で2次熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を10~50℃/sの冷却速度で500~580℃の冷却終了温度まで水冷した後、巻取る段階と、を含み、前記水冷時における鋼材の中心部とエッジ部の冷却速度差を減少させるために、鋼板の両エッジ(edge)部に熱エネルギーを付与する、請求項1に記載の高強度高靭性熱延鋼板の製造方法。
[関係式1]
1.6≦(Mo/96)/(P/31)≦6
[関係式2]
1.6≦(Ca/S)≦3
[関係式3]
3.5≦(3*C/12+Mn/55)*100≦5
【請求項6】
前記熱間圧延は、鋼板のエッジ(edge)部とエッジから100mm地点との厚さ偏差が90mm以下になるように行われることを特徴とする、請求項5に記載の高強度高靭性熱延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記鋼板の両エッジ(edge)部への熱エネルギー付与は、水冷時に鋼板の幅方向における温度偏差が150℃以下になるように行われることを特徴とする、請求項5に記載の高強度高靭性熱延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記鋼板の両エッジ(edge)部への熱エネルギー付与は、エッジヒータ(edge heater)及びエッジマスク(edge mask)を用いて行われることを特徴とする、請求項5に記載の高強度高靭性熱延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延鋼板の幅方向における降伏強度偏差が35MPa以下、-60℃におけるシャルピー衝撃試験で測定された衝撃靭性値が95J以上、衝撃試験片の破断面におけるセパレーション(separation)が0.01mm以下、常温降伏強度が520MPa以上、及び常温引張強度が640MPa以上であることを特徴とする、請求項5に記載の高強度高靭性熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築、ラインパイプ、及び油井管用などに用いられる高強度高靭性熱延鋼板及びその製造方法に関し、より詳細には、幅方向における降伏強度偏差が小さい高強度高靭性熱延鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オイル及びガスを採掘するにあたり、油井用鋼管は、油田の上部から下部に向かって最大5kmまで適用されており、油井の採掘深さが深くなるにつれて、油井管用に用いられる鋼管には、高強度、高耐外圧圧壊強度、高靭性、優れた耐遅延破壊性などが要求される。
【0003】
また、採掘環境が厳しくなるにつれて、採掘コストが急速に増加するようになり、コスト低減のための努力が続いている。
【0004】
特に、油井の補修及び維持に用いられる油井用鋼管は、使用中に繰り返し曲げを受けるようになるため、鋼管の材質が均一であることが要求される。鋼管の強度が円周方向又は長さ方向に均一でない場合、繰り返される曲げを受ける際に強度が弱い部分において優先的に座屈や破断が発生するという問題点が発生する可能性がある。
【0005】
このような油井の補修及び維持に用いられる鋼管を製造するために用いられる鋼材は、厚さが2~5mm程度であって、熱間圧延時に圧延ロールの過度な曲げによって両エッジ(edge)部に厚さ偏差が発生し、且つ水冷却時に中心部に比べて両エッジ(edge)部が過度に冷却されて、幅方向の材質偏差が発生しやすい。また、採掘が極地で行われる場合には、-40℃以下における優れた低温靭性がさらに要求される。
【0006】
そこで、熱延コイルの幅方向における強度偏差が小さいとともに、低温靭性に優れた熱延鋼板及びその製造方法が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国公開特許第2016-0077385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の好ましい課題は、鋼板の幅方向における強度偏差が小さいとともに低温靭性に優れた、高強度熱延鋼板を提供することである。
【0009】
