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  • 特許-熱伝導性シリコーン組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20220601BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20220601BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220601BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/08
C08K3/013
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022507609
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2021042563
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2021022019
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕子
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-089675(JP,A)
【文献】国際公開第2020/068528(WO,A1)
【文献】特開昭59-136954(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004442(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、熱伝導性充填材を含有する熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記ベースポリマーは、フッ素非含有オルガノポリシロキサンと、フッ素含有オルガノポリシロキサンを含み、
前記熱伝導性シリコーン組成物は付加硬化型触媒により硬化されており、
前記ベースポリマーの構成成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の合計に対する、前記ベースポリマーの構成成分中のフルオロ基の数の比が、2.00以上30.0以下であり、
前記ベースポリマーの構成成分は、下記成分A1,A2,A3,Bを含み、
前記成分A1と前記成分Bの合計100質量部に対して、
前記成分A2を、50~100質量部
前記成分A3を、0.5~2質量部
前記付加硬化型触媒を、触媒量
前記熱伝導性充填材を、前記ベースポリマー100質量部に対して、100~4000質量部含む、熱伝導性シリコーン組成物。
A1:1分子中にアルケニル基を2個以上有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
A2:1分子中にSi-H基を2個有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
A3:1分子中にSi-H基を3個以上有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
B:1分子中にアルケニル基を2個以上有するフッ素含有オルガノポリシロキサン
【請求項2】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、ゲル及びゴムから選ばれる少なくとも一つである請求項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、初期硬さがアスカーCで1~70である請求項1又は2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、自動車用オイル(ATF)に、150℃雰囲気下24時間浸漬した後の重量の変化が5重量%以下である請求項1~のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記熱伝導性充填剤が、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素及びシリカから選ばれる少なくとも一つの無機フィラーである請求項1~のいずれかの項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、シートに成形されている請求項1~のいずれかの項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、発熱体と放熱体との間に介在させる熱伝導材料である請求項1~のいずれかの項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
フッ素非含有オルガノポリシロキサンとフッ素含有オルガノポリシロキサンとを含むベースポリマーと、付加硬化型触媒と、熱伝導性充填材とを含む組成物を均一混合した後、シート状に成形し、熱硬化することを含み、
前記ベースポリマーの構成成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の合計に対する、前記ベースポリマーの構成成分中のフルオロ基の数の比が、2.00以上30.0以下であり、
前記ベースポリマーの構成成分は、下記成分A1,A2,A3,Bを含み、
前記成分A1と前記成分Bの合計100質量部に対して、
前記成分A2を、50~100質量部
前記成分A3を、0.5~2質量部
前記付加硬化型触媒を、触媒量
前記熱伝導性充填材を、前記ベースポリマー100質量部に対して、100~4000質量部含む、熱伝導性シリコーンゲルシートの製造方法。
A1:1分子中にアルケニル基を2個以上有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
A2:1分子中にSi-H基を2個有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
A3:1分子中にSi-H基を3個以上有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
B:1分子中にアルケニル基を2個以上有するフッ素含有オルガノポリシロキサン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CPUやパワートランジスタ等の電子部品の発熱部の熱対策に用いられているシリコーンゴムからなる熱伝導性材料は、耐熱性、耐候性、電気絶縁性に優れていることから自動車分野での利用が広がっている。しかし、シリコーンゴムはトルエンやガソリンなどの溶剤類に対し膨潤もしくは劣化が生じやすい。そのためATF( 自動車用オイル)等に曝される環境下では性能を維持しにくい問題がある。
