IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ベルト式無段変速機 図1
  • 特許-ベルト式無段変速機 図2
  • 特許-ベルト式無段変速機 図3
  • 特許-ベルト式無段変速機 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20220601BHJP
   F16H 59/46 20060101ALI20220601BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20220601BHJP
   F16H 61/16 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H59/46
F16H61/662
F16H61/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020571071
(86)(22)【出願日】2020-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2020001687
(87)【国際公開番号】W WO2020162148
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019019298
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明保能 弘道
(72)【発明者】
【氏名】澤田 優
(72)【発明者】
【氏名】柳 根錫
(72)【発明者】
【氏名】光山 明宏
【審査官】田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-035046(JP,A)
【文献】特開2004-301230(JP,A)
【文献】特開2004-278663(JP,A)
【文献】特開2003-106442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 59/46
F16H 61/662
F16H 61/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記両プーリに巻回されたベルトとを備え、プーリ押し付け力が前記プライマリプーリに供給されるプライマリ圧及び前記セカンダリプーリに供給されるセカンダリ圧によって決まるベルト式無段変速機であって、
走行状態に基づいて設定された目標プーリ比と、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリの回転数から算出された実プーリ比との乖離が所定値以上の状態が所定時間継続したときは、前記セカンダリ圧を上昇させ、該セカンダリ圧の上昇に伴って前記実プーリ比がハイ側にシフトしたときは、ベルト滑りが発生していると判断する、ベルト式無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト式無段変速機において、
前記ベルト滑りが発生していると判断したときは、該ベルト滑りが発生したプーリ比の使用を禁止する、ベルト式無段変速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のベルト式無段変速機において、
前記ベルト滑りの発生の判断は、所定プーリ比よりハイ側のみで実施する、ベルト式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ間の動力をベルトにより伝達する際の変速比を無段階に変更可能なベルト式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、ベルト式無段変速機の変速圧力制御において、プライマリプーリとセカンダリプーリの回転数に基づいてプーリ比を所定時間毎に算出し、プーリ比の移動平均値を算出する。そして、移動平均値と所定時間毎に算出されるプーリ比との差を算出し、算出された差が第1の所定値より大きいときは、定常的なベルト滑りが生じていると判定する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、定常的なベルト滑りの検知に時間がかかると、ベルトやプーリの耐久性の低下を招くおそれがあり、また、検知した後にベルトの破損等を回避するために、走行性能を制限した変速制御(いわゆるリンプホーム走行)を実施すると、走行性能を十分に確保できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-78022号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、早期に定常的なベルト滑りを検知可能なベルト式無段変速機を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のベルト式無段変速機では、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、両プーリに巻回されたベルトとを備え、プーリ押し付け力が前記プライマリプーリに供給されるプライマリ圧及び前記セカンダリプーリに供給されるセカンダリ圧によって決まるベルト式無段変速機であって、
走行状態に基づいて設定された目標プーリ比と、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリの回転数から算出された実プーリ比との乖離が所定値以上の状態が所定時間継続したときは、前記セカンダリ圧を上昇させ、該セカンダリ圧の上昇に伴って前記実プーリ比がハイ側にシフトしたときは、ベルト滑りが発生していると判断することとした。
【0007】
よって、タイヤがロック傾向となったとしても、プライマリ圧の実測下限値が高く設定されるため、ベルト滑りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1の無段変速機の概略構成を示す図である。
図2】実施形態1の変速マップである。
図3】実施形態1の定常スリップ判定処理を表すフローチャートである。