本発明の好ましい他の一課題は、成分及び熱間圧延工程を最適化して、鋼板の幅方向における強度偏差が小さいとともに低温靭性に優れた高強度熱延鋼板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい一側面によると、重量%で、C:0.07~0.13%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.5~0.9%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005~0.03%、Cr:0.3~0.6%、Ti:0.005~0.03%、Cu:0.1~0.35%、Ni:0.05~0.3%、Mo:0.01~0.15%、N:0.007%以下、Ca:0.001~0.006%、Al:0.01~0.05%、残りはFe及びその他の不可避不純物を含み、上記合金元素が下記関係式を満たし、微細組織は、面積分率で、85%以上の多角形フェライト及び15%以下のパーライトを含み、上記多角形フェライトの結晶粒サイズが10μm以下、幅方向における降伏強度偏差が35MPa以下である、高強度高靭性熱延鋼板が提供される。
[関係式1]
1.6≦(Mo/96)/(P/31)≦6
[関係式2]
1.6≦(Ca/S)≦3
[関係式3]
3.5≦(3*C/12+Mn/55)*100≦5
【0011】
上記熱延鋼板は、単位mm当たりの20nm以下の析出物個数が7×10以上であることができる。
【0012】
上記熱延鋼板は、-60℃におけるシャルピー衝撃試験で測定された衝撃靭性値が95J以上、衝撃試験片の破断面におけるセパレーション(separation)が0.01mm以下、常温降伏強度が520MPa以上、及び常温引張強度が640MPa以上であることができる。
【0013】
本発明の好ましい他の一側面によると、重量%で、C:0.07~0.13%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.5~0.9%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005~0.03%、Cr:0.3~0.6%、Ti:0.005~0.03%、Cu:0.1~0.35%、Ni:0.05~0.3%、Mo:0.01~0.15%、N:0.007%以下、Ca:0.001~0.006%、Al:0.01~0.05%、残りはFe及びその他の不可避不純物を含み、上記合金元素が下記関係式を満たす鋼スラブを設ける段階と、上記鋼スラブを1100~1300℃の温度に加熱し、1160℃以上で30分以上維持した後、抽出する段階と、上記のように加熱されて抽出された鋼スラブを900~1000℃の圧延終了温度及び10%以上の再結晶域パス当たりの圧下率の条件で1次熱間圧延し、750~870℃の圧延終了温度及び85%以上の未再結晶域における累積圧下率の条件で2次熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を10~50℃/sの冷却速度で500~580℃の冷却終了温度まで水冷した後、巻取る段階と、を含み、上記水冷時における鋼材の中心部とエッジ部の冷却速度差を減少させるために、鋼板の両エッジ(edge)部に熱エネルギーを付与する、高強度高靭性熱延鋼板の製造方法が提供される。
[関係式1]
1.6≦(Mo/96)/(P/31)≦6
[関係式2]
1.6≦(Ca/S)≦3
[関係式3]
3.5≦(3*C/12+Mn/55)*100≦5
【0014】
上記熱間圧延は、鋼板のエッジ(edge)部とエッジから100mm地点との厚さ偏差が90mm以下になるように行われることができる。
【0015】
上記鋼板の両エッジ(edge)部への熱エネルギー付与は、水冷時に鋼板の幅方向における温度偏差が150℃以下になるように行われることができる。
【0016】
上記鋼板の両エッジ(edge)部への熱エネルギー付与は、エッジヒータ(edge heater)及びエッジマスク(edge mask)を用いて行われることができる。
【0017】