【0003】
特許文献1及び2には、耐油性の高いフッ素を主鎖や側鎖に含有したポリオルガノシロキサンに熱伝導性フィラーを加えた組成物が提案されている。また、特許文献3には硬化後のフッ素ゴムと、硬化後のシリコーンゴムをブレンドし、再度硬化させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-82090号公報
【文献】特公昭63-67335号公報
【文献】特開2006-161032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1及び2のシリコーン組成物は、フルオロ含有ポリオルガノシロキサンが高価であるという問題があった。また、特許文献3のシリコーン組成物は、硬化反応を2回するため、工程が煩雑でありコストが高く、硬化後のゴム同士のブレンドのため、化学的な結合が少なく、熱対策用途への適用が難しいという問題があった。
【0006】
本発明は前記従来の問題を解決するため、フッ素含有オルガノポリシロキサン含有量を少なくし、コストが低減され、かつ耐油性を示す熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、オルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、熱伝導性充填材を含有する熱伝導性シリコーン組成物であって、前記ベースポリマーは、フッ素非含有オルガノポリシロキサンと、フッ素含有オルガノポリシロキサンを含み、前記熱伝導性シリコーン組成物は付加硬化型触媒により硬化されており、前記ベースポリマーの構成成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数の合計に対する、前記ベースポリマーの構成成分中のフルオロ基の数の比が、2.00以上30.0以下である。
【0008】
本発明の熱伝導性シリコーンゲルシートの製造方法は、
フッ素非含有オルガノポリシロキサンとフッ素含有オルガノポリシロキサンとを含むベースポリマーと、付加硬化型触媒と、熱伝導性充填材とを含む組成物を均一混合した後、シート状に成形し、熱硬化することを含み、
前記ベースポリマーの構成成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数の合計に対する、前記ベースポリマーの構成成分中のフルオロ基の数の比が、2.00以上30.0以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ケイ素原子に結合したアルケニル基の数の合計に対する、フルオロ基の数の比が2.00以上30.0以下となるように、ベースポリマーに、フッ素非含有オルガノポリシロキサンと、フッ素含有オルガノポリシロキサンが含まれているので、フッ素含有オルガノポリシロキサン含有量を少なくしてコストが低減され、かつ耐油性を示す熱伝導性シリコーン組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1A-Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、オルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、熱伝導性充填材を含有する熱伝導性シリコーン組成物である。ベースポリマーは、フッ素非含有オルガノポリシロキサンとフッ素含有オルガノポリシロキサンを含む。これらは、それぞれシリコーンゲル材料又はシリコーンゴム材料としては知られている。前記熱伝導性シリコーン組成物は付加硬化型触媒により硬化されている。前記ベースポリマーの構成成分中のケイ素原子に結合した全アルケニル基数に対する、前記ベースポリマーの構成成分中の全フルオロ基数の比(フルオロ基数/アルケニル基数)は、2.00以上30.0以下であり、好ましくは2.00以上20.0以下であり、より好ましくは2.50以上18.0以下である。上記比が、上記範囲となるように、ベースポリマーに、フッ素非含有オルガノポリシロキサンとフッ素含有オルガノポリシロキサンとが含まれているので、コストが低減されており、耐油性に優れ、かつ、熱伝導材料(TIM)として好適な硬さを実現できる。
【0012】
前記ベースポリマーの構成成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量は、ベースポリマー100g当たり、好ましくは0.010~0.013molであり、より好ましくは0.011~0.013molであり、更に好ましくは0.012~0.013molである。
【0013】
前記ベースポリマーとしては、好ましくは、付加硬化型シリコーンポリマーである。このポリマーは耐熱性が高く熱伝導性シートとして有用である。ベースポリマーは、構成成分として、例えば、下記成分A1,成分A2,成分A3,成分Bを含む。
A1:1分子中にアルケニル基を2個以上有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
A2:1分子中にSi-H基を2個有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
A3:1分子中にSi-H基を3個以上有するフッ素非含有オルガノポリシロキサン
B:1分子中にアルケニル基を2個以上有するフッ素含有オルガノポリシロキサン
成分A3は、架橋成分である。ベースポリマーは、Si-H基を2個以上有するオルガノポリシロキサンとして、成分A2と成分A3の両方を含むので、硬さを調整しやすく、硬化物の復元性が向上しやすいという利点がある。
【0014】
前記ベースポリマーの構成成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の合計数に対する、前記ベースポリマーの構成成分中の全Si-H基数の比(Si-H基数/アルケニル基数)は、好ましくは0.6以上1.2以下であり、より好ましくは0.7以上1.1以下であり、更に好ましくは0.8以上1.1以下である。
【0015】
前記熱伝導性シリコーン組成物の組成割合は、例えば、下記が好ましい。
成分A1と成分Bの合計100質量部に対して、
成分A2を、50~100質量部
成分A3を、0.5~2質量部、含み、
付加硬化型触媒を、触媒量、
熱伝導性充填材を、前記ベースポリマー100質量部に対して、100~4000質量部、含む。
【0016】
