IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山▲東▼先▲達▼▲農▼▲化▼股▲ふん▼有限公司の特許一覧

特許7082709キナゾリンジオン系化合物、その使用および農薬除草剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】キナゾリンジオン系化合物、その使用および農薬除草剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/06 20060101AFI20220601BHJP
   A01N 43/54 20060101ALI20220601BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20220601BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
C07D403/06 CSP
A01N43/54 G
A01N25/02
A01P13/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021504565
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 CN2019082267
(87)【国際公開番号】W WO2019196904
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】201810321962.5
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520394296
【氏名又は名称】山▲東▼先▲達▼▲農▼▲化▼股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG CYNDA CHEMICAL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Economic Development Zone,Boxing County,Binzhou,Shandong China
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 光富
(72)【発明者】
【氏名】何 波
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲現▼全
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/140612(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104557739(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1355164(CN,A)
【文献】国際公開第98/049159(WO,A1)
【文献】国際公開第97/008164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A01N
A01P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される構造を有するキナゾリンジオン系化合物。
【化1】
(式(I)中、RはH又は式(I-1)で表される基である。)
【化2】
【請求項2】
式(I)中、RがHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(I)中、Rが式(I-1)で表される基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のキナゾリンジオン系化合物の、雑草防除における使用。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のキナゾリンジオン系化合物の、イネ科雑草、広葉雑草およびカヤツリグサ科雑草から選ばれる少なくとも1種の雑草の防除における使用。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のキナゾリンジオン系化合物の農薬除草剤としての使用。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のキナゾリンジオン系化合物のうちの少なくとも1種を含む活性成分と、補助材料で構成される農薬除草剤。