図4】実施形態1で定常スリップが生じた場合におけるプーリ比と、プライマリ圧及びセカンダリ圧の関係を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1の無段変速機(以下、「CVT」という。)1の概略構成を示す図である。プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3が両者の溝が整列するよう配置され、これらプーリ2、3の溝にはベルト4が掛け渡されている。プライマリプーリ2と同軸にエンジン5が配置され、エンジン5とプライマリプーリ2の間には、エンジン5の側から順に、トルクコンバータ6、前後進切換え機構7が設けられている。
【0010】
トルクコンバータ6は、エンジン5の出力軸に連結されるポンプインペラ6a、前後進切換え機構7の入力軸に連結されるタービンランナ6b、ステータ6c及びロックアップクラッチ6dを備える。
【0011】
前後進切換え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤはトルクコンバータ6のタービンランナ6bに結合され、キャリアはプライマリプーリ2に結合される。前後進切換え機構7は、さらに、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤ及びキャリア間を直結する発進クラッチ7b、及びリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備える。そして、発進クラッチ7bの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転がそのままプライマリプーリ2に伝達され、後進ブレーキ7cの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転が逆転され、プライマリプーリ2へと伝達される。
【0012】
プライマリプーリ2の回転はベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転は、出力軸8、歯車組9及びディファレンシャルギヤ装置10を経て図示しない駆動輪へと伝達される。上記の動力伝達中にプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間のプーリ比(変速比)を変更可能にするために、プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3の溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a、3aとし、他方の円錐板2b、3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板としている。これら可動円錐板2b、3bは、ライン圧を元圧として作り出したプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecをプライマリプーリ室2c及びセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a、3aに向けて付勢され、これによりベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間での動力伝達が行われる。
【0013】
変速は、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psec間の差圧により両プーリ2、3の溝の幅を変化させ、プーリ2、3に対するベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることによって行われる。プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecは、前進走行レンジの選択時に締結する発進クラッチ7b及び後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cへの供給油圧と共に変速制御油圧回路11によって制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御を行う。
【0014】
変速機コントローラ12には、CVT1のプライマリプーリ2のプライマリ回転数Npriを検出するプライマリ回転数センサ13からの信号と、CVT1のセカンダリプーリ3のセカンダリ回転数Nsec(尚、Nsecに終減速比やタイヤ径といった諸元を用いて車速VSPを算出可能)を検出するセカンダリ回転数センサ14からの信号と、プライマリ圧Ppriを検出するプライマリ圧センサ15pからの信号と、セカンダリ圧Psecを検出するセカンダリ圧センサ15sからの信号と、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ16からの信号と、セレクトレバー位置を検出するインヒビタスイッチ17からの選択レンジ信号と、ブレーキペダルの踏み込みの有無を検出するブレーキスイッチ18からの信号と、エンジン5を制御するエンジンコントローラ19からのエンジン5の運転状態(エンジン回転速度Ne、エンジントルク、燃料噴時間、冷却水温TMPe等)に関する信号とが入力される。
【0015】
変速機コントローラ12は、図2に示す変速マップを参照し、走行状態に応じて目標入力回転速度tNinを設定し、プライマリ回転数Npriが目標入力回転速度tNinに追従するように制御する。尚、目標入力回転速度tNinを設定することは、目標プーリ比を設定することと同義である。プーリ比は、セカンダリ回転数Nsecをプライマリ回転数Npriで除した値であり、セカンダリ回転数Nsecは、車速VSPによって一義的に決定される値だからである。また、プーリ比を制御する際には、エンジントルク及びトルクコンバータトルク比によって決まるCVT1の入力トルクを伝達するのに必要なプーリ押し付け力が得られるように、目標プライマリ圧Ppri*及び目標セカンダリ圧Psec*を設定し、実プライマリ圧Ppri及び実セカンダリ圧Psecが目標圧に追従するようにフィードバック制御する。また、異常を表す所定条件が成立したときは、運転者に異常を報知可能なランプ20に対して点灯指令を出力する。
【0016】
図3は、実施形態1の定常スリップ判定処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、定常スリップ判定処理を開始するための前提条件が成立しているか否かを判断し、前提条件が成立していると判断したときはステップS2に進み、それ以外は前提条件が成立するまで本ステップを繰り返す。ここで、前提条件とは、例えば、車両に他の異常が発生しておらず、各種運転条件が成立していることを表す。