配合量は、成分A1と成分Bの合計100質量部に対して、成分A2は、より好ましくは60~80質量部であり、成分A3は、より好ましくは0.5~1質量部である。熱伝導性充填材は、熱伝導性を高める観点から、より好ましくは500~3700質量部含まれる。付加硬化型触媒の配合量は、本組成物の硬化に必要な量であればよく、所望の硬化速度などに応じて適宜調整することができる。例えば、前記成分A1と成分Bの合計に対して、金属原子重量として0.01~1000ppm添加するのが好ましい。
【0017】
[成分A1]
前記成分A1は、1分子中にアルケニル基を2個以上有するフッ素非含有オルガノポリシロキサンであり、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、より好ましくは炭素原子数2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有する。成分A1は、分子鎖の両末端にビニル基を各1個有し、側鎖はアルキル基、フェニル基などの有機基、またはこれらの組み合わせによる直鎖状オルガノポリシロキサンが好ましい。一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は、例えば1~1350、好ましくは150~300程度のものを使用することができる。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子中に含有するものであってもよい。
【0018】
前記成分A1の動粘度は、作業性、硬化性が良いという理由から、好ましくは10~10000mm/sであり、より好ましくは50~550mm/sであり、さらに好ましくは100~500mm/sである。動粘度はメーカーカタログ等に記載されているが、ウベローデ粘度計により測定した25℃における動粘度である。
【0019】
前記成分A1の具体例としては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端メチルフェニルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
[成分A2]
前記成分A2は、1分子中にSi-H基を2個有するフッ素非含有オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、分子構造は直鎖状であることが望ましく、Si-H基の位置としては分子鎖の両末端が望ましい。一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は、例えば2~1,000、好ましくは2~300程度のものを使用することができる。水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられ、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部を臭素、塩素等のフッ素以外のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの 、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、等のフッ素以外のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。
【0021】
前記成分A2の動粘度は、作業性、硬化性が良いという理由から、好ましくは2~10000mm/sであり、より好ましくは500~2000mm/sであり、さらに好ましくは500~1500mm/sである。
【0022】
[成分A3]
成分A3は、1分子中にSi-H基を3個以上有するフッ素非含有オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、分子構造が直鎖状のものが好ましく使用できる。なお、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記一般式(1)で表される構造のものが例示できる。
【0023】
【化1】
【0024】
上記の式中、Rは互いに同一又は異種の水素、アルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基であり、少なくとも3つは水素である。Lは0~1,000の整数、特には0~300の整数であり、Mは1~200の整数である。
【0025】
前記成分A3の動粘度は、作業性、硬化性が良いという理由から、好ましくは20~10000mm/sであり、より好ましくは60~8000mm/sであり、さらに好ましくは60~200mm/sである。
【0026】
[成分B]
成分Bは、1分子中にアルケニル基を2個以上有するフッ素含有オルガノポリシロキサンであり、このフッ素含有オルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、より好ましくは炭素原子数2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有する。前記成分Bは、分子鎖の両末端にビニル基を各1個有し、側鎖は、非置換又は置換の一価炭化水素基が挙げられ、置換一価炭化水素基は、水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された、アルキル基、アリール基、アラルキル基などの有機基、またはこれらの組み合わせによる直鎖状フッ素含有オルガノポリシロキサンが好ましい。一例として、少なくとも両末端がジメチルビニルシロキシ基のフッ素含有ジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0027】
前記成分Bの動粘度は、作業性、硬化性が良いという理由から、好ましくは10~10000mm/sであり、より好ましくは250~2000mm/sであり、さらに好ましくは350~1500mm/sである。
【0028】
成分B中のアルケニル基以外の置換基は、互いに同一又は異種の、脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられ、置換一価炭化水素基は、水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された一価炭化水素基である。脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基は、例えば、炭素原子数1~10、好ましくは炭素原子数1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部が、フッ素原子により置換された置換基である。
【0029】
[付加硬化型触媒]
