IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司の特許一覧

特許7082716正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置
<>
  • 特許-正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置 図1
  • 特許-正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置 図2
  • 特許-正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置 図3
  • 特許-正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置 図4
  • 特許-正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置 図5
  • 特許-正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置 図6
  • 特許-正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20220601BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20220601BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220601BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M10/054
H01M4/525
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021533726
(86)(22)【出願日】2020-01-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 CN2020070136
(87)【国際公開番号】W WO2020143532
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-06-12
(31)【優先権主張番号】201910026396.X
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】ファン リ ティン
(72)【発明者】
【氏名】リョウ チィェン
(72)【発明者】
【氏名】リャン チァン ドウ
(72)【発明者】
【氏名】グゥオ イォン シァン
(72)【発明者】
【氏名】リン ウェン グァン
(72)【発明者】
【氏名】ラン ジィア ディェン
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-206925(JP,A)
【文献】特開2015-176678(JP,A)
【文献】特開2017-45600(JP,A)
【文献】特表2018-518806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式 Na0.67Mn2±δを満たし、
前記化学式において、Aは、Co、Ni及びCrから選択される一種類又は複数種類であり、Bは、Mg、Al、Ca、Ti、Cu、Zn及びBaから選択される一種類又は複数種類であり、
0.6<x<1、0<y<0.1、0.6<x+y<0.8、z>0、x+y+z=1、0≦δ≦0.1であり、且つ、xが下記式で与えられる、正極活物質。
【数5】
【請求項2】
前記正極活物質は、1≦z/y≦12を満たし、好ましくは、3≦z/y≦9である、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記正極活物質の単位格子パラメータは、3.8510≦c/a≦4.9000を満たし、好ましくは、3.8602≦c/a≦3.8800である、
請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記正極活物質の平均粒径D50は、3μm~20μmであり、好ましくは、5μm~12μmである、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記正極活物質の比表面積は、0.01m/g~6m/gであり、好ましくは、0.5m/g~4m/gである、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記正極活物質は、六方晶の結晶構造を有する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項7】
12mPaの圧力下での前記正極活物質の粉体抵抗率は、20Ω・cm~10000Ω・cmであり、好ましくは、20Ω・cm~1000Ω・cmである、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記正極活物質のタップ密度≧1.5g/cmであり、好ましくは、1.5g/cm~3.0g/cmであり、及び/又は、
8トンの圧力下での前記正極活物質の圧縮密度≧3g/cmであり、好ましくは、3.5g/cm~5g/cmである、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記正極活物質の形態は、多角形のシート状構造であり、好ましくは、六角形シート状構造である、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項10】
ナトリウム前駆体、酸化マンガン、Aの酸化物及びBの酸化物を混合した後、焼成を経て、正極活物質を取得する工程を含み、
ここで、前記正極活物質は、化学式 Na0.67Mn2±δを満たし、前記化学式において、Aは、Co、Ni及びCrから選択される一種類又は複数種類であり、Bは、Mg、Al、Ca、Ti、Cu、Zn及びBaから選択される一種類又は複数種類であり、0.6<x<1、0<y<0.1、0.6<x+y<0.8、z>0、x+y+z=1、0≦δ≦0.1であり、且つ、xが下記式で与えられる、正極活物質の調製方法。
