(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】車両の変速制御装置および変速制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20220601BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20220601BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20220601BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20220601BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20220601BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20220601BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20220601BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20220601BHJP
B60W 20/30 20160101ALI20220601BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20220601BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20220601BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/42
F16H59/68
F16H63/50
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/08 900
B60W20/15
B60W20/30
B60W10/10 900
B60W10/00 102
B60W10/08
B60W10/00 104
B60W10/00 122
B60W10/10
(21)【出願番号】P 2021506171
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050036
(87)【国際公開番号】W WO2020188930
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2019051667
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 克宏
【審査官】田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-143363(JP,A)
【文献】特開2005-090560(JP,A)
【文献】特開2010-070034(JP,A)
【文献】特開2008-025634(JP,A)
【文献】特開平08-277915(JP,A)
【文献】特開2000-097331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/42
F16H 59/68
F16H 63/50
B60K 6/48
B60K 6/547
B60W 10/08
B60W 20/15
B60W 20/30
B60W 10/10
B60W 10/02
B60W 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及びモータを有する駆動源と駆動輪との間に介装され摩擦係合要素の掛け替えにより変速を行う自動変速機の変速時に、トルクフェーズ及びイナーシャフェーズの進行に応じて前記摩擦係合要素及び前記自動変速機の入力回転を制御する変速制御手段を備えた車両の変速制御装置において、
前記変速制御手段は、変速比が予め設定された閾値以上であれば前記トルクフェーズから前記イナーシャフェーズへ移行したと判定する移行判定部と、前記移行判定部により前記移行が判定されると前記モータの回転速度を目標回転速度へ向けて制御する回転速度制御部と、を備え、
前記移行判定部は、前記変速が車両のコースト走行時の車速低下に応じたオートダウンシフトであり、前記自動変速機に回転変動が入力される条件である回転変動入力条件が成立した場合には、前記変速比を前記回転変動入力条件が成立しない場合よりも平滑化するフィルタ処理を行ったうえで前記移行を判定する、
車両の変速制御装置。
【請求項2】
前記回転変動入力条件は、前記エンジンの回転速度が前記エンジンの共振回転速度領域にあることとして規定された第1回転変動入力条件である、
請求項1に記載の車両の変速制御装置。
【請求項3】