付加硬化型触媒は、本組成物の硬化を促進させる触媒成分である。付加硬化型触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金酸、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビス(アセチルアセトナト)等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。
【0030】
[熱伝導性充填材]
熱伝導性充填材は、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化亜鉛、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム及びシリカから選ばれる少なくとも一つの熱伝導性無機粒子であるのが好ましい。このうち、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウムが特に好ましい。熱伝導性充填材の形状は球状、不定形状、針状、板状など、特に限定されるものではない。
【0031】
酸化アルミニウムとしては、加熱溶融により製造された球状アルミナ、キルンで焼成により製造された焼結アルミナ、電弧炉で溶融され製造された電融アルミナ、アルミニウムアルコキシドの加水分解やIn situ Chemical Vapour Deposition法等により製造された高純度アルミナ等あるが、特に限定されるものではない。得られた酸化アルミニウム粒子は粉砕等することにより目的の粒子径範囲にすることもできる。
【0032】
窒化アルミニウムとしては、直接窒化法、還元窒化法、燃焼合成法等により製造された窒化アルミニウム、さらに得られた窒化アルミニウムを凝集させた凝集窒化アルミニウム等が知られているが、特に限定されるものではない。得られた窒化アルミニウム粒子は粉砕等することにより目的の粒子径範囲にすることもできる。
【0033】
熱伝導性充填材の平均粒子径は、0.01μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上150μm以下である。なお、平均粒子径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。
【0034】
[任意成分]
前記熱伝導性シリコーン組成物には、必要に応じて、例えば、上記成分以外の成分が含まれていてもよい。上記成分以外の成分とは、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、マスターバッチ組成物、硬化遅延剤、難燃助剤などが挙げられる。着色、色調の調整目的で有機或いは無機顔料を添加しても良いし、シランカップリング剤を添加してもよい。
【0035】
(硬化遅延剤)
硬化遅延剤としては、エチニルシクロヘキサノールなどがある。硬化遅延剤は、ベースポリマー100質量部に対して、0.001~0.1質量部加えるのが好ましい。
【0036】
(マスターバッチ組成物)
マスターバッチ組成物は、好ましくは、未架橋シリコーンゲル100質量部に対して、鉄含有粉体100~300質量部を混合して得られる混合物である。マスターバッチ組成物は、ベースポリマー100質量部に対して、1~12質量部加えるのが好ましく、1~10質量部加えるのがより好ましい。鉄含有粉体は、鉄、酸化鉄、鉄を含む金属酸化物から選ばれる少なくとも一つである。酸化鉄は、四酸化三鉄(Fe)及び三酸化二鉄(Fe)から選ばれる少なくとも一つが好ましい。これらは着色材、安定材、難燃材などとして有用である。
【0037】
鉄含有粉体は、チタン系カップリング剤、またはアルミニウム系カップリング剤で表面処理されていると好ましい。表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。鉄含有粉体をカップリング剤で表面処理すると、鉄含有粉体の表面をカップリング剤分子が覆うため、硬化触媒、例えば白金系触媒の吸着を防止すると思われる。カップリング剤の表面処理方法としては、特開2020-7463号公報に記載の乾式法、湿式法、インテグラルブレンド法等があげられる。前記カップリング剤は、鉄含有粉体100質量部に対して0.1~10質量部添加するのが好ましく、さらに好ましくは0.5~8質量部である。
【0038】
(シランカップリング剤)
熱伝導性シリコーン組成物には、ベースポリマー100質量部に対してシランカップリング剤が0質量部を超え200質量部添加されていてもよい。シランカップリング剤は、R(CH3)Si(OR’)3-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物がある。R(CHSi(OR’)3-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、一例としてメチルトリメトキシラン,エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン,ブチルトリメトキシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサドデシルトリメトキシシラン,ヘキサドデシルトリエトキシシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。シランカップリング剤は、熱伝導性無機粒子の表面処理剤として使用できる。
【0039】
前記熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率は、0.8W/mK以上が好ましく、1.0W/mK以上がより好ましく、1.2W/mK以上がさらに好ましく、2.0W/mK以上がさらにより好ましく、2.3W/mK以上がさらにより好ましい。
【0040】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、ゲル及びゴムから選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。また、前記熱伝導性シリコーン組成物は、初期硬さがアスカーCで1~70の範囲が好ましく、より好ましくは20~60、さらに好ましくは30~60である。前記の範囲であれば、軟らかく、発熱体と放熱体との間に介在させる熱伝導材料(TIM)に好適である。
【0041】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、自動車用オイル(ATF)に、150℃雰囲気下24時間浸漬した後の重量の変化が5重量%以下であるのが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上5重量%以下である。これにより、耐油性は良好となる。耐油試験のサンプルは、幅20mm、長さ20mm、厚さ3.0mmの成形物を使用できる。