【数6】
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極シートを備える、ナトリウムイオン電池。
【請求項12】
請求項11に記載のナトリウムイオン電池を備える、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年01月11日に提出された発明の名称が「正極活物質、正極シート及びナトリウムイオン電池」である中国特許出願201910026396.Xの優先権を請求し、当該出願の全ての内容は、本文に援用される。
【0002】
本発明は、エネルギー貯蔵装置の技術分野に属し、具体的に、正極活物質及びその調製方法、ナトリウムイオン電池、並びに、ナトリウムイオン電池を備えた装置に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、リチウムイオン電池が動力電池の中核的な地位を占める一方で、リチウムイオン電池は、大きな挑戦に面しており、例えば、リチウム資源の不足、上流の材料価格の上昇、サイクル回収技術の開発の遅れ、古い電池のサイクル回収利用率の低下等の問題がある。ナトリウムイオン電池は、ナトリウムイオンの正負極間の脱離過程を利用して充放電を実現でき、且つ、ナトリウム資源の埋蔵量がリチウムよりはるかに豊富で、分布がより広く、コストがリチウムよりはるかに低いため、ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池に代わる可能性が高い新世代の電気化学システムとなっている。
【0004】
リチウムイオン電池と同様に、正極活物質は、ナトリウムイオン電池の性能に影響を与える重要な要素である。そのため、正極活物質の性能を如何に向上させるかが、ナトリウムイオン電池の研究開発において重要な課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、酸化物、フッ化物、硫化物、リン酸塩、ピロリン酸塩、金属有機骨格/金属ヘキサシアニド、有機化合物等のような広く研究される各種類の正極活物質において、層状構造を有する遷移金属酸化物正極活物質は、比較的に高い理論容量、比較的に高い密度及び材料調製の容易性を有するため、極めて潜在性の高いナトリウムイオン電池正極活物質となる。層状構造の遷移金属酸化物は、商業化の観点から、埋蔵量が豊富で安価で入手が容易な活性遷移金属、例えばマンガン等が好ましいが、このような低コストの一元系遷移金属酸化物正極活物質は、容量性能及び平均電圧が低く、サイクル寿命が短いため、商業化性能の需要を満たすことが困難である。
【0006】
本発明者らは、正極活物質の性能を向上させて、比較的に高い容量性能と平均電圧とを有するとともに、比較的に高いサイクル性能を両立させることを目的として、多くの検討を行い、比較的に高い容量性能と平均電圧とサイクル性能とを両立できるナトリウムイオン電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
よって、本発明の第1態様は、正極活物質を提供し、当該正極活物質は、
化学式Na0.67Mn2±δを満たし、化学式において、Aは、Co、Ni及びCrから選択される一種類又は複数種類であり、Bは、Mg、Al、Ca、Ti、Cu、Zn及びBaから選択される一種類又は複数種類であり、0.6<x<1、0<y<0.1、0.6<x+y<0.8、z>0、x+y+z=1、0≦δ≦0.1であり、且つ、xが下記式で与えられる。
【数1】
【0008】
本発明の第2態様は、正極活物質の調製方法を提供し、当該調製方法は、ナトリウム前駆体、酸化マンガン、Aの酸化物及びBの酸化物を混合した後、焼成を経て、正極活物質を取得する工程を含み、ここで、前記正極活物質は、化学式 Na0.67Mn2±δを満たし、前記化学式において、Aは、Co、Ni及びCrから選択される一種類又は複数種類であり、Bは、Mg、Al、Ca、Ti、Cu、Zn及びBaから選択される一種類又は複数種類であり、0.6<x<1、0<y<0.1、0.6<x+y<0.8、z>0、x+y+z=1、0≦δ≦0.1であり、且つ、xが下記式で与えられる。
【数2】
【0009】
本発明の第3態様は、ナトリウムイオン電池を提供し、当該ナトリウムイオン電池は、本発明の第1態様に記載の正極活物質を含む正極シートを備える。
【0010】
本発明の第4態様は、本発明の第3態様に記載のナトリウムイオン電池を備える装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、従来技術と比較して、少なくとも以下の有益な効果を有する。
本発明により提供される正極活物質は、化学式Na0.67Mn2±δを満たし、ここで、電気化学活性の遷移金属Aと非電気化学活性の金属Bとがドープされており、且つ、正極活物質中の各元素の配合比が特定範囲内に制御されることにより、正極活物質に比較的に高い容量性能と平均電圧とサイクル性能とを両立させる。当該正極活物質を用いたナトリウムイオン電池においても、比較的に高い容量性能と平均電圧とサイクル性能とを両立させることができる。
【0012】
本発明の装置は、本発明により提供されるナトリウムイオン電池を備えているため、少なくとも前述のナトリウムイオン電池と同じ利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下、本発明の実施例の技術案をより明確に説明するために、本発明の実施例において必要とされる図面について簡単に説明する。以下に記載の図面は、本発明の一部の実施例のみであることが明らかであり、当業者であれば、創造的な労力が無くても、図面に基づいて他の図面を得ることができる。
【0014】
図1】本発明の実施例1に係る正極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】ナトリウムイオン電池の一実施形態の模式図である。