前記第1回転変動入力条件には、前記エンジンから前記自動変速機への動力伝達に関与するクラッチが係合状態であることが含まれている、
請求項2に記載の車両の変速制御装置。
【請求項4】
前記回転変動入力条件は、前記自動変速機への入力トルクが正と負との間で反転するゼロクロス近傍領域にあることとして規定された第2回転変動入力条件である、
請求項1~3の何れか1項に記載の車両の変速制御装置。
【請求項5】
前記第2回転変動入力条件には、前記車両の車速が所定車速以下の低車速状態であることが含まれている、
請求項4に記載の車両の変速制御装置。
【請求項6】
前記回転変動入力条件は、前記エンジンの回転速度が前記エンジンの共振回転速度領域にあり、かつ前記エンジンから前記自動変速機への動力伝達に関与するクラッチが係合状態であることとして規定された第1回転変動入力条件と、前記自動変速機への入力トルクが正と負との間で反転するゼロクロス近傍領域にあり、かつ前記車両の車速が所定車速以下の低車速状態であることとして規定された第2回転変動入力条件と、を含み、
前記変速制御手段は、前記第1回転変動入力条件が成立すると前記エンジンの回転速度及び前記クラッチの係合状態に応じて第1時定数を設定し、前記第2回転変動入力条件が成立すると前記車速に応じて第2時定数を設定し、前記第1時定数及び前記第2時定数のうち大きい方の時定数を用いて前記フィルタ処理を実施する、
請求項1に記載の車両の変速制御装置。
【請求項7】
エンジン及びモータを有する駆動源と駆動輪との間に介装され摩擦係合要素の掛け替えにより変速を行う自動変速機の変速時に、トルクフェーズ及びイナーシャフェーズの進行に応じて前記摩擦係合要素及び前記自動変速機の入力回転を制御する変速制御手段を備えた車両の変速制御装置において、
前記変速制御手段は、変速比が予め設定された閾値以上であれば前記トルクフェーズから前記イナーシャフェーズへ移行したと判定する移行判定部と、前記移行判定部により前記移行が判定されると前記モータの回転速度を目標回転速度へ向けて制御する回転速度制御部と、を備え、
前記移行判定部は、前記変速が前記車両のコースト走行時の車速低下に応じたオートダウンシフトであり、前記自動変速機に回転変動が入力される条件である回転変動入力条件が成立した場合には、前記閾値を前記回転変動入力条件が成立しない場合よりも大きく設定する、
車両の変速制御装置。
【請求項8】
エンジン及びモータを有する駆動源と駆動輪との間に介装され摩擦係合要素の掛け替えにより変速を行う自動変速機の変速時に、トルクフェーズ及びイナーシャフェーズの進行に応じて前記摩擦係合要素及び前記自動変速機の入力回転を制御する車両の変速制御方法において、
前記変速時に、変速比が予め設定された閾値以上であれば前記トルクフェーズから前記イナーシャフェーズへ移行したと判定し、前記モータの回転速度を目標回転速度へ向けて制御するとともに、
前記変速が車両のコースト走行時の車速低下に応じたオートダウンシフトであり、前記自動変速機に回転変動が入力される条件である回転変動入力条件が成立した場合には、前記変速比を前記回転変動入力条件が成立しない場合よりも平滑化するフィルタ処理を行ったうえで前記移行を判定する、
車両の変速制御方法。
【請求項9】
エンジン及びモータを有する駆動源と駆動輪との間に介装され摩擦係合要素の掛け替えにより変速を行う自動変速機の変速時に、トルクフェーズ及びイナーシャフェーズの進行に応じて前記摩擦係合要素及び前記自動変速機の入力回転を制御する車両の変速制御方法において、
前記変速時に、変速比が予め設定された閾値以上であれば前記トルクフェーズから前記イナーシャフェーズへ移行したと判定し、前記モータの回転速度を目標回転速度へ向けて制御するとともに、
前記変速が車両のコースト走行時の車速低下に応じたオートダウンシフトであり、前記自動変速機に回転変動が入力される条件である回転変動入力条件が成立した場合には、前記閾値を前記回転変動入力条件が成立しない場合よりも大きく設定する、
車両の変速制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としてのモータと有段式の自動変速機とを備えた車両の変速制御装置および変速制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有段式の自動変速機では、摩擦係合要素の掛け替えにより変速(変速段の切替)を行う。この変速過程では、変速によって解放される摩擦係合要素から変速によって係合される摩擦係合要素にトルク伝達を移行させるトルクフェーズと、その後、入力側(駆動源側)の回転速度を変速先の変速段に応じた目標回転速度に移行させるイナーシャフェーズと、を実施する。
【0003】