【0042】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、シート状に成形されていることが好ましい。シートであれば発熱体と放熱体との間に介在させるのに好適である。
【0043】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、発熱体と放熱体との間に介在させる熱伝導材料であるのが好ましい。とくに有機溶剤、石油、ガソリンなどに曝される用途に好適である。
【0044】
本発明の熱伝導性シートの好ましい製造方法は、次のとおりである。前記成分A1、成分A2、成分A3、成分B、付加硬化型触媒、熱伝導性充填材、および必要に応じて任意成分を、室温で混合する。混合中もしくは混合後に減圧脱泡してもよい。得られた熱伝導性シリコーン組成物を、ロール圧延又はプレスによりシート成形する。得られたシートを、90~110℃のオーブンで10~30分間キュアする。
【実施例
【0045】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記の方法で測定した。
【0046】
<熱伝導率>
熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率は、ホットディスク(ISO/CD 22007-2準拠)により測定した。この熱伝導率の測定装置1は図1Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、図1Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【0047】
【数1】
【0048】
<耐油性評価試験>
(1)タテ(L)20mm、ヨコ(W)20mm、厚さ(t)3.0mmのシリコーンゲルシートを、試験片として用意する。
(2)ATFオイルに浸漬前の試験片のタテ、ヨコの寸法および重量、厚さを測定する。
(3)ATFオイルを入れた試験管に、試験片を浸漬する。
(4)コルク栓をしてオイルバス内に入れ、150℃で24h加熱する。
(5)室温まで冷却後、試験管から試験片を取り出し、試験片に付着した余剰分のオイルは薬包紙でふき取る。
(6)オイル浸漬後のタテ(L)、ヨコ(W)および厚さ(t)の寸法を測定する。
(7)試験前後の重量差から、重量変化率を下記の計算式より算出した。
重量変化率(wt%)=[(W2-W1)/W1]×100
但し、W1:試験前の試験片の重量(g)、W2:試験後の試験片の重量(g)
【0049】
<熱伝導性シリコーンシートの硬さ>
JIS K 7312に規定されているゴム硬度計を使用してAsker Cの硬さを求めた。
【0050】
(実施例1~4、比較例1~3)
1.原料成分
(1)ベースポリマー
A1:分子鎖の両末端に各1個のビニル基を有し、動粘度が350mm/sのフッ素非有直鎖状オルガノポリシロキサン(分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン)
A2:Si-H基が1分子中に2個存在し、動粘度が1040mm/sであるフッ素非有直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(分子鎖の両末端に各1個のSi-H基を有するジメチルポリシロキサン)
A3:Si-H基が1分子中に3個以上存在し、動粘度が100mm/sであるフッ素非有直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(前記一般式(1)で表され、L=32、M=26の直鎖状オルガノポリシロキサン、1分子中のSi-H基数は28個)
B:分子鎖の両末端に各1個のビニル基を有し、動粘度が1000mm/sのフッ素含有直鎖状オルガノポリシロキサン(分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖含フッ素ジメチルポリシロキサン)
(2)付加硬化型触媒
付加硬化型触媒として、市販の白金系触媒を使用した。
(3)硬化遅延剤
硬化遅延剤として、エチニルシクロヘキサノールを使用した。
(4)着色剤
未架橋シリコーンゲル100質量部に黒色酸化鉄を230質量部加え、混合して得た鉄黒のマスターバッチ組成物を着色料として使用した。
(5)熱伝導性充填材
(i)球状のアルミナ、平均粒子径75μm、表面処理なし品
(ii)不定形状の水酸化アルミニウム、平均粒子径50μm、表面処理なし品
(iii)破砕状のアルミナ、平均粒子径2μm、表面処理剤:デシルトリメトキシシラン
【0051】
2.混合
表1および表2に示した量の前記原料成分を、プラネタリーミキサーに入れ、23℃で10分間混合した。混合中もしくは混合後に減圧脱泡した。
【0052】
3.硬化シートの成形
混合後の熱伝導性組成物をロール圧延して3mmの厚みに成形してシートとし、100℃のオーブンに10分間入れて加熱硬化した。得られた硬化シートの各種物性を表1および表2にまとめて示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1および表2に示す通り、耐油性試験結果の重量変化率についてみると、実施例1~4においては、比較例1~2よりも重量変化率が少なく、耐油性が優れている。比較例3は、Asker Cの値が大きく、熱伝導材料(TIM)として使用できない程に硬い。実施例1~4については、優れた耐油性と熱伝導材料(TIM)として好適な硬さの両立がなされている。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、オイルと接触する環境下における電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させる熱伝導材料(TIM)に好適である。
【符号の説明】
【0057】
1 熱伝導率測定装置
2 センサ
3a,3b 試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
【要約】

オルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、熱伝導性充填材を含有する熱伝導性シリコーン組成物であって、前記ベースポリマーは、フッ素非含有オルガノポリシロキサンと、フッ素含有オルガノポリシロキサンを含み、前記熱伝導性シリコーン組成物は付加硬化型触媒により硬化されており、前記ベースポリマーの構成成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の合計に対する、前記ベースポリマーの構成成分中のフルオロ基の数の比が、2.00以上30.0以下である。
図1