図3図2の分解図である。
図4】電池モジュールの一実施形態の模式図である。
図5】電池パックの一実施形態の模式図である。
図6図5の分解図である。
図7】ナトリウムイオン電池を電源として用いる装置の一実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願の発明の目的、技術案及び有益な技術的効果をより明確にするために、特定の実施例と組み合わせて、本発明を詳細に説明する。本明細書に記載の実施例が単に本発明を解釈するためのものであり、本発明を限定するものではないことは、理解すべきである。
【0016】
簡単のために、本明細書では幾つかの数値範囲のみを明確に開示する。ただし、任意の下限は、任意の上限と組み合わせて明記しない範囲を形成してもよく、任意の下限は、他の下限と組み合わせて明記しない範囲を形成してもよく、同じく、任意の上限は、任意の他の上限と組み合わせて明記しない範囲を形成してもよい。また、明記してはいないが、範囲の端点間の各点又は単一値は、いずれも当該範囲に含まれる。したがって、各点又は単一値は、それ自体の下限又は上限として、任意の他の点又は単一値と組み合わせて、或いは、他の下限又は上限と組み合わせて、明記しない範囲を形成してもよい。
【0017】
本明細書の記載において、特に説明しない限り、「以上」、「以下」は、本数を含むものとし、「一種類又は複数種類」のうち「複数種類」は、2つ以上を意味するものとする。
【0018】
本願の上記の発明内容は、本願に開示の全ての実施形態又は全ての実現形態を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示する。本願全体の複数の箇所で、様々な組み合わせで使用できる一連の実施例によってガイダンスが提供されている。それぞれの例において、列挙は代表的なグループとしてのみ行われ、網羅的であると解釈されるべきではない。
【0019】
(正極活物質)
【0020】
先ず、本発明の第1態様の正極活物質を説明する。正極活物質は、化学式 Na0.67Mn2±δを満たし、化学式において、Aは、Co、Ni及びCrから選択される一種類又は複数種類であり、Bは、Mg、Al、Ca、Ti、Cu、Zn及びBaから選択される一種類又は複数種類であり、0.6<x<1、0<y<0.1、0.6<x+y<0.8、z>0、x+y+z=1、0≦δ≦0.1であり、且つ、xが下記式で与えられる。
【数3】
【0021】
本発明により提供される正極活物質には、電気化学的に活性な遷移金属Aがドープされており、これにより、正極活物質の空気安定性を向上でき、正極活物質の初充電時の容量損失を効果的に低減することができる。また、充放電過程において、遷移金属Aの電子移動は、ナトリウムイオンの脱離/挿入に有効な電荷補償を提供し、正極活物質の平均電圧及び比容量を効果的に向上させることができる。好ましくは、Aは、Niを含むか、又は、Niである。
【0022】
正極活物質には非電気化学的に活性な金属Bがさらにドープされており、これにより、充放電サイクルにおける正極活物質の構造安定性及び容量保持率を効果的に向上でき、正極活物質のサイクル性能が大幅に改善される。好ましくは、Bは、Mg、Ca、Ti、Cu、Zn及びBaから選択される一種類又は複数種類である。より好ましくは、Bは、Mg、Ti、Cu、Zn及びBaから選択される一種類又は複数種類である。
【0023】
正極活物質は、化学式 Na0.67Mn2±δを満たし、ここで、各元素の配合比を特定の範囲内に制御することにより、正極活物質の化学組成欠陥を少なくし、材料中の不純物相を低減することができ、特に、遷移金属Aと金属Bとの相乗作用を十分に発揮して、正極活物質のサイクル性能及び容量性能を効果的に改善することができる。また、xが下記式(数4)で与えられるため、Mnの電気化学的活性を保証する条件下で、正極活物質のJohn-Teller効果による格子歪みも効果的に抑制し、正極活物質の構造をより安定化させることができ、マンガンイオンの溶出による正極及び負極へのダメージを低減するとともに、ナトリウムイオン電池が低い内部抵抗を有することを確保することができ、正極活物質のサイクル性能及び容量性能をさらに向上させる。
【数4】
【0024】
したがって、本発明の正極活物質は、比較的に高い容量性能、平均電圧及びサイクル性能を両立することができる。
【0025】
正極活物質は、0.6<x<1を満たす。選択可能に、x≧0.61、≧0.62、≧0.63、≧0.64、≧0.65、又は、≧0.67である。さらに、xは、≦0.98、≦0.96、≦0.94、≦0.92、≦0.90、≦0.88、≦0.85、≦0.83、≦0.80、≦0.78、≦0.75、≦0.73、≦0.72、又は、≦0.70であってもよい。好ましくは、0.65≦x≦0.9である。Mnの配合比を適正な範囲内にすることは、正極活物質の容量性能、平均電圧及びサイクル性能をさらに向上させるのに有利である。
【0026】
正極活物質は、0<y<0.1を満たす。選択可能に、y≧0.005、≧0.01、≧0.02、≧0.03、≧0.035、≧0.04、≧0.045、又は、≧0.05である。さらに、yは、≦0.095、≦0.09、≦0.08、≦0.07、≦0.065、≦0.06、≦0.055、≦0.05、≦0.045、又は、≦0.04であってもよい。好ましくは、0.03≦y≦0.07である。遷移金属Aの配合比を適正な範囲内にすることは、正極活物質に比較的に高い平均電圧を持たせるとともに、正極活物質の容量性能及びサイクル性能をさらに向上させるのに有利である。
【0027】
幾つかの実施例において、正極活物質は、1≦z/y≦12を満たす。正極活物質における遷移金属Aと金属Bとの配合比を適正な範囲内に制御することにより、遷移金属Aと金属Bとの相乗作用がよりよく発揮され、単位格子パラメータc/aが増大し、金属-酸素(M-O)結合が強化されるため、正極活物質の結晶構造が相対的に大きい層間距離を有し、ナトリウムイオンの層間での脱離/挿入がより容易になり、よって、正極活物質の充放電比容量を向上させることができる。同時に、z/yが適切であるため、正極活物質は、より安定的な構造及びより高いサイクル容量保持率を有する。