駆動源としてモータを備えると共に有段式の自動変速機を備えた車両では、制御応答性に優れているというモータを用いて駆動源側の回転速度を速やかに目標回転速度に移行させることができる。特許文献1には、トルクフェーズからイナーシャフェーズに移行すると、モータを用いて駆動源側の回転速度を目標回転速度に移行させる技術が開示されている。特許文献1では、トルクフェーズからイナーシャフェーズへの移行は、自動変速機の入力回転速度と出力回転速度との検出結果に基づいて判定することが例示されている。
【0004】
モータの高い制御応答性に起因して駆動源側の回転速度が急変すると前後加速度変化(変速ショック)を招き、特にドライバの操作によらない変速ではこの前後加速度変化が違和感を与える。特許文献1では、ドライバの操作ではなく車速変化に応じて変速が行われる場合は、入力側の回転速度を緩やかに変化させ変速ショックを抑制し、ドライバのアクセル操作に応じて変速が行われる場合は、入力側の回転速度を速やかに変化させて変速応答性を高めるようにしている。
【0005】
ところで、特許文献1に例示されるように、自動変速機の入力回転速度と出力回転速度との検出結果〔例えば検出された入出力回転速度の比である変速比(ギヤ比)〕に基づいて、トルクフェーズからイナーシャフェーズへの移行の判定を行う場合に、トルクフェーズからイナーシャフェーズへの移行を誤判定してしまうことがあることが判明した。この誤判定に基づいて、駆動用のモータの回転速度を制御すると、駆動輪に伝達されるトルク変動が発生し前後加速度変化を招き、ドライバ等に違和感を与える。
【0006】
このような誤判定は、エンジンとモータとを駆動源として備えた車両において、ドライバがアクセルペダルから足を離して比較的低速でコースト走行をしているときに生じ易い。この原因を究明したところ、上記コースト走行中に、入力回転速度が瞬間的に僅かに上昇変動し変速比の瞬間的な変動が生じることが分かった。また、入力回転速度の瞬間的な上昇は、エンジンの共振や動力伝達系のギヤのバックラッシや軸の捻じれによるガタつきが原因であると考えられる。
【0007】
つまり、エンジンは比較的低回転領域に共振回転領域を有し、エンジン回転速度がこの共振回転領域に入ると、エンジンに振動が発生する。このエンジン振動によって入力トルクが瞬間的に変動して、入力回転速度が瞬間的に一定以上変化することで、イナーシャフェーズへ移行したと誤判定してしまう場合があると考えられる。また、自動変速機への入力トルクの変動がなくても、動力伝達系のギヤのバックラッシや軸の捻じれによるガタつきにより回転速度が瞬間的に一定以上変化することで、イナーシャフェーズへ移行したと誤判定してしまう場合もあると考えられる。
【0008】
本発明は、駆動源としてのエンジン及びモータを備え有段式の自動変速機を備えた車両において、イナーシャフェーズにモータを用いて駆動源側の回転速度を速やかに移行させる制御を適切に実施することができるようにした車両の変速制御装置を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【0010】
本発明の車両の変速制御装置は、エンジン及びモータを有する駆動源と駆動輪との間に介装され摩擦係合要素の掛け替えにより変速を行う自動変速機の変速時に、トルクフェーズ及びイナーシャフェーズの進行に応じて前記摩擦係合要素及び前記自動変速機の入力回転を制御する変速制御手段を備えた車両の変速制御装置において、前記変速制御手段は、変速比が予め設定された閾値以上であれば前記トルクフェーズから前記イナーシャフェーズへ移行したと判定する移行判定部と、前記移行判定部により前記移行が判定されると前記モータの回転速度を目標回転速度へ向けて制御する回転速度制御部と、を備え、前記移行判定部は、前記変速が前記車両のコースト走行時の車速低下に応じたオートダウンシフトであり、前記自動変速機に回転変動が入力される条件である回転変動入力条件が成立した場合には、前記変速比を前記回転変動入力条件が成立しない場合よりも平滑化するフィルタ処理を行ったうえで前記移行を判定する。
【0011】
前記回転変動入力条件は、前記エンジンの回転速度が前記エンジンの共振回転速度領域にあることとして規定された第1回転変動入力条件であることが好ましい。
前記第1回転変動入力条件には、前記エンジンから前記自動変速機への動力伝達に関与するクラッチが係合状態であることが含まれていることが好ましい。
前記回転変動入力条件は、前記自動変速機への入力トルクが正と負との間で反転するゼロクロス近傍領域にあることとして規定された第2回転変動入力条件であることが好ましい。
前記第2回転変動入力条件には、前記車両の車速が所定車速以下の低車速状態であることが含まれていることが好ましい。