上記鋼板の幅方向における降伏強度偏差が35MPa以下、-60℃におけるシャルピー衝撃試験で測定された衝撃靭性値が95J以上、衝撃試験片の破断面におけるセパレーション(separation)が0.01mm以下、常温降伏強度が520MPa以上、及び常温引張強度が640MPa以上であることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の好ましい一側面によると、低温靭性に優れ、鋼板の幅方向における強度偏差が小さい高強度熱延鋼材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、成分及び成分範囲、成分関係式、製造条件を最適化して、鋼板の幅方向における強度偏差が小さいとともに、低温靭性に優れた、高強度高靭性熱延鋼板及びその製造方法を提供するものである。
【0020】
以下、本発明の好ましい一側面による高強度高靭性熱延鋼板について説明する。
【0021】
本発明の好ましい一側面による高強度高靭性熱延鋼板は、重量%で、C:0.07~0.13%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.5~0.9%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005~0.03%、Cr:0.3~0.6%、Ti:0.005~0.03%、Cu:0.1~0.35%、Ni:0.05~0.3%、Mo:0.01~0.15%、N:0.007%以下、Ca:0.001~0.006%、Al:0.01~0.05%、残りはFe及びその他の不可避不純物を含み、上記合金元素が下記関係式を満たす。
[関係式1]
1.6≦(Mo/96)/(P/31)≦6
[関係式2]
1.6≦(Ca/S)≦3
[関係式3]
3.5≦(3*C/12+Mn/55)*100≦5
【0022】
C:0.07~0.13重量%(以下、「%」ともする)
上記Cは、鋼材の硬化能を増加させる元素である。その含有量が0.07%未満の場合には、硬化能が不足して、本発明で目標とする強度を確保することができない。これに対し、その含有量が0.13%を超えると、降伏強度が過度に高くなって加工が難しくなったり、又は低温靭性が悪くなる可能性があるため好ましくない。したがって、本発明では、上記Cの含有量を0.07~0.13%に制御することが好ましい。
【0023】
Si:0.20~0.50%
上記Siは、フェライト相中のCの活動度を増加させ、フェライトの安定化を促進する作用をし、且つ固溶強化による強度確保に寄与する。また、上記Siは、ERW溶接時にMnSiOなどの低融点酸化物を形成させ、溶接時に酸化物が容易に排出されるようにする。その含有量が0.2%未満の場合には、製鋼上のコスト問題が発生するのに対し、0.5%を超えると、MnSiO以外に高融点のSiO酸化物の形成量が多くなり、電気抵抗溶接時における溶接部の靭性を低下させる可能性がある。したがって、上記Siの含有量は、0.20~0.50%に制限することが好ましい。
【0024】
Mn:0.5~0.9%
上記Mnは、オーステナイト/フェライト変態開始温度に大きな影響を与えて変態開始温度を低下させる元素であって、パイプの母材部及び溶接部の靭性に影響を与え、固溶強化元素として強度の増加に寄与する。その含有量が0.5%未満では、上記の効果を期待することが難しいのに対し、0.9%を超えると、偏析帯が発生する可能性が高い。したがって、上記Mnの含有量は、0.5~0.9%に制限することが好ましい。
【0025】
P:0.03%以下(0%を含む)
上記Pは、鋼製造時に不可避的に含有される元素であって、リンが添加されると、鋼板の中心部に偏析されて亀裂開始点又は進展経路として用いられる可能性がある。理論上、リンの含有量を0%に制限することが有利であるが、製造工程上必然的に不純物として添加される。したがって、上限を管理することが重要であり、本発明では、上記リンの含有量の上限は0.03%に制限することが好ましい。
【0026】
S:0.02%以下(0%を含む)
上記Sは、鋼中に存在する不純物元素であって、Mnなどと結合して非金属介在物を形成し、それに応じて、鋼の靭性を大きく損失させるため、可能な限り減少させることが好ましい。したがって、その上限を0.02%とする。