【0028】
本発明の幾つかの実施形態において、z/yは、≧1、≧2、≧2.3、≧2.7、≧3、≧3.2、≧3.5、≧4、≧4.5、≧5、≧5.5、≧6、又は、≧6.5であってもよい。さらに、z/yは、≦12、≦11.5、≦11、≦10.5、≦10、≦9.5、≦9、≦8.5、≦8、≦7.5、≦7、≦6.5、又は、≦6であってもよい。
【0029】
好ましくは、正極活物質は、3≦z/y≦9を満たす。これにより、正極活物質の充放電比容量及びサイクル容量保持率をさらに向上させることができる。
【0030】
幾つかの実施形態において、正極活物質の単位格子パラメータc/aは、3.8510≦c/a≦4.9000であることが好ましい。正極活物質の単位格子パラメータc/aが適正な範囲内であれば、M-O結合を強くすることができ、正極活物質の構造がより安定化され、これは、正極活物質のより良好なサイクル性能で表現される。同時に、正極活物質の層間距離が増大され、ナトリウムイオンの層間での脱離/挿入がより容易になり、正極活物質の充放電比容量の向上に有利である。適切な範囲では、単位格子パラメータc/aが大きいほど、M-O結合が強くなり、正極活物質の構造が安定するため、サイクル性能が向上される。
【0031】
より好ましくは、正極活物質の単位格子パラメータc/aは、3.8602≦c/a≦3.8800である。この正極活物質は、比較的に高いサイクル特性及び容量特性を有する。
【0032】
幾つかの実施形態において、正極活物質は、六方晶系の結晶構造を有する。六方対称性結晶構造を有する正極活物質は、その層状特性がより顕著であるため、比較的に高い比容量及びエネルギー密度を有することができる。また、この正極活物質は、構造安定性がより良好であり、ナトリウムイオンの脱離/挿入過程による構造変化が小さく、ナトリウムイオンの可逆的な脱離/挿入を行う良好な本体フレームを構成しているため、正極活物質の容量発揮及びサイクル性能の向上に有利である。
【0033】
幾つかの実施形態において、正極活物質の平均粒径Dv50は、3μm~20μmであることが好ましく、5μm~12μmであることがより好ましい。正極活物質のDv50は、20μm以下であることが好ましく、これにより、正極活物質におけるナトリウムイオン及び電子の輸送経路が短く保証され、正極活物質のイオン伝導性及び電子伝導性が向上されるため、充放電過程における電気化学動力学性能及び倍率性能を向上させる。また、この正極活物質を用いた電池では、正極分極現象が小さいため、充放電サイクル中の容量保持率を向上させることができる。正極活物質のDv50は、3μm以上であることが好ましく、これにより、正極活物質のグラム容量を高くすることができるとともに、材料表面での電解液の副反応を低減することができ、電池のエネルギー密度及びサイクル性能を向上させることができる。
【0034】
正極活物質の平均粒径Dv50は、3μm~20μmであることが好ましく、これにより、正極活物質に適切な比表面積を持たせることもできる。幾つかの実施形態において、正極活物質の比表面積は、0.01m/g~6m/gであることが好ましく、0.5m/g~4m/gであることがより好ましい。正極活物質の比表面積が適切な範囲内であれば、正極活物質に大きな活性比表面積を持たせるとともに、粒子表面の副反応を低減させ、ガス発生を低減させるため、材料の高い電気化学的特性が保証される。また、正極活物質が適切な比表面積を有すると、正極活物質粒子と粒子との凝集を効果的に低減し、サイクル性能を向上させることができる。
【0035】
正極活物質の比表面積が適正な範囲内であれば、正極スラリーの調製過程における吸液現象を低減して、正極スラリー中の固形分の含有量及び粒子分散均一性を向上させることができるため、正極活物質層の粒子分散均一性及び圧縮密度(Compaction density)を向上させ、さらにナトリウムイオン電池のエネルギー密度を向上させ、ナトリウムイオン電池の倍率性能及びサイクル性能を改善することができる。
【0036】
幾つかの実施形態において、12mPaの圧力での正極活物質の粉体抵抗率は、20Ω・cm~10000Ω・cmであることが好ましく、20Ω・cm~1000Ω・cmであることがより好ましい。正極活物質の粉体抵抗率が適正な範囲内であれば、ナトリウムイオン電池の倍率性能をさらに改善することができるとともに、ナトリウムイオン電池に比較的に高い安全性能を付与することができる。
【0037】
幾つかの実施形態において、好ましくは、正極活物質のタップ密度≧1.5g/cmである。より好ましくは、正極活物質のタップ密度は、1.5g/cm~3.0g/cmである。正極活物質が適切なタップ密度を有することは、正極活物質が適切な圧縮密度を有するのに有利である。
【0038】
幾つかの実施形態において、好ましくは、8トンの圧力での正極活物質の圧縮密度≧3g/cmである。より好ましくは、正極活物質の圧縮密度は、3.5g/cm~5g/cmである。正極活物質が適切な圧縮密度を有すると、正極活物質に比較的に高い比容量を持たせるとともに、これを用いたナトリウムイオン電池に比較的に高いサイクル性能を持たせることができる。適切な範囲内では、正極活物質の圧縮密度が高いほど、それに応じて比容量が高くなる。
【0039】
正極活物質の平均粒径Dv50を適切な範囲とすることは、正極活物質に適切なタップ密度及び/又は圧縮密度を持たせるのに有利である。
【0040】
幾つかの実施形態において、正極活物質の形態は、多角形のシート状構造であることが好ましい。例えば、三角形シート状構造、四角形シート状構造及び六角形シート状構造のうちの一種類又は複数種類であり、六角形シート状構造であることが好ましい。このような形態を有する正極活物質を用いることにより、正極活物質層中の正極活物質粒子と粒子との間に適切な隙間を持たせることができ、正極活物質層に良好な孔隙率を持たせることができるため、正極活物質層に比較的に高い電解液浸潤性を持たせることができ、ナトリウムイオン電池のサイクル性能及びエネルギー密度の向上に有利である。このような形態を有する正極活物質を用いると、正極活物質層における正極活物質粒子と粒子との凝集も低減できるため、ナトリウムイオン電池に比較的に高いサイクル性能を持たせることができる。