前記変速制御手段は、前記第1回転変動入力条件が成立すると前記エンジンの回転速度及び前記クラッチの係合状態に応じて第1時定数を設定し、前記第2回転変動入力条件が成立すると前記車速に応じて第2時定数を設定し、前記第1時定数及び前記第2時定数のうち大きい方の時定数を用いて前記フィルタ処理を実施することが好ましい。
【0012】
もう一つの本発明の車両の変速制御装置は、エンジン及びモータを有する駆動源と駆動輪との間に介装され摩擦係合要素の掛け替えにより変速を行う自動変速機の変速時に、トルクフェーズ及びイナーシャフェーズの進行に応じて前記摩擦係合要素及び前記自動変速機の入力回転を制御する変速制御手段を備えた車両の変速制御装置において、前記変速制御手段は、変速比が予め設定された閾値以上であれば前記トルクフェーズから前記イナーシャフェーズへ移行したと判定する移行判定部と、前記移行判定部により前記移行が判定されると前記モータの回転速度を目標回転速度へ向けて制御する回転速度制御部と、を備え、前記移行判定部は、前記変速が前記車両のコースト走行時の車速低下に応じたオートダウンシフトであり、前記自動変速機に回転変動が入力される条件である回転変動入力条件が成立した場合には、前記閾値を前記回転変動入力条件が成立しない場合よりも大きく設定する。
【0013】
本発明によれば、コースト走行時に、イナーシャフェーズへの移行を誤判定することが抑制され、イナーシャフェーズにモータを用いて駆動源側の回転速度を速やかに移行させる制御を適切に実施することができるようになり、ドライバ等に違和感を与える車両の前後加速度の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態にかかるハイブリッド車両のパワートレーンの構成図である。
【
図2】一実施形態にかかるハイブリッド車両の変速制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図3】一実施形態にかかるハイブリッド車両の変速制御に関する入力トルク0領域を説明する変速線図(車速-アクセル開度図)である。
【
図4】一実施形態にかかるハイブリッド車両の変速制御に関するエンジン共振発生領域を説明する変速線図(入力回転-アクセル開度図)である。
【
図5】一実施形態にかかるハイブリッド車両の変速制御を説明するフローチャートである。
【
図6】一実施形態にかかるハイブリッド車両の変速制御に用いる変速比の算出を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することや適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
[装置構成]
図1に示すように、本実施形態にかかる車両は、駆動源1としてエンジン2及びモータ/ジェネレータ(単に、モータともいう)3を装備したハイブリッド車両である。本車両のパワートレーンでは、駆動源1と駆動輪5との間に、摩擦係合要素の掛け替えにより変速を行う有段式の自動変速機4が介装されている。
【0017】
モータ/ジェネレータ3は、ロータに永久磁石を用いた同期型モータからなり、力行運転時にモータとして作動するとともに、回生運転時にジェネレータ(発電機)としても作動するものであり、エンジン2と自動変速機4との間に介装される。
【0018】
このモータ3とエンジン2との間に、第1クラッチ6が介装されており、この第1クラッチ6がエンジン2とモータ3との間を切り離し可能に結合している。第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的に変更可能な構成であり、例えば、比例ソレノイドバルブ等でクラッチ作動油圧を連続的に制御することで伝達トルク容量を変更可能な常閉型の乾式単板クラッチあるいは湿式多板クラッチからなる。
【0019】
また、モータ3と自動変速機4との間には、第2クラッチ7が介装されており、この第2クラッチ7がモータ3と自動変速機4との間を切り離し可能に結合している。第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様に、伝達トルク容量を連続的に変更可能な構成であり、例えば比例ソレノイドバルブでクラッチ作動油圧を連続的に制御することで伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチあるいは乾式単板クラッチからなる。
【0020】
自動変速機4は、複数の摩擦係合要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に係合したり解放したりすることで、これら摩擦係合要素の係合・解放の組み合わせにより、複数の前進段(ここでは、前進7速)及び後進1速等の変速段を実現するものである。これにより、自動変速機4は、入力軸4aから入力された回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸4bに出力する。この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8を介して左右の駆動輪5へ分配して伝達される。