【0017】
ステップS2では、定常スリップ第1条件が成立したか否かを判断し、第1条件が成立しているときにはステップS3へ進み、それ以外はステップS1に戻る。ここで、定常スリップ第1条件とは、プーリ比が所定プーリ比以上であって、目標プーリ比に対して実プーリ比がHigh側ずれた状態が所定時間継続しており、かつ、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecが目標圧に追従していることである。所定プーリ比とは、プーリ比がLow側ではなく、High側であることを表すプーリ比であり、例えば0.4以上である。所定プーリ比を設定した理由については後述する。また、実プーリ比がHigh側にずれるとは、目標プーリ比と実プーリ比とがセンサ等の検出誤差を考慮した上で確実にずれが生じていることを表す値以上乖離している状態であり、目標圧に追従とは、センサ等の検出誤差を考慮して各プーリ圧と目標圧との差が所定圧未満であることを表す。
【0018】
図4は、実施形態1で定常スリップが生じた場合におけるプーリ比と、プライマリ圧及びセカンダリ圧の関係を表すタイムチャートである。第1条件の領域において、実プーリ比が目標プーリ比よりもHigh側にずれており、それが所定時間継続している状態である。セカンダリプーリ3とベルト4との間でスリップが生じる原因としては、セカンダリ圧Psecが不足している場合、もしくは、接触面における摩擦係数(以下、μと記載する。)が低下している場合が考えられる。上記第1条件が成立した場合、予定通りにセカンダリ圧Psecが出力されていても、プーリ比がHigh側にずれているため、接触面におけるμが低下している疑いがある。
【0019】
仮に、この状態を放置しておくと、セカンダリプーリ3とベルト4との接触面が削れてしまい、段差等が形成されることでベルト4の破損を招く、あるいは、ベルト4の径方向位置が軸心側にオフセットすることでセカンダリプーリ3の軸部とベルト4とが接触し、ベルト4の破損を招くおそれがある。ただし、定常スリップが生じておらず、他の要因によってプーリ比の乖離が生じている可能性があり、この段階で即座に定常スリップが発生していると確定することはできない。そこで、実施形態1では、ステップS3に示す第2条件を設定することとした。尚、第1条件で所定プーリ比以上と設定したのは、所定プーリ比よりもLow側であれば、セカンダリプーリ3の軸部と接触するおそれがないためであり、所定プーリ比よりもHigh側において定常スリップを監視することとした。
【0020】
ステップS3では、定常スリップ第2条件が成立したか否かを判断し、第2条件が成立しているときにはステップS4に進み、それ以外はステップS1に戻る。ここで、定常スリップ第2条件とは、セカンダリ圧Psecを予め設定された所定圧だけ上昇させたときに、実プーリ比がHigh側にシフトすることである。仮に、定常スリップが発生していない場合、図4のタイムチャートの第2条件に示すようにセカンダリ圧Psecのみ上昇させた場合を検討する。本来はプライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecとの間でバランス推力比が保たれた状態であり、セカンダリ圧Psecのみ上昇すると、バランス推力比が崩れてLow側にシフトする。しかしながら、定常スリップが発生している場合、μが低下し、セカンダリ圧Psecの上昇によって摩擦力が確保されて定常スリップが抑制されるため、セカンダリ回転数Nsecが上昇し、実プーリ比がHigh側にシフトする。この場合は、定常スリップが発生している状態と確定できる。
【0021】
ステップS4では、定常スリップ第2条件の成立が複数回検知されたか否かを判断し、複数回検知された場合は定常スリップを確定してステップS5に進み、それ以外はステップS1に戻って繰り返しフローを実施する。
ステップS5では、ランプ20に点灯指令を出力して運転者に異常を報知する。
【0022】
ステップS6では、定常スリップが確定したときのプーリ比よりHigh側のプーリ比の使用規制を実施する。具体的には、図4の規制領域に示すように、プーリ比を定常スリップが確定した時のプーリ比よりもLow側に設定する。すなわち、定常スリップが確定した時のプーリ比は、μが低下しているため、継続して使用することで、ベルト式無段変速機に生じる問題が増大するおそれがある。しかしながら、μが低下しているプーリ比領域よりもLow側のプーリ比は通常通り使用可能である。よって、実施形態1のように使用規制をかけることで、全てのプーリ比領域において走行性能に制限をかけるリンプホーム走行に比べて走行性能を確保できる。
【0023】
以上説明したように、実施形態1にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
(1)プライマリプーリ2と、セカンダリプーリ3と、両プーリ2,3に巻回されたベルト4とを備え、プーリ押し付け力がプライマリプーリ2に供給されるプライマリ圧及びセカンダリプーリ3に供給されるセカンダリ圧によって決まるベルト式無段変速機であって、走行状態に基づいて設定された目標プーリ比と、プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3の回転数から算出された実プーリ比との乖離が所定値以上の状態が所定時間継続したときは、セカンダリ圧Psecを上昇させ、該セカンダリ圧Psecの上昇に伴って実プーリ比がハイ側にシフトしたときは、定常スリップ(ベルト滑り)が発生していると判断する。
よって、定常スリップ以外の要因で目標プーリ比と実プーリ比とが乖離している状態を排除することができ、時間をかけて乖離している状態を判断する必要がなく、より早期に定常スリップを検知できる。
【0024】
(2)定常スリップが発生していると判断したときは、該定常スリップが発生したプーリ比よりもHigh側のプーリ比の使用を禁止する。言い換えると、定常スリップが発生したプーリ比よりもLow側のプーリ比領域の使用を継続できる。よって、定常スリップの継続に伴うベルト式無段変速機の損傷を回避しつつ、定常スリップが発生したプーリ比よりもLow側のプーリ比領域での走行性能を向上できる。
【0025】
(3)定常スリップの発生の判断は、所定プーリ比よりHigh側でのみ実施する。よって、High側での継続的なスリップを防止することで、スリップしたベルト4がセカンダリプーリ3の軸部に接触することによるベルト破損を回避できる。
図1
図2
図3
図4