【請求項8】
前記活性成分の含有量が1~99.9999重量%である、請求項7に記載の農薬除草剤。
【請求項9】
前記農薬除草剤の剤型が、乳剤、懸濁剤、水和剤、粉剤、粒剤および剤から選ばれる少なくとも1種である、請求項7または8に記載の農薬除草剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬除草剤の分野に関し、具体的には、キナゾリンジオン系化合物、当該キナゾリンジオン系化合物の使用、及び当該キナゾリンジオン系化合物を含有する農薬除草剤に関する。
【背景技術】
【0002】
4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(4-HPPD)は、前世紀の90年代に除草剤の作用ターゲットとして認められている。
【0003】
4-HPPDは、好気性生物に広く存在しており、主に生物体内のチロシンの代謝に関与している。植物では、チロシンの代謝産物であるp-ヒドロキシフェニルピルビン酸が、4-HPPDの作用下でホモゲンチジン酸を生成し、ホモゲンチジン酸が更にプラストキノンとトコフェロールに変換される。プラストキノンとトコフェロールは植物の光合成の重要な前駆体である。従って、植物におけるプラストキノンとトコフェロールの合成を阻害することにより、植物の正常な光合成が妨げられ、植物は白化症に罹患して死亡する。HPPDをターゲットとする除草剤は、効率が高く、毒性が低く、環境に優しく、後作の作物に対する安全性に優れる等の特徴を有する。従って、4-HPPD除草剤は、研究価値や開発の将来性が期待できる除草剤である。
【0004】
2015年に、CN104557739Aは、初めてキナゾリンジオンのセグメントを含有するHPPD系阻害剤分子をスクリーニングし、その代表物質の構造が次の通りであり、この物質は、主にモロコシ畑などの雑草を防除することに用いられる。
【化1】
【0005】
その後、これに基づいて、WO2017/140612A1は、一連のHPPD系阻害剤分子を更に開示しているが、この従来技術では、具体的な化合物の生物学的活性の試験結果を提供しなかった。
【0006】
水稲は、非常に重要な食用作物であり、水稲田の雑草の防除は、水稲の増産や世界の食糧危機問題の解決に対して非常に重要な役割を果たしている。現在、水稲田のヒエ、耐性ヒエやアゼガヤなどの悪性雑草は、水稲の正常な成長に深刻な影響を与え、特に耐性ヒエの成長が非常に急速であり、今後、耐性ヒエの防除がますます困難になる。
【0007】
従って、水稲田などの雑草に対して、良好な防除効果及び高い安全性を有する新規HPPD系阻害剤を提供することは非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水稲田などの農作物栽培地の雑草に対して、優れた防除効果および農作物に対する高安全性を有する新規HPPD系阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様は、式(I)で表される構造を有するキナゾリンジオン系化合物を提供する。
【化2】

(式(I)中、RはH又は式(I-1)で表される基である。)
【化3】
【0010】
前記RがHである場合、本発明のキナゾリンジオン系化合物は、以下の化合物1で示される構造である。
【化4】
【0011】
前記Rが式(I-1)で表される基である場合、本発明のキナゾリンジオン系化合物は、以下の化合物2で示される構造である。
【化5】
【0012】
本発明者らは、本発明に係る化合物1および化合物2が、従来技術に係る構造が類似した化合物、及び本明細書で後述する参照サンプルのいずれよりも、良好な除草活性を有し、特に、本発明に係る化合物1および化合物2が、明らかにより高い作物安全性も有することを見出した。更に、本発明者らは、本発明の化合物1がトウモロコシ及び小麦の作物に対する安全性に特に優れており、本発明の化合物2が化合物1よりも畑における作物(たとえば水稲)に対してより高い安全性を有することも見出した。
【0013】