【0021】
本車両のパワートレーンでは、モータ3の動力のみを駆動源として走行する電気自動車走行モード(EVモード)と、エンジン2をモータ3とともに駆動源として走行するハイブリッド走行モード(HEVモード)と、を選択可能である。
【0022】
なお、本車両のパワートレーン等を統合制御するために統合コントローラとして電子制御ユニット(ECU)10が備えられ、エンジン2を制御するためにエンジン制御ユニット(エンジンCU)20が備えられ、モータ3を制御するためにモータ制御ユニット(モータCU)30が備えられ、自動変速機4を制御するために変速制御手段としての機能を有する自動変速機制御ユニット(ATCU)40が備えられる。これらの各制御ユニット10,20,30,40は、図示しないが、CPUと、RAM・ROMからなる記憶装置と、入力インターフェースと、出力インターフェースと、これらを相互に接続するバス等から構成される。
また、ECU10またはATCU40によって制御され、自動変速機4内の摩擦係合要素や第1クラッチ6,第2クラッチ7の解放や係合を油圧によって制御するために種々のバルブを装備した油圧回路からなるコントロールバルブ50が備えられる。
【0023】
ECU10は、車両のスロットル開度(負荷)Tvoや車速Vsp等の車両運転状態にかかる検出情報に基づいて、EVモード又はHEVモードを選択し、制御ユニット20,30及びコントロールバルブ50を通じて、選択した走行モードに制御する。ECU10は、例えば、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時には、EVモードを選択する。このEVモードでは、エンジン2からの動力が不要なので第1クラッチ6を解放し、かつ第2クラッチ7を係合させるととともに自動変速機4を動力伝達状態にする。この状態でモータ3のみによって車両の走行がなされる。
【0024】
また、ECU10は、例えば高速走行時や大負荷走行時などではHEVモードを選択する。このHEVモードでは、第1クラッチ6及び第2クラッチ7をともに係合し、自動変速機4を動力伝達状態にする。この状態では、エンジン2からの出力回転およびモータ3からの出力回転の双方が変速機入力軸4aに入力されることとなり、双方によるハイブリッド走行がなされる。
【0025】
モータ/ジェネレータ3は、車両減速時に制動エネルギを回生して回収できるほか、HEVモードでは、エンジン2の余剰のエネルギを電力として回収することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、EVモードからHEVモードへ遷移するときには、第1クラッチ6を係合し、モータ3のトルクを用いてエンジン2の始動が行われる。また、このとき第1クラッチ6の伝達トルク容量を可変制御してスリップ係合させることにより、円滑なモードの遷移が可能となっている。
【0027】
また、本実施形態では、第2クラッチ7が、モータ/ジェネレータ3と自動変速機4との間に介在しているが、第2クラッチ7を自動変速機4とディファレンシャルギヤ装置8との間に介在させてもよい。また、第2クラッチ7として、自動変速機4内にある既存の前進変速段選択用の摩擦係合要素または後退変速段選択用の摩擦係合要素などを流用してもよい。
【0028】
有段の自動変速機4の変速(変速段の切替)は、変速制御手段としてのATCU40によって行われる。
ATCU40は、記憶装置に記憶されたアップシフトマップ及びダウンシフトマップを用いて、車両のスロットル開度(負荷)Tvo,車速Vsp等に基づいて、アップシフト又はダウンシフトといった変速を行う。なお、アップシフトマップ及びダウンシフトマップは、EVモードとHEVモードとで個別に設定されている。
【0029】
また、変速を行うために、ATCU40には、スロットル開度センサ,車速センサ,入力回転センサ,出力回転センサ等の各センサから検出情報が入力される。なお、入力回転センサは自動変速機4への入力回転速度Ninを検出するもので、例えば有段の自動変速機4の上流部に位置するトルクコンバータ(図示略)のタービン回転速度を検出するタービン回転センサが適用される。出力回転センサは自動変速機4からの出力回転速度Noutを検出するもので、例えば出力軸4bの回転速度を検出する。
【0030】
変速の際には、トルクフェーズとイナーシャフェーズとが順に進行する。つまり、ATCU40は、変速の際には、解放側摩擦係合要素を解放しながら係合することによって摩擦係合要素の掛け替えを行うが、このとき、まず、変速機入力回転速度が変化しないで出力軸トルクのみが変化するトルクフェーズが進行し、次に、駆動源系の慣性力(イナーシャ)の変化によって変速機入力回転速度が変化するイナーシャフェーズが進行する。ATCU20は、このようなトルクフェーズ及びイナーシャフェーズの進行に応じて摩擦係合要素を制御するとともに自動変速機4の入力回転を制御する。