【0041】
正極活物質の単位格子パラメータc/aは、本分野で周知の意味であって、正極活物質結晶のc軸とa軸との比を意味する。正極活物質の結晶構造は、X線粉体回折計によって測定してもよく、例えば、CuKα線を放射線源とするドイツBrucker AxS社のBrucker D8A_A25型X線回折計を使用してもよく、ここで、放射線波長は、λ=1.5418Åであり、走査2θ角の範囲は、10°~90°であり、走査レートは、4°/minである。
【0042】
正極活物質の比表面積は、本分野で周知の意味であって、本分野で周知の機器及び方法により測定することができ、例えば、窒素吸着比表面積分析試験方法により測定し、BET(Brunauer Emmett Teller)法を併用して計算することができ、ここで、窒素吸着比表面積分析試験は、米国Micromeritics社のTri StarII型比表面及び孔隙の分析器によって行うことができる。
【0043】
正極活物質の平均粒径Dv50は、本分野で周知の意味であって、本分野で周知の機器及び方法により測定することができる。例えば、英国のマルバーン・インスツルメンツ社(Malvern Instruments Ltd.)のMastersizer 3000型レーザー粒度分析器のようなレーザー粒度分析器を用いて簡便に測定することができる。
【0044】
正極活物質の形態は、本分野で周知の機器及び方法により測定することができ、例えば、ドイツのカール・ツァイス(Carl Zeiss)社のSIGMA 500型高分解能電界放射型走査型電子顕微鏡のような電界放射型走査型電子顕微鏡によって検出することができる。
【0045】
正極活物質のタップ密度は、本分野で周知の機器及び方法により測定することができ、例えば、FZS4-4B型タップ密度測定器のようなタップ密度測定器を用いて簡便に測定することができる。
【0046】
正極活物質の圧縮密度は、本分野で周知の機器及び方法により測定することができ、例えば、UTM 7305型電子圧力試験機のような電子圧力試験機を用いて簡便に測定することができる。
【0047】
次に、本願の第2発明に係る正極活物質の調製方法を説明する。この調製方法によれば、第2発明に係る正極活物質を調製することができる。本発明で提供される正極活物質の調製方法は、ナトリウム前駆体、酸化マンガン、Aの酸化物及びBの酸化物を化学量論比で研磨中に均一に混合した後、焼成して、正極活物質を得る工程を含む。
【0048】
ナトリウム前駆体は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムのうちの一種類又は複数種類を含んでもよい。幾つかの実施例において、ナトリウム前駆体は、炭酸ナトリウムを含むか、又は、炭酸ナトリウムである。
【0049】
焼成は、本分野で周知の方法及び装置で行われることができ、例えば、マッフル炉を用いて行うことができる。焼成の温度は、800℃~1000℃であってもよく、例えば、850℃~950℃であってもよく、更に例えば、900℃でああってもよい。焼成の時間は、4h~30hであってもよく、例えば、8h~20hであってもよく、更に例えば、12hであってもよい。
【0050】
本発明の正極活物質の調製は、前述の固相法に限定されるものではなく、液相法を利用してもよい。当業者であれば、上記正極活物質の化学組成及び構造に基づいて、液相法による調製工程に従って、前述の正極活物質を調製してもよい。
【0051】
(正極シート)
【0052】
本発明は、さらに、正極シートを提供し、正極シートは、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質層と、を含む。例えば、正極集電体は、対向する2つの表面を有し、正極活物質層は、正極集電体の2つの表面のいずれか一方又は両方に積層されて設けられている。
【0053】
正極集電体は、金属箔材、炭素被覆金属箔材又は多孔質金属板であってもよく、好ましくはアルミニウム箔を用いることができる。
【0054】
正極活物質層は、本発明の第1態様に係る正極活物質を含む。
【0055】
幾つかの実施例において、正極活物質層には、結着剤がさらに含まれていてもよい。例として、結合剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂(water-based acrylic resin)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)及びポリビニルアルコール(PVA)のうちの一種類又は複数種類を含んでもよい。
【0056】
幾つかの実施例において、正極活物質層には、導電剤がさらに含まれていてもよい。例として、導電剤は、超伝導炭素、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びカーボンナノファイバーのうちの一種類又は複数種類を含んでもよい。
【0057】
正極シートは、本分野でよく使われる方法により製造できる。通常、正極活物質と選択可能な導電剤及び結着剤とを溶媒(例えば、N-メチルピロリドン、NMPと略称する)中に分散させて均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥、ロールプレス等の工程を経た後、正極シートを得る。
【0058】
本発明の正極シートは、本発明の第1態様の正極活物質を用いているため、比較的に高い容量性能、平均電圧及びサイクル性能を両立することができる。
【0059】
(ナトリウムイオン電池)
【0060】
本発明の第3態様は、ナトリウムイオン電池を提供し、当該ナトリウムイオン電池は、前述の正極シートを備え、前記正極シートは、本発明の任意の一種類又は複数種類の正極活物質を含む。