【0027】
Nb:0.005~0.03%
上記Nbは、圧延中に再結晶を抑制して結晶粒を微細化させるのに非常に有用な元素であるとともに、鋼の強度も向上させる役割を果たすため、少なくとも0.005%以上添加する必要があるが、0.03%を超えると、過度なNb炭窒化物が析出して鋼材の靭性に有害であるため0.005~0.03%に制御することが好ましい。
【0028】
Cr:0.3~0.6%
上記Crは、硬化能及び腐食抵抗性を向上させる元素である。かかるCrの含有量が0.3%未満の場合には、添加による腐食抵抗性の向上効果が不十分である。これに対し、0.6%を超えると、溶接性が急激に低下するおそれがあるため好ましくない。したがって、Crの含有量は、0.3~0.6%に制御することが好ましい。
【0029】
Ti:0.005~0.03%
上記Tiは、鋼中の窒素(N)と結合してTiN析出物を形成する元素である。本発明の場合、高温熱間圧延時に一部のオーステナイト結晶粒の過大な粗大化が発生する可能性があるため、上記TiNを適切に析出させることにより、オーステナイト結晶粒の成長を抑制することができる。かかる目的のために、Tiは少なくとも0.005%以上添加することが必要である。但し、その含有量が0.03%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、逆に粗大なTiNが晶出されることによって、その効果が半減する可能性があるため好ましくない。したがって、本発明では、Tiの含有量を0.005~0.03%に制限することが好ましい。
【0030】
Cu:0.1~0.35%
上記Cuは、母材や溶接部の硬化能及び腐食性の向上に有効である。しかし、その含有量が0.1%未満の場合には腐食抵抗性の確保に不利である。これに対し、0.35%を超えると、製造原価が上昇して経済的に不利になるという問題があるため、その範囲を0.1~0.35%に制限することが好ましい。
【0031】
Ni:0.05~0.3%
上記Niは、硬化能及び腐食抵抗性の向上に有効である。また、上記Cuとともに添加される際にCuと反応して融点の低いCu相の生成を阻害するため、熱間加工時にクラックが発生するという問題を抑制する効果もある。かかるNiは、母材の靭性向上にも有効な元素である。上述した効果を得るために、Niを0.05%以上添加する必要があるが、高価な元素であるため、0.3%を超えて添加することは経済性の面から不利である。上記Niの含有量は、0.05~0.3%に制限することが好ましい。
【0032】
Mo:0.01~0.15%
Moは、素材の強度を上昇させるのに非常に有効であり、パーライト組織の生成を抑制して良好な衝撃靭性を確保することができる。このために、Moは0.01%以上添加する必要があるが、高価な元素であり、溶接低温割れを抑制し且つ母材に低温変態相が生成されて靭性が低下することを防ぐために、0.15%以下に制限することが好ましい。
【0033】
N:0.007%以下
上記Nは、固溶状態では時効劣化を引き起こす原因となるため、TiやAlなどの窒化物として固定される。その含有量が0.007%を超えると、TiやAlなどの添加量の増加が避けられないため、上記Nの含有量は0.007%以下に制限することが好ましい。
【0034】
Ca:0.001~0.006%
上記Caは、硫化物の形態制御のために添加する。その含有量が0.006%を超えると、鋼中のS量に対してCaOクラスター(cluster)のCaSが発生するのに対し、0.001%未満の場合には、MnSが発生して靭性の低下をもたらす可能性がある。また、S量が多い場合には、CaSクラスターの発生を防止するために、S量も同時に制御することが好ましい。したがって、上記Caの含有量は、0.001~0.006%に制限することが好ましい。
【0035】
Al:0.01~0.05%
上記Alは、製鋼時の脱酸のために添加する。その含有量が0.01%未満の場合には、かかる作用が不足するのに対し、0.05%を超えると、電気抵抗溶接時の溶接部にアルミナ又はアルミナ酸化物を含む複合酸化物の形成が助長され、溶接部の靭性を損傷させる可能性がある。したがって、上記Alの含有量は、0.01~0.05%に制限することが好ましい。