【0031】
なお、トルクフェーズでは、解放側摩擦係合要素のトルク容量(解放トルク)と係合側摩擦係合要素のトルク容量(係合トルク)との総容量を制御することで車両の目標駆動力を実現する。また、イナーシャフェーズでは、解放トルクをゼロとし、係合トルクをコントロールすることで目標駆動力を実現する。
【0032】
ATCU40は、変速時に、トルクフェーズからイナーシャフェーズへの移行を判定する移行判定部41を備え、移行判定部41がトルクフェーズからイナーシャフェーズへの移行を判定するまでは、トルクフェーズに応じた解放トルクと係合トルクとの制御を行い、移行判定部41がトルクフェーズからイナーシャフェーズへの移行を判定したら、イナーシャフェーズに応じた係合トルクの制御を行う。
【0033】
また、ATCU40は、移行判定部41がトルクフェーズからイナーシャフェーズへの移行を判定したら、モータ3の回転速度を目標回転速度へ向けて制御する回転速度制御部42を備えている。イナーシャフェーズでは自動変速機4への入力回転速度を目標回転速度へ移行させるが、エンジン2よりも応答性の速いモータ3の回転速度を制御することにより入力回転速度を速やかに目標回転速度に移行することが可能になる。
【0034】
移行判定部41は、変速比Grが各変速段毎に予め設定された閾値Grs以上であればトルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行したと判定する。トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行すると、変速比が、変速前の変速段の値から変速先の変速段の値への移行を開始するため、変速比の変化が発生する。したがって、この変速比の変化を検出することにより、トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行したことを判定できる。
【0035】
なお、変速比Grは、入力回転センサで検出された自動変速機4の入力回転速度Ninと出力回転センサで検出された自動変速機4の出力回転速度Noutとから算出される(Gr=Nin/Nout)。
【0036】
また、種々の変速態様においてトルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行すると一定以上の変速比Grが発生するので、閾値Grsはこのように発生する変速比の大きさよりも小さい値に設定される。ただし、入力回転速度Ninや出力回転速度Noutの検出値は入力回転センサや出力回転センサが正常であっても極めて微小な変動を伴うので、閾値Grsが小さ過ぎると、トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行してないにもかかわらず移行したものと誤判定するおそれがある。そこで、閾値Grsはこれを回避しうるように一定以上の値に設定される。
【0037】
しかし、自動変速機4の入力回転速度Ninや出力回転速度Noutは様々な要因で瞬間的に変動する場合があり、この変動によりイナーシャフェーズへ移行していないにもかかわらず、変速比Grが閾値Grs以上になってイナーシャフェーズへ移行したものと誤判定する場合が発生する。そこで、本装置では、制御周期毎に算出される変速比Grをフィルタ処理部41Bによって平滑化したフィルタ処理値FGrによって移行を判定する。
【0038】
図2は移行判定部41による移行判定にかかる制御ブロック図である。
図2に示すように、移行判定部41は、変速比Grをフィルタ処理してフィルタ処理値FGrを出力するフィルタ処理部41Bと、出力された変速比のフィルタ処理値FGrを閾値Grsと比較して、フィルタ処理値FGrが閾値Grs以上になったか否かからイナーシャフェーズへの移行を判定する比較判定部41Aとを備えている。
【0039】
図2に示すように、制御周期毎に変速比Grが入力されると、フィルタ処理部41Bでは、次式(A)に示すようにフィルタ処理を行ってフィルタ処理値FGrを算出する。
FGrn=C・Gr+(1-C)・FGrn-1 ・・・(A)
ただし、Cはフィルタ係数であり、時定数τと反比例する〔C∝(1/τ)〕。
時定数τを大きく設定すればフィルタ係数Cは小さくなり、変速比Grの平滑化が強められ、時定数τを小さく設定すればフィルタ係数Cは大きくなり、変速比Grの平滑化が弱められる。
【0040】