本発明は、式(I)で表されるキナゾリンジオン系化合物の合成方法について特に限定がなく、当業者は、本発明に係る化合物の構造に従って、化学分野の合成方法と組み合わせて、式(I)で表されるキナゾリンジオン系化合物の製造に適切な方法を得ることができるため、ここでは繰り返して説明しない。
【0014】
本発明の第2態様は、雑草の防除における第1態様に記載のキナゾリンジオン系化合物の使用を提供する。
【0015】
好ましくは、前記雑草は、ヒエ、アゼガヤ、エノコログサ、オニメヒシバ、タルホコムギ、スズメノチャヒキ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セトガヤ、ホソムギ、マルバツユクサ、エビスグサ、アサガオ、オナモミ、カヤツリグサ、オオカラスノエンドウ、アオゲイトウ、オオセンナリ、タカサブロウ、スベリヒユ、ハリビユ、コセンダングサ、キシュウスズメノヒエ、タイワンアシカキ、イボクサ、オモダカ、サジオモダカ(Alisma orientalis)、ミズアオイ、ツユクサ、コナギ、ホタルイ、タマガヤツリなどのうちの少なくとも1種である。
【0016】
本発明の第3態様は、イネ科雑草、広葉雑草およびカヤツリグサ科雑草から選ばれる少なくとも1種の雑草の防除における第1態様に記載のキナゾリンジオン系化合物の使用を提供する。
【0017】
好ましくは、本発明では、前記広葉雑草は、ハゲイトウ、シロザ、イチビ、マルバツユクサ、エビスグサ、アサガオ、オナモミ、アオゲイトウ、オオセンナリ、タカサブロウ、スベリヒユ、ハリビユ、イボクサ、オモダカ、サジオモダカ、ミズアオイ、ツユクサ、コナギ及びカヤツリグサのうちの少なくとも1種を含む。前記カヤツリグサは、ホタルイ、タマガヤツリなどを含む。
【0018】
好ましくは、本発明では、前記イネ科雑草は、ヒエ、アゼガヤ、エノコログサ、オニメヒシバ、タルホコムギ、スズメノチャヒキ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セトガヤ、ホソムギ、カヤツリグサ、オオカラスノエンドウ、コセンダングサ、キシュウスズメノヒエ、タイワンアシカキのうちの少なくとも1種を含む。
【0019】
本発明の第4態様は、第1態様に記載のキナゾリンジオン系化合物の除草剤としての使用を提供する。
【0020】
本発明の第5態様は、前述の第1態様に記載のキナゾリンジオン系化合物のうちの少なくとも1種を含む活性成分と、補助材料で構成される除草剤を提供する。
【0021】
好ましくは、前記農薬除草剤では、前記活性成分の含有量が1~99.9999重量%である。
【0022】
好ましくは、前記農薬除草剤の剤型は、乳剤、懸濁剤、水和剤、粉剤、粒剤、水剤、毒餌、母液および母粉(mother powder)から選ばれる少なくとも1種である。
【0023】
前記懸濁剤は、例えば乾式懸濁剤、分散性油性懸濁剤および水エマルジョン剤を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の前記農薬除草剤における補助材料は、例えば、界面活性剤、保護コロイド、粘着剤、増粘剤、チキソトロープ剤、浸透剤、キレート剤、染料、着色剤やポリマーなどを含むが、これらに限定されず、例えば、担体として機能できる従来の助剤であってもよい。
【0025】
本明細書における担体は、1つ又は複数の有機物、無機物、天然産物または合成物質を指す。これら担体は、活性成分の使用に有利であり、一般に不活性であり且つ農業的に許容され、特に施用対象の植物に許容されるものである。担体は、陶土、天然または合成ケイ酸塩、シリカ、樹脂、ワックス、固形肥料などの固体、或いは、水、アルコール類、ケトン類、石油留分、芳香族炭化水素またはワックス炭化水素、塩素化炭化水素、液化ガスなどの液体であってもよい。
【0026】