【0036】
上記Mo及びPは下記関係式1を満たすようにする必要がある。
[関係式1]
1.6≦(Mo/96)/(P/31)≦6
上記関係式1は、Pの粒界偏析を防ぐためのものである。関係式1の値が1.6未満の場合には、Fe-Mo-P化合物の形成によるPの粒界偏析効果が十分でなく、関係式1の値が6を超えると、硬化能の増加による低温変態相の形成によって衝撃エネルギーが減少するようになる。
【0037】
上記Ca及びSは下記関係式2を満たすようにする必要がある。
[関係式2]
1.6≦(Ca/S)≦3
関係式2は、衝撃試験及び鋼管の拡管時におけるクラックの形成及び伝播経路として作用する非金属介在物の形成を抑制するためのものである。1.6未満では、MnSの形成が容易であって、圧延中に延伸されてクラックの伝播経路として作用する。これに対し、3を超えると、Ca系非金属介在物が増加し、鋼材及び鋼管の衝撃試験時における衝撃試験片の破断面にセパレーションが発生し、衝撃エネルギーが減少するようになる。場合によっては、上記関係式2の値が1.7以上であることができる。
【0038】
上記C及びMnは下記関係式3を満たすようにする必要がある。
[関係式3]
3.5≦(3*C/12+Mn/55)*100≦5
関係式3は、硬い第2相であるベイナイト及びMA(martensite and/or austenite)相の形成を抑制するためのものである。C及びMnの増加は、スラブの凝固温度を下げてスラブ中心の偏析を助長し、且つデルタフェライトの区間を狭くして連続鋳造中のスラブの均質化を難しくする。また、Mnは、スラブの中心部に偏析される代表的な元素であって、パイプの延性を損なう第2相の形成を助長し、Cの増加は、連続鋳造時に固相と液相の共存区間を広げて偏析を深化させる。したがって、関係式3の値が5よりも大きくなると、強度は増加するが、上記の理由からスラブの非均質性が増加し、スラブに硬い第2相が形成されるようになって、鋼材及びパイプの低温靭性を低下させるようになる。したがって、鋼材の衝撃靭性を確保するために、関係式3の値が5以下であることが好ましい。しかし、関係式3の値が3.5未満となってC及びMnの含有量が少なくなると、強度が低下するという問題がありうる。
【0039】
本発明の好ましい一側面による高強度高靭性熱延鋼板は、面積分率で、85%以上の多角形フェライト及び15%以下のパーライトを含み、上記多角形フェライトの結晶粒サイズが10μm以下の微細組織を含む。
【0040】
上記パーライト分率が15%を超えると、衝撃試験時におけるクラック生成及びセパレーション発生の起点となって衝撃エネルギーが低くなる。したがって、上記パーライト分率は15%以下に限定することが好ましい。
【0041】
上記多角形フェライトの結晶粒サイズが10μmを超えると、クラック伝播に対する抵抗性が減少するようになって衝撃特性が劣化し、且つ強度が低下するようになる。したがって、上記多角形フェライトの結晶粒サイズは10μm以下に限定することが好ましい。
【0042】
上記多角形フェライト分率が85%未満の場合には、軟質相の分率が減少し、強度は向上するが、衝撃特性が基準に達しない可能性があるため、上記多角形フェライト分率は85%以上に限定することが好ましい。
【0043】
上記熱延鋼板は、単位mm当たりの20nm以下の析出物個数が7×10以上であることができる。
【0044】
本発明の好ましい一側面による高強度高靭性熱延鋼板は、幅方向における降伏強度偏差が35MPa以下である。
【0045】
上記熱延鋼板は、-60℃におけるシャルピー衝撃試験で測定された衝撃靭性値が95J以上であることができる。
【0046】
上記熱延鋼板は、衝撃試験片の破断面におけるセパレーション(separation)が0.01mm以下であることができる。
【0047】
上記熱延鋼板は、常温降伏強度が520MPa以上、常温引張強度が640MPa以上であることができる。
【0048】
以下、本発明の好ましい他の一側面による高強度高靭性熱延鋼板の製造方法について説明する。
【0049】