【0061】
ナトリウムイオン電池は、負極シート、セパレータ及び電解液をさらに含む。
【0062】
幾つかの実施例において、負極シートは、金属ナトリウムシートであってもよい。
【0063】
幾つかの実施例において、負極シートは、負極集電体と、負極集電体上に設けられた負極活物質層と、を含むこともできる。例えば、負極集電体は、対向する2つの表面を有し、負極活物質層は、負極集電体の2つの表面のいずれか一方又は両方に積層されて設けられている。
【0064】
幾つかの実施例において、負極集電体は、金属箔材、炭素被覆金属箔材、又は多孔質金属板等の材料、好ましくは銅箔を用いることができる。
【0065】
負極活物質層は、負極活物質を含み、当該負極活物質は、本分野で周知の負極活物質であってもよい。例として、負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、硬質炭素、及び軟質炭素のうちの一種類又は複数種類を含むことができるが、これらに限定されない。
【0066】
幾つかの実施例において、負極活物質層は、さらに、導電剤を含んでもよく、それは、本分野で周知の電池負極用の導電剤であってもよい。例として、導電剤は、超電導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びカーボンナノファイバーのうちの一種類又は複数種類を含むことができるが、これらに限定されない。
【0067】
幾つかの実施例において、負極活物質層は、さらに、結着剤を含んでもよく、当該結着剤は、本分野で周知の電池負極用の結着剤であってもよい。例として、結着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂、及びカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)のうちの一種類又は複数種類を含むことができるが、これらに限定されない。
【0068】
幾つかの実施例において、負極活物質層は、さらに、増粘剤を含んでもよく、当該増粘剤は、本分野で周知の電池負極用の増粘剤であってもよい。例として、増粘剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を含むことができるが、これらに限定されない。
【0069】
負極シートは、本分野でよく使われる方法により製造することができる。負極活物質と選択可能な導電剤、結着剤及び増粘剤とは、通常、脱イオン水のような溶媒中に分散されて、均一な負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥、冷間プレス等の工程を経た後、負極シートを得る。
【0070】
セパレータは、特に制限されず、周知の化学的安定性及び機械的安定性を有する任意の多孔質構造のセパレータを選択することができ、例えば、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、及びこれらの多層複合フィルムから選択されることができる。
【0071】
幾つかの実施例において、電解液は、有機溶媒及び電解質ナトリウム塩を含むことができる。例として、有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジエチルカーボネート(DEC)のうちの一種類又は複数種類を含むことができる。電解質ナトリウム塩は、NaPF、NaClO、NaBCl、NaSOCF及びNa(CH)CSOのうちの一種類又は複数種類を含むことができる。
【0072】
上記正極シート、セパレータ、負極シートを順次に積層し、セパレータが正極シートと負極シートとの間で隔離の作用を果たすようにして、電池コアを取得し、或いは、巻き取って電池コアを取得してもよい。電池コアを外装ケースに入れて、電解液を注液し封止して、ナトリウムイオン電池を取得することができる。
【0073】
本発明のナトリウムイオン電池は、本発明の第1態様の正極活物質を用いているため、比較的に高い総合電気化学的性能を有し、比較的に高い容量性能、平均電圧及びサイクル性能を両立することができる。
【0074】
本発明は、ナトリウムイオン電池の形状を特に制限せず、円筒形、正方形、又は他の任意の形状とすることができる。図2は、例としての正方形構造のナトリウムイオン電池5である。
【0075】
幾つかの実施例において、ナトリウムイオン電池は、正極シート、負極シート、セパレータ、及び電解液を封止するための外装を含むことができる。
【0076】
幾つかの実施例において、ナトリウムイオン電池の外装は、例えば、袋状の軟質パックのような軟質パックであってもよい。軟質パックの材質は、プラスチックであってもよく、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)等からの一種類又は複数種類を含むことができる。ナトリウムイオン電池の外装は、硬質ケースであってもよく、例えば、硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、スチールケース等であってもよい。
【0077】
幾つかの実施例において、図3を参照すると、外装は、ハウジング51とカバープレート53とを含むことができる。ここで、ハウジング51は、底板、及び底板に接続された側板を含み、底板と側板とで囲んで収納室を形成してもよい。ハウジング51は、収納室と連通する開口を有し、カバープレート53は、前記開口を覆うように設けられて、前記収納室を閉塞してもよい。
【0078】
正極シート、負極シート及びセパレータは、積層されるか又は巻き取られて積層体構造の電極アセンブリ又は巻回体構造の電極アセンブリ52を形成することができる。電極アセンブリ52は、前記収納室内に封止されている。電解液は、電極アセンブリ52中を浸潤する。
【0079】
ナトリウムイオン電池5に含まれる電極アセンブリ52の数は、1つ又は複数であってもよく、必要に応じて調整することができる。