本発明の前記界面活性剤の成分は、乳化剤、分散剤または湿潤剤を含み、それらはイオン性または非イオン性のものであってもよい。例としては、ポリアクリル酸塩、リグノスルホン酸塩、フェノールスルホン酸またはナフタレンスルホン酸塩、エチレンオキシドと脂肪族アルコール又は脂肪族酸又は脂肪族アミンと置換フェノール(特にアルキルフェノール又はアリールフェノール)とのポリマー、スルホコハク酸塩、タウリン誘導体、アルコールのリン酸エステル又はポリヒドロキシエチル化フェノールリン酸エステル、アルキルスルホン酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ラウリルエーテル硫酸塩、脂肪アルコール硫酸塩、硫酸化セチルアルコール-ヘプタデカノール-オクタデシルアルコール及び硫酸化脂肪アルコールエチレングリコールエーテルのほか、ナフタレン又はナフタレンスルホン酸とフェノールとホルムアルデヒドの縮合物、ポリオキシエチレンオクチルアニソール、エトキシル化イソオクチルエーテル、オクチルフェノール又はノニルフェノール、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテル、トリブチルフェニルポリエチレングリコールエーテル、トリステアリルフェニルポリエチレングリコールエーテル、アルキルアリールポリエーテルアルコール、アルコールと脂肪アルコール/エチレンオキシドとの縮合物、エトキシル化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、エトキシ化ポリオキシプロピレン、ラウリルアルコールポリエチレングリコールエーテルアセタール、ソルビトールエステル、リグニン亜硫酸塩廃液、タンパク質、変性タンパク質、多糖類、疎水化変性澱粉、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸塩、ポリオキシアルキレート、ポリビニルアミン、ポリビニルピロリドン及びコポリマーが挙げられる。
【0027】
本発明は、前記農薬除草剤の製造方法について特に限定せず、当業者は、農薬分野の従来の製造方法を使用して、対応する試薬を製造することができる。
【0028】
本発明の前記農薬除草剤は、例えば噴霧などの方法によって作物に施用されることを含むが、これらに限定されない。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るキナゾリンジオン系化合物および当該キナゾリンジオン系化合物を含有する農薬除草剤は、HPPD系除草剤のすべての利点を有するに加えて、環境に優しく、後作の作物に対して安全であり、使用量が少なく、速効性が良好であり、殺草スペクトルが広く、安全性が高いなどの利点がある。
【0030】
特に、本発明に係るキナゾリンジオン系化合物は、トウモロコシ、小麦および水稲のうちの少なくとも1種に対して、優れた作物安全性を示す。
【0031】
本発明に係るキナゾリンジオン系化合物は、イネ科雑草、広葉雑草およびカヤツリグサ科雑草に対して非常に高い除草活性を有し、特に水稲、トウモロコシ及び小麦の栽培地に成長している雑草、例えば、水稲田のイネ科雑草(ヒエ、アゼガヤ、キシュウスズメノヒエ、エノコログサ、オニメヒシバ、タイワンアシカキ等);広葉雑草(イボクサ、オモダカ、サジオモダカ、ミズアオイ、ツユクサ、コナギ等);カヤツリグサ(ホタルイ、タマガヤツリ等)などに対しては、防除効果が顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書に開示されている範囲の端点および任意の値は、この正確な範囲または値に限定されず、これらの範囲または値は、これらの範囲または値に近い値を含むと理解されるべきである。数値範囲の場合、各範囲の端点間、各範囲の端点と個々の点値の間、及び個々の点値の間を組み合わせて、1つ以上の新しい数値範囲を取得でき、これらの数値の範囲は、本明細書で具体的に開示されていると見なされるべきである。
【0033】
本発明は、以下の物質を参照サンプルとする。
【化6】

【化7】

【化8】

【化9】
【0034】
本発明の化合物1、化合物2及び前述参照サンプルを製造する方法は、たとえば、CN104557739Aに記載の合成方法を参照することができ、置換基によって原料の種類を変更するだけでよい。
【0035】
好ましい特定の実施形態では、以下、化合物1と化合物2の製造方法を提供し、以下の製造例のいずれにも原料は分析級(Analytical Reagent)である。
【実施例
【0036】
製造例1: 下記合成経路による化合物1の合成
【化10】