自動変速機4の入力回転速度Ninや出力回転速度Noutが瞬間的に変動するのは、ドライバがアクセルペダルから足を離して比較的低速でコースト走行をしているときに自動変速機4に入力される回転変動がある。この回転変動には、エンジン2の共振に起因するものと、自動変速機4のトルク伝達状態が自動変速機4への入力トルクが正と負との間で反転するゼロクロス近傍領域にあることに起因するものと、がある。
【0041】
図4は横軸が自動変速機4の入力回転速度Ninで縦軸がアクセル開度Tvoのグラフ上にダウンシフト変速線及びエンジン共振発生領域を記載したものである。図中、2-1EはEV走行時の2速から1速へのシフトダウン線を示し、2-1HはHEV走行時の2速から1速へのシフトダウン線を示す。同様に、3-2EはEV走行時の3速から2速へのシフトダウン線を示し、3-2HはHEV走行時の3速から2速へのシフトダウン線を示す。4-3E,4-3H等も同様である。
【0042】
図4に示すように、エンジン2は、比較的低回転領域に共振回転速度領域を有しており、エンジン2の回転速度が共振回転速度領域にあるとエンジン2が共振し、この振動によってエンジン2の回転速度が変動する。エンジン2の動力が自動変速機4に伝達される状態になっている(つまり、第1クラッチ6及び第2クラッチ7が共に動力伝達状態にある)と、エンジン2の回転速度の変動は自動変速機4の入力回転速度Ninの変動を招き、変速比Grが瞬間的に変動し、閾値Grsを上回ることがある。
【0043】
ゼロクロス近傍領域とは、コースト走行時において自動変速機4による伝達トルクが0付近にある領域であり、このゼロクロス近傍領域にあると、車体振動や駆動輪が受ける路面反力などの外力が動力伝達系に僅かに入力されるだけで、モータ3の出力トルクの変動がなくても、動力伝達系のギヤのバックラッシや軸の捻じれによるガタつきに起因して回転速度が瞬間的に大きく変動することがある。この場合、自動変速機4の入力回転速度Ninと出力回転速度Noutとの相対変動を招くので、低車速時(低変速時)には、変速比Grが瞬間的に一定以上変動し、閾値Grsを上回ることがある。
【0044】
図3は横軸が車速Vspで縦軸がアクセル開度Tvoのグラフ上にダウンシフト変速線及び入力トルク0クロスによるガタ発生領域(ゼロクロス近傍領域)を記載したものである。図中、2-1E,2-1H等は
図4と同様の変速線である。
図3に示すように、ゼロクロス近傍領域は低速段のシフトダウン線(ここでは、2-1E,2-1H)を含む車速領域にあり、中高速段のシフトダウン線の車速領域は含まない。
【0045】
そこで、本装置では、エンジン2の回転速度(エンジン回転数Ne)がエンジン2の共振回転速度領域にあることを第1回転変動入力条件として規定しており、第1回転変動入力条件が成立したら通常時(条件不成立時)よりも時定数τを大きく設定して、変速比Grの平滑化を強めるようにしている。また、このときの時定数を第1時定数τ1とし、第1時定数τ1を設定する機能を第1時定数設定部41cとする。
【0046】
また、本装置では、車両の走行状態がゼロクロス近傍領域にあることを、車両がコースト走行中であり且つ車速Vspが閾値以下であることから判定し、これらの条件を、第2回転変動入力条件として規定しており、第2回転変動入力条件が成立したら通常時(条件不成立時)よりも時定数τを大きく設定して、変速比Grの平滑化を強めるようにしている。また、このときの時定数を第2時定数τ2とし、第2時定数τ2を設定する機能を第2時定数設定部41dとする。
【0047】
なお、エンジン2の共振による入力回転速度Ninの変動は,入力回転速度Ninが低いほど、また、エンジン2の回転変動トルクを伝達する第1クラッチ6,第2クラッチ7の伝達トルク容量が大きいほど大きくなるため、第1時定数設定部41cでは、入力回転速度Ninが低いほど及び第1クラッチ6,第2クラッチ7の係合用油圧Pclが高いほど、第1時定数τ1を大きな値に設定する。
【0048】
また、車両の走行状態がゼロクロス近傍領域にある場合、車速Vspが低いほど入力トルク0クロスによるガタつきが大きくなりやすいので、第2時定数設定部41dでは、車速Vspが低いほど第2時定数τ2を大きな値に設定する。
【0049】
フィルタ部41eには、第1時定数τ1と第2時定数τ2とのうち値の大きい方が入力されて、フィルタ処理が行われえる。
なお、第1回転変動入力条件も第2回転変動入力条件も成立しない場合には、第1時定数τ1,第2時定数τ2は最小値に設定される。
【0050】
[作用,効果]
本実施形態にかかる車両の変速制御装置は、上述のように構成されるので、例えば
図5,
図6のフローチャートに示すように、自動変速機4の変速時(オートダウンシフト時)に、トルクフェーズからイナーシャフェーズへの移行が判定されて自動変速機4の入力回転が制御される。
なお、
図5,
図6に示す処理は所定の制御周期で繰り返し実施される。また、