本発明の好ましい他の一側面による高強度高靭性熱延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.07~0.13%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.5~0.9%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Nb:0.005~0.03%、Cr:0.3~0.6%、Ti:0.005~0.03%、Cu:0.1~0.35%、Ni:0.05~0.3%、Mo:0.01~0.15%、N:0.007%以下、Ca:0.001~0.006%、Al:0.01~0.05%、残りはFe及びその他の不可避不純物を含み、上記合金元素が下記関係式を満たす鋼スラブを設ける段階と、上記鋼スラブを1100~1300℃の温度に加熱して1160℃以上で30分以上維持した後、抽出する段階と、上記のように加熱されて抽出された鋼スラブを900~1000℃の圧延終了温度及び10%以上の再結晶域パス当たりの圧下率の条件で1次熱間圧延し、750~870℃の圧延終了温度及び85%以上の未再結晶域における累積圧下率の条件で2次熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を10~50℃/sの冷却速度で500~580℃の冷却終了温度まで水冷した後、巻取る段階と、を含み、上記水冷時における鋼材の中心部とエッジ部の冷却速度差を減少させるために、鋼板の両エッジ(edge)部に熱エネルギーを付与する。
[関係式1]
1.6≦(Mo/96)/(P/31)≦6
[関係式2]
1.6≦Ca/S≦3
[関係式3]
3.5≦(3*C/12+Mn/55)*100≦5
【0050】
スラブ加熱及び抽出段階
上記のように組成される鋼スラブを1100~1300℃の温度に加熱して1160℃以上で30分以上維持した後、抽出する。
スラブの加熱工程は、後続する圧延工程を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を十分に得ることができるように鋼を加熱する工程であるため、目的に合わせて適切な温度範囲内で加熱工程が行われるようにする必要がある。
スラブを加熱する段階では、鋼板内部の析出型元素が十分に固溶されるように均一に加熱し、高すぎる加熱温度による粗大結晶粒を防止する必要がある。鋼スラブの再加熱温度は1100~1300℃になるように行われることが好ましい。これは、スラブ製造段階で生成された鋳造組織及び偏析、2次相の固溶及び均質化のためのものであり、1100℃未満の場合には、均質化が不足したり、又は加熱炉の温度が低すぎるため、熱間圧延時の変形抵抗が大きくなるという問題があり、1300℃を超えると、表面品質の劣化が発生する可能性がある。
したがって、上記スラブの加熱温度は、1100~1300℃の範囲内とすることが好ましい。併せて、1160℃以上で30分未満維持時には、スラブの厚さ方向及び長さ方向の亀裂度が低いため、圧延性が劣化し、最終鋼板の物性偏差を生じさせる可能性がある。
【0051】
熱延鋼板を得る段階
上記のように加熱されて抽出された鋼スラブを900~1000℃の圧延終了温度及び10%以上の再結晶域パス当たりの圧下率の条件で1次熱間圧延し、750~870℃の圧延終了温度及び85%以上の未再結晶域における累積圧下率の条件で2次熱間圧延して熱延鋼板を得る。
すなわち、上記のように加熱されて抽出された鋼スラブの1次圧延を900~1000℃で終了し、再結晶域パス当たりの圧下率を10%以上にして圧延し、2次圧延時に、未再結晶域における累積圧下率を85%以上にして圧延した後、750~870℃で終了することが重要である。上記温度領域帯において熱間圧延が行われなければ、結晶粒を効果的に微細化させることができない。特に、圧延仕上げ温度が高すぎると、最終組織が粗大となって、所望の強度を得ることができない。これに対し、低すぎると、仕上げ圧延機設備の負荷の問題が発生する可能性がある。また、パス当たりの圧下率が10%未満であるか、又は未再結晶域における圧下量が85%未満の場合には、衝撃靭性が低下するおそれがある。
また、圧延時の鋼板のエッジ(edge)部とエッジから100mm地点の厚さ偏差が90mm以下になるようにすることが重要である。