化合物2aの製造: 2-メチル-6-アミノ安息香酸(化合物1a)(100mmol)を酢酸(1200ml)に溶解し、1mol/L ICl酢酸溶液を撹拌しながら滴下し、滴下終了後、撹拌しながら2h反応させ続けた。反応中に大量の固体が析出し、TLCにより反応の進行を監視し、反応終了後、ろ液を減圧下吸引ろ過して除去し、得られた固体を酢酸500mLで2回洗浄し、乾燥させ、灰白色固体を収率93%で得た。
化合物3aの製造: 化合物2a(20mmol)とピリジン30mlを窒素保護下で100mL 2口フラスコに加え、固体が完全に溶解するまで撹拌した後、反応系にイソシアン酸m-クロロフェニル(25mmol)をゆっくりと加えた。反応溶液を100℃に加熱して24時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、氷水にゆっくりと加えて30分撹拌し、得られた固体を吸引ろ過し、水洗し、エーテルで洗浄し、乾燥させ、化合物3aを収率92%で得た。
化合物4aの製造: 化合物3a(12mmol)、DMF(36mL)およびK2CO3(14mmol)を反応フラスコに加えた。撹拌しながら30min反応させた後、硫酸ジメチル(24mmol)をゆっくりと滴下し、添加終了後、室温で一晩撹拌しながら反応させた。TLCにより反応の進行を監視し、反応終了後、反応液を氷水200mLにゆっくり注いだ。30min激しく撹拌した後、得られた固体を吸引ろ過し、水洗し、エーテルで洗浄し、乾燥させ、化合物4aを収率87%で得た。
化合物5aの製造: 4a(12mmol)、CuCN(24mmol)を反応フラスコに加え、窒素保護下、乾燥DMFを60mL加え、系を加熱して還流させ、約12h反応させた。TLCにより反応の進行を監視したところ、反応終了後、DMFを減圧留去により除去し、冷却後、反応フラスコにアセトン60mLを加え、30min激しく撹拌し、反応フラスコ中の不溶性固体を濾去した。濾液を濃縮して、白色固体を粗収率85%で得た。
化合物6aの製造: 粗生成物5a(10mmol)を酢酸(29mL)、水(124mL)、及びトリフルオロメタンスルホン酸(7.3mL)に溶解し、濃硫酸98mLを撹拌しながらゆっくりと滴下した。添加終了後、温度を上げて還流させ、12h反応させ、TLCにより反応の進行を監視したところ、反応終了後、系を室温まで冷却し、氷水200mLに注ぎ、30min激しく撹拌した。得られた固体を吸引ろ過し、水洗して、乾燥させ、化合物5aを粗収率88%で得た。
化合物7aの製造: 化合物6a(116.3mmol)と再蒸留DCM(581.5ml)を1000mL反応フラスコに加え、氷水浴下、塩化オキサリル(174.5mmol)をゆっくりと滴下し、滴下終了後、15min撹拌し続けた。10滴のDMFを反応系にゆっくりと滴下し、滴下終了後、氷水浴下、固体が完全に溶解するまで、撹拌しながら2h反応させた。反応終了後、溶媒を減圧下除去した。製造した酸塩化物を乾燥DCM 200mLに溶解し、使用に準備した。
氷水浴下、1,3-ジメチル-5-ピラゾロン(174.5mmol)とDCM(350mL)を反応フラスコに加えた。トリエチルアミン(348.9mmol)をゆっくりと滴下し、滴下終了後、この温度で15min撹拌し続けた。上記酸塩化物のジクロロメタン溶液をこの反応系に素早く滴下し、滴下時間を約5minに制御した。滴下終了後、15min反応を続けた。原料が消失するまでTLCにより反応の進行を監視し、反応終了後、反応系内に固体が析出し、吸引ろ過により得られた固体をジクロロメタンに溶解し、0℃で12時間静置した。吸引ろ過によりろ渣を除去し、残留液体を減圧蒸留して、白色固体を収率92%で得た。
化合物1の製造: 化合物7a(45.7mmol)と乾燥アセトニトリル685.5mLを反応フラスコに加えた。反応液にトリエチルアミン(91.4mmol)、アセトンシアノヒドリン(1.5ml)を順次加えた。上記反応系を撹拌しながら80℃に加熱し、約30h反応させた。原料が消失するまでTLCにより反応の進行を監視したところ、反応終了後、溶媒を減圧下で留去し、得られた固体を塩化メチレンに溶解し、塩化メチレン有機相を1M HCl溶液で洗浄した。分液して有機相を収集し、有機相を乾燥させて溶剤を除去された後、メタノールで再結晶させた。収率は94%であった。
【0037】
製造例2:化合物2の製造方法