図5,
図6に示すFは制御フラグであり、F=0は変速前状態を示し、F=1は変速中のトルクフェーズの状態を示し、F=2は変速中のイナーシャフェーズの状態を示す。
【0051】
図5に示すように、各種検出情報を取得すると(ステップS10)、フラグFが0(変速前状態)にあるか否かを判定する(ステップS20)。フラグFが0であれば変速指令があるか否か(車両の走行状態が変速線を横切ったか否か)を判定する(ステップS30)。変速指令があればフラグFを1にセットし(ステップS40)、変速制御(トルクフェーズ)を実施する(ステップS60)。変速指令がなければリターンする。
【0052】
なお、ステップS20でNo判定されると、ステップS50でフラグFが1(トルクフェーズ状態)にあるか否かを判定する。ここで、フラグFが1であれば、ステップS60に進んで変速制御(トルクフェーズ)を実施する。
【0053】
ステップS60の変速制御を実施している際に、変速比FGrを算出し(ステップS70)、算出した変速比FGrを閾値Grsと比較し、変速比FGrが閾値Grs以上であるか否かを判定する(ステップS80)。変速比FGrが閾値Grs以上であれば、イナーシャフェーズに移行したと判定し、フラグFを2にセットし(ステップS90)、イナーシャフェーズの制御として、モータ3を用いて変速先変速段に応じた目標値(目標入力回転速度)Nintに向けて入力回転速度Ninの制御を実施する(ステップS100)。
【0054】
これにより、応答性に優れたモータ3を用いて入力回転速度Ninを目標入力回転速度に速やかに到達させることが可能になる。
そして、入力回転速度Ninが目標値Nintに達したか否かが判定され(ステップS110)、入力回転速度Ninが目標値Nintに達したことが判定されたら、フラグFを0にセットし(ステップS120)、変速制御を終了する。
【0055】
本装置では、上記の変速比FGrの算出(ステップS70)を、
図6に示すように行う。
つまり、第1時定数設定部41cで、コースト走行時に入力回転速度Nin及び第1クラッチ6,第2クラッチ7の係合用油圧Pclに基づいて第1時定数τ1を設定する(ステップS71)。さらに、第2時定数設定部41dで、コースト走行時に車速Vspに基づいて第2時定数τ2を設定する(ステップS72)。これら第1時定数τ1及び第2時定数τ2のうち大きい方の時定数を選択し(ステップS73)、この時定数を用いて変速比Grをフィルタ処理して(ステップS74)、このフィルタ処理した変速比FGrを出力する(ステップS75)。
【0056】
本装置によれば、コースト走行時に、イナーシャフェーズへの移行を誤判定することが抑制され、ナーシャフェーズにモータ3を用いて駆動源側の回転速度を速やかに移行させる制御を適切に実施することができるようになり、ドライバ等に違和感を与える車両の前後加速度の発生が抑制される。
【0057】
つまり、エンジン2は共振回転領域を有し、エンジン回転速度がこの共振回転領域に入ると、エンジンに振動が発生し、この振動によって入力トルクが瞬間的に変動して、入力回転速度が瞬間的に一定以上変化するため、変速比Grも一定以上変化することがあるが、このときには、フィルタ処理の時定数が大きくされるため、変速比Grが瞬間的に一定以上変化しても判定に用いる変速比FGrの変化は僅かになりイナーシャフェーズへ移行したと誤判定してしまうことが防止される。
【0058】
また、自動変速機4のトルク伝達状態が自動変速機4への入力トルクが正と負との間で反転するゼロクロス近傍領域にあると、動力伝達系に僅かな外力の入力があるだけで、変速比Grが瞬間的に一定以上変化することがあるが、このときにも、フィルタ処理の時定数が大きくされるため、変速比Grが瞬間的に一定以上変化しても判定に用いる変速比FGrの変化は僅かになりイナーシャフェーズへ移行したと誤判定してしまうことが防止される。
【0059】
以上、実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でかかる実施形態を適宜変更して実施することができる。
例えば、上記実施形態では、自動変速機4の入力回転速度Ninや出力回転速度Noutが瞬間的に変動する要因として、コースト走行中のエンジン2の共振に起因するものと、コースト走行中のゼロクロス近傍領域にあることとの両方に着目したが、いずれか一方のみに着目してもよい。
【0060】
また、第1時定数τ1及び第2時定数τ2を可変値にしているが、これらを適宜の固定値にしてもよい。
また、上記実施形態では、フィルタ処理の時定数を大きくすることで、誤判定を防止しているが、回転変動入力条件が成立(第1回転変動入力条件もしくは第2回転変動入力条件の少なくとも一方が成立)した場合に、変速比Grの閾値Grsを大きくしても、誤判定を防止することができる。