鋼板エッジ部の厚さが薄すぎるようになると、水冷時における過冷却による組織偏差によって材質偏差が発生するようになる可能性がある。
【0052】
熱延鋼板の冷却及び巻取り段階
上記熱延鋼板を、10~50℃/sの冷却速度で500~580℃の冷却終了温度まで水冷してから巻取る。上記水冷時における鋼材の中心部とエッジ部の冷却速度差を減少させるために、鋼板の両エッジ(edge)部に熱エネルギーを付与する。
上記冷却終了温度が580℃よりも高いと、表面品質が低下し、粗大な炭化物が形成されて靭性及び強度が低下し、500℃よりも低いと、巻取り時に多量の冷却水が必要となり、巻取り時における荷重が大幅に増加するようになる。したがって、冷却終了温度は500~580℃に限定することが好ましい。
上記鋼板の両エッジ(edge)部への熱エネルギー付与は、水冷時に鋼板の幅方向における温度偏差が150℃以下になるように行うことができる。
例えば、水冷時にエッジヒータ(edge heater)を用いて鋼板のエッジ(edge)部を加熱して、鋼板のエッジ部とエッジから100mm地点の内部との温度偏差が150℃以下になるように熱エネルギーを両エッジ部に付与することができる。
上記鋼板の両エッジ(edge)部への熱エネルギー付与は、エッジヒータ(edge heater)及びエッジマスク(edge mask)を用いて行われることができる。
水冷時にエッジヒータ(edge heater)などを用いて鋼板の両エッジ(edge)部への熱エネルギーを付与しなくなると、両エッジ部の温度が中心部よりも低くなるようになって鋼板の幅方向における強度偏差が増加するようになる。これは、鋼管製造後に、鋼管の円周方向における強度偏差を誘発するようになる。
【0053】
上記した本発明の好ましい他の一側面による高強度高靭性熱延鋼板の製造方法によると、面積分率で、85%以上の多角形フェライト及び15%以下のパーライトを有し、上記多角形フェライトの結晶粒サイズが10μm以下の微細組織を含み、幅方向における降伏強度偏差が35MPa以下である高強度高靭性熱延鋼板が製造されることができる。
【0054】
上記熱延鋼板は、単位mm当たりに20nm以下の析出物個数が7×10以上であることができる。
【0055】
上記熱延鋼板は、-60℃におけるシャルピー衝撃試験で測定された衝撃靭性値が95J以上、衝撃試験片の破断面におけるセパレーション(separation)が0.01mm以下、常温降伏強度が520MPa以上、及び常温引張強度が640MPa以上であることができる。
【実施例
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0057】
下記表1及び2のような化学成分を有する鋼を連続鋳造法によりスラブとして製造した後、これを下記表3の熱間圧延条件で圧延して厚さ4mmの熱延鋼板を製造した。
【0058】
上記熱延鋼板に対して、20nm以下の析出物数(個/mm)、フェライト及びパーライト分率、MA分率(%)、セパレーションの長さ(mm)、及びフェライト結晶粒サイズ(μm)を測定し、その結果を下記表4に示した。
【0059】
また、上記熱延鋼板に対して、降伏強度(S)、引張強度(S)、降伏強度材質偏差、及び衝撃エネルギーフルサイズ(Full size)換算(@-60℃)を測定し、その結果を下記表5に示した。下記表5における強度は、一般的に通用されるASTM A370に準じて測定したものであり、衝撃エネルギーは-60℃でシャルピー(Charpy)衝撃試験を行って測定したものである。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
上記表1~表5に示すように、本発明に符合する成分及び成分範囲、成分関係式及び製造条件によって製造された発明材の場合には、適切な分率の多角形フェライト及びパーライトを形成して降伏強度及び引張強度がそれぞれ520MPa及び640MPa以上を示すことが分かる。また、エッジヒータを用いて両エッジ部の過冷却を防止した結果、幅方向における降伏強度偏差を35MPa以下に抑えることができるとともに、-60℃における衝撃エネルギー95J以上が確保されたことが分かる。