化合物1(91.3mmol)をTHF(457ml)に溶解し、トリエチルアミン(182.7mmol)、N,N-ジエチルホルミルクロリド(182.7mmol)、及びDMAP(27.4mmol)を順次加えた。昇温して5時間還流させ、反応終了後、室温まで冷却後、0℃で2時間静置し、吸引ろ過により固体を除去し、ろ液を減圧蒸留した後、得られた固体をエーテルで再結晶させ、粗生成物を得て、塩化メチレンを溶解し、ジクロロメタンの有機相を水で2回洗浄し、溶媒を減圧留去し、得られた固体をエーテルで再結晶させたところ、収率は91%であった。
上記参考サンプル中の化合物の製造方法については、前述の製造例1および製造例2を参照する。
上記参照サンプル及び本発明の化合物の特徴付けデータを表1に示す。
【0038】
【表1-1】

【表1-2】

【表1-3】

【表1-4】
【0039】
前述の参照サンプル及び本発明の化合物を用いて、温室での生物学的活性試験を行った。
【0040】
試験例1: 温室での一般的スクリーニング実験
分析天秤で一定量の原薬を秤量し、Tween-80乳化剤1重量%を含むDMFで溶解して、1重量%の母液を調製し、次に、蒸留水で希釈してさまざまな濃度のストック液とし、使用に準備した。
試験雑草: 表2を参照する。発芽後の茎・葉へのスプレーを使用する。具体的には、内径7cmの紙コップを取り、複合土壌(菜園土壌:育苗基質=1:2,v/v)を3/4まで充填した後、雑草の種子を直接播種し、0.2cmの土壌を覆い、4~5葉期まで成長させて、使用に準備した。参照サンプルと本発明の化合物を10g.a.i/mu、メソトリオンを10g.a.i/muの用量で自動スプレータワーで施用した後、試験対象の作物の葉面での薬液が乾燥された後、温室に移して栽培し(温度25~28℃,湿度70%)、30日後、結果を調べて、結果を表2に示す。
調査方法: 試験処置30日後、対象の被害症状および成長阻害の状況を目視で確認し、地上部の新鮮重量を秤量し、新鮮重量減少率(%)を算出し、新鮮重量減少率で防除効果(%)を表す。
新鮮重量減少率(%)=(対照新鮮重量-処置新鮮重量)/対照新鮮重量×100
除草活性の評価(耐性、軽度阻害、軽度白化、軽度奇形、重度奇形、完全白化、完全死亡などの症状):
グレードG: 対照と同じであり、薬物耐性があり、防除効果が10%未満である。
グレードF: 成長がわずかに影響を受け、わずかに抑制され、活性が劣り、防除効果が10%~20%未満である。
グレードE: 成長が影響を受け、わずかに白化し、活性が劣り、防除効果が20%~50%未満である。
グレードD: 成長が影響を受け、わずかに奇形し、活性が中等であり、防除効果が50%~70%未満である。
グレードC: 比較的敏感であり、ひどく奇形し、活性が比較的良好であり、防除効果が70%~90%未満である。
グレードB: 非常に敏感であり、完全に白化し、活性が良好であり、スクリーニング条件を満たし、防除効果が90%~100%未満である。
グレードA: 完全に死亡し、活性が良好であり、防除効果が100%である。
【0041】
【表2】
【0042】
上記の除草活性の試験結果から明らかなように、本発明の化合物1及び化合物2は雑草に対して優れた防除効果を有する。更に、本発明の化合物は、特にエノコログサに対して、市販のメソトリオンよりもより優れた防除効果を有する。
【0043】
化合物D1~化合物D11を比較すると、本発明の化合物に比べて、化合物D1~化合物D11は、すべて試験雑草に対する防除効果が本発明の化合物の防除効果より低く、異なる雑草に対する各化合物の防除効果は有意に異なった。特に、化合物D8及び化合物D11は、試験雑草に対してはほぼ防除効果がなかった。
【0044】
更に、本発明の化合物の構造におけるピラゾール環セグメントを置換基によって修飾し、メチル基、エチル基、プロピル基、及びシクロプロピル基を導入した場合、合成された化合物D12~D15の除草活性は、対応する原薬化合物D36~化合物D39よりもはるかに優れていた。このことからも、本発明者らが発見したN,N-ジエチルホルミル基のセグメントは、HPPD系阻害剤の除草活性の向上に対して明らかな促進効果を有することが示されていた。
【0045】