【0080】
幾つかの実施例において、ナトリウムイオン電池は、電池モジュールに組み立てられてもよく、電池モジュールに含まれるナトリウムイオン電池の数は、複数であってもよく、具体的な数は、電池モジュールの用途及び容量に応じて調整することができる。
【0081】
図4は、一例としての電池モジュール4である。図5を参照すると、電池モジュール4において、複数のナトリウムイオン電池5は、電池モジュール4の長手方向に沿って順次に並んで設けられていてもよい。勿論、他の任意の方法で配列することも可能である。さらに、締結部材によってこの複数のナトリウムイオン電池5を固定することができる。
【0082】
選択可能に、電池モジュール4は、収納空間を有するケースをさらに含み、複数のナトリウムイオン電池5が当該収納空間に収納されてもよい。
【0083】
幾つかの実施例において、上記電池モジュールは、電池パックに組み立てられてもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、電池パックの用途及び容量に応じて調整することができる。
【0084】
図5及び図6は、一例としての電池パック1である。図6及び図7を参照すると、電池パック1には、電池ボックス、及び電池ボックス内に配置された複数の電池モジュール4が含まれていてもよい。電池ボックスは、上部ボックス本体2及び下部ボックス本体3を備え、上部ボックス本体2は、下部ボックス本体3を覆うように設けられてもよく、電池モジュール4を収納するための閉塞空間を形成している。複数の電池モジュール4は、任意の方法で電池ボックス内に配置されてもよい。
【0085】
(装置)
【0086】
本発明の第4態様は、本発明の第3態様のナトリウムイオン電池を含む装置を提供している。前記ナトリウムイオン電池は、前記装置の電源として用いられてもよいし、前記装置のエネルギー蓄積手段として用いられてもよい。前記装置は、モバイルデバイス(例えば、携帯電話、ノートパソコン等)、電気自動車(例えば、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラック等)、電気列車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システム等であってもよいが、これらに限定されない。
【0087】
前記装置は、その使用要件に応じて、ナトリウムイオン電池、電池モジュール、又は電池パックを選択することができる。
【0088】
図7は、例としての装置である。この装置は、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車等である。電池の高電力及び高エネルギー密度に対する当該装置の要求を満たすために、電池パック又は電池モジュールを使用することができる。
【0089】
他の一例としての装置は、携帯電話、タブレット、ノートパソコン等であってもよい。この装置は、通常、薄型化が要求されているため、電源としてナトリウムイオン電池を用いることができる。
【0090】
(実施例)
【0091】
以下の実施例は、本発明の開示内容をより具体的に説明する。これらの実施例は、単に説明のためのものであり、本発明の開示の範囲内で様々な修正及び変更を行うことは、当業者にとっては自明である。特に説明しない限り、以下の実施例において報告される全ての部、百分率、及び比は、重量に基づいたものであり、実施例において使用された全ての試薬は市販のものであるか、又は常軌の方法に従って合成されたものであり、さらに処理することなく直接使用することができ、また、実施例で使用した機器はいずれも市販のものである。
【0092】
(実施例1)
【0093】
(正極活物質の調製)
【0094】
炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化マンガン(MnO)、Aの酸化物(NiO)及びBの酸化物(MgO)を化学量論比で研磨中に均一に混合した後、マッフル炉に放置して900℃で12h焼成して、正極活物質を得る。
【0095】
(ボタン電池の製造)
【0096】
1)正極シートの製造
【0097】
上記で調製した正極活物質、導電性カーボンブラックSuper P、結着剤のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を80:15:5の重量比で適量のN-メチルピロリドン(NMP)中で十分に攪拌混合して、均一な正極スラリーを形成する。正極スラリーを正極集電体アルミニウム箔上に塗布し、乾燥、圧延した後、正極シートを得る。
【0098】
2)負極シートは、金属ナトリウムシートを用いている。
【0099】
3)セパレータは、ガラス繊維フィルムを用いている。
【0100】
4)電解液の調製
【0101】
等体積のエチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)を均一に混合して有機溶媒を取得した後、過塩素酸ナトリウムNaClOを上記有機溶媒に均一に溶解して電解液を取得し、ここで、過塩素酸ナトリウムの濃度は、1mol/Lである。
【0102】
5)上記正極シート、セパレータ、負極シートを順次に積層し、上記電解液を加えて封止して、ボタン電池を取得した。
【0103】
(実施例2~20及び比較例1~3)
【0104】
正極活物質の調製工程における反応パラメータを調整した以外は、実施例1と類似している。具体的なパラメータの詳細は、以下の表1を参照することができる。
【0105】
試験部分
【0106】
(1)正極活物質の単位格子パラメータc/a試験
【0107】
実施例及び比較例の正極活物質を、25℃、高真空、作動距離 6mm、管電圧 10.0KVの条件下で、CuKα線を放射線源とし、放射線波長をλ=1.5418Åとし、走査2θ角範囲を10°~90°とし、走査レートを4°/minとして、XRDスペクトル試験を行い、回折X線は、ブラッグ(W.L.Bragg)方程式:2dsinθ=nλを満たし、式中、λはX線の波長、θは回折角、dは結晶面間隔、nは整数である。波長λは、既知のX線回折角で測定することができ、それにより面間隔、即ち、結晶内の原子又はイオンの規則的な配列状態を求めることができる。XRDの結果を微調整することにより、材料の単位格子パラメータa及びcをさらに決定することができ、即ち、正極活物質のc/a値を得ることができる。