N,N-ジエチルホルミル基のセグメントの生物学的活性に対する促進効果を更に検証するために、N,N-ジエチルホルミル基のセグメントを、農薬や医薬品で広く存在し良好な生物学的活性を有する5員環または6員環を用いて環化し、化合物D16~化合物D19を合成したところ、この一連の化合物の除草活性はほとんど失われていた。これに基づいて、ホルミル基を保持しながら、例えば、アルコキシ基、3員環、4員環、5員環、及び6員環などの他の置換アルキル基を導入した。一般的スクリーニング実験では、フラン環とチオフェン環の誘導体は、除草活性が最も良好であり、本発明の化合物の除草活性に近かった。
【0046】
比較分析の結果、3員環または4員環が導入されると(化合物D21,化合物D22,化合物D23,化合物D24)、除草活性は一般に低下したが、例えばアルコキシ基などの他の置換アルキル基が導入されると、除草活性は原薬分子よりも向上し、イネ科雑草への防除効果が本発明の化合物と同等であるが、広葉雑草への防除効果が本発明の化合物よりも低かった。
【0047】
包括的な分析の結果、N,N-ジエチルホルミル基のセグメントは本発明のHPPD系阻害剤の除草活性の向上には重要な役割を果たした。
【0048】
試験例2: 温室での予備スクリーニング実験
分析天秤で一定量の原薬を秤量し、Tween-80乳化剤1重量%を含むDMFで溶解し、1重量%の母液を調製し、蒸留水で希釈してさまざまな濃度のストック液とし、使用に準備した。
鉢植え法: 試験対象については、表3、表4a、及び表4bを参照する。内径6cmの植木鉢を取り、複合土壌(菜園土壌:育苗基質=1:2,v/v)を3/4まで充填し、試験対象の種子(発芽率≧85%)を直接播種し、0.2cmの土壌を覆い、対象が約3葉期まで成長させて、使用に準備した。各化合物を自動スプレータワーで2、4、8g.a.i/muの用量で施用した後、試験対象の葉面での薬液が乾燥された後、温室に移して栽培し、30日後、結果を調べて、結果を表3、表4a、及び表4bに示す。
調査方法は、試験例1と同様であった。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4-1】
【0051】
【表4-2】
【0052】
予備スクリーニング実験の結果を分析し、一般的スクリーニング実験の結果を比較した結果、化合物D25~化合物D30は、一般的スクリーニングによる雑草に対する防除効果が比較的理想的であり、本発明の化合物の防除効果とは有意的な差異がなかった。
【0053】
更なる予備スクリーニング実験から分かるように、化合物D25~化合物D30は、用量の減少に伴い、エノコログサ及びヒエに対する防除効果が一般的に減少するのに対し、本発明の化合物1及び化合物2は、用量が減少しても、エノコログサ及びヒエに対して理想的な防除効果を有した。
【0054】
作物安全性試験の結果から明らかなように、化合物D25~化合物D30は、試験作物(インディカ、ジャポニカ)のすべてに対して明らかな薬害を示し、環境にやさしく安全である選択的除草剤として更なる開発はできなかった。
【0055】
トウモロコシ及び小麦に対する作物安全性試験の結果から明らかなように、化合物D25~化合物D30は、試験作物のすべてに対して明らかな薬害を示し、環境にやさしく安全である選択的除草剤として更なる開発はできなかった。
【0056】
一方、本発明の化合物は、水稲、トウモロコシ及び小麦の少なくとも1種に対して優れた作物安全性を示し、水稲田の主要雑草に対する防除効果に優れており、候補薬物分子として産業的開発を実施することができた。
【0057】
試験例3: 化合物2の活性の更なる試験
分析天秤で一定量の原薬を秤量し、Tween-80乳化剤1重量%を含むDMFで溶解し、1重量%の母液を調製し、蒸留水で希釈してさまざまな濃度ストック液とし、使用に準備した。
鉢植え法: 試験対象については、表5及び表6を参照する。内径6cmの植木鉢を取り、複合土壌(菜園土壌:育苗基質=1:2,v/v)を3/4まで充填し、試験雑草の種子(発芽率≧85%)を直接播種し、0.2cmの土壌を覆い、雑草が約3葉期まで成長すると、使用に準備した。各化合物を自動スプレータワーで2.5、5.0、及び10g a.i./muの用量で施用した後、葉面での薬液が乾燥された後、温室に移して栽培した。30日後、結果を調べて、結果を表5、表6に示す。
調査方法は試験例1と同様であった。
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
試験例4: 本発明の化合物安全性の更なる試験
分析天秤で一定量の原薬を秤量し、Tween-80乳化剤1重量%を含むDMFで溶解し、1重量%の母液を調製し、蒸留水で希釈してさまざまな濃度のストック液とし、使用に準備した。
鉢植え法: 試験対象については、表7を参照する。内径6cmの植木鉢を取り、複合土壌(菜園土壌:育苗基質=1:2,v/v)を3/4まで充填し、上記の試験作物の種子(発芽率≧85%)を直接播種し、0.2cmの土壌を覆い、3葉期まで成長すると、試験に供した。各化合物を自動スプレータワーで2.5、5.0、10g a.i./muの用量で施用した後、葉面での薬液が乾燥された後、温室に移して栽培した。30日後、結果を調べて、結果を表7に示す。
調査方法は試験例1と同様であった。
【0061】
【表7】
【0062】
更なる作物安全性試験から明らかなように、化合物2は、水稲に対して優れた作物安全性を示した。また、化合物2は、水稲田の主要雑草、特にアゼガヤ及び耐性ヒエに対する防除効果に優れており、水稲田の耐性ヒエの防除が難しいという問題を効果的に解決できる。
化合物の構造分析から、化合物1に基づいてN,N-ジエチルホルミル基のセグメントが導入され、化合物2が合成され、このセグメントの導入により、元の分子の生物学的活性が維持されただけでなく、元の分子の作物選択性も向上した(水稲に対して高安全性を示す)。このことから、このセグメントが非常に良い生物学的機能を持っていることを示している。
【0063】
試験例5: 化合物の安全性の更なる試験
分析天秤(0.0001g)で一定量の原薬を秤量し、Tween-80乳化剤1重量%を含むDMFで溶解し、1重量%の母液を調製し、蒸留水で希釈してさまざまな濃度のストック液とし、使用に準備した。
鉢植え法: 試験対象については、表8を参照する。内径6cmの植木鉢を取り、複合土壌(菜畑土壌:育苗基質=1:2,v/v)を3/4まで充填し、上記の試験対象の種子(発芽率≧85%)を直接播種し、0.2cmの土壌を覆い、約1~2葉期まで成長させて、試験に供した。各化合物を自動スプレータワーで2.5、5.0、10g a.i./muの用量で施用した後、葉面での薬液が乾燥された後、温室に移して栽培した。30日後、結果を調べて、結果を表8に示す。
調査方法は試験例1と同様であった。
結果を表8に示す。
【0064】
【表8】
【0065】
上記試験結果を分析した結果、本発明の化合物2は、ヒエ、エノコログサ、アゼガヤ等に対して有意な防除効果を有し、また、水稲に対しても優れた安全性を示すことがわかった。後続の作物安全性の更なる評価から、化合物2は、さまざまな品種の水稲に対して優れた作物安全性を示し、将来性が期待できることを見出した。
【0066】
試験例6:フィールド試験
作物試験: 6種類の水稲(4葉・1芯)、つまり、寧粳48、龍粳29、Y両優、黄華占、糯優2号、糯優6号を試験した。
雑草試験: 表9~10参照
試験方法: 20m2を1つの区画地として、各処置を3回繰り返し、水稲直播12日後、茎葉へ散布させ、施用48時間後、灌漑し、5~7日間保水した。
処置20日後、処置区域と防除区域を目視により観察し、試験例1と同様の調査方法により雑草防除効果と作物安全性を算出した。
実験場所: 海南三亜
結果を表9,10に示す。
【0067】
【表9】
【0068】
【表10】
【0069】
上記結果から明らかなように、5g.a.i/muの施用量では、化合物2は、4日後、ヒエに明らかな白化を引き起こし、且つアゼガヤに対して特に有効であった。
【0070】
同じ条件下で、本発明の化合物2は、試験対象の6種類の水稲品種(4葉・1芯)寧粳48、龍粳29、Y両優、黄華占、糯優2号、糯優6号に使用すると、水稲には白化が認められないため、薬害がなかった。
【0071】
前記のとおり、本発明に係る化合物は、水稲田などの作物の栽培地における雑草に対して良好な防除効果を有し、作物に対して優れた安全性を有する。
【0072】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の技術的概念を逸脱することなく、様々な技術的特徴を他の適切な方式で組み合わせることを含む、本発明の技術案に対して多くの簡単な変形を行うことができる。これらの簡単な変形および組み合わせも、本発明の開示内容と見なされるべきである。すべて本発明の特許範囲に属する。