【0108】
(2)正極活物質の容量性能及びサイクル性能試験
【0109】
実施例及び比較例で作製したナトリウムイオンボタン電池を、25℃、常圧(0.1MPa)下で、0.1Cの倍率で電圧が4.5Vになるまで定電流充電したときの充電容量を、ボタン電池の1サイクル目の充電容量とし、その後5min静置し、さらに、0.1Cの倍率で電圧2.0Vになるまで定電流放電し、5min静置し、これを1つのサイクル充放電過程とし、今回の放電容量をナトリウムイオン電池の1サイクル目の放電比容量とした。ボタン電池を上記の方法で30サイクル充放電試験を行い、1サイクルあたりの充電比容量及び放電比容量を記録した。
【0110】
ナトリウムイオンボタン電池の30サイクル後の容量保持率(%)=30サイクル目の放電比容量/初回放電比容量×100%。
【0111】
ナトリウムイオンボタン電池のnサイクル目のクーロン効率(%)=nサイクル目の放電比容量/nサイクル目の充電比容量×100%。
【0112】
実施例1~20及び比較例1~3の試験結果は、下記の表1に示される。
【0113】
【表1】
【0114】
実施例1と比較例1乃至3との比較分析から分かるように、比較例1の正極活物質Na0.67MnOは、1サイクル目充電比容量及び平均電圧が比較的に低く、サイクル容量保持率が比較的に低い。比較例2の正極活物質Na0.67Mn0.7Mg0.3は、Na0.67MnOにMgをドープすることにより、充放電過程で可逆的な相転移(P2-OP4相転移)が発生され、Na0.67MnOの不可逆的な相転移(P2-O2相転移)の発生によるサイクル容量保持率の低下の問題は、効果的に改善されたが、充放電比容量は比較的に低い。比較例3の正極活物質Na0.67Ni0.3Mn0.7は、Na0.67MnOにNiをドープすることにより、1サイクル目充電過程での容量損失を低減し、材料の平均電圧を改善することはできるが、充放電過程で不可逆的な相転移(P2-O2相転移)が発生されるため、1サイクル目クーロン効率が比較的に低く、サイクル容量保持率が比較的に低い。
【0115】
一方、本発明の実施例1の正極活物質Na0.67Mn0.7Ni0.05Mg0.25は、Na0.67MnOに電気化学活性の遷移金属Niと非電気化学活性の金属Mgとを同時にドープすることにより、遷移金属のNiと金属のMgとのそれぞれの利点及び機能を組み合わせて、正極活物質の充放電比容量、1サイクル目クーロン効率、平均電圧及びサイクル容量保持率を同時に向上させ、正極活物質に比較的に高い充放電比容量、1サイクル目クーロン効率、平均電圧及び良好なサイクル安定性を両立させている。
【0116】
実施例1乃至6の比較分析から分かるように、同一配合比であるが非電気化学的活性の異なる金属Bをドープした三元系金属酸化物正極活物質は、単位格子パラメータc/aが金属Bのイオン半径の影響を受けており、金属Bのイオン半径が大きいほどc/a値が大きく、これは、M-O結合が強いほど正極活物質の構造が安定していることを説明し、正極活物質のサイクル性能が良好であることで表現されている。
【0117】
実施例1、7乃至12の比較分析から分かるように、遷移金属Niと金属Mgとの配合比が異なる三元系金属酸化物正極活物質は、その特性が活性金属Niと非活性金属Mgとの相乗作用により現れている。そのうち、材料中のMg含有量とNi含有量の比が大きくなるにつれて、材料のc/a値が大きくなり、M-O結合が強くなり、材料の層間距離が大きくなり、ナトリウムイオンが層間で脱離/挿入しやすくなり、正極活物質の充放電比容量が向上される。同時に、正極活物質の構造が安定するほど、サイクル容量保持率が高くなる。しかし、Mg含有量とNi含有量との比を大きくし続けると、活性金属のNiの含有量が相対的に低下し、正極活物質の充放電比容量の相対的な低下として表現される。したがって、材料中の活性金属のNiと非活性金属のMgとの配合比を最適化することにより、活性金属のNiと非活性金属のMgとの相乗作用を十分に発揮させることができ、正極活物質の充放電比容量及びサイクル容量保持率を向上させることができる。
【0118】
実施例13乃至16の比較分析から分かるように、同一配合比であるが粒径の異なる三元系金属酸化物正極活物質は、正極活物質の粒径が比較的に小さいと比表面積が比較的に大きく、副反応が深刻になる可能性があり、正極活物質の電気化学的性能の相対的な低下として表現され、正極活物質の粒径を一定値にまで大きくすると、その活性比表面積が減少し、正極活物質の電気化学的性能の相対的な低下として表現される。したがって、本発明の正極活物質の平均粒径Dv50は、3μm~20μmであり、5μm~12μmであることが好ましく、この場合、正極活物質に比較的に高い充放電比容量及びサイクル容量保持率を持たせることができる。
【0119】
以上のように、本発明は、正極活物質に前述した特定の化学組成を持たせることにより、正極活物質に比較的に高い1サイクル目充放電比容量、平均電圧及びサイクル容量保持率を両立させるため、ナトリウムイオン電池に、比較的に高い1サイクル目充放電比容量、平均電圧及びサイクル容量保持率を両立させることができる。
【0120】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明の保護範囲はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本願に開示の技術的範囲内で、様々な等価な修正又は置換を容易に想到でき、これらの修正又は置換は、いずれも本発明の範囲内に含まれるべきである。したがって、本願の保護範囲は、特許請求の範囲の保護範囲に準ずるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7